プロジェクト報告書 Project Report 提出日 (Date) 2012/1/18 小学生のためのエデュテインメントシステム製作プロジェクト Development of Edu-tainment System for Elementary School Students b1009149 亀ヶ森理史 Satoshi Kamegamori 1 背景 2 課題の設定と到達目標 エデュテインメントとは「娯楽」と「学習」を合わせた造語 今回、我々は実践授業を行う前の夏の時期に、赤川小学校 であり、遊んでいる・楽しんでいるうちに無意識に知識やスキ の小学生たちに事前アンケートを実施した。その結果、「好き ルが身についているというのがエデュテインメントの定義で な授業は何か」という問いに対して、体育と答えた人の割合が ある。既存のエデュテインメントとしては、テレビゲームや 非常に多いことが判明した。また、小学生たちは休み時間に ウェブサイトなどに学習要素を含ませたものなどがある。エ 体育館で鬼ごっこで遊ぶことなどから、主に体を動かすこと デュテインメントを導入することで、難しい学習内容でも取っ に楽しさを感じていると思われる。事実、本授業前に行った 付きやすく、また興味をもって学習を進めることが出来る。本 交流会に関する調査アンケートにおいて、「何をして遊びたい 年のプロジェクトでは、小学生へ向けたエデュテインメントソ か」という項目では、ドッジボールと答えた人が半数以上見受 フトの開発、またそれを盛り込んだ教育カリキュラムの企画・ けられた。 実践をし評価を行う。実践授業をするにあたって、例年通り そこで我々は、体を動かすことができ、なおかつ本プロジェ 「函館市立赤川小学校」の協力の下、総合学習の時間を利用し クトの目的である「物事を様々な視点から見る力を養う」こと て実践授業を行う。 現在の小学校の総合学習のカリキュラムは、各校によって が可能となるような授業を、いかにして作るべきか議論を重ね た。その結果、今年度の授業では「再発見」をテーマとして設 独自のカリキュラムを立てて授業を行っている。例えば長野 定し、小学生たちの行動できる範囲内で探索を行ってもらい、 県安曇野市にある豊科東小学校では、「ふるさとの犀川を調べ 奇妙な形をした石ころや、道端にひっそりと咲いている花など よう」というテーマで、地元地域の動植物・石・模型などにつ のような、普段何気なく生活しているだけでは気付かないよ いて班ごとに調査し児童間で発表させるといった活動をして うな赤川の魅力を発見してもらい、その調べた結果を「地域図 いる。また他にも、長野県長野市にある下氷飽小学校では「リ 鑑」という形式で製作してまとめて共有し合う、ということを サイクルについての調査、体験、表現活動」というテーマで、 考案した。それにより、小学生たちに体を動かして楽しさを実 児童たちがリサイクルについてインターネットやパンフレッ 感してもらうだけでなく、魅力を発見することによって見る力 トなどで調査をし、それを生かしたものづくりやリサイクルに を養うことも期待できると考えた。 ついての呼びかけなどを行っている。 図鑑製作形式としたのには、大きく分けて以下の 2 つの理 学校により総合学習の内容自体には違いがあるものの、児 由がある。第一に、「子供視点の表現」である。普段、車や電 童の主体性を大事にし、児童が自ら答えを見つけ出すような調 車で移動することが多い大人に対し、小学生たちは登校にし べ学習をさせている学校が多く見られる。何か事物を調べる ろ遊ぶにしろ、徒歩や自転車での移動が多いため、日頃から にあたり、既成概念にとらわれずにあらゆるものに注目する 自然と触れ合う機会が多いと思われる。そのため、大人では 「鳥の目」と、1 つのものに注目しそれを様々な角度から注意 気付かないような花、石ころといった小さな自然にも目がい 深く見る「虫の目」のどちらも活用しながら調べ学習を行うの くものと考えられるので、こういったものを図鑑としてまと は非常に重要なことであり、これらの力は小学生でなくとも、 めると非常に壮大でユニークなものとなることが期待される。 中・高校生、また社会に出た後でも非常に有用なものであるた 第二に、「物事の本質」である。