サインライティング(GebaerdenSchrift ゲベルデンシュリフト)の読み方の

サインライティング(GebaerdenSchrift ゲベルデンシュリフト)の読み方の学習
シュテファン・ヴェールマン
(2003 年 11 月ハンブルグの Das Zeihen 誌に掲載された 12 ページの記事の著者による英
訳の和訳)
これまで手話は書記形態のない言語であると考えられてきました。サインライティング
の発明とその後の発展は実に画期的なことです。今や世界中の手話言語を理解しやすい体
系で記述することが本当にできるのです。
ヴァレリー・
(サインライティングで表される彼女
サットン
のネームサイン)
はサインライティングの発明者です。サインライティング
の歴史やサインライティング使用者のためのリンクについては、インターネットで知るこ
とができます。www.signwriting.orgおよびwww.signbank.orgを開くだけで豊富な情報が
得られます。ヴァレリー・サットンは若いバレー・ダンサーでしたので、ダンスの動きを
空間的・動的な観点から素早く、正確に、分かりやすい方法で書き表すことに興味を持ち
ました。彼女は「サットン・ダンスライティング」という表記方法を考案しました。のち
に彼女はダンスだけでなく、身体の動きをすべて書き表す方法に関心を持ちました。すべ
ての動きを記述するこの普遍的な書記体系は「サットン・運動速記法」と呼ばれています。
そこから手話を記述する特別な方法が生まれ、「サットン・サインライティング」と呼ばれ
て 25 年間、手話をさらに発展させる効果的な書記体系となりました。
私は 2001 年にサインライティングについて
初めて知りました。それ以来私はドイツ語圏
でゲベルデンシュリフトと呼ばれる、そのシ
ステムの普及に精力を傾けてきました。最初
はゲベルデンシュリフトの読み方を学ぶの
にエネルギーを費やしました。
ヴァレリー・サットンとの電話やインターネットを通じての緊密なやりとりのおかげで、
私はこの道のスペシャリストになる資格を得ました。私はゲベルデンシュリフトをさらに
発展させ普及させたいと願って、それについての研究発表をし、講義をし、ワークショッ
プを開いてきました。
私は特別に作られた無料のサインライター
4.4DOSプログラムを用いて 9000 語以上にもお
よぶ手話を記述した広範囲な辞書を編纂しまし
た。私は多くの文書をサインライティングで記述
していますので、これから習う人は記述する技術
を短期間で磨くことができます。これらの文書は
私のウェブサイトwww.gebaerdenschrift.deで見
ることができます。
ゲベルデン・シュリフトは学校における教育方法を変える
聾教育についての文献には、聾の生徒たちは何年学校に通っても、聞こえる人たちが使
っている音声言語が身につかないという記述が数多く繰り返されてきました。聞こえない
子供たちは耳からドイツ語の音声言語を聞くことはできません。聾の子供たちは、音声で
語られた内容に関する自分の知識を、その発言がその状況でなされた理由を含めて、目に
見える事象と比較して理解する機会が少ないのです。さらに、ほとんどの幼い聾の子供が
幼いときに手話言語にもなじんでいないことはもっと大きな問題です。この状況は報われ
ない結果をもたらします。しっかりした言語を基盤に持たないのに、聞くことができない
彼らが、一方では彼らの置かれている外的環境で意思疎通のすべての基本である言語を「第
一言語」として学ぶことを要請されます。話し言葉としてのドイツ語に優れた能力がなけ
れば、学校で良い成績を挙げる機会はありません。
その結果、一般的に聾の生徒は聞こえる同年齢の生徒と比べて知識や技能において遅れ
を取ることになります。医学的な発明や人工内耳があっても、それらは大多数の聾の子供
には効果がありません。青年期の聾者が自分自身の感情を表現したり、他の人の行動に適
切に反応したりすることができないことがあります。このことは聾者の社会的・感情的な
発達の妨げを引き起こす更なる危険要因になるかもしれません。
これらの聾児は、矛盾する状況について語ったり、聞こえる仲間のために書かれた教科
書の内容を理解したりすることを可能にする音声言語の能力を欠くだけでなく、世間的な
知識や一般常識や対話する能力に欠けるという悪循環をたどります。つまり、聾児に用い
るために易しく直された言葉は、一般的な知識に関して本質的な発達を促進せず、音声言
語の能力も発達させません。彼らは手本となる人と自分を同一視したり、彼ら自身の行動
の結果を反省したりすることが困難です。
この難問を解決する道筋として、二言語教育という概念がついにドイツでも受け入れら
れました。基本的な外的環境が整えば、聾児は数ヶ月でしっかりした手話言語の能力を発
揮することができます。重要なのは、手話言語に堪能な教育スタッフの支援を受けながら
聾児が他の子供と遊んだり学んだりする環境です。
手話言語能力の獲得は第一歩になりうるにすぎません。不十分な音声言語能力という本
質的な問題に何らかの変化をもたらすためには、適切な記述材料や文書がなければ、聾児
は未知の目的言語(外国語であるドイツ語)の概念を、自分達の信頼できる日常的な言語
システム(手話)と、体系的な提携の中で一致させることがどのようにできるでしょうか?
