JPEC レポート JJP PE EC C レ レポ ポー ートト 第 28 回 2014 年度 平成 27 年 2 月 26 日 クウェートの石油・エネルギー産業 米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)のレポー トを主なベースとして、クウェートの石油・エネ ルギー産業について紹介する。 1. 2. 3. 4. クウェートの位置と地勢 ······· 1 石油と天然ガスに関する概要 · 2 石油···································· 3 天然ガス ···························· 11 クウェートの位置と地勢 クウェートは北と西にイラク・南はサウジアラビアと国境を接し、東はペルシア湾に面 している。日本の四国よりやや小さい国土の大部分は平坦な砂漠である。9 つの島嶼があ り、最大のブリヤン(Bubiyan)島は本土と橋で結ばれている。サウジアラビアとの間に「分 割された中立地帯(Partitioned Neutral Zone:PNZ、図 1 参照) 」が存在し、1970 年から「中 立地帯分割協定」に基づき中央の分割ラインより北部(北部分割地域)をクウェート・南 部(南部分割地域)をサウジアラビアが管轄している。図 2 および表 1 参照のとおり、ク ウェートの地方行政区画は 6 つの県(Muhafaz:ムハーファザ)に分けられている。表 2 にクウェートの主な一般情報を示す。 1. 図 1 クウェートの概略地図 (緑色斜線部分は中立地帯) 図 2 クウェートの地方行政区画(県) 1 JPEC レポート 1 2 3 4 5 6 表 1 クウェートの県と県都 県名 県都 アハマディ(Ahmadi)県 アハマディ(Ahmadi) アースィマ(Asima)県 クウェート(Kuwait) ファルワーニーヤ(Farwaniya)県 ファルワーニーヤ(Farwaniya) ジャハラー(Jahra)県 ジャハラー(Jahra) ハワリ(Hawalli)県 ハワリ(Hawalli) ムバーラク アル カビール ムバーラク アル カビール (Mubarak Al-Kabeer)県 (Mubarak Al-Kabeer) 表 2 クウェートの主な一般情報 通称国名 クウェート 正式国名及び国旗 独立年 政体 首都 人口 公用語 通貨 名目 GDP クウェート国 1961 年、英国から独立 首長制 クウェート (同名の国名と区別するため、クウェー トシティと呼ばれることが多い) 390 万人(2013 年) アラビア語 クウェート ディナール (KWD) 1,860 億ドル(2013 年) 石油と天然ガスに関する概要 クウェートの石油・天然ガスの主な情報を表 3 に示す。クウェート経済は国内総生産 (GDP)の約 60%・全輸出収入の約 94%を占める石油輸出収入に大きく依存している。石 油に偏った経済を多様化するため、現状では天然ガス生産量のごく一部に過ぎない非随伴 天然ガス田の探査と開発の取り組みを強めている。又、発電源を石油製品から天然ガスや 再生可能エネルギーに置換することによる多様化も模索している。クウェートの一次エネ ルギー消費量における天然ガスのシェアは 2009 年の 34%から 2012 年には 42%に上った。 一方、 残りのシェアは石油等の液体燃料で占められており、 そのシェアは減少傾向にある。 2. 2013 年実績によれば、 クウェートは石油と他の液体燃料の生産量合計は世界第10 位で、 原油とコンデンセートの輸出量合計はサウジアラビア・アラブ首長国連邦・イラク・ナイ ジェリアに次いで世界第 5 位であった。 クウェートは 2020 年までに原油とコンデンセート を合わせた生産量を 400 万 BPD に上げる目標を掲げ、 世界トップの石油生産国の 1 つに留 まろうとしているが、上流側開発プロジェクトの遅延や不十分な外国からの投資により、 10 年以上の間、石油と天然ガスの生産量増加には苦労している。 2 JPEC レポート 表 3 クウェートの石油・天然ガスの主な情報 クウェート本土分(1,020 億バレル) 石油確認埋蔵量 +北部分割地域分(25 億バレル) = 1,045 億バレル、世界第 6 位 石油の輸出入 純輸出国 石油輸出国機構(OPEC) 加盟 原油精製能力 93.6 万 BPD 3 製油所数 天然ガス確認埋蔵量 1 兆 7,830 億 m3、世界第 21 位 天然ガスの輸出入 純輸入国 LNG プラントは無いが、輸入 LNG を受 特記事項 け入れ再気化する施設を保有している。 