CONTENTS 目次 特 色 ……………………………………………1 入学・修了・学位について ………………………2 カリキュラム ……………………………………………3 教員紹介 ■多様性生物学領域 …………………………4 ■細胞生物科学領域 ……………………10 ■分子生物科学領域 ………………15 ■共通科目担当 ………………21 Graduate School of Life and Environmental Sciences Master's and Doctoral Programs in Biological Sciences 特 色 生物科学専攻(博士前・後期課程)は、多様性生物科学、細胞生物科学、分子生物科学の3領域において独創的な研究の遂 行に必要な研究能力とその基盤となる豊かな学識を持つ研究者および高度職業人の養成を目的としています。基礎生物科学を 中心としていますが、前期課程においては応用も視野に入れた教育研究活動を展開しています。 多様性生物科学領域には生物進化の道筋の解明を目指す系統分類・進化学や個体、集団、群集レベルに見られる現象の理解 を目指す生態学などの分野があります。細胞生物科学領域には細胞内情報伝達ネットワークの解析から、細胞間相互作用に基 づく個体レベルでの生命現象の解明を目指す細胞学、発生学、生理学、遺伝学などの分野があります。分子生物科学領域には 遺伝情報や分子間相互作用に基づく、分子レベルの普遍的な生命現象を研究対象にする分子生物学、遺伝情報学、代謝生理学 などの分野があります。 これら3領域はそれぞれ独立したものではなく、相互に補完し合いながら研究・教育を推進する体制となっています。また 本専攻は、筑波研究学園都市や東京都内の研究水準の高い研究機関(産業技術総合研究所、理化学研究所、農業生物資源研究 所、東京都臨床医学総合研究所、国立感染症研究所など)と連携大学院方式による協力関係を結んで広範な教育研究活動を行っ ています。3領域それぞれにはこれら研究機関に所属する研究者が客員教員として担当する分野もあり、学生を受け入れてい ます。 多様性生物科学領域 生命現象には、共通の基本原理である普遍性とともに、多様性という側面があります。遺伝子やタンパク質あるいは代謝 系に基づく生命現象に生物種間で共通部分が存在しても、細胞や組織・器官、個体の形態や機能、生活様式は多様な分化と進 化を遂げており、分子から群落、生態系に至るさまざまなレベルの多様性によって地球の生物圏が成立しています。したがっ て生命を多様性の視点で解析する領域は生物科学に不可欠なものです。カルタヘナ議定書の発効によって、生物多様性の理解 はライフサイエンスの重要な課題として注目されています。本領域では、分子生物学からフィールドサイエンスに至る各分野 の考え方と技術を協調・融合することによって、細菌からヒト、分子から群落・生態系までカバーする広い範囲の生命現象を 多様性の視点で理解し、研究する能力を養成するための教育研究を行います。 細胞生物科学領域 細胞は生命の重要な単位であり、その構造と機能は膨大な生体分子の相互作用やネットワークによって構成され、生命体の 基本単位として複雑かつ巧妙に形作られています。その細胞を構成する各細胞内小器官(オルガネラ)は細胞内共生により進 化の過程で獲得され、独自の構造と機能を有し、その異常は老化やプログラム死をもたらします。さらに、それら細胞が構成 体となる多細胞生物体は、細胞間、組織間そして器官間の相互作用によって生命を維持しています。本領域では、遺伝子変異 によるミトコンドリア等のオルガネラ機能の解析、自己・非自己の認識機構、脳神経組織の発生と再生、動植物の形態形成や 胚発生、発生のメカニズム等、生命体を構築するために有機的に組織されたしくみを解明すること等を研究課題としています。 これらの研究を基盤として教育カリキュラムを組み立て、細胞および個体レベルの生命の高次機構を深く理解させ、高度な研 究能力を養うために必要な教育研究を行います。 分子生物科学領域 生命現象に関わる膨大な情報の全ては遺伝子に蓄えられており、その情報は種々の機能を有する RNA やタンパク質の発現 を介して生命活動として具現化されています。本領域では、微生物から高等動植物に至るさまざまな生物の生命活動について、 ゲノム情報の解析や発現メカニズムの解析、そしてそれらに関わる分子の構造や機能を研究します。さらに、遺伝子発現ネッ トワーク、分子間相互作用に基づく細胞内情報伝達、膜興奮、細胞認識、核分化、同化や異化過程の物質代謝とその調節等の 研究を総合的に推進することによって、生命現象を分子レベルで根本的に理解することを目指します。これらの研究とその教 育を通して、生命現象を深く理解し研究する能力を養成し、バイオの時代の有能な担い手を育成します。 1 Graduate School of Life and Environmental Sciences Master's and Doctoral Programs in Biological Sciences 入学・修了・学位について 1) 出願資格 [ 前期課程 ] 大学を卒業した者、入学予定年の3月に大学卒業見込みの者、および大学を卒業した者と同等以上の学力があると 認められる者が出願できます。また、外国で 16 年の学校教育課程を修了した者および修了見込みの者も出願できま す。さらに入学予定年の3月末日で大学に3年以上在学し、所定の単位を優れた成績をもって取得したと本研究科が 認めた者も出願できます。 [ 後期課程 ] 出願資格は修士の学位を有する者、および大学院修士(博士前期)課程を入学予定年の3月までに修了見込みの者 です。また、外国で大学院修士課程と同等以上と認められる課程を修了または同年3月までに修了見込みの者も出願 できます。 生物科学専攻の入試日程と募集人員 生物科学専攻の入試日程と募集人員 2) 入試の日程 8月期 前期課程 49名 後期課程 4名 生物科学専攻の入試は以下に示した日程に従って行 われます。若干の変更があり得ますので、詳細につい 2月期 後期課程 22名 ては必ず「募集要項(web で公開) 」を参照してくだ さい。 募集要項Web公開 4月下旬 11月下旬 3) 一般入試(一般学生)の選抜方法 願書受付 7月中旬 1月上旬 入学試験 8月中旬 1月下旬〜2月上旬 合格発表 9月上旬 2月中旬 提出書類及び学力検査の結果を総合的に判定し、入 学候補者を決定します。学力検査の内容(概要)は以 下のとおりです。これらの詳細および各入試の選抜方 法については必ず「募集要項(web で公開) 」を参照 してください。 [ 前期課程(8 月期)] ・ 外 国 語( 英 語 ) (100 点 ) :TOEIC あ る い は TOEFL の 点 数 を 評 価、 換 算 す る。TOEIC の 公 式 認 定 証 ま た は TOEFL の受験者用控えスコア票(出願締切り日から遡って 2 年以内に受験したもの)は、原本を願書出願時に提出 となります。 ・専門科目(100 点) :植物系統分類学、動物系統分類学、生態学、植物生理学、動物生理学、発生学、細胞学、遺伝学、 生化学、微生物学、有機化学の分野から出題される基本的な問題 11 問(各分野 1 問ずつ)の中から 4 問を選択する。 ・口述試験(100 点) :卒業研究(もしくはこれまでの研究)の内容、生命科学に関連した事項及び本人の志望につ いて試問する(15 分) [ 後期課程(8 月期・2 月期)] ・ 外 国 語( 英 語 ) (100 点 ) :TOEIC あ る い は TOEFL の 点 数 を 評 価、 換 算 す る。TOEIC の 公 式 認 定 証 ま た は TOEFL の受験者用控えスコア票(出願締切り日から遡って 2 年以内に受験したもの)は、原本を願書出願時に提出 となります。 ・口述試験(100 点) :修士論文(もしくはこれまでの研究)に関する発表及び入学後の研究予定について発表(15 分) 、 それらに関する質疑応答(15 分) 、英語による質疑応答可、資料持ち込み不可、液晶プロジェクター使用可 4) 学位 [ 前期課程 ] 修士の学位を取得するためには、次の要件を満たす必要があります:1)前期課程に2年以上在学、2)所定の科 2 目を 30 単位以上修得、3)必要な研究指導を受けたうえで修士論文を提出し、その審査および最終試験に合格する こと。また、在学期間中に優れた研究業績をあげた者については、前期(修士)課程に1年以上在学すれば、2年未 満で修士の学位取得ができることになっています。本専攻で取得できる学位は修士(理学)あるいは修士(生物科学) です。 [ 後期課程 ] 博士の学位を取得するためには、次の要件を満たす必要があります:1)後期課程に3年以上在学、2)必要な研 究指導を受け論文提出要件を満たしたうえで博士論文を提出し、その審査および最終試験に合格すること。また、在 学期間中に優れた研究業績をあげた者については、後期課程に1年以上在学すれば、3年未満で博士の学位取得がで きることになっています。本専攻で取得できる学位は博士(理学)、博士(生物科学)あるいは博士(学術)です。 Graduate School of Life and Environmental Sciences Master's and Doctoral Programs in Biological Sciences カリキュラム 前期課程のカリキュラムの概要は以下に示すとおりです。 前期課程のカリキュラム概要 前期課程のカリキュラム概要(合計(合計30単位以上を取得) 30 単位以上を取得) 必修科目 22単位 サイエンスプレゼンテーション 2単位 先端生物科学セミナー 2単位 各分野セミナーA (1年次) 3単位 各分野研究法A (1年次) 6単位 各分野セミナーB (2年次) 3単位 各分野研究法B (2年次) 6単位 研究指導・修士論文指導関連科目 選択科目 3単位以上を選択 生物科学概論Ⅰ・Ⅱ 各3単位 節足動物学野外実習 1単位 生物科学特講Ⅰ~Ⅳ 各1単位 分子系統学特別実習 1単位 生物科学オムニバス特講 1単位 マリンバイオ系実習・演習 各1単位 生殖系列の分子機構 1単位 インターンシップⅠ~Ⅳ 各1単位 サイエンスコミュニケーション特論 1単位 その他の科目 5単位を上限に修了要件として認定 大学院共通科目各種 各1単位 他専攻の科目各種 各1〜3単位 3 多様性生物科学領域 植物系統分類学分野 植物系統分類学分野 い の う え いさお い E-mail:inoue.isao.fm@u.tsukuba.ac.jp E-mail:ken@biol.tsukuba.ac.jp 井上 勲 教授 し だ け ん い ち ろ う 石田 健一郎 教授 キーワード 藻類、地球、環境、進化史 キーワード 藻類・プロティスト、細胞内共生、進化、分類、系統、 ゲノム 酸素発生型光合成はシアノバクテリア(ラン藻)で進化し、細胞 「藻類を中心とした原生生物(プロティスト)の多様性と進化の解 共生の結果葉緑体として真核生物に受け継がれました。