普段は何気なく直立している め、児童に物事をさまざまな視点から見る力を養い、物事の本 木々であったり、何気なく道端に咲いてある花でも、再発見を 質を見つける力を伝えるのは有意義である。 通じることにより、どうして雨や嵐が降り注ぐ中でもこのよう に立派に育ち、生きていられるのか、などといったことに興味 ない児童でも簡単で楽しく扱えるようなものを目指すことが を表し、そこから物事の本質というものを見出してくれると思 掲げられた。この理由としては、児童は自分が使えるレベルの われる。 ものでないと興味すら示さないからである。またそれに加え、 3 課題解決のプロセスとその結果 ソフトウェア中にアニメーションを加えたりデザインを見や すくするなど児童の興味を削がないようなソフトウェア製作 プロジェクトメンバー10名を、授業のカリキュラム等を も心がけた。言語としては、タイピング練習ソフトと図鑑製作 考えるカリキュラムグループ3名、授業で使用するツールを作 ソフトは processing を使用した。この理由としては、この2 成するソフトウェアグループ7名に分け活動を行った。具体 つのソフトウェアはアニメーションやデザイン面など児童の 的な活動内容は、カリキュラムグループが実践授業のカリキュ 目に見える部分が重要になってくると考えたからである。再 ラムを考え、それに必要なソフトウェアをソフトウェアグルー 発見補助アプリに関しては、パソコン上ではなくアンドロイド プが製作した。 端末に搭載し使うため、アンドロイドアプリ開発に対応してい まずカリキュラムを考えるにあたり、事前に何度も小学校 て、その上大学の講義で学んだ知識を生かせる java を選択し を訪れ、担任の先生と教頭先生に企画書の提出・訂正を繰り返 た。どのソフトウェアも、実際にプログラムを組む人とデザイ した。最終的に実践するカリキュラムは、赤川地区の再発見 ンを考える人に分け、効率のよい仕事の割り振りをしつつ作業 というテーマで行うことになった。今回の授業の目標は赤川 に取り組んだ。 地区の再発見を通して物事の本質を見る力を養うことである ここからは実際に実践授業を行った様子を述べる。 ため、授業を行うにあたりまず現段階で児童が赤川について まず実践授業を行うにあたり、児童と大学生があまり壁を どう思っているのかを調査するため、「赤川についてどう思う 感じず授業が行えるようにしたいため、7月に1度赤川小学 か」という質問をした。その結果、図1のような結果を得るこ 校を訪れ、児童と交流を深めるためのドッヂボールを行った。 とができた。 この交流会により児童と大学生の間にある壁を多少取り払う ことが出来たように感じる。 第1回目の実践授業では、これから行っていく授業の大ま かな流れや目的を簡単に説明し、その後用意しておいたタイピ ング練習ソフトを使わせタイピングの練習を行わせた。しか し実際にタイピングを行わせた時間はたったの1時間であり、 パソコンも代数が足りていなかったため3・4人に1台の割り 振りでタイピングを行わせた。この時間内で明確なタイピン グスキルの上昇を見ることは出来なかったが、今までタイピン グに抵抗のあった児童でも、ゲーム感覚で楽しくタイピングに 図1 授業前アンケート「赤川についてどう思うか」回 答結果 また授業をを実践するにあたって必要となったソフトウェ アはタイピング練習ソフト、図鑑製作ソフト、再発見補助アプ リの3点であった。具体的なカリキュラムの流れは、児童に赤 川地区を実際に歩いてもらい、そこで調べた赤川の魅力につい て図鑑形式でまとめ、最後に発表という流れである。また図鑑 を製作してもらうとき、説明文などを打ち込むためどうしても タイピングのスキルが必要となってくるので、授業の最初にタ イピング練習ソフトを使用したタイピング練習の時間も設け ることとなった。必要となった3つのソフトウェアの製作に あたり、1つの目標としてパソコンなどの情報機器になれてい 取り組むことが出来たため、タイピングに慣れるといった面で 見れば第1回授業は成功したといえる。ここでの反省点とし ては、授業の最初に行った授業の流れ・目的説明で使用したス ライドに字が多く、多くの児童があまり興味を示していないよ うな感じであった。