プロジェクト報告書(最終)Project Final Report 提出日 (Date) 2012/1/18 電波望遠鏡および光学望遠鏡による宇宙探索 Space Exploration with Radio and Optical Telescopes b1009180 堀越久登 Hisato Horikoshi 1 背景 2 課題の設定と到達目標 地球や木星等の惑星から放射される自然電波は様々な 本プロジェクトの課題は、プロジェクトのタイトル ものがある。なぜ電波が出るのか、その解明にはまだ多 からもわかるように電波望遠鏡および光学望遠鏡を用い くの謎が残されてる。これらの自然電波放射には多くの て宇宙探査を行う過程で必要となる電磁気学や信号処理 共通点があり、木星電波の謎を解くことは、全ての惑星 の方法、各天体についての基礎的な知識を学び、観測に 電波の放射の謎を統一的に解明していくための突破口を 使用される機材やプログラムを正しく扱えるようになる 切り開く大きな科学的インパクトがあると言われてい ことが課題となっている。そのために、2006 年から継 る。[1] 続している木星電波の観測、解析を今年も引き続き行う 木星電波は 1955 年にアメリカのカーネギー研究所の ことで課題の達成に励んだ。2007 年に使用する受信機 パーナード・バークとケネス・フランクリン等に発見さ を変更してから木星電波が受信が成功できていなかっ れた。彼らは、太陽系の惑星のうち、電波を放出してい たため、新しい受信機で木星電波を初めて観測すること るいくつかの惑星について観測を行うことにした。その を目標にして取り組んだ。また、今年から光学望遠鏡で 為に、受信装置のテストとして 22.2MHz の電波干渉計 木星を撮影し木星電波であることの裏づけを行った。な でおうし座のかに星雲の観測を続けていたところ、記録 お、本プロジェクトは NASA の教育プログラムである の中に時間的に激しい変化をするバースト上の電波があ NASA JOVE Project から提供された資料 [3] に基づい ることに気づいた。その後、電波が発生する時間帯、か て行われている。 に星雲との方向のずれ、木星の自転周期と一致すること 今回のプロジェクトは、グループを電波望遠鏡班と光 を突き止めるなどして、この電波が木星から発生してい 学望遠鏡班に分けて行動した。光学望遠鏡は今年からの ることを確認した。以来、様々な観測が行われ、その強 取り組みとなるので比重を置いた。その班分けと課題は 力な電波放射の仕組みが少しずつですが明らかとなって 次の通りとなる。 きた。しかしまだ、未知の部分が多く、電波放射機構を 解明することにより、宇宙物理学の重要な本質に迫るこ とが可能になると考えられている。 本プロジェクトは、この木星電波をダイポールアンテ プロジェクトリーダー: 堀越 • 本プロジェクトにおけるリーダーとして全体を取り まとめ ナと広範囲の周波数を測定可能な受信機(ペルセウス受 信機)を用いて観測を行い、IDL というプログラム開発 環境で解析を試みた。また今年度から新たに光学望遠鏡 (MEADE ETX-90 Premiere Edition)[2] を用 いた天体観測を行った。光学望遠鏡で木星とイオの位置 関係を調べることで、観測した電波が実際に木星から発 生しているかどうかの裏づけに挑戦した。 • 報告書などの書類の作成や施設の使用予約を行う • 担当教員との連絡、各班の連携など円滑なプロジェ クト運営 電波望遠鏡班: 野口, 見澤 • 本プロジェクトで電波望遠鏡となるアンテナの詳 細、設置方法の習得 • レシーバの詳細、操作方法の習得 • データの解析方法を習得 光学望遠鏡班: 堀越, 鍔山, 野久 • 光学望遠鏡のマニュアルの読解、操作方法を習得 本プロジェクトの流れは下記の通りである。 分として構成されているといわれている。そのため、木 星の自転速度は緯度によって異なっている。赤道部は高 緯度地域よりも自転が速い。電波発生のメカニズムは、 イオから噴出された硫黄やナトリウムが太陽風の影響で イオン化し、プラズマとなる。木星の磁界の中をイオが 通る際、イオに電圧がかかり、それにより、イオで火山 活動が起こる。そのとき飛び出した電子が木星の磁力線 に沿って加速する。磁力線に沿って加速した電子の中で 木星の極まで進入できずにはじかれる電子がある。これ により電波が発生する。 3.2 観測日時の決定 木星からの電波は、木星、イオ、地球の位置関係によ り、受信出来るかどうかが決まる。