第3部全編

第3部
=2080 新世界=
(理想郷 サン・サルバドル星)
明るく深い青空の下、緑色をしたラインの頂上部が目前に迫って来る。そこ
に辿り着きさえすれば、その向こうに素晴らしい風景が開けているはずだ。最
後にパワースーツの力を最大限にし、一気に走って丘の頂上に駆け上がった。
思ったとおり、見渡す限りの絶景が、あたしを待っていてくれた。
標高は、丘の頂上部で数百メートルになる。不慣れな道だったので登ってく
るときには足下ばかりに注意を払って、周りの素敵な景色を楽しむ余裕もなか
った。基地を一人出て、休むことも忘れ、ただひたすら登り詰めること3時間。
パワースーツを着けていたにしろ、少し疲れてしまったようだ。
まずは身体を持ち上げ、顔も上げ、爽やかな丘の上の風を感じながら、絶景
を堪能しよう。
嗚呼! 360 度、遮るものもない風景は、なんと素晴らしいのでしょう。
眼下に広がる緑の大地は果てしなく遠くまで広がり、遠く向こうに、青い海
が、青い空に挟まれて、緑のラインとの間に押し潰されていた。開けた緑野に
ゆったりとした川の流れが光の帯となって、大きく蛇行しながら下流へと輝く
ラインを走らせている。幾つもの太陽の光を反射させ、宝石のように光る三日
月湖は、昔の暴れ川の足跡なのだろう。そして、こんもりとした綿帽子のよう
な濃い緑の森も、幾つも点在して見えている。広野となった緑の丘陵も見渡す
限りの絨毯のように気持ち良さそうに広っている。
嗚呼! なんて素晴らしい世界なの。こんな悠久からの自然が、そのまま取
り残された世界が、この世に存在し得ているなんて、誰も夢にも思っていなか
ったでしょうね。
パワースーツの肩覆いに引っかけた、重く大きな荷物を草の上に降ろし、ゴ
ツゴツとした着心地の悪いパワースーツを脱ぐと、大地を渡る涼しい気な風が
全身を包んでくる。
あまりに気持ち良い大気に包まれ、インナーウェアも一緒に脱ぎ捨て、黒の
セクシャルなブラジャーとビキニパンティーだけの姿となった。
誰が見ているわけでもない。基地からは 50Km 以上も離れている。この辺には
原住民の蛮族の部落もない。ここは、あたし一人だけの世界なのだ。
気温 22 度、湿度 20%、上気して熱くなっている身体には堪らない快感だわ。
でも一瞬、肌寒さを感じて身体が震えた。でも肌に降り注ぐ暖かな太陽の陽射
しを受け、すぐに心地良さが広がっていった。
折りたたみの簡易ベッドを手で開き、絨毯のようにふかふかした芝草の上に
広げる。それから、身体を編み上げの簡易ベッドの上に横たえた。
青い大空の真下で、あたしは自然のオーラを全身で感じ取るセンサーになっ
たような気持ち。ここ何日間も続いた、煩わしく気忙しない日々から漸く解放
され、自然のエネルギーを一身に導き入れ、新しく生まれ変わって行くようだ
わ。
頭上に広がる真っ青な空の中に、真っ白い雲がぽっかりと浮かんでいた。甲
高い声で鳴く白い鳥が、青空のキャンパスの中に弧を描きながら横切っていく。
大空に溶け込むように横たわる、あたしを優しく包む柔らかな風に身を委ねて
いると、大空の中に浮かび上がってしまっているような錯覚に陥ってしまう。
大気も清々しく、こんな大自然のど真ん中では、喧騒なミュージックは必要な
かった。変わって、あたしの頭の中には、ドヴォルザーク「新世界」のメロデ
ィーが BGM となって聴こえていた。
突然、
“ピッ・ピッ”という、警告音がイヤホンから響いてきた。静かな自
然の BGM を遮る人工的な発信音に、注意を喚起される。近づく動物を感知した
衛星からの知らせだ。
誰だろう? この近くに大型の動物は棲息していないはずだ。そうすると基
地から男どもの誰かが、あたしを付けて来たのだろうか? しかし、そんな悠
長な男が、あの荒くれどもの中にいようとは思えないし、まして、こんな山の
上まで小娘に付き合おうという優しい心根の船員がいるとは思えない。では、
この惑星の小動物なのか?
この惑星には、そんなに多くの動物は棲息してい
ないし、獰猛な大型生物は皆無だった。まるで、人類が住むために創られた理
想的な惑星にしか思えない。ただ、この惑星の大自然の守護者として、親切な
蛮族達が棲息しているだけだった。
彼らはとても穏やかな性格で、われわれ異星人を親切に招き入れてくれてい
た。ただ奇異なことは、蛮族の草葺の集落に出向いたときに、女性の姿が一人
も見えなかったことだ。聞いてみると、彼ら蛮族の男性は、森から生まれてく
るとのことで、女性という性を持つ伴侶は存在していないとのことだった。
さらに話を聞くと、彼ら蛮族は、成人する手前の少年が、突然に森の奥から
生まれてくるらしい。それも、大きな木に出来た裂け目から。だから、女性と
いう存在そのものを知らないようだった。
しかし、そんな馬鹿な話があるものだろうか。見た目もあたし達と違うとこ
ろはなく、DNA を調べても、彼らは異星人でありながら、正真正銘のあたし達
ホモサピエンスと同じ遺伝子を持っていたのだ。女性が存在しないはずがない。
きっと、どこかに女性達を隠しているのだろう。突然現れた、あたし達異星人
を警戒して、どこかに隠してしまったのだろう。それにしても、あらゆるセン
サーを使って調べても、成層圏に置いてきた人工衛星を使っても、女性の隠れ
ている場所は捜し出すことができなかった。そんな馬鹿なことは絶対にあり得
ないのに、この惑星上に女性の存在を突き止めることができなかった。そうな
ると、もう、彼ら蛮族の言葉を信じる以外にない。
彼ら蛮族の生活習慣は、狩猟と、僅かばかりの焼き畑農業だけ。温暖な気候
のため、衣服を着る習慣もなかった。年間を通しての気温は 20 度以上に保たれ、
保温のための衣類は必要ないのだろう。それに、男ばかりでは、性器を隠す習
慣も当然必要としないのだろう。
この惑星の、唯一の住民である蛮族の集落は、50 人程度の男性達だけで構成
され、100km 圏内に数グループの村しか存在していなかった。そんな穏やかな
環境では部族同士による争いも必要がなく、共存が可能なので、トラブルが起
こる心配はないようだ。部族間の仲はとても良く、年に数度も催される共同の
お祭りによって、さらに交流が深められていた。
理想郷とはまさに、この惑星世界のことを言っているのだろう。
あたし達のような、冷たい宇宙を渡ってきた異世界の異星人と出会っても、
何ら動じることもなく、穏やかに歓迎し、親切にこの地に迎え入れてくれた。
最初の数日は、翻訳機への蛮族の言葉の提供が蓄積していなかったので、通
常の会話は翻訳できず、その間、少し不安ではあったが、すぐに言葉のサイロ
は満たされ、蛮族との会話に不自由することはなくなった。そうすると、彼ら
の誠実さをより感じることができて、あたし達は安心してここに逗留する選択
を行えるようになった。
ただ、蛮族側からすると、あたし達遠征隊が既製の白い制服を着用していた
ので、あたしのような女性も混ざっていることに気が付いてくれなかったのか
もしれない。彼らが、女性という概念を持っているのかさえ、疑問に思えてく
る。
あたしはサングラスタイプのディスプレ端末に表示された、センサーの指し
示す、濃い緑の藪のほうを見やると、白い肌の蛮族の若者が、緑の藪の中から
あたしを凝視していた。基地の男どもと親しく話すこともなかったあたしは、
やや人恋しくなっていたので 大げさに両手を掲げ、左右に振って、覗き見す
る蛮族の若者に応えてやった。
「おぉ~い! こっちにオイデヨ!!」
あたしは、自分でも驚くほどの大きな声で若者を呼んだ。
声を掛けてから、こんな、下着だけの恥ずかしい姿でいることに気が付いた。
でも、蛮族だって全裸なのだ。こんな大自然の中なら、彼もきっと大目に見て
くれるだろう。
蛮族の若者は私の声に反応したようで、全裸の身体で一生懸命、全速力で走
り寄ってきた。
蛮族達に出会うたびに、いつも、男性のシンボルである垂れたパニスを見せ
つけられて、目のやり場に困ってしまっていたのに、今日出会ったこの若者は
パニスをビンビンに勃起させている。これでは、今までよりも目のやり場に困
ってしまう。まさか、この、あたしの裸に感じてしまっているのではないでし
ょうね?
駆け寄って来た若者は、天使に見えるほどに若く、蛮族の言う、森から生ま
れたばかりの、せいぜい 15 歳の少年にしか見えなかった。陰毛の薄い、パニス
を隆起させた若者が、あたしの直前まで走り寄ってくると突然ストップした。
身体を前屈みに折り曲げて膝立ちすると、手を頭の上に伸ばし、顔を草の中に
埋めて身体を伏せてきた。裸で剥き出しの、丸いお尻だけが、モッコリと可愛
く盛り上がって、その格好は、滑稽さを際立たせていた。
あたしは驚いた。今まで蛮族に、こんな風な格好を見せられたことがなかっ
たので、一体何がどうなっているのか、全く想像がつかなかった。美しい背中
の肌を見せる若者の裸体を、疑問と驚きで見下ろしながら、あたしの思考は停
止してしまった。
「ど、どうしたと言うの?
君!」
足元で、光る影のように平伏した、若者の背中に向かって尋ねてみた。
「はい。お答えしてもよろしいでしょうか、女神様」
若者が、草の中に向かってオズオズと丁寧な声で答える。
え? 女神様って、なあに……? 今まであんなにフレンドリーだった蛮族
とは思えない、畏まったものの言いようだわ。
「ええ。良いわよ、答えてみて」
謙虚な態度の若者に、優越感が沸いて、おおように言ってしまった。
「ありがとうございます、女神さま。リーダーにいつも言われていたのですが、
もし、女神様にお逢いするようなことがありましたら、このように奴隷の礼で
御挨拶するように、と教えて貰っていたのです。それが、こんなに早くに女神
様にお逢いすることになろうとは、思ってもいませんでした。こんな光栄なこ
とはございません、女神様」
草で口が塞がれてしまわないように、若者は少しだけ顔を持ち上げ、その草
に向かって、なんだか意味不明なことを話し出した。
「あたしは女神様ではないわよ。遥か宇宙を渡って来た、宇宙遠征隊の一人よ。
3日前に帰ってしまった本隊から残された、船員の一人なのよ。そんな、あた
しを、どうして女神様だって言って、そんな変な格好をするの、君?」
この際、あたしは、平伏す若者を可笑しく思って、追求してみようと思った。
「お答えいたします、女神様。リーダーに教えて貰ったのですが、もし、女神
様に出逢えることがあったなら、すぐに、そのお方が女神であることが感じら
れるだろう。何よりも、女神様のオーラをビンビンと感じて、真っ先にパニス
が反応して大きく膨らんで硬くなるだろうから、それが証拠だと聞いていまし
た。そんな反応を起こさせることができるのは、女神様に他ならないだろうか
ら間違いない、と教えられました。
姿かたちはほとんどオイラ達と似ていながら、その美しさを見ただけで心は
躍り、その妖艶な魅力に身も心も惹きつけられ、何ものにも代えがたい崇高さ
を感じ取ることができるので間違えようがない、ともリーダーはいつも話して
いました。
もし、女神様に出逢えることがあったなら、きちんとした“奴隷の礼”で敬
意を表さなければいけない、と教えられました。それで、その日のために“奴
隷の礼”を毎日欠かさずに練習していたのです。それがこんなに早く、本当に
女神様にお逢いできる日がこようなんて、夢にも思ってもいませんでした」
蛮族の若者は卑下した格好で興奮気味に、草に向かって大きな声で話し続け
ていた。
「さっきも言ったように、あたしは女神様ではないわよ。ソル系から来た宇宙
遠征隊の船員の一人なの。だから、そんな訳の分かんない格好をしないで。身
体を起しなさい!」
幼さを未だ十分に残した、若々しい蛮族の若者の裸の背中に向かって、少し
怒りを込めた大きな声で言ってしまった。
「嗚呼、女神様を怒らせてしまって、申し訳ございません。ご命令通り身体を
起させていただきます」
若者がそう言うと、裸の身体を起して膝立ちした体勢をとった。
可愛い亀頭を晒して、太く長いパニスが、若者の股間で天を突いて持ち上が
り、ゆらゆらと蠢いていて目のやり場に困ってしまう。
「いいえ、女神様に間違いはありません! ソルからの宇宙遠征隊の船員の中
に女神様が混ざっておられたなんて、誰も思っていませんでした。皆さん同じ
白い制服を着用されていたので、見分けがつかなかったのです。ですから、こ
の事実はリーダーも、まだ知らないことです。
部落に戻り、オイラからすぐにリーダーに進言してまいります。そうすれば
リーダーは、慌てて“夢の国”に報告するでしょう。きっと“夢の国”では、
その報告を受けて、女神様を“夢の国”の女神様のところにご案内するように
指示される筈です。オイラは、これからすぐに部落に戻り、リーダーにこの吉
報を進言してまいります。よろしいでしょうか、女神様」
きらきらとした眼差しで若者が真剣に訴えかけるが、あたしは、薄っすらと
生えたばかりの陰毛から立ち上がる、太くて大きなパニスに目が捕らわれてし
まい、気恥ずかしい。
「良いけれど……」
あたしは、若者の新鮮さに押されて、気のないまま答えてしまった。
「ありがとうございます、女神様」
蛮族の若者はもう一度、身体を草の上に伏せて、尻だけを持ち上げた滑稽な
格好で“奴隷の礼”と呼ばれる形をとって丁寧にお礼を述べた。
それからおもむろに立ち上がり、あたしを眩しげに一瞥すると、背を向ける
なり、丘陵の緑の下のほうに走り去ってしまった。あたしは茫然と、彼の走り
去る裸の後ろ姿を見送った。
何がどうなっているのだろう? 若者の魅力的なパニスを勃起させた姿だけ
が、あたしの脳裏に焼かれていた。
嗚呼、あんな若い男と一度 SEX をしてみたいわ。心の中に性的衝動が沸き上が
ってきてしまった。
そうよ、折角の休暇なのだから、ゆっくりしたかったのよ、あたしは。
再び簡易ベンチに身体を横たえ、眩しい青空を仰ぎ見ながら、あたしは瞼が
重くなってくるのに任せた。
船員たちの大部分は、数日前に太陽系に向かって帰還してしまっていた。ケ
ンタウルス星系のプロキシマの調査を終え、アルファ星A星にジャンプし、実
体化したときに、この惑星の成層圏の遥か上の宇宙空間で、サンタマリア号が
何かに接触しようとし、進路を急旋回して回避した。それにより、大気圏層に
ロケットの後尾を打つけてしまい、この惑星に緊急着陸せざるを得なくなった。
サンタマリア号は、見た目よりも損傷は甚大だった。後部噴射口は再生が不
可能なほどに破壊され、宇宙航行もままならない事態になってしまっていた。
まさか、短いジャンプとはいえ、ロケットが惑星の間近に実体化しようとは
誰も思ってもいなかった。それに、そんなことはあり得ないのだろうが、巨大
なスペースコロニーのような人工物に接触しようとしたのだ。サンタマリア号
は、それを避けようと逆噴射したため、この惑星の大気圏層にまで降下してし
まい、その結果、ロケット噴射口を大気圏層に接触させ破損させてしまった。
それが、この地球に似た惑星の発見となったのだ。しかし、あのスペースコ
ロニーのような人工物体は何だったのだろうか。幻か? 事故の後の慌ただし
さで、それを検証する時間もなく、この惑星に不時着した。
クリストファー提督は、祖先の例に習い、最初に発見した、この惑星を“サ
ン・サルバドル星”と、命名した。
そして奇しくも、この惑星に不時着し、ここの原住民との接触が人類にとっ
ての知的生命体とのファーストコンタクトとなった。地球人類が初めて知的生
物と接触した、偉大な日となった。これは歴史に永遠に刻まれる偉業を成し遂
げたことになるのだろう。
原住民のもつ文明は、地球人類の発達の過程と似通っていた。狩猟採取時代
から、焼き畑農業を行う段階にまで到達していた。しかし、地球人類が経験し
てきた、他の動物達との過当競争や、大自然の厳しさとの戦いは、このサン・
サルバドル星にはあり得なかった。地表は穏やかさに恵まれ、凶暴な動物など、
どこにも存在していなかった。そのせいもあるのか、外邦者の我々に対しても、
とても親切に低姿勢で接してくれていた。
クリストファー提督の率いる遠征隊は、彼らの親切心に甘えるばかりだった
が、それなのに、船員の誰かが“あいつらは、蛮族だな!”と、発した一言が、
皆に受けてしまい、以来、原住民のことを“蛮族”と蔑んで呼ぶようになって
しまっていた。
サン・サルバドル星に不時着できたことは、とても幸運なことだった。遠征
隊は再編成され、残されたビンタ号、ニーニャ号をフル活動させ、残ったB星
の探索に旅立たせた。調査期間は2ヶ月と定められた。何故なら、プロキシマ
星系の探査で、すでに1ヶ月以上が経過していて、誰もが早く太陽系に帰りた
いと思い始めていたからだ。長期間に渡る暗黒の宇宙空間を渡ることで、船員
のストレスはピークに達していて、いつまでも時間を区切らずに調査をし続け
ることはできなかった。2ヶ月間も深淵の冷たい宇宙空間に晒され、気分の悪
くなる異次元ジャンプを繰り返してきたのだ、船員達のストレスは限界を超え
ていた。すでに、暴動寸前のところまで事態は険悪化していた。それで、クリ
ストファー提督も期限を切らざるを得なくなったのだ。
やっと到着できた、太陽系から一番近い星系、ケンタウルス星系のC星、プ
ロキシマ。プロキシマは太陽の 0.4 倍の大きさで、惑星系は存在しなかった。
2か月も掛けて大宇宙を越え、やっと到達できた別な異星系だった。その苦
労は出発当初の予想を遥かに超えた過酷なものだった。そのため、C星の探査
と隊員の休息に1ヶ月を費やしてしまった。そして、0.2 光年離れたA星こと、
アルファ星へ漸くジャンプすることが出来た。しかし、ジャンプする距離が短
すぎて、3隻のロケットはアルファ星系の惑星系の内側に実体化してしまった。
サンタマリア号は、完全にこの惑星の引力圏に捕らわれた。さらに悪いことに、
突然現れた浮遊物を避けようとして逆噴射させた途端、ロケットの後部が惑星
の大気圏層に触れて破損してしまった。予期できない事態ではなかったが、最
悪の連鎖が続いてしまった。死傷者が出なかっただけでも不幸中の幸いだった。
クリストファー提督は、研究者を中心に人員編成を行い、アルファ星系を成
す連星で、アルファ星に比べて4分の1ほどの大きさしかない、B星の調査に
向かわせた。しかし、B星に派遣したビンタ号は行方不明になってしまった。
もっぱら、抜け駆けして太陽系に帰ってしまったのだという噂が、大っぴらに
語られていた。
そして、3ヶ月の期限が来たので、残されたニーニャ号に乗れるだけの乗員
を乗せて太陽系に戻ることとなったが、この地球に似た惑星、サン・サルバド
ル星の原住民達の親切心に甘え、乗りきれなかった 40 名の乗組員を残したまま
出発することとなった。
残される乗組員は希望者を募ったが、十数名いた女性の中での志願者は、あ
たし一人だけだった。クリストファー提督からも、太陽系に帰還するように勧
められたが、太陽系に戻ったところで、こんな不良で刑務所帰りのあたしを待
っていてくれる人がいるわけでもなく、この惑星の素晴らしさに魅せられてし
まったあたしは、一日でも長く、この星に留まっていたいという思いが強かっ
た。提督を説得して、女性では一人だけ、ここに残ることを納得させたのだ。
21 歳という、あまりに若い、あたしの年齢を心配して、提督は無理やりでも
ニーニャ号に乗せたかったみたいだが、緊急に募集した乗組員であり、足りな
い乗員は、服役中の罪人で充てた経緯もあって、逆にそのことが暗黙の了解と
なり、あたしは残留組に入ることができたのだった。この素敵な惑星に居残っ
て大自然の中に抱かれてみて、あたしの選択は正かった、と実感した。
しかし、蛮族の若者が言っていた“夢の国”とか、“女神様”とは、何のこ
となのだろう? 短い調査旅行の間では発見できなかった異星人が、実は他に
も存在していたということなのかしら? そうすると、あの惑星軌道上で接触
しようとしたスペースコロニーの謎も解けることになる。あたしの幼稚な頭の
中でも、色々な疑問が湧き上がってきたけれど、気持ちの良い大自然の中に横
たわっていると、そんな事は些細なことにしか思えず、だんだんと眠気が勝っ
てきていた……。
母が、新しい男とできて、あたしを置き去りにして行ってしまった。あたし
は泣きじゃくりながら、男に身を寄せたまま遠ざかって行く母の後ろ姿を追い
かけた。
でも、街の雑踏の中に、母とその男の姿は消えてしまい、あたしは立ち尽く
して大声で泣いていた。たくさんの車が、交差点の真ん中で立ち尽くしている
あたしを囲み、警笛を鳴らし続けていた。
♪ブーン、ジャッチャチャン・ジャカジャカジャン・ジャカジャカ・ジャカジ
ャカジャン……♪
何の曲なのかしら? 吹奏楽団の演奏する音楽だわ。
あたしは薄目を開け、音のするほうを見やった。なんということなの。裸の
男達の吹奏楽団が、煌めく金管楽器を演奏しながら、緑の向こうの丘陵から近
づいてきていた。それも、見たこともない形の金管楽器ばかりを抱えて行進し
ている。裸の軍楽隊よろしく、整然とした隊列が、先ほどの蛮族の若者が潜ん
でいた藪の辺りにまで近づいていた。
もう、驚くしかないわ。なんで裸の蛮族が、金管楽器を演奏して行進してく
るの? これって、絶対に何か間違っている。草葺小屋に住み、狩猟と焼き畑
農業の生活様式の中で、近代的な金管楽器の吹奏楽団を組織するなんて、あり
得ない。何がどうなっているというの? これも夢の中の出来事なの?
でも、なんて言う曲なのかしら? 今までに聞いたこともない、素敵なメロ
ディー。夢の中なのだから、目を閉じてゆっくりと聴かせて貰うわ。
♪ジャカジャカジャカジャカ・ジャン・ジャカジャカジャン・ドンドンドンド
ン・ジャカジャカジャン……♪
なに?! あまりにもリアルすぎる。奏でる音の波動が肌を震わせている。こ
れは、夢なんかじゃない。
のんびりとベンチに寝そべっている場合ではない、と思い、飛び上がるよう
に身体を起した。
煌びやかな金管楽器と、美しいピンクの肌を見せる蛮族の男達の裸の楽団が、
目の前にまで迫り、横を向いたあたしの真正面で横に整列して演奏していた。
さらに驚いたことに、横一列に並んだ蛮族達は優に 100 人を超え、股間に付い
ている全員のパニスが恥ずかし気もなく勃起している。この素敵な音楽にそぐ
わない卑猥な光景が目の前に広がっていた。
いくら夢の中とはいえ、あまりにもリアルすぎる。でも、こんなにハッキリ
とした夢なんて、ある筈がない。これは夢なんかじゃない。現実に違いないわ。
それにしてもこんな凄い楽団を、どうやって組織したのかしら? 100km 圏内
に数部族がいるだけで、1部族あたり、せいぜい 50 人単位でしか生活してない
筈なのに、100 人を超える楽隊をどうやって短時間で編成して、ここに集めるこ
とができるというの?
どう考えても、やっぱり夢としか思えない。これはあたしの見ている夢の続
きに違いない。それにしても、どうしてこんなに鮮明な夢なのかしら?
100 人の全裸の蛮族が奏でる楽曲は、耳障りなところが一つもなく、音も一本
の細い線のように乱れがない。それは、磨きあげられた楽団の演奏そのものだ
った。メロディ-にしても、心から浮き立つような高揚感が伝わってくる。横
一列に展開した楽団は、さらに私の目の前まで、雲を踏むような、ゆっくりと
した足取りで迫っていて、あたしの数メートル手前のところで、まるで壁にぶ
ち当たったかのように、足踏みしながら停止した。
それにしても、なんて楽しげな楽曲なの。太陽系では聞いたこともない、異
質なメロディーだわ。
突然演奏がピタリと止んだ。青空の下に静寂が訪れた瞬間、かき消されてい
た鳥や虫達の鳴き声が復活した。
全裸の男達の股間では、長く太いパニスが勃起したまま、欲情の行き先を求
めているように、ゆらゆらと揺れている。どのパニスも全てお腹につきそうな
ほどに立ち上がっていた。なんて卑猥な光景なのだろう。
蛮族の男達は、それぞれの楽器を横に置くと、全員が先ほどの若者と同じよ
うに、身体を地面にうつ伏せにした。その手を頭の上にまで長く伸ばし、顔を
草の中に埋め、お尻だけ付き上げた卑下した格好の“奴隷の礼”をした。あた
しは 100 人の男達を見下ろす形で、茫然として立ちつくしているしかなかった。
100 人の男達の真ん中にいた蛮族の老人が膝立ちし、四つん這いになって、あ
たしの膝元までにじり寄ってきた。そして、あたしの真下に来ると、さっきの
若者と同じようにひれ伏してしまった。何がどうなっているというの?
「なんなのよ! 貴方達は!」
あたしは怒ったように大声を出してしまった。
「嗚呼、女神様。お答えしてもよろしいでしょうか?」
老齢に達した男性が、草から顔を少しだけ持ち上げて言葉を発した。
それも、やっぱり、さっきの若者と同じように、草に向かって喋っている。
「ちゃんと顔を上げて説明しなさいよ! あなたがたは、なんなのよ!?」
もどかしさのあまり、この下等な蛮族の若者に向かって言ったのと同じよう
に、少し苛立って、怒った声を発してしまった。
「申し訳ございませんじゃ。まさか、隣のソル太陽系からいらしたお客人の中
に、女神様も御一緒されていたとは、露ほどにも思っておりませんでしたのじ
ゃ。若い者の報告を聞き、急ぎ、御挨拶に駆け付けた次第でございますじゃ」
老齢の男性がやっと首だけ持ち上げ、私のほうを向いて答えたが、話し終わ
ると、また顔を草の中に埋めてしまった。
「
“女神様”って、なんなのよ。あたしは女だけど、女神様でもなんでもない
わ。単なるアバズレよ。ちゃんと身体を起して説明しなさい!」
あたしはさらにもどかしさを感じて、強い口調で言ってしまった。
足下で身体を伏せていた蛮族の老人が、今度は身体を引き起して正座し直し
た。その股間のパニスは勃起して、天を突いている。
「では、失礼して正座させていただきますじゃ。
では、女神様にご説明いたします。この星系は、貴方がたの呼び名では、ケ
ンタウルス星系と呼ばれていますが、ここでは人間様のことを女神様とお呼び
していますのじゃ。そして、オイラ達、男は、女神様にお仕えする奴隷として
生を与えられている存在なのじゃ。まさか、お隣のソル太陽系にも“女性様”
がいらっしゃるなどとは夢にも思っていなかったのじゃ。この事実を知ったか
らには一大事なことじゃて、早速ケンタウルス星系の支配者であられる“女神
様”へご報告し、指示を仰ぎましたのじゃ。そうしましたら、丁寧におもてな
しをして、女神様の住まわれる“夢の国”の入り口までご案内するようにとの
ご命令をいただいたのじゃ。それで、すぐに近隣より楽隊を招集し、お出迎え
に上がった次第なのじゃ」
老齢なのにパニスだけは大きく膨らませて勃起させた、卑猥な老人が説明し
てくれたが、チンプンカンプンで、なんのことやら理解ができない。ただ、こ
の惑星の唯一の住人だと思っていた蛮族の他にも、こいつらを支配する知的生
物が存在していることは解ってきた。
「そんなことを急に言われても困るわ。基地に戻って隊長に報告してからでな
いと、あたしは、そんなところにはついて行けないよ」
あたしは、きっぱりと老人に断ったつもりだったが……。
「貴女様の他にも、基地には女神様がいらっしゃるのでしょうか?」
老人が訊ねてきた。
「今はあたしだけよ。遠征隊に招集された囚人の中で、女はあたしだけだった
から。居残り部隊に志願しても、誰も文句を言わなかったのよ。ええ、今は女
はあたしだけよ!」
少しヤケになって、その老人に言ってやった。
「ならば、なんの問題もありはせんのじゃ。宇宙船の残骸で作られた基地に残
っている方々には、後ほど、事の次第をお知らせしておきますので大丈夫じゃ」
蛮族の老人がニコニコしながら言った。
「大丈夫じゃないよ! そんな重大なことを、あたしから報告しないで出掛け
てしまうなんてできないよ。それに着替えも持ってきていないし……」
あたしは慌てて言ったが、誰も意に介していないようだった。
「さあ、皆の衆。女神様を輿にお乗せして、出発じゃ!」
蛮族のリーダーが大声で号令をかけた。
いつの間にか、楕円形の平べったい板が傍に運ばれてきて、それに乗るよう
に周りの蛮族達から促された。成り行きで、あたしは板の上に座ってしまった。
板の横から四方に出た棒の梁を、幾人かの男の手が掴み、あたしを乗せたま
ま持ち上げてから梁の棒を肩に担いだ。そして、そのまま移動し始めた。周り
の男どもは、また金管楽器を吹き鳴らし、楽しげなメロディーを奏でながら、
両脇について行進を始めた。あたしの持ってきた荷物はその場に取り残されて
しまったが、イヤホン携帯と、サングラスタイプのディスプレイは身に着けていた
ので、なんとかとかはなるだろう。
それよりも、こんな下着姿のままで、あたしはどこに連れて行かれるという
のだろう? あたしは不安感に包まれていたが、輿の上の高見から男どもを見
下ろして移動しているのは、それほど嫌な感じではなく、むしろ気分が高揚し
て優越感も湧いてくるのだった。
そうだ、あんな狭い基地で、ギラギラとした血気盛んな男どもの中で、いつ
も SEX の対象としてしか見られないで、これから1年間も一緒に暮らし続けるこ
とを考えたら、直接に報告することが遅れたとしても、こんなチャンスは受け
入れたほうが得策だろう。それに、新しい人類に会えるとしたら、これはビッ
グニュースだ。
学歴もないあたしが、生意気な研究者どもの鼻を明かしてやることも不可能
ではないかもしれない。そんな事を思うと、輿の高見から望む世界は、あたし
を中心に回り始めたような気がしてならなかった。
とりあえずは、基地に連絡だけとっておこう。あたしは、頭の中で携帯電話
のスイッチをオンにした。なんだか雑音が多い? どうしたのだろう。人工衛
星が蝕に入ってしまっているのだろうか。
“ザザッ…サッ…誰だ?…”
イヤホンから、基地にいる誰かの声が雑音の中から聞こえてきた。
「あたし! セイラー! 聞こえる? 蛮族と一緒に、ちょっと出掛けて来る
から、心配しないで! 凄い報告ができるかもしれないわ」
あたしは大声を出した。
“蛮族と?…ザザッ… ザザッ… オイ! セイラー何が…ザッ…ザ”
人工衛星が完全に蝕に入ってしまったようだ。電波の届きようもない。まぁ、
良いか。また、30 分もしたら人工衛星が戻って来て連絡できるようになる。そ
れからでも遅くはないか。
輿は、広々とした緑の絨毯を敷きつめたような丘陵の中で、一番大きな森へ
向かって真っすぐに進んでいた。蛮族の住む茅葺の集落に向かっているのでは
ないようだった。黒々とした木々を鬱蒼と茂らす深い森は、数十メートルの高
さの巨木が集まり、不気味な雰囲気を醸し出す山のようにも見える。その暗い
森の中に、あたしを乗せた輿は入っていった。
木々の根元の下生えは、綺麗に刈られて整えられ、暗く不気味な森の中でも
気持ちが良いくらいだったが、楽隊の楽しげな演奏がなければ、とても一人で
は入って行きたいと思えるような場所ではなかった。日の光も隠された、鬱蒼
とした木々が覆い被さる、暗く不気味な森の中を、輿は楽団と一緒に坦々と進
んでいく。
数百メートルも奥へ進んだ頃だろうか? 前方に立ちはだかる灰色の巨大な
岩が、圧し掛かるように行く手を阻んでいた。その巨岩の手前で行進は止まり、
輿が地面に下ろされた。
輿の横に一緒に歩いていた年老いたリーダーがあたしに近づいてきて、あた
しの足元に跪いた。
「ここから先は、オイラと、女神様を発見した若い奴だけで、ご一緒させてい
ただきますじゃ」
リーダーはそう言うと、立ち上がって岩の前に立ち、両手を高く広げて上げ
た。すると、巨大な岩が真ん中から割れ、その奥に1本の明るく輝く道を見せ
ていた。
年老いたリーダーが振り返って、あたしに言った。
「先にお入りくださいませ」
そして、あたしの後ろに向かって声を掛ける。
「チャプラン、一緒に着いて来い!」
あたしは輿の上に立ち上がり、輿から降りて前に進み、先に立って岩の割れ
目の中に足を踏み入れた。
裸足の爪先が少しひんやりとする。岩の奥から差し込む人工の光は、文明の
証だったので、不安は感じなかった。それよりも文明への懐かしさを感じさせ
てくれた。
岩の中の細道は、上下、前後、左右、全て眩しいほどの光を発している。中
の空気全体は外よりも少し冷やかに感じられた。
後ろに続く二人の存在など無視して、あたしはどんどん奥に向かって歩き始
めた。30 メートルも進むと、眩しかった黄色い光はトーンを落とし、緑がかっ
た光に変わっていた。その数メートル先は行き止まりだったが、突然、壁がド
アのように左右にスライドして開いた。まるで宇宙船の中の通路のようにも感
じられた。
「嗚呼っ!」
後ろで蛮族の青年の驚く声が聞こえた。チャプランと呼ばれた若者だ。
「チャプラン、静かにせぃ。やはり女神様は落ち着かれている。一つも驚いて
いらっしゃらない」
リーダーが感心したように話す声が後ろから聞こえて来た。
今度は、緑に色を変えた光に包まれた回廊を進むにつれ、身体の中で異変が
起こるのを感じた。ちょうど、宇宙船が次元航行に移った時に起きる、不快な
違和感と同じだった。何か別な空間が身体の中を通り過ぎて行く、そんな不思
議な感覚だ。
「嗚呼、嗚呼、嗚呼……」
蛮族の若者の恐怖を感じている声だけが、回廊に響いていた。
数秒後、その奥にある、ピンクの色彩に包まれた回廊に行き着いたときには、
もう、身体の中を別な空間が通過するような不快な違和感はなかった。
さらに数歩進むと、壁に行き当った。その壁がまた左右に開き、普通の光に
包まれた部屋に行き着いた。
躊躇うことなく、その普通の光に満ちた部屋に足を踏み入れた。
目の前には、白い肌の全裸の女性が二人立っている。頭髪は銀色。美女だっ
た。あたしは躊躇うことなく美女たちに近づいた。
「嗚呼!! 女神様だ!!」
チャプランと呼ばれる蛮族の若者の、素っ頓狂な驚きの声が後ろで響いた。
「礼を、すんじゃ!」
リーダーが一喝する。
「いらっしゃいませ。ソル太陽系からいらした、火星住まいの方」
正面の左側に立つ美女が言葉を発した。
「何故、あたしが火星に住んでいたことまで解るのですか?」
驚いて質問してしまった。
そうだ、初対面なのに挨拶するのを忘れていた。
「貴方がたのコンピュータに接続させて貰ったのです。ですから、事情は全て
解っています。ご安心ください、セイラー・キャンベルさま」
今度は右側に立つ女性が発言した。
「こんな、高度な文明が隠されていたなんて、思ってもみませんでした」
あたしは、好奇心に駆られて言った。
「そのお話は後ほどゆっくりと。
マゾ介のリーダー! ご苦労様。その若者が女神様を見つけたのね。ご褒美
をあげなければならないわね。マゾ介、若いの! 正座なさい」
左側の女性が立て続けに蛮族達に声を掛けた。
あたしは後ろを振り返り、床に身体を長くのばして、うつ伏せの格好で礼を
している、蛮族の男2人を見やった。若者が身体を起こし、正座の姿勢に移っ
ていた。全裸の美女が若者のすぐ前に立った。
「上を向いて、口を大きく開けなさい」
その美女が静かに言った。
若者は眩しげに美女を見上げ、顔を仰向けに反らせて真上を向くと、口を大
きく開いた。
美女の顔がチャプランの真上にあった。美女の口も開かれ、その口から、き
らめく唾液が一筋垂らされ、糸を引きながらチャプランの口の中へ落ちて行っ
た。チャプランは、口に届いた唾液を得も言われぬ笑顔で受けとめていた。
「嗚呼~!」
チャプランの感嘆する声が響いた。
「マゾ介、お前は四つん這いになって付いてきなさい。もう一つご褒美に、女
神の“夢の国”を見せてあげましょう。その前に、これを着けないとね」
美女は丸い輪のような物を取り出した。
それは、ペット用の犬の首輪そっくりだった。それを、チャプランの首に装
着する。
「嗚呼、ウグッ!」
「声帯を締め付けておかないと、勝手に喋ってしまったりするからね。女神様
から質問されることはないから、黙っておとなしく付いてくるのよ、マゾ介」
美女がペットに言い聞かせているように、チャプランに話しかけていた。
「あの男性に、あんな酷いことをしても大丈夫なのですか?」
あたしは訊かざるを得なかった。
「男とは下等な生物なのです。気にする必要はありません。私達、女神の邪魔
にならないような措置をしただけです。貴方を見つけ出したご褒美として、こ
のマゾ介に、女神の住む“夢の国”を見せてやるのです。もし有益なマゾ介だ
と解れば、一生、女神の世界で奴隷として生きることが許されるでしょう。こ
んな素晴らしいチャンスに、若いうちから恵まれることは普通ではあり得ない
のです。これも、このマゾ介が、貴方を見つけ出したという幸運に恵まれたか
らです」
もう一人の美女が横から説明をしてくれた。
マゾ介呼ばわりされた若者、チャプランの首輪に手綱も付けられ、美女の一
人が強く引っ張っているさまは犬そのものだった。あまりにも惨めすぎる。
「リーダー、ご苦労様。このマゾ介は預かります。もう、皆の所にもどりなさ
い!」
美女が大きな声で、リーダーに声を掛けた。
年老いたリーダーは四つん這いになって、くるりと入って来た方に身体を回
すと、剥き出しの尻を見せたまま、もときた回廊を戻って行った。
「さあ、ソル太陽系からのお客人、ご案内いたします。その前に、そのブラと
パンティーは必要ありませんね。お脱ぎなさい」
美しい全裸の美女に促された。
足下には犬のような扱いを受けているチャプランがいたが、この美女2人は
全く意に介していないようだった。あたしの行動に目を注ぐ、犬のようなチャ
プランと全裸の美しい美女に、少しの恥じらいを覚えたが、促されるまま、乳
房に張り付いた黒いブラを剥がした。そして、下半身のデルタを隠すパンティー
も剥がしてしまった。
「まあ、素敵! 陰毛も金髪だなんて! なんて高貴なお方なの」
美女が感嘆したように呟いた。
「ソル太陽系の人って、素敵!」
もう一人の美女も声に出して、あたしを褒めてくれた。
そう言われると、なんだか気恥ずかしくもあり、嬉しくなってしまった。
すぐに、あたし達3人と、犬のようなチャプランは、その部屋を後にした。
奥の扉が開くと、さっき入って来た向こうの世界と、全く同じように素晴ら
しい大自然の風景が広がっていた。期待した文明世界ではなかった。ただ、ド
アの外に出て後ろを振り返ると、いま出て来たところは、巨岩ではなく小さな
草葺の小屋が建っているだけだった。その小屋の後ろに、大きな樹木を従えた
さっきの鬱蒼とした森の木々が山のように覆っていた。入口が岩の中の洞窟で、
出口が草葺の小屋だなんて、あまりにも素敵すぎだわ!
「この世界は、さっき、あたしがいた世界と一緒なのですか?」
あたしは疑問に思ったので聞いてみた。
「そうよ、一緒なのよ。ただ、時間軸が少しずれているので、マゾ介たちの住
んでいる“元の世界”とは別、と考えたほうが良いわ。そう、あの時間軸には、
貴女がたも住んでいますけれど、こちらの“夢の国”の世界は、ほんの少しだ
け時間を遅れさせて存在しているのです。次元の箱が重ならないで共存できる
だけの時間、3秒ほど遅れた時間軸にコピーを採って存在させているのよ。だ
から、あちらの“元の世界”とは何も変わるところがないの。縦横高さは一緒
で、時間線だけ3秒遅れた世界が、こちらの“夢の国”なのよ」
あたしの横を歩く銀髪の女性が、いとも簡単に説明してくれた。
「そうですか……。とても理解できそうにない気がするわ。感覚的にしか解ら
ない」
正直に、そう答えるしかなかった。
「そうですね、どう説明したら解って貰えるかしらね。そう、貴女がたが、ソ
ル太陽系からやって来られた宇宙航法にも似ていると思いますよ。縦横高さ、
時間という4つの次元をもつ箱を、もう一つ上の5次元空間の中で飛ばす技術、
それによって4つ目の線である時間軸を無視して、遠方まで宇宙船という箱を
飛ばすことが可能となった技術と同様に、この惑星そのものをコピーして、3
秒遅れた時間軸に存在させたのです、そして、このコピーした惑星に、私達女
神の住む“夢の国”を存在させただけなのです。言葉だけで理解してもらうの
は難しいと思いますが、そう考えてくだされば良いのです」
自分達のことを“女神”と名乗る彼女が、大雑把な説明をしてくれた。それ
以上に説明を求めても、その理論を、あたしが理解できるとは思えなかった。
一つの惑星をコピーして使っているだけ。だから、何も変わっていない。
重要なことは、初の恒星間航行で到達できた世界で、人類以上に素晴らしい
科学力を持つ文明とファーストコンタクトを実現させたということなのだわ。
本来ならば、こんな喜ばしいニュースはすぐにでも皆に伝えなければならな
いことなのに、こちらの世界まで人工衛星の電波は届いていないようだった。
通信機さえあれば、直接、太陽系に通信もできるが、それには4年以上の歳月
が掛かってしまう。60 日以上も掛かったこの航海よりも、電波のほうが、気が
遠くなるほどにのろかった。人類にとって奇跡的な、驚愕するような素晴らし
いニュースも、この大遠征が終わるまでは、ソル太陽系にもたらされることは
ないのだろう。
この惑星に不時着し、最初に原住民と接触したときは、ゼロからのコンタク
トとなり、身振り手振りで最初から言葉の確認を一つひとつ行なった。親切心
いっぱいの、人の良い蛮族は、辛抱強くその作業に付き合ってくれた。それで、
相当量の言葉を短時間のうちに蓄積することができた。
3日目には、コンピュータはリアルタイムで会話を翻訳できるまでになって
いた。それを乗組員各自の携帯にダウンロードするだけで、携帯電話が翻訳機
に使えるようになり、イヤホンをを耳に突っ込むだけで、すぐにリアルタイム
での同時通訳も可能となった。まさか宇宙で携帯電話が使えるようになる
とは、誰も想像すらしていなかった。
蛮族の男達だけが集団で暮らす生活様式は、不思議なものだった。地球人の
成長段階を例にするなら、15 歳の若者になった男児が、突然森の奥で生まれて
来るという。推測するに、もし女性達がどこかに隠れ住んでいるとするならば、
森の中で暮らしているに違いない。50 人足らずしか住んでいない、草葺の小屋
が幾つか並ぶ集落には、幼子の姿すらなかったので、きっと、女や子供達は森
の奥の別のエリアで生活しているのだろうと思われた。それとも、侵入者のあ
たし達から隠すために、どこかの森の中に隠したのだろうと推測する。それで、
この惑星を監視するために置いた、衛星軌道上の人工衛星を使って、上空から
探索したが、女や子供達が生活しているような森は、どこにも発見できなかっ
た。
まさか、時空を超えた3秒後の別次元に、コピーペーストして作られた同じ
惑星の上で生活していようなどとは想像すらできなかった。では、子供達も、
どこか別次元の同じ惑星上にいるのだろうか?
