JPEC レポート JJP PE EC C レ レポ ポー ートト 第 27 回 2014 年度 平成 27 年 2 月 24 日 対ロ制裁下で進むロシア中国のエネルギー協力 2014 年 5 月、アジア相互協力信頼醸成措置会議 1. 中国の石油ガス需給 ············ 1 (CICA)第 4 回サミットに出席するために上海を訪 2. ロシアと中国の協力事業······ 5 れたロシアのプーチン大統領は、中国の習近平国家 主席とともに、ロシア Gazprom と中国石油天然ガス集団公司(CNPC)の 4,000 億ドル規 模とされる天然ガス供給契約調印に立ち会った。2006 年 3 月に天然ガス供給に関するプロ トコールに調印して以降、8 年を経てようやくまとまった大型契約である。両国間では、 すでに原油パイプラインが建設されて、シベリア原油が供給されているが、これに続いて 2019 年からパイプラインガス供給がスタートすることになった。このほか両国間では、 LNG 供給契約も締結されている。また、ロシア国内の油ガス田開発に中国が参加すること や中国天津での合弁製油所建設も計画されており、エネルギーの巨大生産・輸出国と巨大 なエネルギー消費国の協力は今後も強化されるものとみられる。 1. 中国の石油ガス需給 大慶や勝利、タリムといった大型油田やガス田、数多くの炭鉱、巨大な三峡水力発電所 などを有する中国であるが、エネルギー需要の拡大が続き、その安定確保が重要課題とな っている。 1.1. 1 次エネルギー 中国の 1 次エネルギー消費(BP 統計、以下同様)は、2010 年に米国を抜いて世界最大 となっており、 2013 年には前年比4.7%増の28 億5,240 万toe にまで増加、 世界全体の22.4% を占め、17.8%の米国を大きく引き離している。 1 次エネルギー消費の主力は石炭であり、中国は 1987 年段階で米国を上回り、世界最大 の石炭消費国となった。2013 年の消費量は前年比 4.0%増の 19.2 億 toe で、エネルギー消 費の 67.5%を占めている。また、世界の石炭消費の 50.3%を占め、こうした巨大な石炭消 費が環境問題の主因の 1 つとなっている。石炭の生産は 2000 年以降に急増、2000 年の 13.8 億トン(6.9 億 toe)から 2013 年には 36.8 億トン(18.4 億 toe)に達した。これは、全世界 の 47.4%という巨大な量である。 1.2. 石油 中国の石油消費は 2002 年段階で日本を上回っており、米国に次いで世界第 2 位である。 2013 年は前年比 3.8%増の 5.1 億トンとなり、一次エネルギー消費の 17.8%を占めている。 1 JPEC レポート 石油生産は、緩やかながら拡大基調にあり、1996 年に 1.5 億トンを超えた後、2010 年には 2 億トンを突破し、2013 年は前年比 0.6%増の 2.08 億トンとなった(図 1 参照) 。これは、 アジア最大であるのはもちろん、サウジ以外の中東産油国やアフリカ産油国を遙かに上回 る量である。2014 年の原油生産量(国土資源部発表)は 2.1 億トンとなり、5 年連続して 2 億トンを上回った。 図 1 中国の石油生産と消費の推移 中国の石油消費は、石油輸入が増加し始めた 1995 年の 1.6 億トンから 2013 年には 3 倍 以上の 5.1 億トンに増加したが、この間の原油生産は 30%程度の増加しかない。これによ り、 中国の原油輸入量は 1995 年の 1,700 万トンから 2013 年の 2.8 億トンへ猛烈な勢いで拡 大してきた。 中国は大慶油田の開発により 1970 年代から一貫して石油輸出国としてのポジションを とり続けていたが、1992 年に石油製品の輸入が輸出を上回り、1993 年に石油全体(原油と 石油製品合計)で純輸入国、1996 年に原油の純輸入国となった(図 2 参照) 。原油輸入量 は 2010 年に 2.4 億トンに達し、原油の国内生産を上回った。