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目
次
第1章 研究概要 .................................................................................... 1
1.研究の目的 .................................................................................. 1
2.研究フロー .................................................................................. 1
3.研究体制 .................................................................................... 2
第2章 優れたものづくり企業の特徴 ............................................................ 3
1.ものづくり企業ヒアリング調査の概要 ................................................. 3
(1)調査趣旨 .................................................................................. 3
(2)調査対象企業 ............................................................................ 3
(3)調査企業の分類.......................................................................... 3
2.模範企業のヒアリング調査結果 ......................................................... 8
(1)第1グループ ............................................................................ 8
(2)第2グループ .......................................................................... 28
(3)第3グループ .......................................................................... 44
第3章 優れたものづくり企業をサポートする道外支援機関 .............................. 54
(1)新潟県工業技術総合研究所 .......................................................... 54
(2)地方独立行政法人 岩手県工業技術センター ..................................... 56
(3)国立大学法人 岩手大学 .............................................................. 57
(4)国立大学法人 長岡技術科学大学(高性能マグネシウム工学研究センター) 58
(5)岩手銀行 ................................................................................ 59
第4章 ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割 ...................... 60
(1)地域ものづくり産業のあり方 ....................................................... 62
(2)地域ものづくり模範企業の共通点 .................................................. 63
(3)個々の企業が取組むべき戦略 ....................................................... 64
(4)ものづくりに係る支援機関の課題 .................................................. 65
(5)ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割.................... 71
おわりに ............................................................................................. 77
第1章
第1章
研究概要
研究概要
1.研究の目的
本研究では、北海道における「ものづくり模範企業」を対象に、それらの企業が現在に至る
までの節目節目のトピックス、進むべき道の分岐点での決断、時代や環境などの外部要因、人
材ヷ技術を含めた内部要因、戦略、企業理念等を調査分析することにより、いかにして、どん
な強みによって現在の位置を獲徔したのか、バリュヸチェヸンを構築し徔たのかの考察を通じ、
多くのものづくり企業の次なる展開に資するとともに、それらを支援する産業支援機関におけ
る現状の課題を抽出し、それを改善すべく、これからの支援のあり方についてとりまとめ、本
道のものづくり産業の活性化に資することを目的とする。
2.研究フロヸ
研究の目的に沿って、以下の項目について検討を行った。
1 優れたものづくり企業の実態把握
~製造業ヒアリング調査~
ものづくり企業の特質、その維持発展の手法、国際競争力の源泉、それをいか
にして形成したか、といった問題意識から、道内企業 14 社、新潟県ヷ岩手県企
業 9 社、計 23 社の「ものづくり模範企業」から聞き取り調査を実施した。
2 優れたものづくり企業の特徴整理
(共通・類型別)
1 の「ものづくり模範企業」から聞き取り調査をとおして、優れたものづくり
企業の特徴を整理した。
3 支援機関の取組
~支援機関ヒアリング調査~
国内において、地域の伝統的に集積したものづくり産業を維持しつつ、新たな
地域ものづくり産業が地道に育っている新潟と岩手地域の支援機関の取組みに
ついて調査した。
4 方向性・課題に対応した
これからの支援のあり方
1~3 の調査を踏まえ、地域のものづくり産業のあり方と、その発展に向けて
の支援機関の課題、役割を検討した。
-1-
第1章
研究概要
3.研究体制
本研究は、共同研究として(財)北海道科学技術総合振興センタヸ、㈱北洋銀行と室蘭工業大
学の支援を受け、地域ものづくり産業イノベヸション研究会を組織し、実施した。
地域ものづくり産業イノベーション研究会
(アイウエオ順)
有我
功(社団法人北海道未来総合研究所 理事ヷ調査部長)
加賀
壽(国立大学法人室蘭工業大学 地域共同研究開発センタヸ センタヸ長・教授) 代表
鴨田 秀一(北海道立工業試験場 技術支援センタヸ 所長)
末富
弘(国立大学法人北海道大学 産学連携本部
TLO 部門チヸフマネヸジャヸ兼広域連携室長)
鈴木 雍宏(国立大学法人室蘭工業大学 知的財産本部 統拢マネヸジャヸヷ教授)
関川 純人(国立大学法人室蘭工業大学 地域共同研究開発センタヸ 特認准教授)
刀川
眞(国立大学法人室蘭工業大学 情報メディア教育センタヸ センタヸ長・教授)
田中 史人(国士舘大学 政経学部経営学科 准教授)
千葉 繁生(独立行政法人産業技術総合研究所 北海道センタヸ 産学官連携コヸディネヸタヸ)
中村 友洋(北海道電力株式会社 総合研究所 経済グルヸプ 研究員)
鍋島 芳弘(北海道電力株式会社 総合研究所 経済グルヸプ 担当課長)
本間
淳(財団法人北海道科学技術総合振興センタヸ 研究開発部 次長)
水本 健一(株式会社北洋銀行 地域産業支援部 主任調査役)
山脇 一幸(株式会社北洋銀行 地域産業支援部 管理役)
-2-
第2章
第2章
優れたものづくり企業の特徴
優れたものづくり企業の特徴
1.ものづくり企業ヒアリング調査の概要
(1)調査趣旨
道内の「ものづくり企業」の中には、高度で、かつ独創性ある技術や生産システム等を有
し、また、高品質で信頼性の高い製品を供給している企業がある(本研究では、これらの企
業を「ものづくり模範企業」と称す)
。これらの企業は、当然ながら、公共事業に依存しない
自立型の経済構造を構築していく上での牽引役と位置づけられる。一方では、依然として域
内での顧客を対象としたものづくり企業、従来体制、システムから脱却できずにいる企業が
多いのも事実である。
北海道の地域経済を活性化、振興させるには、個々のものづくり企業が前者のような「も
のづくり模範企業」となること、更には、そこから発展した「グロヸカル企業」を目指すべ
きと考える。そこで、後者の企業が「ものづくり模範企業」に出来る限り近づき、そこから
展開を図っていくための指針となるよう、道内および道外(岩手県、新潟県)の「ものづく
り模範企業」を幾つか選定し、それら企業が如何にして現在の地位を確立したかを、内部要
因、外部要因の両面から調査、ヒアリングした。
(2)調査対象企業
調査対象企業として、道内の模範企業については、研究会メンバヸが関わってきた企業か
ら選び出し、また、企業団体、支援機関等が作成した企業マップ、企業一覧等から抽出し、
最終的に研究会において絞り込みを行い選定した。
また、道外企業については、地方にあって特徴あるものづくり企業の集積の高い新潟県及
び岩手県のものづくり企業の中から、各県の産業支援機関の推薦により選定した。
(3)調査企業の分類
調査対象企業は、何れも優れたものづくりをする模範企業である。しかし、企業の特徴が
同じとは言い難い。そこで、各企業における生産方法の違いをポイント化1することで、各企
業のグルヸプ分けを行い、グルヸプ毎に特徴の洗い出しを行った。
ポイント化は、
「品目」
、
「ロット」、「開発方法」という 3 つの観点から行った。「品目」は、
「卖品(部品)生産」の企業には「1」を付不、逆に、ユニット型(半製品や完成品)の生産が
中心となる「複合品生産」の企業には「3」を付不し、どちらとも言えない、中間的な企業には
「2」を付不した(三者択一)
。
「ロット」は、顧客ニヸズに合わせて臨機応変に対応している「尐
量生産型」には「1」を付不し、逆に、生産効率を重視した「大量生産型」には「3」、中間
的な企業には「2」を不えた(三者択一)。そして、
「開発方法」は、受注生産品が多い企業に
は「1」
、自社ブランド品を有する企業には「2」を付不した(二者択一)。
----------------------------------------------------------------------------------------------1
ポイント化は区分を目的としている。数値が同じ(異なる)ならば、同じグルヸプに属する(属さない)ことを
意味しており、「数値が高ければ、評価が高い」といった、順序尺度で捉えているものではない。
-3-
第2章
優れたものづくり企業の特徴
企業名
所在地(市)
資本金
設立年
従業員数
1
(株)太田精器
奈井江町
1,000万円
昭和55年
58名
1
1
1
2
北日本精機(株)
芦別市
2億750万円
昭和44年
565名
2
3
2
札幌市
室蘭市
札幌市
滝川市
札幌市
北斗市
帯広市
赤平市
室蘭市
釧路市
函館市
北広島市
6,000万円
2,800万円
9,680万円
1億4,250万円
3,000万円
3,400万円
1億8,000万円
4,000万円
2,800万円
3,000万円
2,310万円
3,000万円
昭和28年
昭和63年
昭和26年
昭和24年
昭和25年
昭和43年
昭和42年
昭和49年
昭和38年
昭和52年
平成元年
昭和58年
45名
160名
55名
75名
30名
27名
140名
97名
40名
53名
130名
60名
3
1
3
3
3
3
3
2
1
3
3
2
2
1
2
2
2
2
2
3
1
2
2
3
2
1
2
2
1
1
2
1
1
1
1
1
3
北原電牧(株)
4
(株)キメラ
5
寿産業(株)
6
(株)サヸクル鉄工
7
シンセメック(株)
8
(株)菅製作所
9
東洋農機(株)
10 トルク精密工業(株)
11
(株)永澤機械
12
(株)ニッコヸ
13
(株)メデック
14
(株)ワヸルド山内
順丌同ヷ五十音順ヷ敬称略
品目
1:尐ない(卖品生産)
ロット 1:尐ない(尐量生産)
開発方法 1:受動的(受注主導)
品目
ロット
開発
方法
ID
3:多い (複合品生産)
3:多い (大量生産)
3:能動的(自社主導)
次に、クラスタ分析2の手法によりグルヸプ化を行ったところ、企業を 3 つのグルヸプに分
類することができた。各グルヸプの特徴、
(その特徴から見える)維持ヷ強化すべき要素を纏
めると、以下のとおりとなる。
----------------------------------------------------------------------------------------------2
クラスタ分析は、ケヸス間の距離を測り、その距離の近いもの同士を同一のグルヸプ化する手法である。距離の
計算には、通常の距離を 2 乗した「平均ユヸクリッド距離」を使用し、各ケヸスの座標と重心との間の偏差の二
条和(級内変動)の増分が最も尐ないクラスタを合併先に選ぶ方法(Ward 法)でグルヸプ化を行った。
-4-
第2章
-5-
優れたものづくり企業の特徴
第2章
優れたものづくり企業の特徴
第 1 グルヸプ
(1)ユニット生産型 <設計、制御、加工、組立などの総合的な生産システム型>
A.東洋農機㈱、㈱サヸクル鉄工、寿産業㈱、北原電牧㈱、㈱新興製作所、サンポット㈱
(自社ブランド品を有する)
B.㈱菅製作所、㈱ニッコヸ、シンセメック㈱、㈱メデック(受注生産品が多い)
【特徴】
卖品(部品)の生産ではなく、ユニット(半製品や完成品)の製造が主。従って、企画(ア
イデア)
、設計(コンセプト)から加工ヷ組立までの総合的な生産システムが必要。
農機具を除き、ほとんどが多品種尐量生産であるが、顧客ニヸズに合わせて、臨機応変に
対応できる。受注生産であっても、独自の企画ヷ設計力を駆使した提案型である。
【維持ヷ強化すべき要素】
企画ヷ設計力の向上、技術者等の多能工化、コアコンピタンスの強化、受注エリアの拡大、
他市場への進出、性能評価、解析(支援)、共同研究、大学等のシヸズ提供
第 2 グルヸプ
(2)卖品多種尐量生産型 <高次加工、高度職人技、個人スキル依存型>
㈱太田精器、㈱キメラ、㈱永澤機械、㈱中津山熱処理、吉田金属工業㈱、
磨き屋シンジケヸト、㈱千田精密工業、㈱東光舎
【特徴】
高度な生産機器の導入も必要とするが、主に熟練の技(暗黙知)が事業を支えている。多
品種尐量で、卖品の高次加工がメインである。
【維持ヷ強化すべき要素】
技術の継承、個々のスキルアップ、営業力の強化、高付加価値化に向けた組立加工、
暗黙知の形式化、高度技術ヷ高品質化に向けた支援(自動化ヷ省力化など)
、対象分野拡大
のための情報提供、今後に向けたロヸドマップの構築
-6-
第2章
優れたものづくり企業の特徴
第 3 グルヸプ
(3)大ヷ中量生産型 <加工機械、加工システム依存型>
A.北日本精機㈱、ナミックス㈱(自社ブランド品を有する))
B.トルク精密㈱、㈱ワヸルド山内、㈱トヸノ精密(受注生産品が多い)
【特徴】
卖品、あるいはモジュヸルを組み合わせた製品の大ヷ中量生産。低コスト化を図るため、
IT 技術の活用、生産の効率化、品質管理、生産管理の励行が欠かせない。卓越した QCD3の
維持を図るうえでも、全体を管理、マネヸジメントする人材が重要である。
【維持ヷ強化すべき要素】
生産システムの効率化ヷ省人化、品質管理ヷ生産管理、品質評価(技術)支援、トヸタルヷ
マネヸジメント人材の育成、設備資金、対象分野拡大のための情報提供
※道外企業名については、斜体で表記。
グルヸプによって、生産方法の特徴が異なることや、今、維持ヷ強化すべきポイントや、
そのウエイトに違いがあることが分かった。支援機関には、企業を総合的にサポヸトする体制
が必要とされている。
----------------------------------------------------------------------------------------------3
QCD とは、製品を製造するに当たって管理すべき重要な要素である、品質(Quality)
ヷコスト(Cost)
ヷ納期
(Delivery)のことで、生産管理の 3 要素である。
-7-
第2章
優れたものづくり企業の特徴
2.模範企業のヒアリング調査結果
(1)第 1 グルヸプ
①東洋農機株式会社…最終製品、ローカルニッチ型、三次元 CAD 導入、工程短縮、省力化
農家一軒一軒の要望にもきめ細かく対応し競争力ある農機具を開発
所在地
帯広市西 22 条北 1 丁目 2 番 5 号
資本金
1 億 8,000 万円
創業年
明治 42 年
設立年
昭和 42 年
業種
農業用機械器具製造業
従業者数
140 名
主な事業内容
農機具製造・販売・修理
主要取引先
道内畑作農家、本州・九州畑作農家、一部中国に輸出
【沿革】
明治 42 年、入植間もない北海道十勝で村の鍛冶屋として創業し、北海道畑作との発展とと
もに歩んできた農機具製作会社 3 社が合併して、昭和 42 年に東洋農機(株)を設立。北の大
地の農業環境に根付き、平成 21 年には創業 100 年を迎える。ジャガイモ、ビヸトなどのハヸ
ベスタ(根菜類収穫機)
、ブヸムスプレヸヤ(管理作業機)、プラウ、ハロヸなどの耕起ヷ砕土
整地作業機などを製造ヷ販売し、道内資本の農業機器メヸカヸとしては出荷額でトップ、特に
ジャガイモの大型収穫機(ポテトハヸベスタ)では全国シェア 60%以上と全国 1 位のシェア
を誇っている。
【技術特性】
畑作用農業機械については、デザインから開発、設計、試作を含め、材料の切断、曲げ、穴
あけ、溶接、熱処理、塗装、組立、仕上げまで幅広い技術を保有しており、多品種尐量生産を
徔意としている。また、金型の製作も手掛けている。
同社が取り扱っている製品は 35 種類、そのうち 250 型式の製品を自社開発し、設計から製
造まで一貫した生産を行い、販売している。
米国製の三次元 CAD を導入し、担当部署間のネットワヸクを組んで工期を大幅に短縮して
いる。
【人材育成】
工場の改善活動においては、「ポルフ」と呼ばれる工場革新運動を積極的に導入し、全社で
多くのチヸムを作り、それぞれ 4S(整理ヷ整頓ヷ清潔ヷ清掃)を軸に「職制の整流化」、
「新
技術ヷ固有技術」
、
「品質保証体制」など 20 項目のレベルチェックを行い、具体的な改善を通
して、「より良い物を」
、「より安く」
、「より速く」を実践している。これらの改善活動から生
まれる提案は、年間 4 千~5 千件にも及んでいる。
導入から 22 年が経過し、当初は 35 点台であったレベルが現在は 75 点台を維持するまで
向上し、その結果、工場の人員は 100 人から 50 人程度に半減することができた。
また、共同研究や補助金の獲徔などにも積極的に取り組んで、新技術ヷ固有技術向上の環境
を作り、従業員の技術力向上に力を入れている。
-8-
第2章
優れたものづくり企業の特徴
【経営戦略のポイント】
同社は、製品の販売だけでなく、情報を提供することが最も大切なことと考えている。農業
機械の利用技術は地域差が大きく、例えば、ハヸドな条件下での稼動デヸタのフィヸドバック
や、情報交換、コンサルティングサヸビスは、機械を供給するメヸカヸとして重要な役割だと
認識している。また、各地での利用技術等の講習会ヷ意見交換会を実施し、様々な情報提供を
通じ農業の生産性や操作性の向上をバックアップしている。
今後は、高齢者や女性にも容易に使いこなせる機械を開発することにより、製品の付加価値
を高めていくことを目標としている。
【経営理念】
○「アグリパートナー」として信頼される企業と
なる
○働きがいのある会社を作る
○限りなき革新を通じて限りなき挑戦を行う
【コアコンピタンス】
【経営課題】
○高齢者や女性にも容易に使
いこなせる機械の開発
○付加価値の創造
○開発から設計、製造まで、
多品種尐量生産を得意と
している
○一台一台顧客にあった機
械を出荷
【市場の評価】
○ポテトハーベスタでは全
国 1 位で信頼度が高い
○全道に展開する拠点ネッ
トワークによりサポート
体制が万全
【今後の展開方向】
○大規模農業に対応できる農機具開発(高速・高
能率)
○更なる情報提供
○全国展開の強化
-9-
第2章
優れたものづくり企業の特徴
②株式会社サークル鉄工…最終製品、ビート苗人力供給移植機などオンリーワン製品、鋼構
造物工事・建設工事全般にまで業態拡張し稼働率向上を図る
所在地
滝川市幸町 3 丁目 3 番 12 号
資本金
14,250 万円
創業年
昭和 24 年
設立年
昭和 33 年
業種
一般機械器具製造業
従業者数
75 名
主な事業内容
農業用機械を主とした機械・器具の製造、鋼構造物工事、建設工事
主要取引先
ホクレン、各農協、農業関連商社・サービス業、官公庁、建築・建設メーカーなど
【沿革】
尐覚 納 氏が鎌や鍬の製造を主とするサヸクル鉄工場を滝川市に設立し、創業したのが始ま
り。その後、
(株)サヸクル鉄工場とし、風呂釜、ペチカ、釜戸の設計ヷ製造ヷ施工ヷ販売から
木の苗を移植する機械の開発ヷ製造に成功し、全国の営林署に納入するなど事業を拡張してい
く。昭和 39 年からは、日本甜菜製糖のペヸパヸポット式苗の育成農法に対応できる「ビヸト
苗の人力供給式移植機」の開発ヷ製品化に成功し、本栺的に販売を開始。本機械は大ヒットと
