津山高専における原子力コア人材育成事業への取り組み 「地域連携・早期一貫教育による放射線・原子力に関わる実践的コア人材育成」 津山工業高等専門学校 小林敏郎,岡田 正,鳥家秀昭,佐藤 誠,稲田知己,佐々井祐二 小西大二郎,原田寛治,八木秀幸,谷口浩成,曽利 仁,〇加藤 学 1.まえがき 津山工業等専門学校(以下本校)は岡山県県北に 位置し,県北地域唯一の高等教育機関である.本校 は平成20年度より岡山大学,日本原子力研究開発 機構人形峠環境技術センターとの間に包括連携協定 を締結し相互の交流を活性化している.この3者を 結びつけるキーワードは環境,原子力,低線量放射 線であり,毎年岡山県鏡野町で3者合同により環 境・エネルギーシンポジウムを開催しこれらについ ての情報交換を行っている. 本校は機械,電気電子,電子制御,情報の4学科 体制ではあるが,卒業生が電力会社,重工業関係な どの就職先で原子力発電に関わる仕事に就くことは 少なくなく,原子力・放射線に関して無関係ではな い.今日東北地方の大地震によって原子力発電に関 する事態は一変しているが,原子力発電を推進する にせよ廃止するにせよ,原子力や放射線を正しく理 解した技術者の需要は減ることはなく,それら技術 者を養成の重要性はむしろ増したと言える.物理担 当教員を除くと原子力や放射線に関する専門家いな い本校にとって,原子力教育を充実させるためには 先に述べた3者間の包括連携の教育への活用が必須 である.外部の協力と意見を取り入れながら本校独 自の原子力人材育成については議論し,設備,人員 の面で充実させる必要がある. 以上のような背景より,本校では平成21年度に 文部科学省が実施する原子力コア人材育成事業に応 募,採択され,平成21年度,平成22年度にかけ て原子力人材育成のためのカリキュラムおよび設備 の充実を行った.本報告では,2年目の事業内容と 成果を中心に本校における取り組みを紹介する. 3.事業内容および成果 3.1 早期一貫教育の実施 1)原子力工学導入教育の充実 1年生の物理Ⅰに おいて,はかる君を用いて放射線測定実験と本事業 で導入した大型霧箱を用いて放射線観察を実施した. はかる君を用いた放射線測定を通じて物理実験の方 法やデータ整理などの学習を実施した.大型霧箱を 用いた放射線の観察では,普段は目に見えない微小 な粒子の動きを直接観察ができ多くの学生が驚きと ともに見入っていた. 2)原子力安全工学基礎科目の講義開始 専攻科に おいて,原子力人材育成基礎科目として環境科学, 工学倫理,電気エネルギー工学,化学探究の講義を 開始した.さらに,平成20年度に実施済みの本科 原子力工学導入科目と専攻科原子力安全基礎科目を 原子力人材育成関連科目として学生生活ガイドブッ クによって一貫した関連科目であることを学生に公 開し周知しており,教務委員会において実施内容の 点検が行われる. 3)原子力関連施設の視察と原子力教育の検討 本 校における原子力教育の充実およびあり方を検討す るため,中国電力上関原子力発電所,もんじゅ,六 ヶ所村,核融合科学研究所へ教員を派遣した.得ら れた知見を元に講義内容の更新を行った.さらに, 視察の成果を外部評価委員会で報告しカリキュラム について継続した議論が必要であるとの意見を共有 した.平成23年度以降,原子力人材育成ワーキン ググループが組織され継続して議論しカリキュラム 2.本事業の実施目的 本事業では,岡山大学,原子力関連研究機関およ び中国電力と連携し,本科・専攻科を併せた7年間 の連続性を重視した教育プログラムにより高度な専 門知識と原子力安全工学の基礎知識を兼ね備えた実 践的技術者の育成を行う.放射線および原子力工学 の教育を通じ,技術の内容を学習するだけでなく, その意味や社会・自然に及ぼす影響を理解するよう な人材育成を行う.そのため以下の目標を設定した. 1)早期一貫教育の実施 2)校外教育,実験実習の充実 3)卒業研究・特別研究の実施 の改善が図られることとなった. 4)原子力資料コーナーの充実 原子力機構人形峠 環境技術センター提供の身の回りの低線量放射線源 とその解説パネルを学生ラウンジに設置した.放射 線の測定装置を前年度に引きつづき積極的に講義で 利用するとともに,低線量放射線源と放射線測定器 を学生が利用しやすいように整備した.日本原子力 文化振興財団が紹介する原子力や放射線に関する図 書,DVDなどの資料についても入手し学生がいつ でも利用可能なように整備した. 【連絡先】〒708-8509 岡山県津山市沼 624-1 津山工業高等専門学校 機械工学科 加藤 学 TEL:0868-24-8251 FAX:0868-24-8251 e-mail:kato@tsuyama-ct.ac.jp 【キーワード】原子力教育,校外教育,実験実習,卒業研究,地域連携 5)外部評価委員会による評価 外部評価委員によ る2年間の事業の評価を依頼し実施した.