原油輸入はその後も増加し、 2013 年に 2.8 億トン、2014 年には 3.1 億トンにまで拡大した。 これにより石油対外依存度は 50%を突破し、2014 年には約 60%に達した(図 3 参照) 。 この間、原油輸出は減少を続け、1990 年代初頭には 2000 万トン以上あったが、2014 年に は 60 万トンにまで減少している。 2 JPEC レポート 図 2 中国の石油生産と消費の推移 図 3 石油対外依存の推移 1.3. 天然ガス 天然ガス消費量(BP 統計)は、西気東輸や国際パイプライン、LNG 輸入ターミナルの 完成で急速に拡大し、2008 年にドイツを、2009 年に日本と英国、2010 年にカナダを上回 り、2013 年は前年比 10.8%増の 1.6 億 m3(1.5 億 toe)となった(図 4.参照) 。これは、エ ネルギー消費の 5.1%、世界の 4.8%を占めるに過ぎないが、今後も上昇が続き、イランを 抜いて、米国、ロシアに次ぐ世界第 3 位の天然ガス消費国になるものとみられる。 3 天然ガス生産は、四川を中心に 1980 年代から 1990 年代中期まで 170 億 m(1,500 万 toe) 前後で推移していたが、その後は輸送網の拡充もあって急増し、2007 年時点でアジア有数 の産ガス国であるインドネシアやマレーシアを抜いてアジア最大となった。この間、2000 年の 272 億 m3(2,500 万 toe)から 2013 年には 1,200 億 m3(1.1 億万 toe)にまで増加(図 3 JPEC レポート 4 参照) 、これは前年比 9.5%増の伸びである。2014 年の天然ガス生産量(国土資源部発表) は、さらに増加して 13 億 m3 となった。 図 4 中国の天然ガス生産と消費の推移 中国は 2006 年に LNG 輸入を開始したが、本格的な輸入開始は 2007 年からで、この年 の天然ガスの対外依存度はわずか 2%だった。その後、中央アジアからのガスパイプライ ンが建設され、LNG 輸入ターミナルも相次いで完成し、ガス輸入は急増、対外依存度は 2010 年に 11.8%、2011 年に 24.3%、2012 年に 28.9%、2013 年には 30%を突破して 31.6% となり、2014 年で 32.2%まで高まった。2014 年は、天然ガス見掛け消費量(中国石油・化 学工業聯合会発表)が 1800 億 m3 にまで増加、うち天然ガス輸入量は 580 億 m3 で、対外 依存度は 32.2%に上昇した(図 5 参照) 。 図 5 中国の天然ガス対外依存の推移 4 JPEC レポート 2. ロシアと中国の協力事業 2.1. ロシアからの原油輸入拡大 かつて中国の石油産業は旧ソ連の支援によって発展の礎を築いた。1949 年の中華人民共 和国成立以降、旧ソ連が技術・資金面で中国の石油産業発展を支援したが、1960 年の中ソ 論争に伴う政治対立によって協力関係は途絶えた。その後、1991 年の新生ロシア連邦成立 −中ロ関係改善以後も、国境を接する両エネルギー大国の交流が本格的にスタートしたの は 1999 年 2 月の朱鎔基首相のロシア訪問以降である。 それまでも両国は、江蘇省の田湾原子力発電所建設などに合意していたが、石油・天然 ガス分野の協力プロジェクトはほとんどなく、 朱鎔基首相訪ロと経済協力 11 案件の調印が 大きな転換点となった。調印した協力案件には、ロシア原油の輸入と原油パイプラインお よびガスパイプラインの建設計画など、契約当事者などは変化しているが(原油供給とパ イプライン計画には当時絶好調であった民間企業の Yukos が前面に立っていたが、同社は プーチン政権によって完全に解体され、資産の多くは Rosneft が獲得した) 、その後の両国 のエネルギー協力の大きな流れを形成する重要な事業が含まれていた。 図 2 および図 3 に示したように、すでに石油の純輸入国に転じていた中国は、この頃か ら原油輸入が急増し、天然ガスについても西気東輸第 1 線の建設計画を進めるとともに、 中央アジアからのパイプラインや LNG 輸入ターミナルの建設に向けた準備を開始してい た。