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卒業論文
核力ポテ ン シャ ルの一般化分離展開法
総合シス テ ム 工学科 11111021 菅沢早帆 指導教員: 鎌田裕之
平成 27 年 2 月 5 日
目次
第 1 章 序論
1.1 研究課題の目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1.2 論文の流れ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
第2章
2.1
2.2
2.3
2.4
シ ュ レ ディ ン ガー方程式と リ ッ プマ ン ・ シ ュ ウ ィ ン ガー方程式
座標表示に おけ る シュ レ ディ ン ガー方程式 . . . . . . . . . . .
運動量表示に おけ る シュ レ ディ ン ガー方程式 . . . . . . . . . .
リ ッ プマ ン ・ シュ ウ ィ ン ガー方程式 . . . . . . . . . . . . . . .
2.3.1 束縛状態 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2.3.2 散乱状態 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
リ ッ プマ ン ・ シュ ウ ィ ン ガー方程式の解法 . . . . . . . . . . .
2.4.1 現実的ポテン シャ ルを 用いた LS 方程式の解法 . . . . .
2.4.2 解の収束性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2.4.3 λが負で λ2 > 1 に な る 場合 . . . . . . . . . . . . . . .
2.4.4 ア ルゴ リ ズム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
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2
3
3
5
5
6
8
8
9
10
10
11
15
15
第3章
3.1
3.2
3.3
分離展開法
18
分離型ポテン シャ ルに よ る LS 方程式の解法 . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
一般化分離展開法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
分離度の評価 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
第4章
4.1
4.2
4.3
4.4
計算結果
核力ポテン シャ ル . . . . .
現実的核力 . . . . . . . .
重陽子の波動関数 . . . . .
分離型ポテン シャ ルの評価
4.4.1 rank1 の場合 . . .
4.4.2 rank2 の場合 . . .
4.4.3 波動関数と 分離度 .
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24
24
25
26
29
34
34
42
第 5 章 結論およ び今後の展開
49
付録 A (2.52) 式の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 50
付録 B ガウ ス の掃き 出し 法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 50
1
概要
核力ポテン シャ ルは、 一般的に分離型と いう 形式で与え ら れて いな い。 分離型に変形する
こ と によ っ て 、 少数多体系の分離型ポテン シャ ルを 作製する 。 行列の階数は積分点の数よ
り も 格段に少な く な る ため、 容易に解く こ と ができ る 。 本研究の目的は、 一般化分離展開
法 (GSE: Generalized Separable Expansion) を 用いて 、 そ の展開法が階数 (rank) のと り
方によ っ て ど のく ら い精度が高い計算ができ る かを 評価する こ と である 。 現実的核力モデ
ルと し て ボン ( Bonn) グループの開発し た ポテ ン シャ ルを 採用し た 。 重陽子の波動関数
の量子数は、 3 S1 − 3 D1 の部分波を 持っ て おり 、 S 波 (l = 0) と D 波 (l = 2) の混成軌道に
あ る 。 分離型ポテ ン シャ ルを 分離度に よ っ て 評価を 行っ た 。 そ の結果、 rank1、 rank2 に
ついて そ れぞれ 17.3 % 、 42.0 % と な り 、 ま た、 波動関数も rank が高く な る に つれて そ の
精度 (内積の 2 乗) が 96.7 % から 99.0 % へと 向上する こ と が理解でき た。
第1章
序論
原子核は 1f m = 10−15 m と 言う 大き さ で、 原子分子のそれよ り も 6 桁も 小さ な 宇宙に存
在し て いる 。 今日のエレ ク ト ロ ニク スではコ ン ピュ ータ ーの素子や発光ダイ オード ( 2014
年のノ ーベル物理学賞が日本人 3 名に与え ら れた事は耳に新し い) と いっ た物質科学の基
盤と な っ た も のも 量子力学であ る 。 そ の量子力学の創成期に はア イ ン シュ タ イ ン 、 ボー
ア、 ディ ラ ッ ク、 フ ァ イ ン マ ン な ど 多く の天才達に よ る 試行錯誤があっ た。 そ の舞台は原
子核と 電子に あっ た。
九州の物理学者長岡半太郎が世界で初めて 原子核はプラ スの電荷を 持ち 、 その周辺を マ
イ ナスの電気を も つ電子が周回する モデル( 土星モデルと 呼ばれた) を 提案し た事はあま
り 知ら れて いな い。 後にラ ザフ ォ ード 等が実験によ っ て こ の事実を 示し たこ と から 、 今日
では土星モデルではな く ラ ザフ ォ ード モデルと し て 知ら れて いる 。
アジアで初めて ノ ーベル賞を 受賞し た湯川秀樹博士は原子核は複数個の粒子( 後に陽子
や中性子と 呼ばれる ) から な る が同じ 符号の電気を も つ粒子間には斥力のク ーロ ン 力が働
く ために原子核は安定に束縛状態を 保て ずバラ バラ に崩壊し て し ま わな け ればな ら な いと
言っ たパラ ド ッ ク ス に 挑み、 今日では中間子論と 言われる 理論に よ っ て そ れを 解決し た。
その中間子論によ れば、 陽子や中性子の間に働く 力は、 重力でも 電磁気力でも な い新し
い力を 予言する も のであっ た。 さ ら にその力は中間子と いう 新し い素粒子によ っ て 生ま れ
る と いう メ カ ニズム も 画期的な も のであっ た。 当時は、 こ の世は光、 電子、 原子核のみで
でき て おり 、 力も 重力と 電磁気力のみである と 考え ら れて いた時代である 。
現代物理学では、 湯川の発見し た力を 「 強い相互作用」 と 呼ばれる 核力に分類さ れて い
る 。 そ の後、「 弱い相互作用」 も 発見さ れ重力、 電磁気力を 合わせて 4 つの基本的な 力が
ある こ と が知ら れて いる 。 原子核を 安定さ せる 力は強い相互作用の方で、 その力の形も 最
初に 湯川に よ っ て 与え ら れた 。 し かし な がら 現代に お いて も そ の核力の正確な 形は確定
し て いな い。 量子力学を 発展さ せた材料と なっ た原子核物理学は、 更に素粒子論や現代宇
宙論への展開を 産み、 発展さ せた。 原子核を 構成する 陽子や中性子( 総じ て 核子と 呼ぶ)
は、 ク ォ ーク と よ ばれる も ので構成さ れ、 2008 年のノ ーベル賞で有名な 小林・ 益川理論
に よ れば、 ク ォ ーク の種類は6 つあり 、 ク ォ ーク の組み合わせに よ っ て 数百の素粒子が予
言さ れ、 発見さ れた 。 ま た 、 量子力学と 一般相対性理論から 導かれる 現代宇宙論に お い
て は、 宇宙の年齢は 137 億年と いう 結果を 導き だし たり 、 ブラ ッ ク ホールや宇宙の大き さ
に ついて 議論ができ る よ う に なっ た。 一方、 先に 述べた物質科学の発展は目覚し く 、 発光
ダイ オード のみな ら ず、 iPhone な ど ハイ テ ク な 電子機器は、 高度な 情報社会のツ ールと
し て 、 人類に は欠かせな い物に なっ て いる 。 こ う いっ た、 高度な 科学技術を 提供し たも の
は、 量子力学、 ひいて は原子核物理学であっ たが、 現代に おいて は、 こ の分野を 研究する
2
物理学者人口は最も 少な い状況にある 。 原子核物理学があま り 顧みら れな い理由は、 社会
的な 要因と し て は放射能や原発事故と いっ た危険を 伴う ネ ガティ ヴな も のにある のかも し
れな いが、 他分野に類を 見な い困難がある から である 。 実験的な 困難は明ら かである 。 ナ
ノ テク と 呼ばれる 最新の技術は原子分子のスケ ールに留ま り 、 その大き さ から 更に6 桁も
小さ な 世界な のでコ ン ト ロ ールが容易ではな い。
原子核の問題は、 有限多体問題と 呼ばれる 。 ニュ ート ン 力学の有限多体問題の代表的な
も のし て 、 3 体問題がある 。 一般に 3 体問題以上に な る と 解析的に 解け な いこ と は、 19 世
紀末に フ ラ ン ス の数学者ア ン リ ・ ポア ン カ レ に よ っ て 証明さ れた。 原子核は、 量子力学で
解く 最大二百数体の核子から な る 有限多体問題であり 、 数値計算によ る 方法でも 、 完全に
解け る 系はス ーパーコ ン ピ ュ ータ を 用いて も 4 核子系止ま り である [1]。
こ のよ う に近似な し で数個の核子から 成る 有限多体系を 研究対象と する 分野に、 少数多
体系原子核物理学がある 。
少数多体系の問題は、 粒子数 N が増加する に し たがっ て 3N の次元の関数を 扱う こ と に
な る 。 Faddeev-Yakubovsky の散乱理論 [2] に よ れば、 第 2 章の散乱状態のと こ ろ で述べ
たよ う に 境界条件が加わり 複雑化し 、 粒子のチャ ン ネ ルの数 C も 必要に な る 。 すな わち 、
C = 21N N !(N − 1)! であ る た め、 そ れは解く べき 方程式の数に 等し く 3 体で 3 個、 4 体で
は 18 個と な る が、 5 体問題では 180 個に膨ら む。 問題を 有効に解く ためには、 いかに自由
度を 減少さ せる かが鍵である 。 本研究では 2 体問題の範囲である ため、 粒子のチャ ン ネ ル
の問題と は直接関連を 持たな いが、 間接的に 多体問題を 扱う ための基礎的な 課題と し て 2
体系のレ ベルで自由度を 減ら すこ と は極めて 重要に な る 。
1.1
研究課題の目的
核子間ポテン シャ ルはテン ソ ル力等を 含むため、 一般に複雑である 。 原子核のよ う な 少
数多体問題を 扱う ために は、 そ の基本単位である 2 体力( 核力) を 精度を 保ち な がら 簡単
化 (粗視化) する こ と が必要にな る 。 その技術の一つに分離展開法がある 。 分離展開法には
数種類あ る が、 本研究では一般化分離展開法 (GSE:Generalized Separable Expansion)[3]
を 採用する 。 陽子と 中性子の束縛状態である 重陽子 (2 H) 状態に ついて 、 作成し た分離型
ポテン シャ ルの精度を 調査する 。
1.2
論文の流れ
第 2 章で量子力学を 解く ため、 リ ッ プマ ン・ シュ ウ ィ ン ガー方程式を 導入する 。 こ れは
