No. 62 高 度 好 熱 菌 Thermus thermophilus HB27 株 の 機 能 未 知 プ ロ テ ア ー ゼ Gcp の 機 能 解 析 Functional analysis of TTC0888 of Thermus thermophilus HB27, a putative O-sialoglycoprotease 小野瀬晃由、星野貴行、中村顕 Akiyoshi Onose, Takayuki Hoshino, Akira Nakamura (筑波大学大学院生命環境科学研究科) (Grad. School of Life Environ. Sci, Univ. Tsukuba) e-mail:a-nak@agbi.tsukuba.ac.jp 高 度 好 熱 菌 T. thermophilus HB27 株 が 有 す る 特 徴 の 一 つ に 、高 い 自 然 形 質 転 換 能 が 挙 げ ら れ る 。 本 菌 株 の 遺 伝 子 操 作 系 は 、最 も 高 温 で 利 用 可 能 な 遺 伝 子 操 作 系 と し て 捉 え ら れ 、ゲ ノ ム 情 報 に 基 づ い た 逆 遺 伝 学 的 手 法 に よ る 本 菌 株 の 遺 伝 子 機 能 の 解 析 や 、他 の 好 熱 菌・超 好 熱 菌 由 来 遺 伝 子 の 発 現 、 そ し て directed evolution に よ る 常 温 生 物 由 来 蛋 白 質 の 耐 熱 化 に 利 用 さ れ て き て い る 。 我 々 は 本 菌 株 の こ の よ う な 特 徴 に 着 目 し 、特 に 外 来 遺 伝 子 産 物 の 高 効 率 発 現 系 の 構 築 を 目 指 し て 、 HB27 株 の 各 種 プ ロ テ ア ー ゼ 欠 損 株 を 作 製 し 外 来 遺 伝 子 産 物 の 生 産 に 与 え る 影 響 を 検 討 し て き た 。こ の 過 程 で 、O-sialoglycoprotease (gcp)と ア ノ テ ー ト さ れ る TTC0888 の 欠 損 株 を 取 得 し た 。 こ の プ ロ テ ア ー ゼ は 、動 物 に 感 染 し て 肺 炎 等 を 引 き 起 こ す 病 原 菌 Pasteurela haemolytica で 最 初 に 発 見 さ れ た が 、 同 株 の Gcp は glycophorin-A な ど の シ ア ル 酸 を 含 む 糖 蛋 白 質 を 分 解 す る 分 泌 型 プ ロ テ ア ー ゼ で あ る こ と が 明 ら か に な り 、感 染 因 子 と し て 機 能 す る と 考 え ら れ て い る 。同 遺 伝 子 は ゲ ノ ム が 明 ら か に さ れ て い る 全 て の バ ク テ リ ア 、古 細 菌 、真 核 生 物 に 広 く 保 存 さ れ て い る が 、そ の 機 能 に つ い て は ほ と ん ど の 生 物 種 で 明 ら か に さ れ て い な い 。 ま た こ の 遺 伝 子 は T. thermophilus で は 生 育 に 必 須 で は な い と 判 断 さ れ る が 、枯 草 菌・大 腸 菌 及 び 酵 母 に お け る オ ル ソ ロ グ は 、ど の 生 物 で も 必 須 遺 伝 子 に 分 類 さ れ て い る 。Gcp の 広 範 な 生 物 に お け る 保 存 性 及 び モ デ ル 微 生 物 で の 必 須 性 か ら 、Gcp は 単 な る プ ロ テ ア ー ゼ と し て 機 能 す る の で は な く 、む し ろ 何 ら か の 生 命 の 基 本 機 能 と 関 連 し て い る こ と が 考 え ら れ る 。 ま た 、 T. thermoohilus で は 同 遺 伝 子 破 壊 株 が 取 得 で き た こ と か ら 、モ デ ル 微 生 物 で 共 通 す る 機 能 未 知 必 須 遺 伝 子 で あ っ て も 、他 の 微 生 物 で は 必 ず し も 必 須 で あ る と は 限 ら な い こ と 、そ の た め モ デ ル 微 生 物 以 外 の 微 生 物 で 該 当 す る オ ル ソ ロ グ 遺 伝 子 が 必須であるかどうかを検討し、同遺伝子の必須性を明らかにする必要があると考えられる。 本 研 究 で は 、 T. thermophilus を 宿 主 と し て gcp 遺 伝 子 の 機 能 解 析 を 行 う と 共 に 、 モ デ ル 微 生 物 と本菌との間の機能未知必須遺伝子の共通性について検討することとした。 gcp の 系 統 解 析 KEGG ゲ ノ ム デ ー タ ベ ー ス 上 で Gcp と 相 同 性 を 示 す 遺 伝 子 を 検 索 し 、 系 統 樹 を 作 製 し た (Fig. 1)。 そ の 結 果 、 Gcp は ゲ ノ ム が 公 開 さ れ た 全 て の バ ク テ リ ア ・ 古 細 菌 ・ 真 核 生 物 で 高 度 に 保 存 さ れ て お り 、 進 化 系 統 と も よ い 一 致 を 示 し て い た 。 そ の た め gcp は 祖 先 生 物 commonote が も つ 遺 伝子であり、進化の過程で多様な生物に保存されてきたことが示唆された。 