また、国営石油会社の再編を終えて国際市場への上場を進め、上流事業における本格 的な海外事業展開に入っていた。 一方、ソ連邦崩壊による混乱で大幅な減少を強いられていたロシアの石油生産は 2000 年を境に飛躍的な増産に転じた(図 6 参照) 。 図 6 ロシアの石油生産と消費の推移 5 JPEC レポート 旧ソ連時代から増加の一途を辿っていた天然ガス生産は、ソ連邦崩壊後も原油ほどの減 産とはならず、ロシアは世界最大の産ガス国として、それまでの欧州市場一辺倒からアジ ア市場へも目を向け始めていた。2000 年以降、ガス生産も回復基調に乗り、2009 年に世界 不況と米国のシェールガス増産により余剰となった LNG が欧州市場へ向かったことで一 時的に減産したことを除けば、安定した生産が続いている(図 7 参照) 。 図 7 ロシアの天然ガス生産と消費の推移 2000 年以降、ロシアから中国への原油輸出も急増し、それまでは 100 万トンに満たない 量だったが、2000 年に 150 万トンとなった以降、2006 年の 1,600 万トンまで 6 年で 10 倍 以上に増加した。その後減少したが、2009 年は 1,500 万トン台に回復した。さらに、2010 年 10 月に東シベリア– 太平洋(ESPO)原油パイプライン大慶支線が完成したことで、2011 年から急増、2013 年は 2,400 万トン、2014 年は 3,300 万トンにまで増加した。 原油の他に、2010 年まで中国はロシアから年間 300~800 万トンの石油製品を輸入して おり、原油と製品を合わせた合計の石油輸入量は、2014 年で 36 万トンに達している(図 8 参照) 。 図 8 ロシアからの石油輸入推移 6 JPEC レポート 2.2. ESPO 大慶支線と原油輸入拡大 東シベリア– 太平洋原油パイプライン(ESPO)の中国大慶向け支線は 2010 年 10 月に完 成し、2011 年 1 月 1 日から正式操業を開始している。ルートは Skovorodino-から国境の漠 河を経て大慶のターミナルに入る。敷設距離は、ロシア区間が 64km と中国区間が 927km の計 991km である。 東シベリアからパイプラインで中国に原油を輸送するという構想は、1990 年代後半から 具体的な計画として語られるようになっていた。前述した Yukos が計画していたもので、 Angarsk から満州里を経て中国東北部に入るというルートが検討されていた。ただ、国営 石油パイプライン会社である Transneft は、日本を含めアジア太平洋圏全体をターゲットに 出来る東シベリア– 太平洋ルートを計画しており、ロシア政府は最終的に東シベリア– 太 平洋ルートの建設を決めた。環境問題の検討などを経て、イルクーツク州 Taishet からバイ カル湖北側を回って中国国境に近いアムール州の Skovorodino までの区間をフェーズ 1 (ESPO-1) 、Skovorodino から大平洋岸の Kozmino 湾までをフェーズ 2(ESPO-2)として建 設することを決定した。中国向けは、ESPO-1 の東端である Skovorodino から漠河を経て大 慶に向かう支線を建設することになった(図 9 参照) 。 Skovorodino から中国への支線建設については、2008 年 10 月の温家宝首相訪ロで CNPC と Transneft の合意が成立した。そして 2009 年 2 月、ロシアからセーチン副首相と関係各 社首脳が訪中、総額 250 億ドル(Rosneft に 150 億ドルと Transneft に 100 億ドル)の融資 「貸款換石油(融資と石油の交換) 」を行うことに合意するとともに、ESPO 中国向け支線 を使用して 20 年間にわたって年間 1500 万トンの原油を中国に供給することに合意した。 ESPO の原油輸送量は当初年間 5,000 万トン(最終的に年間 8,000 万トン) 、ESPO-2 竣工 までは Skovorodino から Kozmino への輸送は鉄道が担った。