シュ レ ディ ン ガー方程式と 等価な 積分方程式である が、 散乱問題を 扱う 上で境界条件を 直
接加え て 解く こ と ができ る 利点がある 。
第 3 章は本研究の中心的な 部分である 。 分離展開法に よ っ て 、 第 2 章で扱っ た積分方程
式を 行列方程式に書き 直すこ と によ っ て 解け る こ と を 示す。 次に分離展開法ついて 一般化
分離展開法 (GSE)[3] を 採用し 、 そ の方法に よ っ て 一般のポテン シャ ルがど のよ う に 展開
さ れる かを 解説する 。 分離段階の展開の精度を 評価する ための関数( 評価関数) を 定義す
3
る 。 こ れは次章で具体的に分離展開さ れたポテン シャ ルが元のポテン シャ ルから ど の程度
の精度で近似でき たかを 評価する ためのツ ールに な る 。
第4 章では、 核力のモデルと し て 最も 用いら れて いる 現実的ポテン シャ ルの 1 つにボン
(Bonn) ポテ ン シャ ル [4] を 用いて 、 数値計算を 行う 。 具体的に そ のポテ ン シャ ルを 選び、
重陽子に ついて 計算結果を 示す。 波動関数や結合エネ ルギーを 求める 。 分離型ポテン シャ
ルを 作成し それによ っ て 得ら れた波動関数や結合エネ ルギーを 元のそれら と 比較する こ と
に よ っ て 評価する 。 さ ら に 評価関数を 用いて 分離の程度を 定量化する 。
結論およ び今後の発展課題は第 5 章に ま と める 。
4
第2章
シ ュ レ ディ ン ガー方程式と リ ッ プ
マ ン ・ シ ュ ウ ィ ン ガー方程式
こ こ では量子力学を 解く ための基本と な る シュ レ ディ ン ガー方程式から 出発する 。 シュ
レ ディ ン ガー方程式は座標表示では微分方程式と し て 与え ら れる 。 量子力学を 表現する 方
法には、 座標表示のほかに運動量表示と いう も のがある 。 ま ずシュ レ ディ ン ガー方程式を
運動量表示にする 。 運動量表示にする こ と の利点は散乱状態を 記述する ために用いら れる
散乱行列を 直接計算する こ と ができ る こ と に ある 。 さ ら に シュ レ ディ ン ガー方程式はリ ッ
プマ ン シュ ウ ィ ン ガー方程式 [5] に 書き 換え る こ と に よ っ て 散乱の境界条件を そ の積分方
程式に与え る こ と ができ る 。 こ の方程式から 得ら れた散乱行列を 用いて 原子核の散乱実験
で測定さ れる 微分断面積を 求める こ と ができ る 。
余談である が、 シュ ウ ィ ン ガーは、 日本の朝永振一郎と と も に 1965 年に ノ ーベル賞を
受け て いる 。
2.1
座標表示におけ る シ ュ レ ディ ン ガー方程式
時間に 依存し な いシュ レ ディ ン ガー方程式はディ ラ ッ ク のブラ ケ ッ ト 表記を 用いる と
Ĥ| ψ >= E| φ >
(2.1)
と 表記さ れる 。 こ のと き の Ĥ は考え て いる 系に 対する エネ ルギーを 量子化し た 演算子ハ
ミ ルト ニア ン であり 、
Ĥ = Ĥ0 + V̂
(2.2)
と 表さ れる 。 V̂ はポテ ン シャ ルを 表し 、 Ĥ0 は運動エネ ルギーを 表す。 座標表示では、 通
常の場合、 ポテン シャ ル演算子は局所的な のでディ ラ ッ ク のデルタ 関数δを 用いて
< x|V̂ |x′ >= V (x) δ (x − x′ )
(2.3)
p2
と かけ る よ う な 運動量 p の関数である ため、 座
2m
ipx
標表示では微分演算子に な る 。 平面はを < x|p >= e h̄ と 表記すれば、 固有値方程式
と 表さ れる 。 ま た Ĥ0 は固有値と し て
Ĥ0 < x|p >=
p2
< x|p >
2m
5
(2.4)
を みたす演算子は明ら かに
Ĥ0 = −
h̄2 d2
2m dx2
(2.5)
と な る 。 従っ て 、 Ĥ の行列要素は
< x|Ĥ|x′ >=< x|Ĥ0 |x′ > + < x|V̂ |x′ >
= Ĥ0 + V (x) δ (x − x′ )
Z
と な る 。 更に 恒等演算子 1 = |x >
dx′ < x| を 用いて
(2.6)
Z
′
< x|Ĥ|x >=< x|Ĥ |x′ > dx′ < x′ | ψ >
Z
=
< x|Ĥ|x′ > ψ (x′ )dx′
= Ĥ(x) ψ (x)
= Ĥ0 ψ (x) + V (x) ψ (x)
h̄2 d2
=−
ψ (x) + V (x) ψ (x)
2m 2x2
(2.7)
が得ら れる 。 よ っ て 座標表示では
−
h̄2 d2
ψ (x) + V (x) ψ (x) = E ψ (x)
2m 2x2
(2.8)
のよ う に書け る シュ レ ディ ン ガー方程式が得ら れる 。 ま た、 こ の式を 三次元に拡張する と 、
h̄2 2
▽ ψ (~r) + V (~r) ψ (~r) = E ψ (~r)
−
2m
に な る 。 こ こ で ▽2 はラ プラ シア ン と 呼ばれ、 ▽2 =
2.2
(2.9)
∂2
∂2
∂2
+
+
である 。
∂x2 ∂y 2 ∂z 2
運動量表示におけ る シ ュ レ ディ ン ガー方程式
ディ ラ ッ ク のブラ ケッ ト 表記を 用いる と 運動量表示のシュ レ ディ ン ガー方程式は p を 任
意の運動量と し て
< p|Ĥ| ψ >= E < p| ψ >
< p|Ĥ0 + V̂ | ψ >= E < p| ψ >
(2.10)
と かかれる 。 h̄ = 1 の単位系を 採用し 、 ま ず運動エネ ルギー演算子 H0 の運動量表示の行
列要素を 計算する と
Z
< p|Ĥ0 | ψ >=< p|Ĥ0 |p′ > dp′ < p′ | ψ >
6
=
=
Z
Z
< p|Ĥ0 |p′ > ψ̄(p′ )dp′
< p|
p2 ′
|p > ψ̄(p′ )dp′
2m
p2
< p|p′ > ψ̄(p′ )dp′
2m
Z 2
p
=
δ (p − p′ )ψ̄(p′ )dp′
2m
p2
ψ̄(p′ )
=
2m
=
Z
が得ら れる 。 次に ポテン シャ ル演算子に 関する 項を 計算する と 、
Z
< p|V̂ | ψ >=< p|V̂
|p′ > dp′ < p′ | ψ >
Z
Z
′
= dp < p| |x > dx < x|V̂
|x′ > dx′ < x′ |p′ >< p′ | ψ >
Z Z Z
1
1
′ ′
=
dxdx′ dp′ p
e−ipx V (x) δ (x − x′ ) p
eip x ψ̄(p′ )
2π
2π
Z Z
1 i(p′ −p)x
′
′
e
V (x)ψ̄(k )dxdp
=
2π
Z
1
Ṽ (p − p′ )ψ̄(p′ )dp′
=
2π
と な り 、 積分型で表さ れる 。 ただし 、 ポテン シャ ルの運動量表示は、
Z
′
′
Ṽ (p − p ) ≡ ei(p −p)x V (x)dx
のよ う に フ ーリ エ変換さ れた も のである 。 よ っ て 、
Z
p2
1
Ṽ (p − p′ )ψ̄(p′ )dp′ = E ψ̄(p)
ψ̄(p) +
2m
2π
(2.11)
(2.12)
(2.13)
(2.14)
と 与え ら れる 。 こ れが、 運動量表示に おけ る シュ レ ディ ン ガー方程式である 。 三次元表現
を 与え る た めに は球座標を 用いる 。 体積素は
d~p = dpx dpy dpz = p2 dp sin θ d θ d φ
に な る で、 一次元のシュ レ ディ ン ガー方程式 (2.14) は
Z Z Z
1
p2
ψ(~p) +
Ṽ (~p − p~′ )ψ(~p)p2 dpsin θ d θ d φ = Eψ(~p)
2m
(2 π)3
(2.15)
(2.16)
と 三次元の式に 書き 直すこ と ができ る 。 ψ̄ の ”-”は以下断ら な い限り 省略する 。 さ ら に 次
のよ う に 部分波展開を 行う と 、
ψ(~p) =
∞
X
(2l + 1)Pl (cos θ)ψl (p),
l=0
7
Z
1 1
ψ(p) =
ψ(~p)Pl (cos θ)dcos θ
2 −1
Z
∞
1 1X ′
(2l + 1)Pl′ (cos θ)ψl′ (p)Pl (cos θ)d(cos θ)
=
2 −1 l′ =0
Z 1
∞
1X ′
Pl′ (x)Pl (x)dx
=
(2l + 1)ψl′ (p)
2 l′ =0
−1
∞
1X ′
2
(2l + 1)ψl′ (p)
δll′
2 l′ =0
2l + 1
= ψl (p)
=
を 得る 。 こ こ での x は cos θである 。 ま た、 ポテン シャ ルも 同様に
X
V (~p, p~′ ) =
(2l + 1)Pl (cos θpp′ )Ṽl (p, p′ )
(2.17)
(2.18)
l
のよ う に 部分波展開する と 、
Z Z Z
V (~p, p~′ )ψ(p~′ )d′2 dp′ dcos θ d φ
Z Z Z X
X
(2l + 1)Pl (cos θpp′ )Vl (p, p′ )
(2l′ + 1)Pl′ (cos θp′ )ψl′ (p′ )p′2 dp′ dcos θp′ d φp′
=
l
l
Z Z Z X
X
∗
(2l′ + 1)Pl′ (cos θp′ )ψl′ (p′ )p′2 dp′ dcos θp′ d φp′
4πYlm
Ylm Vl (p, p′ )
=
l′
Z X lm
X√ √
∗
4π 2l′ + 1δll′ δm′ 0 ψl′ (p′ )p′2 dp′
4πYlm
Vl (p, p′ )
=
lm
Z l′∞
X
3√
=
(4π) 2 2l + 1Yl0∗
Vl (p, p′ )ψl (p′ )p′2 dp′
0
l
Z ∞
X
=
4π(2l + 1)Pl (cos θp′ )
Vl (p, p′ )ψl (p′ )p′2 dp′
(2.19)
0
l
と な る から 、
4π
p2
ψl +
2m
(2π)3
を 得る 。
2.3
2.3.1
Z
∞
Vl (p, p′ ) ψl (p′ )p′2 dp′ = E ψl (p)
(2.20)
0
リ ッ プマ ン ・ シ ュ ウ ィ ン ガー方程式
束縛状態
束縛状態について のリ ッ プマ ン・ シュ ウ ィ ン ガー方程式を 導こ う 。 前節で得ら れた (2.20)
式を 用いて 、 式変形を 行え ば、
Z ∞
1
p2
) ψl (p) = 2
Vl (p, p′ ) ψl (p′ )p′2
(2.21)
(E −
2m
2π 0
8
のよ う に な り 、 さ ら に 変形する と 、
ψl (p) =
1
E−
p2
2m
1
2π 2
Z
∞
Vl (p, p′ ) ψl (p′ )p′2 dp′
(2.22)
0
と な り 、 こ れが束縛状態 (E < 0) のと き のリ ッ プマ ン・ シュ ウ イ ン ガー方程式 (LS 方程式)
1
を 、 グリ ーン 関数と よ ぶ。 こ の様に 、 束縛状態に ついて の
である 。 こ こ で G0 ≡
p2
E − 2m
LS 方程式は、 シュ レ ディ ン ガー方程式と 全く 内容が同じ であ る こ と が理解でき る 。 E は
負だから 、 グリ ーン 関数はど んな 運動量 (0 ≦ p ≦ ∞ ) に 対し て も 発散を し な いこ と は明ら
√
かであ る 。 次節で扱う 散乱状態に ついて 考え る と 、 グリ ーン 関数は p = p0 ≡ 2mE の点
で発散する ため、 こ のま ま ではよ く な いこ と が分かる 。
2.3.2
散乱状態
エネ ルギー E が正の散乱状態 ψ̄(~
p) =< p~|ψ > は、
|ψ >= δ(~p − p~0 )+ < p~|G0 V |ψ >=< p~|p~0 > + < p~|G0 V |ψ >
(2.23)
で与え ら れる 。 こ の式で < p
~| を 省いて 表せば
