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臨床Update
毛虫皮膚炎の発症機序
兵庫医科大学皮膚科 夏秋優氏
ドクガやチャドクガの幼虫には毒針毛 (どくしんもう) と呼ばれる有毒毛があり、
毛虫皮膚炎の原因として昔からよく知られている。では、毒針毛に触れると、
なぜ皮膚炎が起こるのか。
それは皮膚炎を惹起するような「毒」がその毛に含まれているからだろう、と漠
然と思われている方が多いかもしれないが、実はアレルギ-反応が関与して
いることが筆者の最近の研究で判明した。
まずチャドクガの幼虫の毒針毛から毒液を抽出して、その中に皮膚炎を惹起
するような化学伝達物質が含まれるかどうかを調べたが、検出できなかった。
この毒液を毛虫皮膚炎の既往のある筆者に皮内注射すると、直後から痒みを
伴う紅斑、膨疹 (即時型反応)が出現し、24 ~ 48 時間後には浸潤性紅斑 (遅延
型反応)が出現した。さらにこの毒液をゲル濾過カラムを用いた高速液体クロ
マトグラフィ-で 8 つに分画し、それぞれを筆者に皮内注射した結果、特定の
分画を皮内注射した部位でのみ、即時型反応と遅延型反応を生じた。このこと
から、この分画に含まれる何らかの物質(おそらく分子量 2 ~ 4 万の蛋白質) がア
レルゲンとなって、即時型反応、遅延型反応が誘導されたと考えられた。
さて、実際の臨床では、チャドクガの幼虫に触れて直ちに痒みや膨疹の出る
人、半日以上経過してから丘疹を主体とした皮膚炎を生じる人などがあり、臨
床経過に個人差がある。そこで次にこの毒液に対する一般人の反応を調べる
ため、ボランティアに皮内テストを行った。その結果、毒液の皮内テストに対し
て全く無反応の人、遅延型反応のみ陽性の人、そして即時型反応と遅延型反
応の両者が出現する人がいた。しかも、無反応なのは過去に毛虫に触れたこ
とのない人たちだった。すなわち、毒針毛に含まれるアレルゲン成分に対す
る感作状態が個人個人で異なっており、このことが臨床経過の個人差に現れ
ていたのである。したがって、いずれにしても治療はアレルギ-反応の制御で
あり、ステロイドが有効であることがわかる。
異物に対する生体の反応は、常に「免疫反応」として理解できることが今更な
がら明らかとなり、筆者にとっては「たかが毛虫皮膚炎、されど毛虫皮膚炎」な
のである。
http://oh-kinmui.jp/angle/rinshou/54.html[2013/07/15 21:08:40]
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[勤務医ニュースNo. 54:2002 年 11 月号に掲載]
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