NPO 法人マイスターネット 第 38 回講演会(2009.7.18)資料 相対性理論は間違っているのか 占部浩一 (ヴェリタス基礎科学研究所所長、基礎科学マイスター) e-mail: urabe@gakushikai.jp 相対性理論、とくに特殊相対性理論は学界では疑いの余地なく正しいものとされているが、世の中では「相 対性理論は誤っている」という類の本がよく出版される。それはどういう理由によるのかを考えてみる。 アインシュタインについて アルベルト・アインシュタイン(1879-1955) 1879.3.14 ドイツ南部のウルムで出生。ユダヤ系。 1880 ミュンヘンへ移住。小学校はカトリック系。6 歳頃にバイオリンを習い始めた。 1894 一家はミラノへ移住。アルベルトはミュンヘンに残りギムナジウムに通学。 1895 家族に無断で退学。ミラノへ。 スイス連邦工科大学受験、不合格(一般教養の不出来による)。アーラウ州立高校産業技術科で1年 学ぶ。この頃、兵役義務を逃れるためドイツ国籍を放棄。無国籍となる。下宿の娘マリー・ウィン テラーを恋人とする。 1896 スイス連邦工科大学入学。 3 歳半年上のセルビア女性ミレーヴァ・マリッチと一緒に独学。教授に悪印象を与える。 1900 卒業。大学に就職できず、2 年間アルバイト。 1901 スイス国籍取得。扁平足、静脈瘤等で兵役義務免除。 1902 ベルン市特許局に技師として就職。この間、マリッチと未婚のまま女児出生。 1903 マリッチと結婚。この頃自宅で数人と研究会(アカデミー・オリンピア)を行う。 1905 ブラウン運動、光電子効果、相対性理論についての論文を発表。奇跡の年といわれる。 1908 ベルン大学講師 1909 チューリッヒ大学準教授 1910 プラハ大学教授 1912 チューリッヒの連邦工科大学教授。東北帝大教授への招聘は実現せず。 1914 ベルリン大学教授(物理学) アルベルトの浮気で、マリッチは 2 人の息子を連れてチューリッヒへ。後に長男ハンスはカリフォ ルニア大学の土木工学の教授。次男エドゥアルトは統合失調症。女児の行方は不詳。 1916 一般相対性理論発表 1919 皆既日食で星の光が太陽の重力場で曲げられ、その角度が一般相対性理論の予測に合った。 マリッチと離婚。3 歳年上の従姉エルザ・アインシュタイン(娘 2 人を連れて離婚していた)と再婚。 娘 2 人は養女となる。この頃ユダヤ人迫害。相対性理論はユダヤ科学として排斥される。 1921 訪米。ヘブライ大学建設資金募集。 1922 来日。その直前に、光電効果の発見の業績に対し 1921 年度ノーベル物理学賞を受賞。賞金 32,500 ドルはミレーヴァと子供たちへ。 1928 ヘレン・デュカスが秘書・家政婦となる。 1933 4 度目の訪米のままプリンストン高等研究所所員となる。エルザ同行。ナチスがアインシュタイン を国家反逆者とした。 1 1936 エルザ死去 1839 ドイツが核分裂に成功したニュースを知り、ウラン鉱石が敵に渡らないようにとの手紙をルーズベ ルト大統領宛に認め、中性子生成の論文 2 編を添えた。 1940 アメリカ国籍取得。年末、ウラン諮問委員会は原子爆弾プロジェクトを提案。マリー・ウィ ンテラーから援助を求める手紙がきたが、秘書が見せなかったらしい。 1941 FBI はアインシュタインを共産党員、スパイ、と疑って監視していた。 1943 海軍軍需局顧問となる。相手役はジョージ・ガモフ。日給 25 ドル。魚雷の起爆装置の考案。 1948 ミレーヴァ死去 1952 イスラエル第2代大統領への就任を辞退。 FBIのアインシュタイン関係の資料の要約1160ページ。 1953 ローゼンバーグ夫妻の減刑を嘆願。モスクワの「医師の陰謀」事件の 9 人には沈黙。 1955 核兵器の廃絶、戦争の根絶、科学技術の平和利用などを訴えるラッセル・アインシュタイン宣言に 署名。4.18 腹部大動脈瘤破裂により死去。火葬後遺灰はデラウェア川に散骨された。脳は医学的研 究のため保存され、眼球も別の医師が取り出して保存した。ヘレン・デュカスとオットー・ナタン は遺言執行者としてアインシュタインの理想的なイメージを守り、アインシュタイン・アーカイブ のために資料を集めた。そして、より深く掘り下げようとする作家や学者を妨害した。 アインシュタイン以前の状況 光を伝えるエーテルという媒体があると考えられていた。エーテルに対して静止している光源から光が発 射されればどの方向でも光速cは同じである。光源が速度 v で動いていればその進行方向での光源に対す る速度はc−vとなるがそれに直角な方向ではcでのはずである。地球は自転、公転をしていて、さらに 太陽系は銀河中心の周りを回転しているから、我々はエーテルの海の中を運動していることになる。 地上での方向による光速cの差を検出するマイケルソン・モーリーの実験は成功しなかった。それを説明 するのにはエーテルが地球に付随して動くとすればいいのだが、それでは恒星の光行差の実験が説明でき ない。そこでローレンツ収縮が考えられた。測定装置その他の長さは、エーテルの静止系(絶対空間)で動 くとき進行方向に γ=√(1−(v/c)2)倍になる。つまり速く動くほど収縮するという説である。 アインシュタインの特殊相対性理論 ●物理法則はどんな慣性系でも同じである。 ●慣性系では真空中の光速 c は一定である(空間的な方向、光源の運動、観測者の運動、などに無関係) 現在は c=2.99792458×108m/s と定義されていて、それと時間から長さが定義されてくる。 ・エーテルの仮定は不要 ・ある座標系に対して運動している系では、前者の系から見て時間の進み方が遅くなる。また、長さが短 くなる。 ・異なった場所での時刻の同時性は座標系によって異なる。 ・速度を合成しても光速を超えることはない。 ・質量 m の物質は mc2 のエネルギーをもつ。 相対性理論発見の経緯 ・彼の論文では、磁石と導体が相対的に動く場合に生じる電流の原因を説明するのに、どちらが動くかに よって説明が異なる、このような非対称性のない説明があるべきではないか、という導入で、とくにマイ ケルソン・モーレーの実験などに言及していない。そもそも引用文献がない。 2 ・彼はその実験を知らなかったのではないかという説もあった。現在は、実際にその論文を読みはしなか ったかも知れないが、そういう実験のあったことは別の論文中の記述で知っていたはずだが、彼の論旨に はとってはあってもなくても構わないような意義しかなかったので、触れなかったのだろうということに なっている。 相対論的な効果の現れるところ ・光速一定の効くところ 例 カーナビ(GPS)。地球は恒星系に対し 350km/s 程度の速度で 動いている。4 個の衛星からの電波の速度が方向によらず一定でな ければ位置の計算が容易でないが、そんなことは起きていない。 例 加速器でパイ 0 中間子(速度は光速の 0.99975)をつくる。これ が 2 つの光子に崩壊するが、 中間子の進行方向に出る光の速度はや はり光速。 ・速度の速い現象 例 加速器の設計。原子のエネルギーの計算。寿命の短い素粒子ミ ューオンが上空で生成され、光速で走っても地上に届かないと思わ れるが、実際には高速なので時計が遅れて(あるいは地上までの距 離が縮んで)地上で観測できる。 ・運動、重力による時計の進み方 例 GPS 衛星は半日で地球を一周するので時計は遅れる。また、2 万 km 上空にあるため重力が弱く一般相対論効果により時計は進 む。両効果を合わせて 4.45×10-10 だけ地上の時計より進み補正が 必要になる。 ・多数粒子の集合体の運動 例 電流の作る磁場の説明 アインシュタインの特殊相対論に対する評価 ・多数派 時間・空間の概念に革命を起こした偉大な業績である。 ・少数派 同じ式はすでにフィッツジェラルド、ローレンツなどが出している。新味はない。 ・ごく少数 彼はインチキ詐欺師である。 アインシュタイン以前の説は実験を説明するために作られた。それに対し彼の説は公理をもってきてそれ から式を演繹してきた。 アインシュタインの特殊相対論が間違っていると主張されるところと、それに対する反論 ・いろんな人が間違っていると主張するので、それらの説の誤りを指摘する本がある。相対論の教科書が 初心者に分かりにくいのも誤りを生む一因だろうという。 