「宇宙機器のトライボ要素の固体潤滑材料」 (11/28)

機械材料学講義
宇宙機器のトライボ要素の固体潤滑材料
Solid Lubricant Materials
used in Space Tribo-Elememts
平成25年 11月 28日
機械工学専攻 表面機能工学研究室
フェロー(元教授)
野坂 正隆
nosaka@mech.t.u-tokyo.ac.jp
1
講義内容
©JAXA
1. トライボロジーとは
2. ロケットエンジンの極低温トライボロジー問題
3.極低温液体中での摩擦摩耗現象
4. 極低温軸受の自己潤滑保持器材料
LE-7液体水素エンジン
5.宇宙機器のトライボロジー問題
6.おわりに
■研究者・技術者の心構え
LE-7液体水素ターボポンプ
2
参考文献
(1) 野坂正隆,高田仁,吉田誠,“ロケット用
ターボポンプの極低温トライボロジーの研
究開発”,日本航空宇宙学会誌,58,681
(2010)303-313.
(2) M. Nosaka & T. Kato, “Cryogenic
Tribology in High-Speed Bearings and
Shaft Seals of Rocket Turbopumps”,
Tribology - Fundamentals and
Advancements, InTech Online Book,
ISBN 978-953-51-1135-1, (2013), 109153.
(3) 西村 允,野坂正隆,“スペーストライボロ
ジー (3) 衛星系”,機械の研究,42,3
(1990).
Download free
3
1.トライボロジー(Tribology)とは?
トライボロジー
H.チコス 著
桜井俊男 監訳
(1980)
■ トライボロジーの定義
“相対運動する互いに作用し合う表面の科学と技術”
■ トライボロジーは、相対運動する表面の“物理学、化学、材料
化学、機械技術、潤滑技術など”に関連する科学や技術の分野
■ 機械の寿命は、破壊より摩擦・摩耗のため、精度、機能を損
なうことによって定まることが多い
■ 機械要素の摩擦・摩耗は、“組合される相手材料”によって変
化する
⇒ 荷重、速度、環境などの“摩擦条件”によってトライボロジー
特性は大きく変化する
表面工学
遠藤吉郎 著
(1983)
4
表面の接触と摩擦・摩耗
摩擦力 F = As (s : 凝着部のせん断応力)
摩擦係数 μ = F/W = As/Apm = s/pm
接触部
凝着部
摩耗粉
接触部の分布
摩耗粉の生成
真実接触面積(Real contact are)
A = W/pm (W : 荷重,pm : 凸凹部の平均降伏応力)
5
金属表面の状態
金属表面の構造
μ = 0.7以上
μ = 0.2 - 0.3
Fe-Cr合金の酸化物層の構造
Fe系材料の速度特性
6
摩擦係数
摩擦係数の概略
7
摩耗係数
8
摩耗が少ない金属の組合せ
金属間の相互溶解性
9
2.ロケットエンジンの極低温トライボロジー問題
ロケットエンジンの推進剤供給方式
液体酸素,液体水素の性状
バルブ
■高圧の液体酸素/液体水素を燃焼器に供給する極低温ターボポンプやバルブの
開発では、極低温環境下で稼働する部位の「極低温トライボロジー技術」がキイ技術
10
LE-7エンジン
H-Ⅱロケット第1段エンジン
■開発期間: 1983(昭和58年)~
1994(平成6年)
■全重量
1,720 kg
■最大径
2.54 m
■全長
3.24 m
■推力(真空中)
110 t
■比推力
446 s
■燃焼室圧力
12.7 MPa
■エンジンサイクル 2段燃焼サイクル
■ターボポンプ(T/P)回転数
液体水素T/P 42,200 rpm
液体酸素T/P 18,100 rpm
11
LE-7高圧ターボポンプと主な諸元
©JAXA
©JAXA
■ 液体水素ターボポンプ
■ 液体酸素ターボポンプ
吐出圧力
27 MPa
タービン圧力
21 MPa
吐出圧力
26 MPa
タービン圧力
19 MPa
吐出流量
510 ℓ/s
タービン温度
830 K
吐出流量
240 ℓ/s
タービン温度
830 K
回転数
42,000 rpm
軸出力
19,700 kW
回転数
18,000 rpm
軸出力
4,700 kW
軸受内径
35/40 mm
重さ
200 kg
軸受内径
32/45 mm
重さ
160 kg
■ 小型(軽量)・高性能化(高圧化)を追求
