プロジェクト報告書 Project Report 提出日(Date) 2011/1/19 クラウド時代に向けたケータイアプリ Mobile application enabled by Cloud computing b1008129 加藤雄輝 1. 背景 現在、日本の携帯電話の世帯普及率は 90%を超えており、 Yuki Kato スト」、「納品」という実践に近い流れで開発を行うこと を課題とした。専修大学はビジネスモデルの作成を担当す 日本人のほとんどが携帯電話保有者となっており、国内の るため、アンケートによって市場を調査、分析し、業界な 携帯電話キャリアにおいて各社がそれぞれの特徴を出し、 ども研究することによって、より強い裏付けをもったリア 市場において競争が活性化している傾向がある。その理由 ルな開発アプリケーションのビジネスモデルの作成を行う の一つとして、ネットワーク帯域幅のコストが安価になっ ことを課題とした。 たことにより、多くの企業や消費者にサービスを提供する また活動するにあたって、4 校が完全に分担してそれぞ ことが可能となったことが挙げられる。そして現在、サー れで活動するのではなく、文理問わず協力できる部分は協 ビス提供にかかるコストの削減を可能にしたクラウドコン 力し、進捗や成果の確認、それに対する質疑応答や意見出 ピューティングが世界的に注目を集めている。今後、クラ しも 4 校で行うことによって、大勢の人数の中で活動する ウドの重要性が増していくことは確実だと思われており、 ためのコミュニケーション能力、他校のメンバに進捗や成 サービスやアプリケーションの可能性はますます広がって 果を伝えるプレゼンテーション能力を身につけることも課 きている。以上の背景を踏まえ、本プロジェクトは公立は 題として設定した。 こだて未来大学(以下、未来大学)だけでなく、専修大学 そして、協力企業には企業発表会として企業に訪問し、1 と函館工業高等専門学校(以下、函館高専)と神奈川工科 年間の活動を 4 校で報告し、成果物を納品することを到達 大学(以下、神奈工大)の 4 校合同で、様々な協力企業の 目標とした。 サポートのもと、クラウド時代という新しい時代に向け、 3. 課題解決のプロセスとその結果 クラウドコンピューティングを利用した複数のプラットフ 遠隔地の 4 校の共同プロジェクトの進行方法として、未 ォームで動作するケータイアプリケーションの開発と、そ 来大学にプロジェクトリーダー、専修大学と函館高専と神 のアプリケーションのビジネスモデルの作成を行う。 奈川工科大学にプロジェクトサブリーダーを各校に一人ず 2. 課題の設定と到達目標 つ決め、プロジェクトのスケジュール、進行方法をリーダ 本プロジェクトの到達目標は未来大学、専修大学、函館 ー間で Skype を利用して議論、決定をし、メンバに報告す 高専、神奈工大の文理が融合した合同プロジェクトとして、 ることで遠隔地の学校との共同プロジェクトを進行した。 未来大学と函館高専と神奈工大は、発案からアプリケーシ また、プロジェクトメンバが全員使用することができる ョンを納品までを共同で行うことで実践的なソフトウェア Wiki を利用して、成果物の共有や進捗確認を行った。遠隔 開発手法を学び、専修大学は発案からビジネスモデル完成 地の学校同士のコミュニケーションの手段としては毎週 1 まで一連の企画運営を学ぶことである。プロジェクト全体 回 4 校で Skype を使用したビデオ会議(以下、合同会議) としては開発からサービス提案まで実際の企業の一連の流 を行った。合同会議では進捗確認の他に、成果に対する質 れ遠隔地の大勢のメンバと共同で行うことを経験するとい 疑応答やスケジュールの確認を行うなど、主に意識の統一 う到達目標も設定した。 を行った。5 月と 11 月には 4 校合同で合宿を行い、プロジ 始めに、本プロジェクトで開発するアプリケーションを ェクトメンバが直接顔合わせをして共同で活動した。また 決定するという、アイディアの提案を課題として設定した。 