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プロジェクト報告書(最終)Project Final Report
提出日 (Date) 2012/01/18
マインドコミュニケーション
Mind Communication
b1009201 本多 達也 Tatsuya Honda
1 目的
本プロジェクトは,現在注目が集まっている脳波を利
用して,今までにない新しいコミュニケーションツール
測・分析する作業を行った.開眼,閉眼状態での脳波の
変化や睡眠時の脳波などを解析し,波形をプロットする
作業を行った.自分たちの脳波を調べることで脳波への
興味をより深めていくことができた.
を提案することが目的である.脳波は脳から出ている電
これらの調査や実験を踏まえ,提案するデバイスのア
気信号で,集中,睡眠,リラックス,記憶といった人間
イデアを検討した.ブレインストーミングという手法を
の様々な状態に応じて変化するものである.また,脳波
用いて考えだされた各グループのアイデアは,コンセプ
を意識的に操作することは難しく,ありのままの自分の
トシート(図 1)としてまとめ,コンセプト発表会にて
状態が脳波として現れうる.例えば,とても眠そうに授
プロジェクト全体で発表を行った.定期的に行ったコン
業を受けている生徒が実は人一倍集中していたり,友達
セプト発表会では担当教員や TA,メンバーから多く意
同士で会話が弾んでいるように見えて本当は眠気が表れ
見してもらい,それぞれの提案物を具体的なものとして
ていたり,静かな場所よりも人ごみの中の方がリラック
いった.
スできる人がいたりといった具合である.このように,
表情や行動からは想像できないような人間の状態を脳波
は表している.これらの脳波の特徴を生かし,コミュニ
ケーションに繋がる今までにない新しいツールを開発す
ることを目的とし一年間プロジェクト活動を行った.
3 各グループの最終提案物
3.1 A グループの最終提案物(nouha+:素直な相手を
感じて楽しむ)
コンセプト
コンセプトは「素直な相手を感じて楽しむ」である.
2 最終成果物提案までのアプローチ
15 名のプロジェクトメンバーから 5 人 1 組のグルー
表情の変化に左右されず,普段は見ることのない相手を
見ることで心情や行動に変化が現れることを想定した.
プを 3 つ作り,それぞれ A・B・C グループとしてプロ
このツールでは,人と人の間の仕切りや壁などに脳波情
ジェクト活動を進めた.プロジェクト発足時点では,脳
報を含んだシルエットを投影する.自分が見ることので
波の知識や事例に関しての教養が乏しかったため,脳
波の先行研究や先行事例の調査を行なうことから始め
た.調査の結果,脳波を使った玩具であるマインドフ
レックス [1] やスターウォーズ/フォース トレーナー
[2],脳の活動信号をグラフィカルに描写することがで
きる MindTune[3] などといった製品が販売されている
ことが分かった.また,脳波の研究に関してはニューロ
コミュニケーター [4] などに代表される脳波とコミュニ
ケーションを関連付けた研究や脳波による同調研究 [5],
脳波を使った音楽研究 [6,7] や脳波による意思伝達に関
する研究 [8,9] などといった様々な研究が盛んに行われ
ていることが分かった.
次に,調査した結果を元に実際に自分たちの脳波を計
図1
コンセプトシートの例
きる脳波情報は相手のもののみである.自分の脳波情報
は仕切りや壁の向こう側にのみ表示される.これにより
コントロールされていない脳波を引き出す.nouha+ は
相手の脳波状態だけを見えるようにすることにより,素
直な相手を感じ取ることができるコミュニケーションを
実現するものである.また,nouha+ の名前の由来は従
来のコミュニケーションで一番重要と思われる表情をな
くし,脳波をプラスしたデバイスを直接的に表すという
図2
nouha+ の概要図
図3
nouha+ のモデル
意味合いが込められている.