sth2 hma tac neq mth Archaea mja mma afu mtp pai hpa sso pho tko cje ath1 ape smr pfa sai cme2 ddi2 dme2 spu2 mmu3 mmu2 hsa2xla bta2 dre2 ath2 osa tdn wsu nse rde zmo mmr eli rsppde ccr nar rpa nwi rru sal mag bja Bacteria rty sce2 cal1 cal2 spo2 aturle sme gox mlo bms ama1 bhe eru ama2 wol pub ani1 cel2 cne ehi tbr lma cme1 lil ddi1 Eukarya spo1 ani2 tpa bbu sce1 cal3 cpn ctr cal4 cel1 pcu mfl mmy dme1 uur gga1 mge efa lca ppe lme dre1 mmu1 spn lla hsa1 bha gka bta1 oih B. subtilis lmobsu spu1 sau poy rba dvu aae tth T. thermophilus dra pma par lpp syd plu ype eco eca stm sgl hin msu bci phae ava syn cya blo fal nfamtu cgl sco aau plt cte ahacpsapl ppr pin saz vch pat vpa sru chu bfr tma tte 0.1 cth detsth1 fnu dps sus aba ade mxa ppd gsusat ftn spu3 rma tcx bpn E. coli P. haemolytica abo paemaq sdepst noc csa mca hha aeh xft cvi eba xom mfa aavrfr bpe reh vei pna nmu tbddar bam mpt net ngo rme wbr buc Fig. 1. Gcp の ア ミ ノ 酸 配 列 に 基 づ く 系 統 樹 。生 物 名 は KEGG organism の 略 称 で 表 し 、同 一 の 生 物 が 複 数 の Gcp を 有 し て い る 場 合 に は 数 字 を つ け て 区 別 し た 。 線 の 色 は 系 統 分 類 上 の 分 類 群 と 一 致 し て い る 。 TTC0888 遺 伝 子 の 機 能 解 析 次 に 、 TTC0888 を 耐 熱 性 ハ イ グ ロ マ イ シ ン 耐 性 遺 伝 子 hph5 を 遺 伝 子 内 部 に 挿 入 す る 事 で 破 壊 し た 。 こ の 破 壊 株 の 表 現 型 を 検 討 し た と こ ろ 、 完 全 培 地 (TM)で は 70℃ で 野 生 株 よ り 若 干 の 生 育 の 遅 れ が 観 察 さ れ 、 最 少 培 地 上 で は ほ と ん ど 生 育 し な か っ た 。 ま た 、 通 常 TM 培 地 に 0.1% 含 ま れ る NaCl を 2% に す る と 、野 生 株 で は ほ ぼ 変 わ ら な い 生 育 を 示 す の に 対 し て gcp 欠 損 株 は ほ と ん ど 生 育 が 見 ら れ ず 、 塩 感 受 性 を 示 す こ と が 明 ら か に な っ た 。 同 様 の 表 現 型 は Synechocystis sp. PCC6803 株 の gcp 変 異 株 で も 報 告 さ れ て お り 、 Gcp が 浸 透 圧 調 節 に 関 わ っ て い る 可 能 性 が 考 え ら れ た 。更 に 最 少 培 地 で 生 育 で き な い こ と か ら 、破 壊 株 が 何 ら か の 栄 養 要 求 性 を 示 す こ と も 考 え られる。 モデル微生物との機能未知必須遺伝子の共通性 枯 草 菌 ・ 大 腸 菌 で は gcp が 必 須 で あ る に も か か わ ら ず 、 T. thermophilus で は 必 須 で は な か っ た こ と か ら 、モ デ ル 微 生 物 と 本 菌 で 必 須 遺 伝 子 が ど の 程 度 共 通 し て い る の か と い う こ と に 興 味 が 持 た れ た 。そ こ で 、特 に 機 能 未 知 必 須 遺 伝 子 に 焦 点 を 絞 り 、共 通 性 が あ る の か を 検 討 し た 。枯 草 菌 に つ い て は 既 に 機 能 ご と に 必 須 遺 伝 子 が 分 類 さ れ 公 開 さ れ て い た の で 、そ の 中 か ら 機 能 が 確 定 し て い な い 遺 伝 子 を 選 択 し 、そ れ ら の T. thermophilus 及 び 大 腸 菌 に お け る オ ル ソ ロ グ 遺 伝 子 を リ ス ト ア ッ プ し た 。そ し て T. thermophlus の オ ル ソ ロ グ 遺 伝 子 の 破 壊 株 を hph5 の 挿 入 に よ り 作 製 し た (Table 1)。こ れ ら の 中 で 破 壊 株 が 取 得 で き な か っ た の は 、TTC0096 (similar to thioredoxin reductase)、 TTC1422 (Obg)、 TTC1699 (similar to 2-oxoglutarate dehydrogenase)の 3 つ で あ っ た 。 そ の た め こ れ ら 3 遺 伝 子 は T. thermophilus で も 必 須 で あ る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 特 に TTC1422 (Obg)は 、 そ の オ ル ソ ロ グ が 大 腸 菌 で も 必 須 で あ り 、興 味 深 い 。