平成２８年８月号 ≪今月号のメニュー≫  中国のスポーツ産業について  新たなライフビジネスを創り上げた We Chat （矢野経済信息諮詢（上海）有限公司）千葉銀行上海駐在員事務所 1．はじめに 2016 年 8 月 5 日から 8 月 21 日にかけて、ブラジルのリオデジャネイロで夏季オリンピックが開催され、中国でもテレビなどで連日中国人選手の活躍が報じられました。2022 年には、北京での冬季オリンピック開催が決定されるなど、活気づいている中国のスポーツ産業について、みてまいります。 2．中国のスポーツ産業の市場規模中国国家体育総局（中国のスポーツ統括機関）によると、2015 年の中国国内のスポーツ産業の市場規模は、約 1 兆 8,000 億元（約 32 兆 4,000 億円）となり、2016 年には、約 2 兆元（約 34 兆円）まで拡大すると予想されています。【中国スポーツ産業市場規模推移（2012 年～2016 年）】（出所：中国国家体育総局） 3．スポーツ産業育成に向けた長期戦略の発表中国国務院（中央政府）は、2014 年 10 月に、スポーツ産業を中国の主要産業へと成長させるための長期戦略を発表しました。そのなかで、スポーツに関連する製品やサービスを充実させることで消費を促し、2025 年までに同産業の市場規模を 5 兆元（約 85 兆円）まで拡大させるとの目標を掲げました。－1－これらの目標を達成するために、スポーツ関連分野への民間資本参入の奨励、スポーツ用品製造・販売企業の上場支援、資金調達環境の整備などを行うとしました。このほか、スポーツ関連企業やスポーツ施設に対する補助金支給や、税金・公共料金などの優遇施策を掲げました。税金の優遇施策としては、ハイテクノロジー技術を有していると認定されたスポーツ企業の法人税率を15%に引き下げることや、非営利組織と認定されたスポーツ関連サービスを提供している団体に法人税免除の資格を付与することなどが挙げられます。体育館などのスポーツ施設で使用される電気・水道・ガスなど公共料金に関する優遇施策は、地方政府によって異なります。例えば、広東省の江門市では、2015 年 3 月に管轄内のスポーツ施設にかかる水道料金を、安価な工業用水と同額とすることを発表しました。また、2016 年 1 月 1 日からは、中国財政省（日本の財務省に相当）と中国国家税務総局（日本の国税庁に相当）の施策により、一定の条件を満たすスポーツ施設の不動産税（日本の固定資産税に相当）が減免されています。具体的には、1 年間のうち 7 割以上をスポーツ活動のために使用することを条件に、企業が所有・運営している観客席数 2 万席以上の競技場、3,000 席以上の体育館、1,500 席以上の水泳場の不動産税を 50％軽減し、国や公共団体が所有・運営している施設に対しては、不動産税を免除しています。 4．スポーツ振興 5 カ年計画の発表前述のとおり、スポーツ産業育成に向けての長期戦略を掲げた中国国務院は、2016 年 6 月に、国民の体力強化と健康増進を図るとともに、スポーツ人口を増やすことにより内需拡大につなげることを狙いとした「スポーツ振興 5 カ年計画（2016 年～2020 年）」を発表しました。同計画のなかで、2020 年までに「週 1 回以上スポーツに参加する国民」を 7 億人、「経常的にスポーツに参加する国民」を 4 億 3,500 万人に増やすよう推奨しています。また、国民への普及を図る具体的な種目として、特にサッカーとウィンタースポーツの発展を加速させる計画を盛り込みました。サッカーについては、習近平国家主席が好きなスポーツであることから、以前よりサッカー振興政策が打ち出されていました。今回の計画の中では、学校・企業・地域コミュニティーなどを通じて競技人口を拡大し、障害者サッカーや中高年サッカー、5 人制サッカー、ビーチサッカーなど様々な形態で普及に力を入れるとしています。また、ウィンタ―スポーツについては、2022 年に開催される北京冬季オリンピックに向け「国民 3 億人にウィンタ―スポーツを普及させる構想」を実現させるため、スキーやスケートをはじめとするウィンタースポーツ施設の建設を各地で奨励し、用具産業の育成も図るとしています。－2－５．おわりに中国国家体育総局によると、中国の 2015 年 GDP に占めるスポーツ産業の市場規模の割合は、 0.7%のみであり、全世界の同割合の平均 2.1%と比較すると、中国のスポーツ産業はまだまだ成長できる余地があると見込まれています。 2015 年 1 月、中国の不動産企業がスペインサッカー1 部リーグに所属するクラブチームに 4,500 万ユーロ（約 59 億円）の出資をし、同クラブ株式の 20%を取得したことや、2016 年 6 月には、中国の家電量販大手がイタリアの名門サッカークラブを 2 億 7,000 万ユーロ（約 330 億円）で買収するなど、異業種からのスポーツ産業への投資も相次いでいます。