平成 19 年度 成果報告書・発表論文リスト 第2領域「脳の高次機能学」 第2領域 (計画班員) 研究課題名 大脳皮質基底核系のアクション・認知機能における動機づけの役割 研究代表者名 木村 實 所属・職名 京都府立医科大学大学院医学研究科・教授 研究分担者名 伏木信次、中川正法、上田康雅 分担者所属 京都府立医科大学大学院医学研究科 E-mail mkimura@koto.kpu-m.ac.jp 研究成果報告書 本研究課題の目的は、報酬や動機づけが大脳皮質―大脳基底核系のアクション・認知機能にどの ような役割を担うのかを神経生理学、臨床神経科学、神経生物学的なアプローチによって明らか にすることである。 木村と山田らは、大脳基底核線条体のニューロンが過去に行なった行動とその結果得られた報酬 や嫌悪の履歴、現時点で行なうことを指示された行動とそれに連合した報酬や嫌悪の情報をどの ように表現しているかを調べた。ニホンザルを被験者として、視覚刺激にしたがって手でレバー を押さえ、放す課題を行なわせた。赤の LED はレバー放しの後報酬の水が得られること、青の LED は嫌悪刺激として顔面への空気の吹きつけを、そして黄色の LED は情動的に中性の刺激と してビープ音が現れることをサルに学習させた。一方、これら3種類の教示刺激は6試行の間に 2回現れるため、過去の履歴からそれぞれの刺激の生起確率をおおよそ推定することが可能であ った。この課題を行なっている2頭のサルの線条体(被殻と尾状核)の投射細胞 163 個の放電を 記録した。教示刺激が現れる前の時点では、多くの細胞がその試行までの報酬の履歴に対応して 徐々に放電頻度を増大、または減少させた。嫌悪刺激の履歴に対応して放電頻度を変化させる細 胞も見られたが、ごく少数であった。教示刺激が呈示されると、多くの細胞はレバー放し応答の 前後に放電し、その頻度は報酬を伴うことを教示する刺激に選択的な細胞が多く(46/70)、嫌悪 (6/70)やビープ音(6/70)を教示する刺激に選択的な細胞は少なかった。この結果は、現在と過去の 履歴に基づく動機づけ情報、とりわけ報酬の情報、が線条体の投射細胞の放電に表現されており、 報酬を求めて行動を駆り立てたり、嫌悪を避ける行動を誘導するための大脳基底核メカニズムの 基盤の一端を明らかにした。文献1として発表した。ニホンザルを訓練して視覚刺激の指示に従 って3つの押しボタンスイッチの中から試行錯誤によってひとつの正解を見つけ出し、一旦正解 ボタンを見つけると再度そのボタンを選択することによって合計2回ないし3回の報酬を得る 課題を行わせた。線条体の投射細胞は、各行動選択における報酬確率やゴールまでの各ステップ に選択的な放電活動をするものが多く見られた。更に、中脳ドーパミン細胞の放電を記録したと ころ、ゴールまでの各ステップに選択的な放電活動が強化学習理論で用いる価値関数とその予測 誤差を良く反映することが明らかになった。これらの成果は現在論文として投稿中である。 木村と中川は、パーキンソン病で蓄積している alpha-synuclein に対する neurosin (kallikrein-6)の 分解活性を検討し、neurosin による alpha-synuclein の主たる切断部位は NAC domain の中央部に 相当する K80/T81 間であることを明らかにした。NAC domain は alpha -synuclein の重合に重要と されており、neurosin が同部位を切断することによって、alpha -synuclein の重合を阻害している ものと推察した。伏木らは、低用量ビスフェノール A の胎生期投与がマウス大脳皮質形成過程 に影響を及ぼすことを明らかにした。細胞増殖への影響は見られなかったが、神経細胞分化なら びに移動に対して促進的に作用することが判明した。さらにその影響は生後の大脳皮質において も残存することがわかり、神経回路形成の異常をきたした。また低用量ビスフェノール A の胎 生期から新生仔期にかけての投与によって黒質神経細胞の減少をきたすことが判明した。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 木村 實 発表論文 英文 (1)原著論文 Yamada, H., Matsumoto, N. & Kimura, M. History- and current instruction-based coding of forthcoming behavioral outcomes in the striatum. J. Neurophysiol. 98, 3557-3567 (2007). (2)総説 Kimura, M., Satoh, T. & Matsumoto, N. What does the habenula tell dopamine neurons? Nat. Neurosci. 10, 677-678 (2007). (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (計画班員) 研究課題名 異種情報の時空間コーディング統合的処理に関する非線形システム論的研 究 研究代表者名 合原 一幸 所属・職名 東京大学・教授 研究分担者名 鈴木秀幸 分担者所属 東京大学 E-mail aihara@sat.t.u-tokyo.ac.jp 研究成果報告書 本研究は,脳の機能的研究と脳の生理学的・分子生物学的・解剖学的研究の間の橋渡しとなり得 るような, 「脳の高次機能システム」の数理情報論的モデルの構築を目指すものである.特に「脳 の高次機能学」の研究対象の中でも脳内の様々な情報統合プロセスに着目して,その情報コーデ ィング機構と非線形ダイナミクスを数理モデルの形で記述することで,脳の情報統合処理の非線 形システム的理解を可能にすることを目的とする.具体的研究内容は,本テーマにおける「統合 脳」的アプローチを重視して,(i) ニューラルコーディング理論,(ii) 脳の構成要素としてのニ ューロンやシナプスの数理モデル化,(iii) ニューラルネットワークの非線形ダイナミクス,(iv) 遺伝子・タンパク質ネットワークの非線形ダイナミクス,(v) 生理実験データ解析と非線形デー タ解析手法開発,(vi) 異種情報統合処理に関する計算論的解析の 6 項目にわたって,多方面か ら研究を進めてきている.本報告では,特に今年度重点をおいて研究した(vi)について報告する. 脳は外界情報を複数の感覚器を通して知覚する.1つの感覚内でも,例えば視覚では色,形,動 きなど異なる情報が存在する.このような異なる種類の特徴についての情報がどこでどのように 統合されるのか,という問題は結合問題と呼ばれ,特に視覚系において研究がなされてきた.こ の結合問題の重要性は古くから認識されているが,いまだ十分に解明されているとは言えない. このような情報統合による不確実性への対処を数学的にモデル化する方法として,ベイズ推定が よく用いられる.これまでの研究において,人間の知覚や運動の様々な側面がベイズ推定により うまく説明できることが示されてきた.ベイズ推定では,観測情報と事前情報とを組み合わせる ことにより推定値を決めることができる. 今年度の研究においては,特に同一源性を考慮に入れたベイズ推定による,視覚的特徴結合問題 のモデル化を行った.例えばある色とある形を結合するというのは,それらが同一物体の属性で あると判断することであると思われる.そこで同一源性を取り入れたモデルにより特徴結合問題 が自然にモデル化できることが期待される.具体例として,結合問題の中でも特に結合錯誤に関 する実験結果の再現を行った.結合錯誤とは,たとえば異なる色のついた複数の図形を短い時間 提示すると,色と形の結合が間違って行われる現象である.また,注意の効果をモデルに取り入 れることも試みた.特徴結合においては,注意が重要な役割を果たしていると考えられている. しかし,注意が結合錯誤に及ぼす影響については,様々な結果が報告されておりはっきりしない. 本研究ではシンプルな形のベイズモデルに注意を取り入れるための2つの方法,すなわち,事前 確率への影響および SN 比(解像度に対応する)への影響について検討した. 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 合原 一幸 発表論文 英文 (1)原著論文 Kohno, T. & Aihara, K. Mathematical-model-based design of silicon burst neurons. Neurocomput. in press. Sato, Y., Toyoizumi, T. & Aihara, K. Bayesian inference explains perception of unity and ventriloquism aftereffect: identification of common sources of audiovisual stimuli. Neural Comput. 19(12), 3335-3355 (2007). Hirata, Y., Horai, S., Suzuki, H. & Aihara, K. Testing serial dependence by random-shuffle surrogates and the Wayland method. Phys. Lett. A. 370, 265-274 (2007). Li, C., Chen, L. & Aihara, K. Stochastic stability of genetic networks with disturbance satenuation. IEEE Trans. CAS-II 54(10), 892-896 (2007). Wang, R., Chen, L. & Aihara, K. Detection of cellular rhythms and global stability within interlocked feedback systems. Math. Biosci. 209(1), 171-189(2007). Funabashi, M. & Aihara K. Modeling birdsong learning with a chaotic Elman network. J. Artif. Life Robot. 11(2), 162-166 (2007). Fujiwara, K., Fujiwara, H., Tsukada, M. & Aihara, K. Reproducing bursting interspike interval statistics of the gustatory cortex. Biosystems 90(2), 442-448 (2007). Hamaguchi, K., Okada, M. & Aihara, K. Variable time scales of repeated spike patterns in synfire chain with Mexican-hat connectivity. Neural Comput. 19(9), 2468-2491 (2007). Masuda, N., Okada, M. & Aihara, K. Filtering of spatial bias and noise inputs by spatially structured neural networks. Neural Comput. 19(7), 1854-1870 (2007). Morita, K., Okada, M. & Aihara, K. Selectivity and stability via dendritic nonlinearity. Neural Comput. 19(7), 1798-1853 (2007). Masuda, N. & Aihara, K.: Dual coding hypotheses for neural information representation. Math. Biosci. 207, 312-321 (2007). Tanaka, G. & Aihara, K.: Collective skipping: aperiodic phase locking in ensembles of bursting oscillators. Europhys. Lett. 78, 10003 (2007). Ibarz, B., Tanaka, G., Sanjuan, M.A.F. & Aihara, K.: Sensitivity versus resonance in two-dimensional spiking-bursting neuron models. Phys. Rev. E 75, 041902 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (計画班員) 研究課題名 物体および奥行きの知覚形成を支える神経基盤 研究代表者名 藤田 一郎 所属・職名 大阪大学大学院生命機能研究科・教授 E-mail fujita@fbs.osaka-u.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 背景と研究目的 われわれ人間は縦・横・奥行きを持つ3次元空間の中で生きており、また、 視覚的に知覚する世界も立体的である。しかし、視覚情報処理の出発点では、外界世界は奥行き のない平面像として射影されている。すなわち、脳は、左右の網膜における2次元画像情報から 外界世界の3次元構造を再構築している。その際の重要な視覚手がかりの一つは、眼が左右にず れて位置することに起因する左右網膜像のわずかな位置ずれ、両眼視差である。両眼視差の大き さは視覚対象物と注視面との奥行に比例し、脳は両眼視差を算出することで物体の奥行きや立体 構造の知覚、すなわち両眼立体視を可能にしている。 両眼視差は、大脳皮質一次視覚野(V1)において、受容野内部の刺激の両眼視差エネルギー として算出される。この視差エネルギー信号がどのように奥行き知覚に反映されるかを調べた過 去の研究の結果はまちまちである。しかし、両眼視差エネルギーシグナルは両眼対応問題を解決 した信号になっていないことから、そのままでは奥行き知覚には反映されないというのが近年、 当該分野での定説となっている。本研究(原著論文1)では、この問題を再検討した。 結果 左右眼の刺激の間でランダムドットのドット輝度を反転することと、両眼の刺激の間に 時差を挿入することの2つの方法で、刺激の間の両眼対応を操作した。このような刺激を与えら れた被験者の奥行き判断のパフォーマンスは、サルの V1細胞の時間特性を導入した両眼視差エ ネルギーモデルの出力とよく一致していた。すなわち、両眼間時差が最小であるとき、輝度反転 ステレオグラムに対して、逆転奥行き知覚(交差視差をもつ刺激を遠くに感じ、非交差視差をも つ刺激を知覚に感じる)が生じた。徐々に、両眼間時差を大きくしていくと、輝度反転ステレオ グラムの奥行き判断は、逆転知覚からランダム知覚へ、さらには視差の符号に従った奥行き知覚 へと変動した。逆転奥行き知覚が生じるかどうかは、奥行き判断の対象であるターゲット刺激の 近傍に、奥行きの参照となる面があることが必要であることも判明した。 考察 「視差エネルギーシグナルは奥行き知覚に反映されない」という両眼立体視研究分野の 常識を覆し、 「両眼対応点問題が解決されていない神経シグナルであっても、脳が奥行き判断に 用いていること」を明らかにした。さらに、過去の研究の混乱を整理し、なぜ誤った常識のもと となる実験結果が得られてきたかの理由も解明した。その上で、急速に明らかになりつつある両 眼立体視の脳内メカニズムに関する生理学的知見との整合性を示した。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 藤田 一郎 発表論文 英文 (1)原著論文 Tanabe, S., Yasuoka, S. & Fujita, I. Disparity-energy signals in perceived stereoscopic depth. J. Vis. 8(3),22, 1-10 (2008). Kumano, H., Tanabe, S. & Fujita, I. Spatial frequency integration for binocular correspondence in Macaque area V4. J. Neurophysiol .99, 402-408 (2008). Umeda, K., Tanabe, S. & Fujita, I. Representation of stereoscopic depth based on relative disparity in Macaque area V4. J. Neurophysiol. 98, 241-252 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 藤田一郎:行動からニューロンへ.脳 21 10(4), 348-352 (2007). 藤田一郎:脳が見る、こころを見る.人間総合科学会誌 3(2), 通巻第 14 巻・5 号 101-105、2007 年 8 月、(第 4 回学術集会 2007.2)(2007). (3)著書 藤田一郎:「見る」とはどういうことかー脳と心の関係をさぐる.化学同人社 007(2007). DOJIN 選書 第2領域 (計画班員) 研究課題名 下側頭皮質における物体色認知のメカニズム 研究代表者名 小松 英彦 所属・職名 自然科学研究機構 生理学研究所 教授 研究分担者名 郷田直一 分担者所属 自然科学研究機構 生理学研究所 E-mail komatsu@nips.ac.jp 研究成果報告書 前年度までの研究において、下側頭皮質における色情報の機能構築を明らかにするためにニュー ロン活動記録により色選択性細胞の分布を調べた。その結果前中側頭溝(AMTS)付近の皮質領 域と後部の後中側頭溝(PMTS)付近の皮質領域に色選択性をもつ細胞が高い割合でかたまって 存在することを確認した。前者の領域の細胞は視野中心を含む大きな受容野をもち、色選択性の みを持ち形選択性を示さない細胞が固まって数mmにわたって存在した。一方後者の領域は大ま かな視野地図をもち、色選択性のみを持つ細胞と形選択性も持つ細胞が混在していた。このよう なニューロン記録を用いる方法では下側頭皮質全体のマッピングは困難であるため、平成19年 度は fMRI を用いてサルの下側頭皮質における色刺激に対する活動の分布を調べた。fMRI 装置 内で使用可能なサル頭部・身体固定システム、及び視覚課題と眼球・頭部・身体運動の制御を行 うサル fMRI 実験システムの開発を行い、2頭のサルに横長のモンキイチェア内で伏せた姿勢で 注視課題を訓練した。色刺激に選択的な応答は2種類の刺激を用いて調べた。まず彩度の高いさ まざまな色から構成されるモザイク刺激と、空間パターンと輝度をそろえた明暗のモザイク刺激 の両者に対する活動を比較して、モザイク色刺激に選択的に活動する場所を調べた結果、下側頭 皮質の AMTS 周辺および PMTS 周辺の小領域で活動が見い出された(図の実線)。一方赤と青の 正弦波格子刺激に対しては AMTS 付近には活動は見られず、PMTS からその腹側の領域にかけ て選択的な活動が見られた(図の点線) 。これらの結果はニューロン活動記録の結果と概ね対応 しており、AMTS と PMTS 周辺の領域が特に色情報処理に重要な役割を果たすことを示唆して いる。更に fMRI 実験により色刺激の種類によって、活動する場所が下側頭皮質内で変化するこ とも明らかになった。このことは下側頭皮質における色表現が色の組合せのパターンや空間パタ ーンに依存することを示しており、さまざまな物体色がこれらの領域に分散的に表現される可能 性を示唆している。 (図の説明)fMRI で計測した2種類の色刺激に対する応答領域。1頭のサルの脳の展開図上に 活動の分布を示す。白い線は下側頭皮質の後端を示し、これより前の領域の活動のみを示した。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 小松 英彦 発表論文 英文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 Komatsu, H. Lightness perception and filling-in. In "The Senses: A Comprehensive Reference, Vol 2 Vision II" (ed by Albright TD, Masland R). Academic Press, San Diego pp. 45-52 (2008). 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (計画班員) 研究課題名 視覚的物体認識における下側頭葉皮質の役割とその機序 研究代表者名 田中 啓治 所属・職名 独立行政法人理化学研究所・領域ディレクター E-mail keiji@riken.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 本研究では下側頭葉皮質およびその関連脳部位が視覚的物体認識長期記憶にどのように寄与 するか解明すること目指している。平成19年度の主な研究成果は以下の通りである。 物体のカテゴリーに関する私達の内的表現は階層的に構造化されていて、この階層構造は柔軟 な行動を助けている。また私達は瞬時に容易に物体をカテゴリー区分する能力を持っているよう に思われる。しかし、これらの物体カテゴリー化能力のメカニズムについては分かっていない。 最近のいくつかの研究は、物体カテゴリーは前頭前野外側部や海馬皮質などの多モダリティー性 の脳領域に表現されていることを示唆している。我々はサルの下側頭葉皮質から多くの(674 個)神経細胞の活動を記録し、それぞれの細胞の多くの(1084個)の物体像に対する反応を 記録することによって、下側頭葉皮質の細胞集団が物体カテゴリーを表す可能性を調べた。ふた つの物体像が下側頭葉皮質細胞集団に引き起こす細胞活動のパターンの類似度は、ふたつの物体 像が属するカテゴリーの距離に相関した(図左) 。多次元尺度解析法あるいはクラスター解析法 で1084個の物体像の関係を解析すると、動物物体のカテゴリーに関する構造が再現された (図右) 。このカテゴリー構造の再現は下側頭葉皮質細胞集団の反応に特異的で、物体像の物理 的類似度、第一次視覚野細胞モデルの出力、個々の物体像に同調させた下側頭葉皮質細胞モデル の出力からはカテゴリー構造を再現することができなかった。これらの事実は、動物物体のカテ ゴリーが下側頭葉皮質細胞集団の活動パターンにより表現されていること、また下側頭葉皮質は 物体のカテゴリー化を含めたいくつかの機能のために特別に発達していることを示唆する。 左は、ふたつの物体像が下側頭葉皮質細胞集団に引き起こす細胞活動の相関のふたつの例。点は 細胞を表し、横軸は像1により引き起こされた反応の大きさ、縦軸は像2により引き起こされた 反応の大きさを表す。右は、刺激を細胞活動のパターンの類似度により分布させた10次元空間 の投影図。点は刺激を表す。刺激間の距離が1−相関係数をなるべく近くなるように分布させた。 別の投影面で、顔と体はそれぞれサブカテゴリーに分かれた。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 田中 啓治 発表論文 英文 (1)原著論文 Lehky, S. R. & Tanaka, K. Enhancement of object representations in primate perirhinal cortex during a visual working memory task. J. Neurophysiol. 97, 1298-1310 (2007). Matsumoto, M., Matsumoto, K., Abe, H. & Tanaka, K. Medial Prefrontal Cell Activity Signaling Prediction Errors of Action Values. Nat. Neurosci. 10, 647-656 (2007). Kiani, R., Esteky, H., Mirpour, K. & Tanaka, K. Object Category Structure in Response Patterns of Neuronal Population in Monkey Inferior Temporal Cortex. J. Neurophysiol. 97, 4296-4309 (2007). Sun, P., Ueno, K., Waggoner, R.A., Gardner, J.L., Tanaka, K. & Cheng, K. A Temporal Frequency-dependent Functional Architecture in Human V1 Revealed by High-Resolution fMRI. Nat. Neurosci. 10, 1404-1406 (2007). Mansouri, F., Buckley, M.J. & Tanaka, K. Mnemonic Function of the Prefrontal Cortex in Conflict-Induced Behavioral Adjustment. Science 318, 987-990 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (計画班員) 研究課題名 視標追跡運動における視標の予測値と頭部・眼球運動システムの統合と分解 の脳内機構 研究代表者名 福島 菊郎 所属・職名 北海道大学大学院医学研究科生理学講座・教授 研究分担者名 Kurkin Sergei 分担者所属 北海道大学大学院医学研究科生理学講座 E-mail Kikuro@med.hokudai.ac.jp 研究成果報告書 両眼視機能を持つ霊長類では視力の最も良い網膜中心窩を対象に向け続けることにより、視覚情 報を、運動中に正確に取り込むことができる。視標追跡眼球運動の発現実行の脳内機構を理解す るため本研究では、視標運動の予測値の形成と、他動的あるいはアクテイブな視線運動、さらに 眼球運動の個々のシステムへの信号変換を、脳の領域・機能回路と対応させて理解することを目 指している。今年度は、以下の2点を調べた。1)頭部非固定下での視標追跡では、眼球追跡の みならず頭部追跡も起こり、両者が協調して追跡運動を行うが、この協調運動の脳内機構は未だ に不明である。そこで、前頭眼野後部領域追跡眼球運動ニューロンの視標追跡指令信号は眼球追 跡指令と頭部追跡指令信号の両者を備えているか。2)これらニューロンが担う3次元性の追跡 眼球運動信号は、下流のどこで前額面の滑動性眼球運動と、奥行き方向の輻輳開散眼球運動に分 解されるか、特に、下流に位置する小脳背側虫部と片葉領域はどのような役割を果たすかである。 主要な結果として、1)前頭眼野追跡眼球運動ニューロンの持つ信号は、眼球運動指令と頭部 運動指令に共通の視線運動指令ではなく、眼球運動指令と、頭部運動の結果による入力の加算に よることが明らかになった。後者の入力の性質を調べるため、空間で静止した視標の固視中に全 身回転刺激による前庭入力応答と、頭部のみを空間で固定させ、体幹のみを回転することによる 頚部固有受容器応答、さらに体幹を空間で固定させ、頭部のみを他動的に回転し、両入力を同時 に加えた場合の前頭眼野視標追跡眼球運動ニューロン応答を比較した結果、前庭および頚部固有 受容器入力が主要要素であった。これらのフィードバック入力が、前頭眼野で眼球追跡運動指令 と加算されることが、頭部運動との協調に関わることが明らかになった。 2)3次元性の視標追跡運動と、前額面と奥行き方向の視標追跡眼球運動中に背側虫部 VI-VII 葉と小脳片葉領域 Purkinje 細胞の応答を調べた。いずれの領域でも前額面の滑動性眼球運動と、 奥行き方向の輻輳眼球運動の両眼球運動システムに応答する3次元性の追跡眼球運動信号が再 現されていたが、背側虫部では、前額面と奥行き成分の両方に応答した Purkinje 細胞の比率は、 前額面あるいは奥行き成分を個別に担う Purkinje 細胞の合計比率よりも有意に低かった。また背 側虫部では、輻輳眼球運動に応答した Purkinje 細胞が、開散運動に応答した Purkinje 細胞よりも、 有意に多かった。これらの結果は、3次元性の追跡眼球運動信号から個々の眼球運動成分への分 解が、背側虫部で始まっていることを示唆する。さらに背側虫部の大多数の Purkinje 細胞の発射 は、輻輳眼球運動の開始に先行したのに対し(median 16 ms)、小脳片葉領域の Purkinje 細胞の大 多数は、輻輳眼球運動の開始に遅れて発射した(median 45 ms)。これらの結果は、輻輳眼球運 動の開始と維持において、小脳背側虫部と片葉領域の役割分担があることを示唆する。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 福島 菊郎 発表論文 英文 (1)原著論文 Nitta, T., Akao, T., Kurkin, S. & Fukushima, K. Involvement of the cerebellar dorsal vermis in vergence eye movements in monkeys. Cereb. Cortex in press. DOI 10.1093/cercor/bhm143. Akao, T., Kumakura, Y., Kurkin, S., Fukushima, J. & Fukushima, K. Directional asymmetry in vertical smooth-pursuit and cancellation of the vertical vestibulo-ocular reflex in juvenile monkeys. Exp. Brain Res. 182, 469-478 (2007). Miyamoto, T., Fukushima, K., Takada, T., de Waele, C. & Vidal, P-P. Saccular stimulation of the human cortex: a functional magnetic resonance imaging study. Neurosci. Lett. 423, 68-72 (2007). (2)総説 (3)著書 Fukushima, J., Asaka, T. & Fukushima, K. Postural changes during eye-head movements. Using Eye Movements as an Experimental Probe of Brain Function, edited by R. John Leigh and C. Kennard. Prog. Brain Res. vol. 171. pp 335-338, Elsevier, Amsterdam (2008). Fukushima, K., Akao, T., Shichinohe, N., Nitta, T., Kurkin, S. & Fukushima, J. Predictive signals in the pursuit area of the monkey frontal eye fields. Using Eye Movements as an Experimental Probe of Brain Function, edited by R. John Leigh and C. Kennard. Elsevier, Amsterdam. Prog. Brain Res. vol. 171.pp 433-440 (2008). Nitta, T., Akao, T., Kurkin, S. & Fukushima, K. Vergence eye movement signals in the cerebellar dorsal vermis. Using Eye Movements as an Experimental Probe of Brain Function, edited by R. John Leigh and C. Kennard. Elsevier, Amsterdam. Prog. Brain Res. vol. 171.pp 173-176 (2008). 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (計画班員) 研究課題名 視覚的眼球運動の随意的選択機構の研究 研究代表者名 河野 憲二 所属・職名 京都大学大学院医学研究科認知行動脳科学分野・教授 E-mail k.kawano@aist.go.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 動物の神経系の重要な機能の一つは感覚として入力された情報を変換し運動として出力するこ とにある。しかしながら、私たちがある運動を実行すると、純粋な外界の情報とともに、自らの 運動の結果、受動的に起こる感覚情報が絶えず入力される。高等動物は、自らの動きによって生 じる感覚に惑わされることなく純粋な外界の情報のもとに運動を制御することができる。本研究 では、自らの眼球運動の結果として起きた視覚刺激の動きでは眼球運動が誘発されないことに注 目し、運動制御のためには純粋な外界の情報が選択され、自らの運動の結果、受動的に起こる感 覚情報は選択されない、という選択の神経機構を明らかにする。 まず、サルが追跡眼球運動中に MT、MST 野のニューロン活動を記録し、視覚刺激に対する反 応の性質を調べたところ、MT 野と MST 野のニューロンでは性質が異なり、MT 野のニューロ ンは視覚刺激の網膜上の動きに対応した反応を示すのに対して、MST 野のニューロンはサルが 眼を動かしているいないに関わらず、視覚刺激のスクリーン上の動きに対応した反応を示すこと が明らかになった。この結果は MST ニューロンが眼球運動の情報を用いて MT ニューロンから 得られた網膜上での視覚刺激の動きの情報を補正し、外界の動きをコードしていることによると 考えられる。 そこで次に、MST ニューロンで見られる眼球運動の補正が、視覚刺激の動く方向、追跡眼球運 動の方向によって影響されるかどうかを調べた。サルの前に置いたスクリーンに小さい視標を呈 示し、固視または追跡眼球運動を行うよう訓練した。固視または追跡眼球運動遂行中にランダム ドット像をスクリーンに呈示して動かし、網膜上に映った像の動きに対する MT 野および MST 野のニューロン活動を記録した。まず、サルが静止した固視点を注視している間にランダムドッ ト像を上下左右斜めの8方向に動かし、それぞれのニューロンの視覚刺激の動きに対する方向選 択性を調べ、適方向を同定した。次に、(1)サルが静止した視標を固視している場合、(2)サルが 20 度/秒で、適方向と直角方向に動く視標を追跡している場合、の2つの場面での視覚刺激の 動きに対する方向選択性を調べた。MT ニューロンは網膜上で同じ動きをする視覚刺激に対して よく似た方向選択性を示すのに対して、MST ニューロンはスクリーン上で同じ動きをする視覚 刺激に対してよく似た方向選択性を示すことが明らかになった。この結果は、MT ニューロンの 方向選択性が網膜座標系に依存するのに対して、MST ニューロンの方向選択性は空間座標系に 依存し、MST 野ニューロンで見られる眼球運動の補正は、視覚刺激の動く方向、追跡眼球運動 の方向によって影響を受けず、あらゆる方向に有効であることを示している。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 河野 憲二 発表論文 英文 (1)原著論文 Hayashi, R., Miura, K., Tabata, H. & Kawano, K. Eye movements in response to dichoptic motion: evidence for a parallel-hierarchical structure of visual motion processing in primates. J. Neurophysiol. in press. Matsuura, K., Miura, K., Taki, M., Tabata, H., Inaba, N., Kawano, K.& Miles, F. A. Ocular following responses of monkeys to the competing motions of two sinusoidal gratings. Neurosci. Res. in press. Wada, Y., Kodaka, Y. & Kawano, K. Vertical eye position responses to steady-state sinusoidal fore-aft head translation in monkeys. Exp. Brain Res. 185, 75-86 (2008). Tabata, H., Miura, K. & Kawano, K. Trial-by-trial updating of the gain in preparation for smooth pursuit eye movement based on past experience in humans. J. Neurophysiol. 99, 747-758 (2008). Inaba, N., Shinomoto, S., Yamane, S., Takemura, A. & Kawano, K. MST neurons code for visual motion in space independent of pursuit eye movements. J. Neurophysiol. 