|ψ >= |p~0 > +G0 V |ψ >
(2.24)
と な り 、 更に 左から V̂ を かけ て < p~′ | ではさ むと
< p~′ |V̂ |ψ >=< p~′ |V̂ |p~0 > + < p~′ |V̂ G0 V̂ |ψ >
(2.25)
Z
Z
1
1
′′
′′
′′
~
~
~
を 得る 。 こ こ で恒等演算子 1̂ = (2π)3
|p > dp < p | =
|p~′′′ > dp~′′′ < p~′′′ | を 用
(2π)3
いれば、
Z
′′
′
′
′
′
T (p~ , p~0 ) ≡ < p~ |V̂ |ψ >= Ṽ (p~ , p~0 )+ < p~ |V̂ |p > dp~′′ < p~′′ |G0 |~p′′′ > d~p′′′ < p~′′′ |V ψ̄ >
Z
1
1
′
~
T (p~′′ , p~0 )dp~′′ = T (p~′ , p~0 )
(2.26)
Ṽ (p~′ , p~′′ )
= V (p , p~0 ) +
′′2
3
p
(2π)
E − 2m + iǫ
を 得る 。 こ れは、 散乱状態のリ ッ プマ ン・ シュ ウ ィ ン ガー方程式である 。 T を 散乱行列と 呼
1
1
< p|G0 |p > である 。 前節で問題提起し たグリ ーン
ぶ。 グリ ーン 関数は G0 ≡
p2
(2π)3
E− 2m +iǫ
関数の発散の問題は次の様に 解決さ れる 。 すな わち 、 (2.26) 式に 現れる グリ ーン 関数の発
散は無限小の ǫ を 与え る こ と によ っ て 積分は主値の部分と 留数の部分に分解でき る 。( コ ー
シーの積分定理) こ のこ と に よ っ て 積分値は有限( 可積分) に な り 、 散乱行列は発散を 起
こ さ な い。 ただし 、 ǫ を 正に する か負に する かに よ っ て 散乱行列は変化する 。 こ の選択は
物理的な 考察が必要に な る が、 散乱理論 [12] から ǫ は正に する こ と が正し い( 自然を 正確
に 記述でき る 意味) こ と が知ら れて いる 。 こ の選択は境界条件の一つと し て 重要であり 、
散乱問題はシュ レ ディ ン ガー方程式を 解く だけ では問題が解け な いこ と を 示唆し て いる 。
9
ま た、 こ の方程式を 部分波で表現する と 、
X
T (p~′ , p~0 ) =
(2l + 1)Pl (cos θp~′ ,p~0 )Tl (p′ , p0 ),
V (p~′ , p~0 ) =
l
X
(2l + 1)Pl (cos θp~′ ,p~0 )Ṽl (p′ , p0 ),
l
Z ∞
1
1
′
′
Tl (p′′ , p0 )p′′2 dp′′
Ṽl (p′ , p′′ )
Tl (p , p0 ) = Ṽl (p , p0 ) + 2
′′2
p
2π 0
E − 2m + iǫ
(2.27)
を 得る 。 こ れら が、 部分波の LS 方程式である 。 こ の方程式から 得ら れた散乱行列を 用い
て 、 原子核の散乱実験で測定さ れる 微分断面積σを 求める こ と ができ る こ と を 示せる が、
こ こ では割愛する [6]。
2.4
2.4.1
リ ッ プマ ン ・ シ ュ ウ ィ ン ガー方程式の解法
現実的ポテン シ ャ ルを 用いた LS 方程式の解法
( 2.22) 式で与え ら れたよ う に 束縛状態のリ ッ プマ ン シュ ウ ィ ン ガー方程式は
Z ∞
1
1
ψ(p) =
V (p, p′ )ψ(p′ )p′2 dp
p2 2π 2
Eb −
0
(2.28)
m
で与え ら れる 。 積分点を Gauss-Legendre の方法で与え る 。 運動量 p は、 n 個の
p → {pi }i=1,...,n
(2.29)
積分点のセ ッ ト と な り 、 そ れぞれの積分点に 対する 波動関数やポテン シャ ルは、
V (p, p′ ) → {V (pi , pj = Vij }i=1,...,n,j=1,...,n
ψ(p) → {ψ(pi ) = ψi }i=1,...,n ,
(2.30)
のよ う に 分割さ れる 。 LS 方程式は( 2.22) は、
ψi =
1
Eb −
p2i
m
n
1 X
Vij ψj p2j ωj
2
2π j
(2.31)
こ こ で ωj は Gauss-Legendre 積分の重みを 表す。 (2.31) 式はさ ら に 、
ψi =
n
X
Kij ψj
(2.32)
j=1
と 書き 直すと 、 こ れは固有値方程式に な っ て いる 。 こ こ で Kij は
Kij =
1
Eb −
p2i
m
1
Vij p2j ωj
2π 2
10
(2.33)
である 。 こ の行列方程式は、 Gauss-Seidel 法に よ っ て 解く こ と ができ る 。 ま ず、 例え ば
(0)
ψj = 1
(2.34)
のよ う に ψi を 0 以外の値に セ ッ ト する 。 こ れを 最初と し て 、
X
(n+1)
(n)
ψi
=
Kij ψj
(2.35)
j
のよ う に 繰り 返すこ と に よ っ て 、
(n)
lim ψi
= ψi
x→∞
(2.36)
のよ う に 解を 得る 。
2.4.2
解の収束性
Gauss-Seidel 法に よ っ て 、( 2.35) 式を 繰り 返すだ け で、 解が求ま る と 書いた 。 こ れは
結合エネ ルギー Eb が求ま っ て いる 場合の話で、 実際に は Eb は与え ら れる も のではな く 、
逆に 解く も のである 。 し た がっ て 、 任意の E に ついて は、 (2.32) 式は、
X
Kij φj = λφi
(2.37)
j
(m)
の固有値方程式に 書き 換え る こ と に な る 。 そ の固有値 λm と そ の固有ベク ト ル φi に
よ っ て 行列 K は
X (m)
(m)
(2.38)
Kij =
φj λm φj
m
(l)
のよ う に 表せる 。 行列 K に 右から φj を かけ る と
X X (m)
X
(l)
(m)
(l)
(
φi λm φj ) φj
Kij φj =
j
=
=
X
m
X
(m)
φi λm
j
X
m
(m)
(l)
φj φj
j
(m)
φi λm δml
(l)
= λl φi
(2.39)
m
(l)
と な る 。 こ こ で φl は規格化の条件
X (m) (l)
φi φi = δlm
(2.40)
i
を 用いた。 (2.34) 式の ψ (0) はこ れら の基底 φ(l) で展開でき 、 Cl を 展開係数と し て
X
(0)
(l)
ψi =
Cl φi
(2.41)
l
11
と かく と 、 そ れを (2.35) 式 (n = 0) に 代入すれば、
X
(0)
(1)
Kij ψj
ψi =
j
=
X
(l)
X
Kij (
j
X
m
(m)
φi λm
Cl φj )
j
X
X
X l (m)
(l)
(l)
Cl φj
=
(
φi λm φj )
=
=
m
X
(m)
φi λm
m
=
X
l
X
l
X
Cl
X
(m)
(l)
φj φj
j
Cl δml
j
(m)
φi
Cm λm
(2.42)
m
と な る 。 n=1 の場合も 同様に 、
X (m)
X (m)
(2)
(2)
φi Cm
φi Cm λ2m =
ψi =
(2.43)
m
m
を 得ら れ、 一般的に 、
(n)
ψi
=
X
(m)
φi
Cm λnm =
m
(n)
を 得る 。 こ こ で、 ψi
(n)
Cm
(2.44)
を 規格化すれば、
||ψ
(n)
(m)
φi
m
ψ̄j
を 得る 。 こ の ψ̄i
X
(n)
|| =
(n)
(n)
ψ
≡ i(n) ,
||ψ ||
s
Xn
(n)
ψi
i
o2
=
s
(2.45)
X
2 λ2n
Cm
m
(0)
(0)
を (2.34) 式で ψi に 仮定し たよ う に 、 ψi に ψ̄i
(0)
ψi ←ψ̄i
(n)
=
X
(m)
φi
m
(2.41) 式の新し い Cm は
(2.46)
m
(n)
λn
Cm qP m
2
2n
l Cl λl
λn
N ew
Cm
≡ Cm pP m2 2n
l Cl λl
のよ う に 再定義でき る 。 (2.34) 式を 繰り 返し 、 さ ら に (2.44) 式は、
X
(n)N ew
N ew2
=
Cm
ψi
φm ,
m
12
を 代入すれば、
(2.47)
(2.48)
(2.49)
(N ew)2
Cm
≡
N ew
pP
Cm
λnm
N ew
λnl )2
l (Cl
(2.50)
と いう さ ら に 新し い係数を 定義でき る 。 こ れら を 一般化する と 、
(N ew)
Cm
と 書く こ と ができ 、
lim
k→∞
k+1
λnm
k
(N ew)
q
≡ Cm
P
(N ew)k
Cm
=
(
1
0
(N ew)k
λnl )2
l (Cl
・・・ λ2m が最大値に な る 場合
・・・ そ の他の場合
(2.51)
(2.52)
が示せる 。 (付録 A を 参照) すな わち 、 以上の繰り 返し を 行う こ と に よ っ て 、 固有値が λ
が最大に な る m に 対応する 固有ベク ト ルが求ま っ て いく 。
2
m
(N ew)k
(m)
= φi ,
(2.53)
∵ max{ λ2i } = λ2m .
(2.54)
lim ψi
k→∞
解く べき 問題は、 (2.31) 式の LS 方程式
X
Kij ψj
λψi =
(2.55)
j
の固有値λが1 に な る 場合に 対応し 、 かつ、 そ れが最大の固有値に な る 場合に 限り 物理
的な 固有ベク ト ル (波動関数) が求ま る こ と に な る 。 (2.35) 式から λは
(n+1)
λ=
ψi
(n)
ψi
(2.56)
に よ っ て 求ま る 。 こ れは (2.33) 式の Kij の中に ある エネ ルギー E の関数である 。
λ = λ (E).
(2.57)
λ (Eb ) = 1
(2.58)
E = Eb で束縛する と き 、
を 満たすこ と が分かる 。 図 2.1 に E と λの関係を イ メ ージし た。 Kij の中のグリ ーン 関数
G0 のと こ ろ で、
1
E−
p2i
m
= G0 (E) < 0
(2.59)
は E に ついて 単調減少関数であ る から 、 λ (E) は正の値であ る から 、 E に ついて 単調増
加関数であ る こ と がわかる 。 図 2.2 に E と G0 の関係を
13
λ
1
E
0
Eb
図 2.1: E と λの関係
G0
2
p /m
0
図 2.2: E と G0 の関係
14
E
λが負で λ2 > 1 になる 場合
2.4.3
P2
E が mi に 近づく ほど 、 λが正であ る 場合に は λ2 を 増加する こ と ができ る 。 と こ ろ が
λが負の値で λ2 が最大値に な る 場合は、 ガウ ス・ ゼーデル法は物理的な 状態に 収束さ せ
る こ と ができ な い。 そ のよ う な λを λ(−) と すれば、
λ(−) < 0,
| λ(−) | > 1
(2.60)
であ る 。 (2.35) 式のかわり に 、
X
1
(n)
(n)
(
Kij ψi − λ(−) ψi )
1 − λ(−) j
X
X (n) (l)
X (m)
1
(m)
(m)
(n)
(−)
=
Cm
φi }
−
λ
)
C
φ
λ
φ
{(
φ
m
i
j
i
l
(−)
1−λ
m
m
l
X λm − λ(−)
(m)
(n)
Cm
φi
=
(−)
1
−
λ
m
(n+1)
ψi
=
(2.61)
に よ っ て 繰り 返し の操作を 行う 。
(n+1)
(n)
Cm
= Cm
λm − λ(−)
λm − λ(−) n−1
=
C
(
)
m
1 − λ(−)
1 − λ(−)
(2.62)
λm − λ(−)
λm + | λ(−) |
=
1 − λ(−)
1 + | λ(−) |