「そうしますと、その3秒遅れた次元に、女性だけでなく子供達も暮らしてい
るのですか?」
あたしは当然、そう思って尋ねてみた。
「そうですね、子供達は子供たちで、別の次元に住まわせています。それに、
男達を奴隷に調教するための惑星も、後ろの次元に設けています」
美女達は当たり前のように、事もなげに言った。
「子供達の次元って? 子供だけで暮らしているのですか?」
あたしの好奇心は風船のように膨らんで、興味心が口から溢れそうになって
来た。
「子供達だけが住んでいるのではなくて、子供達をちゃんとした人間に育て上
げるために、プログラミングされた次元エリアなのよ。両親が揃っていて、隣
近所にも家族や隣人がいて、子供達を一か所に集めて教育を行う集団施設も整
っている。そんな健全な人間を育てるための、理想的なシステムが整った次元
世界なのです」
彼女は自慢する様子もなく、その次元世界について説明してくれた。
「男達を奴隷に調教するための次元って、何なのですか?」
こっちの話ほうが、あたしの好奇心を煽る。
あたし達3人と、四つん這いのマゾ介、チャプランは、気持ちの良い緑の庭
園のような丘陵を歩いている。目下に木造の大きな建物が見えてきた。
「もちろん、男の闘争心を削ぎ落とすための、奴隷調教を行う次元エリアのこ
とですよ」
これにも彼女は、事もなげに言葉を吐いた。
「えぇっ!? 男の闘争心を削ぎ落とすための奴隷調教ですか? どうして、何
のためにです?」
まったく理解できない説明を聞いてしまったが、彼女にとっては当たり前の
ことを言葉にしただけなのだろう。
「そうね~、なんて説明したら理解してもらえるかしら? そのお話は、あそ
こに見えてきた建物に着いたらリーダー達が待っているから、そちらで説明し
てもらったほうが良いでしょう」
彼女はそう言って、前方に見える建物のほうを見つめた。
緑を基調とした、自然に満ち溢れた環境の中に、木の肌を見せる板張りの大
きな建物が忽然と建っていた。とてもシンプルで、20 世紀初頭の地球にならあ
りそうな建築様式だった。威厳はなく、玄関は段差もなく、ただ地面の上に木
の箱が置かれたような作りの細長い家だった。
さらに奇異な風景も展開していた。玄関を示す、飛び出た屋根の庇の下にあ
る茶色い地面の上に、白い肌を見せる真っ裸の男達が、警備員よろしく幾人か
立ち並んでいた。男達があたし達一行を認めると、膝を折り、身体を地面に横
たえるようにうつ伏せになり、手を前に伸ばしきって、尻だけを持ち上げた滑
稽な格好で、先ほどの“奴隷の礼”とかいう体勢をとっていた。
「あの男性達は何なのですか? こちらの“夢の国”にも、男性はいるんです
ね」
どれも、素敵な肉体美を見せている男性ばかりなので、期待を込めて聞いて
しまった。
「ここでは男性とは言いません。奴隷、総称して“マゾ介”と呼んでいます。
どのマゾ介も、奴隷に調教する次元からから連れて来たのです。頭数は、私達
女神よりも多くて、それぞれ、女神が快適に暮らすために必要とされる役割を
担って存在を許されているのです。マゾ介達がここに存在している理由は、女
神の快楽に貢献するためだけなのです」
あたしの横を歩く彼女が説明してくれた。
“マゾ介”とは、マゾヒストの男性奴隷を指す意味なのだろう。彼女の発す
る発音では、そうは言っていなかったが、耳に差し込まれたイヤホンからは、
そう翻訳されて聞こえていた。この翻訳が正しいのかどうか、疑問はあったけ
れど、それほど違ってはいないと思う。なかなか優れモノの翻訳機能を備えた
耳装着式の携帯電話だ。
「彼らは何をしているのですか? この若者の“チャプラン”も、あんな惨め
な格好で、あたしに対して礼をしていました。もといた世界でも、蛮族の男達
があんな惨めな格好で敬意を表わしてくれました。あれが“奴隷の礼”なので
すね?」
質問する必要はなかったのかもしれないけれど、あえて確証を得るために聞
いてみたかった。
「ちゃんと理解されているようですね。男を奴属化するために、絶対的権威を
持つ“女神様”に対しては、もっとも卑屈な格好での“礼”の形を強要してい
ます。それによって、男どもは勝手な振る舞いを抑制され、私たち“女神様”
に集中することで、全ての闘争心を抑え込まれるのです。そうすることによっ
て、数万年前にこの惑星上を覆っていた戦争行為の全てが消滅したのです。そ
れから数万年の間、一つの戦争行為もなく、この世界は安泰に過ごせてきたの
です」
男という意味では、この若い少年のような“チャプラン”も、同様の扱いと
なってしまうのだろう。まだ、若いのに可哀想すぎる。
「あちらの現実世界の惑星上には、男しか暮らしていないのですか?」
あたしには質問するしか、この世界を理解することができそうにない。
「そうです。“マゾ介”達が、元の世界を素敵に整備することによって、自動
的にその後に続く、
“夢の国”
“奴隷の国”
“子供の国”が更新されて、快適
に存在できているのです。
実は、この“夢の国”の次元の3秒後には、男どもを調教のための“奴隷の
国”の次元を存在させています。そこから、さらに3秒遅れた次元が“子育の
国”の次元なの。そこが健全な人間を育てるための次元として設けられている
のです。そこで育った 13 歳から 15 歳までの男子を、3秒先の“奴隷の国”で、
奴隷に躾けるための調教が行われ、奴隷になる男と、惑星を維持するための男
に振り分けられるのです。その“奴隷の国”の役割は貴重で、ちょうど思春期
に当たる男の子を徹底的に貶めることで、彼らの人間としての価値観を歪め、
女性を完全な人間である“女神様”として慕うことを教え込み、それを真の正
義だと思うように、厳しく調教するのです。
男の成長期の中で、最も正義感に満ちているのが、この思春期に当ります。
ここで徹底的に奴隷精神を植え付けることで、男どもは、自分が人間ではなく、
“女神様”の従属物であることに価値観が定められるのです。このことを徹底
的に学ばせ、経験させることで、多感で一途な思いを持つ思春期に、男を精神
的に改造し、マゾ奴隷として成長させるのです。そして“夢の国”で“女神様”にお仕え
することを至上の喜びとできるように育て上げるのです。
そうして育て上げられた男は、男の身体の内に秘めた強烈な闘争心を“女神
様”のためにだけ捧げる人生を送るように定められるのです。5万年の昔から
こうして、この惑星は維持されてきたのです。5万年以前の混乱した時代を乗
り越え、安定した今を手にした秘密は、そこにあるのです。男の欲望をどう抑
え込むかが重要なのです。
そうして“奴隷の国”で育てられた男どもは、
“夢の国”で女神様にお仕え
するか、一番最初の元の次元に生まれるかの選別が行われ、それぞれに、新た
に生まれ変わるのです。
元の次元に生まれ変わる場合は、
“奴隷の国”で行われていた過酷な調教の
記憶は消去されますが、
“夢の国”の存在は、元の次元に住む長老たちから教
え込まれ、男達の憧れの場所となるのです。
元の次元に住むことになった、まだ青年になりきれていない男は、森で新た
に生まれ変わることになるのです。そして、やがては森の管理人となって、元
の惑星の忠実な管理者になるのです。重要なことは、人類が数億年に渡って人
類の住み続ける環境を、この惑星上に維持させることなのです。
この一途で真面目な青年が森の中で生まれた後は、男ばかりの部族に拾われ
て、その一員に加わります。“奴隷の国”で徹底的に教え込まれてきた女性を
“女神様”として崇め、絶対服従し、尊ぶべき真の人間であるという思想を叩
き込まれた少年は、常に正しい教えを部族の中に注ぎ込み続けるのです。そし
て、先輩の男達は、
“女神様”への接し方について少年に教え込み、両者の相
互作用で、この素晴らしい管理システムが永遠に維持されていくのです。詳し
いことは後でリーダーから説明があるでしょう」
あたしには、彼女の言おうとするところが、全く理解できなかった。
奴隷の礼をする男達の前を、あたし達一行は通り過ぎて、建物の中に入ろう
としていた。
「男が下等生物であることを見せてあげましょうか?」
彼女があたしに耳打ちするように言う。続いて大きな声で、
「マゾ介、仰向
けに寝なさい」と、奴隷の礼をする一人の男の頭の上に足を乗せて言った。
女神様の足で頭を踏まれた、虫けらのような男。女神様の足が退かされると、
膝立ちして立ち上がり、そのまま仰向けになって寝転がった。裸の股間では、
恥ずかしげもなく勃起したパニスが雄々しく揺れていた。彼女は、男の顔面を
跨ぐと、その雄々しく揺らいでいるパニスのほうに身体を向けて腰を降ろし、
大きなお尻で男の顔面を圧迫した。
「ほら、後ろのマゾ介! 肩を揉む!」
彼女が威圧的な声で他のマゾ介に声を掛けると、すぐ傍で無言のまま奴隷の
礼をしていた男の一人が素早く立ち上がった。彼女の背後から近寄って、女神
様の両肩胃に手を掛けて、優しく肩を揉み始めた。その進行に、何がどうなっ
ているのか、あたしにはまったく理解できなかった。
「貴女も顔面騎乗をしてみる?」
彼女があたしを見上げる。
「いえ……」
あたしは反射的に手を横に振って、そんな恥知らずなことはできないと拒否
した。
「嗚呼、上手いわ……」
彼女が夢見心地の溜息とともに呟いた。
「まったく好きなんだから。マゾ介も興奮して、パニスをパンパンに勃起させ
ているじゃないの」
もう一人の女神が、笑顔でマゾ介を嘲笑している。
「嗚呼~!!」
マゾ介の顔の上に乗っかった女神が、快楽で善がり始めている。なんだか見
ているあたしまで、股間に性的興奮が疼いてきてしまった。
「ウォ~!」
女神が荒野のライオンのように吠え始めていた。絶頂を迎えたのね。その声
を聞いたあたしまで、身体の芯がピクピクと感じてきてしまっている。雄叫び
を上げた女神は目を硬く瞑って、余韻を身体の内に閉じ込めるように顎を持ち
上げている。顔を仰向けに反り、じっと動かないまま硬直している。でも 10 秒
ほどで突然目を開けて立ち上がった。
「マゾ介、ありがとう。さあ、立ちあがって、“女神様達”にオナニーを見せ
なさい。ご褒美よ!」
女神が大きな声で男達に声を掛けた。
奴隷の礼をしていた残り2人のマゾ介も身体を起すと、4人揃って膝立ちし
た。恥ずかしげもなく、起立した太いパニスを握り締めると、あたし達の目の
前で、構わずにパニスを扱きはじめた。
「ほら、お前も!」
首輪から繋がれた手綱を女神様に牽かれ、おとなしく正座して見守っていた
チャプランに向かって声を掛けた。
あたしと一緒に来た少年のようなチャプランも、慌てて膝立ちし、やはり興
奮して勃起させていたパニスを握り締めると、他のマゾ介達と一緒に、卑猥な
パニスを扱きはじめた。
すぐに男達の表情が快楽に歪んできていた。顔の両頬を引き上げ、口を半開
きに開け、溜息を洩らしつつ己だけの世界に入って行っていた。何とも醜く歪
んだ表情は、見るに堪えなものだったが、何故かあたしの目には素敵に映って
いた。
「嗚呼、イキます……」
1人のマゾ介が呟いた。
「待て! 揃ってイクんだ!」
さっき、マゾ介の顔面でイッた女神が、その男を制した。
「嗚呼。わかりました、女神様」
男は扱くスピードを落とし、虚ろな眼差しで答えた。
「嗚呼、イキそうです。女神様」
別のマゾ介も次々と言葉を漏らしていた。
「嗚呼、イキそうです」
「イキそうです」
最後のマゾ介も言い始めていた。
「よし、揃ってイクんだ!」
オナニーを命じた女神が、楽しげに命令した。
時を於かず、4人の醜態を晒す男達が同時に、白い精液を勢いよく射精した。
気持ちの良い大自然の中に放たれた白い放物線が、とても素敵に見える。4人
のマゾ介の精液が、ドクドクとパニスの先の鈴口から放出されている中で、首
輪をされ、あちらの元の次元から引っ張ってこられた、若過ぎる青年のチャプ
ランがかなり遅れて射精していた。それは、なんとも惨めで、間抜けな姿だっ
た。
「コラ! そこの若いマゾ介! お前だけ何を遅れている! 四つん這いにな
って、尻をこっちに向けろ!」
案の定、オナニーを命じた女神に怒られているチャプランだった。
慌てたように、チャプランは裸の尻を女神達のほうに向けて、四つん這いに
なった。
その剥き出しの尻目掛けて、女神の蹴りが飛んだ。若いチャプランは前につ
んのめるように飛び出し、顔を地面に打ち付けると、そのまま前のめりにでん
ぐり返し、仰向けになって身体を大の字に横たえた。その身体の中心部で、勃
起したパニスが雄々しく揺れながら、まだ精液を鈴口から垂らし続けていた。
「ハハハハ! 相当溜まっていたようね、マゾ介。いつからオナニーをしてい
ないんだ?」
奔放な女神が、チャプランを問い質していた。
チャプランは、慌てて身体を起し奴隷の礼の体勢とった。そして、顔だけを
持ち上げ、その女神を見上げている。
「うぅ、うぅぅ……」
若いチャプランが唸った。
「喉が締め付けられていて喋れないんだ、ほら、犬のように吠えるんだマゾ
介!」
楽しげに女神がチャプランに言っていた。
「う、ワン、ワン、ワン。ワン、ワンッ!」
チャプランが一生懸命、女神様に向かって訴えかけるように吠える。
「そうか、5日もオナニーをしていないのか。それは辛いな。どうしたらオナ
ニーをさせて貰えるのか、こちらの宇宙の彼方からいらした女神様に教えてあ
げなさい、マゾ介」
その女神がチャプランに近づき跪くと、チャプランの首の首輪を緩める。
チャプランが奴隷の礼をしたまま、身体をモゾモゾと動かし、頭をあたしの
ほうに向けた。そして、草の上から顔だけを持ち上げた惨めな格好で、あたし
に話しかけてきた。
「マゾ介が、オナニーを許されるためには、女神様へのお祈りが必要になりま
す。5万回、お祈りの言葉を唱えると、オナニーが許可されます。オイラは4
万5千回までお祈りをしていました。あと2日ほどで、5万回のお祈りを唱え
終わる予定でした。女神様が仰られたとおり、オイラは相当に溜まっていまし
た。だから、2日も早くオナニーができて、射精させていただけたので、とっ
ても嬉しいのです。女神様、ありがとうございました」
チャプランはそう言うと、顔を草の中に埋めて、また奴隷の礼に戻った。
「えぇ? 5万回もお祈りの言葉を唱えるわけ? それって、なんて言って
お祈りするの?」
チャプランは、草に埋もれた顔を再度もちあげた。
「はい、こう唱えます。
“全能の支配者、女神様。どうぞオイラにオナニーの
ご許可をお与えください。お願い致します。マゾ介は、女神様に対して常に絶
対の服従をお誓い致します。どうぞ、オナニーのご許可をよろしくお願い致し
ます。嗚呼、女神様!”と、お祈りの言葉を唱えるのです」
チャプランが、恥ずかしげもなく、そんなどうしようもなく恥ずかしい、お
祈りの言葉を大きな声で教えてくれた。
「それを5万回も唱えるの!? 5万回唱えた後、どうやってオナニーの許可を
もらえるわけ?」
あたしはいささか呆れてしまったが、こんなバカなことが真面目に行われて
いるこなんて、本当にどうなっているのか、もっと知りたくなってきた。
「森の奥に、聖なる木の股があります。その股の下に縦長の裂け目があって、
そこに向かって、5万回目のお祈りの言葉を唱えるのです。そうすると、女神
様の甘く美しいお声が聞こえてきます。
“マゾ介、オナニーを許可する。木の
股に向かって射精するのだ!”と言ってくださいます。その他にも、
“四つん
這いのまま片足を上げて!”とか、
“でんぐり返しをして”とかの指示もあり
ます。いつもオイラ達は、そのご命令のとおりにオナニーをさせていただき、
そして射精させていただくのです。
オイラ達はその快楽を得るために、日頃から一生懸命、森の仕事に励みます。
それが女神様のお役に立っているのです。だから、オイラ達は、一生懸命に仕
事をした後、同じように一生懸命にお祈りをして、射精の快楽を与えていただ
けるのです。
オイラの身体も、行為も、想いも、全てが女神様のために存在を許されてい
るのです。それに感謝しながら、女神様のお言葉どおりにオナニーをして、射
精させていただけるのです。ありがたいことです」
チャプランが詳しく説明してくれた。
「そうやって、男であるマゾ介たちの性的欲求を支配することで、男どもの闘
争心を削いで、全身全霊を女神様への忠誠心に向かわせているのよ。この行為
によって、男が内存させている破壊的戦闘心は皆無になり、惑星の環境整備が
滞りなく行なわれるシステムが完成しているのです。こうして、いつまでも人
類が快適に生存できる環境を維持させているのよ。この事は5万年もの昔から
行なわれてきていることなので、間違いはないのよ」
すぐ横の女性が教えてくれた。
「5万年もの昔から維持されてきた制度なの? 凄いことをやってきたのね!」
あたしは、その歴史の長さに驚いてしまった。
一つのシステムが5万年もの長さで行われていることなど、地球上にあり得
ない。遡れる人類の歴史でさえ、1万年にも満たないのに……。
「後でゆっくりと、その説明もされるでしょう」
少し離れた、女神が付け加えた。
「私がマゾ介たちのオナニーの報告を聞く当番の時には、マゾ介たちに、最低
の恥ずかしい格好でオナニーさせるように心掛けているのよ。だから、当番の
日はとっても楽しくって、頭の活性化にもなるの。
この間は、マゾ介たちが右利きばかりなので、左手でオナニーするように命
じてやったわ。そうしたら不器用な格好で、一生懸命パニスを扱いているのだ
けれど、なかなか昂ぶって来なくって、射精できないでいるのよ。不器用に、
オナニーにたっぷりと時間をかけて、相当焦って扱いているのよ。あまりの不
器用さだったので一旦中止させて、1万回のお祈りの追加を命じてやったわ。
その時のマゾ介のガッカリした表情ったら、とっても惨めで滑稽だったわよ。
もし、そのマゾ介が次のオナニー許可申請に来た時に、私が当番に当たってい
たなら、もっと虐めまくってあげたくなるような、可哀想なマゾぶりだったわ」
横の女神が、楽しそうに話し始めた。
「そんな、オナニーに、許可を与える当番があるのですか? 楽しそうですね」
あたしは断然、興味を持ってしまった。
「そうね、10 日に1回だけ、その仕事をこなすことが義務化されているのだけ
れど、その仕事はとっても楽しいので、誰かが都合の悪い時には率先して替わ
っているわ」
隣を歩く女神が、楽しげに答える。
「多分、時間の長さは、そちらの星系とこちらとでは違っていると思いますの
で、時間感覚にはズレがあるかもしれませんね」
もう一人の女神が心配するように言った。
「そこは、不思議と大丈夫です。この惑星の自転速度は、地球時間に置き換え
ると、ちょうど 25 時間でした。この惑星の自転速度は、ここに不時着した時か
ら地球時間で測ってましたから、間違いありません」
あたしに答えられる唯一の内容で、喜んで教えることができた。
「そうなの。地球の自転速度と1時間しか違わないのね。なんて不思議なことかしら」
隣を歩く女神が、何故か地球の自転速度を知っていた。
「宇宙の彼方の、あたしの母星の地球は、年々自転速度を落としています。そ
れに時間を合わせるために、うるう秒で時間を増やしたり、うるう年で日にち
を増やしたりして時間を安定的なものに維持しているのです。でも、人類が宇
宙にも住むようになってから、そんな勝手な時間管理では、地球以外に住む人
間にとって困ったことになってしまいます。それで、人間の持っている体内時
間に合わせて、1日を 25 時間にする案が検討されています。不思議なことに、
この惑星の1日と、私達の体内時間が、ほぼ一致しているのです」
あたしは、前々から思っていたことを口にした。
「それは不思議ね。偶然の一致かしら? ここの管理者達なら、何か知ってい
るかもしれないけれど……」
もう一人の女神が答えた。
あたし達は、ずいぶんと、木造の建物の玄関先で立ち話をしてしまっていた。
「さあ、中に入りましょう」
女神の一人に促された。
3人と、四つん這いのマゾ介、チャプランとで、板張りの玄関から廊下に入
って行った。木造とはいえ、内部は細密さを極めた豪華な木造建築だった。昔、
地球の文化で習った、仏教の寺院のような凄い建築様式を思い出させた。
「素晴らしい建物ですね」
「そうでしょう。千年以上の歴史を持つ建物ですからね。私達だって、入るた
びに圧倒されてしまいます」
黒光りする、つるつるの板敷きの廊下を歩いて行くと、重々しいドアの前に
着いた。女神の一人がドアを手で開ける。こんな凄い文明を持った世界なのに、
自動ドアではないのね。
「さあ、お入りなさい、遥かなる宇宙を渡って来られたお客人」
2081 年、太陽系に帰還したクリストファー提督は、翌年、第2次航海に旅立
った。今度は 17 隻の大宇宙船団を擁し、総勢 1500 名に上る人員となった。
提督にとって、何より気がかりだったことは、やむを得ずアルファ星の一惑
星、サン・サルバドル星に残してきた、40 名の船員達のことだった。
最新鋭の旗艦に乗ったクリストファー提督は、いち早くケンタウルス星系に
到達すると、一番手前のプロキシマには寄らずに、直接アルファ星に進路をと
り、サン・サルバドル星に旗艦のみ直行した。サン・サルバドル星に着陸する
と、基地の船員達の元に駆けつけた。しかし、残された基地は無残にも破壊さ
れ、残された船員たちは、優しかった筈のサン・サルバドル星の原住民に襲わ
れ、無残にも全滅していた。嬲り殺しされた屍を晒す船員たちの数は、39 名の
男達だけだった。
その状況だけでは、蛮族達との間に、どのようなトラブルがあったものか推
測もできなかった。原因究明のために、残された携帯電話を全て回収し、また、
あらゆる記憶媒体も回収されて調査が進められた。それらの記録から推測する
と、たった一人残された女性船員を、蛮族達が連れ去ってしまい、それを奪還
しようとしてトラブルが起こったようだった。
10 数名の船員が、女性船員を取り戻すべく、蛮族の部落を武器を持って襲っ
た。優しい蛮族に多数の死傷者が出たようで、それを皮切りに、蛮族との間で
戦闘状態になってしまった。
隔絶された異世界で、残された、たった 39 名の男達に、何ができるというの
だろうか。惑星中から集まってきた、無数の蛮族達との間で壮絶な戦いが始ま
った。39 名の船員は無残にも虐殺されたが、蛮族のほうも多大な死傷者が出て、
無傷の原住民は一人もいなかったようだ。結局、原因は究明できなかったが、
蛮族は惑星上から全て姿を消していた。蛮族の遺骸の一つも発見することはな
かった。
残されていたディスクの中には、行方不明になった女性船員のものはなかっ
たし、当然に携帯電話も見つけ出すことはできなかった。女性船員の生存が明
らかになったのは、数年後のことである。宇宙を渡って来たボイスだけの報告
が、太陽系の外縁を漂っていたセンサーにキャッチされたのだった。
彼女が語った、サン・サルバドル星の男だけの蛮族とは違う、女性の存在や、
そこで営まれている社会風俗などは、とても不自然すぎるもので発表が躊躇わ
れるものだった。結局、確証の得られない怪データとして公表されることもな
く、データバンクの未整理のファイルの中に埋もれてしまった。
サン・サルバドル星に到着したクリストファー提督のしたことは、この、た
った一人の女性隊員の存在自体を、最初からなかったものにしてしまったこと
だ。彼女は罪人であり、太陽系には一人の身寄りもない。それを消去したとし
ても、誰からも追及される恐れはなかった。逆に、蛮族である異星人とのファ
ーストコンタクトの事実を認めてしまうことは、その後の対応のまずさと、事
実を証明する証拠捜しの難しさ、そして何よりも、船員が全滅した事で、その
処置のまずさから、クリストファー提督の責任問題に大きく関わってくること
が予想された。
そんな思惑の元に、この蛮族とのファーストコンタクトのことも、女性隊員
が存在した事実も、永遠に封印され、残された 39 名の船員は、この星のウィル
スに侵されて病死したことにされてしまったのだ。死の間際、苦しみから逃れ
ようとする船員同士の惨劇が起こり、お互いに戦い、傷付け合い、殺し合って、
全滅の過程をたどったものと結論づけられた。
遺骸はことごとく焼却処分にされ、一つの証拠も残されなかった。当然、女
性隊員の存在は、初めからないものとされ、行方不明になっているビンタ号の
船員に混在されてしまった。
クリストファー提督が、サン・サルバドル星を去ったあと、彼女が基地に戻
り、彼が、何気なく置くように命じた1台のボイス通信機から、彼女の奇異な
報告が発信され、数年の歳月を経て、その報告を載せた電波が、太陽系に辿り
着いたのだった。クリストファー提督は、密かに、彼女の生存を期待していた
のかも知れなかった。
2100 年以降、クリストファーコロンブス提督のケンタウルス星系調査旅行の
再調査が行われ、その女性船員の存在が明らかになり、その名前から、巨大な
データバンクの未整理データの中に、彼女の名前と合致するデータの存在が検
索で明らかとなった。そして漸く、彼女の報告が日の目を見た。
セイラー・キャンベル。彼女の語った奇異な報告は、地球が目指そうとして
いる女権世界の理想郷でもあった。
<<前編終わり>>
<舌人形哀愁>
ゼリーのすべっとした、温かく柔らかな液体のなかで、僕は記憶喪失患者の
ように混乱しながらも、舌先を一生懸命に前に突き出して舐め続けていた。僕
自身の存在理由は、ただ、この舌先だけでしかない。そのことは解っていた。
心は本当に嵐の日の波のように乱れていた。こんなに混乱しているのに、心臓
がドキドキと脈打つのが聞こえてこない。僕にはもう心臓すらなくなっていた
のだ。その代わりに、脳細胞が沸騰しそうなほどに沸き立っている。
女王様自身が震え出した。髪を掴まれた僕は女陰から引き離され、女王様の
アナルに移動させられた。目の前にある小さな円形の菊座を確認し、舌先でピ
ンク色の菊座を突く。最初だけ辛味を感じた。舌先で菊座を突き続けていると、
女王様の大きなお尻が円を描くように回り始めた。僕の顔は、女王様のすべす
べのお尻と一緒に回り続けている。
「うぉ~!」
やがて、女王様の大きな雄叫びが響いてくる。
何度も何度も、女王様は絶頂を迎えられていた。
そのことだけが僕を満足させ、僕の快楽となっていく。
女王様のお尻が烈しくローリングし始める。今にもお尻から振り落とされて
しまいそうだった。そしてまた、金髪が覆う女陰のほうに移動させられる。辛
うじて女王様の金髪の陰毛を咥え、落っことされないようにした。
金髪の陰毛を咥えることで舐め続けることができなくなったので、女王様の
痙攣は次第におさまっていった。咥えていた金髪の陰毛を離し、また舌先を突
き出したが、女王様に頭髪を掴まれていなかったので、僕は女王様の股間から
転がり落ち、アバヤの裾から床に直接落下してしまった。
懐かしい女王様の寝室が、グルグルと回転して見えていた。天蓋付のベッド
の縁から、白い女王様の片方の足先だけが突き出ていた。静かで可愛い、女王
様の寝息も聞こえていた。
僕はベッドのほうを仰ぎ見たまま、絨毯の上で静止した。見上げていたベッ
ドの上から突き出た、片方の白い足も引っ込んでしまった。
全ては静寂に包まれて動きがない。女王様の睡眠を感知して、部屋の照明も
落とされた。
真っ暗闇のなかで、女王様の寝息だけが耳に届く。それ以外の気配は一切感
じられなかった。静かな闇のなかで永遠を数えるように、ゆっくりと、永遠の
長さを知らしめるように、時間が経過していかない。まるで時が止まってしま
ったかのように感じられた。
女王様が目覚めるのは、早くても数時間後だろう。それまで僕はこの状態で、
意識をはっきりさせたまま、闇のなかでどうにもならない思考を繰り返してい
るしかないのだろうか……。
闇のなかの無間地獄に僕は投げ出されていた。
僕には、こうなってしまった状況がまったく飲み込めていなかった。いった
い、どうして、こんな悲惨な事になってしまったのだろうか? 僕はあの日の
事を、もう一度ゆっくりと思い起こしてみることにした。時間はいくらでもあ
った。
その時、僕は気が付いていなかったが、それはエリザベーラと僕が、ワンダ
女権国に迎え入れられた、1年目の記念日の早朝のことだった。
その朝、僕は寝坊していて、まだ夢の中で幸せにまどろんでいた。
エリザベーラとの盛大な結婚披露パーティーが終わった後の出来事だった。
鷺宮家の家族は、僕らが宿泊するホテルに移動し、煌めく TOKYO の夜景に囲
まれた最上階のレストランで、父、母、長男夫婦、次男夫婦、夢子、エリザベ
ーラ、ファミーレ、そして僕を含めた 10 人で長いテーブルを囲んでいた。
皆、お茶を前に、笑顔で談笑していた。僕は早くエリザベーラと二人きりに
なりたかった。家族たちとの談笑も楽しかったが、僕の股間は期待に膨れ上が
って、淫乱な状態にあった。
神殿で祝詞をあげている時から、日本式の花嫁衣装をまとったエリザベーラ
の白いうなじの美しさに欲情していた。
大規模な式となったので2週間以上前から準備が始まり、その間、僕は射精
させて貰えていなかった。オナニーすら、エリザベーラは許してくれなかった
のだ。
「全ては結婚式の後よ。それまで我慢しなさい」の一言で、エリザベー
ラにたしなめられていた。だから一刻も早く、ホテルの下の階のスウィートル
ームに移りたかったのだ。
隣に座るエリザベーラの太腿を掌で叩いて促がした。僕一人だけ先に立ち上
がった。
「少し飲み過ぎました、先に失礼致します」
たしかに酔いで足元がふらつく。夜景のきらめきも一緒に揺れていた。すぐ
にエリザベーラの大きな身体が、僕を支えてくれた。
「部屋まで送ってから、すぐ戻ります」
エリザベーラが煌めく夜景を背負った父に向かって言った。
「それには及ばん。新婚初夜だ。明日、空港で会おう。エリザベーラちゃん、
それまで楽しみなさい」
父の太い声が妖艶さを含んでいた。
たしか、スウィートルームはタワーホテルの 250 階だった。部屋からは TOKYO
の宝石箱のような夜景が見渡せる。煌びやかな光を受けて、真っ白なエリザベ
ーラの裸身が、金髪の長い髪とともに幻想的なシルエットを作って、窓際に浮
かび上がっていた。
「エリザベーラ、素敵だよ!」
僕の口から感嘆の声が漏れた。
エリザベーラが近寄ってきて、跪く僕の頭を抱え、腰のあたりに抱き寄せて
くれた。僕を誘う甘い香りが、エリザベーラの裸身から醸し出されていた。目
の前にある大きなエリザベーラの陶器のような白いお尻が、煌めく夜景の視界
を遮っていた。金髪の陰毛が目の前で揺らぎ、TOKYO の夜景を反射させている。
「今日は初めて隼人さんと結ばれるのね。ずっと我慢させていて御免なさい。
今日を最高の夜にしましょう」
エリザベーラが甘い声で語りかけてくれた。
エリザベーラが跪くと、彼女の唇が僕の唇を塞いでくる。そして熱い舌先が
僕の口の中に荒々しく押し入って来て、口内を蠢き回る。僕はエリザベーラの
身体を強く抱き締め、その舌先を強く吸った。めくるめく快楽が僕を包む。
唇から離れて、僕の舌先がエリザベーラの陶器のように白い肌の隅々まで舐
め回し、強く抱きしめ合いながら、パニスをエリザベーラの膣の中に挿入させ
ようとした。
だが、そこまでの行為は初めてだったので、上手くいく筈がなかった。僕一
人だけが昂ってしまった。
「大丈夫よ、隼人さん」
エリザベーラの細くしなやかな指先が、僕の膨れ上がって敏感になっている
パニスに添えられた。その瞬間だった。
「嗚呼~!」
僕は、大きな声で嗚咽した。
情けなくも、エリザベーラの金髪の陰毛に、真っ白な精液を、思いっきりぶ
ち撒けてしまったのだ。そればかりではなく、鈴口からはさらにドクドクと、
白い精液が溢れ出ていた。
「ご免なさい、エリザベーラ」
僕は心底情けなくなって、謝った。
「私のほうこそ御免なさい。結婚式までと思って、隼人さんの射精を禁止させ
てしまっていたから、性欲が高まり過ぎたのね。ほら、大丈夫ですよ。パニス
は、ちっとも萎えてなんかいないわ」
エリザベーラの指に握られた、僕のパニスは張り切って大きなままだった。
その精液で汚れた状態のパニスはエリザベーラの手で導かれ、初めて温かな膣
の中に挿入された。その温もりの心地良さに、パニスはさっきより以上に膨ら
んできていた。
いつもお預けを喰った犬のように、エリザベーラに恥ずかしい醜態を見つめ
られながらのオナニーしか経験のなかった僕だが、その夜の交わりは、僕にと
って最高の幸せとなった。何度も射精したことは言うまでもない。勿論、エリ
ザベーラも、何度となく体を硬直させて善がり声を上げ、喜んでくれていた。
僕にとって、エリザベーラが喜んでくれることが一番の快楽なのだ。
心地よい疲れの中で、僕は大宇宙を漂うように眠りに落ちた。
「隼人さん、朝よ」
エリザベーラの声が耳元で囁いている。
薄く目を開く。青い瞳、金髪の愛しいエリザベーラが見つめていた。薄い掛
け布団が僕の胸まで覆っていた。僕はベッドの上で眠っていた……?
“しまった”
女王様より寝坊してしまって、奴隷の役目が果たせていない。
「昨日の夜は素敵だったわ。あんなに激しいセックスなんて、新婚旅行以来ね、
隼人さん。隼人さんも、満足してくれたかしら?」
ああ、そうだ。昨日は、このワンダ女権国に来て1周年目の記念日の前日だ
った。エリザベーラが、そう言ってベッドに誘ってくれたのだ。昨夜の、あん
なに素敵なセックスを忘れてしまうなんて……。なんてアホなんだ、僕は。
「さあ、朝食の用意が出来ていますよ」
エリザベーラの優しい声。
「寝顔が笑っていましたよ、楽しい夢を見ていたのでしょうね」
エリザベーラの剥き出しのたわわな乳房が、僕の目の前で揺れていた。添い
寝している横から、裸のままベッドを下り、僕を見下ろすエリザベーラ。
「隼人さんもいらっしゃい。一緒に朝食にしましょう。今日はセルベリーナ達
も来ているのよ」
エリザベーラが僕を見つめる。
全裸のエリザベーラの姿態は色白でとても刺激的だ。僕は夢から抜け出し、
状況を良く飲み込めないまま、ベッドから降りた。そして、いつものようにベ
ッドサイドで四つん這いになって、エリザベーラの後を追おうとした。
「立ったままでいいのよ、隼人さん!」
強い声で僕の行動を制した。
エリザベーラが、両掌を下から上に持ち上げるジェスチャーをして、僕に立
ち上がるように促がしている。そして、半透明のガラスでベランダと仕切られ
た壁の中央に設えられ、開かれたベランダのドアの向こうに顔を向けた。二人
の裸身の人影が、ガラスの向こう側のベランダに立つ姿が透けて見えていた。
「あら、ファミーレも来ていたの! いらっしゃい」
歓喜の声を上げ、エリザベーラがベランダに出て行ってしまった。裸身の美
しい影が半透明のガラスの向こうに、3つ見えていた。
僕は四つん這いの格好から立ち上がり、開かれたドアに向かって歩いた。女
王様の寝室を人の目線の高さで見るのは久し振りだった。いつも下から見てい
る風景と違って、新鮮に映る景色に感動していた。
観葉植物が幾つも置かれた、青空の下の広い開放的なベランダには、大きめ
のテーブルが一つ置かれている。やはり真っ裸のセルベリーナさん、同じく全
裸のファミーレさん、それに、四つん這いの姿ではないヤーコブさんが椅子に
腰掛けていた。
僕には、何がどうなってしまっているのか、全く理解できずにキョトンとし
て立ち尽くしてしまっていた。
「隼人お兄さま、ワンダ女権国にいらして1年目の記念日、おめでとうござい
ます」
セルベリーナさんが突然言った。
「えぇ?」
奴隷の僕に、そんな記念日を祝って頂けるとは思ってもいなかった。
「隼人さんがここに来て、ちょうど1年目の記念日なのよ」
エリザベーラも、そう言ってくれたが……。
「そう……なんだ……?」
なんだか僕には釈然としないものがあったが、これはこれでお祝いごとなの
だ、と解釈するしかなかった。
「椅子は特別に取り寄せたのよ。奴隷の隼人さんが、人間椅子に座るなんて、
落ち着かないでしょう。隼人さんにはいつも苦労ばかり掛けて、今まで、なん
の御礼もできなかったから心苦しかったのよ。だから、今朝、ここだけでも奴
隷から開放してあげます。実は、これはファミーレの提案なのよ」
そう、エリザベーラが教えてくれた。
「隼人さん、1年間ご苦労様でした。隼人さんの英知がなかったなら、ワンダ
女建国の今はあり得ませんでした。とっくに崩壊して、ワンダ女権国もなくな
っていたことでしょう。全ては隼人さんの英知があったからこそ、今の繁栄が
あるのです。そんなことは全国民も知らないことですが、わたし達は本当に感
謝しているのですよ。隼人さん、ありがとうございました」
ファミーレさんが、嬉しそうに言ってくれた。
「隼人さんの働きで、ワンダ女建国は危機から救われ、新しい発展を迎えられ
るようになりました。ありがとうございました」
野太い声で、ヤーコブさんも言ってくれた。
熱い感動で胸が締め付けられ、熱い思いとともに涙が込み上げてくるのを感
じた。全身が、嬉しさに満ち足りていた。
「去年のことなのね、隼人さんがワンダ女建国に来たのは。さぁ、座りなさい、
隼人さん」
エリザベーラが言ってくれた。
僕は、エリザベーラの足元に正座した。
「違いますよ、隼人さん。テーブルのところに行って、椅子に座って下さい」
エリザベーラが満面の笑みで、僕に向かって言った。
僕の仕草に皆が微笑んでいた。奴隷スタイルが染み込んでしまっていて、突
然、普通の人間の振る舞いを求められても頭の中味が切り変わらない。恥ずか
しい思いで立ち上がり、椅子に近づいて腰掛けた。椅子に座るのは、イラソ首
長国連邦首都、ミラーズでの和平会議の時以来だった。椅子はなんて座り心地
が良いのだろう。
「ささやかですけれど、本当の家族だけでのお祝いです。隼人さんに喜んで貰
うには、鞭打ちよりは良いでしょう」
女王様が仰った。
「いぇ、そんなことはございません。女王様の鞭打ちも大好きです」
僕は奴隷モードのまま、慌てて否定した。
「御免なさい、隼人さん。隼人さんに気を使わせてしまったわ。そういった意
味ではなく、私からの、ささやかなプレゼントなのです。この食事会は……」
エリザベーラが、声を和らげる。
僕は安心してフォークとナイフを手にした。
たくさんの話をした。食事もとても美味しかったし、こんなに普通に話せた
のは、本当に1年振りのことだった。何よりも、エリザベーラとセルベリーナ
さんと、ファミーレさんの美しい胸の膨らみを目の前にしながらの食事は、女
神様の食卓での食事会のように、美しくエロチックだった。
そんな僕のパニスは、勃起し続けていたと思う。でも、テーブルの下に隠さ
れていて誰にも見咎められなかったのは、少し残念なような気もした。でも、
パニスを勃起させたまま、皆でダンスもした。エリザベーラと向かい合い、見
つめ合ったまま、ベランダの大理石の床の上をステップを踏んで踊った。新婚
旅行中に何度もあったダンスパーティー以来のことだった。僕の顔は微笑み続
けていたのだろう。そんな楽しい食事会は、昼過ぎまで続いた。僕もエリザベ
ーラも最高に幸せだった。
「陛下、そろそろ執務に戻りませんと」
ファミーレさんが促がした。
「そうね、この続きは夜、ベッドでたっぷりと隼人さんに楽しんで貰うわ」
エリザベーラが僕を見つめながら、妖艶な微笑みを浮かべた。
その言葉が僕にとっては一番のプレゼントだった。
僕は膀胱が圧迫されて、尿意を催してきたので立ち上がり、王宮の地下に
降りる階段から、地下空間へ降りていった。
日に何度となく通うところだが、いつもスードラ達によって綺麗に清掃さ
れている、気持ちの良い、しっとりとした湿り気に満ちた空間だ。
「嗚呼……!」
地下空間に反響するように、スードラの喘ぎ声が聞こえてくる。そちらに向
かうと、幾人かのスードラ達が集まっていた。白人、黄色人、黒人のスードラ
達の裸に近い身体の腰の辺りから、美しいピンクの色合いで輝くような美しさ
の女性の裸体が2つ見え隠れしていた。頭の位置は、スードラ達の腰の高さし
かなく、その開かれたエロチックな赤い口に、2人並んだスードラのパニスが
咥えられている。喘ぎ声は、パニスを咥えられたスードラから発せられていた。
パニスを咥えるピンク色をした白い女体は、カレーリナ元将軍とリリーレ元
警備隊長がフェラチオ人形に改造された、哀れな成れの果てだった。
太股の付け根から切断された身体は、大理石の台座に固定され、立位の男性
がフェラチオさせるのに都合の良い高さになっている。2人のフェラチオ人形
は日々休むこともなく、スードラ達のパニスを咥えさせられ続け、舌を動かし
続けて、下等生物である男の性処理のために奉仕させられていた。
なんと惨い刑罰を、エリザベーラは課したのだろう。
この惨い刑罰のシーンは、TVの刑罰チャンネルで国内に放映されていた。
インターネットを駆使すれば、世界中の誰もが見ることができる。そんな刑罰
を考え出した女王様の残忍さには、僕も恐怖してしまう。決して女王様に粗相
のないようにお仕えしなければ、僕もいつの日か、同様の目に遭わされる日が
来るかもしれない。だから女王様が、どんなにお優しく接しられても、僕は奴
隷の本分を忘れてはならない、とこの2人を見ていて気を引き締めているのだ。
「嗚呼、ああぁぁ……っ」
2人のスードラが同時に射精したようだった。
射精された精子は、このフェラチオ人形にとって唯一の栄養源だ。全て飲み
尽くさないと生存し続けるエネルギーを確保できない。舌先だけとは言え、常
に動き続けているのだから、相当量のエネルギーを消費していることだろう。
時には寝ることも許されずに、スードラ達のパニスへ奉仕し続けなければなら
ない日もあるのだろう。栄養たっぷりの精液だけではなく、生命維持に必要な
水分の補給も、スードラ達の尿しか期待できない。男を虫けらのように扱って
きたこの2人が、その最下等の男に頼るしか生きる術をなくされたのだ。カレ
ーリナ元将軍とリリーレ元警備隊長の悔しさがどれほどのものか、その美しい
フェラチオ人形の妖艶な姿態からは窺い知ることもできなかった。
後ろから押され、順番で僕は2人のフェラチオ人形の前に立たされていた。
堀の深い顔立ちの、美しい金髪の美女が僕の視線の真下にあった。
「わぁあぁ(隼人)
」
カレーリナ元将軍の、美しい顔が僕を見上げて憎々しげに見つめていた。
「わぁぁわ、わああぁぁわわぁあわわ(お前もフェラチオをしにきたのか)
」
カレーリナ元将軍が一生懸命喋り出した。呻き声にしか聞こえなかったが、
その意味するところはよく解る気がした。
「僕はイイよ、カレーリナ将軍。いつか、こんな惨い刑罰を許して貰えるよう
に、折を見て女王様に言っておくよ。だから頑張って下さい」
つい、哀れな元将軍と警備隊長に声を掛けてしまった。
「わあわぁわ(ありがとう)」
2人が同時に同じ事を言った。そんな言葉を僕から貰えて、余程嬉しかった
のだろう。
後ろからスードラ達に押されて、フェラチオをしない僕は2人の前から押し
出されてしまった。後ろを振り返ると、次の順番のスードラが、熱り立つパニ
スをカレーリナ元将軍の大きく開かれた口の中に打ち込んでいた。喉の奥にま
で押し込まれたパニスに呼吸を奪われ、咽ているカレーリナ将軍の様子が垣間
見れた。そんな惨めなカレーリナ元将軍が、スードラから殴られていた。カレ
ーリナ元将軍が言葉にならない呻き声を上げて、スードラに謝っていた。あま
りにも惨めすぎる光景を目の当たりにして、僕はいたたまれずに、その場を去
るしかなかった。
排便も済ませ、女王様の居室に戻るとすぐに女王様が、僕のパニスの根元に
巻かれた、革のチン輪から垂れている短い鎖に紅い手綱を結ばれた。いつもの
ように僕は四つん這いになり、女王様の後ろにつき従い、居室から出て行った。
ベージュ色の弾力のある床を見つめて、いつものように、両手を肩幅の広さ
に保ち、床にしっかりと着け、両膝を少し開き気味にした四つん這いの格好で
女王様の椅子として、背中に座る女王様の重みに耐えていた。でも、耐えてい
ると言うよりは、女王様のお役に立てている事が、奴隷にとっての喜びと感じ
ていた。
ファミーレ様も横に置かれたデスクの、専属奴隷の椅子に腰掛けて執務され
ている。お二人の会話を聞くことも、僕にとっての重要な仕事だった。お二人
の会話から得られる情報によって、後で僕の意見を女王様に進言する。女王様
は僕の言うことも聞かれ、最終判断をくだされる。勿論、僕の意見など取るに
足りないものばかりであったが、女王様はちゃんと真摯に受け止めて下さるの
で、僕にとっては、とても嬉しい生き甲斐となっている。女王様のお役に立て
ていることが、僕にとっては最大の喜びだった。
「あら? ポーラの名前があるわ」
女王様が、驚いたような声を出した。女王様の声は、空気の振動を通しても
聞こえて来るが、女王様の肉体を伝わってお尻からも振動としても伝えられる。
僕にはその響きが、とっても心地よく感じられる。
「そう言えば最近、サーバン・エリート・アカデミーの教官達を見かけないわ
ね。ポーラも出産したのね。子弟の国外教育の申請が出ているわ。あぁ、男の
子だったのね、残念ね。産後2ヶ月過ぎたので国外での養育に出したいのね。
男の子だけれど、お祝いを考えておいて、ファミーレ」
「それは……、はい。解りました…」
少し慌てた感じのファミーレ様のご返事だった。
ワンダ女建国では、男子の出産は喜びではなく、祝いに値しない。ほとんど
のワンダは、自分の産んだ子を奴隷にしたくないので、国外で養育する習わし
になっていた。国外養育に許可を与えることも、女王様の重要な権限だった。
「あら? 今度はラーネ……? やっぱり男の子を出産しているのね。こちら
も国外養育の出国申請だわ。偶然って重なるものなのね。ラーネにもお祝いし
なければ。ポーラと少し違った物を考えておいて、ファミーレ」
女王様は、ディスプレイに表示されている書類に目を通しながら、ファミー
レ様に指示を出していた。
懐かしいお名前に、聞き耳を立ててしまった。
ポーラ様の椅子調教は特に辛かった。人一倍、身体が大きかったので、その
重みで僕の両腕は耐えられなくなって、すぐに痺れてきてしまったものだ。ラ
ーネ様は対照的に小柄だったけれど、一番きつい調教をされた。でも、それは
僕のことを思っての厳しさだったことを後で知った。
ヤバーの王族出身の僕に、こんな屈辱的で惨めな奴隷が務まる筈がないと、
早く諦めさせるために、わざと過酷なことを強いてくださったのだ。ラーネ様
のパンティーを口の中に咥えさせられて、その上から口枷をされた時はとても
辛かった。そんな屈辱的で辛い目にあった僕は、奴隷になることを完全に諦め
ることができた。そして、そのことを女王様に伝えようとしたけれど、ラーネ
様のパンティーが、僕の言葉を完全に封じ込めてしまって、ギブアップの言葉
を女王様に伝えることが出来なくなってしまった。でも、そのことは少しも恨
みに思ってはいない。そのお陰で僕は、サーバン・エリート・アカデミーでの
厳しい調教を受け続けることができて、今こうして、愛する女王様にお仕えす
ることができ、女王様にも喜んでいただける奴隷になれたのだ。それも、ラー
ネ様が僕のことを思ってされたことの逆の結果として、その御恩を受けている。
「国外移住のほとんどが、男児出産に伴う養育のための出国ばかりね。男児出
産が険悪されるような現状を何とかしなければならないわ。ファミーレならど
う考えます?」
「やはり、自分の生んだ子供ですから、そのままここで養育して、将来、立派
な奴隷として育てることには抵抗があるのでしょうね……。それが母性という
ものだと思います」
ファミーレ様の答える声が聞こえる。
「それは解るけれど、それでは優秀なワンダの一部は、二度とこの国に戻って
こなくなってしまうわ。優秀なワンダが男児を産んだことによって定着率が低
くなっては、これから目指す国作りに大きな影響が出てくるでしょう。たかが
男児を出産したと言うだけで、この国を捨てて出て行かなければな為らないな
んて本末転倒です。ワンダの意識改革が必要ですね」
強い口調が、女王様の臀部を伝って響いてくる。
「確かに陛下の仰るとおりです。ただ、それが人間の感情で、男には理解でき
ない、女性でなければ解らない母性なのでしょう。だからこそ、尊重されるべ
きことなのかもしれません」
「ファミーレにそう言われると、そうなのかしらと思ってしまうけれど……。
あら? なんなの。ルーラ、ハーネも出産しているわ。4人とも同じ頃ね?
ちょっと可笑しいわね、偶然が重なるなんて……。それに皆、男児ばかりよ?」
女王様の疑問を呈する声のトーンが、微妙に落ちていた。
「本当ですね」
ファミーレ様も確認されたようだった。
「DNA を調べてみて、ファミーレ」
「少し時間がかかるかもしれませんが、早急に調査いたします」
思い起こすと、聞き捨てに出来ない会話だったのだろう。女王様はすぐに立
ち上がられた。
「隼人さんはここで待っていなさい!」
いつになくきつくそう言い残し、女王様は執務室を出て行かれた。
そんなことを言われたのは初めてだった。僕は奴隷の礼をして、女王様を見
送るしかなかった。続いてファミーレ様も退室された。ファミーレ様の専属奴
隷が慌てたように後を追って行った。僕は所在なげに正座して、じっと長い時
間待つだけだった。
2時間ほど、何の気配もないまま時は過ぎて行った。僕は体育座りの楽な姿
勢に変えて、女王様が戻るのをお待ちしていた。やがて人の近づく気配がした
ので、奴隷の礼をしてお迎えした。
黒いアバヤの裾が目に入った。頭を床にすり付けて、執務室に入って来られ
た方の次の行動を待った。黒いアバヤの女官が屈んで、僕の股間から繋がる紅
い手綱を手に取った。
「ついて来なさい」
なんと、親衛隊長のファルーラ様だった。
この時、僕はことの異常さに気付くべきだった。もっとも、気が付いたとこ
ろでどうする術もなかったけれど……。
ファルーラ様に手綱を引かれ、部屋を出され、宮殿の通用口に待っていた車
の後部トランクに押し込められた。蓋が閉められると、真っ暗なトランクの中
で身を丸くしているしかなかった。
車は長い時間走行していた。どれくらいの時間が経過したのだろうか……。
全くわからなくなるくらいに長い時間だった。エンジンのかすかな音と、少し
の揺れ。単調なリズムが子守唄となって、僕は眠ってしまった。
鞭先が僕の身体を突付いていた。目を開いても、夜の帳がすでに下りていて、
周りの景色も闇に隠されて見えなかった。見覚えのある病院のような白い建物
の中に連れ込まれ、そこの一室に留まるように、ファルーラ様に命じられた。
白衣の女医が入ってきたので、奴隷の礼をしてお迎えした。女医は無言で、
僕の肩先に注射針を刺した。瞬間、意識がボンヤリとした。
2人が何か話している。
「陛下がお怒りになっていると聞きましたが……」
嗚呼、シャルーダと呼ばれていた医師だ、と思い出した。
ここはマゾ化処置施設のマゾ化改造処置施設工場だと気が付いた。しかし何
故、こんなところに僕は連れて来られたのだろうか? 僕には全てが理解でき
なかった。
「噂ではサーバン・エリート・アカデミーの教官4人が出産していて、DNA 鑑定
の結果、4人の男児は全て、この奴隷の子供と判明したとのことです。それで
陛下がお怒りになられ、衝動的なのでしょうけれど、専属奴隷を舌人形に改造
するように命じられたとのことです」
ファルーラ様が物憂げに事情を説明していた。
「まあ、可哀想な奴隷だこと。昔から陛下は嫉妬深かったと聞いていましたが、
そうだったのですか」
シャルーダ医師が事務的に答えていた。
「それから、陛下が男児を出産して国外で育てるのはおかしい、と言われ、急
遽、男児の赤子を奴隷として教育するように命じられたのです。その為の施設
作りも近々始まると思います。それまでの間、ここに男児の赤子を収容するこ
とになったようです」
ファルーラ様が説明されていた。
ラーネ様、ルーラ様、ハーネ様、ポーラ様に、僕の子供が出来てしまってい
たのだ。なんという偶然だろうか……。ちょうど1年前、サーバン・エリート
・アカデミーに入所した当日、確かに僕は、彼女たちの膣の中で射精させられ
ていた。でも、あれは強制的にさせられたもので、僕の意思ではどうにも制止
できないことだった。
「この奴隷の男児については、人間便器に改造して成長させるように、とのご
命令でした。さらに、15 歳まで人間便器のまま成長させ、その後、それぞれの
母親の人間便器として返還させるとのことでした」
ファルーラ親衛隊長が、恐ろしいことを伝えていた。
生まれて来る赤子には、なんの罪もない。女王様はなんと惨い仕打ちを考え
られるのだろう。もう僕の運命は諦めるしかないとしても、そんな僕を調教し
て下さった教官達が産んだ赤子を、嫉妬の対象として人間便器に改造してしま
うなんて、許されることではない。それを敢えて実行させる女王様の嫉妬心の
凄さが、これほどまでのものだとは、今の今まで知りようもなかった。
その不運な僕の子供達に、心の中でしか許しを請うことができなかった。射
精することは、男にとっては単なる排泄行為でしかないのだが、女性にとって
は重要な意味を持っていることを知った。建前でも女王様の管理下で起こった
ことなので、女王様にとっては堪らない屈辱と感じられたのだろう。実に恐ろ
しきは女の嫉妬心だった。アリーネ様は大丈夫だったのだろうか? こんな状
況で、僕の心配事が増してしまった。
「では、この奴隷を早々に、舌人形に改造いたします」
シャルーダ医師が意気込んで言った。
「いえ、明日までお待ち下さい。陛下が是非、立ち会いたいとのことでした」
ファルーラ様が僕を見下ろして言った。
「こんな奴隷のために陛下が立ち会われるのでしょうか? 奴隷に嫉妬する陛
下の心情も信じられませんが、その奴隷が改造されるところを見たいという陛
下のお心も信じ難いところです。よほど頭にこられているのでしょうね。
では、手術前の処置もありますので連れて行きます。明日、陛下がお見えに
なりましたら、すぐに手術に移れるように準備を整えておきます」
シャルーダ医師が、僕の手綱をファルーラ親衛隊長から引き継いだ。
「宜しくお願いします。くれぐれも陛下の奴隷だということをお忘れなく」
ファルーラ親衛隊長が口添えしてくれた。
「隼人、もう二度と会うことはないかもしれないが、舌人形になっても陛下へ
の忠誠を忘れてはならないよ。それだけが、お前を生かす全てなのだから」
そう言って、ファルーラ親衛隊長は静かに部屋を出て行った。
僕は最後に声を掛けようとしたが、喉がすでに固まっていて、声を発するこ
ともできなくなっていた。慟哭の悲しみが心を満たした。ファルーラ親衛隊長
の頼もしい後ろ姿を黙って見送ることしかできなかった。重そうな重拳銃が、
腰に当たって、冷たい金属音を響かせていた。その音だけを残して、ドアの外
へ出て行き、僕の視界から消えてしまった。もう、ファルーラ親衛隊長を二度
と見ることはできないのだろうか?
己が身の悲しみに浸る間もなく、僕は深い眠りに落ちていた。
朝の光を感じて目覚めた。2mほどの高さのところに窓が1つあるだけの殺
風景な倉庫のような部屋だった。でも、朝の眩しい光だけはたっぷりと射し込
んでいて、今日も変わることのない好天を教えてくれていた。
何をすることもなく、射し込む陽射しで出来た光溜まりの動きを見つめてい
るだけの退屈な時間が経過し、昼過ぎまで放置されていた。勿論、ドアは堅く
施錠されていた。
昼過ぎだと思う。腹時計はとっくに昼食時間を過ぎていたが、やっと白衣の
ナースがドアを開けて入ってきた。
「うう、うううぅううう」
僕は、
“おはようございます”と、大きな声で言ったつもりだったが……。
獣の呻き声が発せられていた。
「まぁ、怖い!」
ナースが叫ぶように言って、一歩退いた。
でも、それは単なるジェスチャーに過ぎなかった。僕に近づくなり、素早く
首輪を直接掴まれ、ナースの腰元まで引っ張り寄せられた。何時の間に、首輪
まで付けられたのだろうか? ナースの甘い女の香りが感じられた。用意され
た注射針が肩先に刺され、続いて、ナースの持つ小さ
な鞭が僕の裸の身体に打ち下ろされた。
「ううぅ……!」
獣の呻き声で、僕は叫んでいた。
たて続けに鞭が数発襲ってきて、打ちのめされた。痛みで、床に這いつくば
って逃げようとしたが、さらに容赦なく、鞭は襲ってきた。理不尽な仕打ちに
涙が溢れてきた。鼻呼吸ができないので、仕方なく口を開き、喘ぐように呼吸
するしかなかった。舌先が自然に前に突き出て、無意識に舌先が蠢き回ってい
た。
「さぁ、行くよ! おとなしくしているのよ。さもないと、この鞭をたっぷり
と味わうことになるからね!」
ナースが憎々しげに、脅すように言った。
「お前の最後を見届けに、陛下がわざわざ来られている。こんなことは前代未
聞さ。どれほどお前が陛下に憎まれているか、想像も出来ないほどさ。さぁ、
来るんだ!」
紅い手綱を白衣のナースに牽かれ、白色の廊下に牽き出され、四つん這いで
トボトボと後について行った。
このナースの顔にも見覚えがあった。廊下の角を曲がると、真っ赤なアバヤ、
ピンクいろのアバヤ、黒いアバヤ、そして白衣をまとった5人の姿が目に飛び
込んで来た。それに2匹の奴隷が四つん這いでつき従っていた。
女王様にセルベリーナ様、ファミーレ様だった。ヤーコブさんの手綱を持っ
ているのはセルベリーナさんだったが、女王様が手綱を持っている黄色人奴隷
は、初めて見る奴隷だった。でも、なぜかとても強い嫌悪感を覚えた。そして、
ファミーレ様と工場長は黒いアバヤ、シャルーダ医師は白衣だった。
真っ赤なアバヤの女王様を一生懸命見つめた。胸の内に懐かしさが込み上げ
てきた。もう随分とお会いしていなかったように思えた。嬉しさのあまり、首
輪をされていることも忘れ、四つん這いのまま女王様に駆け寄った。ナースの
前に出たとたん、首輪を強く牽かれ、喉が詰まってしまった。
「うぅううう! “女王様!”
」
絞り出すように声を出した。そのつもりだった。しかし、恐ろしげな呻き声
が、僕の口からは発せられていた。
そんな僕の行動に反応して、女王様に手綱を牽かれた黄色人奴隷が、僕に近
寄ってきた。
「うぅ!!」
その黄色人奴隷が、威嚇するように恐ろし気に呻いた。
僕は眉間に力を込め舌先を突き出して、負けじと睨み返してやった。黄色人
奴隷なのに、僕に似た顔をしている?
「これ!」
ナースが制止しようとする強い声が、背中から掛けられた。手綱をナースに
強く牽かれ、また喉を強く詰まらせた。
「申し訳ございません、陛下。手術前なので気が昂ぶっているのです。どうぞ
お通り下さいませ」
ナースが申し訳なさそうに、手綱を強く引っ張ったまま言った。
女王様達とは急いで擦れ違った。誰も僕だということに気が付いていないよ
うな素振りで、声も掛けてくれなかった。
落胆して、虚しく廊下を這い、手術室に引張られて行った。嗚呼、女王様に
も気付いていただけなかった虚しさが、全身を覆っていた。
何故気付いてもいただけなかったのだろうか? 僕のどこが変わってしまっ
たというのだろう……。悲しく、心が重く沈み込んでしまった。
もし、わざと無視されたのであれば、女王様のお怒りは凄まじいものに違い
ない。僕には償う手立てすら思いつかない。舌人形となり、女王様に弄ばれる
ことだけが、唯一のお慰めになのだろう。重く、逃れ難い虚しさが全身を覆っ
た。こんなに落ち込んだ気持ちになったことはなかった。
「隼人、嬉しいだろう。こんなにも辛い思いができて。その沈んだ重い気持ち
のまま、舌人形になったときの辛さを想像するが良い。何故、舌人形がマゾに
とって究極の快楽なのか。それが解れば、お前にとっての究極の快楽を享受す
ることができるだろう。
舌人形に改造された後、究極の屈辱がお前を待っている。悲しいだけではな
い。一つとしてお前の自由になるものがなくなる辛さを、これからたっぷりと
味わうことになるだろう。それだけでは済まない。屈辱と蔑み、そして、ただ
無意味に弄ばれる日々。こんな惨めな存在は、人間便器の比ではない。究極の
悲しみの中で、無限に続く毎日を送ることになるのさ。それがマゾにとっての
最終の快楽を得ることなのだ。さあ、あきらめて手術室に入るんだ」
ナースが、憎々しげに語っていた。
重い気持ちのまま、用意されていたベッドの上に身体を横たえた。真上の真
っ白な天井までの距離感が測れなかった。
「おやおや? 素直に観念してしまったようだね。では、お前の舌先の具合を
試してみようか。さあ、舌を動かしなさい」
ナースが言って、僕の横たわるベッドの上に登って来た。
鼻が利かなくなっているので、ナースの妖艶な匂いも感じることができなか
った。見上げるナースの頭は、天井にくっ付いているように見える。白衣の裾
をたくし上げると、長い艶めかしく白い脚が、顔を跨いできた。妖艶な股の真
上に、褐色のふさふさとした陰毛が高見に見えていた。
褐色の陰毛が、ゆっくりと眼前に迫っていた。すぐに、匂い立つ女陰が顔を
圧迫してきた。悲しい習性の僕は、舌先を女陰の中に伸ばして舌奉仕を始めて
いた。それに感じたナースの姿態が、顔の上でゆっくりと蠢いていた。太腿で
両耳を塞がれ、ナースの喘ぎ声は聞こえてこないが、多分、大きな声で叫んで
いるのだろう。その様子は、膣から溢れ出してくる、ねっとりとした愛蜜の量
の多さで、容易に想像できた。これからは誰かれなく、こうやって日々弄ばれ
ることが、舌人形に改造される僕の宿命となるのだろう。もう、エリザベーラ
女王様だけに、忠誠を誓うことは出来なくなる。これからは単なる性具の一つ
として、ただ女性の快楽のためにだけ奉仕させられる存在となり果ててしまう
のだ。ナースの女陰に奉仕しながら、そんなことが強く意識させられた。
滴る愛液を吸い飲み干しながら、呼吸を止められたまま、その苦しさに、胸
は大きく上下に喘いでいた。苦しくても一生懸命に舌先だけを動かし、ナース
の女陰に奉仕するだけの存在となり果てて、心新たにさせられる序奏となった。
漸く、満足したらしいナースが顔の上から立ち退き、ベッドから降り、僕を見
下ろしていた。
「流石に陛下の舌人形にされるだけのことはある。今までに、こんなに満足し
たことはなかった。お前は、良い舌人形になることだろう。舌人形になってし
まえば、呼吸することも必要なくなる。陛下も、くだらない奴隷の呼吸にまで
気を使わないで済むようになり、動き続ける舌先を何時間でも堪能することが
出来るようになる。そんな完全な舌人形を、陛下は望まれているのだ」
蔑むようにナースが語った。
これからの運命に、屈辱感を味わわされた。しかし、ナースの言ったことは、
マゾにとっては喜んで良いことなのだろうか? それも解らなくなっていた。
すでに首には硬い枠が嵌められて固定され、左右に動かすこともできなくな
っていた。口と鼻も銀色のカバーで被われ、声も発することができない。呼吸
は、チューブが鼻の奥に差し込まれ、そこから辛うじて空気が供給されていた。
ナースがベッドの前を歩いている。僕を載せたベッドが、ナースの後をつい
て静かに移動して行く。目は白衣のナースの背中を見つめているしかなかった。
手術室の扉が開き、控えの部屋よりも一段と明るい手術室に入って行った。
白色の明るい壁が眩しく光り、さらに眩しい大きなライトが照らす真下に移動
した。ベッドはそのまま固定された。
真上から、金髪を白い帽子の中に入れて隠した、シャルーダ医師が見下ろし
ていた。
「これが陛下の専属奴隷ね。味は試してみたのでしょう。どうでしたか? 可
哀想に、パニスがパンパンに張ってしまっていて、射精はさせて貰っていない
のね、ふふふ……」
シャルーダ医師の低く透きとおった笑い声が響く。
「流石に陛下の持ち物です。今までに味わったこともない、素晴らしい快楽を
味わえました。凄いですよ、ドクター」
ナースの楽し気な声が、狭い手術室に響いていた。
「では、私もご相伴に預かろうかしら」
シャルーダ医師がにこやかに言った。
白い帽子と白いマスクの間から見える、女王様と同じ青い瞳が笑っていた。
シャルーダ医師の両手が手術台の縁を掴み、ベッドの上に身体を持ち上げて
きた。そして白衣が包み込んできた。白衣の中には甘い香りが充満していて、
鼻が利かなくなっているとは言え、パニスを膨張させるには十分な、淫乱な香
りで包まれる。パニスはさらに膨らみ、痛みを伴うほどに張っていた。
金髪の陰毛が覆う股間が、顔の上に卑猥に迫っていた。金髪の陰毛は、女陰
を隠す事はなく、白磁のような股間の真ん中にあるクレバスの、深く暗い切れ
目が口を覆ってきた。僕は舌先を伸ばし、そのクレバスを舌先で広げる。熱い
陰部に侵入して、舐め上げた。
嗚呼! パニスが温かいもので包まれているようだ。下半身が滑りの中で、
とても気持ち良がっている。下半身に温もりを感じつつ、シャルーダ医師の女
陰にゆっくりとした舌奉仕を施した。鼻の奥に差し込まれたチューブから供給
される空気で、息苦しさは感じない。いつまでも苦しむことなく、舌先だけを
動かし続けることができた。
やがて、シャルーダ医師の尻全体が顔を包み込み、内腿全体が回転しながら
蠢いてきた。まったりとした愛液が滴り出て、顔は完全に愛液の海に没してい
た。顔はシャルーダ医師の内腿に挟まれ、強く締め上げられる。さらに、両掌
が強く胸肉を掴んできた。掴まれた胸の強い痛みから逃れようとして、胸を持
ち上げた。
パニスは温かな滑りの中にあって射精しかかっていたが、胸板に加えられた
痛みによって、逆に萎えようとしていた。シャルーダ医師の女陰からは、愛液
とは違う、サッパリとした潮が大量に噴き出てきた。とても飲みきれる量では
なかった。
突然、シャルーダ医師が上から退いた。次の瞬間、僕は驚いた。
女王様がパニスの上に跨り、僕を見下ろしていたのだ。
「ううぅうう“女王様”
」
僕は、感極まって呻いた。
何故パニスが熱いものの中に包み込まれてまれていたのか、漸く理解できた
が……。
「可哀想な隼人さん。もう人間の言葉も喋れなくなってしまったのね」
女王様に見下されている。
「隼人さんが獣のように節操なく射精するものだから、サーバン・エリート・
アカデミーの教官達全員が妊娠してしまったのよ。そして生まれてきたのは、
奴隷ばかり。隼人さんは奴隷製造機にはなれても、新人類の女性を作ることは
無理だったのね。だから諦めたの。隼人さんとの間に次の女王を誕生させたか
ったのに、その望みは捨てることにしたのよ。
だから、もう隼人さんにはパニスは必要ないでしょう。その得意とする舌奉
仕だけに専念して、私やたくさんの女性を満足させてくれるだけで良いわ」
女王様が悲しげに言われている。
「うううぅう、うううぅうぅぅうぅ“女王様お許し下さいませ”
」
僕は呻いて謝った。
「今さら許しを請うことなどいりませんよ。もう決めたことです。悲しい運命
を受け入れて。奴隷として仕えることもできない、己の不幸を呪いなさい。舌
人形として、私だけでなく、たくさんの女性に快楽を与えてあげなさい。それ
だけが舌人形に許される唯一の使命なのですよ」
女王様が淡々と言われる。
「うぅ、ううぅうう。うううぅううぅ、ううぅううぅうう“嗚呼、女王様、本
当にお許し下さいませ”
」
僕は、最後の懇願を呻いた。
「許しません! 私の怒りの解けることはないでしょう。一生涯、いえ、永遠
に、舌人形として女性のために奉仕し続けるのです。素晴らしい運命が待って
いるのですよ。死ぬこともなく、永遠の中で、己が不幸を呪いなさい。隼人さ
んの精子から生まれた奴隷は、すでに人間便器に改造されています。隼人さん
と同じように、永遠の時間を人間便器として生きることでしょう」
女王様が悲しげに語った。
女王様のお顔が間近まで近寄ってきた。僕の唇に熱く口付けされた。長い時
間、唇が合わされたままだった。これが最後の口付けとなるのだろう。目から
は止め処なく涙が溢れていた。ゆっくりと、女王様が顔から離れていく。女王
様の青く深い瞳が、僕の目の奥を覗き込んでいた。
「最後に、隼人さんの精液をいただくわ」
パニスは温かな女王様の女陰の中に咥えられ、女王様の膣の奥で蠢いていた。
女王様の腰が回り始めた。
嗚呼、昂ぶってくる性の快感が、今はとても辛く思えた。しかし、これは究
極の快楽だった。未来はただ舌先を動かし続けて、女性に快楽を与え続ける行
為しか許されなくなる。女性の股間に舌奉仕させられるだけの屈辱の極みを味
わいながら、絶望という得も言われぬ快楽が心を包み込んでいた。
「ううぅうぅ“女王様”
」
僕は叫んた。
女王様は、真っ赤なアバヤを頭から脱ぎ去り捨て、裸になった。たわわな両
乳房も、その先のピンクの乳輪も、葡萄の粒のような乳首も、真上から見下ろ
す遥か上のほうにあるお顔も全て、比べるものとてないヴィーナスを上回る、
“美”そのものだった。
女王様のお顔が微笑んでいた。その美しく可愛い笑顔に、性への快楽は最高
潮に達してしまっていた。美も快楽なのだと気が付いた。
「うううぅぅうううぅうううう“射精をお許し下さいませ”
」
いつものように、射精のお許しを女王様にお願いした。
でも、僕の発する言葉は、女王様に解る筈もなかった。僕の発する声は、獣
の呻き声そのものなのだから。
射精の許可も得ずに快楽の頂点に達して、爆発した。精子が尿道管を素早く
通過して行った。たっぷりの精液を、何度も何度も、女王様の体内に送り込ん
でいた。
首に冷たい感触を伴うものが、ゆっくりと蠢いていく感覚を味わっていた。
続いて、ゴリゴリという異音が耳に響いてきた。いつまでも射精が続いていた。
終わることを知らないように、パニスに射精感が継続されていた。僕を見下ろ
す女王様のお顔には微笑みがあった。
両腕を掲げ、女王様のお身体に触れようとした。ところが、意思どおりに手
が上がらなかった。両手は拘束されているので仕方のないことだったが、手の
指先に感覚がなかった。それよりも、パニスを挿入している筈の女王様が、後
ろのほうに離れて行く。妙な感覚だ。まるで僕の身体が切断されたように、女
王様の身体が後ろのほうにゆっくりと遠ざかって行くのが見える。
首は固定されていて動かせないので、目玉だけを下にずらし、女王様のお姿
を追った。実際、後方に去って行く女王様のお姿は、すぐに視界から見えなく
なって消えてしまった。
入れ代わるように、白衣のシャルーダ医師が視界に入って来て、僕の髪の毛
を鷲掴みした。僕は軽々とシャルーダ医師の手に掴まれたまま持ち上げられた。
裸のままの女王様が、首のなくなった僕の身体に跨って、こちらを見つめて
いた。
「隼人さん、パニスは勃起したまま萎えることがないようよ。素敵!」
女王様が微笑んで、僕に向かって話し掛ける。
“僕は、どうなったのでしょう?”
