iCAP Qs ICP-MSによる半導体グレードの硝酸中の微量金属分析

半導体グレードの硝酸中の微量金属分析
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社
BASF(台湾)、Joy Allied Technology Inc.(台湾)
Application Note EL14001
iCAP Qs ICP-MSによる
キーワード
iCAP Q、半導体、コールドプラズマ、高感度分析、QCell
目的
このアプリケーションノートでは、半導体グレードの硝酸溶液(HNO3)中の超微量金属
濃度を測定しました。コールドプラズマ(CP )と運動エネルギー分別(KEDモード)を
使用することにより、バックグラウンド相当濃度(BEC )の低下と検出限界(DL )の向上
が可能であることを実証しました。また、
Thermo Scientific™ iCAP Q™ ICP-MSに
より、硝酸中の半導体関連元素に対して超微量 ng/L(ppt )レベルを再現性よく測定で
きることも示します。
はじめに
iCAP Q ICP-MSは、もっとも高い感度が求められる、半導体、原
子力、地球科学といったアプリケーションにおける超微量元素の
分析用に開発されました。iCAP Qs ICP-MSは、
耐酸性の試料導
入システムと透過効率の高いインターフェイスを備えています。迅
速なソリッドステートのスイング周波数 RF電源、
独自の90度偏向
イオン光学系、
および Thermo Scientific QCell™を使用した効
多くの元素では、ホットプラズマ(HP )+ He KEDの単一モード
果的な干渉 低 減という組み合わせによって、iCAP Qs ICP-MS
を使用するだけで、バックグラウンドおよび試料マトリックスによ
は、超微量元素の分析に必要な高感度および低バックグラウンド
るスペクトル干渉を十分に抑制でき、これらの濃度レベルで信頼
を実現します。
性の高い測定が可能です。しかし一部の元素、特に第1族および
半導体製造関連アプリケーション(原材料の供給者やプロセス
第2族の金属と一部の遷移金属では、ホットプラズマよりもコール
制御など)では、ターゲット濃度は一般に10 ng/L 未満です。この
ドプラズマを使用した分析が推奨されます。これは、コールドプ
アプリケーションノートでは、三つの機器モード(ホットプラズマ、
ラズマ条件では試料導入システムからのコンタミネーションが低
コールドプラズマ、およびホットプラズマ+ He KED )を利用した
減して、バックグラウンドの低下と検出能力の向上につながるた
一つの ICP-MS測定メソッドで、半導体グレードの硝酸を分析し
めです。
ました。
2
試料と標準溶液の調製
表1:測定パラメーター
すべてのブランク、標準溶液、および試料の調製には、事前洗浄し
パラメーター
た PFAボトルを使用しました。ボトルは超純水(18 .2 M )ですす
スプレーチャンバー
ぎ、使用前に層流クリーンフードで乾燥しました。1 % HNO3の
ネブライザー
試料に適切な量の多元素ストック溶液(SPEX Certiprep )を重
インジェクター
量比で直接添加して、
50、100、500、および1000 ng/Lの濃度の
多元素標準溶液を調製しました。1 % HNO3での回収率を評価す
るために、
10 ng/Lでの添加回収率試験を実施しました。リンスと
設定
石英製サイクロン
マイクロフロー PFA-100(自然吸引)
2.0 mm I.D、サファイア
インターフェイス
プラチナチップサンプルコーン
プラチナチップ高感度スキマーコーン
引出レンズ
コールドプラズマ用
ブランク溶液には、
半導体グレードの HNO3(Fisher Scientific™
OPTIMA™)を使用しました。
測定モード
RF 出力
装置構成
半導体アプリケーションにおける超微量元素のルーチン分析向け
に構成した iCAP Qs ICP-MSを使用しました。機器構成と測定
パラメーターを 表 1に示します。この 分析で 使 用した iCAP Qs
ICP-MSは、クリーンルームには設置されていませんでした。
iCAP Qs ICP-MSには、自然吸引 PFA‐100マイクロフローネブ
ライザー
(Elemental Scientific社製)、ペルチェ冷却式の石英製
スプレーチャンバー
(−3 ℃)、内径2.0 mmサファイア製インジェ
クター、およびセミデマンタブル式石英トーチを取り付けました。
ホット
プラズマ
1550 w
コールド
プラズマ
He KED
550 w
1550 w
補助ガス流量