このために今回は 図 1 プロジェクト全体図 NASA の提供する Radio-Jupiter Pro Edition という ソフトウェア(図 2)を用いて観測日時を決定した。木 3 課題解決のプロセスとその結果 本プロジェクトにおける活動内容は大きく分けて次 の 5 項目となる。 星電波の強い日は月に 3 日から 4 日程度で、自然現象の ため木星電波の強い日であっても、必ず観測できるとは 限らない。そのため、回数を行うことが重要となってく るため、ソフトウェアで出力された観測日はなるべく行 1. 基礎的な天文学の学習 うよう努力した。 2. 観測日時の決定 3. 電波観測 4. データ解析 5. 光学望遠鏡による天体の撮影 以下により、各項目について説明する。 3.1 基礎的な天文学の学習 まず、プロジェクト行ううえで必要となる基礎的な天文 学の知識を得るために、セミナーと称し、NASA がまと 図 2 Radio-Jupiter Pro Edition めた電波天文学のテキストの輪読を行い、各項目ごとに 担当を決め、指導教員のプレゼンテーションを行った。 セミナーの項目と担当は以下の通りである。 3.3 電波観測 1. 電波天文学の基礎 part1(担当:野久) 事前に設定した観測日時に基づいて、実際に電波観測を 2. 電波天文学の基礎 part2(担当:野口) 行った。電波観測では各班が調査した情報に基づいてア 3. 電波源としての木星 part1(担当:鍔山) ンテナの設置や観測、撤去を行った。観測場所は大学構 4. 電波源としての木星 part2(担当:堀越) 内の中庭で、芝生にドリルで穴を掘りアンテナを設置し 5. 電波源としての太陽と銀河背景(担当:見澤) て行った。実際に観測を行った日時は以下の通りであ 木星は太陽系最大の惑星で直径は地球の約 11 倍であ る。 る。木星の磁場は地球の 30 倍とされており、自転周期 前期は、天候に恵まれず 2 回しか観測を行えなかっ は 9 時間 50 分から 9 時間 55 分で地球の半分以下であ たが。後期は 4 回ほど行うことができた。計 6 回行っ る。また、木星はヘリウム、メタン、アンモニアを主成 た。観測に置いて使用されるアンテナはダイポールアン 表1 電波観測日時 測しずらい電波である。そのため、木星からの電波であ 日時 観測時間 るかどうか判断するためには S- バーストのドリフト現 6 月 23 日 11 時 00 分∼12 時 00 分 象をを使用する。まず、解析プログラムでは、レシーバ 10 月 14 日 17 時 30 分∼19 時 00 分 で受信した時系列データから周波数スペクトル図を得る 10 月 21 日 19 時 00 分∼20 時 00 分 ことができる。レシーバで受信したデータを1秒ごとの 10 月 28 日 20 時 00 分∼21 時 00 分 11 月 4 日 21 時 00 分∼23 時 00 分 スペクトログラムを IDL を使って作成する。レシーバ で受信したデータは5分ごとに記録されているため1つ のデータに対して 300 枚のスペクトログラムが作成さ テナと呼ばれるもので、2 本の柱の間に電波受信用ワイ れる。そして、作成されたスペクトログラムを1枚1枚 ヤーをつなげたものとなっており、これを 2 対 1 セット 見て、その中から木星の電波が持つ特徴の S-バーストの として、計 2 セット使用した。なお、ワイヤーの長さは 際に生じる、ドリフト現象がないかを見つける。スペク 受信したい電磁波、すなわち木星電波の波長の半分で、 トル図の縦軸は周波数、横軸は時間となっており、色の 波長は光速/周波数で計算できる。この時、周波数は木 濃淡で電波の強弱を表している。 星電波の観測に適している 22.5MHz に設定、アンテナ の長さは 6.7m とした。また、レシーバはペルセウスソ フトウェア受信機という機器を使用した。これは、広い 周波数帯の電波を一度に受信することができる高性能な レシーバをなっている。また、今年度から木星電波観測 に使う、アンテナやケーブル、レシーバなどのチェック 方法を確立し、観測の効率化を図った。 図 4 観測データのスペクトログラム化 図3 観測機器 次に、スペクトログラム化したデータのドリフト率を 3.4 データ解析 求める。受信したデータが木星の電波であるか、確かめ データ解析ではレシーバで受信したデータを IDL と るためにドリフト率を計算する。