アブラナ科植物の萎黄病菌に対す る抵抗性の判定法 新潟大学 自然科学系（農学部） 教授 岡崎 桂一 1 研究の背景１ アブラナ科植物とは アブラナ科祖先種 ゲノムの3倍加（130〜170万年前） ＊ 2000万年前 アブラナ属祖先種 祖先種 シロイヌナズナ（n=5） R. sativus; n=9 800万年前 Brassica rapa; n=10 B. oleracea; n=9 2 研究の背景２ 萎黄病とは ❍萎黄病菌（Fusarium oxysporum）による土壌伝染性病害。 ❍根から導管に感染し，葉の黄変，萎れ，枯死を引き起こす。 ❍４つの分化型（f. sp. conglutinans, f. sp. rapae, f. sp. raphaniな ど ）がある。 18℃ Type A Type B 24℃ 28℃ 単因子優性遺伝子支配 量的遺伝子（QTL）支配 3 本技術の特徴・従来技術との比較 アブラナ科作物の生産現場で問題となってい る萎黄病に対する抵抗性遺伝子を同定し， そ の遺伝子から抵抗性を示す個体を選抜する分 子(DNA) マーカーを開発した。 本方法は、従来法の病原菌接種試験法に比 べ，大幅に労力と時間を節約できるほか，環境 の影響を受けず再現性のある結果が得られる。 また，本方法を用いると個体が抵抗性遺伝子を ホモで持つか，ヘテロで持つかを判定できる点 もメリットである。 4 Ⅰ．Differential expression解析を用いた ハクサイ萎黄病抵抗性遺伝子の同定 DI=0 無病徴 Hiseq-2000 DI=1 黄化 DI=2 枯死 播種14日後（非感染） よりTotal RNAを抽出 近交系10系統 T04 T15 T17 T21 T23 T25 T13 T14 T22 T24 DI 0.00 ±0.00a (S )b 0.00 ±0.00 (S ) 0.00 ±0.00 (S ) 0.00 ±0.00 (S ) 0.00 ±0.00 (S ) 0.00 ±0.00 (S ) 2.00 ±0.00 ( R ) 1.86 ±0.14 ( R ) 2.00 ±0.00 ( R ) 2.00 ±0.00 ( R ) 分析した系統を示す 5 結果１. 抵抗性･罹病性系統におけるNBSLRRモチーフをもつ遺伝子の発現解析 244遺伝子（NBS-LRRモチーフをもつ遺伝子数） Tophat/cuffdiffによる発現比較 （十分な発現を示しているか？） 29遺伝子 215遺伝子 少なくとも一方で発現しているか？ 転写量2倍以上で有意な差を示すか？ 9遺伝子 YES NO 20遺伝子 171遺伝子 44遺伝子 両系統で発現しているか？ 152遺伝子 19遺伝子 2倍以上の発現の差を示すか？ 42遺伝子 110遺伝子 6 結果２．近交系での選抜遺伝子のgenomic PCRと接種試験 近交系 Size T24 T22 T14 T04 罹病性 T21 T17 T25 T15 選抜遺伝子 T23 抵抗性 Bra008056 Bra022071 Bra012540 Bra008055 Bra012688 Bra012689 7 T24 T23 結果３．T24(罹病性)×T23(抵抗性)のF2分離集団に おけるBra012688のジェノタイピングと接種試験 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 No. R S S S S R R S R S R R R R R R R R S R S R R S 表現型 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 R R S S R R S R R R R R S R R S R R S R S S R R 接種試験 8 結果４． 抵抗性候補遺伝子の構造と感受 性系統（T23）における欠失領域の推定 2 3 4 5 T23 T24 kb T23 T24 1 Bra012689 Bra6 Bra012688 6 T23 T24 Bra3 T23 T24 T23 T24 T23 T24 1kb Bra1 Bra2 2.0 1.0 0.5 0.1 9 Ⅱ.マップベースクローニング法による萎黄病 抵抗性候補遺伝子の同定 萎黄病抵抗性 萎黄病感受性 安寿（キャベツ）GC（ブロッコリー） ❐萎黄病抵抗性検定（F3検定） 抵抗性 感受性 個体数 ❐罹病度指数（DI） DI=0 DI=1 DI=2 無病徴 黄化 枯死 F2・３個体の罹病度 10 CB10030 BRMS226 Na12-B11 Ol13-F08 IGF2562d BRAS014 KBrB027J MD50 CB10121 KBrS012D KBrB084F KBrB089H pW174 KBrS003O BSA8 TCR05 pW166 BnGMS616 KBrH097K ME2OD26 14.9 24.4 26.0 28.3 30.1 33.1 39.8 50.5 51.1 51.6 59.1 60.2 61.4 85.2 40.0 60.0 81.0 18.0 B. oleracea（第7染 16.0 色体） 14.0 12.0 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 0.0 20.0 53.3 F6R6 CB10297 CB10528 F2R11 BRAS023 CB10299 BRMS005 KBrB086E 0.0 0.5 1.0 4.3 5.4 6.8 10.5 