恐ろしくなって訊ねた。
口だけが動き、唸り声も出なかった。
「声帯がなくなって、もう喋れなくなってしまったのよ。だから、もう質問も
出来ないの。でも大丈夫。お前の勃起したままの下半身は、永遠に勃起し続け
て、性具として皆に使われるので安心しなさい。永久に勃起し続けているなん
て嬉しいでしょう……ほほほほほ……」
透き通った声で、シャルーダ医師が声高に笑った。
「いいえ、隼人さんの肉体は誰にも使わせません。すぐに処分しなさい!」
女王様が強い口調で命じられた。
「はい、直ちに!」
シャルーダ医師が、驚いて即答した。
首のない僕の身体に跨っていた女王様が、ベッドから降りた。たしかに、パ
ニスだけが脈打つように、身体の真ん中で勃起していた。それが、稲穂のよう
に揺れているのが不気味だった。
首のない僕の肉体の足元がせり上がり、丸く暗い大きな口のような穴が現れ
た。暗い穴の、大口を開いたような機械が、足の先のほうから無音のまま、足
先を飲み込んだ。微かに骨を削り、肉をミンチにする異様な音が聞こえてきた。
見る見るうちに、僕の身体は膝から太股までその大口に食べられ、消えていっ
た。その 50cm ほどの幅と長さの大口の器具が通過した後には、僕の身体の一片
も残っていなかった。僕の雄々しいパニスも臀部も、胸も肩も、全てを大口は
飲み込み、首のない僕の身体は、完全に消滅してしまっていた。
手術台の上には何一つ残されず、染み一つない綺麗な白いレザーの表を見せ
ていた。その横で、長く美しい金髪を垂らした、全裸のままの美しいお姿の女
王様が満足気なお顔で微笑み、佇んでいるだけだった。少し開き気味の股の間からは、白
い僕の精液が垂れ、床まで繋がって滴っていた。
「気持ちが動揺しているようね。今日は暗いところで、ゆっくりとお休みなさ
い」
シャルーダ医師が、片手で僕の口に銀色のキャップを被せた。ナースが寄っ
て来て、手に小柄な真っ赤なバッグを持って近づいてきた。
「陛下、口にファスナーを付けるサービスも行っていますがどうされますか?」
シャルーダ医師が訊ねた。
「惨めに舌先だけを突き出した、その破廉恥な姿のままが良いわ。隼人さんに
はたっぷりと屈辱を味わって貰わなければなりません。パニスがついていたら、
勃起し続けていることでしょうね。快楽を表現する術も奪われて、なんて舌人
形って、惨めで、哀れなものなのかしら……」
女王様が大きな声で、僕に聞かせるように言っている。
ナースの持ってきた、真っ赤なバッグの口が開かれ、そのバッグの暗い闇溜
りの中に僕は納められていく。
この静かな暗黒の底に仕舞われてしまう。それでも最後に、女王様のヴィー
ナスのような、妖艶なお姿を垣間見れたのが、心の救いだった。女王様が片手
を上げ、掌をこちらに見せながら左右に振り、暫しの別れを告げていた。
お顔は、微笑んだままだった。
「また後で舐めてね、隼人さん」
女王様が、最後にお声を掛けてくださった。
蓋が閉じられ、暗黒が全てを包み込んだ。
意識は急速に失われていった。
頭の上にあるバッグの口が開かれる。急に射し込んてきた明るい光に驚いて、
意識を取り戻した。頭髪を掴まれ、バッグの外の明るい世界へ引き出された。
とても眩しかった。
白いナースキャップを付けた、褐色の髪のナースの顔が、まじまじと僕を見
つめている。右手に鋏のような小物を持っていた。
20 世紀では公共の交通機関に乗るときに、切符という小片を購入し、改札と
いう所を通過する時に、その切符にパンチ穴を空ける道具があった、と古い書
物に書いてあった。その鋏のような形の穴あけパンチだった。
ナースは、そのパンチのような物を小机の上に置き、その手で、口の被いを
外し、また持ってきたパンチのような器具を手に取ると、左耳に近づけてきた。
顔の真横に器具を持って行かれたので、視界から外れてしまい、どんな作業が
行われているのか見えなくなったが、耳朶を摘まれ、そこに冷たさを感じた。
耳朶が強く圧迫される痛みを瞬間感じた。さらにじんわりとした痛みが続けて
襲ってきていた。耐えられない苦痛を与えられて、大きく口を開き叫んだ。で
も、全く声は出なかった。目じりから涙が湧き出て、顔は苦痛に歪んでいただ
ろう。いや、涙も出てこなかった。
「そんなに顔をしかめて、よっぽど痛かったのね。その歪んだ顔つきが、とっ
ても惨いわよ。作業は、もう少しだから我慢しなさい」
独り諭すように、ナースが言っている。
明らかに、苦痛を与えることで楽しんでいる。ナースは、玩具を相手にして
いるような感覚で僕に接していた。机の上に置かれた工具箱の中から、紐付き
の紅いタグを取り出し、僕の耳朶に取り付けているようだった。痛む耳朶に開
けられた穴に、硬い紐を無理やり通されたので、傷が擦れて熱い痛みが走った。
また口を大きく開き、出ない声で叫んでしまった。その苦痛の表情に、ナース
一人だけが楽しげに微笑んでいた。
「真っ赤なタグには金文字で、エリザベーラ陛下のイニシャルが書かれている
のよ。素敵よ、ハヤトサン」
満足気な笑みだ。
ナースの白衣が上に擦り上がっていく。いや、下に移動させられたのだ。ナ
ースの腰の位置で止まると、目の前の白衣がたくし上げられた。
その白衣の下に、褐色の股間を覆う陰毛が、ふさふさとした小山のように盛
り上がって見えていた。そのナースの陰毛に近づいていく。
迫って来る褐色の陰毛に顔面が触れ、ふさふさとした陰毛の感触と、酸味の
ある花の匂いが感じられた。陰毛の奥の女陰を捜して、舌先を伸ばした。舌先
で厚い陰毛の藪をかき分け、奥に隠された女陰のクレバスに舌先を細くして挿
入していく。ごわごわとした陰毛の堅さが、柔らかい舌先を刺激してきて擦れ
て痛かったが、クレバスを下から上に舌先で舐め上げ、クリトリスの位置まで
持って行っては止める。舌先の裏で、クリストスを連続して転がして刺激する。
左耳朶の痛みはまだ治まらず、疼くような苦痛が襲ってきていた。ナースは
股を大きく開き、僕の両頬を柔らかな内腿で固定して、掌を後頭部に添え、顔
面が女陰に強く押しつけられるようにしてきた。女陰に固定されたように、陰
毛と女陰のクレバスに埋もれてしまった。
耳朶の痛みに耐えつつ、舌人形としての初めての舌奉仕に励むしかなかった。
屈辱感だけが、甘い遣る瀬なさとなって心地よく感じられた。その甘い惨めさ
だけが心の全てだった。
顔を挟んだナースの股間全体が蠢いていた。ナースの太腿に挟まれたまま、
一緒に蠢き回る。舌の動きだけは止めることができない。耳まで塞がれていた
わけではないので、ナースの甘美な呻き声がソプラノ歌手の歌声となって聞こ
えてきていた。屈辱と怒りと遣る瀬なさに支配された心では、その声に触発さ
れても、性的快楽を得ることは叶わなかった。存在しない筈のパニスが、萎え
ているのを感じていた。
「素敵よ、ハヤトサン」
独り言のように呟いた。
“ハヤトサン?”
また言われた。頭の中で反復した。
ナースが頭髪を強く掴むと、その股間から引き離し持ち上げた。ナースの顔
が迫って来て、まじまじと見つめられていた。
「舌人形の固有名詞は、
“ハヤトサン”に決まったのよ。知らなかったでしょ
う。陛下がそう命名されたのよ。舌人形のニックネーム。嬉しいでしょう、ハ
・ヤ・ト・サ・ン」
ナースは満足気に、憂いに満ちた声で言った。
「無断で“ハヤトサン”を使ったことは内緒よ……」
ナースは和やかに微笑んだ。
僕の傷心した気持ちとは裏腹に、それを見越してのことなのか、ナースは満
足気に微笑んだままでいた。
そのまま、またケースの暗闇に戻された。蓋が閉められた。
意識が薄れ、眠気が襲ってきた。
光の眩しさに驚いて目覚める。女王様に、髪の毛を掴まれて引き出された。
もう、耳朶の痛みは消えていた。目の前にお美しい女王様が微笑み、僕を見入
っていた。
「完璧な舌人形に完成いたしました、陛下」
シャルーダ医師の声が聞こえた。
女王様のお顔が目の前まで迫ってきた。しげしげと見つめられている。
「隼人さん、素敵よ」
女王様の熱い吐息が顔に感じられた。
単純に、褒められたことが嬉しかった。そのお言葉で、舌人形にされた屈辱
も消えた。そのお言葉にお応えするために微笑んだ。そうだ、顔の表情でしか
気持をお伝えすることはできないのだ。いや、そういう伝達方法もあったのだ。
やっと、舌人形としてのコミュニケーションの方法が解り、嬉しくなった。
「隼人さん、そんなに嬉しいの? 良かったわね。隼人さんに怨まれたら、や
っぱり、エリザベーラは辛いですもの」
女王様が明るく言われた。
「ドクター・シャルーダ、ありがとう。これでセルベリーナにもファミーレに
も、夢子さんにも、隼人さんを貸してあげることができるわ。きっと、隼人さ
んも喜んで皆に舌奉仕してくれるわね」
明るい声で楽しげに言われた。しかし、女王様のそのお言葉で、鳥肌の立つ
ような恐ろしさをまた感じてしまった。
僕は勘違いをしていた。女王様はやっぱり、恐ろしいお方だったのだ。未だ
に女王様の嫉妬心は健在で、今後も永遠に許されることはない。そんな辛く悲
しい思いに、心は地の底にまた沈んだ。
理不尽な女王様の身勝手さを感じ、ない筈のパニスが勃起しはじめるのを脳
内で感じていた。
「やっぱり、口にファスナーを付けないほうが良かったわ。隼人さんの悔しが
る表情も十分に楽しめますものね。さて、早速試してみましょう。ドクター・
シャルーダ、ありがとう。下がりなさい」
僕の顔の後ろにいるであろう、シャルーダ医師に向かって話していた。
「出来栄えは完璧ですので、ごゆっくりと御堪能下さいませ、陛下。では、失
礼致します」
シャルーダ医師の声が後方から聞こえる。シャルーダ医師が退室し、静けさ
が沁みる。
「私の可愛い隼人さん、どうして奴隷ばかり作ってしまったの? 昨日の隼人
さんの精子で、きっと私は受精していると思うわ。私から生まれてくる隼人さ
んの奴隷には、究極の屈辱を与えてあげなければならないわね。そして隼人さ
ん自身は、最高級の舌人形として、外交の場で役立ってもらうことにするわ。
各国の元首クラスの女性の股間で外交交渉をして、活躍してもらいますから
ね。隼人さんが一番望んでいた、政治的な外交のお仕事ができるのよ。隼人さ
んの舌業を堪能してしまった元首達は、もう私の言いなりになるでしょうね。
隼人さんの舌先を一度味わってしまったら、また味わいたくなって、隼人さん
を貸してくれるように要請が来るわ。こうして隼人さんは、世界の盟主の股間
を飛び回らなければならなくなるわ。そして、ワンダ女建国が世界を席巻する
計画は、隼人さんの舌技に掛かっているのです。だから、大切な役割を十分に
自覚して、一生懸命頑張るのよ、隼人さん」
目の前で女王様が笑みを浮かべている。
「その前に、まず、私が堪能してみなければね」
なんと女王様は残忍で、且つ、偉大なお方なのだろう。女王様から生まれて
くる、女王様と僕との奴隷の悲惨な運命を思うと、絶えられないような慟哭が
身を包む。それでも僕は、声を出して泣き叫ぶことも、訴えることもできない
のだ。
嫉妬の対象とは言え、そんな僕をも外交戦略の道具として利用しようとする
女王様の遠大な思惑には、敬意を払ってしまう。また、僕自身が、その使命に
心が躍ってきてしまっていた。そんな偉大な女王様のお役に立てるように頑張
らなければ、と強く誓うしかなかった。
真っ赤なアバヤの下に潜り込まされた。外から透過してくる紅い光に、燃え
上がるような炎となった金髪の陰毛が目の前に迫っていた。その火の鳥のよう
に輝く陰毛の中に顔を埋めさせられた。甘美な香しい女王様の香りを嗅ぎ、な
い筈のパニスを勃起させた。顔だけの存在でしかないけれど、ちゃんと下半身
は、意識の中で勃起していた。
女王様への舌奉仕に、遣る瀬ない心は、被虐心によって性的興奮を覚えてい
た。僕の下半身は甘美な被虐心に反応して、勃起している筈だった。パニスが
なくなったとしても、パニスの機能を司る脳細胞は健在であり、この惨めな舌
人形の仕事に、マゾ的快楽を感じて、下半身を勃起させ続けている。
溢れ出てくる女王様の愛液を、舌人形となってしまった僕には、啜ることも
できなくなっていた。僕には気管も、それに続く食道もなくなってしまったの
だから、仕方がない。愛液は、僕の顔中をネットリと被っていった。
一度アバヤから出され、ベッドの頭の上の台に置かれた。その横にあった、
黒い革のアンダーパンツのような物を、女王様が手にされた。
「隼人さん、こんな物は見たこともないでしょうね。20 世紀以前に考案された、
女性器と奴隷の口を直接に密着させるパンツなのよ。この革のパンツを奴隷の
頭から被せて、その上から普通にパンツとして履くだけ。それで、女性器が奴
隷の口を完全に塞ぐようになっているのよ。でも、人間の奴隷だと、顔の下に
は胴体も付いているし、女性器が奴隷の呼吸を奪ってしまうので、長時間履い
ていることはできなかったの。でも、舌人形になってしまった隼人さんなら、
呼吸する必要ないので大丈夫よね」
いかにも楽しげに仰る。
その、革のパンツを、頭から被せられた。同時に暗闇が目の前を覆った。少
しすると、温もりのある柔らかな太股が、左右の頬を滑るように擦って入って
きた。そして最後に、硬さを帯びた陰毛が顔面を被った。舌を伸ばすと、舌先
に熱い女王様の女陰を感じた。舌先はそのまま女陰のクレバスの中に吸い込ま
れていくようだった。
官能の蜜壺となった女陰に舌先を滑り込ませると、クリトリスを捜し当て、
そこを舌先で転がしながら、ゆっくりと刺激して行く。快楽を感じた女王様が
蠕動していた。
舌奉仕は、長い長い時間、継続された。女王様の女陰を舌先に感じている限
り、舌先を動かし続けた。一瞬も舌先を止めることがあってはならない。舌人
形に休息は許されないのだ。僕は、忠実で有能な舌人形になることしか考えら
れなかった。それが永遠に続く行為だとしても、舌先を動かし続ける覚悟はあ
った。
地下空間に置かれ、スードラ達のパニスを四六時中咥え続けさせられている、
カレーリナ元将軍達の惨めさが、十分に理解できた。それとともに、心を圧す
る悲しい慟哭が、甘美な快楽となって全身を心地よく包み込んでいた。
夥しい愛液で顔面はヌメヌメに埋め尽くされ、深遠なる海の底に生息する軟
体動物になってしまっているようだった。女王様の愛液の海に浸かってしまっ
ている僕は、なんと幸せ物なのだろうか。すでに女王様の愛液は、後頭部の髪
の毛にまで回り込んでいた。僕の心は、とても淫靡な快楽に陥る。
突然、女王様の女陰から引き離され、続いて、明るい世界に引っぱり出され
た。眩しさで、目が開けられなかった。
「ドロドロだわね!」
女王様の険悪なお声が聞こえた。
目の前にファミーレ様の姿がある。場所は執務室だった。ファミーレ様が驚
いた表情で、僕を見つめていた。
「ラフェーラ! これを洗って綺麗にしてきて。それからセルベリーナに届け
なさい!」
女王様が大声で命令されていた。
ファミーレ様の座る、デスクの後ろに控えていた女官が目に入った。
急に部屋が回転を始めた。僕は宙を飛んでいる。部屋全体がぐるぐると回っ
ていた。ラフェーラと呼ばれた女官が、僕のほうに手を差し出していた。その
手のほうに近づいて行く。上手くキャッチしてくれと、願った。
女官の両手の中に上手く納まった。上手くキャッチしてくれたのだ。ホッと
した。そして、そのままキッチンに運ばれ、水道の蛇口の下に置かれた。溢れ
出てくる、透明な大量の水の洗礼を頭の天辺から受けた。掌で頭髪を掻きむし
られ、顔全体もゴシゴシと掌で洗われる。次に乾燥機の風を吹き付けられ、短
い髪の毛を乾かされていたと思ったら、今度は、黒いアバヤの下に入れられた。
若い女官の酸味を帯びた臭気が、鼻に感じられる。黒く、ごわごわとした陰毛
を押しつけられ、異臭に顔を歪めた。仕方がないので舌先を伸ばし、女陰の襞
の間を舐め上げた。ねっとりとした老廃物を舌先に感じ、ブルーチーズのよう
な食感を味わった。それでも舌先を動かし続けることが、舌人形に改造された
僕の唯一の使命だった。
張りのある、若い女官の太腿に挟まれたまま舐め続けていると、時間の感覚
が全くなくなってくる。ところが、意外に、と思うほど短時間で、髪の毛を掴
まれたまま、アバヤの外に引き出された。目の前にはソバカスの残る、若い女
官の顔が迫っていた。
「大したことないじゃないの、ハヤトサン。もう少し期待していたのに……」
女官はそう言うと、また僕を水道の蛇口の下に持って行き、頭から冷たい水
を掛けてきた。
今度は水を掛けられただけだ。温風を吹き付けられて乾されると、女官のふ
くよかな乳房の間に抱かれて、廊下を歩いて執務室に戻っていった。
執務室戻ると、また、真っ赤な舌人形ケースに戻された。女王様とファミー
レ様は、楽しげに語らいながら執務中だった。戻ってきた僕のほうには、一度
も顔を向けられなかった。
「では、連邦政府の首相を、セルベリーナ様に任命するよう図ります」
ファミーレ様のお声が聞こえた。
「全ての首長国は廃止して、統一国家とします。その場合、私は大統領になる
のかしら?」
女王様の澄んだお声が、良く聞こえていた。
「いいえ、そのまま女王陛下として君臨なさるのです」
ファミーレ様が答えられた。
僕が入ったケースは、閉じられないまま移動していた。Vの字型に切り取ら
れたような開きからは、懐かしい王宮の回廊を眺めることができた。舌人形に
されてから、そんなに時間が経過していない筈なのに、長いこと不在にしてい
たような懐かしい感じがする。他の女官達とすれ違う度に、皆、僕のほうに顔
を向けては振り返る。ラフェーラの持つ、真っ赤な舌人形ケースを、誰もが興
味深げに詮索しているのだろう。
「ラフェーラ、それが“ハヤトサン”なの?」
突然、若い女官の声とともに、V字の開きの上に、別の若い女官の顔が僕を
覗き込むように迫ってきた。
「そうよ、パララーフェ。今から、セルベリーナ様のところに持って行くとこ
ろなのよ」
ラフェーラが答えていた。
「少しくらい遅れても大丈夫よね。私にも試させて。噂じゃ、凄いって言うで
しょ!」
「うぅん、それほどでもなかったの。期待するほどでもないわ」
「いえいえ、やっぱり実際に試してみないことには解らないし、真実は私が解
明してあげるわ」
パララーフェは、なかなか探究心の強い女官のようだった。
「いいでしょ、ラフェーラ。親友なんだから!」
強引にパララーフェの手が僕の髪を掴んだ。そのままバッグの外へ引き出さ
れる。
ガランとして人気のない居住区の回廊だった。頭髪を掴まれ、ぶら下げられ
たまま、近くのドアへ移動していく。ドアが開き、そこに二人の女官とともに
連れ込まれた。
「こんなチャンスはないわ。ハヤトサン、わたしのを舐めなさい!」
パララーフェと言う女官が、僕に直接声を掛けると、すぐに黒いアバヤの中
に入れられた。若い女性特有の、強烈な酢っぱい香りが、また鼻先を覆った。
どんなに閉口したとしても、拒否する権限などない。舌先を女陰に延ばすと、
すでに、ねっとりとした濃い愛液が女陰を被っていた。こんなに若い、小娘の
女陰にまで奉仕しなければならないとは、そんな屈辱を感じつつ、それでも舌
先を伸ばして、パララーフェの若く張りのある女陰を舐めさせていただいた。
「嗚呼、感じる……。やっぱり、噂は本当だったのね」
パララーフェが、すぐに溜息を洩らしながら呟いていた。
「なんだか芯の奥が疼いてきたわ……」
すぐに溜息だけになってしまった。
「嗚呼、やっぱり素敵!」
パララーフェが喘いでいた。
今度は、舌人形としての職務を全できていることに満足感を感じていた。パ
ララーフェの腰の動きに合わせて、僕も大きく蠢いていた。濃く、熱い愛液が、
顔面をねっとりと被ってきた。
「もう。時間がないんだから!」
遠くでラフェーラの声が聞こえる。
急にパララーフェのアバヤの下から引き出された。
「やっぱり凄いわ、ハヤトサンって」
パララーフェが感心したように言った。
その言葉に、とても満足感を得た。幾人かのカラフルなアバヤを纏った女官
達が並んでいる。いつも目にする、若い王宮付の女官達だった。
「陛下は絶対に、私達に専属奴隷の隼人さんを貸してくれなかったわ。このチ
ャンスに、舌人形にされたハヤトサンを摘み食いしてしまいましょう」
ラァフェーラの一番近くにいた、ピンクのアバヤの女官が言った。
その女官に僕は手渡されると、今度はそのピンクのアバヤの下に入れられた。
外光がピンク色に染まるアバヤの下には、ピンク色に輝く陰毛が待ち受けてい
た。甘い香水の匂いが、アバヤの中に強烈に満ちていた。顔面が、陰毛のゴワ
ゴワとした感触の中に押しつけられる。ピンク色の美しい陰毛を舌先でかき分
け、女陰に舌を伸ばす。新陳代謝の激しい若い女官の女陰の襞の間には、ねっ
とりとしたブルーチーズを思わせる老廃物がすぐに溜まってしまうのだろうか。
しかし、だからと言って拒否する権限は微塵もなかった。ただ一生懸命、舌先
を動かして奉仕するしか許されていないのだ。
「噂ほどにも感じないわよ」
その女官が言った。
「嗚呼、でも、少しずつ感じて来るわ……」
その言葉を皮切りに、次には溜息が洩れていた。
喘ぎ声が漏れ、股が細かく蠕動し、顔全体を振り回されながら、舌先だけは
休むことなく振動させ続けた。時間の感覚もなく、長いこと奉仕し続けてた。
さらに、次の女官が待っていた。
次々と幾人もの若い脂ののった女陰に奉仕させられ続けた。舌先は止まるこ
とがなく、疲れることもなかった。ただ目の前の女陰を一生懸命舐め続けてい
るだけだった。
温かな深海の中で、人知れず行っている業のようなものだった。でも、やが
て目が回ってきて、意識が朦朧として飛んでしまった。
両頬を殴られていた。
「しっかりしろ! まだ仕事は残っているんだ…」
耳元で、女官に怒鳴られた。
仕方なく、伸ばし切った舌先だけは動かし続けた。若い女官達の女陰に、ど
のくらいご奉仕したことだろうか。最後には意識も無くなっていた。
冷たい水を頭の天辺から被せられて、意識が戻った。顔全体を掌で洗われて
いた。ラフェーラの温かい指先が鼻の穴に入れられて擦られ、耳の穴にも冷た
い水を入れられて洗われた。なんとも妙な気持ちにさせられる感触だった。そ
して、砂漠の熱風を思わせる、熱い乾燥風に晒され、再びケースに戻された。
また、蓋を開け放たれたままで、セルベリーナ様のお部屋のほうに運ばれて
いった。V字型に切り開かれた窓からは、懐かしい王宮の豪華な回廊が見えて
いた。
「私達が使ったことは黙っているのよ“ハヤトサン”。ああ、そうか、お喋り
はできなくなってしまっていたのね。可哀そうに……」
ラフェーラが笑った。
僕の惨めな状況を解っていながら、言葉で甚振ってくる。こんな惨めな状況
に、精神はいつまで耐えられるのだろうか? でも舌人形として、究極のマゾ
の運命を受け入れるしかないのだろう、と解っていた。また、惨めさが、甘美
な味わいを持って心を満たして行った。なくなってしまったパニスが、ビンビ
ンに張り詰めていることも自覚していた。もし下半身が存在していたなら、と
ても恥ずかしいパニスを晒すことになっていただろう。もう、それを見咎めら
れない、今の状況には不満が残る。
Vの字に切り開かれたケースの窓から、セルベリーナ様のお部屋のドアが見
えてきた。セルベリーナ様の元秘書官のサラーニャ様が、ドアを開けた。僕は
サラーニャ様に手渡された。
「サラーニャ、誰なの?」
セルベリーナ様のお声が部屋の奥から聞こえてきた。
「ラフェーラが、舌人形の“ハヤトサン”を持ってきました」
サラーニャ様が言われた。
「えぇ? 舌人形にされた隼人お兄さまが!」
セルベリーナ様のお声が近くに迫ってきた。
真正面には、18 歳に成長された、セルベリーナ様の妖艶なお姿が近づく。長
く美しい手がV字の開きから差し込まれ、僕は頭髪を掴まれた。そして、暗い
ケースの中から明るいお部屋の中へ引き出され、セルベリーナ様の大きなお顔
の前に持って行かれた。
妹のセルベリーナ様に、こんな惨めな姿を晒すこととなってしまった。居た
堪れないほどの恥ずかしさだった。
「隼人お兄さまったら、こんな惨めなお姿にされてしまって。可哀想に……」
セルベリーナ様が同情して、悲し気に言ってくださった。
「陛下の、お怒りを買ってしまったのです。噂で聞いたのですが、サーバン・
エリート・アカデミーの教官達、全員を懐妊させてしまったということですか
ら、陛下の嫉妬心も解らないではありません。それも、生まれてきた赤子達、
全員が奴隷だったということですから、隼人さんの下等性が証明されてしまっ
たことになります。陛下のお怒りが如何ばかりなものだったかも想像できます。
全ての期待は裏切られ、隼人さんが真の奴隷でしかなかったことが証明されて
しまったのです。陛下をお慰めする言葉もありません。悲しいのは陛下のほう
でしょう。そんな罪作りな隼人さんは、徹底的に貶めて、己の下賤さを地獄の
底で味わうことでしか、その罪を償うことはできないでしょうね」
サラーニャ様が得々と仰った。
嗚呼、そうだったのか。僕にはやっと、女王様のお怒りの原因が理解できた
ように思えた。奴隷という下等生物しか生むことのできない種馬。それが僕だ
ったのだ。女王様との間には、世継となるべき女の子を作れる可能性がなくな
ってしまったのだ。だから、最下等の奴隷であることを証明してしまった僕に
できる唯一のご奉仕である、女王様をはじめとする女性への舌奉仕のみしか許
されない、舌人形に貶められてしまったのだ。女王様は、それ以外の行為を全
て禁じられたのだ。女性に、奴隷を孕ませる男としての、僕の存在そのものを
消し去ってしまったのだ。
最後に僕の精子を、女王様の体内に取り込まれたのは、女王様の絶望の気持
ちの捌け口に、奴隷として生まれてくる僕の子供に、究極の惨い運命を与えて
弄び、恨みの全てを晴らそうとしている、お怒りの表れだったのだ。
僕が他の女性の体内に射精したことが許されないのではなく、僕の生まれ持
った精子が、男児しか生むことのできない最悪な精子だったことが、女王様の
失望に繋がってしまったのだ。僕は、本当に最低な奴隷だったのだ。なくなっ
てしまった筈の胸は、張り裂けそうなほどの痛みに襲われていた。
「隼人お兄さまは、自分自身の下等性を恨むしかないのね。もし、サーバン・
エリート・アカデミーの教官達が女児を出産していたなら、隼人さんの運命も
大きく違っていたでしょうね。そうなったら、エリザベーラお姉さまは、飛び
上がって喜ばれたかもしれませんね。でも、隼人さんを死刑にしないで、舌人
形にされたということは、お姉さまのお優しさの表れなのかもしれませんね。
ふふ……。でもこうして皆に回しているところを見ると、やっぱり怒り心頭
されてしまっているのね、お姉さまは。
隼人さんは、永遠に弄ばれなければならない運命を背をわされてしまったの
ね。それだけの罪を背負ってしまったのですから仕方がないわね。可哀そうだ
けれど……」
セルベリーナ様が、僕に語りかけていた。
僕はA級戦犯として、償いきれない罪を背負って、女性に甚振られ、そして
快楽を女性達に与え続けなければならないのだ。戻るべき肉体は、目の前で廃
棄されてしまった。死ぬこともなく、僕には舌を動かし続けることしか許され
ていないのだった。
「エリザベーラお姉さまの妹である私は、だから、隼人さんに優しくしてあげ
られないのよ。さあ、セルベリーナを喜ばせてちょうだい!」
セルベリーナ様はそう言うと、水色のアバヤの中に僕を導き入れた。
黄金の陰毛の下にある女陰の襞に舌先を這わせる。
エリザベーラの妹である、まだハイスクールに通う若い娘の股にまで奉仕さ
せられ、こうして弄ばれようとは想像もしていなかった。惨めさが全身を包ん
でいた。ただ一生懸命、舌先を動かし続けることだけが、たった一つの懺悔の
証だった。
女王様はもっともっと辛い思いをしている。絶望されているのは、僕以上に
女王様のほうなのだから……。
そういえば、女王様の新しい専属奴隷は、どこかで見た事があると思ったが
あれはもしかすると……。僕の思考はその先へは進められなかった。
「嗚呼……」
セルベリーナ様のお声が漏れ聞こえてきた。しかし、長い時間ではなかった。
セルベリーナ様の水色のアバヤから、まもなく僕は引き出された。
「本当に素敵な舌人形さんになったのね、隼人お兄さま」
セルベリーナ様が、上気されたお顔で仰る。
「サラーニャ、貴女も試してみる?」
部屋の景色が素早く動いた。僕は空に舞っていた。天井が眼前に迫ってくる。
一旦、部屋が動きを止め、次に落下を始めると今度は床が迫ってきた。サラー
ニャ様の両腕が伸びてきたが、僕は手の甲に当たって弾き返され、眼前に迫っ
てきた床面に、鼻先から激突した。そのまま部屋が何度も回転して見えていた。
床と壁と天井が交互に素早く入れ替わり、とても不快感を味わった。幾度も部
屋が回転して見えた後、天井を見つめたままの状態で漸く止まった。鼻先の痛
みが脳天にまで届いて、痺れを感じていた。
「あぁ、ヘタクソねー、サラーニャは。ほほほ……。隼人さんが顔をしかめて
いるわ。相当痛かったのでしょうね。本当に可哀そう、隼人お兄さまは」
セルベリーナ様の楽し気な声が高らかに響いて聞こえていた。
「済みませ~ん」
サラーニャ様が大股で近づいてくる。
サンダルの丸く尖った爪先が、僕のだらしなく開かれている口に、無理矢理
差し込まれた。
「食べなさい!」
サラーニャ様が無碍に命令された。
何故に、ここまで虐められなければならないのだろうか。理不尽な思いを感
じつつ、それでも歯のなくなった歯茎で、サラーニャ様のサンダルの先を噛ま
せていただいた。柔らかいサンダルの先を被うカバーを通して、サラーニャ様
の足の指先を感じていた。
「気持ちが良いわ、
“ハヤトサン”
」
サラーニャ様が優しく仰る。
サンダルの先が喉の奥にまで差し込まれ、やわらかな喉の奥が辛く刺激され
ていた。グリグリと喉の奥を痛めつけられ、それから足先が引き出されると、
サンダルの黒い裏底が顔全体を踏み付けていた。さっき痛めた鼻骨に、さらに
痛みが加えられ、もっと激しい痛みで涙が出てくるほどだった。あまりの痛さ
に、出ない声を出して呻いた。
嗚呼、女性とはなんと残酷になれるものなのだろうか。惨めな思いに、ない
筈の胸までが押しつぶされ、苦悩に沈んでしまっていた。もう存在しない胸が、
張り裂けそうになるほどの痛みを感じてしまうのは、何故なのだろうか……?
サラーニャ様が頭髪を掴み、僕は持ち上げられた。そのまま黒いアバヤの下
に入れられると、黒いパンティーが卑猥に迫って見えていた。アバヤの中にサ
ラーニャ様の白い掌が入ってきて、パンティーを下ろす。顔面が、黒く香しい
パンティーで覆われた下に隠された黒い陰毛の藪の前でストップし、サラーニ
ャ様の足が交互に上げられ、パンティーが両方の足先から脱げていく。白い大
きな双球が下りてきて、黒い陰毛が顔面を覆ってきた。ただ屈辱に耐えながら、
舌先を伸ばし、サラーニャ様の女陰の襞に添わせて舐め始めた。
僕の精神はズタズタに裂かれていた。ふと、カレーリナ将軍の運命を思った。
地下の空間で、ひたすらスードラ達のパニスを舐め続けている、2人のフェラ
人形。僕よりも過酷な運命に翻弄されてしまっている。あの2人を助けてあげ
たかったのに、今は自分自身すら、どうすることもできなくなってしまった。
舌先だけを動かし続ける以外に、僕の生きる望みはなくなってしまったのだ。
サラーニャ様のお尻は冷たかった。女陰とアナルの中だけが、舌先に熱く感
じられる。顔面全体が女陰のぬめぬめの中に浸かっていた。そのため、顔全体
に、サラーニャ様の快楽が伝わってくる。しかし、お尻の重みに潰されて、顔
の骨が破壊されそうな圧迫感に悲鳴を上げている。ただ、サラーニャ様が感じ
ている快楽を直接感じられることが、唯一の救いだった。サラーニャ様に喜ん
で頂けている。そのことだけが僕の快楽の全てであり、唯一、許された喜びだ
った。それでもお尻に圧迫されて、床面と後頭部が摩擦される痛みに、精神も
ズタズタに傷付けられていった。
長い時間、サラーニャ様の女陰の中で舌奉仕を続けていたが、漸く頭髪を掴
まれ、女陰から引き剥がされた。アバヤの外に出されると、そのままサラーニ
ャ様の目の前にぶら下げられた。
「
“ハヤトサン”
、素敵だったわ!」
潤いのある瞳に見つめられた。
「サラーニャ、次はファミーレに届けて」
セルベリーナ様の声が後ろから聞こえてきた。
口カバーをされ、ケースに収められた。今度はケースの蓋が閉められて、目
の前を闇が覆った。
意識が遠のき、眠りに落ちた。
両頬を打たれる痛みに目が覚める。
目を開くと、ファミーレ様の下で働くラフェーラに頭髪を掴まれて、ぶら下
げられていた。
「ファミーレ様、“ハヤトサン”の目が覚めました」
ラフェーラの軽蔑しきった眼差しが、僕を見つめていた。
「ふふ……。疲れ切っているのね、隼人さん。きっと、お仕事がたくさんあっ
て、休む暇もなかったのでしょうね」
ファミーレ様の懐かしいお声が聞こえてきた。
突然、お部屋全体が上下に半回転してひっくり返った。天井が下になり、床
が天井になった。そう、ラフェーラが僕をひっくり返したのだ。
「カウントが 50 を越えています、ファミーレ様」
首の付け根の底を見ているようだ。
「えぇ! そんなに!? 私のところに回って来るのが遅いと思っていたら、そ
んなにあちらこちらで摘み食いされていたなんて!
それでは疲れ果ててしま
うのも仕方がないわね。隼人さんも可哀想に、こんな過酷な運命に翻弄されな
ければならなくなるなんて、陛下と結婚された時には、思いもよらなかったこ
とでしょうね。
でも、陛下の嫉妬心の凄さを知らなかった、隼人さんの甘さが原因なのよ」
ファミーレ様の優しいお声が続けて聞こえてくる。
僕のたった一人の理解者なのだ、ファミーレ様は。逆にされたまま、僕はそ
のお声を聞いていた。悲しさと安堵感がない交ぜになり、胸がいっぱいになっ
た。やっぱりファミーレ様だけが僕の味方なのだ。
また突然、天井が急速に迫ってきた。床となった天井に落ちそうな感覚にな
ったが、なんとかまた、床のほうに向かって上がっていった。
「ファミーレ様、投げました! 受け取って下さーい」
ラフェーラが、ファミーレ様に大きな声で呼びかけた。
黒いアバヤを纏った2人の女官を見下ろしている。黒髪のファミーレ様のほ
うに、僕は近づいて行く。突然のことに驚いた表情のファミーレ様が、見つめ
ている。ファミーレ様の胸の膨らみが近づいてきた。両手が開かれ、その中に
顔面から胸の膨らみに打ち当たった。柔らかい胸の膨らみの中に沈み込むよう
だった。しかし、柔らかい弾力のある胸に弾かれ、また部屋が回転して、その
まま床に落下した。さっき強く打ちつけて痛めた鼻頭に、再び激痛が襲ってき
た。耐えられないほどの痛みが全身を襲い、顔中が痛みで歪んだ。泣くしかな
かった……。
「御免なさ~ぃ、隼人さ~ん」
ファミーレ様の申し訳なさそうなお声が聞こえてきた。
頭髪を掴まれ、持ち上げられた。痛さで歪んだ顔を、ファミーレ様にまじま
じと覗き込まれた。情けない。泣いている顔を見られて恥ずかしかった。恥ず
かしさで顔面が赤くなっていった。
「本当に御免なさい、隼人さん」
そのお言葉だけで、十分に幸せを感じていた。胸が熱くなり、幸せの涙が溢
れてきた。幸せを感じると涙が出てくるなんて、思いも寄らなかった。でも、
実際は涙は流れなかった。
「あぁ、こんなに顔を歪めて。本当に痛かったのね。御免なさい、隼人さん」
ファミーレ様の温かいお心が嬉しかった。
出ていない筈の涙が、止まらなくなった。
「ふふ、そんなに顔を歪めて、可哀想な隼人さん」
ファミーレ様に頭髪を掴まれたまま、アバヤの下に入れられた。ファミーレ
様はノーパンだった。黒い豪毛の陰毛に顔面が埋められた。甘過ぎる南洋の強
烈な花の香りに満ちていた。黒い豪毛に顔面を擦られる。すでに愛蜜を溜めて
濡れ始めている陰毛の中に、舌先を突き出し、女陰を捜してクレバスの中に舌
先を差し入れる。お優しいファミーレ様でも、こんな姿になった僕を単なる舌
人形としてしか扱ってくださらないのだ、と実感した。今、感じた幸福感は何
だったのだろうか? 僕をより効果的に虐めるための言葉掛けに過ぎなかった
のだろうか?。
本当に初めて、ファミーレ様の女陰に御奉仕した。長いお付き合いの中で、
こんな破廉恥な行為は初めてだった。いつも、女王様と僕を温かく見守り、と
きには厳しく指示を出し、どんなことがあっても僕の味方をしてくれていた。
そんな母の様な存在だった、ファミーレ様。それが、舌人形になったからとい
って、単なる性具と同じように舌奉仕を強要してくる。こんな惨めな状況にお
かれた僕に救いはないのだろうか……。そんな悔しい思いと悲しみで、胸がい
っぱいになってしまった。遣る瀬ない気持ちのまま、ファミーレ様の女陰にも
舌先を当てがい、一生懸命ご奉仕するしかなかった。
ファミーレ様の太股に挟まれ、激しく悶えているのが感じられた。無音で真
っ暗闇の中、ファミーレ様のぬるぬるとした女陰の中に顔を埋め、舌先だけを
一定のスピードで動かし続けた。ファミーレ様の夥しい愛液が顔面を被い尽く
して行く。頭髪を痛すぎるほどに強く掴まれた。それが相当の苦痛を伴ってい
た。
ファミーレ様の快楽の度合いは並外れていた。ファミーレ様がこんなにも加
虐的な方だったとは、想像すらしていなかった。僕がどんなに辛い目に遭って
いたとしても、ファミーレ様だけは僕を理解してくれていた、という思いがあ
ったればこそ、今まで、どんな屈辱にも耐えてこられた。僕にとってファミー
レ様は、母のような心の拠り所だった。でも今は、快楽を求める鬼のように、
顔面全体を太股の間で締め上げ、頭髪を強く掴まれ、僕を完全に動けないよう
に固定して、顔全体を押し潰しそうな勢いだ。そして、ついに快楽の絶頂に至
ったファミーレ様は、全身を硬直させて痙攣させていた。
長い長い時間、僕は締め付けられたままだった。その間も、舌先だけは休む
ことなく動かし続けた。少し締め付けが緩んだとしても、次の絶頂の波が押し
寄せてくると、再び両頬が押し潰されるように締め上げられる。一瞬の緩みの
後、すぐに次の絶頂の波が訪れ、またまた締め付けられる。その繰り返しで、
何十回となく締め上げられ続けていた。最後に股間から緊張がなくなり、漸く
解放された、と思ったが、そのままアバヤの中に放置され、長い時が過ぎて行
った。
すっかり時間の感覚がなくなっていた。まさか、何年と言うことは有り得な
いだろう。しかし、それほどに長く感じられる時間が過ぎていった。寝返りを
うつ度に、ファミーレ様のアバヤの中で、ゴロンゴロンと方向を変え転がされ
ていた。
女陰のほうに向いていた時、突然夥しい潮の吹出があった。サッパリとした
ファミーレ様の潮で顔面を洗われた。太股に唇が当たった時は、すべすべの内
腿を舐めさせていただいた。
僕の世界の全ては、ファミーレ様の股間と太股の間にしか存在していないの
だと思えてきた頃、髪を掴まれ、アバヤの外に引き出された。
潤いに満ちた、満足気で妖艶な黒い瞳に見つめられていた。それはまるで菩
薩のようなお顔だった。紅く潤った唇が動いた。
「隼人さん、やっと私の思いが叶ったわ。舌人形になってしまった隼人さんだ
から告白できますが、こんなに淫らになる私を、隼人さんは想像もしていなか
ったでしょうね。私自身も驚いているのですから……」
僕を見つめるファミーレ様の黒い瞳が、涙で満ちてきて、溢れた。頬に涙の
道筋をつけて流れ落ちた。純粋水のような、透明の涙の河が、光を受けて輝い
て見えていた。
「ヤバーの鉄道の駅で隼人さんにお逢いした時から、エリザベーラ以上に私の
ほうが、隼人さんを好きになってしまいました。でも、私が隼人さんを手に入
れることはできません。エリザベーラは、それはもう、隼人さんにのぼせ上っ
ていましたから。私は心理学を学んでいましたので、若い男である隼人さんの
全ての心理が読めていました。それでエリザベーラに、隼人さんをコントロー
ルする術を、逐一伝授してきたのです。
そう、エリザベーラが恋した相手を、私が手に入れることはできない相談で
す。だから、エリザベーラが隼人さんを確実に手に入れられるように図ること
が、間接的に隼人さんを私のものにすることだと思いました。
隼人さんのマゾ性にも薄々気が付き、嬉しくなったことを、今でも懐かしく
思い出しますよ」
ファミーレ様が僕の顔に舌を伸ばし、唇を舐め上げてきた。
「奔放で嫉妬深い、エリザベーラの性格もよく解っていましたから、隼人さん
との初めての恋が上手く成し遂げられたとしても、すぐに捨てられてしまうこ
とでしょう。それも時間の問題だと思っていました。その時が来てから、ゆっ
くりと隼人さんを手に入れれば良いだけのことだと思っていました。
隼人さんに恋してしまった私の思いは、エリザベーラと同化できたのです。
エリザベーラの感じることは、私の感じたことと同じでした。エリザベーラの
快楽は、私の快楽でした。エリザベーラが隼人さんを過酷に苛める時も、私は
エリザベーラと一緒にサディスティックな性的快楽を感じていました。
私のサディスティックな快楽をより増すために、効果的に隼人さんに優しく
接していたのです。隼人さんに誇りを持たせること、高い自尊心を維持させる
こと、その高見から突き落とされたときに感じる屈辱感の大きさ、その被虐感
に苛まれ、悶え、それを快楽と感じることのできる隼人さんのマゾとしての性
的高揚。そのこと全てが私の快楽に繋がっていたのです」
サディスティックな快楽に、ファミーレ様の表情が輝いていた。
「エリザベーラは、昔から本当に飽きっぽい性格でした。どんな物事も、長く
続いて、せいぜい6ヶ月が限度でした。まさか隼人さんに何年も飽きずに付き
合って、結婚にまで至ろうとは思ってもいませんでした。もしかすると、本当
に隼人さんに愛を感じてしまったのかもしれません。でも、それで、やんちゃ
で奔放な性格が治る筈もないのです。
結婚生活だって、持って1年か2年でしょう。その時が来たら、どんな風に
隼人さんが捨てられるのか、それも私の楽しみに変わってきました。それが舌
人形にされてから捨てられようとしているなんて、本当にエリザベーラは奇想
天外な、想像を絶するやんちゃ者です。
あと少しで、隼人さんを完全に私のものにすることができるでしょう。2、
3ヶ月のうちには、エリザベーラは舌人形にも飽きてしまう筈です。なんと言
っても、心を感じることのできない玩具では、エリザベーラの心に訴えること
はできないでしょう。だから、隼人さんが完全にエリザベーラから捨てられる
までの時間は、あと僅かしか残されていないのです。そして、舌人形“ハヤト
サン”が捨てられた後、それを私が拾ってあげますよ。その時に、本当の地獄
の苦しみを隼人さんに与えて、エリザベーラの追体験でない、私自身の本物の
快楽を貪ることができるようになるのです。
楽しみだわ。
私なら、エリザベーラのような小手先の責めではなく、本当に、恐怖に値す
る責めを隼人さんに与えてあげられますよ」
ファミーレ様の微笑が怖かった。
「そう、エリザベーラにお仕えしている、隼人さんの代わりの専属奴隷が誰だ
か解りますか? 今は言えませんが、隼人さん自身がその目で確かめて驚きな
さい。きっと立ち上がることもできないほどにショックを受けることでしょう
ね。まぁ、立ちあがることは無理でしょうけれど……、ほほほ。
そのときに、打ちのめされる隼人さんの心が、私にとっての最大の快楽とな
るでしょうね……ほほほほ……」
ファミーレ様の笑い声が耳に不可解に響いてきた。
「ラフェーラ」
ファミーレ様が女官を呼ばれた。
「ファミーレ様、御用でしょうか?」
ラフェーラの声が遠くから聞こえてきた。
部屋全体が急に飛び跳ねた。僕はラフェーラに向かって投げられたようだっ
た。ベッドの下の硬い床に顔面から落ちて、部屋全体がクルクルと回っていく。
ラフェーラの黒いアバヤの足先が見えて、そこまで転がって行く。
天井、ラフェーラの頭、全身、黒いアバヤの裾、足先、ベージュ色の床面、
ベッドに腰掛けるファミーレ様。たくしあげられたアバヤの裾から突き出す、
白い足、満足気な表情のファミーレ様。輝く天井、ラフェーラの驚いたような
表情、黒いアバヤのラフェーラの胴、アバヤの裾、サンダルを履いた足先、冷
たい床、ベッドに腰掛ける黒いアバヤのまま立ちあがろうとしているファミー
レ様の姿、眩しい天井、微笑むラフェーラの顔、両手を下ろして屈むラフェー
ラ、黒いアバヤの裾、ラフェーラの足先がアバヤの中に隠れて見えない、ベー
ジュ色の床、完全にベッドから立ち上がったファミーレ様、掌を左右に振って
いるお姿、明るい天井、両掌を床面につけて待つラフェーラ、ベージュの床面、
微笑むファミーレ様の笑顔。そんな光景が目の前で展開し、後頭部にラフェー
ラの掌の感触を感じて漸く止まった。
「隼人さんを、陛下にお返ししておいて」
ラフェーラに頭髪を掴まれて持ち上げられると、ファミーレ様の寝室から出
された。隣の居間のテーブルの上に、真っ赤な舌人形ケースが載せられていた。
銀の口キャップを被せられると、ケースの闇の中に戻され、蓋が閉められた。
真っ暗闇の中で、意識は急速に失われていった。
突然、頭髪を鷲掴みにされ、眩しい光の中に引き出された。眩しさに瞼を開
けることもできないまま、無言で黒いアバヤの下に入れられた。そのまま女陰
に押し付けられたが、蒸れて酢っぱさを漂わせている女陰だった。きっと、若
い女官の女陰に違いなかった。舌先は、意識することもなく反応し、当然のよ
うに長く伸びて女陰にご奉仕しするしかなかった。老廃物がクリーム状になっ
て、女陰の襞を埋めていた。舌先で、そのねっとりとした老廃物を舐め上げた。
誰だか想像もつかないので、気色が悪かった。
「そんなに感じないわね。噂ほどでもないのね」
ラフェーラの声が聞こえた。
知っている女官だったので、少しは安心できた。
「嗚呼、でも、遠いところで感じてきたよう……」
ラフェーラの腰がじわじわと動き始めた。クリトリスの下部分に、一定のス
ピードで舌先を這わせて左右に動かし続ける。やがて声を荒げると、ラフェー
ラは絶頂を迎えていた。
時間がなく、焦っていたのだろう。直ぐに、ラフェーラの股間から離された。
「次は、あたしよ」
別の女官の声がして、アバヤの裾から裾へと移動させられた。
褐色の陰毛に眼前を埋められた。仕方なく舌先を伸ばし、女陰にご奉仕する。
ねっとりとした温かな女陰が、僕の世界の全てだった。軟体動物の腹の中で、
舌先だけを動かし続けているようだ。時間の感覚もない。
更に、次の女官に回された。休むことも許されず、舌先を動かし続けた。
、
ところで、僕自身はどうやって生きているのだろうか? 何のエネルギーの
補給もないままに、舌先だけとはいえ、激しく動かし続けているのだ、やがて
は疲れ果ててしまうはずなのに、そんなことにはなりそうもなかった。
また、次の女官の女陰に回された。女の股から股へ渡り、舐め続けることだ
けが全てだった。幾人もの女の深海を泳ぎ渡っているようだった。
何人の女官の女陰を舐め続けたのだろうか? すでに意識はなくなってきて
いた。ただ舌先だけが、自動的に動き回っているだけだった。それでも終わり
がやってきた。
漸く、赤いケースに戻された。すぐに暗闇がやってきて、意識をなくした。
「隼人さん、どうでしたか? 皆さんのお味は……」
突然、女王様の澄んだお声が意識の中に入り込んできた。
閉じられた瞼の上に、女王様の二本の指が当てがわれて、瞼を無理やり押し
開かれた。眼の前に微笑んだ女王様のお顔が迫って、巨大に見えていた。懐か
しの女王様のお顔を目にできて、嬉しさで胸が熱くなり、涙が溢れ出てくるよ
うな感じがした。でも実際には、頬を伝う涙は出てくる筈もなかった。
「どうしたの? 隼人さん、潤んだような目をして」
“お逢いしたかったのです”
口を動かして言った。
「聞こえないわ、隼人さん。大きな声を出して言いなさい、隼人さん!」
すぐ目の前に迫った、巨大なお顔の女王様が仰る。
“お逢いできて嬉しいです。女王様”
命令に従い、大きな声を出して言ってみたが……。
「可哀想に……。辛かったのね。私が慰めてあげるから大丈夫よ、隼人さん」
女王様の青い瞳が、僕の目を覗き込んだ。
女王様の豊満な乳房の谷間に、顔面を埋められた。温かくて柔らかな感触を
顔全体に感じて、とても幸せな気持ちになれた。
「ふふ。とっても可愛いわ。本物の隼人さんは」
力強く、女王様が乳房の谷間に引き寄せられ、顔面を強く埋めた。暫くその
ままの状態が続き、次に髪の毛を鷲掴みにされると、ベッドのサイドテーブル
の上に移された。
ベッドの縁に座られた女王様の剥き出しの肩。透き通った肌が輝いて見えて
いた。女王様の白く薄い寝具の下には、奴隷が頭から入り込んでいた。寝具の
裾からはみ出した奴隷の腰から下が、床の上で正座した状態で、女王様の下半
身に頭から首を突っ込んでいた。
ベッドの縁に腰掛けられた女王様は大きく股を開き、その奴隷に舌奉仕させ
ていた。奴隷の肌は白人のように白かったが、黄色人に違いはない。
「相変わらず上手にならないわね。どきなさい!」
女王様の邪険な言葉とともに、足先で奴隷をアバヤの中から蹴り出す。奴隷
はベッドの下の床へ飛んで行った。黄色人種の小柄な体つきの奴隷が、床の上
で転がされ、仰向けの無様な格好で倒れていった。股間を勃起させた、間抜け
で滑稽な奴隷は、なんと、僕自身だった……。
「戻りなさい!」
尻もちをついたまま、無様に横たわる僕に向かって女王様が命令していた。
奴隷の僕は、四つん這いの格好で綺麗な尻を見せると、すごすごと扉のほう
に向かって這い出し、開かれたドアから寝室の外へ出て行った。同時にドアが
閉まった。
女王様の手が伸びてきて、髪を鷲掴みにされ、女王様の寝具の下に導かれ、
太股の間に当てがわれた。
しかし、今、目の当たりにした事実にショックを受け、舌先が動かなかった。
両太股の間に挟まれた後頭部を女王様が小突かれる。幾度となく小突かれて、
漸く舌先を動かすしかなかった。
「何を驚いているの、隼人さん? 単なるクローンよ、隼人さんの……」
何気ないお言葉だった。
でも、完全体のクローンをどうやって育てていたのだろうか。成人するまで
育てるには1年以上の時間が必要だ。僕が舌人形にされてから、どれくらいの
時間が経過したというのだろう……? それとも、僕のクローンは、それ以前
から用意されていたのだろうか?
そうだ、手術前にこのクローンの自分に対面した。あの時は解らなかったが、
あの不快感は、自分と同じ姿を見て感じた不快感だったのだ……。
ゼリーのすべっとした、温かく柔らかな液体のなかで、僕は記憶喪失患者の
ように混乱しながらも、舌先を一生懸命に前に突き出して舐め続けていた。僕
自身の存在理由は、ただ、この舌先だけでしかない。そのことは解っていた。
心は本当に、嵐の日に海を渡る船のように揺れていた。こんなに混乱してい
るのに、心臓がドキドキと脈打つ音が聞こえてこない。僕には、もう心臓すら
なくなってしまったのだ。その代わりに、脳細胞が沸騰しそうなほど沸き立っ
てきている。
女王様自身が震え出した。髪を掴まれた僕は女陰から引き離され、女王様の
アナルに移動させられた。目の前にある小さな円形の菊座を確認し、舌先でピ
ンク色の菊座を突く。最初だけ辛味を感じた。舌先で菊座を突き続けていると、
女王様の大きなお尻が円を描くように回り始めた。僕の顔は、女王様のすべす
べのお尻と一緒に回り続けている。
「うぉ~!」
やがて、女王様の大きな雄叫びが響いてきた。
何度も何度も、女王様は絶頂を迎えられていた。
そのことだけが、僕を満足させ、僕の快楽となっていく。
女王様のお尻が、烈しくローリングし始める。今にもお尻から振り落とされ
てしまいそうだった。そしてまた、金髪が覆う女陰のほうに移動させられた。
辛うじて女王様の金髪の陰毛を咥え、落っことされないようにした。金髪の
陰毛を咥えることで舐め続けることができなくなった。女王様の痙攣は次第に
おさまっていった。咥えていた金髪の陰毛を離し、また舌先を突き出したが、
女王様に頭髪を掴まれていなかったので、その反動で、僕は女王様の股間から
転がり落ち、アバヤの裾から床に直接落下してしまった。
懐かしい女王様の寝室が、グルグルと回転して見えていた。天蓋付のベッド
の縁から、白い女王様の片方の足先だけが突き出ていた。静かで可愛い、女王
様の寝息も聞こえていた。
僕はベッドのほうを仰ぎ見たまま、絨毯の上で静止した。見上げていたベッ
ドの上から突き出た、片方の白い足も引っ込んでしまった。
全ては静寂に包まれて動きがない。女王様の睡眠を感知して、部屋の照明も
落とされた。
真っ暗闇のなかで、女王様の寝息だけが耳に届く。それ以外の気配は一切感
じられなかった。静かな闇のなかで永遠を数えるように、ゆっくりと、時間の
長さを知らしめるように、時が経過していかない…。まるで、時は止まってし
まったかのように感じられた。
女王様が目覚めるのは、早くても数時間後だろう。それまで、僕はこの状態
で、意識をはっきりさせたまま、闇のなかでどうにもならない思考を繰り返し
ているしかないのだろうか……?
闇のなかの無間地獄に、僕は投げ出されていた。
そうだ、これで漸く記憶が全て繋がった。
これから僕はどうなるのだろうか……? 女王様が仰っていた、各国の要人
に玩具として貸し出されて使われるのだろうか……? それとも、ファミーレ
様が仰っていたように、女王様に捨てられた後、ファミーレ様に拾われ、弄ば
れる存在となるのだろうか……?
僕には全く想像すらできなかった。そう、何の選択権も僕には残されていな
いのだ。それだけは間違いなかった。
やがて、漆黒の闇の中に、部屋をドアをノックする音が響いた。
「陛下、お休みでしょうか?」
ファミーレ様のお声だった。
ファミーレ様が寝室に入ってこられる気配がする。天井が薄い光を発する。
「そろそろ、午後の会議が始まります、陛下」
ファミーレ様がベッドに近づいていた。
人の気配を感じ、天井が少しずつ明るさを増して行く。
「あぁ……。ファミーレ、眠ってしまったようね」
女王様が目覚めた。
「ご気分は如何でしょうか? 悪阻がおありとだ聞いていますが……?」
「少しね……。でも、不思議な感覚よ」
「お薬を飲まれると、不快な感じは無くなりますが……」
ファミーレ様が心配そうに尋ねる。
「良いのよ。このくらいのこと、耐えられるわ。薬はお腹の赤ちゃんに悪影響
があるかもしれないでしょう……」
気丈に、声に力を込めて答える女王様だった。
ベッドの向こう側で、女王様が立ち上がられる気配を感じた。女王様は妊娠
されている。それは、僕の子供に違いない。僕は不思議な心持ちになっていた。
どうせ生まれてくる子供は、男の奴隷に違いない。それでも女王様は悪阻を
耐えて、お腹の中にいる僕の子を気遣い、大事に育てようと薬を避けている。
何故なのだろうか……?
