水素貯蔵材料 - 物性・分子工学専攻

*材料物性工学概論でも少しお話しましたが・・・ 今回は水素貯蔵材料です。
資源エネルギー庁の「水素の製造、輸送・貯蔵について」という資料も使います
エネルギー・環境材料
鈴木義和 (suzuki@ims.tsukuba.ac.jp)
エネルギー・環境材料 (01BG325、水曜日1限) 場所:3B402
エネルギー・環境材料
2016
第4回 水素貯蔵材料
数理物質科学研究科
物性・分子工学専攻
准教授 鈴木 義和
suzuki@ims.tsukuba.ac.jp
日程
授業内容 (エネルギー材料)
日程
授業内容 (環境材料)
1
10/5
太陽電池材料
9
12/14 排ガス浄化フィルター
2
10/12
光触媒材料(水素生成)
10
12/21 RoHS指令
3
10/19
リチウム電池材料 (WEB講義)
11
12/28 希少資源回収・有害物質固定
4
10/26
水素貯蔵材料
12
1/18
光触媒材料(有害物分解)
5
11/9
燃料電池材料
13
1/25
抗菌・防カビ(研究課題企画)
6
11/16
熱電変換材料
14
2/1
3RとLCA
7
11/28(月)
電気二重層キャパシタ (曜日注意)
15
2/8
総合ディスカッション:今後の環境材料
8
12/7
総合ディスカッション:
今後のエネルギー材料
レポート
評価割合は出席60%、レポート40%です
すみれさん(2016年度イメージキャラ)
エネルギー・環境材料
目
次
Yoshikazu SUZUKI
1
Yoshikazu SUZUKI
2
Hydrogen Storage Materials Research
(4) 水素貯蔵材料
1.水素エネルギーとは ?
水素とは
2次エネルギーとしての水素
水素をつくる
水素を貯める・水素を運ぶ
水素をつかう
2.水素エネルギー関連の研究開発
ちょっと休憩: 1次エネルギーの水素ってあるの?
3.ナノテクノロジー・材料技術がつくる
水素エネルギー・燃料電池の未来
4.燃料電池自動車と水素ステーション (燃料電池の詳細は次回)
5.水素クイズ
Yoshikazu SUZUKI
3
英・University of Bath
Q1. 水素を貯蔵するための2つの主な方法とは?
Q2. 水素貯蔵材料の例として挙げられてた4種の物質とは?
Q3. 水素の状態を調べるために用いられている解析手法とは?
Yoshikazu SUZUKI
4
水素(Hydrogen)とは
水素(Hydrogen)とは
水素の特徴
・同位体と存在比(原子数比、%)
1H 99.985%
2H 0.015%、
3H 半減期12.4年
・原子量 1.00794
・融点 14.01K、沸点 20.28K
・密度 0.08988 kg/m3 (気体、273K)
・クラーク数 0.87 (第9位)
順位
元素
クラーク数
分子量
2.016
1
酸素
49.5
密度(15℃)
0.08376 kg/m3 (空気の約14分の1)
2
ケイ素
25.8
3
アルミニウム
7.56
引火点
858 K (585℃)
4
鉄
4.70
空気中の爆発限界
4 - 75 体積%
5
カルシウム
3.39
6
ナトリウム
2.63
エネルギー含有量
(単位質量当たり)
141.9 MJ/kg (単位質量あたりでは燃料中もっとも高い。ガソリ
ンのほぼ3倍)
7
カリウム
2.40
8
マグネシウム
1.93
11.89 MJ/m3 (液体水素:体積当たりにするとエネルギー含有
量は小さい。ガソリンのほぼ1/3)
9
水素
0.83
エネルギー含有量
(単位体積当たり)
10
チタン
0.46
空気中の炎の温度
2318 K (2045℃)