⇒ 潤滑性が乏しい液体水素 (沸点20K、密度0.07 g/cm3)、
液体酸素 (90 K、1.14 g/cm3)の極低温流体中で高速回転
■極低温トライボロ
ジー問題
12
LE-7エンジン開発における爆発事故(1990)
[ビデオ紹介(1分36秒)]
13
極低温トライボロジー問題 (1/2)
① 極低温推進剤の低粘度とガス化
■粘度が非常に小さく、わずかな摩擦熱でガス化しやすい
⇒油のような「流体潤滑効果」が期待できない
・液体酸素(沸点90K)の粘度(0.19cP) ・・・ 水の約1/5
・液体水素(20K)の粘度(0.013cP) ・・・ ほぼ常温の空気
② 液体水素の強い還元性と凝着摩耗
■水素の還元作用により清浄摩擦面を形成(表面を保護す
る酸化膜の還元除去)
⇒摩擦係数は高く、凝着(シビア)摩耗、焼付き状態になりやすい
■ 蒸発潜熱が小さいため、容易にガス化して、摩擦雰囲気
は沸騰状態になりやすい
⇒液体水素温度(20K)では、材料の比熱や熱伝導率が急激
(1/10 - 1/100のオーダ)に減少、摩擦部は局部的に高温化
14
極低温トライボロジー問題 (2/2)
③ 液体酸素の強い酸化性と酸化摩耗
■酸化により摩擦面に酸化膜が形成
⇒摩擦係数は小さく、酸化(マイルド)摩耗が多くなる
■金属同士が高速で過度に接触した場合、爆発的に燃
焼する危険性がある(Lox Compatibilityの評価)
⇒遷移沸騰状態(核沸騰⇒膜沸騰)での熱伝達の急激な低下
⇒液体窒素中、融点882℃のAg-10%Cu合金ピンが溶融するバーンアウト
摩耗が発生
④ 極低温液体中での軸受や軸シールの摩擦面
■「極低温と高温」が共存する温度状態
⇒酸化・還元・不活性(GHe)雰囲気でのトライボロジー
「適切な固体潤滑と強制的冷却」がキーポイント
⇒静的・動的なトライボロジー要素の管理(組付け状態を含む)
「接触する二面間のトライボロジー評価」が重要
⑤ 極低温下での「特異なトライボロジー現象」の把握が重要
15
低温での熱膨張
・液体窒素温度(77K)から、熱収縮の増
加は緩和
・Fe-Ni系のアンバーは、36%Niで熱膨張が
非常に小さい(ガラスと同程度)
16
金属の低温下での強度変化
体心立方型金属:温度低下とともに急激に強度増加
面心立方型金属:温度に対する強度増加は小さい(Ni)
17
低温での比熱の変化
・常温から液体窒素温
度(77K)までは、比熱の
温度変化は小さい
・液体窒素温度(77K)付
近から、急激に低下
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低温での熱伝導率
・熱伝導率は、液体窒素温度(77K)付近まで
は常温値とほほ等しい
・液体窒素温度付近から、熱伝達率が急激に
低下(純金属は、反対に増加)
・液体水素温度(20K)では、熱伝導率がかな
り低下
・液体水素温度では、摩擦部は、材料の比熱
低下とともに、局部的加熱状態になりやすい
19
1. 層状構造物質
グラファイト、二硫化モリブテン、窒化ボロンなど
2. 軟質金属
金、銀、鉛、亜鉛、錫、インジウムなど
3. 高分子材料
ナイロン、PTFE(テフロン)、ポリエチレン、ポリイミドなど
4. その他
(a) 酸化物: 酸化鉛、酸化アンチモンなど
(b) ふっ化物: フッ化バリウム、フッ化カルシウムなど
(c) 有機物: メラミンシアヌクレート、有機モリブテンなど
松永・津谷:固体潤滑ハ
ンドブック(2000)幸書房
固体潤滑剤
の種類
20
PTFE(四フッ化エチレン樹脂)の自己潤滑性
■PTFEふっ素樹脂は、ふっ素樹脂のなかで摩擦係数は一番低く
、自己潤滑性(Self-lubrication )に優れるため、油が使用できな
い機器の可動部の固体潤滑剤(Solid lubrication )として用いら
れる・・・PTFEのバンド構造
■液体酸素(沸点90K)や液体水素(20K)の極低温液体中でも、
PTFEの機械的強度や熱的特性は安定しており、優れたトライ
ボロジー(摩擦・摩耗・潤滑)特性を示す
⇒油潤滑できないため、極低温下で優れたトライボロジ
ー特性を有するPTFE樹脂保持器で自己潤滑する
⇒宇宙の真空環境での駆動部でも、PTFE樹脂を活用
21
PTFEの結晶構造と低摩擦特性
分子構造: (-CF2-)n
[出典] 日本潤滑学会:新材料のトライボロジー,養賢堂(1991).