97, 3473-3483 (2007). Tabata, H., Miura, K. & Kawano, K. Preparation for smooth pursuit eye movement based on expectation in humans. Systems and Computers in Japan 38, 1-9 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 和田佳郎、竹村文、河野憲二:協調運動に関する脳研究の進歩.総合リハビリテーション 36(2), 127-131 (2008). (3)著書 第2領域 (計画班員) 研究課題名 大脳皮質の局所神経回路:特に運動野について 研究代表者名 金子 武嗣 所属・職名 京都大学医学研究科・教授 E-mail kaneko@mbs.med.kyoto-u.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 認識・意識・感情・思考・運動企図などといった脳の高次機能は大脳皮質を中心とした神経回 路により実現されていると考えられるが、これらの高次機能を可能にしている作動原理は未だに 明らかにされていない。こうした大脳皮質の作動原理を理解する際に最も欠けている要素は局所 神経回路網の構成についての情報である。局所回路の理解についてはゴルジ染色法の時代以来、 大きな進歩が見られていないと行っても過言ではく、大脳皮質の局所回路を解明するには、従来 のゴルジ染色法を超える手法を使ってニューロンという構成要素の連絡のレベルで個々に調べ る必要がある。我々は大脳皮質の局所回路を解析する手段として、 「From one to group 」の研究 方針を立て以下の研究を行った。 (1) 「GAD67/GFP knock-in mouse (参考文献 146) を用いて、蛍光顕微鏡下に生きたまま観察で きる GABA 作動性ニューロンをホールセルクランプにより細胞内染色する。」 アダルト動物でのホールセルクランプでの問題を、Sodium-free の溶液でスライス作成により ほぼ解決し、論文として報告した。現在この技術を用いて、逆行性標識法との組み合わせにより、 皮質 GABA 作動性インターニューロンから皮質脊髄投射ニューロンへの入力を解析している。 (2) 「dendritic membrane-targeted GFP transgenic mouse」 lentivirus では遺伝子が chromosome に組み込まれ、感染細胞にとってトランスジェニック動 物と同じ状況になることから、トランスジェニック動物での遺伝子発現・タンパク質局在に関し て良いモデルとして使えると考え、lentivirus を用いて8種類の tagged GFP を試みた。その結果、 ニューロンの樹上突起を Golgi 染色様に標識できる tagged GFP ([myristoylation/palmitoylation site of Fyn]-[GFP]-[LDL receptor C-terminus]; myrGFP-LDLRCT)を開発できた。Thy1 promoter と GAD67 promoter 下 に こ の tagged GFP を 発 現 す る transgenic mouse を 作 製 し て GFP の dendritic membrane targeting に成功したので論文として発表した。現在、より発現特異性の高い parvalbumin promoter あるいは VGluT3 promoter を用いた BAC transgenic mouse を作成中である。 (3) 「Pseudorabies virus 等」 大脳皮質の投射ニューロンを Golgi 染色様に逆行性標識することをめざして、1) pesudorabies virus, 2) rabies virus glycoprotein (RVG) で pseudotype に し た Sindbis virus, あ る い は 3) RVG-pseudotyped lentivirus 等の開発を行なっている。さらに、myrGFP-LDLRCT adenovirus を用 いた逆行性標識の試み(高塩濃度下に注入)も行なって一定の成功を得ており、1個の錐体ニュ ーロンから皮質視床投射ニューロンへの局所入力を解析している。また、tagged GFP の発現量を 高めるために Tet-off system の強力 promoter を組み込んだ adenovirus も開発している。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 金子 武嗣 発表論文 英文 (1)原著論文 Furuta, T., Timofeeva, E., Nakamura, K., Okamoto, K., Kaneko, T. & Deschenes, M. Inhibitory gating of vibrissal inputs in the brainstem. J. Neurosci. in press. Ito, T., Hioki, H., Nakamura, K., Kaneko, T., Iino, S. & Nojyo, Y. Some gamma-motoneurons contain gamma-aminobutyric acid in the rat cervical spinal cord. Brain Res. in press. Kameda, H., Furuta, T., Matsuda, W., Ohira, K., Nakamura, K., Hioki, H. & Kaneko, T. Targeting Green Fluorescent Protein to Dendritic Membrane in Central Neurons. Neurosci. Res. in press. Toyoda, H., Saito, M., Sato, H., Dempo, Y., Ohashi, A., Hirai, T., Maeda, Y., Kaneko, T.,& Kang, Y. cGMP activates a pH-sensitive leak K+ current in the presumed cholinergic neuron of basal forebrain. J. Neurophysiol. in press. Tanaka, Y., Tanaka, Y., Furuta, T., Yanagawa, Y. & Kaneko, T. The Effects of Cutting Solutions on the Viability of GABAergic Interneurons in Cerebral Cortical Slices of Adult Mice. J. Neurowci. Methods in press. Ito, T., Hioki, H., Nakamura, K., Tanaka, Y., Nakade, H., Kaneko, T., Iino, S. & Nojyo, Y. GABA-containing sympathetic preganglionic neurons in rat thoracic spinal cord send their axons to the superior cervical ganglion. J. Comp. Neurol. 502 (1), 113-125 (2007). Hioki, H., Kameda, H., Nakamura, H., Okunomiya, T., Ohira, K., Nakamura, K., Kuroda, M., Furuta, T. & Kaneko, T. Efficient gene transduction of neurons by lentivirus with enhanced neuron-specific promoters. Gene Ther. 14 (11), 872-882, (2007) . Ferezou, I., Hill, E.L., Cauli, B., Gibelin, N., Kaneko, T., Rossier, J. & Lambolez, B. Extensive overlap of mu-opioid and nicotinic sensitivity in cortical interneurons. Cereb. Cortex 17 (8), 1948-1957 (2007). Nakamura, K., Watakabe, A., Hioki, H., Fujiyama, F., Tanaka, Y., Yamamori, T. & Kaneko, T. Transiently increased colocalization of vesicular glutamate transporters 1 and 2 at single axon terminals during postnatal development of mouse neocortex: a quantitative analysis with correlation coefficient. Eur. J. Neurosci. 26 (8), 3054-3067 (2007). Sonomura, T., Nakamura, K., Furuta, T., Hioki, H., Nishi, A., Yamanaka, A., Uemura, M. & Kaneko, T. Expression of D1 but not D2 Dopamine Receptors in Striatal Neurons Producing Neurokinin B. Eur. J. Neurosci. 26 (8), 3093-3103 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (計画班員) 研究課題名 小脳型運動制御に関する研究 研究代表者名 北澤 茂 所属・職名 順天堂大学医学部・教授 研究分担者名 陸暁峰 1、高橋俊光 1、高島一郎 2、西森康則 2 分担者所属 1 E-mail kitazawa@med.juntendo.ac.jp 順天堂大学医学部、2 産総研・脳神経情報研究部門 研究成果報告書 本研究は小脳が滑らかな運動指令の生成にどのようにして貢献しているのか、その機構解明を目 的としている。 1. 眼球運動制御に関する研究 補足眼野と前頭眼野から記録したニューロンの活動を入力として、眼球ロボットの制御を行い、 サルと同様の滑らかな運動をロボットで実現する。本年度は次の研究を実施した。前頭眼野と補 足眼野からマルチ電極を使って同時記録した複数のニューロンの活動からサッケード開始のタ イミングと振幅、方向を推定した。前頭眼野 14 個のニューロンの同時計測データを用いた場合 には、タイミングの正推定率(誤差 0.1 秒未満)は 34%、目標(16 目標)の正推定率は 44%に 達した。一方、補足眼野 27 個のニューロンの場合には、タイミングと目標の正推定率はそれぞ れ 45%、38%だった。前頭眼野は補足眼野のおよそ半数の細胞で同程度の推定精度を達成できる ことが示唆された。 2. 腕運動制御に関する研究 目標に向かって手を伸ばす到達運動は、終点の誤差の分散を最小化するような運動と近い。この ような制御が、登上線維に表現されている到達運動終点の誤差の情報を使って実現されているこ とを検証するための研究を行う。今年度は以下の 2 項目を行った。1) 2 枚のプリズムの角度をコ ンピュータ制御して、終点の誤差を自在にコントロールすることが可能な到達運動の実験系を開 発し、サル 1 頭に目標に手を伸ばす腕の到達運動を訓練した。2) 小脳が不可欠であることが知 られている「プリズム順応」について 24 時間以上の長期間にわたる後効果を実現するのに必要 な試行数を調べた。視野の移動をブロックデザインで導入した場合には 250 回の試行では 24 時 間以内に後効果が消失し、24 時間以上の長期間にわたる後効果を実現するには 500 回の試行が 必要であると報告されていた (Yin & Kitazawa, 2001) 。しかし、最近 Yamamoto ら(2006)は視野 の移動を徐々に行えば少ない回数で実現できる可能性を指摘した。そこで新たに開発したシステ ムで 30mm の視野の平行移動を 100 試行かけて徐々に行い、さらに視野を移動したまま 100 回、 200 回、400 回の試行を行った後 24 時間後の後効果の大きさを調べた。その結果、視野の移動を 徐々に導入した場合でも合計 200 回または 300 回の試行では長期の後効果は生じず、500 回の試 行を繰り返して初めて長期の後効果が生じることが明らかになった。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 北澤 茂 発表論文 英文 (1)原著論文 Ohmae, S., Lu, X., Takahashi, T., Uchida, Y. & Kitazawa, S. Neuronal activity related to anticipated and elapsed time in macaque supplementary eye field. Exp. Brain Res. 184, 593-8 (2008). Moizumi, S., Yamamoto, S. & Kitazawa, S. Referral of tactile stimuli to action points in virtual reality with reaction force. Neurosci. Res. 59, 60-7 (2007). Uchida, Y., Lu, X., Ohmae, S., Takahashi, T. & Kitazawa, S. Neuronal activity related to reward size and rewarded target position in primate supplementary eye field. J. Neurosci. 27, 13750-5 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (計画班員) 研究課題名 動機づけに基づく目標指向行動の脳内情報処理メカニズムの解明 研究代表者名 設楽 宗孝 所属・職名 筑波大学大学院人間総合科学研究科・教授 E-mail mshidara@md.tsukuba.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 目標指向行動において報酬到達までの労働負荷、報酬価値、報酬確率の情報処理が脳内でどのよ うになされているかを調べるために動物に学習させる課題である「多試行報酬スケジュール課 題」遂行のための新実験制御装置(課題制御とデータ取得及びオンライン解析を行う本体部分、 視覚刺激装置、単一或いはマルチユニット連続記録装置)2 セット目を作成した。 報酬価値を直接的に変化させる為に報酬ジュースの量を操作した多試行報酬スケジュール課題 をサルにトレーニングし、課題遂行時の行動学的パラメーターを解析した。多試行報酬スケジュ ール課題では、報酬の獲得に達するのに複数回試行を正解する必要があるが、この時、報酬まで の距離(スケジュール進行)と報酬量をキューの長さと明るさによって示す条件(キュー条件) と、キューを提示する順序をランダムにして、報酬がいつどのくらいの量得られるかをキューに よって示さない条件(ランダム条件)を設定した。キュー条件では、サルはどの試行でどのくら いの量の報酬がもらえるのかが確実にわかるが、ランダム条件ではこれがわからない。サルは、 報酬試行に近いほど、また、報酬量が多いほど、バーリリース反応が早く、誤答率も小さくなる ことがわかったが、解析に用いたサルでは報酬到達までの履歴の効果は見られなかった。ランダ ム条件では、サルは常に早い反応速度と低い誤答率を示した。 別のサルでは、報酬スケジュール課題遂行時の背側縫線核付近のニューロン活動の記録を試み た。予備的結果では、これまでにスパイクの幅が1ms以上のニューロンが記録され、課題の様々 なフェーズで反応するものが見られている。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 設楽 宗孝 発表論文 英文 (1)原著論文 Mizuhiki, T., Richmond, BJ. & Shidara, M. Mode changes in activity of single neurons in anterior insular cortex across trials during multi-trial reward schedules. Neurosci. Res. 57(4),587-591 (2007). Simmons, JM., Ravel, S., Shidara, M. & Richmond, BJ. A Comparison of Reward-Contingent Neuronal Activity in Monkey Orbitofrontal Cortex and Ventral Striatum. Guiding Actions toward Rewards. Ann. N.Y. Acad. Sci. 1121, 376–394 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 設楽宗孝:創造性とスポーツトレーニング 114-116 (2008). (3)著書 [コメント-脳科学的観点から]. 体育の科学 58(2), 第2領域 (計画班員) 研究課題名 動機づけ行動における報酬・報酬期待関連脳部位間の機能的関係 研究代表者名 渡辺 正孝 所属・職名 (財)東京都医学研究機構・東京都神経科学総合研究所・特任研究員 研究分担者名 児玉 亨1、本多芳子1、小島 分担者所属 1 E-mail masataka@tmin.ac.jp 崇1、桑波田 卓1、彦坂和雄2 (財)東京都医学研究機構・東京都神経科学総合研究所 2 川崎医療福祉大学・医療技術学部 研究成果報告書 本研究は,サルと人で報酬および報酬期待関連脳部位の応答特徴を実験的および文献的に調べて その機能マッピングをするとともに,こうした部位間の機能的結びつきを解明しようとするもの である。そのために報酬関連脳活動に関する文献研究を進めており、特に報酬関連脳活動と認知 実行機能との関連についての分析に焦点を当てて調べ、その一部はレビュー誌に発表を行った。 実験的研究としては以下のような結果を得ている。 (1)報酬が意思決定を左右する典型的事態であるセルフコントロール課題をサルに訓練し,衝 動性やセルフコントロールに関わりの深い前頭連合野の外側部と眼窩部からニューロン活動の 記録を行った。得られたデータの解析を進めている。 (2)ワーキングメモリー課題遂行中のサルにおいて報酬の種類を変化し,それによってどのよ うな神経伝達物質(特にドーパミンとグルタミン酸)がどのような変化を示すのかを、前頭連合 野と線条体において調べた。得られたデータの解析を進めている。 (3)上記研究の発展として、リタリン(メティルフェニデート)投与の効果をサルにおいて行 動と神経伝達物質の変化で調べる試みを開始した。ドーパミンの作動薬のリタリンがどのような メカニズムでADHDの治療に効果を持つのかは不明である。セルフ・コントロール課題やゴ ー・ノーゴー課題、ストップシグナル課題などの我慢や注意集中を要求する課題において、適量 のリタリン投与はサルの学習行動を促進する、課題の種類の違いにより適量が異なる、という予 備的結果を得た。効果がある条件で前頭連合野と線条体においてドーパミンを中心とした神経伝 達物質の動態を調べる実験を開始した。 (4)行動を規定する要因としてホメオスタシス的な「報酬」とは異なるものとして,「競争事 態における勝ち負け」という要因が脳ではどのように処理されるのかを解明するために,サルに 競争の伴う、あるいは伴わないビデオシューティングゲームを訓練した(下図参照)。弾をター ゲットに当てる命中率は1匹だけでゲームをする非競 争条件に比べて 2 匹で競う競争条件の方で高かった。サ ルは競争条件において、より集中していると考えられ る。前頭連合野からニューロン活動を記録したところ、 ①非競争条件に比べ、競争条件で活動レベルが上昇す る、②競争条件で報酬を得たときに大きな活動を示す、 ③競争条件で負けたときに大きな活動を示すというよ うな反応が多く見られた。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 渡辺 正孝 発表論文 英文 (1)原著論文 Kojima, T., Onoe, H., Hikosaka, K., Tsutsui, K., Tsukada, H. & Watanabe, M. Domain-related differentiation of working memory in the Japanese macaque (Macaca fuscata) frontal cortex: a positron emission tomography study. Eur. J. Neurosci. 25, 2523-2535 (2007). Sakagami, M. & Watanabe, M. Integration of cognitive and motivational information in the primate lateral prefrontal cortex. Ann. N. Y. Acad. Sci. 1104, 89-107 (2007). Watanabe, M. & Sakagami, M. Integration of cognitive and motivational context information in the primate prefrontal cortex. Cereb. Corte. 17(Sup. 1), i101-i109 (2007). (2)総説 Watanabe, M. Role of anticipated reward in cognitive behavioral control. Cur. Opin. Neurobiol. 17, 213-219 (2007). Lee, D., Rushworth, M.F.S., Walton, M.E., Watanabe, M. & Sakagami, M. Functional specialization of the primate frontal cortex during decision making. J. Neurosc. 27, 8170-8173 (2007). (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 渡邊正孝:前頭連合野と報酬期待 特集「前頭葉と精神機能」. 分子精神医学 in press. 渡邊正孝:学習意欲と前頭連合野 特集「学習と記憶-基礎と臨床」.BRAIN and NERVE in press. 渡邊正孝:非侵襲的脳機能測定法との比較でみた動物を用いた認知神経科学的研究の意義. 認知 神経科学 9, 38-44 (2007). (3)著書 渡邊正孝:行動の認知科学. 田中啓治編、シリーズ脳科学第 2 巻「認識と行動の脳科学.」 東京 大学出版会 in press. 渡邊正孝:メタ認知の神経科学的基礎. 三宮真智子編 「メタ認知―学習力を支える高次認知機 能」北大路書房 in press. 横山詔一、渡邊正孝:記憶・思考・脳. 新曜社 (2007). 第2領域 (計画班員) 研究課題名 直感的思考の神経メカニズム 研究代表者名 坂上 雅道 所属・職名 玉川大学 学術研究所 教授 研究分担者名 樋田栄揮 岡田浩之 分担者所属 玉川大学工学部 E-mail sakagami@lab.tamagawa.ac.jp 研究成果報告書 推移的推論課題をニホンザルに学習させ、その課題遂行中に前頭前野から単一ニューロン活動を 記録・解析し、カテゴリーをコードするニューロンが、そのカテゴリーの意味を同時にコードし ていることをこれまでに示してきた。このようなニューロンが存在することにより、動物は異な る状況で獲得した知識(連合)を、新奇な状況で柔軟に結びつけて使用することができることが 示唆された。しかし、最近、このような意味の生成や価値判断にかかわる神経回路は同じ脳の中 にも複数存在することが議論されるようになってきた。たとえば、Daw ら(2004)は、前頭連合野 は内部モデルを使ってシミュレーションをする model-based システムであり、大脳基底核は条件 付けや TD 学習の様に直接経験のみに基づく model-free システムであるという仮説を提唱した。 我々はこのことを実験的に検証するため、推移的推論課題遂行中のニホンザルの前頭連合野と大 脳基底核から単一ニューロン活動の同時記録を行い、その活動パターンの違いを比較検討した。 <推移的推論課題> サルは「A ならば B」(A1→B1 または A2→B2) 、「B ならば C」 (B1→C1 または B2→C2)とい う条件性弁別を学習し、後に C と報酬との関係を別試行において学習した。その結果、サルは こうした複数の連合を統合することで、直接には経験していない A と報酬との関係を“推論” し、報酬予期反応を示すかどうかがテストされた。行動学的には、直接経験していない刺激の意 味(報酬)を正しく予測できることが示された。 <ニューロン記録実験> これまで報告してきたように前頭前野外側部ニューロンは、行動同様、直接経験することなしに 刺激の意味を“推論”する活動を示したが、尾状核ニューロンの多くは“推論”でしか正解でき ない場合には刺激の意味を正しく予測することはできず、刺激-報酬の直接経験が進むに従って 正しく報酬予測を行うようになって行った。 <考察> これらの結果から、これまで示してきた前頭前野外側部ニューロンに見られる“推論”を可能に する神経メカニズムは大脳皮質特有のものであり、大脳基底核の神経回路は異なる、より単純な 規則で報酬予測を行っていることが示唆された。このことは、サル DA ニューロン(大脳基底核 の重要な入力源)の記録実験や、ヒトを被験者としたfMRI 実験によっても確認されつつある。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 坂上 雅道 発表論文 英文 (1)原著論文 Watanabe, M., Hikosaka, K., Sakagami, M. & Shirakawa, S. Reward expectancy-related prefrontal neuronal activities: are they neural substrates of "affective" working memory. Cortex. 43(1),53-64(2007). (2)総説 Sakagami, M. & Pan, X. Functional role of the ventrolateral prefrontal cortex in decision making. Curr. Opin. Neurobiol. 17(2),228-33(2007). Lee, D., Rushworth, MF., Walton, ME., Watanabe, M. & Sakagami, M. Functional specialization of the primate frontal cortex during decision making. J. Neurosci. 27(31),8170-3(2007). Balleine, BW., Doya, K., O’Doherty, J. & Sakagami, M. Current trends in decision making. Ann. N. Y. Acad. Sci. 1104, xi-xv(2007). Sakagami, M. & Watanabe, M. Integration of cognitive and motivational information in the primate lateral prefrontal cortex. Ann. N. .Y Acad. Sci. 1104, 89-107(2007). (3)著書 和文 (1)原著論文 山本愛実、 奥田次郎、 鮫島和行、 坂上雅道:脳内報酬情報処理に及ぼす知覚的曖昧性の影響. 日本神経回路学会誌 in press. 竹村浩昌、 奥田次郎、 鮫島和行、 坂上雅道:知覚確率が報酬予測誤差に及ぼす影響. 電子情報 通信学会技術研究報告 107(410),69-74 (2007). (2)総説 (3)著書 中山剛史、坂上雅道(共編):脳科学と哲学の出会い. 玉川大学出版部 (2007). 第2領域 (計画班員) 研究課題名 外界を脳内に再構成する神経メカニズム -霊長類とヒトでの研究- 研究代表者名 泰羅 雅登 所属・職名 日本大学大学院総合科学研究科・教授 研究分担者名 勝山成美1、佐藤暢哉1、海野俊平2 分担者所属 日本大学医学部1、日本大学総合科学研究所2 E-mail masato@med.nihon-u.ac.jp 研究成果報告書 サルにバーチャルリアリティ(VR)建造物内を指定した部屋に移動するナビゲーション課題を訓 練し、頭頂葉内側領域および脳梁膨大後部皮質より課題遂行中のニューロン活動を記録してき た。その結果、頭頂葉内側領域(主に 7m 野)から、建造物内の特定の場所で選択的に活動するニ ューロン、特定のルート途上における特定の場所で選択的に活動するニューロンなどが見つか り、この結果は頭頂葉内側領域のニューロンが、ナビゲーションに必要とされるルート知識に関 わることを示していると考えられる(Sato et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103: 17001-17006, 2006)。 本年度は、これらのニューロンのうち、場所の情報に関わると考えられるニューロンがどのよう な視覚情報に応答しているのかを、ルート全体の動画(Passive)、部分的な動画(Segment)、部 分的な静止画(Image)に対する反応を調べることで検討した。その結果、調べた46個のニュー ロン中9個(20%)はす部手のべての条件下で通常に比べて減少した。また、13個(28%) のニューロンはルート全体の動画には反応するが、部分的な動画、部分的な静止画に対しては反 応が減した。この結果は、これらの場所に選択的なニューロンが単純な視覚刺激に反応している のではないことを示している。また、課題開始時の指定した部屋のイメージに対する反応を解析 したところ、記録したニューロンの27%のニューロンが反応していた。したがって、この領域 の場所に選択的に反応するニューロンは単に場所の情報をコードするのではなく、どのルートを たどるのかという文脈に強く依存することが示唆された。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 泰羅 雅登 発表論文 英文 (1)原著論文 Iguchi, Y., Hoshi, Y., Nemoto, M., Taira, M. & Hashimoto, I. Co-activation of the secondary somatosensory and auditory cortices facilitates frequency discrimination of vibrotactile stimuli. Neuroscience 148, 461-472 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 泰羅雅登 (翻訳):カールソン 神経科学テキスト 脳と行動 第2版 丸善 (2007). 第2領域 (計画班員) 研究課題名 神経回路の動態に基づく大脳皮質-大脳基底核連関の計算論的理解 研究代表者名 深井 朋樹 所属・職名 独立行政法人理化学研究所脳回路機能理論研究チーム・チームリーダー E-mail tfukai@brain.riken.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 興奮と抑制がバランスしているシナプス入力が果たす計算論的役割に関する研究をいくつか行 った。シナプス入力がバランスしている場合、膜電位の平均値はあまり変化せず、揺らぎが変化 することが予想される。このような場合、ニューロンのスパイク発火は不規則なものになるが、 情報幾何学によると、スパイク列がガンマ過程で生成される場合には、スパイク列の揺らぎを発 火率変動に無関係に推定することができる。そのことで発火率推定も容易になる。そこで実験と モデルシミュレーションによって、この情報表現の直交化が、バランスしたシナプス入力の存在 下で実現されることを示した。大脳皮質神経回路の自己組織化過程をシミュレーションして、時 間依存のシナプス可塑性がシナプス入力をバランスさせること、睡眠時の大脳皮質に見られるよ うな自発発火パターンが生成されること、さらに non-REM 睡眠様の神経活動(UP 状態)がミ リ秒精度のスパイク時系列を内包していることを示した。また大脳皮質神経回路の配線のトポロ ジー構造が、ニューロン発火の不規則性や同期性に及ぼす影響を数値シミュレーションで調べ、 small-world 的な配線の特徴がとくに同期発火の性質に大きな影響を及ぼすことを示した。一方、 大脳皮質局所神経回路の同期のダイナミクスを明らかにするために、位相応答曲線を実験的に測 定して、2/3 層と 5 層の錐体細胞では同期発火の性質が質的に異なることを見出した。この違い はガンマ周波数帯(~30 Hz)で最も顕著であったため、層による計算メカニズムの違いを意味す るかもしれない。さらに、実験で明らかにされたような多様な位相応答特性が混在する神経回路 を扱うために、非線形物理学の方法をあらたに開発して新しいタイプの相転移現象を予言した。 また、位相応答理論と分岐理論を組み合わせて、興奮性ニューロンのバースト発火による同期メ カニズムを解析した。それにより、バースト発火ニューロンの回路が示す性質を、ニューロンモ デルの詳細に依らない形で明らかにした。大脳皮質-大脳基底核神経回路は動物や人間の行動学 習や行動生成に重要な働きをし、Actor-Critic はこの神経回路システムの強化学習機能を工学的 にモデル化したものである。この Actor-Critic による意思決定が、動物の選択行動に広範に見ら れるマッチング法則に従うことを理論的に証明した。現在、さらにこの解析を拡張し、報酬を最 大化する行動とマッチング行動との関係を、より一般的な最適化問題の枠組みの中で理論的に意 味づける試みを展開している。また入力の時間積分は曖昧な感覚情報を認知、識別するための基 本的メカニズムである。この時間積分を行うための新しい神経回路メカニズムを、大脳皮質ニュ ーロンが双安定な応答特性をもつという仮説に基づいて提案した。また前部帯状皮質の神経活動 が、この回路モデルの予言にきわめて良く合致することを見出した。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 深井 朋樹 発表論文 英文 (1)原著論文 Kang, S., Kitano, K. & Fukai, T. Structure of spontaneous UP and DOWN transitions self-organizing in a cortical network model. PLoS Comput. Biol. 4(3), e1000022. doi:10.1371 (2008). Sakai, Y. & Fukai, T. The actor-critic learning is behind the matching law: matching versus optimal behaviors. Neural Comput. 20(1), 227-251 (2008). Tsubo, Y., Teramae, J. & Fukai, T. Synchronization of excitatory neurons with strongly heterogeneous phase responses. Phys. Rev. Lett. 99(22), 228101-1-228101-4 (2007). Miura, K., Tsubo, Y., Okada, M. & Fukai, T. Balanced excitatory and inhibitory inputs to cortical neurons decouple firing irregularity from rate modulations. J. Neurosci. 27(50), 13802-13812 (2007). Fujiwara-Tsukamoto, Y., Isomura, Y., Imanishi, M., Fukai, T. & Takada, M. Distinct types of ionic modulation of GABA actions in pyramidal cells and interneurons during electrical induction of hippocampal seizure-like network activity. Eur. J. Neurosci. 25, 2713-2725 (2007). Teramae, J. & Fukai, T. Local cortical circuit model inferred from power-law distributed neuronal avalanches. J. Comput. Neurosci. 22, 301-312 (2007). Okamoto, H., Isomura, Y., Takada, M. & Fukai, T. Temporal integration by stochastic recurrent network dynamics with bimodal neurons. J. Neurophysiol. 