クウェートの天然資源とその収益を外国が所有することを憲法上禁止しているにも拘ら ず、政府は技術やサービス契約を通じて石油・天然ガス分野への外国企業の参加を促す政 策をとっている。しかし、外国企業との契約管理に関し首長と議会間の政治的な不一致の 結果、クウェートの主要なエネルギープロジェクトは頻繁に遅延している。 3. 石油 3.1. 石油の埋蔵量 2014 年1 月時点のクウェート本土の石油確認埋蔵量は、 図3 のとおり1,020 億バレルで、 これは世界第 6 位、世界合計の約 6%の規模である。さらに、クウェートとサウジアラビ ア間の「分割された中立地帯(Partitioned Neutral Zone:PNZ) 」の石油埋蔵量の半分(25 億バレル)が加算され、クウェート全体では 1,045 億バレルとなる。 図 3 世界の国別石油確認埋蔵量のトップ 7(2014 年) 3 JPEC レポート 3.2. 石油分野の管理機構 クウェート石油公社(KPC)とその子会社が石油分野の全て(上流側、下流側、輸出) をコントロールしている。最高石油審議会(SPC)がクウェートの石油分野を監督し石油 政策を設定している。SPC の会長は首相で、残りのメンバーは最大 6 名の大臣と最大 6 名 の民間からの代表者で構成されている。全員は首長によって選ばれ、任期は 3 年である。 石油省が石油・天然ガス分野の上流側と下流側の全ての政策実行について監督している。 KPC の上流側担当の子会社であるクウェート国営石油開発(KOC)が石油・天然ガス分 野の上流側開発の全てを管理している。一方、別の子会社であるクウェート国営石油精製 (KNPC)は下流側開発を管理している。輸出業務は KNPC とクウェート石油タンカー社 (KOTC)が管理している。KPC の海外利益はクウェート海外石油開発会社(Kufpec)に よって取り扱われている。そして、国際的な上流開発と下流側操業はクウェート国際石油 (KPI)が行っている。又、株式非公開のクウェートエネルギー社(KEC)は過去 10 年間、 イエメン、エジプト、ロシア、パキスタン、オマーンを含む数多くの海外利権を開発して きた。 3.3. 石油精製 3.3.1. 原油精製能力の現状と将来計画 クウェートには 2014 年 現在、図 4 のとおり 3 製油 所(Mina al-Ahmadi、Mina Abdullah、Al-Shuaiba)があ り、表 4 に示すように同国 の原油精製能力合計は 93.6 万 BPD である。 これらの製 油所は全てクウェートシテ ィ南方のペルシア湾岸沿い に立地され、クウェート石 油公社(KPC)の子会社で あるクウェート国営石油精 製(KNPC)が所有・操業 している。 クウェートの石油精製分 野の将来計画にはアッズー ル(Al-Zour)製油所の新設 (61.5 万 BPD) 、シュアイ 図 4 クウェートの製油所の位置 バ(Shuaiba)製油所の閉鎖、 残ったミナアルアマディ (Mina al-Ahmadi)製油所とミナアブドゥラ(Mina Abdullah)製油所の旧式装置の停止と 4 JPEC レポート 新しい装置の設置が含まれる。即ち、ミナアルアマディ(Mina al-Ahmadi)製油所では原 油常圧蒸留装置1 基が停止し、 原油精製能力は12.0 万BPD 減り34.6 万BPD となる。 一方、 ミナアブドゥラ(Mina Abdullah)製油所では原油精製能力が 18.4 万 BPD 増強され 45.4 万 BPD となる。これらの計画が完了した時点のクウェートの原油精製能力合計は表 4 のよう に 141.5 万 BPD となる。 表 4 クウェートの原油精製能力の現状と将来計画 現状能力 計画能力 製油所名 (万 BPD) (万 BPD) Mina al-Ahmadi 46.6 34.6 Mina Abdullah 27.0 45.4 Shuaiba 20.0 (閉鎖予定) Al-Zour 61.5 (新設) 93.6 141.5 合計 3.3.2. 既設 3 製油所の概要 1) ミナアルアマディ(Mina al-Ahmadi)製油所 ミナアルアマディ(Mina al-Ahmadi)製油所は 1949 年にクウェートシティの南 45km の ペルシア湾岸の用地(1,053.4 万 m2)に建設された。