これらは、 明」が当研究室のメインテーマ。特に、以下の3つの課題に重点を 陸上動植物が現れる古生代が始まる前に、多細胞生物の生態系を維 置いています。 持する基礎生産を実現しました。原核生物の時代に比べると、光合 1)細胞内共生による葉緑体獲得に伴う細胞進化のメカニズム: 「共 成による生産が 1 兆倍にも増加した可能性があります。藻類の進化 生藻」という1つの独立した生物が宿主細胞内でどのようにし と多様化を理解することは、生物進化と地球進化を理解するために て「葉緑体」という1つの細胞小器官として統合されたのか? 不可欠です。藻類には 11 の門がありますが、これらは光合成とい 植物細胞誕生の秘密を、ゲノム情報、遺伝子導入法、分子細胞 う性質を共有するだけで、実際は起源を異にする生物の集まりです。 生物学的手法などを駆使して探っています。 藻類の多様性は,従属栄養生物が光合成生物を取り込む「細胞共生」 2)プロティスト多様性の把握と系統分類:これまで人類に知られ がさまざまな系統で独立に起こることで実現されてきたものです。 たことのない未知の単細胞生物や、生物進化を理解するための 藻類を通して世界を眺めると、地球進化と生物進化そして現在の地 ミッシングリンクとなる生物の探索をしています。プロティス 球環境が理解できます。そのために、さまざまな藻類の探索、分類、 トには世にも奇妙な新種の生物がまだまだたくさんいるのです。 生活様式などを研究しています。石油をつくる藻類の探索も重要な 3)バイオ燃料資源として有望なプロティストの探索:バイオ燃料、 研究テーマです。 特に石油を作る藻類などを野外から見つけ出し、培養株として ▼ 左から 2 こずつ渦鞭 毛藻類、円石藻類、珪 維持・蓄積するための研究を行っています。 藻。いずれも中生代以 来の水圏の基礎生産を 担う植物プランクトン で、細胞共生で紅藻を 取り込むことで植物に ʏɺʦʨʇʞ˂ɺ なった二次植物です。 ێ૫ࢼ౺ URL:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~inouye/ino/phycological_images.html ᅝᆶൌ ێ૫ఆဘ ᅝᆶൌ ૫ࢼ౺ URL:http://homepage.mac.com/ken_ishida/index.html 植物系統分類学分野 植物系統分類学分野 で ひ ら か わ が わ よ う す け 出川 洋介 助教 E-mail:degawa@sugadaira.tsukuba.ac.jp キーワード インベントリー・菌類・系統分類・種・自然史・多 様性 よ し ひ さ 平川 泰久 助教 E-mail:hirakawa.yoshi.fp@u.tsukuba.ac.jp キーワード 進化、葉緑体、藻類、細胞内共生、タンパク質輸送 現在、 地球上には約 10 万種の菌類(真菌類)が知られていますが、 植物や藻類のもつ葉緑体は細胞内共生により獲得された細胞内小 実際にはその 10 倍以上、約 150 万種が存在すると推定されていま 器官(オルガネラ)です。この共生イベントは異なる系統群で複数 す。かつて菌類は光合成色素を欠く下等な植物と考えられてきまし 回起こったために、葉緑体の進化過程は非常に複雑で、まだまだ謎 たが、五界説において分解者の役割を担う独立の生物群とみなされ、 の多いオルガネラです。私は複雑な葉緑体をもつ藻類を用いて、そ さらに近年では動物と姉妹群をなすオピストコンタの一員だという の進化・維持機構を研究しています。主に使っている生物はクロラ 結論に至っています。水中で誕生し陸上に進出する過程で、動植物 ラクニオン藻で、4 枚の包膜に囲まれた複雑な葉緑体をもつ単細胞 など他のあらゆる生物と関わりを持ちながら、菌類はいかにしてこ 生物です。具体的には、核にコードされた葉緑体タンパク質の輸送 の膨大な多様性を分化させてきたのでしょうか。当研究室では、こ 機構や葉緑体の分裂制御機構などを、分子細胞生物学的手法(遺伝 の多様性の把握と、その生成プロ 子導入法や電子顕微鏡観察)とバイオインフォマティクス(ゲノム セスの解明を目指し、接合菌類や や発現データ解析)を組み合わせて研究を行っています。多様な葉 ツボカビ類など原始的な性質を残 緑体がもつ類似した維持機構が、まったく異なる系統群でどのよう す菌群を中心に、より陸上生活に に進化してきたのかを明らかにしていきたいです。 適応した担子菌類・子嚢菌類、お よび現在ではプロチスタとして他 の界に位置付られる卵菌類・粘菌 類など、幅広い菌群を対象に、自 然史科学的観点からそれらの系統 分類学的研究に取り組んでいます。 URL:http://www.sugadaira.tsukuba.ac.jp/ 4 ૫ఆဘ URL:https://sites.google.com/site/akaherumaru/ 教員紹介 微生物学分野 ち ば よ う Graduate School of Life and Environmental Sciences Master's and Doctoral Programs in Biological Sciences 動物系統分類学分野 こ 千葉 洋子 ま ち だ り ゅ う い ち ろ う 町田 龍一郎 教授 助教 E-mail:chiba.yoko.gp@u.tsukuba.ac.jp E-mail:machida@sugadaira.tsukuba.ac.jp キーワード 代謝 微生物 原虫 オルガネラ 進化 キーワード 昆虫類、六脚類、比較発生学、比較形態学、動物系統 分類学、グラウンドプラン ミトコンドリアは私たち真核生物のエネルギー生産に重要なオル 六脚類(広義の昆虫類)を比較発生学的、比較形態学的に検討し ガネラです。ミトコンドリアは私たちの祖先が太古の昔に取り込ん ています。考察にあたっては形態学的方法論を採用します。すなわち、 だバクテリアが体内に定着し、様々な機能を失って独立した生物か 諸事象(種群、形態、現象など)のグラウンドプランを構築、その ら細胞小器官になったと考えられています。一部の生物において、 変容を議論、各諸事象の的確な把握を行います。そして、構築され このミトコンドリアはさらに変化を進めています。その一つが赤痢 たグラウンドプランならびにその変容をもとにして、対象群の系統 アメーバ原虫のマイトソームです。本マイトソームはエネルギー生 進化を再構築します。六脚類の系統進化に思いをはせて、いままでに、 産能や独自の DNA など、「普通の」ミトコンドリアにある機能をこ 32 目のうち 20 目に関して研究を行ってきました。現在、焦点をあ とごとく失っている一方で、新たな機能を獲得しており、アメーバ てているテーマは六脚類の高次系統の比較発生学的再構築と (図:A. にとって必須のオルガネラです。なぜ、ミトコンドリア・マイトソー 現在最も受け入れられている六脚類の系統、「内顎類-外顎類システ ムはこのような進化 ム」。B.比較発生学から導かれた六脚類の系統)、六脚類の中で最 を遂げたのか?私は も目間の系統関係が定まらない、11 目からなる多新翅類の比較発生 未だよく知られてい 学です。 ないマイトソーム内 の機能とその由来を 知ることで、この疑 問の解を見つけよう としています。 URL:https://sites.google.com/site/memicrobes/home/chiba URL:http://www.sugadaira.tsukuba.ac.jp/machida/mushi.html 動物系統分類学分野 動物系統分類学分野 わ だ ほ ひろし ん だ ま さ な お 本多 正尚 教授 和田 洋 教授 E-mail:panda@sakura.cc.tsukuba.ac.jp E-mail:hwada@biol.tsukuba.ac.jp キーワード 分子系統学、生物地理学、保全遺伝学、爬虫類、両生 類、鳥類 キーワード エボデボ 発生進化学 軟体動物 棘皮動物 ヤツメ ウナギ ナメクジウオ 多細胞動物の多様な形態の進化について、以下の 3 つのテーマに 現在、爬虫類の分子系統学や保全遺伝学を中心に研究しています。 ついて研究しています。 例えば、中部琉球に分布する絶滅危惧種クロイワトカゲモドキの研 1)脊椎動物を特徴付ける神経堤細胞、鰓弓、脊椎骨などが、どの 究では、同一亜種に分類される沖縄島北部と南部の個体群が遺伝的 ような発生プロセスの改変から生み出されてきたのか、ヤツメウ に大きく分化し、認識されている亜種以上に分化していること等を ナギやナメクジウオと硬骨魚や両生類の発生を比較することで解 明らかにしました(図)。これは、現行の形態からの種・亜種分類お 析しています。 よびそれに基づく保全が、種の多様性を過小評価していることを指 2)ウニにみられるプルテウス幼生は、ヒトデなどにみられる骨を 摘しています。それぞれの個体群は保全すべき単位として認識され もたない幼生から進化したと考えられています。ウニのプルテウ るべきでしょう。他に、両生類や スを特徴付ける骨片が、どのような発生プロセスの改変によって 鳥類の研究も行っています。中部 もたらされたか、実験的にヒトデの幼生の骨をつくらせる試みの 琉球のイボイモリの研究では、沖 中から、解析します。 縄島南部の個体群で遺伝的多様性 3)軟体動物の貝殻形態の多様性、特に、巻き貝の 1 枚の殻と二枚 を欠落しており、個体数から予想 貝の 2 枚の殻の違いについて、研究しています。この殻形態の違 されるより環境へ変動に対して脆 いは、原腸形成の時期に 弱であること等を明らかにしまし 既にはっきりとした違い た。また、鳥類の3大適応放散の として現れており、細胞 例であるオオハシモズ科の研究で 分裂の方向性の進化が、 は、単一の祖先が鳥類相の貧弱な 形態進化に結びついたと マダガスカルの環境を利用して多 考えて研究しています。 様に適応放散したことを明らかに しました。 