(2.63)
の関係よ り 、
ew
λN
m ≡
のこ λN ew がも っ と も m 番目の固有ベク ト ルのみが繰り 返し の後に 残っ て いく こ と に な
ew
る 。 図 2.3 に (2.63) 式に よ る λm と λN
のグラ フ を 示し た。 こ こ で λm = 1 の物理の解
m
N ew
に ついて は、 λm = 1 と な り 、 最大に な る こ と が分かる 。
2.4.4
ア ルゴリ ズム
以上のこ と から 、 (2.34) 式で初期値を 与え たあと 、 (2.35) 式の繰り 返し を 行う 。 絶対値
が最大の固有値 λm は (2.56) 式に よ っ て 求めら れる 。 λm が負であ る 場合はそ の値を λ
(−)
と する 。 次に 。 (2.35) 式のかわり に (2.61) 式を 用いて 繰り 返し を 行う 。 (2.56) 式に よ っ
ew
て 新し い固有値 λN
が 1 に な る よ う に 行列 Kij の中に ある グリ ーン 関数のエネ ルギー E
m
を 変え て いく 。 以上のア ルゴリ ズム を フ ロ ーチャ ート に し 、 図 2.4 に 示し た。
15
New
λm
1
λ
(−)
−1
ew
図 2.3: λm と λN
の関係
m
0
1
λm
ew
λm = 1 の時 λN
も 1 になる
m
16
!
図 2.4: フ ロ ーチャ ート
17
第3章
分離展開法
2 章で議論し て き た LS 方程式 (2.22) 式に 代入する ポテ ン シャ ルが分離型で与え ら れる
場合、 すな わち 、
V
sep
′
(p, p ) =
N
X
gi (p) λij gi (p′ )
(3.1)
ij
の形を し たポテン シャ ルを 分離型ポテン シャ ルと 言う 。 こ こ で g を 形状因子、 λを 結合定
数と 呼び、 N を ラ ン ク と いう 。 こ の章では、 分離型ポテ ン シャ ルの利点を 調べる 。 ま た、
運動量表示で与え ら れた一般的な ポテン シャ ルを 用いて 分離型ポテン シャ ルを 作る 方法を
紹介し 、 そ のポテン シャ ルの精度に ついて 議論を し て いく 。
3.1
分離型ポテン シ ャ ルによ る LS 方程式の解法
LS 方程式 (2.22) に 上式 (3.1) の分離型ポテン シャ ルを 代入すれば、
1
ψ(p) =
=
p2
m
Eb −
N
X
1
Eb −
p2
m
1
2π 2
Z
0
N
∞X
gi (p)λij gi (p′ )ψ(p′ )p′2 dp′
ij
gi (p)λij Ij
(3.2)
ij
と かけ る 。 Ij は次式で定義さ れる 。
1
Ij ≡ 2
2π
Z
∞
gj (p)ψ(p)p2 dp
(3.3)
0
こ の (3.3) 式に (3.2) 式を 代入すれば、
Z ∞
N
X
1
1
Ij ≡ 2
gk (p) λkl Il ]p2 dp
gj (p)[
p2
2π 0
Eb − m kl
X 1 Z ∞
1
2
=
gj (p)
2 gk (p)p dp λkl Il
2
p
2π 0
Eb − m
kl
X
=
Jjk λkl Il
kl
X
=
Kjl Il
l
18
(3.4)
こ こ で Jjk , Kjl は
Jjk ≡
Kjl ≡
Z
∞
gj (p)
0
N
X
1
Eb −
p2
m
gk (p)p2 dp,
Jjk λkl
(3.5)
Kjl Il = Ij
(3.6)
k
で与え ら れる 。 (3.4) 式は、
N
X
l
と かけ る ので、 こ れは固有値が1 の固有値方程式に な っ て いる 。 2 節の (2.32) 式と 比較す
れば、 表 3.1 に 示し たよ う に 、 固有値、 固有ベク ト ルがそ れぞれ対応し て いる こ と が分か
表 3.1: 積分法定式と 行列方程式の規模の比較
方程式
階数
固有値 固有ベク ト ル 行列
(2.32) 式
(3.6) 式
n ≒ 200
N ≒2
1
1
ψi
Ij
Kij
Kil
る 。 分離型ポテン シャ ルを 用いる こ と に よ っ て 、 大き な 階数の行列 K を 扱わな く て 済み、
こ のこ と に よ り 、 計算の記憶容量と 計算時間を 大幅に 節約でき る 。
3.2
一般化分離展開法
原子核物理学で用いら れる 代表的な 核力間のポテン シャ ルは、 Reid Soft Core, ボン [4],
パリ ス , ナイ メ ーヘン , アルゴン ヌ 等があげら れる 。 こ れら のポテン シャ ルは、 分離型で与
え ら れて いな い。
こ の節ではこ れら のポテン シャ ルから 分離型ポテン シャ ルを 作成する こ と を 考え る 。 分
離型ポテン シャ ルの作成方法はいく つか存在する 。
• EST 法 (Ernst-Shakin-Teylar 法)[7]
• ワ イ ン バーグ法 (Weinberg 法)[8]
• UIM(UnitaryInterpolation Method)[9]
• GSE(一般化分離展開法)[3]
本研究課題は、 こ の中の GSE に ついて 調べ、 現実的ポテン シャ ルの分離展開を 行う 。
分離展開法は、 一意的な 方法でな いため、 一定の条件やモデルを 導入し な け ればな ら な
い。 GSE の場合の条件は次のと おり である 。 すな はち 、 Bateman パラ メ ータ と 呼ばれる
19
運動量 ki (i = 1, ..., N ) を 0 ≦ ki < ∞ の範囲から 定数と し て 用意する 。 も と のポテン シャ
ルを V (p, p′ ) と し 、 分離型ポテン シャ ルを V sep (p, p′ ) と する と 、
V sep (p, kl ) = V (p, kl ),
(3.7)
V sep (km , p′ ) = V (km , p′ )
(3.8)
の条件を 満たすこ と を 要請する 。 (3.7) 式を (3.1) 式と 比較すれば、
N
X
gi (p) λij (kl ) = V (p, kl )
(3.9)
ij
と な り 、 形状因子 gi (p) の p の依存性は V (p, kl ) のみである こ と から 、
gi (p) ≡ V (p, ki )
(3.10)
を 仮定し て みよ う 。
V sep (p, p′ ) =
X
V (p, ki ) λij V (kj , p′ )
(3.11)
ij
p = kl , p′ = km の時、
V sep (kl , km ) =
X
V (kl , ki ) λij V (kj , km ) = V (kl , km )
(3.12)
ij
である から 、
λij = [V (ki , kj )]−1
(3.13)
である こ と が分かる 。 こ れを 一般化分離展開法 [3] と いう 。
3.3
分離度の評価
ポテ ン シャ ルがど の程度分離展開ができ て いる のかを 評価する こ と を 考え る 。 基本的
な 考え 方は、 も と のポテン シャ ルから の誤差 Δ V を 集積し たも のを 計算する こ と で評価
する こ と である 。 即ち 、 元のポテン シャ ルを V (p, p′ ) と し 、 分離展開後のポテン シャ ルを
V sep (p, p′ ) と すれば、
Δ V (p, p′ ) ≡ |V (p, p′ ) − V sep (p, p′ )|,
が誤差であ る 。 こ の二乗を 積分する こ と に よ り 、 次の量 E
R∞R∞
(∆V (p, p′ )2 p2 dpp′2 dp′
0 R0
R
E= ∞ ∞
(V (p, p′ ))2 p2 dpp′2 dp′
0
0
20
(3.14)
(3.15)
を 計算し よ う 。 こ の E は分離型ポテン シャ ルを 特徴づけ る ベーテマ ン (Bateman) パラ メ ー
タ ki の関数と 見る こ と ができ る 。
E = E(k1 , k2 , k3 ,・・・ , kn ).
(3.16)
こ の量が小さ け れば小さ いほど 、 分離展開がよ く でき て いる こ と に な る 。 こ の E を 評価
関数と 呼ぶこ と に する 。
R∞R∞
E の分母= 0 0 V 2 (p, p′ )p2 p′2 dpdp′ は、 湯川型ポテン シャ ルの場合( S 波) を 選ぶと 、
∞
∞
πV0 2 2 (p + p′ )2 + µ2 2 ′2
) log (
)p p dpdp′
′µ
′ ) 2 + µ2
pp
(p
−
p
0
Z0 Z
πV0 2 ∞ ∞
(p + p′ )2 + µ2 2
=(
(log(
)
)) dpdp′
′
2
µ
(p − p ) + µ
0
0
I=
Z
Z
(
(3.17)
である 。 こ こ で、
p + p′ = u,
p − p′ = v
(3.18)
1
p′ = (u − v)
2
(3.19)
すな はち 、
1
p = (u + v),
2
′
)
は
で変数変換を 行え ば、 Jacobian ∂(p,p
∂(u,v)
1
∂(p, p′ )
=
∂(u, v)
2
(3.20)
と な る ので、
dpdp′ =
∂(p, p′ )
1
dudv = dudv
∂(u, v)
2
(3.21)
より、
Z
∞
0
Z
∞
′
dpdp =
0
Z
∞
−∞
Z
∞
1
dpdp =
4
−∞
′
Z
∞
−∞
Z
∞
−∞
1
1
dudv =
2
8
Z
∞
−∞
Z
∞
dudv
(3.22)
−∞
を 得る 。 よ っ て I は
Z Z
u2 + µ 2
π 21 ∞ ∞
)dudv
log2 ( 2
I = ( V0 )
µ
8 −∞
v + µ2
−∞
Z
Z
π
1 ∞ ∞
2
= ( V0 ) 2
(log(u2 + µ2 ) − log(v 2 + µ2 )) dudv
µ
8 Z−∞ Z−∞
∞
∞
π 21
[log2 (u2 + µ2 )
= ( V0 ) 4
µ
8 0
0
−log2 (v 2 + µ2 ) − 2log(u2 + µ2 )log(v 2 + µ2 )]dudv
21
(3.23)
こ れは明ら かに 発散する 。 し たがっ て 、 評価関数の分母が発散すれば E は常に 0 と な り 、
こ の E は良い評価関数と はいえ な く な る 。 そ こ で次式に よ っ て 評価関数を 再定義する 。
R∞R∞
(Δ V )2 G20 (p) p2 dpp′2 dp′
0 R 0
(3.24)
E ≡R ∞
∞ 2
V (p, p′ )G20 (p) p2 dpp′2 dp′
0
0
G0 はグリ ーン 関数で、 G0 ≡
1
2 で与え ら れ、 Eb は重陽子の結合エネ ルギ ー( 約Eb − pm
2MeV) を 選ぶこ と に する 。 こ の評価関数の分母が有限に な る こ と を 示すこ と ができ る 。
束縛状態のリ ッ プマ ン シュ ウ イ ン ガー方程式は、
Z
G0 (p) ∞
ψ(p) =
V (p, p′ )ψ(p′ )p′2 dp′
(3.25)
2π 2 0
と かけ る こ と を 思い出そう 。 こ の方程式の積分核 2π1 2 G0 (p)V (p, p′ ) について のヒ ルベルト シュ ミ ッ ト ・ ノ ルム は次のよ う に 定義さ れる 。
1
NHS ≡ || 2 G0 V ||2HS
2π
Z ∞Z ∞
1
G20 (p)V (p, p′ )2 p2 dpdp′2 dp′
=
2
2
(2π ) 0
0
(3.26)
こ の積分は収束する こ と が示せる 。 具体的に S 波の湯川型ポテ ン シャ ルの場合、
Z ∞Z ∞
′ 2
2
2 2
1
1
2 (p + p ) + µ 2
2 (4π) V0
log
p dpp′2 dp′
(
NHS =
)
2 p′2
′ ) 2 + µ2
p2
(2π 2 )2 0
p
(p
−
p
E−m
0
2 2 Z ∞Z ∞
2
2
(π) V0
1
2u + µ
=
log 2
dudv
(3.27)