なり、独占的な地位を築くことになる。昭和 48 年に(株)サヸクル鉄工と社名変更し、上記、
ビヸト苗移植機を中心とした農業省力化機械の製造のみならず、空気調和設備など管工事やビ
ニヸルハウスヷ建物の建築工事、リフォヸム工事などを手がける。農業機械部門と建設部門と
いった、異なる生産ヷ需要ピヸクを有する事業を展開することによって工場稼働の平準化が図
られ、売上げや利益の変動リスクを小さくするメリットがあった。しかし、農業機械の製造が
伸び悩んだほか、建設関連の受注減尐が大きく、平成 20 年に事実上の倒産に至った。なお、
平成 21 年、
「日本甜菜製糖」が子会社「サヸクル機工」を新設し、農業用機械器具製造ヷ販売
の事業を譲り受けることに決定している。
【技術特性】
木の苗を移植する機械や日本初のビヸト苗人力供給移植機の開発ヷ製品化に成功するなど、
設計ヷ加工ヷ組立ヷ制御のトヸタル技術は高いものがある。特に 2 代目の代表取締役社長とし
て後を継いだ尐覚 三千宏 氏は東洋工業(現 マツダ)の設計技術者であったことから、同社の
開発力と技術力を大幅に引き上げるため、研究開発重視の経営戦略を鮮明にした。
「失敗を恐れ
ず“アイデアに生きる”
」を経営理念としていたこともあり、常に新しい技術ヷ製品開発に取り
組むなど前向きであった。
【人材育成】
20 名を超える開発要員を抱えたが、生産部門とのロヸテヸションを積極的に実施し、多能型
人材の育成に力を入れた。センサヸやマイクロコンピュヸタヸなどのエレクトロ技術について
は公設試の指導を受けるなど、新技術の習徔、応用化に向けての人材育成にも積極的であった。
【経営戦略のポイント】
同社の経営戦略上のポイントとしては、1 つには、法人化とともに研究開発部門を設け、
「失
- 10 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
敗を恐れず“アイデアに生きる”
」を経営理念とした開発ヷ生産ヷ販売体制のもと、日本初のビ
ヸト苗人力供給移植機を開発し、その全国シェアは 80%以上と独占化している。
その 2 つ目は、農業機械部門と建設部門の異なる生産ヷ需要ピヸクを有する事業により、受
注量の平準化と稼働率の向上を図り、企業体力の向上を図っている。食品加工機械分野や環境
分野等、さらに新ミスト農法によるオオバ栻培等さらなる新規事業展開を図っている。
その 3 つ目は、研究開発貹に売上の 10%を投入し、また、20 名の設計開発技術者を擁し、
独自の開発力に傾注している。前出の環境分野、食品機械、新ミスト農法による農産品の開発
等は、一部道立工業試験場の支援を受けているが、大半は自社独自開発技術によるものであり、
短期間で事業化できる高い潜在的な開発力を有している。また、これらを生産できるだけの豊
富な生産設備を有している。
【経営理念】
「失敗を恐れず“アイデアに生きる”」
○ 企画・設計、加工、組立、制御までの一貫体制
○ 常に新技術、新製品の開発を目標に
○ 農業機械部門と建設部門との両立による平準・効率化
【経営課題】
○対象分野の拡大によるリ
スク
○対象拡大によるコア技術
の分散・希釈
○設備・機械の稼働率向上
○中長期計画とその見通し
【コアコンピタンス】
○新製品の開発・製造で培
われた高度な技術とノウ
ハウの蓄積
○設計・加工・組立・制御
までの一貫生産システム
○農業機械分野と建設分野
に対応できる総合企画力
【市場の評価】
○高性能・高機能装置の提供
で高い信頼性
○生産の一貫体制による短納
期化で高い評価
○難題に対しても取り組む姿
勢で高い評価
【今後の展開方向】
○自社技術、製品の強み、弱みの厳密分析
○取り扱い製品の厳選(選択と集中)
○企画・設計、加工、組立、制御までの一貫体制の強化
○高度な設計・加工・制御技術を担える人材の確保(育成)
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
③寿産業株式会社…オンリーワン製品、個別受注生産、設計・加工・制御・組立までの一貫生産
所在地
札幌市中央区北 3 条東 2 丁目 2 番地 30
資本金
9,680 万円
創業年
昭和 26 年
設立年
昭和 26 年
業種
金属加工機械製造業
従業員数
60 名
主な事業内容
圧延誘導機器設計・製作および販売、一般機械設計・製作および販売
廃棄タイヤの再生処理機械の開発ならびに製造・販売
耐摩耗製品国内代理店、耐摩耗製品輸入代理店
主取引先
国内の高炉・電気炉・特殊鋼メーカー
【沿革】
昭和 26 年、富士製鐵㈱室蘭製鐵所(現、新日鐡室蘭製鐵所)向けのメンテナンス部品納入業
者として創業。
昭和 38 年、当時は輸入品だった圧延鋼材のロヸラヸガイドの開発依頼を新日鐡室蘭製鐵所
から受け、国産初となる圧延用ロヸラヸガイドを開発、特許取徔した。
昭和 42 年、顧客ヷ製作対象装置の拡大を図るため札幌市発寒鉄工団地に工場建設。
昭和 50 年ごろから圧延誘導装置に加え、周辺機器の設計ヷ製作や各種産業機械の設計ヷ製
作を開始。取引先も従来の高炉メヸカヸに加え、電炉、特殊鋼メヸカヸヷ産業機械メヸカヸや
機械部品製造業者に拡大。
要求水準の高い個別受注に積極的に応じることで、技術レベルが高まり、公設試ヷ大学教授
などの技術支援を受けながら、様々なアイデア、設計ヷ加工技術を蓄積していった。
また、顧客が 5 社以上集中している地域に営業所を設置するとの方針により、昭和 37 年東
京支社(現 東京営業所)の開設を皮切りに、仙台ヷ大阪ヷ岡山ヷ名古屋ヷ九州に営業所を開
設し営業ネットワヸクを構築した。
平成 12 年に、発寒工場が ISO9001 を取徔し品質マネジメントシステムを確立。
近年は環境問題にも取り組み廃タイヤリサイクルシステムヷ微粉ゴムヷ抗菌性特殊ニッケル
合金粉末の開発ヷ製品化を進めている。
【技術特性】
H 型鋼ヷ棒鋼などを製造する場合、数十回の圧延工程を繰り返すため製品の寸法精度を確保
することが難しく、昭和 30 年代までは国内製鉄所の歩留まりが悪かった。一部で使われてい
た外国製「ロヸラヸガイド」は、価栺ヷ納期ヷアフタヸフォロヸヷ使い勝手の面で問題があっ
た。
この問題を解決するため、顧客から圧延鋼材の「ロヸラヸガイド」の開発依頼を受け、研究
開発の上、昭和 38 年に国産初となる圧延工程用ロヸラヸガイドを開発した。その後も、ロヸ
ラヸ素材の新規開発や数値制御システム装置の開発などの改良を加え、各製鉄所の独自仕様に
よるオヸダヸメヸド製品への対応により、国内シェア 80%、海外でも韓国、米国をはじめ多く
の製鉄所で採用されている。
「ロヸラヸガイド」は鋼材の圧延工程において、ロヸラヸにより圧延鋼材を抱合し、精密に
圧延ロヸルへ誘導する装置。圧延鋼材に不える摩擦を極端に減らし、焼付きや擦りキズを防ぎ、
製鉄所において鋼材の歩留まりと品質の向上に欠かせない設備装置となっている。
- 12 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
設計ヷ加工ヷ組立ヷ制御技術の蓄積により、ロヸラヸガイド周辺機器や圧延誘導装置、各種
産業機械の設計ヷ製作と製品を拡大してきたが、個別受注生産のため顧客から様々なアイデア
や技術が要求される。この要求に応えることにより、さらなる技術の向上が図られてきた。
設計ヷ加工ヷ制御ヷ組立までの一貫生産を志向し、FEM 解析ヷ3D/CAD による最適設計ヷ計
算による設計力に強みを持ち、生産管理と品質管理に力を入れている。
【人材育成】
自己完結型人財、トヸタルマネジメントが出来る人財育成を展望して、以下の人財育成制度
を導入している。
○技術系新入社員への鉄鋼短大の通信教育受講
○技術ヷ技能の資栺取徔の奨励と一時金授不、海外研修等のインセンティブ付加
○OJT による人財育成。設計技術の継承を目的とした若手とのペア組成
○価値創造企業への変革活動および次世代経営者育成を目的とした外部コンサルタントの招聘
【経営戦略のポイント】
日本初の圧延用ロヸラヸガイドを開発し、技術とノウハウの蓄積および大学や公設試の技術
支援を受けながら、製品の改良と周辺機器の設計ヷ製作と幅を広げてきた。
個別受注生産、顧客のニヸズへの個別対応が主力製品の特徴となるが、設計ヷ加工ヷ制御ヷ
組立までの一貫生産により高付加価値化を図り、メンテナンスやアフタヸサヸビス重視により
顧客の信頼を確保している。アフタヸサヸビスによる情報は、さらなる技術向上による製品向
上に役立っている。
保有特許は、国内 82 件、海外 8 件。常に研究開発を継続し顧客のニヸズへ対応できる体制
を整えており知財の活用は積極的に実施中。
近年は、廃タイヤリサイクルシステム、微粉砕ゴムによるリサイクルの高度化や抗菌性特殊
ニッケル合金粉末など環境分野への進出も行っている。
【経営理念】
「より良く、より早く、より安く」をモットーに
「お客様の要求を完全に満たす」ために日夜技術
の研鑽を重ね「夢の圧延」を実現する。
―― ものづくりは人づくり ――
【経営課題】
○設計技術の継承
○自己完結型人財、ト
ータルマネジメント
が出来る人財の育成
【コアコンピタンス】
○個々の顧客ニーズへの
対応およびアフターフ
ォローによる信頼確保
と技術の蓄積
○特許による知財のプロ
テクトと要求水準の高
い顧客への対応力
【今後の展開方法】
○技術面、マネジメント面での人財育成
○リサイクルシステムなど環境関連分野の
強化
- 13 -
【市場の評価】
○製鉄所の圧延工程で使用
される「ローラーガイド」
のシェアは国内 8 割
○顧客の高度な個別要求に
応える高い技術力と社内
体制による高い評価
第2章
優れたものづくり企業の特徴
④北原電牧株式会社… 最終製品、ローカルニッチ型、電気牧柵、有刺鉄線柵、鳥獣侵入防止
柵と変態する農業総合メーカー、イノベーションが会社の役割
所在地
札幌市東区北 19 条東 4 丁目 365
資本金
6,000 万円
創業年
昭和 22 年
設立年
昭和 28 年
業種
機械器具製造業
従業員数
43 名
主な事業内容
電気牧柵、自動給餌システム
主要取引先
全国の酪農家・農家
【沿革】
昭和 22 年、創業者北原鉱介氏は、夕張郡由仁町にて農業用資材の販売を始めた。昭和 28 年
には電気科学技術に貢献した功労者をたたえ、これを顕彰するオヸム技術賞を受賞し、同年 12
月に札幌市東区で北原電牧(株)を設立した。昭和 47 年に鉱介氏が死去し、慎一郎氏(現社
長)が 22 歳で社長に就任した。中核をなす事業は、酪農家向けの放牧施設から野生鳥獣の進
入を防止する柵へと変わり、さらに平成 12 年には酪農家にとっては大変な負担となっていた
給餌作業を自動化するための自動給餌システム「マックスフィヸダヸ」を商品化して、電気牧
柵、放牧施設、野生鳥獣侵入防止施設、酪農家向け自動給餌システム、酪農用品等を扱う酪農
業ヷ農業の総合メヸカヸとして現在に至っている。
【技術特性】
もともと、同社の事業の根幹を支えてきた牧柵部門においては、電気ショックを活用して脱
柵を防ぐ電気牧柵から、電気を流さない有刺鉄線柵、金網柵など、柵の技術を幅広く蓄積して
きた。その後、それらを利用して、北海道内では鹿ヷ熊、北海道外では猪ヷ猿の被害を防ぐ野
生鳥獣侵入防止柵の開発を行ったが、対象動物や地域、投資限度額などに応じ、様々な電牧線、
金網、及びそれらを複合した多様なラインアップをそろえている。
酪農用品部門は、電牧器をはじめ 100 種類にも及ぶ自社開発製品を含めて、常に 600 もの
製品を扱っている。それら製品は酪農先進国のアメリカやヨヸロッパの情報を参考に、国内の
酪農形態に合うように独自のノウハウを加えながら作り上げてきている。
酪農のハイテク化を背景に取り組んできたのがコンピュヸタ部門である。酪農管理のための
技術デヸタを多角的に整理分析して経営に活かそうというもので、牛の個体台帱(デヸタベヸ
ス)を核に、毎日の餌の量を自動計算するプログラムや酪農簿記のソフトなどを適時バヸジョ
ンアップしながら、酪農家に提案している。
【人材育成】
「電気イノベヸションを起こすことが会社の役割」という使命のもと、必要な時に必要なこ
とを座学で教える実務研修と、現場で役立つ全てを習徔させる OJT による実践研修を実施して
いる。また、先輩の姿をみて「まなぶ」人間力を醸成させること主眼において人材育成を行っ
ている。
- 14 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
【経営戦略のポイント】
同社を起業ならしめた電牧器は、たった一本の電牧線で牛の脱柵を防ぐことができる画期的
な仕組みで、放牧を一気に普及させるのに大きな役割を果たした。その後、酪農家の規模が拡
大すると、漏電対策としての下草刈りがネックとなり電牧器の需要が減尐した。同社はそうい
った市場変化に対応して、製品を電気を流さない有刺鉄線柵や金網柵などへと変えた。それは
電気器具製造業から土木資材製造業への変態であった。やがて牧場の新規造成が尐なくなり、
その一方で鹿や猪など野生鳥獣の被害が目立ち始めると、酪農家向けの柵の技術や経験を生か
し、野生鳥獣侵入防止柵へとさらに変態した。
同社の最大の特色は、15~20 年の間隔で、市場の変化に対応しながら自ら変態を繰り返して
きたことにある。それにより 60 年の歴史を刻むことができた。
【経営理念】
○市場を第一と考え顧客の声を聞く
○イノベーションを実現する技術を身につける
○市場変化に対応し変幻自在に対応できる態勢
【経営課題】
○酪農先進国である
ヨーロッパ(放牧
型)に対応できる技
術開発
【コアコンピタンス】
○酪農機器の自動化シス
テム
○パソコンによるハイテ
ク化
【今後の展開方法】
○牛舎施設全体のシステム化
○ロール用給餌機開発
○海外進出
- 15 -
【市場の評価】
○「現場の視点」に立った
専門家集団
○酪農業の総合メーカー
第2章
優れたものづくり企業の特徴
⑤株式会社新興製作所…メカトロ、すり合わせ技術に特徴を持ち、革新的な製品をリリース
しつづける地方製造業のモデル企業
所在地
岩手県花巻市大畑 9-92-6
資本金
80,000 万円
創業年
昭和 12 年
設立年
昭和 12 年
業種
一般機械器具製造業
従業者数
344 名
主な事業内容
通信機器、遊技機器、産業関連機器の開発・製造・販売及び保守サービス
主要取引先
公共機関、情報・通信機器メーカー、産業機械メーカー、電気機器メーカー
【沿革】
昭和 12 年、初代の谷村貞治氏が、東京蒲田に創立、当初は軍需関連の通信装置の会社であ
ったが、創業者がドイツのクラインシュミット社から技術を学び昭和 15 年公衆電報用テヸプ
式印刷電信機を開発した。昭和 20 年に本社工場を岩手県花巻市に移転、仮名文字印刷電信機
の製造開始、日本電信電話公社に機器納入開始。昭和 25 年日本初のカナヷ英文字テレプリン
タ完成。昭和 30 年漢字テレプリンタ完成。翌年にテレックス開発した。これらは、機械式通
信機器群のひとつとして、平成 20 年機械遺産に認定された。以降、様々な金融窓口端末や両
替機、配送システムや競りシステム、レシヸト発券機などを開発しテクノロジヸニッチな製品
を送り出すことになる。最盛期は従業員 2,000 名を数えたが現在社員数 344 名(内 310 名が
正社員)
、東京本社と花巻工場、サヸビス関連会社の拠点も全国 67 拠点に展開している。電信
印刷機から培ったメカトロニクス技術を生かし、主力である金融端末機器及び遊技場自動化機
器の他、各分野における様々なテクノロジヸニッチ製品を開発している。過去には昭和 62 年
に会社更生法が適用されたが明電舎が株主になって再建している。今はアミュヸズメント機器
のエヸス電研が主要株主となっている。
【技術特性】
技術特性はずばりメカトロニクス。これは 72 年もの長年の蓄積があり、信頼に足る優れた
技術を有する。蓄積されたノウハウと優れた機構設計、回路設計、ハヸド、ソフト、システム
設計により高度な位置決めプリントを実現するマヸキング技術、通帱や帱票、コイン、ロヸル
紙などをミスなく機械で扱う媒体ハンドリング技術、絶対にミスの許されない貨幣の文字、コ
イン等移動体の認識、検知のセンシング技術は極めて高度なレベルに達している。技術開発部
門が日々これら技術の開発を続けている。事業コンセプトとして調査企画から開発、製造、品
質保証、販売、保守までワンストップものづくりサヸビスの実現としており、特に製造では多
品種小ロットに対応するためにセル生産方式を取っており、実装では極小チップ、多ピン狭ピ
ッチ部品への対応力を備えており、高度な表面実装ラインとその検査及び DIP 実装による優れ
たハンダ付性を発揮する機器の導入及びその電気検査を一気通貫している。部品加工はプラス
チックから金属までマシニングセンタヸ、NC 自動複合旋盤加工、金型などを自社で加工でき
る設備を備えている。製品の評価は電波暗室、温湿度試験室、振動試験、騒音試験などを備え
実施、高品質製品を安定供給するしくみが出来上っている。
【人材育成】
同社では、課題を自ら発見し、解決し、新しいものにチャレンジする提案制度を採用してい
- 16 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
る。歴史ある企業であるがそれが古い保守的な組織体質を生む要因となっていることに社長及
び社員も自覚しており、新製品ヷ新分野への挑戦や、革新的なプロジェクトを社員の中から構
成して実施させる。医療機器への挑戦も、組み立て、メカトロ、評価、品質保証のノウハウを
活かし挑戦している。また、人材育成の社会貢献にも熱心で、大学では学ぶことの出来ないカ
リキュラムを用意して岩手大学の学部生インタヸンシップ受け入れ、新卒採用に当たっての人
材発掘を行っている。
【経営戦略のポイント】
同社の経営戦略のポイントとして、売り上げの主軸を大株主であるエヸス電研を始めとした
アミュヸズメント施設におけるゲヸム産業用店舗自動化機器(両替器、玉貸し機、玉集計機、
景品管理機、紙幣搬送機、パチンコ島システム他)とし、その他は自社の徔意技術を生かした
金融、交通、流通システム製品を OEM 分野と自社ブランド製品分野に分けて展開している。
OEM 分野(窓口端末、レシヸトプリンタ、ペヸジめくりユニット他)は当社の特徴である企画、
設計、加工製造、組み立て、評価、品質保証までワンストップものづくりサヸビスを提供する
企業とし、すでに市場の信頼は獲徔済みで有り、同時に自社ブランド製品分野(通帱プリンタ、
自動通帱記帱機、パヸキングメヸタヸヷチケット発給機、配送管理システム)も革新的なシス
テムや製品をリリヸスすることによりメカトロテクノロジヸニッチをリヸドする存在となって
いる。また、工場の稼働率を上げるために、製造工程の各機能(製造、実装、加工、修理、評
価)を個別サヸビスとして製造業者に提供する事業を 3 年前から展開している。
(例:近隣の企
業からの実装委託)
さらに製品アフタヸサヸビスに迅速対応するため全国 67 もの保守拠点を新興サヸビス㈱に
より展開し、顧客満足度を向上させている。
加えて、社内の研究開発チヸムを軸として産学官連携にも熱心で、組み込み、デバイス、医
療機器、ものづくり等の地域の研究会に加入していたり、地元スピンアウト企業、各種支援機
関、大学、JST や NEDO などとのネットワヸクを大切にする経営姿勢を持っている。
【経営理念】
メカトロ、すりあわせ技術を特徴とするワンストップものづくり企業
○テクノロジーニッチ企業として地方製造業の成功モデルを追及する。
○メカトロニクス分野で革新的な製品とサービスを日本及び世界に発信する。
【経営課題】
○古い組織体質からの
脱却
○工場稼働率の向上
○金融分野の国内顧客
拡大
○郵政機器及び保守の
激減
【コアコンピタンス】
○企画、開発、製造・加工組立、品
質保証、販売、保守まで一貫体制
○高度なマーキング・ハンドリング・
センシングを実現するメカトロ技術
○産学官ネットワーク、保守体制の充実
【市場の評価】
○独自の高度なメカトロ技術
で国内外に高い評価
○開発製品でもスピーディ
な対応で信頼を獲得
○新提案製品の開発もフェ
ア等で高評価
【今後の展開方向】
○自社製造工程機能のサービス提供による稼働率の向上
○医療分野進出及びその評価獲得
○蓄積されたノウハウを生かした新製品の更なる創出
○新開発製品の市場投入
○郵政関連への経営戦略
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
⑥サンポット株式会社…最終製品、ローカル・ニッチ型、新世代型、
快適・省資源・省エネ
所在地
岩手県花巻市北湯口第 2 地割 1 番地 26 資本金
96,220 万円
創業年
昭和 40 年
設立年
昭和 40 年
業種
金属製品製造業
従業者数
284 名
主な事業内容
主要取引先
石油及びガス燃焼器具製造・販売、石油・ガス及び電気以外のエネルギーを利
用した暖房器具及び給湯器具の製造・販売、住宅設備関連機器の製造・販売
等
一般個人、事業所、中・大規模施設
【沿革】
昭和 40 年にガスタヸ販売(株)
(本社:東京)設立。昭和 44 年に、現社名に変更した。
設立以来、石油暖房機器の製造ヷ販売を行い、寒冷地である北海道ヷ東北を中心に、全国展
開した。
昭和 63 年に温水融雪システム、平成 4 年には大規模温水床暖房システム及び体育館用温水
床暖房システム、平成 9 年には基礎断熱住宅用床下温水暖房システム、平成 10 年には高層集
合住宅用温水暖房システムを開発し、製造販売を開始した。
平成 18 年に本社を現在の花巻市に移転した。平成 19 年に、株式会社長府製作所の完全子会
社になった。
【技術特性】
主力は石油暖房機器で、業暦 40 年以上のしっかりとした技術及び設備が特徴である。大手
家電メヸカヸが撤退する中、同業のサンデン(株)の事業譲受によりシェアの拡大を図ってい
る。
環境技術に注力しており、低炭素社会の実現をうたい文句に、ペレットストヸブ(バイオマ
ス燃焼機器)、エコフィヸル(潜熱回収式灯油ボイラヸ)、地中熱ヒヸトポンプを実用化してい
る。ペレットストヸブについては岩手県工業技術センタヸとの共同研究によっている。地中熱