当初は地元市場向けにガソリン、灯 油、 ディーゼル燃料などを供給する原油精製能力2.5 万BPD 未満の簡素な製油所であった。 その後、 「ミナアルアマディ製油所近代化プロジェクト(1984 年完了) 」と「ミナアルア マディ製油所アップグレードプロジェクト(1986 年完了) 」を経て、当初からの装置群(原 油常圧蒸留装置、流動接触分解装置、常圧残渣脱硫装置、硫黄回収装置)に、新しく高度 な技術を採用した 29 の装置群を加え原油精製能力 46.6 万 BPD の世界的な近代製油所の 1 つとなっている。近代化プロジェクトは国内および世界市場に硫黄分の少ない石油製品を 提供することを意図したもので、アップグレードプロジェクトは利益を最大化し且つ安定 な市場を確保するため石油製品市場の大局的な将来展望に基づいたものである。原油精製 プロセスでは軽質油と中質油の収率を上げ、且つ重質油の収率を最小とし高い利益を得よ うとしている。ミナアルアマディ製油所の主要な装置の基数と合計能力は以下のとおりで ある。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 原油常圧蒸留装置:3 基 46.6 万 BPD 常圧残渣脱硫装置:4 基 13.2 万 BPD 減圧蒸留装置:1 基 8.5 万 BPD アスファルト製造装置:1 基 1.1 万 BPD ナフサ改質装置:2 基 3.5 万 BPD 灯油脱硫装置:1 基 2.0 万 BPD 軽油脱硫装置:1 基 6,16 万 BPD 5 新―軽油脱硫装置:1 基 7 万 BPD 水素化分解装置:1 基 4 万 BPD 流動接触分解装置:1 基 4 万 BPD 水素製造装置:4 基 560 万 m3/日 水素回収装置:1 基 1,580 万 m3/日 硫黄回収装置:4 基 1,334 トン/日 JPEC レポート 2) ミナアブドゥラ(Mina Abdullah)製油所の概要 ミナアブドゥラ(Mina Abdullah)製油所は 1958 年に American Oil Company(AMINOIL) によってクウェートシティの南 60km のペルシア湾岸の用地(793.5 万 m2)に建設された。 当初は原油精製能力およそ 3 万 BPD の簡素な製油所であった。1962〜1967 年の間に、い くつかの拡張プロジェクトを経て原油精製能力は 14.5 万 BPD に増大した。1978 年にクウ ェート国営石油精製(KNPC)に移され国有化され、その後 3 つの目標を掲げ「ミナアブ ドラ製油所近代化プロジェクト」が始まった。その第 1 の目標は製油所の既存のユニット とユーティリティを刷新し、その効率性と能力を増大させること、第 2 は高品質の石油製 品を生産し、且つ重油の収率を最小にするため近代的な技術を用いて新しい装置を建設す ること、そして第 3 は製品輸出の効率を上げるため人工島(Sea Island)の建設を含む輸出 施設を開発することであった。当プロジェクトは 1988 年後半に完了し、1989 年 2 月に正 式に稼動開始した。この時点の原油精製能力は 23 万 BPD を超えた。次いで、1990 年のイ ラクのクウェート侵攻により損傷を受けた出荷設備や移送設備が再構築された。さらに、 ユーティリティシステムにおけるボトルネックを除去する再建プロジェクトが承認され、 この取り組みにより原油精製能力は大幅に増加し現在 27 万 BPD で稼動している。ミナア ブドゥラ製油所の主要な装置の基数と合計能力は以下のとおりである。 ・ ナフサ水素化処理装置: 1 基 0.75 万 BPD ・ ディレードコーカー装置: 2 基 9 万 BPD ・ 水素製造装置:3 基 410 万 m3/日 ・ 旧型-水素製造装置:1 基 70 万 m3/日 ・ 水素回収装置:1 基 70 万 m3/日 ・ 硫黄回収装置:3 基 270 トン/日 ・ 原油常圧蒸留装置:2 基 27.0 万 BPD ・ 常圧残渣脱硫装置:2 基 8.4 万 BPD ・ 減圧蒸留(Re-Run)装置:2 基 15.0 万 BPD ・ 固定床式水素化分解(RCD Unibon) 装置:1 基 3.5 万 BPD ・ 水素化分解装置:1 基 4.25 万 BPD ・ 灯油水素化処理装置:1 基 4.0 万 BPD ・ ディーゼル水素化処理装置: 1 基 4.0 万 BPD 3) シュアイバ(Shuaiba)製油所の概要 シュアイバ (Shuaiba) 製油所はクウェートシティの南およそ50kmのシュアイバ (Shuaiba) 2 工業地帯の中に立地し、133.2 万 m を占有している。