システム(図 2)
画面の背景色は黒で,ユーザーのシルエットは集中し
ていると赤色になってゆき,リラックスしていると青色
になっていく.使用したプログラミング言語は C++ で
ある.シルエットを写し出すために kinect というカメ
ラを使用し,kinect を制御するために OpenNI という
C++ 言語のライブラリを使用した.また,脳波状態を
色で表現するために openFrameworks という C++ 言
語のライブラリを使用した.
使い方
自分のシルエットと脳波情報は仕切りや壁の向こう
側,つまり相手側にしか見ることが出来ないようになっ
ている.(図 3)これにより,素直な状態を引き出すこ
とができると考えている.仕切りや壁に映った相手側の
脳波状態を見ることで,普段見ることのない相手を見て
図 4 ”nouha+”:kinect で読み取った体の形に脳波
を出力する
楽しんだり,話しかけるときの指標にしたりして使用す
る.ユーザシナリオ部屋のドアに nouha+ を使用した
場合,訪問する際の指標になったり,部屋にいる相手の
素直な状態を見て楽しむことができる.(図 4)部屋で
くつろぐ相手を見ることで,新しい相手の一面に出会う
ことを想定した.
3.2
B グループの最終提案物(follow:今まで見えな
かった新しい一面をきっかけに)
コンセプト
コンセプトは「今まで見えなかった新たな一面をきっ
かけに」である.ユーザそれぞれの影に自分の脳波を光
の球の動きで表現するツールを提案する.自分の姿形以
外に情報を持たない影を,脳波情報で拡張することで,
自分について来る(follow してくる)親しみある新たな
コミュニケーションツールが実現することを目的とし
た.また follow という名前の由来は,影の特徴である
自分の姿を follow(反映) しているという点に着目し,脳
波を影に映し出してついて来させるという特徴を持たせ
たことから来ている.
システム(図 5)
follow のシステムは,カメラでユーザーの影を認識
し,その影の中にだけユーザーの脳波を光の球の動き
で表現する仕組みになっている.光の球は天井からプ
ロジェクターで投影している.2 人以上で使用すること
を想定しているため,ユーザーそれぞれの脳波データ
はネットワークを介して投影用のプロジェクターに接
続したパソコンに送信する.脳波データは MindWave
(NeuroSky 社)[10] で取得している.
使い方
follow は 2 人以上で使用する.もちろん,1 人でも使
用することが出来る.脳波データを MindWave で取得
し,影に投影される光の球の動きを見ることで自分やそ
の場にいる他の人々の脳波の状態を見ることができる.
シカクカは PC 4台使い最大4人が同時使用できる.
使用者全員にヘッドセットで使用者の脳波の電気信号を
感知し,取得した脳波データをヘッドセット [10] と通信
する USB ドングルに送信される.送信された脳波デー
タを PC 上で集計し,Gainer という I/O モジュールを
介し集計された脳波データに対応した電圧が基盤へ送ら
れ,LED の光の強さに変換している.3 つの立方体は
それぞれα波,β波,θ波に対応しており,複数人いる
図 5 follow の概要図
使用者の脳波情報を平均し,それらの値を輝度に変換し
て出力する.(図 7 参照)
使い方
赤色のβシカクは集中度(β波),緑色のαシカクは
リラックス度(α波),青色のθシカクは眠気度(θ波)
を表している.それぞれの脳波の度合いが強いほどシカ
クは明るく光る.また,置き方を変えたり,使用するシ
カクを選択することができる.
ユーザシナリオ
シカクカは、集団コミュニケーションツールである。
会議やプレゼンテーション、砕けたコミュニケーション
図 6 ”follow”:影に自分の脳波状態を出力する
の場など人が集まる様々なコミュニケーションの場で可
視化された雰囲気を見ることができる.(図 8 参照)
一般的に,脳波の波形データを見たところでその波形が
どんな状態を表しているかは分からない.光の球の動き
として抽象化することで分かりやすくなり,脳波に対す
る親しみやすさも生まれる.