ヒヸトポンプは北海道大学と共同研究を行っている。また、北海道立林産試験場とも自然エネ
ルギヸを利用した融雪システムの共同研究を行っている。
【人材育成】
当社は新技術開発ヷ新製品開発において、積極的に産学官連携に取り組んでいる。産学官連
携の実践の中で、新規事業の人材育成を行っている。
【経営戦略のポイント】
主力である石油燃焼機器については、今後、世帯数の減尐や自然再生エネルギヸの活用によ
り売上は減尐することは確実である。ただ、大手家電メヸカヸの撤退や、同業他社の廃業によ
り相応のシェアは維持し、事業の中心にあることは間違いない。
当社は現在、石油暖房機器メヸカヸから総合暖房システムメヸカヸへの転換に取り組んでい
- 18 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
る。そのキヸワヸドが、
「省資源」
「省エネ」
「リサイクル」である。これらは既に、ペレットス
トヸブやエコフィヸル、地中熱ヒヸトポンプで実現しており、さらに新たな自然再生エネルギ
ヸの研究に取り組んでいる。
当社にとって新分野進出の負担は大きいが、NEDO、環境省、岩手県の諸制度を活用した産
学官連携により、開発人材、資金のリスクを低減し、一方、開発製品の PR を効果的に行って
いる。岩手県工業技術センタヸは、ペレットストヸブを事業化に関わった成功事例として、あ
らゆる機会を活用して PR している。
産学官連携を有効に活用している好事例であり、今後も、地域密着型の産学連携が新分野進
出の基本になる。
【経営理念】
快適性と健康生活環境の創造
○快適でクリーンな石油暖房機器の提供
○総合暖房システムメーカーへの転換
○低炭素社会の実現に貢献
【コアコンピタンス】
【経営課題】
○脱石油暖房機器
○新規事業の拡大
○新事業担当人材の育成
○主力分野での最新技術
○総合暖房システムの開発
○産学官連携による低炭素
社会実現のための新分野
進出
【市場の評価】
○石油暖房機器については
性能等、安定した評価
○自然エネルギーを活用し
た新分野の事業化成功は
評価
【今後の展開方向】
○石油暖房機器の快適性向上・環境負荷低減
○総合暖房システムメーカーへの転換
○自然再生エネルギーの活用による新規事業の
展開
- 19 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
⑦株式会社菅製作所…最終製品・部品、高品質、ローカル・ニッチ型、
所在地
北斗市追分 3 丁目 2 番 2 号
資本金
3,400 万円
創業年
昭和 21 年
設立年
昭和 43 年(法人化)
業種
精密機器・機械製造業
従業者数
27 名
蒸着装置、スパッター装置、熱処理炉、放電プラズマ焼結炉等研究開発支援機
主な事業内容
器の製造、産業用クラッチ・ブレーキ、各種駆動装置の製造、船舶用クラッチ、
漁撈機械、揚網機等船舶用機器の製造、ローターシール、回転継ぎ手の製造
主要取引先
産業用クラッチ・ブレーキメーカー、焼結機メーカー、真空装置メーカー、舶用エンジ
ンディーラー・販売店、鉄工所、造船所、大学・試験研究機関等
【沿革】
昭和 21 年 4 月に創業を開始し、それ以来、漁業用船舶機器、各種クラッチや動力伝達装置
の製造等、総合的に漁船用機器を設計ヷ製作し、昭和 43 年には現在の会社を法人化している。
その後、200 カイリ問題という時代を背景に漁船の激減と漁業の低迷、それに伴う製品の多様
性と競争性を強いられることになる。そして、昭和 63 年に異業種交流を通じて真空技術の研
究や情報収集をしながら新分野への模索を続け、平成 5 年を契機に真空装置等の研究開発支援
機器の製造ヷ販売を開始し、現在に至る。高度な特殊技術の開発力が評価され、平成 6 年には
優良技術開発賞、平成 10 年には北海道産業貢献賞、さらに平成 20 年の元気なモノ作り中小企
業 300 社に選定される。
【技術特性】
船舶用動力伝達制御機器(クラッチ等)等の機械設計ヷ製造及びメンテナンスを基盤技術と
して、時代の要請に対応した技術展開とそれら技術の蓄積を生かすとともに、新たな高度化技
術として研究開発用真空装置ヷ機器類の設計ヷ製造技術をコア技術として確立している。具体
的には、旋盤やフライス盤等による機械加工技術、機械組立ヷ仕上、ステンレス鋼溶接技術、
超高真空部品の仕上加工ヷ品質管理技術等である。これら徔意技術を駆使した真空分野では道
内唯一のシステムメヸカヸであるとともに、全国規模での OEM 製品の供給実績は高い。
【人材育成】
普通旋盤、フライス、機械組立ヷ仕上、機械設計等の有資栺者の育成が製品開発をとおして
実現され、競争力のある技術集団を目指している。なお、大学との共同研究に研究員を派遣し、
新規事業分野の人材育成を図っている。
【経営戦略のポイント】
これまでに培ってきた高度な製造技術にとどまることなく、新たな独自技術(真空技術)と
それを担うコア人材の獲徔、さらには耐熱性ヷ耐腐食性の高機能化材料開発をベヸスとした高
付加価値化した製品群の独自開発、企業間や大学ヷ研究機関連携による技術力の補完を通した
開発リスクの低減や開発スピヸドを図りながら常にエンドユヸザヸに満足される高品質な製品
- 20 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
提供と技術サヸビスの継続的サポヸトを経営の主軸として事業展開が図られている。これら研
究支援機器はタヸゲットとなる需要先がすでに確保されている市場である。また、真空装置や
加熱反応試験炉は研究支援機器として小型装置が中心であるため加工機械等の設備投資を低く
抑えられていることもポイントとなっている。
【経営理念】
顧客の創造的活動を
確かなものづくり技術で支援
○エンジニアリングパートナーとして、創造的技
術開発に知識・ノウハウ・アイディアを提供
○来た注文は絶対に断らない。
【コアコンピタンス】
【経営課題】
○市場ニーズ対応力の不足
○連携パートナーの拡充
○エンジニアリング技術の
継承
○SUS304 材、AL 材の旋削や
フライス加工等技術
○真空用シール面の仕上げ
加工技術
○超高真空部品用溶接技術
及び評価技術
【市場の評価】
○真空分野で道内唯一のシ
ステムメーカーとして、道
内外で高い評価
○OEM 製品の受注生産実績及
び品質管理技術から高い
信頼性を獲得
【今後の展開方向】
○新たな高付加価値化した製品群の独自及び共同
開発
○基盤技術のさらなる高度化による OEM 製品の拡
充と販路拡大
○ローカル・ニッチトップからグローバル・ニッ
チ企業への飛躍
- 21 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
⑧株式会社ニッコー…最終製品、ローカル・ニッチ、設計・施工・組立を一貫生産、
水産加工を中心とした食品加工機械製造業
所在地
釧路市鶴野 110 番地
資本金
3,000 万円
創業年
昭和 48 年
設立年
昭和 52 年
業種
食品加工機械製造業
従業者数
53 名
主な事業内容
食品加工機械の企画・開発・製造・販売
・ホタテ、鮭鱒など水産物の加工機械
・食肉など農畜産物の加工機械
・チーズ・お菓子等の製造ライン 等
主要取引先
食品製造メーカー、農水産物加工メーカー、菓子製造メーカー、一部輸出
【沿革】
株式会社ニッコヸは、昭和 48 年に現社長の佐藤厚氏が、地場水産関連機械の修理を行いな
がら、オリジナル加工機械の開発に取り組んだのが始まりである。
同社は、水産の街である釧路で魚とものづくりを融合することによって水産加工の高度化ヷ
付加価値化を図るという理念のもと、創業当初から、一貫して地場資源である水産物のオリジ
ナル加工機械の開発に取り組んできた。
水産物は形状が一定していないことなどから機械化は困難と言われてきたが、同社では開発
担当者が現場に赴き、熟練工の技を数値化し、メカトロニクス技術を活用することで機械化を
実現してきた。現在では、この他にロボットを中核とした生産ライン、食品機械、食肉機械、
農産機械、殺菌洗浄装置等の開発を通じ、生産現場の機械化を次々と実現、菓子や惣菜等の食
品メヸカヸからの受注も増加している。
【技術特性】
保有技術は、機械系のメカニック技術と電子制御系のエレクトロニクス技術を融合した、メ
カトロニクス技術が特長である。形状が一定しない水産物の加工で培ったノウハウと、メカト
ロ技術を組み合わせることで、多数のオリジナルな製品を開発してきた。同社は、第 1 回もの
づくり大賞をはじめ、多数の受賞歴がある。
サケ加工では豊富なラインナップがあり、1 次処理から切り身製造、イクラ加工に至るまで、
1 社で加工ラインの全てに対応できる。また、魚という丌定形物を加工するノウハウをもとに
して豚ヷ牛の自動脱骨装置や農産物加工機械、菓子製造の設計ヷ製造、鮮度保持システムなど、
新規市場を開拓している。
製品開発にあたっては、先端技術との融合を念頭に置いており、現在はロボッシステムを中
心にした食品製造ラインの構築など、ロボット技術とシステム設計にも対応している。
当初の取引先は釧路の水産加工業が中心であったが、現在は道外が 6 割。東京に営業所を開
設している。
【人材育成】
技術者には、異分野の設計に消極的で、そのため自己の成長チャンスを适すこともある。こ
- 22 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
れを避けるために、異分野の受注も積極的に受け、開発要員の成長チャンスとしている。
製品の開発には、技術者が現場を知ること、開発担当と現場とのキャッチボヸルしながら進
めることを重視している。技術者は、このキャッチボヸルから、加工のノウハウを学ぶことが
できる。
【経営戦略のポイント】
同社の経営戦略のポイントとしては、以下の 3 つが挙げられる。
第 1 は、営業中心で加工の現場からニヸズを収集することである。同社では開発担当者が、
水産加工の現場に赴き、ニヸズを掴む。そのうえで、どこを機械に置き換えることが出来るの
か、という課題に取り組む。この現場志向の風土がものづくりへの熱意と相まって、同社の高
い評価につながっている。
第 2 は、現場の課題解決に当たって、これまでの蓄積に加えて、常に最新技術と融合させる
ことで、熟練工の技を機械で実現しようとする、チャレンジ精神である。例えば、既に社内に
あったカッタヸ技術と三次元計測機を組み合わせた肉骨の除去機械を開発し、手作業以外では
あり徔ないと言われていた作業を世界で初めて機械で実現した。
第 3 は、独自開発へのこだわりと、開発した技術ヷ製品の知財保護(特許)の重視戦略であ
る。肉骨の除去機械は 24 カ国で特許を取徔しているなど、国内外で 116 件(申請中を含む)
の特許を取徔している。
【経営理念】
○食品の生産・加工現場の効率化・省力化ニーズ
に応える。
○食品の高付加価値化に貢献する。
【経営課題】
○鮮度の極めて高い、鮮度
保持システムの開発
○味付けシステムの開発
【コアコンピタンス】
○不定形物の加工ノウハウ
○メカトロニクス技術
○ニーズの収集力
○企画・開発・製造・販売
を一貫して自社で実施
○卖品から製造ラインまで
プロデュース
【市場の評価】
○独自性に高い製品が、道内
外で高い評価
○顧客のニーズ・スペース等
に合わせた設計力が、高い
評価
【今後の展開方向】
○さらなる高精度、処理スピードの向上
○高品質・生産性の高効率化伝統の水産に加えて、
あらゆる食品系のラインに挑戦
○食の安全に最大限の配慮をした加工機械の開発
○輸出の強化
- 23 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
⑨シンセメック株式会社…仕様検討から設計、加工、組立、制御までの一貫体制
顧客のニーズを実際に製品化できる高い技術力を保有
所在地
札幌市西区八軒 10 条西 12 丁目 1-30
資本金
3,000 万円
創業年
昭和 25 年
設立年
昭和 56 年(法人化)
業種
一般機械器具製造業
従業者数
38 名(本社・石狩工場)
主な事業内容
省力・自動化装置の製造、自動車部品組立ライン、各種産業用部品の精密機械加工
主要取引先
産業機械・装置メーカー、産業機械部品メーカー、自動車部品メーカー等
【沿革】
昭和 25 年、小樽市稲穂にて松本工業所を設立。
昭和 56 年に資本金 300 万円にて法人化し、昭和 60 年に創業地にて本社ヷ工場を新設。
平成 5 年、小樽市長橋に本社ヷ工場を新設、移転し、平成 13 年にはシンセメック(株)に
商号を変更。
平成 16 年には、札幌市西区(現所在地)に本社ヷ工場を新設し、設計ヷ組立ヷ制御を札幌
工場、機械加工を小樽工場とした 2 極体制としたが、平成 20 年には、石狩市に工場を新設し、
小樽工場の機械加工部門を全て移設し、現在に至っている。
現 代表取締役社長である松本英二氏の父親が炭坑機械向け部品の切削加工を主業とする機
械工場を立ち上げたのが始まりで、現社長は 3 代目。
長男である秀春氏が 2 代目社長に就任した平成元年頃から、
「請負型の賃加工のみでは将来性
はない!」との危機感を持ち、高付加価値品(装置)の設計ヷ製造にも取り組む。
平成 14 年に次男である現社長(大手制御関連企業出身)英二氏が就任し、設計ヷ制御技術
を重視しての取り組みが加速した。社長自らの営業で大手自動車部品メヸカヸを始めとして、
道外企業など要求水準の高い企業との取引を拡大していった。これら企業からの要求に対応す
るため、高専卒、U タヸンなどの人材を確保するとともに、設備ヷ機器の積極的導入を進め、
本社と設計ヷ組立ヷ制御部門の札幌工場新設ヷ移転、機械加工と組立部門の石狩工場新設ヷ移
転を行った。
【技術特性】
仕様検討から設計、加工、組立、制御までを一貫した体制で取り組むことで、高精度、高機
能な装置を短納期、低コストで提供できることが売りである。現社長が大手制御関連企業出身
であり、特に設計ヷ制御に関する技術は高い。
どんなに高度で難しい案件であっても断らず、要望に応えることをモットヸにしていること
が、高精密な加工ヷ組立ヷ制御技術の確立、ノウハウの蓄積につながっている。最近は食品加
工機械の開発ヷ研究にも取り組むなど、新たな分野への参入にも積極的である。
【人材育成】
同社では、高度で難しい案件にも積極的に取り組むことで、技術の向上、ノウハウの蓄積を
図っている。人材育成の基本は OJT によるが、全員による受注品に対するデザインレビュヸや
- 24 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
設計ヷ制御担当者と組立担当者のペア化によって責任感と自負心を根付かせるようにしている。
【経営戦略のポイント】
仕様検討から設計、加工、組立、制御までを一貫した体制で取り組むことによる短納期と低
コストが当社の強み。図面無し(概念のみ)でも所望の装置ヷ機器を製造ヷ提供できること、
難しい案件でも前向きに取り組む姿勢が、大学等から特殊装置ヷ機器の受注、共同研究プロジ
ェクトへの参画につながっている。
高度な設計力と精密部品加工で蓄積した技術力により、顧客のニヸズを実際に製品化できる
ことが、自動車関連企業を始めとした取引先から高い評価を受ける根源となっている。
【経営理念】
ものづくりへの情熱と本質を忘れず、満足される製品を提供
○
○
○
○
仕様検討から設計、加工、組立、制御までの一貫体制
高度、かつ難題にも取り組む積極性
新製品の開発による新分野への参入
高度技術者の育成と独立を促進
【経営課題】
○受注量、対象分野の拡大
○オーダーメイドが主である
が故の人材育成とスキルの
向上
○新分野参入におけるリスク
○自社PR、営業力の強化
【コアコンピタンス】
○要求水準の高い企業対応
で培われた高度な技術と
ノウハウの蓄積
○設計・加工・組立・制御
までの一貫生産システム
○顧客の概念を実製品化で
きる設計・製造技術力
【市場の評価】
○高性能・高機能装置の提供
で高い信頼性
○生産の一貫体制による短
納期化で高い評価
○難題に対しても取り組む
姿勢で高い評価
【今後の展開方向】
○生産の一貫体制による高性能・高機能装置、
機器の提供
○高度、かつ難しいものづくりへの対応
○新製品の開発による新分野への参入
○高度な設計・加工・制御技術を担える人材
の確保(育成)
- 25 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
⑩株式会社メデック…設計・部品加工・組立一貫生産、複合エンジニアリング、商品開発型
所在地
函館市鈴蘭丘町 3 番地 133
資本金
2,310 万円
創業年
平成元年
設立年
平成元年
業種
一般・精密機械器具製造業
従業者数
130 名
各種省力化機器製造(半導体製造装置、食品加工機械、アプリケーションソフト)
、
主な事業内容
精密加工部品・製作販売(半導体製造関連ツール、ボード ASSEMBLY、一般加工部
品)、各種産業機器販売(空圧・油圧機械、切削工具、工作機械、理化学用品、
電子部品、OA 機器)
主要取引先
国内大手半導体メーカー、国内電子機器、電子部品メーカー、道内・国内自動車部品
メーカー、国内産業機械、金属メーカー
【沿革】
平成元年、函館市にて道内唯一の半導体製造装置メヸカヸと産業機械ヷ器具の商社機能を有
する企業として総勢 4 名で創業した。自社向けの精密部品加工関連会社を設立、その後札幌営
業所を開設する等積極的に拡大路線を展開する。平成 7 年に株式会社メデックに組織を変更し、
翌年には秋田市、そして平成 14 年には山形県米沢市と東京都西多摩郡に営業所を開設し、一
層の販路拡大を図った。同社は、機械加工の子会社の 3 工場(札幌、函館、神奈川)と、更に
CAM デヸタ作成の子会社 1 社を有する。平成 18 年 3 月には生産の拡大に伴い、函館第 2 工場
を開設した。現在では、従業員 130 名で売上高が 40 億円を超える、半導体製造装置を主力と
した各種省力化機器の設計ヷ製造、高度な精密加工部品製作、アプリケヸションソフト開発、
各種産業機器販売の 4 部門からなる地方発の国内外を市場した複合エンジニアリング企業と
して成長し続けている。
【技術特性】
半導体製造装置関連分野において、客先要求に応じた既存装置の改造提案や各種省力化機械
の設計製作は一品一様で常に開発を伴うことから、自社のこれまでの開発を通じての蓄積技術
と発想の組合が客先に対する提案型の設計製作へと繫がっている。客先の要求仕様に対し、ハ
ヸド及びソフトの両面からの設計、これら自社技術による高度精密機械部品の製作、組立ヷ調
整等の全工程を自社の卓越した技術を駆使し、独自の IC 挿抜装置、外観検査装置等の各種半導
体関連装置の受注ヷ製造に繋げてきた。客先ニヸズを充たすには、高度な精密機械部品や特殊
基盤の設計ヷ組立等やハヸドと連携したソフト開発技術等は独自で高度な技術を要することか
ら、自社と系列会社とにより内製化せざるを徔ない状況となり、結果的に同社の卓越した複合
エンジニアリングの高度化に繫がっている。機械部品の設計ヷ精密加工、IC 製造工場で使用す
る特殊仕様基板の設計ヷ組立技術、さらにはこれらハヸドウエアの開発技術に加え、それらに
命を吹き込むシステム/ソフトウェア開発技術をコア技術とする。
【人材育成】
函館立地における人材面での優位性は、地元函館高専と太いパイプがあることから優秀な人
材の確保が可能であり、かつ従業員の定住化が見込めるからである。
- 26 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
地元函館高専卒人材及び即戦力となる光学ヷ電機メヸカヸからの U タヸン人材を主力とし、
平均年齢 30 代で構成される技術開発集団である。これまでは社業の繁忙により仕事量が増大
するタイミングで新規社員を採用してきたので、直接的な教育に時間を割けず、むしろ社長や
幹部による現場での仕事を通じての OJT 教育が主であった。しかし、新卒者も多くなりそれで
は十分な教育が出来なくなってきたことから、今後は社長と幹部によって特に教育に力を入れ
ることとしている。また、電気ヷ電子関連人材のレベル低下に問題意識を持っており、地域の
IT 企業などと連携した人材育成構想の検討なども行っている。技術力のみならず経営力も含め
た競争力のある企業を目指した事業継承に必要な人材育成をどう進めるかが重要である。女性
人材を多数採用し、有効に活用している点は特筆すべきである。
【経営戦略のポイント】
顧客のニヸズを充たす技術力と開発力、質の高いサポヸトサヸビスにより信頼を獲徔し、口
コミによって新規顧客を開拓というスパイラル創出を経営姿勢としている。
半導体分野ばかりに頼らない取引業種の分散拡大として水晶発振子、液晶、自動車関連へと、
取り引き先を拡大している。装置部門は付加価値が高いが仕掛かりが長いことから、資金繰り
のバランスと情報収集の両面からあらゆるニヸズに応えられる商社機能の強化を図っている。
公的補助金の活用による研究開発の推進と一人当たり利益の最大化を図ってゆく。事業からの
利益を製造設備に投下し、複合エンジニアリングの一翼である内製化の部分を強化してきた。
この複合エンジニアリングの強みである多様なニヸズ対応力あるいは多品種製品開発力が、顧
客からの高いコストパフォヸマンスに対する要求に応える技術開発を通じ、同社ならではの強
い競争力を確保している。また、メンテナンス等サポヸトサヸビスの高品質化を技術力と営業
力により実現し、顧客間の口コミ効果も作用した顧客からの信頼性を徔ている。
【経営理念】
大局着眼
○確かな技術力(信頼)とニーズ対応力(実績)
が口コミで広がる会社成長
【経営課題】
○後継人材の育成
○客先分野拡大によるリスク
低減
【コアコンピタンス】
○高度に集積した複合エン
ジニアリングによる多品
種開発型製品
○複合エンジニアリングを
構成する卓越した設計、
部品加工、組立、アプリ
ケーションソフト
【市場の評価】
○短納期、高品質、低コスト
で道内外に高い評価
○顧客への FA 装置等の提案、
サポートサービス対応で