1966 年から建設工事が始まり 1968 年 4 月に公式試運転に入り、その 1 ヶ月後に日本や他の消費国向けに輸出が始まった。当 初の原油精製能力は 9.5 万 BPD であったが、1975 年の拡張工事により 18 万 BPD に拡大し た。その後 1990 年のイラクのクウェート侵攻により大きな被害を受け、改修工事が完了す る 1993 年 10 月まで停止していた。現在は原油精製能力 20 万 BPD で運転されている。 当製油所は天然ガスから製造した水素を各装置にフルに用いた世界初の水素製油所(All Hydrogen Refinery)として認められている。水素は石油製品から硫黄および窒素などの不 純物含有量を低減するだけでなく、水素化分解技術を採用して重質油を変換して高品質の 軽質油を製造することができ、国際的な製品規格を満たすために品質をアップグレードす 6 JPEC レポート る重要な役割を果たしている。当製油所の石油製品の品質は世界市場における製品規格を 満たすため大部分は世界市場へ輸出され、シュアイバ製油所はクウェート初の輸出指向型 製油所となっている。シュアイバ製油所の主要な装置の基数と合計能力は以下のとおりで ある。 ・ ・ ・ ・ 原油常圧蒸留装置:1 基 20.0 万 BPD 水素製造装置:3 基 630 万 m3/日 接触改質装置:1 基 1.58 万 BPD 固定床式水素化分解装置 (ISO Cracker) :1 基 4.6 万 BPD ・ 水素化分解装置(ISO Max Unit with Recycle) :1 基 3.6 万 BPD ・ 流動床式水素化分解装置 (H-Oil Unit) :1 基 5.4 万 BPD ・ ナフサ蒸留装置:1 基 6.5 万 BPD ・ ナフサ接触水添脱硫装置(Unifining Unit)装置:1 基 2.6 万 BPD ・ 灯油接触水添脱硫装置 (Unifining Unit) :1 基 3.5 万 BPD ・ ライト ディーゼル接触水添脱硫装置 (Unifining Unit) :1 基 1.7 万 BPD ・ ヘビー ディーゼル接触水添脱硫装置 (Unifining Unit) :1 基 1.2 万 BPD ・ 硫黄回収装置:2 基 1,200 トン/日 3.3.3. 製油所関連プロジェクト 現在、製油所関連のプロジェクトは大小合わせて 26 件承認され進行している。その中に は 2 件のメガプロジェクト、 「アッズール(Al-Zour)製油所建設プロジェクト」と「クリ ーン燃料(Clean Fuels)プロジェクト」が含まれている。以下、この 2 件のプロジェクト の概要を記す。 1) アッズール(Al-Zour)製油所建設プロジェクト 当プロジェクトはクウェートシティ南方のアッズール(Al-Zour)地域の更地に原油精製 能力 61.5 万 BPD の世界最大級の新規製油所を建設し、世界市場におけるクウェートの石 油製品の競争力を高めると同時に、国内の発電所向けに硫黄分 1%未満の低硫黄燃料を供 給し、汚染物質の排出量を大幅に削減する目標を掲げている。 (現在、発電所は硫黄分 4% の燃料を使用している) 2012 年 2 月、最高石油審議会はクウェート石油公社(KPC)とクウェート国営石油精製 (KNPC)に当プロジェクトの実施を認可した。2012 年 12 月にプロジェクト管理コンサル タント契約が調印され、現在用地の準備が始まっている。 2) クリーン燃料(Clean Fuels)プロジェクト 当プロジェクトは既設 2 製油所(ミナアルアマディ製油所とミナアブドゥッラ製油所) の拡大とアップグレードを目的としたクウェート国営石油(KNPC)の戦略的プロジェク トの 1 つである。2 製油所を高い安全性と環境基準を維持しながら、世界の石油市場の多 様な要求を満たすべく統合した石油精製コンビナートに変え、原油精製能力合計を 80 万 BPD に拡大するものである。 7 JPEC レポート 現在、プロジェクトの進捗を管理し入札書類と技術仕様を準備するためのプロジェクト 管理コンサルタント契約と用地確保とインフラを構築するもう 1 つの契約も調印済みであ る。反応器などの製造や移送に長時間を要する重機器は既に納入され保管されている。当 プロジェクトの完了は 2017 年の予定である。 3.3.4. 