ESPO-1 に続いて、ESPO-2 は 2010 年 1 月に建設が開始され、2012 年 12 月 25 日に操業を開始した。なお、中国向け原油 価格には、ロシア国内統一輸送費(供給源や供給先が異なっても ESPO 原油には同一タリ フ)が適用されていたが、中国は、太平洋岸に比べ中国向けの Skovorodino は距離が短い として割引を求め、何度か論争となった。結局、2012 年 2 月に 1.5 ドル/bbl の値引に合意 した。 2013 年 3 月には就任したばかりの習近平主席が訪ロ、CNPC と Rosneft は原油取引を年 間 3,100 万トンに倍増し、新たに 25 年間の供給契約に署名した。この実現に向け ESPO 大 慶支線増強やモンゴル経由の鉄道輸送、極東からのタンカー輸送、カザフ経由の輸送を検 討することになった。Rosneft は、中国向けとなる Vankor 油田の開発やガスプログラムを 進めるため中国開発銀行と 20 億ドルの融資に合意した。 続く 6 月の世界経済フォーラムで、1)ESPO 大慶支線で現在の年 1,500 万トンを 2018 年までに同 3,000 万トン、期間は 25 年(5 年の延長可) 2)カザフ– 中国パイプラインで 2014 年 1 月から年 700 万トン、期間は 5 年(5 年の延長可) 3)CNPC・Rosneft 合弁天津 7 JPEC レポート 製油所向け年 910 万トンの供給契約と、2009 年に CNPC と契約した原油供給を担保とする 20 億ドルの融資契約に調印した。10 月のメドヴェージェフ首相訪中(第 18 回定期会談) では、中国向け原油供給を 2014 年から 10 年間にわたり年間 1,000 万トン拡大し、契約金 額は 850 億ドルで前金とすることに合意した。 図 9 ESPO パイプラインと大慶支線 2.3. 中ロ合弁の天津製油所計画 2007年3月に合意した中国での合弁精製事業協定に基づき2007年10月にCNPCが51%、 Rosneft が 49%のシェアで中俄東方石化(天津)有限公司(Russian-Chinese Eastern Petrochemical Company)を設立、天津で製油所を建設するとともに中国国内で 500 カ所の サービスステーション(SS)を設置して製品を販売することを計画している。主要ユニッ トは、トッパーのほか、連続触媒再生式接触改質設備(CCR)や 400 万トンの残油水素化 脱硫設備(HDS) 、残油流動接触分解設備(RFCC) 、ガソリン・軽油などの水素化精製設備 (HT)などである。 当初計画では、原油処理能力は年間 1,000 万トン、操業開始は 2011 年とされていたが、 計画は大幅に遅れ、2010 年 9 月に王岐山副首相とセーチン副首相を迎えて、能力を 1300 万トンに引き上げて FS を実施する契約に調印するとともに、天津南港工業区で定礎式を 行った。また、CNPC は 2010 年末、南港工業区に 100 万 kL(10 万 kL×10 基)規模の原油 商業備蓄基地の建設を完了した。主にロシア原油を受け入れ、同製油所に原油を供給する ことを目的としたもの。しかし、それ以降も投資効率が低いことやロシアからの原油供給 が未確定であったことからこの製油所計画は進まなかった。 2013 年 10 月になり、李克強首相とメドベージェフ首相立会いのもと、CNPC と Rosneft 、2020 年末までに竣工というスケジュールおよび は、2017 年初めに最終投資決定(FID) 原油供給に関する原則的合意文書に調印した。この間、精製事業とともに石油化学事業に ついても推進すること、独自に原油を輸入する権利と生産する石油製品の輸出ライセンス 8 JPEC レポート を与えることに合意した。 