0.8 L/min
冷却ガス流量
14 L/min
ネブライザー
ガス流量
0.9 L/min
0.74 L/min
0.9 L/min
コリジョンセル
ガス流量
−
−
純 He ガス
3.5 mL/min
KED 設定電圧
−
−
2V
積分時間
100 ∼ 300 ms、3 スイープ
分析結果
1 % HNO3中の62元 素について、検 量 線ブランクの測 定から、
バックグラウンド相当濃度(BEC )と検出限界(DL )を算出しま
した。検出限界はブランクの10回繰り返し測定の標準偏差の3
倍から算出しました。各試料は、同一の機器構成を使用して、ホッ
トプラズマとコールドプラズマを自動的に切り替える、一つのメ
ソッドで分析しました。この測定の結果と10 ng/L添加回収率試
験で得られた回収率(% )を、表 2に示します。
表 2 の結果は、
iCAP Qs ICP-MSが、半導体プロセスで一般的に
使われる HNO3マトリックスに対して、
ng/L 未満の濃度レベルで
の超微量多元素測定に適していることを示しています。
コールドプラズマ性能の向上
従来の RF電源設計の ICP-MSの一部では、コールドプラズマが
酸濃度の高い試料のルーチン分析に適しておらず、さらに希釈す
る必 要があったため、試 料の取り扱い 手順が 増えることによる
コンタミネーションのおそれがありました。iCAP Q ICP-MSにス
イング周波数 RF電源を導入したことで、コールドプラズマにおけ
るマトリックスの安定性が大幅に向上し、酸濃度の高い試料の
ルーチン分析が可能になりました。
このコールドプラズ マの 性 能 向上について検 証を行うために、
iCAP Qsを使用して、7 % HNO3マトリックス中の12のコールド
プラズマ測定元素について、
1、2、3、4、および5 ng/Lでの検量線
作成を行いました。また、
1 ng/L添加回収率試験も実施しました。
これらの試験の結果を表3に示します。また、7 Li、23 Na、40 Caお
iCAP Q ICP-MS
よび 56 Feのコールドプラズマモード検量線の例を図1に示します。
3
表 2:1 % HNO3 試料での検出限界(DL )、BECおよび10 ng/L 添加回収率
元素・
同位体
7
Li
9
Be
11
B
23
測定モード
DL
(ng/L)
Cold
0.03
10 ng/L
BEC
添加回収率
(ng/L)
(%)
0.04
96
元素・
同位体
115
Hot
0.08
0.11
100
Hot
0.83
2.39
103
Hot
0.12
0.05
104
Te
Hot
0.46
0.1
100
Cs
Hot
0.21
1.77
99
0.3
101
Hot
2.0
11
107
121
Sb
Na
Cold
0.2
0.2
114
Cold
0.02
0.06
101
133
Cold
0.3
0.8
108
137
K
Cold
0.7
5.2
108
139
Ca
Cold
2.5
5.1
106
140
KED
0.7
0.6
104
141
Pr
48
KED
0.8
0.3
94
146
Nd
51
V
KED
0.5
0.2
98
147
Cr
Cold
0.3
0.3
98
153
Al
39
40
45
Sc
Ti
52
55
Ba
Hot
0.36
0.13
98
La
Hot
0.01
0.001
99
Ce
Hot
0.01
0.002
102
Hot
0.003
0.001
99
Hot
0.05
0.01
101
Sm
Hot
0.04
0.01
100
Eu
Hot
0.01
0.003
99
Gd
101
Cold
0.1
0.06
98
157
Hot
0.03
0.006
Cold
0.6
1.9
95
159
Hot
0.001
0.001
99
Ni
Cold
0.3
0.5
103
163
Dy
Hot
0.02
0.002
100
Co
Cold
0.09
0.03
99
165
Ho
Cold
0.5
0.5
96
166
Mn
56
Fe
58
59
10 ng/L
BEC
添加回収率
(ng/L)
(%)
In
0.5
Mg
27
DL
(ng/L)
Sn
Hot
118
125
24
測定モード
63
Cu
66
Tb
Hot
0.001
0.001
99
Er
Hot
0.01
0.003
103
Tm
Zn
Cold
0.01
0.01
101
169
Hot
0.003
0.001
100
71
Ga
Hot
0.13
0.14
103
172
Hot
0.01
0.001
100
74
KED
0.8
0.09
100
175
KED
0.9