(2π 2 )2 µ2 0
(p2 + k 2 )2
v + µ2
0
R∞
こ こ で k 2 = −mEb を 用いた。 0 ( 1 (u+v)12 +k2 )2 log 2 (u2 + µ2 )du を 考え る 。 ロ ピ タ ルの定理
よ り 、 u が十分大き な 所では、
4
d
log(u2 + µ2 ) 2
1
2 2
2
du
)
log (u + µ ) ≒ ( d 1
( 41 (u + v)2 + k 2 )2
( (u + v)2 + k 2 )
du 4
2u
u2 +µ2
)2
(u
+
v)
2
4u
4
=(
)2 < (
)2
2
2
(u + v)(u + µ )
(u + v)u
= (1
(3.28)
と なり 、
Z
∞
(
R
16 v(2R + v)
4
)2 du = 3 {
+ 2logR − 2(R + v)}
(u + v)u
u R(R + v)
を 得る 。 さ ら に こ れを v で積分する と 、
Z ∞Z ∞
4
1 − log2
(
)2 dudv = 16(
)
(u + v)u
R2
R
R
22
(3.29)
(3.30)
と な り 、 発散し な いこ と が示せた 。 即ち 、 NHS は有限の値に な る こ と が分かっ た ので、
(3.24) 式は、 新し い評価関数と し て 評価でき る 。
分離展開が進むに つれて 評価関数の値は一般に 小さ く な る ので、 分離度 S を 次の様に
定義する 。
S(k1 , k2 , ..., kn ) = 1 − E(k1 , k2 , ..., kn )
すな わち 、 分離展開が進めば、 分離度は増加する 。
23
(3.31)
第4章
計算結果
こ の章では、 2 章・ 3 章で述べて き た 理論を も と に 具体的に 数値計算を 行う こ と に よ っ
て 定量的に 分離型ポテン シャ ルの有用性に ついて 調べて いく 。
4.1
核力ポテン シ ャ ル
原子核内の核力がど の様に記述さ れる かの問題は、 現代の物理学ではいま だに解明さ れ
て いな い謎である 。 し かし な がら 湯川理論から 導かれる 核力は
e−µr
V (r) = −V0
r
(4.1)
と いう 形で与え ら れた。 こ のポテン シャ ルを 運動量表示すな わち 、 フ ーリ エ変換する と 、
V (p) =
−4πV0
p2 + µ2
(4.2)
と な る 。 こ れは、 中間子のグリ ーン 関数を 表し て いる 。 中間子の質量は核力のそれと 比べ
る と 小さ い。 そ のため、 中間子は相対論的に 扱われる 。
相対性理論と 量子力学を 組み合わせる と 相対論的量子力学ができ る が、 そ の成功例と
し て 有名な も のに ディ ラ ッ ク に よ る 場の量子論がある 。 ディ ラ ッ ク は電子を 題材に 扱い、
ア イ ン シュ タ イ ン の最も 有名な エネ ルギーと 質量の関係式を 出発点に し た。 c を 高速度と
し て、
E = m0 c2
(4.3)
である 。 こ の式は電子が静止し て いる 場合で、 運動し て いる 場合は、 p を 運動量と し て 、
q
(4.4)
E = mc2 = m20 c4 + p2 c2
と 書く こ と ができ る 。 m0 は特に 静止質量と いう 。 両辺の自乗を 行う と 、
E 2 = m20 c4 + p2 c2
(4.5)
を 得る 。 こ の関数を そ のま ま 量子力学に 移行さ せる と 、
(m20 c4 + p2 c2 )|ψ >= E 2 |ψ >
24
(4.6)
座標表示で表すと 、
(m20 c4 − h̄2 c2
d2
)ψ(x) = E 2 ψ(x)
dx2
(4.7)
に な る 。 こ れを ク ラ イ ン・ ゴルド ン 方程式と いう 。 古典力学を 量子力学へ適応し たシュ レ
ディ ン ガー方程式に 対応する 方程式である 。 (4.6) 式を 変形すれば、
|ψ >=
E2
1
E2
|ψ >
|ψ
>=
m20 c4 + p2 c2
m20 c2 + p2 c2
(4.8)
と な る が、 こ れは2 章で紹介し たリ ッ プマ ン・ シュ ウ ィ ン ガー方程式に 相当する 。 すな わ
ち 、 ク ラ イ ン ・ ゴルド ン 方程式から 求ま る LS 方程式は、 グリ ーン 関数
G0 (p) =
1
+ p2
m20 c2
(4.9)
が現れる 。
こ のこ と から 、 湯川は以上のこ と を 電子ではな く 中間子に あて はめ、 質量 m0 の中間子
が核力に 関わり 、 中間子を 核子から 放出し たり 、 吸収する こ と に よ っ て 力を 作っ て いる と
考え た( 湯川理論)。 こ の考え 方に ノ ーベル賞が与え ら れた。 (4.4) 式と 比較する と 、 µ は
質量に 対応し て いて 、 核力の到達距離が 1f m である こ と から
µ = 1f m−1 ,
m0 ≒ 197.32M eV
(4.10)
を 得る 。 湯川は中間子の質量を 約 200M eV と 予言し た 。 こ れは当時、 陽子、 中間子、 電
子、 光のみに よ っ て 宇宙ができ て いる と 考え ら れて いた 時代に お いて は大胆な 予言であ
り 、 画期的な こ と であっ た。 実際、 今日では湯川の予言し た中間子は発見さ れて おり 、 π
中間子と 呼ばれ、 そ の質量は 140M eV である 。
4.2
現実的核力
(4.1) 式の様に 核力の形を 表すと き 、 そ のポテ ン シャ ルのタ イ プを 湯川型ポテ ン シャ ル
と 言う 。 よ り 実際の核力に 近づけ た も のに Malfliet-Tjon ポテ ン シャ ル [10] があ る 。 2 つ
の湯川型ポテン シャ ルを 重ね合わせし たも のである 。
V (r) = Vk
e−µA r
e−µR r
− VA
r
r
(4.11)
こ れを プロ ッ ト し たも のが図 4.1 である 。 ∼ 0.5fm 内部は斥力芯と よ ばれる コ アがあり 、 2
つの核子は 0.5fm 以上互いに近づく こ と ができ な いこ と を 表し て いる 。 その原因は核子は
フ ィ ルミ オン と 呼ばれる 統計上の粒子に属し て おり 、 そのスピ ン が 21 の半整数である から
である 。 すな わち フ ェ ルミ オン はパウ リ の排他原理にし たがい、 同一粒子から な る 全波動
関数を ψ と し た時に 、
Pij ψ = −ψ
25
(4.12)
10
"pot.date"
0
8
v [MeV]
6
4
2
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
r [fm]
図 4.1: 現象論的ポテン シャ ル (Malfliet-Tjon)
の条件を 満たさ な け ればな ら な い。 こ こ で Pij は粒子交換演算子と 呼び、 i 番めの粒子と j
番目の粒子の交換を 行う も のである 。 2 核子系では (4.12) 式は
(−1)l+t+s = −1
(4.13)
の条件に 書き 変わる 。 こ こ で、 l は 2 体の相対角運動量、 t がア イ ソ ス ピ ン 、 s はス ピ ン の
量子数を それぞれ表す。 部分波状態について のパウ リ 排他原理について 述べたが、 こ のこ
と がただち に 核力の斥力芯の説明に はな ら な い。
核子は素粒子である が、 素粒子物理学において は、 3 つのク ォ ーク によ っ て 構成さ れて
いる と 信じ ら れて いる 。「 信じ ら れて いる 」 と 書いたのは、 ク ォ ーク 単体で実験的に 取り
出さ れて いな い事実があ る から であ る 。 素粒子理論に よ る と 、 単体で取り 出せな い理由
の有力な 考え 方は、 磁石から S 極のみ、 あ る いは N 極のみを 単独では取り 出せな い現象
と 同じ 理屈だと 言われて いる 。 話を 戻すと 、 核力内のク ォ ーク は、 ア ッ プ (up) と ダウ ン
(down) の 2 種類で、 陽子 (uud) と 中性子 (ddu) を 作っ て いる と いう 。 核力の斥力芯は、 こ
の同じ 種類のク ォ ーク 間に 働く 力に よ る も ので、 ク ォ ーク レ ベルのパウ リ の排他原理に
よ っ て 説明さ れる と 考え ら れて いる 。
4.3
重陽子の波動関数
核力の大部分は引力である こ と から 、 束縛状態を 作る 。 核力が引力でな かっ たら 宇宙は
核子だけ のガスででき て おり 、 中性子星やブラ ッ ク ホールは存在する が、 恒星や惑星も な
い。 すな はち 、 生物も 人間も 存在し な い宇宙である 。 (4.11) 式の Malfliet-Tjon ポテン シャ
ルの図の 1f m 辺り から の凹みに 2 つの核子が束縛する 可能性がある 。 陽子と 中性子が束
縛状態を つく り 、 2 H と 書いて 、 重陽子 (deuteron) と 呼ばれる 。 簡単な 考察から 、 陽子と
26
中性子の組み合わせ同様、 中性子2 つが束縛状態を 作る のではな いかと いう 疑問が生じ
る 。 それが現実し な い理由は、 パウ リ の排他原理によ る も ので、 2 つの中性子ある いは2
つの陽子の間に 働く 力は引力であ る も のの、 微弱な 引力であ る た めに 束縛状態を 作る こ
と ができ な い。 し かし な がら 、 こ の非束縛状態にな る 核力のあり かたも 、 宇宙の姿を 作る
大き な 要因で、 も し も 、 中性子同士陽子同士の核力も 強い力であっ たな ら ば、 ど んど ん重
い原子核への反応が進み、 宇宙は鉄な ど の金属のみの星ででき あがり 、 凍り ついたも のに
な っ て いたであろ う 。
2 核子系の束縛状態は、 陽子と 中性子から な る 重陽子 (2 H) がある 。 結合エネ ルギー |Eb |
は、 陽子の質量 (1.67262178 × 10−27 kg)mp と 、 中性子の質量 (1.67492716 × 10−27 kg)mn
と 重陽子の質量 (3.343586 × 10−27 kg)md を 引いた計算
mp + mn − md = 3.396294 × 10−30 kg
(4.14)
に ア イ ン シュ タ イ ン の公式 Δ E = Δ mc2 よ り 、
|Eb | = Δ E = 2.22452M eV
(4.15)
を 得る 。 こ の値は、 原子核全体で 1 核子増え る ごと の平均結合エネ ルギーが 8M eV であ
る こ と と 比べる と 、 弱い結合を し て いる 。 一般に結合エネ ルギーの少な い原子核は、 波動
関数 ψ(r) が十分大き な 相対距離 r で、
√
(4.16)
ψ(r)∼ e− m|Eb |r
のよ う に振る 舞う ため、 結合エネ ルギーが小さ く 、 原子核半径が大き い。 陽子と 中性子の
間に 働く 核力は現代に おいて も 未知の部分が多い。 部分波は全核ス ピ ン J = 1、 軌道核運
動量は l = 0 ま た は 2 の混成軌道で、 内部ス ピ ン s = 1 であ る こ と が知ら れて いる 。 こ れ
を 部分波の表記で 2s+1 lJ =3 S1 −3 D1 と 表す。
2 章で議論し た LS 方程式 (2.26) の数値計算を 行う 。 核力モデルには、 現実的ポテン シャ
ルと 言われる ボン 型 (CDBonn) を 採用する 。 [4] 3 S1 −3 D1 の混合部分波に ついて の LS 方
程式は (2.26) 式ま たは (2.28) 式を 次のよ う に 拡張する 。
!
!
!
Z ∞
1
1
VSS (p, p′ ) VSD (p, p′ )
ψS (p′ )
ψS (p)
p′ dp′ (4.17)
=
′
′
′
p2 2π 2
V
(p,
p
)
V
(p,
p
)
ψ
(p
)
ψD (p)
Eb − m
DS
DD
D
0