2014 年 5 月のプーチン大統領訪中で、Rosneft と CNPC は、天津製油所の原油処理能力 は年間 1,600 万トン、2013 年の合意より 1 年前倒しして 2016 年 3 月に最終投資決定、2019 年に操業開始とすること、Kozmino 港から年間 910 万トンの原油を供給することに合意し た。 これに加えて同年11 月の合弁会社取締役会で、 2015 年2 月までに原油処理能力年間1600 万トンの製油所建設と同 140 万トンのパラキシレン(PX)プラントのための芳香族抽出設 備や接触改質設備などを最適化するため手直しを行うことを決議した。PX プラント建設 は、天津製油所の採算性をさらに高めるために計画されたとみられる。年産 140 万トンと いう生産能力は、 完成するとPetroChinaとしてはウルムチ石化分公司の95万トンを上回り、 中国最大のものとなる。中国の PX プラントは、環境問題から反対運動により幾つかのプ ロジェクトが中止に追い込まれているが、天津の場合、住宅地から遠く離れた天津南港工 業区に立地しており、こうした問題はないとみられる。 2.4. 天然ガス輸入契約成立 2014 年 5 月のプーチン大統領訪中で最大の協力案件となったのが、ロシア– 中国天然ガ スパイプライン東ルートによる天然ガス供給契約である。Gazprom と CNPC は、プーチン 大統領と習近平主席の立ち会いの下、 4,000 億ドル規模に達する史上空前の天然ガス供給契 約に調印した。同事業を進めるため天然ガスの探鉱開発と中国へのパイプライン敷設に 550 億ドルの資金が投下されるが、中国はガス供給契約の一環として、ロシア側に約 200 億ドルを支払うことに合意した。これにより、Gazprom は 2018 年から 30 年間にわたって 供給量は、 東ルートのガスパイプラインを通じて中国に天然ガスを供給することになった。 3 最終的に年間 380 億 m にまで引き上げられる。 欧米の対ロシア制裁が、長引いていた両国間の天然ガス交渉を決着に導いたとみられて いる。ロシアは、これまで以上にエネルギー輸出の欧州依存度を引き下げていく必要があ ると認識しており、一方の中国は、環境問題が深刻化するなか、石炭燃焼を削減して、環 境負荷の低い天然ガスに切り替えることが急務となっている。 この契約は 2006 年のプロトコルから契約まで 8 年間を要しており、 交渉がまとまらなか ったのは価格面で一致点を見いだすことができなかったことによる。正確な価格は発表さ れていないが、ロシア側政府関係者が匿名で明らかにしたとして伝えられたところによれ ば、中国向けは 1,000m3 あたり約 360 ドルとなり、2013 年のドイツ向け 366 ドルより若干 低い水準で落ち着いたもようだ。また、メドベージェフ副社長によれば、CNPC は Gazprom に対して 250 億ドルの料金先払いに合意したとされ、CNPC 側の会計担当の関係者が匿名 で明らかにしたところによれば、先払いが適用されるガスについては 350 ドル程度に割り 引かれるという。 9 JPEC レポート ロシア Gazprom は 9 月 1 日、東シベリア・極東の天然ガス輸送パイプラインである「Sila Sibiri(Power of Siberia) 」の建設を開始、起工式がサハ共和国の首都ヤクーツクで開催され、 プーチン大統領と張高麗中国副首相が出席した。パイプラインの総延長 3,968km、輸送能 Chayandinskoye ガス田 (埋蔵量1.2 兆 m3) に加えてKovyktinskoye 力は年間合計610 億m3 で、 3 ガス田(同 1.5 兆 m )もソースとする。パイプラインは、Chayandinskoye から中国国境の Blagoveshchensk(アムール川を挟んで中国黒竜江省黒河の対岸) まで約 2,200km を敷設し、 Irkutsk ガス生産センターと Yakutia のセンター(約 800km)を接続するとともにアムール 州 Svobodny と Khabarovsk(約 1,000km)を結ぶ。