・英国の物理学者 キャベンディッシュ(Henry Cavendish)が
1766年に初めて水素ガスを単離
・1781年 ラボアジエがhydrogen (水をつくるもの)と命名
・重さは空気の約14分の1
→ 分子運動の速度が最も大きい
→ 熱伝導率が空気の約7倍と大きく、冷却剤などにも使用
・宇宙でもっとも豊富にある元素
液体水素
沸点
20.3 K (-252.8℃)
液体の密度
70.8 kg/m3 (0.0708g/cm3) (-253℃)
→ 標準状態の水素ガスの約1/800に圧縮可能
現状では、ロケット燃料などの特殊用途
出典:「水素エネルギー入門」、「水素エネルギー最前線」ほか
キャベンディッシュ
参考:「元素111の新知識」、桜井 弘 ほか 5
Yoshikazu SUZUKI
6
Yoshikazu SUZUKI
2次エネルギーとしての水素
水素ガス利用の歴史
1766年
1781年
キャベンディッシュが初めて水素ガスを単離
ラボアジエがhydrogen (水をつくるもの)と命名
・原料が豊富な水であり、種々の一次エネルギー(化石燃料・原子力
等)を有効に使って造り出せるため、資源的な制約がない。
1783年
水素ガスによる初めての気球
・燃焼生成物が水だけであるため、環境破壊の心配がなくクリーン
ジャック・シャルル: 水素を使った無人のガス気球
・水→水素→水のサイクルが化石燃料に比べてはやいため、地球上
の物質循環システムを乱さない
「シャルルの法則 V/T = const.」のあのシャルルさん
くず鉄+硫酸で水素を大量製造。
ここがポイント
・水素エネルギーは電力に比べて貯蔵が(比較的)容易
1790年頃
乾留による石炭ガス化による (イギリス)
1912年
ハーバー・ボッシュ法*によるアンモニア大量合成実用化
1937年
ヒンデンブルグ号の爆発事故
・水素エネルギーは燃料電池により直接発電にも利用可能
・水素と金属、合金との可逆反応はエネルギー変換機能を有しており、
広範な用途あり(水素吸蔵合金)
原因は水素ガスではなく、外皮での放電の影響とされているが、
水素の安全利用技術の必要性が再認識される結果となった。
*酸化鉄系触媒、約500℃、1000気圧での超臨界条件中の直接反応
Yoshikazu SUZUKI
図の出典: Premier voyage aérien Pilâtre de Rozier et d'Arlandes (1783)
Paris : Romanet & cie., imp. edit., [between 1890 and 1900]
・石油代替の流体エネルギーとして、自動車・航空機燃料として使用
可能 (同一重量で、ガソリンの3倍の高出力)
7
Yoshikazu SUZUKI
8
出典:大角泰章、「クリーンエネルギー・水素」、アグネ技術センター
化学産業・半導体産業における水素
水素経済・水素社会とは?
水素経済・水素社会: 化石燃料の代りに、水素をエネルギー源として用いる経済・社会。
1970年代のオイルショックにより注目を集める。
・化学工業用などの原料としての高い利用性
3H2
+
N2
不飽和液状油脂
→
+
2NH3
H2
→
(アンモニア合成)
ただし、水素エネルギーは、「2次エネルギー」であるため、
再生可能エネルギー、次世代核エネルギーから製造することが
期待されている。(水素は電気や都市ガスと同じく、エネルギーの
媒体あるいは伝達物質ととらえる)
飽和固形状油脂
・シリコン半導体の水素パッシベーション
・燃料電池による発電と、水素燃焼による家庭用燃料など
半導体中の欠陥密度の減少による高性能化
・燃料電池による副生水 (飲料水にも利用可?)