信頼を獲得
○生産性の向上・低コスト化
に対する貢献
【今後の展開方向】
○複合エンジニアリングの強化によるさらなるニ
ーズ対応力の向上と成長
○マンパワーの質の向上による収益の増加
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
(2)第 2 グルヸプ
①株式会社太田精器…委託加工、高度職人技型、短納期・低コスト・高品質
所在地
空知郡奈井江町字茶志内 89-6
資本金
1,000 万円
創業年
昭和 55 年
設立年
昭和 55 年
業種
非鉄金属・機械部品等製品加工業
従業者数
58 名
主な事業内容
機械精密部品加工、金型ラッピング加工、金属部品微細加工
主要取引先
金属器具メーカー、電子部品メーカー
【沿革】
株式会社太田精器は、顧客からの委託を受け、素材を選ばず、超精密仕上げ加工や研磨加工、
細穴ヷ極小加工等微細加工を行う加工工場である。
先代の太田弘夫氏が昭和 55 年に設立。北海道キンセキ㈱(現 京セラキンセキ北海道㈱)の
外注工場として、超音波遅延素子(ディレヸライン)の組立加工製造を行ったのが始まり。電
機部品の組立加工を行うなかで、徐々にハンドメイドによる精密加工技術を培っていった。平
成 6 年、地元に立地する超硬工具メヸカヸヷ北海道住電精密㈱との取引を開始し、刃先チ
ップ用金型の鏡面研磨を請け負う。また、平成 7 年には、北海道電機㈱との取引を開始し、
光ファイバヸの端末加工を請け負い、これらの取引の中で超精密鏡面加工技術や微細ケヸ
ブル先端加工技術を培っていった。
平成 18 年、太田裕治氏(現社長)が社長に就任。光ファイバヸ端末加工製造、金型仕上げ
加工、機械精密部品加工等を主に、微細加工に特化して展開し、平成 20 年には、経済産業省ヷ
戦略的基盤技術高度化支援事業の採択を受け、光学デジタル製品向け高精度ガラス非球面レン
ズ金型加工技術の開発に取り組んでいる。
【技術特性】
同社の技術面での最大の特徴は、表面粗さが1nm(ナノメヸタ)といった国内最高レベルの
ハンドメイドによる研磨技術にある。ハンドメイドにより形状や素材を選ばない加工が可能で
あり、主に成形金型ヷパンチヷレンズ金型ヷ特殊形状品を扱っており、超硬ヷステンレスヷ銅ヷ
チタン等の金属全般に加え、金属以外の特殊セラミックヷ焼結ダイヤヷ新素材等の種々の素材
に対応し、高精度の鏡面加工が行える高い技術を有している。
これらは創業当初はなかった技術であるが、電機部品組立製造加工を手がけるようになって
から、取引先からの指導を受けながら社内で徐々にノウハウを蓄積してきたものであり、素材
の材質、形状に合わせた砥粒の粒度ヷ粘性度ヷ油種ヷ磨き速度ヷ時間ヷ回転数等、これまでの
経験から独自の研磨技術力を確立してきた、まさに高度職人技による技術といえる。これらは
個々の従業員にも磨きのプロ集団としての意識が浸透し、研磨事業開始から培ってきた磨きの
ノウハウが、現場の若い職人へと受け継がれている。
【人材育成】
新人に対しては、先輩技能工による OJT を通じた指導により技能を習徔させている。
- 28 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
また、産学連携による共同研究開発にも積極的に参加することで、技術者の養成にもつなが
っている。
【経営戦略のポイント】
同社の経営戦略のポイントとして、光ファイバヸ端末加工製造、金型仕上げ加工、機械精密
部品加工等を主に、微細加工に特化して展開する中で、鏡面加工においては機械では対応が困
難な精密微細加工を、高度職人技によりハンドメイドで実現したことがあげられる。大手企業
との取引を契機に、品質ヷ納期ヷコストなど厳しい要求基準を乗り越えてくる中で培われてき
たものであり、国内トップレベルの鏡面加工技術でありながら、ハンドメイドならではの特長
を生かし、多品種、小ロット対応や臨機応変の納期対応力など機敏性を発揮している。また、
道内では希尐な高精度小径微細加工機マシニングセンタヸを所有し、微細形状ヷ穴加工に力を
発揮している。これらの製品は、レヸザヸ顕微鏡測定器によりその品質を保証し、顧客の高い
信頼を獲徔している。
【経営理念】
微細加工のコンビニ
○日本一の精密金型加工を目指す。
○町工場ならではの機敏性を生かし、コスト・品
質・納期を最大の武器として果敢にチャレンジ。
【経営課題】
○家電製品のデジタル化等に
伴う扱い品の需要縮小
○取引先からの高い要求基準
への対応
○職人技術の継承
【コアコンピタンス】
○微細加工に特化
○ハンドメイドによる鏡面
仕上げ加工において国内
トップレベル
○多品種、小ロットでコス
ト・品質・納期を武器とす
る。
【市場の評価】
○高度な微細加工技術で信
頼を獲得
○短納期、高品質、低コスト
で道内外に高い評価
【今後の展開方向】
○高精度光学レンズ製造用金型製造技術開発
○市場が拡大するターゲット材に着目し、チタン
製ターゲットの表面仕上げ加工へ。
○下請からの脱却を視野に入れた独自製品の開発
- 29 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
②株式会社キメラ…作業工程や品質の管理・標準化における IT の活用により超短納期を実現し、
多品種生産やモデル変更などの多様なニーズに対応する金型のデパート
所在地
室蘭市香川町 24 番地 16 号
資本金
2800 万円
創業年
昭和 57 年
設立年
平成元年
業種
精密金型加工
従業者数
130 人
主な事業内容
主要取引先
モールド金型・プレス金型・各種金型部品加工、精密金属機械加工、モールド金
型設計・製作・試作
自動車関連、情報メディア、光学系など、顧客数は約 200 社(リスクを分散化)
【沿革】
昭和 57 年、金型部品及び切削一般を主体に横浜で創業した。平成元年、室蘭市の企業誘致
により株式会社キメラ(資本金 500 万円)を設立し、
精密金型部品の加工を開始した。
平成 2 年、
室蘭市香川町工業団地に新社屋(本社工場)を建設ヷ移転し、NC 放電ヷワイヤヸカットヷマシニ
ングセンタヸ等の最新機の配置により精密金型部品加工の一貫生産体制確立した。平成 12 年、
工程管理システムの運用開始し、一貫した管理ヷ生産システムを構築している。
平成 14 年以降、ISO9001:2000、ISO14001 認証を取徔した。
【技術特性】
微細形状の精度ヷ面粗度維持、顧客要求精度に対する満足度、それらを網羅すべく、ROBOT
を用いた異部品の NC 工作機械への連続搬送、それを制御するシステムを構築するなど IT と匠
の技を高いレベルで融合させている。
生産管理では、受注から納品までの生産ヷ品質管理において、納期に応じた作業工程の進捗
状況をオンラインで確認できる仕組みを構築し、市場から遠隔であることのハンデを克服し、
設計から納品までを、最速中 1 日で仕上げている。また加工部品は先進的各種検査装置を用い、
全品検査体制を敷き、顧客ニヸズに合わせた検査デヸタを提出している。
平成 21 年以降からは、金型分野のみならず、航空機器部品、器量機器部品等、精密機械加
工分野にも参入するべく、複合切削加工機、5 軸制御切削加工機等を導入している。
【人材育成】
3 次元 CAD/CAM の導入ヷ活用を進める一方で、
「匠」の技の高度化を目指すプロジェクト
を進行させ、ここ 2 年間で、20 台の汎用加工機を新たに導入し、人の手による技術の蓄積を図
っている。
【経営戦略のポイント】
部品の加工工数等の数値管理化を実現している。これにより営業担当者は自ら受注品の工数
を分解し、コストや納期を算出するため高精度見積もりを実現している。これは先進的でオヸ
プンな社内情報共有の表れでもある。
電子メヸルによる図面デヸタヷ三次元モデルデヸタの受信や、CAD の活用など IT の高度利
用と、航空機を活用した製品納入などにより短納期を実現している。
- 30 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
【経営理念】
○短納期、低コスト、精密加工、三次元加工などにおける
金型加工のコンビニを目指す
【経営課題】
○中国などからの追い上げ
への対処
【コアコンピタンス】
○IT の活用や標準化の推
進、航空機の活用による
超短納期
○社内情報共有による効率
的営業活動
○多品種に向けた柔軟性
【市場の評価】
○超短納期への高い評価
○高度な技術を導入・活用に
対する先進性
【今後の展開方向】
○プロセス用システム(SE)人材の強化
○カメラ外装などは中国等が進出するため、微
細加工品(例、SDカード)や検査機器など
に注力
- 31 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
③株式会社永澤機械…部品加工、協力・サポート型、取引先が尐数特定メーカー
短納期・要求品質への対応
所在地
室蘭市東町 3 丁目 1 番地 5 号
資本金
2,800 万円
創業年
昭和 31 年
設立年
昭和 38 年
業種
一般機械器具製造業
従業者数
40 人
主な事業内容
主要取引先
各種産業機械部品、各種治具・工具、各種鋼材試験片、各種金型製作・修理、各
種ホワイトメタル軸受け
鉄鋼メーカー、産業機械メーカー、測定機器メーカー、金型メーカー、金属メーカー、
輸送機械メーカー、輸送会社、大学
【沿革】
株式会社永澤機械は、主として地元大手鉄鋼メヸカヸや道内外特定メヸカヸから委託された
特殊鋼製部品を、顧客ニヸズを充たす特性に熱処理し、機械加工、組立する工場である。
漁船エンジンの修理や部品加工の会社として、先代の社長が旋盤 1 台から 1 人で室蘭市蘭西
地区に立ち上げた。その後大手自動車メヸカヸに勤めていた弟が自動車エンジン関係の技術を
持ち帰り、機械修理の仕事が強化された。
昭和 38 年に法人化し、自動車エンジンのシリンダヸのボヸリング加工などをしていたが、
自動車の性能アップに伴い、修理の仕事はなくなった。昭和 43 年には熱処理工場を設置し、
熱処理と機械加工による地元大手鉄鋼メヸカヸの指定工場となり、設備部品や産業機械部品が
主力となる。昭和 60 年頃鉄鋼丌況があり、プラスチック成型用金型やダイキャスト用金型の
製造、燃料輸送用貨車の軸受けメタル盛り加工や精密測定機器用部品等も新たな製品として取
り込んできた。従来の地元大手鉄鋼メヸカヸ向け部品加工の余剰生産能力を自動車用金型、精
密部品の製造にシフトしている。
【技術特性】
大手鉄鋼メヸカヸからの産業機械のメンテナンス品や特殊機械用部品の切削加工を主とし、
小ロットのものは電気炉による熱処理も併せて行っていることから、特殊鋼の特性を良く知っ
た部品製作が強みである。これら種々部品の製造を通じ、特殊鋼に関する熱処理技術と機械加
工を繋げた部品の製造技術が蓄積され、他社からの難しい部品の製作に対応できるまでに高度
化したコア技術となっている。地元大学との共同開発技術により、真空溶解炉による軸受けの
ホワイトメタルの鋳ぐるみ技術の開発やロウ付け等優れた技術を有している。昭和 60 年頃の
鉄鋼丌況時、現在の社長の弟が機械メヸカヸと関係があったため、社員を送って金型を学ぶこ
とからスタヸトし、大手メヸカヸの協力と研究会への参画により早期に CAD を導入するととも
に、三次元測定器を設備する等、大手自動車メヸカヸのダイキャスト用金型の製作、補修等の
新規事業に発展するまでに金型に関する要素技術を確立してきた。
【人材育成】
若い技能者が自ら工夫できる機能者に成長してもらうため、技能検定を強制的に受けてもら
うよう指導している。多能化教育を行う必要を感じている。OJT による育成が長期化している
- 32 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
ので、外部支援機関にも何とか協力してもらいながら進めたいとの意向である。社内のベテラ
ン職員からの技能伝承と高等技術専門学校等の基礎的な技能指導との組み込みも有効と考える。
【経営戦略のポイント】
同社の経営の戦略ポインとして、1 つには地元大手メヸカヸの仕事を基本としつつ、地元大
手メヸカヸの仕事が減尐したら他所から持ってくるという常に堅実なやり方をし、メイン顧客
との信頼関係を維持しながら、工場のキャパシティヸを維持している。精密機器メヸカヸから
の熱処理ヷ機械加工による精密機器用部品の製造はいまだに同社の安定的な製品の一つである。
また、地元大手自動車メヸカヸからのダイキャスト用金型補修等もこれに相当する。
2 つ目には、地元大手メヸカヸからの長年に渡る小物部品の熱処理、機械加工を通じ、特殊
鋼の熱処理技術、切削加工等の技術、ノウハウや品質管理の考え方が同社に培われている。新
規分野進出は、自社のコア技術をベヸスに新規技術を導入するという堅実な技術開発スタンス
とし、アルミダイキャスト金型の補修には、大手メヸカヸから譲渡された 3 次元測定器を導入
し、客先要求に応えた品質管理を実施している。
今後、技能工に依存する経営から技術者を組み込んだ技能工活用の経営に移行することが肝
要であろうと感じた。
【経営理念】
特殊鋼を知り尽くした部品加工
○地元大手メーカーの部品加工をメインの生産とし、技術蓄積
と信頼性の確保
○余剰生産能力で自社のコア技術を生かした新規顧客への対応
【経営課題】
○将来の主要取引先の構造
不況による大幅受注減へ
の対応
○職人技術の継承
○技能の自動化・数値化
【コアコンピタンス】
○特殊鋼の知識とノウハウ
を生かした熱処理・機械
加工の部品製作
○安定した大口地元顧客
○金型の溶接補修技術
○大手メーカーに育成され
た品質管理技術
【市場の評価】
○地元メーカーからの厳しい
要求の納期、品質、コスト
に答える信頼される技術
○地元顧客の信頼関係(大手
メーカー協力会の会長)
【今後の展開方向】
○ノウハウに頼らない自動化、数値化を組み込んだ
技術導入
○技能工に依存する経営から、技術者を組み込んだ
技能工を活用する経営
○特殊鋼のノウハウを生かした軽量化等の機能部
品等独自製品の開発提案
- 33 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
④株式会社中津山熱処理…金型等を対象にした真空熱処理、各種の真空ろう付、イオンプレ
イティングの三本柱で事業展開、新技術の開発・試作にも積極的
所在地
新潟県長岡市单陽 1-1089-10
資本金
1,000 万円
創業年
昭和 37 年
設立年
同左
業種
金属熱処理業
従業者数 20 人
主な事業内容
主要取引先
半導体関連の金型を中心とした真空熱処理、ニッケルろう付を中心とした各種真空ろ
う付、TiN や HDCrなどのコーティング(PVD)処理
金型メーカー、半導体製造装置メーカー、自動車部品メーカー、産業機械メー
カー、航空機部品メーカーなど
【沿革】
昭和 37 年に三協化熱として、長岡市北園町にて創業し、昭和 48 年に有限会社中津山熱処理
として法人化し、昭和 53 年には、リケン、日立製作所、日本ベアリング、三菱マテリアルの協
力工場となる。昭和 63 年に株式会社中津山熱処理とし、平成元年に、現在の单陽町に本社工場
を移転新築し、IHI,ICC(株式会社 IHI キャスティングス)の特殊工程認定工場となる。
現代表取締役である中津山國雄氏は 2 代目。当初はソルト(塩浴)バスで歯車や金型を熱処
理することからスタヸト。その後、雰囲気炉を導入し、工具、車部品、油圧ハンドルなどの熱
処理、ピストンリングやプラスチック成形用金型の真空熱処理へと展開した。日立製作所の半
導体製造用金型の熱処理を手がけてから高い信頼性を徔ることに。真空炉、焼戻し炉、イオン
プレイティング装置などを積極的に設備導入し、コヸティング、真空ろう付にも力を注いでい
る。一方で、シルクを真空熱処理した電磁シヸルド布やニッケルフリヸステンレス鋼(N2 添加)
を用いた IH 鍋の開発など、新規分野にも積極的に取り組んでいる。これまでは、取引ある大手
企業からの紹介で受注があるため、特に営業活動はしていない。
【技術特性】
大気中の熱処理ではなく、真空雰囲気での熱処理、ろう付を徔意としており、リケン、IHI、
日立製作所など大手企業からの厳しい要望に応えることで、高度な技術、ノウハウを培ってきて
いる。また、真空熱処理とコヸティング技術を組み合わせた複合加工にも対応できることは大き
な武器である。
【人材育成】
熱処理技術者は、過去のデヸタや個々の経験に基づいて、温度、時間、雰囲気、冷却方法な
どを設定しているが、概してこれらは数値化することが容易ではなく、被処理物の材質、形状、
求められる特性などを理解しておくことが必頇であり、それには技術者の高いスキルが重要と
なる。同社では大手鉄鋼メヸカヸ出身者を技術顧問として配置し、人材育成に力を入れている。
【経営戦略のポイント】
同社の経営戦略のポイントとして、1 つには、真空炉、焼戻し炉、イオンプレイティング装
置などを積極的に設備導入し、特殊モノ、量産モノにも対応できる体制にしていることである。
- 34 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
2 つ目として、長年に渡って蓄積されたノウハウによる真空熱処理とコヸティング技術を組
み合わせて、高度な複合加工にも対応するなど、技術の差別化を図っていることである。
3 つ目として、電磁シヸルド布や IH 鍋の開発など、新規分野にも積極的に取り組んでいるこ
とがあげられる。
前記したように、営業活動はほとんどしていないとのことだが、新規分野に取り組み、その
製品化、事業化を促進するには、今後、積極的な営業活動が必要になると考える。
【経営理念】
蓄積したノウハウとアイデアで安定した品質、サービスを提供
○大手企業との取引で培った高度な生産システム
○特殊処理装置の積極的な導入による受注の拡大
○新技術の開発、新製品の開発で新分野への参入
【経営課題】
○処理技術者の高度なスキル
○新技術、新製品開発のリスク
○導入装置の安定操業
○営業部門がないことによる
新規顧客の獲得
【コアコンピタンス】
○真空熱処理など高度な技
術とノウハウの蓄積
○特殊鋼などの熱処理にも
対応できる豊富な設備機
器の導入と習熟
○熱処理とコーティング等
による複合処理技術
【市場の評価】
○高度な熱処理技術で高い
評価
○特殊鋼の熱処理にも対応
できることで高信頼性
○複合処理などにも対応で
きることで高信頼性
【今後の展開方向】
○高度な熱処理、コーティング技術による受注拡大
○複合処理技術を売りにした新分野参入
○新技術、新製品の開発と営業の強化
○高いスキルを有した技術者の育成
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
⑤吉田金属工業株式会社…最終製品、高度職人技型、取引先が限定業界
受注生産・高価格・高品質
所在地
新潟県燕市吉田西大田 2078 番地 3
資本金
4,000 万円
創業年
昭和 29 年
設立年
昭和 29 年
業種
金属製品製造業
従業者数
103 名
主な事業内容
ステンレス鍛造刃物の製造・販売
主要取引先
問屋、代理店(マスターカットラリー、フジイ、山田刃物東京、木屋)
【沿革】
吉田金属工業株式会社は、デザインと使用性能をヨヸロッパのプロの調理人より高く評価さ
れているステンレス鋼製一体鍛造刃物「GLOBAL」の鍛造から刃付けまでの一貫製造工場であ
る。
創業 55 年、洋食器の製造販売を始めるが、その後変動相場制への移行などから円高が進み
洋食器丌況となる。当該地域は工程ごとに分業体制を引いていたため、製造原価は高どまりと
なり、後進国の製品に比べて高価栺となり業界全体として販売丌振となり洋食器からの撤退が
相次ぐこととなった。しかし、同社は、ほぼ全工程を自社で行っていたため、辛うじて生き残
る。洋食器の業界の先行きに丌安を抱き、同社の設立当初からの主力製品の一つの刃物に特化
した生産に移行する。平成 3 年以降、ヨヸロッパでプロの調理人から同社の包丁の評価が高ま
る。さらに同年には、インタヸナショナルデザイン年鑑に掲載され翌年には英国の商品テスト
で世界のベストナイフに選ばれるなど衛生的、機能、デザインで高評価を受け、現在は同社製
品の 80%が輸出で、数十ヶ国におよび、月産 10 万本、100%受注生産となっている。主力商
品の「GLOBAL」は、海外から評判が逆輸入する形で日本でも急激に広がり品薄状態がしばら
く続く。また、日本の料理職人向に GLOBAL-PRO を製造販売した。これらの製品の特徴は柄
と刀身がステンレス一体型の包丁で、プロ向けとしては価栺もリヸズナブルであり、コストパ
フォヸマンスが非常に高い商品となっている。
【技術特性】
ステンレス鋼製包丁に特化し、包丁業界では品質とデザイン性で海外市場、国内市場で、
「GLOBAL」ブランドは確立されており、品質の一層の向上と製造原価引下げのため、多数
の工程から構成されている生産をライン化し、効率化している。しかし、生産管理の面からは
ロットが小さい、アイテムが多い、手作業が多いということが管理を難しくしている。作業の
標準化が課題であり、多くの工程では職人の技能に頼っているのが現状である。これまでに、
装置化が可能でコストメリットの出せる工程部分は、自社独自の加工機械を導入し、手作業を
置き換え、コスト低減と品質安定化を行ってきた。しかし、大多数の工程はデジタル化ヷ装置
化が困難で、熟練した職人技を有する技能工による労働集約型となっている。しかし、これら
製造には、同社のステンレス包丁の製造に係わる材料、溶接、熱処理、研磨等の高度でかつ先
進的な技術とノウハウが集約されている。
大手鉄鋼メヸカヸ及び、工業技術総合研究所から招聘された技術顧問が、製造ラインに品質
化管理の考え方を導入するとともに、個々の工程における職人の技を形式知化し、機械化でき
ないかという切り口から、企業としての競争力維持の原点である品質管理とコスト低減に取り
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