幹線ルートは ESPO パイプラインと平行 し、Yakutia のガス生産センターを起点として Skovorodino、Blagoveshchensk、Birobidzhan を経て Khabarovsk に至り、Sakhalin– Khabarovsk– Vladivostok(SKV)パイプラインと繋が る。中国に向かうパイプラインは Blagoveshchensk で分岐する(図 10 参照) 。対中供給は、 3 3 最初の 6 年間で年間 50 億 m から 380 億 m へ徐々に引き上げられる。 中国側では、CNPC が同年 10 月、国内パイプライン敷設ルートについて、中国発展・改 革委員会(NDRC)の承認を取得したと発表した。2015 年に着工し、2018 年の完成を目指 す。Blagoveshchensk で「Power of Siberia」の支線と接続し、吉林省、内モンゴル自治区、 遼寧省、河北省、天津市、山東省、江蘇省を経由して上海市青浦区白鶴鎮のターミナルに 至る。3 区間に分けられ、北区間は黒河– 吉林省長嶺と長嶺– 長春の支線、中区間は長嶺 – 河北省永清、南区間は永清– 上海。幹線の総延長は 3,342km、支線は 108km である。 さらに同年 11 月、Gazprom と CNPC は、西ルートを用いた年間 300 億 m3 のガス供給に 関する枠組合意に署名した。実現すれば、東ルートの 380 億 m3 と合わせてロシアから中 国への天然ガス供給量は年間 680 億 m3 に拡大することになる。この合意は、アジア太平 洋経済協力会議(APEC)のため北京を訪問したプーチン大統領と習近平主席立ち会いの もと交わされた。 図 10 中国/アジア向けガス輸出構想 10 JPEC レポート 2.5. Yamal LNG プロジェクト CNPC は、2013 年 6 月のサンクトペテルブルク経済フォーラムの場で、ロシア Novatek と仏 Total が計画している Yamal LNG プロジェクトへ 20%の権益で参加するとともに、年 間 300 万トンの LNG を購入することに基本合意し、 同年 9 月のサンクトペテルブルク G20 サミットに参加した習近平主席とプーチン大統領が立ち会って権益譲渡契約に調印した。 同事業は、液化能力年間合計 1,650 万トン、投資額 270 億ドルの大型の LNG プロジェク トで、South Tambey ガス田の天然ガスを液化して輸出する。フェーズ 1 が 2017 年、フェー ズ 2 が 2018 年、フェーズ 3 が 2019 年に稼働予定で、プラントの EPC 業務は Technip/日揮 /千代田化工建設のコンソーシアム(Yamgaz SNC)が担当している。さらに前述した 2014 年 5 月のプーチン大統領訪中で、Novatek と CNPC は年間 300 万トンの LNG を 20 年間に わたって供給する売買契約に調印した、 北極海航路(NSR)を用いるアジア向けの LNG 輸出プロジェクトとして注目されてい る事業だが、欧米諸国の対ロシア経済制裁によって欧米からの資金調達に困難になったこ とから、同事業は設備や資金の調達をアジア圏、特に中国を中心としたものにシフトして いる。 2014 年 11 月にロシア RIA Novosti が伝えたところによれば、 パートナーである CNPC の助力を得て、中国の複数の銀行から総額 100 億ドル以上の資金を調達できる見込みにな った。 また、液化設備のプラントモジュールは、中国企業が大量受注したとみられている。総 重量 40 万トンに達するモジュールが発注されているが、18 万トンの Module Fabrication Work Package -1(MWP-1)は中国海洋石油総公司(CNOOC)傘下の海洋石油工程股份有 限公司(COOEC)が、5 万 9,000 トンの MWP-2 は中船重工集団(CSIC)傘下の武昌船舶 重工有限責任公司と McDermott の合弁会社である青島武船麦克德莫特海洋工程有限公司 (McDermott Wuchuan)が、14 万トンの MWP-4 は巨涛海洋石油服務有限公司(Jutal)の 関連会社である蓬莱巨涛海洋工程重工有限公司(PJOE)が獲得した。