異方構造を有し高膨潤・高強度を示す 物理架橋ポリビニルアルコール

異方構造を有し高膨潤・高強度を示す
物理架橋ポリビニルアルコール(PVA)ゲル
Anisotropic PVA Gels with High Water Content and High Mechanical Strength
Prepared by a Unidirectional Freezing Method
横浜国立大学 大学院環境情報研究院
人工環境と情報部門 教授
鈴木 淳史
asuzuki@ynu.ac.jp
発表の内容
1.  PVA FTゲル・CDゲル ー古くて新しい素材
既存材料にない、透明・高強度CDゲルの活用
2. 異方性ゲル・積層ゲル 相分離に一手間
3. ハイブリッドゲル 人工ハイドロゲル軟骨
4. 高機能化と各種の応用 分野と用途
PVEゲルの作製方法
PVAの既存のゲル化法
1.繰り返し凍結解凍法
1975 �
hydroxyl
groups
N. A. Peppas, Makromole. Chemie., 176, 3443-3440 (1975).!
M. Nambu, Japanese Patent Kokai, No. 57/130543 (1982).!
Acetoxy
groups
!
2.凍結法 in Water/DMSO Mixture
S. H. Hyon,W. I. Cha,Y. Ikeda, Polym. Bull. 22, 119 (1989). !
!
3.キャストドライ法 by a Cast-Drying Method
E. Otsuka, A. Suzuki, J. Appl. Polym. Sci., 114(1):10-16 (2009).!
E. Otsuka. A. Suzuki, Prog. Colloid. Polym. Sci.,136:121-126 (2009).!
2009 �
Hickey &
Peppas
(1995)�
!
4.架橋剤による化学架橋ゲル Using a Chemical Crosslinker
Y. An,T. Koyama, K. Hanabusa, H. Shirai, J. Ikeda, H.Yoneno, T. Itoh, Polymer, 36, 2297-2301 (1995).!
!
5.放射線架橋化学架橋法 by an irradiation of electron beam F. Yoshi,Y. Zhanshan, K. Isobe, K. Shinozaki, K.Makuuchi, Radiat. Phys. Chem., 55:133-138 (1999). !
PVAだけでゲル化させる方法は1・3・5のみ!高強度は1・3のみ!
物理架橋PVAゲル
用いた試薬:水とPVA粉末のみ
ゲル化方法:乾燥または凍結による相分離
キャストドライゲルの作製方法
CD Gel Cast-Drying
水 + PVA
↑
PVA Cast Gel
d=33mm
溶解
乾燥
PVA水溶液
溶解条件:1時間かけて90˚C以上に
PVA濃度:15 wt% 昇温後、1時間以上撹拌しながら湯 乾燥ゲル
乾燥条件:室温大気中で静置
Otsuka E, Suzuki A. J Appl Polym Sci 2009;114(1):10-16.
透明かつ高強度
Otsuka E, Suzuki A. Prog Colloid Polym Sci 2009;136:121-126. 物理架橋ゲル
凍結解凍ゲルの作製方法
FT Gel Freeze-Thawing
上記PVA水溶液を、 d=33mm
所定の温度で、
繰り返し凍結・
解凍する
PVA水溶液
繰り返し:通常4、5回�
凍結
解凍
−20˚C
4˚C
物理架橋PVAゲルの網目構造
水素結合が集まってできた微結晶が架橋点となって
PVAのアモルファス網目を物理架橋したゲル
d: 水素結合間距離
D: 微結晶粒径
L: 微結晶間距離
サイズ
数
微結晶
分布
!
-'.%&/,012&0.
#
#
"
"
!
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#
"
"
!
#
"
!
!
!
#
#
"
ゲル化条件(温度・
湿度など)で、ある
程度は制御可能
FT・CDゲルの
ナノ構造は同じ
#
amorphous region!
!
"
!
"
#
microcrystallites!
"#$%&$%'()*++#),
!
"
PVA CDゲルの
力学特性を決定
!
E. Otsuka, S. Sasaki, K. Koizumi, Y. Hirashima, and A. Suzuki, “Elution of Polymers from
Physically Cross-linked Poly(vinyl alcohol) Gels”, Soft Matter, 6, 24, 6155-6159 (2010).!
網目構造の比較
FT・CDゲルのミクロ構造が全く異なる
ナノ構造
ミクロ構造
CD Gel
透明
微結晶間距離 L:
キャストゲル
>凍結解凍ゲル
微結晶
不均一網目構造
白濁
微結晶領域とアモルファス領域から成る
Intensirty (a. u.)