97, 3859-3867 (2007). Takekawa, T., Aoyagi, T. & Fukai, T. Synchronous and asynchronous bursting states: Role of intrinsic neural dynamics. J. Comput. Neurosci. 23, 189-200 (2007). Tsubo, Y., Takada, M., Reyes, AD. & Fukai, T. Layer and frequency dependences of phase response properties of pyramidal neurons in rat motor cortex. Eur. J. Neurosci. 25, 3429-3441 (2007). Kitano, K. & Fukai, T. Variability v.s. synchronicity of neuronal activity in local cortical network models with different wiring topologies. J. Comput. Neurosci. 23, 237-250 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 深井朋樹:第 6 章 282-331 (2007). 脳はどのように情報を伝えるのか.脳研究の最前線 上 脳の認知と進化 第2領域 (計画班員) 研究課題名 文法処理を中心とする言語の脳内メカニズムの解明 研究代表者名 酒井 邦嘉 所属・職名 東京大学 大学院総合文化研究科・助教授 E-mail kuni@mind.c.u-tokyo.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 最近の動物の行動実験で、正規文法(音素列のパターン例:ABAB)と句構造文法(音素列の パターン例:AABB)の対比が注目を集めている[Fitch & Hauser (2004) Science 303, 377-380; Gentner et al. (2006) Nature 440, 1204-1207]。しかしながら、より高次の文法とされる後者のパタ ーンは、数を数えられれば統語構造を学習しなくとも他と区別できてしまうという致命的な問題 がある。そこで我々は、日本語のジャバウォッキー文(最低限の文法要素と無意味語のみで構成 された文)を用いて、文の統語構造および文法操作(Agree)に選択的な活動を fMRI によって 調べた。埋め込み文(Embedded Sentence, ES)条件と単文(Simple Sentence, SS)条件を直接比 較した結果、有意な活動が左半球の背側下前頭回(dIFG)と前下前頭回(aIFG)に認められた (図 A) 。また、ES 条件と重文(Compound Sentence, CS)条件の直接比較では、有意な活動が左 の dIFG に観察された(図 B)。ES 条件では2文が埋め込まれており、1文レヴェルの処理で足 りる CS および SS 条件とは統語構造が異なっていて、左の dIFG の選択的な活動を引き起こした と考えられる(図 C) 。一方、ES および CS 条件では2回の文法操作(Agree)が必要であり、1 回の文法操作で足りる SS 条件とは異なっていて、左の aIFG の選択的な活動に対応する(図 D)。 以上の結果は、人間の文法中枢が文の統語構造および文法操作に特化していることを示す直接的 な証拠である。 文の統語構造または文法操作(Agree)に選択的な文法中枢の活動。 (A)埋め込み文(ES)条 件と単文(SS)条件の直接比較。 (B)ES 条件と重文(CS)条件の直接比較。 (C)左背側下前 頭回(dIFG)における文の統語構造に選択的な活動。 (D)左前下前頭回(aIFG)における文法 操作に選択的な活動。 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 酒井 邦嘉 発表論文 英文 (1)原著論文 Kinno, R., Kawamura, M., Shioda, S. & Sakai, K. L.: Neural correlates of non-canonical syntactic processing revealed by a picture-sentence matching task. Hum. Brain Mapp. in press. Yasui, T., Kaga, K. & Sakai, K. L.: Language and music: Differential hemispheric dominance in detecting unexpected errors in the lyrics and melody of memorized songs. Hum. Brain Mapp. in press. Momo, K., Sakai, H. & Sakai, K. L.: Syntax in a native language continues to develop in adults: Honorification judgement in Japanese. Brain Lang. in press. (2)総説 Sakai, K. L. & Muto, M.: Cortical plasticity for language processing in the human brain. Cognit. Sci. 1, 211-225 (2007). (3)著書 和文 (2)総説 酒井邦嘉: 言語の脳科学-文理融合の試金石.Frontiere 2007、 東京大学大学院総合文化研究科 広 域科学専攻年報 10-11 (2008) . (3)著書 酒井邦嘉: 脳科学から言語へのアプローチ-脳活動の計測から人間の言語に迫る.言語学との融 合で脳機能を解明.In: 『東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻』 日経 BP ムック「変 革する大学」シリーズ 東京 (ISBN 978-4-86130-318-0) 92-93 (2008). 酒井邦嘉: 言語脳科学の最前線. In: 『生命システムをどう理解するか-細胞から脳機能・進化に せまる融合科学』 浅島誠編 共立出版 東京 (ISBN 978-4-320-05648-0) 136-148 (2007). 酒井邦嘉:チョムスキーの文法理論と脳科学からの挑戦(インタビュー:池上高志). In: 『生命シ ステムをどう理解するか-細胞から脳機能・進化にせまる融合科学』 浅島誠編 共立出版 東京 (ISBN 978-4-320-05648-0), 173-182 (2007). 酒井邦嘉:科学の心をアインシュタインが教えてくれた.In:『科学者の頭の中-その理論が生まれ た瞬間-』 進研ゼミ高校講座 ベネッセコーポレーション 東京 2-6 (2007). 第2領域 (計画班員) 研究課題名 言語獲得と運用の脳内基盤メカニズムの解明 研究代表者名 乾 敏郎 所属・職名 京都大学大学院情報学研究科・教授 E-mail inui@i.kyoto-u.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 単語を継時呈示し,単文の統語処理過程を事象関連 fMRI により検討した.その結果,文法課題 では助詞を呈示すると左 BA47 および左側頭葉/角回の活動が,単文最後の動詞を呈示するとブ ローカ野の活動が見られた.左角回の活動は,名詞の意味処理に関係すると考えられるので,名 詞を X,Y などの無意味文字にして再度実験を行ったところ,左側頭葉/角回の活動だけが消え た.以上の結果から,BA47 が助詞による統語的意味役割の付与に関わることが明らかになった (Ogawa, Ohba, and Inui, 2007).また単文の動詞呈示において,下前頭回だけでなく,9 野と 44 野 の境界付近の活動が見られた.この部分は動詞生成課題などの活動が見られる部分に対応してい る.Inui ら(1998)は日本語の複文である左分岐文(LB)および中心埋め込み文(CE)を用いて その理解過程における脳活動を調べた.我々は再び同様の実験を事象関連 fMRI により複文およ び階層構造を持たない等位接続文(CS)の呈示時の活動の分析を行った.また名詞の意味的影 響を排除するため具象名詞の代わりに,X,Y,Z の三種類の文字を,動詞として「叩く」 「倒す」 「押す」の三種類を用いた.その結果, (CE>LB)∧(CE>CS)で左 BA9 付近や下前頭回,上頭頂 小葉の活動が有意であった.CE では LB や CS にない処理が必要で,それは 9 野後方部を中心 として機能する.一方,ブローカ野の中央部は CS や単文の処理に共通して活動し,文処理の基 本機能に対応している.おそらく,文の意味へのマッピングに関係しているのであろう.また単 文処理(Ogawa, Ohba, and Inui, 2007)で見られる 9 野の位置はこれよりやや前方である. 第2領域 (計画班員) 研究代表者名 乾 敏郎 発表論文 英文 (1)原著論文 Inui, T., Ogawa, K. & Ohba, M. Role of left inferior frontal gyrus in the processing of particles in Japanese. Neuroreport 18, 15, 431-434 (2007). Ogawa, K., Ohba, M. & Inui, T. Neural basis of syntactic processing of simple sentences in Japanese. Neuroreport 18, 14, 1437-1441 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 大槻亮、小川健二、乾敏郎:言語理解と生成における移動操作の処理過程:fMRI 研究. 信学技報, NC2007-97, 61-66 (2008). 乾敏郎:コミュニケーション基礎機能の脳内メカニズム. 信学技報, HCS2007-35, 11-12 (2007). (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 ヒトの視覚認知の脳内機構に関する精神物理・神経心理学的研究 研究代表者名 森 悦朗 所属・職名 東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学分野教授 研究分担者名 藤井俊勝,鈴木匡子,平山和美 分担者所属 東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学,山形大学大学院医学系研究科 E-mail mori@mail.tains.tohoku.ac.jp 高次脳機能障害学 【背景・目的】 パーキンソン病(PD)では,後方脳領域と関連した高次視知覚障害や視覚認知障 害が存在し,PD に高頻度に出現する錯視や幻視に関与している可能性がある.そこで,痴呆を 伴わない PD 患者にて高次視知覚と錯綜図認知が障害されているかを検証し,FDG-PET を用い た安静時局所脳糖代謝との相関をもとにそれらの障害の脳内基盤を検討した. 【方法】Ⅰ.視覚課 題:1.高次視知覚課題:対象:PD 患 者 41 例と,年齢,教育年数を統制し た健常対照群(NC)20 例.手順:パー ソナルコンピューターで標的刺激を 傾き・位置 傾き・形 交叉・形 線の境界 Kanizsa型 図 1.高次視知覚刺激例 画面に提示,標的刺激の位置や標的 刺激がつくる形を二択で答えさせた.解答の正誤に基づき刺激提示時間 を制御した.40 試行実施し,最後の 5 試行の平均提示時間を標的刺激の 知覚閾値とした.2.錯綜図課題:対象:PD 患者 45 例と年齢,教育年数を 合わせた NC 群 20 例.手順:パーソナルコンピューターで 4 つの線画を 重ね描きした刺激を提示し同定させた.成績は,提示されたものを同定 図 2.錯綜図刺激例 できた数(正答数)と不提示のものを誤って報告した数(誤答数)を 測定した.Ⅱ.FDG-PET:課題を施行した PD 患者に対し, FDG-PET で安静時の局所脳糖代謝を測定し,SPM 5 を用いて各 視覚課題の成績と脳糖代謝が相関した領域を解析した.【結果】 1.高次視知覚課題:PD 群は,NC 群と比較して交叉の有無の形 と,Kanizsa 型主観的輪郭刺激に対してのみ知覚に要する時間が 有意に延長していた(p < .05).交叉・形の成績と負の相関を示す 局所脳糖代謝領域は,右下側頭後頭接合部領域,左中側頭後方領 域であった.また,Kanizsa 型の成績とは,両下側頭後頭接合部 領域,左下頭頂小葉領域の脳糖代謝が負の相関を認めた.2.錯綜 図課題:PD 群と NC 群との間に正答数では差がなかったが,誤 答数が PD 群にて多かった(p < .05).誤答数は,両側の下側頭葉,側頭頭頂後頭接合部領域の脳 糖代謝が負の相関を示した.【考察】痴呆を伴わない PD において高次視覚領域の脳糖代謝と関 連した視覚認知障害を呈していることが明らかとなった.今後は幻視や誤認の出現との関係や薬 物治療による変化を含めて 2008 年 2 月より 3 年目の追跡を実施中. 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 森 悦朗 発表論文 英文 (1)原著論文 Mori, E. Voxel-based analysis of gray matter and CSF space in idiopathic normal pressure hydrocephalus. Dement. Geriatr. Cogn. Disord. 25, 329-35 (2008). Abe, N., Ishii, H., Fujii, T., Ueno, A., Lee, E., Ishioka, T. & Mori, E. Selective impairment in the retrieval of family relationships in person identification: a case study of delusional misidentification. Neuropsychologia 45, 2902-9 (2007). Iizuka, O., Suzuki, K., Endo, K., Fujii, T. & Mori, E. Pure word deafness and pure anarthria in a patient with frontotemporal dementia. Eur. J. Neurol.14, 473-5 (2007). Iizuka, O., Suzuki, K. & Mori, E. Severe amnesic syndrome and collecting behavior after surgery for craniopharyngioma. Cogn. Behav. Neurol.20, 126-30 (2007). Ishii, K., Soma, T., Kono, A.K., Sofue, K., Miyamoto, N., Yoshikawa, T., Mori, E. & Murase, K. Comparison of regional brain volume and glucose metabolism between patients with mild dementia with lewy bodies and those with mild Alzheimer's disease. J. Nucl. Med.48, 704-11 (2007). Ito, T., Meguro, K., Akanuma, K., Ishii, H. & Mori, E. A randomized controlled trial of the group reminiscence approach in patients with vascular dementia. Dement.Geriatr.Cogn.Disord. 24, 48-54 (2007). Ito, T., Meguro, K., Akanuma, K., Meguro, M., Lee, E., Kasuya, M., Ishii, H. & Mori, E. Behavioral and psychological symptoms assessed with the BEHAVE-AD-FW are differentially associated with cognitive dysfunction in Alzheimer's disease. J. Clin. Neurosci.14, 850-5 (2007). Kono, A.K., Ishii, K., Sofue, K., Miyamoto, N., Sakamoto, S. & Mori, E. Fully automatic differential diagnosis system for dementia with Lewy bodies and Alzheimer's disease using FDG-PET and 3D-SSP. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging 34, 1490-7 (2007). Matsuoka, Y., Nagamine, M., Mori, E., Imoto, S., Kim, Y. & Uchitomi, Y. Left hippocampal volume inversely correlates with enhanced emotional memory in healthy middle-aged women. J. Neuropsychiatry Clin. Neurosci.19, 335-8 (2007). Ishii, K., Kawaguchi, T., Shimada, K., Ohkawa, S., Miyamoto, N., Kanda, T., Uemura, T., Yoshikawa, T. & Nagamine, M., Matsuoka, Y., Mori, E., Imoto, S., Kim, Y. & Uchitomi, Y. Different emotional memory consolidation in cancer survivors with and those without a history of intrusive recollection. J. Trauma. Stress 20, 727-36 (2007). Ogawa, A., Mori, E., Minematsu, K., Taki, W., Takahashi, A., Nemoto, S., Miyamoto, S., Sasaki, M., Inoue, T. & MELT Japan Study Group. Randomized trial of intraarterial infusion of urokinase within 6 hours of middle cerebral artery stroke: the middle cerebral artery embolism local fibrinolyticintervention trial (MELT) Japan. Stroke 38, 2633-9 (2007). Nagamine, M., Matsuoka, Y., Mori, E., Fujimori, M., Imoto, S., Kim, Y. & Uchitomi, Y. Relationship between heart rate and emotional memory in subjects with a past history of post-traumatic stress disorder. Psychiatry Clin. Neurosci.61, 441-3 (2007). Nishio, Y., Ishii, K., Kazui, H., Hosokai, Y. & Mori, E. Frontal-lobe syndrome and psychosis after damage to the brainstem dopaminergic nuclei. J. Neurol Sci.260, 271-4 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 森悦朗:特発性正常圧水頭症の歩行障害. Brain and Nerve 60, 219-224 (2008). 森悦朗:特発性正常圧水頭症. 臨床神経 47, 945-47 (2007). 森悦朗:iNPH の診断の要点. 脳神経外科ジャーナル 16, 387-391 (2007). 森悦朗:特発性正常圧水頭症(iNPH):再考. 臨床精神薬理 10, 1377-1386 (2007). 阿部修士、森悦朗: 全生活史健忘の意義:神経内科学の立場から. Brain Medical 19,148-153 (2007). 西尾慶之、森悦朗: 神経変性疾患(アルツハイマー病など)による認知症. アルツハイマー病以外 の変性疾患による認知症:レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、進行性核上性麻痺、皮質基 底核変性症. Medicina 44, 1100-1104 (2007). (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 神経細胞モデルの縮約による大脳皮質視覚野の統合的研究 研究代表者名 岡田 真人 所属・職名 東京大学・大学院新領域創成科学研究科・教授 E-mail okada@k.u-tokyo.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 研究の背景・目的:ここでは,単一ニューロンのスパイク列の統計量から,そのニューロンが 埋め込まれているコラムなどの機能モジュールの神経メカニズムと計算理論がどの程度推定で きるかを議論する.これまで我々は,スパイク間隔 ISI(Inter Spike Interval)がガンマ分布によって 記述されると仮定し研究を進めてきた.ガンマ分布は発火率λとスパイク発火の不規則性をあら わすκの二つのパラメータで記述される.昨年度は,発火率λが変動する場合でも,スパイクの 不規則性κは神経細胞ごとに決まった値をとると仮定し,新たなスパイク統計指標 SI を提案し た.本年度は,ニューロンの ISI がλ変動・κ固定型ガンマ分布で記述できる条件を,計算機実 験とスライス実験で求めた. 方法:図 1 の左図のような,局所回路また機能モジュールに 興奮性シナプス 抑制性シナプス 埋め込まれているニューロンを考える.このニューロンへの 数多くのシナプス入力は足しあわされ,右図のような興奮性 と抑制性の二つのシナプス入力におきかえられる.これら足 しあわされた入力を平均場シナプス入力と呼ぼう.ここで は,興奮性と抑制性の平均場シナプス入力がどのような統計 機能モジュール内 のニューロンから のシナプス入力 機能モジュール内の平 均場的シナプス入力 図1 的特性をもつときに,ISI がλ変動・κ固定型ガンマ分布で記述できるかをさぐった. 結果:我々は,興奮性および抑制性コンダクタンスを,ガウス分布を入力とする一次遅れ系で記 述した.結果として,興奮性入力と抑制性入力の比が一定の関係を保ちながら時間変化する場合, スパイクの不規則性κが一定に保たれることがわかった.これは,機能モジュールやコラムにお いて,常に興奮性と抑制性のニューロンの全体的な挙動がバランスする状態に保たれていること を示唆する.この知見はスパイクの統計性が,機能モジュールに代表される局所回路の構造と力 学的な性質に密接に関係していることを明快に示した初めての例である(Miura, Tsubo, Okada and Fukai, JNS, 2007).さらに我々は,κが一定でない条件でニューロンが駆動されると,κ固定の 条件よりも,スパイク列から発火率λの推定する時の精度が悪くなることをしめした. .これが, ニューロンがκ固定で駆動される計算論的な利点である. 以上に示したように,我々は,局所回路における興奮と抑制がバランスしているというコード ウェアの拘束条件が,κ一定のスパイクの統計的な性質を生むことを示し,そのκ一定の統計的 性質が計算論的に発火率推定の精度の高さに結びつくことを示した.この研究はスパイクの統計 解析を用いて,局所回路のハードウェアと計算理論を統合した初めての研究といえる. 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 岡田 真人 発表論文 英文 (1)原著論文 Miura, K., Tsubo, Y., Okada, M. & Fukai, T. Balanced excitatory and inhibitory inputs to cortical neurons decouple firing irregularity from rate modulations. J.Neurosci. 27, 13802-13812 (2007). Ishibashi, K., Hamaguchi, K. & Okada, M. Sparse and dense encoding in layered associative network of spiking neurons. J.Phys.Soc.Jpn. 76, 124801-1-8 (2007). Katahira, K., Okanoya, K. & Okada, M. A neural network model for generating complex birdsong syntax. Biol.Cybern. 97, 441-448 (2007). Uezu, T., Miyoshi, S., Izuo, M. & Okada, M. Theory of time domain ensemble on-line learning of perceptron. J.Phys.Soc.Jpn. 76, 114006-1-8 (2007). Utsumi, H., Miyoshi, M. & Okada, M. Statistical mechanics of nonlinear on-line learning for ensemble teachers. J.Phys.Soc.Jpn. 76, 114001-1-6 (2007). Matsumoto, N., Ide, D., Watanabe, M. & Okada, M. Retrieval property of attractor network with synaptic depression. J.Phys.Soc.Jpn. 76, 084005-1-10 (2007). 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(2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 サル前部下側頭皮質における「顔」の記憶表象のニューロン相関 研究代表者名 永福 智志 所属・職名 富山大学大学院・医学薬学研究部・統合神経科学 E-mail se@med.u-toyama.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 背景と目的 「顔」のアイデンティティ,つまり,「その顔が誰の顔であるのか?」の認知障害 は , 相 貌 失 認 と 総 称 さ れ , 統 覚 型 相 貌 失 認 (Apperceptive Prosopagnosia) と 連 合 型 相 貌 失 認 (Associative Prosopagnosia)の二型に細分される.前者は「顔」のアイデンティティに対する知覚障 害であり,ヒトでは主に紡錘状回の障害による.また,後者は「顔」のアイデンティティと意味・ 呼称等の連合の障害であり,ヒトでは主に前部下側頭皮質の障害による.連合型相貌失認で障害 されるような,「顔」のアイデンティティと意味・呼称等の連合は,異なる刺激クラス間ないしモ ダリティ間における連合であり,霊長類の視覚長期記憶の機能構築に関する本質的な側面を表す と考えられる.先行研究でわれわれは,サル前部下側頭皮質腹側部(TEav 野)が, 「顔」の見え方 に依存しない「顔」のアイデンティティ(view-invariant facial identity)の認知に重要であることを示 した(Eifuku et al., 2004; De Souza et al., 2005).しかしながら, 「顔」のアイデンティティと意味・呼 称等の連合記憶に関する系統的な神経生理学的研究は現時点でほとんどない.本研究では,サル TEav 野における,「顔」のアイデンティティと意味・呼称等の連合記憶のニューロン表現はどの ようなものであり,また,どのように検索され,想起されるのかを明確にすることを目的に, 「顔」 を使用した非対称的対連合課題(I-APA 課題)遂行中の TEav 野「顔」ニューロン活動を記録した. 方法 I-APA 課題では,サルはあらかじめ 4 つの連合対を学習する.各連合対は一種類の「図形」 と一人の人物(一つのアイデンティティ)の 5 方向の「顔」からなる.各試行では,サルが固視 点に固視後,先行刺激( 「図形」または「顔」 )が呈示され一定の遅延期間の後,テスト刺激(先 行刺激が「顔」の場合は「図形」 ,先行刺激が「図形」の場合は「顔」)が継時的に呈示される. サルは先行刺激と連合対をなすテスト刺激を同定することが要求される.正解テスト刺激の場 合,レバー押しを行うとジュースが報酬として与えられるが,正解テスト刺激でない場合(妨害 刺激)は,サルは何もせずに次のテスト刺激の呈示を待たなくてはならない. 各試行では正解テ スト刺激が呈示されるまで妨害刺激が複数回呈示される.したがって,I-APA 課題では,(1)「図 形」が手掛かり刺激(cue)として呈示され,遅延期間後に各種の「顔」が正解テスト刺激(target) または不正解テスト刺激(distractor)として呈示される「図形」Æ「顔」試行と,逆に,(2)「顔」 が手掛かり刺激として呈示され,遅延期間後に各種の「図形」が正解または不正テスト刺激とし て呈示される「顔」Æ「図形」試行の二種類の試行がある.I-APA 課題で用いる「図形」は,い わば,ある一人の人物(一つのアイデンティティ)に割り振られたラベルないし呼称とみなすこ とができる.したがって,I-APA 課題は連合型相貌失認で障害される「顔」のアイデンティティと 意味・呼称等の連合を擬似的に再現するものである. 本研究では,I-APA 課題の各試行におけ る,手がかり刺激に対するニューロン応答(手がかり刺激応答),遅延期間中のニューロン活動(遅 延活動),各テスト刺激に対するニューロン応答(正解または不正解テスト刺激応答)をデータ 解析の対象とした. 結果と考察 実験の結果,以下が明らかになった. (1) TEav 野から 268 個の「顔」に応答性のあるニューロンを記録し,58 個が,特定の「図形」と「顔」 のアイデンティティの連合対に対して選択的な手がかり刺激応答を示した(連合対選択的ニュ ーロン).これらの連合対選択的ニューロンの特定の「顔」のアイデンティティに対する手掛り刺 激応答は, 「顔」の向きに対する選択性を有していた.すなわち,TEav 野において,学習された 「顔」のアイデンティティと「図形」との連合対が表現されており,「顔」のアイデンティティ は view-variant に表現されていることが示唆された. (2) 「図形」Æ「顔」試行において,「顔」のアイデンティティに選択的な予測的遅延活動を有す るものが存在した(20 個).したがって,「顔」のアイデンティティの記憶の検索においては view-invariant な情報が使用される可能性が示唆された. 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 永福 智志 発表論文 英文 (1) 原著論文 Kawagoe, T., Tamura, R., Uwano, T., Asahi, T., Nishijo, H., Eifuku, S. & Ono, T. Neural correlates of stimulus-reward association in the rat mediodorsal thalamus. NeuroReport 18, 683-688 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 永福智志 訳: 第 11 章 情動.「第2版 カールソン神経科学テキスト」Carlson N.R.著, 泰羅雅登 中 村克樹 監訳, 丸善 東京 367-400 (2007). 第2領域 (公募班員) 研究課題名 空間および周波数領域逆相関法による高次視覚機能の研究 研究代表者名 大澤 五住 所属・職名 大阪大学大学院生命機能研究科脳神経工学講座・教授 E-mail ohzawa@fbs.osaka-u.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 視覚系の大脳神経細胞の刺激選択性について、高次刺激特徴を明示的に表現できる新たな受容野 を可視化し、それにより視覚情報処理の段階的変遷と機構を中心に研究している。特に、当研究 室が開発した局所スペクトル逆相関法(LSRC)と方位・周波数領域における受容野計測を利用し、 さらに刺激に含まれる曲率を求めるより、新たな受容野特性を可視化することができた。 一つの研究では、ネコとサルの1次、2次視覚野の受容野内における、局所的方位選択性の非 一様性と曲率選択性を検討した。不均一な方位選択性は、高次視覚野細胞が持つ曲率選択性の基 礎となると考えられる。非動化したサルの V1,V2 単一細胞記録による、生理学研究所の伊藤南 氏との LSRC 法及び周波数領域逆相関法を使った共 同研究を継続中であり、これによりサルの V2 野に おいて2次元ノイズ刺激データから曲率選択性を 持つ図1に示すような細胞が見られた。これらの計 測法をさらに発展させ、さらに V4 等の高次視覚野 細胞に適用可能な計測法を現在開発している。 第二の研究では、1970 年に Blakemore & Cooper が示した有名な結果を受容野の精密計測により発 展させ、新たな視覚系の可塑性に関する知見を得 た。臨界期に方位を例えば垂直のみに限定して育て られた子猫の視覚皮質は、垂直な刺激にのみ反応す 図 1:サル V2 細胞の曲率選択性マップ る細胞ばかりになってしまうことが知られている。 Blakemore らを含め、過去の 研究では細胞の好む方位が経 験したものばかりになるとい う事以外、細胞の特性は検討 されなかったが、細胞には最 適方位以外にも細胞には多く の重要な特性がある。これら の特性の多くは受容野を詳細 に計れば知る事ができる。今 回の実験により、図2のよう に垂直方位限定環境に置かれ た子猫の初期視覚野細胞受容 野の形そのものが、縦に長く 伸びたものになることを発 見した。これは、最適方位が 垂直になる事とは別の効果で 図 2:垂直方位限定環境で臨界期を過ごしたネコ V1 細胞の受容野デ ータ例。受容野が経験した方位である垂直方向に伸張している。 あり、こうして育ったネコの 方位選択性が正常ネコのそれ よりもシャープになるという事も意味しており、方位限定環境下での生育により、異常ではあっ ても正常ネコの方位選択性を上回る細胞ができていることを意味している。 この他にも、一次および2次視覚野の複雑型細胞の受容野内部構造を高度に定量的に明らかに した論文(Sasaki & Ohzawa, J. Neurophysiol. 2007)を発表した。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 大澤 五住 発表論文 英文 (1)原著論文 Sasaki, K.S. & Ohzawa, I.: Internal spatial organization of receptive fields of complex cells in the early visual cortex. J. Neurophysiol. 98,1194-212 (2007). Ikeno, H., Nishioka, T., Hachida T., Kanzaki, R., Seki, Y., Ohzawa, I. & Usui., S.: Development and application of CMS-based database modules for neuroinformatics. Neurocomputing 70, 2122-2128 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 初期視覚系における刺激特徴選択性のダイナミックな調節機構 研究代表者名 佐藤 宏道 所属・職名 大阪大学 医学系研究科・ 教授 E-mail sato@vision.hss.osaka-u.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 イントロ: 大脳皮質一次視覚野ニューロン(V1)の視覚応答は受容野外に呈示した刺激のパラメータに依 存してダイナミックな抑制性修飾をうける。これは刺激文脈依存的反応修飾と呼ばれ、網膜から V1方向へのフィードフォワード投射、水平結合や層間結合などのV1内結合、高次領野からの トップダウン投射、V1から外側膝状体(LGN)へのフィードバック投射などV1の機能構築 を理解する上で重要な各種神経結合の関与が指摘されている。