次回スライドなど前で何かを説明する時 は、この反省点を生かす必要があった。 第2回目の実践授業では、作戦会議と題し次回行うフィー ルドワークで実際に周るルート決めや、魅力情報の交換を行っ た。この授業から、児童をフィールドワーク時のグループごと に分けて活動を行わせた。当初は魅力情報の交換といった点 で、もし児童からそういった意見がほとんど出なかったらどう しようかという思いもあったが、児童は思いのほか積極的に意 見を出し合ってくれていたので、その点ではよかったといえ たりするなど助け合うシーンも見られた。図鑑製作ソフトに る。グループ内でのリーダーやメモする人などの係決めもそ 関しては、児童が難しくて使えないといった状況になることも れほど時間をかけずに決めることが出来たので、より多くの時 なく、楽しみながら図鑑を作れているようであった。図鑑の発 間を作戦会議に費やすことが出来た。最終的に全グループが 表練習に関しても、どのグループも問題なく行わせることが出 授業時間内にフィールドワークの予定を立てることが出来た 来た。しかし反省点として、授業中盤辺りからは児童が自分 ので、その点もよかったといえる。しかし反省点として、作戦 の係をあまり守らず、自分のやりたいところへいって活動を 会議で決めたルートが当日通行止めであったグループがあり、 行ってしまい、最終的にタイピング練習コーナーに人が殺到し フィールドワーク数日前に急遽ルート変更を行わなければな て収拾がつかない状況となってしまった。この点に関しては、 らないグループがあったため、もっと入念にルートの下見を 担任の先生から言うことを聞かない児童はしっかり注意して 行っておくべきだったと感じた。 くださいと言われていたので、もう少し児童に厳しく注意する 第3回目の実践授業では、前回立てた予定を元にフィール 必要があったように思われる。 ドワークを行い、その後見つけた魅力を図鑑形式にまとめる下 第5回目の実践授業では、前回作った図鑑をグループごと 書きを行わせた。フィールドワークに関しては、どのグループ に発表してもらい、最後に授業全体を通したアンケートを行っ も決められた時間内にルートをまわり、多くの魅力を発見して た。発表に関しては、当初予定していたタイムスケジュールよ いたが、一部のグループで小学生が川で滑って水浸しになって り早く進み、予定ではカツカツだったアンケートの時間に十分 しまうといったトラブルもあり、各グループについていた大学 な時間を割くことが出来た。発表に関しての反省点は、児童に 生は自分の担当する児童をもっとしっかり管理しておく必要 他の図鑑についての感想を書かせていたのだが、その感想を書 があったように思われる。再発見補助アプリに関してだが、ど かせる時間を明確にとらなかったため、感想を書きながら発表 のグループもアプリに頼ることなくフィールドワークを行っ を聞いてしまい、感想を書くほうに意識が偏ってしまったた ていた。この点が良いのか悪いのかはわからないが、児童に め、あらかじめ感想を書く時間を設けたほうがよかったようで とって再発見補助アプリはあまり必要と感じていなかったよ あった。 うなので、これを導入するかの点でもう少し話し合うべきだっ ここからは授業全体を通したアンケートの結果である。ま たと感じた。フィールドワーク後は学校に戻り図鑑の下書き ずこの授業の1番の目標であった、赤川地区の再発見を通して を行わせた。この下書きについては、テンプレートに沿って書 物事の本質を見る力が養えたのかを調査するため、授業の初め いていくものであったため、どの生徒もスムーズに下書きに取 に質問した「赤川についてどう思うか」という質問を再度した り組むことができ、どの生徒も時間内に図鑑の下書きを完成さ 結果、図2のような結果を得ることができた。 せることが出来た。 第4回目の実践授業では、前回作成した図鑑の下書きを元 に、図鑑製作ソフトで図鑑を作成、また次回の授業で行う図 鑑の発表の練習をさせた。また授業の最初に図鑑製作ソフト の使い方の説明、中盤に発表に関しての説明を行ったのだが、 これに関しては第1回目の授業の反省点を活かし、実際にデ モンストレーションを行いながら説明を行った。