「相対論の正しい間違え方」松田卓也・木下篤哉著、丸善(2001 年) 間違っていると主張する人によく見られる傾向 理論をきちんと勉強していない 新しい情報を知ろうとしない 定量的な計算や実験を行わない 自分に理解できないもの、自分の常識に反するものは誤りだとする 実験的な根拠なしに自分の信条を主張する 人の批判に耳を傾けず、自説に固執する [マイケルソン・モーレーの実験のようなエーテル検出実験は、19 世紀末から 20 世紀初頭に行われた古 3 い実験で、現在は行われていない] [説明]レーザーなど新しい技術が開発されるたびに数多くの実験が行われてきた。今や大学の学生実験 になっていて、あちこちで検証実験をしていることになっている。 [同時の相対性とは、ある慣性系にいる観測者が、左右からきた光を同時に見たとしても、それを別の慣 性系から眺めると、その観測者には同時に光が届いていないように見えるという現象のことを指す] [説明]誤解である。別の慣性系でも同時と見る。同時性が相対的になるのは異なった場所での事象であ る。今の場合なら、左右の光の放出時刻を観測者が同時と見ても、別の系の人は異なった時刻と見ること になる。 [長さが共に L のガレージと車がある。車が走って入庫する場合、地上から見ると走っている車はローレ ンツ収縮で縮むから、ガレージの中にスッポリ収まってしまう。一方、車に乗っている立場ではガレージ が縮んでいるから車が収まるはずはない。これは矛盾だ] [説明]矛盾ではない。同時というのが立場で違う。それぞれの座標系でそこにおける同時刻に長さを考 えなければならない。 [光速度不変の仮定はまだ確かめられていない。マイケルソン・モーレーの実験は精度が悪く、それを元 に光速度不変か確認されたというのは間違いである] [説明]精密な測定が数多くなされている。 [双子のパラドックス(注)はおかしい 注:双子の 1 人(例えば兄)がロケットに乗って光速に近い高速(例:0.6c)で星(例:3 光年先)へ行ってす ぐ引き返してくると、兄は 8 歳、弟は 10 歳年をとっている。 運動は相対的なものだから、兄が静止し弟が動いたと考えてもいいはずで、そうすると弟の方が若返る ことになり、矛盾だ] [説明]ロケットには引き返すときに加速度がはたらき、見かけ上の力が働く。地球ではそういうことは なく、両者は同等な慣性系ではない。ロケットが静止し地球が動くというのと同等ではない。 [地上である目標を狙って光を出したとすると、着くまでにその目標は地球と共に動いてしまうから当た らない。当てるためには進行方向へ傾けて光を放出しなければならない] [説明]目標に向かって発射してよい。地球外から観察すれば光は傾いて進行しているように見え、動い た先の目標に当たる。 [超光速は存在する。レーザービームを 1 秒に 1 回転させる。月面上のスポットの移動速度は光速の 6 倍 を超える] [説明]各スポットは同じ光子が動いているのではない。従って情報を運ぶものではない。スポットの移 動は光の進行ではない。 [シンクロトロンという加速器では荷電粒子は円運動をする。これは加速運動であり、特殊相対論は加速 度を扱えないから、シンクロトロンの成功は特殊相対論の正しさの証明にはならない] [説明]慣性系で加速度運動の方程式を解けばそれでよい。質点が静止している座標系に乗り移る必要は ない。そもそも特殊相対論は扱う速度が遅いときにニュートン力学に帰着する。ニュートン力学で加速度 運動が扱えることは明らかである。特殊相対論で扱えないならニュートン力学でも扱えないはずである。 4 参考資料 年表について 「アインシュタイン−天才が歩んだ愛すべき人生」デニス・ブライアン(三田出版会、1998) 「アインシュタイン 相対性理論の誕生」我孫子誠也(講談社 現代新書、2004) Wikipedia:アルベルト・アインシュタイン アインシュタインの相対性理論の 1905 年論文(和訳)が収録されているもの 「相対論」 物理学古典論文叢書 4 (東海大学出版会、1974、第 4 刷) アインシュタインの相対性理論が誤りだとするものの例 「アインシュタインの相対性理論は間違っていた」窪田登司(徳間書店、1993) 「科学はアインシュタインに騙されていたのか」後藤学、早坂秀雄、千代島雅、窪田登司、ハワード・ C・ヘイドン(徳間書店、1996) 誤りとする説そのものが誤りであることを指摘するもの 「相対論の正しい間違え方」松田卓也、木下篤哉(丸善、2001) 5
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