平均的な家庭にて… 5 kW/日 → 6Lの蒸留水に相当
Yoshikazu SUZUKI
9
出典:大角泰章、「クリーンエネルギー・水素」、アグネ技術センター
神秘の島 L'Île mystérieuse
将来の水素エネルギーシステムの系統図
一次エネルギー
フランスの作家ジュール・ヴェルヌが1874年
に発表した冒険小説
化学工業用
化石燃料
電気エネルギー
「… 水は分解されて元素になり… さらに、
おそらく電気によって分解されて… いつか
燃料に使われる日が来る… 水を構成して
いる水素と酸素は、それぞれ単独で使われ
ても、両方合わせて使われても、石炭で出
すことのできない強い熱と光を出す無尽蔵
の資源を供給してくれるようになる…
余剰電力
気体水素
水力発電
太陽エネルギー
地熱エネルギー
風力エネルギー
ジュール・ヴェルヌ
H.G. ウェルズと並ぶ
SFの父。十五少年漂流記など。
海洋エネルギー
11
光エネルギー
水素
ヒートポンプ
蓄熱装置
液体水素
一般燃料用
熱・冷房用
厨房用燃料
発電用
現在はナフサ、
メタンなどの
水蒸気改質
熱エネルギー
エネルギー変換用
還元雰囲気ガス用
水の電解
原子力
水は未来の石炭になるのです。」
Yoshikazu SUZUKI
10
Yoshikazu SUZUKI
燃料電池
タービン
金属水素化物
水の熱化学
分解
動力用
自動車動力
航空機動力
ロケット用
12
出典:大角泰章、「クリーンエネルギー・水素」、アグネ技術センター
Yoshikazu SUZUKI
水素の製造法
水素製造のポイント
何から作るか
水蒸気改質法など
化石資源、水、液体燃料、バイオマス、
廃棄物など
どのように作るか ガス化、熱分解、電気分解、光分解、
生物学的分解
どこで作るか
オフサイト(水素製造プラント、副生水
素プラントなど)、オンサイト(車上改
質、改質器つき定置式燃料電池など)
世界の水素生産量:
年間、約5000億Nm3
(と言われている)
(このうち、約97%が天然ガスやナフサなどの化石資源からの生産)
ナフサ(原油の30-230℃留分、もっとも軽量な液
体留分)、メタン(天然ガス主成分)等を原料とし、
水蒸気を使用して合成ガス(一酸化炭素+水素)を
得る方法
注: Nm3 ノルマル立法メートル。0℃、1気圧としたときのガスの体積(工学的な記述法)
Yoshikazu SUZUKI
出典:「水素エネルギー最前線」 13
参考:http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/dic_1878_01.html
Yoshikazu SUZUKI
水蒸気改質法
部分的酸化法
水蒸気改質法が適用できないナフサよりも重い炭化水素を改質するの
に用いられる。最近では天然ガス、エタノールからガソリンまでを車
上で精製改質するために部分的酸化改質装置も開発されている。
炭化水素から水素を製造する方法
改質装置で起こる反応
(1) CH4 + H2O → CO + 3H2 (合成ガス生成)
(2) CO+H2O → CO2 + H2 (水性ガス変換)
(3) CO + 3H2 → CH4 + H2O (1の逆反応)
CO
硫黄回収
CO
空気
2
脱硫装置
硫黄
水蒸気
天然ガス
CH4
再加熱装置
改質装置
シフト転換
不純気体 ・水洗浄化法
除去装置 ・遠心圧力吸着法
・水素分離膜
など
COをCO2に転換し
さらに多くのH2を生成
空気成分
分離装置
H2S/COS
除去
ガス化反応
装置
H
吸熱反応のため、熱の供給が必要
(700~925℃)
2
窒素
燃料
改質系触媒にはNi系触媒が広く用いられる。
Yoshikazu SUZUKI
14
参考:「水素エネルギー入門」、西田書店
15
燃料油
窒素を分離して純粋な水素を生産することは
難しいため、あらかじめ窒素を分離した純粋な
酸素を用いる。燃料電池目的なら、窒素含有量が
多くても良いため、空気酸化も可能。
2
シフト転換
不純気体 ・水洗浄化法
除去装置 ・遠心圧力吸着法
・水素分離膜
など
COをCO2に転換し
さらに多くのH2を生成
H
2
メリット:触媒を必要としないため、原料中の
不純物による制約がほとんどない。
デメリット:反応温度が高く、反応炉材が高価
(1100~1500℃)
参考:「水素エネルギー入門」、「水素エネルギー最前線」等
Yoshikazu SUZUKI
16
Solid Oxide Fuel Cell and Hydrogen Storage Material
さまざまな水素貯蔵法と水素ガスの輸送
1.
圧縮ガス (軟鋼製の円筒状容器) 150~200気圧
2.
圧縮ガス (CFRP) 350~700気圧 ← 燃料電池自動車 車載用
3.