今まで聾児は、目的言語−私たちの場合はドイツ語−に導くための、日常的な言語−手
話−によって書かれた書物を受け取ることのできない言語的少数派に属していました。
秒
分
時間
水曜日
月
今やこのことを劇的に変えることができるのです。私たちはサインライティングで文書
を作ることができます。音声のドイツ語の重要な語彙や文法に関して、実に本質的に楽に
理解できる有効な教材を手渡すことができます。手話の提示は早くて、その複雑さは理解
しにくいものです。
(意味にとって重要ないくつかの要因があります。聾者はこのやりかた
を用いて彼の使用語彙の中にこの手話を組み入れるために、これらの要因を理解すること
に非常に長けていなければなりません。
ドイツ語の単語と手話で表現される語句の中の特定の手話を結びつけることは困難です。
異なる要因を仔細に見る機会がなければ、多くの手話は記憶することが難しいです。
書記形態による提示は個々の手話におけるそれぞれの要素を読者に過度に精密な分析−
または記憶を要求することなく、十分正確に記述する可能性を提供しています。事実、サ
インライティングを学び始めた初心者はサインライティングで書かれた多くの単語を(
「サ
イン」は音声言語の「単語」に相当します。
)最初はサインライティングの記述を学び表現
するのに必要な綴りの原理的決まりについての何ら知識がなくても、絵文字のように感じ
取って理解することができます。それで、音声言語の獲得プログラムでは本質的な困難を
呈する三歳の子供でもごく短期間の訓練ののちに、スムーズに意味をつかみながらサイン
ライティングの文書を難なく読めるようになるわけです。
しかしながらサインライティングを書くことはいささか異なります。書き手は国際的に
受け入れられているサインライティングの記号とサインライティングの決まりを理解した
上で、それに対応するように書かなければなりません。サインライティングの書記方法を
学ぶことは音声言語を学ぶことに匹敵します。書き手は多くの綴りの間違いに直面すると
いう最初の段階を克服しなければなりません。経験のある使用者からの支援とフィードバ
ックを得ることに興味があるなら、経験をつめば書記能力は向上します。
新しい音声言語の要素を、日常的なコミュニケーション体系の良く知っている言語の要
素と結びつけることによって、より敏速な、確実な、持続的な方法で音声言語からの語彙
を身につけることができる環境に置くことが、いまや特殊教育のこの分野における目標に
なっています。そして私たちが二言語の文書(手話言語と音声言語)を用意したとき、ま
さにことのことが実現しているのです。
家
自転車
空
心臓
ライオン
木
怒り
羊
サインライティングの文書は、書かれたドイツ語の文書と対照することができます。二
つの異なる言語の異なる書記体系で併記して書かれた文書を比較することは、目的言語(ド
イツ語)の特定の内容を獲得し理解する強力な支援となります。
彼はスポンジを持っています。
あなたは切手を持っていますか?
