82 解 説 J. Jpn. Soc. Colour Mater., 87〔3〕,82 – 86(2014) ─小特集 環境配慮型の印刷インキのトピックス─ 水の印刷インキで食品を優しく包む より安全な食品包材の追求:水性フレキソ印刷 塚 田 昌*,† *大日精化工業㈱印刷総合システム事業グラビアインキ事業部 東京都中央区日本橋富沢町 9-10(〒 103-0006) † Corresponding Author, E-mail: tsukada_flex68048@yahoo.co.jp (2013 年 12 月 3 日受付,2014 年 2 月 12 日受理) 要 旨 日本国内の食品パッケージのほとんどは“油性グラビア印刷”が採用されている。近年の「環境保護条例」「パッケージの残留臭問 題」という大きな市場問題を一気に解決する画期的な印刷システム「水性フレキソ印刷」を紹介する。 このシステムを採用することで,過去から油性グラビア業界での問題点である印刷作業員の VOC 吸入による健康問題の解決にもつ ながる。 欧米ではパッケージ印刷の主流である“フレキソ印刷”は日本においては,ビジュアル的にグラビア印刷,オフセット印刷に劣ると いう理由で,全体の 5 %にも満たない印刷方法であった。近年のフレキソ印刷におけるハード,ソフト面の画期的な技術革新により, ほかの印刷方式と十分,対抗できるようになってきた。もともと,フレキソ印刷がもっている「生産効率の良さ」「省エネ印刷」など があいまって,未来継続性印刷(Sustainable Printing)のスタンスで普及が大きく進んで行こうとしている。 キーワード:食品パッケージ,水性フレキソ印刷,環境対応印刷,省エネ印刷,未来継続性印刷 2007 年 4 月から VOC 規制が完全に義務化された“炭化水素 1.日本のパッケージ事情 類・揮発性有機化合物に関する規制(通称:埼玉県条例)”が われわれ消費者が日々,スーパー・コンビニ等で目にする食 始まりである。その後,VOC の規制を含めた“改正大気汚染防 品パッケージは,実に多くのプラスチックフィルムを使用して 止法”が 2006 年 4 月から施行され,「2010 年までに対 2000 年対 いる。これらカラフルな印刷の大半がグラビア印刷を採用して 比 30 %の VOC 排出規制」を義務付けた。また,2008 年には, いる。このことは,世界に目を向けてみた場合,特筆すべきこ 大手食品加工メーカーの包装材料から多量の残留溶剤が検出さ とである。米国では,ほとんどのパッケージがフレキソ印刷, れるという事件が起こり,大きく報道されたため,消費者の不 欧州においても半分近くがフレキソ印刷となっている。ほかの 安が増大した。このため「食品包材製造時の脱溶剤」の流れに 印刷システムと比べ,圧倒的にインキ塗膜厚の多いグラビア印 拍車がかかった。 刷で,非吸収面のフィルムを高速で印刷するには,超速乾性の 2.油性グラビア印刷と水性フレキソ印刷 有機溶剤を溶媒とすることがインキ設計上,不可欠となる。ま た,当然乾燥エネルギーも多く使用するシステムである。この 印刷の環境負荷低減を考えた場合,やはり「水のインキ」に ことが欧米において,脱グラビア印刷が進む理由となっている 勝るものはない。ただし,溶剤タイプのインキには用途に応じ と聞く。ところが日本においては≪見た目の綺麗さ≫から,グ て,そのバインダーとして多くの樹脂が選択できるが,溶媒を ラビア印刷が圧倒的に多く使用されている。とくにフィルム印 水に限定した場合,その樹脂は限られてくる。また,グラビア 刷の場合,100 %近くがこれとなっている。 インキの生命線である速乾性が要求できなくなる。これらをど 国内に 800 社以上存在し年間 8,000 億円以上(経産省統計) うクリアーするかがインキメーカー,印刷機メーカーの技術設 の市場を支えているパッケージのグラビア印刷企業に法の網が 計にかかってくるが十分な速度を確保することはかなり困難で かぶせられた。埼玉県において 2002 年 4 月に施行が開始され, ある。 慣例的にインキ中に 5 %未満のアルコール類が配合されてい 〔氏名〕 つかだ まさし 〔現職〕 大日精化工業㈱印刷総合システム事業グラビ アインキ事業部 フレキソ印刷アドバイザー 〔趣味〕 日本酒,旅行,カラオケ 〔経歴〕 1968 年 3 月東京理科大学理学部応用化学科 卒業。同年 4 月大日精化工業㈱ 入社。2000 年 9 月グラビアインキ事業部東日本営業本 部 営業本部長。2002 年 10 月グラビアイン キ事業部 開発室長。2006 年 4 月フレキソ新 組 織 : 色 彩 関 連 新 組 織 責 任 者 ( 兼 任 )。 2011 年 7 月大日精化工業㈱ 退社,同社と業 務委託契約,現在に至る。 © 2014 Journal of the Japan Society of Colour Material るのを水性インキ,それ以上のインキを,水溶性インキと区別 するが,市場で印刷されている水性グラビアインキはすべて水 溶性である。グラビア印刷は,その機械メカニズム的に 1 色ず つ乾燥させないと,次のユニットに入れないシステムとなって おり,そのために速乾効果のある低沸点アルコール類を 20 ∼ 30 %,もしくはそれ以上混入せざるを得ないのが実情である。 これらのアルコールも VOC であり,そのまま無制限に大気中に −2−
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