■バンド構造: 結晶層と非晶質層が交互に並んだ構造
■摩擦面での結晶薄片のすべりにより優れた潤滑性を示す
⇒ 摩耗が比較的大きいので、ガラス繊維やカーボン繊維など
の充填材により、耐摩耗性を向上させる
22
静的・動的トライ
ボロジー要素
ケーシング系
の組付け状態
回転系の組
付け状態
■ ターボポンプのトライボロジー要
素と使用された固体潤滑剤例
23
23
3.極低温液体中での摩擦摩耗現象
■極低温液体中での金属同
士の摩擦係数は、室温の摩
擦係数とほぼ等しい
■雰囲気(還元性、酸化性、
不活性)により、トライボロ
ジー特性は大きく変化
極低温液体中でのSUS440Cの摩擦摩耗
液体水素(還元性)、液体窒素(不活性)、液体酸素(酸化性)
24
各種ファインセラミックスの
液体酸素・液体窒素中での摩擦摩耗
25
Si3N4玉の熱衝撃試験
ハイブリッドセラミック軸受
(1) 高い引張り強度を有する玉
(A)・・・熱衝撃のため細かく
粉砕
(2) 低い引張り強度と高い熱伝
導性を有する玉(C)・・・サー
マルクラックは発生しなかっ
たが摩耗は大きい
(3) 高い破壊じん性値を有する
玉(B)・・・軽微なサーマルク
ラックが発生,軸受試験で
はサーマルクラックの進展
や二次的破壊は軽微
繰返し荷重下でのサーマルクラックの二次的破壊
26
液体窒素中でバーンアウト熱損傷した軸受
■ 液体窒素中、表面層が高熱のため軟化して流動
(内径25mm 回転数 21,000 rpm)
■発生原因
バランスピストンの流体荷重調整不良⇒過大なスラスト荷重が軸受に負荷⇒バーンアウト
現象発生(核沸騰から膜沸騰への遷移時の熱伝達率の急減による異常加熱)
27
バーンアウト摩耗
核沸騰から膜沸騰に移るときの熱伝達の急激
な低下による熱損傷(バーンアウト現象)のた
め、摩擦面が溶ける摩耗状態
バーンアウト加熱度
■液体水素(-253℃): 300℃
■液体窒素(-196℃): 1400℃
28
■円板: Ti合金
(液体水素ポンプ)
29
Ag-10%Cuピンのバーンアウト摩耗
Agピン/TiN コーティング+ Ti合金円板
ピン
硬さ Hv (0.98 N)
融点 (℃)
(a) Ag
81
961
(b) Ag – 7.5%Cu
157
900
(c) Ag – 10%Cu
160
882
(d) Cu
131
1 083
■Ti合金円板
■液体窒素摩擦試験
ピン径
3mm
すべり速度 1m/s
摩擦荷重 98 N
30
4.極低温軸受の
自己潤滑保持器材料
■自己潤滑軸受
低温ですぐれた自己潤滑性を示すPTFE
(テフロン)複合材保持器から供給される
PTFE潤滑膜で自己潤滑
■高速回転時の摩擦発熱
⇒ 極低温ポンプ流体で冷却
■PTFE複合材保持器
極低温下での耐摩耗性や低い
熱収縮率を得るため
⇒ ガラス短繊維やカーボン短
繊維で強化
⇒ ガラス織布で積層強化
■ PTFE複合材保持器ポケット
面と玉が接触
保持器ポケット
自己潤滑軸受の潤滑機構
■ 玉/内輪・外輪に
PTFR潤滑膜が移着
31
短繊維強化PTFE複合材の低温強度
-90℃:PTFEの
二次ガラス転移
温度
■低温下での非晶質領域での
分子配列の緩み
出典: テフロン
ジャーナル,24
(1968)1.