評価結果 は,新設される原子力人材育成ワーキンググループ モニタリングポイントの構築も同時並行で実施した. テーマ4では,高エネルギーの重水素イオンビーム を用いて, 11B+2H+→9Be+α 等の核反応を活用す による原子力人材育成プログラムの改善のための資 る内容である.4から6のテーマは,原子力関連技 料として活用される. 術の習得と興味喚起のために,卒業研究・特別研究 3.2 のサブプロジェクトとして実施した. 校外学習,実験実習の充実 1)人形峠環境技術センター校外実習の充実 夏季 3.4国際感覚を有する実践的技術者を育成 休業中に実施する人形峠環境技術センターでの校外 岡山大学の協力を得て,フィンランド・タンペレ 実習を充実させるために予備教育を実施した.派遣 大学Heino教授を招聘し安全・安心工学に関連する講 される専攻科生2名に対して3時間の講義と実験を 演を実施した.岡山大学鈴木教授による解説を交え 実施した.派遣学生にヒアリング調査を行ったとこ ながらの講演で,専攻科生を中心に30名程度の参 ろ,派遣先での授業と重複する部分はあったものの 加があった.講演後には,英語による活発な質疑応 事前に学習できたことで理解が深まったとの感想が 答がなされ,その学生の積極的な様子は岡山大学鈴 得られた. 木教授も驚かれるほどであった. 2)学生実験の充実 4年生の学生実験において, 放射線計測の学生実験を開始した.また,平成23 4.まとめと今後の展望 4.1 原子力早期一貫教育 2年間でカリキュラムの大枠が作成され,本年度 用いた放射線の計測の実験テキストも作成した. でほぼすべての学年において原子力人材育成関連科 3)中国電力技術者との討論会の実施 5年生29 目を開設することができた.今後は内容の充実を図 名が中国電力島根原子力発電所を見学し,現場技術 る必要がある.これについては,学内に正式に原子 者との交流を実施した.交流はパネルディスカッシ 力人材育成ワーキンググループが組織されたことで, ョン形式で実施し,原子力の安全,技術者倫理,原 このワーキンググループにおいて継続してカリキュ 子力およびエネルギーの将来について議論を行った. ラムの改善が図られていく体制が作られたことは大 きな成果である. 4)学生実験の新テーマの検討 原子力工学の基礎 4.2 校外教育,卒業研究 を定着させるための学生実験(新テーマ)の準備を 本年度より人形峠環境技術センター校外実習の予 開始し,必要な備品を整備した.平成23年度より 備教育,中国電力の技術者との意見交換会を始める 3年生チャレンジゼミナールで核磁気共鳴装置を, ことができた.内容については今後多いに改善する 5年生卒業研究においてNaI(T1)スペクトロスコピ 余地があるものの,原子力人材育成WGを中心に内 を用いた学生実験の作成に関するテーマを始める. 容についても議論されていくものと思われる.卒業 研究・特別研究に関しては本年度で6テーマの研究 3.3 卒業研究による実践教育プログラム がスタートしており大きな成果と言える. 平成22年度は表1に示す卒業研究を実施した. 4.3 今後の展開 テーマ1および2では,学生実験で実施する放射線 平成23年度より組織される原子力人材育成ワー 測定の実験テキストの作成を実施した.それぞれ, キンググループではこの2年間の活動を継続,発展 4年生応用物理実験I,電子制御工学科3年生の電 させるものであり,本校における原子力人材育成の 子制御工学実験Iにおいて平成23年度より実施す あり方について議論を継続しカリキュラムの改善を 実施する.以下,検討事項を箇条書きで記載する. る.テーマ3は人形峠環境技術センターとの共同研 1.原子力早期教育の実施および原子力導入・基礎 究である.同テーマでは,津山高専内に環境放射線 科目の授業継続と改善 2.原子力関連施設の見学およびインターンシップ 表1 卒業研究の研究テーマ一覧 の継続 No. 研究題目 3.低放射線利用,解体技術,廃材利用を視野に入 1 応用物理実験の新テーマ検討 れた遠隔・自動化技術に関する研究 -霧箱実験,γ線逆 2 乗テスト- 4.核反応,原子炉,放射線の種類と人体に対する 2 電子制御工学実験Ⅰの実験テキスト作成- 影響,放射能防護などの基礎について,正しい 放射線量測定 入門- 知識を持ち的確な判断のできる学生の育成 3 県北地域における降雨とガンマ線量率の上 5.岡山大学,原子力機構人形峠環境技術センター 昇に関する研究 との三者連携を継続し,関連する研究者・技術 4 核反応(NRA)を用いた窒化硼素薄膜の組成 者および実験設備の活用 分析 6.岡山県北部における基礎的な原子力人材育成セ 5 自律型ロボットを用いた放射線計測 ンターとしての位置付けの検討 6 核融合に関する実験実習(於:京都大学) 年度からの開始を目指し,測定のみではなく霧箱を
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