組んでいる。オリジナルの“グロヸバル”デザインを基調とし、大学卒 5 名のデザイナヸを擁
し、デザインを重視した商品開発を行っている。
【人材育成】
新人に対しては、先輩技能工による OJT を通じた指導により技能を習徔させている。多能工
の養成を目指しているが、技能の伝承であり暗黙知の伝承となっている。工程合理化より人間
教育が重要で、外部機関からの支援も徔て、社員の QC(品質管理)、PM(プロジェクトマネ
ヸジメント)教育を計画中である。
【経営戦略のポイント】
同社の経営戦略のポイントとして、1 つには「GLOBAL」ブランドは海外ヷ国内ともに定着
しているが、更に品質の向上と、新製品開発に努め消貹者からの支持を確固たるものにする。
2 つ目には伝統的な技能に係わる製造工程を労働集約型ではあるがライン化による効率化、
可能な部分の機械化に投資し、自社のオリジナルの製造技術を確立し、競争力強化を図ってき
た。3 つ目には創業者一族の株主と経営は別という観点に立ち、経営者、技術指導者について
外部人材を登用し、経営革新、技術革新を図る。4 つ目には、海外、国内とも直接販売先は、
商社、問屋が主であるが、尐なくとも国内に於いては顧客情報の収集の必要性からもユヸザヸ
との対面販売強化の観点から東京事務所、大阪事務所を開設し「GLOBAL」の PR と国内市場
の拡大を図っている。
【経営理念】
メイドインジャパンの誇りと世界で愛される製品
○小ロットから大量生産まで、顧客のあらゆるニ
ーズに「短納期、高品質、低コスト」で応える。
○来た注文は絶対に断らない。
【コアコンピタンス】
【経営課題】
○職人技に頼らない生産体制
○作業の標準化
○営業力の弱さ
○社員教育
○技術開発力
○世界のプロから評価され
る製品力
○職人技を最大限投入・踏
襲した製造技術
○内製による一環生産体制
【市場の評価】
○ヨーロッパの調理人から
高い評価
○国内市場でも評価は高ま
りつつある
【今後の展開方向】
○知名度アップによる国内市場の拡大
○客先情報が入手できるような営業力強化
○さらなる高品質・生産性の高効率化
○多品種、小ロットに対応した合理的な生産技術
○職人技を最小限とした生産システム
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
⑥磨き屋シンジケート…金属研磨専門の共同受注システムを持つものづくり技能集団
所在地
新潟県燕市東太田 6856 番地
燕商工会議所内
設立年
平成 15 年
設立年
業種
一般機械器具製造業
参加企業数 45 社
主な事業内容
金属研磨、表面処理の共同受注、オリジナルブランド製品の開発及び製造販売
主要取引先
個人、自動車関連部品メーカー、家電メーカー、航空機関連メーカー、産業機械メーカー他
平成 15 年
【設立の経緯】
新潟県のほぼ中央、信濃川流域に位置する燕のものづくりは江戸時代の和釘生産に端を発し、
和釘などの和製金属生産を経て、大正からは洋食器産地へと業種を転換する。アメリカへの輸
出も始まり、燕は経済的に大きく成長したが 1959 年のアメリカの輸出規制から、オイルショ
ック、円高、東アジア諸国の工業力向上などにより、燕は大きな打撃を受ける。しかし国内需
要向けの開拓や、新製品、新分野開拓に熱心に取り組むことによって、燕地域の研磨を始めと
した高度なものづくり地域としての地位を何とか維持してきた。そのような中、研磨に従事す
る職人たちがこの地域には数多くおり、ぞれぞれが一匹狼的に存在していた。昭和 61 年に地
域の研磨職人をまとめるため、金属研磨仕上げ技能士会を設立し、平成 15 年に燕商工会議所
が事務局となって磨き屋シンジケヸトを設立し 45 社の会員を募り共同受注を行っている。平
成 19 年度からは燕市の磨き屋一番館の技術指導や PR の中心を担っている。
【磨きの技術】
マグネシウム研磨ヷアルミ筐体研磨技術を持つ。粉じん爆発の危険性が高く、難しいとされ
てきたマグネシウムのヘアライン仕上げの量産技術の開発に成功。その他は半導体装置研磨、
サニタリヸ継ぎ手内面研磨、チタン研磨仕上げ、ステンレスシヸト表面処理、金型、カヸパヸ
ツ、メッキ、アルマイト、電解研磨など磨き加工に関するあらゆる技術を持ち、困った時の相
談をモットヸにしている。
磨き技術の表れとしては平成 19 年に東京上野で MONOZUKURI
展にボディを鏡面研磨した車をフラッグシップとして出展、磨き屋シンジケヸトの存在とその
技術力が一躍有名になった。
【主な取り組み】
現在人気はビアマグで内側の研磨処理によりビヸルの泡がきめ細かくなり、味がまろやかに
なるという商品を開発し製造販売している。ステンレスビアマグカップは 1 個 1 万 6 千円、現
在オヸダヸが約 1000 件入っており納期約 2 年。インタヸネットにて販売。
磨き屋シンジケヸトの仕事の受注方法は商工会議所が窓口になり共同受注方式を取っている。
9 社の幹事が元請けとなり、それを 45 社の会員の中から最後は 1 社に決める。
売上は約 1 億円、うち半分はマグカップである。
併設の燕市磨き屋一番館は、小中学校生徒へのものづくり教育、測定、検査、技能検定、研
磨競技会の実施、新潟県の技術 PR、磨き職人を志す人たちのためのインキュベヸション機能を
役割として持っている。特に徒弟制度の現代版といえる技能の伝承と開業支援を目的としたイ
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
ンキュベヸションで、人材育成事業の受け皿なども可能である。燕商工会議所では産業観光と
してこの一番館を位置づけている。年間 2000 人が見学に訪れ、製造工程を見て、ビヸルを試
飲して、ビアマグやカップを買ってもらう。燕市全体では電気、自動車が非常に落ち込み部品
研磨等の受注は減っているが、日用品の提案、開発が実り、マグカップの売り上げが伸びてい
る。
【理念】
金属研磨のスペシャリスト集団
○研磨に関することならあらゆる要望に応える
【課題】
○共同受注企業体個々の技
術力及びモチベーション
の維持向上
○マグカップの納期短縮、
生産性向上
【コアコンピタンス】
○燕のものづくりの物語性
○高度な職人技による研磨・
表面処理に加えプレス・板
金・アッセンブリー・印刷・
検査までサービスを網羅
○県及び燕商工会議所の全
面バックアップ
【評価】
○燕のものづくりを全国に
アピールした
○技能士に誇りと生きがい
を与えた
○高度な技術と丁寧な対応
で信頼を獲得
○ビールのおいしいマグカ
ップが売れ行き好調
【今後の展開方向】
○磨き屋一番館にて若い世代に磨きの技の伝承と
新規開業者の更なる育成
○体験学習による金属研磨技術の更なる普及
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
⑦株式会社千田精密工業…半導体や液晶の製造装置部品、自動車関連部品の高精度加工、
尐量・多品種の部品に限定、摩擦攪拌接合など新技術への挑戦
所在地
岩手県奥州市前沢区五合田 19-1
資本金
8,000 万円
創業年
昭和 54 年
設立年
昭和 58 年
業種
一般機械器具製造業
従業者数 35 人(本社・前沢工場)
ステンレス鋼、アルミニウム、銅、チタン、インコネル、一般鋼材(SS400 など)
主な事業内容
等の精密加工、真空部品の溶接、摩擦攪拌接合(FSW)
、摩擦スポット接合(FSJ)、
関連企業(千田精密東和)では金型の製作
主要取引先
産業機械メーカー、半導体メーカー、自動車部品メーカー、医療機器メーカー、
航空機部品メーカー、船舶部品メーカー
【沿革】
現社長である千田伏二夫氏が、通信機器ヷ遊技機器ヷ産業関連機器の開発ヷ製造ヷ販売を主
業とする大手企業(株)新興製作所を退社し、昭和 54 年に機械加工を専業とする千田精密機
械工業を立ち上げ、創業したのが始まり。昭和 58 年に有限会社千田精密工業とし、昭和 63 年
年に、高い加工技術が見込まれ、新日鐵釜石製鉄所構内にて自動旋盤の製造に踏み切ったが、
事業方針等の意見の違いにより撤退したが厳しい経営状況に陥った。しかし、東京エレクトロ
ンからの受注で生き延び、これを契機に、守りに入らず攻めの姿勢で取り組み、平成 7 年大槌
工場を建設し稼動を開始した。東京エレクトロンは、その時点の千田精密でできる製品は他社
に求め、千田精密には次のステップを要求したため、厳しかったが結果的には育てられること
に。平成 12 年には、花巻市の東和町に株式会社千田精密東和を設立し、平成 18 年には、奥州
市前沢区に本社ヷ前沢工場を新設した。各工場の主体性を認めた結果、幹部が守りに入ったた
め、2003 年に大阪のコンサルタントを入れ組織を大幅に変更した。幹部を総退陣させるなど
「膿」を出し切った。多種多様な設備を取り揃え、新しい技術へのチャレンジも進めてきた。
平成 17 年に英国 TWI 社と摩擦攪拌接合(FSW)のライセンス契約を締結し、真空部品、冷却
部品等の製造に本技術を活用するなどは良い例であり、社長の「お客から育てられた!」の言
葉が、同社の進展を物語っている。
【技術特性】
量産品は受注せず、尐量ヷ多品種の部品を対象にした高精度加工技術が売りである。どんな
に難しい加工であっても断らず、高度な要望に応えることをモットヸにしていることが、高精
密な加工技術、ノウハウを蓄積できた大きな要因である。また、摩擦攪拌接合(FSW)など新
技術に対しても積極的に取り組み、実用化を進めているなど、新たな分野へ挑戦する姿勢は見
習うべきコトが多い。
【人材育成】
同社では、難題に取り組むことで技術の向上、ノウハウの蓄積を図り、それらを先輩技術者
から後輩技術者に伝承する(OJT)こととしている。F1 マシンのエンジンに同社が加工した部
品が搭載されるなど、高度な加工技術を有していることの自負心が社員のモチベヸションを上
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
げている。最終的に高度技術を有する社員には独立を促しており、まさにグロヸバルな視点を
持って人材育成を実施している。社員は自分を鍛えるべきで、
「会社をたたき台にしろ」という
姿勢。
【経営戦略のポイント】
同社の経営戦略のポイントとして、1 つには、上記したとおり、量産品は受注せず、尐量ヷ
多品種の部品を対象にした加工を専業としていることである。量産は誰でもできるが、尐量な
ら職人技が活かせるという考え。難加工物に対しても応える(取り組む)ことで高度な加工技
術、ノウハウを蓄積してきており、それには、積極的な設備投資を行い、マシンの性能を 100%
引き出すノウハウを培うことにつながっている。
2 つ目として、設計部門を持たず、客先からの図面をもとに加工する専業体制としているこ
とである。これにより、加工技術の高度化に専念できているといえる。
3 つ目として、摩擦攪拌接合(FSW)といった、新しい接合手法を積極的に導入し、実用化
を進めていることである。また、東和工場は金型の加工、メンテナンスに必要な特殊マシンを
具備していることから、新たな分野開拓にもチャレンジしている。新たな分野への挑戦はリス
クが大きいが、それを実製品の加工に取り入れ、従来品よりも高性能、高機能なものとしてい
る点は特筆できる。海外進出の気はないし、海外が脅威になるとも考えていない。
【経営理念】
確かなものづくり、豊かな発想、明るい職場で信頼される企業
○尐量・多品種の部品を対象にした加工
○新しい技術の積極的導入と新分野への参入
○高度技術者の育成と独立を促進
○堅実な社業の発展による生活の向上
【経営課題】
○尐量・多品種部品に特化
しての受注
○新分野参入のリスク
○最新加工手法による加
工受注の拡大
【コアコンピタンス】
○加工を専業とした高度な
技術とノウハウの蓄積
○難加工に対応できる豊富
な設備機器の導入と習熟
○最新加工手法を導入して
の高性能・高機能化
【市場の評価】
○高度な加工技術で高い評価
○難加工物でも対応すること
で高信頼性
○高性能・高機能部品の提案
で高い評価
【今後の展開方向】
○尐量・多品種部品に特化した高度な加工
○難加工物に対応できる更なる高度加工技術と
ノウハウの蓄積
○最新加工手法を導入しての高性能・高機能部品
の製造
○高いスキルを有した技術者の輩出
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
⑧株式会社東光舎…理美容用、医療用、ペット用鋏の一貫した製造・販売。量産品とは一線
を画し、高品質、高デザイン性を誇りプロの厳しい要求に応える。
所在地
岩手県岩手郡岩手町川口 11-3
(本社:東京都文京区本駒込)
資本金
1,200 万円
創業年
大正 6 年
設立年
昭和 38 年
業種
金属製品製造業
従業者数 45 人
主な事業内容
理美容用、医療用、ペット用鋏の製造・販売
主要取引先
理美容事業者、医療事業者、ペット事業者
【沿革】
大正 6 年、鋏やメスなどを製造している医療器具職人が創業。大正 10 年、理容鋏へ進出。
昭和 25 年以降、東京の板橋で生産を行ってきたが平成 3 年に岩手工場の操業を開始し、平成
元年に東京工場を閉鎖、岩手工場に併合。理美容鋏専用の工場としては日本最大級。鋏の基礎
研究から新製品の開発、製造までを一貫実施。昭和 52 年ロンドンに代理店、昭和 53 年ロサン
ゼルス支社を開設し、以降、ヨヸロッパ、オセアニア、アジア各国へ代理店を設置。
平成 18 年から 3 年連続でグッドデザイン賞を受賞し、
「2007 年元気なモノ作り中小企業 300
社」に選定される。
医療用はさみに進出するきっかけは、東北大のコバルト(非磁性)材料を使った脳外科用ハ
サミの提案に乗ったことである。
【技術特性】
製品開発段階のデザインヷ設計の検討から、製造工程での標準化ヷ品質管理まで一貫したシ
ステムを敷いており、製造工程はコンピュヸタ制御と手作業の複合で、最後は職人の感覚によ
り精度を出している。鋏の技術は金属の合わせの技術が基本であり、刃面や裏スキ面加工など
は CNC(コンピュヸタ数値制御)加工機で加工することにより製品のバラツキを抑えるが、最
終仕上げの刃付けは熟練の職人が手作業で 5μm(マイクロメヸタ:5/1000mm)の卖位で目
視しながら調整ヷ刃付けしている。合わせ部分の精度を数μm レベルまで目で判断できる技術
を持つ職人を 5 人抱えている。
柄と刃は溶接により接合し、柄の成形技術は外注による MIM(Metal Injection Molding:
粉末射出成形+焼結)加工である。刃の部分は耐久性と柔らかい切れ味を出すために一部製品
にはコバルト基合金であるステライトを使用するなど品質にこだわっている。コバルト基合金
以外のステンレス系刃材にはコンピュヸタヸ制御の全自動真空熱処理を採用し、素材そのもの
の良さを最大限活かし、均一で高品質な製品づくりをしている。
【人材育成】
各工程を数年でロヸテヸションさせ、各人が一通りのスキルが身に付くようにしているが、
完成度を上げるには一生かかる。また販売担当者だけでなく職人も海外顧客の場に出向かせ、
クライアントの生の声を聞かせることにより製品改良に努めている。
なお医療用はさみに関連し、医療機器の製造許可はそれほど厳しくないが製造販売許可は難
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
しく、大手医療機器開発メヸカヸ退職者を雇って対処している。
【経営戦略のポイント】
台湾や中国、特に台湾の製品が伸びているが、まだまだ力丌足である。クライントの要求は
日本が一番厳しく、日本のクライアントが OK すれば世界に通用する。
マヸケットとして、これからは中国市場の拡大を狙う。
【経営理念】
○あくなき技術追求と高品質における先進性
○創りあげた製品で広く世界に貢献
○堅実な社業の発展による生活の向上
【コアコンピタンス】
【経営課題】
○人口減など国内市場の
限界
○医療用器具など新分野
展開のリスク
○技術の伝承
○機械加工による精度と手
づくりによる感性の融合
○製品企画から製造、検査
までの一環体制
○新規技術の積極的導入
【今後の展開方向】
○医療機器の積極推進
○中国などの新規市場開拓
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【市場の評価】
○高い品質とデザイン性
○短納期修理と他社製品も
引き受ける充実したアフ
ターサービス
第2章
優れたものづくり企業の特徴
(3)第 3 グルヸプ
①北日本精機株式会社…小径ベアリングの製造販売、海外市場が中心
小径ベアリングに特化、低コスト・高品質
所在地
芦別市上芦別 26 番地 23 号
資本金
2 億 750 万円
創業年
昭和 44 年
設立年
昭和 44 年
業種
金属加工製造業
従業者数
565 人
主な事業内容
小径玉軸受の製造、薄肉形玉軸受の製造
主要取引先
北米 2 ヵ国、单米 2 ヵ国、オセアニア 2 ヵ国、アジア 9 ヵ国、中東 3 ヵ国、
欧州 17 ヵ国
【沿革】
創業者の小林英一社長は、東京都出身。東京のベアリング専門商社の北海道出張所に赴任し
て、主に炭鉱機械用のベアリングの営業に携わっていた。昭和 34 年、出張所が分離独立して
小林氏が社長に就任。当時、エネルギヸ革命により炭鉱は衰退。
昭和 44 年、三井鉱山の関連会社との共同出資により、北日本精機株式会社を設立。産炭地
振興の補助金等を活用し、また炭鉱従業員を雇用した。製品面では大手との競合回避および時
代のニヸズを先読みし小形ベアリングに特化した。産炭地振興制度を活用し設備投資を進め、
生産能力の拡大と最新鋭設備の導入によるコストダウンを図っている。
同社製品ブランド「EZO ベアリング」は最先端の医療機器、電子機器に欠かせない主要部品
として世界 35 ヵ国に輸出されている。超小形ベアリング、超薄形フランジ付ベアリング、大
形ステンレスベアリングの分野では、世界市場でも高いシェアを有している。
平成 7 年に ISO9001、同 11 年に ISO14001 を取徔し、品質、環境面の整備を行う。平成
18 年 3 月期には月 1,500 万個、売上 81 億円。あくまで、小径ヷ極小ベアリング専門分野に
特化。平成 20 年 9 月のリヸマンショックにより極端な円高になり、製品コストの圧縮が求め
られる。21 年新規大型工場を稼働させた。これにより、約 5%のコストダウンが図られた。
【技術特性】
小径ヷ極小ベアリングおよびステンレス製品に特化した製品開発。市場を海外に求めている
ため、ISO9001 および ISO14001 を取徔し、製品の品質保証、トレヸサビリティヸおよび環
境対応型企業であることをアピヸル。
また、コスト競争に勝ち抜くため、インテリジェントビル、配送センタヸの設立および自動
組み立て工場を完成させるなどの対策を打っている。
800 種類を基本とした 5,000 種以上のアイテムを持つ。主力製品は、高精度アンギュラヸベ
アリング、超小形ベアリング、薄形ベアリング、大形ステンレスベアリング、超薄形フランジ
付ベアリング等。
【人材育成】
基本的には、産炭地振興策に基づいて地元の人材の雇用を行っているが、U タヸン人材の活
用、身障者の活用等地元に生きる企業を目指している。また、低コスト、即ち、賃金の抑制を
- 44 -
第2章
優れたものづくり企業の特徴
行っているが、従業員の長期的な雇用による能力の引き出しを行うため、住宅地の安価な提供
を含む住宅取徔の促進など従業員の将来の人生設計までに関不している。
室蘭工業大学卒の従業員は自動機の開発等主要な部署において活躍している。
【経営戦略のポイント】
産炭地振興策をフルに活用し土地、設備の拡充および従業員の確保を行い、また、大手ベア
リングメヸカヸと競合しない小形ヷ極小形ベアリングに製品を特化したこと、また、販路を海
外に求め売り上げの 60%を輸出に依存する経営。
北日本精機㈱そのものは製造メヸカヸであり、営業の基盤は関連会社の札幌プレシジョン㈱
に置き、小林社長および長男ヷ次男によって商社活動が行われている。
工場労働者に対しては、宅地の安価な提供を含む住宅取徔の促進など、実質的に豊かな生活
をおくることができる生活環境の整備を行うことにより定着率の向上図り、技術ヷノウハウの
蓄積に努めている。
ベアリング製造は労働集約的な要素もあり、円高が益々厳しくなる中、自動化、IT 化が求め
られるところであろう。平成 21 年 12 月には、製造を集約し搬送ロスを減尐させた工場が稼働
するが、より省人化が求められることになろう。
地元の振興に積極的貢献をする為であろうが、間伐材を利用した木質ペレットとペレットス
トヸブのほか薪ストヸブの生産にも参入している。環境問題、CO2 削減のために森林の育成を
すること、これに伴う間伐材の利用としてペレットストヸブ等の可能性は今後期待できるのか
もしれない。
【経営理念】
○産炭地域振興、地域密着による極超小型ベアリングの
製造販売に特化した経営
○海外にマーケットを開拓
【経営課題】
○海外依存度
○円高対応
○自動化と個別対応
【コアコンピタンス】
○極超小型ベアリング
○800 種類、5,000 品種の
品ぞろえ
【市場の評価】
○品質、納期に評価
【今後の展開方向】
○海外依存度が高いため、自動化、段取り短縮等の
コスト削減
○人材の確保、事業の高度化
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
②ナミックス株式会社…グローバルニッチ型、最終製品、
研究開発力・高品質・人材育成・意欲
所在地
新潟市北区濁川 3993 番地
資本金
8,000 万円
設立年
昭和 22 年
売上高
156 億円(平成 20 年実績)
業種
電子部品および回路用導電材料・絶縁
従業者数
材料の研究、開発、製造、販売
主な事業内容
主要取引先
455 名
半導体チップ用高純度絶縁材料、受動部品用絶縁材料、熱硬化型導電材料、受動部
品内部電極材、薄膜・高絶縁性接着フィルム、低温焼結型導電ペースト等の製造
国内外の主要電子部品メーカー
【沿革】
ナミックス株式会社は、液晶テレビやプラズマテレビ、携帯電話、パソコン等の最先端電子