「お仕度は……どうされますか?」
「このままで良いわ。アバヤを取って、ファミーレ」
寝具を脱ぎ、赤いアバヤに着替えられているのだろう。僕には気配しか感じ
られなかったが、女王様はアバヤを着られたようだった。
「遅れてしまうわ! 急ぎましょう、ファミーレ」
「ブレスレットを忘れていますよ、陛下」
「あれは飽きましたわ。ネット・オークションにでも出しておいて。私の使い
古しだと書いておけば、少しは高く売れるでしょう」
女王様が事も無げに言う。
「後でラフェーラに言っておきます」
「そうしておいて! さあ、急がないと。ファミーレは会議のデータを転送し
ておいて。私は先に行ってるわ!」
女王様が部屋を出て行かれた。女王様の気配が遠ざかっていく。
女王様は、僕の存在など完全に忘れてしまっていた。たとえ、声を出そうと
しても、叫ぼうとしても、声の出せない僕には自己主張はまったく許されてい
なかった。あのブレスレットと一緒で、そのうち飽きられたら捨てられてしま
う存在でしかないのだ。玩具とは、なんと無機質でつまらないものなのだろう
か。ファミーレ様が仰っていた通りではないか。
さて、これからどうしたら良いのだろうか……?
誰かが女王様の寝室の前に立っている気配を感じた。
「ファミーレ様、如何されましたか?!」
ラフェーラの声が寝室の外から聞こえていた。
ファミーレ様がドアのほうに移動する気配が感じられる。嗚呼、僕は完全に
忘れ去られている。ファミーレ様にも気が付かれていない。僕がここにいるこ
とも知らない筈だ。
「女王様のベッドのところに、あれが転がっているから“女王様の使い古し”
と書いて、ネット・オークションに出しておいて」
ファミーレ様のお声が、部屋の入り口の方から聞こえていた。
あれというのは、さっき女王様が言っていらしたブレスレットのことを言っ
ているのだ。ラフェーラがくれば僕に気付いてくれる。僕は期待した。
「あれ、と言いますと……?」
ラフェーラが確認している。
「ほら、あれよ、あれ。ブレスレットと……」
ファミーレ様が慌てたように言う。
「ブレスレットと……?」
ラフェーラがオウム返しで聞いている。
「そこに転がっているから、すぐに解るわ」
「急いでいるから、後はお願いね!」
ファミーレ様の気配が部屋から消えた。代わりにラフェーラの入ってくる気
配を感じた。まっすぐ、僕のところに近づいてきた。
「ブレスレットは、これね。陛下もすぐに飽きてしまうから。素敵なのに。で
も、私の趣味ではないわね」
ラフェーラの声がさらに近づいてくる。
「それから、何か転がっている物って……?」
ラフェーラの幼げな顔がベッドの向こう側から現れた。目が合ってしまった。
「あら! ハヤトサン。貴方だったの? 陛下に飽きられてしまった物って」
ラフェーラが淡々とした声で問いかけてきた。
“違うよ”
僕は慌てて大声で言ったが、口からは息一つ出てこなかった。
ラフェーラの手で頭髪を掴まれ、持ち上げられた。にこやかにラフェーラが
見るめていた。
「もう飽きられてしまったのね、ハヤトサンは。可哀想に……。本当にネット
・オークションに出されてしまうとは、思ってもいなかったでしょうね」
ラフェーラが語りかけていた。
何のことか、僕には、かいもく想像もつかなかった。
「大丈夫よ、耳には女王陛下の紋章の入ったタグも付いているし、きっと高く
売れるわよ。良い人に拾ってもらえるように、私も頑張ってキャッチコピーを
考えてあげるわね」
陽気な声で、ラフェーラが言った。
口にキャップをされて、赤いケースに戻された。ケースの蓋は閉められなか
った。僕は、ラフェーラの執務机に向かって移動していた。机の下にはラフェ
ーラの専属奴隷が椅子となって、四つん這いで待ち構えていた。僕が入れられ
た舌人形ケースは、ラフェーラの執務机の上に置かれたようだった。
また、髪を掴まれ、ケースから引き出された。
「さて、キャッチを考える間、あそこを舐めていて」
ラフェーラがそう言うと、黒いアバヤの下に入れられた。
「こうしておくと落っこちないのよ」
ラフェーラがそう言って、太股まで下げたパンティーの間と太腿の間に僕を
納めた。顔面がピッタリとラフェーラの女陰に密着させられた。ラフェーラの
薄い陰毛の下の女陰に顔がピッタリと貼り付いた。舌を伸ばし、襞の間に舌を
伸ばして、一生懸命に舌を動かした。暫く、そのまま舐め続けていた。
「嗚呼、感じてしまって、キャッチコピーが考えられないわ」
ラフェーラが喚いていた。
「少しゆっくりと動かしなさい」
頭を小突かれて、言われるまま、舌先の動きをゆっくりにした。
「ちょうど良いわよ、ハヤトサン」
ラフェーラが、物憂げに言っている。
「エリザベーラ女王陛下ご愛用の、舌人形“ハヤトサン”を提供します、と。
耳には、陛下の家紋の入ったタグが付けられていますので、本物と確認できま
す、と。陛下ご愛用のブレスレッドもオマケに付いています。と。こんなところで良いか
しら…?」
ラフェーラが口に出しながら、キャッチコピーを考えている。
「仕事は終わり。さあ、楽しまなければ。ハヤトサン、一生懸命に舐めてよ!」
ラフェーラが僕の後頭部を叩いた。
僕は一生懸命、リズミカルに、ラフェーラの女陰への奉仕を始めた。ラフェ
ーラの高まりが感じられ、若い濃厚でまったりとした愛液が、舌の滑りを良く
した。
「嗚呼、素晴らしいわ。私がオークションで買ってあげたくなるわ」
舐め続けることだけが、舌人形とされた僕の使命だった。やがて、ラフェー
ラが昇天した。そして、ラフェーラの熱い女陰から外されると、口キャップを
され、真っ赤な舌人形ケースの中に仕舞われた。
蓋が閉められた真っ暗闇の中で、意識が遠くなっていった。
新世界(理想郷)中編
ザザザザザ~ザッ・ザッ・ザ~ザザ~
白い砂嵐が、モニター画面を覆いつくしていた。
突然、砂嵐がやみ、暗黒が画面の全てを支配した。一瞬の眩しいきらめき。
その直後、映像が鮮明に浮かび上がり、そこには男どもが群れる、むさ苦しい
部屋が映し出された。
「記録が回復しました!」
僕は少し大きな声を出し、両隣のブースで作業する2人の同僚に告げると、
同じ白衣姿の2人がすぐに低いパーティション越しに立ち上がって、僕のブー
スの中に入ってきた。
普通なら、その場でモニター表示を切り換えて、僕の見ている画面と同じ映
像に切り替えるところだが、自分の作業中のデータも保持したいことと、最初
となる新たな映像を同じ空間で共有したいと思う、人の性とも言える感情が同
僚2人をそうさせたのだろう。僕も左右に振り返って2人を確認してから、再
びモニターに目を向けた。
クリストファー・コロンブス提督が2度目の遠征で持ち帰った、無数の記録
媒体の再調査をする業務。これが、イラソ首長国連邦政府のエリザベーラ女王
陛下の諮問機関である、
“新世界プロジェクト 2098”の下部組織として設置さ
れた“理想郷への提言WG(ワーキング・グル-プ)”からの依頼で、過去に
謎を秘めていた“新世界アルファ・ケンタウルス星系への第2回航海”に関す
る徹底的な再調査が行われることになり、その仕事を我が社が受注していた。
エリザベーラ女王陛下は、2080 年代後半に、アルファ・ケンタウルス星系か
ら発信されたと思われる、第1次アルファ・ケンタウルス星系探検隊に参加し、
行方不明扱いとされていた、セイラー・キャンベル船員から発せられたと思わ
れる怪情報に興味を示し、徹底的な再調査を命じられた経緯があった。
このプロジェクトの目的は、その第2回目の航海で持ち帰った、無数のデー
タを再検証し、クリストファー・コロンブス提督から提出されている、第2回
目航海の報告書の信憑性を検討すること。また、その数年後に発せられたと思
われる、セイラー・キャンベルの怪情報とされていた報告を結び付け、その信
憑性を検証することにあった。そして漸く、核心に迫る1枚のディスクが再生
されようとしていた。
こんな貴重な証拠が、なぜ今まで公開されなかったのかは、それを見ていて
気が付くこととなる。
クリストファー提督も、きっと、この画像を目にしているはずだ。まさに、
公開できない理由は一目瞭然。この映像が如実に物語っていた。
薄暗い部屋を映し出した映像の中で、一人の男が立ち上がり、発言していた。
「セイラーが、ちょうど外出した! このチャンスに、セイラーを抱く順番を
決めたいと思う。隊長としての俺の提案を聞いてくれ。それで、皆の合意を取
り付けたい」
その男は、画面の中央で意気込んでいた。
固定カメラは、音に反応して、音を発しているものを捕えるように設定され
ている。真っ暗闇のような部屋の中を映している映像は自動補正され、暗い部
屋の中が見えやすいように照度を増して、映像全体が鮮明になってきた。
「おぅ! 早くセイラーを輪姦(まわ)そうぜ! 俺は、もう堪らないぜ!
若いプリプリの女を目の前にして、ただ勃起させているだけじゃ健康に悪い。
もう耐えられん!」
自らを隊長と名乗る男の目の前にいた男が、感情も露わに、本能のまま叫ん
でいた。
「そう急ぐな! 男 39 人に、女はセイラー1人だけなんだぞ。皆で無差別に輪
姦(まわ)したら、すぐにセイラーは疲弊して死んでしまう。それに、男同士
で争って、最後の1人がセイラーを抱くということにはならないだろう。ここ
は秩序を以て、慎重に行動しなければならない。1人だけ残された女、セイラ
ーの管理は厳重に行わなければならないんだ」
その隊長がなだめるように、かつ大きな声で、その男の発言をたしなめた。
「おぅ! セイラーに休暇を許可して外出させたのは良いアイディアだったな。
セイラーがいるところで、こんな相談はできやしない。さすが、残留組の隊長
を任せられただけのことはあるぞ、隊長!」
ガラの悪そうな別の男が褒めている。
「まず俺のアイディアを聞いてくれ。意見があったら、それから言ってくれ」
隊長と呼ばれた、中年のインテリっぽい男が、その男を制した。
「俺の案だが、1日に4人がセイラーを抱けることにする。週で 20 人になる計
算だ。2日の休息を与えれば、2週間で 40 人がセイラーを抱くことができる。
まぁ、1人分は余るが、そこは調整分ということで余裕を見ておこう。俺から
の提案は、こんなものだ。これで、2週間に1回は女を抱ける計算になる。セ
イラーも人間だ。クリストファー提督が戻るまでの1年間に、これくらいのこ
とはやって貰わなければ、女のセイラーがここに残された意味がない。セイラ
ーが戻ってきたら、俺から説得してみる。如何かな、諸君!」
自信ありげに、皆に向かって提案している。
「アイディアとしては良い。しかし、セイラーが納得するかな?」
画面の外にいる誰かが発言し、遅れてカメラがそちらを写したが、誰が発言
したのか判らなかった。
「セイラーの納得など必要ない。これは隊員の総意なのだ。それが受け入れら
れないのであれば、暴動が起こる! セイラーの命にもかかわる問題だ。
なにしろ、この惑星に女はセイラーしかいないのだ。600 年前の大西洋横断で、
新大陸に辿りついたコロンブスの時代とはスケールが違う。あの時は、白人を
神だと勘違いした原住民の女たちがたくさんいて、歓迎されていたのだ。とこ
ろがここには親切な蛮族はいたが、全員が男だった。この状況をセイラーには
納得してもらわなければならない。セイラーがここに残された意味を、彼女自
身に自覚して貰うしかないのだ!」
隊長と呼ばれた男が、拳を振り上げ、強く発言した。カメラは隊長を中心に
据えて写していた。
「そうだ! 隊長の言うとおりだ。早く俺にセイラーを抱かせてくれ。ところ
で順番はどうする? くじ引きか? 俺はくじ運が悪い。何か別なやり方を考
えてくれ!」
別の男が大声で発言していた。
カメラはそちらを写そうとして、急いで動いたので画像が流れた。そこに突
然、外部からの雑音が割り込んできた。
“ザザザザザザ~”
沈黙…。
“ザーッ……、あたし! セイラー! 聞こえる?”
沈黙…。
“蛮族と一緒に、ちょっと出掛けてくるから心配しないで! 凄い報告ができる
かもしれないわ”
突然、女性の声が“ザザ~”っと言う雑音の中から響いてきた。
「おい、隊長。セイラーからの携帯が入ってるぞ!
答えてやりな」
壁際にある机の傍にいた1人の男が、ハンド式のマイクを隊長のところに持
ってきた。それを隊長が受け取って口元に持っていく。
「蛮族と? どこに行くんだって? 勝手について行っては駄目だぞ、セイラ
ー。オイ! セイラー! 何がどうなっているのか、ちゃんと報告しなさい!
セイラー!!」
隊長がマイクに向かって、たて続けに捲くし立てていた。
「駄目だ。人工衛星が蝕に入ってしまった。30 分は衛星が戻ってこないから、
それまで連絡は取れない」
マイクを隊長に渡した男が呟く。
「セイラーが蛮族と接触したのか? どこかに連れて行かれるようだが、まあ、
30 分もしたら衛星から位置が特定できるだろう。それから迎えに行っても遅く
はない。あの親切心いっぱいの蛮族なら、セイラーを襲うこともないだろう。
さあ、さっきの俺の提案について意見はないか?!」
隊長が、皆に向かって言葉を投げ掛けた。
「ああ、良いんではないかい」
「ああ、俺も賛成だ。これで、ごたごたも落ち着く。ちゃんと女と寝れるなら、
俺に文句はねえぜ!」
「賛成だ、隊長。セイラーには上手く説得を頼むぜ!」
「OKだ!」
次々に賛成する男達の発言が続いていた。
なんと破廉恥なことが決められたのだろうか。
ビンタ号に乗船して行方不明になったと報告された、そのセイラーという船
員が、この先どうなったのかは、このディスクの後半を見ることで明白となる
だろう。
彼女から発信されたと思われる、あの音声だけの報告はやはり真実で、ビン
タ号に乗船して、遭難して行方不明になったという報告は、クリストファー提
督が改ざんしたものだったのだ。
何故クリストファー提督は、そのようにデータ改ざんを行ってまで、報告せ
ざるを得なかったのだろう。このデータの先を見ていけば、自ずから解ってく
ることだ。
「このディスクには、3日分の固定カメラのデータが入っています。まずは 30
分先の記録へ飛ばしてみます」
僕は、データ記録を 30 分先に進めた。人工衛星が帰って来て、セイラーの所
在が確認できているはずだった。
「セイラーの、あの胸の膨らみには、まいっちゃうよな~。俺なんか、じっと
見つめていたのをセイラーに感付かれて、見返されたこともある。あの時は焦
ったぜ」
誰かが大きな声で喋っていた。多分、こちらに背中を見せている男の誰かな
のだろう。
「お前もそうだったのか……。なんだ、一緒じゃないか。俺もセイラーをじっ
と見ていて、見返されたことがある。でも、セイラーは、そんな俺の下心が解
っていないらしく、微笑み返してくれたぜ」
「まだ 19 歳だっていうじゃないか、そんな小娘を、よくこの遠征隊に加えたも
のだ。人選はどうなっているんだ」
映像の中央にいる男が口を動かしていた。
「そうだ、あんな可愛い子を抱けるんだったら、この遠征に参加して、こんな
辺ぴな惑星に残されたとしても、ハッピーじゃないか」
カメラに背を向けている男が言っているようだ。
「そろそろ人工衛星が、帰って来ているころじゃないか?」
横のほうから声がした。
隊長と呼ばれていた男が立ち上がり、壁際に置かれたモニターに近寄って行
った。固定カメラがその動きを追う。
モニター画面には、緑に包まれた美しい惑星の姿が映る。高空からぐんぐん
と地上部に接近して、草原の木々や森の樹木の1本1本まで映し出していた。
映像は丘陵地帯の頂上部のようだ。
「セイラーから最後の連絡があった場所だ。しかし、携帯の電波はどこからも
キャッチできない。おかしいぞ?」
隊長がモニター画面に見入りながら呟いていた。
「前回撮影している画像を呼び出して、地上部の変化を照合すれば、セイラー
達の、その後の動きが把握できるはずだ」
誰かが言っていた。
「今やっているところだ、黙って見ていろ!」
誰かの助言に、隊長が少し苛立ったように答える。
緑に覆われた丘陵に、赤い斑点が帯状に広がっていった。
「凄い数の蛮族がいたようだ。そうだな、およそ 200 人はいるぞ……? そんな
数の蛮族が、いったいどこから集まってきたんだ?
奴らの集落は、せいぜい
数十人単位でしか住んでいない。これは、何か異常事態が起こったとしか思え
ない。それにしても、セイラーの携帯が出しているはずの電波が、どこからも
発信されていないのはおかしい。なぜなんだ? そんなことがあり得るのか…?」
隊長が不思議そうに、状況を説明するかのように呟いていた。
「足取りは掴めるのか?」
誰かが訊ねた。
「やっている。丘の下の大きな森に、足跡は一直線で向かっている。2km と離
れていないから、歩いても 30 分はかからないだろう。森の中の、電波を遮断す
るようなところに入り込んでしまっているのだろう。もう少し待ってみるか。
すぐに出て来るだろう」
隊長が推測するように、不安もなさそうに喋る。
「なんで 200 人もの蛮族が集まってきたんだ? 何かのフェスティバルでもや
っているのか? 退屈しているから、俺らも見てみたいものだな」
隊員の誰かの声が聞こえた。
「それより、セイラーを抱く順番をどうやって決めるんだ? 早くして貰いた
いもんだ。セイラーが帰ってきたら、誰が1番にセイラーを抱くのか、さあ、
決めようぜ!」
誰かの声をマイクが捕えていた。
モニター画面は、一面、緑色に覆われた大きな森の梢だけを映し出していた
が、カメラの視線は、すぐに声に反応して、髭面のむさくるしい男の顔をアッ
プで、画面からはみ出させて映し出していた。
「お~い。それよりも、どこで抱くんだ? この基地の中には、そんなスペー
スはないぞ。外に小屋でも建てるか? 愛の営みの小屋を……」
カメラが引いて、幾人もの男達を映し出していた。
「それは良いアイディアだ。“愛の小屋”か、いいぞ。いい名前だ。俺も大賛
成だ。早速作らなくてはならないな~。レーザー・カッターがあるから、簡単
に木は伐採できる。日曜大工なら俺に任せろ、だから順番を早く決めてくれよ」
横から、別の男が発言していた。
「待て待て! 肝心のベッドは俺が作ってやる。マットは1番上等なやつを用
意しろ。セイラーは、俺達のお姫様だ」
一人の男が、にこやかに声を出していた。
「おいおい、俺たちは森の小人か?」
別の男の声。それに続く笑い声。実に和気あいあいとした雰囲気が、映像の
中に溢れていた。
「さしずめ、そんなところだろう。セイラー姫がお戻りになるまでには、まだ
時間がかかりそうだ。“愛の小屋”とベッドくらいは、それまでに作っておこ
うぜ」
隊長が陽気に答えた。
「進展がなさそうなので、早送りします」
僕は、この会話に呆れ返って、そう言った。
早送りすると、すでに半分ほどの男達は、画面の外に消えてしまっていた。
きっと、外に“愛の小屋”を作るために出て行ったのだろう。男の心理とは、
一つの目的が与えられると、それに向かって一直線に突き進むものだ。特に、
女にまつわることとなると真剣さが違う。
たしかにかに彼女は、大柄で魅力的ではあった。
アルファ・ケンタウルス星系への遠征隊員リストで見た、セイラー・キャン
ベルには、何回もの補導歴があった。仲間同士の喧嘩で一人を殺傷してしまい、
刑務所に収監されていたところ、クリストファー提督による、初の恒星間探査
旅行の船員が足りなかったため、社会奉仕の一環として刑務所に収監されてい
る罪人を徴用した。その中に、セイラーも含まれていたのだ。
もし僕が、あの映像の中の男の一人だったとしたら、どうだったのだろうか
……? やっぱり、あの子を抱くために妄想を馳せて、
“愛の小屋”作りに参
加したのだろうか……? しかし、そんなことは、その状況になってみなけれ
ば分からないことではある。
男達が出入りする動きが落ち着くと、固定カメラは首を振るのをやめ、樹木
を映し出す緑のモニター画面に固定された。しかし、すぐに人工衛星が地平線
の下に落ち、再度、蝕に入ってしまった。画面が灰色になってしまったので、
また 30 分先の記録へ飛ばした。
今度は、モニターは、斜めの位置から森の入口を映し出していた。なにか金
色に光る物が、煌めくように帯状に蠢いて、まるで黄金の蛇がうねりながら移
動しているような映像が映し出されていた。早送りしていた映像を、慌てて普
通の速度に落としてみた。
「なんだ? あの金色の光の帯は!」
部屋に残っていた男の一人が、叫ぶように言った。
その光の帯がモニターに拡大されていった。
なんと驚くことに、長い列をなした蛮族が、この金色の物体をそれぞれ担い
で移動していた。
「セイラーはいるのか?」
「いや、いない。携帯電話からの電波の発信もない。どうしたんだ……?」
隊長の声が暗かった。
「まさか、蛮族に生贄にされて、森の中で、魔物に捧げられてしまったんじゃ
ないのか……?」
誰かがそんなことを言った。
「すぐに助け出しに行かなければ、手遅れになる前に!」
他の誰かが叫んだその声が、混乱に拍車を掛けたようだ。慌ただしく男達が
立ち上がり、ドアの外に出て行った。
「隊長! 武器庫の鍵を開けてくれ」
ドアの外から声が響いてきた。
隊長が立ち上がり、自分の携帯に触れて何か操作していた。
「よし、開錠したぞ。俺も行く!」
隊長も慌てたように、部屋から飛び出して行った。
部屋の中には誰一人いなくなり、カメラは、金色を煌めかせて移動している、
原住民の行列を映し出すモニターに固定されていた。あの黄金の物体は、いっ
たい、なんなのだろうか……?
人工衛星のカメラが、原住民の若者が抱える金色の大きな道具をアップで見
せてくれた。それは、四角く平べったい黄金の箱だった。その箱の一部から飛
び出した吸い口に、若者は口で喰い付いていた。カメラが少し引くと、行列全
体が見渡せた。それは、まるでお祭りのパレードのようにも見えている。
これは何なのだろうか?
真空の宇宙を航行する人工衛星からでは、地上の
音をキャッチすることは不可能なのだろう。もしかすると、ブラスバンド?
「このディスクが、基地の居間に設置されていた、固定カメラのものだと判り
ました。基地内の間取りですが、他に居住区が2つ、それに調理室、シャワー
室、トイレ、あとは大小の倉庫と武器庫しかありません。トイレ、シャワー室、
倉庫以外には、固定カメラが設置されていました。確か、武器庫の前にも、保
安のためにカメラが設置されているはずです。1年分の記録映像ですので、1
枚のディスクで十分に録画は納まっています。このディスクナンバーに近いも
のを探してください。きっと、他の部屋にもある固定カメラの映像が記録され
ているはずです」
僕は、後ろにいる同僚2人を左右に振り返り、確認しながら言った。2人は
すぐに自席の衝立の中に戻って行った。漸くプロジェクトの仕事が始まりそう
だった。
僕は、今の映像をさらに1時間分進めた。
固定カメラの映像は、サン・サルバドル星をさらに1周した衛星から送られ
てきたものを映し出すモニター画面を捕えていた。しかし、原住民の行列は、数メートル
と短くなっており、200 人からいた原住民の若者の人数も 10 人足ら
ずに減っている。
たった 30 分の間に、どこに、どう消え失せたのだろう。それぞれの部落に帰
って行ったのだとしても、近くの部落まででも、最低 50km 以上は離れている。
原住民の1部落の全員が集まっていたとしても、4部落分の人数が必要だ。し
かし、残っているのが僅かに 10 人足らずだということは、1部落の住民全員が
参加していたわけではなさそうだった。
人工衛星は、原住民を追跡するように設定されているので、途中で原住民が
次々に別れて行ったとしても、一番大きな本隊を中心に、カメラが追っている
はずだった。残った本隊が 10 人程度だということは、それ以下の人数が徐々に
抜けていったことになる。では、それぞれの 10 人単位の原住民達は、どこへ消
えてしまったのだろうか?
衛星が蝕に入っている間に、大部分の原住民達は、
別れ別れに消えてしまったようだ。
また映像を早送りして見ることにした。
10 人程の蛮族が、道もない草原を近くの森に向かって歩いていた。その森に
吸い込まれるように入って行ったまま、反対側から出て来る姿を捕えることが
できなかった。
人工衛星を直接操作できるのであれば、センサーを切り替えて森の中まで探
索することは可能だが、これは固定カメラの映像だ。そこまでの探索となると、
人工衛星の記録を探し出すしかないが、おそらくその記録は、今もサン・サル
バドル星の軌道上に残されたままなのだろう。
念のため、映像を逆戻しにして、早送りで再度、見直してみると、人工衛星
からの映像を映し出す、モニター画面に固定されたカメラの映像からは、人工
衛星が惑星の裏側に回り込み、蝕に入ってしまったため、また 30 分間なんの映
像も映し出していなかった。30 分前に戻って映像が復活すると、そこには 200 人
からなる、原住民の集団が行進している映像が映しだされていた。この 30 分間
の間に、最後の 10 人が消えた状況からすると、やはり森の中に、何かしらの秘
密が隠されているのだろう。
セイラー・キャンベルから発信されたと思われる報告では、
「森の中に、別
次元――3秒遅れた時間軸――に、別の世界を存在させている」と語られてい
た。そう考えると、森の中に何らかの移動施設が存在していて、原住民達はそ
の施設を使って、それぞれの部族と行き来していると推測できる。その3秒後
の世界とは、何を意味しているのだろうか?
人にとっての“今”とは、3秒間の世界らしい。前後3秒なのか、含めて3
秒なのかは解らない。しかし、3秒過去に別な現実があったとしても、3秒先
に住む僕らには感じることはできない。サン・サルバドル星人は、時間軸をコ
ントロールする技術を手に入れている、ということなのだろうか。
地球人類が漸く手に入れて、恒星間旅行を可能にした技術の延長線上にある
技術なのだろう。彼らサン・サルバドル星人は、地球人より、更にその先の技
術までも手にしているということなのだろうか。
そこまで考えを進めたところでチャイムが響き、終業時間を告げた。僕は、
両隣の衝立の中にいる同僚に声を掛け、研究室を出た。狭い更衣室で白衣を脱
ぎ、ジャケットを羽織る。更衣室を出て廊下を 10mも歩くとエレベータホール
があり、そこから階下に降りる。
ビルの出口で、人型の警備案内ロボットに声を掛けられ、返事をする。きっ
と声紋チェックだろう。返事をしなくても咎められたことはない。眼底の奥ま
で覗かれて、セキュリティチェックがなされているのだろう。
ビルの外に出ると、すぐ前に、地下の駅へ繋がるエレベーターだけの小さな
ボックスが立っている。僕が近づくのを感知して、エレベーターの扉が開く。
そこに入ると扉は閉じ、エレベーターは数十メートル下の地下駅に降りて行く。
エレベーターを出ると短いホームがあり、全面透過樹脂によって、線路とは隔
絶されている。
線路といっても架線はなく、単なる空洞のトンネルでしかない。昔は、この
空間に金属でできた線路なるものが敷かれていたらしいが、今では名前だけが
残っているに過ぎない。線路の空間は、ほんのりと明るく照らされていて、そ
こに巨大な電車が、甲高い音を響かせながら突進してきて停まった。
ここは小さな駅なのでホームも短い。たった一つの乗降口がスライドして開
き、そこから電車内に入る。車内は帰宅する客でごった返していた。ホームと
電車の扉が同時に閉まると、電車はすぐに走り出す。立ったままだが、軽い加
速感が伝わるだけだ。この電車は、最高速度 600 ㎞/hにまで、短時間で加速で
きる高速車両だった。
もしかすると、サン・サルバドル星の地下にも同じような高速鉄道が敷設さ
れているのだろうか? いや、それはあり得ない。もし地下に何かがあるとし
たら、それを発見できないはずはない。地下資源調査も当然行われているはず
だった。やはり原住民の移動手段は、20 世紀のアニメにあった“どこでもドア”
的なものなのだろうか?
さて、時間はたっぷりとある。すぐに彼女に逢いに行こう。いつもならジム
に行ってから帰宅して、ゲームをするところだが、股間がムズムズしてそんな
悠長なことは言っていられない。そろそろ何とかして貰わないと、悶々とした
性欲を抱えたままでは、仕事にも影響が出兼ねない。もう、彼女に1週間近く
も射精させて貰っていないのだ。彼女にお願いして、今日こそ、なんとか射精
の許可を貰わなければ、さらに性欲が高まってきて、自分を正常に保つことが
難しくなる。そろそろ射禁生活も限界に来ている。
そうだ、それよりも彼女を呼び出そう。そう思い立ち、携帯から彼女にメー
ルを送った。すぐに返事があったが、友達と一緒なのでアパートに来てほしい
と書いてある。友達とは彼女の同僚で、僕の仕事の話を聞きたがっているとの
ことだった。余計なことに、僕がマゾだということも言ってあるから、一緒に
虐めてあげる、などと記されていた。その1行を読んだだけで、僕のチンポは
躍り上がって勃ってしまった。
突然のことで、勃起を抑えられなかった。パニスに痛みが走った。パニスに
装着された小さな貞操帯が、勝手に勃起することを許してくれなかった。慌て
て股間に手を当て、痛みを和らげようと擦ったが、それがいけなかった。股間
を摩擦したことでさらなる刺激となり、パニスはますます勃起し、苦痛が余計
に酷さを増した。情けなくも、股間を抑えてパニスに加えられる苦痛を、脂汗
を流しながら耐えるしかなかった。
ごった返す乗客の中で、僕は一人痛みに耐えていた。これだけの人がいると、
誰も僕の下半身には注目しないだろう。でも、観察眼の鋭い人がいたら気付か
れてしまったかもしれない。嗚呼、なんて恥ずかしいんだ。早く彼女のところ
に着かないと、さらに不幸な目に遭いそうだった。
2回ほど乗り換えをして、彼女の住む街に着いた。地上に出て、駅前に駐車
しているワゴンカーに乗り、行き先の名前を意識する。ワゴンカーは、彼女の
住むアパートに向かって軽やかに走り出した。新緑に包まれた山々が、とても
美しく輝いていた。季節は初夏に向かって動き始めていた。まだ午後3時を回
ったところだ。日没までには十分な時間がある。
いつも、暗くなってから彼女のところに出向いているので、山間部にある、
ここの素晴らしい景色を見ることができなかったが、今日はとても清々しく良
い気持ちで、自然の情景の中に身を置けていた。富士山が青空を背景に、山頂
部の白い姿を輝かせて聳えて迫っていた。
彼女と知り合ったのは、ネットにある婚活サイトだった。
結婚することに意味があるのかどうか考えることがある。昔からの風習には、
それなりの意味があるはずだ。もちろん僕にも両親がいて、その両親に育てら
れた。だから、結婚して子供を作り、家庭を持ちたいとは思っている。
ただ、彼女には両親はいなかったし、家庭生活というものを経験したことも
なく、家庭というものに憧れを持っているだけだった。憧れだけで、婚活サイ
トに登録していたのだ。それが、婚活サイトによる性格診断で、お互いが1番
相性が合うカップルとして紹介を受け、それ以来の付き合いとなる。
今から思えば、彼女は普通のサディストであり、僕は多少気弱なマゾヒスト
だった。たまたま、性格と性癖までが合致しただけのことなのだが、それは最
高の相性だとも言えた。
彼女と付き合い始めて、もう3年にもなる。きっとこのまま結婚に移行して
も上手くやっていけるだろう。僕もそろそろ 40 歳目前になっている。昔でいう
“結婚適齢期”にあたる年齢だった。ただ彼女は、まだ 20 代という、青春のど
真ん中にいたので、結婚まで考えはいないようだ。
もう一つ、結婚に踏み切れない理由があった。ニホン政府も、あと2、3年
もしたら、イラソ首長国連邦が国連に上程している“女性人間宣言条約”を批
准するだろうから、そうなると、結婚しても意味がなくなる、と彼女は主張し
ていた。世界の流れがそうなっているのだから、ニホンもきっとそうなるに決
まっていると信じている。
でも、その条約って、地球環境を守るために、全ての男性を地球から追い出
すという計画で、表面上、宇宙開拓を強力に推し進めるために、男性の全てを
宇宙開拓に駈り出すことを謳っているが、地球に残る男達の地位を極端に貶め
る内容を伴っている。
それは、男を奴隷化する、非人道的な条約内容だった。そんな、過去に例を
見ないような、男性だけの人権を極端に貶めることを謳った妄想的条約が、世
界に受け入れられるはずもないと思っているのだが、そこのところを理解して
いない彼女は、単純に世界がそうなることを信じていたし、実際に、世界の1
割程度の国々は、既にその条約を批准していた。
22 世紀を、女性だけによる地球支配の世紀として迎えようとする動きは、21
世紀末を間近に控えて急激に加速されているようだった。今年に入ってからも、
もう数カ国が条約を批准し、条約を締結した国同士の国境線は廃止されて、一
つの共同体へと国の様相を変え始めていた。
まるで江戸幕府の終焉を迎えた明治初期の“廃藩置県”にも似ている。1888
年から 300 年後の世界で、今度はその世界版のようなものが動き出そうとは誰も
思ってもいなかったことだろう。
世界が統一されていくことは、戦争の危険を回避できて良いことだ。しかし、
その代償として、戦争と巨大経済活動を推し進めてきた男性の存在を、地球上
から排除するという、とんでもない内容の条約だった。
現実味を帯びて、そんなことを語っているのは、このニホンの社会において
は、女性ばかりであり、現実に社会を動かしている男性からは、全く無視され
た条約だった。
彼女の性癖がサディストだからと言って、それだけでこの条約を批准するよ
うに、声高に主張するのは如何なものだろうか。地球は未来永劫、男性が支配
し続け、戦争行為は歴史の始まりから存在し続けて、人類を発展させてきた悪
しき愚行かもしれないが、それは人の英知によって抑えられるものだ。
確かに、数々の平和運動のどれ一つとして、歴史上、功を成したことはない
かもしれない。一時的な和平は、必ずどこかに矛盾を生じ、新たな戦争の起爆
剤となるだけだった。
だからと言って、それを男のせいにされ、男を地球上から排除する条約を、国として認
めて批准する行為は、なんとも人間の、いや、男の人権を無視した
ものでしかない。そんな理不尽な条約が、世界に蔓延していくこと自体、間違
っているのに、何故それを受け入れてしまう国が出てくるのか、信じられない。
必ずや、男性優位社会の維持を優先する国々から、激しい抵抗運動が始まる
ことだろう。こんな愚の骨頂のような非常識な条約が、次の大きな戦争の火種
となることは、火を見るよりも明らかだ。そこのところが、浅はかな女には解
っていない。今日はしっかりと、そこのところを彼女に話さなければならない
だろう……。
嗚呼、しかし、あの、セイラー・キャンベルが、ケンタウルス星系から発信
したと思われる、異世界からの報告内容が気になる。あそこには、女が完全支
配する、理想社会が語られていた。その肉声だけの報告のコピーは、携帯にダ
ウンロードしておいた。後でゆっくりと一人で聞き返してみよう。
ワゴンカーは丘陵地帯の高台に建つ、紐状にも見える高層ビル群の中の、1
つの居住ビルの玄関先で停車した。僕はワゴンカーを降りて、居住ビルの中に
入って行った。
セキュリティシステムは、すでに僕のデータを記録しているため、居住者で
ない外部の人間であっても、強化樹脂のドアが自動で開いてくれる。それによ
って、僕が到着したことを、彼女に知らせていることだろう。だから、もし、
突然に訊ねて行って驚かせようとしても、その効果は半減されてしまう。まあ、
今日は、彼女の誘いで来たのだから、それはどうでもいいことだが……。
エレベーターは一気に 100 階以上の高層へ一気に駆け昇った。重力が増したよ
うな加速感を数秒間、体感し、エレベーターは目的階で停止した。エレベータ
ーのドアが開くと、彼女の部屋の玄関先だった。
横着な人間は歩くことが面倒になり、エレベーターで直接自室まで運んでく
れる設計を考え出し、ビルの構造を上へ上へと伸ばしていった。そのお陰で、
ひょろ高い超高層ビルが何十本と立ち上がる、異様な風景が作られていった。
危険視されている地震に対しても、この構造のほうが、しなやかに揺れるので
安全性が高い。どんな強烈な地震が来たとしても、屋上に取り付けられたジャ
イロによって平衡性が保たれるので、ビルの安定性が確保され、倒れたり崩壊
する心配は全くなくなっていた。
玄関を入ると、普段着姿の彼女が乗馬鞭だけを手にして立っていた。
「遅~い!」
僕を見るなり、彼女が大きな声で叫んだ。
最近は、行き成りコスプレの女王様姿になっていることが多いのだが、今日
は同僚と一緒だとのことで、鞭だけで、その気分を出しているのだろう。いつ
も、僕の状況など全く無視され、彼女のペースでことが運んでいる。
ま、それも仕方ない。それが恋人どおしの普通のパターンなのだ。それで、
エレベーターの中から四つん這いになり、彼女の前まで這い進んだ。玄関とい
ってもエレベーターのドアから1mと離れていなかったが…。
彼女の足元まで辿り着き、土下座して、頭を床につけてお辞儀をした。彼女
の足先が、僕の後頭部に乗せられる。足の重みで、顔面が床面に押しつけられ
る。この屈辱的儀式が堪らなく、お互いが好きだった。些細なことだが、同じ
行為に性的快楽を共有できることは幸せなことだ。
「体を起して、黒田さん」
彼女がやさしく促した。
いつもはこれでは終わらないのだが、今日は友達も来ているとのことだった
ので、玄関先からのプレイはお預けだった。それでも首に、いつも嵌められる
犬の首輪を付けられた。いや、犬用ではあるが、僕の首輪なのだ……。
立ち上がって彼女が手綱を引っ張れば、普通の恋人同士のできあがりだった。
いつの頃からか、これが現代の恋人同士のスタイルとして定着してしまって
いた。嘆かわしいと思いつつ、彼女の意向に従わざるを得なかった。それが普
通というものであり、彼女が喜ぶのであればそれが僕の喜びだった。
何よりも、貞操帯まで装着させられて、射精管理されている身としては、致
しかたのないことだった。男の性を握られてしまっては、抵抗のしようはまっ
たくなかった。
何年か前、“男大学”なる本が出版され、ミリオンセラーになったことがあ
った。快胎悦子という女教授が、バラエティー番組の中で男を罵っていた台詞
をまとめて、1冊の本にしたものだ。それが世の女達にもてはやされ、その内
容が、すっかり巷の恋人同士の関係を変えてしまう社会現象になっていた。
男の誠を 19 か条にまとめたもので、将来の結婚生活を立派に努めるためには、
これらを幼少の頃からしっかりと教え込むことが肝要で、こうした教育のほう
が、将来、夫人となる女を幸せに導くものである、と説いていた。
1~3条は、男子教育の在り方。4~19 条は、恋人となった男性としての在
り方を説いたものだった。その悪のりは、その後、翻訳までされて、海外でも
ベストセラーとなり、世界へと伝播していった。ニホン国内の冗談が、世界中
の恋人関係の常識にまで影響を与えてしまったのである。
21 世紀初頭、ニホンのアニメが世界を席巻したが、それ以上にこの悪のりは、
地球上の恋人達の関係をも変えるほどに席巻していった。
今や、恋人関係にある女は当然の如く、男性の首に、
“恋人の証”である犬
の首輪を嵌めさせ、女が手綱を取って歩くスタイルが定着してしまった。さら
にご丁寧なことに、男達は恋人関係の証として、射精管理まで彼女にされるよ
うになってしまったのだ。金玉を女に握られた男子は、女に対して従順になら
ざるを得なくなってしまった。
こんな破廉恥で、男の人権を無視するような行為が世界中に蔓延していくな
ど、常識的に考えてもあり得ないことだ。それなのに、ネットに乗って、こん
な異常な恋人関係が、若い男女の間に浸透してしまった背景には、何か巨大な
陰謀組織が関わっていて、作為的に男の地位を貶めようとする綿密な計画が実
行されているようにしか思えてならない。
男女が契りを交わしたなら、その瞬間から、男は射精管理される風潮ができ
てしまった。その背景には、マスコミによる思想的誘導の他に、その異常行為
を支える、簡易な貞操帯の発明も寄与していた。
本来、貞操帯とは、女の不貞を防止するために、中世ヨーロッパで十字軍の遠征時に、
発明されたものだと伝えられている。それが、男のパニスに装着するものだと決めつけら
れるようになったのは、その“男大学”なる本の付録として付いていた、
“男の管理方法”
なる別冊に書かれて以来のことである。
衛生的で、完全な射精管理が可能となる手軽な貞操帯の登場が、指輪の交換
以前に、女は初めての性行為の終わったその瞬間に、男のパニスに、貞操帯を
装着させてしまうと言う姑息な手段を執るようになった。女の身体に癒された
と思っていた矢先、気が付かないうちに、貞操帯はパニスに装着されてしまう。
男はもう逃れる術もなく、女に性的欲求を支配されてしまうのだった。こうし
て男は、完全に女に頭が上がらなくなってしまった。
しかも、そんな異常行為が世界を席巻してしまい、もう男に立つ瀬はなくな
ってしまっていた。性欲だけが高まり、本来ならば元気よく立っているはずの
パニスも、貞操帯に抑制され、惨めに苦痛を伴って、情けなく勃起することに
罪悪感を覚えさせられていた。
いくら僕がマゾで、女に虐げられることを好んでいたしても、そこまで、公
の場で辱めを受けることには大きな抵抗感があった。しかし、彼女は普通の女
であり、サディストとまで言えない程度のノーマルさだったが、それ故に、世
の流れに乗ってしまう傾向があった。だから、恋人であるなら、と、僕は自分
の意思とは関係なく、世の常に従う彼女に従うしかなかった。
そう、初めて彼女とホテルに行って、ねんごろとなり、セックスした後、気
が付くと、僕のパニスには貞操帯が装着されていたのだった。そんなつもりの
一切なかった僕は、彼女に真面目に抗議したが、次に会う時には外してあげる
から我慢して、と懇願され、それに従ったのだが、確かに次に会った時に外し
て貰えたが、再び行為の終わった後に装着されていた。
呆れかえってしまった僕に、抵抗のしようもなかった。こんなに若い小娘と
寝れるなら、多少の我儘は大目に見るしかないのだろう。しかし、調子に乗っ
た彼女は、流行の“恋人契約書”なるものを差しだして、僕にサインさせよう
とした。いま流行りの“恋人ごっこ”のアイテムだとは知っていたが、内容を
呼んでビックリした。浮気はしない、デートの経費は男が持つ、ぐらいは納得
したとしても、セックスする時は、男は土下座して床に頭を付けて懇願するこ
と、などと突拍子もないことまで書かれていた。
勿論、恋人関係になったからと言って、そんな屈辱的な行為を受け入れるこ
となんてできないと、毅然と拒否した。ところが、その翌日から、彼女と連絡
が取れなくなってしまい、貞操帯をされたままの僕は、2週間も射精を我慢さ
せられる羽目になってしまった。“男の管理方法”なる本には、男を従順にさせるためのノ
ウハウまで、懇切丁寧に書かれていたのだ。
諦めて、恥ずかしい思いを覚悟で、鍵屋に貞操帯を外して貰おうかと考え始
めていた矢先、2週間振りに彼女からメールが届いた。性欲で悶々状態に陥っ
ていた僕は、まんまと“恋人契約書”にサインするから何とかして欲しいと懇
願していた。その行為で高飛車に出た彼女からは、どんな命令にも従順に服従
し、命令に従えない場合は、お仕置き受けることを条件に付け加えた、パージ
ョンアップした“恋人契約書”を提示され、サインを求められた。射精させて
貰えるなら、と、どんな条件にも従う旨のメールを出し、屈辱的な内容の“恋
人契約書”にサインさせられてしまった。
それもこれも、“男の管理方法”に記されたとおりの方法を、彼女は試した
だけなのだ。それ以来、僕に、彼女に対する抵抗の術はなくされてしまった。
今日も、友達を自分の部屋に招待しているので、当然恋人として僕は、
“恋
人の証”である首輪を装着させられる羽目になった。女王様気取りの彼女は、
二人だけの時は、四つん這いで歩くことを強要していたが、今日はそこまでは
要求してこなかった。今日は普通の恋人役だけである。彼女の女友達の前に僕
は、立ったまま登場することとなった。
居間兼寝室となっている、大きなベッドが置かれた部屋に入ると、机の前に、
白いジャケットを着た同年代の女性が座っていた。どこかで見知った女性だっ
たが、すぐには思い出せなかった。
「ユミコさんよ、職場の先輩なの。あなたが面白いプロジェクトに関わってい
るって話したら、興味を持たれたのよ。そこにちょうどメールが来たので、あ
なたに来てもらったのよ。どう、綺麗な方でしょう?」
彼女が耳元で教えてくれた。
「こんにちは。噂は、彼女から聞いていました、まさかね……」
その声を聞いて思い出した。学生時代に、自治会で一緒に顔を突き合わせて
いた学友だった。
「お前か~。そう言えば、どこかの行政機関に、キャリアとして就職したと聞
いていたが、環境省だったのか。いや、世間は狭い。久し振りだ、元気だった
か? ユミコ」
あまりの懐かしさに、気軽に声を掛けてしまった。
「サブロウ君が彼女の恋人だったなんて、思いもよらなかったわ。随分と若い
子を垂らし込んだものね。相変わらずね……」
すぐに昔に戻ったふうにユミコが言った。
「えぇ~! 先輩とタメなんですか、黒田さんは?」
彼女が驚いたように奇声を上げた。
「そうよ。サブロウは自治会の委員長をしていて、それは格好良かったのよ。
学部長交渉のときなんか、老齢の学部長を恫喝して、見事にレクリエーション
の予算を大量に分捕ったのよ。お陰で楽しい学生生活が満喫できたわよ。
あの当時は、それはもう、女性にはモテていたのよ。本人は無頓着だったけ
れど、随分と憧れていた女性は多かったわよ。でも、まさかマゾだったとは知
らなかった…。それが解っていたら、わたしの恋人にしてあげても良かったの
に、残念」
ユミコは僕を見透かすように言った。
「おいおい、そんなことまで伝わっているのかい…。僕の立つ瀬がないじゃな
いか」
「良いのよ。男性のマゾ化現象なんて、普通のことよ。心配しないで良いから。
それに、今日はサブロウの手掛けているプロジェクトについて聞きたかっただ
けなのよ。一緒のプレイは、またの機会にしておきましょう」
ユミコが事もなげに言った。
「今回のプロジェクトは、著作権にも影響しないことだから、ある程度のこと
は話せる。そうだな~、ケンタウルス星系から発しられたと思われる、肉声の
みの報告の第2弾を携帯にダウンロードしてある。発注元は、イラソ首長国連
邦。みんなは“ワンダ女権国”と言っているところからの依頼なんだけれど。
あの“女性人間宣言条約”を提唱した国からの仕事なんだ。そのダウンロード
した肉声の報告を聴いてみようか……」
そう言って僕は、携帯の再生スイッチを入れた。
「2回目の通信ね。あれから、どれくらいの時間が経ったのかしら? こちら
の世界は本当に楽しくって、時間の感覚もなくなってしまっているわ。楽しい
ってだけじゃなくって、毎日が快楽に満ち満ちているの。ここは、本当に女性
達の楽園よ。
そうね、前回どこまで話したかしら? そうだわ、木造の大きな家に辿り着
いたところまでね。では、その続きをお話しましょう」
沈黙。
そう、木造の建物に入って、一つの扉の前で女神の一人に言われたの。
「さあ、お入りなさい。遥かなる宇宙を渡って来られたお客人」
その言い回しが、なんだかとっても重々しく聞こえたわ。
促されるまま、あたしはその部屋に入ったの。なんの変哲もないベージュ色
のソファーが置かれただけの応接間だった。
「座って。今、お茶を持ってこさせるから」
一人の女神が言った。
ソファーに座ると、入ってきた反対側の……あたしの座った正面の壁に、別
のドアがあって、二人の女神はそのままそちら側のドアから出て行ってしまっ
た。部屋には、あたし一人だけが残されてしまった。
この応接間は、茶色の木の肌を生かした落ち着いたつくりになっていたし、
ソファーの色も茶色がかったブラウンで、身も心も落ち着かせてくれる雰囲気
の部屋だったわ。
そう言えば、チャプランはどうしたのかしら? あたしと一緒に入って来な
かったけれど、一人で大丈夫かしら? チャプランがいないと、なんとなく、
あたし自身が不安になっていることに気が付いたわ。短い付き合いだったけれ
ど、意外と頼りになっていたのね。
女神が出て行った奥のドアが再び開いて、真っ裸の白い肌を見せた奴隷が、
チンコだけをオッ立てて、見るも恥ずかしい姿で部屋に入ってきた。両手に捧
げ持ったお盆の上には、茶碗が1つだけのせられていて、ほんのりと湯気が上
がっていた。その真っ裸の恥ずかしい格好をした奴隷は、あたしの真横に近寄
って来て、その大きく勃起させたパニスが、あたしの目の高さで揺れていた。
嗚呼、恥ずかしい。なんて卑猥な奴隷なの……。チンポにしゃぶりついてし
まおうかしら……なんて思ったわ。
そう思った瞬間、奴隷は跪いて、茶碗の乗ったお盆を木製のテーブルの上に
置いた。奴隷の身体から、ハッカ系の素敵な香りが漂ってきて、心の底までス
ッキリさせてくれた。
お盆の上から茶碗を手に取った奴隷が、あたしの真正面に置き直してくれた。
その香りは、奴隷の体臭ではなく、そのお茶から漂ってきたものだと解った。
そのお茶の香りを嗅いで、気分がとても落ち着いてきたわ。
その後、奴隷が床に平伏すると、惨めな格好の奴隷の礼の形をとっていた。
そんな風にされることに、漸くあたしも違和感がなくなっていた。奴隷はすぐ
に立ち上がり、パニスを誇示するようにあたしの眼の高さに晒すと、身体を回
して、さっき入って来たドアまで歩いて、そのまま出て行ってしまった。
あたしは、温かいお茶の入った茶碗を両手で取り、ソファーの背もたれに体
重を預けた。ゆったりとした気分になってお茶を啜ると、ハーブの匂いと甘い
蜜の味が、喉に心地よく流れ込んできた。その作用で全身が癒され、活性化さ
れ、幸せな気持ちに包まれたわ。
何かの気配を感じたので開かれたドアを見ると、真っ裸の白い肌が見えた。
さっきとは別の女神が入って来て、あたしの目の前のソファーまで来ると腰を
下ろした。
女同士とは言え、全裸の女性を真正面から見るのは、気恥ずかしさを感じた
わ。それに、豊かな胸、少し開き気味の股間には陰毛が盛り上がり、あたしの
目の前に迫ってくるように感じられたわ。
「初めまして、ソル星(太陽)系からのお客人。私はイラと申します。この地
域の統治官をしています。失礼とは思いましたが、あなたの記録を調査させてもらいまし
た。過去には大変な経験をされてきたようですね。そして、この大宇宙への遠征隊では、
奴隷ばかりの編成の中で、女性はたったの 10 人だけ。そして、大破した宇宙船と、先に逃
げ帰ってしまった宇宙船もあって、残った1隻の宇宙船では全員を収容できないので、貴
女だけ奴隷達と一緒に残されてしまったのですね。
実はあなたを含む船員達が、全員、奴隷ばかりだろうと思っていたので、全
く関心を示さずにいたのです。ごめんなさいね。あなたのような素敵な人間も
混じっていたとは、気が付かなかったの。最初からそうと判っていたなら、あ
んな宇宙コロニーとの接触事故にも、遭遇していなかったでしょうに。本当に
無関心だった私達のミスでした。行方不明になって、亡くなられた女性の方も
いたのでしょうね。本当に申し訳なかったわ。
その、罪滅ぼしという意味ではないのですけれど、貴女には、十分なもてな
しをして差しあげたいと思っているの。どんな望みも叶えますよ」
目の前の全裸の女性が、唐突に話し出した。
その善意は十分あたしに伝わってきた。嬉しくて、心細さが和らぐ想いだっ
たわ。
「ありがとうございます。こんな素敵な文明をお持ちの人類が、お隣の星系に住んでいた
とは、想像もしていませんでした。この星系の文明はどうなってい
るんですか? あたしには、とっても不思議に見えてならないのですけれど…」
思っていることを、そのまま口に出して訊ねてみた。
「そうかしら? テラ星(地球)の人類の歴史のほうが、よっぽど不思議に見
えますよ。5万年も以前から文明の兆しを見せつつ、何度となく挫折して、漸
く5千年ほど前から、人類全体での発展を見せるようになったきたけれど、愚
かな戦争行為の繰り返しで、その愚かしい戦争を原動力に文明を発展させてき
たなんて、とても信じられませんわ。そんな愚の骨頂を無限に繰り返しつつ、
とうとう自らを滅びに向かわせようとする文明なんて、あり得ないことですわ。
数万年前、ケンタウルス星系とソル星系に、ほぼ同時期に“仏(ブッダ)
”
によって文明がもたらされました。ケンタウルス星系に住む私たちは、その文
明を忠実に発展させて、ホモサピエンスから新人類に進化しました。ソル星系
に授けられた文明は残念ながら、あなたがたが辿った歴史でも判るように、幾
度となく文明が築かれては滅びるという過程を繰り返しつつ、漸く1組の男女
がマルス(火星)からテラに移住し、テラの原住民と同化しつつ、現代に繋が
るあなたがたの文明を築いていったのです。それが、5万年前でしょうか。
でも、テラ星人が新人類に進化することはありませんでした。テラにもたら
された知性によって、テラの文明は、戦争と巨大経済活動を中心とする文明様
式を作りあげてしまったのです。そして今、進化の袋小路で足掻きつつ、終局
の極みにまで辿りついてしまいました。この愚かしい文明をさらに進めるなら
ば、今すぐにでもあなたがたのテラ文明は消滅することでしょう。
残念なことに、あなたはソル星系最後の生き残りとなることでしょうね。も
う間に合わないかもしれません。せめてあなたには、ここでの生活をエンジョ
イして貰い、そこから得られた知識を、可能ならばソル星系の人類達に授けて
貰いたいのです。この難局を乗り越える知恵を……。確かに、時間はありませ
ん。長くて数十年でしょう、ソル星系の人類達が生き永らえられるのは……。
でもあなたは、ソル星系が送り込んだテラ星人最後の救世主になれるかもし
れませんね。そうだと良いのですけれど。期待していますよ」
驚くようなことを最初に言われた。
「あたしは、どうすればいいわけ!? そんなことを突然言われても、あたしに
は何も解っていないのよ。教えてください。太陽系の人類を救う方法を」
感情に任せて叫ぶしかなかった。
「落ち着いて。確かに、何の知識もないあなたに、驚くようなことを言
ってしまって、何をどうすれば良いかなんて解りようがありませんね。でも、
それほどに、ソル星系の人類の危機は目前にまで迫っているということよ。
私も少し焦り過ぎてしまったわ。でも、大丈夫。文明には、それを救おうと
する自浄作用も、必ずどこかで生まれているものなの。まぁ、ほとんどの場合
は、その芽は摘み採られてしまって、自ら助かる道を潰してしまうのが歴史と
いうものなのだけれど。……テラ星の人類が、ホモサピエンスのままでいる限
り、救われる道はないのかもしれませんね。テラ星のホモサピエンスたちは、
どう考えているのでしょうね……?」
その女神が、はっきりしないことを言った。
あたしは、そう言われて、最近の世界情勢を反すうしてみた。世界情勢なん
て、あたしの興味の外だったし、そんなものに関心を示したこともなければ、
考えたこともなかった。せいぜいゴシップネタくらいしか思い浮かばなかった。
それでも、中東で起こった、女権国をめぐる内紛で、大量殺戮が行われ、弱小
女権国が男達の指揮する正規軍に大勝利を納めたと、興味本位に報道している
ニュースを見かけたことがあったのを思い出した。あのゴシップネタのような
戦争は、あれからどうなってしまったのだろう。その後、何の報道もなかった
し、あたし自身が宇宙探検に参加して、太陽系を出てしまって、それ以降は、
あたし達を報じるニュースばかりが報道されるようになり、以降、女権国がら
みのニュースは報道されなくなってしまった。それは、人類自身が、もう戦争
行為に飽き飽きしてしまったからなのだろうか。その後の中東情勢がどうなっ
たのかも解らなくなっていた。
「あの中東の内紛が、何かとんでもないことに発展しているのかしら?」
思いつくままに聞いてしまった。
「確かに、とんでもないことになってしまう前兆かもしれませんね。でも、人
類の進化の道筋は、これで、潰されることなく正されたのかもしれません。テ
ラ星人は滅亡の縁に留まって、次の進化を迎えることができるのかもしれませ
んよ」
女神が、微笑みを浮かべながらそう言った。
「それって、どういうことなのですか?」
当てずっぽうな知識が、意外にも的を射ていたようだった。
「女性だけで支配する女権国が、あの土壇場の戦争で勝利できたということは、
テラ星人たちを救う大きな切っ掛けになることかも知れないわ。これから女性
の地位は、一挙に上がっていくことでしょうね。5万年遅れたテラ星人の歴史
が、今ようやく正されて、進化の王道を歩み始めたのかもし知れませんよ」
意味深そうなことを、女神が言った。
「なぜ数光年も隔たった太陽系のことが、そんなに詳しく解るのですか?」
不思議に思って聞いてみた。
「簡単よ。5次元空間の中に、電波の中継器を置いてあるだけなの。ソル星系
から発信されている電波の全てを捕えて、ここに中継しているの」
あっさりと、事もなげに女神が言う。
「進化って、何のことなのですか? あなたがた自身が女神と呼ばれています
が、あたしとどこが違うっていうの? 裸だから、何ら特徴的な違いは見られ
ないわ」
あたしは、下等視されることに腹が立ってきていた。
「ここの社会風俗を見て、どう思われました、お嬢ちゃん?」
女神が、まるで子供を扱うような態度で、あたしに訊ねてきた。
「変なところです。男が奴隷扱いされて、女から必要以上に虐げられていて、
これでは人の尊厳なんて守れていません。発展した文明では、人は平等に尊ば
れなければならないと教えられてきたわ。なのに、ここでは、男は奴隷同然、
玩具にされ、虐げられているわ。なんて酷い社会風俗なの。とても文明社会が
作られているなんて思えないわ」
言いたかったことを口に出せてスッキリした。
「男って、人でもなければ、人類であったとしても、たかがホモサピエンスの
なれの果ての奴隷にしか進化できなかったのよ。美の体形を極めた女性だけが
女神に進化できて、男は奴隷に退化した。美しい体形を極めた女性だけが崇高
な次なる高見に登れる権利を得たのよ。男は、その女性が次の進化を迎えるた
めの触媒としての存在でしかないの。
人は平等に尊重されなければならない存在だけれど、男は人ではなく、尊重
される存在ではなくなって、逆に女性に虐げられ、女性の進化を促すための価
値ある存在になれたのよ。男の存在意義が解らないと、テラ星人も次なる進化
の階段を昇れなくなります。
そういった意味で、中東の女権国家が、あの戦争で勝利に導かれたのは、テ
ラ星人にとっての進化の浄化作用が、きちんと働いたということなのかもしれ
ませんね。
そう、人類の次なる進化って、精神的なところにあるのよ。人の外見は洗練
されていて、これ以上の美はないわ。残された精神の進化を、ホモサピエンス
は迎えなければならないのよ。それが許されるのは、女性だけなの。
男は、女性の奴隷となって、女性の進化を促す糧となれなければいけないの
よ。人類の進化は、そう宿命付けているの。テラでも、女権国家が、あの戦争
に勝利できたことで、早晩、その進化の次なるプロセスを迎えることができる
かもしれないわ。それって、とっても楽しみなことですね」
女神は、とても重要なことを言っているように思えた。
この大自然に恵まれた惑星環境が、5万年もの長きに渡って維持され続けて
いる文明。それを支えるシステムが、女神と奴隷の関係だとすると、この女神
が言っていることは、正しいのかもしれない。
「では、地球人類は救われるのですか? その女権国が戦争に勝利できたこと
で?」
また唐突に質問してしまうしかなかった。
「それは、まだ解らないわ。だって、まだその一歩も踏み出せていないのよ。
でも、大丈夫。遠方にいるあなたにも、テラを救う手伝いができるかもしれな
いわ……」
その言葉にあたしは再び驚いてしまった。だって、太陽系から数光年も離れ
たところにいるあたしに、いったい何ができるっていうの?