URL:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~hwada/index.html G. k. splendens オビトカゲモドキ G. k. toyamai イヘヤトカゲモドキ G. k. kuroiwae クロイワトカゲモドキ クメ G. k. yamashinae G. k. orientalis クメトカゲモドキ マダラトカゲモドキ URL:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~hwada/ 5 多様性生物科学領域 微生物学分野 は し も と て つ 微生物学分野 お い な が き ゆ う じ 橋本 哲男 教授 稲垣 祐司 准教授 E-mail:hashi@biol.tsukuba.ac.jp E-mail:yuji@ccs.tsukuba.ac.jp キーワード 真核微生物・寄生原虫・分子進化・ミトコンドリア進化・ phylogenomics キーワード 系統進化・真核微生物・phylogenomics・色素体進 化・細胞内共生 寄生性真核微生物であるランプル鞭毛虫(図)やトリコモナス原 複数遺伝子データを解析することにより、主に光合成性真核微 虫は酸素呼吸を行うミトコンドリア(mt)を持ちませんが、その痕 生物の系統関係の解明を目指しています。我々の 102 遺伝子デー 跡器官を保持しています。これはランプル鞭毛虫やトリコモナス原 タの系統解析(Patron et al. 2007 Curr Biol 17:887-891)によ 虫の祖先細胞が嫌気環境に適応した結果、本来持っていた mt 機能 りハプト藻類とクリプト藻類は互いに近縁であることが判明しまし のほとんどを失い「退化」した姿だと考えられています。近年、ラ た。興味深いことに、この新規系統群の多様性は我々が考えている ンブル鞭毛虫類に近縁な自由生活性真核微生物(カルペディエモ よりも大きそうです。引き続き行った 127 遺伝子データの系統解析 ナス様生物)が発見されていますが、これらの生物種も退化 mt を (Burki et al. 2009 Genome Biol Evol 1:231-238)では、捕食性 持っています。私の研究グループでは、特にカルペディエモナス 真核微生物であるテロネマ類、有中心粒太陽虫類が、ハプト藻類、 様生物とランプル鞭毛虫類との系統 クリプト藻類と近縁であることを示唆しています(図参照)。 関係、多様性、退化 mt がどのよう 我々は、この「ハプト・クリプト な機能を持つのかを、核コードミト 生物群」に含まれる、あるいはその コンドリア遺伝子の網羅的探索から 可能性のある生物種の解析を行って 推測しようとしています。一方、細 います。また真核生物における色素 胞内共生による真核細胞進化の研 体(葉緑体)の進化は極めて複雑で 究 基 盤 構 築 の た め に、 複 数 遺 伝 子 あることが分かっていますが、色素 データを用いた大規模分子系統解析 体の獲得とそれに伴う遺伝子・ゲノ (phylogenomics)により、真核生物 ムの進化についても研究を行ってい の初期進化の解明を目指しています。 ます。 URL:https://sites.google.com/site/memicrobes/ URL:http://sites.google.com/site/yujiswebsite/Home 微生物学分野 生態学分野 く わ ば ら と も ひ こ は ま た け お E-mail:kuwabara@biol.tsukuba.ac.jp E-mail:thama@biol.tsukuba.ac.jp 桑原 朋彦 准教授 濱 健夫 教授 キーワード 発酵細菌、メタン生成古細菌、水素共役栄養共生、 メタン生産、バイオミネラリゼーション,細胞分裂 キーワード 水圏物質循環 有機物動態 海洋酸性化 溶存態有機物 一次生産 水素を放出する細菌(発酵細菌)と水素をエネルギー源として利 海洋表層において植物プランクトンにより生産された有機物は、 用する細菌の共生を水素共役栄養共生といいます。水素共役栄養共 動物プランクトン・魚類・バクテリアなどから構成される食物連鎖 生は生命史上最古の共生と考えられており、特に、真正細菌とメタ を通して、より高次の栄養段階へと受け渡されます。その過程を通 ン生成古細菌との共生は真核生物誕生の駆動力になったという説も して、有機物の多くは分解・無機化されます。一方、有機物のまま あります。我々は好熱性の、発酵真正細菌 Thermotogales とメタ で海水へ溶け出す有機物もあり、この溶存態有機物は多量の炭素を ン生成古細菌あるいは発酵古細菌 Thermococcus とメタン生成古細 含有し、地球表層の炭素循環において、重要な役割を果たしています。 菌の水素共役栄養共生を中心に研究しています。主な研究テーマは、 また表層で分解されずに残った粒子状の有機物は、大型の沈降粒子 (1)Fe(III) 還元によるバイオミネラリゼーションと地質形成、 (2) として海洋表層から中・深層へと輸送され、深海へ炭素を隔離する 水素共役栄養共生モデル系の開発、 (3)Thermotogales の分裂様式, 役割を担っています。 および(4)メタン生産です。 私たちの研究室では、この様な水圏における生物の働きと、それ 有機物 (上図)水素共役栄養共生。 (下図)好熱性発酵真正細菌とメタン生成古細 菌とのコンソーシアム。B 励起では両菌とも 緑に、V励起ではメタン生成古細菌のみ水色に 見えます。 発酵細菌 H2 に伴って生ずる物質の動態について、有機物の生成、変換、分解お メタン生成 古細菌 よび輸送過程を中 心に研究を進めて CO2 い ま す。 こ れ に よ CH4 り、 海 洋 生 物 と 水 圏環境さらには地 球環境との関係の 解明を目指します。 URL:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~kuwabara/index.html 6 URL:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/aqua-eco/ 教員紹介 Graduate School of Life and Environmental Sciences Master's and Doctoral Programs in Biological Sciences 生態学分野 わ た な べ 生態学分野 まもる と く な が 渡邊 守 教授 ゆ き ひ こ 徳永 幸彦 准教授 E-mail:watanabe@kankyo.envr.tsukuba.ac.jp E-mail:toque@biol.tsukuba.ac.jp キーワード 行動生態学、生活史戦略、精子間競争、保全生態学、 里山 キーワード 個体群生態学、鷺、豆蔵虫、丸花蜂、人工生命、 アホになる 野外で生活しているチョウやトンボの生 茨城県の鷺群集を四半世紀にわたり追いかけ回してみたり ( 図:翌 活史戦略の研究は、最も基礎的な生態学と 春中国に渡ってしまったアマサギ )、豆の害虫であるマメゾウムシを して発展するだけでなく、最も応用的な学 求めて世界中の wet market を訪ね、300 系統の個体群を十数年間飼 問の出発点でもありました。たとえば、野 い続けてみたり、その豆蔵虫の中で蠢く共生細菌 Wolbachia の企み 外を飛翔しているチョウの数の推定方法 を暴いたり、地中に埋まっているマルハナバチの巣を求めて春の山野 は、教科書に書かれている動物の個体数推定法における理論的基礎 を歩き回ってみたり、はてまたコンピューターの中で蠢く bug の歴 や技術的基礎となっています。チョウの雌が生涯に何回か交尾し、 史でギガ HD を一杯にしてみたり、研究テーマと材料は実に多様であ 交尾の度に雄から注入される精包を栄養として、自らの体の維持や る。しかし、それらの研究テーマに共通に貫いているのは、群れ形成 卵生産にあてているという今の常識は、当研究室の歴代の学生たち の方程式 (R x1/n による成果でした。雌の多回交尾に対抗するように進化してきた雄 = R/n x 1、R: 資 の精子間競争は、 チョウの雄の精子に2型を生じさせたようです(有 源量、n: 個体数 ) 核精子と無核精子) 。授精できない無核精子、そんなものを雄はなぜ であり、 「何故生物 作ったのでしょうか?これが当研究室の重要な研究テーマです。 は 群 れ る の か?」 トンボの生活史戦略の研究は、絶滅危惧種・ヒヌマイトトンボの を問いつづけるた 保全プロジェクトにも応用されました。三重県伊勢市におけるミチ めに「アホになる」 ゲーションと、その後の大規模な経過観察調査は、世界で唯一成功 ことをモットーと したトンボ類の保全例として国際的に高く評価されています。国内 している。 外からの視察に加えて、ここに示した写真のように、保全に成功し たノウハウを、国外で技術指導することも増えてきました(台湾唯 一の生息地の保護活動での指導,2011 年 11 月)。 URL:http://kankyo.envr.tsukuba.ac.jp/~watanabe/index.html URL:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~toque 生態学分野 ひ ろ た 生態学分野 みつる た 廣田 充 准教授 な か け ん た 田中 健太 准教授 E-mail:hirota@biol.tsukuba.ac.jp E-mail:kenta@sugadaira.tsukuba.ac.jp キーワード 炭素循環、生物多様性、生態系の構造と機能、遷移、 高山生態系 キーワード 集団生物学 適応進化 世代交代 木登り 分子生態学 保全生態学 全ての生き物は必ず何らかの環境中にいて、両者は互いに影響を 生物は地球のあらゆる環境に進出しています。その原動力が、生 及ぼす関係にあります。生態学とは、このような生物と環境の関係に 物種内で繰り広げられる適応進化です。野外生態系という舞台で、 関する総合科学です。生き物と環境の間には、図のような階層性があ 生物がいかに生き延びて子孫を残し、どんな遺伝子が増えることで り、 大きなレベルほど複雑な構造とそれに応じた機能があります。 我々 適応進化が進むのか?これは集団生物学の課題です。適応進化が生 はこのような複雑な生態系の構造と機能を解くカギとして、必須元素 んだ生物多様性を守るため、生物の世代交代の仕組みを調べ、それ である炭素の動きに着目した物質循環研究によって以下のような課 を助けるのが、保全生態学です。 題に取り組んでいます。