=
R∞
1
1
{ 0
p2 2π 2
Eb − m
R∞
1
1
{ 0
p2 2π 2
Eb − m
VSS (p, p′ )ψS (p′ )p′2 dp′ +
′
′
′2
′
VDS (p, p )ψS (p )p dp +
R∞
0
R∞
0
VSD (p, p′ )ψD (p′ )p′2 dp′ }
VDD (p, p′ )ψD (p′ )p′2 dp′ }


こ の方程式を ( 2.29) 式や (2.31) 式のよ う に 積分点を 用いて 、 数値計算式で表す。
ψS,i =
1
Eb −
n
pi
m
n
X
1 X
2
[
V
ψ
p
ω
+
VSD,ij ψD,j p2j ωj ],
SS,ij s,j j
j
2π 2 j
j
27
(4.18)
1.14
1.12
Eigen Value [1]
1.1
1.08
1.06
1.04
1.02
1
0.98
0.96
0.94
-3.5
-3
-2.5
-2
-1.5
-1
Binding Energy [MeV]
図 4.2: 固有値λと 結合エネ ルギー Eb と の関係
28
-0.5
0
4
2
ψ
3/2
ψ [fm ]
0
S
-2
-4
ψ
D
-6
-8
-10
-12
0
1
2
3
4
5
p [fm−1]
図 4.3: 重陽子の波動関数 縦軸のス ケ ールは対数で、 波動関数は log|ψ(p)| を プロ ッ ト し
て いる
ψD,i =
n
1
Eb −
p2i
m
n
X
1 X
2
[
V
ψ
p
ω
+
VDD,ij ψD,j p2j ωj ].
DS,ij
S,j
j
j
2π 2 j
j
(4.19)
こ れを ガウ ス ゼーデル法に よ り 、 Eb = −2.22M eV で解く こ と ができ た [11]。( 2.58) 式に
対応する E − λ 図は具体的に 求ま り 、 図 4.2 に 示し た 。 波動関数 ψS , ψD は図 4.3 に 示し
た。 こ のと き 用いたボン ポテン シャ ル VSS , VSD , VDS , VDD を それぞれ図 4.4, 4.5, 4.6, 4.7
に 3 D プロ ッ ト し た。 ポテン シャ ルのエルミ ート 性から 、
VSD (p, p′ ) = VDS (p′ , p)
(4.20)
の関係を 図から 読み取れる 。
4.4
分離型ポテン シ ャ ルの評価
3 章で議論し て き た一般化分離展開 (GSE)[3] を 用いて ボン ポテン シャ ル [4] の分離展開
を 行う 。
29
V(p,p’) [MeVfm3 ]
10
0
-10
-20
-30
20
15
10
5
0
-5
-10
-15
-20
-25
-30
-35
0
0.5
1
1.5
2
2.5
p[fm−1]
3
3.5
4
4.5
5 0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
5
p’[fm−1]
図 4.4: 現実的ポテン シャ ル (CDBonn) S 波から S 波に 遷移する 部分
30
V(p,p’) [MeVfm3 ]
30
20
10
0
35
30
25
20
15
10
5
0
-5
0
0.5
1
1.5
2
2.5
p[fm−1]
3
3.5
4
4.5
5 0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
5
p’[fm−1]
図 4.5: 現実的ポテン シャ ル (CDBonn) S 波から D 波に 遷移する 部分
31
V(p,p’) [MeVfm3 ]
30
20
10
0
35
30
25
20
15
10
5
0
-5
0
0.5
1
1.5
2
2.5
p[fm−1]
3
3.5
4
4.5
5 0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
5
p’[fm−1]
図 4.6: 現実的ポテン シャ ル (CDBonn) D 波から S 波に 遷移する 部分
32
V(p,p’) [MeVfm3 ]
8
6
4
2
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
p[fm−1]
3
3.5
4
4.5
5 0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
5
p’[fm−1]
図 4.7: 現実的ポテン シャ ル (CDBonn) D 波から D 波に 遷移する 部分
33
4.4.1
rank1 の場合
3.2 節の (3.7) 式で導入し た Bateman パラ メ ータ k を 有効に選ぶために、 結合エネ ルギー
が厳密解に 一致する 点を 探し て みよ う 。
0.1 ≦ k ≦ 5f m−1
(4.21)
の範囲で rank1 の分離型ポテン シャ ルを 次のよ う に 与え た。( (3.17) 式を 参照。)
′
Vllsep
′ (p, p ) =
=
VSS (p, k)
VDS (p, k)
VSD (p, k)
VDD (p, k)
=
!
VSS (k, k)
VDS (k, k)
VSD (k, k)
VDD (k, k)
!
!−1
VSD (p, p )
VDS (p, p′ ) VDD (p, p′ )
!
VSS (k, p′ )
VDS (k, p′ )
!
sep
VSS
′
VSD (k, p′ )
VDD (k, p′ )
1
VSS (k, k)VDD (k, k) − VSD (k, k)VDS (k, k)
!
!
VDD (k, k)
− VSD (k, k)
VSS (k, p′ ) VSD (k, p′ )
. (4.22)
−VDS (k, k) VSS (k, k)
VDS (k, p′ ) VDD (k, p′ )
VSS (p, k)
VDS (p, k)
VSD (p, k)
VDD (p, k)
・
図 4.8 に k と 結合エネ ルギー Eb の関係に ついて のグラ フ を 示す。 グラ フ から 、 Bateman
パラ メ ータ を
0.917f m−1
(4.23)
に選べば、 真の結合エネ ルギーを 再現する 分離型ポテン シャ ルの作成ができ た。 求ま っ た
sep
sep
sep
sep
分離型ポテン シャ ル VSS
,VSD
,VDS
,VDD
を それぞれ図 4.9、 4.10、 4.11、 4.12 にプロ ッ ト
し た。
こ のポテン シャ ルを 用いて 、 重陽子の波動関数を 求め、 厳密解と の比較を 行っ たも のを
図 4.13 に 示す。 rank1 の分離型ポテン シャ ルでは、 波動関数を 十分に 再現でき たと は言え
な い。
4.4.2
rank2 の場合
Bateman パラ メ ータ を 2 つ導入する 。 そ れぞれを k1 , k2 と する と 、 分離型ポテ ン シャ
ルは、
!
sep(2)
sep(2)
′
′
(p,
p
)
V
(p,
p
)
V
sep(2)
SS
SD
(p, p′ ) =
Vll′
sep(2)
sep(2)
VDS (p, p′ ) VDD (p, p′ )
!
VSS (p, k1 ) VSS (p, k2 ) VSD (p, k1 ) VSD (p, k2 )
=
VDS (p, k1 ) VDS (p.k2 ) VDD (p, k1 ) VDD (p, k2 )