ほかに、天津渤油船 舶工程有限公司と太平洋造船集団が 2~4 万トンのモジュールを製作するといわれる。 かつ てプラントモジュールは、日本の造船・鉄鋼会社が世界をリードし、最近では韓国の大手造 船会社が躍進しているが、Yamal LNG プロジェクトでは中国勢が圧勝したようだ。特に COOEC の受注は 16.4 億ドルで、同社にとって過去最大の海外受注となった。PJOE の受 注も過去最大の海外受注である。 また、LNG 輸送は中国海運(集団)総公司(China Shipping)と商船三井(MOL)の合 弁船主会社が担当することになり、韓国大宇造船海洋(DSME)との間で砕氷 LNG 船(ロ シア船級 ARC7)3 隻の造船契約を締結している。 11 JPEC レポート 2.6. その他 これまでも CNPC は、1)Rosneft の株式 5 億ドル分購入、2)Rosneft と合弁のロシア国 内の探鉱開発を行う Vostok Energy 設立、3)Rosneft の Yukos 資産買収に伴う 60 億ドルの 融資、4)Rosneft とのロシアの陸上油ガス鉱区と大陸棚油ガス海洋鉱区、バレンツ海やペ チョラ海(West Prinovozemelsky、Yuzhno-Russky、Medynsko-Varandeisky)、Irkutsk や Krasnoyarsk Kray および Okrug の共同事業の契約を交わし、Sinopec も、1)Rosneft と共同 で TNK-BP から Udmurtneft 買収、2)Rosneft とサハリン-3 の Venin 鉱区開発の合弁会社設 立、3)Rosneft とのマガダン、東シベリア、ヤクーチャ(サハ共和国) 、極北大陸棚の油田 共同開発などの契約を交わしている。また、原子力や電力などエネルギー関連の共同事業 も増えているが、2014 年 5 月のプーチン大統領訪中以後の大型契約には次のようなものが ある。 2.6.1. Vankor 油田 Rosneft は 2014 年 11 月、東シベリア Vankor 油田の権益 10%を CNPC に売却する枠組合 意に署名した。この合意は、APEC 出席のため訪中したプーチン大統領に随行した Rosneft のセーチン会長とCNPCの周吉平董事長により署名された。 Vankor油田群への参画提案は、 対ロシア経済制裁がきっかけになったとみられ、2014 年 9 月の中国向けガスパイプライン の起工式でプーチン大統領が発表した。同油田群は Vankor、Suzun、Tagul、Lodochnoye か らなり、ESPO パイプラインの主要供給源で、原油生産は 2019 年にピークに達し、年間合 計 2,500 万トンを 6 年間維持することが可能である。 CNPC はこれまで、複数回にわたりロシア側に同油田権益の買収案を持ちかけてきたが、 Rosneft はこの提案をことごとく蹴ってきたことから、中国側はロシアの方針転換は驚きで あるとしているが、ロシア側としては西側の経済制裁で Rosneft の資金調達が途絶える可 能性がでており、早急に手をうつ必要があるためとみられていた。関係筋によれば、契約 成立でRosneft は10 億ドル前後の資金を手にすることができ、 また譲渡する権益も10%で、 中国側に主導権を握られる心配もない。また、中国側にとっても、すでに生産を開始した 油田であるため、探査リスクはなく、有利な案件となる。 2.7. 極東石炭開発 中国神華集団(Shenhua Group)とロシア Russian Technologies(Rostec)は 2014 年 9 月、 ロシア極東の石炭資源を共同開発にすることに基本合意し、覚書を締結した。Rostec と神 華集団は、埋蔵量 16 億トンとされるアムール州 Ogodzhinsky 炭鉱の共同開発を進めるとと もに、 沿海州の Vera 港で年間扱い量 2,000 万トンの石炭輸出ターミナルを建設する。 