0.3
94
178
KED
0.01
0.01
112
181
Ge
75
As
77
Se
85
Rb
89
Y
90
Lu
Hot
0.01
0.001
99
Hot
0.03
0.01
101
Hot
0.01
0.001
94
W
Hot
0.33
0.65
102
Re
Hot
0.03
0.01
96
Hf
Ta
Cold
0.8
1.4
100
182
Hot
0.02
0.01
100
185
193
Zr
Hot
0.09
0.06
92
Nb
Hot
0.02
0.01
96
195
Mo
Hot
0.5
1.2
99
197
202
93
98
Yb
101
Hot
0.08
0.02
99
103
Hot
0.04
0.01
101
Ru
Rh
105
Pd
107
Ag
111
Cd
Ir
Hot
0.01
0.002
96
Pt
Hot
0.25
0.6
100
Au
Hot
0.10
0.08
103
Hg
Hot
0.48
1.4
104
Tl
Hot
0.09
0.17
98
Pb
Hot
0.08
0.07
99
Hot
0.15
0.35
97
Hot
0.004
0.001
98
205
Hot
0.13
0.07
99
208
Hot
0.25
0.64
96
209
99
238
Hot
0.32
0.13
Bi
U
注:DL と BEC は測定した試料中の不純物量に依存します。この測定はクリーンルーム外の環境で実施したものです。
表3:7 % HNO3 試料での検出限界(DL )、BECおよび
1 ng/L 添加回収率
元素・
同位体
1 ng/L
DL
(ng/L)
BEC
(ng/L)
添加回収率
(%)
7
Li
0.02
0.09
98
23
Na
0.03
0.52
106
Mg
0.04
0.07
103
0.10
0.09
106
K
0.18
4.78
94
Ca
0.47
1.45
108
52
Cr
0.11
0.69
94
55
Mn
0.20
0.81
92
0.09
0.76
101
0.08
0.14
94
0.21
0.81
97
0.08
0.18
92
24
27
Al
39
40
56
Fe
58
59
Ni
Co
63
Cu
注:DL と BEC は測定した試料中の不純物量に依存します。この
測定はクリーンルーム外の環境で実施したものです。
表3と図1からわかるように、
コールドプラズマ分析で、
アルゴンに
よる干渉が効果的に抑制され、
半導体アプリケーションで求められ
る、
レベルの DLおよび BEC値を得る高感度が実現さ
pg/L(ppq )
れています。さらに、
7 % HNO3中の12元素について、1 ng/Lの添
加回収率92 % ∼ 108 %が得られたことは、
このアプリケーション
における iCAP Qs ICP-MSの優れた性能を裏付けています。
23
Na
40
Ca
56
Fe
Application Note EL14001
Li
7
図1:7 % HNO3 試料におけるコールドプラズマの検量線の例(0、1、2、3、4、5 ng/L)
まとめ
参考文献
iCAP Qs ICP-MSでは、半導体グレードの酸性試料における超
Ultra Trace Elemental Analysis Through the Use of Cold
微量(ppt未満)の濃度レベルの測定を実現する高感度および干
Plasma on the Thermo Scientific iCAP Qs ICP-MS,
渉の排除が実現されることを示しました。スイング周波数 RF電
Thermo Scientific Technical Note: TN43169.
源によって、迅速かつ自動的にホットプラズマとコールドプラズマ
を切り替えることができるため、複数の測定モードのアプリケー
ションにおける信頼性が向上します。
オーダーインフォメーション
製品番号
関連するアプリケーションノート
EL13007 高感度 ICP-MSによる半導体グレードのイソプロピル
アルコール中の不純物分析
(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
製品名
1600342
PFA-100 ネブライザー
1341380
コールドプラズマエクストラクションレンズキット
1324530
プラチナチップサンプルコーン
1341430
プラチナチップスキマーコーン
A467-500 Fisher Scientific Optima 硝酸
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E1403