水素吸蔵合金、水素貯蔵材料
4.
液化による貯蔵
AIST Japan
世界的には、水素、または水素と天然ガスの混合ガスをパイプラインで輸送する
設備が30ヶ所以上存在する。特にドイツのルール地方では、1938年より、軟鋼製の
パイプラインで輸送しており、今のところ安全上の問題点は生じていない。
17
Yoshikazu SUZUKI
水素エネルギー関係の研究開発
水素の貯蔵・運搬
kg H2/kg (重量濃度)
貯蔵タイプ
18
Yoshikazu SUZUKI
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
kg H2/m3 (体積濃度)
大規模貯蔵
5-10
地下貯蔵
圧縮気体として貯蔵(地上)
0.01-0.014
2-16
金属水素化物として貯蔵
0.013-0.015
50-55
~1
65-69
液体水素として貯蔵
据え置き型小規模貯蔵(1-100
燃料電池・水素技術開発部
(旧・水素エネルギー技術開発室 )
○固体高分子形燃料電池システム技術開発事業
固体高分子形燃料電池要素技術開発等事業(H12-H16)
固体高分子形燃料電池システム化技術開発事業(H13-H16)
m3)
0.012
~15
○水素安全利用等基盤技術開発事業(H15-H19)
0.012-0.014
50-53
○固体高分子形燃料電池システム普及基盤整備事業(H12-H16)
0.15-0.50
~65
圧縮ガスを円筒容器に貯蔵
0.05
15
金属水素化物として貯蔵
0.02
55
0.09-0.13
50-60
圧縮ガスを円筒容器に貯蔵
金属水素化物として貯蔵
液体水素タンクに貯蔵
○LPガス固体高分子形燃料電池システム開発事業(H13-H17)
車載用タンク貯蔵(0.1-0.5 m3)
液体水素タンクに貯蔵
参考:「水素エネルギー入門」、西田書店
Yoshikazu SUZUKI
○携帯用燃料電池技術開発事業(H15-H17)
○水素エネルギー利用技術(WE-NET)第II期研究開発事業(H11-H14)
http://www.nedo.go.jp/hab/project.html
19
Yoshikazu SUZUKI
20
水素エネルギー利用技術(WE-NET)第II期研究開発事業
WE-NET第II期の主な研究テーマ
食塩電解副生水素利用
天然ガス改質
水電解のエネルギー
効率90%
Yoshikazu SUZUKI
21
22
Yoshikazu SUZUKI
「水素安全利用等基盤技術開発」
WE-NET第II期の主な研究テーマ
(FY H15~H19)
水素関係の研究開発プロジェクト
【概要】
燃料電池の導入・普及が円滑に進むよう、その燃料である水素の
「安全技術」と「実用化技術」の2分野で研究開発を行う。
「安全技術」の分野では、水素を安全に利用するための研究開発を行
うと共に、安全性の確保を前提とした燃料電池に係わる包括的な規制
の再点検に資する各種の研究開発やデータ取得を行い、民間事業者等
が主体となって行う技術基準案や例示基準案の作成等に確実につなげ
る。
また、「実用化技術」の分野では、水素の製造・輸送・貯蔵・充填等
に係わる技術に関して、性能、経済性、信頼性・耐久性向上、小型化
などを目指した研究開発を行う。
これによって、水素に係わる機器の低コスト化と性能の向上を実現し、
燃料電池/水素エネルギーの実用化による新しいエネルギーシステム
の構築に資する事を目標とする。
Yoshikazu SUZUKI
23
Yoshikazu SUZUKI
24
公益財団法人水素エネルギー製品研究試験センター 新試験棟竣工
ちょっと休憩
1次エネルギーの水素ってあるの?
Yoshikazu SUZUKI
25
参考資料一覧 (もっと勉強するために)
⽔素エネルギー⼊⾨―⽔素エネルギーの経済と技術がわかる
ジョン・O’M. ボックリスら、1680円
図解・⽔素エネルギー最前線
文部科学省科学技術政策研究所科学技術動向研究センター
2520円
Yoshikazu SUZUKI
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Yoshikazu SUZUKI
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