海外での石油精製 クウェート国際石油(KPI)がクウェート石油公社(KPC)の国際的な石油精製と販売 事業を管理している。KPI はベルギー・スペイン・スウェーデン・ルクセンブルグ・オラ ンダ・イタリアで合計およそ 4,000 ヶ所の石油製品小売ステーションを運営していると同 時に、海外の 2 製油所の権益を保有している。即ち、オランダのロッテルダムで原油精製 能力 8 万 BPD の製油所を所有、イタリアのミラッツォに位置する原油精製能力 24 万 BPD の製油所をイタリアの石油会社 Eni と 50 対 50 の出資比率で共同所有している。 クウェートは欧州における石油精製と製品販売利権を維持し、さらに潜在的な需要の伸 びの高いアジア市場(特に中国、ベトナム、インドネシア)における下流側の権益を深め ることを目論んでいる。KPC は中国石油化工集団公司(Sinopec)と中国の広東省における 製油所と石油化学の合弁事業について交渉している。当プラントは 30 万 BPD の原油常圧 蒸留装置および年間 80 万トンのエチレンと派生物を製造するエチレン水蒸気分解装置を 備える。2011 年 3 月、中国の国家発展改革委員会(NDRC)は当プロジェクトを最終的に 承認した。これにより、クウェートはアラブ産油国としてサウジアラビアに次いで中国に おける下流側設備を有する 2 番目の国となる。 当プロジェクトの権益配分は未だ協議中で、 KPC がどの程度の役割を果たすのかも未だ不明確である。製油所は建設中であるが、 Sinopec は試運転日程を 2017 年まで延期した。 2008 年 4 月、KPI はベトナム石油ガス公社(PetroVietnam)および日本の出光興産と合 同でベトナムのニソン(Nhi Son)製油所(20 万 BPD)を建設するプロジェクトに参加し た。当プロジェクトは 2013 年内に始まり 2017 年までに稼動開始する予定である。現在、 KPI は 35%の権益を保有している。一方、クウェート石油公社(KPC)はインドの買い手 との関係を強化するため、2014 年末までに稼動開始するインドのパラディップ(Paradip) 製油所の権益を購入する予定であるが、その交渉は未だ初期段階であり、何らの決定もな されていない。 3.4. 石油の生産 クウェートの油田の位置図を図 5 に示す。2013 年のクウェートの石油生産量は、北部分 割地域からの 25 万 BPD を含み、約 280 万 BPD(原油 260 万 BPD、非原油液体 20BPD) であった。同年のクウェート産原油の約半分は同国南東部のブルガン(Burgan)油田(生 産能力:170 万 BPD)で採掘された。一方、同国北部の油田群の現在の原油生産能力は約 70 万 BPD まで増えている。クウェートの石油の埋蔵量と生産量の多くは 1930 年代および 1950 年代に発見された成熟油田に集中している。ブルガン、マグワ(Magwa) 、アーマデ ィ(Ahmadi)の各油田で構成される大ブルガン(Greater Burgan)油田が埋蔵量と生産量の 8 JPEC レポート 主要部分を占めている。ちなみに、ブルガン油田はサウジアラビアのガワール(Ghawar) 油田に次ぐ世界第 2 規模の油田として知られている。 クウェートは停滞気味の石油生産率を高めるため石油増進対策を実行してきた。新たな 油田は発見されているが、天然資源の外資による所有権が憲法上禁止により国内油田の開 発が規制されており、さらなる探査と生産の妨げとなっている。クウェート中部で軽質な 原油の発見がいくつかあったが、現在は生産に向かって進捗していない。 図 5 クウェートの油田の位置図 3.5. 石油の国内消費 クウェートは石油生産量のうち少量を国内消費している。図 6 に示すように、2013 年に 46.7 万 BPD を国内消費し、残りは全て輸出した。石油の国内消費量は年々徐々に伸びてい る。 図 6 クウェートの石油生産量と消費量(1987〜2013 年) 9 JPEC レポート 3.6. 石油の輸出 クウェートで産出される原油の大 部分はアジア向けに輸出されている。 2013 年、 クウェートは約 190 万 BPD の原油を輸出した。輸出先は図 7 の とおり、アジア太平洋地域 75%、米 国 18%、欧州 4%、アフリカ 3%で、 最大の受け入れ国は韓国とインドで あった。 クウェートの輸出原油は、種々の タイプの原油をブレンドした単一銘 柄原油 (Kuwait Export原油) である。 