私の研究室では、国内の草原や森林のみなら こうした研究を、熱帯雨林の木登りや日本アルプスの山登りなど ず、チベット高原やモンゴル草原など国外のフィールドも対象として のフィールドワーク、野外や圃場での操作実験、適応遺伝子の同定 研究を行っています。 や遺伝子拡散の解析など、マクロとミクロの技術を駆使して行なっ ▲ てきました。力を入れている課題には、モデル植物シロイヌナズナ カニズムの解明 に近縁で分布標高 30 ~ 3000m という驚くべき万能性を示すミヤ 環境に対する植物の適応メ ▲ マハタザオの適応進化、山岳森林限界生態系の温暖化実験、人の暮 ぼす影響の解明 らしと自然が密接にかかわる菅平高原での景観生態学・保全生態学 環境変動が高山生態系に及 ▲ 遷移にともなう陸域生態系 などがあります。 の 炭 素 貯 留 能 力 の 変 化 パ ターンとそのメカニズムの 解明 ▲ 草原生態系における生物多 様性と炭素循環機能の関係 解明 URL:http://kankyo.envr.tsukuba.ac.jp/~terraeco/ URL:http://www.sugadaira.tsukuba.ac.jp/kenta/ 7 多様性生物科学領域 生態学分野 生態学分野 お お は し わ だ し か ず は る き 和田 茂樹 助教 大橋 一晴 講師 E-mail:swadasbm@kurofune.shimoda.tsukuba.ac.jp E-mail:kohashi@biol.tsukuba.ac.jp キーワード 被子植物、動物−植物間相互作用、送粉生態、 行動生態、進化生態 キーワード 海洋物質循環、海藻、有機物、生産、分解 被子植物の 87% は、ポリネーター(花粉媒介動物)による花粉 海の中には有機態として多量の炭素が存在しており、生物 - 生物 の運搬をつうじて種子をつくります。花とポリネーターの間にみら 間もしくは生物 - 環境間の相互作用によって循環しています。海の れる協同関係は、両者が互いの繁栄のために進化した結果ではあり 中では海藻・バクテリア・植物プランクトンなど様々な生物が炭素 ません。植物は低コストでポリネーターに多くの花粉をはこんでも 循環を駆動していますが、個々のプロセスが詳しくわかっているわ らうため、ポリネーターは低コストで花から多くの餌を手に入れる けではありません。特に海藻は沿岸生態系の主要な光合成生産者の ため、両者は互いを出しぬこうとする拮抗的な進化を今もくり広げ 一つであるにもかかわらず、生態系に対するその寄与の評価はあま ています。よって両者の対立がもたらす花の進化を正しく理解する りなされてきませんでした。我々は、海の有機物のほとんどを構成 には、我々は植物ばかりでなく、ポリネーターの感覚・学習能力、 する溶存態有機物 (DOM) に着目し、海藻が多量の DOM を分泌し 採餌行動についても多くのことを知らねばらなりません。こうした ていること、分泌した DOM が分解されにくい性質を有することを 観点から、送粉生態学における『動物の認知行動を介した花の形質 明らかにしてきました。さらに DOM の生産・分解プロセスについ 進化』という新領域の確立をめざした研究をおこなっています。研 て更なる知見を得ると共に、フィールド調査を基にして沿岸域から 究の目的にあわせ、野外調査、室内実験、シミュレーションを含む 外洋域への輸送プロセスを研究することで、海の中で海藻の DOM 数理モデル、さらに昆虫生理学者との共同研究など、多彩なアプロー がどのような挙動を取る チを試みています。 のかを研究しています。 URL:www.pe.ska.life.tsukuba.ac.jp/~kohashi/ URL:http://www.shimoda.tsukuba.ac.jp/ 進化遺伝学分野 ふ る く ぼ 進化遺伝学分野 と く な が か つ お 古久保 - 徳永克男 に 教授 E-mail:furukubo-tokunaga.gm@u.tsukuba.ac.jp キーワード ショウジョウバエ、脳、学習,記憶、発生、統合失調 症 わ りゅうすけ 丹羽 隆介 准教授 E-mail:ryusuke-niwa.fw@u.tsukuba.ac.jp キーワード 発生生物学、脱皮・変態、ホルモン、マイクロRNA、 昆虫、線虫 遺伝子・行動そして神経回路の分子行動学:ヒトを含めた動物の 多細胞生物の発生過程のタイミングと個体の成長を司る分子メカ 行動は、神経回路の発生過程を介して遺伝子によりその基盤が与え ニズムの研究: 多細胞生物の発生過程では、個々の発生ステージ られる。動物の様々な行動は、さらに経験と学習により修飾されて が時間軸に沿って適切なタイミングで段階的に移行します。例えば 最適化されるが、これらの過程は分子レベルの行動学として近年大 昆虫の場合、卵から幼虫が孵化した後、特定回の脱皮を繰り返し、 きな注目を浴びている。当研究室では、遺伝子・行動そして神経回 変態して成虫になります。ある発生ステージから次の発生ステージ 路の関係を明らかにするためにショウジョウバエをモデルとして以 へと適切に移行するタイミングはどのように決定されるのでしょう 下の研究を行っている。 か?また、各発生ステージごとの「らしさ」(幼虫らしさ、成虫らし 1)行動を制御する神経回 さ)はどのように決められているのでしょうか?当研究室では、 ショ 路構築過程の分子遺伝学 ウジョウバエ、カイコ、および線虫をモデル生物として、発生タイ 的解析。 ミングと成長制御の分子メカニズム 2)報酬学習と記憶を裏打 の解明を目指しています。現在は特 ちする神経回路の分子遺 に、脱皮と変態のタイミングを制御 伝学的解析。 するステロイドホルモン(エクジソ 3)ショウジョウバエをモ ン)の生合成調節機構と、幼虫から デルとするヒト統合失調 成虫へのスイッチングに関わる進化 症発症機構の分子遺伝学 的に保存されたマイクロRNAの作 的解析。 用機序に焦点を当てています。 URL:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~tokunaga/welcome.html 8 げ URL:http://niwa-lab.org/ 教員紹介 Graduate School of Life and Environmental Sciences Master's and Doctoral Programs in Biological Sciences 進化遺伝学分野 遺伝子多様性学分野 さ わ む ら わ た な べ か ず お きょういち 澤村 京一 准教授 渡邉 和男 E-mail:sawamura@biol.tsukuba.ac.jp 教授(前期課程) E-mail:nabechan@gene.tsukuba.ac.jp キーワード ショウジョウバエ、進化、種分化、生殖的隔離、遺伝子、 交配 キーワード 植物バイオテクノロジー、遺伝子組換え植物、遺伝的 多様性、倍数性進化,生物多様性、バイオディプロマシー 私たちは種分化の機構(種の起源)について遺伝子レベルで理解 生物多様性をいかに保ち持続的に利用していくかは人類全体の課 するため、ショウジョウバエを材料として研究しています。生物学 題です。 的種概念では「種とは互いに生殖的に隔離された生物集団である」 中南米、アジア、アフリカの諸国において植物遺伝資源の多様性 と定義しますので、生殖的隔離の原因となる遺伝子の特定が研究の や植物倍数性進化についてのフィールド調査や実験研究に取り組の 中心です。生殖的隔離には、種間での配偶行動が異なるために交配 でいます。また、ジーンバンク等での遺伝資源保全の手法等を研究 が妨げられる場合(交配前隔離)と雑種の生存率や妊性が低下する しています。 場合(交配後隔離)がありますが、これら両方について研究してい 我々は、生物多様性に影響せず、塩害などで砂漠化が進む地域の ます。これまでに、アナナスショウジョウバエとパリドーサショウ 緑化が可能な植物の開発に取り組んできました。 遺伝子組換えに ジョウバエの配偶行動の違いについて、単為生殖系統を利用した遺 より塩害や乾燥にも強いジャガイモやユーカリ等バイオ植物を開発 伝子のマッピングを行ってきました。また、キイロショウジョウバ しました。 エとオナジショウジョウバエの雑種致死や不妊について、その原因 これら生物多様性やバイオテクノロジーに係る国際法、国内規制, となる遺伝子(種 倫理や社会の受容等を考慮した ELSI 要素の研究としてバイオディ 分化遺伝子)の プロマシー課題も取り組んできています。 特定に成功して 遺伝子多様性学 い ま す。 現 在、 Key Words 遺伝子組換え体 / 植物遺伝資源 / 倍数性進化 / 生物多様性 / バイオ ディプロマシー 種分化遺伝子の 普 遍 性( 他 生 物 への適用可能性) 耐虫性を持つジャガイモ近縁野生種: 葉の表面に毛 ( 腺状毛 ) がはえており、 これが sucrose-esther やキノンなど 酸化により粘性となる代謝物質を分泌 し、小昆虫やだに類を防除する。 についても考察 しています。 URL:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~sawamura/index.html URL:http://www.gene.tsukuba.ac.jp/Plant/GeneticDiversity/ 遺伝子多様性学分野 遺伝子多様性学分野 き く ち お あきら 菊池 彰 准教授 E-mail:kikuike@sakura.cc.tsukuba.ac.jp キーワード 高等植物、胚発生、環境ストレス、遺伝子組換え ぐ ち た い ち 小口 太一 助教(前期課程) E-mail:ta1oguchi@gene.tsukuba.ac.jp キーワード 植物生理、遺伝子組換え、ユーカリ、遺伝子組換え食 品の検知技術 移動手段を持たない高等植物は、外環境からの様々なストレスを 有用な遺伝子組換え植物を世に出すためには、有用遺伝子の探索 移動によって回避することが出来ないため、特別な器官や物質を産 や形質転換技術等の基礎研究・基盤研究に加えて、安全に利用する 生するなど、動物とは異なった適応手段を独自に進化させました。 ための研究が非常に重要となります。私たちの研究グループでは耕 こうした適応反応は遺伝子によって制御されており、関わる遺伝子 作限界地での環境植林を目標とし、塩生生物等から得られた耐塩性 の幾つかが明らかにされてきています。環境ストレス応答に関わる 遺伝子等の有用遺伝子を用いた環境ストレス耐性遺伝子組換えユー 遺伝子を有用植物に導入することによって、環境ストレスに強い植 カリ等の開発に取り組んでいます。