この後、とても悲惨なことが起こるのだけれど、そのお話は次の時にするわ。
第2回目の報告は、ここまでだった。
「どう思う? この報告を聞いて。
たぶん、ここで言っていた次なる進化の兆候とは、イラソ首長国連邦内で起
こった内紛のことだと思う。
“女性人間宣言条約”が国連に上程される 10 年前、クリストファーコロンブス
提督によるケンタウルス星系への、初の星間航行が成功裏に終わったのと、中
東の内紛が機を同じくして起こり、そこの舞台となったイラソ首長国連邦での
内紛は異常事態に発展して行った。
中央政府軍とワンダ女権国軍が正面衝突し、一瞬にして何万人もの兵士達が
殺戮される事態にまで、内紛は拡大されてしまった。運良く大勝利を納めた、
女性だけが支配するワンダ女権国は、その後、イラソ首長国連邦内を穏便に統
一し、覇権争いに勝利した。
そして、10 年の沈黙の期間のあと、突然にイラソ首長国連邦の統治者となっ
て現れたエリザベーラ女王が、国連本部に出向いて、“女性人間宣言条約”の
批准を世界に対して求める、歴史的な大演説を行った。
そんな破廉恥な条約が、国連に上程されること自体、失笑ものだったが、驚
いたことに数年の内に、その条約を批准する国々が出始めた。今はまだ、国連
加盟の 200 数カ国中の1割程度にしか満たない数だが、今年に入ってからも、す
でに数十カ国が条約を批准している。総数では2割を超えてしまった。
エリザベーラ女王が演説の中で訴えていた、目標とする 22 世紀までに、地球
環境を維持する名目で、男を地球から排除し、女だけが地球を支配するシステ
ムを作り上げるという、とんでもない計画が、その期限まで、あと3年しかな
い。エリザベーラ女王の唱える、22 世紀を女の世紀として迎えるには遅れが生じるかもし
れないが、その勢いは刻一刻と現実味を帯びて来ている。
実は、この調査業務の発注元は、そのイラソ首長国連邦の中にある、ある機
関からのもので、僕には何か恐ろしい計画が進行しているように思えてならな
い。どう思う、ユミコ? 君なら政府機関に身を置いているから、何か情報が
あるんじゃないかい?」
僕は、知り得る一通りの情報を語って、ユミコに質問した。
「男である黒田君の心配は解らないでもないわ。でも、ここは地球環境を守る
ために、悪害となっている男性の存在を地球上から排除して、女性だけで地球
の運営に当たるという、壮大な構想は着実に進展していくでしょうね。ニホン
だって、条約批准を視野に入れて物事が動き始めているのよ。
確かに、必要なくなった男性は全員、宇宙開拓に向かうことになるのだけれ
ど、それでも地球に残りたいという男性には、女性の奴隷になって残るという
選択肢も与えられているのよ。でも、男性の人権を、まったく無視した条約で
はあるけれど、男性の人権を認めてしまったら、今までの悲惨な歴史を単に繰
り返すだけで、人類は、また愚行を重ねることになるだけよ。
人類の歴史が記録される以前は、女性が世界の支配者だったところが多く存
在したわ。しかし、部族同士の覇権争いの中で、筋力に優れた男性を前面に立
てることが、部族の生き残りには必要だったのよ。それで世界は、男性優位の
社会に右ならえして発展してきたのよ。
でも、この数千年の間に、男性の力は巨大なものとなり、とうとう世界を壊
滅の縁にまで導いてしまったわ。だから今度は女性の出番で、男性にはちょっ
と舞台から退場して貰わなければならないの。それは、次の出番があってはな
らないということ。だから男性が人間でありつづけてはいけないのよ。
こんな、男性を無視したような条約が、現実に世界中で受け入れられるなん
て誰も思ってもいなかったわ。でも何故“女性人間宣言条約”の上程から 10 年
近くの間に、40 カ国以上もの国々が条約を批准しているのかしら。そこの国の
男性達は、本当にそれを良しとして納得して受け入れたのかしら?
確かに、巨大な圧力は、行政の中にいても、ヒシヒシと感じられたわ。次か
ら次と男性を第一線から退かせるための検討委員会やら、ワーキンググループ
が立ち上げられているし、去年、教育省が提出した、“男子児童高校生徒の健
全育成を図るためのハイスクールに矯正施設を設置する法案”
、いわゆる“男
子高校生のお仕置き部屋設置法案”が国会で可決されて、即日予備費が充てら
れ、年度内に施行されたので、全てのハイスクールに、男子生徒を恐怖させる
“校内躾け部屋”が整備されたわ。成人直前の男性のプライドを、確実にへし
折る目的がすぐにも達成されようとしているわ。
もう巷の一般人の意識よりも、現実のほうが、ずっと先行しているのよ。
先に条約を批准した国々の男性だって、納得する以前に、そんな巨大な現実
の波に飲み込まれてしまったに違いないと思うわ」
ユミコが推測も含めて、現実の凄まじさを教えてくれた。
そうだ、誰しも思うことは、条約を受け入れた国々の男性はどんな思いで、
自分達の地位を放棄するような条約を受け入れさせられたのだろうか。それを
考えずにはいられなかった。反対運動が起こらないはずはないのに……。しか
し、そんな反対運動があったというニュースは皆無だった。
「確かに、とても不可思議な勢力が世界に蔓延していることは、察することが
できるわ。数年前、例の、男の躾けについて本を出した、快胎悦子という女教
授が、マスコミにもてはやされて登場したときも、単に面白いだけの存在だと
思っていたのだけれど、彼女のようなとんでもない非人権思想を持った人物が
なぜ情報の中枢である、マスメディアの中核に喰い込めたのか。それが不思議
でならなかったのよ。今から思えば、何らかの巨大組織が裏で暗躍していたの
でしょうね。
表面には絶対に現れることのない、この地下組織の存在は、実は世界中で暗
躍していたのよ。海外の情報は積極的に収集しているけれど、条約に加盟した
国々の特徴は、表面的には政治に男性が関わることを止めてしまった国ばかな
んだけれど、実は巧妙な手段で、男性の権力を徐々に剥奪していって、やがて
は全ての権利を男性から奪ってしまい、無理やり女性の奴隷にされてしまうよ
うな社会が作られて行ったのよ。
逃げ道を失った男性達は、仕方なく宇宙開拓への夢を膨らませるしかなくな
ってしまっていたのよ。政治だけでなく経済活動や社会活動、そして家庭内の
実権までも奪われ続け、男性は地球上に存在する意義すら奪われて、疎まれる
存在に成り下っていったわ。
世界的にもその傾向は強くなっていて、ニホンにしたって、国・自治体の全
男性議員数は2%程度に落ち込んでいるの。会社数に対する男性の社長率も、
2%を割ってしまったわ。
7年前に、エリザベーラ女王陛下が、国連で演説したときにも、男性の社会
参加率は、すでに3割を切ってしまっていたのよ。7年前のあの時点では、破
廉恥な条約上程だと思っていたけれど、あのときすでに、ちゃんと下地はでき
ていたのね」
ユミコが、世界情勢についても納得のいく説明をしてくれた。
「そうよね、男なんて、社会で何の役にも立っていないものね。それに、恋人
となった女性に、こんな風に首輪で繋がれて悦に入っているんだから、男なん
て、どうしようもない生き物ね」
彼女が僕に向かって卑下するように言って、手綱を強く引っ張った。
「うぅぅ……」
僕は、首を絞め付けられて呻いた。
「サブロウ君。君は、セイラー・キャンベルからの第3報は持ってきていない
の?」
ユミコが学生時代に使っていた呼び方で聞いてきた。
「ユミコ君、この後に続いているが聞きたいかい?」
僕も同じように、学生時代に戻った気分で言ってしまった。
「サブロウ君、当然でしょ」
ユミコも調子に乗って、促してきた。
手綱で首を絞めつけられている僕は、卑屈な笑みを浮かべるしかなく、再生のスイッチ
を入れた。
「あーあー、聞こえていますか。セイラー・キャンベルです。あれからこちら
では、大変な事態が起こりました…
現実の世界からコピーして作られた女神たちの世界“夢の国”が、今まさに
消えかかっています。現実世界から3秒ずつ遅れた時間線上に配置された“夢
の国”や“奴隷の国”、それに“子育ての国”までも、同様に消滅の憂き目に
遭っているわ。
女神たちは必死の思いで再生に勤めているのだけれど、どうも、現実世界が
荒廃してしまったようなので、復旧は不可能みたい。
何故そんな不幸な事態に至ったのかは、ゲストのあたしに解るはずもないの
だけれど、ただ、サンサ・バドル星が、完全に砂漠化されてきていることだけ
は確かね。サンサ・バドル星を管理する蛮族たちが、この惑星に残された、あ
たしの仲間達の船員が原因となって、抹殺されてしまったのかもしれないわ。
何か大きなトラブルがあったのでしょうね。でも、あの親切な蛮族達との間
に、どんなトラブルが起こり得るわけ……?
では、これが最後の報告となるわ。あたしも身の振り方を考えなければなら
ないの……。
だって、あの美しい“夢の国”が、色を失くして消えかかっているのよ。モ
ノクロのかすれた、テレビジョン初期時代のような、モノクロの映像のような
風景になってきているのよ。しかも、そのコピーをとって作られた、
“奴隷の
国”とか、
“子育ての国”なんて、もうとっくに消えてしまっているのかもし
れないわ。
可哀想に、そこで暮らしていた奴隷たちや子供たちは、5次元宇宙の中に漂
流してしまっているのでしょうね……。
心配しだしたらキリがなくなるので、手っ取り早く報告することにするわ。
だって、あたしの報告が、きっと太陽系の人類の役に立つだろうって、あの女
神が言っていたから。あたしもそれを期待して、最後の報告を送ることにした
の。だから、どうか無事に、この報告が太陽系に届くことを祈っているわ。
そう、あの話を聞かされてから、あたしは“夢の国”のあちらこちらを散策
して歩いたわ。もちろん、チャプランも一緒よ。
この“夢の国”では、生きていること全てが楽しみであり、快楽なの。あの
女神の言っていた、次なる進化を迎えた人達にも会えたわ。その人たちは、パ
ニスを持った女性たちだった。ただ、パニスは小さなお飾りのような物で、実
際に生殖行為はできないようなの。パニスがあるからといって男ではないし、
そうかといって女性でもない、中性の人間だということよ。遺伝子で言うと、
Y遺伝子を2つのX遺伝でサンドイッチにした形だそうよ。生殖が可能になっ
て初めて“仏(ブッタ)
”になれるのだそうよ。まだ進化の途中段階なのかし
らね?
それから、“子育ての国”や、
“奴隷の国”にも行ったわ。うふっ。どこも
楽し過ぎて、どこから話し始めたら良いのか解らない……。
舌人形哀愁(中編)
眩しい光を感じた。
頭髪を鷲掴みにされ、ケースから引き出されると、目の前に大きな顔をした
見知らぬ中年の白人夫人。しげしげと眺められ、値踏みされているようだった。
「これこれ、高い金額で競り落としたのよ。使い心地はどうなのかしらね」
独り言のように夫人が囁く。
「私はセリーナちゃんよ。よろしくね、舌人形のハヤトサン。ネット・オーク
ションで競り落としたのよ。でも1回で競り落とせたのは、誰もこれが、本物
のエリザベーラ女王陛下ご愛用の玩具だったなんて信じていなかったからよ。
もし本物なら、二桁は違う数字になっていたでしょうね。
ま、舌人形なんて珍しい玩具だったから、思いきった金額を賭けたお陰で、
一発落札できたわ。まさか、こんなに安く、舌人形が手に入るなんて思っても
みなかったわ」
セリーナちゃんと名乗る中年夫人が、ニコニコしながら語りかけてきた。
「耳朶のタグに、女王陛下の紋章が入っているのね。さて、本物かどうかタグ
の情報を読み取って確認してみましょうね」
ベッド横の小机に手を伸ばして、夫人は携帯を手に取り、それを耳朶にぶら
下がるタグに近づけた。仕様を表示させているのだろう。
「認証番号も付いているのね。認証局に繋がるのかしら? 出鱈目な番号だっ
たりすると、すぐエラー表示になるのよ、まがいものは、ね」
夫人が柔らかな膝の上に僕を乗せた。
大きな胸の膨らみが目の上を覆う。香水の強い香りが鼻を突いた。
「凄い! 本当に登録されたものなのね」
驚いた声を、夫人が上げた。
「3万ユーロで買えてしまったなんて……! 本物の舌人形だって 50 万以上す
るはずよ。もし本物のハヤトサンなら、最低でも 100 万ユーロ以上はするはず
よ。凄いラッキーだわ!」
急に夫人の顔の前に引き上げられた。夫人がクシャクシャに顔を歪める。
「早速、試してみるしか、本物の価値は解らないわね」
下半身はすでに裸になっていた。褐色にくすんでゴワゴワとして、たっぷり
と盛り上がった陰毛の森の中に押し込められた。褐色の濁った海水の中に潜っ
たように視界が利かない。それでもパックリと口を開けた黒いクレバスは、目
の前で、今まさに僕を飲み込もうと待ち構えていた。そのクレバスに吸い寄せ
られ、透明な愛液で膨らんだ陰毛の奥の女陰の襞に添って、舌先を這わせた。
香水の強烈な匂いが鼻を刺す。頭髪を強く掴まれ、皮膚が痛みに悲鳴を上げ
ている。
僕に与えられた仕事は、舌先を動かすことだけだった。己の意識に、性的な
昂ぶりすらないまま、ただ機械的に舌先だけを動かす。惨めで屈辱に満ちた舌
人形が僕自身なのだ。女王様に再びお逢いすることは、もう叶わないのかもし
れない。そう思うと、悲しみで、なくなってしまった筈の胸が張り裂けそうな
ほどに痛む。そんな悲しい思いと情けない心根のまま、舌先だけをひたすら機
械的に動かしていた。
悲しくて重い胸の痛みに、やはりなくなってしまっているパニスが、何故か
勃起してくる。悲しいマゾの性、惨めさの中で自分自身も昂ってきていた。な
んと惨めな舌人形に成り下がってしまったのだろうか。
全てを司る脳細胞は、パニスをビンビンに硬くさせる命令を、無意味に下半
身に伝えている。勿論、首から下はなくなっている、にも拘らず、そんなこと
とは関係なく、脳の命令はパニスを勃起させる伝達物質を送り続けていた。伝
達物質が首の根元で止まってしまっているとしても、その事実を受け入れられ
ない脳にとっては、関係のない話でしかなかった。
脂肪の乗りきった中年の女性は、性的な昂りの中で、夥しい愛液を分泌させ
ながら、呻き声も漏らし始めていた。腰が回転を始め、僕を太股の奥深くに抱
え込んだまま、グチョグチョに濡れた女陰の泉に僕を擦り付けていた。
溢れ出る愛液の成分に、なんの違いもなかった。女王様の女陰に舌奉仕させ
られているような錯覚にすら陥っていた。
突然、女陰の海から引き剥がされた。海中から引き上げられた魚のように、
水のない空間で、舌先だけを前に突き出し、滑稽にも舌先を出し入れする動作
だけをしてしまった。眼前には恍惚に顔を歪め、幸せに満ち足りた美しい顔立ちの中年女
性が迫って見えていた。
こうして、女性の快楽に満ちた幸せな顔を見るのは、大好きだった。僕自身
も満足できるし、その美しさを見られることで、僕のパニスも張りきってくる。
笑みを湛えた女性が僕を見つめている。舌の動きを止めたが、気恥ずかしさ
で、口先と舌先を尖らせ、硬直状態で停止させた。
「は、は、は、は。面白いお顔だこと……まるで、タコね」
女性が満面の笑みで呟いた。
「お母さん! 開けるわよ」
突然、少女の声が部屋の外から聞こえた。
僕は、搬送用の白い箱に入ったままの舌人形ケースに突っ込まれた。
勢いよくドアを開ける気配を感じた。
「お母さん、まだベッドの中なの!」
10 代にも満たないと思われる、少女の甲高い声が響いていた。
「アーヤちゃん、なんの御用なの?」
中年の女性の声が慌てたように答えていた。
「もぅ! 聞こえていないんだから。お客様が来ているのよ。本当に、年取っ
て、耳まで遠くなったんじゃないの? お母さんは!」
平気で悪態をつく少女。
「歳を取ると、耳は良く聞こえるようになるのよ!」
中年女性の大きな声が、すぐ横から聞こえていた。
「じゃ、耳糞がたっぷりと詰まってしまったのね」
少女は負けていなかった。
「お客様って誰なの?」
「知らないわ」
「名前くらいは聞いておきなさい!」
不満たっぷりな声を出す中年の女性。
「はいはい。それよりも、急いで行って!」
「もぅ!」
中年女性の呟きが、少し遠ざかって聞こえていた。
「もぅ、お母さんたら。またネット・オークションで変なものを買ったんでし
ょ。なになに? エリザベーラ女王陛下ご愛用の、舌人形“ハヤトサン”を提
供します。耳には陛下の家紋が入ったタグが付けられていますので、本物と確
認できます。陛下ご愛用のブレスレットもオマケに付いています。ふむふむ。
ところで舌人形って何なの? 見てみましょうね」
すぐそばで少女の声がする。
頭髪を掴まれ、箱の外に引き出された。ソバカスだらけの 10 代にも満たない
女の子が目の前にいた。
「わっ! 生首」
驚いたように、くりっとした目を見開いている。僕も驚いて、何度か瞼を瞬
かせてしまった。
「わっ、生きてる。シタニンギョウ、ハヤトサンって、生首の名前なの? お
前は?! なんだぁ?」
一生懸命に勇気を奮い起し、少女が言葉を吐いた。
“隼人です。こんにちは”
僕は口を動かして答えてみたが、やっぱり声は出なかった。口だけがお喋り
する形に動くだけだった。
「ふぅん。声は出せないのね」
安心したような声で、少女はさらに僕の顔の前まで近づけて言った。
甲高い子供の声。久し振りに聞く声に、心地よさを感じる。
「私はアーヤ。生首を見たのは初めてだけど、それが生きてるなんて、聞いた
事もないわ……。そうだ、貴方とお喋りのできる子が一人だけいるわ。マリー
ヤって言って、貴方と逆で、お喋りは出来るけれど耳は聞こえないの。でも、
唇を読んでお喋りは解るのよ。だから、声が出せなくっても大丈夫。
マリーヤは友達も少なくって寂しい子なのよ。貴方が話し相手になってあげ
たら、きっと喜ぶわ。そうだ、これはマリーヤにあげてしまいましょう。お母
さんが持っていたって、どうせ物置にしまい込んで忘れられそうだし、資源は
有効活用しなければならないって、環境の時間に先生が言ってたわ」
少女が一気に話して、一人で納得していた。
僕は、搬送用の白い箱に収まったままの舌人形ケースに戻された。そして
ケースごと抱え上げられ、どこかに運ばれていくようだった。
「お母さ~ん! シタニンギョウ・ハヤトサン、少し貸りるわねー!」
少女の大きな声が真上から聞こえた。
「なーに?」
中年の女性の声が遠く聞こえる。
「マリーヤの家に行ってくるわ」
少女の甲高い声がすぐ真上から、大き過ぎるほどに聞こえてくる。
「すぐに帰って来るんだよ。ジェシカおばさんのところに行くんだからね」
遠くから中年女性の声が聞こえていた。
「わかった! ジェシカおばさん家ね」
少女がハッキリと答えていた。
白い箱の上蓋をされただけの状態で移動する。20 分ほども移動しただろうか。
「こんにちは! マリーヤいる?」
アーヤの高い声が響く。
「失礼しま~す」
アーヤの声。
「アーヤタン?」
抑揚のない返答をする、別の少女の声が聞こえる。
「良い物持ってきてやったわよ、マリーヤ」
「なーに?」
「シタニンギョウ・ハヤトサンって言うの」
アーヤが一言一言、明確に発音している。
「なーに、それって?」
「見る?」
ませた言い方をするアーヤ。
「み・せ・て」
梱包用の蓋が開けられた。髪の毛を鷲掴みにされ、外へ引き出される。10 代
にも満たない、幼い少女が二人、僕を見つめていた。アーヤに頭髪を掴まれて、
もう一人のマリーヤと呼ばれた少女のほうに向けられた。
「この生首、生きているのよ。それにお喋りも出来るの。でも声が出せなくっ
て、何を喋っているのか解らないわ。耳の聞こえないマリーヤだったら、唇が
読めるでしょ。だから、マリーヤとだったらお喋りが出来るかなー、と思った
のよ」
アーヤがゆっくり説明していた。
「どうかなー? 喋らせてみて、アーヤタン」
マリーヤと呼ばれる女の子は口を大きく開き、一言一言ゆっくりと単語を発
している。
「ご挨拶は? シタニンギョウ・ハヤトサン。名前が長くて、いやねー」
アーヤが言った。
“こんにちは、マリーヤ”
僕も、ゆっくりと唇を動かした。
「こ・ん・に・ち・は。わっ! 喋ってる!」
マリーヤがオウム返しで言葉を発し、それから驚いたように、極端に大きな
声を発した。
「マリーヤ、声が大き過ぎ! ホントに声の出し加減を知らないんだから」
呆れ返ったようにアーヤが言う。
「ごめん、アーヤタン。驚いちゃったから、大きな声を出してみたのよ。大き
過ぎた?」
マリーヤが申し訳なさそうに、でも陽気に言った。
驚いた表情が、少女らしくて可愛かった。
「お前、本当に喋れるのね。なんて言ったの、マリーヤ?」
アーヤが訊ねる。
「こんにちは、マリーヤって、ちゃんと唇が動いたわよ、アーヤタン」
楽し気に、それでも、一言一言、音を送り出すように話すマリーヤ。
「驚きね。もっと喋りなさい、シタハヤ」
面倒くさがり屋のアーヤが、僕の名前を短縮してしまったようだ。
“僕の喋るのが解るのかい。マリーヤ?”
でも僕は嬉しくなって、マリーヤに訊ねた。
「あぁ、本当に喋ってる。お前の名前は長いから“シタハヤ”で良いよね、生
首さん?」
マリーヤが言う。
“ハヤト、と呼んでください、マリーヤさん。僕の名前です”
僕は嬉しくなって答えた。
「ハヤトって呼べばいいのね。じゃあ、私のことはマリーヤって呼んで、ハ・
ヤ・ト」
マリーヤの顔が嬉しそうに輝いた。
「へぇー。この生首、ハヤトって名前なの?」
アーヤが聞いて、自分のほうに僕を向かせた。
「マリーヤ。シタニンギョウって、なんのことなの? ちょっと調べてよ」
「えぇ。ちょっと待ってて、携帯、どこに置いたかな?」
マリーヤの声が後ろから聞こえていた。
「マリーヤの喋り方って、相変わらずトンチンカンね。耳が聞こえないんじゃ、
しょうがないけど……」
アーヤが独り言のように言っていた。
「シタニンギョウは、21 世紀後半に旧イラソ首長国連邦、ワンダ女建国におい
て製造されていた大人の玩具で、主に、女陰に当てがい性的快楽を得るために
使用されていた。製造方法は、舌使いの上手い奴隷の首を切断して、首だけを
永久に使用できるように、皮膚から取り込んだ空気や水の分子を、水素と酸素
分子に分解し、更にそれを結合させる時に生じるエネルギーによって、永遠に
動き続けられるように改造された大人の玩具である。さらに詳しく知りたい場
合は、次へすすむ」
抑揚のない、携帯電話の読み上げ音声で説明が聞こえる。
「わー、知らない言葉がいっぱいで解らないから、もう良いわ」
アーヤが僕に唾を掛けながら言った。
「でも、女陰に当てて使うって言ってたわね、女陰ってなあに? アーヤタン
なら知ってるわね?」
「わたしに聞かないで、マリーヤ。後で調べておいてよ。それより、このハヤ
ト人形とお話しましょう」
アーヤは僕に興味を持ったようだ。
「あたしの言うことも解るの、ハヤト?」
アーヤが目の前で言った。
“わかりますよ、アーヤ”
僕も楽しくなってきて、唇を動かした。
「マリーヤ、ハヤトの唇が動いたわ。なんて言ったのか、わかる?」
マリーヤの視線が僕を捕えて離さない。
アーヤの後ろに回っていたマリーヤも僕を見つめている。
「わかりますよ、アーヤタン、って言ったよ」
マリーヤが通訳した。
「わたしの言葉も聞こえてるんだ。不思議ね。また、あたしが喋り掛けるから、
ハヤトがなんて言うか見ていて、マリーヤ」
アーヤが興奮したように言った。
「ハヤトの唇を読むから大丈夫よ。アーヤタン」
アーヤの後ろに立っているマリーヤが答えた。
「じゃ、ね。ハヤトはどこから来たの? 一つ目の質問よ、さあ答えなさい!」
アーヤが、おしゃまに言う。
“イラソ首長国連邦の、ワンダ女権国というところから来ました。ここは、ど
こですか?”
僕は、答えと同時に質問もした。
「いらそしゅちょうこくれんぽうの、わんだじょけんこくからきました、って
言ってるわ。最後に、ここは、どこですか、って聞いているわ」
マリーヤがオウム返しするように喋っている。
「いらそしゅちょうこくれんぽう、わんだじょけんこく、って、さっき百科事
典が言ってたわね。どこにあるのかしら? マリーヤなら知っているでしょ?」
アーヤが聞いた。
「ええっとね、地中海の向こうのほうよ。アラビアのほうだわ」
マリーヤが答えた。
「アラビア? 魔法の絨毯の物語の? じゃあ、これも魔法の道具なんだ!
凄いよ、マリーヤ」
」
アーヤの声が明るく弾んだ。
「ここは、どこですか? って聞いてきたわよ、アーヤタン」
マリーヤが僕の質問を忘れずに言ってくれた。
「こいつ、馬鹿じゃない。ここは、マリーヤの家に決まっているじゃないの」
僕は堪らずに聞いた。
“この国の名前を教えてください”
「アーヤタン、この国の名前が知りたいんですって」
マリーヤがすぐに気づいて、僕の唇を読んでくれた。
「ええ? こいつ、自分のいるところも知らないの。携帯を見れば自分がどこ
にいるかなんて、すぐに解るのにね。こいつ、携帯を持っていないから、ここ
がどこか解らないんだ。マリーヤが教えてやって、あたしは忙しいんだから、
これから、痩せすぎのジェシカのところに行かなければならないの。もう帰る
ね、マリーヤ」
アーヤが僕の髪を掴んだまま、マリーヤの胸の前に突き出していた。可愛く、
あどけない少女の顔が目の上にあった。
「あげるわ」
アーヤが唐突に言った。
「良いの? 魔法の道具かもしれないのよ?」
マリーヤが遠慮がちに言う。
「良いのよ。マリーヤの話し相手はロボットばかりでしょ。ハヤトなら声は出
せないけれど、マリーヤと反対に耳が聞こえて、声は出せないけれど、マリー
ヤの友達になれるかもしれないわ」
そう言いながらアーヤは、僕をマリーヤの胸に押し付けた。
「でも、これって、アーヤタンのお母さんのでしょう? 勝手にわたしにくれ
ても良いの?」
僕は、マリーヤが一生懸命に話す声の振動を、少女の薄く堅い肋骨を通して
も聞いていた。
「良いのよ。それに、お母さんが珍しく、それを1回使っていたし、もう2度
目を使うことなんてないわ。だから大丈夫よ。このまま捨てられちゃうよりは、
マリーヤの話し相手に良いかな、って思って持って来てやったのよ」
アーヤが言った。
「ありがとう、アーヤタン」
抑揚のない喋り方で、マリーヤがお礼を言っていた。
「良いってば……。じゃ、あたし行くね。痩せすぎのジェシカのところに行く
って、お母さんが言っていたから。それから、シタニンギョウの使い方を調べ
ておいて。お母さんが通販で買った物を、1回でも使うなんて珍しいことなの
よ。どんなおもちゃなのか興味あるわ」
アーヤが照れ隠しのように大きな声で言った。
「うん」
マリーヤが、僕を硬い胸の内に抱きしめてくれた。
「ばーい!」
アーヤの元気な声が後ろから聞こえて、足音が遠ざかって行った。
「あーあ、行っちゃった。アーヤタンって、ほんとお節介なんだから。でも、
良いものを置いていってくれたわ。ね、ハヤト」
胸に抱きしめられたまま、マリーヤの声を聞いた。
「でも、ちょっと重すぎるわね、子供には」
耳の横を両手で押さえられたまま、勉強机のモニターの横に、並べて置かれ
た。
椅子に座ったマリーヤが、真正面から僕をまじまじと見つめてきた。
「お話しましょ、ハヤト」
マリーヤが言った。
“こんにちは、 マリーヤ”
僕は唇を動かして言ってみた。勿論、声は出ない。
「こんにちは、ハヤト。わたしの言っていることがちゃんと分かるのね」
ニコニコしながら、マリーヤが言葉を返してくれた。
“分かりますよ、声は聞こえますから”
「へえー、喋れるのに声は出せないんだ。ハヤトは誰のものだったの?」
“エリザベーラ女王様の奴隷でした”
「奴隷だったの? 奴隷ってなんだろう?」
そう言って、マリーヤがモニターを立ち上げた。
「ね、奴隷ってなに?」
モニターに向かってマリーヤが喋った。
「いち、人間としての権利・自由を認められず、他人の所有物として取り扱わ
れる人。所有者の全的支配に服し、労働を強制され、譲渡・売買の対象とされ
た。古代ギリシャ・ローマのもの、近代の北アメリカの黒人奴隷、現代のイラ
ソ首長国連邦内ワンダ女権国での男奴隷制度がある。2101 年に全世界が批准す
る予定の、イラソ連邦エリザベーラ女王陛下上程の条約“女性人間宣言条約”
批准後は、地球上全てに男奴隷制度が施行される予定。
に、下僕。しもべ。
さん、あるものに心を奪われて自主性を失い、行動を束縛されている人」
モニターのスピーカーから説明する声が聞こえてきた。
「男奴隷? ハヤトは男なんだ!」
マリーヤが楽しそうに言った。
“はい”
「男なのにチンチンはないんだ。アハハ……」
馬鹿にしたようにマリーヤが笑った。
“昔は、あったよ”
少女に馬鹿にされて、ついムキになって答えてしまった。
「どうして首だけにされちゃったの? 何か悪いことをしたんでしょ? わた
しも悪いことをすると、お母さんに、悪いことしたその手を切ってしまいまし
ょうか、って、よく言われるのよ。ハヤトは悪いことして、本当に切られちゃ
ったのね。可哀想に」
マリーヤが勝手に想像して喋っている。
そう、確かに僕は悪いことをして舌人形にされてしまったのだ。そのことを
思い出して、急に悲しくなった。
「エリザベーラ女王陛下って、怖いんだね。ハヤトをこんなふうにしてしまう
なんて。でも、大丈夫よ。わたしが守ってあげるから。いつもお婆ちゃんが言
っているのよ、マリーヤは耳が聞こえなくて可哀想だから、わたしが守ってあ
げるからね、って。だから、わたしはハヤトを守ってあげるわ」
マリーヤが一生懸命、声を出して言った。
“ありがとう、マリーヤ”
僕は、この健気な小娘に感動してお礼を言った。
「良いのよ、お互いさまなんだから、って、お婆ちゃんがいつも言ってくれる
のよ。わたし、お婆ちゃんが大好きなの。いつも玩具を買ってくれるし、楽し
いところに連れて行ってくれるし、いろんなお話もしてくれるのよ。それに、
わたしの言うことなら、なんでも叶えてくれるし。今度、ハヤトをお婆ちゃん
に会わせてあげるね」
饒舌に単語を繋げ、一生懸命、声を出して喋ってくれている。なんと健気な
女の子なのだろう。自分の逆境を受け入れて、それを助けてくれる人の恩を感
じて、自分もそうしようと努力している。そんなところに感動してしまう。
“マリーヤには、お婆ちゃんがいるんだ。どこに住んでいるの?”
住所を言ってくれることを期待して聞いた。
「隣のアパートに住んでいるわ。すぐ近くなのよ」
マリーヤが素っ気なく答えた。
「そうだ、スクールで宿題が出ていたの。それをやってしまわなければならな
いわ。ちょっとケースに戻っていて、ハヤト。終わったらまたお話しましょう
ね」
髪を掴まれ、舌人形ケースに戻された。
「ちゃんと蓋をしておきましょうね」
マリーヤの声が上から聞こえてきた。
暗闇が訪れ、僕の意識が遠のいた。
ぼんやりと、意識が戻っていることに気が付いた。人形ケースの蓋が開けら
れていた。蓋が開けられると、たいがい急に外に引き出されて、眩しい光に晒
され、突然覚醒されるので不快になるのだが、今回は蓋が開けられても、その
まま放っておかれているので、ゆっくりと覚醒できたようだ。お陰で快適に意
識が戻った。
「マリーヤ、舌人形の意味は調べておいたの?」
嗚呼、アーヤの声だ。
「調べたけど、意味が良く分からなかった」
マリーヤの声が続いた。
「どうやって使うの? 女陰って、なんだったの?」
アーヤが、せっついていた。
「女性の性器のことですって」
マリーヤが答えた。
「性器って、オシッコの出るところ?」
アーヤが聞く。
「オシッコだけじゃなくって、赤ちゃんも生まれて出てくるところなのよ。女
の子の性器に当てると、ハヤトの舌が性器を舐めてくれるらしいの」
マリーヤが一生懸命に説明する。
「そうすると、どうなるの?」
アーヤが聞く。
「気持ちが良くなるらしいわ。わたしなら、絶対に、擽ったくって、気持ちが
悪くなると思うんだけど」
マリーヤが答える。
「ふーん」
アーヤが興味を持ったように返事すると、頭髪を掴まれて、眩しい光の中に
引き出された。今回は意識が覚醒していたので、不快感はなかった。いつもこ
うだと良いのだが、しかし、この改良点を訴えるところなどなかった。僕は使
われる側なのだ……。
アーヤの目の前に吊るされ、瞬きする僕をまじまじと見つめている。
「マリーヤ、試してみて」
「わたしが? アーヤタン」
アーヤが、僕の後ろ側に立っているマリーヤのほうに突き出したようだ。後
頭部がマリーヤの硬い胸に押し当てられているように感じた。少女に胸の膨ら
みなど、まだなかった。頬から耳に掛けて、掌で挟まれて、マリーヤの胸に抱
かれた。
「そうよ、マリーヤにあげたんだから、ハヤトはマリーヤのものなのよ。だか
らマリーヤが試すのが、あったりまえでしょ!」
口をとがらせて、アーヤが言う。
「そんなの、気持ち悪いよー」
不安げなマリーヤの声が聞こえる。
「だって、気持ち良くなるって、マリーヤが言ったでしょ。でも、お母さんは、
変な声を出して叫んでいたけどね。あれは気持ちが良かったから叫んでいたの
かしら? 大丈夫よ、マリーヤ。あそこに当てがってみて、気持ち良かったら、
次はあたしも試してみるから」
アーヤが、有無を言わせないように、マリーヤに無理強いしていた。
「うん……」
顔の前まで腕を回されて、マリーヤの胸に固定されると、頭髪を掴まれ、マ
リーヤの身体のほうに回された。ちょっとだけ膨らんだ腹に、顔が押し当てら
れ、埋もれた。すべすべの青い洋服の生地の上からだった。目が生地の中に押
し着けられ、視界が利かなかった。次に両耳が圧迫され、マリーヤの可愛い顔
の高さに持ち上げられ、真正面から見つめられた。一重瞼で、褐色の瞳が少女
らしく、とても澄んでいた。顔色は濃い茶系で、そばかすが幾つも見られた。
「ハヤトって、昔は身体があったのね。舌使いが上手だったから、舌人形にさ
れてしまったのね。ちょっと気色悪いけど試してみようかしら……」
マリーヤが、たどたどしく言った。
えっ! こんな子供の女陰を舐めてはいけない。舌人形だからと言って、そ
こまで恥知らずな行為はできないぞ。僕はマジにそう思った。
「パンツを降ろすのよ、マリーヤ」
アーヤの声が後ろから聞こえた。
“マリーヤ、駄目だ! そんなことをしてはいけない!”
僕はマリーヤの顔を見つめて言った。
「どうして? 駄目なの?
ハヤト」
マリーヤが首を可愛く傾けて聞いてきた。
“それは、マリーヤがまだ子供だからだよ”
僕は口を動かした。
「マリーヤはもう大人よ。こんな小っちゃなハヤトのほうが、私より子供に決
まってるじゃない。マリーヤの言うとおりにしなかったら、ひどい事をしてや
るわよ、ハヤト。マリーヤのオシッコの出るところを、ちゃんと舐めるのよ!」
マリーヤは、子供扱いされたことで怒ったようだ。
“マリーヤ、本当に、それはいけないことだから、やめなさい!”
僕は、必死で訴えるしかなかった。
しかし、僕の訴えなど無視されて、机の上に置かれた。目の前で、可愛い少
女マリーヤがスカートの下から両手を入れて、苺のパンツを降ろしている。な
んという可愛さなのだろうか。茶色の瞳が、澄んだ純白の白目の中で、汚れの
なさを強調していた。再び頭髪を掴まれ、マリーヤの股の位置にまで下げられ
た。
少女の女陰を舐めるなんて、僕には出来そうもなかったので目を閉じた。ぷ
~んと、尿のアンモニア臭が鼻を突いた。鼻先が、少女の滑らかなお腹に触れ
た。ただ、尿の臭いが強烈だった。
舌人形と化した僕の本能は、舌を出してすべすべの肌を舐め上げた。
「ああぁ~、くすぐったいよ~!」
マリーヤが、おどけたように大声を発し、急に持ち上げられた。マリーヤの
驚いた顔が目の前に迫っていた。笑顔とも違う、複雑な表情をしてマリーヤが
見つめていた。
「どうだったの? マリーヤ」
後ろから、アーヤの声が聞こえた。
「気持ち悪いわ、アーヤタン。わたし、だめ」
マリーヤが答えた。
僕は大きく口を開けたまま、舌先の置き所に困っていた。その舌先を、突然
挟まれた。舌先が強く圧迫され、大きなクリップが強い力で圧迫していた。舌
全体に、堪え難い激痛が襲っていた。頭髪を掴んでいたマリーヤの手が離れた。
クリップで挟まれた舌先を中心点にして、顔が天井を向く。明るく光る天井
が眩しかった。舌先を苦しめるクリップから紐が天井まで延びていた。
誰かの指先が、僕の右頬を強く突いた。眩しい天井に向かって、僕は弧を描
いて昇って行った。舌先を中心に回転する力も加わり、天井がくるくると回っ
ていた。世界が回りながら動いていた。
舌先を圧迫するクリップの痛みが辛い。痛みは限界を越えていた。これ以上、
強烈な痛みに耐えられそうもなかった。それに、クリップの挟む力は、頭の重
さを、いつまでも維持できるほどの強さではなかった。やがてズルズルと、舌
先のほうに挟んでいる位置が移動して行く。先端に近づくほど挟む力が集中し
て、痛さを増してくる。クリップの舌の平を押さえる面積が少なくなるにつれ、
痛みは更に限界を越えて増していった。
最後の激痛の瞬間は堪えられないほどの痛みに襲われた。でもそれで、やっ
とクリップの拷問からは解放されたが、後頭部から床に落下していた。この自
由落下の感覚には、いつまでも慣れる事が出来ない。それに、下の床に何が置
かれているのか、想像もできないので、不安は大きくなる。
柔らかな塊に打ち当たった。そのまま床に転がった。マリーヤの部屋が回転
していた。床に鼻を潰された後、壁側を向くと、茶色の熊の大きなぬいぐるみ
が見えていた。あの熊の上に落下したのだろう。運が良かった。
明るい天井を見て、部屋全体を見回しながら回転を続け、最後には壁の隅と、
床との間に顔面を押し付けて止まった。ベージュ色の床面以外、何も見えなく
なってしまった。子供達の気配もどこかに消えてしまっていた。
何の気配もない部屋に放置されたまま、痛みで疲れ果ててしまい、瞼を閉じ
た。痛みというものは、とても疲労を伴うものなのだ。女王様に激しく鞭打た
れた時など、解放された後は立っていることも不可能なほどに疲れ果ててしま
う。
舌先を挟まれた激痛によって、全身は完全に疲弊しきっていた。全身と言っ
ても、頭だけの存在でしかなかったが……。それに、瞼を閉じたからと言って、
眠れる保障もなかった。それでも随分と長い時間、ケースに戻されないまま、
放置され続けていた。本当に衰弱してしまったのだろう、嬉しい事に睡魔が襲
ってきた。
「マリーヤ!」
突然、女性の声が遠くから聞こえてきた。
「いないの? 相変わらず色んな物が転がっているわね。明日の福祉バザーに
提供できる物があるかしら?」
マリーヤの母親の声なのだろう。
「もう大きいんだから、熊さんのぬいぐるみはいらないでしょうね。なんだい?
この空き箱は。おや、これは……?」
母親の声が、すぐ真上から聞こえてきた。
頭髪を掴まれ、30 代前半と思われる、まだ若い母親の顔の正面に対峙させら
れた。初対面に緊張してしまった。エリザベーラ女王様より歳上のようだが、
女性が老けて見えることは、今時なかった。でも、初対面の恐怖で、僕は顔の
筋肉を硬直させてしまった。
「なんなの、これは? グロテスクね。あの箱に入っていたのね。子供がこん
な気色の悪い物を持っていてはいけないわ。それでなくたってマリーヤは耳が
聞こえないからって、随分と虐めにあっているようだし……。これもバザーに
提供して処分してもらいましょうね。この箱の中にしまうのね」
頭髪を掴まれ、白い箱に近づく。久し振りに人形ケースの中に戻れてホッと
した。この狭くて暗い空間が懐かしくも思えた。
「ちゃんとジッパーも閉めておかなければね」
母親の声が聞こえたのを最後に、光が遮断され、僕は眠りに落ちた。
光を感じる。誰かがケースを開けたのだろう。頭髪を掴まれ、眩しい光に満
ちた空間に引き出された。しかし、眩しさで何も見えない。いつもこの繰り返
しだが、この感覚にはいつまで経っても慣れることがない。
「何だ、こりゃー!?」
野太い男の声だった。
久し振りに男の声を聞いた。目を開くと、髭面で 40 代中頃の、無精髭面の厳
つい顔と対峙させられていた。
「瞼を開いたぞ。生きている、のか……? しかし、生首の生体家具の使い道
が解らないな。マニュアルを読むしかないか……」
男は、机の上に置かれた携帯を鷲掴みにして、それを耳のタグに当てている
ようだった。21 世紀初頭から始まったユビキタス技術が、全世界を覆うまでに
100 年を要した。舌人形と化した僕にも、商品の一つとして、使用方法からメン
テナンス方法、経歴までも仕様データとして、チップに埋め込まれている。更
に詳しい情報も、ネットを介して、商品情報局にアクセスして調べることが出
来た。耳に取り付けられたタグには、そのチップが埋め込まれている。
「おいおい、大変な堀出し物を手に入れてしまったぞ!」
男が驚いたように、大きな声を出した。
「何なの?」
中年の女の声が聞こえた。
「舌人形って知っているか?」
「聞いたことがあるわ。大人の玩具よね。超金持ちとか、特権階級の女性しか
持てない最高級の玩具よ。生身の奴隷を生きたままクンニさせるだけの目的で、
生体改造して作られたものよ。女性にとっては夢のような性具だわ」
女の声が後ろから聞こえている。
「舌人形にされた男にとっちゃ、地獄の刑罰のようなものだな」
髭面の男は、しげしげと僕を眺め回し、唾を飛ばしながら喋っていた。
「でも、奴隷とは合意の上で行われるって聞いたわ。そうでないと、精神が破
壊されて、狂った舌人形に仕上がって、使い物にならないそうよ」
女の声が、後ろ側で説明していた。
「へぇー! お前も好きで舌人形になったのか? 男としては最低な奴だな。
女の股を舐めるだけの一生を選択する奴なんざ、生きていることが恥ずかしく
ならないのか? お前のように、そんな人生を良しとする男がいるなんて、男
の風上にも置けない。ぶっ殺してやろうか!」
僕を睨み付けて恫喝した。
「だめよ、商品価値は高いのよ。何を大変な掘り出し物だと言っているの?
たかがバザーの残り物を丸ごと買い漁ってきただけで。そのうえ、それを放り
出したまま何年も放っておいて、良く言うわ!」
女が男を責めている。
「待て待て、凄いぞ。この舌人形はな、エリザベーラ女王陛下御愛用の物だと
書いてある。シタニンギョウ・ハヤトサンという名前らしい。エリザベーラ女
王陛下ってなぁ、どこの誰だっけ? どこかで聞いたことがあるぞ?」
不思議そうな顔で、後ろ側にいる女に聞いている。
「あんた知らないのかい……? SMフェチマニアの間では、現役の国家主席
で、サディスト女王様として有名なのよ。中東の、女だけの女権国家の指導者
で、最近イラソ首長国連邦から、ただのイラソ連邦に名前を変更したのよ。そ
この統治者がエリザベーラ女王陛下よ。今、世界を変えようとしている“女性
人間宣言条約”の批准演説をした超有名人よ。知らないはずがないわ」
女が当たり前のことを説明するように話した。
そうだったのか。女王様はついに連邦全体を統一することが出来たのだ。女
権世界を構築する計画は一歩一歩、着実に前進している。マリアマグダラの“
予言の書”に書かれているとおりに、地球環境を守るための大事業は進行中な
のだ。その第一歩はすでに踏み出され、完成間近に違いない。
なくなってしまっているはずの胸が、熱く昂るのを感じていた。
「へぇー!? 福祉バザーの残り物に、こんなお宝が混じっているとはな。いつ
もながら、子供の学校のバザーの残り物とは言え、楽しみなことだ。数年も前
の残りものだが、これは最高級品じゃないか?!」
男が満足気に、にやけて言った。
「何年も倉庫に放ったらかしにしておいて良く言うわね。でも、どうやってニ
ューヨークにまで流れてきたんだろうね? ちょっと使い心地を試させてよ!」
女が強く言った。
後ろ側から両耳を女の掌に押さえられ、ふくよかな胸に抱かれた。
「よせよせ、大事な商品だぞ」
慌てて男が言う。
「試してみなければ、本物かどうか商品の価値も解らないでしょう」
女は当然のように主張する。
僕は女の胸の柔らかさを後頭部に心地よく感じながらその部屋を出て、別の
部屋に入って行った。そこは女のベッドルームのようだった。
「舌人形ハヤトサン、っていうのね。そんな性具が世の中にあるって、噂では
聞いたことがあったわ。まさか本当にそれを試すチャンスがあるなんて、思っ
てみたこともなかったわ。さあ、私のあそこをお舐め」
甘く優しい声で言った。
僕はベッドの上に転がされた。柔らかな寝具の上だった。顔面にシーツの感
触を受けると回転し、ベッドの縁に腰掛けた白人の大柄な女性のほうを向いて
止まった。女は、上下が白黒の太縞のストライプの柄の服装だった。スカート
の下に両手を差し入れると、黒いパンティーを脱ぎ、そのパンティーを僕のほ
うに放った。黒いシースルーのパンティーは揚羽蝶のように、ゆっくりと僕の
上に舞い降りて、頭の上に乗った。女の甘い香りに包まれると、それだけで僕
は興奮してきてしまった。
女の手が伸び、頭髪を掴まれた。そのまま女の黒いスカートの中に導かれる。
スカートの中は黒いアバヤの中に似ている。その雰囲気が、なんだかとても懐
かしく感じられ、安堵感に浸れた。それに金髪の硬い陰毛に顔面を押し付けら
れ、本来の使命を果たせることに喜びも感じた。
舌を出すと、すでに女陰は愛液で濡れていて、貝の具のような女陰の中身が
顔を出しそうだった。女陰全体は熱く蒸れていた。唇を女陰全体に当てがって、
女陰の中身を吸い出す。貝の内臓よりも柔らかなビラビラが僕の口の中で泳ぎ
始めた。次にそれを強く吸い出した。
「ああぁ~!」
快楽に翻弄される女の叫び声が、響いて聞こえていた。
舌先を長く伸ばし、いつものように舐め始めた。リズミカルに、早くならな
いよう一定のスピードで舐め続けることが、最高の快楽へ導くテクニックなの
だ。予想どおり、女は腰をわずかに振るわせ始めた。細かな振動を顔全体に感
じた。女は大きな声で雄叫びを上げ始める。腰が大きく回っていた。最後に、
身体全身を硬直させ痙攣させて終わった。
突然、アバヤ、いや、スカートの中から引き出され、女のふくよかな胸の谷
間にしっかりと抱きしめられた。女が僕の目を見つめている。潤んだ優しげな
眼差しだった。
「お前は! 本物だったのね。もう、誰にも渡さないわよ」
そう言うと、更に強く抱きしめてきた。
久し振りに心に安堵感を覚えた。抱きしめられたまま、幸せな何分間が過ぎ
ていった。次に、柔らかなベッドの上に転がされた。右耳がマットで塞がれ、
横向きになった。脱ぎ去られたパンティーを女性が履き、再び頭髪を掴まれる
と、そのまま部屋を出た。
狭い廊下には色々な品物が足の踏み場もなく積み上げられ、埃を被っていた。
男の部屋のドアを無言で押し開け、部屋に入った。
男の部屋も、廊下とさほど変わるところもなく、品物で溢れ、狭く汚かった。
部屋の隅に置かれた机の上のディスプレイを見ていた男が、顔を女に向けた。
「これは使い物にならないわ。だから、私が貰っておく」
女性がわざと言った。
ディスプレイの横に置かれた、白い梱包用の箱の中の舌人形ケースに迫り、
その暗い中に入れられた。
「そうか! じゃあ、そのまま置いておけ。後で処分しておくから」
男が強い口調で言った。
「いえ、私が預かるわ!」
女性が、慌てて声を大きくして言った。
「駄目だ、そこに置いておけ!」
ケースの中からでも二人の状況が良く解った。ドアが強く閉められる音が伝
わってきた。女が出て行ったのだろう。
「ジョージ、すぐ来い」
男が携帯で話しているようだ。
「クソ! でかい善がり声なんか上げやがって、何が使い物にならない、だ。
俺から騙し取ろうって言う魂胆は見え見えだな」
男が一人呟いた。
数十分も過ぎた頃、ドアが開かれた。誰かが入ってくる気配がした。
「兄貴、何ですか?」
若い男の声だった。さっき呼びだされた、ジョージという男なのだろう。
突然、箱ごと持ち上げられた。
「これをお前のところに隠しておいてくれ。近いうちに取りに行く」
兄貴と呼ばれた男の声がした。
「解りました、兄貴。あぁ、中のケースのジッパーは、閉めておくんですね」
安らぎの闇が訪れた。意識は薄くなり、なくなって行く。
頭髪を掴まれ、明るい部屋の中に突然、引っ張り出された。眩しさで目が開
かない。
「何年前なの、これを預かったのは」
初めて聞く女性の声だった。
「もう数年も前のことになります。兄貴から預かって、姉御にはバレないよう
に、誰にも喋っていません。あれから姉御の執拗な舌人形捜しが始まって、兄
貴を責め殺してしまったって、噂で聞きました。その後、姉御も行方知れずに
なってしまったんです」
あの時、僕を預かった、若い男の声。ジョージだ。
やっと瞼を開けた。目の下には、床に土下座した格好の男が、こちらに顔だ
けを上げて、上目づかいで喋っていた。
「その噂を聞いて俺は恐ろしくなって、この舌人形のことは誰にも喋れないと
思ったんです」
もう、そう若いとは言えなくなった男が喋っていた。
あの時は若そうな男の声だったが、見ると、中年にも見えないことはない年
齢に達していた。丸裸で、女の足元に土下座して、上目づかいでこちらを見上
げている姿は、なんとも惨めさが伝わって来る。この女の奴隷なのか?
部屋はわりと小綺麗で、女の好みそうな可愛い人形や、立体で動くフォトな
どが壁に貼り付けられ、天井付近まで飾られている。
さっきまでニューヨークにいるものと思っていたが、ここはワンダ女建国と
はだいぶ違う雰囲気だし、世の中はどう変わってしまったのだろうか?
