ロシアNIS経済速報 - 一般社団法人 ロシアNIS貿易会

2011年(平成23年)5月25日
ロシアNIS経済速報
No.1529
毎月5日・15日・25日発行(ただし1月5日、5月5日、8月15日は休刊)
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社団法人 ロシアNIS貿易会
ISSN 1881-4417
ロシアNIS経済速報
2011年(平成23年)5月25日号
目
No.1529
次
ベラルーシの民営化・外資政策の急転換 ............................................. 服部 倫卓 1
........................................................................ 13
東日本大震災に関するロシアの報道振り
トピックス
............................................................................................................................. 15
経済産業省がロシア極東で日本製品の安全性をPR/15
住商がロシアに鉱山機械販売・サービス拠点/16
コマツのケメロヴォ州拠点/16
KDDI、ロシア大手と共同で国際回線増強/16
ロシア中小企業団体が北九州市に事務所/16
エトセトラ
............................................................................................................................. 17
『調査月報』2011年6月号のご案内/17
ベラルーシの民営化・外資政策の急転換
ロシアNIS経済研究所
次長
服部 倫卓
はじめに
周知のように、ベラルーシのルカシェンコ政権は国家主導の経済体制を構築し、市場経
済化にはどちらかと言うと後ろ向きな姿勢をとってきた。しかし、ルカシェンコ大統領は
2010年12月の選挙で再選を果たすと、その直後に経済自由化の方針を発表している。その
前後から、民営化をめぐる動きがにわかに慌ただしくなっている。そして、国内資本が非
力な当国における当然の帰結として、同時に外資導入の話題も盛り上がっている。
ベラルーシが国営企業を身売りしたところで、その買収に名乗りを上げる日本企業が出
てくるとは考えにくい。しかし、ベラルーシ大企業の経営主体が代われば、たとえば日本
からのプラント輸出といったビジネスチャンスが拡大するかもしれない。また、ロシアの
大資本がベラルーシ企業を傘下に収めるシナリオは大いに考えられるので、ロシア経済・
企業をウォッチするうえでも、ベラルーシの民営化問題を視野に入れておいて損はないで
あろう。そこで本稿では、ベラルーシの民営化政策の概要と経緯を整理するとともに、話
題になっているいくつかの事例を紹介してみたい。
1
ロシアNIS経済速報
2011年(平成23年)5月25日
No.1529
概論
ベラルーシでは、ソ連末期の1991年に採択された最高会議決定「ベラルーシ共和国にお
ける脱国家化・民営化のコンセプトの基礎について」により民営化が開始され、1993年1
月19日付法律「国有資産の民営化と国家単一企業の公開型株式会社への改組について」1)
および同年6月16日付の「脱国家化・民営化国家プログラム」により、より具体的な原則
が制定された。
ベラルーシの場合、国営企業は「国家単一企業(GUP)」という組織形態をとっている。
GUPには、中央政府が所有する「共和国単一企業(RUP)
」と、地方自治体所有のものとが
ある。そして、それらを脱国家化・民営化する方式には、大別して2種類がある。第1に、
「譲渡」というものがあり(ロシア語ではотчуждение、英語ではalienation)、これは不採算
企業や債務超過企業を希望者に譲渡・売却するものである。第2に、
「改革」というものが
ある。「改革」の具体的方法としては、GUPを「公開型株式会社(OAO)」に改組する、資
産の賃借を受けていた企業がそれを買い上げる、競売(オークション)により売却する、
公募(コンクール)により売却する、といったものがある2)。
統計によれば、1991年から2009年にかけてベラルーシで実施された脱国家化・民営化は、
1万3,685件であった。図1に見るように、その3分の2は「譲渡」であり、残り3分の1
が各種の「改革」となっている。このように、件数だけを見れば多いのは「譲渡」である
ものの、これは価値の低い資産を放出するスキームであり、ベラルーシ国内でも話題にな
ることはほとんどない。より重要なのは「改革」であるが、近年では競売による売却、賃
借企業による資産買い上げ、公募による売却といった方式はごく例外的となっており、そ
の大多数がGUPのOAOへの改組によ
図1 1991~2009年に実施された脱国家化・民営化件数
って実施されている。たとえば、2009
年の場合、232件の「改革」のうち、
228件がGUPのOAOへの改組による
賃借企業による
資産買い上げ
724
5.3%
公募による売却
426
3.1%
ものであった。
競売による売却
983
7.2%
このように、重要性が高いのは「改
革」であり、今日ではその大多数が
GUPのOAO改組によるものなので、
GUPのOAOへの
改組
2,421
17.7%
以下本稿ではそれに焦点をあてて論
じていくことにする。また、中央政府
総数:
13,685
保有のRUPと地方自治体保有の国営
譲渡
9,130
66.7%
企業のうち、より大規模で重要性が高
い企業が多いのは明らかに前者なの
で、本稿ではRUPを中心に論じる。
(出所)ベラルーシ国民統計委員会。
2
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2011年(平成23年)5月25日
No.1529
その際に、注意しなければならないのは、RUPがOAOに改組されても、必ずしも直ちに
所有権・経営権が民間に移るとは限らないという点である。ベラルーシの「改革」では、
OAO設立当初は国がかなりの株を保持するのが一般的であり、とくに戦略的に重要な企業
に関しては100%国家所有のOAOとして誕生するケースが少なくない。現に、2005年1月の