ま た 、モ デ ル 微 生 物 と 本 菌 と の 間 で 、機 能 未 知 必須遺伝子の共通性は低いと考えられる。 今 後 は Gcp の 機 能 に つ い て 、 枯 草 菌 や 大 腸 菌 も 用 い て 解 析 を 行 っ て い く 予 定 で あ る 。 Table 1 枯 草 菌 の 機 能 が 確 定 し て い な い 必 須 遺 伝 子 と 対 応 す る T. thermophilus 及 び 大 腸 菌 遺 伝 子 の 必 須 性 枯 草 菌 遺 伝 子 と の ア ミ ノ 酸 レ ベ ル で の 相 同 性 (%)を カ ッ コ 内 に 示 し た 。annotation は 、枯 草 菌 に 関 す る 情 報 を BSORF home page よ り 取 得 し た 。赤 字 は 必 須 遺 伝 子 あ る い は 破 壊 で き な か っ た 遺 伝 子 を 、青 字 は 未 破 壊の遺伝子を表す。 B. subtilis gene T. thermophilus gene E. coli gene annotation mrpA mrpB mrpC mrpD mrpF TTC1909 (22) nuoL (21) ― ― ― ― ― ― ― putative NADH dehydrogenase I chain L Na+/H+ antiporter Na+/H+ antiporter electron transfer efflux system protein era TTC1874 (35) era (36) GTP-binding protein essential for cell growth obg TTC1422 (37) obgE (42) GTP binding protein essential for cell growth yphC TTC1025 (37) era (38) GTP-binding protein essential for cell growth gcp TTC0888 (40) gcp (39) O-sialoglycoprotein endopeptidase odhB TTC1699 (46) TTC1754 (37) TTC1802 (30) sucB (43) similar to 2-oxoglutarate dehydrogenase pdhA TTC0569 (39) TTC1757 (33) - pyruvate dehydrogenase E1 component, alpha subunit ydiC TTC0008 (20) yeaZ (22) similar to glycoprotein endopeptidase yneS TTC0187 (21) TTC0456 (21) - conserved membrane protein ymdA TTC1456 (49) - membrane protein with HD domain of metal-dependent phosphohydrolase ywlC TTC0439 (31) yrdC (25) conserved protein nuoM (20) ydiB TTC1823 (25) yjeE (30) conserved protein yqeI TTC1418 (26) ybeB (38) conserved protein yycG TTC1360 (41) TTC1361 (25) - two-component sensor histidine kinase yumC TTC0096 (42) ahpF (18) similar to thioredoxin reductase yrvO TTC0087 (40) iscS (40) iron-sulfur cofactor synthesis protein homolog yqeH TTC1025 (11) yfgK (14) GTP binding protein essential for cell growth ysxC TTC1025 (17) TTC1874 (16) yihA (34) GTP binding protein eesential for cell growth ykqC TTC0775 (40) TTC1733 (11) ― putative hydrolase of the metallo-beta-lactamase superfamily yqjK TTC1733 (14) elaC (47) RNase Z responsible for the maturation of the 3' end of tRNA yacA TTC1176 (18) TTC0106 (11) tilS (21) tRNA(Ile)-lysidine synthetase ppaC ― ― inorganic pyrophosphatase ylqF ― ― GTP-binding protein essential for cell growth yloQ ― yjeE (28) GTP-binding protein with eesential function ylaN ― ― conserved protein yhdL ― ― anti-sigM protein ykuR ― ― similar to hippurate hydrolase
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