−1
VSS (k1 , k1 ) VSS (k1 , k2 ) VSD (k1 , k1 ) VSD (k1 , k2 )
 V (k , k ) V (k , k ) V (k , k ) V (k , k ) 
 SS 2 1

SS 2 2
SD 2 1
SD 2 2
・

 VDS (k1 , k1 ) VDS (k1 , k2 ) VDD (k1 , k1 ) VDD (k1 , k2 ) 
VDS (k2 , k1 ) VDS (k2 , k2 ) VDD (k2 , k1 ) VDD (k2 , k2 )
34
Binding Energy Eb [MeV]
0
-1
-2
-3
-4
-5
-6
0.917
-7
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
Bateman paramater
0.9
1
1.1
1.2
k1 [fm−1]
図 4.8: Bateman パラ メ ータ と 結合エネ ルギーの関係 破線は実験値 (−2.22M eV )
35
V(p,p’) [MeVfm3 ]
5
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
-4
-5
-6
5
4
0
3
1
2
p[fm−1]
2
3
4
1
5 0
sep
図 4.9: rank1 の分離型ポテ ン シャ ル VSS
36
p’[fm−1]
V(p,p’) [MeVfm3 ]
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
-5
5
4
0
1
3
2
2
3
4
p[fm−1]
1
5 0
sep
図 4.10: rank1 の分離型ポテ ン シャ ル VSD
37
p’[fm−1]
V(p,p’) [MeVfm3 ]
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
-5
0
1
2
3
4
p[fm−1]
5 0
1
2
sep
図 4.11: rank1 の分離型ポテ ン シャ ル VDS
38
3
4
5
p’[fm−1]
V(p,p’) [MeVfm3 ]
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
1
2
3
4
p[fm−1]
5 0
1
2
sep
図 4.12: rank1 の分離型ポテ ン シャ ル VDD
39
3
4
5
p’[fm−1]
4
ψD(original)
2
ψD(rank1)
0
3/2
ψ [fm ]
-2
-4
-6
ψS (rank1)
-8
ψS(original)
-10
-12
0
1
2
3
4
p [fm−1]
図 4.13: rank1 の波動関数
し て いる
縦軸のス ケ ールは対数で、 波動関数は log|ψ(p)| を プロ ッ ト
40
5
1.3
1.25
Eigen Value λ
1.2
1.15
1.1
1.05
1
0.95
0.9
−1
2.61fm
0.85
0.8
0.75
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
5
Bateman paramater k2 [fm−1]
図 4.14: Bateman パラ メ ータ と 結合エネ ルギーの関係



・

VSS (k1 , p′ )
VSS (k2 , p′ )
VDS (k1 , p′ )
VDS (k2 , p′ )
VSD (k1 , p′ )
VSD (k2 , p′ )
VDD (k1 , p′ )
VDD (k2 , p′ )





