赤血球ゴーストの薬物搬送体への利用 〇齊藤 和貴、鈴木 良彦、山田 成吾、小山内 州一 慶大・院理工 osanai@applc.keio.ac.jp 【緒言】 ジアシルフォスファチジルコリンのような両親媒性脂質を用いて調製されたリポ ソームは、様々な種類の薬物を封入でき、生体への毒性・抗原性も低く、調製も容易である 点などから、薬物搬送システム(Drag Delivery System:(DDS))への応用が活発に試みられ ている1。しかしこのようなリポソーム (DMPC など) には生体内における血中滞留性や生体 内安定性などの点で問題があり、その克服のために導入される化学修飾などは安全性への問 題が指摘されている。 また赤血球からヘモグロビン(Hb)のような水溶性内容物を取り除いた赤血球ゴーストも、 リポソームと同様に両親媒性脂質の二分子膜構造を有する点でDDSへの応用が検討されてい るが2、製剤化に際してのサイズや荷電、脂質組成などの加工の難しさなどの点において、種々 の改善が要求されている。 本研究では、リポソームと赤血球、およびリポソームと赤血球ゴーストを緩衝液中で混和 し、インキュベーションすることで、両者の膜成分を共有する新たなベシクル(Hbベシクル3、 および non-Hbベシクル)を調製した。ここでは脂質組成やサイズがある程度制御でき、また 本人の血液を原料に用いることで、理想的な抗原性を有することから高い血中滞留性や生体 内安定性を示すことが期待される。 【実験】 血液から赤血球を分離し、低浸透圧条件下へと暴露することで溶血を誘起し、ヘ モグロビンのような水溶性内容物を放出させ、ついで洗浄を行うことによって赤血球ゴース トを調製した4。またプローブ型ソニケーターを用いた超音波処理法によって、 Dimyristoylphosphatidylcholine(DMPC)からなるリポソームを調製した。リポソームと赤血 球、およびリポソームと赤血球ゴーストを混和し、37℃でインキュベーションを行って、両 者の膜成分を一過性の膜融合を通して交換させ、 その後遠心分離によってベシクルのみを単離し、 これをHbベシクル(Fig. 1)、およびnon-Hbベシ クルとした。得られたベシクルの脂質成分を TLC-FID分析を用いて定量し、更にインキュベー ション中における膜中の脂質組成の時間変化に ついても分析を行った。また得られた試料に薬物 モデルとして蛍光色素であるフルオレセインを 封入し、リポソーム、Hbベシクル、non-Hbベシ クルのそれぞれにおいて封入能の比較を行った。 Fig. 1 【結果】 TLC-FID分析による各ベシクルの脂質組成の定量の結果、DMPCリポソームと赤血 球ゴーストとを膜融合させて得られる non-Hbベシクルには、DMPCリポソームには存在しな かった Phosphatidylethanolamine(PE)や Sphingomyelin(SM)の存在が確認できた。またそ の中でもSMの交換が最も高い効率で行われており、PEはあまり交換されなかった。また赤血 球ゴーストの脂質組成を調べた結果、赤血球脂質中には存在するPCがほとんど確認されなか った。non-HbベシクルとHbベシクルの脂質組成の比較においては、non-Hbベシクルに比べHb ベシクルの方がより多くの赤血球由来脂質を含んでいることがわかった。またインキュベー ション中における試料中の脂質組成の経時変化を定量したところ、どちらの試料においても 脂質成分の交換量はインキュベーション時間に比例し、Hbベシクルはnon-Hbベシクルに比べ ると早期に脂質の交換が平衡状態となることがわかった。 また色素(薬物)封入実験では、non-Hbベシクルの薬物封入量(Fig. 3)はリポソームのも の(Fig. 2)よりも多かったが、Hbベシクルの薬物封入量は(Fig. 4)はリポソームのものよ り低かった。 Fig. 2 DMPCリポソーム への封入能 Fig. 3 non-Hbベシクル Fig. 4 Hbベシクル への封入能 への封入能 【考察】 TLC-FID分析の結果において、SMが最も赤血球膜からリポソームへと移動してい た。これはSMの生体膜における境界脂質としての機能に由来するものであると考えられる。 また赤血球ゴーストの脂質成分にもとの赤血球脂質にあったPCが見られなかったのは、赤血 球ゴーストを調製する際、赤血球中から溶血してきたヘモグロビンを洗浄する過程で、膜中 のPCが洗浄により流出したためであると思われる。また薬物封入実験においてnon-Hbベシク ルがHbベシクルより高い薬物封入能を有していた理由については、インキュベーションの際 にリポソーム側へ流入するヘモグロビンによって、ベシクルの内水相中におけるフルオレセ イン水溶液の体積が減少したためであると考えられる。 【引用文献】 1. 秋吉 一成,辻井 薫,リポソーム応用の新展開,NTS (2005) 2. Gressner O.A., Birgit Lahme., et al., Liver International, 28(2), 220-232(2008) 3. Suzuki K., Okumura Y., Arch. Biochem. Biophys., 379(2), 344-352(2000) 4. Murphy S.C., Harrison T., et al., PLOS Medicine, 3(12), 2403-2415(2006)
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