ANSYS社製CHEMKIN

新製品情報
詳細化学反応解析支援ソフトウェア
ANSYS社製CHEMKIN-PRO販売開始
CHEMKIN-PROは化学反応の解析を支援するために開発されたソフトウェアです。燃焼反応をはじめとして、
触媒表面上の反応や半導体基板上の薄膜成長反応などの幅広い分野の研究開発に活用されています。現在、
ANSYS社から販売されているCHEMKIN-PROに関し、改めてソフトウェアの全体像について紹介します。
■ ANSYS, Inc
■Reactor Network Model
ANSYS, Inc.
(ANSYS 社)
は、
1970 年にDr. John A. Swanson
複数の反応器モデルを接続したネットワークフローを構
によりSwanson Analysis Systems, Inc.として設立され、さ
築することができます。前段にある反応器からの出力を、後
まざまな産業分野の製品開発に携わる技術者を支援するた
段の反応器への入力として自動的に値を引き渡すため、煩
めのシミュレーションソフトウェアを提供している会社です。
雑な入出力設定の手間が削減されます。
また、複数の反応器
2016 年1月より、CHEMKIN-PRO は ANSYS 社製品として販売
が連続するようなプロセスフローを表現したり、CFD による
しております。改めて本稿でソフトウェアの機能ならびに全
解析結果や実験結果を元にした流れのプロファイルを模式
体像について紹介します。
的に表したりすることが可能です。
■ 特長
■ 反応解析を支援する機能
CHEMKIN-PRO は化学反応速度論に基づくシミュレーショ
■ Parameter Study
ンソフトウェアです。気相および固体表面上の化学反応を扱
パラメーターの入力に対して、あらかじめ複数の入力値を
うことができます。
物質を構成する原子・分子間の結合や組
与えておき、これらの条件下で計算を一度に実行する機能
み換えの際に生ずる化学変化の過程を、素反応の集合とし
です。最適な操作条件を探索する場合や、計算結果と実験
て表現した
「詳細化学反応機構」
を用いることで、反応物、生
値を比較して未知の反応速度パラメーターを検討する際に
成物のみならず、中間生成物も含んだ多数の化学種の組成
も効果的な機能です。
変化や、温度・圧力変化などをシミュレーションすることが
■ Sensitivity Analysis
できます。
各素反応の感度係数を算出します。感度係数は、各素反
CHEMKIN-PRO には、解析対象とする反応系の特色に応
応の速度定数の微小変化に対して温度や化学種の生成量
じた、さまざまな反応器モデルが取り揃えられており、単純
が変化する度合いを示す指標です。特定の化学種の生成や
な流れを伴う化学反応も扱うことが可能です。また詳細化
系の温度変化に対して支配的な影響をもつ素反応を見極
学反応機構の構築をサポートする機能も含まれます。
める際に用いられる機能です。
使いやすさ、精度の良さ、計算の速さを兼ね備えており、
全世界で化学反応解析のデファクトスタンダードとして使用
されているソフトウェアです( 図1)。
■ Uncertainty Analysis1)
パラメーターの値が不確実な場合や、反応条件に変動が
生じやすい場合に、それら入力データの不確実性を定義して
出力データの変動に対する影響を予測することができます。
入力データの不確実性を確率密度関数(Probability Density
Function)として定義し出力結果を得ることが可能です。
■ Reaction Path Analyzer 2)
反応過程中の化学組成と化学種の生成速度の計算結果
をもとに、反応経路図を作成する機能です。生成速度の相
対的な大きさを矢印の太さで表現して、主要な反応経路の
図 1 グラフィカルユーザーインターフェース
判別や化学反応機構の理解をサポートします( 図 2)。
■ 基本機能
■ 反応器モデル
火炎・エンジン・プラズマなど、さまざまな対象に応じた
反応器モデルが実装されており、簡単に温度や圧力などの
設定条件を指定することができます。
■ CHEMKIN Visualizer(ポストプロセッサ)
ソルバーによって算出された解はCHEMKIN Visualizerを
通じてグラフ化することが可能です。
また、表計算用のソフト
ウェアでも処理可能なcsv(カンマ区切り形式 )ファイルとし
て解を出力することもできます。
2
図 2 Reaction Path Analyzer
■ FITDAT Utility3)
熱力学量のデータフィッティングツールです。反応速度
計算で用いられる熱力学量の実験データからフィッティ