これにより、 よそ見をしている児童も少なく、児童の興味を削がないことが できたようだった。図鑑作成に関してだが、グループにパソコ 図 2 授業後アンケート「赤川についてどう思うか」回 答結果 ンが1台しか割り当てることが出来なかったため、手持ち無 沙汰になる児童が出ないように、グループ内で図鑑を作る人、 図鑑を作る人をアドバイスする人、タイピング練習コーナーで タイピング練習をする人の3つに係分けをして授業を行った。 どの生徒も時間内に自分の図鑑を作ることが出来ていた。パ ソコンに慣れていない人には、横から友達がアドバイスを送っ また自由感想欄には、「友達の図鑑を見て、そんなものが あったなあと思った」といった再発見したと受け取れるポジ ティブな内容が何人かに見られ、以上より児童たちはは普段見 過ごしていたものをもう一度見ることで、その魅力について考 える事ができた、つまり再発見でき、そういった力を養うこと が出来たと言えるのではないだろうか。 またソフトウェアに関してもアンケートをとり、その結果 が図3∼5のようになっている。 らる。また、再発見補助アプリで「悪い」という意見が少し目 立った件に関しては、上でも述べたようにフィールドワーク 中、ヒント機能などに頼ることなく実施したグループが多く、 このアプリ自体を使用しなかったという点考えられる。以上 の結果より、システムは全体的に高評価を頂き、このプロジェ クトのテーマであるエデュテインメントシステム製作という ものは達成できたのではないだろうか。 4 今後の課題 今回のプロジェクトでは児童に赤川の再発見をしてもらい 物事を広い視野で見てもらうということを目的としてきたが、 最後にとったアンケートからこのエデュテインメントシステ ムの製作、また今年度の目標であった赤川地区の再発見を通じ 図3 タイピング練習ソフトに関するアンケート結果 た物事を見る力を養うということは達成できたのだと考えら れる。しかし反省点としては、フィールドワーク時に役立つだ ろうと開発・導入した再発見補助アプリがほとんど機能してい なかったことがある。これに関しては、児童の特性を入念に調 査し、より深く導入すべきかどうか話し合う必要があったと 考えられる。また導入する場合でも、児童側からみて欲しい 機能を調査・考慮し、より児童のニーズに合った再発見補助ア プリに近づける必要があったと思われる。その点に関しては、 ソフトウェアの企画をする人と実際にプログラムを組む人で 考えの違いがあったり、プロジェクトメンバー間で十分な情報 の交換がなされていなかったことも原因の1つであると考え 図 4 図鑑製作ソフトに関するアンケート結果 られる。 今回のように、使用者にカリキュラムの提案・ソフトウェア の導入を行う場合において一番大切だと感じるものは、常に使 う側の立場になって物事を考え作り出すことであると感じる。 そのためにはまず使用者の話を聞き、要望を入念に調査した 後、プロジェクトメンバー全員の意見も吟味し始めて企画書 の作成・提出を行い、その後も使用者の話を聞きつつ、ソフト ウェアの考案者と製作者の情報交換も頻繁に行いながら実際 のソフトウェア開発に取り掛かることが重要であると感じた。 また使用者の要望を実装するだけではなく、エデュテインメン トシステムは情報機器が絡んでくるものなので、使用者がどの 図5 再発見補助アプリに関するアンケート結果 程度情報機器を扱うことが出来るのかなどといった、使用者の レベルも入念に調査し、対象が小学生であるのならば極力マウ 全体的には良い評価がもらえ、特に図鑑制作ソフトは高評 価で、 「使いやすさ」の項目では「悪い」と答えた人はひとりも みられなかった。これは、「使いづらい」=「楽しくない」と いう最悪の結果には至らず、ソフトを製作する際に最も気を つけた「使いやすさ」の点で満足の行く結果が得られたと考え スのクリック・ドラッグといった基本的な操作のみで扱えるよ うなソフトウェアの開発が重要であると考えられる。 以上の反省点を活かし、今後の企画やソフトウェア開発を 行っていく必要がある。
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