私はナイフを持っています。
サインライティングの文書を書くように、あるいはドイツ語の書記言語に翻訳するよう
に命じられた生徒たちは、自分が書いた語彙を継続的に校正することを求められ、この作
業が目的言語の文法的知識を促進させます。
ドイツ語で書かれた文書の受動的な読書と対照的に、翻訳の過程で子供はそれらの名称
についての自分の知識(音声言語による注釈)とこれらの用語を、文法的に正しい文の中
で記憶するよう求められます。すると、この領域の知識について一致しなかったことや不
確かだったことが効果的に発見されます。この翻訳の課題を繰り返し行ううちに、生徒た
ちはだんだん自信と誇りをもつようになります。サインライティングつきのプリントの支
援をどれだけ頻繁に参照しなければならないかを自分で知ることによって、彼らは自分自
身の能力レベルを知ることができます。
私たちの聾学校におけるこれらの実際的な経験は、他の歓迎すべき現象も示しています。
聾児がドイツ語で書かれた文書を読み、感じを掴むことを学ぶには多大な時間が必要です
が、サインライティングの文書なら比較的早く問題なく読めるようになります。私の二人
の生徒は話し言葉のドイツ語を読むことに相当な時間をかけて教えられたあとにもかかわ
らず、いまだにもがき苦しんでおり、満足のゆく言語力の獲得には到達していません。し
かし彼らに前もって理解しやすいサインライティングの文書を与えておけば、それがドイ
ツ語を読む準備となり、のちに彼らはドイツ語の文書に本当に書いてあることをサインラ
イティングのおかげで深く理解することができます。その理由はサインライティングが書
かれていることの概略的な情報を与え、彼らが新しいドイツ語の文書を読むことを学ぶと
いう難しい課題に直面したときの動機づけになるからだろうと思います。
犬が猫を追う
猫が犬を追う
聾の手話者がドイツ手話(DGS)をしているときに、まるでドイツ語の単語を(声なしで)
口で言っているかのようなたくさんの口や舌や唇の動きが見られます。手話をしながらド
イツ語の口形をするのは手によって手話で示された正確な単語についての重要な情報とし
て働きます。多くの手話は、相当する単語の口形の違いによってのみ特定されるように見
えます。手話をしながらドイツ語の口の動きをすることについての重要性や意義について、
今ここで議論するつもりはありません。私はただ、手話のビデオを見たり、聾者同士の会
話を見たり、テレビで手話の番組を見たりしたあと、次のことに疑問の余地がないことが
わかったというだけのことです。すなわち、ドイツの手話者は高い割合で手話をしながら
口を動かすということです。
そこで私は自分が書くサインライティングに、この口形を異なる手話の一部として書き
入れる時間をとったら、もっと早く正確に読めることがわかりました。
自動車
この情報は別の重要な発見を
導きました。私の聾の子供たちは
サインライティングの手話の意
味に関する「特別な情報」として
鉄道
口形シンボルを受け入れ始めま
した。彼らの態度は変化し、彼ら
は話し相手と直接手話で話す際
に、読唇により注意を払うように
汽車
なりました。これは聾の教師とし
ての私にとって大変歓迎すべき
結果でした。それは彼らが将来手
話を知らない他の人々とコミュ
自転車
ニケーションするさいに役に立
つ読唇の力を改善する助けにな
るからです。
小学校からはじめる子供たち
船
は彼らの難しい課題に気づかせ
るために特別な訓練が必要です。
彼らは恒常的に彼らの会話の相
三輪車
手が表現しようとしていること
を理解できるかどうか自問する
という抑圧の元に置かれていま
す。これは基本的な言語システム
飛行機
なしに最初の数年を「生き延び
た」多くの聾の子供にとってすで
に困難な課題です。
しかし彼らはもっと多くを理
キャタピラ車
語彙集
解し、身につけることを求められ
ます。
交通手段
彼らの課題は学校生活の間、そして望ましくはのちになっても、彼らが与えられた用語
や考えについて話し言葉でも手話でも表現できるかどうか自問することでしょう。メッセ
ージを手話で表現できるだけでは不充分です。ドイツの大多数の聞こえる人で構成される
ビジネスの世界への統合を改善するために、聾の人々は音声のドイツ語の能力が高く達成
できれば、ずっとうまくやってゆけるのです。
それでこれらの7歳から 10 歳の幼い子供たちは、混ぜてはいけない二つの異なる言語体
系があることを理解しなければなりません。
この考え方をこれらの子供たちが理解するには相当かかります。
私自身のの経験から、ドイツで四年生のレベル(11 歳から 12 歳)の聾の子供たちは、サ
インライティングの文書とサインライターDOS コンピュータプログラムを驚くほど分析的
