新規に同定された尿中へのタンパク質 排泄過程に着目した新規急性腎

新規に同定された尿中へのタンパク質
排泄過程に着目した新規急性腎不全診断法
宮崎大学 農学部 獣医学科
准教授 池田 正浩
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急性腎不全は大きな社会問題
急性腎不全とは
急性腎不全は、急激なGFRの低下と窒素代謝物の体内蓄積(尿素窒素やクレ
アチニン)に特徴付けられる症候群の総称。
急性腎不全の原因
●熱中症、脱水、ショック。
●心血管手術時の虚血。
●腎移植の場合などに起こる腎虚血再灌流傷害(IRI)。
●シスプラチンやゲンタマイシンなどの薬剤。
●結石や腫瘍などによる尿路閉塞。
急性腎不全の発症率・死亡率が高い
●入院患者の5%、ICU患者の30-50%に見られる。死亡
率は40%を超える。
●発症率および死亡率は30年間変わらず高率のまま。
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急性腎不全による社会問題を解決する方法
急性腎不全の発症率・死亡率が高い理由
●早期診断方法がない。
●特異的な治療薬がない。
●早期診断方法の開発。
●治療薬の開発。
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現在までの診断方法の問題点
●タンパク質の終末代謝産物
(クレアチニン、尿素窒素)の血中濃度の測定
年齢や性別、食事、筋代謝などの影響を受ける。
急性腎不全において血清クレアチニンの増加がみとめられるの
は、腎機能が50%以上低下した後で、診断までに時間が必要。
非侵襲的特異的早期診断方法の開発。
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我々が着目したもの1
尿中タンパク質
理由
●尿は、患者が痛みを伴わず(非侵襲的)に入手できる。
●提供することに抵抗感が少ない。
欠点
●尿中タンパク質は、非常に種類が多く、またタンパク質の由来
が不明確であることが多い。
欠点を克服できるものはないか
●尿中にタンパク質が排泄される場合に、ナノベジクルと呼ばれ
る小胞に含まれてタンパク質が排泄されている過程がある。
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尿中ナノベジクルとは
●尿に接する上皮細胞
に由来する小胞(直径
100 nm以下) 。
●細胞活動によって、
尿中に排泄される(細
胞の状態を反映する)。
●発現している場所か
ら排泄される(特異的)。
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我々が着目したもの2
Aquaporins (AQPs):水チャンネル膜タンパク質ファミリー
理由
哺乳類では13種類の分子種(AQP0~12)が同定されており、腎において
は8種類(AQP1~4,6~8, 11)のAQP分子種が部位特異的に発現し、各部
位で水の再吸収に関与している。AQPは腎臓の機能タンパク質である。
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尿中ナノベジクル中にアクアポリン-1は存在する
尿中ナノベジクル
AQP1
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急性腎不全モデルにおいて尿中ナノベジクル
アクアポリン-1は減少する
100
6h
% Sham
80
30h
96h
60
0
IR
**
40
20
Sham
**
**
19
6h
12
30 h
7
96 h
**: p<0.01
9
発症
不全
発症
トロ
ール
急性
腎
コン
不全
1日
後
6日
後
2日
後
発症
トロ
ール
急性
腎
コン
不全
トロ
ール
急性
腎
コン
ヒトの急性腎不全においても
尿中ナノベジクルAQP1量は減少する
尿中ナノベジ
クルAQP1
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急性腎不全以外の他の腎不全においては
尿中ナノベジクルAQP1量は減少しない
250
37
25
コントロール
% コントロール
kD
急性腎不全以外の
他の腎不全モデル
尿中ナノベジクル中のAQP-1 量をウエスタンブ
ロット法により検出した時の写真。
200
150
100
50
3
2
0
コントロール
急性腎不全以外の
他の腎不全モデル
左のような検出を数回繰り返し定量化したグラフ。
コントロール群に対する%値で表している。
尿中ナノベジクルAQP1は急性腎不全に特異的である。
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まとめ
急性腎不全の早期診断マーカーとして、
尿中ナノベジクル中のAQP1が有用である。
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新技術の特徴 1
尿中のタンパク質(AQP-1)を調べるだけで、急性
腎不全を早期に診断することができる。そのため、
採血など患者の痛みを伴う診断方法を用いなくて
済み、また、早期治療を可能とする。
非侵襲的早期診断マーカーの発見
尿中のナノベジクルを利用した診断方法の開発を行っている研究グループは、
国内では、我々のグループを除いては見当たらない。
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新技術の特徴 2
急性腎不全においてその排泄が減少することを見出し
たAQP-1は、腎臓の機能タンパク質である。そのため、
腎臓の機能の状態を反映しながら尿中への排泄が変
化し、特異性が非常に高く、しかも腎臓の機能状態をも
捉えられ、非常に有用であると考えられる。
腎臓の機能を調べる上でも有用である
(急性腎不全以外にも応用できる)
現在いくつかの急性腎不全の早期診断マーカーとなりうるような物質が、他
の研究グループ(いずれも国外)から報告されている。しかしながらいずれも、
腎臓における機能を担っているタンパク質ではなく、特異性が低い。
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新技術の特徴 3
尿中ナノベジクルは、疾患に関連した他のタンパク質
を含んでいる(我々の未発表データ、他のグループか
らの報告など)。
尿中ナノベジクルを用いた新しい診断法の
開発に道を開いた。
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実用化に向けた課題
●他の動物モデルを用いた特異性の検討。
●尿中ナノベジクル排泄メカニズムの解明。
●短時間で測定できる技術の開発(共同研究)。
●測定値に影響を及ぼす因子の洗い出し
(共同研究)。
●臨床性能試験の実施(共同研究)。
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想定される用途
●急性腎不全診断薬。
●腎機能評価薬。
●大衆用薬
ダイエットの1つの問題として、過度の水分制限により軽度の急性腎不
全が発症しているにもかかわらず、ダイエットを継続するために、重篤
な腎不全に陥ることがある。本発明に基づいて軽度な急性腎不全を診
断できれば、適切な水分管理の下で安全なダイエットを行うことが可能
となる。
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本技術に関する知的財産権
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発明の名称 :急性腎不全の診断方法
出願番号 :特願2007-008132
出願人
:宮崎大学
発明者
:池田正浩、園田紘子
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お問い合わせ先
宮崎大学産学連携センター
知的財産部門
産学連携コーディネーター 石川 正樹
TEL
FAX
e-mail
0985-58-7592
0985-58-7793
chizai@of.miyazaki-u.ac.jp
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