混合割合は中質のブルガン原油が最 大で、北部油田群からの重質で硫黄 分の多い原油も混合され、Minagish 油田と Umm Gudair 油田からの原油 図 7 クウェート産原油の輸出先(2013 年) も少量混合されている。Kuwait Export 原油の典型的な性状は API 比重 31.4°、硫黄分 2.52w%である。 ミナアルアマディ(Mina al-Ahmadi)がクウェートの主たる原油輸出港である。他にミ ナアブドゥラ(Mina Abdullah) 、シュアイバ(Shuaiba) 、ミナサウド(Mina Saud)にも石 油輸出基地がある。北部油田群の産油量増加に伴い新しい石油輸出基地が必要となり、現 在ブビヤン(Boubyan)島に建設中で 2015 年までに稼動開始の予定である。 3.7. プロジェクト クウェート (Project Kuwait) 1998 年に提案された当プロジェクトは、クウェートの産油能力を 2020 年までに 400 万 BPD まで拡大しようとするものである。特に北部油田群に対して外国からの投資と海外企 業の参加を促し、北部の 4 油田(Raudhatain、Sabriya、Abdali、Ratqa)の産油量を大幅に 増やし、国内全体の生産量増に寄与させるものである。 ところが、クウェートの憲法は同国の天然資源の外国の所有権を禁じており、国民議会 は何年間も当プロジェクトの進捗を妨害してきた。そこで、憲法上では国際石油企業 (IOCs)との生産物分与協定(PSA)が不可能なため、IOCs の投資を許容する生産物分与 を含まない買戻し契約(IBBC)が創設された。2007 年 5 月、国民議会は長らく遅延して いた「プロジェクト クウェート (Project Kuwait) 」に関連する IBBC を承認した。 3.8. 湾岸戦争後の土壌のクリーンアップ 湾岸戦争(1990 年 8 月〜1991 年 2 月)の間、イラク軍は 800 以上の油井に火をつけた。 戦後、消火作業が完了する 9 ヶ月間に 500 万 BPD の原油が失われた。その結果、数千のオ 10 JPEC レポート イルレイクと呼ばれる原油の池ができ、石油生産エリアや既存油田へのアクセスおよび石 油探査を困難にしている。2012 年 2 月、クウェート国営石油開発(KOC)はスペインの HERA 社、韓国の GS エンジニアリング社、インドの TERI 社に多量の原油を含む土壌を 浄化するための入札を認めた。作業が完了するまでには数年を要し、約 35 億ドルのコスト がかかる。但し、そのコストは国連の賠償基金によって支払われる。 4. 天然ガス 4.1. 天然ガスの生産 2014 年 1 月時点のクウェートの天然ガス確認埋蔵量は 1.8 兆 m3 で、2006 年以降は同レ ベルを維持している。 クウェートの国内向けの天然ガス供給は非随伴ガスの生産が始まり、 且つ石油生産時の随伴ガス量の増加に伴い、 2009 年以降から始まった。 図7 に示すとおり、 3 3 クウェートは 2011 年の 15%増の 4,300 万 m (15 億 cf)/日、156 億 m (5,520 億 cf)/年の 天然ガスを 2013 年に生産し、最高値を記録した。そのうち、非随伴ガスは 1 割程度に過ぎ ず、残りは随伴ガスであり、クウェートの全生産量の大半を随伴ガスが占めている。 クウェートは発電、海水淡水化、石油化学、石油増産回収(EOR)などに使う天然ガス 供給量の増加を必要としている。クウェート国営石油開発(KOC)は 2030 年までの天然 ガス生産目標を現在の生産レベルの 2 倍に当たる日量 8,500 万 m3(30 億 cf)/日に増やす 計画を明らかにした。 4.2. 天然ガスの国内消費 図 7 に示すように、2013 年、クウェートは約 4,800 万 m3(17 億 cf)/日、180 億 m3(6,300 億 cf)/年の天然ガスを消費した。クウェートの天然ガス燃焼による電力需要がますます増 え、夏の間は国内の天然ガス生産量を上回っている。不十分な国内の天然ガス供給量は電 力需要のピーク時にしばしば停電や電圧低下を引き起こし、製油所や石油化学工場のシャ ットダウンをもたらしてきた。そのため、2009 年から夏の電力需要ピーク時には輸入 LNG を充当している。図 7 参照のとおり、クウェートは 2008 年から天然ガスの純輸入国になっ ている。 