数理科学

数理科学
2007 年 12 月 06 日 (15:50) 版
渕野 昌 (中部大学,fuchino@math.cs.kitami-it.ac.jp)
2007 年度 秋学期 中部大学にて開講の講義
2007 年 12 月 06 日(第 10 回目)
本 講 義 に 関 す る 資 料 や ,講 義 で 用 い た ス ラ イ ド は 以 下 の ペ ー ジ に 順 次 リ ン ク し ま す:
http://math.cs.kitami-it.ac.jp/~fuchino/chubu/index.html
1
行列の応用の続き — 前回の復習
マルコフ過程
Andrei Andreyevich Markov
1856 - 1922
2
前回の講義からのマルコフ過程の例
都 会 と 田 舎 の 間 の 人 の 移 動 の 次 の よ う な 状 況 を 考 え る:
毎 年 ,都 会 に 住 む 人 口 の 5% は 田 舎 に 移 住 す る(95% は そ の ま ま )
田 舎 に 住 む 人 の 3% は 都 会 に 移 住 す る(97% は そ の ま ま )
3%
95%
都会
田舎
97%
5%
都 会 に 住 む 人 が 全Ã
人 口 の α!% で 田 舎 に 住 む 人 が 全 人 口 の β % の と
α/100
き ,こ の 状 況 を ,
というベクトルで表現することにする.
Ã
! β/100
0.6
たとえば,
は ,都 会 に 住 む 人 が 全 人 口 の 60% で あ る よ う な 状
0.4
態をあらわしている.
3
xk を ,あ る 年 か ら k 年 目 の ,前 ペ ー ジ の 意 味 で の 人 口 の 分 布 を あ ら
わすベクトルとするとき,
3%
都会
田舎
95%
97%
5%
は,
Ã
A=
0.95 0.03
0.05 0.97
として,
xk+1 = Axk
とあらわされる.
4
!
ここでのポイント
xk は 各 グ ル ー プ の 割 合( ま た は 確 率 )を あ ら わ す ベ ク ト ル で 成
分の和は 1 である.
A は 確 率 の 遷 移 を 惹 き 起 こ す 行 列 で ,そ れ ぞ れ の 列 の 成 分 の 和
は 1 である.
成 分 の 和 が 1 に な る よ う な ベ ク ト ル を 確 率 ベ ク ト ル (probability
vector) と 呼 ぶ .そ れ ぞ れ の 列 の 成 分 の 和 が 1 と な る よ う な n × n-行
列 を 確 率 行 列 (stocastic matrix) と 呼 ぶ .
確 率 ベ ク ト ル x0, x1, x2, . . . が ,あ る 確 率 行 列 A に よ り,xk+1 = Axk
に と し て 与 え ら れ て い る と き ,ベ ク ト ル の 列 x0, x1, x2, . . . を マ ル
コ フ 連 鎖 (Markov chain) と 呼 ぶ .マ ル コ フ 連 鎖 で 表 現 さ れ る 確 率
( ま た は 割 合 の 分 布 )の 推 移 は マ ル コ フ 過 程 (Markov process) と よ
ば れ る も の の ひ と つ に なって い る .
5
A を確率行列とするるときベクトル q が A の 定常状態ベクトル
(steady-state vector) と は ,q が Aq = q と な る よ う な 確 率 ベ ク ト ル と
なるときであるとする.
定 理 1 確 率 行 列 A が 正 則( つ ま り 逆 行 列 を 持 つ )な ら ,A は ちょう
ど 一 つ の 定 常 状 態 ベ ク ト ル を 持 つ .こ の と き ,q を A の 定 常 状 態 ベ
ク ト ル と す る と ,ど の 確 率 ベ ク ト ル x0 か ら 出 発 し て も ,xk+1 = Axk ,
k = 0, 1, 2, . . . と す る と き ,x0, x1, x2,. . . は k を 大 き く す る に つ れ て
q に 近 づ く.
線 型 代 数 の 講 義 を 聞 い た こ と の あ る 人 の た め の 注 意: 正 方 行 列 が 正
則 で あ る こ と と ,そ の 行 列 の 行 列 式 が 6= 0 で あ る³こ と は 同´値 で あ る .
例 え ば ,都 会 と 田 舎 の モ デ ル で の 確 率 行 列 A =
¯
¯
0.03
は ,¯¯ 0.95
0.05 0.97
¯
¯
¯ = 0.95 × 0.97 − 0.03 × 0.05 6= 0
¯
0.95 0.03
0.05 0.97
の行列式
だ か ら ,こ の 確 率 行 列 は 正 則 で あ る .
6
都会と田舎のモデルでの確率行列
µ
¶
0.95 0.03
A=
0.05 0.97
では,
µ
0.95 0.03
0.05 0.97
¶µ
a
b
¶
µ
=
a
b
¶
,
a+b=1
を 解 く と ,a = 0.375, b = 0.625 が 得 ら れ る .し た がって ,
µ
0.375
0.625
¶
が
こ の 確 率 行 列 の 定 常 状 態 ベ ク ト ル で あ る .定 理 1 を 応 用 す る と:
都 会 と 田 舎 の モ デ ル で は ,ど の 人 口 比 か ら 出 発 し て も ,都 会 に 住 む
人 と 田 舎 に 住 む 人 の 人 口 比 は 年 が す す む に つ れ て 0.375 : 0.625 に 近
づ く.
7
マーケットシェアに関する例
簡 単 の た め ,M 社 の 車 と T 社 の 車 が 自 動 車 の シェア を 二 分 し て い る
よ う な 世 界 を 考 え る .M 社 を 持って い る 人 の 90% は 次 の 買 い か え の
と き に ふ た た び M 社 の 車 を 買 い ,残 り の 10% は T 社 の 車 を 買 う.ま
た T 社 の 車 を 持って い る 人 の 60% は ふ た た び T 社 の 車 を 買 う が ,40%
の人は M社の車に買いかえる.
k 回 買 い か え の 時 期 を 経 た と き の M 社 の 車 を 持って いÃ
る 人!
の比率を
αk
αk , T 社 の 車 を 持って い る 人 の 比 率 を βk と し て ,xk =
とする
Ã
!
βk
0.9 0.4
と き ,遷 移 行 列 は ,
こ の 行 列 は 正 則 で ,定 常 状 態 ベ ク ト
Ã
!
0.1 0.6
0.8
ルは
で あ る .し た がって ,M 社 と T 社 の 車 の シェア は ど の シェ
0.2
ア の 比 率 か ら 出 発 し て も 80% : 20% に 近 づ く.
8