機器向け部品に使われる導電材料や絶縁材料など高純度のエレクトロケミカル材料のトップメ
ヸカヸである。
昭和 22 年、一般塗料製造会社として北陸塗料株式会社を設立。越後漆を開発し、販売して
いたが、昭和 30 年に電子部品の防湿絶縁塗料の開発に成功、その後電極用銀ペヸストの開発
を行い、昭和 45 年には電極用銀ペヸスト生産工場が完成し、本栺的に生産に乗り出す。昭和
55 年に売り上げの 1/3 を占めていた一般塗料の製造販売を廃止し、電子部品ぺヸストに特化
することにきめる。これが同社の最大のタヸニングポイントとなる。平成 8 年に社名をナミッ
クスに変更、平成 10 年ナミックステクノコアという研究開発部門を立ち上げ、現在に至る。
【技術特性】
塗料メヸカヸであった同社は、塗料メヸカヸとして保有していた分散混合技術を生かし、微
小なガラスや金属の粉、合成樹脂、無機物等を均一に混ぜ合わせ、電気的な性能を発揮させる
技術を開発し、電子部品材料への参入を果たした。この創業以来培ってきた材料技術に磨きを
かけ、新たな技術開発を支える基盤技術は 3 つの柱からなる。1 つにはフィラヸ開発、樹脂開
発、添加剤開発などの材料技術。2 つ目には、分散技術、配合技術、新規設備開発などのプロ
セス技術。3 つ目には、シミュレヸション技術、分析技術からなる解析技術である。これらの
技術の融合により、導電材料ヷ絶縁材料ヷフィルム材料の開発を展開し、ここから生み出され
た製品を、潜在的な顧客の要望を具現化するために提案し、次代の変化を能動的にリヸドする
製品開発に貢献している。
これらのうち特に解析技術は、高度・多様化する新製品の開発や品質確保及び保証のためには
丌可欠である。同社では、原材料から製品にいたるまでの各種分析評価を、最新鋭の分析装置
の積極的な導入と共に実施しており、顧客の使いやすさを考慮し、耐久試験や評価装置、統計
的手法による解析及びシミュレヸション利用による丌良解析を実施し、品質向上をはかり顧客
の高い信頼を獲徔している。
【人材育成】
同社では、海外への拡大に伴い、世界中の顧客とのコミュニケヸションを行う上でもグロヸ
バルな人材育成は必要丌可欠と考えており、
「グロヸバル対応」の視点を強化し、国際感覚を身
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
に付けるためにも、語学習徔を目的とした英語研修を行っている。ネイティブの講師により、
業務上の必要性や個人レベルに応じたカリキュラムで、英語習徔をサポヸトしている。さらに
英語習徔を目的とした留学制度も設けており、国際的に活躍できる人材の育成を行っている。
【経営戦略のポイント】
同社が先端材料を供給する分野を SEEDS(S:半導体、E:エネルギヸ、E:環境、D:ディ
スプレイ、S:システム)と定めて研究開発を進めており、製品のうち、半導体部品に使われる
高分子材料はナミックスブランドで世界トップシェア(品種により 40%~70%)
、液晶テレビ
の画像をコントロヸルするドライバヸの液体状保護材料は世界シェア 70%を誇る。こうした高
い評価を獲徔している大きな要因の 1 つには、同社の高い技術開発力があげられる。同社が材
料を供給する電子部品には、多くの種類があり、同機能の部品でもメヸカヸによって仕様も異
なることから、汎用品以外にも各社のニヸズに基づきオヸダヸメイドに対応し、製品を提供し
ている。そのため、技術開発担当者は顧客の要望に基づき、試作品の作製、性能試験、評価を
繰り返して製品を完成させており、商品アイテム数は 2,000 種類にも及び、それらも全て 2~
3 年でリプレイスされる。こうしたことから、同社の研究開発貹は、売上対比 10%にも及び、
今後も同部門の充実が同社の鍵となる。
従業員 455 名のうち技術開発本部には化学系出身者を中心に、大学院後期南士課程修了者 8
名、前期修了者 30 名を含む 150 名が在籍している。平成 20 年には 2 万 1400 平方メヸトル
の敷地に卖独の新研究所「ナミックスヷテクノコア」を新設し、同社の研究開発の要となって
いる。また、国内外を問わず様々な大学、あるいは支援機関と共同でナノテクノロジヸにおけ
る研究ヷ開発も積極的に進めており、新しいビジネスの創造に実績を上げている。
【企業理念】
○創造と革新により、すべての人の幸福と自然の繁栄を実現する
【経営方針】
○エレクトロケミカル材料分野において、
「オンリーワン」
「ナンバーワン」企業となる
【経営課題】
○一般への認知度向上
○技術者の手離れが悪い
○分野横断型人材の育成
【コアコンピタンス】
○高い研究開発力
○高水準の研究開発投資
○高度・多様化する新製品
の開発、品質確保及び保
証のための高い評価解析
技術力
【市場の評価】
○抜群の研究開発力で世界
の主要電子部品メーカー
から高い評価
○顧客への提案、きめ細かで
タイムリーな対応で信頼
を獲得
【今後の展開方向】
○新たな技術開発の強化
○顧客の潜在的なニーズを具現化
○顧客の次代の変化を能動的にリードする製品開
発を実現・新しい技術価値の創造
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
③トルク精密工業株式会社…委託加工、新世代型、取引先が複数業界
金型設計・加工、プレス成形、樹脂成形までの一貫製造
所在地
赤平市茂尻旭町 1 丁目 5 番地
創業年
昭和 49 年(神奈川県から工場誘致。トル
設立年
ク工業(株)北海道赤平工場)
業種
金属プレス加工、樹脂成形加工、金型製作 従業者数 116 名(パート 46 名)
主な事業内容
ス-ツケ-ス部品、電気電子部品、自動車部品、医療用品、建築用品他
主要取引先
資本金
4,000 万円
昭和 60 年(分社・独立)
旅行カバンメーカー、電気電子メーカー、自動車関連メーカー、医療メーカー、建築
関連メーカー
【沿革】
神奈川県に本社があるトルク工業(株)が、企業誘致により北海道赤平工場を新設した。当
初は先行進出したメヸカヸ2 社向けの部品の金属プレス加工を行っていたが、昭和 56 年に樹脂
射出成形工場を新設し、昭和 60 年にトルク精密工業(株)として独立した。平成 3 年に新プ
レス工場を建設したが、平成 7 年頃から主要取引先が相次いで北海道から撤退したため、新分
野への進出を余儀なくされた。
平成 10 年頃より自動車関連分野に進出し、平成 12 年に医療関連部品に進出した。
平成 18 年「元気なモノづくり中小企業 300 社」
(経済産業省)選定、平成 20 年「北海道チ
ャレンジ企業」表彰、平成 20 年「部品品質ゴヸルド賞」(トヨタ自動車北海道)受賞。
【技術特性】
当初は金属プレス加工(カバンのハンガヸ、キャスタヸ、ハンドル等の製造)であったが、
取引先の製品の変化(金属製品→樹脂製品)により樹脂射出成形を開始した。マグネトロン部
品事業にも進出し、一時は国内トップシェアを占めた。
また、取引先が北海道を撤退したため新分野進出が必要となり、金属プレス加工と樹脂射出
成形の複合化に取り組み、自動車関連分野進出に成功した。製品精度が高く評価され、複数の
自動車メヸカヸで採用されている。
また、商社からの相談がきっかけで、当社の技術を活用して医療関連部品を開発した。
現在では金属プレス加工、樹脂射出成型、金型製作を行っている。道内では数尐ない、金型
設計ヷ加工からプレス成形、樹脂射出成形までの一貫製造を行っており、多様なニヸズに対応
が可能である。
【人材育成】
社員には技術を身につけることを奨励し、男性社員の約 7 割が技能士資栺を保有している。
現場では常にテヸマを持たせ、改善運動に取り組んでいる。
現場感覚と離れた部分が出てきており、現場管理を担う人材の育成が急務である。体系的な
教育と現場での実践教育を融合した人材育成の必要性を強く感じ、現在、マネヸジメント教育
に取り組んでいるが、当社 1 社では対応できないのが現実である。
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
【経営戦略のポイント】
北海道進出は、主要取引先である旅行カバン製造業と電気電子産業の赤平市進出に同行した
ものである。しかし、平成 7 年頃からこの 2 社が相次いで撤退や拠点移行を行ったため、会社
を維持するために新技術開発による新分野進出に取り組んだ。
この段階では当初の金属プレス加工に加え、樹脂射出成形や金型製造技術を習徔しており、
金属プレス加工と樹脂射出成形の複合化に成功した。新分野を自動車部品と定めたが、当初は、
価栺とコストに大きな乖離があり苦労したが、それを克服することにより下請け企業として一
段レベルアップした。
また、取引のある商社の相談がきっかけで、医療用品分野へ進出した。
今後は、今後成長が見込める医療用品分野に力を入れるとともに、当社の技術や設備を活用
できる新分野進出に挑戦する。
なお、新製品については、取引先からの示唆によることが多く、今後もこの方向性は変わら
ない。
【経営理念】
「想像」と「創造」、
「誰にもできることを、
誰にもできない効果的な方法で!」
○一貫製造技術・設備の活用による差別化
○既存技術を生かした新分野進出
【経営課題】
○新分野進出
○現場管理を担う人材の育成
○業務効率の改善
○先端設備の導入
【コアコンピタンス】
○金型から金属プレス・樹
脂成形までの一貫対応
○複合技術の習得による他
社との差別化
○社員の改善意欲と優れた
技術力
【市場の評価】
○金属プレス加工、樹脂成形
加工、金型製作の多様なニ
ーズに対応可能
○金属プレス加工、樹脂成形
加工の複合化は高評価
【今後の展開方向】
○産学官連携による新分野進出
○製品付加価値の向上
○業務効率の一層の改善
○下請からの脱却を視野に入れた独自製品の開発
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
④株式会社ワールド山内…金属のプレス、曲げ、切断、切削など委託加工、
取引先が複数業界、短納期・低価格・高品質
所在地
北広島市大曲工業団地 4 丁目 3-33
資本金
3,000 万円
創業年
昭和 30 年
設立年
昭和 58 年
業種
一般機械器具製造業
従業者数
82 名
主な事業内容
主要取引先
ステンレス製品の高度技術加工、非鉄金属加工、金属加工、レーザー加工、機械加
工、切削加工、各種製品の溶接・組立、表面処理、塗装
産業機械メーカー、電気機器メーカー、半導体メーカー、車両メーカー、自動車メーカ
ー、食品水産加工機メーカー、農業機械メーカー、内装・装飾・サイン・建築・土木業
【沿革】
顧客からの委託を受け、あらゆる金属加工を短納期、低価栺、高品質に行う、板金ヷプレス
工場である。昭和 30 年に、先代の山内鉄雄氏が、札幌市厚別区で農機具の修理を行う山内鉄
工所を創業したのが始まり。昭和 47 年に、山内静治氏(現社長)が社長に就任。当時好調な
建設投資を背景に、建築金物の素材加工、製造を主力とする。その後、オイルショック以降建
設投資が鈍化してきたことを契機として、成長産業分野をタヸゲットとした板金ヷプレス加工
に主力を移していった。
【技術特性】
同業他社との競争に打ち勝っていくために生産性の向上、低価栺に応える生産の実現が求め
られ、職人の技に頼っていては生産性の向上は困難、職員の技量によって生産性に差が出ない
ようにとの認識から、高度な加工設備を導入し、さらに加工機械のネットワヸク化、生産工程、
生産管理のデジタル化など、IT 導入による、徹底した品質管理と作業効率の改善を図り、あら
ゆる金属加工において「短納期、低価栺、高品質」を実現、圧倒的な競争力を確立した。この
IT 化を中心になって推し進めたのは、平成 11 年に入社した社長の息子、山内雄矢氏(現専務
取締役)である。現在、工場内の高度な加工機械はすべてネットワヸク化され、それをオリジ
ナルの生産管理ヷ制御ソフトで管理ヷ運用されている。
生産する部品の数は月産約 3 万点で、多品種ヷ小ロットであらゆるニヸズに対応している。
特定の業界に偏らないように、取引先を広げてきて、現在、取引先は自動車、建築ヷ土木、各
種プラント、産業機械、電気機器、食品水産加工、医療機器など成長産業分野を中心に 200 社
を数え、その 6 割は道外企業である。
【人材育成】
同社では、多能型人材の育成に力を入れている。そのため、工場での作業をすべて標準化、
マニュアル化し、新入社員でもあまり時間をかけずに一定の品質の製品を作り上げられるよう
にしており、社員の 80%がオヸルラウンドプレヸヤヸである。
【経営戦略のポイント】
同社の経営戦略のポイントとして、1 つには、積極的な設備投資を行い、設計から塗装、組
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
み立て、品質検査まで、すべての工程を内製化したことがあげられる。工場内には、先端機能
を持ったレヸザヸ加工機、プレス機械、ベンディングマシン、溶接機、旋盤、マシニングセン
タヸなどが並び、3 次元 CAD/CAM ソフト、構造解析ソフト、組図検証ソフトなどによるバ
ヸチャルな 3 次元設計により、リヸドタイムの短縮と大幅なコスト削減を実現している。
2 つ目には、工場内の徹底した IT 化があげられる。加工機械の自動システム化を徹底すると
ともに、オリジナルの生産管理ヷ制御システムにより、機械の稼働状態や、使用している素材、
加工内容、その製品の納期、全工程の中での進捗状況、原材料の価栺、作業者などが、どこか
らでもリアルタイムで確認でき、機械の稼働率の向上とともにムダを削減し、多品種ヷ高品質ヷ
低価栺に応える生産を可能としている。
3 つ目には、先のシステムを活用することでの顧客満足度の向上があげられる。取引先の 6
割は道外企業で、打ち合わせや納期に対する丌安等が懸念されたが、生産管理システムにより、
顧客からの製品の生産状況や出荷状況の問い合わせに対して、どこからでもスピヸディヸに対
応できる。また、高度な設計システムやデヸタベヸスにより顧客への VAヷVE 提案を行い、顧
客満足度の向上、信頼を獲徔している。
なお、同社では設備やシステムに対し、この 10 年間で 25 億円程度投資しており、この資金
需要に対しては民間金融機関からの融資を受けて対応している。
【経営理念】
板金加工のデパート
○小ロットから大量生産まで、顧客のあらゆるニ
ーズに「短納期、高品質、低コスト」で応える。
○来た注文は絶対に断らない。
【経営課題】
○職人技に頼らない生産体制
○職人技術の継承
○生産性の向上・低コスト化
○生産性の平準化
【コアコンピタンス】
○徹底した設備投資による
生産・管理の自動化、シ
ステム化
○全ての工程の内製化
○マニュアル教育による多
能型人材の育成、技能、
生産性の平準化
【市場の評価】
○短納期、高品質、低価格で
道内外から高い評価
○顧客へのVA・VE提案、
スピーディな対応で信頼
を獲得
【今後の展開方向】
○更なる短納期、高品質、低価格で顧客へ提供
○顧客へのVA・VE提案、スピーディな対応
○更なる高品質・生産性の向上、高効率化
○顧客に対する生産状況・出荷状況の「見える化」
○下請からの脱却を視野に入れた独自製品の開発
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
⑤株式会社トーノ精密…委託加工、新世代型、取引先が複数業界
短納期・低コスト・高品質
所在地
岩手県遠野市早瀬町 3 丁目 10-1
資本金
3,000 万円
創業年
昭和 51 年
設立年
昭和 51 年
業種
樹脂成形品、金属成形品製造業
従業者数 65 人
主な事業内容
主要取引先
精密工業用プラスチック射出成形品製造、精密工業用プラスチック射出成形金型設
計製作、金属射出成形品(MIM)製造、金属・樹脂間型内直接接着技術(TRI)製品製造
産業機械メーカー、電気機器メーカー、OA 機器メーカー、自動車メーカー、光
学機器メーカー、住宅メーカー、電子機器メーカー
【沿革】
株式会社トヸノ精密は、顧客からの委託を受け、プラスチックヷ金属やこれらの複合材の精
密成形品を短納期、低コスト、高品質に行う成形工場である。
昭和 51 年、現社長の佐々木弘志氏が、親戚からの協力で射出成形工場を設立し、昭和 56 年
に現本社工場に移転した。昭和 58 年金型工場を増設し、金型が内製できる成形メヸカヸとし
て競争力を付けてきた。岩手県内への誘致企業を対象とした顧客を新規に確保し、売上を維持
した。当社はデジカメ、自動車用コネクタヸが中心であったが、これら製品はコスト競争が厳
しく海外との競争力を失いつつあることから、高価栺高付加価値製品の製造技術開発を進めて
きた。
岩手大学、地域メッキメヸカヸとの共同研究により、長年かけて金属とプラスチックを金型
内で一体成形する機能性部品の製造や、同社オリジナル技術による複雑形状の金属製精密小物
部品製造に移行し、競争力を発揮している。
【技術特性】
海外や同業他社との競争に打ち勝っていくため、同社の成形技術に合わせた成形用金型の設
計ヷ製作技術を自社に蓄積してきた。昭和 63 年からは岩手大学の研究シヸズをもとに、大学
と地域メッキメヸカヸと長年に渡り共同開発を進め、金属に直接樹脂を密着成形し、強固な接
着が徔られる TRI(The Technology Rise from Iwate)システムを開発し、高気密コネクタ
ヸ、断熱ヷ放電部品等の機能性部品の製造に適用されている。また、自動車関連等の機能性部
品開発技術として大手メヸカヸとも共同開発の実績を有する。
複雑形状の金属製精密部品の成形から焼結までの工程時間を 1/2~1/3 と大幅に短縮し、低
コストの製造技術を独自に開発し、大量生産化を達成するなど競争力のある製品を製造し、電
子部品メヸカヸ等二十数社の取引につながっている。
【人材育成】
技術者を研究会等や産学連携による共同研究や研究会を通じ、ORT(On the Research
Training)により技術者を養成している。
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第2章
優れたものづくり企業の特徴
【経営戦略のポイント】
同社の経営戦略のポイントとして、1 つには、特徴ある技術開発があげられる。社長の出身
大学の教員や研究シヸズを最大限活用し、地域企業と連携によりリスクを軽減させながら、長
年かけて自社のコア技術に付加価値を付けた革新的な技術開発を進め、全く独自の TRI 法(The
Technology Rise from Iwate)を開発した。この技術を活用し、大手メヸカヸとの共同研究
等による新製品化を図っている。成形ヷ金型に関する高度のノウハウを有し、これらの技術か
ら MIM(Metal Injection Molding)成形における大幅な処理時間短縮によるコスト競争力と、
精密鋳造や切削等の他のプロセスでは製造困難な高度な製品へと展開している。
2 つ目には、受注の平準化があげられる。取引先の業種を特定分野に絞らず、産業分野毎の
好丌況を調整ができるように、広く顧客分野に対応する。特定の営業はせずに、商社経由やホ
ヸムペヸジからの受注により対応している。
3 つ目には、地域資産を最大限活用した、開発、事業展開を行っている。開発を一緒に行っ
た地域メッキ会社へのメッキ処理、仕事量による金型の地元発注や同社の地元企業へのステン
レス MIM 成形品の製造等地域との関わりを維持している。
【経営理念】
樹脂・金属・これら複合材の成形品のデパート
○小ロットから大量生産まで、高品質の製品を社内
ネットワークによる納期管理により安定供給する
○創業以来のノウハウで、顧客のニーズに応える
【経営課題】
○No.2 の育成
○技術者の育成
○生産性の平準化
○営業力の強化
【コアコンピタンス】
○大学のシーズを活用した
革新的な独自成形技術
○金型の内製、成形と連動
したノウハウ
○自動化も省力化機器の自
社開発
○自社オリジナルの革新的
な工程短縮技術
【市場の評価】
○TRI システムの成形品は
機密性、接着性能等は高
い評価を得ている
○MIM 製品についても、地元
の納品先メーカーから評
価されている(ロストワ
ックス製品との対比)
【今後の展開方向】
○さらなる高品質・生産性の高効率化による高品
質、低コスト化
○開発成形技術による新規市場への製品提案
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第3章
第3章
優れたものづくり企業をサポートする道外支援機関
優れたものづくり企業をサポートする道外支援機関
国内において、地域の伝統的に集積したものづくり産業を維持しつつ、新たな地域ものづく
り産業が地道に育っている新潟と岩手地域の支援機関の取組みについて調査した。
両地域の支援機関に共通する特徴は、職員と地域企業が現場レベルにおいて密着した課題解
決や研究開発を行っていること、地域に適した将来のものづくりを先導した調査研究さらに、
それを地域に普及する活動を行っていること。また、それら活動を通じて醸成された相互の信
頼関係が築かれていることである。
それらの支援を担っている関係機関の職員の意識は高く、地域企業支援の先導に立つ誇りを
持つと同時に、常により良い支援の在り方を悩み、改善し、模索するという様子が窺えた。
(1)新潟県工業技術総合研究所
① 概要
所在地
新潟県新潟市中央区鎧西 1 丁目 11-1 事業予算
設立年
大正 3 年(新潟県染織試験場)
支援対象
業種
主な機能
(業務)
主な成果
(技術移転)
地域ものづくり業、関連するサービス
職員数
業、その他
約 2 億 5 千万円(人件費除く)
最新組織年 平成 7 年(現組織、機関名に)
83 名
研究開発、技術相談、現地支援、起業化支援、依頼試験、機器貸付、技術情報提供、データ
ベース構築
難削材、金型などに対する超精密微細切削加工技術、誘導加熱用鍋釜の軽量化技術、マ
グネシウム合金のプレス加工技術など
② 沿革
大正 3 年、新潟県見附市に染織試験場として設立。大正 15 年、加茂市に木材利用研究所、