ドリフト率は、ドリフ いう解析に優れたプログラミング言語用いて解析を行 ト率とは信号の周波数が1秒の間にどれだけ変化するか う。解析プログラムは前年度までのプロジェクトで作成 を示す値であり、周波数の変化を時間で割ると求められ されたものを参考にした。木星の電波には L- バースト る。今年度受信したデータのドリフト現象らしきものを と S-バーストと呼ばれる 2 種類がある。S- バーストは ピックアップし、一つずつドリフト率を計算していく。 微小時間で周波数が急激に変化する電波である。特に、 そうして導き出されたドリフト率を木星電波についての 周波数が約 0.01∼0.1 秒の間で数 MHz 減少する現象を 過去の研究資料 [4] と照合し、木星電波のドリフト率と ドリフト現象という。一方、L- バーストは時間変化と 合致した場合、受信したデータが木星であることが証明 ともに穏やかに増加していく電波信号である。信号の強 される。 さが S-バーストに比べて弱く、他のノイズにかき消され 上記の図は過去の木星電波に今年度観測した木星電波 ることがある。加えて、目立つ特徴もないため非常に観 のドリフト率加えた分布図である。赤い点が今年度観測 の段階で目視で木星を捉えることで、実際に木星がその 位置に存在することを証明でき、木星からの電波である ことの可能性を高めることができると考えたためであ る。次に、撮影日時を決定した。木星は見られる時間た が限られているため、木星を撮影できる時間帯を調査し た。また、天体の撮影は天気に左右されるため、気象情 報も調査した。そして、今年度、月と木星の撮影に成功 図5 過去の資料 [4] と今年度観測データ(赤い丸)の照合 した。下記の写真が今年度撮影された月と木星である。 した木星電波である。図の通り、過去の木星電波と分布 が似ていることから、木星電波である可能性が高いとい える。 3.5 光学望遠鏡による宇宙探索 今年度から光学望遠鏡を用いての宇宙探査に取り組ん だ。主な取り組みは、天体の撮影である。使用した光学 望遠鏡は、MEADE 社製の ETX-90 Premire Edition[2] である。この望遠鏡の特徴としては、オートスターと 図7 光学望遠鏡で撮影した木星の写真(10 月 28 日撮影) 呼ばれる天体自動追尾機能が搭載されていることであ る。これにより、簡易な初期設定、日時と時間、観測地 点を入力すると、今見えている星空の中から天体の位 置を計算し、望遠鏡に内蔵された駆動モーターで目標 木星の周りに衛星が 4 つ写っているのがわかる。月に おいてもクレーターまで見ることができる。 4 まとめと今後の課題 の天体を自動的に視野に導いてくれる。撮影は、付属 の CCD カメラを使って行う。CCD カメラとパソコン は常に接続して使う。パソコン上の撮影ソフトウェア 「Autostar Envisage」で CCD カメラを制御し写真画像 今年度は、基礎的な天文学や信号解析など、電波観測 に必要な知識を学習し、それらに基づいて電波観測を 行った。そして、広範囲の周波数を受信可能なレシーバ で初めて、木星電波であると強く主張できる電波の受信 を取り込む。 に成功した。また、今年度から取り組んだ光学望遠鏡に ついても天体の撮影に成功した。今後は、受信方法、解 析方法を見直し、観測したデータが木星電波である確率 を更に高められるよう努力したい。 参考文献 [1] 吾川木星電波観測所 , http://www14.plala.or.jp/shimona23/06mokuse 図6 今年度使用した光学望遠鏡 i/mokusei.html , 2005. [2] Meade instruments , 光学望遠鏡は今年度からの取り組みのため、英語のマ http://www.meade.com/,2012. ニュアルの読解から始めた。今回撮影する天体は、月と [3] NASA Project Radio Jove , 2003. 木星と決定した。月は肉眼でも容易に見ることができる [4] P.Zarka et al., A scenario for Jovian S-bursts, ため、最初の天体としては適切だと判断したためであ Geophysical Reseach Letters,VOL.23, る。木星については今回電波を観測しているため、解析 pp.125-128 ,JANUARY 15, 1996. NO.2,
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