この中で、外環境を模した条件 物を作出して、その有効性を検証しています。(左図 塩ストレス環 で遺伝子組換え植物の栽培が可能な栽培施設(特定網室や隔離ほ場 境で栽培されたジャガイモ) 等)で遺伝子組換え植物を試験栽培することを通じ、様々な成長段 また、高等植物は環境ストレスにより不定胚形成を起こすことが 階における遺伝子導入によって付 知られています。不定胚とは種子の中にある胚と同じく成長すると 与された特性の評価試験や遺伝子 完全な個体にクローンとして再生します。一度決定した細胞の運命 組換え植物が周囲の植物や微生物 がリセットされ再び不定胚に分化する特有の形態形成現象がどのよ の生物多様性に与える影響を評価・ うなメカニズムで制御されているのかについて研究を進めています。 管理するための手法の研究を行っ (右図 ニンジンの外植片上に形成された不定胚) ています。また、遺伝子組組換え 植物(農産物・食品)を利用する 上での管理技術のひとつとしての 遺伝子組換え体の検知技術に関す る研究にも取り組んでいます。 特定網室での 耐塩性遺伝子組換えユーカリの試験栽培 URL:http://www.gene.tsukuba.ac.jp/Plant/GeneticDiversity/ URL:http://www.gene.tsukuba.ac.jp/Plant/GeneticDiversity/topj/index.html 9 教員紹介 Graduate School of Life and Environmental Sciences Master's and Doctoral Programs in Biological Sciences オルガネラ細胞学分野 発生生物学分野 な か の け ん た ろ う さ い と う や す の り E-mail:knakano@biol.tsukuba.ac.jp E-mail:saito@kurofune.shimoda.tsukuba.ac.jp 齊藤 康典 教授 中野 賢太郎 准教授 キーワード 分類、発生、無性生殖、再生、形態形成、比較免疫 キーワード 細胞分裂、メンブレントラフィック、シグナル伝達、 細胞骨格、細胞極性、酵母遺伝学 私は細胞内で生体分子が自立的に会合して生命現象を引き起こす 当研究室では、“Study Nature, Not Books!”がモットーで、室 プロセスに興味があります。例えば、細胞はどのようにして2つに 内で文献をあさるより、まず、海に出て多くの動物を観察し、おも 正しい位置で、適切なタイミングで分裂できるのでしょうか?当た しろい動物や生命現象を見つけて、それを研究材料や研究テーマと りまえのようですが、そのしくみの大部分は謎に包まれています。 するのが慣例となっている。これは、本人の興味が研究に対する一 細胞の分裂には、細胞骨格と細胞内輸送が協調して進行する必要が 番の原動力になるからである。従って、当研究室のメンバーはそれ あります。そして、その連携をコントロールするしくみが細胞には ぞれ異なる動物、或いは、異なる生命現象を研究してきた。 秘められているはずです。そこで当研究室では、分裂酵母を用いて 今までに当研究室で使われた海産動物は、魚類、ホヤ類、ギボシ 遺伝子操作や細胞内分子の挙動解析、そして生化学などを組合せた ムシ類、コケムシ類、ヒラムシ類、カイメン類など多岐にわたって 研究をしています。さらに、細胞骨格や細胞内物質輸送が関わる多 おり、調べられてきたことは、 様な生命現象とそれを統合するシグナル伝達経路が確立した進化的 1) 個体の形態や生活史(生活環境、 経緯を理解するために、分裂酵母以外の生物も研究対象にしたいと 生殖様式や期間、初期発生、プ 考えています。分子遺伝学、顕微鏡観察、タンパク質の活性測定や ランクトン生活、変態など)に 構造解析、PC を用いた解析などに興味がある方々と一緒に研究で ついて きたら幸いです。 2) 有性生殖、無性生殖、再生にお ける形態形成について 3) 群体性動物における自己・非自 己の認識能(移植免疫能)の発 現とその機構について などである。 URL:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/organelle/nakano.html URL:http://www.shimoda.tsukuba.ac.jp/~hassei/ 細胞生物学分野 細胞生物学分野 はやし な じゅんいち 林 純一 教授 だ か ず と 中田 和人 教授 E-mail:jih45@biol.tsukuba.ac.jp E-mail:knakada@biol.tsukuba.ac.jp キーワード 体細胞遺伝学、ミトコンドリア DNA、老化、がん、 自然免疫、モデルマウス すべての真核細胞に存在するミトコンドリアは、酸素呼吸による か キーワード ミトコンドリアゲノム、病原性突然変異、 病態発症機構、モデルマウス、治療戦略探索 我々の細胞の機能は核ゲノムを起点としたセントラルドグマに 生体エネルギー産生の中核をなし、核ゲノムとは独立した固有のゲ よって制御されている。一方、ミトコンドリアにも独自のゲノム ノム(mtDNA)を保持している。この mtDNA に生じた突然変異 (mtDNA)を起点としたセントラルドグマが存在し、エネルギー代謝・ が幅広い疾患群(糖尿病、神経変性疾患、がん)や老化そのもの原 カルシウム代謝・細胞死制御などの重要な生命現象に寄与している。 因になるという可能性が次々と提示されはじめた現在、ミトコンド 近年、mtDNA の突然変異がミトコンドリア病、糖尿病、神経変性 リアを起点とした多岐にわたる疾患群の理解と効果的な治療応用が 疾患、がん、さらには老化など、多様な疾患の遺伝的原因になる可 急務となっている。このような状況の中、我々は活性酸素漏出を誘 能性が示唆されたことをうけ、変異型 mtDNA を発端とした多様な 導する病原性突然変異型 mtDNA が「がん転移」に寄与することや、 病態発症機構の存在が注目を集めている。我々の研究グループでは 多型突然変異型 mtDNA が「自然免疫」や「腫瘍免疫」に寄与する 林純一教授の研究グループと相互作 という、これまでの予想を超えた 用しながら、変異型 mtDNA を導入 mtDNA の新たな機能を発見するに したマウス群の作製とその応用活用 至っている。我々の研究グループで を通して、変異型 mtDNA 分子種間 は、このような独自性の高い先行成 の病原性比較や多様な病型形成に至 果をもとに mtDNA 分子集団を置換 る分子病理の解明を行い、ミトコン したヒト培養細胞や多型突然変異や ドリアセントラルドグマの機能基盤 病原性突然変異を導入したモデルマ とその破綻病理の全貌解明を目指し ウスを駆使して、哺乳類 mtDNA の ている。 生理機能の総合理解と病態誘導、さ らには老化との関連解明を目指して いる。 URL:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~jih-kzt/ URL:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~jih-kzt/ 11 教員紹介 Graduate School of Life and Environmental Sciences Master's and Doctoral Programs in Biological Sciences 細胞運動学分野 細胞運動学分野 う え だ た ろ う ひ 上田 太郎 教授(連携大学院) ろ せ け い こ 広瀬 恵子 准教授(連携大学院) E-mail:k.hirose@aist.go.jp E-mail:t-uyeda@aist.go.jp キーワード アクチン、ミオシン、構造多型、細胞極性、細胞運動、 メカノバイオロジー キーワード 分子モーター、細胞骨格、細胞運動、電子顕微鏡、 構造生物、画像解析 細胞の極性はどのような分子機構で形成されるのでしょうか。ア 生体の動きは、微小管やアクチン繊維に沿って運動するタンパク メーバ細胞においては、アクチンフィラメントを主体とする細胞骨 質分子モーターによって駆動されます。私たちはダイニンやキネシ 格が前後極性の維持と一方向的な力発生に重要な機能を果たしてい ンなどの分子モーターをはじめ、細胞運動に関与する様々なタンパ ます。そのためには、 たとえばミオシン II は細胞後部のアクチンフィ ク質分子を対象として、電子顕微鏡を用いた構造解析、光学顕微鏡 ラメントと結合して収縮力を発生する必要がありますが、なぜミオ による運動解析等を行っています。特に構造解析では、米国・英国 シン II が細胞後部のアクチンフィラメントにのみ結合するのかはほ のグループと協力し、低温電子顕微鏡法によってダイニンやキネシ とんど分かっていません。われわれは、一口にアクチンフィラメン ンと微小管の複合体の構造を高分解能で明らかにしています。これ トといっても実は同じ構造ではなく、圧縮力のかかっている細胞前 らの研究により、生体運動のメカニズムやその制御機構を理解する 部と伸長力がかかっている後部ではフィラメント自体の構造に違い ことを目指しています。 があり、これが種々のアクチン結合タンパク質との結合性を調節し、 ひいてはフィラメントの機能分化を引き起こし、極性維持に貢献し ているのではないかと考え、変異体を用いた細胞生物学的解析や生 物物理学的な研究を進めています。 ▲ ミオシンⅡのモー タードメインは力発 生能をもつアクチン 結合タンパク質だ が、細胞内では、側 面と後部のアクチン フィラメントとのみ 良く結合する。なぜ だろうか? URL:http://staff.aist.go.jp/t-uyeda/HP/ 分子細胞生理学分野 か と う かおる 加藤 薫 准教授(連携大学院) 動物発生遺伝学分野 あ べ く に や 阿部 訓也 教授(連携大学院) E-mail:k-katoh@aist.go.jp E-mail:abe@rtc.riken.jp キーワード ライブセルイメージング(視る生物学)、神経成長円錐、 細胞分裂、細胞周期、顕微鏡、超解像 キーワード マウス、発生分化、ES 細胞、iPS 細胞、生殖細胞、 エピジェネティクス 神経成長円錐は、伸張中の神経突起の先端部に見られる構造で、 我々の研究室では、マウスを用いて、 「胚性多能性細胞」「生殖系列」 アクチン系の細胞骨格で運動します。一般の光学顕微鏡では、アク という重要な細胞系譜の発生・分化に関する遺伝プログラム、エピ チンの網目は直接観察できず、観察には電子顕微鏡が必要でした。 