(4.24)
k1 ≠ k2
(4.25)
で表さ れる 。
逆行列を 求める 数値解析法に ガウ ス のはき だし 法がある 。 こ の方法の詳細は付録 B に
示し た。
rank1 の場合と 同じ よ う に Bateman パラ メ ータ を 選ぶこ と を 考え る 。 行列の性質から
の要請があ る 。 な ぜな ら ば、 k1 = k2 の場合、 (4.24) 式の逆行列が求めら れな い。 すな わ
ち 、 逆行列を 作る ための行列要素が同じ 行ま たは列に並ぶこ と にな り 、 逆行列の存在条件
det| 行列 | ≠ 0
(4.26)
を 満た すこ と ができ な いから であ る 。 rank1 の結果を ふま え 、 二つの Bateman パラ メ ー
タ のう ち 一つを k1 = 0.917f m−1 に選び、 再びも と の結合エネ ルギーを 与え る よ う に k2 を
検索する こ と にする 。 図 4.14 に k2 を 横軸にし 、 得ら れた固有値λを 縦軸にプロ ッ ト し た。
図 4.14 から 読み取れる よ う に k2 は
41
V(p,p’) [MeVfm3 ]
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
5
4
0
1
3
2
2
3
4
p[fm−1]
1
5 0
p’[fm−1]
sep(2)
図 4.15: rank2 の分離型ポテ ン シャ ル VSS
k2 = 2.61f m−1
(4.27)
に する と 結合エネ ルギーが再現でき る こ と がわかる 。
sep(2)
sep(2)
sep(2)
sep(2)
得ら れた ポテ ン シャ ル VSS ,VSD ,VDS ,VDD を そ れぞれ図 4.15, 4.16, 4.17, 4.18
に 3D プロ ッ ト し た。
4.4.3
波動関数と 分離度
第 3 章の 3 節で導入し た評価関数( 3.24) 式及び分離度( 3.31) 式に よ っ て 一般化分離
展開法の評価を 行う 。 分離度が大き いほど 分離展開が進み、 同時にポテン シャ ルの精度も
向上する 。 表 4.1 に rank1 と rank2 の場合の評価関数 E と 分離度 S を 与え た 。 rank が増
大する と 分離度の改善が見ら れた。 更に次の様に求ま っ た波動関数の比較と その精度につ
いて 調べる 。 図 4.19 に 元の波動関数 ψorg を 共に rank1,rank2 のそ れぞれの分離型ポテ ン
シャ ルに よ っ て 求めら れた波動関数 ψrank の比較を 行っ た。 rank が増大する に し たがっ て
元の波動関数が再現でき て いる こ と がわかる 。 特に rank1 から rank2 に する こ と に よ っ て
波動関数の S 波は大変良い方向に 改善さ れたこ と が表 4.4.3 が示し て いる 。 波動関数の精
42
V(p,p’) [MeVfm3 ]
40
35
30
25
20
15
10
5
0
-5
0
1
2
3
4
p[fm−1]
5 0
2
1
sep(2)
図 4.16: rank2 の分離型ポテ ン シャ ル VSD
表 4.1: 波動関数と 分離度
rank1 rank2
評価関数 E 82.7 % 58.0 %
分離度 S
17.3 % 42.0 %
43
3
4
5
p’[fm−1]
V(p,p’) [MeVfm3 ]
40
35
30
25
20
15
10
5
0
-5
5
4
0
3
1
2
p[fm−1]
2
3
4
1
5 0
sep(2)
図 4.17: rank2 の分離型ポテ ン シャ ル VDS
44
p’[fm−1]
V(p,p’) [MeVfm3 ]
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
-0.5
0
1
2
3
4
p[fm−1]
5 0
2
1
sep(2)
図 4.18: rank2 の分離型ポテ ン シャ ル VDD
45
3
4
5
p’[fm−1]
4
ψD(original)
ψD(rank1)
2
ψD(rank2)
3/2
ψ [fm ]
0
ψS (rank2)
-2
-4
-6
ψS (rank1)
-8
ψS(original)
-10
-12
0
1
2
3
4
5
p [fm−1]
図 4.19: rank2 と rank2 の波動関数 縦軸のス ケ ールは対数で、 波動関数は log|ψ(p)| を プ
ロ ッ ト し て いる
46
表 4.2: 射影
表 4.1 射影 (内積) rank1
| < ψorg |ψrank > |2 96.7 %
rank2
99.0 %
rank2
|<ψorg| ψrank>|
2
rank1
58.0
E [%]
82.1
図 4.20: 評価関数 E と | < ψorg |ψrank > |2
度を みる た めに 、 < ψorg |ψrank1 > と < ψorg |ψrank2 > の射影 (内積) を 考え る 。
< ψorg |ψrank >=
Z
inf ty
ψorg (p)ψrank (p)p2 dp
(4.28)
0
表 4.4.3 に はそ の大き さ の 2 乗を 示し た。 波動関数の精度と ポテン シャ ルの分離度の相関
を 見る ために 図 4.20, 4.21 に そ れぞれの値に ついて xy 軸に あて て プロ ッ ト し た。 グラ フ
から 、 分離度の高いほど 、 も と の波動関数を 良く 再現でき る こ と が理解でき た。
47
|< ψ org | ψ rank>| 2
2
|<ψorg| ψrank>|
rank1
17.0
S [%]
rank2
42.0
図 4.21: 分離度 S と | < ψorg |ψrank > |2
48
第5章
結論およ び今後の展開
2 体系のリ ッ プマ ン ・ シュ ウ ィ ン ガー積分方程式を 解く 際の積分点の数は通常 200 点程
を 要する 。 すな わち 、 階数が 200 の行列の対角化を 行う こ と に よ っ て 、 2 核子の束縛状態
( 重陽子の波動関数) が求ま る 。 こ のリ ッ プマ ン シュ ウ ィ ン ガー方程式を 解く 上で、 ポテ
ン シャ ルが分離式 (3.1) 式に よ っ て 与え ら れて いる 場合、 行列の階数は分離型ポテ ン シャ
ルの階数 (rank) に な り 、 そ の数は数個で展開でき る 。 強調し た いこ と は、 階数が 200 で
あっ た行列方程式が 2,3 の階数で処理でき る よ う に な る こ と は、 数値計算上劇的な 経済効
果、 すな わち 、 記憶容量と CPU 時間の節約に つな がる こ と であ る 。 (3.1 節) 具体的に ド
イ ツ のボン 大学で開発さ れたいわゆる ボン ポテン シャ ルを 材料に一般化分離展開法を 用い
て 、 rank1 およ び rank2 の分離型ポテン シャ ルを 作成し た。 (4.4 節) ま た、 そのポテン シャ
ルがも と のポテン シャ ルを ど の程度精度よ く 再現し て いる かを 評価する 関数( 評価関数)
およ び分離度を 導入し 、 そ れぞれの rank に ついて 計算を 行っ た。 そ の結果、 分離度の高
いポテン シャ ル方程式、 も と の波動関数を 良く 再現し て いる こ と が分かっ た。 (4.4 節)
今後の展開と し て は、 rank を さ ら に 3,4,... と 増すこ と に よ っ て 分離度がど こ ま で向上
する かの問題が残さ れて いる 。 ま た 、 作成さ れた 分離型ポテ ン シャ ルは重陽子の部分波
(2 S1 −3 D1 ) のみであったが、 核力の次に大事な部分波と し ては、 1 S0 状態と 1 P1 ,3 P1 ,3 P2 ,3 P0
の l = 1 状態等に ついて も 同様に 分離展開が必要に な る 。 さ ら に 、 こ の様に 分離展開し た
ポテン シャ ルを 用いて 、 3 体問題や 4 体問題へ応用し て いく こ と が考え ら れる 。
49
付録
付録 A
(2.52) 式の証明
(2.51) 式よ り 、
(N ew)k+1
Cm
=
(N ew)k
q
Cm
P
(N ew)k
λnm
(N ew)k
λnl )2
l (Cl
= qP
Cm
(N ew)k λl n 2
( λm ) )
l (Cl
(1)
λm が λi (i = 1, ..., N ) の中で最大値の場合は ( λλml )2 は l = m 以外の値は1 よ り も 小さ い。
n が十分大き い場合、
lim
n→∞
X
(N ew)k
(Cl
l
(
λl n 2
(N ew)k 2
) ) = (Cm
)
λm
(2)
である から 、 (付録 A ) 式は1 に な る 。 ま た 、 l ≠ m の場合は、
lim (
n→∞
λl 2n
) =0
λm
(3)
である から 、
(N ew)k
lim Cl
n→∞
=0
(4)
と な る 。 よ っ て 、 (2.52) 式が示せた。
付録 B
ガウ ス の掃き 出し 法
逆行列を 求める 方法の一つに、 ガウ スの掃き 出し 法がある 。 一般に階数が n の行列を A
を 書け ば、 そ の逆行列を A−1 と 書き 、
AA−1 = A−1 A = E
(5)
を 満た す。 E は単位行列であ る 。 数値的に こ の A−1 を 求める こ と を 次のア ルゴ リ ズム で
行う 。
50
ア ルゴリ ズム
A を m × n の行列と し 、 その要素を aij で表すと 、 行列 A は次の様に表すこ と ができ る 。


a11 a12 . . . a1j . . . a1n


 a21 a22 . . . a2j . . . a2n 
 .
..
..
.. 
 ..
.
.
. 




 ai1 ai2 . . . aij . . . ain 
(6)
A=
..
..
.. 

 ..
.
.
. 
 .


 ah1 ah2 . . . ahj . . . ahn 
 .
..
..
.. 

 .
.
.
. 
 .
am1 am2 . . . amj . . . amn
A の逆行列を 求める と き 、 次の様に A と 単位行列 E を 並べて

a11 a12 . . . a1j . . . a1n 1 0 . . . . . .

 a21 a22 . . . a2j . . . a2n 0 1 0 . . .
 .
..
..
..
..
.
 ..
.
.
.
. 0 ..


 ai1 ai2 . . . aij . . . ain ... ...

 ..
..
..
..
.. ..
...
 .
.
.
.
. .

 ..
..
..
..
..
 .
.
.
.
. 0

. .

 ai1 ai2 . . . aij . . . ain .. ..
am1 am2 . . . amj . . . amn 0 0 . . . . . .
(A : E) と する 。

... 0

... 0 
.. 
. 

.. 
. 

.. 
. 




.
...
.. 

... 1
(7)
(A : E) を 行基本変形で、 A の部分を 単位行列 En に な る よ う に 変形する 。 行基本変形に
は三つの操作があり 、 k を 0 以外の有理数と する と 、
1. 第 i 行を k 倍する ( k ≠ 0 )


a11 a12 . . . a1j . . . a1n


 a21 a22 . . . a2j . . . a2n 
 .
..
..
.. 
 ..
.
.
. 




 kai1 kai2 . . . kaij . . . kain 

A= .
(8)
..
..
.. 

.
.
.
.
. 



 ah1 ah2 . . . ahj . . . ahn 
 .
..
..
.. 
 .

.
.
. 
 .
am1
am2
. . . amj
51
. . . amn
2. 第 i 行に 第 h 行の k 倍を 加え る

a11
a12

a21
a22


..
..

.
.


 ai1 + kah1 ai2 + kah2
A=
..
..

.
.



ah1
ah2

..
..

.
.

am1
am2
3. 第 i 行と 第 h 行を 入れ替え る

a11

 a21
 .
 ..


 ah1
A=
 ..
 .

 ai1
 .
 .
 .
...
...
a1j
a2j
..
.
...
...
a1n
a2n
..
.
. . . aij + kahj . . . ain + kahn
..
..
.
.
...
ahj
..
.
...
ahn
..
.
...
amj
...
amn
a12
a22
..
.
...
...
a1j
a2j
..
.
...
...
a1n
a2n
..
.
ah2
..
.
...
ahj
..
.
...
ahn
..
.
ai2
..
.
...
aij
..
.
. . . kain
..
.
am1 am2 . . . amj . . . amn
















(9)
















(10)
の 3 つの変形を 繰り 返し 行う こ と であ る 。 そ の変形に よ り E の部分が B に な っ た と する
と 、 B が A の逆行列、 つま り 、 B = A−1 である 。 ただし 、 掃き 出し 法で (A : E) を 変形し
て いる 途中で、 A の部分に 0 のみから な る 行が現れる と 、 継続し て も A を E に 変形する
こ と はでき な い。 こ のこ と は、 A が正則でな いこ と を 示し て おり 、 A は逆行列を 持たな い
行列と いう こ と に な る 。
謝辞
今回卒業論文を 作成する にあたり 、 指導教員の鎌田裕之教授には量子力学の勉強や研究
について ご指導いただき ま し た。 ま た論文の原稿のついて も 多く のご助言を 頂いたこ と で
完成さ せる こ と ができ ま し た。 そ の他に も , 副査の渡辺真仁准教授と 中村和磨准教授に は
精読し て 頂き ま し た。 さ ら に同研究室の古谷次郎さ んや中村研究室の土居明樹さ ん、 柳本
健さ ん、 そし て 大学の友人たち にも ご指導や激励を 頂き ま し た。 こ の場を 借り て 、 皆様に
感謝の意を 表し たいと 思いま す。
52
関連図書
[1] H.Kamada et al., Phys.Rev.C64, 044001(2001).
[2] L.D.Faddeev, Soviet Phys.-JETP12, 1014(1961).
[3] S.Oryu, Prog.Theor.Phys.52,550(1974);H.Bateman, Proc.Roy.Soc.A100, 441(1969).
[4] R.Machleidt, F.Sammarruca, Y.Sang, Phys.Rev.C53, R1483(1996).
[5] B.A.Lippmann, J.Schwinger, Phys.Rev.79, 469(1950).
[6] こ の事に ついて は、 古谷次郎氏の卒業論文 (2012 年度) に 詳し い解説がある 。
[7] D.J.Ernst, C.M.Shakin and R.M.Thaler, Phys.Rev.C8, 46(1973);Phys.Rev.C9,
1780(1973).
[8] S.Weinberg, Phys.Rev.131, 440(1963).
[9] R.Kircher and E.W.Schmid, Z.Phys.A299, 241(1981).
[10] R.A.Malfiet, J. A.Tjon, Nucl. Phys. A127, 161 (1969).
[11] Gauss-Seidel 法のプロ グラ ム コ ード は当該研究室卒業の西村省吾氏が作成し たも のを
ベース に し た。 (2013 年度).
[12] 例え ば、「 散乱の量子論」 砂川重信著, 岩波全書 (1997).
53