32
低温酸素ガス中でのPTFEの摩擦摩耗
(a) SUS440Cの酸化処理なし
(b) 623Kで加熱酸化処理
■二次ガラス転移温度・・・非晶質領域での分子配列の緩みを発生
■酸化度(Cr2O3に対するFe2O3の割合)の影響を大きく受ける
⇒ 冷却不足で軸受鋼が酸化するとPTFE潤滑膜が摩耗
33
CaO (15wt%) 添加したPTFEの摩耗進行停止
■添加剤入りPTFEピン/SUS440C円板摩擦試験
低温酸素ガス中
(123K)
摩擦荷重 9.8N
すべり速度 10m/s
ピン直径 3mm
CaO
MgO
Mo
■Ca/Mg(アルカリ土類金属)はPTFEのFと化学的に反応しやすい
CaO/MgO ⇒ CaF2/MgF2潤滑膜を形成 (トライボケミカル反応)
34
低温窒素ガス中でのガラス繊維強化PTFEの
摩擦係数の変化
35
各種PTFE複合材の高荷重での摩擦摩耗
36
ガラス繊維強化PTFEピンの摩耗の相違
(a) 10 wt% ガラス繊維
(b) 24 wt% ガラス繊維
荷重: 265 N 摩擦速度: 10 m/s 液体窒素中
SUS440C 円板 直径3mmピン
37
二硫化モリブデン膜の雰囲気の影響
■MoS2は酸素雰囲気ではMoO3に変化して潤滑性が劣化
38
液体窒素中でのスパッタ膜の摩擦特性
39
液体水素中でのPTFE膜やMoS2膜を
コーティングした軸受の耐久性
■液体水素温度上昇から推定した軸受発熱量
(回転数 50,000 rpm, スラスト荷重 784 N)
(a) PTFEスパッタ膜 170 – 250 W
(b) MoS2スパッタ膜 250 – 330 W
40
液体水素軸受の玉の表面組成分析(XPS分析)
■エンジン試験時間 34.4分/20回の起動停止した軸受
エッチング深さ
30nm (Si02換算)
液体水素ターボポンプ軸受(C)の玉
CaF2
FeF2
■水素還元雰囲気でのトライボケミカル反応
⇒ CaF2膜/FeF2層の形成により摩耗減少
■FeF2層を予め形成させた軸受
(高温フッ素ガス中で処理)
⇒ 冷却不足状態で優れた耐摩耗性
41
液体酸素軸受の玉の表面組成分析(XPS分析)
■エンジン試験時間 34.5分/23回の起動停止した軸受
エッチング深さ
30nm (Si02換算)
(CaF2)
酸化鉄(Fe2O3)
■ノズルを用いたジェット
で軸受を強制冷却
■軸受の冷却不足
状態
⇒Fe2O3酸化層を
形成、酸化摩耗
が増加
■ジェット冷却で十分冷却した液体酸素軸受
⇒下地に厚いCr2O3層を形成、耐摩耗性が向上
■内径25mm軸受
⇒ 50,000rpm 240N 11.7時間試験で摩耗なし
42
Comparison of Tribo-chemical Films in LH2, LO2 and
LN2 Bearing (25 mm, 50,000 rpm) under Jet Cooling
LH2 reduction
power
Thick CaF2 / FeF2
composite film (4.5 nm)
Good self-lubrication and
load capacity with good
adhesion to FeF2 film
LO2 oxidization
power
Thin CaF2 film (1.5 nm)
Good self-lubrication and
load capacity with good
adhesion to Cr2O3 film
Barrier FeF2 film (due
to fluorine passivation
without native oxide film)
to prevent metal-tometal adhesion
SUS
440C
(a) In LH2
Without tribochemical films of CaF2
/ FeF2 / Cr2O3 due to inert LN2
Thick barrier Cr2O3 film
(3 nm) (due to oxidization
except Fe2O3) to prevent
metal-to-metal adhesion
SUS 440C
(b) In LO2
Thin PTFE film (0.8 nm)
Poor self-lubrication and load
capacity with poor adhesion
to native oxide film
Thin native oxide film
(Cr2O3/FeO; 1.5 nm)
with poor resistance to