しかし我々のこれまでの研究は、 このV1における反応修飾は皮質下においてすでに形成されているという可能性を強く示唆し た。そこで我々は麻酔下のネコV1における刺激文脈依存的反応修飾について、フィードフォワ ードメカニズムに焦点を当てて解析を行った。特に1)グレーティング刺激を受容野内外に静止 フラッシュ呈示したときの外側膝状体と一次視覚野ニューロンの応答および修飾作用の時間経 過について比較検討を行った。これにより刺激文脈依存的反応修飾の特徴が時間と共にどのよう に変化するかを明らかにし、その脳内メカニズムを推測した。更に、2)LGNにおける刺激文 脈依存的反応修飾が刺激方位チューニングを示すことから、これまで視床−皮質情報変換による として説明されてきたV1の方位選択性形成におけるLGNの役割を再検討した。 結果:1)LGN においても、V1同様に刺激方位にチューニングした反応修飾が観察され、そ の潜時(25-30ms)が、V1ニューロンの興奮性応答の潜時(35-40ms)よりも短いことから、皮 質から LGN へのフィードバックではなく、網膜−LGN 間投射によると考えられた。 2)LGN ニューロンの受容野および受容野外修飾野はV1のそれよりも小さく、LGN−V1間の 収束的投射を含め、V1ニューロンがより広い範囲の情報を統合していることが示唆された。 3)V1において薬理学的に GABA 抑制を遮断する実験では、V1ニューロンの反応修飾にほ とんど影響が見られなかった。これは水平結合やトップダウン投射が皮質内抑制を介してこの修 飾効果をもたらすという仮説を否定するものである。 4)V1の反応修飾には受容野周囲1−2°の狭い範囲を起源とするものと、半径10°ほどの 広い範囲を起源とするものが観察された。前者は LGN における反応修飾によく似た性質を示し た。後者は皮質内における統合を示唆するものであるが、刺激サイズを拡大すると修飾効果の潜 時が短くなったことから、V1内の単なる興奮性応答の伝播では説明出来ない。 5)LGN において、受容野及び受容野周囲を、受容野の最適空間周波数よりも高い周波数のグ レーティングで刺激すると、90%以上のニューロンで有意な方位選択性が観察された。 考察:麻酔非動化したネコV1の刺激文脈依存的反応修飾はこれまで考えられてきた以上にフィ ードフォワードメカニズムに依存していることが示唆された。動物が環境内でアクティブに活動 し、そのために必要な視覚情報を処理する場合には、トップダウン、フィードバックメカニズム の関与が大きいと考えられる。しかし、初期視覚系のフィードフォワード投射が、方位選択性や 空間周波数選択性などの刺激特徴抽出性を、ダイナミックに調節していることも明らかになりつ つあり、視床−皮質間結合の機能については再認識が求められる。特に、LGN ニューロンにおい て方位選択性が明瞭に観察されることを確認したことはこれまでの教科書的な説明を覆すもの であり、きわめて重要な意義があると考える。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 佐藤 宏道 発表論文 英文 (1)原著論文 Naito, T., Sadakane, O. & Sato, H. Orientation tuning of surround suppression in lateral geniculate nucleus and primary visual cortex of cat. (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 Neuroscience 149, 962-975(2007). 第2領域 (公募班員) 研究課題名 高次脳における情報処理と相互干渉メカニズムの解明 研究代表者名 吉村 恵 所属・職名 九州大学大学院医学研究院・教授 研究分担者名 古江秀昌 分担者所属 九州大学大学院医学研究院・助教 E-mail yoshimum@physiol.med.kyushu-u.ac.jp 研究成果報告書 研究の背景・目的 痛み刺激と共に音などの条件刺激を加えると条件反射が成立する。また、痛み部位への触刺激 によって痛みが軽減することはよく知られている。しかしながらそれらの感覚情報間の干渉がい かなる中枢レベルで起こっているかは未だ不明である。 そこで感覚情報入力間の干渉メカニズムを明らかにするため、1)大脳皮質体性感覚野細胞か ら in vivo パッチクランプ記録を行い、痛み刺激応答に対する触刺激の影響を調べる、2)足底 への電気刺激と同時に音刺激を加え、条件反射が成立したモデルラットを用い、1)と同様、痛 み刺激応答に対する音刺激の影響を明らかにする。 方法 最初に痛み部位へ触刺激を加えた時、痛みの程度が低下する機序について調べた。麻酔下に頭 部皮膚を切開し、頭蓋に記録用のチェンバーを歯科用セメントで固定した。大脳皮質体性感覚野 に相当する頭蓋に約1x1mm のホールを開け、次いで硬膜を微細ハサミで切開した後、加温し た Krebs 液で持続的に灌流した。IV〜V 層に存在する pyramidal 細胞を対象にパッチクランプ電 極を刺入して、ギガオームシールを形成した後 whole cell mode で記録を行った。 結果 記録した殆ど全ての細胞で 0.5〜5Hz の bursting が観察された。最初に目的とした痛み刺激応 答と触刺激応答の干渉作用は、bursting の存在により解析が困難であったため、まず bursting の 発生機序の解析を行った。この bursting は固定膜電位を変化させてもその頻度が変化しないこ と、グルタミン酸受容体の拮抗薬である CNQX によって可逆的に抑制されることから、記録細 胞外からのシナプス入力によって惹起されていると考えられた。また、大脳皮質への主な入力源 である視床に GABAA 受容体作動薬である muscimol を投与すると bursting が消失することから、 視床内で GABA ニューロンが GABAA 受容体を介して大脳皮質への興奮性出力を同期化させて いることが示唆された。一方、膜電位を 0 mV で記録を行うと抑制性の bursting が観察された。 GABAA 受容体阻害薬の bicuculline を灌流投与すると抑制されることから、同期した GABA 入力 によるものと考えられた。次いで興奮性と抑制性入力との関連を調べるため EEG の同時記録を 行い、EEG 波形からの潜時を検討した。EPSC の bursting は EEG の立ち上がりとほぼ一致して いることから、EEG の発生には EPSC の bursting が重要な役割を果たしているものと考えられた。 一方、IPSC の bursting は EEG の立ち上がりから約 100ms の潜時があり、この遅れはシナプス遅 延のみでは説明は困難である。おそらく視床または大脳皮質細胞における緩徐なシナプス応答の 関与があるものと推測された。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 吉村 恵 発表論文 英文 (1)原著論文 Doi, A., Mizuno, M., Katafuchi, T., Furue, H., Koga, K. & Yoshimura, M. Slow oscillation of membrane currents mediated by glutamatergic inputs of rat somatosensory cortical neurons: in vivo patch-clamp analysis. Europ. J. Neurosci. 26, 2565-2575 (2007). Tsuda, M., Ishii, S., Masuda, T., Hasegawa, S., Nakamura, K., Nagata, K., Yamashita, T., Furue, H., Tozaki-Saitoh, H., Yoshimura, M., Koizumi, S., Shimizu, T. & Inoue, K. Reduced pain behaviors and extracellular signal-related protein kinase activation in primary sensory neurons by peripheral tissue injury in mice lacking platelet-activating factor receptor. J. Neurochem. 102, 1658-1668 (2007). Yasaka, T., Kato, G., Furue, H., Rashid, M.H., Sonohata, M., Tamae, A., Murata, Y., Masuko, S. & Yoshimura, M. Cell type specific excitatory and inhibitory circuits involving primary afferents in the substantia gelatinosa of the rat spinal dorsal horn in vitro. J. Physiol.(Lond.), 581, 603-618 (2007). Shimada, H., Uta, D., Nabekura, J. & Yoshimura, M. Involvement of Kv channel subtypes on GABA release in mechanically dissociated neurons from the rat substantia nigra. Brain Res. 1141, 74-83 (2007). (2)総説 (3)著書 Furue, H., Katafuchi, T. & Yoshimura, M. In vivo patch-clamp technique. In: Patch-Clamp Analysis: advanced techniques, Second Edition. Ed. by Walz W., Humana Press Inc., Totowa, 229-251 (2007). 和文 (1)原著論文 (2)総説 吉村恵:慢性疼痛と神経栄養因子ー炎症、神経障害における可塑的変化と BDNF.医学のあゆみ 223(9), 687-691 (2007). 吉村恵:感覚回路の再生と慢性疼痛.脊椎脊髄ジャーナル 20(8), 879-880 (2007). 塩川浩輝、土井篤、古賀浩平、高橋成輔、吉村恵:大脳皮質からの in vivo パッチクランプ法を用 いた麻酔薬作用機序解明の試み.麻酔 56, S99-107 (2007). 吉村恵、古江秀昌、高澤知規、河野達郎、竹島香:脊髄 GABA 受容体の機能とその修飾.麻酔 56, S141-S151 (2007). 伊藤彰敏、古江秀昌、吉村恵:カルシトニンの鎮痛作用機序に関する最近の知見.日本臨床 65(S9), 386-390 (2007). (3)著書 片渕俊彦、吉村恵:2.温熱環境 2.2.1 体温調節のしくみ.In: 人工環境デザインハンドブッ ク 人工環境デザインハンドブック編集委員会 丸善 25-28 (2007). 第2領域 (公募班員) 研究課題名 運動方向弁別における注意の解像度に関する研究 研究代表者名 宇賀 貴紀 所属・職名 順天堂大学生理学第一講座・准教授 E-mail uka@med.juntendo.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 ヒトは外界から得られた感覚情報をそのまま享受しているのではなく、有用な情報を選択して取 り入れている。このように感覚情報の一部を取り入れ、他を排除する機能を選択的注意と呼び、 その神経メカニズムの解明は神経科学における重要な課題である。本実験では注意の空間解像度 の神経メカニズムの解明を目指す。 我々は昨年、運動方向弁別課題を用いてヒトで crowding(小さい対象物(target)の検出を行な う際、その周辺に妨害刺激(distracter)があると、distracter によって target の検出能力が阻害さ れる現象)を測定した。その結果、distracter を増やしていくと、あるところまでは target 検出能 力が下がるが、さらに distracter を増やすと、逆に target 検出能力が上昇すること(anti-crowding) を報告した。我々はさらに、anti-crowding がニューロンの受容野が distracter 呈示によって縮小 することで説明できるという計算論的モデルも提唱した。 今年度以降は、crowding と anti-crowding の神経メカニズムに迫るべく、運動方向弁別課題を用 いた crowding 実験をサルに応用する。サルが crowding 課題を遂行中に、大脳皮質 MT 野から単 一神経細胞外記録を行い、MT 野ニューロンの運動方向弁別能力で crowding と anti-crowding を 説明できるかを検証し、さらに MT 野ニューロンの弁別閾値の distracter による変化が、ニュー ロンの興奮性・抑制性受容野のどのような構造によって生じるかを調べる。今年度は、受容野を 定量的にマッピングする手法を用い、受容野内にノイズを呈示したときに、どのように受容野の サイズが変化するかを検証した。サルが注視課題を行っている間、5x5 のグリッド上に1ヵ所ず つ小さい random-dot stereogram(RDS)を呈示し、反応を測定した。そして、形成された受容野マ ップをガウス関数でフィットし、ガウス関数の幅(σ)を計算することにより受容野の大きさを推 定した。40 個の MT 野ニューロンから単一神経細胞外記録をし、受容野マッピングを行った。 受容野の偏心度は平均 11.6 度であった。RDS のみを呈示した場合、受容野の大きさ(σ)は平均 6.1 度であった。しかし、グリッドの中心にノイズを呈示し、その量を増やしていくと、受容野の大 きさは徐々に縮小した。ノイズ呈示領域が 0.8・1.6・3.2・6.4σ の場合、受容野の大きさは RDS のみで測定した時の 79・58・60・49%の大きさであった。このことは、ノイズを呈示すると MT 野ニューロンの受容野が小さくなることを示しており、ヒトの anti-crowding の結果から提唱さ れた計算論的モデルと合致する。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 発表論文 発表論文無し 英文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 宇賀 貴紀 第2領域 (公募班員) 研究課題名 多様な非侵襲的手法を用いたヒトの痛覚認知機構の解明 研究代表者名 柿木 隆介 所属・職名 自然科学研究機構生理学研究所・教授 E-mail kakigi@nips.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 本年度は、印刷中のものも含めて4編の英文原著論文を発表した。主要なものとして、「心の痛 み」に関する論文を紹介したい。機能的 MRI (fMRI)を用いて、痛みを想像したときの脳活動を 計測したところ、それは本当に痛みを与えられたときとほぼ同一の場所であった。また、恐怖の 画像を呈示した時には扁桃体に活動が見られ、同じような不快な画像に対しても、心が痛い時と は異なる脳活動が見られた。本研究により、確かに「心は痛む」ことを、最新の脳科学機能画像 を用いて初めて科学的に証明することに成功した。 図の説明:心の痛みを感じたときの脳活動:帯状回前部と両側半球の島に特異的な活動が見られ、 それは実際に針などで痛みを与えたときとほぼ同様の部位であった。 他の3編について簡単にまとめる。従来は、上肢に痛覚刺激を与えた場合の第1脳反応の潜時は 170msec 程度と考えられていたが、特殊な解析方法を用いることにより、110-120msec 付近に小 さい反応が得られることを発見した。末梢神経と脊髄を比較的速い伝導速度で上行する信号によ るものと考えられる(Exp Brain Res, 2007)。動脈の圧受容器が痛覚認知に影響するか否かを痛覚関 連誘発脳波を用いて解析した。収縮期には脳波の振幅は拡張期よりも有意に低下している事がわ かり、動脈の圧受容器が痛覚認知に影響を及ぼすという仮説が立証された(英国バーミンガム大 学との共同研究)(Pain, in press)。日本大学脳外科との共同研究により、脳血管障害後に出現す る難治性疼痛(主として視床痛)に対して、運動皮質刺激療法を行う場合の最適刺激位置を、運 動野-脊髄誘発電位を用いて決める方法を確立した(Neurol Med Chir, 2007)。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 柿木 隆介 発表論文 英文 (1)原著論文 Edwards, L., Inui, K., Ring, C., Wang, X. & Kakigi, R. Pain-related evoked potentials are modulated across the cardiac cycle. Pain in press. Akatsuka, K., Noguchi, Y., Harada, T., Sadato, N. & Kakigi, R. Neural codes for somatosensory two-point discrimination in inferior parietal lobule: An fMRI study. NeuroImage in press. Tamura, Y., Matsuhashi, M., Lin, P., Bai, O., Vorbach, S., Kakigi, R. & Hallett, M. Impaired intracortical inhibition in the primary somatosensory cortex in focal hand dystonia. Mov. Disord. in press. Noguchi, Y. & Kakigi, R. Knowledge-based Correction of Flash-lag Illusion. J. Cogn. Neurosci. in press. Nakato, E., Otsuka, Y., Kanazawa, S., Yamaguchi, M., Watanabe, S. & Kakigi, R. When do infants differentiate profile face from frontal face? A near-infrared spectroscopic study. Hum. Brain Mapp. in press. Altmann, CF., Nakata, H., Noguchi, Y., Inui, K., Hoshiyama, M., Kaneoke, Y. & Kakigi, R. Temporal dynamics of adaptation to natural sounds in the human auditory cortex. Cereb. Cortex in press. Hashimoto, A., Inui, K., Watanabe, S. & Kakigi, R. Discrepancy between reaction time and visual evoked magnetic response latency under priming. Neurosci. Res. in press. Nakata, H., Sakamoto, K., Ferretti, A., Perrucci, M.G., DelGratta, C., Kakigi,R. & Romani,GL. Somato-motor inhibitory processing in humans: an event-related functional MRI study. NeuroImage 39, 1858-1866 (2008). Ogino, Y., Nemoto, H., Inui, K., Saito, S., Kakigi, R. & Goto, F. Inner experience of pain: imagination of pain while viewing images showing painful events forms subjective pain representation in human brain. Cereb. Cortex 17, 1139-1146 (2007). Wang, X., Inui, K. & Kakigi, R. Early cortical activities evoked by noxious stimulation in humans. Exp. Brain Res. 180, 481-489 (2007). Noguchi, Y., Shimojo, S., Kakigi, R. & Hoshiyama, M. Spatial contexts can inhibit a mislocalization of visual stimuli during smooth pursuit. J. Vis. 7(13),1-15 (2007). 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Schmidt RF & Willis WD), Springer-Verlag, Heidelberg, Germany, pp.1090-1094 (2007). 和文 (1)原著論文 (2)総説 赤塚康介、柿木隆介: 二点識別に関連する脳機能の解明. 臨床脳波 49,12745-749 (2007). 柿木隆介: 痛みは脳でどのようにして認知されるか-神経イメージング手法による痛覚認知メカ ニズムの解析-. 医学のあゆみ 223, 717-722 (2007). 柿木隆介: クイックペインとスローペインの脳内メカニズム. 神経内科 67, 397-403 (2007). 荻野祐一、斉藤繁、後藤文夫、乾幸二、柿木隆介: 痛みの内的体験. 神経内科 67, 416-419 (2007). 荻野祐一、根本英徳、斉藤繁、後藤文夫、乾幸二、柿木隆介: 痛みの内的体験―心で痛みを感じ る仕組み. 臨床脳波 49, 424-427(2007). 仲渡江見、大塚由美子、山口真美、柿木隆介: 乳児の顔認識における脳内活動の発達. 日本顔学会 誌 7, 3-9(2007). 柿木隆介、渡邉昌子、三木研作、本多結城子、寳珠山稔、中村みほ、大塚由美子、仲渡江美、山 口真美:脳と脳磁図を用いた顔認知機構の解明. 神経心理学 23, 31-40(2007). (3)著書 望月秀紀、乾幸二、柿木隆介: 痛みと痒みの神経機構. Annual Review 神経 2008, 編集(柳澤信夫、 篠原幸人、岩田誠、清水輝夫、寺元明) 、中外医学社、東京、pp. 1-10 (2008). 柿木隆介: 第4章生体電気・磁気で体内の機能をみる. 第5節脳磁図(MEG)で何が分かるか、 非浸襲・可視化技術ハンドブック、-ナノ・バイオ・医療から情報システムまで(小川誠二・上 野照剛 監修)㈱エヌ・ティー・エス発行 ㈱双文社印刷 pp.438-453 (2007). 柿木隆介:2006 世界脳週間の講演より 脳は不思議がいっぱい.(編集:NPO 法人 進会議)株式会社クバプロ pp.39-97 (2007). 脳の世紀推 第2領域 (公募班員) 研究課題名 視覚認知・記憶に関連するサル下側頭葉の分子的基盤の研究 研究代表者名 一戸 紀孝 所属・職名 理化学研究所・BSI・脳皮質機能構造研究チーム・副チームリーダー E-mail nichinohe@brain.riken.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 サルの下側頭皮質は物体認知に関わる腹側視覚経路の最終段階に位置すると考えられている。下 側頭皮質には、二つの細胞構築学的に異なる領域かが区別され 、ひとつは外側にあるTE野で、 もう一つは内側にある周嗅皮質(PRh)である。TE野とPRhは、互いに密な連絡を持つがそれぞれ 異なった機能への関与が考えられている。すなわち、TE野がより外界の即時情報の解析、PRh がより再認記憶、意味記憶、連合記憶などの記憶への機能が想定されている。大脳皮質の各領野 の機能の違いは、線維連絡の違い、その局所回路の違い等によると考えられるが、それぞれの領 野における分子構成の違いよる寄与も大きいと考えられる。我々は、上記の二つの機能に関与す ると考えられているサル下側頭皮質の2領域さらに階層的に低いと考えられる初期視覚野V4の 遺伝子発現の違いをGeneChipを用いて網羅的に調べた。その結果、PRhにおいて強く発現してい る遺伝子の中には、可塑性に関与していると考えられる遺伝子が多く見られることがわかった。 この中には、成長因子とその受容体、棘突起の運動に関連すると考えられるactinやtubulin関連遺 伝子、その関連シグナル伝達系が含まれる。また、近年、同様にgenechipを用いた方法でマウス 視覚野のcritical periodに関連すると考えられている遺伝子との共通性も強いことが分かり、これ らの遺伝子はPRhにおいて想定されている高い連合能力に関与しているかもしれない。また、ア ルツハイマー病の神経細胞死に関与する遺伝子・ Parkinson病に関与する遺伝子が多数PRhにお いて高く発現しており、このことは、アルツハイマー病・Parkinson病の病変がPRh周囲から始ま ることを考えると興味深いと思われる。 また、本研究と平行して行っていた遺伝子導入がより 容易なラットでの、辺縁系に属し2層の細胞が特徴的な樹状突起の束を作る後部帯状回、PRh、 TE、バレル皮質のジーンチップの結果より、後部帯状回に2層の細胞がつくる樹状突起の束の形 成期に特異的に高いNT-3をelectroporation法を用いてバレル皮質に導入したところ、バレル皮質 の2層の細胞に樹状突起の束を作らせることが出来ることを確認した。この結果は、領野特異的 な遺伝子を別な領野に強制発現させることにより、領野のフェノタイプを変えられることを示し ている。今後の方針として、サルのPRh特異的遺伝子の脳の他の領野への導入により形態的・行 動的変化を引き起こしえるかなどの問いについて考えていきたい。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 一戸 紀孝 発表論文 英文 (1)原著論文 Ichinohe, N., Hyde, J., Matsushita, A., Ohta, K. & Rockland, K.S. Confocal mapping of cortical inputs onto identified pyramidal neurons. Front. Biosci. in press. Ichinohe, N., Knight, A., Ogawa, M., Ohshima, T., Mikoshiba, K., Yoshihara, Y., Terashima, T. & Rockland, K.S. Unusual Patch-matrix Organization in the Retrosplenial Cortex of the Reeler Mouse and Shaking Rat Kawasaki. Cereb. Cortex in press. Miyashita, T., Ichinohe, N. & Rockland, K.S. Differential modes of termination of amygdalothalamic and amygdalocortical projections in the monkey. J. Comp. Neurol. 502, 309-324 (2007). Watakabe, A., Ichinohe, N., Ohsawa, S., Hashikawa, T., Komatsu, Y., Rockland, K.S. & Yamamori, T. Comparative analysis of layer-specific genes in Mammalian neocortex. Cereb. Cortex 17, 1918-1933 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 高磁場 fMRI による MT 分野のコラム構造に関する研究 研究代表者名 程 康 所属・職名 理化学研究所脳科学総合研究センター・ユニットリーダー E-mail kcheng@riken.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 The middle temporal area (area MT) in monkeys is one of the well-studied extrastriate cortical areas. Monkey area MT is best known for its neurons’ selectivity for the direction of visual motion (Maunsell et al., 1983), and a columnar organization, in which neurons preferring similar motion directions are clustered locally and preferred motion directions change systematically over the cortical surface, exists in monkey area MT (Albright et al., 1984). Area MT is also identified in humans using positron emission tomography (PET) (Watson et al., 1993) and functional magnetic resonance imaging (fMRI) (Tootell et al., 1995a). However, unlike in monkeys, directional selectivity in human area MT is only indirectly inferred using fMRI (Tootell et al., 1995b), and no attempt has been made so far to reveal the columnar organization in human area MT using this technique. The primary difficulty hampering these efforts is due to the insufficient signal-to-noise ratio (SNR) of the conventional fMRI at the spatial resolution required for revealing the directional selectivity and columnar organization in extrastriate cortices, including area MT. In our previous study, we have demonstrated that functional architectures such as ocular dominance columns (ODCs) and temporal frequency dependent domains in human primary visual cortex (V1) can be mapped using high-field fMRI (Cheng et al., 2001; Sun et al., 2001). Since then, we have made some important technical breakthroughs. First, we have developed a robust data-driven method for analyzing event-related fMRI data (Gardner et al., 2005). This method has been used to map directional-selective columns in human MT. Second, we have also devised a novel stimulation paradigm for revealing modulations of fMRI signal following continuous stimulation along a given stimulus dimension. This paradigm has been successfully used to demonstrate the tuning of individual V1 voxels’ responses to stimulus orientation (Sun et al., abstract presented in 2005 SfN in Washington, D.C.). Recently, we have used this continuous stimulation paradigm to map columns in human MT. Preliminary results indicate that this novel method is more superior than other methods in revealing functional architectures in extrastriate cortical areas, including human MT. 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 程 康 発表論文 英文 (1)原著論文 Corradi-Dell’Acqua, C., Ueno, K., Ogawa, A., Cheng, K., Rumiati, R.I. & Iriki, A. Effects of shifting perspective of the self: An fMRI study. Neuroimage in press. Sun, P., Ueno, K., Waggoner, R.A., Gardner, J.L., Tanaka, K. & Cheng, K. A temporal frequency-dependent functional architecture in human V1 revealed by high-resolution fMRI. Nat. Neurosci. 10, 1404-1406 (2007). (2)総説 Cheng, K. Visualizing columnar architectures using high-field fMRI. Prog. Nat. Sci. in press. (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 重力空間情報処理機構の解明 研究代表者名 山本 慎也 所属・職名 (独)産業技術総合研究所 研究員 E-mail yamamoto-s@aist.go.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 脳が外界を再構成する際に、その空間構造を適切に把握することは生存において非常に重要な役 割である。これまでの神経科学の研究の中でもさまざまな観点から、空間の再構成のメカニズム の解明は行われてきており、特にヒトを用いた「左右」の空間表現に関する研究は数多くなされ てきた。一方、 「左右」方向はあくまで相対的なものであり、 「上下」および「前後」との関係で 決まってくるものであるため、脳の空間認知機構を考える上で、上下の知覚を考えることは必要 不可欠なはずである。このような背景の中で、我々は上下方向の空間表現が、どのように我々の 知覚に影響を与えているのかの解明を試みることが目標である。 これまでの研究によって、視知覚が鉛直方向の影響を受けるという証拠が多数上がってきた。 古典的には、壁に描かれた合同な正方形と菱形を、体を 45 度傾けた場合に、何に見えるかと判 断させた場合に、空間内の上下(鉛直方向)の影響が大きいことが示されている(Rock, 1953)。 我々の行った逆さ絵(上下をひっくり返すことによって違う意味を持つタイプの多義図形)を用 いた研究では、鉛直方向に引きずられ、鉛直上向きが上であるように多義図形の見え方が変わる ことが示された(Yamamoto et al., 2006)。また、Harris らのグループは、光の陰影による凹凸の見 え方が、鉛直方向に引きずられること、更には、空間とは無関係に思える文字の判断(例えば、p と d で「ピー」と「ディー」のどちらに見えるかを判断)においても、鉛直方向の影響を受ける ことを示した。このように、我々の視知覚は常に鉛直方向の影響を受けていることが示されてき た。 一方、バイオロジカルモーション刺激と呼ばれるヒトの関節のみを点で表した動画の知覚は、 ディスプレイ上に横向きに提示するとその検出能力が下がることが知られている(Pavlova et al., 2000)。しかし正立被験者に対してディスプレイ上にバイオロジカルモーションを横向き提示し た場合、網膜に対して横向きであることがその検出能力を低下させているのか、空間内に対して 横向きであることが検出能力を低下させているのかは定かではない。近年、バイオロジカルモー ションの検出力が空間内の向き(すなわち鉛直方向)の影響を受けない可能性が示唆されたが (Trojo, 2003)、その真偽は決着が着いたとはいえない状態である。