時点では、旧RUPから改組・設立されたOAO848社のうち、依然として国が株式を保有して
いる企業が601社(70.9%)あり、うち323社(38.1%)では国の持ち株比率が75%以上に上
っていた(吉野, 2006, p.30)
。ただ、こうした企業についても、国が永続的に株を持ち続け
るのではなく、しかるべき時期に株を民間に放出することが想定されている。したがって、
ベラルーシの民営化政策においては、①RUPのOAO化、②OAOの国家保有株の売却、とい
う2つの側面が焦点となるわけである。
停滞した民営化
国家主導の「社会志向市場経済」を標榜するルカシェンコ氏が1994年に大統領に就任す
ると、民営化にはブレーキがかかる。1990年代の後半に国際金融公社(IFC)のプロジェク
ト「ベラルーシにおける小規模民営化」が実施されたこともあり、自治体所有の小規模な
企業に関してはそれなりに民営化の実績が挙がったのも事実である。しかし、大企業の民
営化は総じて抑制され、むしろ国営セクターの強化に重点が置かれた。ルカシェンコ政権
はとりわけ、産業部門ごとに「国営コンツェルン」を設けて、それが各部門の国営企業を
統括する体制を構築した(後掲の表1で「ベル○○」という名称になっているのが、そう
した国営コンツェルンである)
。
図2 国営企業の「改革」実施件数
700
600
500
400
300
200
100
0
自治体所有
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
42 158 104 457 412 390 380 278 201 125 70 105 177 94
共和国所有(RUP) 19
32 140 184 53
98
97
51 106 52
(出所)ベラルーシ資産国家委員会。
3
24
89
65
51
19
12
8
37
27
4
5
157 169 111
63 112
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No.1529
図2は、年ごとの国営企業の「改革」実施件数を跡付けたものである。ルカシェンコ体
制になってから2007年まで、件数はほぼ一貫して低下傾向をたどってきた。むろん、国営
企業の数には限りがあるから、時とともに件数が減っていくこと自体は理解できる。しか
し、ベラルーシでは2005年3月の時点でRUPが1,685社、自治体所有の国家単一企業も3,018
社残っていたのであり(吉野, 2006, p.31)
、まだまだ民営化の余地は大きいのだ。
欧州復興開発銀行(EBRD)が毎年発表しているTransition Reportでも、ベラルーシの民営
化実績は厳しく評価されている。最新の2010年版の評点によれば、1(低)から4(高)
までの4段階評価で、ベラルーシの大規模民営化は2-、小規模民営化は2+と評価されてお
り、欧州諸国では最も低い評点である。また、2010年時点で、ベラルーシのGDPに占める
民間セクターのシェアはわずか30%と推計されており、これもやはり欧州最低である。
民営化の再始動
ルカシェンコ政権の下で、再び民営化が動き出すのが、2008年以降のことである。その
出発点となったのが、2008年4月14日付大統領指令第7号「1998年3月20日付ベラルーシ
共和国大統領指令第3号への変更・追加について」3)であった。1998年の大統領指令によ
り、バウチャー民営化により当該企業の職員が取得した株を売買することが停止されてい
たわけだが、2008年の新たな大統領指令によりそれを段階的に解除していくことになった。
2008年大統領指令はまた、今後は民営化を3ヵ年計画で実施していくという方針を打ち出
すとともに、向こう3ヵ年を対象とした民営化(RUPのOAO化)計画と、国家保有株を売
却するOAOの一覧表を策定するよう政府に命じた。
長年にわたって市場経済化に消極的だったルカシェンコ大統領が、なぜこの時点で方針
を転換したかについては、推測するほかはない。当時のマスコミ報道では、この大統領指
令は、ルカシェンコ大統領自身のイニシアティブというよりは、内閣と中央銀行が投資環
境を改善すべく共同で粘り強く働きかけたことの賜物だと指摘された。今日の厳しい経済
情勢からして、政府としては市場メカニズムを導入して投資誘致に努める以外に方法はな
く、したがって今回ばかりは大統領指令がしかるべく実施されるのではないかというのが、
この報道の見立てであった4)。
2008~2010年の民営化実績
ともあれ、この大統領指令を受け、政府は2008年7月14日付政府決定第1021号「2008~
2010年の共和国所有物件の民営化計画と、国有資産を民営化する過程で創設されそのベラ
ルーシ共和国の持ち分を2008~2010年に売却することになっている公開型株式会社の一覧
表の承認について」5)を制定した。
「民営化計画」はOAO化されるRUPの、
「一覧表」は国
家保有株が売却されるOAOのリストとなっている。
4
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表1 RUPのOAO化とOAOの国家保有株の売却件数
共和国単一企業(RUP)の
公開型株式会社(OAO)への改組
企業の監督官庁
2008~ 2011~
2010
2013
2011
2012
公開型株式会社(OAO)の
国家保有株の売却
2013
2008~ 2011~
2010
2013
2011
2012
2013
建築・建設省
28
18
2
6
10
3
41
40
1
住宅・公営事業省
15
0
0
0
0
0
0
0
0
0
文化省
4
1
0
0
1
0
6
6
0
0
教育省
0
0
0
0
0
0
1
1
0
0
情報省
0
0
0
0
0
6
3
0
3
0
天然資源・環境保護省
0
0
0
0
0
0
1
0
1
0
102
59
11
5
43
36
34
30
4
0
3
0
0
0
0
1
5
3
2
0
53
7
0
0
7
23
0
0
0
0
産業省
通信・情報化省
農業・食品省
スポーツ・観光省
商業省
0
1
0
0
0
0
1
0
0
0
0
30
11
1
0
10
1
9
6
3
0
138
8
0
0
8
14
77
35
26
16
財務省