で有能な方法で用いることができ、それらを自動言語獲得の道具として用いることができ
ます。言いかえるとサインライティングとサインライターは、彼らの話し言葉のドイツ語
能力を強化し、拡大するのに用いられているのです。おもしろいことに私は手話の発達の
ためにサインライティングの文書の有益さに着目することはめったにありません。なぜな
らそれらは明らかであり自然だからです。しかしもちろんこのことも真実です。
この文脈の中でサインライティングの文書の難易度を目的言語の習得レベルとそろえる
ことは役に立ちます。
言語獲得レベルの低い生徒や、他の弱い学習者や初心者
は、ドイツ語対応手話(LBG)で書かれた文書を受け取りま
す。一つの手話が他の口形運動シンボルと一緒に大きくプ
リントされたものです。この文書は音声言語のドイツ語に
翻訳するためにサインライティングで書かれた指文字も含
んでいます。一枚の紙に書かれるのはほんの二、三行です。
子供はサインライティングの手話のすぐ下に翻訳を書くよ
うに命じられます。最初に私は、聾の子供たちが音声言語
のドイツ語を習得するために、どのような種類のサインラ
イティングの文書が最も良いか考えました。はじめに思っ
たこととは違って、聾の家庭出身の子供が誰もいないわた
しの子供たちは、対応手話(LBG)とドイツ手話(DGS)の
二つの手話の選択肢がドイツにはあるということに非常に
とまどっていました。彼らは対応手話(LBG)で書かれたサ
インライティングで勉強するほうを好みました。
このようにして、彼らは手話の動きを記述した文書を読むことができましたが、手話は
ドイツ語の文構造に従っていました。子供たちはこの課題を理解していました。課題は話
し言葉のドイツ語における語彙と文法を身につけることでした。私たちはサインライティ
ングで書かれた手話の文章の下に直接ドイツ語の単語を書きました。これらを何度もして
いるうちに最初は眼識で、のちには感覚的に、ドイツ語の文構造を経験して行きました。
聾の子供たちの最終目標は、できる限りの最高の言語力に到達すること、すなわち、純
粋なドイツ手話(DGS)で書かれたサインライティングの文書を翻訳できるようになること
です。これらの文書には単語の口形運動を記述するための顔の表情(ムントビルダー:口
図)はごくわずかしか用いないことがわかるでしょう。多くの場合、ひとつの手話単語に
ひとつの口図があり、たいて指文字による支援はありません。これらの文書では語順は音
声のドイツ語には従わず、ドイツ手話の文法法則に厳しく導かれているのです。
慣用句や特別な語句の伝達の一致でさえ、今は二つの言語システムにおける言語能力へ
向かう通り道になりました。文章が複雑すぎなければ、子供たちはこの段階で DGS とドイ
ツ語の両方で同時に書かれた文書を読むことができるようになります。彼らの手にあるの
がサインライティングなのか書かれたドイツ語なのか観察者には区別ができないほど、彼
らは両方の言語を読むことに熟達します。
こうして他の言語の訓練コースと同様に、学習教材を作成したり、語彙のリストを作っ
たり、文法の練習問題を作ったり言語獲得の過程を支える特別な書かれたテキストを作っ
たりする機会があります。
聾の子供たちはドイツ語で読み、手話にし、発音し、文を書くことができます。
ねこはどこ
飛行機はどこ
船はどこ
汽車はどこ
疑問文
1)
LBG の概念
これらの文章は、彼らが二つの異なる選択肢、すなわち LBG と DGS で意味を理解でき
るようになるとすぐに、DGS で表現することができるようになります。それで教師は LBG
と DGS に熟達しているか、少なくともそれで生徒とコミュニケーションができなければな
りません。
時がたつにつれて、聾児に要求される翻訳は洗練されたものになります。文中の語順の
正しさを理解するだけでなく、音声言語のドイツ語にある名詞につく冠詞の変化も学ばな
ければなりません。彼らは動詞の活用も理解する必要があります。もちろん、これらすべ
ての「音声言語情報」は DGS で書かれたサインライティング文書の一部にはなりません。
なぜなら DGS は全く異なる文法構造を持つからです。
この記事に示された単純な文章は入門にすぎません。子供たちはこれらの二言語の文書
で学習する方法に慣れるとすぐに、彼らは数ページにおよぶ文書に自分から進んで取り組
むように準備ができ、高い動機付けを持ちます。これらの文書は翻訳された物語、歌、詩、
祈り、教室で必要な特定の表現、語彙リスト、文法のための特別な練習問題、質問と答え
のような対話のロールプレイなどです。
生徒がサインライティングの文書の内容を大変容易に理解できるという事実は、外国語