また、 交通インフラ、発電所建設、中国へ電力を輸出する高圧送電線の敷設などを行う。総投資 額は 80~100 億ドルに達する見通しで、Rostec によれば、2019 年の石炭生産は 3,000 万ト ンに達する見通しである。 12 JPEC レポート 2.7.1. 浮体式原子力発電所(FNPP:Floating NPP)開発 ロシア国営原子力企業 Rosatom の輸出事業部門である Rusatom Overseas と中国核工業集 団公司(CNNC)傘下の中核新能源有限公司(CNNC New Energy)は 2014 年 7 月、浮体式 原子力発電所の開発に関する覚書に調印した。 これにより、 両社は 2019 年から 6 基の FNPP を建造する可能性がある。FNPP 共同開発は、Gazprom と CNPC による 4000 億ドル規模の ガス供給契約に続く両国間の大型エネルギー共同事業である。 FNPP は遠隔地に電力を供給するだけでなく、石油プラットホームなどの大型産業施設 にも安定した電力供給が可能になり、大きな可能性を秘めているとされる。Rosatom は、 バルチック造船所(Baltiysky Shipyard)において 2 基の原子炉(KLT-40S)を搭載した世界 初の FNPP である Akademik Lomonosov FNPP を建造中で、2018 年には Kamchatka の Vilyuchinsk で稼働する予定。出力は 70MW で、原子力砕氷船の Taymyr および Vaygach で 使用された実績がある。 2.7.2. Amur 製油所/石油製品パイプライン 中国の江蘇夢蘭集団、黒河星河実業発展公司、菊華信用担保公司が設立した夢蘭星河能 源股份有限公司が 40%、ロシア側は Rosneft が 60%を出資して設立した Amur Energy Corp (阿穆爾能源公司)が計画している。中国の黒龍江省黒河から最短で川幅が 750m しかな いアムール州 Blagoveshchensk に製油所と貯蔵ターミナルを建設し、黒龍江(アムール川) を渡る石油製品パイプラインを Blagoveshchensk と黒河間に建設する。 製油所の処理能力は 年間 600 万トンで、製品は 63.1km・3 系統のパイプライン(ロシア側 53.9km、中国側 9.2km) で黒河に送る。黒河には 14.6 万 kL の製品タンクを建設する。 2.7.3. 上海合成ゴム生産事業 中国石油化工集団公司(Sinopec)とロシア SIBUR が 2014 年 5 月のプーチン大統領訪中 時に、両国首脳立会いのもと戦略的協力協定に署名した。そのなかで、アクリロニトリル・ ブタジェンゴム(NBR)製造・販売合弁企業設立に関する契約および SIBUR の持つ NBR 生産技術ライセンスの Sinopec への供与に関する契約に調印した。両社は上海化学工業区 に Sinopec が 74.9%、 SIBUR が 25.1%の出資比率で合弁会社を設立し、 年産 5 万トンの NBR プラントを建設する。 13 JPEC レポート <参考資料> (1) 中国の石油産業と石油化学工業 各年版(東西貿易通信社) (2) East & West Report 各号(東西貿易通信社) 以上 本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析 したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせはpisap@pecj.or.jp までお願いします。 Copyright 2015 Japan Petroleum Energy Center all rights reserved 次回の JPEC レポート(2014 年度 第 28 回)は 「クウェートの石油・エネルギー産業」 を予定しています。 14
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