FT Gel
小角X線散乱
均一網目構造
PVAキャストゲル
凍結解凍ゲル
0.2
-1
q (nm )
1
6
2
引き裂き試験
FT Gel
1400
0.1mm / sec
T[N/m]
1000
800
600
400
0.1mm / sec
200
150
100
50
200
0
CD Gel
250
0.1mm / sec 1200
T[N/m]
FTとCDゲルのミクロ構造の相違が顕著
0
400
相違はサブミクロ
ンサイズの繊維
800
1200
1600
0
0
200
400
600
Time [ sec ]
Time [ sec ]
w�
800
1000
発表の内容
1.  PVA FTゲル・CDゲル ー古くて新しい素材
2. 異方性ゲル・積層ゲル 相分離に一手間
従来にない擬一次元・擬二次元構造を付与する新技術
3. ハイブリッドゲル 人工ハイドロゲル軟骨
4. 高機能化と各種の応用 分野と用途
機械的な強度を上げるには?!
・微結晶の分布制御!
PVAのみで他の機能性
物質の添加なしに!
µ! (")
CDゲル: 繰り返し溶媒交換と乾燥
!
"ゲル化温度、乾燥速度!
ゲル化条件(温
FTゲル: 凍結と解凍の温度! 度・湿度など)
である程度は制
"凍結解凍回数、凍結時間! 御可能
・新規作製方法!
異なる特性を持つゲルの複合化!
0.20
2.0
0.15
1.5
0.10
1.0
0.05
µk
0.5
e
w
0.00
CD
FT-dry
FT
0.0
微結晶の配列を制御し、擬一次元または擬二次元の網目構造を作製!
"一方向凍結法 多層化技術 !
ゲル間のシナジー効果による機能発現!
従来技術にないゲル化方法により、既存材料では得られない特性が得られる!
Wear Ratio : ew (%)
ゲル化途中やゲル化後の温度(焼き鈍し)、変形(引張り・圧縮)などの処理!
膨潤比 vs 引張り強度
10
60˚C80%RH
Flory-type の膨潤理論によれば
高含水率
高強度
8
Maximum Stress (MPa)
既存のゲル化方法
では難しい
高膨潤と高強度は両立できない!
60˚C drying
with 40 or 60%RH
架橋度が上昇すれば、ゲルは硬くなるが
含水量は減少
6
Different Tgel
with 80%RH
4
高含水率・高強度を実現できるか? 現時点では、物理架橋PVAゲルで両方
の性質を兼ね備えることはできない!
Different Tgel
without humidity control
2
FT1
0
0
5
10
Wt / Wd (-)
15
20
同じPVA水溶液から、様々な条件下で作製した物理
架橋ゲルの最大応力(破断応力)と膨潤比の関係
既存技術で得られる
PVAゲルの膨潤比と
引張り強度は一つの
曲線上に乗る。
多層PVAゲル
相分離に一手間
・積層法
応用に欠かせない特性(軟骨の場合)表面とバルクの性質を独立して制御可能
多層
低摩擦係数
高強度・高含水性
高耐摩耗性
傾斜機能
ゲル化時に表面とバルクの性質が決まる → 単一相で全ての特性(要求)を満足できない!
摩擦・摩耗特性制御
CDゲルと FTゲルの積層
CD on CD CD on FT
FT on CD
FTゲル
CDゲル
1mm�
三層構造
FTゲル
内径85 mmのポリアチレン
シャーレに作製した上層CD
ゲル・下層FTゲルからなる
ハイブリッドゲル。
FT on FT
一方向凍結法
温度プロファイルの例
範囲 100 -80 mm
設定温度 -26℃
50
Velocity (mm/s)
0.01 (10/17)
0.02 (10/17)
0.03 (10/17)
0.06 (10/17)
0.10 (10/17)
0.02 (12/09)
15 wt% PVA Solution�
0
-50
-20
-10
0
10
Temperature
(C)
Temperature (˚C)�
20
速度v = 0.01 0.10mm/s
Distance (mm)
100
温度プロファイルを変えると凍結の仕方も変わる
Mold of gel�
冷媒 (エタノール水溶液)
異方構造を持つFTゲル
一方向凍結法!
一定速度
1 mm
冷媒
PVA
溶液
1 mm
SEM画像
従来のFT ゲル
ゲル化時
組織制御
の新技術
一方向凍結ゲル
一方向凍結FTゲルの網目構造
92.5µm�
58.0µm�
微結晶が凝集したドメ
インが一方向に配列→
階層構造を持つ配向し
たフィブリルを形成
100nm domains�
10-20µm fibrils�
水中のAFM 画像
異方性ゲル
鎗光(九大)ら
による
20.0µm�
5.0µm�
冷媒液面と凍結端面の浸漬速度への依存性
速度0.01mm/s
速度0.026mm/s
速度0.02mm/s
速度0.028mm/s
速度0.024mm/s
速度0.08mm/s
―:PVA溶液の液面 ―:PVA溶液の凍結先端 ―:エタノール水溶液の液面
初期弾性率と膨潤比の特異点
0.30
!"#"$!%&&'()
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,
+
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12&3!%&24)
0.20
0.15
+"
0"
両液面差 d :
時間とともに一定になる。
d=0の浸漬速度
→氷結晶の成長速度と一致
このとき、フィブリルの配向が揃
い、膨潤度と強度が極大を示す!