(ドイツ語)を学ぶという冒険を引き受けるために効果的に成功するように利用すること
ができます。
サインライティングの長所は、聾の生徒を学校で教えるという場に限られたことではあ
りません。母語としての手話者と手話を使用する人が、彼らの考えや、詩的な形式でさえ、
彼らの母語で文書化する機会を得たということです。今まで、私たちはこのような書かれ
た文書を比較することができるとは思いませんでした。手話をビデオで撮影して繰り返し
見ることはできますが、それは機材があって、その機材の使用方法を知っている場合に限
られます。
過去には、手話で語られた物語や手話祭りで行われたライブの発表を、書かれた本で読
み直すことができるなどとは考えられたこともありませんでした。しかし今や、私たちは
いくらでも異なる手話言語の表現を読み直したり、詳細に研究したりすることができるよ
うになったのです。可能な文学のバラエティを考えただけでも、主の祈りのような宗教の
祈りから手話文法の学習まで、二人の聾者が対話する滑稽な冗談まであります。講義の構
造、方言の選択、決然とした解釈の形式、これらすべての独特な側面が記録され、素早く
読むことができるのです。
結果は喜びと満足だけではありません。サインライティングの文書を研究することは、
手話表現のビデオ分析の補助を含む、多くの優れた機会を提供します。サインライティン
グの文書があれば、二度目にビデオを見るときは細部に集中して見ることができます。サ
インライティングを書く人が手話をする人を観察するときは、手話を書くときとは異なる
経験をします。のちにサインライティングの書記者はそれぞれの手話単語の独特の側面を
構成することなる構成要素に関して、多大な決定をしなければなりません。特定の手話言
語表現を読み直すために本を開くことができる機会があるというのは、それだけでも人を
元気づけるものです。
また、国際的な手話の比較という観点でもサインライティングは新しい可能性を開きま
す。世界の手話言語は同じではありません。ドイツだけでも多くの方言があり、年齢、社
会的背景、地理的状況によって、さまざまな違いがあります。それに加えて、私たちはい
くつかの手話の変種のある程度のものは、実は「あまり正確でない読み方」や表現の仕方
の結果ではないかと思っています。
ドイツには、聞こえる人の「伝言ゲーム」(アメリカ英語では「電話ゲーム」
)と呼ばれ
る遊びがあります。一列に並んだ人が、次々と隣の人に伝言をささやき、列の最後まで伝
えます。だれもが伝えられたことを次の人に伝えるのですが、結果はたいていおかしなこ
とになります。もとのメッセージの中の単語の発音や、単語自体がこの一列の伝達の中で
変えられてしまいます。手話をする人が細部に注意することなく手話をまねてゆけば、同
じことが手話にも起こり得ます。
手話に変種が生まれるもう一つの理由は、聞こえる教員の影響かもしれません。教室内
では毎日、適切に翻訳されるべき多くの用語や事実があり、その国の手話にその語彙があ
ることを知らない教師は自分で「うちのことば」の手話を作ってしまいます。
サインライティングは与えられた手話言語を構成するすべてのデータを貯蔵し、配信す
る機会を提供します。多くの異なる手話の変種を記録するためにデータバンクを作ること
ができます。聾や聴の手話の熟達者は独立して特定の文書、映画や画像を音声言語から手
話言語(DGS あるいは LBG にも)に翻訳された結果を蓄積することができます。これら
の組み合わせはビデオに撮ることができます。そしてビデオは今やサインライティングで
記述することができるのです。これらの文書は手話がどのように見えるものか、あるいは
見えるべきではないかの正確な分析の優れた基礎になります。ビデオとはちがって、書記
形態の書類を互いに並べて併記することもできます。行ったり来たりして見比べ、特定の
記号をあちこちで指摘することは、異なる解釈を比較することを驚異的に可能にします。
1. 読み手の注意を引くものは何でしょうか
2. 何が最も歓迎されるでしょうか
3. 手話においてどのような種類の解釈が好まれるでしょうか
4. 手話をする人たちの間で緊密な議論を経たあと、何が拒否されるでしょうか
5. 手話講座ではどの側面が注目を受けるでしょうか
サインライティングを使用することは聴者や手話学習者にとって本質的に有利な点があ
ります。手話は視覚に基盤を置いているので、音声に方向付けられている聴者には学習し
にくいものです。手話講座における欲求不満や成果の上がらなさは、クラスへの参加者が、
習ったことを家で復習するバックアップとなる学習教材を十分に手に入れることができな
かったことがあるのではないでしょうか。