metal-to-metal adhesion
SUS 440C
(c) In LN2
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5.宇宙機器のトライボロジー問題
宇宙・真空環境の特殊性
(1)振動・衝撃
・保持解放機構での火工品の切断(~2000G)
・打上げ時の推進薬燃焼、音響振動
(2)真空: 超高真空・極高真空
・周回衛星(高度200~800km): 10-4~10-8Pa
・静止衛星(136,000km): 10-8~10-10Pa
・衛星内部は、吸着ガスの脱離、アウトガスのため
1~2桁高いと推定
・高空ほど、水素やヘリウム(軽い気体)が主成分
(3)無重力:微小重力( 1/104~1/106 )
44
(3)無重力:微小重力( 1/104~1/106 )
(4)放射線:宇宙空間(太陽、バンアレン帯など)から、α
・β ・γ 線、陽子、中性子などが飛来
(5)温度:-100~+150℃程度の温度変化
・熱制御フィルムにより、 -30~+60℃程度
(6)紫外線:強い紫外線による劣化作用
(7)原子状酸素
・紫外線による酸素分子が解離、原子状酸素になる
・200~600kmでは、原子状酸素が主成分、高分子に対
して酸化や腐食発生
45
宇宙環境
-雰囲気ガスの成分-
46
人工衛星のトライボロジー要素
人工衛星の駆動機構
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人工衛星のトライボ要素の作動条件
●通常の衛星では50個以上の転がり軸受を使用,そのうち90%以上が固体潤滑
●被膜:Au,Ag,Pbイオンプレート膜,MoS2スパッタ膜
●高分子複合材:PTFE複合材(ガラス繊維,カーボン繊維,金属粉末などを充填)
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ハイゲインアンテナに関する不具合
ガリレオ探査機(米国、打上げ1989年)
・打上げ1年半後のHGA展開に失敗
・18本中4本のリブが展開せず
収納状態と正常展開
テレメトリデータに基づいて推定された宇宙空間での
HGAの展開形状
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固着の発生部位
リブ4本で凝
着発生
テレメトリデータに基づいて推定された宇宙
空間でのHGAの展開形状
ピン(Ti-6Al-4V)と受け(インコ
ネル718)で凝着 発生
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ハイゲインアンテナ展開不良の原因
●リブ中央のピンと受けとが固着した
可能性大
[原因]
(1) ピンと受けとの過大な接触圧で,
受け面のMoS2固体潤滑剤が損
(2) 米大陸2往復に及ぶ地上輸送で
の振動により,固体潤滑剤が損
(3) 打上げ時,軌道変更時の真空中
振動で凝着
衛星アポジエンジンの
バルブ不具合
バネの固着
(1) きく6号打上げ失敗: アポジエンジンのヒドラジン弁の固着(1994)
(2) 火星探査衛星(のぞみ)推進系のバルブ(1999)、小惑星探査機(はやぶさ)推進系
のバルブ(2004)、金星探査衛星(あかつき)推進系のバルブ(2010)のトラブル発生
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6.おわりに
■高性能ロケットエンジンのターボポンプの開発
において、極低温推進剤中で高速回転する軸系
を支える軸受や軸シールなどの「極低温トライボ
ロジー技術」は、エンジンの性能や信頼性を支え
る重要な基盤技術。
■ロケットエンジンや宇宙機器の極限環境下にお
けるトライボロジー技術は、信頼性向上や性能向
上に向けて、宿命と言うべき限りない挑戦が期待
される。
■液体水素利用技術は、地球温暖化対策として
期待される、化石燃料に替わる液体水素エネル
ギー技術分野の発展への貢献が期待できる。
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研究者・技術者の心構え
トラブル原因の追究・対策
から学び育てるものは・・・
知識でなく知恵(技術センス)の向上
トラブル原因の追究・対策から学ぶ高度技術
組織・技術力の向上
社会・人類への貢献度の向上
小さな工夫の積み重ねと弛まない努力
それが世界を驚かす
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