「お前の兄貴も、その連れ合いの女も、時代が悪かったわね。ちょうど“女性
人間宣言条約”をアメリカが批准する直前だったから、世の中全体が混乱して
いたわ。男の最後のエゴを通そうと、お前の兄貴は頑張った訳なのね。それで、
姉御に拷問されて殺されてしまった。男が我を通すなんて、すでに時代遅れだ
ということに気が付いていなかったのね。お前の兄貴の、時代を読めなかった
愚かさだわね。それで、お前も兄貴の真似をして、私に、その事を秘密にして
いた訳ね、そうなのね」
脅すような、張りのある女の声が男に浴びせ掛けられていた。
「いぇ、いぇ、キャサリン様。そのような事はございません。物覚えの悪い俺
が忘れてしまっていただけなのです。どうぞ、お許しくださいませ」
男がクリーム色の床に、頭を擦り付けて謝っている。
「本当に頭が悪そうだから、信じてやるか。さぁ、足を舐める」
土下座して床に這いつくばる男の顔先に、女性は足先を突き出した。
男はにじり寄り、長く美しい足先を恭しく両手で差し上げ、口を大きく開い
た。その口の中に女の足の指を咥えた。なんとも、見ていて惨めな男の姿だっ
た。
「男は、虫けら以下の存在に落とされて、どうしても宇宙に出て行けない臆病
な男は、人間である女性の奴隷となることを誓わされて生かさせて貰っている
のだから、地球上で生き延びて行くためには、一生懸命に女性に尽くすしかな
いのよ。そんな惨めな思いまでして、地球に残っていたいのかね」
キャサリンという女性は、残った片方の足を男の頭の上に乗せた。
「ハハハ、虫ケラ以下って、どういうことか知っているのかい? 男は、地球
上にはいらないってことなんだよ。女性に尽くす以外、お前の存在価値はない
ってことなんだから、私の意にそぐわないことは、するんじゃないよ」
「うわぅ……」
女性の足指を口いっぱいに頬張りながら、男は答えていた。
キャサリンは、男の頭の上に乗せた脚を高く上げ、再び男の頭の上に落とす。
「足舐めしている時に、喋らない」
茶化すようにキャサリンが言う。
「さて、お前の味も試してみようかしら」
キャサリンの手が目の前に伸びてきて、僕の頭髪を掴んだ。そのまま持ち上
げられ、顔の真近に持って行かれた。嗚呼、キャサリンは、女王様と同じ、ブ
ルーの瞳だった。そのままキャサリンの顔に触れそうなほど近づき、唇と唇が
触れた。鼻同士がぶつからないように、キャサリンは小首を傾げた。少し微笑
んだその顔が、とっても可愛らしかった。
「その舌先で私を楽しませるのよ。つまらない代物だったら、捨ててしまうか
らね……」
微笑みが愛らしく、素敵だった。
男の頭から脚を退かし、大きく股を開くキャサリン。
僕は、キャサリンの魅力的な膨らみを見せる乳房のラインから、金髪の陰毛
を湛える股間へと滑り降りて行った。金髪を透かして見える、縦長のクレバス
に顔を埋めた。
舌先で、クレバスの下から上に舐め上げた。興奮状態で、敏感になっていた
のだろう、キャサリンが甘い溜息を漏らす。後はいつものセオリーだった。夥
しい愛液が溢れ出し、顔中を愛液が包む。突然、潮を吹くクレバス。顔が更に
ずぶ濡れになってしまった。それでも舌奉仕は続けられる。
キャサリンは、激しく快楽の波に乗っていた。絶頂の瞬間、キャサリンの手
が頭髪を強く掴み、勢い良く僕を股間から引き剥がした。勢い余って僕は、部
屋の中に飛び出していた。空を舞い、床に落下した僕は、床の上をグルグル回
り転げる。床と天井が交互に入れ替わり、最後に天井を向いて停止した。
「嗚呼、最高だったわ。その舌人形を拾って、ケースにしまっておきなさい」
キャサリンの声が、ベッドのほうから聞こえてきた。
白人の男の顔が突然、顔の真上に被さってきた。歳のわりには幼い顔立ちを
している。キャサリンと同じ金髪だった。
頭髪を掴まれ、床すれすれの低い位置で部屋の中を移動する。不自然な四つ
ん這いの格好のまま、男の片手に掴まれて移動していた。女性の奴隷として仕
える男とは、なんと惨めなものなのだろうか……。
「棚の上に私に向けて置いて」
キャサリンの声がベッドの上から降ってきた。
男が立ち上がるのと同時に、僕も高く持ち上げられる。
棚の上には、可愛い女の子が写った立体写真や、地方の土産の民俗人形、虹
色のグラス、珍しい幾冊かの紙の本、シースルーの手袋、無造作に置かれた、
短く黒い乗馬鞭が並んでいた。その並びの少し空いたところに、キャサリンの
ほうへ向かされて置かれた。
ベッドに横たわるキャサリンの裸の姿態まで、50cmと離れていなかった。
キャサリンがベッドの上に身体を起こした。キャサリンが僕を見つめていた。
白人奴隷が床の上に正座し、両手を長く床の上に伸ばしたまま、滑稽な顔だ
けをキャサリンのほうに持ち上げ、こちらに向けていた。
「もう、お前も必要ないわね。素晴しい拾い物だよ、この舌人形は。もう性の
快楽に、お前はいらないわ。誰か良い人に払い下げてあげるからね」
キャサリンが奴隷のほうを向いて言った。男の表情が悲しげに歪んだ。
「奴隷なんて可哀想なものよ。飽きたら捨てられるだけなんだから。お前もな
んで地球になんて残ったのかね。男にとっては、地獄以外の何ものでもない所
になってしまったんだ。男が、地球環境に悪影響を与えてはならないように、
地球上から排除して、宇宙に活路を見つけさせてあげようと言うのに。お前の
ように、虐め甲斐のない奴隷は、どんどん捨てられるだけなのさ。見苦しい。
悲しい顔をするんじゃない! 顔は床に付けておきなさい」
キャサリンが床の奴隷に向かって蔑むように言った。
白人奴隷は悲しげに、土下座したまま顔を床に付けた。惨めさの固まりとな
っていた。
「さて、シャワーを浴びて出かけるわ。私が帰ってくるまで、その惨めな格好
で、じっと動かないでいるのよ」
キャサリンが立ち上がる。そして僕のほうを向いて、和やかに微笑んだ。
「舌人形ちゃん、ちゃんと見張っていてね」
キャサリンが部屋を後にした。
やがて水の跳ねる音が聞こえて来た。シャワーを浴びているのだろう。開か
れたドアの外から色々な気配がしていた。10 分ほど経って、キャサリンは外に
出て行ったようだった。全ての気配はかき消されていた。白人奴隷はじっと動
かなかったが、不吉な気配だけは高まっていた。
裸の白人奴隷が立ち上がった。主人の居ないところで、命令が確実に実行さ
れることはない。それが奴隷の常である。この白人奴隷から発せられる、強烈
な怒りのオーラは、僕に直接向けられていた。男が僕を睨み付け、立ちあがる
と、キャサリンのベッドの縁に腰掛けた。奴隷が見つめる眼差しの先には、悲
しみが満ち満ちていた。
「舌人形。お前には何の事情も解っていないことだから仕方のないことだが、
俺にはキャサリンとの間に、可愛い女の子がいるんだ。2年前のことだ。突然、
合衆国政府が、イラソ連邦が国連に上程していた“女性人間宣言条約”を批准
して、国家を解消した。それから急激な社会変化が、合衆国全土を覆い尽くし
た。男達は収容施設に集められ、宇宙開拓への選択を迫られ、宇宙へ追いやら
れた。宇宙に行くことを拒んだ男達は、奴隷マゾ化調教施設へ送られ、強制的
に奴隷に改造させられて行った。
俺には、娘のジーナと別れることなど考えられなかった。それで地球に残れ
る唯一の選択、妻の奴隷になることを選んだのだ。その為に、家族から引き離
され、奴隷マゾ化調教施設での調教訓練を課せられたのだ。
施設での3ヶ月に及ぶ奴隷調教がどれほど辛いものだったか、舌人形にまで
なったお前には充分に理解できているかもしれないが、普通に生活をしていた
俺には堪え難い3ヶ月となった。
その日から、人間であることを完全に否定され、辱めと屈辱の日々を送らさ
れることになったのだ。それでも、娘のジーナに会えるならと思い、その思い
だけで耐えることが出来た。
俺自身がマゾ化してからは、調教も楽になったと思ったが、その後にとんで
もない調教プログラムが用意されていた。こんな辱めを受けることになるのな
ら、宇宙開拓を選択しておいたほうが、よっぽどましだったと痛感させられた。
それは、妻と娘を交えての調教プログラムだった。
(有る男の場合)
施設での調教プログラムを全て終了したので、懐かしの家に帰れることにな
ったのだが、家に帰るための手段は車でも鉄道でもなかった。施設の作業部屋
で俺は、鉄格子だけで作られた小さな檻に入れられた。そう、大型犬や猛獣を
運搬する檻だった。檻に入れられたまま、回りを梱包材で覆われたので、真っ
暗闇の中に数日間、放置されたままになった。
その2日前から食事は水溶液だけにされ、排便の必要はなく、檻に入れられ
る直前に、亀頭から尿道管が挿入され、尿壜に繋がれ、排尿の心配もなくなっ
た。数リットルの水溶液の入ったボトルも置かれていたので、水と栄養の問題
もなかった。
真っ暗闇の檻は、俺の期待も乗せて懐かしの我が家に向かって移動を続けた。
檻に閉じ込められて、最初は暗闇と狭さに恐怖していたが、そのうちに退屈さ
と睡魔に襲われ眠ってしまった。実は、こんなに暇になったことは、今までに
なかったから、溜まっていた疲れが出たのだろう。
マゾ化調教施設での日々は、緊張と精神崩壊の連続で、一瞬も気を抜くこと
が出来なかった。それで俺は疲れきっていたのだろう。梱包され、真っ暗闇に
慣れてくると、すぐに睡魔に襲われて眠ってしまった。
ときどき目が覚めることもあったが、到着には3日くらい掛かったようだ。
やがて気持ち良い振動も止まり、漸く目的地の我が家に着いたようだった。
「わーっ! なぁに、これ? ママ」
女の子の可愛い声が聞こえてきた。
それは、懐かしいジーナの幼い声だと解った。俺の胸は喜びに溢れ、熱く昂
っていた。この時が来ることをどれほど待ったことか。我を忘れて、ジーナの
声に答えようとして、声を出した。でも、俺の首には声帯を締め付けるために、
固く首輪が巻かれていて、声を出すことも出来なかった。
「ねぇ、開けても良いの?
ママ」
ジーナが、妻にせがんでいる声が聞こえていた。
俺は、檻の柵を両手で掴もうとした。だが両手は身体の横に固定されていて、
動かすことも出来なかった。
「待っていなさい。注意書きが貼ってあるでしょう。ジーナにはまだ難しいか
ら、リーダに読んでもらいましょうね」
愛する妻のキャサリンの声も聞こえていた。
俺はもう、暗闇の檻の中で歓喜していた。辛い施設での訓練のことなど、吹
っ飛んでしまった。漸く、念願の妻子に再開できたのだ。胸は感動で熱く熱く
沸騰していた。この梱包が解かれれば、俺は妻子と対面できる。そうすれば、
また、いつもの幸な生活に戻れるのだ。そして、昔のあの平凡だった日常が再
び訪れるのだ。後ちょっとだ。俺の歓喜の思いは頂点にまで達した。
“この包みの中身は奴隷です。次の番号に連絡して、インストラクターを呼ん
で下さい。梱包の開封はインストラクターが行います。
奴隷は狭い檻に入れられたまま運ばれてきましたので、凶暴化していること
もあります。必ず奴隷インストラクターに連絡して、奴隷インストラクターに
よって開封してください。
梱包を解くパスワード及び檻の開錠番号は、この地区を管轄する奴隷インス
トラクターが知っています。呼び出し番号は、ゼロゼロナインフォー……”
説明書きを読み上げるリーダの抑揚のない無性別で無感情な声が、箱の外か
ら聞こえてきていた。
俺の熱い胸の高まりに、冷水を掛けられたようだった。懐かしの、あの日常
生活は、もうそこには存在していないのかもしれなかった。
「ドレイ? どれい、奴隷。ワーッ! 本物の奴隷ちゃんなのね。ジーナ嬉し
いなー。ここから、奴隷ちゃんが出てきたら、ジーナが1番に虐めてあげまち
ゅよ。ねぇ、ママ、ジーナの鞭もありまちゅか?」
娘が嬉しげに、奇声を上げていた。
「今、呼んだから、奴隷インストラクターの方がすぐ来るわよ。ジュース飲み
かけでしょう。さあ、全部飲んでいらっしゃい、ジーナ」
優しく言うキャサリンの声が聞こえる。
ジーナの小股の足音が遠ざかった。キャサリンだけは離れないで、すぐ側に
いるようだ。俺は声帯を圧迫され、唸ることしかできないようにされていた。
キャサリンに俺の存在を知らせる手段は、なにもなかった。
「あなたでしょう、待っていたわ。この梱包をすぐに破いて、あなたを出して
あげたいわ。でも奴隷インストラクターを呼ばないと、この頑丈な梱包を開け
られないの。もう少し待っていて」
妻の声がいったん止まる。
「世の中は変わったわ。私も含めて、全ての女性が変わったの。そうでないと
地球環境が救われないって教えられたわ。だから女性はみんなが変わったのよ。
ニューヨークからも男達が一斉に消えたわ。男は皆、宇宙へ飛んで行ってし
まった。たまに、地球に残る決意をした男が、奴隷調教施設から戻されて帰っ
て来るわ。そんな男を見ていると、とても惨めだわ。奴隷にされた男は、女の
快楽のためにしか存在することを許されていないのよ。人間の尊厳の、ひとか
けらも認められないで、辱めと屈辱を享受する以外に、生き続ける望みはなく
なってしまったわ。
プライドの高いあなたに、そんな屈辱的な真似は出来ないと思う。でも、女
も新人類として進化しなければならないのよ。そうでないと、
“女性人間宣言
条約”を、合衆国が批准した意味がなくなってしまうわ。だから女達は意識的
に変わって行ったの。
女達の意識革命によって地球環境は守られ、今後、人類が地球上で何億年に
もわたって、繁栄して行くことが可能になったのよ。それが、人類の地球の支
配者たる者となれる、唯一の進化だと教えられたわ。
だから、私も変わらざるを得なかったの。あなたへの未練は、もう断ち切っ
たわ。女とは、本来そういう生物なのよ。切り替えは早かったわ。だから今更、
あなたなんて必要ないのよ。
でも、奴隷になったとしても、戻って来てくれて嬉しいわ。憎くって別れた
訳ではないし、またあなたに会えるなんて、思ってもいなかったから本当に嬉
しいわ。それに、私も奴隷のいる生活に憧れていたところだったのよ。たまに
帰ってくる、他の家の奴隷達を見ていて羨ましかったわ。あなたが宇宙に行か
なかったことは知っていたわ。だから、きっと戻ってくるって思っていたのよ。
ジーナも4歳になって、物心が付いてきたわ。いつも二人で話していたのよ。
パパが帰ってきたら、どうやって虐めてあげましょうかって。私は嬉しいのよ、
あなたが戻ってきてくれて」
キャサリンが少し上ずった声で、一気に語ってくれた。
俺は、身動きすら出来ないまま、じっと動かないで、その言葉を聞いていた。
長い期間、射精が禁止された状態だったので、股間だけは張り切って大きく
なっているのが惨めだった。まったく変わってしまった妻の言葉を聞いても、
俺の思いは、ただ一刻も早く、妻に抜いて貰いだけだった。この惨めな精神状
態が、マゾ化した奴隷の現実の思考だと実感させられた。
やがて大人の足音と、可愛いジーナの小股な足音が近づいてきた。俺を包む
梱包パネルが一枚一枚、順番に剥がされていった。
眩しい室内の光の中に、キャサリンと、あれほど会いたかった可愛いジーナ
の立っている姿が神々しく見えた。奴隷インストラクターの黒いビキニ衣装の
お姉ちゃんが俺に近づき、両手を拘束していたベルトを外してくれた。そして、
尿道管の通された惨めなパニスから、管を引き抜いてくれた。挿入された管と
尿道の摩擦で、性的な刺激が更にパニスを膨らませた。もう2週間も射精をさ
せて貰っていないパニスは、敏感に反応して膨らんでくる始末だった。
娘が、僕の姿を見て、喜んで走り寄ってきて、俺の頭を抱きしめてくれた。
「わっ、パパ奴隷だ!」
ジーナが嬉しそうに、大きな声で叫んだ。
なんと可愛いのだろう、ジーナは。妻と同じ青い瞳に、輝く金髪が頭を被っ
ている。跪いている俺の頭を両手いっぱいに抱えてくれていた。
「パパ、お帰りなちゃい」
ジーナが耳元で可愛く言う。俺は感極まり、涙した。
「離れて! お嬢ちゃん」
奴隷インストラクターの可愛いお姉ちゃんが、強い口調で言った。
娘の温もりを顔面に残して、俺は酔ってしまっていた。ジーナは奴隷インス
トラクターのお姉ちゃんに両肩を掴まれて、俺から引き剥がされた。
「では、今から、奴隷引渡式を行います」
奴隷インストラクターのお姉ちゃんが事務的に言った。
俺は、その若いお姉ちゃんに髪の毛を掴まれ、頭を床まで下げさせられ、床
板に額を付けさせられた。なんとも惨めな土下座させられる姿勢を強要された。
「手は前に長く伸ばして、尻だけ上げる。マゾ化調教施設で充分に訓練したで
しょ!」
奴隷インストラクターのお姉ちゃんが強い口調で言った。
俺はマゾ化調教施設で習った、奴隷の礼の格好をとった。妻と娘の前で、な
んと惨めな気持にさせられることだろう。
「ジーナ、パパといっても奴隷なのよ。前に教えたでしょう」
キャサリンが娘に諭すように言っていた。
「そのとおりです。お母さんはちゃんと理解されていますね。それでなければ、
新人類に進化したとは言えません。完璧ですよ、お母さん。
ねぇ、お譲ちゃん。男は人間ではなくて奴隷になってしまったのよ。パパも
男だから奴隷になっちゃったのよ。男を人間のままにしておいたら、地球が死
んじゃうの。だから男は奴隷として、そして女性は新人類に進化して、新しく
出発することにしたのよ。だから、今までみたいに、男に気を使って、感情を
抑えるような女であっては駄目なのよ。楽しく、快楽に満ち満ちた日常生活を
送るために、パパ奴隷ちゃんを毎日泣くまで虐めて遊んで良いのよ。
4歳になったばかりのジーナちゃんには、まだ難しいかな? でも、ジーナ
ちゃんは奴隷を知っていたでしょ。パパはその奴隷になったのよ。解る?」
若い、奴隷インストラクターが、ジーナの両肩を掴み、目の高さまで顔を持
って行って、娘の目を覗き込んで話し掛けていた。
「ジーナ、知ってるもん。パパは奴隷よ。だからパパ奴隷なのよ」
可愛く小生意気な声で、一生懸命にジーナが喋った。
「お利口ね、ジーナちゃんは」
奴隷インストラクターのお姉ちゃんが言った。
俺は奴隷の礼の形のまま、床に頭を付けて様子を窺っていた。背中に、冷た
く長い感触の物が置かれた。すぐに硬い鞭だと解った。
「では、この奴隷の主人であることを宣言する儀式を執り行います。すでにご
存知だとは思いますが、奴隷引き渡しの儀礼に従って執り行います」
奴隷インストラクターが宣言する。
「奴隷! 四つん這いになって背中を平らに保つ」
奴隷インストラクターの鞭先が軽く背中で跳ねて、姿勢を整えるよう促され
る。俺は頭を下げたまま、四つん這いの姿勢をとった。キャサリンとジーナが、
俺の尻のほうに回り込むように移動していた。ジーナの可愛いサンダルの先が、
股の間から後ろのほうに見えてきた。
「では、鞭を構えて下さい」
奴隷インストラクターに促され、妻が背中に当てがわれた鞭を手に取り、再
度置き直したようだった。背中の肩口から斜めに尻に掛けて、冷たい感触の鋼
の鞭が触れていた。鞭を握る妻の手が緊張しているのだろう、小刻みに振動し
ているのが伝わってくる。
「では、奴隷引き渡しの儀式を始めます。奴隷に対して容赦はいりません。新
人類となった女性の権威と、奴隷である事の自覚を、男に身を以て知らしめる
ため、思いきって叩いてください。奴隷に舐められるような手加減を加えない
ように、きっちりと鞭の痛みと、主人の威厳と怖さを奴隷に知らしめて下さい。
では、始めて下さい」
鞭が空気を切って上がったようだ。そして、ビューという、恐ろしく、素早
く空気を裂く音がして、背中を打つ衝撃と肉を裂く音、それと同時に、熱湯を
被せられたような熱い痛みが、背中を覆っていった。その鋭く重い痛みが、じ
っくりと背中全体に染み込んでいった。
「嗚呼ー!」
俺は長い叫び声を上げていた。
「あぁ、この奴隷の叫び声を聞くと本当に痺れます。奴隷インストラクターを
やっている醍醐味です」
奴隷インストラクターが、誰に聞かせるともなく、快楽に身を任せたように
呟いていた。
キャサリンが横に2、3歩移動するのが解った。今度は反対側の肩口から、
尻にかけて鞭が置かれた。空を切る音とともに鞭は掲げられ、恐怖の音ととも
に戻ってくる2弾目の鞭を、恐怖をもって迎えた。更なる恐怖と強い衝撃で、
痛みは1弾目の倍以上に感じられた。
「嗚呼ー!」
俺は、堪えることも出来ずに、思いっきり叫んでいた。
涙が流れ、床に落ちていた。可愛いジーナが、そんな俺の顔を覗き込んだ。
「パパ奴隷ったら、涙を流して、泣いていまちゅよ。可笑しいの?」
心配そうに、可愛くジーナが言った。
妻と、奴隷インストラクターが大きな笑い声を発していた。ジーナもつられ
て、意味も解らないまま、その笑いに加わった。3人の女性の高笑いが、部屋
を包む。なんて俺は惨めなのか。痛みに悶える俺を笑えるなんて、俺は道化か。
奴隷とは、そんな惨めな道化のような存在でしかないことを痛感させられてい
た。女性の快楽の道具になることの意味を実感した。
誰かの手が、俺のペニスを握っている。その時、パニスが勃起していること
に初めて気がついた。
「わー! パパ奴隷のおチンチン、おっきくなって硬くなってる」
ジーナが、宝物でも見付けたかのように、嬉しそうに大きな声で叫んでいた。
ジーナが手を離すと、鞭先が俺の硬く膨らんだパニスを軽く突いていた。俺
のパニスはその刺激で、ますます大きくなってしまった。女性達の笑い声が、
更に高らかに部屋中に響き渡る。
「しょうがないわね。仰向けに寝なさい」
キャサリンが俺の真上で言った。
俺は勃起も抑えられないまま、仰向けに床の上に寝そべると、ジーナが楽し
げに、勃起したパニスを両手で掴んできた。可愛い娘に悪戯されるパニスを見
て、恥ずかしさのあまり動揺した。
「ジーナの良い玩具になりそうね」
キャサリンが、なじるように言う。
見上げたキャサリンの美しい顔は、天井にくっ付くほどの高見に見えていた。
スカートのまま、キャサリンが顔を跨いでくる。久し振りに感じる、女の甘い
香りに包み込まれた。見上げたスカートの中には、黄金に輝く陰毛を湛えたキ
ャサリンの股間が迫ってきていた。俺の顔を挟むように膝立ちし、黄金の陰毛
が俺の顔を被ってくる。すでに夥しい愛液が溢れ、黄金の陰毛を水風船のよう
に膨らませている。
「舐めなさい、そして私の奴隷になる事を誓いなさい」
キャサリンの声が、神の声のごとくに耳に届く。
目の前で愛蜜をたっぷりと湛えた黄金の陰毛に顔を浸し、その大量の愛液を
吸い出した。
“じゅる、じゅる、じゅる……”
卑猥な音を立てて吸い出し、口の横から、啜った愛液を溢れさせ、飲み込む
ことはしなかった。
それでも、とても幸せな気持ちになれた。もう一人ぼっちではない。可愛い
娘にも、妻にも甚振られる奴隷の身になり下がってしまったが、これが俺の幸
福、いや、快楽になる事を実感できた。このお二人に、これからもずっとお仕
えすることが出来る、それが俺の快楽となる事を知った。
俺の大好きなキャサリン様の女陰に舌を伸ばし、キャサリン様の奴隷となる
ことを強く誓った。舌先で女陰を満遍なく舐め回し、クリトリスを探し、ゆっ
くりと、その突起物を左右に刺激した。キャサリン様が顔を締め付けてきて、
顔の上で尻を回すように悶え始めていた。ゆっくりと、ゆっくりと、クリトリ
スを刺激していく。キャサリン様の腰が、更に大きくうねって回り始めていた。
娘と、奴隷インストラクターが近くで見ていたせいだろう、キャサリン様は、
最後まで昇り詰めることを止めて、立ち上がった。俺を見下ろすキャサリン様
の瞳が、潤んだように憂いに満ちていた。なんと神々しく見えることだろうか。
俺の選択は間違っていなかった。一人で宇宙に飛び立ってしまわないで良かっ
た。俺には家族がいる。キャサリン様の奴隷であったとしても、俺は愛されて
いる。その想いがある限り、俺はキャサリン様と、娘のジーナとともに生きて
いける。
俺は起き上がり、キャサリン様の足元で、奴隷の礼の形をとった。
「ちゃんと仕上がっている事を確認しました。奴隷が甘えたり、立場を忘れて
横暴になったりしないよう、厳しくしつけて下さい。なかなか奴隷自身、自分
が奴隷以外の何者でもないということを、自覚できない場合もあります。この
奴隷の場合は、娘と別れたくなかったから、奴隷という形であったとしても、
地球に残りたいという明確な理由がありました。決して、女性に尽くしたいか
らという気持ちからではありません。それでも構わないのですが、ここからの
躾は、そんな不届きな気持ちでは、奴隷は務まらないということを、身をもっ
て教えていくしかありません。特にお子さんに対しては、不服従を示す傾向に
ありますので、娘さんの命令に対しても完全服従することを教え込んでくださ
い」
奴隷インストラクターのお姉ちゃんが、俺の気持ちを見透かしたように言っ
ていた。
「さあ、ジーナちゃんも奴隷を鞭で打って下さい」
奴隷インストラクターのお姉ちゃんが促した。
「えっ、ジーナも、パパ奴隷を鞭で打ちゅのでちゅか。痛いですから可哀想で
ちゅよ。また、パパ奴隷が泣いてちまいまちゅよ」
ジーナが、優しく言ってくれた。
「奴隷だから、鞭で打たなければいけないのよ。そうでないと、奴隷はここに
置いていけないの。ジーナちゃんも女の子でしょう。だったら奴隷は鞭で打た
なければいけないのよ。それが出来ないのなら、お姉ちゃんが奴隷を持って帰
ちゃうわよ」
インストラクターが諭すように、丁寧に説明していた。
「ジーナは、女の子よ。鞭をちょうだい。パパ奴隷を打ってあげまちゅ」
ジーナが気丈に言った。
「四つん這いになりなさい」
奴隷インストラクターのお姉ちゃんが強い声で言った。
俺は膝立ちして起き上がり、四つん這いの姿勢をとった。首をうな垂れたま
ま、股の間から覗けるジーナを見ていると、棒状のピンと張った長い鞭を手に
し、まだ4歳のジーナが、俺の尻のほうに回り込んできた。奴隷インストラク
ターのお姉ちゃんが娘に手を添えて、鞭を僕の背中に置かせた。
「力を入れないで、上にあげて」
奴隷インストラクターのお姉ちゃんが言う。
ジーナの手がゆっくりと、握り締めた鞭を振り上げた。鞭の上がった先は視
界の外だった。俺は娘にも鞭を2発貰い、妻と同じように、顔の上に跨られ、
アンモニア臭いパイパンの女陰に潰された。勿論、舌は出さなかったが……。
男が奴隷として地球上に残るという意味を初めて納得した。俺は地球上で暮
らす限り、奴隷として、妻と娘だけではなく、全ての女性に虐げられて生きて
行くしかないことを実感させられた。
だから俺は、いずれ、娘達をともなって宇宙に移住することを心の奥に誓っ
た。きっと二人は理解してくれるだろう。こんな、男だけが虐げられる地球上
の生活は狂っている。
「以上で、奴隷の引渡式を、滞りなく終了いたします」
奴隷インストラクターが宣言した。
「奴隷の今後の調教については、私達の所属するロス奴隷インストラクター協
会がサポートしますが、もし、奴隷の横暴さが目に余るようでしたら、最調教
施設へ送ることも出来ます。ただし、その場合は、別の奴隷と交換するか、も
う奴隷が不要になったものとして廃棄することにもなりますので、そのような
ことにならないためにも、家庭での調教は引き続き、しっかりと行って下さい。
小さなお子さんがいると、奴隷調教がやりにくい面もあります。そこのとこ
ろは、徐々に改善されていくことでしょう。
私達、ロサンゼルス奴隷インストラクター協会のインストラクターが、この
新しい変革を定着させるために、いつでも、どんな場合でも協力いたします。
また、奴隷を不当に人間扱いしていないかの点検も随時行わせていただいてい
ます。3日、1 週間、3週間、1ヶ月、3ヶ月、1年、3年、5年、と定期点
検に訪れますので、安心して奴隷調教を行うことが可能になっています。
今は、地球環境を守るため、種の創造の形成期でもあります。新人類へ進化
したことに自覚を持って、毎日の生活を謳歌して下さい。奴隷は、そのための
重要なスパイスです。女性として生まれたからには、どんなストレスも感じて
はいけません。女性のストレスの全てを奴隷によって解消することが出来るよ
うになったのです。奴隷の存在が、今後不要になるものか、更に重要度を増す
ことになるのかは、今の段階では何とも言えません。女性が、地球上での唯一
の支配者となるために、今は奴隷を踏み台にして、女性自身が快楽を存分に享
受することから始めています。今は、まだその段階でしかありません。
では、頑張って、奴隷を弄び、快楽に満ち満ちた生活を体感されることを学
んで下さい。それが、女性を新人類へ進化させる重要なファクターなのです」
奴隷インストラクターがそう最後に語って、帰って行った。
奴隷インストラクターも去り、娘が寝た後、キャサリン様が俺を問い詰めに
きた。昔、兄貴から預かった物が今どうなっているのかと。俺がマゾ化調教施
設で改造され、不在だった時に、姉御が兄貴を拷問にかけて殺す間際、俺に舌
人形を預けたことを吐かすことが出来たようだ。怒り狂った姉御に、兄貴はな
ぶり殺されてしまったようだったが……。その後、俺が不在の時に姉御が訪ね
て来て聞いていったと言う。しかし、俺が戻って来るのを待たずに、姉御は行
方不明になってしまった。当然、キャサリン様も、舌人形の行方が気掛かりで、
俺の戻ってくるのを待っていたとのことだった。
俺は、若い、奴隷インストラクターのエロチックな痴態や、キャサリン様の
厳しい妖艶な態度に接し、すっかり性的欲求が高まってしまった。それに、2
週間以上も射精させて貰っていなかったので、股間は恥ずかしくも勃起したま
ま晒されていたのだ。もう、我慢のしようもなかった。
そこで、舌人形のある場所を教えるので射精させてほしいと、キャサリン様
に条件を出した。奴隷が唯一、ご主人様にお願いできることは、射精の懇願だ
けだった。条件を付けることなど、やってはならないことだったが……。
舌人形のお前も、前は男だったから知っていることだが、射精をする瞬間の
快楽だけが、奴隷に許されている唯一の快楽だ。キャサリン様もそれは充分に
理解されていた。ソファーにゆったりと座られたキャサリン様が、床で正座す
る俺の目の前に、白く長い妖艶な脚を伸ばされた。
「指を舐めて」
俺は一瞬ためらった。キャサリン様の脚を捧げ持ったまま、硬直してしまっ
た。そんな俺の態度を見透かしたように、キャサリン様の脚が引き寄せられ、
次の瞬間、俺の顎を狙って蹴り出されていた。顎に蹴りを受けた俺は、後ろに
飛ばされて倒れてしまった。
「命令に従えない奴隷には、厳しいお仕置きをしなければならないのよ。どう
するの?」
キャサリン様の威圧する厳しい声が、俺に、奴隷調教施設での辛い、辛い調
教の日々を思い出させてくれた。
女性のあらゆる命令に対して、不服を唱えてはならなかった。不服を言った
時点で、厳しいお仕置きが待っていた。妻のキャサリン様だからと言って、や
はり女性に違いはないのだ。すぐにそのことは悟った。
「申し訳ございません。喜んで、舐めさせて下さいませ」
俺は、自分に惨めさを感じつつ、そう言うしかなかった。
「解ればよろしい。次にそんな態度をとったら、鞭打ち 100 発では済まないか
らね」
キャサリン様は、俺が震えあがるのを楽しむように言っている。
俺は、奴隷の礼で従順を誓い。四つん這いでキャサリン様の足元にまでにじ
り寄った。悲しかった。惨めだった。あの優しかったキャサリンは、もう、そ
こにはいなくなってしまったのだろうか?
待っていたように、キャサリン様の脚が目の前に伸びていた。足の甲を捧げ
持ち、くすんだペディキュアの塗られた足指を見つめた。
「足の裏に口づけしなさい」
キャサリン様のご命令だ。
妻の大きな足裏を見つめた。俺は、そこに唇を押し当てた。蒸れた足裏の臭
気を感じて、ますます惨めさが増した。しかし、股間が痺れていた。その惨め
な気持ちが性的な刺激となり、パニスが更に膨らんでくる。
蒸れた臭いを発する指の中から、一番小さな小指を選んで口に含んだ。上目
づかいにキャサリン様を見ると、俺のそんな醜態をじっと見つめ、冷ややかに
微笑んでいた。小指と薬指の股の間を丁寧に舐め回し、薬指も口に含んだ。
嗚呼、俺はなんと恥知らずな人間になってしまったのだろうか。奴隷とは、
人間ではない、ということを知らしめさせられた。俺の股間は更に膨らみ、小
さな貞操帯の中で、痛みの限界にまで達していた。
大きな親指まで口に含み舐めていると、キャサリン様の足指が、悪戯っぽく、
俺の舌先を挟んで、引っ張って遊んでいた。
「今度は、あそこも舐めてもらおうかしら」
そう言うと立ちあがり、ピンクのパンティーを脱ぎ、ふたたびソファーに座
られた。股を大きく開き、俺に手招きをする。股間には黄金にきらめく陰毛が、
俺を待ち受けて瑞々しく膨れ上がっていた。吸い寄せられるように、キャサリ
ン様の黄金の森に顔を埋めた。
すでに愛液をたっぷりと溜め込んだ金髪の陰毛は、水風船のように弾力に富
んでいる。愛液を啜らされることなど、初めての経験だった。まったりとして、
尿ともまるで違う、無臭で異質な液体を、どう扱ったら良いものか迷って、躊
躇っているとキャサリン様に頭を小突かれた。
「全部飲むのよ、全部ね」
キャサリン様の声が、頭上から降りてきた。
仕方なく、その、まったりとした愛液を啜って咽に送り込んだ。
“じゅる、じゅる、じゅる、じゅる……”
そんなものを飲んだこともなかったので、不快だった。
「お利口ね。舌を出して舐めなさい」
キャサリン様が褒めてくれた。その一言で、単純に嬉しくなってしまった。
キャサリン様に喜んでいただけるならと、俺は張り切って、舌先でぬるっと
した女陰を舐め回した。キャサリン様は一瞬にして昇り詰め、絶頂に達してい
た。頭髪を強く掴まれ、その余りの痛さに、膨らんでいたパニスが萎えるほど
だった。
キャサリン様がイッたのは、その1回きりだった。その後は幾ら舐めても、
感じて貰うことも出来なかったし、舌を動かす筋肉も、すぐに疲れ果ててしま
い、満足に舐め続けることも出来なかった。
「下手糞ね。ちゃんと舌の動かし方を訓練しておきなさい。そんなんじゃ、舌
人形としては使えないよ。私に捨てられないように、ちゃんと特訓しておくの
よ。さあ、こっちに尻を向けなさい。射精させてあげるから」
キャサリン様が嬉しいことを言って下さった。
「あ、ありがとうございます。キャサリン様」
心の底から感謝の言葉を述べた。
俺は久し振りの射精に、舞い上がっていた。奴隷調教施設での射精は、射精
したくなると、若く可愛い小娘のような調教者様にお願い申し上げて、鞭を 100
発いただいた後に、貞操帯を外して貰い、暗いトイレの隅で5分以内に一人で
扱いて放出するだけだった。なんとも味気ない、生理現象の処理としてしか許
されていなかった。奴隷自身の快楽は、全く認められなかった。
嗚呼、3ヶ月振りに、キャサリン様の手で射精させて貰える。こんな嬉しい
ことはなかった。深々と頭を下げ、奴隷の礼で感謝を表し、期待して四つん這
いのまま、キャサリン様のほうにお尻を向けた。キャサリン様の手が股間に触
れる。そして、パニスに装着された小さな貞操帯を外して下さると、俺のお尻
を軽く叩いて、撫で回してくれていた。すると、指先が、尻の穴に挿入される
のが感じられた。少し痛みがあったので、尻の穴を瞬間、引き締めた。
「こら! 力を入れない」
キャサリン様に怒られた。
嗚呼、お尻の穴の中を刺激されていると、パニスが異常に勃起してきた。そ
の瞬間、性的に昇り詰めてもいないのに、突然、パニスの先から精液が小便の
ごとく、サーッと排出された。期待された性的な高まりもなく、情けなくも射
精行為はそれで終わってしまった。
パニスを根元から先へと強く扱かれて、尿道に残った精液を絞り出され、後
は貞操帯を再び装着されてしまった。
「はい、射精は終わり。快楽を期待したんでしょうけれど、残念ね。男にはね、
性の快楽は与えてはいけないのよ。女性に奉仕することだけが、全ての快楽に
ならなければいけないの。それ以外の快楽があっては、奴隷としての役割がお
ろそかになってしまうのよ。
当分、お前の忠誠心が確認できるまでは、貞操帯を装着しておきますからね。
また溜まってきたら、いつでも抜いてあげるから申請しなさい。お尻の穴から
前立腺を刺激するだけで、簡単に射精をさせられるのよ。性的な高まりなんて
関係なく、すぐに出させてあげるわよ。
奴隷の扱いについては、ずいぶん勉強したんだから、安心して任せなさい。
そうね? 次の時には、ジーナにも見せてあげましょうね。奴隷の性の惨め
さを、娘にも知っておいて貰ったほうが良いでしょう。いつか、娘に代わって
処理して貰うことがあるかもしれないでしょう。それも楽しみでしょう、あ・
な・た」
キャサリン様が、俺を甚振っているのが良く解った。
嗚呼、男としての唯一の快楽も、奴隷には許されていないのか。
「そうそう、もし粗相があったりしたら、射精は禁止よ。最低でも1ヶ月。ひ
どい失敗なら、3ヶ月や1年は覚悟しておくのね。男にとって、射精を禁止さ
れることは、相当に辛いことなんですってね。毎日でも射精している男がいる
って教えて貰ったわ。でもそれって、幾らなんでもやり過ぎでしょう? お前
はどうなのかしらね? 射精をさせて貰いたいのなら、一生懸命、私とジーナ
に、粗相のないよう仕えるのよ。そうしたら、ご褒美に、1週間に1回では多
過ぎると思うから、2週間に1度は射精させてあげますからね。射精のときの
性的高ぶりは与えてあげられないけれど、その代わり、性的な責めは、毎日た
っぷりとしてあげるからね。楽しみにしていなさい」
キャサリン様の言葉は、俺の頭の中を真っ白にした。
地球に残ったことを、その時、初めて後悔した。
「さあ、約束よ。舌人形の隠し場所を教えなさい。教えてくれたら、ご褒美に
ジーナの目の前で射精させてあげますからね。そうね、2週間後にね」
キャサリン様は、俺を更に追い詰めて、辱めて楽しんでいた。
俺は兄貴から預かったものが、舌人形であることすら知らなかったし、預か
ったものは、衣類ロッカーの奥にしまい込んだままになっていることを、キャ
サリン様に打ち明けた。
俺のロッカーは、マゾ化調教施設に連行された時以来、誰も触っていなかっ
たので、舌人形ケースはそのまま変わらずにそこに置かれていた。だから、す
ぐに舌人形のお前を、キャサリン様に渡すことができたのだ。
お前がケースの中で眠っている間に、地球上の全ての国家が“女性人間宣言
条約”を批准して世界は統一され、2100 年には、地球上から国境線が消え失せ
てしまったのだ。地球統一政府が 2101 年に成立し、最高統治者としてエリザベ
ーラ女王陛下が就任されたのだ。
最初の勅令が、“大宇宙開拓令”だった。巨大宇宙船の建造と、男性が宇宙
に行くか、地球に残るかの選択を迫る内容だった。勿論、女性も男性とともに
宇宙へ出て行くことは妨げられなかったが、男と一緒に宇宙へ同伴する女性達
は、既婚者で 20%、未婚者では 25%にも達していた。
ところが男性の場合は違っていた。既婚者の 70%が、妻の奴隷となることを
条件に、地球に残る選択をしていた。未婚者では奴隷となってまで地球に残ろ
うとした者は 10%にも満たなかった。逆に未婚の女性のほうが宇宙開拓を希望
する者が多く、25%を超えていた。総数で言うと 40%の男性と 22.5%の女性が
宇宙を目指すこととなった。地球に残ったのは、87.5%の新人類となった女性
と、人間の地位を剥奪された 60%の奴隷に身をやつした男性だった。その 60%
の男のうち、15 歳以上の 20 億人もの男を奴隷化するために、無数のマゾ化調教
施設が建設され、男達は強制的にそこへ送り込まれ、マゾ奴隷に改造されてい
った。
当然、過酷な調教プログラムに耐えられず、1億人以上の逃亡奴隷も出たよ
うたが、全ての女性が奴隷狩りに参加したので、逃亡者の大部分は、すぐに捕
われた。しかも、その大半は奴隷狩りと称されて、合法的に虐殺された。女性
とは惨いものだ、生き残った半数はマゾ化調教施設に戻されたが、その男達の
末路は、マゾ化できないまま発狂したか、女性達の甚振りの対象となり、虐め
殺されてしまったらしい。
2095 年以降、現在に至るまで、未だ地球上は混沌とし、新人類女性の進化は、
まだまだ完成に至っていない。キャサリン様は、俺の御主人様としては甘いか
もしれない。幸運にも、俺は非常に優しくされている。キャサリン様にも、娘
のジーナ様にも愛され、大切にされている。いずれ俺は二人を説得して、家族
で宇宙に移住しようと思っている。
地球上は、完全に狂ってしまっている。女性のペアであるはずの男が、人間
として認められないで、虫けら以下の奴隷として辱めを受け続ける世界が存在
し続けられるなど、狂気の沙汰だ。世界中は、地球統治者となるだろう、エリ
ザベーラ女王陛下という人物に騙されているんだ。俺が、きっと、キャサリン
様の目を覚まさせてやる。
ところが、そんな矢先に、お前が出現した。お前の舌技を試したキャサリン
様は、すっかりお前の性の虜になってしまったようだ。でも、今なら、まだお
救いすることが出来るだろう。お前には消えて貰う。二度と見つからないとこ
ろへ隠してしまおう。
さあ、ケースに戻ってもらおうか。
長々と身の上話をした男は、僕の頭髪を鷲掴みにして持ち上げると、舌人形
ケースに持って行き、いつもの薄暗いケースの中に押し込められた。
突然、可愛い足音と伴に、女の子が駆けこんできた。
「パパ奴隷、どこー? ジーナ、おしっこ。おまる奴隷になりなさーい」
娘のジーナの可愛い声が、慌てたように言っていた。
「あぁ、パパ奴隷ったら、立ち上がっていたら駄目でちょ。ママに言い付けて
鞭でぶってもらいまちゅよ。それより早く、おまるになりなちゃい。ジーナ、
お漏らししちゃうよー」
「お許しくださいませ、ジーナ様。キャサリン様には言い付けないで下さい。
鞭で打たれたら、パパ奴隷はまた泣かされてしまいます。その上、射精禁止に
されたら、パパ奴隷は本当に困ってしまいます。お願いです、ジーナ様。キャ
サリン様には黙っていて下さい」
男が惨めな泣き言を、4歳の娘に向かって言っていた。
「駄目でちゅ。パパ奴隷を甘やかちてはいけまちぇんって、ママが言ってまち
た。早く、おまるになりなちゃい! 漏れちゃうわ」
さすがに女の子は手厳しい。
「今すぐ、おまるになりますから、お願いします、ジーナ様」
惨めな男の声が聞こえていた。
男の妄想と現実の間には、大きなギャップがありそうだった。
男が、床に横たわったようだ。
「早く! お口を、おっきく開けなしゃい」
おませな声が聞こえ、水の弾ける音がする。
「あぁ、こぼしてるわよ!
鼻でも、ちゃんと吸いなちゃい」
叱責する、娘の声は可愛い。
「グェホ! グェホ! グェホ!」
男が咽ていた。
「あ~! あたしにオシッコが掛かっちゃったじゃない。どうしゅるの?!」
怒った声も可愛い。
「グェホ! グェホ!」
男は、まだ咳き込んでいた。
「もう、しょうがないんだから、パパ奴隷は。ママに言い付けて、きついお仕
置きをして貰わなければね。射精だって1ヶ月は禁止よ」
可愛い声で、男を脅すように言っている。
「あ~ん。そうよ、お股もちゃんと舐めるのよ。オシッコ掛かったとこも、舐
めて綺麗にちなちゃい」
ピチャピチャと、男が舐めている音が聞こえていた。
「パパ奴隷が立って歩いていたことと、オシッコを、ちゃんと飲めずに、こぼ
しちゃたことは、ママに報告して、お仕置きして貰いまちゅからね」
可愛い娘が威厳を作っている。
「ジーナ様。ママに報告するのだけは、お止め下さい。パパ奴隷は、また泣か
されてしまいます。それに、射精を1ヶ月も禁止されたら、惨めに悶えてしま
います。だから、どうぞ、お許しくださいませ、ジーナ様」
男の懇願する哀れな声が、どこまでも惨めに聞こえていた。
「駄目でちゅよ。ジーナ様は、パパ奴隷の泣く声が大ちゅきですから。いっぱ
い泣いて貰いまちゅよ」
4歳の女の子が、男を虐めることに快楽を感じているようだった。
「嗚呼、ジーナ様、お許しくださいませ」
男は惨めにも、涙声で懇願を続けていた。
「ほら、もう泣いてる。もっともっと、ママに虐めて貰って、泣かせてあげる
わよ、パパ奴隷」
可愛い娘に、容赦はないようだった。
「あーん。ジーナ様、お許しくださいませ」
男も、しつこく、泣き声で許しを乞うていた。
「わーぃ。パパ奴隷が、また泣いてるわ。もっともっと、泣かしてあげまちゅ
からね」
小さな足音が、部屋から走り出て行く。
「嗚呼、ジーナ様。お待ちくださいませー!」
男の声だけが、後を追ったが無駄なようだった。
すぐに、僕が入れられたケースの上のVの字に開かれた裂け目に、男の顔が
迫って見えていた。
「一刻の余裕もない。お前をすぐに捨てなければ、俺が捨てられてしまう」
ケースが突然閉じられ、闇が僕を包んだ。僕の意識は急速に失われて行く。
次にケースから出されることは、あるのだろうか? それに、世界政府の統
治者となられようとしている女王様に再会できることは、あるのだろうか?
大きな不安を感じる前に、意識はなくなった。
新世界(理想郷)後編
「この“夢の国”では、生きていること全てが楽しみであり、快楽なのよ。あ
の女神が言っていた、次なる進化を迎えた人達にも会えたわ。その人たちはパ
ニスを持った女性たちだった。ただ、パニスは小さなお飾りのような物で、実
際に生殖行為はできないようなの。パニスがあるからといって男ではなく、女
性でもない中性の人間だと言っていたわ。遺伝子で言うと、Y遺伝子を2つの
X遺伝でサンドイッチにした形だそうよ。生殖が可能になって初めて“仏(ブ
ッダ)
”になれるのだそうよ。まだ進化の途中段階なのかしらね。
それから、“子育ての国”や、
“奴隷の国”にも行ったわ。うふっ、どこも
楽しすぎて、何から話し始めたら良いのかわからない……」
セイラーキャンベルの楽し気な声が響いていた。
僕たちは、その言葉の後に語られる物語に集中しようと耳を傾けた。
大きな木造の家を出ると、玄関先の草の上でチャプランが奴隷の礼の形をし
て這いつくばって待っていた。あたしをここまで案内してくれた女神が手綱を
持っていて、あたしが近づくとその手綱を渡してくれた。
「私の家に案内するわ。
“夢の国”の生活様式はどこも似たようなものだから、
どこに行っても一緒よ。私の家に来れば、“夢の国”の半分のことは理解でき
ると思うわ。いらっしゃい。客人」
女神がそう言って背中を向けると、あたしの前を歩き始めた。
あたしは黙ってその後について歩き始める。ところが手綱がピンと張って、
チャプランの首を絞め上げてしまった。
「チャプラン、ついてきて」
奴隷の礼をするチャプランに慌てて声を掛けると、すぐに四つん這いになっ
たチャプランが、あたしに顔を向けて嬉しそうに着いてきた。あたしにも親し
みが伝わって来て、チャプランに笑顔を返した。
「奴隷はね、主人から一瞬でも目を離しては駄目。今のような時は、命令され
る前に主人の動きを察して動かなければならないのよ。こんな失態は、普通な
らお仕置きものよ。お仕置きの積み重が、物わかりの良い、優秀な奴隷に育て
て行くことになるの。でも、お仕置きするかしないかは、女神の気分次第だか
ら、それもどちらでも良いことなのだけれど、若い奴隷を持った時には小まめ
にお仕置きをするほうが調教には効果があるわ。その場合でも、お仕置きは女
神の楽しみごとでなければならないの。今のは、どうしますか?」
振り向いた女神が、奴隷の扱い方の一片を教えてくれた。
あたしには、いまチャプランを虐めてみたいという欲求はなかった。それに、
チャプランを可愛く感じ始めていたところで、そんな些細な失態で、お仕置き
しなければならないなんて、想像もできなかった。
「チャプランは、頭の良い奴隷です。お仕置きをしなくても、すぐに理解する
でしょう。それに、お仕置きをして楽しみたい気持ちは、いまはありません」
それを聞くと、女神は、何事もなかったように前を向いてゆっくりと歩き始
めた。
チャプランが奴隷だからといって、お仕置きという名目で虐めを楽しむ気に
は、あたしはならなかった。あたしの心は、どうしても、同じ人間である筈の
男だけが奴隷と位置付けられて、虐め放題の地位を押しつけられていることに
納得できていなかったし、男があまりにも可哀想すぎると、その時は思ってい
た。でも、ここで過ごすうちに、あたしの考えが間違っていたと思えてきたの
だけれど……。
前を歩く女神はゆっくりとしていた。都会でこんなにゆっくり歩いていたら、
後ろから追突されてしまうか、他の人に追い抜かれるだろう。でも、ここには
素晴らしい大自然があり、狭苦しい都会なんて存在しないようだったし、何も
急ぐ必要はなかった。逆に時間だけはたっぷりとあるので、むしろ奴隷が四つ
ん這いで歩いている速度に合わせて、ゆっくりと歩かざるを得ないのだろう、
と思った。
清々しい大気と、広葉樹が日陰を作っている。踏み固められた土の道を2時
間以上も歩いて、ようやく前方に集落が見えてきた。草葺の大きめの小屋が幾
軒も建ち並んでいる。その中ほどに建つ、1軒の草葺小屋の前で女神が立ち止
まった。
「客人、いらっしゃい。ここが私の小屋よ。どうぞ、中に入って」
女神があたしを促すと、先に小屋の中に入った。あたしとチャプランも続い
た。中は薄暗かったが、風通しも良く、戸外よりは断然涼しかった。
その小屋にいる奴隷が、床に身体を貼りつけるように、奴隷の礼をして控え
ていた。奴隷の首から伸びた手綱が丸太の柱に繋がっていた。女神はすぐに、
手綱を外した。
「顔を上げなさい、客人よ。喉が渇いたわ。お茶の用意をして」
女神が命じると奴隷は体を起こし、四つん這いになって奥に消えて行った。
この部屋は応接間のようだ。小机が真ん中にあり、レザーのソファが対面し
て置かれていた。この惑星には大型獣がいないので、このレザーの素材は、お
そらく合成皮革なのだろう。
「どうぞ座りなさい。ここが私の家よ。奴隷がすぐにお茶を運んで来るので、
ちょっと待っていてね」
女神はそう言うと、さっさとソファにもたれるように座ってしまった。
客人が座るのを待つ、という礼儀作法はないようだ。あたしも対面するソフ
ァーに腰を落とした。チャプランは奴隷の礼の形で、床に長々と身体をつけて、
うつ伏せになった。
「あの~、家の中では奴隷を繋いだままにして留守番させておくのですか?
それって可哀想だわ。犬だって家の中では繋がないで自由にさせているのに、
地球ではね」
あたしは奴隷の扱いに疑問を感じて訊ねた。
「イヌ。ああ、テラでのペットのことね。奴隷はね、ペットとは違うのよ。だ
から、ちゃんと躾をしないと大変なことになるの。奴隷は常に主人である女神
のことを思うように躾けなければならないのよ。でも、躾は大変なことではな
いわ。むしろ奴隷の躾は、とっても簡単で楽しいことなことよ。
奴隷を主人に集中させる術は、とにかく射精管理。それによって忠誠心と尊
敬の念が育つことかしら。射精管理によって、奴隷の性的快楽を女神が完全に
握ってしまうの。それによって奴隷は性的渇望が高まり、その欲求を満たして
貰いたいがために、女神に対して、媚びへつらうようになるのよ。
射精を抑制された奴隷の精神は、精液の排泄欲求を急速に高め、頭の中は悶
悶とした淫乱状態に陥ってくるの。ここで適切な射精管理を施さないと、精神
のバランスを崩して、逆に、抑制の利かない状態を作ってしまうことになるわ。
テラにおける性犯罪の全てはこれが原因ね。だからテラでは、性犯罪を未然に
防ぐために、性の快楽に恵まれない男に対して、社会的な安定を維持するため
に、売春がほぼ公然化され、そのために女性の地位が貶められているのよ。
更に悪いことに、性的快楽は、テラの権力者たちだけの楽しみごととされ、
庶民は厳格に抑制されていることよ。売春は公然化されているのに、道徳心と
か公共心とか、宗教の教義とかまで持ち出して、歪んだ精神教育が施され、性
的快楽は悪とされて来たのよ。そんな歪んだ社会体制を作り上げてしまったか
ら、テラの人間たちは、とてつもない間違いを犯しながら、おかしな人間世界
を発展させてきてしまったのよ」
女神が、地球社会に対する批判を、一気に話し始めた。
「何が間違っているんですって? 性に対するモラルのことなの?」
あたしには、女神が言おうとしていることが少しも解らなかった。
「……簡単な質問をするわ。テラ星人は何のために生きているの?」
女神が言葉を置いて、ポツリと言った。
「えぇ? それは、生きるためであり、より良い生活を過ごすためよ。出来た
ら、誇れるような地位にもつきたいし、歴史に残るような名誉や名声も欲しい
わ。それで金持ちにもなりたい。そう考えて大部分の人たちは生きているわ」
あたしは、極力一般的なことを言ったつもりだった。それは、あたしには望
むべくもない生き方ではあったが……。
私生児として生まれたあたしは、何か、ちぐはぐに生きてきた。周りのみん
なと違っていることに、物心ついたときから気が付いていた。だから、母を助
けるために一生懸命、良い子になろうとした。でも、その母は、すぐにあたし
を捨てて、知らない男について行って消えてしまった。そんなあたしが、人間
全般の生きる目的について話すなんてことは、できやしない。そう、だから一
般的なところを女神に言ってやったのだ。
「ほら、それがもう、とんでもなく間違えている証拠よ。地位、名誉、名声、
金持ちになること、より良い生活ってなんのことなの? それが人生を生きる
目的なの……?」
女神が揶揄するように言ってきた。
「金持ちになれば、何でも望みのものが手に入るわ。地球人の誰もが、そう思
っていると思うわ」
そう言いながら、あたしは自分で言っていることに不安になってきた。
「
“金(かね)
”ってなんなの? そんな物、このケンタウルス星系では存在
していない物よ。テラの歴史を見て行くと、太古の昔にも存在していたようだ
けれど、それって、テラ星人の妄想した空想的産物じゃないの? それに、地
位や名誉、名声にしたって、妄想から生まれた自己満足じゃないの?」
女神が言い切った。
「そこが人間の、動物とは違う、崇高なところなのよ!」
あたしは自慢げに言い放ったが、確かに、あたしには全く関係のないものば
かりだったので、言っていて不安はあった。
「テラ星人が進化の道を踏み外した根本原因が、そこにあるのよ。本来人間は、
快楽を求めて生きて行く生物なの。快楽とは当然、性的快楽のことよ。テラで
は、支配者のみが性的快楽を一人占めしてしまって、民衆にはそれを悪だと思
考させるように仕向け、性的欲求を別な方向に捻じ曲げてしまったのよ。その
方向とは、労働よ。つまり働くことね。それは、支配者に富を集中させるとい
う意味に他ならないことよ。
その、金をはじめとする疑似快楽によって、テラ星人はガムシャラに働くよ
うになり、自然を破壊して畑にし、他の生物の生存なんて無視して、人間のみ
が生活する空間を増やし続け、環境を破壊していった結果、沢山の勃興した古
代文明は一つとして生き残れずに滅び去ってしまったのよ。その歴史の果てに、
破壊し尽くされた現代文明が成り立って、次に、地球そのものを滅ぼそうとし
ているわ。何もかも、性的快楽を歪めて伝承させてきた悲劇なのよ」
女神が、何だか難しいことを話し始めた。
「知的に発達した人類は、本来その理解力によって、生まれた惑星を維持・発
展させるために働かなければならない存在なのに、テラ星人は、自らを破壊す
る癌細胞のようにテラ星を蝕んでしまったわ。
あと 50 億年は美しい緑のテラ星を維持できた筈なのに、人類が発生してから、
わずか 300 万年も続かないで、地球を滅ぼしてしまおうとしている。そんな悲劇
を、テラ星人は未だに演じ続けているのよ。
テラ星人が宇宙へ飛び立つ技術を身につけた段階で、次なる進化を迎えてい
なければならなかったのに、それは起こらずに、欲にまみれた巨大経済活動と、
超破壊的な戦争行為を野放しにし続けているからよ。
テラ星人が生き続けて行くためには、今の人口を最低でも 10 分の1に減らさ
なければ、生き残れないでしょうね」
悲しげに女神が語った。
「そんなこと、あたしに言われても困るわ」
突然、人類の原罪を語られても、あたしに何が出来ると言うの?
「それはそうよね、ごめんなさい。でも、私は、瀕死のテラ星を救う方法を、
こうして客人に教えているのよ。一縷の望みはあるわ。それを学び、貴女自身
がテラに向けて、その情報を語れば良いのよ。運が良ければ、誰かが聞いてく
れる。そこから救済の道を見出すかもしれないわ。テラ星人自らがね」
女神の口調が急に優しくなった。
「そのことと、男を奴隷として扱うことには何か因果関係があるのですか?」
あたしは、早く確信が知りたかった。
「大いにあるわ。それなくして、女性の進化はあり得ないでしょう。新しい人
類という意味の“ホモ・サピエンス”が次に迎える進化の階段は、神になるこ
とよ。それが、
“女神”という意味なの。神になれるのは女性だけ。男は、神
に仕える奴隷となることで、快楽を得られることになるので、何の不都合も生
じないわ。
ケンタウルス星系では、そうして人類は進化し、未来永劫繁栄することを約
束されたのよ。数十億年先までもね。ところが、進化の道を踏み外したテラ星
人は、テラ星そのものを道連れに、滅びようとしているわ。それも、残された
時間は、20 年とないかもしれない。だから客人には、ここで見聞きしたことを、
濃厚なエッセンスにして、テラ星に届けなければならない使命があるのよ。客
人が、ここに残された使命は、それなのよ」
あたしが今まで生きてきた、不幸で短い人生は、ここに繋がるために用意さ
れていたということなの?
でも、それはとても重要なことだし、偶然にしろ、ここに残
された、あたしにしか出来ないことなのね。
「驚いた? でも、それほど大変なことではないわよ。テラ星人は、ほんのち
ょっと、歴史の始まりに間違いを犯しただけなのよ。正すのは一つだけ」
女神は、悪戯っぽく微笑んだ。
「言って下さい!」
あたしは、女神の態度に腹が立ってきた。
「怒らない怒らない。それはね、男の性を管理すること。それだけで男の暴走
を抑制することができるし、女性が地球の全てを管理することも可能になるわ。
その男の性を管理することで、テラ星は救われ、再生できるかもしれないわ」
えぇ? それだけで。でも、どうやって?