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
経済省
5
0
0
0
0
0
0
0
0
0
エネルギー省
27
1
0
0
1
10
18
17
0
1
軍需産業国家委員会
16
1
1
0
0
1
0
0
0
0
3
6
0
0
6
10
12
10
2
0
13
7
0
0
7
32
14
8
6
0
ベルビオファルム(バイオ・医薬品)
6
3
0
3
0
0
0
0
0
0
ベルネフチェヒム(石油・化学)
6
12
0
0
12
3
4
4
0
0
ベルレスブムプロム(木材・紙パ)
0
0
0
0
0
11
20
20
0
0
中央銀行
0
0
0
0
0
2
0
0
0
0
451
134
15
14
105
154
245
180
48
17
運輸・交通省
ベルゴスピシチェプロム(食品産業)
ベルレフプロム(軽工業)
合 計
その後、同政府決定を修正する政府決定というものが8度にわたって制定されており、
「民営化計画」と「一覧表」に少なからぬ削除/追加が施されている。
「民営化計画」は当
初519社だったものが最終的に451社になり、「一覧表」は当初147社だったものが最終的に
154社となった6)。このように、
「民営化」の件数こそ当初の計画から若干減少したものの、
重要企業が新たに加えられたような事例もあり、必ずしも後退したというわけではなさそ
うだ。また、いったん決めた「民営化計画」と「一覧表」を実態と乖離したまま放置する
よりも、こまめに見直して更新していくやり方の方が、法治主義の観点からも好ましいと
言えよう。
2008~2010年の「民営化計画」と「一覧表」に掲げられた企業の件数を、その監督官庁
別に、表1にまとめた。これは法令に示された予定件数ではあるが、上述の8度にわたる
修正を反映した最終的な数字なので、事実上「実績」と判断して差し支えない(ベラルー
シ資産委員会のウェブサイトに掲載されている実績データともほぼ完全に符合する)
。
5
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No.1529
2008~2010年に民営化された企業のなかで、とくに重要と思われるものを、以下のとお
り整理しておく。なかでも、2010年7月になってOAO化リストに、当国随一のドル箱企業
であるベラルーシカリーが追加されたことが注目される。もっとも、同社にしても、OAO
設立時点では株式の100%を国が保持する形だった。
■OAO化されたRUP
 ミンスク自動車工場(2008年)
 ミンスク・モーター工場(2008年)
 インテグラル(2009年。エレクトロニクス分野の複数のRUPが合併してOAOを設立)
 ベラルーシ自動車工場(2009年。大型ダンプ、建機のメーカー)
 ヴィチャジ(2009年。テレビ等の家電メーカー)
 ノヴォポロツク石油輸送ドルージバ(2010年)
 ゴメリ石油輸送ドルージバ(2010年)
 ベラルーシカリー(2010年。カリ肥料メーカー。2010年7月15日付政府決定で追加)
■国家保有株が売却されたOAO
 ミンスク・ベアリング工場
 バルヒム(生活化学品メーカー)
 ベルインヴェストバンク
 ベルプロムストロイバンク
このように、一般的なイメージに反し、ベラルーシの民営化は矛盾をはらみながらも、
2000年代の末には一定の進展を見せた。それを裏付けるデータとして、図3を見てみよう。
鉱工業生産に占める私的所有および外国資本の企業の比率が徐々に拡大しており、2009年
時点で71.8%に達しているこ
とが確認できる(うち、私的所
図3 鉱工業生産に占める所有権別の内訳
100%
有が69.3%、外資が2.5%)。た
だし、統計委の資料に詳しい解
説がないので定かでないもの
の、筆者の理解によれば、RUP
50%
から改組されたOAOは、たとえ
国が100%の株を保有していて
も「私的所有」に分類されてい
ると推察され、そのあたりのニ
ュアンスを汲み取る必要はあ
りそうだ。
0%
1995
2000
2005
2009
私的所有および外資
29.7
46.2
64.4
71.8
自治体所有
9.9
4.1
2.7
3.0
共和国所有
60.4
49.7
32.9
25.2
(出所)ベラルーシ国民統計委員会資料から筆者作成。
6
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No.1529
再選後のルカシェンコが経済自由化を宣言
ベラルーシでは、2010年12月19日に大統領選挙が実施され、現職のルカシェンコ氏が約
80%を得票して4選を果たした。選挙結果の改竄や野党弾圧などに対し内外から批判が浴
びせられるのを尻目に、ルカシェンコ大統領は2011年1月21日に就任式を挙行し、5年の
新たな任期をスタートさせている。
このように、政治的には相変わらずルカシェンコ政権の強権的な姿勢が際立っているわ
けだが、その反面、経済面ではリベラル化の動きが目に付く。ルカシェンコ大統領は再選
を決めた直後の2010年12月31日に、大統領指令第4号「ベラルーシ共和国における企業イ
ニシアティブの発展およびビジネス活動の促進について」を発表している。この文書は、
①競争促進、②企業活動の円滑な実施の条件作り、③過剰な行政的障害の除去、④税制を
欧州のそれと協調させる、⑤国の監督機能は予防的なものとする、⑥中小企業の活性化の
ためのインフラ形成および金融制度の構築、⑦労働市場の過剰な規制の緩和、⑧官民パー
トナーシップの法基盤の形成、⑨明快な法規制および法制度の安定の保証、という9つの
柱から成っている。なお、民営化政策については、かなり簡略ながら、②のなかで「民営
化主体が法の要請を順守することを条件に、国有資産の民営化の不可逆性を保証する」と
記している7)。
ルカシェンコ政権は以前にも経済自由化の空手形を切ったことがあり、今回の宣言につ
いてもその実効性を疑問視する専門家が多いのは事実である。たとえば、代表的な民間エ
コノミストであるL.ズロトニコフ氏は、次のようにコメントしている。いわく、政権幹部
は経済の自由化につき盛んに語っているが、国は指令的な手法を放棄しようとはしていな
い。大統領指令に法的拘束力はなく、政府筋では、それが効力を発揮するためには約700に
上る法令の採択・追加・修正が必要としており、すぐには効果は出てこない。実際に何が