連絡はプロジェクトメンバ全員が登録されているメーリン その後、アプリケーション開発を担当する未来大学と函館 グリストを利用し、スケジュール、進捗、成果の報告をし 高専、神奈工大は、「要件定義・設計」、「実装」、「テ 合った。これらの手段を使用して遠隔地の学校との共同活 動を行った。 設計、サーバと端末との動作フローなどを担当者が作成し、 アイディア提案についてはプロジェクトメンバ全員で行 開発者は詳細仕様書を参考に開発を行った。 い、まず個人でブレインストーミングを行い、20 個のアイ また設計を行うだけでなく、アプリケーションの意識統 ディアを提案した。そして各校ごとにアイディア提案のた 一や、合同合宿で決まり切っていない面に関する議論を 4 めのグループを編成し、グループ毎にアイディアを最終的 校で行った。アプリケーションのコンセプトやメイン機能、 に一つ提案した。各校のアイディアは Wiki を使って情報共 使う場面やアプリケーションの一番のウリは事前にアイデ 有し、合同会議で質疑疑応答を行って互いのアイディアに ィア提案班が事前に Wiki に情報を流し、合同会議の場でそ ついても理解を深め、約 1 ヶ月間アイディアグループごと の内容の確認を行った。それぞれのアプリケーションのロ にアイディアの練込みを行った。そして 5 月 30 日の第 1 回 ゴ、タイトルについては Wiki を使って事前に募集し、期限 合同合宿で 4 校の全メンバが直接顔合わせを行い、協力企 までに投票してもらい、合同会議の場で決定をした。また、 業の方や教員の協力の下、グループごとにアイディアを発 仕様書の画面遷移での意識統一以外に、開発中にアプリケ 表した後に 4 校のメンバが混ざった新たなグループを 6 つ ーションに対する疑問点は開発担当者が合同会議の場で質 編成し、そのグループで考えたアイディアを合宿の二日目 問し、設計者が回答することで疑問点が解決され、全体で に発表し、投票を行うことで開発するアプリケーションの も確認をすることができた。 アイディアを 2 つ決定した。決定したのは「思い出共有ア 開発については未来大学の au 班、docomo 班、Windows プリ フォトリング」(以下、フォトリング)、「体感型 RPG Mobile 班、神奈工大 Android 班、iPhone 班、サーバ班がフ Quecity(クエシティ)」(以下、Quecity)である。また合 ォトリングを開発し、未来大学 SoftBank 班、iPhone 班、 宿では企業の方からアドバイスをいただき、今後のプロジ 函館高専 Android 班が Quecity の開発を行うこととした。 ェクトのスケジュールの議論も行った。 各班には技術リーダーを決め、技術リーダーは技術習得、 開発だけでなく班のメンバの管理と開発スケジュールの作 成を行った。技術習得は各プラットフォーム毎に行い、実 装においてはプロトタイプの実装を行い、サーバ処理を含 めたアプリケーションの実装を行った。実装を進めるにあ たってはフォトリングのサーバは遠隔地の神奈工大が担当 したため、動作状況を頻繁に報告することで通信テストを 行い、実装していった。Quecity のサーバは未来大学が担 図 1 第 1 回合同合宿 当し、函館高専には直接高専を訪れ、動作フローを使いサ ーバ 通信の説 明を行っ た。 また 未来大学 と神奈工 大の アイディア決定後、開発とビジネスモデルの作成を進め iPhone 班と、函館高専と神奈工大 Android に関しては Wiki るにあたっての要件定義・設計のために、サービス仕様書 を利用してソースコードの共有を行い、各校で協力しなが と詳細仕様書を作成した。サービス仕様書には開発アプリ ら開発を進めた。実装後は動作テストを行い、担当者が作 ケーションの目的、サービス概要、サービス内容、システ 成した試験項目を開発者以外のメンバに行ってもらうこと ム構成、ユースケース、画面遷移図を記載しており、各校 で完成度を高めた。クラウド技術については、本プロジェ に担当者を決め、各校の担当者が中心となり Skype を使っ クトとでのクラウドの定義を「複数台のコンピュータが協 て連絡を取り合いながら共同で作成した。