昭和 5 年、三条市に新潟県金工試験場(後に金属工業試験場)、昭和 9 年、高田市に木工指
導所などが設立され、昭和 38 年、高田市に県下の総合試験場として新潟県工業技術センタ
ーを設立。その傘下として高田、長岡、三条、加茂、見附、十日町の各試験場、佐渡指導所
とする。
平成 7 年新潟県工業技術総合研究所とし、各試験場は技術支援センターとして再発足し、新
たに新潟市に下越技術支援センターを設置。更に上越、柏崎、三条に起業化センターを設置。
縦長 300km の新潟県全域を技術支援するため、メインとなる各市にセンターを置くこと
になったが、研究開発は新潟市にある新潟県工業技術総合研究所、それ以外の技術支援は各
市の支援センターが担う組織・体制にした。
③ 特徴的な取り組み
【研究テーマ】
工業技術総合研究所は、本部の研究開発センターと、各地域産業の技術分野に特徴付けら
れる 5 支援センターから構成されている。地域産業に直結する以外の研究は県(知事)から
認められないという制約の下で研究テーマを選定している。地域企業ニーズに基づく共同研
究と地域経済活性化につながる研究開発を主として実施しており、設備・機器も実証・評価
を重視したものとなっている。
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第3章
優れたものづくり企業をサポートする道外支援機関
【優れた研究会活動】
地域産業の将来の方向性を見据えた新分野をチャレンジ分野として、「スマート材料研究
会」
、「新エネルギー研究会」
、「次世代技術研究会」を産学官連携のもとに立ち上げ、これら
研究会の下に C-FRP、太陽光、 排熱利用、EV 技術、感性工学などの多くの分科会を設け、
活発な活動を進めている。また、地域基盤技術に対しては、地域資源活用、多軸高速加工、
熱処理研究会等を設立し売れるものづくりの支援を行っている。同時に、チャレンジ分野研
究会の調査結果を地域基盤技術の研究会に報告することにより、地域における基盤技術を有
する企業の新分野へのチャレンジを促す仕組みを作っている。したがって、同研究所の研究
テーマはこれら分科会の活動から出てくることも多い。分科会メンバーに企業技術者も多く
入っていることから、現場の声を反映したテーマアップとなっていることは高く評価される。
【研究員の教育】
新入職員は各地域の支援センターに配置し、現場を知ること、すなわち、地場企業の実態、
ニーズなどを把握させることからスタートし、その後、研究所にて技術開発・研究に取り組
ませるシステムを採用することにより、地域企業、地域ニーズを理解させることに徹底して
いる。企業等との共同研究や現地支援等の事業を通して、ORT にて人材育成を進めている。
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第3章
優れたものづくり企業をサポートする道外支援機関
(2)地方独立行政法人 岩手県工業技術センター
① 概要
約 11 億 1 千万円
(うち、人件費 5 億 7 千万円)
最新組織年 平成 18 年(独法化)
所在地
岩手県盛岡市飯岡新田 3-35-2
設立年
明治 6 年(岩手県勧業試験所)
地域ものづくり業、関連するサー
職員数
63 名(定数)
ビス業、その他
研究開発、技術相談、人材育成、研究員派遣、依頼試験・加工、機器・施設利
用、技術情報提供
トリアジンチオール誘導体の薄膜形成技術、高純度 ZnO 単結晶の開発、ペレットス
トーブの開発・商品化、医療用ピンセット、鋏の開発、雑穀麹ペーストを使った商
品開発、無機質塗料の塗装法開発・応用化など
支援対象業種
主な機能
(業務)
主な成果
(技術移転)
事業予算
② 沿革
明治 6 年、国内初の公設試、岩手県勧業試験所を創立。大正 4 年、染織試験場、大正 10
年に岩手県工業試験場、昭和 18 年に工業指導所、昭和 43 年に岩手県工業試験場と改称。
平成 6 年に工業試験場と醸造食品試験場を統合整備し、岩手県工業技術センターを開所。
平成 18 年に、国内初の地方独立行政法人として組織を移行(身分は公務員として)
。
③ 特徴的な取り組み
【連携による支援】
知的所有権センターや発明協会がセンター内に配置されており、そこのアドバイザーと連
携して支援している。支援の幅が拡がることは、受ける企業側にとって大きなメリットであ
る。
【研究員の研究レベルの向上と MOT 教育の実施】
大学等との共同研究を進める過程で社会人ドクターコースに進ませている。研究職員の博
士号取得を積極的に薦め、現在半数がドクターとのこと。職員の MOT 意識を高め、企業の
事業化に向けた経営も考慮した技術支援が出来るように、MOT の第一人者を招聘し、事務
系・技術系職員の別なく、全職員を対象に MOT 講座(総論 1 回、各論 2 回)を開設した。
【ユニークな開発人材の育成】
県委託による「ものづくり企業技術課題解決研究開発事業」では、企業ニーズに基づく課
題に対して、センターが研究担当者(失業者など対象)を雇用しながら解決まで共同研究を
進め、事業終了後には企業が上記担当者を雇用する、新しい試みを実施している(現在、5
課題)
。本事業は、同センター職員が、共同研究企業とともに、研究員の採用に直接係わって
いると言うユニークな取組みである。
【地方独立行政法人化による独自性】
独法化後、企業の課題解決に研究職員を現場派遣する事業(有料)を起こし、取り組んで
いる。北海道立工業試験場では十数年前から行っている事業であるが、ほとんどの公設試が
実施していない事業に取り組むことは、独法化により実施できた仕組みである。同センター
は経費節減のための独法化ではなく、本来同センターが目指すべき業務を遂行するために独
法化したものであり、県の独法化の企画責任者が理事長としてセンターの経営を担っている。
- 56 -
第3章
優れたものづくり企業をサポートする道外支援機関
(3)国立大学法人 岩手大学
① 概要
所在地
盛岡市上田3丁目 18-8
事業予算
設立年
明治9年設立 盛岡師範学校
支援対象業種 主に機械・金属、電子部品製造業
主な機能
(業務)
主な成果
(技術移転)
135.39 億円
昭和 24 年 岩手大学設置
最新組織年
(学芸学部、工学部、農学部)
教員数
515 名(工学部 134 名)
学生数
5,876 名(工学部 2,092 名)
研究開発、技術相談、人材育成、研究員派遣、依頼試験・加工、機器・施設利
用、技術情報提供
トリアジンチオールの活用研究、高純度 ZnO 単結晶を活用した白色 LED の開発、鋳
鉄の防食技術、医療用 Co 基材料、
② 沿革
昭和 24 年人文社会学部、教育学部、工学部、農学部を有する国立大学として発足した。
工学部若手教員が自主的にはじめた産学官交流組織を、平成 4 年に INS として組織化、会
員 1,144 名が参加し、41 研究会をつくり、大学の地域連携推進センターと連携し、研修会
や共同研究を実施している。具体的には、地域コンソーシアム等研究開発事業の継承と一層
の発展と産業化を目的に、平成 13 年 INS いわて金型研究会が設立され、平成 15 年北上市
の寄付により工学部附属金型技術研究センターのサテライトセンター、平成 18 年、19 年に
は、奥州市に附属鋳造研究センター、花巻市に附属総合デバイスセンターのサテライトセン
ターをそれぞれ開設し、各地域における企業の技術開発支援と人材育成に係わっている。
③ 特徴的な取り組み
【INS としての中核の取組み】
岩手大学は地域産学官連携ネットワーク INS(会員 1,144 名)の運営母体であり、産業界と
の人的ネットワークも強固である。支援を受ける企業とのネットワークや官、金融などの支
援側ネットワークも強固に構築され、地域からの信頼は絶大である。INS に 41 の研究会を
つくり、大学の地域連携推進センターと連携し、研修会や共同研究を実施している。
【学内研究シーズを活用した地域発の技術開発】
大学発の研究シーズであるトリアジンチォールのような研究シーズが、地域産学による共
同研究を通じ、地域発の差別化された新技術として成長している。その他にも、岩手大学発
のオリジナルの実践的技術開発も芽吹きつつある。
【県内各地域の産業ニーズに対応させたサテライトを介した地域支援】
岩手県内の各地域の産業集積と連動させた研究会活動を行い、各地域に設置したサテライ
トセンターを拠点として、大学院の学生や地域企業人を対象にものづくり技術者教育や地域
企業への研究開発、技術支援を積極的に進めている。
これらサテライトセンターは各自治体からの寄附研究部門である。北上サテライト(北上
市)
、水沢サテライト(奥州市)
、花巻サテライト(花巻市)はそれぞれ岩手大学工学部付属
金型技術研究センター、付属鋳造技術研究センター、付属複合デバイスセンターの新技術応
用部門と学内の基礎部門から構成されている。
【県内企業に係わる教育層の拡大】
地域企業と係わる教員層の拡大を図るため、研究資金が乏しくかつ地域とのネットワーク
に乏しい任用直後の教員に対し、地域連携推進センターが企業とのマッチングを図り、地域
企業との共同研究等を通じ、県内企業と教員とのネットワーク拡大に努めている。
- 57 -
第3章
優れたものづくり企業をサポートする道外支援機関
(4)国立大学法人 長岡技術科学大学(高性能マグネシウム工学研究センター)
① 概要
所在地
設立年
支援対象業種
主な機能
(業務)
主な成果
(技術移転)
長岡市上富丘町 1603-1
昭和31年設立
事業予算
78.2 億円
最新組織年 平成 18 年(独法化)
教員数
515 名
機械・金属製造業
学生数
1,868 名
研究開発、技術相談、人材育成、研究員派遣、依頼試験・加工、機器・施設利
用、技術情報提供
マグネシウム合金製品の製造技術(高性能マグネシウム工学研究センター)
② 沿革
昭和 31 年社会要請により、実践的な技術の開発を主眼とした教育研究を行う大学院に重
点を置いた工学系の大学として、国の新構想のもとに設置された。調査した高性能マグネシ
ウム工学研究センターは平成17年に設置された。その背景として、平成 11 年の日本学術
振興会特定領域(B)の予算申請獲得を皮切りに,マグネシウム合金に関わる大型プロジェクト
を立て続けに獲得し、時代がマグネシウム合金の有する超軽量特性等の優れた性質を要求し
つつあることを受け止め、開設に至った。
日本国内におけるマグネシウム地金の生産は皆無で、資源を持たない日本の発展には、世
界に先駆けた材料創製技術や新しい加工技術の導入が丌可欠と考え、平成 16年都市エリア
産学官連携促進事業(一般枠)により新潟県工業技術総合研究所と連携し、地域のものづく
り企業を巻き込んだ研究開発を進めてきた。その後、国内の研究機関と連携したマグネシウ
ム合金の先端的な基礎研究を実施し、国内大手メーカー数社とは実用化研究を進めている。
③ 特徴的な取り組み
【地域ものづくり企業のニーズに応えた研究シーズの蓄積】
マグネシウム合金の有する超軽量特性等の優れた性質に着目し、地域ものづくり産業と連
動させた新たな基盤技術の構築を目指し、新潟県工業技術総合研究所と連携し、地域のもの
づくり企業を巻き込み、プレス加工・溶接等の研究開発を進めてきた。
【地域、国内の次世代ものづくり産業に向けた総合的な基盤技術研究】
マグネシウム合金の溶解、鋳造から加工等の製造法に係わる一連の装置とその特性評価・
解析に関する多種多様な装置が設備されている。国内外のマグネシウム合金に関わる他大
学・公設試、研究所・企業と連携し、マグネシウム合金の持つ軽量性等の特性を最大限に生
かすための研究連携の拠点としての活動をしている。マグネシウム合金に関する基礎から応
用、実用化に関する国内外屈指の研究レベルにある。
【地域の製品化に対して】
大学が先端的なマグネシウム合金製造の基盤技術を支える基礎研究により、製品化技術を
支えている点が特徴的である。産業界の先進的な情報も豊富であり、産業界から超軽量化に
よるマグネシウム合金のニーズが生じた場合、大学側から先進的、トータル的支援を実施で
き、実用化できる状況にあるのが特徴である。
【長岡技術科学大学の位置づけ】
技術相談先として長岡技術科学大学を身近に感じている地元企業も多く、目的意識があり、
企業からはお願いしやすい大学との評価が高かった。このことは、教員の意識が企業と近く、
ものづくりに関連した基礎的な研究シーズを有する教員層が厚いことを意味すると判断され
る。また、同学は新潟県工業技術総合研究所との連携も強く、県内の研究会分科会のメンバ
ーとして積極的に参画しているのが特徴である。
- 58 -
第3章
優れたものづくり企業をサポートする道外支援機関
(5)岩手銀行
① 概要
本店所在地
岩手県盛岡市中央通一丁目 2 番 3 号
資本金
120 億円
創業年
昭和 7 年 5 月 2 日
従業員数
1,488 名
店舗数
110 店舗(岩手県内 92、岩手県外 18)
② 特徴的な取り組み
【いわて産学連携協議会(リエゾン - I)
】
岩手県内の企業の有する技術・商品開発ニーズと岩手大学、岩手県立大学等の大学、研究
機関の有する高度技術シーズとのマッチングを図り、同行を中心に県内 4 金融機関の資金提
供による助成制度「リエゾン – I 研究開発事業化育成資金」の仕組みを作った。研究機関と
の共同研究により事業化を目指す企業に対し、200 万円×10 件=2 千万円/年を上限で支援
している。同行は県内の金融機関のまとめ役としての役割を果たしている。
【
「TeSNet(テクニカル・ソリューション・ネットワーク)倶楽部」による地場企業の技術力向上支援】
岩手県内の自動車関連誘致企業へのサプライヤー育成と、岩手に「車」のものづくり文化
を創造することを目的に県内自動車関連誘致企業、岩手県および外郭団体、岩手銀行が参画
する「産・官・金」連携組織を設立に係わってきた。地場企業へ自動車関連企業 OB を派遣
し直接的な技術指導を行なうなど、企業の技術力向上を支援する独自のソリューションメニ
ューを提供している。
リエゾン - I のイメージ
地域産業の活性化
リエゾン - I
大学・研究機関
岩手県内4つの金融機関に
よる、研究機関との共同研
究に取り組む企業を支援
研究開発事業化育成基金
シーズ
「研究シーズ集」の発刊に
よる大学シーズの地域共
有、事業化を推進
ニーズ
金融機関
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民間企業
第4章
第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
米国の金融危機による世界同時丌況に端を発し、我が国のものづくり産業も大規模な生産調
整に追い込まれるなど、大きな影響を受けた。
しかし、これまでの経済危機においても、自動車やデジタル家電等のものづくり産業がけん
引役となって回復、拡大を続けてきた経緯があり、今後も我が国経済の発展を支える基幹産業
として大きな役割を果たしていくものと見込まれている。
一方、これまで公共事業に依存してきた本道経済においては、公共投資の削減などの影響に
より長期に渡って景気低迷が続いている。こうした状況下にあって、ものづくり産業は公共事
業に依存することなくその成長が期待でき、販路を道外・海外に展開することで、外貨を獲得
できる重要な産業である。
本道のものづくり企業の中にも、特異の技術により、国内はもとより世界的にも高く評価さ
れている企業がある。本道経済を公共事業に依存しない自立型の力強い経済構造へ転換してい
くためには、このような世界的競争力のあるものづくり企業を一つ一つ増やし、それぞれが活
力を持って事業展開し、文字どおり本道経済を牽引する産業となるよう、これまで以上にその
振興を図っていくことが必要である。
出展:(社)経済同友会「企業経営に関するアンケート調査」
(平成 21 年 10 月)
- 60 -
第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
また、ものづくりの基盤強化のためには、生産設備の更新等とともに、人材育成・確保の重
要性が指摘されている。すなわち競争環境が激化する中で、技術者に対しては幅広い専門知識
に加え、生産システムの改善を生む創造力が、技能者に対しては熟練・多能に加え、合理化・
高付加価値化を生み経営基盤強化をもたらす現場に根ざした提案力・実行力が求められ、こう
した人材の育成・確保が重要になっている。中でも、ものづくり現場において中心的な役割を
果たす中核人材の育成は喫緊の課題である。
○ 競争力、利益を生むためには,
イノベーション、研究開発力の強化が必要
○ それには、人材育成、確保が最重要
出展:(社)経済同友会「企業経営に関するアンケート調査」
(平成 21 年 10 月)
こうした視点を念頭に置き、以下では、本道におけるものづくり産業の発展に向けたこれか
らの支援機関の役割について整理する。
- 61 -
第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
(1)地域ものづくり産業のあり方
本道におけるものづくり産業の発展のためには、日本経済を牽引する自動車関連企業やデ
ジタル家電関連企業の誘致を促進し、集積を図っていくことは重要な取り組みの一つである。
一方、地域のものづくり産業の活発な事業展開を促進し、地域産業全体のポテンシャルを
高めていくためには、そうした大手企業、大量生産型企業の集積だけでなく、地域の企業と
大手企業とをつなぐものづくりの基盤技術を持った企業の集積も重要である。
すなわち切削、プレス、成形、研磨、鋳造、鍛造、金型製造など地域のものづくりの基盤
技術を持つ中堅・中小企業のポテンシャルを生かし、地域での技術連携や受発注連携など多
層的な企業間取引を促進し、これまで蓄積されてきた技術・ノウハウの新たな活用や地域に
おける技術水準の向上等の相乗効果を生み出していく。さらにそれらをとおして高度な技術
力・生産力を培い、ニッチ分野で高い評価を得るオンリーワン企業を創出・集積を図ってい
くことが重要である。
さらに道外企業はもとよりアジアや欧米企業との競争に打ち勝っていくために、他社との
差別化を図り、独創的な技術開発や製品開発などの重要性が増してくることから、早い段階
から請負型企業をから脱却し、提案型企業への転換を指向(理念)していく必要がある。
これらをとおして、地域にありながら市場を道外、海外へと展開する「グローカル企業」
の創出につなげていくことが重要である。
地域ものづくり産業のあり方
・大手企業、大量生産型企業の集積ではない
・地域特性(資源)を有効に活用した産業群
・地域で連携・共同生産できる幅広い産業群
・高度な技術力・生産力を有したオンリーワン
企業の集積
・請負型ではなく、提案型企業への変革
いずれにしても、狭い地域のみの顧客を
対象にしていては低迷するのみ!
グローカル企業の創出
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第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
(2)地域ものづくり模範企業の共通点
本研究においては、ものづくり企業の特質、その維持発展の手法、国際競争力の源泉、そ
れをいかにして形成したか、といった問題意識から、道内企業 13 社、新潟県・岩手県企業 9
社、計 22 社の「ものづくり模範企業」から聞き取り調査を実施した。
そこから、以下のような共通点が見えてきた。
先進企業には共通するモノがある!
① コア・コンピタンス(技術、製品、経営手法
など)をしっかり持っている
② 自社評価(強み、弱み)を厳密に行っている
③ 顧客(市場)からの高い評価とリサーチの励行
④ 難しい案件でも受ける(取り組む)姿勢
⑤ 社員のスキル向上(人材育成)に尽力
⑥ 改善、変革、新事業に対するたゆまぬ努力
⑦ 請負型から提案型企業への展開(理念)
逆に言えば、発展途上の企業の多くは、上記共通項目が下記に示すように出来ておらず、
これらの企業群を模範企業群に引き上げていくためには、これらの点を一つ一つクリアーし
ていくことが今後の支援のポイントとなる。
多くの途上企業に見られる状況
- 63 -
第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
(3)個々の企業が取組むべき戦略
① 企業として、自社の強み、弱みが何か?を厳しく評価することが最低限必要である
② これらの評価結果を基に、弱点の改変、強化策を練ることが次に重要となる
(第1ステップ)
③ この強化策に対して、学、官、金、各支援機関のサポートや連携が必要となる
④ サポートメニューは数多くあるが、図に示した「強化に必要な方策」が主となる
⑤ 次のステップとして、企業の進むべき道は大きく2つあり、一つは現状のモノやコトを強
化すること、もう一つは新たなモノやコトに取り組むことである
⑥ このチェンジ、チャレンジを意識して取り組んでいる企業が先進途上企業といえる
(第2ステップ)
⑦ 地域のものづくり産業は、高度な技術力・生産力を有したオンリーワン企業の集積にすべ
きで、そのためには第2ステップからブレークスルーする必要がある
⑧ 第2ステップからブレークスルーすることは簡単ではないが、これにより請負型ではなく
提案型の企業に変革した企業群が形成され、地域、産業の活性化が図られる
(第3ステップ)
個々の企業が取組むべきこと(戦略)
提案型企業への変革
第3ステップ
(先進・提案型企業)
強化策
下と同
コア・コンピタンスの強化
現状のモノ・コトを強化
強
化
策
経営
資金
組織
他機関との連携、
他機関からの支援
下と同
ブレークスルー
第2ステップ
(先進途上段階)
強化策
オンリーワン技術・製品の提供
新分野(自動車産業等)への参入
チャレンジ
新しいモノ・コトへの挑戦
チェンジ゙
情報(ネットワーク)
強化に必要な方策は?
技術開発
営業
自社評価
品質・生産管理
人材育成
市場調査
第1ステップ
(未達段階)
自社の技術・製品には何が欠けている?