{最初の印象は間違っている!小男はあなたを見てはいない。あなたは踊り手の後ろに
立って、頭や体や手を透かして見ているのだ。この小さな絵は、表現的な観点を理解する
のに役に立つ。踊り手は手のひらを見ている。彼は左足を上げている。彼は両足を地につ
けている。彼は右足を上げている。
(図の左から右へ)。
}
二、三の図で表した手話の注解は、訓練の目的に要求される学習教材を十分に供給する
には十分とは言えません。さらに、注解はドイツ手話の美しさや独自性をおおまかに図示
するのにさえも適していない。
注解は口の動き、眉、頭の位置などのような身振りの特徴を記述することなく、ドイツ
手話の順序を示す当座しのぎの方法にすぎないと思います。注解は、どのように手話が産
出されたか、どの方言が用いられたかを正確に表しません。
サインライティングで書かれた文書は、動きが視覚的にどうであるかを正確に記述しま
す。これは動きや手の形やその他の手話の構成要素を言葉で長く記述すること全然違いま
す。サインライティングでは、文書がサインスペリングの規則をよく遵守していれば、読
み手はすぐに多大な推測を要せず、手話の表現がどのようなものであるか理解すること
ができます。
私は手話表現のビデオとそのビデオのサインライティングによるトランスクリプション
を含んだパッケージを奨励します。
サインライティングの有益な側面の重要性は、聾学校の異なるクラス向けの特製の手話
辞典の生産に見ることができます。ついに教師と生徒は共通の、少なくとも理解し合える
手話の用語を、多くの専門用語、重要な人物のネイムサイン、場所や歴史的な出来事につ
いて共有できまるいようになりました。
(ノルウェーではたとえばサインライティングで書
かれたおよそ 800 語の物理の指導に用いるデータベースがあります。
)
サインライティングを読めるようになるのは経験から簡単そうに思えます。事実、私の
教室を訪問した人たちは数分でサインライティングのいくつかの基本を理解し、一時間以
内に習った手話で記述された文を理解することができました。
手話の上手い人なら三日の訓練で、早く簡単にかなりの高い読みのレベルに到達できる
のに驚きます。彼らはほとんど問題なく書かれた動きの表現を理解できます。なぜなら彼
らは文書に書かれたことから想像できる動きと、彼らが日常的に意思の疎通に使用してい
る彼ら自身の手話とを比較することができるからです。
こうして私は一つの重要な側面について述べたいと思います。サインライティングは動
きの記述に過ぎないので、深い意味を読み取るには、能力のある読み手が手話を再構築で
きることを前提とします。読み手や表現者は、書かれた手話を知らなければ表現の意味を
知ることはできませんg。逆に、サインライティングは外国の手話や、ドイツ語を話す国
の別の手話方言を学習するのに例外的に素晴らしい方法であることがわかるでしょう。サ
インライティングはどのように見えるか?この記述方法の本質的な側面をどのように説明
したら良いでしょう?
ローマ字のアルファベットは、音声言語の最小の要素を表す一揃いの記号です。これら
の文字や番号や句読点を表す記号は、新しい単語や新しい文、質問や文章全体を表すのに
新しい組み合わせにアレンジできます。これらの文字で英語、ドイツ語、フランス語、ス
ペイン語、その他の言語を表すことができます。しかしそれぞれの言語の知識がなければ、
表現されていることを理解することはできません。
ローマ字のアルファベットを知っていれば、フィンランド語を声に出して読むことはで
きるかもしれせんが、だからと言って、フィンランド語を知らなければその単語を知って
いることにはなりません。一方、おかしな想像ですが、フィンランド人なら文盲でも、単
語を聞くだけでその発音が何を意味するか理解することができます。それはその言語を前
もって知っていたからです。小さな単位で構成される他の書記システムもあり、サインラ
イティングはその一つです。柔軟な組み合わせとこれらの小さなシンボルの新しい組み合
わせは、無限の可能性を生み出します。
もしサインライティングを書いてみようとするなら、手話のどんな構成要素が重要であ
るか前もって知る必要があります。表現のどの変形が受け入れられて、同じ手話であると
言えるでしょう?どの変形が違った意味になるのでしょう。このことを音声言語の書記形
態と比較すれば、次のような綴の良く似た単語があります。
Maus – Laus - Haus
Eis – Ei –Reis – eins
ドイツの手話にもそのような基準は示されてもいいのです。手話を表現しているときや
記録しているときに特別な注意が要求されます。これらの限定要因(パラメータ)は、手
の形、掌の向き、空間における位置、動きの方向、動きの変動、模倣や身振り、口の動き