また 2014 年 12 月、日本の大手ホテル会社が中国のスキー場（吉林省）に高級ホテルを建設し、2016 年 2 月には、日本のスポーツウェア専門メーカーが、中国の大手スポーツ用品会社と合弁会社を設立し、中国において自社ブランドの展開を発表するなど、日系企業による中国スポーツ産業への参入もみられるようになっています。 2016 年 3 月、中国国家発展改革委員会が、「スポーツ産業は高速成長の黄金期に入った」と述べているように、中国のスポーツ産業は、今後更なる発展が予想されており、中国企業だけでなく日系企業等の外資系企業にも、ビジネスチャンスが生まれそうです。今後、中国のスポーツ産業の動向について注目が集まるでしょう。千葉銀行上海駐在員事務所では、最新トピックスや投資環境など、中国に関する情報をタイムリーに提供する体制を整えております。中国に拠点をお持ちのお客様や、中国への進出を検討されているお客様は、最寄りの取引店を通じ、お気軽にご相談下さい。 ※ ここに掲載されているデータや資料は、投資等の判断となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資等の最終決定は、ご自身のご判断でなされるようお願いいたします。また、弊行はかかる情報の正確性や妥当性については責任を負いません。 ※ 本レポートに関するお問合わせは、千葉銀行市場営業部海外支店統括グループ矢野経済研究所（矢野経済信息諮詢（上海）有限公司）（ Tel:03-3270-8526、 Email:kaigai_tokatsu@chibabank.co.jp）までご連絡下さい。－3－矢野経済研究所（矢野経済信息諮詢（上海）有限公司）【以下は、矢野経済研究所（矢野経済信息諮詢（上海）有限公司）によるレポートです】いまや生活の一部に新たなライフ・ビジネスを創り上げた We Chat １．はじめに変わり続ける中国のライフスタイル。現在の中国を語るうえで避けては通れない存在が「We ウェイシン Chat（微信）」である。本来はチャット機能を中心とした SNS であったが、既にそれを超えて、中国に新たな生活、新たなビジネスモデルを作り上げている。今回はその We Chat について紹介しよう。 2．We Chat とは We Chat とは、コミュニケーションツール「 QQ」を開発したテンセント社（注１）が 2011 年 1 月に打ち出した、モバイル用 SNS のこと。ちょうど中国でスマートフォン普及のタイミングと相まって、爆発的にユーザー数を伸ばし、2016 年 4 月の報道によると、アクティブユーザーだけで 7 億を超えているというデータもある。主な利用目的はチャットによる会話だが、同時に自分の状況を知らせる「朋友圏」（モーメンツ）機能もついており、「どこそこで美味しいものを食べた」、「新しい服を買った」、「どこそこへ旅行中」など、思い思いの状況を写真とともにフォロワーに向けて発信できる。また、企業やメディアは公式アカウントを取得することで情報発信ができ、フォロワーはその情報を「朋友圏」で共有することも可能だ。公開された当初はこの 2 大機能が中心だったが、現在は無料通話機能、テレビ電話機能などのより充実した通信機能に加え、オサイフ機能 (支払・決済機能 )も有し、すでに中国人にとってなくてはならない生活ツールとなっている。３．活躍の場はビジネスまで中国の消費者に関する話をしていると、日本人からよく出される質問が「We Chat の利用者は基本的には若い人だけですよね？」というものである。しかし、答えは No である。前述のように「We Chat」＝「LINE の中国版」と考えてしまえば、「チャット利用者」＝「若者」となるだろう。しかし、We Chat の場合、利用者の年齢層ははるかに広い。下は 10 代、上は 50 代から時には 60 代でもアカウントを取得し、利用している。－4－矢野経済研究所（矢野経済信息諮詢（上海）有限公司）その背景にあるのは「人脈で繋がるビジネスモデル」だ。御存じのように中国は「人脈」社会。同郷、同じ大学の卒業生、元同僚などなど、色々な人脈を使ってビジネスをしている。そんなビジネス社会において、個人同士が気軽に情報をやり取りできるチャットはきわめて有効なツールなのだ。ユーザーに話を聞くと、電話やメールに比べて堅苦しくなく、かといってラフ過ぎない使い心地がいいそうだ。特にビジネスの情報を得た時に、すぐに関連人物に連絡を取れるというのもビジネスウケしている理由。そのため、企業のスタッフから重役、個人事業者など何らかのビジネスに携わる人は必ずと言っていいほど We Chat アカウントを取得している。