ユーザシナリオ
follow は,会話やゲームの状況での使用を想定してい
る.話す相手,あるいは対戦相手の状況を見ることで,
相手との関わり方やゲームの戦略を変える,すなわち次
のアクションのきっかけにしてもらいたいと考えてい
る.(図 6)
3.3
図7
シカクカの概要図
C グループの最終提案物(シカクカ:空間で用い
る集団コミュニケーション)
コンセプト
シカクカのコンセプトは「可視化した雰囲気を、きっ
かけに」である.このコンセプトには集団活動時の場の
雰囲気を目に見える形にすることで、目にした雰囲気か
ら新たなコミュケーションのきっかけになってほしいと
いう願いが込められている.シカクカという名称の由来
は雰囲気を「視覚化」することとデバイスのデザインが
四角であることということから来ている.
システム(図 7)
図 8 ”シカクカ”:複数人の脳波の平均値を光の強さ
で出力する
4 プロジェクトの成果と今後の展望
本プロジェクトは脳波を使った新しいコミュニケー
参考文献
[1] マインドフレックス
ションツールを提案することを目標とし一年間活動を
http://www.segatoys.co.jp/mindflex/
行った.成果発表会では,300 人を超える来場者を集め
最終アクセス:2011 年 10 月 24 日
た他,メディアなどにも取り上げられ(図 9 参照)
,大い
[2] Uncle Milton’s Toys
に注目を集める結果となった.来場者には発表評価シー
http://unclemilton.com/star wars
トに記載をしてもらいフィードバックを得た.10 点満
science/#/the force trainer/
点の評価項目の中から評価を行った結果,発表技術に関
最終アクセス:2011 年 08 月 24 日
しての評価は平均 8.3 点,発表内容の評価は平均 8.1 点
[3] MindTune
だった.このことからもプロジェクトが成功であったと
http://www.toshiba-tops.co.jp/e shop/
言えるだろう.
acessories/mindtune/index.html 最終アクセ
しかし,評価者のコメントから「成果物を日常で使
えるシチュエーションが安易に想像できない」「面白い
ス:2011 年 11 月 20 日
[4] ニューロコミュニケーター
が普段の生活に使うには問題がある」「普段のコミュニ
http://www.aist.go.jp/aistj/
ケーションで使うと障害が生まれる可能性がある」と
pressrelease/pr2010/pr20100329/
いったように,日常で使うのには困難であるという意見
pr20100329.html
もあった.これらの意見を提案物に反映させ,外装のデ
最終アクセス:2011 年 07 月 22 日
ザインや使用シーンを改善していく必要があるかもしれ
ない.
[5] 脳波誘導サウンドの決定版 Brain Sound Quest
http://shop.whijp.net/bsq/index.html
今後は提案物をホームページや動画配信サイトなどに
てアップし,国内外からのフィードバックを多く得て,
デバイスを改良に役立てる予定である.
最終アクセス:2011 年 08 月 22 日
[6] 脳波誘導サウンドの決定版 Brain Sound Quest
http://shop.whijp.net/bsq/index.html
最終アクセス:2011 年 08 月 22 日
[7]「植物状態」でも意識あり、脳波で意思伝達可能に
カ ナ ダ 研 究 http://www.afpbb.com/article/
life-culture/health/2839901/8058194
最終アクセス:2011 年 09 月 15 日
[8] 自 分 の 脳 波 で 作 っ た 音 楽 が 不 眠 症 の 特 効 薬 に
http://wired.jp/wv/arChives/2002/09/04/
最終アクセス:2011 年 10 月 23 日
[9] 脳波による意思伝達に関する研究とそのシステム
開発
http://www.kumamoto-u.ac.jp/seeds/seeds/
25000152/index.html
最終アクセス:2011 年 10 月 14 日
[10] Neuro Sky
http://store.neurosky.com/products/
mindwave-1
図9
北海道新聞(夕刊)2011 年(平成 23 年)12 月
12 日(月曜日)
最終アクセス:2011 年 11 月 24 日