などを決定します。すべてのことを正確に記述しなければなりません。そしてサインライ
ティングにはそれが備わっているのです。
サインライティングのすごいところは−これがそのシステムの成功の本当の秘密なのか
もしれませんが−ヴァレリー・サットン自身が動きを記述する際に言語学的な判断をしな
いというまさにその事実にあり、このことは当初からの事実です。
彼女の最初からの意図は−そして今日でも真実ですが−手話の言語学的記述ではありま
せんでした。ヴァレリーは一般的な運動の記録に関心がありました。彼女は手話がどのよ
うなものであるかの運動描写を書きたかったのでした。運動のさまざまな動きを考えてみ
ましょう。理学療法的な細かい動き、一続きのダンスのステップ、手話で行われる新年の
挨拶の中に記述される詩的な表現や動きなどがありえます。彼女はそれが人間の動きであ
る必要もないとさえ言っています。たとえば、エレベータ、フェリーの車輪、バッタの動
きも、その運動を観察することによりサットン運動記述システムで彼女が記録することが
できます。
言語学から独立したこの考え方によって、彼女は読み手がすぐに再構成したり表現した
りすることのできる、純粋に視覚的に方向付けられた記述システムを開発することができ
ました。
世界中からのフィードバックは、教師やサインライティングの指導者としての私の意見
と一致しています。ごく幼い子供でさえもごくわずかな指導で視覚的なサインライティン
グの記号を読むことにより、手話の意味を理解することができます。
記述システムの基礎としての役割を果たした開発は「サットン・サインバンク」と呼ば
れるコンピュータの基づいた画期的なものです。ヴァレリー・サットンは彼女の一般的な
運動記述システムの中から必要とされるすべての記号をまとめたアーカイブを作成し、
「サ
ットンのシンボル・バンク」と呼ばれるサインバンクのデータベースに蓄積しました。
このことをよりよく理解するためには運動記述システムのシンボルをローマン・アルフ
ァベットの小さな一文字と考えてみましょう。あなたは必要なだけ多くのシンボルを色々
な方法で結びつけることができます。そして多くの新しい運動の記述や手話の綴りを作る
ことができます。これらのいくつかは読み手にとっては彼らのなじんだ手話言語に由来す
る記述された手話として見えるかもしれません。彼らは前もってその手話を知っているの
で、その記号が何を意味するか理解できます。しかしその運動の意味がわからない人にと
っては、サインライティングのシンボルを読んでいても、どう動くかしか理解できません。
なぜなら彼らが読んでいる記号は彼ら自身が知らない外国の手話に由来しているからです。
いくつかのシンボルはそれ自身が意味をもっています(たとえば数を表す手話)
。
「サインバンク」はいまだに開発中ですが、誰でもサインライティングのシンボルから、
そして手の形、動き、顔の表情などの手話の他の側面を手がかりに手話を検索することが
できます。今までそれを行うソフトウェアがなかったことを理解することは大切です。過
去においては手話に相応する音声言語によって辞書を検索することは運良くできました。
これはとても有益であり、手話能力の向上に大変役に立ちます。
しかし、サットン運動書記システムにおけ
る手話の構成要素とすべてのシンボルによる検索はまったく新しいものです。そしてヴァ
レリー・サットンはさまざまな必要性をもつ手話の使用者に広範囲の応用性をある強力な
道具を提供しています。
2005 年の注意書き:この記事はサインライティングがまだ開発途上のときに書かれたもの
です。2005 年の時点で、サインライティングのシンボルおよびサインライティングの構成
要素で手話を検索できるシステムは三つあります。
1. サインバンク
2. サイン・パドル
www.signBank.org
www.SignBank.org/SignPuddle
3. フランドルオンライン辞書ソフトウェア これは 2005 年にhttp://gebaren.ugent.beと
して開かれる予定です。
ドイツ語の語彙リストにある相当する手話を探すなら、辞書の中に書かれた手話を見つ
けることができる。しかしサインバンクでは世界中の個々の手話を表す異なる辞書の中に
より多くの人々が数百の手話を入れるとすぐに、示された単語や手話表現を異なる手話言
語の中に見つけることができるのである。マウスでクリックするだけであなたは異なる外
国の手話のすべてのエントリーを示すリストに求めることができる。サインバンクに登録
されていれば、
「ライオン」や「聾」を示す多くの手話をわずか数秒で検索できるのは驚異
である。サインライティングのシンボルマークに用いられている属性構造をよりよく理解
