International Panel for Sustainable Resource Management 資 源 の 持 続 可 能な生 産と利 用に向けて バイオ燃料を評価する バイオ燃料が、政府と産業界の意思決定者を含む、世界中の多くの人びとの注目を集めている。この再生可能エネルギー源に関連した 出版数が急増しつつあり、意思決定者にとって彼らの決定の根拠となりうる重要なメッセージを特定することがますます困難になってき ている。持続可能な資源管理に関する国際パネル(IPSRM)は、その最初の評価報告書「資源の持続可能な生産と利用に向けて:バイオ 燃料を評価する」において、この課題に応えている。本報告書は、エネルギー目的のバイオマスの生産と利用に関する主要な問題に対す る評価、およびバイオマスのより効率的で持続可能な生産と利用に関する選択肢を提供することを目的としており、多数の専門家による 広範な文献調査と徹底したレビュー・プロセスを経て出版された。最新情報が入手可能な「第一世代」のバイオ燃料に焦点が置かれて いるが、今後の開発分野についても考察が為されている。本報告書は、地域的/局地的差異を意識しながらも、世界的な観点に立った ものである。 本報告書は、バイオ燃料開発を資源効率という観点から評価し、 バイオ燃料は、気候、エネルギー安全保障および生態系に及ぼす 人口増加、栄養摂取パターンの変化、収量の向上および気候変動 影響という点でばらつきがある。そのため、その環境的・社会的影 を含めた世界的な傾向とバイオ燃料生産との相互作用を考察してい 響を、ライフサイクル全体を通じて評価する必要がある。 る。 世界人口は、2000から2030年の間に36%増加すると予想される。 世界平均の穀物収穫量は、世界総人口とほぼ同じペースで増加す ると予想されている。一般に、特にアフリカのような途上国で収 量が向上する可能性が高いと考えられる。 平均的な作物収量によって人口増加を補うことはできるが、飼料 用の耕作地がさらに必要となる動物性食品の需要増までは補うこ とはできないため、世界的な食糧供給の傾向はそれほど希望的な ものにならない恐れがある。 気候変動により、平均作物収量は既に減少している。今後の動向 によっては、特に半乾燥地域における生産能力の低下により、先 進国と途上国の格差を拡げてしまう可能性がある。異常気象の頻 度が高まれば、不確実性が増大するだろう。 こうした事実は、世界の人々を養うことを目的とする耕作地の拡 大に、追加的な燃料用作物の土地需要が加わることを示唆してい る。 現行の第一世代バイオ燃料技術を用いて輸送燃料需要の10%を賄 うには、全耕作地面積の8~34%が必要になると推測される。 ライフサイクルアセスメント(LCA)の結果、バイオ燃料は、化石 燃料と比べて、正味の温室効果ガスの収支に大きなばらつきがあ ることが明らかになった。こうしたばらつきを決定するのは、原 料、生産方法、転換技術および立地である。化石燃料と比べて、 温室効果ガス(GHG)削減量が最も多いのは、サトウキビと林業 残渣由来の燃料である。しかし、生産のため自然地が転換され、 それに伴い炭素ストックの移動が生じる場合に、マイナスのGHG 削減量(つまり排出量の増加)が発生する可能性がある。このよ うなシナリオでGHG収支のマイナス幅が最大となるのは、パーム 油、大豆およびトウモロコシから生産されるバイオ燃料である。 LCAは、選択肢を比較する上で有益な指針を提供する。しかし、結 果を解釈する際には、いくつかの感度と方法論上の限界を考慮に 入れる必要がある。 既存のLCAは、水、生物多様性、富栄養化と酸性化、およびN2O排 出量をはじめとする数多くの重要な環境影響カテゴリーを考慮し ていないことが多い。 環境影響は、プロジェクトレベル、そしてより広範な地域、世界 的観点で評価されなければならない。 単一のプロジェクトにおいては、影響の面において容認できるか もしれないものでも、それが複数のプロジェクトとなると、累積 的影響により地域的/世界的な規模で重大な影響をもらす可能性 がある。こうした文脈において、本報告書では、バイオ燃料の大 幅な拡大は「過ぎたるは及ばざるが如し」となるのではないかと 本報告書では、バイオ燃料を最大限有効に活用することの重要性に いう疑問を提起している。 ついても強調している。バイオマスの定置型利用は、熱、そして電力 本 報告書は、持続可能な土地利用管理の必要性といった空間的・ を生産するという点で、通常、バイオマスを液体燃料に転換するより 社会経済的な文脈の中でのバイオ燃料の全体的な影響を把握する ために、LCAを補完するための追加的な手法が必要であると論じて いる。 土地は、制限要因の1つである。 土 地を自然な環境から農業用途に転換する際、生物多様性の損失 という点で重大なリスクが生じる。 耕 作地を確保するために、森林、草地および泥炭地などの炭素吸 収源を破壊した場合、温室効果ガス収支がマイナスになる可能性 がある。 食 糧生産のため耕作地の需要が増加する中で、バイオ燃料用作物 の生産を推奨すれば、土地利用変化による直接的・間接的な影響 をもたらす。こうした変化の大半は、原料生産のための条件が最 も有利な熱帯諸国で生じる可能性がある。 水は、質と量の2つの側面で、もう1つの制限要因である。 