本研究では、鉛直方向の影響 を極めて受けているタイプの刺激であるバイオロジカルモーション刺激の検出が、鉛直方向の影 響を受けているのかどうかを解明することを目標とした。 被験者は正立、側臥位(右上、左上)の 3 種類の姿勢をとり、ヘッドマウントディスプレイ上 に提示されるバイオロジカルモーション刺激の検出課題を行った。バイオロジカルモーション刺 激として、右図のように網膜に対して、および空間に対して 0°、±90°となるような 7 種類の 刺激を用いた。空間に対する角度が一定の条件での 網膜像の変化による検出力の違い(右図の各列)、 および、網膜像が一定の条件での空間に対する角度 の変化による検出力の違い(右図の各行)を調べる ことによって、バイオロジカルモーションにおける 上向きが網膜上方向なのか鉛直方向なのかが解明 できる。結果は、バイオロジカルモーション刺激の 検出力は、空間内での刺激の回転よりもむしろ、網 膜像上での刺激の回転に影響を受けるというもの だった。すなわち、より鉛直方向の影響を受けるタ イプの刺激であるはずのバイオロジカルモーショ ンの知覚がむしろ鉛直方向の影響を受けないとい うこと示しており、バイオロジカルモーションの知 覚の特殊性を示唆する結果となった。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 発表論文 発表論文無し 英文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 山本 慎也 第2領域 (公募班員) 研究課題名 眼球運動関連領野による空間的注意の制御機構 研究代表者名 田中 真樹 所属・職名 北海道大学大学院医学研究科・准教授 E-mail masaki@med.hokudai.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 われわれは視野内の複数の場所にむかって次々に、あるい は移動する物体に伴って連続的に、随意的に注意をむける ことができる。こうした空間的注意のトップダウン制御に は、前頭および頭頂葉の眼球運動関連領野が密接に関与す ると考えられている。本研究では独自に考案した注意の移 動を要する行動課題(Covert tracking課題、図1)をサルに 訓練し、その神経機構を単一ニューロンのレベルで調べ た。この課題では視野内を動き回る複数の視覚刺激のうち 1つを選択し、眼を動かさないでそれを内的に追跡する必 要がある。前頭眼 野およびその数ミ リメートル前方の 外側前頭前野領域 からデータを収集 し、解析をおこなった。 前頭眼野ニューロンの多くは、受容野内にtargetが入った ときにdistractorが入ったときと比較して視覚応答が増強 した(図2A)。とこ ろがさらに前方の前 頭前野からはこれら とは異なった興味深 い神経活動が記録さ れた。一部のニューロ ンでは受容野内に distractorが提示されたときに活動が上昇した。また、別のニュ ーロンではtargetが受容野内にあるだけではなく、同時に distractorが受容野外の特定の場所にあると発火し、"conditional modulation"の様相を示した(図3)。これらのニューロンが混在していることから、こうした神 経活動を統一的に説明できる神経機構が存在することが示唆された。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 田中 真樹 発表論文 英文 (1)原著論文 Tanaka, M. Spatiotemporal properties of eye position signals in the primate central thalamus. Cereb. Cortex 17, 1504-1515 (2007). Tanaka, M. Cognitive signals in the primate motor thalamus predict saccade timing. J. Neurosci. 27, 12109-12118 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 視覚空間マップにもとづく眼と手の協調運動における運動前野の役割 研究代表者名 蔵田 潔 所属・職名 弘前大学大学院医学研究科統合機能生理学講座・教授 E-mail kkurata-ns@umin.net 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 ヒトやサルは視覚目標への到達運動を行うとき、通常、手と眼の協調運動により、この運動を達 成している。このとき、視覚的に認知される目標点の空間的位置に関するマップは手と眼の運動 生成に共通して用いられており、このような感覚運動変換機構には運動前野が重要な役割を担っ ていると考えられる。本研究では手の視覚空間と運動空間を乖離した条件下で到達運動を要求す る課題をサルに課し、その運動前野のニューロン活動を記録・解析するとともに、著明なニュー ロン活動が記録された領域に皮質内微小刺激とムシモル注入による一時的機能不全を起こした 場合を検討することにより、運動前野腹側部が視覚空間から運動空間への変換と運動指令生成に どのように関与するか、この領域が眼球運動と手運動の双方の制御系として機能しているかの二 点を明らかにしようとした。 ディジタルタブレット上のマウスをサルに操作させることによって手の位置をリアルタイムで モニターした。手の位置はサルの前に設置されたディスプレイ上のカーソルで表示するが、手の 位置とモニター上のカーソルとのオフセットや倍率などの対応関係を変更することにより、手の 視覚座標系と運動座標系を乖離させ、同一の視覚座標上の目標点に対して手の異なる運動座標を 指定することを可能にした。また、赤外線眼位計測装置で眼球運動をモニターした。到達運動課 題各試行の開始にあたって、ディスプレイ上にスタート位置を呈示した。右手を動かしてスター ト位置に到達後、その位置を数秒保ち続けていると、ディスプレイ上に、スタート位置に対し視 覚座標上同一距離にある上下左右4つの到達目標点のうちひとつをランダムに選び呈示した。呈 示後、限られた時間内に運動を開始し、目標点へ速くかつ正確に到達することを要求した。この 課題遂行中に運動前野腹側部から単一ニューロン活動記録を行い、①視覚座標系から運動座標系 への変換が生じうる反応時間(RT)と、②運動時間(MT)中に視覚のフィードバックを与えた 場合、与えない場合、およびカーソルを動かさなかった場合における手運動と眼球運動に関連す るニューロン活動を解析した。さらに、著明な運動関連活動が記録された領域に皮質内微小電気 刺激およびムシモル微小注入を行い、運動のパラメーター、特に行われた運動開始の方向と利得 に変化があるかを詳細に検討した。皮質内微小電気刺激は運動の到達目標が提示されてから運動 開始までの反応時間中に 50μA を上限とする刺激間隔 3 ミリ秒の 26 連続刺激を与えた。ムシモ ルは 50 ng/μl の濃度の溶液をμl 皮質内に注入した。 その結果、刺激あるいはムシモル注入後、手運動のパラメーターのうち、①RT の延長、②運動 方向の変化、そして③到達目標に至るまでの MT における最大速度の減少と最大速度に達するま での時間の延長などが認められた。この変化はムシモル注入後により著明であった。一方、眼球 運動に関連する活動は手運動関連活動の多く存在している部位にはほとんど存在していないこ と、また皮質内微小刺激とムシモルの微小注入時に眼球運動に変化がなかった。これらの結果は、 運動前野腹側部が、運動開始前の座標変換系として特に手の運動指令生成に機能していること、 また、運動遂行中の手運動のパラメーター制御に主要な役割を果たしていることを明らかにした と考えられる。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 蔵田 潔 発表論文 英文 (1)原著論文 Kurata, K. Laterality of Movement-Related Activity Reflects Transformation of Coordinates in The Ventral Premotor Cortex and The Primary Motor Cortex of Monkeys. J. Neurophysiol. 98, 2008-2021 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 ゴール指向的なオブジェクト操作の神経機構 研究代表者名 虫明 元 所属・職名 東北大学大学院医学系研究科・教授 E-mail hmushiak@mail.tains.tohoku.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 前頭前野が、与えられたゴールを達成するために行う行動順序の企画にどのように関わるかを明 らかにする目的で、我々は、サルが、ゴールに到達するのにマルチステップのカーソルの動きが 必要になる課題で、前頭前野から細胞活動を記録した。試行は、動物が左右の手のマニピュラン ダムを中立位にすると開始する。すると前方のスクリーンの格子状の迷路の中央にカーソルが呈 示される。その後、1秒後にゴールが呈示され,さらに一秒後に消される。さらに一秒たつと、 障害物が中央周辺にランダムに呈示される。さらに1秒後に中央のカーソルの色が緑から黄色に なり、これがゴー信号となって、サルはカーソルを左右のマニピュランダムを操作してステップ ごとにカーソルを移動させる。手の運動と、カーソルの移動方向を解離させる目的で、我々はサ ルを、三つの異なる手-カーソル対応関係で課題を行えるように訓練した。 今年度は、ゴール情報を最終ゴールから最初のゴール情報に遅延期間中に変化する細胞に関し て、その細胞活動と細胞の同期性を解析した。準備期に、最終ゴールから即時ゴールに情報表現 を変換させる細胞群では、その変換時期にほぼ一致して一過性に同期性が高まる現象が認められ た。また最終ゴールを保持して持続的な活動を示す細胞群では、持続的な同期性が認められた。 最近の神経モデルの考え方から、細胞活動の持続的な活動による情報表現は一種のアトラクター として捉えられることが知られている。われわれはゴール情報表現の変化には神経回路のアトラ クターの状態遷移が伴い、一過性の同期性の上昇が其の遷移に関与することを提案した。さらに 前頭前野に関して、順序動作の階層性に着目して、より高次の情報表現としてカテゴリー表現の 生成に前頭前野が関わることを明らかにして、コンセプトに基づいたゴール指向的プランニング への前頭前野の働きを総説した。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 虫明 元 発表論文 英文 (1)原著論文 Sakamoto, K., Mushiake, H., Saito, N., Aihara, K., Yano, M. & Tanji, J. Discharge Synchrony during the Transition of Behavioral Goal Representations Encoded by Discharge Rates of Prefrontal Neurons. Cereb.Cortex in press. Nakajima, T., Mushiake, H., Inui,T. & Tanji, J. Decoding higher-order motor information from primate non-primary motor cortices. Technol. Health Care 15,103-110 (2007). Shima, K., Isoda, M., Mushiake, H. & Tanji, J. Categorization of behavioral sequences in the prefrontal cortex. Nature 445,315-8 (2007). (2)総説 Tanji, J., Shima, K. & Mushiake, H. Concept based behavioural planning and lateral prefrontal cortex. Trends Cogn. Sci. 12,528-34(2007). (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 虫明元、斉藤尚弘、坂本寛一、奥山澄人、乾敏郎、丹治順: 目的志向性行動計画の神経機構. 「脳21」10(4)(2007). (3)著書 久保田競、虫明元、宮井一郎:学習と脳 ―器用さを獲得する脳―. サイエンス社 (2007). 第2領域 (公募班員) 研究課題名 前頭眼野滑動性眼球運動領野の入出力経路の同定 研究代表者名 杉内 友理子 所属・職名 東京医科歯科大学医歯学総合研究科システム神経生理学・講師 E-mail ysugiuchi.phy1@tmd.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 従来,前頭眼野(frontal eye field, FEF)は,サッケードに関与することが知られてきたが,最近 サッケードに関連する細胞だけでなく smooth pursuit に関連する細胞があり,そのような単一ニ ューロンは,網膜像の速度と視線の速度の両方の信号を持つことが示された(Fukushima ら, 1998)。このことは,この領域に頭部の運動の速度信号すなわち前庭入力が供給されていること を示唆しており,FEF が従来考えられていたような,単なる急速眼球運動だけの中枢ではないこ とが明らかになりつつある。一方,大脳における前庭入力が投射する部位に関する研究では,2v 野,3aV 野,MT 野,MST 野,PIVC(parietoinsular vestibular cortex) など複数の部位が報告されて いる。しかしながら,FEF 近傍への前庭入力様式の詳細についてはこれまで知られていなかった。 上記の部位は,「大脳前庭野」と呼ばれるが,近年この前庭野という言葉が,前庭入力のある部 位という意味と,前庭神経核に投射する部位という 2 つの意味に使われ,混乱を起こしている。 そこで我々は,サルの FEF への前庭入力を電気生理学的に同定し,その性質を解析した。ク ロラロ−ス麻酔下のサルにおいて前庭神経を電気刺激し,FEF 近傍で表面の電場電位および層別 電場電位の解析を行った。その結果,FEF の近傍に前庭性誘発電位が認められることが明らかと なった。そしてこの前庭入力が投射している領域には,smooth pursuit に際して活動する細胞が 存在することを明らかにした。これまでに大脳への前庭入力の投射が電気生理学的に明らかにさ れたが,神経解剖的には,前庭入力を中継する視床核に関しては,明白な結論が出されていない。 そこで,前庭入力を FEF 近傍の smooth pursuit 関連領域に伝える視床中継核およびこの領域に投 射する皮質領域を明らかにするために,この smooth pursuit 関連領域に神経標識物質(dextran biotin) を注入し,逆行性に標識される細胞の分布を解析した。視床内では,おもに VLc (nucl. ventralis lateralis, pars lateralis), VLo (nucl. ventralis lateralis, pars oralis), X, CL (nucl,centralis lateralis),MD (nucl. medialis dorsalis),に逆行性に標識された細胞が分布していた,大脳皮質領域 では広範に逆行性細胞が分布しており,FEF 近傍の smooth pursuit 関連領域は,従来「前庭皮質」 とされてきた複数の領域から投射を受けていることが明らかとなった。 次に前庭神経核を生理学的に同定して,神経標識物質を注入し,視床への投射部位を解析した。 前庭神経核から視床への投射に関しては,これまでいくつかの報告があるが,非常に弱い投射し か証明されておらず,しかも一定した結果が得られていなかった。本研究ではニホンザルにおい て,かなり強力な前庭神経核-視床投射を認めることができた。投射は両側性であったが全体と しては同側が優位であった。投射部位は,VLo, VPLo に多く,CL, MD にも認められた。この CL, MD への投射は,やや対側優位であった。先に明らかとなった,FEF 近傍の smooth pursusit 関連 領域に投射する視床皮質細胞の分布と比較すると,この領域への前庭入力を中継する核は,MD, CL であると考えられた。これは FEF 近傍において,前庭誘発電位がやや対側優位に記録される ことと一致していると考えられた。今回明らかになった前庭神経核から VLo, VPLo への強力な 投射は,おそらく頭頂葉の前庭皮質への入力を中継するものと考えられた。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 杉内 友理子 発表論文 英文 (1)原著論文 Izawa, Y., Sugiuchi, Y. & Shinoda, Y. Neural organization of the pathways from the superior colliculus to trochlear motoneurons. J. Neurophysiol. 973, 696-3712 (2007). Izawa, Y., Sugiuchi, Y. & Shinoda, Y. Neural pathways for vertical saccades: from the superior colliculus to trochlear motoneurons. Neuro-Ophthalmol. 31, 141-146 (2007). Sugiuchi, Y., Izawa, Y., Takahashi, M., Na, J. & Shinoda, Y. Controversy on "Fixation zone" of the Superior Colliculus. Neuro-Ophthalmol. 31, 147-155 (2007). Takahashi, M., Sugiuchi, Y. & Shinoda, Y. Commissural mirror-symmetric excitation and reciprocal inhibition between the two superior colliculi and their roles in vertical and horizontal eye movements. Neurophysiol. 98, 2664-2682 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 J. 第2領域 (公募班員) 研究課題名 線条体パッチ・マトリックス構造と入出力の形態学的解析 研究代表者名 藤山 文乃 所属・職名 京都大学大学院 医学部医学研究科 高次脳形態学教室・准教授 E-mail fujiyama@mbs.med.kyoto-u.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 大脳基底核には直接路・間接路という概念と線条体のパッチ・マトリックスという二つの概念が 混在しており、その二つを統合したスキームは未だ存在していない。しかしながら直接路・間接 路という概念はパーキンソン病やハンチントン病の病態を理解する基本となるものであり、パッ チ・マトリックスという概念は強化学習や報酬系の理論の中で State Value, Action Value という役 割を担っていると考えられている。しかしながらこれら各々のネットワークおよびこの両者を統 合したネットワーク、特に A.線条体パッチ・マトリックス領域からの出力 B.視床から線条体パッチ・マトリックス領域への入力 C.大脳基底核間接路中継核の投射様式 の3点に関しては充分な解剖学的な解析がなされていない。 この理由として、従来のトレーサー実験では、単にそのトレーサーを by chance で取り込んだ 神経集団の動態を追えるにすぎず、目的とする神経核全体を、あるいは逆にただ一つのニューロ ンがどこに出力しどれだけの入力を受けるのかを知ることはできなかったことが挙げられる。 我々はこの問題を克服するため、 ①遺伝子組み換えウイルストレーサー ②Preproenkephalin 遺伝子制御下に GFP を発現するマウス ③シナプス小胞性グルタミン酸トランスポーター(VGluT1, VGluT2) という新しいツールを用いて、解析を進めており、この過程で以下のことがわかってきた。 1. 間接路ニューロンに特異的に発現するエンケファリンはマトリックス領域に比べパッチ領 域で弱く、直接路・間接路という概念とパッチ・マトリックスという概念はお互いに何らかの関 係性を持って存在している。 2. 直接路ニューロンの中には間接路形成ニューロンよりも豊富に淡蒼球外節に枝を出すニュ ーロンが存在しており、直接路と間接路はカウンターとして働くのみならず、共同して運動の空 間的・時間的 S/N 比を上げていると考えられる。 3. パッチ領域の直接路ニューロンは、には、黒質緻密部のみならず、マトリックスの直接路 と同様に淡蒼球内節/黒質網様部にも投射する。また、今回初めて淡蒼球外節に終止するパッチ の間接路形成ニューロンを同定した。 4. このパッチの間接路形成ニューロンはマトリックスの間接路形成ニューロンがエンケファ リン強陽性であるのに対し、弱陽性であり、生化学的特性が違っていることがわかった。 5. 視床線条体投射のうち、髄板内核群からのものはマトリックス領域を好んで投射するもの が多く、正中線核群からのものにはパッチ領域を好んで投射するものが多く、大脳皮質のみなら ず視床にもパッチ・マトリックス固有のネットワークが存在することを示唆した。 6. 間接路中継核である淡蒼球外節には、線条体に Feedback をかけるニューロンが多く存在する。 7. 間接路中継核である視床下核には上行性と下行性の両方の枝を伸ばすニューロンが多く存在 する。 今後所見を積み重ねることにより大脳基底核ネットワークの見直しと再構築を行い、基底核神 経変性疾患の病態理解にも貢献したい。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 藤山 文乃 発表論文 英文 (1)原著論文 Matsumoto, M., Nakagaw, T., Kojima, K. Sakamoto, T., Fujiyama, F. & Ito, J. Potential of embryonic stem cell-derived neurons for synapse formation with auditory hair cells. J. Neurosci. Res. in press. May, CA., Nakamura, Ko., Fujiyama, F. & Yanagawa, Y. Quantification and characterization of GABA-ergic amacrine cells in the retina of GAD67-GFP knock-in mice. Acta Ophthalmol. Scand. in press. Nakamura, Ko., Watakabe, A,, Hioki, H., Fujiyama, F., Tanaka, Y., Yamamori, T. & Kaneko, T. Transiently increased colocalization of vesicular glutamate transporters 1 and 2 at single axon terminals during postnatal development of mouse neocortex: a quantitative analysis with correlation coefficient. Eur.J. Neurosci. 26, 3054-3067 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 皮質間および皮質下構造ネットワークと高次脳機能 研究代表者名 福山 秀直 所属・職名 京都大学大学院医学研究科附属高次脳機能総合研究センター1・教授 研究分担者名 長峯隆 1、池田昭夫 2、三國信啓 3、松本理器 2、澤本伸克 1 分担者所属 同臨床神経学 2、脳神経外科 3 E-mail fukuyama@bpp2.kuhp.kyoto-u.ac.jp 研究成果報告書 【背景】脳機能画像法を利用した大脳皮質機能マッピングは、Roy and Sherrington が提唱した neurovascular coupling が成立することを前提としている。すなわち、神経活動に伴って二次的に 血流が増加することを前提に、神経活動自体ではなく血流変化を測定している。しかし、この neurovascular coupling が常に正しい前提として保証されているとは言い難い。例えば、神経細胞 の興奮性活動では血流が増加すると考えられるが、抑制性活動の血流反応を予想することは容易 ではない。このような背景から我々は、拡散強調画像による機能的磁気共鳴画像法 (DfMRI) を 用いて、神経細胞の活動に直結する変化、具体的には神経活動に伴う細胞内の水の拡散運動の変 化を、生体内の複雑な環境のままで推定する方法を開発してきた。 【目的】現在まで我々は、DfMRI で測定した信号が血流変化に伴うものでないことを確認する ため、種々の検討を行ってきた。今回我々は、DfMRI と、神経細胞の電気活動を評価できる脳 磁図 (MEG) とを複合的に用いて、DfMRI 信号の生理的意義を明らかにするための基礎的研究 を行った。 【方法】健常被験者 2 名を対象として、チェッカーボード図形を反転させる視覚刺激を与えて DfMRI、Blood Oxygen Level Dependent (BOLD) による fMRI と、MEG の測定を行い、それらの 空間分布と経時変化との相違を比較した。MEG は 306 チャンネル全頭型脳磁計により記録し、 最小ノルム法により広がりを含めた活動部位を推定した。DfMRI と BOLD による fMRI は、全 身用3テスラ MRI 装置を用いて撮像した。DfMRI では b 値 1800 (mm2/s) を用いた。DfMRI、BOLD による fMRI ともに、SPM5 を用いて活動部位を同定した。 【結果】DfMRI、BOLD による fMRI、MEG、それぞれの手法で、視覚刺激に反応する脳部位が 同定できた。それらの空間分布と経時変化の相違を比較したところ、今回対象とした被験者では、 三者の関係に一定の傾向を見出すことはできず、DfMRI の方が BOLD による fMRI に比べて、 神経細胞の活動をより正確に反映することを示すことはできなかった。 【考察】今後さらに被験者数を増やすことで、DfMRI が細胞内の水の拡散運動の変化に伴う信 号変化を反映し、直接神経細胞の活動を捉えているという仮説が確認できることが期待される。 本研究により、ヒトを対象とした機能画像法の生理的意義が明らかになるとともに、電気生理学 的手法で評価している神経活動との関係がより明確になると考えられる。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 福山 秀直 発表論文 英文 (1)原著論文 Akamatsu, T., Fukuyama, H. & Kawamata, T. The effects of visual, auditory, and mixed cues on choice reaction in Parkinson's disease. J. Neurol. Sci. in press. Shimizu, M., Fujiwara, H., Hirao, K., Namiki, C., Fukuyama, H., Hayashi, T.& Murai, T. Structural abnormalities of the adhesio interthalamica and mediodorsal nuclei of the thalamus in schizophrenia. Schizophr. Res. in press. Oguri, T., Tachibana, N., Mitake, S., Kawanishi, T. & Fukuyama, H. Decrease in myocardial (123)I-MIBG radioactivity in REM sleep behavior disorder: Two patients with different clinical progression. Sleep Med. in press. Otsuka, Y., Waki, R., Yamauchi, H., Fukazawa, S., Kimura, K., Shimizu, K. & Fukuyama, H. Angiographic Demarcation of an Occlusive Lesion May Predict Recanalization after Intra-arterial Thrombolysis in Patients with Acute Middle Cerebral Artery Occlusion. J. Neuroimaging in press. Kikuta, K., Takagi, Y., Nozaki, K., Sawamoto, N., Fukuyama, H. & Hashimoto, N. 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Fujiwara, H., Namiki, C., Hirao, K., Miyata, J., Shimizu, M., Fukuyama, H., Sawamoto, N., Hayashi, T. & Murai, T. Anterior and posterior cingulum abnormalities and their association with psychopathology in schizophrenia: a diffusion tensor imaging study. Schizophr. Res. 95(1-3),215-22(2007). Fushimi, Y., Miki, Y., Okada, T., Yamamoto, A., Mori, N., Hanakawa, T., Urayama, S., Aso, T., Fukuyama, H., Kikuta, K. & Togashi, K. Fractional anisotropy and mean diffusivity: comparison between 3.0-T and 1.5-T diffusion tensor imaging with parallel imaging using histogram and region of interest analysis. NMR Biomed. 20(8), 743-8(2007). Fushimi, Y., Miki, Y., Urayama, S., Okada, T., Mori, N., Hanakawa, T., Fukuyama, H. & Togashi, K. Gray matter-white matter contrast on spin-echo T1-weighted images at 3 T and 1.5 T: a quantitative comparison study. Eur. Radiol. 17(11), 2921-5(2007). Hirose, N., Kihara, K., Mima, T., Ueki, Y., Fukuyama, H. & Osaka, N. 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Social cognition and frontal lobe pathology in schizophrenia: a voxel-based morphometric study. Neuroimage 35(1), 292-8(2007). Yamamoto, A., Miki, Y., Urayama, S., Fushimi, Y., Okada, T., Hanakawa, T., Fukuyama, H. & Togashi, K. Diffusion tensor fiber tractography of the optic radiation: analysis with 6-, 12-, 40-, and 81-directional motion-probing gradients, a preliminary study. AJNR Am.J.Neuroradiol. 28(1), 92-6(2007). (2)総説 Nishida, S., Nakamura, M., Ikeda, A., Nagamine, T. & Shibasaki, H.: In: Wu, J.L., Tobimatsu, S., Nishida, T., Fukuyama, H. (eds.), Time series of awake background EEG generalized by a model reflecting the EEG report. pp. 489-498, Springer, Japan (2007). Ikeda, A., Kawamata, J., Matsumoto, R., Takaya, S., Usui, K., Fukuyama, H. & Takahashi, R.: Variable clinical features in Japanese families with autosomal dominant lateral temporal lobe epilepsy(ADLTLE), Neurology Asia 12 (Supple 1), 65 (2007). (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 時間認識の神経メカニズムの実証的理論研究 研究代表者名 篠本 滋 所属・職名 京都大学理学研究科物理学専攻・准教授 E-mail shinomoto@scphys.kyoto-u.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 本年度は論文も実り豊かであり,今後のプロジェクトの準備も着々と進んでいる. (1)時間空間の脳内コーディングの研究 医学部の神経生理学研究室と共同で,時間認知およ び空間認知の神経機構の研究を開始している.これらの研究は医学部での実験研究を主軸に,理 論解析や理論モデルを用いた解釈を行うものである.これらは長年にわたる重点研究,特定研究 の研究交流の中から生まれた新しいスタイルのプロジェクトであり,今後の研究潮流を導くもの と期待している.視覚的空間認知において眼球運動の影響が脳内で補償される機構が明らかにな りつつある. (2)スパイク発生メカニズムの研究 神経スパイク発生メカニズムを定量的に把握するため, 細胞通電実験データから神経細胞のスパイク生成の「入出力関係」を定量的にモデル化し,デー タ予測を行う研究をおこなっている.スパイク時刻予測において推定を最適化するための理論枠 組みも完成した.スイス・ローザンヌのワークショップにおいては,神経スパイク時刻予測のコ ンペティションで優勝を果たした.このコンペティションの概要と,推測に用いた技法の紹介は スイスの開催グループとの共著論文として出版予定. (3)レート推定ツールの開発 スパイク時系列データから,その背景にある発生確率の変動を とらえるためには,ヒストグラム(PSTH)法やカーネル法が用いられる.ヒストグラムのビン幅 やカーネルの時間スケールは推定結果を大きく左右するが,それらのパラメータはこれまで主観 的に選ばれてきた.我々は真の分布からの誤差を最小化する客観的なパラメータ決定をスパイク データのみから自動最適化するアルゴリズムを開発した.このアルゴリズムは与えられたデータ でレート推定が出来るかどうかも判定し,データ不足の場合には実験をさらに何試行おこなえば よいかを見積もることが出来る.このほかにもいくつかのデータ解析ウェブアプリを下記にアッ プロードした:http://www.ton.scphys.kyoto-u.ac.jp/~shino/toolbox/english.htm (4)数理モデル研究 神経細胞の引き起こす振動・カオスや神経細胞集団の情報処理機能に関 して,これまで無数のトップダウン的な数理モデル研究がなされてきたが,1990 年代には基本 的なアイデアが出尽くした感があった.1990 年代後半からは実験計測技術の向上により,それ まで想像だけで作られた数理モデルを検証することが可能になりつつある.また実験事実から新 たに想起させられるモデリングも生まれつつある.我々はこの時代背景のもとに新しいモデリン グを試みつつある. 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 篠本 滋 発表論文 英文 (1)原著論文 Jolivet, R., Kobayashi, R., Rauch, A., Naud, R., Shinomoto, S. & Gerstner, W. A benchmark test for a quantitative assessment of simple neuron models. J. Neurosci. Methods in press. Inaba, N., Shinomoto, S. Yamane,S., Takemura, A. & Kawano,K. MST neurons code for visual motion in space independent of pursuit eye movements. J. Neurophysiol. 