完成したサービ 力してサービスを提供する」と決め、分散処理と仮想化に ス仕様書を通じてアプリケーションの仕様と内容の確認を よって未来大学のサーバ班が実現をした。神奈工大のサー 行った。また、サービス仕様書で作成したアプリケーショ バも完成次第、未来大学のサーバに移行したことでフォト ンの画面遷移図を合同会議で確認し、具体的な画面を共有 リングと Quecity、二つのアプリケーションでクラウド技 することで遠隔地での意識統一を行った。詳細仕様書は開 術を利用することを実現した。また、未来大学が本プロジ 発における必要な情報であるプラットフォームごとの画面 ェクトで利用しているクラウド技術の成果を発表するため に学外のイベントである函館アカデミックリンク 2010 に 最終的にビジネスモデルにはそれぞれでどれほどの収益を 参加した。 「雲を使った次世代ケータイアプリの開発」とい 出すことができるのかを仮定を立てた上で算出し、具体的 うタイトルで参加し、ブースセッションとステージセッシ かつ現実的なビジネスモデルを作成することができた。ま ョンの二つに出場し、クラウドコンピューティングと二つ た専修大学が作成した資料を参考に未来大学が 2010 キャ の開発アプリケーションの説明し、ステージセッションで ンパスベンチャーグランプリに参加し、1 次審査である書 は優秀賞を受賞した。 類審査をフォトリング、Quecity 共に通過し、2 次審査まで いくことができ、共に努力賞を受賞しました。 本プロジェクトではイベント以外にもさまざまな場所で プロジェクトの成果発表を行った。7 月 16 日に未来大学中 間発表、7 月 21 日に専修大学中間発表、10 月 22 日に行わ れた函館高専の中間発表、11 月 6 日に行われた神奈工大の 学園祭、11 月 20 日に行われた第 2 回合同合宿、12 月 10 日 に未来大学で行われた成果発表会、12 月 15 日に専修大学 で行われた成果発表会である。その中でも第 2 回合同合宿 図 2 アカデミックリンク 2010 では協力企業と 4 校のプロジェクトメンバが専修大学校舎 に集まり、お互いのプロジェクトの成果を発表し、直接他 開発においては、全てのプラットフォームでアプリケー 校の活動と成果を確認できただけでなく、協力企業の方か ションの全ての機能は実装できなかったものの、デモで見 ら多くのコメントをいただいただけでなく、企業発表に向 せるアプリケーションの最低限必要な機能は全てのプラッ けた資料の作成と、今後のスケジュールの議論を直接行っ トフォームで完成させることができた。 たことによって、今後のプロジェクトの方向性を固めるこ ビジネスモデルの作成も開発と並行して行った。専修大 とができた。 学内でフォトリング班と Quecity 班を作り、アプリケーシ ョンごとに分けてビジネスモデルの作成を行った。ビジネ スモデルの知識習得に関しては専修大学のメンバ全員で行 い、知識習得として他社のビジネスモデルの調査、開発ア プリケーションの 5W1H の考案や SWOT 分析、市場の調査な どを行った。また 7 月には第 1 回アンケートを実施し、現 在の携帯電話利用者のアプリケーションの利用状況を知る ための調査を行った。アンケート結果を専修大学内で分析 し、分析結果は Wiki で共有した。夏季休業期間はリーダー 図 3 第 2 回合同合宿 間で作成した課題を専修大学のメンバが毎週行い、Wiki に は知識習得の成果を開発担当校にも共有した。10 月には第 このようなプロセスの上でのプロジェクトの大きな成果 2 回アンケートを行い、開発アプリケーションに対するユ 物としては完成した二つのアプリケーション、フォトリン ーザから見る良い面、悪い面、現段階でのアプリの有用性、 グと Quecity である。フォトリングはユーザに観光地の情 利用者のニーズを調査した。また、より良いビジネスモデ 報を提供し、観光地で撮った写真を投稿して他のユーザに ルにするために専修大学内にある他の研究室を訪問し、現 閲覧してもらうことができる。