農 業では、既に全世界の淡水のおよそ70%を使用している。バイ オ燃料用作物の生産拡大は、その使用量のさらなる増加につなが る。特に、水が乏しい地域では、これによって食料生産との間に 新たな競合が生じる恐れがある。 気 候変動による異常気象は、利用可能な水資源に関して不確実性 を増やす可能性がある。大規模な燃料用作物生産の結果として、 ミシシッピ川のような河川流域では水質が悪化している。 エネルギー目的でのバイオマスの生産と利用を、より持続可能な ものにするための手段は存在する。 本報告書は、資源のより効率的な利用を達成する手助けとなるいく つかの方法に注目し、慎重に評価している。それらの方法は、以下の ように広範囲に及ぶ。 バイオマス生産の効率改善 作物収量が増加すれば、土地利用に対する圧力を減らす可能性があ る。特に、途上国では、作物と土地の生産性を改善することで、既存 の耕作地の生産量を拡大することができる。かつての劣化地を回復さ せることには、良い面と悪い面がある。生産で得られる利益は少ない かもしれないが、ヤトロファを使用するような小規模なバイオ燃料プ ロジェクトでは、局地的なエネルギー供給の可能性が実証されてい る。バイオ燃料生産に利用可能な土地は、慎重に評価する必要があ る。例えば、いわゆる限界耕作地は、高い水準の生物多様性を有して いる可能性があり、その自然再生力は、環境的な観点からすれば、バ イオ燃料用作物を定着させるよりも有益である。 バイオマスのより効率的な利用 廃棄物と残渣からエネルギーを回収することは、新たに土地を必要 とせず、大幅にGHG排出量を削減することができる。具体的には、都 市の有機性廃棄物、農業(作物生産と畜産の双方)および林業から出 る残渣は、大きな潜在的エネルギーを持ち、その大部分は現在も未利 用のままである。同様に、まず原料を生産するためにバイオマスを利 もエネルギー効率が高い。また、より低いコストでさらに多くのCO 2 を削減する可能性がある。定置型利用技術は、途上国における地域社 会と家庭向けのエネルギー供給の有望な方法である。例えば、暖房/ 調理のための従来型バイオマス利用への代替を行うことで、エネル ギー不足を克服し、衛生状態を改善する可能性がある。先進国におけ る最先端技術は多機能サービスを有しており、廃棄物処理とエネル ギー供給を組み合わせるといった例が見られる。バイオガスの利用 は、こうした定置型利用の好例である。特に廃棄物を利用した場合に は、再生可能エネルギー源としてGHG削減効果が高い。 様々な技術の検討 バイオマスと同様に、ソーラー・エネルギー・システムも極めて効 率的に太陽放射を利用可能なエネルギーに転換する。特に、同システ ムは、必要となる土地が非常に小さく、環境影響が少ないと考えられ る。しかし、費用は依然として相対的に高い。 政策立案者は、資源生産性を高めるための多様な戦略を実施可能 である。 IPSRMの報告書では、システム全体で資源生産性を高めることを目 的とした政策についても重要視している。 バ イオ燃料の生産に関する持続可能性基準を採用する国が増えつ つある。製品基準として、プロジェクトに焦点を置いたものは有 用であるものの、直接的・間接的な土地利用変化を考慮に入れた 政策手段によって補完される必要がある。 特 に、バイオ燃料消費に関する政策は再検討されなければならな いし、生産目標も持続可能な形で供給できるレベルへと調整する 必要がある。そのためには、バイオマスの国内消費に関して国内 外の土地利用について十分に考慮する必要がある。 持 続可能な土地利用管理に関するプログラムでは、あらゆるタイ プの土地利用と保全地域を考慮しなければならない。 他 にも、固定価格買い取り制度やグリーン価格制度などの市場志 向型の政策措置は、廃棄物と残渣によって生産された電力の市場 参入を促進するために利用することができる。 本 報告書では、より生産的な資源利用を促進するための政策の枠 組が、特定の技術を支援するよりも効果的である可能性が高いこ とも強調している。 全 体的なエネルギー需要の削減、特に自動車の燃費を向上し、 モーダルシフトを促進することが、バイオ燃料の生産を拡大する よりもGHG排出量をはるかに効率的に削減する方法であることが 証明されるかもしれない。 資 源を最適化するため、様々なエネルギー供給システム(構成要 素としてのバイオエネルギー)を検討する必要がある。 最後に、重要なこととして、本報告書は、影響と便益について十分 に理解するため、バイオ燃料開発の重要分野に関するさらなる調査と 資料の提示を必要としている。市場需要が高まるに従って、有望では あるがリスクも伴うと思われる第二世代バイオ燃料の持続可能な生産 と利用に関する研究を進める必要がある。 用し、次いでそれによって生じる廃棄物のエネルギー含量を回収すれ ば(カスケード利用)、バイオマスのCO2削減の可能性を最大限高め ることができる。 概要、報告書全文および主な所見を述べているPPTのプレゼン文書は、www.unep.frからダウンロード可能である。 詳しくは、UNEPエネルギー部門・政策ユニット長Martina Otto(martina.otto@unep.org)までご連絡ください。 環境省仮訳
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