「興味が湧いてきたようね。今からその方法を教えてあげますよ、客人」
相変わらず勿体をつけたような物言いだ。
「男の性的行動は、常に身体の内側から沸き起こって来るものなの。メカニズ
ムとして、精液が溜まってくると、それを排出しなければならない欲求が高ま
ってくるわ。その作用は、精液が溜まると性的衝動が高まるような機能が備わ
っているのね。その精液を、女性の身体の中に排出する欲求よ。
普段は、オナニーだけで精子を排出すればいいのだけれど、それだけでは生
物として子孫を残す役割は果たせない。だから、女性を求める衝動が、身体の
内側から強迫観念として湧き上がってくるの。その衝動によって、女性の身体
の中に、精液を排出しなければならない行動に走る訳よ。
男の内側から発せられた、この衝動を満足させるために、あらゆる手段を使
って、男は女性を獲得しようと、常日頃から行動しているのよ。原始時代には、
殆んど略奪によって、それがなされていたのよ。
そこで男共は、女を確保するために、自分の周りの女を保護すると同時に、
新しい遺伝子を求めて、他の部族の女も確保しようと、戦闘を画策するように
までなって行ったの。
新しい遺伝子を獲得するという行動も、生物本来の本能ね。でも、それが高
じて、争いから戦争へと発展したのよ。こうして男共は、性欲に翻弄されて、
他の生物は絶対に行わない、同類どうしの大量殺し合いとなる戦争まで起こし、
女の確保に躍起になっていくのよ。
ところが、国が大きくなり、権力を持った一部の男の中に、性の快楽を一人
占めしようとする権力者も現れて、女性を一人の男だけが囲い込んでしまう事
態が生じてきたわ。でも、一人の男だけが、女を囲ってしまうなんていう無茶
が通る筈もないので、性の快楽に代わるものとして、お金とか、宗教とか、そ
の他に地位だの名誉だの名声だの、といった無形の快楽を創造して行ったわ。
テラ星人の創造力のたくましさは、全宇宙の、どんな知的生物も及ばないほどに素晴ら
しすぎて、権力を持たない民衆は、まんまとこの妄想的産物に乗っ
かってしまったという訳ね。
特に〝お金”の創造は素晴らしいものだと思うわよ。お金さえあれば、全て
の快楽が手に入る、社会的な仕組みを作ってしまうなんて、驚くべき事態よ。
“お金”が交換価値のあるものとして権力者によって作られ、管理されている
うちはまだ良かったのだけれど、そのお金が独り歩きしたうえに暴走して、
“お金”が“お金”を生み出す、魔法のようなことを考え出す人間も現れて、
せっかく発展したテラ世界が混乱に陥れられてしまったのよ。
“お金”を物理の法則に従って管理することなんて不可能だということを、人
間は知っておかなければならないことだったのよ。だって、お金って空想の産
物なのよ。それを、あたかも現実にあるもののように取り扱おうとするなんて、
無謀すぎるわ。
権力を握ってしまった男共は、こんな無茶なことを平気でやらかしてしまう
未完成な生物だということに、女性たちは気付くべきだったのよ。だからこそ
女性がきちんと男共を管理しなければならなかったの。その管理方法は、
“ブ
ッダ(仏)
”によって、ソル星系にも伝えられている筈なんだけれど、どこか
で、その伝承は失われてしまったようね。
5万年の間に、無数の文明が勃興して、全て消えて行ってしまったテラ星で、
男の管理方法を伝承させることなんて不可能だったようね。だから、今から、
客人に教えてあげましょう。それは実に簡単なことなのだから女性は、それを
身に付けて、これからは男に煩わされることなく、快楽に満ちた暮らしをエン
ジョイすることが、次の進化を迎える条件なのよ。
そう、テラ星にも女権世界の芽が出て来ているようなので、そこに、客人に
教える知識を加味することで、もしかすると絶滅の縁で留まることができるか
もしれないわ。
客人が、遥々ケンタウルス星系にまで足を伸ばした甲斐はあったのよ。今か
ら、男を管理する方法を教えてあげるから、テラ星の女性たちに、それを伝え
ることが、客人に与えられた使命なのよ」
女神が一気にここまで語った。あまりの内容に、あたしの脳細胞は完全にパ
ニクッてしまっていた。
「力を抜いて。本当に簡単なことなのだから。それも楽しみながらやれること
なのよ。難しいことではないわ。
そう。方法はもう気付いているでしょう? “射精管理”よ」
女神が、あっさりと言ってのけた。
「いま話したように、男の性衝動は、男の思考を歪めて暴走させてしまう危険
性をはらんでいるものなの。だから、男を権力の座に置いておくことは、危険
極まりないことなの。テラ星の歴史の全てを見れば、自ずから解ることでしょ
う。だから女性は、一致団結して男の性を管理しなければならないのよ。その
最も有効な手段が“射精管理”なの。
射精を抑制された男は、射精を可能にすること以外考えられなくなるの。つ
まり、社会に対して余計なことは考えなくなるわ。そして、性の欲求を満たし
てくれる唯一の女性を心から慕い、やがては神として崇め奉り、そして自然に
女性の忠実な奴隷と化して行くのよ。
そう、男を完全に奴隷化することが、腐敗と汚辱にまみれたテラ星を救う、
唯一の手立てなのよ。一片たりとも性的快楽を男達に与えては駄目。徹底的に
男を辱めて貶めなければ、テラ星の滅亡は救えないし、女性も次なる進化の階
段を登ることができないのよ。
“射精管理”が男の抵抗を抑え込む唯一の手段として、最大限に有効な方法
になるわ。それによって、女性たちが奴隷に貶めた男から得られるものは、た
った一つだけ。それは男の上に君臨する優越感と、それによる性的快楽よ」
女神が、そう言い切った。
「つまり?」
あたしにも、なんとなく解ってきたような気がするわ。
「……つまり、テラ星を支配するのは、女性のみによってなされなければなら
ない、ということ。全ての男を奴隷化することで、それが実現し、テラ星を滅
亡の縁から救うことになる。
女性は、奴隷化させた男から、サディスティックな快楽を得ることで、次の
進化のステップを迎えることができるようになる。それを唯一可能にする方法
が“射精管理”なのよ」
女神が言葉を置いた。
「本当にそれだけなの?」
あたしは、余りに単純な結論に、つい、確認して聞いてしまった。
「そうよ! だから『簡単なこと』って最初に言ったでしょう。私達ケンタウ
ルス星の人間だって、この単純な方法を教えて貰ったのは、はるばる宇宙の深
淵からやって来た“ブッダ”(仏)達によってなのよ。
“ブッダ”達は、その
ことを伝えるために、はるばる星々を渡って、やって来てくれたのよ。ソル星
系にもそれは伝わっている筈なのだけれど、何かの原因で伝承が途切れてしま
ったのね」
女神は推測で話す。
「その管理方法というのが、現実世界の奴隷達のようなやりかたで、オナニー
を管理する方法なのですか……?」
あたしは、少し疑問に思いながらも聞いてみた。
「それも一つの方法ではあるわね。他にもやり方は無数にあるでしょうね。で
も肝心なことは、男にも教育を施し、女性に対する忠誠心を高め、勝手に射精
しないように自制心を高める環境を作ることね。
強制的に射精管理をする必要がある場合は、貞操帯を装着させるという方法
もあるけれど、男って意外と誠実な生き物だから、現実の“女神”に絶対服従
を誓わせれば、勝手にオナニーをしなくなるわ。人の心を育てるために教育は
必要になるのよ。
テラ星では民衆を支配するために、お金とか、地位・名声、神、そして道徳
心、だなんて架空のものを沢山創造し、並べ立てて、支配者はそれを利用して
使っていたけれど、ケンタウルス星系では、男共が現実の“女神”に仕えるこ
とで、自ら労働を提供するようになり、星の維持管理を任せられるようになっ
たのよ。
男の創造力、発想力、組織力、管理能力はとても秀でたものがあるわ。それ
は男自身の性的な高まりと直接関係しているのよ。性的に高まり易い男は、性
欲が高まることによって、その理論的な思考に多大なエントロピーを生じさせ
るの。それによって理論的思考の欠落が生じ、不可思議でとんでもない思考を
導き出してしまうの。それが男の秀でた想像力の原点なの。
だから、理不尽で無茶なことを言う男の思考に、理論性も正当性もないの。
そんないい加減な思考を撒き散らす男を、テラ星では野放しにして見過ごした
まま、国や世界や地球の管理を任せっぱなしにしてしまったのよ。当然、その
結果がどうなるかなんて見えているのにね。特に、性欲の高まりを発散できな
い男が、暴力性を増大させてしまっていることにすら気付かないなんて……。
男を奴隷として管理することが、人類を未来永劫に渡って存続させられる、
唯一の手段なのよ。そして、その先に来るのが、次なる人類の進化よ」
女神は一気に話した。
「それを教えてくれたのが、“ブッダ”
(仏)なの?」
あたしは、念のために聞いてみた。
「雌雄同体、パニスがありながら、心も身体も女。その逆も進化の過程で稀に
出現するけれど、それらは淘汰される。それが人類の究極の進化の状態ね。き
っと、全ての宇宙の中で、まだ一例しか、そこまで達成できた人類はいない。
その彼女達が全宇宙を巡って、人類になり得た知的生命体に、それぞれ生き
る術を教えて回ったのが、今から約5万年前。たまたま、ケンタウルス星系と
ソル星系は隣どうしなので、同じホモサピエンスとして教えることが可能だっ
たのでしょうね。無限の宇宙時間の中で、同時期に同じ進化を辿る星系が、隣
どうしに存在し合ったなんて、あり得ない奇跡よ。本当に運が良かったわ」
でも、その二つの同じ人類が接触することで、後々、不幸に繋がって行くこ
とになるんて、その時は想像もできなかった。何故そうなってしまったのか、
あたしには想像も推測もできないわ。
そこにちょうど、奴隷がお茶を捧げ持って入って来た。
木製のテーブルの、あたしたちの前に、一個ずつお茶の入った茶碗を置いた。
スッとする爽快な香りが鼻を擽る。
「盆はそこに置いて、足を揉んで。長く歩いてきたので疲れたわ」
女神がそう命令した。
奴隷が盆をテーブルの隅に置くと、屈み込み、女神の伸ばされた脚に手を添
えて揉み始めた。
「嗚呼、気持ちが良いわ。貴女もやらせたら?」
女神が勧めてくれた。
でもチャプランは、慣れない四足歩行で、ここまで一緒に這ってきたのだ。
あたし以上に疲れきっているだろう。そんなチャプランに、さらにマッサージ
まで命令するなんて、とてもできないことだわ。でもそれって、男を虐める手
段としては有効なことなのかしら? それが、まさに男を疲れさせて余計な思
考をさせない方法なのではないのかしら? その為に男を虐めて、サディステ
ィックな快楽まで感じることができるのかしら……?
「チャプラン。あたしの足も揉んで」
少し済まないと思いながらも、つい、チャプランに言ってしまった。
チャプランは無言で、
“奴隷の礼”から身体を起こし、あたしの足下に近づ
き、両手をふくらはぎに伸ばしてきた。
「テラ星の歴史には、とても不思議なところが沢山あるわ。歴史の中で共通し
ていることは、人間が性的快楽によっては生きていないことかしらね。それで、
性的快楽に代わるものとして摩訶不思議なものを沢山創造して、それが生きる
目標にされて、最大に重要視されてきたことよ。あんなものは男のオナニーす
る姿よりも滑稽に見えて仕方ないわ」
女神はあくびをしながら眠そうに目を細める。
女神の足を揉む奴隷は、とってもマッサージが上手そうだった。
「え? 何が滑稽なんですか……?」
あたしには想像もつかないことを女神が言い始めた。
「最たるものは、お金を溜め込むことね。それに、地位。そして、どうしよう
もないものが名誉かしらね。名声なんていうのもあったかしら?」
何を言い出そうとしているのか方向性が解らなくなった。
「もしかして、こちらの世界ではそういうものは、一切ないんですか?」
あたしは驚いた。
「ないわ。そんな空想の産物なんて。人間が生きて行く目的は、たった一つだ
けなのよ。それが性的な“快楽”。それだけで十分よ。それ以外のものなんて
必要ないわ。
テラ星の人間たちは、性的快楽を排除することに躍起になって、なんだか訳
の解らない空想の産物を生み出し、それを崇め奉り、それを得ることを人生の
目的に定めて生かされている。そして、その空想の産物を、さらに複雑なシス
テムで管理しようとして失敗を繰り返してきたのが、テラ星の歴史なのよ。
空想の富だとか、地位や名誉・名声の為に争いを繰り返し、殺戮を拡大し、
空想の欲望を膨らませるために、自らを滅ぼすほどにその技をエスカレートさ
せてしまったわ。それが、やがて戦争による侵略、略奪を拡大させて、それを
支えた巨大経済活動と戦争の道具による破壊がテラ星を覆い尽くし、全ての人
類を滅亡の縁にまで導いてしまったのよ。
全ては、性欲を抑制された男共が為したこと。そんな狂った男共に、世界の
運命を任せたままにさせてはいけなかったことにようやく気が付いたのかしら
ね……? テラ星の歴史の始まりの段階で、男を完全に管理しておかなければ
ならなかったのに、それができていなかったばかりに、今日に至る不幸がある
のよ。だから、男共を少しでも甘やかしては駄目。男はロマンという妄想のた
めには、命をも賭ける生き物なの。そんな男に世界の運命を任せてしまったか
ら、テラ星の女性たちは不幸になってしまい、テラ星の終焉にまで付き合わさ
れることになってしまっている。
でも、今からでも遅くはないのかもしれない。男共の“射精管理”をするだ
けで男は従順になり、女性に自ら尽くそうとするようになるわ。
“射精管理”
された男共は、射精以外のことは考えられなくなり、自然に女性の奴隷と化し
ていくのよ。
その反対に、女性は真の“神”となって男を支配することになるわ。それが
世界のあるべき姿、正しい姿なのよ。奴隷に貶められた男は、賢いかもしれな
いけれど、凄く単純で扱い易くなるわ。ただし、頭は良いから野放図にさせて
は駄目。常に抑制を与えておかなければいけないのよ。
だから、留守番をさせておく時には、行動範囲を制限するために手綱を短く
結わえて、たとえ家の中であったとしても、自由にうろつかないようにしなけ
ればならないの」
女神が、奴隷の扱い方についても説明してくれた。
「テラ星のワンダ女権国の女性たちが、そのことに気が付いたのなら良いのだ
けれど……。生まれたばかりの、この良心の芽を摘み取らせては駄目ですよ。
テラ星にとっての唯一の希望となることでしょうからね……。
嗚呼、あそこを舐めて」
付け足すように女神が、奴隷に命じた。
奴隷がマッサージを止め、股を開いた女神の股間に頭を埋める。
「
“射精管理”の重要さは解ったかしら? では次に、社会のありようについ
て教えましょうね。一番肝心なことは、子育てね。
人類の進化は、肉体的なものから精神的なものへと変化していかなければな
らないの。人間の体形は、進化の究極にまで達しているわ。もう、存在そのも
のが“美”と言っても過言ではないほどに進化を極めたわ。でも、男の下半身
の突起物は、いささか滑稽で恥ずかしわね。まぁ、それは奴隷だから許される
ことね。辱(はずかし)めるにはちょうど良いターゲットになるわ。
女性が精神的進化を迎えるためには、知的でなければならないのよ。それに、
分別もわきまえていないと、素敵な新人類にはなれないわ。女性の場合、分別
をわきまえるとは、人生の目的が快楽を求めることにあるということを自覚す
ることね。そして、最も手近な快楽は、奴隷によってもたらされることを意識
することかしら……。
嗚呼! 気持ちがいいわ」
女神が、性的昂りを感じ始めていた。
「奴隷を玩具として使いこなすこと、それが重要なことよ。
嗚呼…、お前の舌使いは本当に上手いわ…。
そう、こうして奴隷を快楽の道具として使いこなすことが肝心なのよ。そし
て、気分によっては、悪魔的に奴隷を虐め抜いて、サディスティックな快楽を
享受することもね。快楽を求める女性を、誰も咎め干渉することはないの。そ
れは、一人ひとりの女性が世界の中心にいて、それぞれの世界を自分なりに維
持しているから、その世界を否定するようなことはやってはならないの。
ここでは、他人を干渉しない。だから、他の人の意見に左右されることはな
いわ。だから自己心的に考えざるを得なくなるから、世界の中心に自分がいる
ことを自覚して人生を送らなければならないのよ。誰かの奴隷であったり、他
者の真似をしたり、他者のためになることを考える人生であってはならないの。
その為には強い精神力が必要で、また、それを直接表現する方法が、身近にい
る奴隷の存在なのよ。
奴隷にしても“女神”に虐められるだけの苦痛な人生であってはならなの。
“女神”に仕えることこそが、最大の喜びであり、それを快楽と感じられなけ
れば、奴隷はその存在意義を失うわ。その為にも、高次な精神力が必要とされ
るのよ。
人類の女男双方に求められることが、その精神的支柱を形成するための高度
な教育システムなのよ。その為に設けられたのが“子育ての国”なの……。
嗚呼、お前は、なんて舌使いが上手いんだ……嗚呼~!」
話の途中なのに、女神が昇天してしまった。
女神の話は、難解だったが、きっとそうなのだろうとあたしにも思えた。
女神は、ソファーに座ったまま手足を伸ばしきり、性の絶頂を迎え、硬直し
ていた。見ているだけでも羨ましい光景だった。
「チャプラン。あたしのあそこも舐めて」
あたしも連られて言ってしまった。
真っ裸なので、股を開くだけで良かった。チャプランがあたしの股の間を凝
視している。きっと、こんな命令を受けたのは初めてなのだろう。躊躇ってい
るチャプランの表情が、とても初々しく、可愛いかった。
さあ、あたしの股間に顔を埋めて、舌先を伸ばして、初めての経験をするの
よ。あたしも恥ずかしさで、全身がジンジンと痺れてきていたわ。これが羞恥
とも違う、少年を虐める快楽なのね。確かに羞恥心は、動物にはあり得ないこ
とだわ。知的な人間だからこそ意識できることなんだわ。
チャプランが、あたしの股の間に顔を突っ込んできた。金髪の陰毛に顔を埋
め、上目づかいで、あたしを見て恥ずかしそうにしている。そりゃそうでしょ
うね。こんな恥ずかしい行為は少年にとって初めてのことで、まごついている
わ。なんて滑稽な表情をしているの……。
「さあ、舌を伸ばしてクレバスの中に入れなさい、チャプラン」
あたしは、躊躇うチャプランに指示した。
すでに愛蜜を出してしまっている女陰の空虚な蜜壺を、チャプランの舌先が
一舐めする。
「嗚呼……?!」
一瞬、あたしは声を漏らしてしまった。
感じたのはその一瞬だけだったけれど、これがファーストコンタクトの衝撃
なのね。後は、意味もなくチャプランのたどたどしい舌先が空虚にクレバスの
中で蠢いているだけだった。
「左右の襞の中を舐めるのよ……」
チャプランに指導しながら舐めさせた。
それも、とても面白い行為だった。目の前のチャプランの表情が、なんとも
間抜けに見えて面白い。あたしの快楽のために、チャプランは性具になり果て
ている。チャプランの舌先が、女陰の左右の襞に添って蠢いている。
「嗚呼、良いわ。上のほうにクリトリスがあるから、そこを優しく舐めるのよ」
あたしは、舐め人形に徹したチャプランに、教える喜びを味わっていたが、
やがて舌先の動きが止まってしまった。
「どうしたの? ゆっくりで良いわ。舐め続けなさいよ」
あたしは、優しく言ってみた。時々は舌先が動く。しかし、継続して動くこ
とはなかった。もどかしい……!
「床に仰向けに寝なさい!」
疲れ果てたチャプランの舌先のもどかしさに、頭にきて命じた。
身体を股間から離したチャプランは、床の上に仰向けに横たわった。案の定
パニスはお腹につきそうなほどに勃起させていた。あたしは、その雄々しく膨
らんだパニスの真上に立ち、チャプランの顔を見下ろしながら、腰を落として
行った。
膨らみきって棍棒のようになって、お腹につきそうになっているパニスに手
を添えた。竿を起き上がらせ、あたしのクレバスの中に導いた。するりとパニ
スが、あたしの女陰に飲み込まれる。熱い肉棒が、あたしの中心で存在感を誇
示して感じられた。
若い男はすぐにイッてしまうものである。あたしは身体を前のめりに倒し、
チャプランの頬を数発、殴打した。頬を打つ音が、気持ち良く聞こえた。そし
て、首を絞め、チャプランの性的快楽を奪ってやった。
苦しそうなチャプランの顔を見ながら、あたしは身体を前後に動かしつつ、
チャプランの熱い肉棒の存在感を膣の中で十分に味わった。
嗚呼、良い。若い男の肉棒は、なんて新鮮で爽やかなの。苦し気に口を開け
て苦悶する、チャプランの表情も素敵だった。段々と昇り詰めていく快楽に身
を委ねた。もう長いこと、性的快楽を味わうチャンスがなかったから、今この
瞬間を思いっきり楽しみたかった。
「嗚呼~っ!」
全身を貫く快楽に、身体が硬直する。絶頂を感じ、声を漏らしてしまった。
チャプランの白目をむいた顔がおかしかった。両手をチャプランの首から離
し、身体を前傾させて、広く逞しい男の胸の上に顔を重ねた。チャプランの胸
が苦しそうに、大きく上下に波打っていた。その荒い息づかいも、男臭い匂い
も素敵だった。あたしは口から涎が零れ、チャプランの胸の上に垂れていた。
目の前の女神と一緒に、奴隷を玩具にして快楽に浸った。こんな日常の一場
面の中で、性的快楽を貪れるなんて、ここはなんて素敵なところなのかを実感
させて貰った。地球ではあり得ない、信じられないことでしょうね。
さらに女神が話を続けた。
「男を奴隷に貶めたからと言っても、女性と同じ人類に違いはないわ。ただ、
進化した先が違ってくるだけ。女性は現実の“神”となり、男は、それに仕え
る“奴隷”に進化するのよ。でも、その進化は高度な精神が発達してこそ迎え
られるものだから、子供時代には一緒に成長させて、大人になる時点で、それ
ぞれの進化の道を辿らせるために、次なるステージを用意しておくのよ。
“女神”へ進化する女性には、さらなる教育が施され、射精を覚えた“奴隷”
となる若者は、それぞれの任地となる、
“奴隷の国”か、現実の“森の惑星”
へ生まれ変わって、そこで新たな進化を迎えることになるの。
次なる進化を迎える高度な精神状態に達する為に、子供時代には豊かな環境
と、愛に満ちた生活を経験させておかなければならないのよ。
そのために、ケンタウルス星系では、
“子育ての国”と“夢の国”
、
“奴隷
の国”を、それぞれ3秒後の次元に用意しているわ。貴女は自分の目で、それ
らの国を覗いて確かめてきなさい」
女神が、そう言った。
後は女神の奴隷と、チャプランのたどたどしい舌奉仕で二人は喘ぎながら、
さらに快楽の縁に没頭していったわ。
数軒の草葺小屋の建つ集落の隅に、小さな小屋がひっそりと建っていた。そ
こが時間線を辿り、
“子育ての国”へと跳ぶ入り口だった。
“跳ぶ”と言って
も、ほんの6秒後(のち)の世界に行くだけなのだけれど……。
あたしは宇宙船で次元ジャンプを無限に繰り返してきた。あの異様な体感を
再び味わうことになったのだけれど、それでも、たった6秒間だけ。それでも、
あの不気味な、他の空間が身体の内に浸透してきて通過して行く、ジィワッ!
とした空虚感を久し振りに味わって、ぞっとしたわ。でも、たったの6秒よ。
宇宙空間を何カ月にも渡って航行してきたことに比べれば、へっちゃらだった
わ。
そして、すぐに“子育ての国”へ入ったの。
ドアを開けると、公衆トイレの障害者用の広い個室の中だった。小さな窓が
あり、そこから見える“子育ての国”の公園には、陽射しがサンサンと降り注
ぎ、目の前に広がる青い芝生には、沢山の子供たちがが歓声を上げて跳び回っ
ていた。何組もの夫婦がシートを広げ、楽しく遊び回る子供たちに目を細めて
いる。
しかし、おかしな世界だと思った。何故なら、全員がカラフルなファッショ
ンだったのだ。
あたしだけが全裸なので、トイレからは出て行けなかった。そのとき、ドア
をノックする音がした。
「セイラーさん!」
聞き覚えのある若く、低い声の男性が、あたしを呼んでいた。
「誰なの?」
以前、聞いたことがある筈なのに、その声の主を思い出せない。
「チャプランです。
“子育ての国”のガイドを任されました。ここを開けて下
さいセイラーさん」
セイラーさん、なんて初めてチャプランに言われたから、誰だか解らなくな
ってしまったのね。
「でも、あたしは全裸よ。ここは開けられないわ」
奴隷のチャプランに対して羞恥心が湧き上がり、そう答えるしかなかった。
それよりチャプランは何故あたしよりも先に、ここに辿り着けたの? そん
な疑問も頭に浮かんできたが、次元をジャンプするということは、時間にもズ
レが生じることだと思い出した。疑問に思うこと自体、意味がない。
「衣装をお持ちしました。少しだけドアを開けていただければ、隙間からお渡
しします」
落ち着いた声で、チャプランが言う。
「あたしが一人だからといって、突然開けたりしないでよ」
そう言いながら解錠した。
ドアをスライドさせ、20cm ほど隙間を作ると、その隙間から衣類の入った袋
が差し入れられた。中にはTシャツ、ジーパン、上下セットの下着にサンダル、
小さなバッグまで入っていた。全裸なので着替えは簡単だったが。なんだか、
久し振りにレディーになったような気がする。レディーとは程遠い服装だけれ
ど……。
外に出ると、公衆トイレの前にはカジュアルな服装のチャプランが立ってい
た。なんて素敵な青年。あたし好みじゃない。
「やあ、チャプラン!」
あたしから元気良く声を掛けた。
「セイラーさん、“子育ての国”へ、いらっしゃいませ」
「なんで、あなたがガイドなの?」
あたしに不満はなかったけれど、
“森の惑星”の若輩青年が、
“子育ての国”
のガイドを務められるなんて、何かおかしな気がする。
「僕は、ついこの間までここに住んでいたのです。ここに来て、そのことを思
い出しました。僕の家は、この公園のある隣町にあったのです。女神様に言わ
れましたが、前の家には別な子供が住んでいるから、行ったら悲しい思いをす
るかも知れないわよ、って」
声を落として、チャプランが説明してくれた。
「それは悲しいわね……」
チャプランに、少し同情してしまった。
「いえ、大丈夫です。僕は、その両親に、たっぷりの愛情を貰って育てられま
した。人間は過分な愛情を貰って育てられることによって、自立心を育てられ
ます。生まれた時から幼少期過ぎまでに、たっぷりの愛情を注いで貰えないと、
人の心に自立心は育たないのです。
“子育ての国”では、生まれてきた全ての
人間に、健全で暖かな家庭が用意され、そこでたっぷりの愛情を注がれて子育
てがなされているのです。それによって、最高の能力を持った人間に成長させ
ることができているのです。
知能指数も、能力も、才能も、全ては環境によって作られるものです。僕自
身も、そんな環境の中で育ちました。強い自立心が育っていますので、親に依
存して生きようとは思ってもいません。だから、この“子育ての国”が懐かし
くはあっても、再び戻りたいところだとは思ってません。僕は、もう自立した
大人なんです」
チャプランが、自信に溢れて語った。
そうなんだ。では、あたしの育った環境って、どうなの? 未だにどうしよ
うもない母親の面影を追って、安心感を得ようとして足掻いている。あたしが
育てられた環境が、最悪だったことは解るわ。だからなのね、この自立しない
心は。
「良いわね~。あたしなんて、しょっちゅう親に殴られて育ったのよ。親の目
ばかり気にして、いつも良い子でいようと努力したわ。それでも、親には打た
れたわ。あたしは生まれながらにして悪い人間なんだと思ってきた。子供って
未熟で悪に満ちた存在だから、もし、あたしが親になることがあったら、やっ
ぱり子供は殴って、きちんと育てなければならないと思っているわ。躾のため
なら、殴らなければ子育てはできないと思っていたわ。あたしの母親が、そう
やって、あたしを育ててきたの。だから、あたしにも、同じようにしかできな
いと思う。
ねぇ、愛情たっぷりの子育てって、どうするの?」
あたしが今まで思ってきた育児観を話してみた。
「それは間違いです。殴ることは暴力です。暴力は快楽を生みます。躾と暴力
に境はありません。いたいけな子供を殴ることで親が快楽を感じてしまったら、
それが麻薬と同じように作用して、子供を殴らずにいられなくなります。それ
は躾とは無縁の行為です。だから躾と称して子供を殴る行為は、麻薬常習者と
同じことになるのです。だから絶対にやってはならないことなのです。
人間の次なる進化とは、健全に発育した心によって進化の階段を一段、上る
ことなのです。人間には本来、動物と違って子離れの儀式は必要なかったので
す。テラ星の歴史の中では、どこでも子離れの儀式が行われてきました。それ
は、間違った子育てにより、自立心を発育させられなかった大人たちが、無理
やりでも子離れさせる必要に迫られて行われてきた儀式なのです。暴力という
名の躾けで成長させられた人間によって、社会が形作られて行くテラの文明は、
異常な方向に発展せざるを得なかったのです。
テラ星では、色々な形の子離れの儀式が見られます。それは愛情たっぷりの
子育てが難しい社会環境であったから、仕方なく儀式に頼って、強制的に子離
れを演出する必要があったのです。テラ星の人間達は、愛情によって大人に発
育できなかったので、知識や知恵によって大人になろうとしたのです。だから、
身体に教え込まれた暴力的な子育ては、次の世代になっても捨てることができ
ずに受け継がれていく悪弊となって、いつまでも継承されて行くのです。
子育てに暴力は絶対に必要ありません。テラ星の歪んだ歴史は、成長できな
かった大人が抱えた、不要な欲望と狂気によって作られてきたのです。だから
テラ星人達は、きちんとした子育てができる環境を、次なる進化を迎えるため
にも、その土壌を作らなければならないのです。
暴力による快楽を享受できるのは、大人に成長できた女性だけに認められる
べきものなのです。それが“女神”様の存在なのです」
チャプランが、長々と子育て論を語った。
チャプランって、なんなの? あたしは感心して聞き入ってしまった。地球
人の子育てが完全に間違っているということなの?
成人の儀式を経ないと、
子供は大人になれないということなの? あたしはまだ子供だから、いつでも
母親のところに帰りたいと思っているわ。成人の儀式が終わるまで、あたしは
子供よ。だから、それが許されるのよ。でも、あたしより若いチャプランは、
もう自立できていて、親に甘えるなんて考えてもいないと言う。
あたしはそんな目で、この“子育ての国”を見て回ったわ。本当に親子の愛
情が満ち満ちていて、微笑ましい光景にも沢山出会えたわ。両手で両親にぶら
下がって、真ん中で歩いている子供の不安のない笑顔。それを楽しげに見つめ
る両親の優しそうな眼差し。あたしの過去には存在し得なかった豊かな子育て
が、この“子育ての国”には満ち溢れている。なんて羨ましい光景なの……。
あたしとチャプランは自転車を借り、隣町にあるチャプランの育った家に向
かった。郊外の住宅街にその家はあった。家から少し離れた高見の芝に二人で
並んで座り、その家の様子を窺っていた。
しばらくすると、4人の子供が家から走り出てきた。十代前半の女男と、5
~6歳くらいの、やっぱり女男の子供だった。
「
“僕”の妹と、弟たちです」
チャプランが“僕”を強調するように、アクセントをつけて言った。
子供たちが出て来た後に続いて、大人も二人、家から出てきた。夫婦のそれ
ぞれが、小さな生まれたばかりの赤ちゃんを抱えていた。
「新しい家族が増えています。それも双子の赤ちゃんだ!」
チャプランが嬉しそうに、声高に言った。
走って出て行った4人の子供たちは、近所で群れ遊ぶ子供たちの集団の中に
吸収されようとしていた。
「僕の家庭は、大家族でした。まだ、お婆ちゃんに、お爺ちゃんまでいるんで
すよ。家の周りも同じような大家族ばかりで、毎日、時間も忘れて遊び呆けて
いました。
学校に上がっても、とても楽しい日々が続きました。授業は個別に行われ、
個人の特性とレベルに合った勉強プログラムが用意されていて、最初は勉強に
集中する術を学びました。それから沢山の知識を詰め込まれ、それを元に同級
生達とディスカッションさせられました。本当に頭が膨らんで行くように感じ
られたほどでした。友達との遊びも楽しかったなぁ~」
子供時代を思い出すように、チャプランが語っていた。
「13 歳になり、男の性について教えられました。実習として、オナニーを実際
にやってみました。1回だけ、ですけれど……。
その時、初めて“女神”様の存在を知りました。モニターの中から、美しい
大人の女性が全裸で立っている姿が浮き出ていました。その美しさに、頭の中
がムラムラとしてしまいました。そしてパニスが大きく膨らんで反応していま
した。
“女神”様は、
『驚くことはないわ』と仰いました。
“女神”様は、太くなったパニスの竿を握り、前後に動かすことを教えてくれ
ました。それが“扱く”という行為で、この動作を“オナニー”と呼ぶのだと
教えてくださいました。そうやって扱いているうちに、パニスはさらに硬く大
きくなり、段々と気持ちが良くなってきました。
“女神”様に、そのことを伝
えると、扱くのを止めるように言われました。
でも、昂って来た気持ちに、その行為を中断することができませんでした。
扱き続けていると、
“女神”様が怖い声で、僕を叱りました。それと同時に、
椅子に座っていたお尻に、強烈な電気の痺れが襲ってきました。
僕は、慌ててパニスを握り締めたまま立ち上がりました。痺れでビックリし
た拍子に、パニスは萎えてしまいました。モニターの中の“女神”様が、声高
らかに笑われていました。お美しい“女神”様の立体映像を前にして、僕は恥
ずかしい気持ちでいっぱいになりました。でもそれは、とても甘美で、パニス
が痺れるような快楽を伴うものでした。
“女神”様から、その行為を続けると、
さらなる快楽が与えられ、亀頭の割れ目の鈴口から、オシッコとは違う白い精
液と呼ばれる液体が出てくることを教えて貰いました。その時に、オナニーをする許可を
求める儀式のやり方を教えて貰ったのです。
それには“女神”様を讃える言葉を1万回唱えることでした。最後に“奴隷
の礼”のまま、射精させて貰えるよう懇願します。そうすることで、射精する
許可を与えていただける、と“女神”様に教えていただきました。
立ったままでいた僕に、直接、床に正座するように指示されました。そして
手を頭の前まで伸ばして、床に長く着け、顔も床に着けたまま、お尻だけ持ち
上げる形を作るように指導されました。それが、
“奴隷の礼”の形でした。
次に、モニターの中から立ち上がられている“女神”様に向かって、
“女神”
様を唱える、お祈りのお言葉も教えていただきました。それが、オナニーの許可を求める
儀式のやり方でした。
初めてのオナニーなので特別に、1000 回のお祈りで、射精許可を出していた
だけることになりました。それで、狭い学校の特別教室の中で、慣れない“奴
隷の礼”の格好のまま、顔だけをモニターの中から飛び出して映る、お美しい
“女神”様に向かって、
“女神”様を讃えるお祈りの言葉を 500 回繰り返して唱
えました。すると、残りの 500 回のお祈りは、家に帰ってからやるように指示さ
れました。そうしたらオナニーの許可をだして貰えると言われました。ただし、
オナニーはとても恥ずかしい行為なので、絶対に誰にも見付かってはならない
とも教えていただきました。
特別教室を出て学校から去る頃には、真っ赤な空を見せる夕方になっていま
した。綺麗な夕焼け空が、印象的に心に残っています。
500 回のお祈りを唱えるのに、2時間以上も掛かっていたのです。学校には、
もう誰もいなくなっていました。
それで、家に帰る途中で気が付いたのですが、僕の家の子供部屋は、2段ベ
ッドが二つ並べて置かれ、4人の子供が一部屋で寝起きしています。勉強も居
間の大きなテーブルに集まって、みんなでやっていました。モニターは、お父
さんの部屋にしかありません。どうやって“女神”様に向かってお祈りしたら
良いのでしょう? みんなに見られずにオナニーしたりする場所なんてどこに
もありません。僕は家に帰り着くまで、そんなことを考えて、不安で仕方あり
ませんでした。
すると家に帰り着くと、一つだけ“開かずの間”というのがありました。そ
の部屋のドアの上に“チャプランの部屋”と書かれたプレートが貼られていま
した。突然そこが、僕の部屋になっていたのです。僕は喜び勇んで、その部屋
のドアを開けました。部屋の中には低い小机があり、モニターが1台だけ置か
れていました。椅子はありません。モニターが自動的に立ち上がって、
“女神”
様のお美しい彫りの深いお顔が、モニター画面から飛び出て僕を見つめられて
いました。慌てて僕は、さっき習ったばかりの“奴隷の礼”をして、床に這い
つくばりました。
『お祈りの言葉を唱えなさい』と、モニターの中の“女神”様が仰いました。
僕は、
“奴隷の礼”の格好になり、床から顔だけを持ち上げて、モニターの
中から見詰められる“女神”様のお美しいお顔を見つめ、
“女神”様を讃える
言葉を 500 回唱えました。さっきも首を上げたままの格好でしたので、首筋が
痛んでいました。その痛みが続いていたのに、さらに 500 回もお祈りするのは、
とても辛いことでした。でも目の前で飛び出して僕を見られている、お美しい
“女神”様に魅せられて、恥ずかしさで一杯でしたが、目が離せませんでした。
そうやって、全部で 1000 回のお祈りの言葉を唱え終わりました。最後に、射
精のご許可をいただくために、申告の言葉を申し上げました。
『“女神”様、どうぞ、射精
のご許可をお願い致します』と。
すると“女神”様から、全裸になるように言われたのです。僕は立ち上がり、
服を脱いで裸になりました。お美しい“女神”様に見つめられて、僕のパニス
はビンビンに立ち上がっていました。 裸で、眩し気な肌を見せている“女神”
様に、
『なんていやらしいパニスなの?』と、揶揄されました。僕は、とって
も恥ずかしくなっていて、何もお答えすることができませんでした。そして大
きく膨らんだパニスを握りしめて、学校で習ったとおりに一生懸命にパニスを
扱きました。
すぐにパニスの先に、性的な快楽が訪れ、鈴口に透明の液体が溢れてきまし
た。そのまま昂った頂点で爆発させてしまいました。初めての凄い快楽が全を
駆け抜けました。亀頭の先の鈴口から、凄い勢いで、真っ白な精液が噴出して
飛び散っていました。
こんなに凄い快楽を感じたのは初めてのことでした。本当に驚きでいっぱい
になりました。白い精液はその後も続けて鈴口から、ドクドクと溢れ出してい
ました。
『おめでとう!』と“女神”様が仰ってくださいました。そして、放
心状態の僕に、今日からは大人として、現実世界の惑星を守るために働きなさ
い、と言われました。一生懸命に働いてお祈りすれば、またオナニーの許可を
与えられます、と教えていただきました。
立つように言われ、入り口の反対側にもドアがあるので、そちらから出るよ
うに、
“女神”様に指示されました。僕は言われたとおりに立ち上がり、反対
側にあったドアに向かいました。
一瞬、身体の中を別な空間が通り過ぎて行くような、不可思議な感覚を味わ
いました。
そうだ、思い出しました。森の洞窟を通ってここに来る時に感じた、あの感
覚と一緒です。そして、奥のドアを開け、僕は外に出ました。
新世界(理想郷)
「外は、薄暗い森の中でした。
ドアは、巨大な岩の祠に取り付けられいました。ドアを閉め、僕は新たな世
界に希望を持って出て行きました。
もう僕は、子供ではなくなったんだ、と自覚していました。この先に何が待
っているのか、まったく見当も付きません。でも素敵な森の中でしたので、不
安は感じませんでした。未来は“女神様”によって約束されているのです。そ
れに、またオナニーを許可してもらえれば、射精させていただけるのです。そ
れで何の不安も感じませんでした。
何時間も、森の中をうろつきまわっている内に、全裸の大人の男の人に出会
いました。
『おお、生まれて来たか。おめでとう』
その大人の人が言ってくれました。その時、僕には過去の記憶がなくなって
いることに気が付きました。僕が何者なのか、どこから来たのか思い出せなくなっていた
のです」
チャプランが、長々と語ってくれた。
「そうだったの。それを今、思い出したのね。せっかく戻って来たんだから、
両親に会って行かない?」
あたしは余計かもしれないけれど、チャプランにはどうしても両親に会って
行って欲しいと思った。
「大丈夫です。僕は、たくさん愛されて育ちました。だから、今さら会う必要
なんてありません。こうして遠くからでも見守ることができて、幸せだった過
去を思い出せただけでも、胸が温かくなりました。それに、僕が突然に現れた
ら、両親のほうがビックリして困惑してしまうでしょう」
そう言いながら、少し微笑むチャプラン。
あたしには両親との温かな思い出なんてなかったので、チャプランの気持ち
は推測できなかったけれど、せっかくこんなチャンスを手にしたのだから、チ
ャプランには両親と対面して欲しかった。あたしには巡って来ることの無いチ
ャンスなのだから。
「愛情を注いだあなたに会えたら、両親は喜ぶと思うわ」
さらに余計な口添えをした。
気が付くと、赤子を抱いたチャプランの両親がこちらに向かって近づいてき
ていた。あたしたちを見つけると顔を歪めて微笑んでいた。
「ほら、見つかっているじゃない、チャプラン」
あたしは教えてあげた。
「行きなさい」
つい、胸が熱くなって促した。
思春期で、恥じらいばかりを胸にいっぱい詰め込んでいるチャプランは、モ
ジモジしながらも、近寄って来る両親のほうに歩き出していた。あたしもチャ
プランの後ろに付いて、二人の大人に近づいて行った。
「チャプラン、お帰り」
赤子を抱いた夫人が、満面の笑みを湛えて声を掛けてくれた。
「ママ……」
少年のようにはにかんむチャプラン。
「ついさっき、連絡があったんだ。チャプランがお客様を連れて帰るって」
やはり可愛い赤子を抱え、横に並んで立つ父親が言った。
「パパ」
「どうぞ我が家へ。お客人も」
父親があたしを見て、声を掛けてくれた。
家族との温かな交流の経験もないあたしにとって、忘れ得ぬ家族の温かさを
経験しているチャプランが羨ましくもあり、喜ばしくもあった。
チャプランの育った家まで、あたしは付いて行った。
「僕が居なくなった日、驚いたんじゃないの?」
チャプランが言った。
「いや、授業のプログラムの進み具合は解っていた。特別授業が行われる日が、
大人として旅立つ日なんだ。だから“開かずの間”に、
“チャプランの部屋”
と、プレートを貼り付けておいたのさ。子供が大人として巣立つことは、親に
とっての喜びでもある。本心は寂しいけれど、必ず迎える成長のプロセスなの
だから、わたしら夫婦にとって、やはり大きな喜びだったんだよ、チャプラン」
父親が語る。
丘陵の下のほうに数軒の家が建ち並び、どの家も綺麗な庭を見せている。そ
の中の一軒にチャプランの育った家があった。こんなに素敵なところで育てら
れたら、さぞ良い人間に育つだろうと、あたしには思えた。
あたしのように、社会から除け者にされ、社会を恨んだまま、生きる術も解
らないで、気が付けば犯罪者になってしまった育ちとは、余りに違い過ぎた。
チャプランの落ち着いた冷静な行動は、こんな素敵な成長過程を経ているから
なのだと思えた。
素敵な一軒の家に入り、居間の大きなソファーに、あたしとチャプランは並
んで腰掛けた。あたしの向かい側に父親が座り、母親がお茶を入れて、あたし
たちの前に置いてくれた。素敵な香りが、あたしを包んでくれた。
「この“子育ての国”では、何が行われているのですか?」
「名前のとおりです。生まれた子供を、大人になるまできちんと育て上げるこ
とです。それが、この“子育ての国”が存在する理由です」
父親が端的に答えてくれた。
「人間は、たっぷりの愛情をかけて育てられることによって、自立心に富んだ
一人前の大人に成長することが出来るのです。チャプランは特に出来が良かっ
たので、現実世界の“森の惑星”の“守り人”として、そこに行かされたので
す。沢山の子育てをしてきたけれど、“森の惑星”の“守り人”になれる男の
子は少ないんですよ」
さらに母親が、少し自慢げに口添えをする。
「女も男もわけ隔てなく一緒に育てられているのに、どうして男は“奴隷”で、
女が“女神”になるんですか? それってとても不公平に思えるんですけれど」
「それは、テラ星人のようにならないためですよ。隣の星系に住む、貴方がた
人類は、いま瀕死の瀬戸際に居ます。人間の間違った欲望を全て解放してしま
っては、惑星は窒息して死んでしまうでしょう。貴方がた人類の祖先が発生し
てから数百万年、そして数十万年前に原人が発生し、地球上を人類が覆い尽く
すようになって、たったの5万年しか経っていないというのに、もう文明が行
き詰まってお仕舞いになり掛かっているなんて、信じられない進化を遂げています。
ケンタウルス星系に発生した私達人類は、今後、惑星の寿命である 50 億年先
までも生き永らえるでしょう。勿論、未来永劫、今のままの形の人類ではあり
得ないでしょうけれど。
ゆっくりとした進化ではあるけれど、既にテラ星の人類が達成できなかった、
精神的進化の段階を5万年前に登っているのです。
テラ星では、間違った欲望を文明の根底に据えてしまったために、人々の心
は不安で満たされ、あらぬ方向に文明が発展してしまった。その結果、今、滅
亡の縁に立たされている。それでも微かに救いの望みがない訳ではない。
お客人が、この星系まで飛んで来られたことが、一つの奇跡でしょう。同じ
くテラ星でも奇跡が起こっています。お客人がここで知り得たことを、テラ星
へ少しでも伝えなければいけない。奇跡と奇跡が重なることで、テラ星は救わ
れるかもしれない。お客人の役目は重要なのよ」
母親が続けて語った。
あたしは緊張してしまった。地球の運命を、アバズレでしかない、あたしに
託そうって訳?
「では、地球の何もかもが間違っていた、ということなの?」
あたしは聞いてみた。
「そうですね。テラ星では実に不思議な世界を作り上げてしまっていますね。
実態のない、“お金”というものに最大の価値を与えて、それを巡って社会を
混乱させている。具体性のない“神”などというものまで祭り上げて、それを
支配の道具に使いながら、不安に陥った民衆の心を捕え、社会秩序を維持して
いたり、地位とか名誉とか、名声といった、何ら具体性のないものを心の糧に
して、それを目標に無理な労働を強いられたりしています。そんな、現実に存
在しないものを心に満たされて、さも満足気に心の安定を図ろうとしている。
そして、
“お金”などという存在しない空虚なものを貯め込もうと、無駄な数
字を並べたてて理論化してさらなる欲望を積み重ね、最後には数式化すること
に腐心ばかりしている。
“お金”などという富は、初めから存在していないも
のなのだから、どんなに一生懸命考え尽くしたところで、コントロールするこ
とも、その先を読むこともできないということに気付かない。
求めていることは、快楽の筈なのに、不満と憎悪だけを募らせて、人間どう
しで殺し合う歴史を数万年に渡って積み重ねてきたのよ。どこにも心の安定は
ないわ。いつも死の縁を歩くだけの人生を人類みんなで共有する、それだけが
テラ星人の共通の基盤となってしまっている。そんな生き方が当たり前だと思
っているのでしょう? お客人も」
夫人が、長々と語った。
「ほかにどんな選択肢があったと言うのですか? あたしに解る筈がないわ」
率直に訊ねた。
「人が生きる目的とはね、
“快楽”なのよ。テラ星人は、それに素直に従うこ
とができなくなってしまっているの。テラ星を支える文明が、快楽を拒否する
ことから築かれてしまったことが根底にある間違いなのよ。文明が、恐怖の絨
毯を敷いた上に成り立っているの。だから、快楽は許されない行為とされてし
まったのよ。そして、恐怖が戦争を招き、現実の恐怖を人々に味わわせる結果
になっている。文明が戦争によって急速に発展してきたように言われているけ
れど、それは支配者が戦争を肯定させるためについた嘘。築いては壊す、賽の
河原がテラ星の現実なのよ。鬼は恐怖への疑心暗鬼。狂った生物は、自然界で
淘汰される運命にあるの。あと何年もつのでしょうね、テラ星人の末期まで。
お客人がテラ星の人類にもたらす情報が、テラ星を救う重要な情報になるか
もしれない。その芽がない訳じゃないんだから……。きっと、お客人がここを
訪れた意義は果たされるでしょう。そう信じなさい。信ずることは空想ではな
い、快楽への道しるべなのよ。それが正しい思考のあり方なの。快楽を求めな
さい。それが浸透することで、テラ星の再生に繋がって行くわ」
夫人が、そう教えてくれた。
「大丈夫よ。きっと、客人のもたらす情報が、テラ星で生かされるわ。心ある
人は、肝心な情報は漏らさないものよ。さあ、“奴隷の国”に行きなさい。本
当に残された時間は少ないのよ、テラ星にとって……」
夫人は立ち上がり、あたしたちを手招きした。
あたしとチャプランは立って、その後に従った。夫人は部屋を出る前に、机
の上の小箱から何か小物を取り出していた。
廊下に出ると、その突き当たりに小部屋があった。“チャプランの部屋”と
プレートがドアに付いたままだった。前にチャプランが話していた部屋だと気
が付いた。
夫人が、あたし達を振り返ってチャプランを見つめた。
「チャプラン。素敵な“女神様”に出逢えましたね。しっかりとお仕えして、
支えて差し上げなさい。あなたを育てたことが、私達夫婦の快楽だったのよ。
今度はチャプランが、“女神様”に快楽を与える番よ、頑張って。チャプラン
は、わたし達夫婦の希望、快楽なのよ」
夫人が熱い眼差しで、チャプランを見つめた。
すぐに前を向いてその小部屋のドアを開けると、中は、チャプランが以前話
していた通りの小さな子供部屋だった。ただ、ディスプレイも、それを置いて
いた小机もなく、ガランとしていた。
「チャプラン、全部脱いで裸になりなさい。あなたも行ったことがない“奴隷
の国”へ行くのよ。そこでは辛い思いをすることもあるでしょう、でもそれを
快楽と感じられるようになれば、チャプランも一人前の“奴隷”になれた証よ。
そして、男に与えられた使命を果たすのよ。それが“奴隷”に堕とされた男の
快楽なのだから。頑張りなさい、チャプラン。きっと快楽は訪れますよ」
夫人はそう言ってチャプランに近付き、着衣を脱がし始めた。
“森の惑星”
の“守り人”だったチャプランは、なされるままに全裸になった。
「女神様の前では四つん這いで居るのよ。その前に、これを付けなければね」
夫人は、さっき手にした小物をかざして見せた。小さな赤い模様が浮き出た
輪だった。子猫の首輪のようにも見える。
「さあ、チンポの根元に、これを着けましょうね」
夫人が屈み込むと、チャプランのパニスに手を添えて、その輪を装着させた。
チャプランはただ動けないままで居た。
「このリールをつければ完成ね」
夫人が細い手綱を、輪の突起に取り付けた。
「チャプラン、四つん這いになりなさい」
夫人が子供を諭すように言うと、チャプランは素直にそれに従って、身体を
伏せて四つん這いになった。
夫人は、チャプランの股間から伸びるリールを差し出してくれた。
「チャプランをお願いします。虐める時は手加減せずに思いっきりやって下さ
いね。そのほうがチャプランも、早くマゾの快楽を感じられようになるでしょ
う。そして、それが客人の快楽ともなるでしょう。
チャプランの成長したパニスを見ることが出来て嬉しかったわ。この先も楽
しみが続くことでしょう。さあ、行きなさい」
夫人に促され、小部屋に入った。チャプランも四つん這いでついてきた。
「反対側にドアがあります。そこから出て行きなさい」
最後に夫人が言って、ドアを閉めた。
別次元が身体の中を通過して行く不快な感覚を、3秒間ほど感じた。
そして、辿り着いた反対側のドアを開けると、黄色い照明が狭い赤煉瓦造り
の廊下を照らしていた。
ここは、どこかの施設の中なのだろうか? それに男の呻き声が幾つも重な
り合って聞こえてくる。あたしは恐ろしくなったけれど、次なる世界への興味
から、湿っぽい廊下に一歩踏み出してみた。男の叫び声が良く聞こえてきた。
叫び声と重なるように、鞭が肉を打つ重い低音のリズムまで廊下に響いていた。
嗚呼、なんて恐ろしいところに来てしまったのだろうか。あたしは踏み出す一
歩に辛さを感じた。
赤煉瓦に覆われた廊下の角を曲がると、鉄格子の嵌められた部屋が幾つも並
んでいた。男の叫び声や鞭の音は、その鉄格子を嵌められた部屋の中から聞こ
えてきていた。最初の鉄格子の嵌った部屋を覗くと、天井から男が吊られてい
る。両手は、天井から下がった鎖に結び付られ、身体がピンと伸びて引張られ、
爪先立ちしている。男の身体が鞭打たれる度に、くるくると回転していた。
「よし、今日の鞭打ちはここまでだ。良く耐えた。パニスも立派に勃起してい
て良い感じだ」
黒いビキニスタイルをした妖艶でエロティックな金髪の女性が、長い一本鞭
を握りしめて、男に向かって声を掛けていた。
「………」
惨めに吊り下げられた男が何かを呟いたが、まるで聞こえない。
「声が小さい!」
美しい女性が大きな声を上げ、鞭を男に走らせると、男の胸に鞭先が命中し、
心地よい鞭音が響きわたった。同時に男も、素敵な音色の長い叫び声を上げる。
「女神様。鞭打ちを、ありがとうございました~っ!」
声を張り上げ、男が叫んでいた。
「よし、良い声だ」
妖艶な女神が男に近づき、男の中心で勃起するパニスを強く握り締めた。
「うぅ……」
溜息にも似た呻き声が漏れる。
「射禁は、何日目だ?」
女神が男の耳に声を掛ける。
「ちょうど 10 日目です、女神様」
「そうか。では、もう 10 日我慢しろ。射精は 20 日目に許可してやる。それまで
粗相のないように奴隷の使命を全うするんだぞ。もし粗相があって、射禁が 30
日に延長されたら辛いぞ…。頑張るんだな」
女神が、男のパニスを扱きながら言っていた。
可哀想な若い男は複雑な表情を見せながら、なすがままに吊られていた。女
神が、男の横に垂れ下がっている鎖を引くと滑車が回り、吊られた男の手が下
がった。しかし男は、足先で体重を支えるでもなく、膝を折って床に倒れ込ん
でいった。床に完全にうつ伏せになった男はやっと身体を起こし、奴隷の礼の
形をとっていた。
「女神様。今日の鞭打ちを、ありがとうございました」
男が、恭しく言っていた。
「よし、しっかりと出来てきたようだ。近々、奴隷市場で競りにかけてやろう。
どんなご主人様に買われるか楽しみだな」
床で奴隷の礼をする若い男に声を掛ける。
「ありがとうございます、女神様。素敵な女神様にお仕え出来るように頑張り
ます」
床につけた顔を少し持ち上げて男が言うと、一本鞭から乗馬鞭に持ち替えた
女神がすかさず男の背中を打った。
「余計なことは言わない。女神様を評価するようなことを言ってはならない。
奴隷はお仕えする女神様に、忠実に従うことだけを考えろ。さあ、戻れ!」
若い男が膝立ちして体を起こし四つん這いになると奥の出口から出て行った。
「客人、お待たせしました」
女神は微笑みながら、鉄格子越しに見つめる、あたしを振り返った。あたし
はホッとした。こんな怖そうな女神に何か尋ねなければならなくなったらどう
しようって思っていたところだったのよ。
「こんにちわ。あたしたちが来ることは知っていたの?」
月並みなことを聞いてしまった。
「ええ、
“子育ての国”から連絡は貰っていたわ。いつも、新しい青年がこち
らに送られて来る時は連絡が入るのよ。そして、その扉から入って来た青年達
を、奴隷として仕えることが出来るように、ここの初心者奴隷調教施設で調教するのよ」
女神が、この建物の用途を教えてくれた。
「そうだったんだ。
“子育ての国”で成長した青年達は、ここで奴隷の訓練を
受けてから、奴隷になるんですね。同年代の女性達はどうするんですか?」
そう、
“女神”になるには、どうするわけ?
「同じように、各家庭にある、
“開かずの小部屋”から“夢の国”へ繋がって
いるのよ。そして同じように、
“女神”になる教養を学ばさせるの。勿論、鞭
で打たれて教育されることはないけれど、鞭の使い方は教えているわね」
その女神は、あたしの思っている先まで読んで答えてくれた。
「さあ、立ったままでは話しづらいわ。真っすぐ行って曲がったところに応接
間があります。そこのソファーに座って待っていて。すぐ行きます」
女神はそう言うと奥へ消えた。残されたあたしは仕方なく、煉瓦の廊下に並
ぶ檻の横を歩き、言われた応接間に向かったのだけれど……、次の檻の中を見
ると、磔台に拘束された若者が、両手両足首をX字に開いて晒されていた。次
の檻では四つん這いになった若者が、背中に女神を乗せて体中から汗を滴らせ、
女神の重さに耐えて這い擦り回っていた。そして、その次の檻の中では、美し
い女神に顔面騎乗された若者が、お尻の下に潰され呼吸を止められて悶えてい
た。最後の曲がり角の手前の檻では、幻想的な蝋燭の光が幾つも揺らめいてい
た。良く見ると、数人の若者が直立して、顔を上に向けている。その青年の口
には、太くて長い蝋燭が咥えさせられていて、蝋燭の先には炎が揺らめいてい
た。とても幻想的だったけれど、青年達のパニスは勃起し、とても卑猥な燭台
となっていた。
こうした5つの檻が並んでいて、この建物全体ではいったい幾つの調教部屋
があるのか、想像も出来なかった。
角を曲がると、ドアも鉄格子もない開かれた部屋があり、中にソファーが見
えたので、女神に言われたとおりソファーに腰掛けて待つことにした。
でも、四つん這いになってついてきたチャプランの顔を見ると、今にも泣き
そうなほどに歪んでいた。よっぽど怖かったのね。チャプランの恐怖は、あたしにも伝わ
ってきていた。
チャプランは、現実の“森の惑星”の“守り人”となり、そこに生まれ変わ
ったが、それはたまたまそうなっただけの違いでしかなく、こちらの“奴隷の
国”に生まれたとしても、なんの不思議もないことだった。その違いは、運だ
けなのかもしれない。チャプランは単に運が良かっただけなのだろう。あたし
にはそう思えて仕方なかった。
あんな過酷な調教シーンを目の当たりにしたら、男ならパニスを萎えさせて
畏縮してしまうだろう。きっとチャプランも、そう感じたいに違いない。では、
あの勃起させたパニスは、何なのかしら?