旅行に行ったユーザの写真 状のビジネスモデルを説明した上での感想や新しい意見を を他のユーザが見て、そこに行きたいと思い、旅行にいく もらいビジネスモデル資料の作成を行った。成果発表時に ことによって人と人がつながってもらうということをコン 協力企業の方からのコメント、アドバイスを元にもビジネ セプトとしたアプリケーションである。主な機能は観光地 スモデルの修正を行い、成果発表の機会を有効に活用した。 情報を閲覧できる「観光地情報機能」 、旅行に行った写真を 投稿できる「写真投稿機能」 、他のユーザのアルバムを閲覧 できる「アルバム閲覧機能」 、その観光地や他のユーザをブ ックマークできる「My ブックマーク機能」、また「観光地 情報機能」の中では、観光地で使うことができるクーポン を得ることができ、また観光地の予約もすることができる。 このような機能でフォトリングは成り立っている。 ユーザにさまざまな観光地に旅行に行ってもらうことに 図 5 「体感型 RPG Quecity」 よって、その地域を活性化できると考え、旅行会社、宿泊 施設、土産屋などと連携することで収益を得ることができ るというビジネスモデルも作成した。 大きな成果はアプリケーションとビジネスモデルだが、 この成果をより高いレベルかつ共同で完成させるために作 成したサービス仕様書、詳細仕様書、動作テスト資料、ア ンケート資料、研究室訪問資料、動作マニュアル、類似ア プリケーションの調査資料などのさまざまな成果物によっ て、質の高いアプリケーションを完成させることができた。 このような成果を未来大学、専修大学、函館高専、神奈 工大の 4 校共同で活動したことを通じて、成果物の質が向 上するだけでなく、大勢で活動するために必要なコミュニ 図 4 「思い出共有アプリ フォトリング」 ケーション能力や相手に伝えるプレゼンテーション能力が メンバ個人で向上した。また技術や知識が成長しただけで Quecity は実際の街を歩くとアプリケーション内で敵が なく、精神的な面の成長も見られることによって、大勢で 出現し、ケータイを振る、または連打するという実際にユ 活動することによっての相乗効果を発揮することができた。 ーザが動作することで敵を倒すという、実際の街がダンジ 加えて、作成したスケジュール通りに仕事をやり遂げる難 ョンになるというリアルとバーチャルが融合したアプリケ しさや責任感、情報を正確に共有の難しさを遠隔地の学校 ーションである。主な機能は実際の現在のユーザの現実の と共同で活動することで学ぶことができた。1 年間遠隔地 位置情報を表示する「マップ機能」 、出現した敵と振る、ま の学生とアイディ提案から納品までの一連の流れを大勢で たは連打することで攻撃することで戦闘する「戦闘機能」、 活動した経験は、メンバ個人が人間として大きく成長する また Queicty 内で使用できるアイテムを買うことができる ことができた。 「アイテム機能」 、現実で使うことができるクーポンも獲得 4. 今後の課題 することができる「クーポン機能」などがある。アプリ内 今後の課題としては 2 月に行われるプロジェクトに協力 で地域のイベントと連携し、イベント会場に Quecity のマ していただいた企業への発表会に向けた発表資料の作成、 ップ上でボスを出現させ、ボスを倒すとそのイベントで利 企業に納品する各成果物をまとめである。この企業発表会 用で きるクー ポンが獲 得できる 特典をつ けること で、 では今までの成果物であるそれぞれのアプリケーションの Quecity がユーザの外出、そしてイベント参加のきっかけ CM、デモシナリオ、成果発表会で使用した資料などを利用 となり、地域を活性化をするというビジネスモデルを作成 して、よりわかりやすい発表ができるように努める。 した。 また、3 月に行われる情報処理学会の準備を未来大学と 神奈工大が進めていき、3 月 15 日には神奈工大の成果発表 を秋葉原で行い、函館高専は卒業論文の作成がある。残り の成果発表でも、より高い評価が得られるように努める。
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