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ングを掛け、CHEMKIN 形式の入力フォーマットへ変換す
■ 主な適用例
ることができます。
■火炎・燃焼特性
■Particle Tracking Module
4)
前駆体物質からの粒子の核生成および、粒子同士の凝
集や合体、融合などの過程を考慮することで、微粒子生
成を伴う反応も計算が可能です。ススやナノクラスターに
対する微粒子の生成過程を追跡することができます。
■ 反応解析の流れ
1. 反応器モデルの選択
グラフィカルユーザーインターフェース上の専用アイコンを
予混合層流火炎の伝搬速度推算、対向流拡散火炎の解析
■エンジンシリンダー内燃焼
圧縮自着火過程の解析、ノッキング特性の解析
■ガスタービン燃焼
排ガス組成の解析、リーンバーン特性の解析
■触媒表面上の反応解析
触媒反応メカニズムの解析、ライトオフ特性の解析、
三元触媒反応モデルによる排ガス浄化の解析
■材料プロセッシング
クリックして反応器モデルを呼び出し、利用することができ
CVD/ALDによる薄膜成長の反応シミュレーション、
ます
(図 3)
。ひとつの反応器モデルでは表せない複雑な流
弱電離プラズマ中の反応シミュレーション、
れを伴う反応に対しては、複数の反応器モデルを接続して
微粒子生成による粒径分布の経時変化5)(図4)
Reactor Network Modelを構築することも可能です。
2. 化学反応データの入力
着目する化学反 応を定義するために各種データファ
イルを使 用します。これらデータファイル特有の書式は、
CHEMKINフォーマットと呼ばれ、世界中で公開されている
さまざまな化学反応機構データベースに採用されています。
・気相反応機構ファイル(Gas-Phase Kinetics File)
・表面反応機構ファイル(Surface Kinetics File)
・熱力学データファイル(Thermodynamics File)
・気体輸送データファイル(Transport Data File)
3. 計算条件の設定
図 4 微粒子生成による粒径分布の経時変化
■ まとめ
温度・圧力・初期組成など、装置条件や操作条件のパラ
このようにCHEMKIN-PRO には、化学反応の解析を支援
メーター入力画面が用意されており、簡単に設定することが
するためのさまざまな機能が実装されています。気相中の
できます。また、Parameter Study 機能を用いて複数の条件
化学反応だけに留まらず、表面反応や、核生成・成長による
を与えておき、各条件下での計算をまとめて一度に処理する
粒子同士の凝集・融合過程を伴った複雑な現象も考慮する
ことも可能です。
ことが可能です。
それゆえ適用分野は多岐にわたり、自動車エンジンやガ
4. 計算
化学反応解析のために設計されたソルバーを用いて、入
スタービンなどの燃焼反応をはじめとして、触媒表面反応に
力されたデータファイルと計算条件をもとに精度のよい計
よる排ガス浄化の解析や半導体基板上の薄膜成長反応、プ
算を高速に実行します。
ラズマ中の化学反応や微粒子生成の粒径分布解析など、さ
5. 計算結果の処理・グラフ化
まざまな対象を扱うことができます。
CHEMKIN Visualizer から、計算結果のグラフ化を簡単に
素反応レベルで化学反応のメカニズムを議論・検討する
実行することができます。また表計算用のソフトウェアでグ
ことができるため、原子・分子間の結合や組み換えを伴う
ラフ描画したい場合は、計算結果をcsvファイルに出力する
化学変化を理解するうえで非常に有用なツールです。
ことも可能です。
ご興 味をお 持ちの方は弊 社 サポートリクエスト窓口
(support@rsi.co.jp)までお問い合わせください。
1) RSIニュースレター2010年 1月号*
2) RSIニュースレター2014年10月号*
3) RSIニュースレター2015年 4月号*
4) RSIニュースレター2016年 1月号*
5) ANSYS CHEMKIN 17.0 (15151)
ANSYS Reaction Design: San Diego, 2016, Tutorials Manual 2.7.5 Detailed
Particle Aggregation in Batch Reactor
図 3 反応解析の流れ
(概念図)
* RSIニュースレターのバックナンバーは弊社HP上でご覧になれます。
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/news/newsletter_back.html#chemkin
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