12.7 LOD値 結果１． QTL解析 FocBo1 （萎黄病抵抗性遺伝子） 80.0 11 結果２． FocBo1遺伝子のファインマッピング KBrS012 KBrB084 pW174 KBrB089 BoInd1 KBrS003 BoInd2 BoInd3 BoInd4 BoInd5 BoInd11 BoInd14 BoInd15 CB10634 BoInd16 Bo1259 KBrH059 FocBo1QTL領域 個体 No DI ±SE AGF2645 AGF2836 AGF2766 AGF2293 AGF2647 AGF2649 AGF2651 AGF2537 AGF2850 AGF2283 AGF2909 AGF21008 AGF2995 AGF2190 AGF2853 AGF2947 AGF2654 0.0 ±0.0 0.0 ±0.0 0.6 ±0.2 0.6 ±0.3 0.5 ±0.4 0.4 ±0.3 0.0 ±0.0 0.1 ±0.1 2.0 ±0.0 2.0 ±0.0 2.0 ±0.0 0.8 ±0.2 0.4 ±0.2 2.0 ±0.0 1.9 ±0.1 1.9 ±0.1 0.4 ±0.2 FocBo1 遺伝子型 抵抗性ホモ ヘテロ 罹病性ホモ 12 ハクサイ「Chiifu-401-42」 （Brassica DBより） 012687 012688 012689 012690 012692 012691 012693 012697 012696 012695 012694 012698 #26 #27 #25 #22 #23 #24 #19 #20 #21 カイラン（B. oleracea A12） 012699 #03 #04 #05 #06 #07 #08 #09 #10 #11 #12 #13 #14 #15 #16 #17 #18 #02 #01 結果３． FocBo1領域のBACクローンの単 離と候補遺伝子予測 BAC58クローンより 10 kb 13 結果４ 抵抗性系統「安寿」のFocBo1の単 離と配列比較 欠失 挿入 FocBｒ1 Bra012688 (T23) B. rapa（T23) Bra012689(T23) FocBo1 Anju A GC A A12 #25-gene 表：FocBo1とFocBr1(Bra012688)の構造比較 E1 Anju 20 I1 E2 511 441 I2 E3 I3 90 1084 92 E4 I4 E5 I5 E6 I6 E7 I7 E8 309 138 480 510 483 248 1185 101 93 GC 20 490 442 89 1084 92 309 138 480 510 482 247 1179 Bra012688 83 508 441 79 1084 92 309 138 480 494 483 248 1194 106 ・Eと Iは，それぞれエキソンとイントロンを表し，表中の数字は塩基数を示す。 93 14 Ⅲ．マーカー利用選抜：選抜マーカーのプライマーポジション Anju FocBo1 Bra012689オレラセア偽遺伝子 MTK-A MTK-0 #26 #27 #25 #22 #23 #24 #19 #20 #21 #03 #04 #05 #06 #07 #08 #09 #10 #11 #12 #13 #14 #15 #16 #17 #18 #02 #01 カイラン（B. oleracea A12） BAC58クローン 10 kb MTK-1 B. rapa（T23) FocBｒ1 Bra012688 (T23) Bra012689(T23) Bra012688m 15 結果１.B. oleracea選抜用マーカーのバンド 空欄はＰＣＲで増 パターン Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 幅が見られなかっ （Anju） (a) 近交系（ホモ 系統） MTK-A MTK-0 MTK-1 （GC） （NN11） （NN1） たことを示す （A) （A) （A) 526bp 487bp （G) （G) （A) （G) 506bp 484bp Group A Group B Group C Group D Group E Group F Ⅰ×Ⅰ Ⅰ×Ⅱ Ⅰ×Ⅳ Ⅱ×Ⅱ Ⅱ×Ⅲ Ⅲ×Ⅳ Ⅰ×Ⅲ Ⅱ×Ⅳ (b) 市販品種 MTK-A （A) （A) MTK-0 MTK-1 （A) （A) （A) （A) （G) （G) （G) （G) （G) （A) （A) （G) （A) （G) （G) （A) （A) 16 結果２. 市販品種の選抜マーカー分析および接 種試験 (GroupA) (GroupB) 遺伝子型 Ｆ１品種 ホモヘ 表現 MTK- MTK MTK- テロ判 型 A -0 1 定 (GroupA) 彩風 A 彩ひかり （ＮＤ） YR楽山 A 夢ごろも A 若峰 A 涼音 A あさしお A 星岬 A いろどり （ＮＤ） マイペース A YR天空 A 彩里 A Ｆ１品種 (GroupC) ホモ ヘテ MTK- MTK MTK- ロ判 表現 A -0 1 定 型 遺伝子型 (GroupC) (GroupB) A A A A A A A A A A A A A A A A A A A A A A A A Rホモ，H Rホモ，H Rホモ，H Rホモ，H Rホモ，H Rホモ，H Rホモ，H Rホモ，H Rホモ，H Rホモ，H Rホモ，H Rホモ，H R R R R R R R R R R R R Ｆ１品種 ホモ ヘテ MTK- MTK MTK ロ判 表現 A -0 -1 定 型 遺伝子型 春のかほり （ＮＤ） AG AG YR新風 A YRSE AG A AG A YR青春二号 YR春空 （ＮＤ） AG AG 夢舞台 A 浜岬 （ＮＤ） AG アーリーボール （ＮＤ） AG 麗峰1号 （ＮＤ） AG YR清美 （ＮＤ） AG みさき （ＮＤ） AG YR金春5号 （ＮＤ） AG みくに （ＮＤ） AG 沢ゆたか （ＮＤ） AG AG シャスター A AG AG AG AG AG AG AG AG AG AG AG AG AG AG AG H H H H H H H H H H H H H H H R R R R R R R R R R R R R R R グリーンビュー ティー AG H R A AG おきな YRしぶき 好菜堂 祝園 もとき 錦秋強力 152 秋空 恋岬 YR夏晴 A A （ＮＤ） （ＮＤ） （ＮＤ） A A A A A AG AG AG AG AG H H H H H R R R R R （ＮＤ） （ＮＤ） （ＮＤ） （ＮＤ） A A A A AG AG AG AG H H H H R R R R 17 市販品種の選抜マーカー分析および接種試験 （つづき） (GroupE) (GroupD) Ｆ１品種 MTKホモヘテ 表現 MTK-A 0 MTK-1 ロ判定 型 (GroupD) 味春 初秋 輝岬 金系201号 Non Non （ＮＤ） Non Non YR春系305号 スピードボール２号 Non デリシャス （ＮＤ） Non シティー 藍春ゴールド （ＮＤ） YRデライトボール （ＮＤ） Non フォレスト Non スピードドーム Non キャッスル Non 緑嶺 Ｆ１品種 MT MTK ホモヘテロ MTK-A K-0 -1 判定 表現 型 (GroupE) G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G Sホモ Sホモ Sホモ Sホモ Sホモ Sホモ Sホモ Sホモ Sホモ Sホモ Sホモ Sホモ Sホモ Sホモ S S S S S S S S S S S S S S ジャンヌ 冬穫B号 ハイツSP AG AG AG Sホモ Sホモ Sホモ S S S さつき女王 Non Del AG 早生秋宝 （ＮＤ） Del AG Sホモ Sホモ S S Non Non （ＮＤ） G G G (GroupF) 18 結果３.萎黄病菌分化型rapaeとconglutinans の接種試験 rapae ‘240326’ 〈キャベツ〉 追風 - 将軍 - YR金春 5号 〈ブロッコリー〉 緑嶺 rapae ‘240326’ conglutinans ‘cong1-1’ FocBo1 〈コマツナ〉 極楽天 黒みすぎ + 〈チンゲンサイ〉 - 〈タアサイ〉 長陽 緑彩1号 conglutinans ‘cong1-1’ FocBo1 + + 19 結果４.コマツナ市販品種における表現型・遺伝 子型の比較 conglutinans 平均罹病度指数 rapae 2 1.8 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 平均罹病度指数 0 : 無病徴, 1 : 矮化・黄化, 2 : 枯死 FocBr1 ＋ ＋＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ ＋ − − 20 平均罹病度指数 結果５.ハクサイ・チンゲンサイ・カブにおける表現 conglutinans 型・遺伝子型の比較 rapae FocBr1 ハクサイ + + + + + + + + + + + + + + + - - + + + + + + + + - - 平均罹病度指数 0 : 無病徴, 1 : 矮化・黄化, 2 : 枯死 21 平均罹病度指数 結果６.コマツナ近交系における表現型・遺伝子型 f. sp. conglutinans 接種 系統番号 FocBr1 0.無病徴 - 1.葉巻,矮化 2.黄化,落葉 - - - 3.枯死 22 想定される用途と実用化に向けた課題 ● 煩雑で環境の影響を受ける接種試験をせずとも，抵抗性遺伝子 の有無を判定でき，育種の効率化を図れる。 ● 萎黄病罹病性遺伝子を排除した抵抗性遺伝子のみを含む育種 母集団を育成できる。 ●マーカー利用選抜が可能かどうかは，主に市販品種を用いて 実施しているが，市販品種の親系統を用いて実施する必要が ある。 ●各種苗メーカーで実用化する場合には，所有する親系統の抵抗 性遺伝子の有無をマーカー利用で判定すると同時に，1回は接 種試験を行う必要がある。 23 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 ：萎黄病菌抵抗性を有するポリヌクレオチド、及び その利用、並びにアブラナ科植物の萎黄病菌に 対する抵抗性の判定方法 • 出願番号 • 出願人 • 発明者 ：特願2013-213332 ：国立大学法人 新潟大学 ： 岡崎桂一，清水元樹，藤本 龍，川邊 隆大， 蒲子婧，加治 誠，長岡 朝彦 • 問い合わせ先 ： 新潟大学 産学地域連携推進機構 産学地域連携推進センター ＴＥＬ ０２５－２６２ － ７５５４ ＦＡＸ ０２５－２６２ － ７５１３ e-mail onestop@adm.niigata-u.ac.jp 24
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