起きているかというと、国は相変わらず何の制限もなくビジネスに介入している。たとえ
ば、閉鎖型株式会社「ピンスクドレヴ」では、国が一切出資していないのに、大統領が大
統領令で社長を任命してしまった。フラ
ンス・ロシアの合弁企業「ダノン・ユニ
ミルク」なども、ベラルーシ市場に進出
し、何から何まで政府の指図を受けてい
る。市場が機能するための最重要な条件
は、私的所有権の保証だが、ベラルーシ
ではそれがお粗末だ。ベラルーシでは民
間銀行も、中小企業や国の利益のために
奉仕させられている8)。
7
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No.1529
民営化分野の法改正
このように、冷ややかな見方も根強いものの、政権当局は粛々と今後の民営化に向けた
準備を進めているようだ。2011年1月1日には、新たな民営化法が施行された9)。資産国
家委員会によると、主な変更点は、国有資産の評価方法と、賃貸されている国有資産を買
い上げる際の方式の変更にあるという10)。
ただ、その後、再び国による締め付けが強化されるような動きがあり、事態は錯綜して
いる。2011年3月11日付大統領指令第1号「1998年3月20日付ベラルーシ共和国大統領指
令第3号への修正・追加について」11)と、2011年3月14日付大統領令107号「2006年11月16
日付ベラルーシ共和国大統領令第677号への修正・追加について」12)がそれである。大統領
指令第1号は、国が出資し戦略的に重要な産業部門の機能にかかわり、また(または)そ
の他の国家的需要を満たしているOAOの一覧表を政府が作成し、それらのOAOの株式追加
発行には資産国家委員会の許可が必要であることをうたっている。その際に、具体的にど
のような原則でその一覧表が制定されるかが、不明確となっている。また、大統領令第107
号では、そうした一覧表に挙げられた企業の株は、まず第一に各州およびミンスク市の行
政府が優先的な購入権を有し、90日間が過ぎてようやく、他の買い手に購入権が生じると
している。専門家によれば、もしも国が株式会社の株を1株でも持っていると、国は一切
の選出手続きを抜きに監査役会に自らの代表者を送り込めるようになったとのことで、こ
れは実質的に「黄金株」の復活であるという13)。
2011年以降の民営化計画
ともあれ、政府は2011年3月21日付で政府決定第348号「2011~2013年のベラルーシ共和
国所有民営化物件の民営化計画と、2011~2013年の共和国単一企業の公開型株式会社への
改組計画の承認について」14)を制定した。そこで、この政府決定でOAO化するとされたRUP
と、国家保有株が売却されるとされたOAOを監督官庁別・実施年別に集計し、前掲の表1
にまとめてみた。これに見るとおり、2011~2013年にはRUPのOAO化が134件、OAOの国家
保有株売却が245件予定されている。2011~2013年に予定されているRUPのOAO化のうち、
とくに重要と思われる企業は以下のとおりである。
 ミンスク・トラクター工場(2013年)
 ゴムセリマシ(2013年。ゴメリの農業機械メーカー)
 ミンスク・クリスタル(2013年。当国最大のウォッカ・メーカー)
 ベラルーシネフチ(2013年。垂直統合石油会社)
 ヒムヴォロクノ(2013年。日本からの設備導入も進める化学繊維メーカー)
 ベラルーシ冶金工場(2013年)
 ベルアヴィア(2013年。ベラルーシのフラッグ・キャリア)
8
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いずれもベラルーシ経済の代名詞とも言うべき大企業であり、それらのOAO化が2013年
に集中的に実施されるというのは注目に値する。
2011~2013年のOAO国家保有株の売却リストに関して言えば、正直これと言った目玉は
見当たらない。2011年に株式が売却されるベルレフプロム傘下の一連の軽工業企業が、多
少知名度が高い程度であろうか(アレシャ社、ブレスト絨毯など)。それよりも興味深いの
は、株売却が本年2011年にかなり集中していることであり、これは現時点でベラルーシ政
府の民営化の動機が「すぐにでも現金収入を獲得したい」という点にあることをうかがわ
せる。他方、後述のように現在マスコミで盛んに国家保有株の売却が取沙汰されているベ
ルトランスガス、MTS、ベラルーシカリー、ミンスク自動車工場などの有力企業は、この
リストには載っていない。
外資導入の動向
ベラルーシはこれまで、外資導入が盛んな国とは決して言えなかった。その一因が、国
営企業主体の経済体制であったことは、疑いを容れない。
しかし、ここに来て、かなり様相が変わってきた。象徴的な例を挙げれば、スイスの有
名時計メーカー「フランク・ミューラー」が2010年に、ミンスク時計工場「ルッチ」の株
式の過半を1,200万ドルで買収したことが知られている。また、ハイネケン、カールスバー
グといった世界的ビール・メーカーも最近になって、相次いでベラルーシ企業への出資に
乗り出している。2000年代の末になって、民営化が再活発化し、外資にとっての投資機会
が拡大していることがその背景にあると考えられる。
図4を見ても、過去3年ほど、ベラルーシの外国直接投資受入額が急増してきた様子が
見て取れる。図4は各年のフローの受入額だが、受入残高(ストック)の統計は現在のと
ころ、2009年末現在の数字(25億
図4 外国直接投資の受入額の推移
69万ドル)が最新値なので、その
投資国別および産業部門別の内訳
を図5にまとめた。最大の投資国
(各年のフロー、100万ドル)
6,000
5,569
4,821
5,000
はロシアであり、2位のキプロス
も実質的にロシア資本である可能
性が高そうだ。また、産業部門で
4,000
3,000
2,280
「運輸」の比率が大きいのは、ロ
シア・ガスプロムによるベルトラ
ンスガスの株式50%取得を反映し
ていると思われる。
2,000
1,313
1,000
859
451
749
0
2004
2005
2006
2007
2008
(出所)ベラルーシ国民統計委員会。
9
2009
2010
ロシアNIS経済速報
2011年(平成23年)5月25日
No.1529
図5 2009年末現在の外国直接投資受入残高の内訳
(1)投資国別内訳
(2)産業部門別内訳
ポーランド
1.6%
英領バー
ジン諸島