97, 3473-3483 (2007). Kobayashi,R. & Shinomoto,S. State space method for predicting the spike times of a neuron. Phys. Rev. E. Stat. Nonlin. Soft Matter Phys. 75, 011925 (1-8) (2007). Kobayashi,R. & Shinomoto,S. Predicting spike times from subthreshold dynamics of a neuron. Advances in NIPS. 19, 721-726 (2007). Shimazaki, H. & Shinomoto, S. A method for selecting the bin size of a time histogram. Neural Comput. 19,1503-1527 (2007). Shimazaki, H. & Shinomoto, S. A recipe for optimizing a time-histogram. Advances in NIPS. 19, 1289-1296 (2007). Koyama,S., Shimokawa,T. & Shinomoto,S. Phase transitions in the estimation of event-rate: a path integral analysis. J. Phys. A 40, F383-F390(2007). Shinomoto,S. & Koyama,S. A solution to the controversy between rate and temporal coding. Stat. Med. 26, 4032-4038(2007). Omi,T. & Shinomoto,S. Reverberating activity in a neural network with distributed signal transmission delays. Phys. Rev. E. Stat. Nonlin. Soft Matter Phys. 76, 051908 (1-7) (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 脳幹-中脳神経回路による報酬予測誤差生成機構の解析 研究代表者名 小林 康 所属・職名 大阪大学生命機能研究科・准教授 E-mail yasushi@fbs.osaka-u.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 中脳の黒質緻密部や腹側被蓋野のドーパミン細胞(DAcell)は報酬との連合で学習された手がか り刺激や報酬に対して一時的なバースト応答をすることによって大脳皮質、基底核などに報酬予 測誤差(報酬に対する予測と現実に得られた報酬の差)を送り、強化学習における大脳皮質、基 底核でのシナプス可塑性を制御していると考えられている。強化学習機構を解明する上で、 「報 酬予測誤差が DAcell でどのように計算されているのかということ」が生理学的、計算理論的に 最も重要な問題の一つであると考えられる。 DAcell はドーパミン放出によるシナプス可塑性の制御という形で強化学習に重要な役割を果た しており、さまざまな部位から興奮性、抑制性入力を受けているが、それぞれの入力信号の性質 が明らかにされていないために、いまだに報酬予測誤差の計算過程がわかっていない。さらに、 DAcell に対して興奮性入力がなければ DAcell はバースト応答をすることが困難であるため、特 に DAcell に対する興奮性入力の重要性が浮かび上がってくる。 脚橋被蓋核(PPTN)は脳幹のもっとも主要なアセチルコリン性細胞の核であり、古くから睡眠覚 醒の調節、運動制御、注意や学習と関係が深いと考えられてきた。また、DAcell に対して PPTN が最も強力な興奮性入力を供給していることから PPTN からの興奮性入力が、DAcell における 報酬予測誤差信号の生成に重要な役割を果たしていることが示唆される。 本研究ではサルに手がかり刺激で報酬量を予測させる視覚誘導性サッカードを行わせ、その時の PPTN のニューロン活動を記録し、報酬予測誤差に対する PPTN の寄与を調べた。 報酬予測サッカード課題中のサル PPTN ニュー FT neurons RD neurons ロンの活動を記録すると、PPTN の独立したニュ A B 50 50 ーロン群で N = 15 N = 30 1) 報酬予測の度合いによって大きさが変わ る、手がかり刺激呈示(図中 FT)から始まり, サッカード運動(図中 ST で標的呈示)あるい 0 0 は報酬時(図中 RD)まで続く持続的応答(図 A、 1000 ms 1000 ms 赤報酬大、緑報酬小) # C 2) 報酬予測の度合いに無関係で一時的な報酬 に対する直接の反応がみられる(図 B、赤報酬 D FT neurons 大、緑報酬小) という実験結果が得られた。さらに、これらの RD neurons 報酬関連活動が細胞毎、細胞アンサンブルレベ 4 RD neurons ルで報酬予測誤差を符号化するのに十分な報酬 FT neurons 情報をコードしていることを、報酬量について の各細胞の ROC 解析(図 C 上、赤有意なシグ ナル) 、アンサンブルでの相互情報量解析(図 C 0 下、青報酬予測活動、黒実報酬活動) 、予測逆転 1000 ms 実験、毎試行毎のニューロン活動と課題パラメ ーターとの多変量回帰解析によって確かめた。さらに、ニューロン活動と課題開始時の注視刺激 呈示から注視までの反応時間の相関解析によって、報酬予測活動が手がかり刺激提示後の報酬量 の予測(図 D 点線)のみならず「課題開始に対する動機付け」 (図 D 紫)に関係した信号をコー ドしている可能性が浮き彫りになった。このことは報酬予測と動機付けの情報変換過程を知る上 で重要な知見であると思われる。以上の結果より、PPTN のニューロン活動が「報酬の予測」あ るいは「実際に与えられた報酬」のどちらかの情報に関与することが明らかになった。以上 PPTN が符号化している報酬関連活動は計算理論で予言されてきた、報酬予測誤差の主要な要素であ る「興奮性の報酬信号」、 「興奮性の報酬予測のワーキングメモリー」に相当していると思われ、 本研究によって PPTN の報酬予測誤差信号生成への重要性が確かめられ、報酬予測誤差の計算 過程の最も重要な部分にメスを入れることができた。 FT FT ST ST RD Spikes / s Spikes / s RD FT ST Neuron RD 0.7 30 Information ( bit ) 40 FT 0.5 0.3 ST RD 0.3 Correlation 20 ROC value 10 0 1000 ms 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 小林 康 発表論文 英文 (1)原著論文 (2)総説 Kobayashi, Y. & Okada, KI. Reward Prediction Error Computation in the Pedunculopontine Tegmental Nucleus Neurons. Ann. N.Y. Acad. Sci. 1104, 301-323 (2007). (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 線条体による運動制御機構を解明する 研究代表者名 南部 篤 所属・職名 生理学研究所 生体システム研究部門・教授 E-mail nambu@nips.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 線条体で処理された神経情報は、大脳基底核の次の処理段階である淡蒼球外節・内節に送られる。 淡蒼球外節・内節は線条体ばかりでなく、視床下核からも入力を受けている。今回、線条体からの 入力と視床下核からの入力が、どのように淡蒼球外節・内節の神経活動に貢献しているのかについ て調べた。 ニホンザルの眼前に3個の LED があり、その内の一つが短時間点灯する。遅延期間の後、3個 全部の LED が別の色で点灯すると、それを合図に初めに点灯した LED に手を伸ばすと報酬がもら えるという、遅延期間付きの上肢到達運動課題を学習させた。その後、金属記録電極を淡蒼球内に 刺入し、単一ニューロン活動を記録した。記録電極には細いシリカチューブが貼り合わせてあり、 このチューブを通して NBQX と CPP(グルタミン酸受容体の拮抗薬)や gabazine(GABAA 受容体 の拮抗薬)などの薬剤を微量注入することにより、それぞれ視床下核からのグルタミン酸作動性入 力、線条体からの GABA 作動性入力をブロックすることが出来る。また、予め大脳皮質の一次運 動野や補足運動野の上肢領域に刺激電極を埋め込んでおいた。 淡蒼球外節や内節のニューロンは、一次運動野や補足運動野を電気刺激すると、早い興奮+抑制 +遅い興奮からなる3相性の応答を示す。到達運動を課すと、これらのニューロンは発射活動を変 化させるが、運動に際し発射頻度を増加させるニューロンの数が、減少するものよりも多かった。 次に、記録しているニューロンの近傍に NBQX+CPP を微量注入すると、皮質刺激によって誘発さ れる早い興奮と遅い興奮(これらは視床下核由来の反応であることが既にわかっている)が消失す ると共に、運動遂行時の発射頻度増加が減弱し、なかには反対に減少を示すものまであった。更に gabazine を注入すると、皮質刺激によって誘発される抑制(これは線条体由来であることがわかっ ている)も消失すると同時に、運動関連の神経活動も観察されなくなった。 これらのことから、淡蒼球外節・内節で見られる運動関連活動は、視床下核からのグルタミン酸 作動性の興奮性入力と、線条体からの GABA 作動性の抑制性入力の両者のせめぎ合いによって、 成り立っていると考えられる(下図参照)。また、このような神経活動が最終的には視床・大脳皮 質に至り、随意運動の遂行に役だっていると思われる。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 南部 篤 発表論文 英文 (1)原著論文 Tachibana, Y., Kita, H., Chiken, S., Takada, M. & Nambu, A. Motor cortical control of internal pallidal activity through glutamatergic and GABAergic inputs in awake monkeys. Eur. J. Neurosci. 27, 238-253 (2008). Kanamatsua, T., Otsuki, T., Tokuno, H., Nambu, A., Takada, M., Okamoto, K., Watanabe, H., Umeda, M. & Tsukada, Y. Changes in the rates of the tricarboxylic acid (TCA) cycle and glutamine synthesis in the monkey brain with hemiparkinsonism induced by intracarotid 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP): Studies by non-invasive infusion of 13 C-magnetic resonance spectroscopy. Brain Res. 1181, 142-148 (2007). Lu, X., Miyachi, S., Ito, Y., Nambu, A. &T akada, M. Topographic distribution of output neurons in cerebellar nuclei and cortex to somatotopic map of primary motor cortex. Eur. J. Neurosci. 25, 2374-2382 (2007). (2)総説 (3)著書 Nambu, A. Basal ganglia: physiological circuits. Encyclopedia of Neuroscience. (Ed Squire, LR.) Academic Press, Oxford, in press. Nambu, A. Globus Pallidus internal segment. GABA and the Basal Ganglia: From Molecules to Systems. (Eds Tepper JM, Abercrombie ED, Bolam JP, Elsevier, Amsterdam) Prog. Brain Res. 160,135-150 (2007). 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 南部篤:脳の損傷・病態モデルによる研究:パーキンソン病を中心に. ブレイン・マシン・イン ターフェース 脳と機械をつなぐ、オーム社 126-138(2007). 南部篤:大脳基底核の神経回路から大脳基底核疾患の病態を理解する. 神経変性疾患のサイエン ス、南山堂 156-169(2007). 第2領域 (公募班員) 研究課題名 大脳皮質による体性感覚のトップダウン的制御機構〜シナプス前抑制を用 いた動的修飾 〜 研究代表者名 関 和彦 所属・職名 自然科学研究機構・生理学研究所・認知行動発達機構研究部門・助教 E-mail kazuseki@nips.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 我々が行う運動は必然的に新たな末梢感覚を生み、それは一次求心神経を経由して中枢神経系 に伝達される。この運動に伴う一次求心神経の興奮は受動的プロセスであり、運動が行われてい る状況に関わらず、同一の運動はほぼ同一の求心神経活動を励起する。一方、運動を制御する中 枢神経系側から見ると、その求心神経からの入力の重要性は運動が行われる環境によって大きく 異なる。従って、中枢神経系はその変化に応じて求心神経入力の処理様式を動的に変化させる必 要があるが、その基盤となる神経回路の実態は現在まで明らかでない。そこで申請者は、一次求 心神経へのシナプス前抑制が、運動が行われる状況に依存した感覚入力の動的制御を行っているの ではないかと考えて実験を行ってきた。これまで、皮膚求心神経末端へのシナプス前抑制が覚醒動 物の行動制御機構に関わっている可能性が明らかになってきたので、本研究においては随意運動 における筋求心神経から脊髄への入力がシナプス前抑制によって修飾されているか、またそれら が大脳皮質のどのような領域からの下降性投射によって引き起こされているかについて検討す ることが目的であった。試行錯誤の上、手首伸筋群支配の筋神経である橈骨神経深枝に慢性埋め 込み型カフ電極の装着手術に成功した。そして、筋神経から興奮性2シナプス性反射の経路が同 定された。同種の反射経路は麻酔下の急性実験においてはほとんど観察されていないが、除脳無 麻酔動物においてその存在が明らかになりつつある。覚醒行動下においてこのようなニューロン が多く記録された事は、I 群求心神経からの感覚入力はこの新たなグループの介在ニューロンを 介して、筋張力の制御に積極的な役割を果たしている事が明らかになった。上記の同定方法は、 過去に行われてきた急性実験における脊髄ニューロン同定方法と comparable であり、入出力の 詳細が同定されてきた脊髄ニューロンの随意運動の制御における働きを研究する上で強力なツ ールになる。また、これらのニューロンへの単シナプス性入力は手首屈曲運動時においては低下 していたが(p< 0.05)、伸展運動では変化が認められなかった。これらのニューロンの活動性は両 方向への運動時に上昇していた事から、手首屈曲時における単シナプス性応答のサイズの低下は、 シナプス前抑制によると考えられる。このことから、I 群求心神経へのシナプス前抑制は、I 群 求心神経の活動によって引き起こされる反射運動が随意運動と拮抗する場合に大きくなる可能 性が示唆された。また、その抑制の開始が筋電図開始時間より早い事から、これらの抑制の一部 は下行路由来でることが示唆された。現在は、シナプス前抑制の直接的な証拠である excitability testing を用いて、この点をより詳細に検討する実験を継続している。筋神経の場合、求心性・遠 心性神経が混在しており、excitability testing に用いられる volley が順行性か逆行性かの区別を行 う必要がある。そのため現在は Stimulus-triggered EMG 反応の記録を併用することによってそれ らを区別するための基礎研究を行っている。一方、大脳皮質に慢性埋め込み型電極を刺入するこ とによって、シナプス前抑制の下降性制御機構を評価するための基礎的研究として、サルの急性 実験を用いて一次運動皮質及び延髄錐体刺激によってサル頚髄の Dorsal Root Potential が誘発さ れるか検討した。その結果、サルの下降路刺激によってシナプス前抑制が引き起こされる可能性 が初めて示された。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 関 和彦 発表論文 英文 (1)原著論文 Takei, T. & Seki, K. Spinomusclar coherence in monkeys performing a precision grip task. J.Neurophysiol. in press. Seki, K., Kizuka,T. & Yamada,H. Reduction in maximal firing rate of motoneurons after 1-week immobilization of finger muscle in human subjects. J. Electromyogr. Kinesiol. 17(2) 113-120 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 関和彦 :随意運動に伴う感覚ゲーティングの脊髄内機構. 187-190 (2007). (3)著書 バイオメカニズム学会誌 31(4), 第2領域 (公募班員) 研究課題名 神経細胞集団による情報処理と行動選択の計算論的研究 研究代表者名 中原 裕之 所属・職名 独立行政法人理化学研究所・脳科学総合研究センター・理論統合脳科学研究 E-mail hiro@brain.riken.jp チーム 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 平成19年度は、初年度で得られた研究結果をもとに、2年間に渡る研究の二年目として、神経 細胞集団による情報処理、特に神経細胞集団が意思決定及び運動制御という情報処理に至るまで の行動選択の過程を計算論的に解明することを目的とした。これらは、高次脳機能の解明の根本 的課題の一つであり、理論的蓄積、特に実験と共同した理論研究を十分に蓄積していくことが根 本的な課題解明に必要不可欠であると考えている。本研究はそのための礎の研究のひとつになる と位置づけていて、(I):多電極同時記録からの細胞集団の相互結合の推定、及び(II):細胞集 団活動の相互作用に基づく意思決定と運動制御の解明、という2つを具体的な研究目的として研 究を進めた。その結果、(I)では vitro データでの神経回路網の解析の結果をまとめ、学会発表 するにいたった。具体的には、時系列解析手法を preprocessing に用いて、そこから得られた細 胞集団のクラスターがほとんどの相互作用の情報を持っていることを確かめた。(II)では、大 脳基底核における並行回路がどのようにその機能を分化させるかということについて、各知覚情 報の潜時の違いに着目した結果、モデル構築及びシミュレーション研究を通じて、その潜時の違 いが自動的に機能分化にいたることを実証した。また、行動選択・運動制御を調べるために、そ れ以前に行われた行動を観察することで、次に起きる行動がどれくらい予測できるかを調べる予 備研究を行った。幸いこれらの研究は既に論文発表できている。 今後の展開としては(I)と(II)を統合すべく、多電極同時記録の脳活動を行動と対応づける実 験と数理の共同研究を進め、その成果につき発表を行うこととなる。また、これまでに、これら の研究のフィードバックをうけて報酬獲得と行動選択のための数理モデルがほぼ構築している ので、今後は学会発表を行いその成果を積極的に公開していきたい。さらに、一般社会に研究を フィードバックする試みとして一般図書への執筆も行い、幸い好評を得ている。最後に、本研究 は、申 請 者 一 人 が 推 進 す る 研 究 で あ り 、本 研 究 費 に よ り 、数 理 計 算 の ハ ー ド / ソ フトの諸費用、マンパワーとしての研究補助などが得られていて、非常に有効 に機能していることを述べておきたい。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 中原 裕之 発表論文 英文 (1) 原著論文 Bissmark, F., Nakahara, H., Doya, K. & Hikosaka, O. Combining modalities with different latencies for optimal motor control. J. Cogn. Neurosci. in press. Nakahara, H., Shimono, M., Uchida, G. & Tanifuji, M. Stimulus- induced pairwise interaction can be revealed by information geometric approach. Springer Lecture Notes in press. Takenaka, K., Nagasaka, Y., Hihara, S., Nakahara, H., Iriki, A., Kuniyoshi, Y. & Fujii, N. Linear Discrimination Analysis of Monkey Behavior on an Alternative Free Choice Task. Journal of Robotics and Mechatronics 19(4) 416-422 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 中原裕之:理化学研究所脳科学総合研究センター:脳研究の最前線.(下巻)講談社. 弟11章 楽が脳を創る. 234-297 (2007). 快 第2領域 (公募班員) 研究課題名 齧歯類の道具使用学習を触発する好奇心の脳内機構 研究代表者名 入來 篤史 所属・職名 理化学研究所 BSI 象徴概念発達研究チーム・グループディレクター 研究分担者名 岡ノ谷一夫 1、熊澤紀子 2 分担者所属 理化学研究所 BSI E-mail 1 iriki@brain.riken.jp 生物言語研究チーム 2 象徴概念発達研究チーム 研究成果報告書 「好奇心」とは、新たな経験を求める行動傾向を表出するための、内発的な動機付けの要素とさ れる。しかし、好奇心を定義することは困難で、その神経科学的メカニズムについての研究はこ れまで皆無であったと言って良い。齧歯類デグー(Degu; Octodon degu)の手掌根部には手指と 対向する親指状の突起があって、細草茎を把持するなどの高い手技巧緻性を発揮するので、道具 の使用能力を有する可能性があると予想された。齧歯類ではこれまで類例の無い道具使用学習 が、この動物に特徴的に発現する「好奇心」に由来するとの仮説に基づいて、道具使用を触発す る脳内機構を検証することが本研究の目的である。昨年度までに、齧歯類デグーが前肢による熊 手状の道具使用を習得する能力のあることを確認し、好奇心のメカニズム探索の新モデル動物と して確立することに成功した。 さらに、熊手状の道具を機能的に認識しているかどうか検討するため、同じ形状で色と大きさが 異なる熊手を用いてテストを行なったところ、デグーは色と大きさが異なる新規の熊手を用いて 訓練時と同様に使用する事が可能であった。つまり、デグーが熊手を報酬獲得のための道具とし て認識しているのではないかと考えられ、齧歯類には希有な高次認知機能を習得することが確認 できた。 本年度は、道具使用を触発する脳内機構を検証するために、まず道具使用学習における成体ニュ ーロン新生の関与について検討を行った。近年、新奇環境やモリス水迷路や文脈学習課題といっ た海馬依存性の学習において、海馬歯状回顆粒細胞層で成体ニューロン新生が亢進しているとい う報告があるが、道具使用のような脳高次機能学習における成体ニューロン新生の関与ついては 今まで報告がないのが現状である。そこで、道具使用時の海馬歯状回での成体ニューロン新生に ついて検討を行ったところ、道具使用行動の際に海馬歯状回で成体ニューロン新生が亢進してい るという結果が得られた。 さらに、今まで成体ニューロン新生については、側脳室の脳室下体と海馬歯状回の顆粒下体のみ で行なわれていると考えられてきた。しかし、近年になってそれ以外に大脳皮質や線条体、扁桃 体などでも成体ニューロン新生が行なわれているという報告もあるが、賛否両論あるのが現状で ある。さらにそれらの成体ニューロン新生の高次機能学習への関与は全く報告されていない。我 が研究チームでは、すでに大脳皮質に幼若ニューロンの存在を確認しており、それらの細胞につ いて詳細に検討を行っている。 本研究の今後の展望は、デグーの道具使用における細胞レベルの脳内メカニズムの解明を進める ことであり、高次認知発達研究の新たな「好奇心」という視点から神経科学的メカニズム解明を 目指している。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 入來 篤史 発表論文 英文 (1)原著論文 Okanoya, O., Tokimoto, N., Kumazawa, N., Hihara, S. & Iriki, A. Tool-Use Training in a Species of Rodent: The Emergence of an Optimal Motor Strategy and Functional Understanding. PLoS ONE, 3(3), e1860(2008). (2)総説 Iriki, A. & Sakura, O. The neuroscience of primate intellectual evolution: natural selection and passive and intentional niche construction. Phil. Trans. R. Soc. B 363. (doi: 10.1098/rstb. 2008 2274) , in press. (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 扁桃体機能、情動の制御に関わる新規神経ペプチドの検索とその生理作用の 解明 研究代表者名 桜井 武 所属・職名 金沢大学大学院医学系研究科 E-mail tsakurai@med.kanazawa-u.ac.jp 分子神経科学・統合生理学 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 <目的>本研究では扁桃体機能に着目し扁桃体で働く新規神経ペプチドの機能解明を目指して いる。GPR7 と GPR8 の機能解明:GPR7 はオーファンG蛋白質共役受容体としてみつかった遺 伝 子 で あ る が 、 わ れ わ れ の グ ル ー プ は 以 前 、 脳 抽 出 物 か ら NPB (neuropeptide B) 、 NPW (neuropeptide W)をリガンドとして同定した(Tanaka et al., PNAS, 2003)。GPR7 は扁桃体中心核や 分界条床核に局在するため、扁桃体の出力系を制御する働きがあることが推測できる。(ヒトで は NPB と NPW の受容体には GPR7 と GPR8 のみが存在するが、齧歯類では GPR7 のみが存在す る。)本年度は GPR7 欠損マウスを用いて扁桃体機能を中心に GPR7 の役割を検討した。さらに、 ヒトの GPR7、GPR8 遺伝子の SNPs を検索し、機能低下をもたらす SNPs をそれぞれ一つずつ見 いだした。 <方法>GPR7 欠損マウスを用いて、行動テストバッテリーによる網羅的な行動観察、とくに不 安や恐怖、あるいは情動記憶の異常にかかわる行動異常の検索を行った。また、情動刺激やスト レスによる自律神経の反応を心拍数や血圧によって検討した。マウスは C57BL/6J に8回以上バ ッククロスしたものを使用した。また、informed consent のもと、健常人 50 名の GPR7、GPR8 遺伝子の遺伝子配列からそれぞれ数個の SNPs を見いだし、in vitro での検討から、そのうち一つ づつは受容体機能の低下を示すことが明らかになった。 <結果>GPR7 欠損マウスを用いて各種行動テストを行い以下の異常を見出した。 (1)社会接触における行動異:Resident-intruder テストにおいて GPR7 欠損マウスでは、intruder に 対する接触のしかたに明らかな異常が見られた。接触までの時間が有意に短く、また物理的な接 触をしている時間が長かった。Intruder を執拗に追いかける特徴的な行動が見られ、その際心拍 数、血圧の上昇が野生型と比較して強く、かつ持続的に見られた。 (2)恐怖条件付けにおける異常:GPR7 欠損マウスは、Cued fear conditioning においては正常であ ったが、contextual fear において、freezing 時間の著明な現象を示し、情動記憶の形成に障害があ ることがあきらかになった。 <結論>GPR7 欠損マウスでは、ストレス条件下で行動・自律神経反応が強くかつ遷延する傾向 がみられ、NPB/NPW-GPR7 系は、情動ストレス反応を負に制御する機能をもっている。 <今後の展望>GPR7 の扁桃体機能制御における役割について、組織学および電気生理学的手法 をもちいて検討する。またヒトの情動と GPR7、GPR8 の SNPs について、fMRI などを用いた検 討を計画している。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 桜井 武 発表論文 英文 (1)原著論文 Tsuneki, H., Murata, S., Anzawa, Y., Soeda, Y., Tokai, E., Wada, T., Kimura, I., Yanagisawa, M., Sakurai, T. & Sasaoka, T. Age-related insulin resistance in hypothalamus and peripheral tissues of orexin knockout mice. Diabetologia in press. Ohno, K., Hondo, M. & Sakurai, T. Cholinergic Regulation of Orexin/Hypocretin Neurons through M3 Muscarinic Receptor in mice, J. Pharmacol. Sci. in press. Tsunematsu, T., Fu, L.Y., Yamanaka, A., Ichiki, K., Tanoue, A., Sakurai, T. & van den Pol, A.N. Vasopressin increases locomotion through a V1a receptor in orexin/hypocretin neurons: implications for water homeostasis. J. Neurosci. 28(1), 228-38 (2008). Takizuka, A., Minami, K., Uezono, Y., Horishita, T., Yokoyama, T., Shiraishi, M., Sakurai, T., Shigematsu, A. & Ueta, Y. Dexmedetomidine inhibits muscarinic type 3 receptors expressed in Xenopus oocytes and muscarine-induced intracellular Ca(2+) elevation in cultured rat dorsal root ganglia cells. Naunyn Schmiedebergs Arch.Pharmacol. 375(5), 293-301 (2007). Minami, K., Uezono, Y., Sakurai, T., Horishita, T., Shiraishi, M. & Ueta, Y. Effects of Anesthetics on the Function of Orexin-1 Receptors Expressed in Xenopus Oocytes.Pharmacology 79(4), 236-242 (2007). (2)総説 Matsuki, T. & Sakurai, T. Orexins and Orexin Receptors: From Molecules to Integrative Physiology. Results Probl. Cell Differ. in press. Hondo, M., Ishii, M. & Sakurai, T. The NPB/NPW Neuropeptide System and Its Role in Regulating Energy Homeostasis, Pain, and Emotion. Results Probl. Cell Differ. in press. Ohno, K. & Sakurai, T. Orexin neuronal circuitry: Role in the regulation of sleep and wakefulness. Front. Neuroendocrinol. in press. Sakurai T. Neural Circuit of Orexin (Hypocretin):Mainaining Sleep and Wakefulness. Nat. Rev. Neurosci. 8, 171-181 (2007). (3)著書 Sakurai, T. Input and Output of Orexin/Hypocretin Neurons:Link Between Arousal Pthways and Feeding Behavior. Bassetti, C.L., Billard, M., and Mignot, E. ed. Lung Biology in Health and Disease Vol.22: Narcolepsy and Hypersomnia 399-410 Informa Healthcare, USA, Inc(2007). 和文 (1)原著論文 (2)総説 桜井武:オレキシンによる覚醒と睡眠の制御. 蛋白質 核酸 酵素 52, 1840-1848 (2007). 桜井武:オレキシンとメタボリックシンドリーム. 実験医学 25, 122-130 (2007). 桜井武:オレキシンの発見. 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jap.) 130, 19-22 (2007). 桜井武:オレキシン産生神経の生理機能-内外の環境に応じて適切な睡眠・覚醒ステージを保つ機 構. ホルモンと臨床 55, 3-11 (2007). 桜井武:オレキシン神経系-内外の環境に応じて適切な睡眠・覚醒ステージを保つ機構. 医学のあ ゆみ 220, 285-290 (2007). (3)著書 桜井武:オレキシンの項. 精神 KEY WORD 第 4 版 先端医学社 154-156(2007). 第2領域 (公募班員) 研究課題名 脳内ホルモンによる情動行動の調節とその分子機構 研究代表者名 松井 秀樹 所属・職名 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・細胞生理学 研究分担者名 大守伊織 分担者所属 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・細胞生理学 E-mail matsuihi@cc.okayama-u.ac.jp 研究成果報告書 研究目的 オキシトシン受容体は海馬および扁桃体に豊 富に存在し、これら領域における生理作用について注目 されている。近年オキシトシンは妊娠・出産時に抗不安 作用を有することが動物実験で明らかにされているが、 その分子機構については不明である。本研究では、オキ シトシンによる抗不安作用の分子メカニズムの解明をす る。 成果 本研究により以下のことを明らかにした。 1. オキシトシン添加神経培養細胞ならびに授 乳中の母親マウスの脳より mRNA を抽出し、 DNA microarray 法により、両者ともに発現が促 進されている遺伝子を検索した。 結果:両者 において発現が増加している遺伝子として 7 個 同定した。その中でも Regulator of G-protein signaling 2(Rgs2)の発現が最も促進していた。 