するためには「サットン・シンボルバンク」を見てください。
それぞれの属性は更に異なるシンボル・グループで下位分類されています。
(「属性手形」
をご覧下さい)
。
それぞれの属性手形はさらに下位分類されます。たとえば属性 01 手形、グループ 01 人
差し指。
上記のことに基づいて分類されたグループは、シンボルにサットン・シンボル・数列に
ID 番号がつけられます。たとえばグループ 01 手形です。
それぞれの手形は掌をこちらに向けて向きを変えて回したそれぞれのシンボルが一目で
わかるようになっています。
(表参照)
。
インターネットには特別なサイトがあり、すべてのシンボルが登録されています。
http://www.movementwriting.org/sumbolbank
この先駆的な偉業を成し遂げるのに必要だった個人的な信じがたい献身がどのようなも
のであったかわかっていただくために、ヴァレリー・サットンがサインライティングのメ
ーリングリストのメンバーに宛てた 2001 年 10 月 21 日のメッセージをご披露しましょう。
「私は数千のサインライティングのシンボルをデータベースに分類して入れました。この
作業は(手首の負担を軽くするために)腕枕をして行いました。私は繰り返しのキー入力
のためにマウスのボタンをプログラム化しました。一日に8時間入力を続けました。。。幸
い手首には問題は生じませんでした。このキー入力のために私は。。
。ダンスをするような。。。
「リズミカルな流れ」を開発しました。。。中断されない限りどんどん早くなる入力のルー
ティンを確立しました。でも、例えば電話が鳴ったりして中断されると、作業は少しのろ
くなります。もとのリズミカルな流れに戻るのに半時間ほどかかります。。
。いまやキー入
力がどのような作業であるかわかりました。。
。長時間であれば簡単な仕事ではありません。
アントニオ・カルロスとロチャ・コスタが私の 4000 語入力の仕事を手伝ってくれました。
もう 2000 入力しましたが、あと 2000 は偉大な手伝いです。ありがとうアントニオ・カル
ロス。
。
。何という恩恵でしょう。データのテスト・ヴァージョンは 6740 のシンボルでそれ
はルーティンに保存されているさまざまな辞書をテストするのに十分です。サインバンク
2.0 が正式に発表されたら、シンボル・バンクには少なくとも一万のシンボルがあってほし
いと思います。
」
サインライティングで書かれた文書にちょっと興味を引かれた大部分の使用者には、シ
ンボルを分類した ID 番号はそれほど重要ではありません。平均的なサインライティングの
使用者は、コンピュータでどんなシンボルが使用可能かそしてサインライター・プログラ
ムの国別のキーボードでそれをどこにみつけたらいいかさえ習得すれば良いのです。サイ
ンライターDOS4.4 をいくらか練習して使えば、手の向き、あおりや回転、その他の要素も
含めて、欲しいシンボルは簡単に見つかります。
サインライティングの文書を効果的にかつ容易に作成するために特別なソフトウェアが
あることも指摘しておきます。このサインライターDOS4.4 は無料でダウンロードできます。
指示の文書はサインライターのプログラムをどのように使用するか説明してあるので、役
に立ちます。
(このことは実証済みです。)私はドイツのオスナブリュックで大人のために
ワークショップを開いています。参加者はサインライティングの読み方についての基本的
な情報と DOS4.4 を使用してのタイプの仕方を含む 24 時間のコースを二つとります。
この記事はサインライティングを教えるスペースはありません。興味のある人はゲベル
デンシュリフトという web ページに来て下さい。www.gebaerdenschrift.de。
そこにはサインライティングのさまざまな文書だけでなく、ワークショップの開催予定
もわかるようになっています。
しかしサインライティングがどんなに易しいか第一印象を持つために、次の二つの表を
ご覧下さい。私はドイツ手話の主の祈りをサインライティングで書き出ました。これは明
らかにサインライティングのもう一つの応用分野です。教会や手話祭りの手話コーラスに
は、今や、グループ発表のための書かれた文書を持つことができるという素晴らしい可能
性があります。
最初の文書への挑戦を楽しんでください。成功を祈ります。
私のネームサイン:
シュテファン・ヴェールマン
連絡先
stefanwoehrman@gebaerdenschrift.de
シュテファン・ヴェールマン
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