2.2%
その他の国
12.0%
その他
21.3%
エストニア
2.2%
リトアニア
2.7%
ラトビア
2.8%
オーストリア
3.0%
総 額:
建設
2.9%
25億69万ドル
米国
3.7%
機械・
金属加工
6.5%
ロシア
36.2%
通信
2.2%
英国
5.3%
化学・石化
4.9%
総 額:
25億69万ドル
商業・外食
17.7%
オランダ
7.3%
ドイツ
7.7%
キプロス
13.3%
鉱工業
34.9%
食品工業
11.4%
木材・紙パ
3.4%
軽工業
2.8%
その他
鉱工業
6.0%
運輸
20.9%
(出所)ベラルーシ国民統計委員会。
資金難を乗り切るための国家保有株放出
ベラルーシでは過去数年、実力以上に背伸びをした消費主導の経済成長を続けてきたた
め、経常収支の赤字が拡大し、当局は外貨準備を投入して通貨を防衛してきた。しかし、
今年に入ってから経済の不均衡はさらに深刻化し、通貨切り下げの観測が強まるなか、当
局は当座の資金確保に奔走する毎日である。最新の報道によれば、これまで切り下げを否
定してきた中央銀行はついに、56%もの大幅切り下げに踏み切ったようだ。すなわち、公
定レートは5月23日の1ドル=3,155ベラルーシ・ルーブルから、5月24日には一気に4,930
ベラルーシ・ルーブルにまで下落した。
ベラルーシはユーロ債を起債するといった形での資金調達も行っているし、往時とは異
なりIMFのスタンドバイ・クレジットも受け入れているが、やはりこうした緊急時に頼れ
る相手は同盟国ロシアしかいない。今年に入ってベラルーシは、ロシアを盟主とするユー
ラシア経済共同体の危機対策基金の融資を申請しているほか、ロシア政府による直接的な
借款も求めている。しかし、ベラルーシ側が本年だけで60億ドル程度の融資を希望してい
たのに対し、現時点の雲行きからすると、ロシア側が本年中に応じるのは危機対策基金か
らの10億~12億ドルだけになりそうである(6月4日に正式決定する見通し)。その一方、
ロシアのクドリン副首相・蔵相は、
「ベラルーシが経済を安定化させるためには、3年間で
10
ロシアNIS経済速報
2011年(平成23年)5月25日
No.1529
75億~90億ドル分の民営化収入を挙げる必要がある」と指摘している15)。これは、ロシア
側としては見返りなしにベラルーシを支援することはできず、ベラルーシ側は重要企業の
支配権をロシア資本に明け渡すべきだという立場を、言外に示したものと言えよう。
表1に見たように、ベラルーシは2011年に180社の国家保有株を放出する予定で、約30億
ドルの民営化収入を見込んでいるという。しかし、これら180社は中小企業であり、それだ
けでは30億ドルもの収入は覚束ない。より重要な大企業の民営化が早晩日程に上ってくる
可能性があることは、政策担当者も認めている16)。そして、すでに報道では一連のベラル
ーシ大企業の身売りが取沙汰されており、その買い手としてロシア企業の名前が挙がって
いる。直近で話題になっている案件には、以下のようなものがある。
 ベルトランスガスは、ベラルーシの幹線パイプラインのオペレーター。2007年から2010
年にかけてロシア・ガスプロムが同社の株50%を25億ドルで取得した。現在、残りの株
もガスプロムに売却する可能性が生じているが、条件をめぐって難航している模様。
 ベラルーシMTS社は、携帯電話事業者。ロシアMTS社がすでにベラルーシMTS社の株
49%を保有しており、ベラルーシ政府が保有する残り51%を取得して完全子会社化する
ことを望んでいるが、ベラルーシ側が10億ドルとしているのに対し、ロシア側は6億ド
ル程度と主張している。
 ベラルーシカリーは、カリ肥料メーカーで、ベラルーシ最大規模の輸出企業。すでに述
べたように、同社は2010年にRUPから100%国有のOAOに改組されたわけだが、その国
家保有株の売却が過去1年ほど取沙汰されてきた。ルカシェンコ大統領は、価格が折り
合えば、株式の25%までを売る用意があるという立場を示している。一時は中国資本が
潜在的な買い手として挙げられていたが、現在はロシアのウラルカリーとシリヴィニト
の合併会社が有力な買い手として浮上している。なお、ベラルーシカリーとウラルカリ
ーは2005年に共同販売会社「ベラルーシ・カリ会社」を設立しており、カリ肥料販売の
世界シェアは30%を超えている。
 現在、ベラルーシのグロドノ・アゾト社とグロドノ・ヒムヴォロクノ社の統合が進めら
れているが、その合併会社の株をロシア資本に売却する案がある。グロドノ・アゾトは
ベラルーシ最大の天然ガス需要家であり、以前ガスプロムが子会社化を試みた。
 ベラルーシのミンスク自動車工場の国家保有株の売却が検討されているが、同社とロシ
アのKAMAZを合併させるという案がある。しかし、KAMAZの筆頭株主である国家コー
ポレーション「ロステフノロギー」は、ベラルーシ側の提案に不満のようだ。
おわりに
以上見てきたように、ベラルーシのルカシェンコ政権は2008年から民営化推進の姿勢に
転じ、2010年12月の大統領再選後には、若干政策上の矛盾を伴いつつも、さらにその路線
11
ロシアNIS経済速報
2011年(平成23年)5月25日
No.1529
を明確にしている。もはや行政・指令的な経済運営には限界があること、そして深刻な資
金難に直面していることが、それを不可避にしている。
2008年から民営化は3ヵ年計画に沿って実施されており、現在は新しい2011~2013年の
プログラムが開始されたところである。その限りにおいては、合法性・透明性の高い方式
と言える。ただし、大きな収入が見込める重要案件ほど、株式売却の一覧表には掲載され
ず、ロシアとの水面下の個別交渉という性格が色濃くなる。
ロシア資本にとってベラルーシ企業は、ロシアのインフラの延長上にあったり(トラン
ジット的価値も含む)
、ブランドや技術を共有していたりするので、買収する価値がそれな
りにある。その一方、ロシア以外の国の企業にとっての資産価値となると、やや疑問符が
付く。それゆえに、大口の民営化ほど、もっぱらロシアとの政治的な「駆け引き」に委ね
られ、二国間の様々な対立点とも絡み合って、スキャンダル化しやすい。これは構造的な
問題なので、ある程度やむをえないとはいえ、ベラルーシ政府には極力透明性の高い形で、
長期的な視点に立って民営化を推進していくことが求められよう。
【注】