2. バージンマウスに 4 時間の拘束ストレスを 与え、同マウス扁桃体における Rgs2 mRNA な らびに蛋白質の発現を western blotting 法、real time PCR 法で検討した。 結果:拘束 1 日目 より Rgs2 の発現が非拘束マウスと比較して有 意に亢進していた。この Rgs2 の高い発現は拘束後1週間持続した。 3. 扁桃体を含む脳スライスにオキシトシンを潅流し、扁桃体における Rgs2 の発現を western blotting 法にて検討した。 結果:潅流 30 分後より Rgs2 の発現が亢進していた。 4. 産後授乳中母親マウスでは、バージンマウスと比較して産後 3 日後には著明な Rgs2 発現の 亢進が見られた。一方産後授乳を行っていないマウスの Rgs2 発現は、授乳マウスと比較して明 らかな発現減少が見られた。すなわち、授乳により Rgs2 の発現が増加することを証明した。 5. オキシトシン受容体のアンタゴニストをマウス扁桃体に注入し、その後拘束ストレスを与 え、Rgs2 の発現について検討した。 結果:予備実験では、同アンタゴニストを注射したマウ スでは、Rgs2 の発現がコントロール群と比較して低下して いた。 6. 以上より、マウスの妊娠・出産→オキシトシンの分泌増 加→扁桃体における Rgs2 の発現が増加→抗不安作用 とい う仮説を証明しつつある。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 松井 秀樹 発表論文 英文 (1)原著論文 Wu, YM., Liang, S., Oda, Y., Ohmori, I,, Nishiki, T., Takei, K., Matsui, H. & Tomizawa, K. Truncations of amphiphysin I by calpain inhibit vesicle endocytosis during neural hyperexcitation. EMBO J.26, 2981-2990 (2007). Yamada, H., Ohashi, E., Kusumi, N., Li, SA., Yoshida, Y., Watanabe,M. Tomizawa, K., Kashiwakura, Y., Kumon, H., Matsui, H. & Takei, K. Amphiphysin I is important for actin polymerization duirng phagocytosis. Mol. Biol.Cell 18,4669-4680(2007). Liang, S., Wei, FY., Wu, Y., Tanabe, K., Abe, T., Oda, Y., Yoshida, Y., Yamada, H., Matsui, H., Tomizawa, K. & Takei, K. Major Cdk5-dependent phosphorylation sites of amphiphysin 1 are implicated in the regulation of the membrane binding and endocytosis. J. Neurochem. 102,1466-1476 (2007). Ogawa, T., Ono, S., Ichikawa, T., Arimitsu, S., Onoda, K., Tokunaga, K., Sugiu, K., Tomizawa, K., Matsui, H. & Date, I. Novel Protein Transduction Method by Using 11R. An Effective New Drug Delivery System for the Treatment of Cerebrovascular Diseases. Stroke 38,1354-1361 (2007). Kitani, K., Oguma, S., Nishiki, T., Ohmori, I., Galons, H., Matsui, H., Meijer, L. & Tomizawa, K. A Cdk5 inhibitor enhances induction of insulin secretion by exendin-4 both in vitro and in vivo. J. Physiol. Sci. 57,235-239 (2007). Tsutsui, Y., Tomizawa, K., Nagita, M., Nishiki, T., Ohmori, I., Seno, M. & Matsui, H. Development of bionanocapsules targeting brain tumors. J. Control. Release.122,159-164 (2007). Wu, Y-M., Tada, M., Takahata, K., Tomizawa, K. & Matsui, H. Inhibitory effect of polyunsaturated fatty acids on apoptosis induced by etoposide, okadaic acid and AraC in neuro2a cells. Acta Med. Okayama 61,147-152 (2007). Wu, HY., Tomizawa, K. & Matsui, H. Calpain-calcineurin signaling in the pathogenesis of calcium-dependent disorder. Acta Med. Okayama 61,123-137 (2007). Fujisawa, T., Moriwaki, A., Matsushita, M., Tomizawa, K. & Matsui, H. Colocalization of oxytocin and phosphorylated form of elongation factor 2 in the rat hypothalamus. Acta Med. Okayama 61,161-166 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 魏范研、長嶋一昭、大島登志男、佐伯恭範、陸雲飛、松下正之、山田祐一郎、御子柴克彦、清野 裕、松井秀樹、富澤一仁:Cdk5 によるインスリン分泌の制御機構. 岡山医学回雑誌 2007 年度 119(1) 平成 17 年度岡山医学会賞(結城賞)授賞論文 (2007). (2)総説 富澤一仁、松井秀樹: 蛋白質セラピー法. 日本再生医療学会雑誌「再生医療」2007 メディカルレビュー社 (2007). (3)著書 6 (2), 24-30 第2領域 (公募班員) 研究課題名 衝動性と将来報酬予測における脳内セロトニンの役割 研究代表者名 山脇 成人 所属・職名 広島大学大学院医歯薬学総合研究科精神神経医科学・教授 研究分担者名 岡本泰昌 分担者所属 広島大学大学院医歯薬学総合研究科精神神経科学 E-mail yamawaki@hiroshima-u.ac.jp 研究成果報告書 報酬予測の計算モデルとして、脳内ドパミンが報酬誤差に相当し、脳内セロトニン(5-HT)が報酬 予測の見通し(減衰係数ガンマ)を制御するという仮説 (Doya, 2002)が提唱されている。本研究 では、この仮説を健常人と脳内 5-HT 機能低下を示す精神疾患で実証することを目的とした。こ れまでに、fMRI を用いた報酬予測実験におい て、異なる時間スケールの報酬予測に、線条 体の腹側から背側にかけて時間スケールに応 じた活動を見出し、時間スケールによって異 なる脳内ネットワークが存在することを報告 してきた。本研究では第一の研究課題として、 ガンマが 5-HT 活動と相関するかについて、 その前駆体であるトリプトファン(Trp)の経口摂取量を調整し、中枢神経 5-HT 濃度を操作し た状態で、報酬予測課題施行中の脳活動を fMRI にて評価した。その結果、各 Trp 条件(欠乏、 正常、過剰)によって、線条体内で時間スケールの減衰に関与する部位が異なることを見出した。 また,行動的には Trp 欠乏条件において、短期・小報酬の選択率が有意に高いことが示され、5-HT の操作がヒトにおいても報酬予測行動に影響を与えることが直接的に示された。図に示すよう に、5-HT(ガンマ)が低値の場合、将来は大きな報酬が期待できる条件でも、それを予測できず徐々 に報酬選択行動を起こさなくなるが、逆に将来に大きな負の報酬が想定される条件では、目先の 小さな報酬にとらわれて衝動的選択行動をとる。精神科臨床の観点から見ると、前者はうつ病の 絶望感、行動制止に相当すると考えられた。5-HT 再取り込み阻害薬による治療効果や Trp 欠乏 による抑うつ症状の悪化から、5-HT がうつ病の病態に関与していることは確実であり、うつ病 患者では減衰係数ガンマが小さく、長期・大報酬を小さく見積もり、短期・小報酬を選択する傾 向が見られると予測された。第二の研究課題として、この仮説を検証するため、うつ病患者(n=29) と健常対照者(n=24)において報酬予測に関する行動実験を行った。しかし、思考制止や注意持続 困難のためか、解析モデルにフィットしないうつ病患者が 13 名存在し、課題の一部変更を余儀 なくされた。被験者への詳細な教示を行い、年齢制限(50 歳以下)など再設定して再度実験を遂行 中である。うつ病では情動に関連した報酬予測機能障害が想定されるため、快情動を報酬として 設定し、患者群でも遂行可能なシンプルな情動報酬予測課題を考案し、報酬予測機能における 5-HT の果たす役割について検討することを次年度に計画している。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 山脇 成人 発表論文 英文 (1) 原著論文 Onoda,K., Okamoto,Y., Toki,S., Ueda,K., Shishida,K., Kinoshita,A., Yoshimura,S., Yamashita,H. & Yamawaki,S. : Anterior cingulated cortex modulates preparatory activation during certain anticipation of negative picture. Neuropsychologia 46, 102-110 (2008). Hama,S., Yamashita,H., Shigenobu,M., Wata nabe,A., Kurisu,K., Yamawaki,S. & Kitaoka,T. : Post-stroke affective or apathetic depression and lesion location: left frontal lobe and bilateral basal ganglia. Eur. Arch.Psychiatry Clin. Neurosci. 257, 149-152 (2007). Takami,H., Okamoto,Y., Yamashita,H., Okada,G.. & Yamawaki,S. : Attenuated anterior cingulate activation during a verbal fluency task in elderly patients with a history of multiple-episode depression. Am.J.Geriatr.Psychiatry 15, 594-603 (2007). Onoda,K., Okamoto,Y., Shishida,K., Hashizume,A., Ueda,K., Yamashita,H. & Yamawaki,S. : Anticipation of affective images and event-related desynchronization (ERD) of alpha activity: an MEG study. Brain Res. 1151, 134-141 (2007). Hama,S., Yamashita,H., Shigenobu,M., Watanabe,A., Hiramoto,K., Kurisu,K., Yamawaki,S. & Kitaoka,T. Depression or apathy and functional recovery after stroke. Int.J.Geriatr.Psychiatry 22, 1046-1051 (2007). Tanaka,SC., Schweighofer,N., Asahi,S., Shishida,K., Okamoto,Y., Yamawaki,S. & Doya,K. : Serotonin differentially regulates short- and long-term prediction of rewards in the ventral and dorsal striatum. PLoS ONE 2, e1333 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2) 総説 岡本泰昌、小野田慶一、三宅典恵、吉村晋平、吉野敦、黒崎充勇、世木田幹、岡田剛、山下英尚、 山脇成人:ストレス適応の神経生理学的基盤. 日本薬理学雑誌 131(1), 5-10 (2008). 岡本泰昌、木下亜紀子、吉村晋平、小野田慶一、松永美希、志々田一宏、上田一貴、鈴木伸一、 山脇成人:うつ病の認知に関する神経基盤.心身医学 47(8), 705-712 (2007). 山脇成人:脳科学からみたうつ病の病態.広島医学 60, 531-532 (2007). 山脇成人:うつ病の脳科学.日本臨床 65(9), 1554-1557 (2007). (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 扁桃体に依存しない情動反応の神経機構:視床下部背内側核の働き 研究代表者名 尾仲 達史 所属・職名 自治医科大学・医学部・生理学講座・神経脳生理学部門・教授 研究分担者名 高柳友紀 分担者所属 自治医科大学・医学部・生理学講座・神経脳生理学部門 E-mail tonaka@jichi.ac.jp 研究成果報告書 情動ストレス刺激に対する生体の反応、特に、条件恐怖刺激に対するすくみ行動は、扁桃体(基 底外側扁桃体と扁桃体中心核)に依存することが知られている。情動ストレスが生体に加わると 行動反応だけでなく、神経内分泌反応が誘発される。NMDA の局所投与により扁桃体基底外側 核を破壊すると、すくみ行動のみならず、脱糞反応、神経内分泌系の反応(ACTH 放出反応、バ ゾプレシン分泌抑制反応、プロラクチン放出反応)が著しく阻害される。しかし,扁桃体を破壊 しておいても、新奇刺激に対する神経内分泌系の反応は阻害されなかった。一方、視床下部背内 側核を破壊すると、条件恐怖刺激に対する行動と神経内分泌系の反応は阻害されず、新奇刺激に 対する神経内分泌系の反応と脱糞反応が減弱した。これらのデータは、新奇刺激に対する情動反 応は扁桃体に依存しておらず、少なくとも一部に視床下部背内側核が重要であることを示唆して いる。視床下部背内側核には、PrRP 含有ニューロンの神経細胞体が存在する。そこで、PrRP 含 有ニューロンがストレス刺激で活性化されるかを検討し、さらに、PrRP 遺伝子欠損マウスある いは PrRP 中和抗体を用いて、新奇環境下における行動解析を行った。 PrRP ニューロンはストレス刺激により活性化された。中和抗体あるいは遺伝子欠損により PrRP の働きを障害すると新奇環境課における不安行動が亢進した。逆に、PrRP を側脳室内に投与す ると不安行動が減少した。従って、ストレス刺激により、PrRP ニューロンは活性化され、内因 性の PrRP は抗不安作用をもつことが示唆された。 次に、PrRP の作用部位を検討する目的で、脳内局所投与実験を行った。扁桃体中心核、内側扁 桃体、分界条床核、視床下部室傍核、視床下部背内側核に PrRP を 0.2μl 投与し、新奇環境にお ける行動を観察した。視床下部背内側核に投与したときのみ、新奇環境における不安行動が減少 した。従って、PrRP は視床下部背内側核に作用し抗不安作用を誘発する可能性が示唆された。 PrRP ニューロンの下流は今のところ不明である。視床下部スライス標本において、PrRP 投与に よりオキシトシン放出が用量依存性に促進された。オキシトシンには抗不安作用があるという報 告があり、実際、脳内に投与すると抗不安作用が確認された。従って、PrRP ニューロンの抗不 安作用は、オキシトシンニューロンを介したものかもしれない。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 尾仲 達史 発表論文 英文 (1)原著論文 Kawakami, A., Okada, N., Rokkaku, K., Honda, K., Ishibashi, S. & Onaka, T. Leptin inhibits and ghreline augments hypothalamic noradrenaline release after stress. Stress in press. Kohno, D., Nakata,M., Maejima,Y., Shimizu,H., Sedbazar,U., Yoshida, N., Dezaki, K., Onaka, T., Mori, M. & Yada, T. Nesfatin-1 neurons in paraventricular and supraoptic nuclei of the rat hypothalamus coexpress oxytocin and vasopressin and are activated by refeeding. Endocrinology 149 (3), 1295-301 (2008). Saito, T., Dayanithi, G., Saito, J., Onaka, T., Urabe, T., Watanabe, T.X., Hashimoto, H., Yokoyama, T., Fujihara, H., Yokota, A., Nishizawa, S., Hirata, Y. & Ueta, Y. Chronic osmotic stimuli increase salusin-beta-like immunoreactivity in the rat hypothalamo-neurohypophyseal system: possible involvement of salusin-beta on [Ca(2+)](i) increase and neurohypophyseal hormone release from the axon terminals. J.Neuroendocrinol. 20 (2), 207-19 (2008). Sato, Y., Onaka, T., Kobayashi, E. & Seo, N. Differential effect of cyclosporine on hypnotic response and pain reaction in mice. Anesth. Analg. 105 (5), 1489-93 (2007). Mera, T., Fujihara, H., Saito, J., Kawasaki, M., Hashimoto, H., Saito, T., Shibata, M., Onaka, T., Tanaka, Y., Oka, T., Tsuji, S. & Ueta, Y. Downregulation of prolactin-releasing peptide gene expression in the hypothalamus and brainstem of diabetic rats. Peptides 28 (8), 1596-1604 (2007). Kawasaki, M., Onaka, T., Saito, J., Hashimoto, H., Suzuki, H., Otsubo, H., Fujihara, H., Okimoto, N., Ohnishi, H., Nakamura, T. & Ueta, Y. Effects of the short chain sugar Acid 2-buten-4-olide on the hypothalamo-pituitary-adrenal axis in normal and adjuvant-induced arthritic rats. J. Neuroendocrinol. 19 (1), 54-65 (2007). Ohiwa, N., Chang, H., Saito, T., Onaka, T., Fujikawa, T. & Soya, H. Possible inhibitory role of prolactin-releasing peptide for ACTH release associated with running stress. Am. J. Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol. 292 (1), R497-504 (2007). Kohno, D., Nakata, M., Maekawa, F., Fujiwara, K., Maejima,Y., Kuramochi, M., Shimazaki, T., Okano, H., Onaka, T. & Yada, T. Leptin suppresses ghrelin-induced activation of neuropeptide Y neurons in the arcuate nucleus via phosphatidylinositol 3-kinase- and phosphodiesterase 3-mediated pathway. Endocrinology 148 (5), 2251-2263 (2007). Sato, Y., Takayanagi, Y., Onaka T. & Kobayashi, E. Impact of cyclosporine upon emotional and social behavior in mice. Transplantation 83 (10), 1365-1370 (2007). (2)総説 Leng, G., Onaka, T., Caquineau, C., Sabatier, N., Tobin, V. & Takayanagi, Y.: Oxytocin and Appetite. Prog. Brain Res. in press. (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 尾仲達史:ストレスと摂食の相互作用. 内分泌・糖尿病科 25 (1), 80-85 (2007). (3)著書 尾仲達史:脳神経. ストレスの科学と健康.(二木鋭雄 編)共立出版 東京 pp.60-65 (2008). 第2領域 (公募班員) 研究課題名 ヒトの感情認知と感情生成の臨床神経心理学的研究 研究代表者名 河村 満 所属・職名 昭和大学医学部神経内科・教授 E-mail kawa@med.showa-u.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 これまでの我々の検討から、PD において表情認知や他者感情の推測といった感情機能の低下が みられることが判明した(Suzuki et al. 2006, Kawamura, Koyama 2007a, Kawamura, Koyama, 2007b)。今年度の検討からは、PD における感情機能の低下が扁桃体機能の低下と関連している ことが示唆された。 嗅覚性認知 (Masaoka et al. 2007, in press) PD 例では嗅覚刺激の検出はできたが(匂いがするか否か)、刺激の認知(どのような匂いであ るか)に障害がみられた。嗅覚刺激呈示に伴う事象関連電位を記録し、双極子追跡法によって発 生源を検討した。健常者では嗅覚刺激の認知に伴い扁桃体の活動がみられたが、PD 例では嗅覚 的弁別が可能な場合でも、扁桃体を中心とした部位の活動がみられなかった。 表情認知 (Yoshimura et al. 2007) PD 例では、恐怖表情と嫌悪表情に特異的な表情認知障害がみられた。一方、若年性パーキンソ ン病(ARJP)例の表情認知は正常であった。ARJP 例では病巣が黒質線条体系に限定され、扁桃 体が病巣に含まれていない。このことから、PD 例の表情認知障害が扁桃体病病変に起因する可 能性が示唆された。 意思決定 (Kobayakawa et al. in press) ギャンブルを模した意思決定課題(以下、ギャンブル課題)を用いて感情に基づく行動制御機構 を検討した。この課題において PD 例では、健常高齢者と比較してハイリスクな行動を選択して いた。また、課題中のハイリスク行動が感情制御の欠如に起因するのか調べるため、生理指標(皮 膚電位反応)の分析を行った。結果として、PD 例は損失や報酬に対する感情反応が健常者より も低下していた。ハイリスク行動や損失/報酬に対する皮膚電位反応の低下は、既に報告されて いる扁桃体損傷例の結果と一致する(Bechara, et al. 1999)。 以上の検討から、1)PD における感情機能障害は扁桃体の機能不全と関連している 2)扁桃 体の機能不全は、嗅覚性認知、表情認知、意思決定など多様な影響を及ぼすことが明らかになっ た。今後は他疾患との比較や機能イメージングの手法を用い、感情機能を担う脳内機構を解明す る。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 河村 満 発表論文 英文 (1)原著論文 Midorikawa, A., Fukutake, T. & Kawamura, M. Dementia and painting in patients from different cultural backgrounds. Eur. Neurol. in press. Masaoka, Y., Satoh, H., Kawamura, M. & Homma, I. Respiratory responses to olfactory stimuli in Parkinson's disease. Respir. Physiol.Neurobiol. in press. Kobayakawa, M., Koyama, S., Mimura, M. & Kawamura, M. Decision making in Parkinson's disease: Analysis of behavioral and physiological patterns in the Iowa gambling task. Mov. Disord. in press. Yoshimura, N., Yokochi, M., Kan, Y., Koyama, S. & Kawamura, M. Relatively spared mesocorticolimbic dopaminergic system in juvenile parkinsonism. Parkinsonism Relat. Disord. 13(8), 483-8 (2007). (2)総説 Kawamura, M. & Koyama, S. Social cognitive impairment in Parkinson's Disease. J. Neurol. 254, N/49-N/53 (2007). Kawamura, M. & Koyama, S. Impaired perception of facial expression, color, and smell as early symptoms of Parkinson’s disease. CNS Drugs 21, 33-38 (2007). (3)著書 Suzuki, A., Hoshino, T., Shigemasu, K. & Kawamura, M. Aging Effects on Facial Expression Recognition: Testing for Their Negative-Emotion Selectivity. in Psychology of Anger ed. Columbus, F. Nova Science Publishers, Hauppauge, NY, in press. 和文 (1)原著論文 小山慎一、 毛束真知子、 日比野治雄、 富満弘之、 河村満:画像処理技術と心理物理学を用い た大脳皮質性色覚障害の評価. 神経心理学 23, 132-138 (2007). (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 サル扁桃核ニューロンにおける情動情報の再現機序 研究代表者名 中村 克樹 所属・職名 国立精神・神経センター神経研究所・部長 E-mail Katsuki@ncnp.go.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 扁桃核は、サルやヒトを対象とした脳研究から、情動情報の認識やその価値判断に重要であるこ とが知られている。扁桃核は、多種多様な感覚情報を受けていて、実際に、扁桃核が損傷された ヒトでは、顔の表情から相手の情動が認識できなくなるだけではなく、声から相手の情動を認識 することも障害される。扁桃核が情動情報をどのように処理し、再現し、どのように行動に結び 付けているのかを理解するためには、異種感覚情報をどのように処理しているのかを解明する必 要がある。 3頭のサル(被写体)の3種類の情動表出(スレット、クー、スクリーム)からなる9種類の情 動刺激と2種類のヒト刺激、2種類の物刺激からなる合計13種類の刺激セットを用いた。サル が注視点を注視しているときにこれらの刺激をランダムに提示し、各々の刺激に対するニューロ ンの応答性を解析した。 中心核のニューロンが他の亜核のニューロンと比べて、その応答性に差があるか否かをニューロ ン群で比較した。クラスター分析の結果、中心核のニューロンの応答は、サル、ヒト、物体とい うカテゴリーに対応したクラスターをよりはっきりと示していた。 また、昨年度までに報告した視覚要素と聴覚要素のいずれにも応答を示すニューロンがどのよう にできていくのかを調べるために、今年度はビデオ刺激の視覚要素と聴覚要素を同時に経験した ことのないサル扁桃核からニューロン活動を記録し、その応答性を検討した。その結果、これま でのところ視覚要素と聴覚要素のいずれにも応答を示すニューロンは発見できなかった。こうし た応答性は視覚要素と聴覚要素を同時に経験することによって獲得されていくものと考えられ る。 今後の展望として、扁桃核のニューロン応答が被験体の情動状態を反映したものであるのか、よ り認知的な処理を反映したものであるのかを検討していくために、皮膚温度が指標として有用で あるか否かを検討した。負の情動状態にあると特に鼻部の皮膚温度か低下することを報告してい る(Nakayama et al., 2005)。この応答がディスプレイ上の刺激に対して確認できるか否かを検討し た。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 発表論文 発表論文なし 英文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 中村 克樹 第2領域 (公募班員) 研究課題名 予測・推論の神経機構の研究 研究代表者名 筒井 健一郎 所属・職名 東北大学 大学院生命科学研究科・准教授 E-mail tsutsui@mail.tains.tohoku.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 カテゴリ推論課題の開発 霊長類をはじめとする高等動物は、刺激とその意味の関係を個別に 学習するだけでなく、学習した刺激の等価性に基づいて刺激をカテゴリ的に認識することが知ら れている。刺激の等価性に基づくカテゴリの形成や、それに基づいた推論は、これまでほとんど 神経科学の対象となったことはなかった。そこで、本研究ではまず、それらの心理機能の神経基 盤を調べるための「グループ逆転課題」を開発し、サルにカテゴリ認識能力および推論能力があ ることを行動学的に確かめた。課題の基本的デザインは、条件刺激(抽象図形)の後に無条件刺 激(ジュースまたは食塩水)を与えるパブロフ型条件付け課題である。8個の抽象図形によって 構成される刺激セットを作成し、セット中のすべての刺激が8試行で1回ずつ使われるように、 擬似ランダム系列を用いて各試行で呈示する刺激を決めた(8試行=1ブロック)。あるセッシ ョン(通常6~12 ブロックから成る)では、8個の刺激のうち半数(カテゴリ X)の刺激のい ずれかが呈示されるとその後にジュースを、残り(カテゴリ Y)の刺激のいずれかが呈示される とその後に食塩水を与え、次のセッションではその関係を逆転させて、カテゴリ X の刺激の後 には食塩水を、カテゴリ Y の刺激の後にはジュースを与えるということを繰り返した。サルに とっては、ジュースは快刺激、食塩水は嫌悪刺激であるので、ジュースを示す手がかり刺激が呈 示された試行では、ソレノイドバルブが開くタイミングで口を開けてジュースを受け止め、食塩 水を示す手がかり刺激が呈示された試行では、そのタイミングで口を閉じて食塩水を避けるのが 正しい反応となる。逆転後の第一ブロックにおいては、サルは個別の刺激についてはじめて逆転 を経験するので、そこで正しく反応するためには、カテゴリに基づいた推論を行う必要がある(推 論ブロック) 。この課題を、3つの刺激セットを交代で用いながらオーバートレーニングをした 後には、逆転後の2試行目から正しく反応できるようになった。すなわち、サルは、ただひとつ の刺激について、それまでのジュースに代わって食塩水が与えられたことを経験すると、同じカ テゴリの残りの3刺激についても同様のことがおこるとともに、別のカテゴリの4刺激につい て、それまでの食塩水に代わってジュースが与えられることを予測できたのである。これらの結 果によって、サルが、等価性に基づいた刺激のカテゴリ化が行えること、また、そのカテゴリに 基づいて帰納的推論が行えることが明らかになった。 前頭連合野背外側部および前頭眼窩部における単一ニューロン活動の記録 カテゴリ推論課題 を遂行中に、前頭連合野背外側部(DLPFC)および前頭眼窩部(OFC)から単一ニューロン活 動の記録を行った。現在までに記録したニューロンの数はまだ少ないが、その結果の概要は以下 の通りである。DLPFC および OFC いずれの領域からも、視覚刺激に反応するニューロンが記録 された。それらの多くのニューロンは、刺激の意味(刺激がジュースを予告しているか、あるい は、食塩水を予告しているか)に基づいて異なる反応をしていた。そのようなニューロンについ て、活動を記録しながら、刺激と報酬の関係を逆転させると、DLPFC と OFC のニューロンの間 に、大きな性質の違いがあることがわかった。すなわち、DLPFC のニューロンは、逆転後の第 一試行で刺激と報酬の関係が逆転したことにサルが気づき、その次の試行から行動を逆転させる のに対応して、刺激選択性をただちに逆転させた。一方、OFC のニューロンは、刺激と報酬の 関係が逆転してサルの行動が逆転した後も、すぐには刺激選択性を逆転させず、刺激選択性が逆 転するのに1ブロックないし数ブロックかかるものが大部分であった。また、新規刺激群を導入 した場合には、DLPFC のニューロンは、刺激に対するサルの行動が分化するのに伴って、ただ ちに刺激選択性を示すようになったのに対して、OFC のニューロンは、サルの行動が分化した のちもしばらくの間は、刺激に対して選択性を示さず、意味に基づいた選択的反応が形成される まで多くの試行数を要した。以上の結果から、DLPFC は、カテゴリを基にした推論過程に主導 的な役割を担っていること、一方で、OFC は、経験に基づいて個別の刺激とその機能的意味(報 酬)の連合を形成することに関与していることが示唆された。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 筒井 健一郎 発表論文 英文 (1)原著論文 Fujiwara, J., Tobler, PN., Taira, M., Iijima, T. & Tsutsui, K. Personality-dependent dissociation of absolute and relative loss processing in orbitofrontal cortex. Eur. J. Neurosci. 27(6), 1547-52 (2008). Narumi, T., Nakamura, S., Takashima, I., Kakei, S., Tsutsui, K. & Iijima, T. Impairment of the discrimination of the direction of single-whisker stimulation induced by the lemniscal pathway lesion. Neurosci. Res. 57(4), 579-86 (2007). Kojima, T., Onoe, H., Hikosaka, K., Tsutsui, K., Tsukada, H. & Watanabe, M. Domain-related differentiation of working memory in the Japanese macaque (Macaca fuscata) frontal cortex: a positron emission tomography study. Eur. J. Neurosci. 