ジェネティックプログラムについて様々な角度から研究を行ってい そこで、アクチンの動態を、間接的に捉え、運動の仕組みが推測さ る。生殖系列の細胞は、次世代にゲノム情報を重要な生物学的機能 れています。 を持つが、ゲノムに蓄積されたエピジェネティックな修飾を次代に 最近、低倍率の電子顕微鏡に匹敵する分解能を持つ超解像光学顕 持ち越さないような仕組みも合わせ持っており、ゲノムの再プログ 微鏡が開発されました。そこで超解像顕微鏡を用いて、神経成長円 ラム化現象を解析するためにも好個の材料といえる。しかし、その 錐の微細構造を可視化し、運動の仕組みを探っています。(STED 法 発生の全体像の解析は、技術的な問題もあり、未だ不明な点が多い。 では 40nm、SIM 法では 100nm の分解能を達成しました。(一般の そこで、新しい方法論の確立を通じて、哺乳類初期発生プログラム 光顕は 200nm) ) の解明を試みている。手法としては、遺伝子改変動物を用いた遺伝 成長円錐の他、細胞分裂、核内粒子の運動のメカニズムの可視化 子機能解析、バイオイメージングやゲノム解析手法、新規に樹立し 解析を行っています。超解像も含めた様々な顕微鏡や、光計測、電 た幹細胞などを利用した多角的、かつオリジナリティの高い研究を 気計測の手法と分子生物学を組み合わせ、様々な生命機能を探る、 『視 行うことをモットーとしている。 る生物学』を目指します。 ▲ 共焦点(左) 、超解像(中央) 、電顕 (右)の比較。アクチンの網目を、超解 像で、電顕に近い分解能(40nm 以 下)で捉えた電顕写真は、JCB(1989) v18 p95-109 より引用。 URL:http://staff.aist.go.jp/k-katoh/labo/k-katoh.html URL:http://www.brc.riken.jp/lab/mcd/mcd2/ 13 細胞生物科学領域 哺乳類遺伝学分野 感染免疫学分野 し お お に し か ず お た ら ひ ろ し 大西 和夫 設樂 浩志 准教授(連携大学院) 教授(連携大学院) E-mail:ohnishik@nih.go.jp E-mail:shitara-hr@igakuken.or.jp キーワード 免疫学、抗体、感染症、リンパ球、生体防御、医薬 キーワード ミ トコンドリア DNA、ミトコンドリア、急調分離、 母性遺伝、蛍光蛋白 私たちの研究室では、マウスをモデルとして、ミトコンドリア 抗体は、体に侵入してきた病原体などの抗原を厳密に見分けるこ DNA(mtDNA)の遺伝様式とそのメカニズムを理解するための研 とができます。これを抗体の「抗原認識特異性」といいます。たと 究を行っています。我々の体内にはエネルギー産生の役割を担う えば、インフルエンザ・ウイルスが感染して体内で増殖した時、こ ミトコンドリアが存在し、ミトコンドリアには独自のゲノムである のウイルスの表面にある分子の細かい構造を認識して結合できる mtDNA が存在しています。mtDNA が子孫へ伝達されるときには、 様々な抗体が何百種類も作られます。抗体はウイルスが細胞に取り (1)母親からのみ子孫へと伝達される母性遺伝、と(2)ヘテロプ 付いて侵入するのを防ぐので、生体からのウイルス排除に役立ちま ラズミー※状態の mtDNA 分子種が数世代の間にどちらか一方へとシ す。抗体分子をつくる細胞はB細胞と呼ばれるリンパ球で、一部の フトする急調分離、に代表される遺伝様式をとることが示されてき B細胞は非常に長寿命で、次に同じ病原体が侵入してきた時に速や ました。 かに有効な抗体を産生することが出来ます。これを「B細胞免疫記 私たちは、ミトコンドリアを可 憶」といいます。私たちは、体の中で抗体がどのようにつくられ、 視化(図参照)し、直接“見る” どのように働き、ま ことで mtDNA の遺伝様式につい たどのように免疫記 て詳細に解析しています。また遺 憶として免疫システ 伝子改変マウスを用いて mtDNA ムに固定されていく 遺伝様式に関わる遺伝的要因につ かを研究することに いての研究を行っています。 より、ワクチン・診 断薬・治療薬の開発 ※個体中に 2 種類(以上)の異なる mtDNA 分 子種が存在する状態 に役立つ基盤技術へ の応用を目指してい ます。 URL:http://www.nih.go.jp/niid/immunology/Ohnishi-J.html URL:http://www.rinshoken.or.jp/LAS/ 分子寄生虫学分野 分子寄生虫学分野 の な が む ね ざ き と も よ し 野崎 智義 き さ ぶ ろ う 永宗喜三郎 准教授(連携大学院) 教授(連携大学院) E-mail:nozaki@nih.go.jp E-mail:nagamune@nih.go.jp キーワード 感染症、病原機構、オルガネラ進化、寄生、原虫 キーワード 寄生、原生生物、細胞内オルガネラ、感染メカニズム、 トキソプラズマ、マラリア 私たちは世界中で深刻な感染症を引き起こす原生生物を対象とし トキソプラズマやマラリア原虫を始めとするアピコンプレクス門 て、その病原・代謝機構を理解し、これら原生生物の起こす病気を に属する原生生物は、以前光合成をしていたと考えられています。 予防・治療薬やワクチンを作ることを最終的なゴールとして、様々 一般の植物は光合成細菌を取り込むことで光合成能を獲得したとさ な基盤的・応用的な研究を行っています。ヒトに病気を起こす原虫 れていますが、これらの原生生物は、光合成細菌を取り込んだ紅藻 は極めて多様であり、その病原・代謝機構の解明は真核生物の進化 類の祖先を取り込むことで同じ能力を入手しました。アピコンプレ を理解するための重要な示唆を与えます。高度に進化・変化した赤 クス門生物はその後、「寄生能力」を手に入れたため光合成能を失い 痢アメーバのミトコンドリアやマラリア・トキソプラズマの葉緑体 ましたが、紅藻由来の部分は今でも必須の細胞内オルガネラに「進 などはそのほんの一例に過ぎません。これら特殊なオルガネラは、 化」して存在し続けています。そのためアピコンプレクス門生物は 原生生物の進化と寄生適応の過程で成立したもので、病気を引き起 非常に「植物的な性質」を数多く持っていることが知られています。 こす能力と密接に関係している可能性があります。私たちは原生生 私たちは彼らの持つ「植物的な性質」を標的とした抗寄生虫薬開発 物とそのオルガネラの進化を解明し、進化における寄生現象の役割 を目指すと共に、アピコンプレクス門生物が光合成能の代わりに新 を理解することを目指しています。みなさんも世界中で問題となっ たに獲得した形質 ている感染症の撲滅を目指し、多国籍な環境で研究をしませんか? である「寄生能力」 にも着目し、彼ら が寄生を成立させ るためにどのよう に宿主機能を操っ ているかについて も研究しています。 URL:http://www.nih.go.jp/niid/para/parasite.html 14 URL:http://web.me.com/nagamune/ 教員紹介 Graduate School of Life and Environmental Sciences Master's and Doctoral Programs in Biological Sciences 生殖分子情報学分野 生殖分子情報学分野 し ば な こ ぎ く 柴 小菊 助教 私は鞭毛・繊毛が動くメカニズムを明らかにするために、ホヤやウ ニなどの海産動物の精子や幼生を用いて研究をしています。具体的 には、受精において卵側の因子が精子の運動を活性化したり、精子 を引き寄せたりするときに鞭毛運動がどのように制御されているの かについて、高速カメラを用いた顕微鏡画像解析や動いている精子 の鞭毛内カルシウムイメージングを行うことで運動調節のシグナル 伝達経路について解明しようとしています。研究活動は海がすぐ目 の前にあり新鮮な材料をいつでも使うことのできる下田臨海実験セ ンターで行っています。 ひ ろ あ き E-mail:h.nakano@kurofune.shimoda.tsukuba.ac.jp キーワード 鞭毛・繊毛運動、精子、受精、カルシウムイメージング、 海産動物 ゾウリムシからヒトまでが共通に持っている原始的な運動器官です。 の 中野 裕昭 助教 E-mail:kogiku@kurofune.shimoda.tsukuba.ac.jp 鞭毛・繊毛は、生物が動くため に、また体内に水流を作るために、 か キーワード 進 化発生、幼生型、後生動物、新口動物、珍渦虫、 平板動物 動物の祖先がどんな幼生をもっていたのか、各動物種の発生過程 がどのように進化してきたのか、などの進化学的知見は近年飛躍的 に増加しています。しかし、それらは一部の研究しやすい動物、い わゆる「モデル生物」から得られた情報に多く依存しており、動物 の本当の進化過程や祖先型を解明するには、研究が困難ながら系統 学的に重要な位置を占める動物の研究も不可欠です。当研究室では、 これまで発生学的研究がほとんど行われてこなかった「非モデル生 物」の実験発生系を確立し、その発生過程を研究し、それらを他の 種と比較する進化発生学的手法を用いています。このことから動物 の発生過程の多様性を明らかにするとともに共通性を見いだし、 我々 人間を含む新口動物や後生動物の起源や進化を解明することが目的 です。 現在は現生の棘皮動物 の中でもっとも祖先的と いわれるウミユリ、未だ にその系統学的位置すら 精子走化性時の遊泳軌跡 鞭毛内Ca2+イメージング 確 定 し て い な い 珍 渦 虫、 及びこれまでに発生が解 明されていない平板動物 に注目しています。 URL:http://www.shimoda.tsukuba.ac.jp/~inaba/index.html https://sites.google.com/site/hiroakinakanolab/home 生殖分子情報学分野 生態学分野 ほ シルバン アゴスティーニ り え た け お 堀江 健生 助教 E-mail:horie@kurofune.shimoda.tsukuba.ac.jp キーワード ホヤ、ニューロン、カルシウムイメージング、光遺伝学、 行動、変異体 Sylvain Agostini 助教 E-mail: agostini.sylvain@kurofune.shimoda. tsukuba.ac.jp キーワード サンゴ、北上、気候変動、ストレス応答、石灰化 脳・神経系にはたくさんのニューロン(神経細胞)が存在してお 近 年、 温 暖 化 に よ る 地 球 の 動 植 物 の 北 上 が 報 告 さ れ て お り り、それぞれのニューロンがつながり神経回路を形成しています。 (Parmesan and Yohe, 2003)、中でも石サンゴの北上は顕著であ この神経回路が働くことで、動物の行動は生み出されます。私たち る (Yamano et al., 2011)。しかし温帯域の環境は亜熱帯域と異な の研究室では、シンプルな神経回路を持つホヤ ( 図参照 ) というモ り、季節変化が激しく冬期における水温および光量の低下に加えて、 デル動物を使用して研究を行っています。ホヤの脳・神経系はたっ 栄養塩濃度が高いという特徴を有する。さらに近年の二酸化炭素の た 100 個のニューロンから構成される非常にシンプルな脳・神経系 増加は、海水の pH の低下を引き起こしており、これはサンゴの石 ですが、脊椎動物の脳・神経系と多くの共通性を備えており、複雑 灰化速度を低下させる傾向を示す (Gattuso et al., 1998)。以上の な脊椎動物の脳・神経系を理解するための重要なモデルとなります。 事から、将来におけるサンゴの分布を明らかにするために、特に温 私たちはホヤの神経回路を研究することで、脳・神経系が働く仕組み、 帯のサンゴの環境変化に対する応答の解明が不可欠である。そこで、 つまり行動が生み出される仕組みを解明することを目指しています。 我々の研究室では温度や pH のストレスに対する温帯域のサンゴの また、 脳・神経系に存在する眼や耳などの感覚器官が発生する仕組み、 耐性についての研究を進めている。また、酸性化に対する応答を知 脳神経系に存在している繊毛の生理機能の研究、ホヤやウニなどの るために、特に重要とされているサンゴの石灰化のメカニズムの解 海産無脊椎動物のプロテオミクス解析も行っています。 明に取り組んでいる。 URL:http://accafe.jp/Horie_Takeo/index.php?FrontPage URL:http://sites.google.com/site/shimodacoral 17 分子生物科学領域 分子生物学分野 ち ば と も 分子生物学分野 き な か む ら こ う じ 千葉 智樹 教授 中村 幸治 E-mail:tchiba@biol.tsukuba.ac.jp キーワード タンパク質分解、翻訳後修飾、ユビキチンファミリー、 プロテアソーム 我々の研究室では以下の課題を柱としています。 1) 選択的タンパク質分解はどのように生命現象を制御しているか。 2) 選択的タンパク質分解はどのように制御されているか。 教授(前期課程) E-mail:nakamura.kouji@biol.tsukuba.ac.jp キーワード 非翻訳型 RNA、枯草菌、病原細菌、遺伝子発現制御、 蛋白質分泌機構 ゲ ノ ム 解 析 が 進 み、 多 く の 生 物 で そ の 読 み 枠(open reading frame: ORF)の解析が進む中、予想以上に多くの非翻訳型 RNA (non-coding RNA)が存在することが明らかとなった。さらに、 具体的には、分解の目印として機能するユビキチン分子 (Ub) を これまでに予想もしなかったような新しい遺伝子発現制御機構が発 標的タンパク質へ付加する酵素群、そして Ub 修飾されたタンパク 見されている。特に、細胞が環境変化のストレスを感知し、応答す 質を分解するプロテアソーム(PSM)の活性化因子群を解析してい るために様々な non-coding RNA を用いている。現在、研究室では、 ます。Ub-PSM 系の異常は、「がん」「神経変性疾患」「生活習慣病」 グラム陽性である枯草菌(B a c i l l u s s u b t i l i s )について、新奇 non- など様々な疾患の病態と関連しており、これらの疾患は選択的タン coding RNA の検索、同定をし、その機能解析を行っている。また、 パク質分解異常による恒常性の破綻が原因であると考えられていま 病原細菌では、これらの遺伝子発現制御機構が、病原性にも関与し す。 そ の た め Ub-PSM 系 の ていることからもこの点からも研究を進めている。また、枯草菌では、 基礎研究は、高齢化社会にお ゲノム解析が進 ける次世代医療と「生活の質」 んでいるが、ゲ 向上に貢献することが期待さ ノム工学的手法 れています。 を駆使し、ゲノ ムサイズを縮小 した生物を創生 し、それらの工 業的な利用を視 野に入れた研究 も行っている。 URL:http://tchibalab.org/ 分子生物学分野 分子生物学分野 つ さ か も と か ず い ち キーワード ユビキチン、プロテアソーム、オートファジー、 神経細胞、ミクログリア、シナプス キーワード 抗老化、健康長寿、生活習慣病、ストレス、ファイト ケミカル、サーチュイン ます。カロリー制限下では、サーチュインや FoxO などの遺伝子が 活性化され、老化の抑制や寿命の延長に働いています。研究室では、 動物細胞や線虫(C. elegans )および老化促進マウスを用いて、植 物ファイトケミカルや生体内機能分子による老化抑制・健康長寿の 分子機構について研究しています。 2. 生活習慣病の分子メカニズム 生体が過剰なストレスにさらされると、脂肪細胞などの過形成や 機能異常を招き、肥満や糖尿病など生活習慣病の原因になります。 研究室では、動物細胞や線虫(C. elegans )および病態モデルマウ スを用いて、ファイ トケミカルや生体内 機能分子による細胞 ユビキチン - プロテアソーム系やオートファジー - リソソーム系は、あら ゆる組織にとって必須のタンパク質分解機構です。このシステムが破綻す るとタンパク質の恒常性維持に異常を来たし、生体にとって様々な悪影響 を及ぼします。中枢神経系においても、タンパク質分解の異常は炎症反応 や酸化ストレス応答を引き起こし、神経変性疾患や精神疾患発症の原因に なると考えられています。近年、ミクログリアなどの周辺細胞が、神経細 胞の活動基盤を監視し、中枢神経系の制御に重要な役割を担うことが明ら かとなってきました。しかしミクログリアなどの周辺細胞が脳内でのタン パク質分解異常をどのように認識し、神経 - グリアネットワークを調節し ているのか、詳細な分子メカニズムは明らかとなっていません。私は、「中 枢神経系でのタンパク質分解」という視点から、ミクログリアがどのよう にして中枢神経系でのタンパク質代謝を監視しているのか、さらに神経 - ミ クログリア相互作用はどのように制御されているのか明らかにすることを 目標にしています。 の分化、 増殖、 肥大化、 アポトーシスを制御 する分子機構につい て研究しています。 URL:http://kazlab-sirtuin.net/ 18 ふ み の り E-mail:ftsuruta@biol.tsukuba.ac.jp E-mail:sakamoto@biol.tsukuba.ac.jp 多くの生物の寿命や老化には摂取するカロリー量が大きく影響し た 鶴田 文憲 助教 坂本 和一 准教授 1. アンチエイジングと健康長寿の分子メカニズム る URL:http://tchibalab.org/ 教員紹介 Graduate School of Life and Environmental Sciences Master's and Doctoral Programs in Biological Sciences 遺伝情報学分野 遺伝情報学分野 うるしはら ひ で こ く わ や ま ひ で か ず E-mail:hideko@biol.tsukuba.ac.jp E-mail:hidekuwayama@biol.tsukuba.ac.jp 桑山 秀一 准教授 漆原 秀子 教授 キーワード 細胞性粘菌、ゲノム解析、細胞分化、有性生殖、細胞 間識別、進化 キーワード 細胞性粘菌、走化性運動、細胞内情報伝達、分子生 物学、細胞生物学、ゲノム情報 単細胞アメーバとして分裂増殖する Dictyostelium discoid e u m 三量体型 G タンパク質はその名の通りα、β、γの3つのサブユ (細胞性粘菌)は、飢餓を引き金として多細胞化し、胞子とそれを支 える柄細胞に細胞分化します。また、水分過剰になると有性生殖を 開始します。私たちはこのようなユニークな生活環をもち、分子生 物学的解析が容易な細胞性粘菌の利点を生かし、①細胞分化のルー ツを探る比較ゲノム解析、②配偶子間識別と膜融合の分子メカニズ ムの解析、の二つのテーマに取り組んでいます。 ①では、細胞が分化「しない」細胞性粘菌 Acytostelium 属のゲ ノム解読結果をもとに、D. discoideum と遺伝子モデルの構造的機 能的比較を行っています。 ②では、細胞識別能 を失わせる処理を施す 前後の細胞、また異な る交配型の配偶子間で 細 胞膜成分の比較プロ テオーム解析等を行っ ています。どちらのテー マでも多細胞体制の進 ニットからなる GTP 結合タンパク質で、ヒトから酵母に至るまで 高度に保存さ れた物理的化学的細胞外環境変化を細胞内情報に変換 するのに必須な重要な signal transducer としての役割を担ってい ます。しかしながら、依然としてターゲット因子の同定とその動態 は明らかになっていません。 桑山研究室では細胞性粘菌の走化性運動における細胞内情報伝達 をモデルとして、分子生物学、生化学、生物物理学の手法によりター ゲット因子の同定 とその動態の解明を行っています。これまでに、 10以上の候補遺伝子の同定を行い、そのうちいくつかの遺伝子機 能の解明を進めています。これらの ほとんどの遺伝子は、これまで 三量体型 G タンパク質と の関与が報告されていな い新規遺伝子であり、今 後三量体型 G タンパク質 を介した細胞内情報伝 達 機構の新しい知見につな がることが期待されます。 化過程の解明に挑戦し ています。 URL:http://nenkin.gene.tsukuba.ac.jp/ URL:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~hidekuwayama/index.html 植物代謝生理学分野 植物代謝生理学分野 し ら い わ よ し ひ ろ す ず き い わ ね E-mail:emilhux@biol.tsukuba.ac.jp E-mail:iwanes6803@biol.tsukuba.ac.jp 白岩 善博 教授 鈴木 石根 教授 キーワード 微細藻類、光合成、CO2 固定、バイオエネルギー、 バイオ燃料、環境応答 キーワード 環境センサー・光合成・シアノバクテリア・ 二成分制御系・ヒスチジンキナーゼ・物質生産 1-2 億年前に石油や石灰岩を形成した微細藻類(ハプト藻類、円 生物は刻々と変化する環境を検知し、その時々で相応しい代謝反 石藻、ボツリオコッカス)を研究対象とし、光合成、CO2 固定、炭 応を行ため遺伝子の発現を制御して環境に馴化します。