1)http://www.pravo.by/webnpa/text.asp?start=1&RN=V19302103
2)民営化を含むベラルーシの市場経済化の諸問題について論じた先行研究に、吉野悦雄(2006)
「ル
カシェンコ政権下におけるベラルーシの市場経済化とその促進要因」
『比較経済研究』Vol.43, No.1,
pp.25-37 があり、本稿作成に当たり大いに参考にさせていただいた。以下のサイトからダウンロ
ード可能。http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/33860/1/V43-1_03-1.pdf
3)http://www.pravo.by/webnpa/text.asp?start=1&RN=Pd0800007
4)http://www.br.minsk.by/index.php?article=32640&year=2008
5)http://www.pravo.by/webnpa/text.asp?start=1&RN=C20801021
6)修正前のオリジナルの「民営化計画」と「一覧表」は、ベラルーシ資産委員会の刊行物に掲載さ
れている。Информационно-аналитический бюллетень: Управление и распоряжение
государственным имуществом, №5, №6 2008. http://belzeminfo.by/bulletin/iab_5.pdf;
http://belzeminfo.by/bulletin/iab_6.pdf
7)http://sb.by/print/post/110573/
8)http://www.regnum.ru/news/1378197.html
9)http://www.pravo.by/webnpa/text.asp?start=1&RN=H11000172 正確に言うと、すでに2010年7月16
日に成立していた法律「国有資産の民営化問題に関連するベラルーシ共和国のいくつかの法律へ
の修正と追加、ベラルーシ共和国のいくつかの法令およびその個別条項の失効に関して」が、2011
年1月1日付で発効したということである。
10)http://www.regnum.ru/news/1362179.html
11)http://www.pravo.by/webnpa/text.asp?start=1&RN=Pd1100001
12)http://www.pravo.by/webnpa/text.asp?start=1&RN=P31100107
13)http://www.belmarket.by/ru/123/60/9648
14)http://www.pravo.by/webnpa/text.asp?start=1&RN=C21100348 なお、細かい話になるが、2008~2010
年を対象とした前プログラムではRUPのOAO化リストを「民営化計画」と称していたのに対し、
2010~2013年を対象とした今回のプログラムでは国家保有株が売却されるOAOのリストを「民営
化計画」と称しており、用語が変容しているので、注意が必要である
15)http://naviny.by/rubrics/economic/2011/05/19/ic_news_113_368247/
16)http://news.tut.by/economics/222573.html
12
ロシアNIS経済速報
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No.1529
東 日 本 大 震 災 に関 するロシアの報 道 振 り
このコーナーでは、東日本大震災および原発事故に関連したロシア・マスコミの報道振りのな
かから、注目すべきものをいくつかピックアップし、抄訳してご紹介いたします。なお、翻訳は
ごく粗い仮訳です。また、当編集部はロシア・マスコミによる報道の正確性を保証するものでは
なく、その主張に賛同をしているものでもなく、あくまでも読者の皆様のご参考のために記事の
要旨を紹介するという趣旨ですので、何卒ご了承ください。
■日本の自動車産業、困難を抱えながら通常の生産に復帰へ
RBC daily(2011.5.17)
自動車分野の複雑なサプライチェーンが日本の出来事の早急な中期的結果の評価を難し
くしている。しかし、世界の自動車分野は先日、急激な変化に適応する自社の能力を示し
た。
PricewaterhouseCoopers自動車産業問題研究所(PwC Autofacts)が準備した第二四半期の
新車の生産量の予測によると、2011年の短期劇な売り上げの上昇はアジア・太平洋地域の
先進国(オーストラリア、日本、韓国)における深刻な情報によっていくらか抑えられる。
専門家が日本の3月11日の出来事の後、自分たちの予測において楽観的ではなくなってきた
にもかかわらず、自動車組立に関する世界全体の実績はアジア太平洋地域の発展途上国(中
国、インド、インドネシア、マレーシア、パキスタン、フィリピン、台湾、タイ、ベトナ
ム)と欧米諸国のインテンシヴな経済成長によってバランスを取ることになるだろうと予
想されている。いくつかの予想されている今年の自動車生産量低下が2012年にはこれまで
に予想したよりずっと高い自動車生産レベルに至るかもしれない。
ここ数年日本の自動車分野はその努力を、震災で最も被害を受けた地域を含む日本の東
北地方における生産の非中央集権化に向けていた。長い間、地元の製造業者はより低い生
産コストと発展したインフラといった東北地方の利点を利用してきた。しかし、非中央集
権化の決定はコストの抑制のためだけに採択されたわけではない。このような決定は、生
産の基本プロセスに脅威となる震災の結果におけるリスク削減政策の一部であった。その
ような政策にもかかわらず、地元及び世界の自動車分野における価格設定のチェーンは弱
いままである。
わずかな部品の供給停止が国際的なレベルで遠い地域における生産を停止させる可能性
がある。たとえば日本の塗料用染料生産工場は特殊な自動車用塗料生産用の染料の唯一の
供給会社である。染料の供給停止によって、多くの製造業者の製造予定が乱れた。さらに、
長い混乱を招くようなサプライチェーンが、この分野の問題がかなりの時間を経て完全に
明らかになっていく理由となるだろう。地震と津波の結果、自動車産業の構造的リスクが