11 JPEC レポート 図 7 クウェートの天然ガスの生産量と消費量(2001〜2013 年) 4.3. 天然ガスの輸入 2013 年、クウェートは天然ガス供給量合計の約 12%に相当する約 590 万 m3/日(22 億 m3/年)の LNG を輸入した。同国はシェルおよびエネルギー交易企業 Vitol 社と LNG の売 買契約を締結し、2009 年から 2013 年まで LNG を受け入れた。受入れ設備はペルシア湾で 最初の LNG 再気化ターミナル「Mina al-Ahmadi GasPort」 (LNG 再気化能力:1,400 万 m3/日) である。2013 年に当契約が失効した時、Golar LNG 社とより大型の浮体式 LNG 貯槽再気 化設備(LNG 再気化能力:2,200 万 m3/日)をチャーターするもう 1 つの 5 ヶ年契約を締結 した。当契約は、クウェートが国内の天然ガス生産量を上げ、且つ恒久的な陸上の LNG 基地が完成すると期待される 2019 年まで有効である。 輸入 LNG はナイジェリアから少量入っているが、ほとんどはカタールからである。現 在、クウェートはシェルおよび BP と LNG カーゴの中期契約を結んでいる。又、カタール ガス(Qatargas)と LNG カーゴの短期契約またはスポット契約を結んでいる。クウェート は最近、イラク南部の近い将来の天然ガスプロジェクトからの供給に関心を示している。 当プロジェクトはシェル、三菱、イラク国営南部石油(South Oil)がイラク南部の油田か らの随伴ガスを集めるインフラを開発するものである。別途、イラクの South Pars ガス田 からのパイプライン計画は保留となっており、政治的な判断が当計画の可能性を少なくし ている。クウェートはパイプライン経由の輸入ができない限り、LNG 輸入を継続する必要 がある。 12 JPEC レポート <出典および参考資料> (1) 米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート、KUWAIT Country Analysis Brief http://www.eia.gov/countries/cab.cfm?fips=KU (2) Kuwait http://en.wikipedia.org/wiki/Kuwait (3) Kuwait Investment Authority http://www.kia.gov.kw/En/Pages/default.aspx (4) KNPC http://www.knpc.com.kw/en/refineries/pages/alahmadyrefinery.aspx (5) Green Car Congress http://www.greencarcongress.com/2005/11/kuwaits_burgan_.html (6) Burgan field http://en.wikipedia.org/wiki/Great_Burgan (7) Midroc http://www.midroc.com/projects/project-archive/isocracker-project (8) Axens http://www.axens.net/product/technology-licensing/10092/h-oil-rc.html (9) Gulf War http://en.wikipedia.org/wiki/Gulf_War (10) 外務省ホームページ、各国情勢 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/index.html 以上 本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析 したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせはpisap@pecj.or.jp までお願いします。 Copyright 2015 Japan Petroleum Energy Center all rights reserved 次回の JPEC レポート(2014 年度 第 29 回)は 「新たな状況における中国のエネルギー動向」 を予定しています。 13
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