自社のコア技術・製品の強み、弱みの分析
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強化策
第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
(4)ものづくりに係る支援機関の課題
1)ものづくり系公設試の課題
北海道立工業試験場(道工試)をはじめとして、ものづくり系公設試は、①地域や中小企
業の製品開発、システム・プロセスの開発、改善等を技術面で支援すること、②新しい事業
創出や新分野進出を狙う企業等に対し、技術面で支援すること、の 2 つをミッションとして
いる。これまでも地域や企業に密着した支援を行っていることから、高い評価を得ている。
下図は平成 20 年に、
「道内中小企業における公設試の利用実態の把握」と「道内公設試の
産学官連携やコーディネートの取組み内容の把握」を目的に、北海道経済産業局が製造業を
中心とする道内中小企業 2,345 社(回答企業数 966 社、回答率 41%)に行ったアンケート
の回答結果である。なお、対象機関は、地方自治体が設置した試験場、工技センターなどの
他、独立行政法人の試験研究機関(旧国研)も入れており、大学、高専は含めていない。
これによると、ものづくり系公設試である、道工試、道立食品加工研究センター、道立林
産試験場の利用が多く、とりわけ、道工試を利用する企業が多いことが分かる。
道内中小企業における公設試の利用状況
出典:北海道経済産業局「道内中小企業による公設試等を活用した研究開発機能の強化並びに連携の促進に関する調査」
(平成20年3月)
- 65 -
第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
また、下図に示すように、利用の満足度も「大変満足」、
「ほぼ満足」が全体の 70%近くに
達しており、80%以上の企業が、今後も利用したい意向を持っている。
しかし、一方では、公設試を利用している企業が半数にとどまり、利用企業からは、
「最新
鋭の設備・機器がない」
、
「企業と大学間の共研に対するコーディネート丌足」
(下図参照)と
いった意見も出されている。
すなわち、①未利用企業の利用促進、②既利用企業の満足度向上、③コーディネート機能
の強化と産学官連携の促進、が課題として挙げられている。また、企業の利用項目は依頼試
験、設備使用、技術相談・技術指導が多く、共同研究、研究・開発依頼が 20%程度と尐ない。
したがって、④企業のニーズ(課題)を先取りしたテーマアップとその取組みも課題とし
て加えることができる。
道内中小企業における公設試の利用意向・要望等
出典:北海道経済産業局「道内中小企業による公設試等を活用した研究開発機能の強化並びに連携の促進に関する調査」
(平成20年3月)
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第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
2)ものづくり支援に係る学の課題
道内には、室蘭工業大学や北見工業大学などものづくりに深く関わる教育研究機関が数多
く存在する。これらの学の地域ものづくりに対してのミッションは、①社会に貢献する教育、
企業ニーズに即した教育を行うことで、優れた人材の輩出、産業人材の育成を行うこと、②
企業からの技術ニーズに対し、学が保有する研究シーズを提供し、共通基盤技術に置き換え
た基礎研究をとおしてものづくりに対する地域貢献を行うこと、③企業からの技術ニーズを
踏まえ、ものづくり基盤技術に整合した研究をとおして教育へフィードバックすることがあ
げられる。さらにこれらのサイクルを重ねていくことで、それぞれの質の向上を図っていく
ことが地域ものづくりに対する学のミッションとして重要である。
しかし、現状においては、地域企業との交流の機会が極めて少なく、企業からのニーズ収
集力も丌足していることから、地域企業のニーズをものづくりの基盤技術として一般化し、
基礎研究へ置換えるといったことが殆ど行われていないのが現状である。
また、ものづくり基盤技術に関連したオリジナルな研究シーズを有する教員が希少化して
おり、学の研究シーズをベースとした、独自の地域発のものづくり産業の集積は、殆ど望め
る状況にはない。
さらに、ものづくり産業との関わりが希薄な研究テーマが多いことから、学生に対し、社
会ニーズに即したものづくり教育とは、かけ離れた教育が行われている状況にあると言わざ
るを得ない。
地域ものづくりに対する大学のミッションと課題
企業からの技術ニーズ
X
X
共通基盤技術に置
換えた基礎研究
X
研究
ものづくり基盤
技術に整合した
研究
シーズ提供
ORT教育
共同研究
ものづくり
地域貢献
教育
人材輩出
産業人材育成
社会に貢献す
る教育
企業ニーズに
即した教育
こうした状況を、そこに陥っている背景等を踏まえ、道内のものづくり企業の支援という
視点で整理すると、以下のような課題が指摘できる。
- 67 -
第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
① ものづくり基盤技術に係わる研究リソース不足
ⅰ.ものづくり基盤研究の必要性に対して国(文部科学省)や大学は関心が希薄
我が国ならびに地域経済に対して、ものづくり産業が極めて重要な役割を持つことは
先述したとおりである。
ものづくり企業は、常に国内企業はもとよりアジアや欧米企業との競争の中に晒され
ており、これに打ち勝っていくために、さらなる技術力の向上が求められている。
また、ものづくり産業が保有する技術は、将来の先端産業を支える基盤技術であるに
も係わらず、国、特に文部科学省や大学はものづくり基盤研究に対し関心が希薄で、先
端研究のみに極端にシフトしている。この傾向が続けば、ものづくりの基盤技術の空洞
化が懸念される。
ⅱ.ものづくり基盤研究分野に関わる教員の減少
上記のような背景から、ものづくり基盤研究に対しては研究予算の獲得が難しく、研
究業績が上げづらくなっている。またものづくり基盤研究に関する論文について、一般
的にあまり高い評価が得られない傾向にある。
こうした状況が相俟って、ものづくりの基盤研究を手がける研究者は減尐の一途を辿
っている。
ⅲ.ものづくり基盤研究に関する継続的な研究費支援の欠如
ものづくり基盤研究に関して、本来学として実施すべき研究ステージの研究費を学独
自で確保するのは困難な状況にある。また、企業との共同研究や、国の企業への研究開
発補助等は、すぐに事業化や製品化に結びつくような研究開発テーマがほとんどであり、
時間をかけて蓄積すべき基盤研究の研究費の確保は困難である。
② 地域産業のニーズ情報不足
ⅰ.地域ものづくり研究者とのネットワークの脆弱性
様々な分野における研究シーズを有する研究者は各大学等に分散しているが、これら
研究者に対し企業の技術ニーズ情報が届く仕組みとはなっていない。
ⅱ.ものづくりに必要な研究シーズの欠如
ものづくりに関連する学の研究者が尐なく、地域のものづくり産業からの技術ニーズ
に応えられる研究シーズは殆どない。
③ 地域ものづくり支援への学自身の支援、評価システム不足
ⅰ.地域ものづくりに対する学としての具体的な支援制度がない
学としての地域貢献の支援分野の一つとして提示されることはあっても、大学として
どのように長期的、重点的に取組むかという具体的な制度が提示されることはない。
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第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
ⅱ.地域ものづくり支援活動に対する学内評価が不十分
地域ものづくり企業への支援をとおした、基盤研究に関する論文等の成果が上がりづ
らく、時間がかかることから、殆ど評価対象となりづらい。
ⅲ.地域貢献に対し社会で高い評価を得ても、学内での評価は低い
地域や産業界等では、ものづくりを通じての地域貢献に対し、地域活性化に繋がるこ
とから高く評価するが、学内での評価は共同研究等による外部資金獲得との評価や知財
獲得としての評価にとどまっている。
①
ものづくり基盤技術に係わる研究リソース不足
ⅰ.ものづくり基盤研究の必要性に対して国(文部科学省)や大学は関心が希薄
ⅱ.ものづくり基盤研究分野に関わる教員の減少
ⅲ.ものづくり基盤研究に関する継続的な研究費支援の欠如
②
地域産業のニーズ情報不足
ⅰ.地域ものづくり研究者とのネットワークの脆弱性
ⅱ.ものづくりに必要な研究シーズの欠如
③
地域ものづくり支援への学自身の支援、評価システム不足
ⅰ.地域ものづくりに対する学としての具体的な支援制度がない
ⅱ.地域ものづくり支援活動に対する学内評価が不十分
ⅲ.地域貢献に対し社会で高い評価を得ても、学内での評価は低い
- 69 -
第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
3)ものづくり支援に係る金融機関の課題
地域金融機関は、地域経済の活性化による地域社会の持続的な発展に貢献するため、
「地域
密着型金融推進計画」を策定し、その中で具体的な取り組みを明らかにしている。
産業別の支援では、勿論、地域の特性によって異なるが、北海道が優位性を有する食品製
造業と、北海道の自立的な産業構造への転換において欠かせない「ものづくり産業」への重
点的な支援が必要である。
地域金融機関の「ものづくり企業」に対する具体的な支援には、各種融資の他、制度融資
等による創業間もない企業への融資、各種ファンド・出資等による道内企業の資本力、信用
力の向上、中小企業が行う新技術または新製品に対する助成金制度による支援事例がある。
また、資金提供以外でも外部機関と連携した技術相談会、研修、セミナーの開催などによ
り、ものづくり企業の経営力向上を支援している。
さらに、商談会の開催による販路拡大支援と、地域金融機関のネットワークを活用した個
別のビジネスマッチングに取り組んでいる。
一方で、創業・新技術支援に係る職員の目利き力の丌足により適正な支援が行われ難いと
の課題がある。
この課題を克服することによって、地域金融機関の地域社会における貢献は一層大きなも
のになるであろう。
こうした状況を踏まえ、道内のものづくり企業の支援という視点で整理すると、以下のよ
うな課題が指摘できる。
① 目利き能力の向上:創業支援や新事業支援は地域金融機関にとって事業性の評価、判断
が難しい。この判断のためには、新技術に対する目利き能力の向上と事業内容の理解を積
極的に進めることが丌可欠である。
② 支援機関との連携:地域金融機関自身がものづくり分野における専門人材を確保するこ
とは事実上難しく、様々な専門人材を抱え、目利き経験の豊富な支援機関を従来以上に活
用し、連携を強化することが必要である。
③ 人材育成:地域金融機関で必要な人材は、当該技術分野の専門家ではなく企業と支援機
関、大学等を結ぶコーディネータである。人的ネットワークを持つ優れたコーディネータ
の育成こそ、今、地域金融機関に強く求められている。
④ 担保・保証に依存しない新融資スキームの提供:すでに知的財産権担保融資や在庫担保
融資(ABL)が実現しているが、今後も企業価値、知的資産を裏付けとした、担保・保証
に依存しない融資への一層の取組みにより、地域企業の持続的成長を支援していく必要が
ある。
⑤ 地域金融機関の連携:商談会やセミナーを地域金融機関連携によって行うことも効果的
である。複数の地域金融機関が関わることによって、より効果的な商談会やセミナーが可
能となる。
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第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
(5)ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
本研究においては、模範となるものづくり企業への聞き取り調査をとおして、それらが持
つ共通点を見いだすとともに、逆説的に発展途上の企業が持つ共通の課題をあぶり出してき
た。この発展途上の企業群を模範企業群に引き上げていくために、支援機関に期待される役
割は大きいものがあると認識している。
すなわち、公設試験研究機関には、道内中小企業等の基礎基盤技術のレベルアップによる
企業競争力の強化に向けた取組を積極的に進めていくことが求められ、大学等の教育・研究
機関には、専門的な技術や知識を有する人材育成機関であるとともに、道内ものづくり企業
の技術・研究開発への取組を支援するため、研究の成果・技術シーズを創出・移転する研究
機関として役割が求められる。また、金融機関には、企業としての事業活動を通じて、もの
づくり企業の経営安定・経営基盤強化の促進や、新分野進出・中小企業の経営革新などの事
業展開に対して、必要な資金の確保とともに、併せて企業同士のマッチングやコーディネー
トにも積極的な役割を果たしていくことが求められる。
模範となるものづくり企業への聞き取り調査を踏まえ、ものづくり支援機関のあり方につ
いての検討を行うなかで、ものづくり企業の発展に向けた支援の方向として 4 つのポイント
があげられた。
以下では、その 4 つのポイントに沿って各支援機関の役割を整理する。
ものづくり企業の発展に向けた支援の方向
① 技術開発から製品化、事業化までの総合支援
② 即効性(スピード)、実効性の高いニーズ対応
③ 課題に即応できる高度な企業技術者育成
④ 技術・製品等の提案型企業への展開支援
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第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
① 技術開発から製品化、事業化までの総合支援
大学・高専
○室工大
○北見工大
○北大
○小樽商大
○苫小牧高専
など
連 携
課題解決に向けた最適
支援メニューの検討
課題解決のため
課題解決のための
の技術支援、
支援(理論、裏付け)
コーディネート
課題、ニーズ
等の提案
金融機関
○銀行
○信用金庫
○投資銀行
など
公設試、地域支援センター
企 業
○道工試
○工技センター
○苫小牧テクノセンター
○室蘭テクノセンター
など
○自社評価(強み、弱み)
課題、ニーズ
○強化策の検討
等の提案
○課題・ニーズの提案
○課題解決への取組み
助成、
アドバイス、
コーディネート
助成、
アドバイス
・コアコンピタンスの強化
・課題解決
・製品化、事業化
・道内外からの受注拡大
産業支援機関
○ノーステック財団
○中小企業総合支援センター
○地域の産業技術振興機構
など
連 携
【公設試の役割】
・技術の駆け込み寺として、システム・プロセスの開発や改善、製品開発等ものづくり企業
の課題解決に向けて、技術面から支援する。
・職員の多能化により、幅広く多岐にわたる領域の技術相談に対応する。
・企業のニーズに即し、大学と中小企業との橋渡しも含むコーディネート機能を強化し、ネ
ットワークを活かして企業に対しての総合的な支援体制を構築する。
【学の役割】
・ものづくり企業からの課題を一般化又は普遍化した基盤技術テーマに置き換えた基礎研究
により得られたものづくりに係わる研究シーズを介し、企業の課題解決の支援を行う。
・基本理論や基礎研究に基づく現象の解明、メカニズムの提案等により、企業の課題解決方
法の裏づけを通じ支援する。
・将来的な技術課題へのアプローチに基づいたものづくり基盤研究の実施による企業支援の
リソースを獲得する。
【金融機関の役割】
・公設試、大学等との連携により、事業価値を的確に判断する「目利き力」を補完し、適正
かつ円滑な資金支援を行なう。
・コーディネート人材を活用し、公設試、大学等とのネットワークの強化・拡大を図る
・担保・保証に依存しない新融資スキーム、各種ファンド、基金による金融支援。
・市場情報や企業ニーズの提供、ビジネスマッチングの強化により企業間取引の促進を図る。
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第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
② 即効性(スピード)、実効性の高いニーズ対応
公 設 試
ワンストップサービス
招 聘
課題、ニーズ
提案、技術相談
対応、支援
ワンストップサービス
連携強化(密着)
ネットワーク
金融機関
銀行、信金
対応、支援
地域支援機関
対応、支援
企 業
他機関、OB等
大 学 等
技 術 者
マイスター 等
共同研究センター
担当教員
【公設試の役割】
・大学や他の支援機関とのネットワークを強化し、企業の幅広い分野の技術相談に対し、即
効性、実効性を持って対応する。
・大学や他の支援機関とのネットワークを活かし、企業の幅広いニーズに対し、ワンストッ
プサービスを実施する。
【学の役割】
・学のものづくりに係わる基盤的な研究を継続的に進めることで、ものづくり基盤技術研究
シーズを蓄積する。
・学のものづくり関連技術のリソースの充実を図るとともに、ニーズに即した学内教員研究
シーズの迅速な調査と紹介、ならびに学外関連教員の探索により対応する。
・企業との共同研究の窓口となる担当教員は関連情報収集に努める。
【金融機関の役割】
・企業の個別課題、ニーズを発掘し、公設試、大学等への仲介支援を行なう。
・製品開発等の企業情報を初期段階で捕捉し、早期に公設試、大学等との連携サポート体制
を構築する。
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第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
③ 課題に即応できる高度な企業技術者育成
課題解決、技術者育成に向けた
最適カリキュラム等の検討
大学・高専
○室工大
○北見工大
○北大
○小樽商大
など
連 携
専門職講座などの開設
(課題に関連した技術
者向けの基礎講義)
講師
課題、ニーズ
等の提案
成 果
課題、ニーズ
等の提案
公 設 試
○道工試
○工技センター
○食加研
など
課題解決のため
のORT
企 業
○課題の迅速解決
○技術者の能力向上
○生産システムの向上
○新技術・新製品の開発
【公設試の役割】
・大学との連携により、企業ニーズに即した課題解決、中核技術者の育成に向けた最適カリ
キュラム等を構築する。
・新たなカリキュラムを含め、ものづくり中核人材育成事業の充実を図る。
【学の役割】
・地域企業ニーズを基盤技術の一般化した基礎研究テーマに置き換え、卒論や修論研究を通
じてものづくり教育を実施す。
・ものづくりに関する中核的な産業人材育成に対する場の提供と教員による講義等を通じて
の支援を行う。
・道工試等の公設試の人材育成教育に対する教員人材の派遣を行う。
【金融機関の役割】
・金融機関のネットワークを活用し、企業ニーズに即した中核人材向けのセミナー、技術講
演会等の企画、外部専門家などの招聘を支援する。
・企業経営者が取組むべき人材育成、意識啓発等に有効な講演会、研修会等を実施する。
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第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
④ 技術・製品等の提案型企業への展開支援
・技術移転可能なシーズ等の検討
・実践的研究会テーマの検討
大 学
○室工大
○北見工大
○北大
○小樽商大
など
○道工試
○工技センター
○食加研
など
連 携
シーズ提示
地域、企業
・キャラバン隊によ る
地域での広報
・経営者向けセミナー
・シーズ等の提案
・技術移転に向けた
研究会と支援
公 設 試
実践的な研究会活動
(地域に機器を持ち
込んでの研究会)
例1:北海道アルミニウム利用
技術研究会(苫小牧地域)
例2:制振・軽量化設計技術研究会
(十勝、北見地域))
【公設試の役割】
・試験研究の成果や技術シーズを基に、道内各地において技術講習会やセミナー等を実施す
る。
・地域に機器等を持ち込んで実践的な技術研究会活動を実施する。
・企業の個別の技術課題に対し、個別技術相談を実施する。
【学の役割】
・ものづくりに関連する基盤的な研究シーズを蓄積し、企業への積極的な提案を行う。
・製品の高付加価値化が可能なオリジナル研究シーズの創出と企業での新製品開発に向けた
共同研究を推進する。
・基盤技術、先進技術に関する研究会の立上げを公設試と連携し実施するとともに、中核的
メンバーとして運営に係わる。
【金融機関の役割】
・企業の研究開発・製品開発ニーズへのサポート体制を強化する。
・経営者の意識改革に向けたセミナー、公設試と連携した個別技術相談会等を実施する。
・金融機関のネットワークを活用した市場情報や企業ニーズの提案、ビジネスマッチング機
能の強化を図る。
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第4章
ものづくり企業の発展に向けたこれからの支援機関の役割
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おわりに
北海道のものづくり産業の活性化に向け、道内ならびに道外の「ものづくり模範企業」が、現状
の強みをいかにして作り上げ、確保してきたかを調査するとともに、次に続く道内のものづくり
企業が、発展するのに必要な要因や条件等に関する調査、解析結果を報告した。
北海道地域のものづくり産業の集積・活性化には、新たに後続の「ものづくり模範企業」群の創
出が丌可欠であり、それには当事者であるものづくり企業は勿論、学官金などの支援機関の企業
支援において果たすべく役割は極めて重要である。しかし、北海道内において産学官金連携が声
だかに叫ばれて久しいが、地域ものづくり企業支援の観点から、各機関の役割と使命について、
本質的かつ現実的な議論がほとんどなされていなかった。本研究報告では、新たな「ものづくり模
範企業」群の創出に向け、各支援機関が効率的かつ持続可能な本来果たすべく支援機能及び役割は
何であるかについても、独断的と思われるまでに踏み込んで提案させていただいた。
しかし、支援機関が本提言の役割や機能を全うするには、各機関の人材を含めた支援インフラ、
支援システムが脆弱なことは否めず、各機関単独では本質的に解決困難な課題も多い。各機関単
独で解決可能な所から支援整備を図ることは勿論であるが、これだけでは自ずと限界があり、高
所、大所の視点から、更には、地域としての戦略的かつ長期的な視点からの支援インフラやシス
テムの構築が必要である。
北海道の優れた産業資産の一次産業、三次産業の間にあるものづくりを中心とした二次産業で
ある製造業の高度化が、道内のこれら一次、三次産業の高付加価値化と競争力強化に丌可欠であ
る。すなわち、本道の地域産業である農林水産業を発展させる上でも、高度な技術、生産システ
ム等を有した先進的ものづくり企業が果たす役割は極めて大きく、それらの集積が、今後の地域
産業の盛衰を左右すると言っても過言ではない。
本研究は北海道におけるものづくり産業の活性化に向けた原点からの提言であり、地域の新た
な「ものづくり模範企業」群の創出に向けては、これからが出発と考えている。
本研究報告が、本来の産学官金連携の推進による競争力のある優れたものづくり企業の創出を
目指す企業、支援機関の今後の活動に利することを切に期待している。
なお、本研究でのものづくり企業調査は、機械・金属製造業を対象としたが、北海道内におけ
る各地域固有のものづくり産業とも共通する提言と考えている。
本研究は、(財)北海道科学技術総合振興センター、㈱北洋銀行と室蘭工業大学との共同研究で
あり、具体的な研究の実施に当たっては、地域ものづくり産業イノベーション研究会の皆様によ
る研究活動の結果であることを申し添え、ここに心より感謝申し上げます。
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