25(8), 2523-35 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 脳領域間相互作用に基づく行動ルール表象機序の解析 研究代表者名 坂井 克之 所属・職名 東京大学 大学院医学系研究科 E-mail ksakai@m.u-tokyo.ac.jp 認知言語神経科学分野・准教授 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 目的:我々の脳は、行動をどのように行うかについてのルールを行動実行前から表象する能力を 有している。その成立機序を脳領域間の動的な相互作用の面から明らかにするのが当研究課題の テーマである。特に経頭蓋磁気刺激 (TMS)と脳波 (EEG) を併用した実験系を確立し、行動ルー ル表象機序の時間的側面を明らかにする。 方法:正常人被験者を対象として、顔画像とサイン波のノイズパターンが重なった画像を標的刺 激として用い、顔の性別判断、あるいはノイズパターンの動く方向を判断する課題を用いた。標 的刺激提示前にキューを提示することによって試行ごとに行うべき課題の種類を指示した。前頭 眼野(FEF)に TMS を行い、これによって誘発された電位変化が脳表上を伝播して行くパター ンを解析した。 結果:磁気刺激によって誘発された脳電位は、被験者が視覚刺激のどの次元に注意を向けている かによって異なった伝播パターンを示した。皮質電位源解析を行ったところ TMS 20-40 ms 後の 誘発性電位変化は、動き弁別課題を行っている際には視覚運動情報を処理する MT 領域に、顔弁 別課題を行っている際には視覚的に提示された顔情報を処理する FFA 領域に認められた。また この効果はキューと標的刺激提示の時間間隔が十分に長い場合のみに認められ(1500 ms)、これ が短いとき(150 ms)には課題間での電位伝播の様相に有意な差は見られなかった。 考察:TMS により誘発された早期電位変化は、被験者の行おうとしている課題特異的な空間パ ターンを示したことから、脳領域間の機能的結合関係に基づくものであると考えた。ただしこの 課題特異的な行動ルールが脳内に表象されるためには十分な準備時間が必要なために、キューと 標的刺激提示の時間間隔が短い場合にはこの効果が観察されない。これに対して電位変化の後期 成分は FEF と後方連合領域間の解剖学的な結合関係に基づいた活動伝播である可能性が考えら れる。以上の結果は同一の課題を用いた機能的 MRI 実験の結果と合致するものである。本実験 系は刺激誘発性の脳活動変化が伝播する様相を脳全体で明らかにすることができ、さらに高次な 認知機能の脳内メカニズムの動的側面を明らかにすることが期待される。さらに今年度は前頭葉 に限局した病巣をもつ患者を対象として機能的 MRI を用いた脳活動計測実験を行い、後方連合 領域の課題特異的活動は損なわれないものの、後方領域間の活動の同期性が健常人に比して低下 していることを明らかにした(Rowe et al., 2007)。前頭葉からの信号は後方領域の機能的結合を 課題特異的に制御していることが推察された。脳局所の活動量だけではなく領域間の相互作用ま でも明らかにすることで認知における脳の動作様式がいっそう明らかになると考えられる。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 坂井 克之 発表論文 英文 (1)原著論文 Rowe, J.B., Sakai, K., Lund, T.E., Ramsoy, T., Christensen, M.S., Baare, W.F.C., Paulson, O.B. & Passingham, R.E. Is the left prefrontal cortex necessary for establishing cognitive sets? J. Neurosci. 27, 13303-13310 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 脳高次機能のモデル化による推論機構の解析 研究代表者名 渡辺 正峰 所属・職名 東京大学大学院工学系研究科・准教授 E-mail watanabe@bs.t.u-tokyo.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 脳の高次機能の一つとして、外界等を正しく認識するために、不完全な感覚情報からの推論があ げられる。推論を進めていく上で用いるべき情報は、過去の経験により得られた視覚世界に関す る“知識”とリアルタイムで得られる感覚情報である。ここでは、外界の状態に対して仮説を立 て、それを感覚情報および“知識”の両者を用いて、より実際に近づく方向へと更新していく脳 メカニズムが必要となる。本発表では、このような脳のメカニズムとして生成モデル(Mumford 1992, Kawato et al. 1993)を取り上げ、その fMRI による検証を行う(理研の田中啓治、Kang Cheng, 上野賢一,浅水屋剛らとの共同研究) 。 生成モデルによる外界の認識において鍵となるのはトップダウンの神経投射が外界の順光学過 程をシミュレートする点である。順光学過程とは対象物に光があたり、表面の凹凸に応じて陰影 がつき、さらに3次元的な遮蔽関係の影響を受けて二次元的な網膜像が結ばれる過程である。生 成モデルでは、高次のオブジェクトレベルの外界表現(「山がある」 、「家がある」 、「家の前に木 がある」、 「西日が差している」等)からトップダウンの順光学過程によって予測・生成された低 次視覚表象と、感覚入力をもとにえられた実際の低次視覚表象とがつきあわされ予測誤差が低次 で計算される。ここで計算された予測誤差は、ボトムアップの神経投射を通して上位に伝えられ 高次表現の更新に用いられる。生成モデルにおいては、感覚入力由来の低次表象との誤差をとる ためにその符号は「負」となる。そのため、上位のオブジェクト表象と脳の高次のオブジェクト 表象とがぴたりと一致したときには、下位の活動は最小となり、逆に齟齬が残る状況ではその活 動が上昇することが予想されている。 私たちは、上記のメカニズムが働いていることを確認するために、安定的に「視覚入力が存在す るのに見えない」錯視を開発して、その最中のV1の活動を fMRI によって記録した。その結果、 興味深いことに、通常の見える状況(統制条件)と比較して、見えない条件で活動が大きいとの 結果を得た。第一次視覚野の活動のうち視覚入力によるもの以外として、生成モデルにおける予 測誤差が大きなウェイトを占めている可能性が示唆された。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 渡辺 正峰 発表論文 英文 (1)原著論文 Maruya, K. & Watanabe, M. Adaptation to invisible motion results in low-level but not high-level aftereffects. J.Vis. in press. Kawasaki, M. & Watanabe, M. Oscillatory gamma and theta activity during repeated mental manipulation of a visual image. Neurosci. Lett. 422, 141-145 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 前頭連合野は意志決定にどのように関わるか 研究代表者名 船橋 新太郎 所属・職名 京都大学こころの未来研究センター E-mail sfunahashi@mbox.kudpc.kyoto-u.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 右か左かの選択を迫られた時、特に外的な手がかりがなくても、われわれはいずれかの選択をす る。このような場面での選択がどのような神経機構で行われるのかを明らかにするのが本研究の 目的である。予め眼球運動方向を指示する ODR 課題と、ODR 課題に類似した課題であるが、反 応時に眼球運動方向を自由に選択できる S-ODR 課題を用い、同一ニューロンから記録される活 動を両課題で比較し、S-ODR 課題において眼球運動方向の決定に関わるのは、ODR 課題でどの ような活動をするニューロンなのかを検討してきた。今年度は、S-ODR 課題の遅延期間活動を 詳細に検討することにより、眼球運動方向の決定に直接関わる神経メカニズムを検討した。特に、 S-ODR 課題の遅延期開始直後に、選択する運動方向に関わらず観察される一過性の活動増強に 注目した(図1)。この活動増強は、S-ODR 課題でのみ観察されること、ニューロンの最大応答 方向が選択される場合には運動開始時に向けてさらに活動増強が生じるが、それ以外の方向が選 択される場合には間もなく自発活動レベルに戻ってしまうことから、遅延期開始直後の一過性の 活動増強が眼球運動方向の決定過程そのものに関わっていることが示唆される。遅延期開始直後 の一過性の活動増強が眼球運動方向の決定に関わっているとすると、次のようなメカニズムが仮 説として考えられる。S-ODR 課題の遅延期開始直後には、様々な選択肢(眼球運動方向)を表 象するニューロンに活動の増加が同時にかつ一過性に生じる。同時にそれらのニューロン間に競 合が生じる。そして、競合に勝ったニューロンの活動がその後の時間経過とともに増強されると 同時に、同じ選択性をもつ他のニューロンを動員し、ニューロン集団として表象する情報(眼球 運動方向)を確定する、というものである。 遅延期間活動の開始のタイミングはニューロンごとに、また同一ニューロンであっても試行ごと に異なる。遅延期の開始直後に生じる興奮性活動の間に競合が生じ、競合に勝ったものが運動方 向を決定すると考えると、特定のニューロンの遅延期間活動開始のタイミングやその時の活動の 大きさが、競合で勝った場合と負けた場合で異なる可能性が考えられる。そこで、ODR、S-ODR 課題の1試行ごとに Spike density function を作成し、最初に顕著な活動増大が見られる時点を遅 延期間活動の開始時点と定義し(図2,3の青点)、その分布や、その時点でそろえたニューロ ン活動を各条件で比較した。その結果、上記の仮説を支持する結果が得られている。 このように、方向選択性のある遅延期間活動をもつニューロン間で遅延期の開始直後に競合が生 じる可能性を示す結果が得られている。今後は、どのような競合メカニズムがどのようなニュー ロン間で作動しているのか、また、競合の結果勝ち残ったニューロンが同じ特性をもつニューロ ンを動員するのかどうかを検討する必要があると考えている。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 船橋 新太郎 発表論文 英文 (1)原著論文 Ichihara-Takeda, S. & Funahashi, S. Activity of primate orbitofrontal and dorsolateral prefrontal neurons: effect of reward schedule on task-related activity. J. Cog. Neurosci. 20, 563-579 (2008). Watanabe, K. & Funahashi, S. Prefrontal delay-period activity reflects the decision process of a saccade direction during a free-choice ODR task. Cereb. Cortex 17, i88-i100 (2007). Ichihara-Takeda, S. & Funahashi, S. Activity of primate orbitofrontal and dorsolateral prefrontal neurons: Task-related activity during an oculomotor delayed-response task. Exp. Brain Res. 181, 409-425 (2007). (2)総説 (3)著書 Funahashi, S. The prefrontal cortex as a model system to understand representation and processing of information. Representation and Brain S. Funahashi (ed.), Springer Verlag, Tokyo, p. 311-336 (2007). Funahashi, S. (ed.). Representation and Brain Springer Verlag, Tokyo, p. 1-360 (2007). Funahashi, S. General-purpose working memory system and functions of the dorsolateral prefrontal cortex. The Cognitive Neuroscience of Working Memory: Behavioural and Neural Correlates N. Osaka, R.H. Logie, & M. D'Esposito (eds.), Oxford University Press, p. 213-229 (2007). 和文 (1)原著論文 田中暁生、船橋新太郎:サルを用いたメタ記憶の神経生理学的研究に向けて. 霊長類研究 23, 91-105 (2007). (2)総説 (3)著書 船橋新太郎:感情の神経科学. 藤田和生編 感情科学 京都大学学術出版会 p.85-110 (2007). 第2領域 (公募班員) 研究課題名 大脳皮質回路の結合選択性 研究代表者名 川口 泰雄 所属・職名 自然科学研究機構・生理学研究所・教授 E-mail yasuo@nips.ac.jp 研究分担者名 分担者所属 研究成果報告書 大脳皮質の構造に関しては、それを構成している細胞の種類がようやくわかり始めたところ で、機能的回路の構築ルールの多くはまだほとんどわかっていない。私たちは、大脳皮質の局所 神経回路構成、ニューロンタイプの機能分化、結合パターンを調べることを目標にしている。大 脳皮質の重要なモデュレーターであるアセチルコリンは覚醒・認知機能に深く関与する重要な伝 達物質であるにも関わらず、多様なタイプからなる皮質ニューロンへの作用については、研究グ ループ間によって大きく異なる考え方が出されてきた。今年度は、皮質ニューロンタイプへのア セチルコリンの一過性応答を、皮質細胞のサブタイプごとに、再検討した。 アセチルコリンを持続的に投与する実験から、皮質投射ニューロンである錐体細胞に対する主 たる作用は興奮性だと考えられ、投与初期に一過性に現れる過分極は GABA 細胞、特に、その 主なサブタイプである FS 細胞の一過性興奮による抑制性シナプス電位だと思われてきた。しか し、可視化した細胞にアセチルコリンを短時間与えると5層錐体細胞には、抑制性シナプス電流 でなく、ムスカリン受容体の活性化・Ca 濃度上昇による K チャネルが開くことで過分極が起き ることがわかってきた。一方、アセチルコリンの GABA 細胞への作用について、私たちは持続 的に投与するとムスカリン受容体を介して、ソマトスタチン細胞、VIP 細胞が脱分極してスパイ ク発射するが、パルブアルブミン陽性 FS 細胞やニューログリア細胞の膜電位には殆ど影響がな く、持続的ムスカリン応答にはニューロンタイプ依存性があることがわかった。アセチルコリン の短時間作用については、錐体細胞の場合と同じく、GABA 細胞についても研究グループ間に よって異なる考え方が出されている。今回、皮質ニューロンタイプへのアセチルコリンの一過性 応答を再検討した。 どの皮質領域にいても、ムスカリン性過分極は錐体細胞では5層のものに限られ2・3層では 見られず、GABA 細胞では CCK 陽性の大型バスケット細胞でみられた。しかし、過分極に関わ る受容体は5層錐体細胞では m1 であったのに対して、CCK バスケット細胞では m2 であり、そ の誘発機構は異なると考えられた。ニコチン性脱分極は、VIP 細胞やニューログリア様細胞で起 こすことができた。FS 細胞、ソマトスタチン細胞では、他のグループによる報告とは異なり、 一過性応答は殆ど観察できなかった。 これらと私たちの以前の持続的投与結果と合わせると、アセチルコリンは皮質下構造に投射す る5層錐体細胞を一過性に直接抑制する一方、抑制性ニューロンではニコチン受容体による脱分 極・ムスカリン受容体による過分極・ムスカリン受容体による緩徐な持続的脱分極がサブタイプ ごとに異なる組み合わせで発現し、これらを介して抑制性回路活動を調節していることが明らか になった。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 川口 泰雄 発表論文 英文 (1)原著論文 Uematsu, M., Hirai, Y, Karube, F., Ebihara, S., Kato. M., Abe, K., Obata, K., Yoshida, S., Hirabayashi, M., Yanagawa, Y. & Kawaguchi, Y. Quantitative chemical composition of cortical GABAergic neurons revealed in transgenic Venus-expressing rats. Cereb. Cortex 18, 315-330 (2008). Gulledge, A.T. & Kawaguchi, Y. Phasic cholinergic signaling in the hippocampus: functional homology with the neocortex? Hippocampus 17, 327-332 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 脳機能画像、皮質電気刺激、皮質電位計測による高次脳機能の画像化 研究代表者名 鎌田 恭輔 所属・職名 東京大学 医学部 研究分担者名 1, 増谷佳孝、2, 竹内文也 分担者所属 1, 東京大学医学部放射線科 E-mail 脳神経外科 kamady-k@umin.ac.jp 特任講師 講師、2, 北海道大学医学部保健学科 準教授 研究成果報告書 【目的】脳磁図(MEG), 機能 MRI(fMRI)をはじめとする脳機能画像の飛躍的な進歩により、言語 優位半球の同定が可能になった。しかし、機能画像の活動領域局在に関する検証は十分に行われ ていない。本検討では言語課題による機能画像と、慢性硬膜下電極による誘発皮質電位(ECoG) による脳機能マッピングとの比較・検討を行った。【方法】難治性てんかん患者26症例にてん かん焦点同定のために慢性硬膜下電極を留置した。全例 Wada test により言語優位半球を同定し た。言語機能が左、または右に強く偏位し、かつ WAIS-R による平均 IQ が 70 以上の 15 症例つ いて解析した。文字読み、記憶、語想起、P300 課題をおこない、認知 ECoG 取得した。ECoG は加算平均、Wavelet 法による時間周波数解析を行った。 【結果】機能 MRI では、主に片側の中、 または下前頭回周辺に活動を認めた。脳磁図では優位半球側内紡錘回と、上側頭回後部にダイポ ールの集積を認めた。ECoG は文字読み課題では紡錘回後部に 200-300msec の潜時で急峻な電位 変化をみとめ(100%)、優位半球上下-中前頭回に 300-400msec に活動、それに引き続いて上側頭 回~縁上回に 400msec 以降の遅い認知反応(77%)を検出した。刺激後 600msec 以降に再び前頭葉 と側頭葉は同時に活動していた。これらの活動部位の皮質電気刺激により言語関連機能の障害を みとめた。時間-周波数解析では、前頭葉は Beta 帯域成分の脱同期、側頭葉は Gamma 帯域成分 の同期を認めた。文字読み課題に対する前頭葉、側頭葉における活動周波数の違いがあることが 明らかになった。【総括】ECoG 計測は短時間に広範な脳皮質の活動状況を捉えることできた。 今後は前頭葉、側頭葉内の活動部位の詳細な検討と、ECoG 活動を構成している周波数成分の解 析を行っていくことが重要である。また、記憶、文法課題などを併用することで前頭葉、側頭葉 内活動の経時的-空間的変化を観察することが可能となる。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 鎌田 恭輔 発表論文 英文 (1) 原著論文 Sawamura, Y., Kamada, K. & Shirato, H. Role of Surgery for Optic pathway / Hypothalamic Astrocytomas in Children. Neuro-Oncology in press. Maruyama,K., Kamada, K., Ota,T., Koga, T., Itoh, D., Ino, K., Aoki, S., Tago, M., Masutani, Y., Shin, M. & Saito, N. Tolerance of Pyramidal Tract to Gamma Knife Radiosurgery Based on Diffusion-Tensor Tractography.Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. in press. Egawa, K., Asahina, N., Shiraishi, H., Kamada, K., Takeuchi, F., Nakane, S., Sudo, A., Kohsaka, S.& Saitoh, S. Aberrant somatosensory-evoked responses imply GABAergic dysfunction in Angelman syndrome. Neuroimage 39(2), 593-599 (2008). Kamada, K., Sawamura, Y., Takeuchi, F., Kuriki, S., Kawai, K., Morita, A.& Todo, T. Expressive and receptive language areas determined by a non-invasive reliable method co-utilizing fMRI and MEG. Neurosurgery 60(2), 296-306 (2007). Sakurai, K., Tanaka, N., Kamada, K., Takeuchi, F., Takeda, Y. & Koyama, T. Magnetoencephalographic studies of focal epileptic activity in three patients with epilepsy suggestive of Lennox-Gastaut syndrome. Epileptic Disord. Jun;9(2),158-63 (2007). Maruyama, K., Kamada, K., Shin, M., Itoh, D., Masutani, Y., Ino, K., Tago, M. & Saito, N. Optic radiation tractography integrated into simulated treatment planning for Gamma Knife surgery. J.Neurosurg. 107(4) 721-6 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1) 原著論文 鎌田恭輔、斉藤延人:3TMRI による 3 次元画像再構成の有用性. -heavy-T2 強調/MR angiography 融 合画像を用いた脳神経/血管構造において. 新医療 8 月号 104-108 (2007). 鎌田恭輔、青木茂樹、増谷佳孝、井野賢二、藤堂具紀、川合謙介、太田貴裕、斉藤延人:Fiber tracking の脳腫瘍手術ナビゲーションへの応用. 臨床放射線 52(6), 759-765 (2007). (2)総説 鎌田恭輔、青木茂樹、斉藤延人:脳実質内脳腫瘍の手術 -navigation 手術の実際と最近の進歩-. 画 像診断 in press. 鎌田恭輔、太田貴裕、川合謙介、藤堂具紀、川原信隆、森田明夫*、斉藤延人:機能 MRI/MEG を 用いた術前言語機能局在診断. 脳神経外科ジャーナル 17(1) 4-12 (2008). 鎌田恭輔、川合謙介、太田貴裕、斉藤延人:頭蓋内疾患に対する脳磁図を用いた機能的アプロー チ。「生体の磁気に迫る」. 解説 日本応用磁気学会誌 まぐね 3(2), 73-81 (2008). 鎌田恭輔、川合謙介、太田貴裕、斉藤延人: 多モダリティ機能画像/モニタリングを併用した脳神 経外科手術の実際と展望. 脳神経外科ジャーナル 16(3),206-214 (2007). 森田明夫、鎌田恭輔、加我君孝:脳幹聴覚インプラントの実際. Clinical Neuroscience 25 (11), 1287-1289 (2007). (3)著書 鎌田恭輔、川合謙介、太田貴裕、斉藤延人: てんかん治療戦略における機能 MRI, 脳磁図、 tractography, 脳皮質電気刺激融合脳機能マッピング. 難治性てんかんの画像と病理(秀潤社) 14, 217-227 (2007). 第2領域 (公募班員) 研究課題名 統語的・語彙的プライミングを用いた再帰的計算能力を支える皮質構造の解 明 研究代表者名 酒井 弘 所属・職名 広島大学・大学院教育学研究科・准教授 研究分担者名 玉岡賀津雄 1, 宮谷真人 2 分担者所属 1) 広島大学・留学生センター・教授 2) 広島大学・大学院教育学研究科・教 E-mail hsakai@hiroshima-u.ac.jp 授 研究成果報告書 本研究の目的は,人間言語に固有の特性である「再帰的計算によって統語構造を構築する能力」 の認知神経基盤を明らかにすることである.そのための手がかりとして「統語的プライミング」 と呼ばれる現象に注目し,反応時間,眼球運動,事象関連電位などを計測する心理言語学実験を 通して構築された統語処理の認知モデルを,fMRI を使用した脳機能イメージングを通して得ら れた皮質活動のデータと対応づけることを試みる.このような方針のもとで,本年度は次の(1) 〜(4)の研究を実施した.(1)文産出時における統語構造構築の過程を探るため,受動文の産出過 程における統語的プライミング効果を探る行動実験を実施し,受動文産出の際に顕著なプライミ ング効果が観察されること,効果は主に文法関係を決定する段階で生じていることを明らかにし た.(2)文理解の過程を探るため,かきまぜ文の処理過程に関する行動実験及び事象関連電位計 測実験を実施した.話者がかきまぜ語順に気付いた時点と,文末の動詞を処理する時点の二箇所 で主要な処理負荷の増大が見られること,かきまぜ語順に気付いた時点で N400 と呼ばれる事象 関連電位成分が観察されることがわかった.(3)敬語文処理の脳機能イメージング実験(東京大 学大学院総合文化研究科酒井邦嘉准教授との共同研究)を実施し,研究成果を学術誌 Brain and Language に掲載した.(4) 話者が言語を処理する際に,視覚呈示されるオブジェクトをどのよう に注視するか計測する「視覚世界パラダイム」と呼ばれる実験方法を用いて,文の産出過程にお けるメッセージの組み立て,文法関係の決定,語順の決定などの複数の過程の関与について検討 し,文頭の単語の産出と平行して文法関係の決定が行われていることを示唆する結果を得た.こ れらの研究成果を日本言語学会,日本心理学会,CUNY Conference on Human Sentence Processing, Tokyo Conference on Psycholinguistics など国内外の学会で発表するとともに,前年度までの研究 成果を学術誌 Journal of East Asian Linguistics や Cognitive Studies に掲載した.研究成果の発信 と情報交換を目的として国際学会 Mental Architecture for Processing and Learning of Language 2007 を開催するとともに,脳機能イメージング研究に関する研究情報を入手して意見交換を行うた め,香港大学認知脳科学中核研究拠点から Li-Hai Tang 教授を招聘し,講演会を実施した. 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 酒井 弘 発表論文 英文 (1)原著論文 Momo, K., Sakai, H. & Sakai, K. L. Syntax in a Native Language still Continues to Develop in Adults: Honorification Judgment in Japanese. Brain Lang. in press. Tanaka, J., Tamaoka, K. & Sakai, H. Effects of Syntactic Priming and Verb Repetition in the Comprehension of Japanese Sentences. In Sakamoto, T. (ed.) Communicating Skills of Intention 213-237, (2007). Ivana, A. & Sakai, H. Honorification and Light Verbs in Japanese.J.East Asian Linguistics 16, 171-191 (2007). Tanaka, J., Tamaoka, K. & Sakai, H. Syntactic Priming Effects on the Processing of Japanese Sentences with Canonical and Scrambled Word Orders. Cognitive Studies: Bulletin of the Japanese Cognitive Science Society 14(2), 173-191 (2007). Ono, H., Tanaka, J. & Sakai, H. Word Order and Clause Boundary Insertion: Behavioral and ERP Studies. Japanese Institute of Electronics, Information and Communication Engineers Technical Report 107, (Proceedings of Mental Architecture of Processing and Learning of Language 2007), 115-120 (2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 龍盛艶、 羅薇、 鄧瑩、 小野創、 酒井弘:時間副詞と動詞アスペクトの関係が日本語の文処理 過程に及ぼす影響. 信学技報 (電子情報通信学会技術研究報告) 107, 57−60 (2007). 佐藤淳、 カフラマン バルシュ、 小野創、 酒井弘:関係節処理における普遍性と個別性—日本 語使役関係節の処理を通して—. 信学技報 (電子情報通信学会技術研究報告) 107, 51−56 (2007). 鄧瑩、 小野創、 酒井弘:日本語の文産出における統語的プライミング効果と予測メカニズム— 能動・受動文を用いた文完成課題による検討—. 信学技報 (電子情報通信学会技術研究報告) 107, 29−34 (2007). チュウ ロザリン、 小野創、 酒井弘:未解決の依存関係によって生まれる処理負荷—日本語の否 定副詞を用いて—. 信学技報 (電子情報通信学会技術研究報告) 107, 17−22 (2007). (2)総説 (3)著書 第2領域 (公募班員) 研究課題名 意味記憶の神経基盤 研究代表者名 小森憲治郎(田邉敬貴) 所属・職名 愛媛大学 大学院医学系研究科 脳とこころの医学・講師 研究分担者名 福原竜治 分担者所属 愛媛大学 医学部附属病院 精神科神経科 E-mail kkomori@m.ehime-u.ac.jp 研究成果報告書 われわれは、側頭葉前方部の限局性萎縮に伴う意味性認知症(semantic demnetia: SD)例に対す る神経心理学的検討から、意味記憶システムの神経基盤解明をめざしている。今回、病初期の語 義失語像から観察し得た SD 症例の 3 年間の推移を、言語課題成績と統計画像によって解析し、 意味記憶システムの機能局在に関する重要な所見を得た。 (方法) 被験者:症例は初診時 59 歳右利き男性。モノの名前が思い出せないことを主訴に愛媛大学医学 部附属病院精神科神経科外来を受診。 課題:語の親密度を統制した具象漢字語 80 語に対する呼称・理解(聴覚/視覚) ・音読・線画連 合・語彙判断を行い、語彙能力の多角的な検討を計 3 回(初診時、1 年後、3 年後)実施し、併 せて 99mTc-HM PAO SPECT を施行し、健常高齢者(20 名:男性 10 名,女性 10 名、全例右利き) の脳血流と SPM2 を用いて比較した。 (結果) 初年度:呼称・漢字語音読・理解・線画連合の順で低下したが、語の音韻形式の保存を問う語彙 判断では低下が認められなかった。SPM2 では左側頭極(BA38)に限局した血流低下を認めた。 1 年後:呼称・音読・理解の低下が著しく、線画連合もさらに低下した。また語彙判断にも誤り が生じるようになった。左半球の血流低下部位は、中側頭回(BA21)、から下側頭回(BA22) に伸び、両側前頭葉眼窩面(BA11)、ならびに右側頭葉極(BA38)にも血流低下が認められる ようになった。 3 年後:呼称・音読はわずかに数語で正答できるのみで、音読では多彩な錯語が出現。理解も全 般に低下し、選択肢におけるカテゴリー効果が乏しくなった。線画連合は 56%に、語彙判断は 70%に低下した。左半球では、扁桃体・海馬前方部にも血流低下が及んだ。右半球では下側頭回 の血流低下が認められるようになった。 (考察および結語) 左側頭極(BA38)から中・下側頭回(BA21・22)へと病巣が拡がるにつれ、語の産生ならびに 理解の障害は次第に強固となり、語そのもののすなわち意味記憶の貯蔵障害を示唆する重篤な語 義失語を呈する。さらに右側頭葉(BA38)の機能低下が加わると、語義失語から対象そのもの の意味記憶障害に伸展する可能性が確認されつつある。 第2領域 (公募班員) 研究代表者名 小森 憲治郎 発表論文 英文 (1)原著論文 Shinagawa, S., Ikeda, M., Toyota, Y., Matsumoto, T., Matsumoto, N., Mori, T., Ishikawa, T., Fukuhara, R., Komori, K., Hokoishi, K. & Tanabe, H. Frequency and clinical characteristics of early-onset dementia in consecutive patients in a memory clinic. Dement. Geriatr. Cogn. Disord. 24, 42-47(2007). Toyota, Y., Ikeda, M., Shinagawa, S., Matsumoto, T., Matsumoto, N., Hokoishi, K., Fukuhara, R., Ishikawa, T., Mori, T., Adachi, H., Komori, K. & Tanabe, H. Comparison of behavioral and psychological symptoms in early-onset and late-onset Alzheimer's disease. Int. J. Geriatr. Psychiatry 22, 896-901(2007). (2)総説 (3)著書 和文 (1)原著論文 樫林哲雄、小森憲治郎、鉾石和彦、福原竜治、蓮井康弘、豊田泰孝、池田学、田邉敬貴:短期入 院を経てグループホーム導入を行った意味性認知症の 1 例. 精神医学 49(4), 385-391(2007). 石丸美和子、真田順子、小森憲治郎、池田学、田邉敬貴:伝導失語の要素を伴った進行性流暢性 失語例の経時的検討.神経心理学 23(2),144-150(2007). 石丸美和子、小森憲治郎、真田順子、池田学、田邉敬貴:進行性失語の経過中に鏡現象を呈した 一例. 高次脳機能研究 27(4), 327-336(2007). 田中康裕、池田学、石川智久、森崇明、小森憲治郎、田邉敬貴:軽度認知障害から初期アルツハ イマー型認知症像を呈し、レビー小体型認知症の診断に至った一症例. 老年精神医学雑誌 18(6), 646-651(2007). (2)総説 小森憲治郎:辞書を失った認知症.こころの科学 138,29-35(2008). 田 邉 敬 貴 : ピ ッ ク 病 の 位 置 づ け — 前 頭 側 頭 型 認 知 症 と の 関 連 —. 老 年 精 神 医 学 雑 誌 18(6), 585-590(2007). (3)著書 小森憲治郎:意味記憶. 渡辺 茂、岡市広成(編)『比較海馬学』ナカニシヤ出版 253-269(2008). 小阪憲司、田邉敬貴:トーク認知症;臨床と病理. 医学書院 (2007). 小森憲治郎、田邉敬貴:語義失語. 岩田 誠、河村 満(編) 『神経文字学』医学書院 45-62(2007).
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