全地連「技術フォーラム2014」秋田 【 93】 河川堤防におけるモグラ穴調査及び表層浸潤試験 川崎地質㈱ ○中川 翔太 野尻 峰広 1. は じ め に 堤防における小動物の小孔は,堤体の弱体化を招く等 悪 影 響 が 考 え ら れ る 。 既 往 研 究 1)で は モ グ ラ 穴 等 に 対 す る実態調査がなされており,堤内斜面における平面的な 分布状況や植生と小動物についての調査がなされている が,実際に雨水浸透や表層を流れる流水の影響について 調べた事例が少ない。本報告は,小孔の分布状況を確認 し,雨水等が堤防に与える影響などを調査した事例であ る。 2. 調 査 内 容 図 -1に 示 す フ ロ ー で 調 査 を 実 施 し た 。 調 査 箇 所 は , 感 潮区間における河川堤防で,法尻部や表・裏のり面にお いて小孔が確認された箇所とした。表層開削調査及び表 土はぎ取り調査における現地堤防状況を以下に示す(図 - 2 )。 全地連「技術フォーラム2014」秋田 図 -1 調 査 フ ロ ー 図 -2 は ぎ 取 り 調 査 結 果 全地連「技術フォーラム2014」秋田 【表層開削調査及び表土はぎ取り調査】 ■ モ グ ラ 穴 の 幅 は 約 6 c m で ,地 表 よ り 1 5 c m 程 度 の 深 さ が 主 体 で あ り , 最 大 深 さ は 50cm( 近 隣 部 ) で あ る 。 ■モグラ穴は堤防横断方向へは進行しておらず,地表 付近を縦断方向に進行している。 ■ モ グ ラ 穴 は ,表 面 か ら 約 1 5 c m 付 近 の 表 土 か ら 盛 土( 砂 混じり粘土)上部層に存在する。 ■ ミ ミ ズ 穴 や 蟻 の 巣 穴( φ 1 c m 程 度 )が 所 々 に 存 在 し て おり,盛土(砂混じり粘土)内にも及んでいる箇所 もあった。 ■ 植 物 痕 が 多 く 表 層 よ り 50cm程 度 ま で 及 ん で い る 箇 所 も あ っ た が , 平 均 し て 30cm程 度 で あ っ た 。 ■表土は礫混じり砂層で比較的緩く,盛土(砂混じり 粘土)は硬質で全体的に含水量が高い。 3. 法 面 表 層 浸 潤 試 験 (1) 概 要 法面表層部に存在する小孔の発生原因把握のために, 法 面 表 層 浸 潤 試 験 を 実 施 し た 。 図 -3に , 試 験 装 置 の 概 要 と現地で設置した試験装置を示す。なお,現地状況を勘 案し,試行錯誤的に試験を実施した。 (2) 境 界 条 件 ① 仕切り版設置 し き り 板 ( H=50cm) は 粘 性 土 層 ( GL-20cm) を 確 認 し , 粘 性 土 に 貫 入 す る よ う 設 置 し た 。 ま た , 法 面 か ら 10cm程 全地連「技術フォーラム2014」秋田 図 -3 試 験 装 置 の 概 要 と 現 地 で 設 置 し た 試 験 装 置 度以上確保できるように,建込みを行った。 ② 越流堰端部 越流堰は越流水の衝撃及び流れを一様にするために, 水叩きを設けた。なお,板と板にはコーキング処理を行 い,隙間からの流入が起こらないように配慮した。 ③ 越流状況 圧力がかかるように,堰周りはトタンと板で周囲を囲 全地連「技術フォーラム2014」秋田 む も の と し た 。ま た 表 層 流 → 浸 透 が 起 こ る よ う に 5 c m 程 度 ( 湛 水 箇 所 は 9cm程 度 )の 堰 を 設 け て ,一 定 量 を 越 流 さ せ るものとした。 ④ 使用流量 河川からポンプアップした河川水をタンクへ貯蔵し, 堰 部 へ の 流 入 を 行 っ た 。使 用 流 量 は ,1 5 0 0 L 程 度 で あ っ た ( 参 考 値 )。 な お , ト タ ン を 利 用 し , 貯 水 池 が 洗 掘 さ れ な いように配慮した。 (3) 試 験 結 果 以 下 に , 試 験 結 果 ( 図 -4) を 示 す 。 図 -4 調 査 結 果 全地連「技術フォーラム2014」秋田 【試験中】 ■ 越 流 か ら 2 時 間 4 0 分 後 に 表 層 の 流 水 が 一 部( 上 流 側 端 部)法尻に到達。 ■ 越 流 か ら 約 3時 間 後 に 法 尻 付 近 で 浸 潤 が 確 認 さ れ た 。 ■ 越 流 か ら 約 4時 間 後 に 法 面 中 央 付 近 で 浸 潤 が 確 認 さ れ た。 ■ 越 流 か ら 約 6時 間 後 に 法 尻 付 近 の モ グ ラ 穴 が 満 水 し , 流水した。 【試験後】 ■表層に流水が発生していない箇所で浸潤を確認(浸 潤 発 生 箇 所 周 辺 の 表 層 が 渇 い た 状 態 )。 ■試験実施前に確認していたモグラ穴に近い箇所で も,浸潤が確認された。 ■また,法尻付近のモグラ穴から水が流出した。 4. 考 察 及 び ま と め (1) 考 察 はぎ取り調査結果同様に,表層のみの小孔の発生とな っており,堤体コア部に対する影響は見受けられなかっ た。したがって,表層付近に存在する小孔から堤防の浸 透 に 対 す る 不 安 定 化 の 影 響 は な い と 考 え ら れ る 。た だ し , 表層の雨水を模擬した表層水を浸透させることにより, 目視では確認することのできない坑道を確認することは できた。また,既存モグラ穴に近い箇所で浸潤が見られ る こ と や ,法 尻 部 の モ グ ラ 穴 は 浸 透 し て き た 水 で 満 水 し , 全地連「技術フォーラム2014」秋田 モグラ穴から水が流出したことから,表層水の浸透によ りモグラが坑道を掘りやすい環境を作り出している可能 性がある。後日,現地調査を実施したとき,新たなモグ ラ穴を発見した。 (2) ま と め 破堤箇所周囲やその他の地点の地中レーダ探査結果か ら,堤防の法尻部や表・裏のり面において小孔が確認さ れたため,破堤要因との関係性を検討した。調査結果か ら,川表から川裏に対しての水みちの存在は確認されて おらず,直接的な破堤に対する影響は見受けられなかっ た。しかしながら,モグラ穴等の小孔・坑道は,堤防表 層に存在しており,雨水等の表層水による法尻泥濘化や 表層すべり等への影響が懸念される。 今後は,被害を未然に防止するために堤防機能の確保 を考慮した維持管理計画を含めた対応が必要と考える。 図 -5 試 験 後 の 浸 潤 状 況 全地連「技術フォーラム2014」秋田 《引用・参考文献》 1) 尾 澤 卓 思 : 堤 防 に お け る モ グ ラ 穴 の 実 態 調 査 に つ い て ,水 工 学 論 文 集 第 37巻 ,pp.845-848,1992.2
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