４．中国でのマーケティングのカギに現在は世界的に WEB や SNS を活用したマーケティングが注目を集めているが、ここまでほぼ中国全体を網羅している We Chat も、当然その機能を利用してマーケティングにも活用される。その背景にあるのは、中国のメディア規制と消費者の反感である。正規メディアの情報が政府によって厳しく管理されている中国の消費者にとっては、We Chat の機能の 1 つである「朋友圏」にアップされる転載情報や、当局の審査を経ていない SNS メディアなどの情報が、まさに「真実を伝える」メディアとして、信頼を得ている。つまり SNS 情報への依存度は日本以上なのである。こうした中国の SNS 情報への信頼・依存度。企業においてはこれを利用しない手はない。すでに数多くの企業やブランドが We Chat 公式アカウント取得、情報発信を行いながら、ブランディング、マーケティングを展開している。海外では LINE や Face Book で行われている WEB マーケティングだが、両者が規制されてしまっている中国では We Chat が代わって同様の使い方をされているのである。こうした状況にテンセントではそこに簡単な「市場調査機能」を付加し、簡易 WEB サーベイなども行えるようになっている。また中国の百貨店や娯楽施設では「シェイク」機能 ※ を使ったイベントを開催し、ユーザーの囲い込みを行っている。 ※We Chat 機能の入った携帯電話を振る（シェイクする）と、同時にシェイクしている世界中のユーザーが表示され、チャット等でコミュニケーションが取れる機能５．そして強化される「金融事業」中国の決済システムといえば「銀聯（Union Pay）」を思い浮かべるが、こちらは中国ではすでに成熟した機能。現在はモバイルを利用した第三者決済システムが急成長をしている。その代表がアリババによる「アリペイ」。もともとはプラットホームサイト「アリババ」、「タオバオ」で利用されていた決済システムだったが、今や中国全土で利用されるまでになった。それに対抗する形で We Chat が開発したのが「We Chat Payment」。We Chat を利用した決済方法である。－5－矢野経済研究所（矢野経済信息諮詢（上海）有限公司） We Chat Payment では、ウォレット機能を利用することで、銀行口座ではなく直接買い物をすることが可能（登録している銀行カードを利用しての買い物も可能）。その範囲は、普段の買い物から映画館、コンビニ、さらにはタクシーまで、スマホと We Chat アカウントがあればすぐに利用することができる。それだけではなく、銀行の振り替え送金などにも手数料なしで行うことができるため、「銀聯」に良いイメージを持たない消費者からは、こうした銀行業務などにも活用されている。 ※We Chat での買い物イメージさらにそこから、中国の一部の消費者は「微店」と言われる、We Chat 上に店舗を開設し、前述のチャット機能、マーケティング機能、金融機能をフル活用し、個人で事業を行っているケースも現れており、まさに中国での新たなビジネスモデルを作り上げている。この We Chat の決済機能、現在日本では 500 件ほどの商業施設が利用を開始しているというが、現時点ではまだまだといったところ。またマーケティングにおいても、日本での活用は決して進んでいるとは言い難い。中国のインバウンド獲得を希望しながら、We Chat を活用していないというケースも数多く存在している。（注１）中国ネットサービス大手の騰訊控股（テンセント）が 2016 年 8 月 17 日発表した 4～ 6 月期決算は純利益が前年同期比 46.8%増の 107 億 3700 万元（約 1,630 億円）と大幅に伸び、四半期ベースで過去最高となった。ウェイシン中国で人気のスマートフォン（スマホ）向けの対話アプリで、中国版 LINE といわれる「 We Chat（微信）」の利用者数が初めて 8 億人を突破、ゲームなど関連事業が同社の収益を押し上げた。売上高は 52.3%増の 356 億 9,100 万元で、四半期ベースで過去最高となった。 We Chat の利用者数は、前年同期の 6 億人から一気に約 2 億人増え、 6 月末時点で 8 億 570 万人となった。 We Chat を通じて提供される有料ゲームをスマホにダウンロードして遊ぶ人が増え、ゲームを主体とする事業の売上高は 39%増の 256 億 8000 万元となった。広告主体の事業は 60%増の 65 億 3200 万元。米プロバスケットボール協会（ NBA）と、自社の動画サイトを通じて全試合を中継する独占契約をしており、関連の広告収入が増えた。－6－