明らかになり、何より、サプライチェーンと国際的な自動車生産のリスク管理戦略の見直
しの必要が現れている。
日本で価格設定と生産チェーンが復活した後でさえ、特に電力と燃料供給に制限がある
ので、地域の生産は困難を伴って以前の生産実績に戻ることになる。
日本の電力不足によって、石油の需要が増えるかもしれない。燃料の節約とCO2排出制
限は現在積極的に市場で導入されている電気自動車や燃料節約技術に支援を与える。
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ロシアNIS経済速報
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No.1529
■ロシア税関が放射線量の高い自動車部品を発見
RIA Novosti(2011.5.18)
水曜、サハリン税関の職員が、日本から寄港した船舶の検査の際に、放射線量が高い自
動車部品を発見した。先般、極東連邦管区の大統領全権代表は、日本から入ってくる商品
や貨物に対する放射線検査を厳格にするよう要請していた。
「自動車部品及びパーツはSaga
号に積載されて日本からサハリン州に運ばれてきた。検査の際、スバル・インプレッサの
自動車部品の一つで自然放射線量をやや上回るものが発見された。線量は自然放射線量を
2.4倍上回っていた」と関係筋は語った。関係筋によると、税関職員は必要な測定を実施し、
しかるべき国家機関、非常事態省、ロシア消費者監督庁に報告を行った。ロシア消費者監
督庁が、自動車部品の今後の取扱いについて決定を下すことになる。
■ロシア地理協会、日本海、オホーツク海、ベーリング海の放射能測定
イタル・タス(2011.5.20)
1ヶ月間にわたり極東の放射能の状況を調査した学術調査船パーヴェル・ゴルディエン
コ号によるロシア地理協会の調査航海が、今日ウラジオストクに帰った。ロシア科学アカ
デミーと衛生関係の複数の学術調査研究所、ロシア非常事態省、気象関連機関の専門家と
学者などよりなる調査参加者は、福島第一原発事故後の日本海、オホーツク海、ベーリン
グ海の放射能状況の測定を行った。
「大気の放射能汚染について言えば、我々はロシア極東では福島第一原発からの放射能
物質を発見しなかった。我々は日本の近傍でのみこれら物質に出会った。しかもそこでの
核物質の内容は、ロシアの極東の脅威には全くならない。海水についても状況は同じであ
る」と、この航海のアレクサンドル・ニキーチン学術団長は述べた。
調査団は4月22日にウラジオストクを出発して日本の本州と北海道の間の海峡に向かっ
て日本海を横断し、その後ペトロパヴロフスク・カムチャッキーまで千島列島に沿って航
海した。この全行程で放射能量の測定を行い、気象情報を収集した。今後の2ヶ月間で、
学者たちは収集したデータと調査航海で採取したサンプルの詳細な分析をする。その後、
予定では8月に、彼らは調査の第二段階に着手し、極東海域のエコシステムと個別の生物
種の状況を調べる。
■ロシアの原発は安全:調査の暫定結果報告
コメルサント紙(2011.5.20)
ロシアの原発の安全性調査は深刻な問題を示さなかった。将来的に、
「ロスエネルゴアト
ム」はコラ、ノヴォヴォロネジ、ビリビノ原発の第一世代型原子炉を持つ古い発電所の操
業停止を始めることになる。しかし、コンツェルンの副社長ヴラジミル・アスモロフは、
古い原発は、原子力の中で最も良いもの1つであると指摘している。それらは新しい原発建
設後、経済的な重要性を失ったに過ぎないと専門家らは考えている。
ロシアの原発における安全性の調査によると、事故に対する備えや人材の備蓄は高いレ
ベルであると。特に、世界原発運用会社連合(原発を所有する電力会社が集まった組織)
の下で行われた検査についての話である。アスモロフ氏の発言によると、この結論は調査
結果を含む文書の第四版に含まれている。トップ・マネージャーは、6月3日に出される報
告の最終版の公表で主張することになるだろうと加えた。
14
ロシアNIS経済速報
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しかし、副社長は、将来的に、一連の原発が操業停止になるだろうということを否定し
なかった。1ヵ月前、ロステフナドゾル社長のニコライ・クチインが原発操業期間の延長の
条件について語り、
「現在の安全性の要件に一致した状態で」原発を操業する必要があると
述べた。彼の発言によると、一部の原子炉は操業期間が延長されるが、一部は「問題があ
る」
。特に原発の1つに関して、ロステフナドゾルは「出力なしの」運転のみ認めた。
何らかの原発閉鎖に関するロステフナドゾルの決定はないと昨日ヴラジミル・アスモロ
フが強調した。一方、彼の発言によると、第1世代のVVER(ロシア型加圧水型)原子炉を
持つ原発の稼働停止の可能性がある。そのようなロシアの原子炉はコラ、ノヴォヴォロネ
ジにある。ノヴォヴォロネジ原発では以前、VVER型の炉を持つ最初の2つの原子炉の運転
が停止された。ヴラジミル・アスモロフは、第1世代にはコラの第1、第2号機、ノヴォヴォ
ロネジの第3、第4号機が当たる。しかし、現時点でこれはロシアで最も良い原子炉である
と彼は指摘した。このような炉はフィンランドでも稼働しており、定期的に世界ランク10
位に入ると「ロスエネルゴアトム」の副社長が加えた。
別の閉鎖候補として、ヴラジミル・アスモロフはチュコトのビリビノ原発を挙げた。こ
の実験用原発には、EGP-6という1974年に立てられ、稼働年数がすでに延長された最初の1
つの小規模炉を持つ4基の原子炉がある。「ロスエネルゴアトム」幹部は、延長の決定は見
直されるかもしれないことを指摘した。アスモロフの発言によると、この原発閉鎖に関す
る主な難しさは、
「1つの燃料の取り出しには原発1基と同じくらいかかる」ということだ。
さらに、彼はたとえばVK-50のような古い実験炉の閉鎖の可能性も指摘した。
原発の原子炉運転期間の延長は、世界的な実践されており、このためには原子炉の技術
的な状況を観察し、それが脅威をもたらさないこと証明しなければならない。たとえば、
VVER-1000型の国産原子炉は当初、稼働30年と期待されたが、この期間の終了に合わせて
新しいライセンスを受けた。コラ原発の最初の2号機やノヴォヴォロネジの3,4号機、ビリ