これまで生 素代謝、バイオ燃料生産、バイオミネラリゼーション、海洋酸性化 物のさまざまな環境条件への応答は詳しく調べられてきましたが、 に関する生理現象に関する詳細な機構の解明をテーマとしています。 未だに生物がどの様にして環境の変化を検知するかについての知見 細胞内物質代謝を生理、生化学、分子生物学的手法や、ゲノム、プ は十分得られてはいません。私たちは光合成モデル微生物のラン藻 ロテオーム、メタボローム解析法を駆使し、地球環境問題の解決に から、温度、光、レドックス、塩ストレスなどの環境センサーを同 つながる基礎的研究を行っています。現在進行中の主要な研究課題 定しています。それらセンサーのシグナル検知の分子機構の解明が は、 「藻類バイオ燃料の生産機構の解明と能力向上」、「北極融解によ 主要なテーマです。センサーのシグナル検知の機構を解析するため、 り何が起こるか?—地球環境へのインパクト」、「海洋酸性化は何を 既知のセンサータンパク質と機能未解明のセンサーとを融合したキ 引き起こすか?—そのしくみの解明」等で、大型研究予算を得て研 メラセンサーを発現し i n v i v o で機能解析する系を構築しています。 究を推進しています。中でも、中生代の原油生産の元になった海洋 また、光合成の機能を活用した有用物質生産の基盤技術の構築もめ 微細藻類ハプト藻の代 ざしています。 謝制御によるバイオ燃 料の生産に基盤技術開 発に力を入れています。 URL:http://www.sakura.cc.tsukuba.ac.jp/~plmet302/ URL:http://www.sakura.cc.tsukuba.ac.jp/~plmet302/index.html 19 分子生物科学領域 植物ゲノム学分野 植物代謝生理学分野 つ じ や よ し の り の ま さ ひ ろ 辻 敬典 助教 矢野 昌裕 キーワード 光合成,CO2 固定,一次代謝,酵素,微細藻類 キーワード イネ、開花時期、種子休眠、遺伝子機能解析、マーカー 選抜育種 真核光合成生物は、共生により葉緑体を獲得した極めて多種多様 な生物の集団であり、教科書的常識が当てはまらない藻類が多数存 在します。例えば、二次植物である円石藻や珪藻は、緑色植物とは 異なる系統に属し、葉緑体は4枚の包膜に包まれ、貯蔵炭素はデン プンではなく可溶性のβ - グルカンです。しかし従来の教科書では、 緑色植物だけが持つ例外的な特徴が、あたかもすべての植物に当て はまる普遍的特長であるように書かれており、光合成生物全体にお ける光合成炭素代謝の多様性は理解されていません。そこで、円石 藻や珪藻などが持つ独自の代謝経路を解明することで、真核光合成 生物全体における光合成炭素代謝の多様性や進化を明らかにしてい きたいと考えていま 教授(連携大学院) E-mail:myano@nias.affrc.go.jp E-mail:tsuji.yoshinori.fu@u.tskuba.ac.jp 様々な環境に適応する多様なイネの品種や系統間には、病虫害に 対する強さ、乾燥や低温に対する強さ、開花時期や種子の休眠性の 程度など、その表現型に大きな違いが観察されます。これらの違いは、 イネのゲノム中に存在する複数の遺伝子の働きによって決定されて います。私たちの研究室では、農業上有用な形質、例えば、開花時期、 種子休眠、粒型、病害抵抗性などに関与する遺伝子のゲノム上での 位置決定(マッピング)や遺伝子の単離・同定とその機能解析を行っ ています。また品種間に見ら れる形質変異の遺伝解析に必 要な研究材料(雑種集団)や 分子マーカーの作出にも取り 組んでいます。最近では、次 す。同時に、現在の 世代シーケンサーによる複数 海洋において円石藻 のイネ品種のゲノム塩基配列 や珪藻が繁栄してい 解読に取り組み、品種間に見 る要因を、生理学的 いだされる一塩基置換(SNP) に解明したいと考え ています。 の検出とその遺伝解析におけ URL:http://plmet.biol.tsukuba.ac.jp/ URL:http://www.nias.affrc.go.jp/qtl/ る利用を図っています。 植物ゲノム学分野 植物遺伝生理学分野 い こ ば や し ま さ と も ざ わ たけし 井澤 毅 小林 正智 准教授(連携大学院) 教授(連携大学院) E-mail:kobayasi@rtc.riken.jp E-mail:tizawa@nias.affrc.go.jp キーワード ストレス、生物遺伝資源、多様性、バイオマス、バイ オリソース、モデル植物 キーワード イネ、光周性花芽形成、概日時計、光信号伝達系、栽培化、 ゲノム情報 我々の研究室では、 大きく、 3つのテーマに関して研究を進めている。 理化学研究所バイオリソースセンター実験植物開発室は、実験植 1.高次生物学的反応の分子メカニズムの理解 物シロイヌナズナの種子、植物細胞・遺伝子を中心としたリソース 多くの植物は、一日の日の長さを認識して、季節変化を予期し、 の収集、保存、提供を行う中核機関として、文部科学省ナショナル 花芽形成を開始する。この能力のおかげで、子孫を残すのに、適切 バイオリソースプロジェクトに参加しています。一方で、シロイヌ な時期に花を咲かせることができるのである。この能力は、体内時 ナズナ野生系統や作物リソース、植物培養細胞を駆使した研究、更 計の関与と特定の波長の光を認識する光受容体を介した信号伝達系 には単子葉のモデル植物を対象としたバイオマス研究も行っていま の相互作用により可能になっており、その分子機構をイネの突然変 す。例えば植物培養細胞の保存 異体等を使って、分子遺伝学的手法で解明している。(図参照) 技術やシロイヌナズナの系統を 2.作物の歴史と進化 識別する技術、昆虫との相互作 イネを材料に、 野生種から栽培種への変化(いわゆる、栽培化現象) 用を制御する技術などに関わる を DNA やゲノムの変化として記述していく新しい方法に取り組ん 研究を実施しており、外部機関 でいる。 とも連携して実用化に向けた試 3.バイオインフォマティクス みも進めています。平成 22 年 公開されている膨大なゲノム情報や遺伝子発現情報を利用して、 度 か ら は、 グ リ ー ン イ ノ ベ ー ゲノムワイドに遺伝子を比較したり、環境変動と遺伝子発現を統計 ションに関わる新たな研究プロ モデリングしたり、 ジェクト、バイオマス工学研究 インフォマティクス プログラムに参画し、単子葉の 的なアプローチを進 モデル実験植物、ミナトカモジ めている。 グサに関わる開発研究を開始し ました。 ミナトカモジグサ URL:http://www.brc.riken.jp/lab/epd 20 光合成分子生理学分野 と く と み み や お み つ え 德富 (宮尾) 光恵 教授(連携大学院) E-mail:mmiyao@affrc.go.jp キーワード 植物、光合成、窒素同化、代謝ネットワーク、遺伝子機能、 代謝改変 植物は、光合成で大気中の二酸化炭素を固定し、土壌から吸収し た無機窒素を利用して、私たちが利用する様々な物質をつくりだし ます。光合成による炭素 同化と無機窒素の同化は植物のバイオマス 生産を決める二大要因で、どちらが 抑えられても生産性は大きく低 下します。私たちは、イネを材料に、光合成、窒素同化等の基本代 謝ネットワークがどのように制御されているのかを、遺伝子の機能 解析を軸に研究しています。 細胞レベルのみならず、器官、 植物体までを解析対象として います。また、植物の生産性 の改良を目指し、光合成能と 窒素同化能を人為的に改変す る研究も行っています。 URL:http://www.nias.affrc.go.jp/mp-photosyn/ 共通科目担当 教員紹介 Graduate School of Life and Environmental Sciences Master's and Doctoral Programs in Biological Sciences サイエンスコミュニケーション分野 マシュー ウッド Matthew Wood 助教 E-mail:mattwood@biol.tsukuba.ac.jp キーワード science communication, science in media, perceptions of science Originally from a marine biology background, Matt now works in the broad field of science communication. He has previously investigated how high school students’ perceptions of science and scientists may influence their career choices, and he is interested in the portrayal of science in the news and other media, and the influence this has, not only on the public understanding of the issue in question, but also on the public perception of science and scientists in general. His current interests also include how graphic design and visual images can be utilized to more effectively convey complex information. 21 2014 年度版 筑波大学大学院 生命環境科学研究科 生物科学専攻 〒 305-8572 茨城県つくば市天王台 1-1-1 http://www.mbs.life.tsukuba.ac.jp/
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