d >0
0.10
0.05
0.00
0.00
!"#$"
/,
最大値:0.30 MPa ;
0.024, 0.028 mm/s
0.25
10
0.02
0.04
0.06
0.08
0.10
Velocity (mm/s)
極大値: 7.8 ;
0.022, 0.024 mm/s
9
Wt / Wd (-)
-
Elastic Modulus (MPa)
$"
緑:v 低
青:v 中
赤:v 高
→:凍結方向
8
d <0
両液面差:d (mm) =
PVA溶液の凍結端面
−冷媒の液面
7
6
5
4
0.00
水冷
溶媒
液︵
︶エ
タ
ノ
ー
ル
0.02
0.04
0.06
v (mm/s)
0.08
0.10
膨潤比 vs 引張り強度
フィブリルに
沿って高強度�
10
8
Maximum Stress (MPa)
92.5µm�
従来の作製方法
異方性ゲル
6
4
高膨潤・高強度化
2
0
0
5
10
Wt / Wd (-)
15
20
フィブリル間の
ゆるい網目構造
この新技術により、既存材
料では得られない高膨潤・
高強度化 が可能となった。
発表の内容
1.  PVA FTゲル・CDゲル ー古くて新しい素材
2. 異方性ゲル・積層ゲル 相分離に一手間
3. ハイブリッドゲル 人工ハイドロゲル軟骨
新旧材料の積層による新機能の創出の一例
4. 高機能化と各種の応用 分野と用途
PVA ハイドロゲル
1980 ∼
巧みな構造・潤滑機構を有する生体関節を規範とする「ヒトに近づく
人工関節」 という視点から、生体関節の潤滑機構を反映させた
「ハイドロゲル人工軟骨」
関節軟骨の構造
Mow et al., Biomechanics of Diarthroidal Joints, Vol.I Springer-Verlag, (1990)
生体は、低摩擦のみならず低摩耗を、多層化により実現している!
ハイブリッドゲル
多層化:異種ゲルの複合化
by phase-contrast
microscopy
CD on
FT
!"#$%&#&'(%)
*+#$%&#&'(%)
,--#./
接着方法の改良 ← 界面構造が鍵
それぞれの層の硬さと透水率が鍵
反復摩擦試験
荷重
ゲル
アルミナ骨頭
ゲル
0.25
凍結解凍(FT)ゲル
動摩擦係数 (-)
0.20
0.15
0.10
キャストドライ(CD)ゲル
ハイブリッドゲル
0.05
0.00
0
500
1000
1500
潤滑剤:純水
荷重:600g (5.88N)
往復回数:2000回
総滑り距離:100m
すべり速度:20mm/sec
ストローク:25mm
2000
繰り返し摩擦回数 (-)
既存材料では得られない低摩擦を長距離保持・耐摩耗性の飛躍的向上!
発表の内容
1.  PVA FTゲル・CDゲル ー古くて新しい素材
2. 異方性ゲル・積層ゲル 相分離に一手間
3. ハイブリッドゲル 人工ハイドロゲル軟骨
4. 高機能化と各種の応用 分野と用途
新技術と新材料の複合化による新機能の創出
新たな異方性ゲル材料
■水溶性機能分子の徐放材料
化学的高機能性素材
(工業・農業資材)
10
強
度
●
高
強
度
ゲ
ル
8
Maximum Stress (MPa)
6
4
■防振材料等 工業材料
●高膨潤・
高強度ゲル
■形状保持の高吸水性材料
(保水・水分徐放性等)
皮膚に接する機能素材
(健康・美容用途)
2
●高膨潤ゲル
0
0
5
ハイブリッドゲル
10
Wt / Wd (-)
15
●ハイブリッドゲル
●多層・傾斜ゲル
20
膨潤度
●生体機能性材料・生体代替材料
・人工ハイドロゲル軟骨
・人体等の構造物のモデル材料
・生体に近い感触の体内器官
(血管モデル、口腔モデル等)
謝辞
PVA粉末は(株)クラレ様からご提供をいただきました。
本研究の一部は、科学研究費補助金(No. 23000011)の助成に
より行なわれました。
ここに謝意を表します。 ご清聴ありがとうございました
ハイブリッドゲル
セラミックスに固着
環境保全・回復用ハイドロゲル
植物を育てるハイドロゲル
ハイドロゲルを用いた医療モデル