ビノ原発の稼働はすでに延長された。コラ原発のVVERを持つ2つの原子炉は稼働期間の延
長が期待されている。コラ原発の3号機の30年という稼動期間は2011~2012年に終了し、そ
の稼動延長問題はすでに今解決されなければならない。
原子力発展安全問題研究所の所長、レオニド・ボリショフ氏は、停止についての問題の
解決は、真剣な分析結果を受けてなされるべきであると考えている。彼はまた、福島第一
原発事故後、古い原子炉の稼働期間を延長することがより難しくなるだろうということを
否定しなかった。独立系出版社Atominfo.ru主任編集長のアレクサンドル・ウヴァロフ氏は、
今後数カ月、または1~2年の間に、古い原子炉を閉鎖する必要はない、というのも、そこ
では安全性を向上させる補完的措置が行われたからだ、と考えている。しかし、その専門
家は、新しい原発の稼働や代わりとなる規模の登場で一部の古い原子炉は経済的に稼働を
停止することが理にかなうことになるだろう。
トピックス
◇経済産業省がロシア極東で日本製品の安全性をPR
5月8日(日)~16 日(月)、経済産業省通商政策局の原幸太郎ロシア・中央アジア・コー
カサス室長が極東地域を訪問し、極東管区全権代表府、沿海地方政府、ハバロフスク州政
15
ロシアNIS経済速報
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府及びサハリン州政府の幹部と会談を実施した。各会談では、原室長から、東日本大震災
においてロシア国民から寄せられた激励と支援への謝意を表明した上で、大震災に伴い発
生した福島第一原子力発電所事故の現状と収束に向けた我が国の対策を詳細に説明した。
今回の経済産業省の取組みは、NHK、北海道新聞、「ロシアの声」(ロシアのラジオ局)で
も取上げられた。
詳しくは→http://www.rotobo.or.jp/info/others/20110523.pdf
◇住商がロシアに鉱山機械販売・サービス拠点
住友商事株式会社は5月20日、ロシア・クズバス地域の中心であるケメロヴォ州に建設・
鉱山機械、運搬機械販売子会社であるSumitec International Ltd.(Sumitec)の拠点(クズバ
ス支店)を開設したと発表した。同地域に鉱山機械の販売・サービス拠点を設けるのは日
本企業で初めて。ロシアにおいて住友商事は2001年のSumitec設立以来、極東、シベリア、
北西連邦管区でコマツ製建設・鉱山機械、運搬機械の販売事業を拡大してきた。その営業・
サービス力をさらに強化すべく、2011年1月からケメロヴォ州ケメロヴォ市に駐在員2名
を派遣。クズバス支店開設の準備を進め、今般本格的に事業を開始した。
◇コマツのケメロヴォ州拠点
『日本経済新聞』(2011.5.21)等によると、コマツは5月20日、ロシア中部のケメロヴ
ォ州で大型ダンプトラックなど鉱山向け建機の部品供給や修理を手掛ける「テクニカルサ
ポートセンター」を稼働した。劣化した建機のエンジンなど基幹部品を新品に交換するほ
か、部品の供給や技術サポートを提供する。
◇KDDI、ロシア大手と共同で国際回線増強
KDDI株式会社は5月18日、ロシア最大の長距離通信事業者であるロステレコムとの間で、
日本・ロシア間光海底ケーブルネットワーク「RJCN」およびロステレコムが所有するロシ
ア横断光波長多重ネットワーク「TEA」の容量拡張について合意した。欧州向けデータ通
信量の増加に対応するため、両社合計で約6000万ドル(48億円)を投じ、接続速度を従来
の約4倍に高速化する。完成は2012年初めの予定である。
◇ロシア中小企業団体が北九州市に事務所
『西日本新聞社』(2011.5.12)は、全ロシア・中小企業団体「オーポラロシア」が5月
11日、北九州市小倉北区のアジア太平洋インポートマート(AIM)に、日本事務所「オー
ポラロシア福岡」を開設したと報じた。日本全国の企業情報を集積してモスクワ本部へ報
告し、両国の企業のビジネス展開を支援する。オーポラロシアはプーチン首相の肝いりで
2009年1月に設立され、ロシアの中小企業125業種・約50万社が加盟。事務所には職員1人
が常駐する。
16
ロシアNIS経済速報
2011年(平成23年)5月25日
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エトセトラ
◇『調査月報』2011年6月号のご案内
当会『ロシアNIS調査月報』2011年6月号が発行されました。
「NIS諸国のベクトルを探る」
と題する特集号となっております。主な掲載記事は下記のとおりです。
詳しくは→http://www.rotobo.or.jp/publication/monthly/m201106.html
特集◆NIS諸国のベクトルを探る
調査レポート
2010年のNIS諸国の経済トレンド
調査レポート
回復遅れるNIS乗用車市場 ―ウクライナ・ベラルーシ・カザフ―
調査レポート
カザフスタン臨時大統領選挙と新政府発足
データバンク
2009~2010年のNIS諸国の貿易統計
データバンク
2010年の日本の対NIS諸国貿易統計
ミニレポート
データバンク
ビジネス最前線
ロシア極東羅針盤
ロシア首長ファイル
エネルギー産業の話題
自動車産業時評
ロシアNIS経済研究所
ロシアNIS経済研究所 部長 坂口 泉
ロシアNIS経済研究所 研究員 中馬 瑞貴
日本とグルジアの経済関係(芳地 隆之)
2010年のNIS諸国の経済統計
三国間貿易でロシア医療機器ビジネスを推進
㈱ICST 代表取締役 横井 博之さん
ロシアによるロシアのための極東開発(齋藤 大輔)
スヴェルドロフスク州ミシャリン知事(中馬 瑞貴)
東日本大震災とロシア・エネルギー産業(坂口 泉)
2010年のロシアのトラック市場(坂口 泉)
ロジスティクス・ナビ
2010年のロシア港湾物流(辻 久子)
ロシアビジネスQ&A
◎極東ロシアの農地開発の可能性(井上 大樹)
発行所 社団法人 ロシアNIS貿易会 http://www.rotobo.or.jp
〒104-0033 東京都中央区新川1-2-12 金山ビル Tel(03)3551-6215
編集担当部署 ロシアNIS経済研究所 Tel(03)3551-6218 Fax(03)3555-1052
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