そんなことを思っていると女神が入ってきた。チャプランは慌てたように、
奴隷の礼の形を作って床に蹲った。もし粗相があって、お仕置きを受けること
になったら、射禁だけで済まなそうだった。それに、どんな暴力的なお仕置き
が待っているものか容易に想像できて、チャプランの心境を思うと可哀想にす
ら思えてくる。
女神の後ろから、屈強な奴隷が四つん這いでついてきていた。女神がソファ
ーに座り、奴隷はチャプランと向かい合うように、奴隷の礼の形を作って床に
蹲る。
「おまたせ。驚いたでしょう、客人。ここは、“子育ての国”から生まれて来
た青年を最初に調教して奴隷に育てる施設なのよ。1日に 100 人以上も生まれて
来るので、それを調教して人間以下の奴隷に貶めるのは大変な労力なの。そん
な初心者奴隷を調教する施設が 1000 ヶ所も“奴隷の国”にはあって、ここはそ
の一つに過ぎないのよ。
各初心者奴隷調教施設では、年間5万から 10 万もの奴隷を製造しているの。
驚きでしょ、客人」
女神が一気に、“奴隷の国”の概要を話してくれた。
「
“奴隷の国”って、青年を奴隷に貶める調教をするところなのですか?」
あらためて当然なことを聞いてしまったようで、気が引けた。
「それだけではないわ。正確には、13 歳から 15 歳の少年を奴隷に、と言うべき
ね。それから、12 歳から 15 歳の少女を“女神”に成長させる施設も、同じくら
い沢山設置されているコピー惑星でもあるのよ」
女神が付け加えて言った。
「えぇ? 女神の成長も。どうして“奴隷の国”って言うんですか?」
あたしには解らなくなってしまった。
「そうね。それは私にも解らないわ。どうしてなのかしらね? 客人は良いとこ
ろに気が付いたわ。後で調べておきましょう。ま、
“奴隷の国”も“夢の国”も
通称なので、インパクトのある呼び名が定着したんでしょうね」
「あたし、そこを見たいわ!」
あたしの興味の主体がそちらに移ってしまったので、とっさに言った。とい
うよりも、こんなオドロオドロしいところを見学するよりも、女神の成長過程
を見るほうが、マシだと思えただけなのだけれど……。
「そうね。そちらのほうが良いかもしれないわね。
良いわよ。でも、少女を育てているところは、この惑星の裏側だから、さっ
き出てきた部屋にまた戻って移動することにしましょうね。
“奴隷の国”は全く見なくても良いの?」
「はい、ここだけで十分です。それにとっても怖そうなところなんで遠慮しま
す」
あたしは、本心から言ってしまった。
「そうね、ここでは少年たちにオナニーを覚えさせて、その1年後に貞操帯を
装着させて、性の快楽を奪ってしまうのよ。十分に精嚢を発達させておいてか
ら射精を禁止すると、精液が少年たちの体内に溢れて、異常に性欲が高まるの。
オナニーをして性的快楽を得たいのと、精子を放出したい物理的な排出欲求が
重なって、そこから“女神様”に対する尊敬と従属意識が急速に育ってくるの
よ。そうすると、過酷な責めによって快楽を得られ易い状態になっていくの。
そうやって、少年達を一人前の奴隷に育てていくのよ。そのことをシステム的
に行っているのが、ここの惑星“奴隷の国”なのよ。
成人になりかけの少年たちは性欲を手玉に取られて、とっても従順な奴隷に
仕上がっていくわ。私の足下で奴隷の礼をしているこいつは、私のお気に入り
の奴隷なのよ。ここの施設で働く最大のメリットは、自分好みの奴隷に作り上
げることが出来ることかしら。そして、出来たての完成品を、自分専属の奴隷
にすることも出来るのよ。これって、最高に楽しいメリットでしょう」
嬉しそうに女神が話す。
「では、他の女神たちは、どうやって奴隷を手に入れるんですか?」
「それは、奴隷市場よ」
「あたし、その奴隷市場が見たい」
興味を引かれ、遠慮なく言ってしまったが……
「良いわよ。今から見に行きましょう」
あたし達は連れだって建物の外に出た。やっぱり元の惑星をコピーしただけ
あって、森の緑に彩られた素敵な自然の中に建物が点在していた。
あたし達が今いた建物は、赤煉瓦作りの2階建ての大きな施設だった。その
向かい側にも大きな建物があり、やっぱり赤煉瓦作りの建物で、雰囲気は、地
球で言うならば、19 世紀前半のヨーロッパの産業革命当時の様相かしら。
「3年かけて、ゆっくりと育てた若い奴隷は、ここの奴隷市場で次の運命が振
り分けられるの。どんな仕事に就くのか、全く予測は出来ないわ。奴隷の仕事
は無限にあって、どれも“女神”を喜ばせるための神聖な仕事ばかりなのよ。
奴隷の重要な仕事の基本が、“女神様”に快楽を与え、癒しとなることを求め
られるのよ。それが出来ない奴隷に、存在価値はないの。でも、その基本さえ
踏まえていれば、必ず何らかの存在価値は認められて仕事には就けるわ。たと
え身体・精神に障害があったとしても、価値のない奴隷はいないわ。
“女神”と奴隷は、対の関係にあるので、必ず何らかの役目を果たしてくれる
もので、廃棄されたり諦められる奴隷は存在しないの」
女神がそう説明してくれた。
「そうなの? 排除される奴隷は一人もいないの?」
あたしは、地球ではあり得ない話を聞いて、疑問に思ったまま口にしてしま
った。地球では、生まれた環境によって全てが支配されてしまう。お金持ちか、
肉体的に健康か、生まれ落ちた国、地域、それに家の地位・格・身分、沢山の
ハンディキャップを抱えて人生をスタートする人間に救いはまったくなく、脱
落すべくして社会から排除されてしまう人間は山ほどいるというのに、この
“奴隷の国”では、そんな奴隷は一人も出ないと言うの? そんなの、信じら
れないことよ。あたしは排除されて刑務所にまで入れられ、危険すぎて誰も志
願しなかった恒星間旅行にまで強制的に参加させられてしまったのよ。
「そう、一人もいないわ。客人の過去も調べさせて貰ったけれど、最後には、
こうしてテラ星を救うかもしれない大役が回ってきているでしょう。どんなに
辛い過去があったとしても、人間に与えられた使命は必ずあって、それを果た
さないうちは、人は死なないものなのよ。最悪でも、死ぬことでその役目を全
うする人もいるわ。
それにしても、テラ星の人たちは不幸すぎるわね。テラ星人そのものに与え
られた使命もある筈なのに。でも、それが何なのかは、私達にも測り知れない
ことだわ。この深遠な宇宙を渡ってまでやって来る勇気は、きっと宇宙意思に
とって、何か大きな貢献をするに違いないと思うの。それを繋ぐ役目を客人は
与えられたのでしょうね。それは凄い使命だと思うわよ」
女神が、あたしを持ち上げるように言ってくれたが、それも何か違う気がす
る。
まもなくすると向かいの建物の玄関先に着いた。その赤煉瓦の建物に入ると、
ロビーは高い天井からたっぷりと外光を取り入れて、明るく輝いていた。ロビー
は広々とした造りだった。沢山の銀髪の女神たちが全裸で歩き回り、その足元
には、やはり裸で四つん這いの奴隷達が影のようについて這い回っていた。
黒いビキニ姿は、ここの調教者のコスチュームなのだと気がついた。
あたしは、黒いビキニの“女神”の後について、奥の部屋に入った。
奥の部屋は、1千人は収容できそうな大きな劇場のようなところだった。中
央の目線の下には丸いステージがあり、それを囲むように全裸の女神たちが立
っていた。客席とステージを仕切る境はなかったが、中央は、人波によって円
形の舞台のように模られ、さらに奥のドアから1本の道筋が人垣によって作ら
れていた。ステージは一番低いところに位置し、入口がステージよりも数メー
トル高くなっていて、目線を邪魔することなくステージを見下ろすことができ
た。ステージ上では沢山の奴隷達が四つん這いになって、円形状の床に列をな
して縁添いに這い回っていた。
気に入った奴隷が居ると、ステージの前に陣取った“女神”が、ステージ上
の奴隷に声をかけて呼び寄せ、身体のチェックをしてから、首輪を引っ張って
奴隷の列から引き出していた。
「育て上げた奴隷達は、ああやって奴隷市場から“夢の国”の女神によって引
き取られて行くのよ。奴隷の運命が、その後どうなるかなんて、ここでは解ら
ないわ。ただ共通して言えることは、苦痛を快楽に出来ない奴隷は、不幸な人
生を送るということかしらね。快楽に満ちた人生を送る“女神”と、苦痛だけ
の人生を送る“奴隷”が対になって、惑星の環境を未来永劫に守って行けるシ
ステムが出来上がっているのよ。でも、
“奴隷”の苦痛は苦痛ではなく、それ
自体が奴隷の快楽になっている筈よ。私は奴隷ではないので、それを検証でき
ないのは残念だけれどね…」
“女神”が暗い客席から、明るいステージを見下ろしながら語った。
ステージ上から引き出された奴隷は、
“女神”達の人垣の後ろで正座させら
れ、待たされせていた。数人の奴隷を確保すると、その奴隷商人(?)は、確
保した奴隷達数人を紐で数珠繋ぎにして、この部屋から退出して行った。
「引き取られないで、残ってしまう奴隷はいないのですか?」
あたしは、なんとなく心配になって聞いてみた。
「そんな出来の悪い奴隷は市場に出品されないし、役に立たない奴隷なんて、
存在もしないわ」
“女神”が言いきった。
「でも、人間ですもの、不幸な駄目な奴隷だっている筈よ。人間、
“運”とい
う不可思議なものに支配されて人生が勝手に導かれ、それで不幸になる人や、
逆に幸運を掴む人、それは生まれ落ちた環境によって違ってくるわ。男として
生まれたこと自体が不幸だなんて、そんな理不尽なことがあって良いの? 人
間は平等でなければならない筈よ。このケンタウルス星系であったとしても」
あたしは、この惑星の人たちが何か大きな間違いを犯しているのではないか
と心配になっていた。それで“女神”に問い質してみた。
「そうよ、それは巡り合わせと言うもので、どうこう出来る話ではないわ。仕
方のないことなのよ。でも、人に与えられた生物としての使命を果たすために
は、どうなったほうが一番良いのかをしっかりと考えなければならないのよ。
自己満足のために生かされているのではないの。生物としての役割を人間は果
たさなければならないのよ。
それは、この惑星に生を受けたところから始まり、その役割を全うして死ん
で行くまでの間に実行されなければならないことね。その役割とは、
“女神”
が“奴隷”を支配して、奴隷に効率よく、惑星の環境を守らせる仕事をコント
ロールして与えること。
惑星の環境を直接管理する“奴隷”を働かせるために、
“女神”は奴隷達の
上に君臨し、“男”が本来持っている闘争心を抑制するために、
“女神”達は
快楽を貪るのよ。
“奴隷”達は、惑星環境を維持する仕事に精を出すために、性的欲求の全てを
女神に支配されて、従順にその仕事を全うするの。このシステムが完全に回っ
ていかないと惑星の維持は不可能になるわ。その悪い例がテラ星の人類達だわ
ね。私達は、テラの人間たちを観察することで、その失敗の轍を踏まないよう
に、厳しく男達の性を抑制しコントロールしてきたのよ。その意味で、テラは
重要な教本になっているわ。だから、テラにこの宇宙から消滅して欲しくはな
いの。テラの役割は終わった訳ではなく、きっとこの先もある筈なのよ。だか
ら、私達は間接的にしろ援助したいと思っているのよ。
でも、私達にしても数光年を隔てた距離は遠すぎるわ。手を差し伸べようと
しても、どうこう出来る距離ではないわ。だから気が付かなかったのよ。そん
な風に忘れ去っていたところに現れたのが客人、貴方だったわ。だから客人に、
私達からのメッセージを託す事が唯一の援助になるのかしらしらね? それで
も、そのメッセージを受け取ってくれるテラ星人が居てくれるかどうかまでは
解りはしないわ。でも、託すことが唯一、私達に出来る最初で最後の手助けに
なるのでしょうね。今にも消滅してしまうかもしれないテラ星の人々への、隣
人からの援助になってくれると良いのだけれど……」
“女神”が、淡々と語った。あたしは、なんだか感動してしまっていた。地球
が生き残れる儚い望みは、まだ断たれた訳ではない。ここでのやり方を地球に
知らせることで、誰かが今までの人類のシステムを変えてくれるきっかけにな
るかもしれないのだ。
空想的欲望に満ち満ちて、滅亡の縁にまで追い詰められた地球を再生する手
立ては、まだ残されていると信じよう。そのモデルとなるべき世界がここに存
在し、そのことを地球に伝えることで、地球は復活の道を辿ることが出来るか
もしれないんだわ。それは儚い望みかもしれない。でも、それがあたしに与え
られた唯一の役割だとしたら、それを、あたしは果たしたい。
「次に、あたしはどこを見学すればいいのでしょう」
もう、この奴隷市場だけを見学できたので、それで十分だと思えた。
「そうね。次に来る人類の兆しを見て貰いましょうか」
建物の外に出ると、雨が降ってきそうな感じの暗い空だった。建物と建物を
挟む広くない歩道に、黄色く四角いボックスがあった。
“女神”は、ボックス
の前に立ち、貼り付けてあるボードに手をかざしながら何かを操作して、すぐ
にあたしを振り向いて見た。
「準備はできたわ。さあ、このドアを開けて移動ボックスの中に入りなさい。
入ったら反対側にドアがあるので、そのドアを開けて向こうに出て行きなさい。
それで客人は、次なる進化を迎えようとしている発達段階にある人類達の暮ら
す地域に到着できるわ」
“女神”がそう言って、移動ボックスのドアを開けてくれた。
あたしは促されるまま、黄色い光に満ちたボックスの中に入り、振り返った。
微笑む“女神”が、ボックスのドアを閉めた。
あたしは前を向いた。目の前の壁の真ん中に黄色いボタンが1つだけ嵌め込
まれていた。それに手を伸ばして触れると、例の異様な感覚が訪れた。身体の
中を別の空間が通過して行くような、あの違和感だった。目の前の扉が開くと、
あたしは同じボックスの中の奥にあるドアから外に踏み出した。
青空の広がる眩しい世界が待っていた。青空の下に全裸の素敵な男性(?)が突っ立っ
ていた。
え? 男性が、この“奴隷の国”で立っている筈がない。
何故瞬時に“男性”と思ったかというと、無毛の股間にチンチンが生えてい
たからだ。それも小さくて、とっても可愛いらしい代物が……。でも、身体の
ラインは、とてもなだらかで女性のような美しさだった。目は細く、優しい顔
立ちをしている。どこかで会ったことがあるような懐かしさと、癒しを醸し出
していた。これが究極の人類の進化の果てに訪れる人間の形なのかしら?
「いらっしゃいませ、お客人。連絡があったので待ってたのよ。テラの女神も
お美しいわね。ケンタウルス星系の人類と同じ遺伝子だから、同じような進化
の過程を辿っているのね。
ここではゆっくりとお話もできないので、カフェに案内するわ。こちらよ」
優しそうな声で中性っぽかったが……。
「あの~……、なんて呼んだら良いの、あなたを?」
何だかトンチンカンな質問になってしまった。
「良いのよ、“女神”で。まだ“ブッダ”とは呼べない進化の段階なの。あ、
このチンコが気になっているのね。見た目は小さくって可愛いでしょう? 女
性には付いてないものだから、ね。でも、この身体のラインは女性でしょう?
単に“y”遺伝子を持っているから、生殖器が身体の外に現れているだけなの。
遺伝子はちゃんと“X”遺伝子が2個あるのよ。テラ星の人類にも“XXy”
の不安定な遺伝子配列を持つ方は沢山いるけれど、ここでは“XyX”の安定
した配列になっているのよ。テラ星では表面的に男として見間違えられること
もあるけれど、ここでは初めっから女性として扱われるのよ。だから男とは呼
ばないの。歴とした“女神”なの。さ、そのお話はカフェでしましょう」
その自称“女神?”のお喋りは、なんだかオネエ言葉にしか聞こえない。
チャプランを引っ張って、前を歩く“女神?”の後に続いた。やがて一軒の
可愛い木造の建物が見えてきた。どうも、そこが“女神?”の言うカフェのよ
うだった。
緑の草原の丘の上に黄色い木目を見せて建つ、明るい色調をした可愛いカフ
ェの入り口には大きな赤いパラソルが開かれ、その下に可愛い丸テーブルが置
かれている。近づいて良く見ると、驚いたことに、白い肌を見せる奴隷が、四
つん這いになっている人間椅子だった。
あたしたちが近づくとオープンな店内の奥から、一見メイド風の“女神?”
が登場した。
頭にはピンクのフリルが付いたカチューシャ、胸にはピンク色の太いバンド
のようなブラ、下半身は、小さなチンコを剥き出しにして、それを強調するよ
うな穴空きのショーツを履いている。その姿が余りにも滑稽で、あたしはつい、
声を出して笑ってしまった。
「あはははは…」
失礼だったかしら?
「いらっしゃいませ、お客様。宇宙を渡って来られたのでしょう。ごゆっくり
とくつろいで下さいね。おや、もう奴隷までお持ちなのね。椅子は、ご自分の
奴隷を使って下さいませ。ごゆっくりお話しして行って下さいね」
そのヘンな、メイド風の女神(?)が、にこやかに言った。
この男風の人も“女神?”なのかしら。あたしには区別がつかないわ。
「お座りなさい。椅子は自分の奴隷を使ってね」
あたしを連れて来てくれた“女神?”が言った。
「チャプラン!」
椅子になるように命令しようとしたら、チャプランは既にテーブルの下にう
ずくまり、四つん這いになって椅子を演じていた。
“女神?”は、もう先に奴
隷椅子に座っていた。あたしも慌てて、チャプランの背にお尻を落とした。
「ムギュ!」
チャプランが小さく声を漏らした。突然体重を掛けたので、息が吐き出され
たのね。うふっ、可愛い、チャプラン。
「何についてお話ししましょうか? そうね、最初に、仏“ブッダ”のことを
話したほうが良いわね。
“ブッダ”は、神にまで進化の過程を進めた最初の人
類だったの。だから、1000 万年以上も進化の先を進んでいるのよ。残された記
録によると、この星系方面を訪れたのが、おおよそ5万5千年前なの。遥かな
別の宇宙に住む“ブッダ”達は、幾つもの派遣隊を出して、同じ人類の発生し
ている星を捜し、大宇宙の探索に出たんですって。それで、この宇宙にも1組
の探索隊が訪れて、偶然に銀河系を訪れた訳なの」
テーブルを挟んだ、オネエのような感じの“女神?”が歴史を語り始めた。
「
“ブッダ”達の目的は、同時期に文明を発生させている人類を捜し出し、適
切な指導のもとに、正しい進化の道を歩み続けさせて、途中で滅びることがな
いように援助するために派遣されてきたそうよ。それによって、宇宙意思に貢
献できる人類を沢山増やすことが目的だったんですって。宇宙意思が何なのか
は記録に残っていないけれど、意識体としての宇宙が望む未来絵図があるよう
だわ」
“女神?”が大きく両手を開き、ジェスチャーして見せた。
「大宇宙って、何なの?」
あたしには理解を越えた話だったわ。
「そうね、この銀河を含む、沢山の斑な星団が幾つも存在して、それが集まっ
た雫のような一粒が、一つの宇宙なの。そんな雫のような宇宙が無限に存在し
ているんだそうよ。その“ブッダ”達は、そんな雫の中の一つから人類として
発生して、進化の究極までも極めた最初の人類達なんですって。
それで、同じ人類の発生する可能性のある雫宇宙を抽出して、その中から、
この雫宇宙にも探索隊を派遣したんですって。それで偶然にも隣合わせで、こ
のケンタウルス星系と、お隣のソル星系の中に、同じ人類の発生する惑星を確
認して降り立って来たそうよ。
同じ時間軸の、それも一つの銀河星団の中の一つの銀河に、同時に、同じ発
達過程を経て進化を遂げている人類が二つもあったなんて信じられないことよ。
もう、それは奇跡としか言いようがないと記録には残されているの。単なる確
率の問題以前に、進化を極められる知的生物なんて、全宇宙を通しても、その
時の時間軸には“ブッダ”以外には存在し得ないことだそうよ。
だから隣同士に発生した、あたし達二つの人類が協力することで、その次の
“ブッダ”に続くことが出来る可能性はゼロではない筈よ。
“ブッダ”達は、
その可能性を高めるために、文明を発展させようとする人類の手助けを目的と
して、大宇宙を渡ってきたのよ。
そして、その進化の兆候が現れてきたのが、あたし達“X・y・X”の遺伝
子配列を持つ、次なる“女神”なのよ」
またまた大袈裟なジェスチャーをしながら語ってくれた。
「壮大なお話ね。でも、その勃起もしないチンポは頂けないわ。それに醜い」
あたしは思っていることを口に出してしまった。
いつも、この余計な一言が致命的に人間関係を悪くしてきた。嗚呼、またやってしまっ
た……。
「最近ね、気が付いたの。見てて……」
あたしの言葉を無視するように突然そう言うと、
“女神?”が立ち上がった。
テーブルの上に、
“女神?”の可愛い、子供のようなチンポが載せられて晒
された。睾丸も丸く、可愛かった。
“女神?”が、そのチンポを3本の指で内
側に押し込んだ。するとチンポが体内にめり込んで見えなくなった。なくなっ
たチンポの跡には、縦長の膣口のような陰りが見えていた。
「嗚呼、凄い!」
あたしは驚いて、つい声に出してしまった。
その、子供の性器のような淡い割れ目を確認したくなり、身体を乗り出して、
“女神?”の股間に顔を近づけて、まじまじと見てしまったわ。
その時よ、世界が黄金に光ったのは!
一瞬、目も開けていられないほどの黄金の光が網膜に焼き付き、何もかも真
っ黒になったわ。視力は1分以上も回復せずに、闇の中に放り出されたように
なってしまった。
いったい、世界はどうなってしまったというの?
暗闇の中でとても不安を
感じていた。漸く目が慣れてきて、さっきと変らない、緑いっぱいの風景が視
野に入ってきたのでとっても安心したわ。核戦争でも起こったの?
「何だったの? 今の光は!」
あたしは答えを求めて、大きな声を出して聞いた。
「解らないわ。でも、凄い光り方だったわね。何が原因なのかしら? そろそ
ろ現実の“森の惑星”のコピーが実行される時間かしら。そうすれば何か解る
かもしれない。でも、悪いことが“奴隷の国”に反映されなければ良いのだけ
れど……。このコピー惑星は、30 分に一度、現実世界の“森の惑星”をコピー
して反映させているの。だから“森の惑星”の現状が自動的にコピーされて、
30 秒ほど掛かって“夢の国”
、“奴隷の国”
、“子育ての国”と、順番に反映
されて行くの」
“女神?”が、この世界が成り立つシステムの一部を教えてくれた。
不安の内に、その時を待ったのだけれど、突然、緑の世界の足元が真っ赤な
色に変わった。最初に地面、次に草木、森に草原に、真っ青だった空も、次々
と真っ赤に変わって行ったわ。そして、瞬く間に全てが紅に染まって行った。
いったい、どうしたと言うの? 何も解らないわ?!
「現実の“森の惑星”に異常事態が起こっているのね。こんなことは歴史が始
まって以来よ。次の 30 分後に、どんなことが起こるのかを待っていたら、とて
も大変なことになりそうだわ。すぐに一つ前のコピーを呼び戻して、逆転して
反映させないと、それぞれ3秒後に配置されている3つの国は、大打撃を受け
ることになるわ!」
“女神?”が、大きな声で呟いて立ち上がると、真っ赤な世界の中、今来た道
を駆け出して戻って行く。あたしもこんなところに一人だけ放り出されても困
ってしまうので、“女神?”の後を追って走った。
足には自信があるのよ。万引きで鍛えた脚力を馬鹿にしないで……。すぐに
“女神?”の背中に追い付いて、並んで走ったわ。
丘を一つ越え、あたしが出て来たボックスに“女神?”が飛び込んで行った
ので、あたしも続いて飛び込んだ。すぐ後ろからチャプランも飛び込んできて、
小さなボックスの中はギュウギュウ詰めになってしまった。
“女神?”は、そんなことなど気にしないで、黄色いボタンを押す。身体の中
を、別な空間が通り抜けて行く一瞬の異様な違和感を感じた。無言のまま“女
神?”が、反対側のドアを開ける。
やっぱり、こちら側も真っ赤な世界が覆い尽くしていた。目の前に、黒い影
となった建物が聳えていた。ボックスの外に出ると、同じボックスが建物の前
に 10 個以上も建ち並んでいて、その箱の中から続々と“女神”達が慌てたよう
に走り出てきた。
目の前の建物に入ると、赤い外光を取り入れた広いロビーから、一目散に会
議室に飛び込む。100 人程収容できそうな会議室の椅子は既に半分くらい“女
神”達で埋められていた。目の下に見える議長席に、一人の“女神”が掛け込
んでくると、参集具合を確かめるように顔を上げ議場を見廻した。
「みなさん、緊急事態です。既に 15 分が経過してしまいました。次の“森の惑
星”のコピーが更新されるまでに、残された時間は 15 分とありません。次のコ
ピーをリセットして、前の分のコピーを復元させる作業を指示してありますが、
残り 15 分で両方に対応できるものか心配です。
“人工惑星ステーション”が、ちょうど接近しつつあります。次の状況次第で
は、そこに避難することも考えなければなりません。こんな事態は、5万5千
年の歴史の中でも想定されていませんでした。いったい“森の惑星”で何が起
こったというのでしょう?
情報を集めていますが、今のところ全く解りません。テラ星人との間にトラ
ブルが起こっているとの報告はありました。それと関係があるものか……」
議長席に立った“女神”が、現在の状況を捲し立てた。
え? それって、どう言うことなの?
「
“森の惑星”の環境次第では、コピー惑星の“夢の国”以下の世界は、住む
ことも難しくなるかもしれません。今は、有史以来稼働し続けているシステム
を停止させ、もしものために廃棄しないで保有している、30 分前の“コピー惑
星”を復元するよう手立てを尽くしています。
この状況の中で“森の惑星”の“守り人”達の状況も心配です。余りにも完
璧に運用されて来たシステムです。
“奴隷”である、男達の管理が野放図であ
り過ぎたことが原因かもしれません。あと 10 分後に世界がどう変わってしまう
のか、外に出て確認する必要があります。誰か、外の様子を見て来て下さい」
議長席の“女神”が動揺している。
あたしの唯一の知り合いである“女神?”が立ち上がって、あたしを見下ろしに声を掛
けてきた。
「お客人。外を観に行きましょう」
あたしも立ち上がって、通路に出てロビーに向かって歩いた。
「突然のことでビックリしたでしょう。あたしだってビックリ仰天よ。たまた
ま、あたしは、惑星管理委員に任じられていたので、緊急事態の時に議場に駆
け付けることになったんだけれど、いったい、この世界に何が起こっているの
か、これでは全く解らないわね。もしも最悪の事態になったときには、さっき
議長が言っていた“人工惑星ステーション”に避難することになるかもしれな
いわ。だから、あたしから離れないでいてね」
“女神?”が心配そうに声を掛けてくれた。
既に沢山の“女神”達でロビーはごった返していた。ロビーには真っ赤な光
が注ぎ込み、全てを赤一色に染めていた。玄関に向かって人垣が動いていた。
あたし達もドアを通り越して玄関まで進み出てみた。30 分なんていう時間は、
あっという間だった。
夕焼け時のように、世界は朱色に染まっていた。その赤い空に、明るい青色
が斑模様に変化し始めて、少しずつ青い空に色を変わって行った。それを見て
安心感が心を満たして行った。でも、地上に緑の世界は戻ってはこない。木々
は白く燃え尽きた後の白い灰となり、立ち枯れていた。
緑の葉を失った白い木々の上に、青空だけが眩しく広がっていた。世界には、
緑の一片も残されていなかった。地面も白い灰と黒い炭の混じった斑な風景が
地平線まで続いて見えた。
ところが、その白と黒の世界が、また変化し始めた。緑の世界が復元し始め
たのだ。ただ、その緑は昔のような濃さではなく、何だかスカスカの、まがい
物のような木々と草木だった。何なの? これは……。
「世界の復元に失敗したようだわね。もう1時間も経ったら、世界は終わって
しまうわ。やっぱり“人工惑星ステーション”に避難しなければ……」
“女神?”が諦めたように、そう言い切った。
その後、あたし達は空港に向かったわ。例の移動ボックスに入って。空港に
設置してある次元移動ボックスを使わないと、その“人工惑星ステーション”
に、移動することが出来ないんですって。ボックスの形は一緒なのに、全ての
機能が一つのボックスに備わっている訳ではないのね。
全ての移動には、30 分ほどしか掛からなかった。
“人工惑星ステーション”
に着いて、現実の“森の惑星”を見下ろすと、緑の大地はどこにもなくなって
しまっていた。可哀想に、大陸も島々も砂漠のような白さを見せていた。
どうしてこんなことになったのか、原因は解らなかった。ただ、
“人工惑星
ステーション”からの映像だと、あたし達のいた“基地”の辺りから、黄金の
炎が出て、360 度回転して世界を焼き尽くしてしまったようだった。いったい
“基地”で何が起こったというの?
最後に気が付いたんだけれど、この“人工惑星ステーション”は、サンタマ
リア号が接触した人工物体だった。この“人工惑星ステーション”が、サンタ
マリア号と接触した後、
“森の惑星”から遠ざかってしまったので、惑星上空
を捜しても見つけ出すことが出来なかったのね。
世界を滅ぼしてしまったテラ星人の片割れとしては、ここにも居ずらかった
けれど、とっても気持ちの優しい“女神”ばかりで、あたしも、ここの再建に
力を貸すよう頼まれたの。だからなんとか“女神”達と暮らしているわ。
テラからの第二次探検隊が到着したとき“人工惑星ステーション”は、ちょ
うどケンタウルス座アルファ星の反対側に回り込んでいて、提督たちに気が付
かれなかったのだけれど、その半年後に“森の惑星”に接近したので、何が起
こったのか確認したくて、あたしは基地に出向いて見たわ。
荒涼とした“森の惑星”の中で、ここだけに緑が残され、基地の周りには白
い砂漠が無限に広がっていたわ。基地の中は荒れ放題で、既に男達船員の死骸
は、提督によって始末されたのでしょうね。一つとして残っていなかったわ。
ただ、小さな墓標と、新しい小屋が建っていたわ。小屋の中には、一番上等な
ベッドが置かれていて、何に使おうとしたのでしょうね。可愛い熊の縫いぐるみまで置か
れていたわ。本当、可愛いわ。何に使うつもりのベットルームだったのかしらね?
が出て来てしまうわ。
基地の中は床も壁も血痕だらけで、そこら中に血が打ち撒けられたようだっ
たわ。いったいここで、どんな惨事が起こったというの? あたしには想像を
巡らすこともできなかった。一番大きな部屋だけ綺麗に片付けられていて、撤
興味
去された通信機器が置かれていたテーブルの上に、この音声通話器だけが、わ
ざと、あたしの目に付くように置かれていたわ。
あたしの報告は、ここまでよ。この声が太陽系まで届いて、誰かに聞いて貰
えることを願うわ。きっと、あたしたち地球人には、更なる目的が宇宙意思か
ら与えられている筈よ。それが何なのかは、あたしには解らない。でも、それ
を信じて、地球の行く末を、あたしはここからいつまでも見守っているわ。
いつか地球にも戻れないかと思案もしているのよ。望みがない訳ではないわ。
以上、2回目の報告は終わり。3回目はないでしょう。
セイラー・キャンベルよ!
彼女の声は、そこで終わっていた。
3人は黙ったまま見つめ合った。なんという内容の話なのだろうか……。地
球から数光年も離れた地で、誰も体験したことのない、想像を絶する経験をし
て、一つの惑星文明が滅び去る瞬間の姿をも目に焼き付けて、今もその近くで
生き続けているかもしれない少女が、宇宙の向こうにいる。彼女の語ったこと
が、今後どんな風に役立てられて行くものか、僕には想像すらできない。
ケンタウルス星系、アルファ星の惑星、サン・サルバドル星に残された男達
の末路は、明日にでも、残された記録映像を見れば解ることだろう。短時間の
間に、どんな壮絶なことが起こったのだろか? 全ては明日の仕事に掛かって
いる。多分プロジェクトチームの仲間たちは、興味津々で、深夜まで残って作
業を続けていることだろう。
「凄いお話ね。セイラー・キャンベルの語った内容には、重要なことが沢山凝
縮されているわ。この探検の掘り起こしに興味を持ったという、エリザベーラ
女王陛下の知性には感服ね。これは、きっと未来の地球を暗示させる内容なの
よ。サブロウ君は大変なことに関わってしまったようね。きっと、地球の未来
も、あんな風になるのでしょうね……。
サブロウ君はどう思う?」
突然にユミコが僕に振ってきた。
「いや、そんなことはない筈だ。男とは、もっと賢明な生き物さ。女子供に政
治から経済、教育、家庭まで支配されてしまうことは絶対にあり得ない。人類
は、男も女も平等に生きてきた。それに、女性の地位が向上したのは、やっと
20 世紀に入ってからでしかない。まだまだ男の力は絶大さ!」
僕は誇張して、ユミコに言った。
「そんな首輪を嵌められて、よく言えるわね。まるで奴隷みたいに見えるわよ、
サブロウ君は……。ホホホホ……」
ユミコが、蔑むように笑いながら言った。
「これは単なるプレイだ!
女性の言うことを聞いてあげるのも、男の度量、
優しささ。こんな恋人同士の“奴隷ごっこ”が流行っているんだから、それに
付き合ってあげるのも男の優しささ。仕方がないだろ、世の中がそうなんだか
ら。可愛い恋人には付き合ってあげるものさ」
腹立たしくなって、ユミコに言葉を吐き捨てた。
「黒田さん、裸になって」
突然、彼女が横から命令してきた。
こんな状況で、彼女は何を言い出すのだろうか……?
「ここで? お客さんの前だぞ、変なことを言わないの」
僕は、若い彼女の常識なさを諭すように言った。
「私の恋人奴隷なんでしょ? 黒田さんは。だったら恋人で主人である、私の
言うことには絶対に服従しなければならない筈よ。それが奴隷の条件の筈よ。
契約書にもそう書かれているわ。さあ、奴隷は裸になりなさい!」
突然そう言われても困る。ましてや、昔の仲間のユミコの前だ。そんなはし
たない真似が出来る筈がない。
「そうだ、仕事がまだだったんだ。思い出した、直ぐに行かなければならない。
若い者にすべてを任せてあるから心配だ。これから朝まで仕事だな。プレイの
続きは後で必ず埋め合わせするよ。だから、今日はこれで帰るよ。ユミコ君、
また会おう。惑星での男達の末路にも興味があるだろう。次の時には、解って
いるから、楽しみにしていて。じゃ!」
それだけ言うと立ち上がり、玄関先へ急いだが、急な動きだったので、玄関
直結のエレベーターは来ていなかった。背後に誰かが追いかけて来る気配を感
じた。高速エレベーターが止まって扉が開く。素早くエレベーターの中に身体
を入れて振り返ると、彼女が僕を見つめていた。
「バーカ! わたしの命令が聞けない奴隷なんていらないわ!!」
顔面を歪めて、彼女が叫んでいた。
扉が閉まった。身体が浮き上がり、高速エレベーターが下降して行く。彼女
の最後の言葉が気になったが、早く職場に戻って確認したいことがあった。
サン・サルバドル星に残された、39 名の船員達の運命だ。あの後の映像記録
は、直ぐにでも再生できる筈だ。それで、このプロジェクトも終わる。一連の
記録を編集してディスクに納めれば、発注元に納品できる。納期にはなんとか
間に合うだろう。
携帯からワゴンカーを呼んでおいた。重力が元に戻った感じだ。マンション
の出入り口に到着するとドアが開く。玄関先へ出て見上げると、漆黒の黒いス
クリーンに星の煌めきが美しい。
車の唸るような音が聞こえ、目の前にワゴンカーが止まった。ドアがスライ
ドして天井に上がり開いた。その中に身を潜らせてシートに座る。無音で、ワ
ゴンカーは暗闇の中へ走り出した。
昔の車は、人間自らが運転していたので、目視のために道路を見続けていな
ければならず、そのため、夜にはライトを点灯させて車を走らせていたという。
人間に機械の代わりをさせるなど、無謀な話だ。そのため事故が多発し、世界
中で、年間百万人以上もの死者を出していた。交通戦争とはよく言ったものだ。
交通事故の死者数を比べたら、戦争での死者数など比べるまででもない。交通
戦争の解消は、科学技術の発達に伴ってなくなって行ったが、本物の戦争は、
科学技術の発達と共に、より悲惨な様相となって行っている。
真っ暗闇の道路上を、ワゴンカーは闇に溶け込むように高速で移動していた。
闇を通して美しい星空が見えていた。そして、黒々とした森の姿も見えていた。
さあ、朝までには全ての疑問が解けるだろう。クリストファー・コロンブス
提督の第2次航海の秘密が解き明かされるのだ。こんな凄い秘密が埋もれてし
まっていたなんて、信じられないことだ。そこに目を付けられたエリザベーラ
女王陛下とは、いったい、どんな人物なのだろうか? まさに世界を統べる才
能を持つ、素晴らしいお方に違いない。是非一度お会いしたい。陛下の個人奴
隷になれたら素晴らしいだろうな~。お歳も 40 代になられたくらいだろうか?
色々と妄想を楽しんでいる内にTOKYOのオフィスに着いた。やっぱり若
いのが、まだ仕事をしていた。仕事が楽しいと、時間も忘れて没頭してしまう
若さは、僕にはもうなかった。そんな彼らが羨ましい。今が一番、仕事に乗っ
ている年代なのだ。
もう、サン・サルバドル星、全ての秘密が暴き出されている頃だろう。
「ご苦労さま。仕上がり状態はどうです?」
僕は、衝立の仕切りの中の仲間に声を掛けた。
「嗚呼、プロジェクトリーダー・黒田さん……。こんな時間に?」
一人の若いのが、仕切りの中から出て来た。
「きっと、二人とも精を出してやっていてくれるんだろうな~、と思って、差
し入れを持って来た。直ぐにピザが届くから、今から休憩だ」
僕は、もう一人にも聞こえるように大きな声を出した。
30 分前、山梨にある彼女のアパートを出る時に注文しておいたピザが、僕の
後ろに続いて入って来た。宅配ピザロボットからは、香ばしいピザの匂いが漂
っていた。宅配ロボットを打ち合わせテーブルまで招き入れ、出来たての湯気
が立ち昇るピザを、そこに置かせた。
もう一人のエンジニアもブースから出て来て、3人で休憩となった。
「もう、データは完全に再生できるようになったのかい?」
僕は、期待を込めて聞いてみた。
「はい、とりあえずではありますが……。
では、リーダーが最後に見た、武器庫から武器を取り出した船員達全員が、
外へ飛び出して行った後の記録から再生します。最終の編集は、リーダーの黒
田さんと検討する必要がありますので、それはまだです。では、モニターに映
しますのでご覧下さい」
一人が状況説明を加えて進行状況も教えてくれた。
打ち合わせ用のテーブル脇に置かれた、大型モニターにスイッチが入る。
一切れのピザを手にして口に運ぶ。香ばしいチーズの香りとスパイスの効い
た美味しさが口の中に広がる。
無数の走査線の走る明るい画面が落ち着き、真っ黒い陰りの中からカウント
ダウンする数字が表示される。
【3】
・
【2】・
【1】
・
【0】…
画面が一瞬、暗転した。
「なんだ? あの金色の光は!」
部屋に残っていた男の一人が、叫ぶように言う。
モニターには光の帯が拡大されて写し出された。
長い列をなした蛮族が、金色の四角い物体をそれぞれ担いで移動していた。
「セイラーはいるのか?」
「いや、いない。携帯電話からの電波の発信もない。どうしたんだ……?」
隊長の声だろう。
「まさか、蛮族に生贄にされて、森の中で、魔物に捧げられてしまったんじゃ
ないだろうな……?」
「すぐに助けに行かなければ。手遅れになる前に!」
他の誰かが叫んだその声が、混乱に拍車を掛ける。慌ただしく男達が立ち上
がり、ドアの外に出て行った。
「隊長! 武器庫の鍵を開けろ!」
ドアの外からの怒鳴り声が聞こえていた。
隊長が立ち上がり、自分の携帯に触れて何か操作している。
「よし、開錠したぞ。俺も行く!」
隊長も慌てたように、部屋から飛び出して行った。
あっという間に部屋には誰もなくなり、カメラは金色を煌めかせて移動する、
原住民の行列を映し出すモニターに固定された。
人工衛星のカメラが、原住民の若者が抱える金色の大きな道具をアップして
見せていた。
それは、四角く平べったい黄金の箱だった。その箱の一部から飛び出した吸
い口に、若者が唇で喰い付いていた。カメラが少し引くと、行列全体が見渡せ
た。それは、まるでお祭りのパレードそのものだった。
ここまでは終業時間前に見た映像とダブっていた。これを見て僕は、ブラス
バンドの行進に似ていると気が付いた。
カメラの映像が引き、原住民の集落を写し出す。最後の数名は、数十軒建ち
並ぶ草葺の小屋の中にそれぞれに入って行った。原住民の集落は、大きな草葺
の小屋が幾つかと、小さな小屋が数十軒も建ち並ぶだけの単純な構成のものだ
った。どうやら、小さな小屋は個人用で、大きな草葺の小屋が、集会用とか作
業用の小屋なのだろう。
船員達の知らない、セイラー・キャンベルの音声報告を聞いているので、彼
女がこの集落にはいないことはわかっているが、さて、そのことを知らない 39
名の男達は、セイラー奪還のために何をやらかしたのだろうか?
「この集落の映像が数時間続きますが、3時間後、集落に船員達が押し掛けて
くる映像が、このモニターに映っていました。それ以外の動きのない部分は、
カットしてあります」
ピザを頬張りながら説明を聞いた。
集落の全体像を捉えた映像が、モニター内に固定されていた。船員達が、集
落の入り口から入って来る姿が写し込まれた。直ぐに船員達全員が、中央の広
場まで走り込んで来た。各小屋から、原住民達が出て来て、広場に集まった。
その部分まで写して、人工衛星はまた蝕に入ってしまった。映像は一旦途切
れたが、蝕に入っている 30 分間は上手くカットされ、次の映像に繋がっていた。
今度は、次の蝕に入るまでの 30 分間を、ゆっくりと見られるだろう。
船員達 39 名を全員数えることが出来た。小屋から出て来た 50 人近い原住民達
は、これで全員なのだろう。
船員達と原住民が、険悪さを漂わせて対峙し、睨み合っている図だった。
突然、一つの小さな光が瞬いた。対峙する両者の男どもの列が、硬直したよ
うに全ての動きを止めた。一人の原住民が倒れて行く。倒れた原住民を囲むよ
うに人の輪が出来た。次の瞬間、両者は入り乱れて混じり合った。その混乱の
中で、幾つもの小さな光が瞬いていた。原住民、十数人がさらに倒れて行く。
瞬くような光の粒が、幾つもの光を発し続けていた。船員達が集落の外へ逃
げ出して行く。ほんの十数秒の間に起こった出来事だったが、人工衛星は逃げ
出して行く船員達の姿を写し、広場で動かなくなった原住民の姿も 30 体を数え
ることが出来た。そして、人工衛星は再び蝕に入り、映像が途切れた。
次に映像が復活したとき、広場には何もなくなっていた。本来は 30 分後なの
だが、編集によって数秒程度に短縮されていた。
「その後3時間、集落には何の動きもありませんので、カットしました」
説明が入った。
ドヤドヤとした声と物音が聞こえてきて、部屋の固定カメラは、部屋の入口
を写し出していた。
「クソ~ッ! セイラーをどこに隠しやがったんだ。集落のどこにも居なかっ
た。蛮族に詰め寄って聞いてみたが、訳の解らんことを言いやがる!」
ドアの外から、誰かの罵声が聞こえてきた。
「嗚呼、頭に来て 30 人は射ち殺してやったが、こっちの被害も甚大だ。棍棒で
殴られて大怪我した奴もいる。同志射ちまでして、3人は死んだ。引きずって
帰って来るのも楽じゃなかったぞ!」
そう声高に言い、銃を片手に持った男が、部屋の中に姿を現した。
次々に殺気立った船員達が部屋に入って来る。手には銃が握られていたが、
痛々しく傷つき、血糊を身体にこびり付かせた船員も数名以上は見てとれた。
「弾を撃ち尽くして空っぽだ。弾薬をくれ」
一人が叫ぶ。
「俺もだ、弾薬はどこだ?」
別の一人も叫ぶ。
「俺もだ!」
次々と男どもの声が重なって行く。
「武器庫の中だ。順番に取りに行け。一度に行くと混乱する。シャワーを浴び
る順番で、武器庫に行って弾薬を補充するんだ」
隊長が指示を出した。
部屋の中は、40 名近い船員の熱気で蒸しかえっていた。
「お~い。食事当番。飯の準備をしろ!」
隊長が叫ぶ。
「ええ~?! この疲れ果てているのに飯の準備か。適当に非常食を配るから、
それで今日は済ませてくれ」
そう返答しながら、当番と思われる4人が立ち上がり、部屋の外に出て行く。
暫くすると箱を抱えて戻ってきて、箱の中の非常食品を皆に配分していた。非
常食品はパッケージまで食べれるようになっていた。男達は鷲掴みした食品に
丸ごと齧りつく。次に水も配られてたが、それはアルコールのようだった。
船員達の生活には厳しい統制は無かったようだ。日常の決め事以外は、全て
が適当だったのだろう。有能な指揮官が存在しない彼らに、こんな生活を1年
も維持することは不可能だろう。こんな状況は、クリストファー・コロンブス
提督が去って、1週間と経たない時期に起こった事件なのだ。たとえ、こんな
事件がなかったとしても、3ヶ月後も待たずに、残された船員達は悲惨な状況
に陥っていたことだろう。しかし彼らは最悪だった。セイラーのことを思えば、
ここから抜け出せたことは良いことにも思えてくる。
「セイラーの捜索は明日だ。作戦会議は早朝行う。今日は寝ろ。みんな疲れた
だろう。御苦労、ゆっくりと休め」
隊長が船員を労うように言っていた。
それなりに、隊長にも自覚はあるようだが、それ以外は何の干渉もせずに放
ってある状態だ。怪我人の心配すらしていない。死人は、いったいどうするつ
もりなのだろう? 見ている僕のほうが心配になっていた。
案の定、誰も居なくなった部屋には、遺体が3つ残されたままだった。電気
が消され、画面は真っ暗になった。
10 秒後、編集された画像に“AM5:00”の数字が写し出された。
一人の男が部屋に入ってきた。照明が点き、映し出された男は隊長だった。
壁際に置かれたモニターのスイッチが入り、その画面を注視している。
「ぉぃぉぃ、これは何だ?
大変だぞ!」
一人で呟き、すぐに大きな声に変わって行った。
緊急用の赤い“非常ボタン”を押した。サイレンが鳴り響いた。緊張感のな
い男どもが、次々と部屋に入ってきた。欠伸をする者、目をこすっている者、
鼻糞をほじっている者。だらだらと 30 数名の男達が集まっていた。36 名全員で
はないようだ。起きられないで寝たままの男もいるようだ。
「隊長、慌ててどうした……?」
一人が不満げに聞いた。
「馬鹿野郎! 蛮族に取り囲まれた。奴ら、直ぐにでも襲ってくる気だぞ!」
隊長が焦ったように答える。
「な~に、蛮族が数十人襲って来たところで、こっちには銃があるんだ。返り
討ちしてやろうじゃないか!」
威勢良く一人の男が言う。
「だから、馬鹿野郎って言うんだ。200 万人以上の蛮族が集結したんだぞ!」
「に、ひゃく、万人? 何を寝ぼけたことを、隊長!」
男がモニターを覗き込む。
「何じゃい、こりゃ?! 1km 先のところで円を描いて、その向こうは蛮族が、
すげえ数で取り囲んでいるじゃないか! これが、2百万人の蛮族なのか?!」
モニターを覗き込みながら、呆れ返ったように大声を出す。
「そうだ。人工衛星がカウントしたところ、215 万2千5百 79 人の蛮族どもを
数えた。こんなにも、どこから湧いて出て来やがったんだ、こいつらは?!」
隊長も呆れ返ったように言う。
「どうする、隊長? 昨日奴らを 30 数人は殺したと思う。その復讐に来たに違
いない。蛮族が襲ってきたらズタズタに裂かれてしまうぞ!」
脅えた一人が言った。
「弾薬は1万発もないぞ。弾を撃ち尽くしたとしても、助からない。誰か良い
アイディアはないか!」
隊長が無責任に言い放った。
「そうだな~、宇宙船のメインエンジンに使われていた核融合炉を発電機に転
用しているんだ。これを武器に転用できないかな。あれなら、太陽のコロナ程
度の熱は出せる筈だ。100 万度以上の炎を蛮族どもに浴びせ掛けてやれば、奴
ら一瞬で蒸発するさ!」
奥のほうから声が聞こえた。
「おお、エンジニアがいたか。その改造はお前に任せる。直ぐにやってくれ」
隊長はご機嫌な笑みを湛えて大声で言った。
「よっしゃ~! 任しとき~。核融合炉の反応を最大限に上げて、展望台から
火炎を放射出来るようにすれば、360 度、一周するだけで終わりだ」
後ろで立ち上がった船員が、エンジニアなのだろう。
「誰か、他にメカに強い奴。手伝ってやってくれ」
隊長が声を上げた。
3、4人の男が立ち上がり、メカニック・エンジニアと共に部屋から出て行
った。
「しかし、蛮族の奴ら、ビクとも動かないな~。襲ってくる気があるのか?
やっぱり銃が怖いんだろうな~。銃の射程距離は 10 キロ以上あるんだ。試しに
撃ち込んでみるか。奴ら怖じ気づいて逃げ出すかもしれないぞ」
モニターを覗き込んでいた男が呟いた。
「馬鹿野郎! 蛮族を刺激してどうする。こっちは少しでも時間を稼いで、武
器が完成するのを待っているんだぞ。蛮族どもがおとなしくしていてくれるな
ら、それに越したことはないんだ。静かに奴らの動きを見張ってろ!」
隊長が戒めた。
通常なら、なぜ原住民が動かないのかを、人工衛星のセンサーを駆使して調
べてみるべきなのに、この隊長は、自分のストーリーが実現されることのみを
望み、原住民の動きには目を向けようとしていない。なんとも、素人の将棋指
しと一緒だった。お粗末極まった隊長だ。
クリストファー提督の、第一次探検隊の乗員が、いかに寄せ集めの、食い詰
め者の連中で編成されたかが窺えた。これで、よく数光年もの星間宇宙を渡っ
て来られたものだと感心してしまう。更に、本隊は帰還まで果たしているのだ。
それは奇跡と運命に導かれて、歴史が作られて行ったさまが裏付けられていた。
それは最新鋭の科学技術の勝利とは言い難い、運と奇跡と、提督の夢を追う執着心が融合
したからこそ成し遂げられた偉業だった。
500 年前のコロンブスが、色々な病原菌と不幸を新大陸に持ち込み、そして、
煙草と梅毒を新大陸から持ち帰ったのと同じように、500 年後、同名のクリスト
ファー・コロンブス提督が成し遂げた恒星間航行も、同じことを繰り返すこと
となるのだろうか……?
「原住民側にも、この部屋の中にも、特に目立った動きがありませんでしたの
で、半日分の映像は飛ばしてあります」
文字が浮き出た。
“PM3:00”
一人の船員が、意気揚々と入ってくる。
「完成したぞ! 核融合火炎放射器が。今から実験をする。見に来るか」
男がぶっきらぼうに言った。
「よし、見に行こう。誰か、カメラに収めてくれ。記録を撮っておく必要があ
るだろう」
隊長が顔を歪め、嬉々として言った。
「この火炎放射器を試し撃ちするカメラのチップも見付かりました。この後の
映像に繋げてあります」
横で説明する声が聞こえた。
二切れ目のピザを手に取って口に運んだ。
画面が切り変わり、緑に埋まった森と真っ青な抜けるような空が写し出され
た。寄せ集めの材料で作られた基地の全容を、一番上の展望台から写している
のだろう。それでも高さにして 10mはないだろうか……。
建物の縁から、数mが森との干渉地帯なのだろう。草木は一様に短く刈り取
られていた。一方方向に、草木が刈り取られた道が、森の奥へ向かって走って
いる。そちらを正面とすると、反対側の裏手に、小さな草葺の小屋が急ごしら
えで建てられていた。これが、船員達がセイラー・キャンベルと快楽を貪るた
めに建てられた“愛の巣”なのだろうか…?
男の性欲とは、どうにもコントロール出来ないものだ。同じ男として理解は
出来るが、ここまでの行動は、集団でないとできないだろう。
カメラが大型の機械を写し出した。と言っても、2m程の長さのパイプを4
本、50cm ほど離して四角に組んだだけの代物だった。エンジニアの男が、それ
を肩の上に掲げて見せていた。
「これが、核融合火炎放射器なのか?」
隊長が呆れ顔で、エンジニアの傍に近寄って聞いている。
「ああ、この4つのノズルの先から陽子が放出されて、5m先の空間で合体す
る。そこで核融合反応が起き、100 万度以上の熱となって、この惑星の裏側に
まで届く炎を噴射する。ただ、当初の設計は、10m先で合体することにしてい
たが、手作りではその調整が不可能だった。それで取り敢えず5mで設計して
作ってみた。この長さで射手が熱に堪えられるか疑問だ。だから実験が必要な
のだ。ほんの一瞬、0.1 秒で良いから、試し撃ちをしたい」
エンジニアが隊長に説明している。
「そうだな、その一瞬の炎で、蛮族共がビビって帰ってくれると良いのだが」
隊長が、別の思惑を込めて答える。
確かにそうだろう。隊長にしても、原住民を殺傷したいとは、本気で思って
はいないだろう。
「よし、やってみてくれ」
隊長が、笑みを浮かべて言った。
「では、正面の道に添って、0.1 秒、噴射する」
エンジニアが言った。
カメラがエンジニアの後ろに移動し、パイプで作ったノズルが、道を狙うよ
うに向けられているところを写し出していた。
「カウントダウンを始める。5・4・3・2・1・ゼロ、目をつぶれ!」
エンジニアが目をつぶるように指示して叫んだ。
ノズルの先から、何か出ているのだろうか……?
緑の森が微かに歪んで見
えていた。突然、ノズルの先5m程の空間で光が煌めいた。
モニター画面が真っ白に変わった。
「わっ! 熱い」
誰かの声がしたが、画像は直ぐに回復した。カメラは、もともと細かった道
を写し出しているようだ。しかし、30mほどもある白い道が出来あがり、その
両側を炎の火柱が立ち上っていた。
「駄目だ、こりゃ。素手で手持ちじゃ熱くって、1秒も持ち堪えられねぇや」
エンジニアががっかりしたような、投げやりの答えを返した。
「大丈夫だ。宇宙船の船外活動用ジャケットがある。あれを着れば、5千度の
熱にも耐えられる」
隊長は、事も無げに言い返した。
「スゲェ威力だ。炎は、どこまで届いているんだ?
戻って衛星画像で見よう」
誰かが声を掛けた。
モニター画面を捉えた映像に変わった。
モニターが幅 20~30mに広がった炎の道を写し出していた。森の奥深くまで
赤い炎の道が一直線に伸びている。森の緑とは対照的に、紅蓮の炎の壁が出来
あがっていた。
「次に、1階の集会室の固定カメラの映像に繋げてあります」
右側のスタッフが説明してくれた。
隊長が、衛星画像の映るモニターを覗き込んでいた。
「ウワ―! スゲー威力だ。本当に惑星の裏側まで届いているかもしれんぞ。
少しパワーを下げられないか、エンジニア?」
心配そうな隊長。
「面倒くせぇな~、出来ないことはないが、あと数時間は掛かるぞ。蛮族共が
その間、襲って来るのを待ってくれるのか? 隊長、交渉してきてくれ」
投げやりなエンジニアの返事である。
「待て待て。蛮族共がこれにビビって退散しているかもしれん。拡大映像で、
驚いている奴らの顔の面でも見てやろうじゃないか」
隊長はそう言うと、衛星をコントロールする操作盤に触れていた。
モニターの映像は森を拡大し、基地を囲む 200 万人におよぶ裸の原住民を捕え、
更に拡大を続け、蛮族が群れる姿から、顔の細かな表情まで読み取れるほどに
大写しになっていった。そこには、怒りに歪む原住民達の鬼のような形相をし
た顔が無限に映し出されていた。それは、身の毛もよだつほどの恐ろし気な表
情だった。
「エンジニア! 直ぐに宇宙活動用ジャケットを着ろ! 猶予はなさそうだ。
奴らをこの惑星から消滅させてやる!」
隊長が憎悪に満ちた怖ろし気な声をあげた。
「ОK! セーラーの仇だ。我々が紳士的にセーラーを守ってきたのに、蛮族
どもは生娘のセーラーを拉致して、神に捧げたかして輪姦(まわ)してしまっ
たに違いない。許せねぇ奴らだ。俺がその代償の高さを教えてやる!」
エンジニアが鼓舞するように言い放つとスクッと立ちあがり部屋を出て行く。
「おい誰か、エンジニアを手伝え。ヘルメットのカメラをオンにするように言
っておけ。蛮族共に神の鉄拳を打ち下ろしてやるぞ!」
隊長が気勢を上げるように言う。
「オー!」
くぐもった低い賛同の声が、部屋中から響いていた。
映像は暫く険悪な表情に変わった船員達の表情を写し出していた。
次に真っ青な空を写し出すと、映像が下に降り、緑濃い森を写し2本の炎の
帯を見せる道が写し出される。
「今から蛮族共を殲滅する火炎を、奴らに浴びせかけてやる。見てろよ!」
エンジニアの声が、スピーカーから流れてきた。
4本のパイプで作られたノズルが、森の上の青空を指すように写し出されて
いた。やがて、ノズルの先から熱せられた素子が流れ出して来ているのだろう、
森の姿が屈折して歪んで見えていた。
瞬間、光の氾濫で映像が白く輝いた。何も写し出すことのない白い画面だ。
「わはははは! スゲーど。コロナの炎だ!!」
エンジニアが狂喜して一人叫んでいた。
10 数秒後、真っ白だった映像が回復した。今度は赤一色だった。紅蓮の炎に
包まれた森全体の映像だった。それも数秒のことで、再び世界は真っ白な灰を
映し出した姿に変わって行った。全てが、白い灰に……。
映像が、集会室を写し出す。
ドタドタと激しい物音が集会室の外から聞こえてきた。固定カメラが、部屋
の入口を写し出す。恐ろしい形相の原住民が、斧を振り上げて幾人も雪崩れ込
んで来ていた。入口近くに座っていた船員の頭に手斧が振り下ろされ、真っ赤
な血を額から噴き出させて、数名の船員達が倒れて行く。その後ろからも原住
民達が沢山、部屋に雪崩れ込んで来ていた。部屋の奥にいた船員が、昨日から
床に放置されていた銃を手に取り、発砲を始める。狙いの定まらない銃弾が、
部屋中に乱舞する。原住民達も船員達も区別することなく、銃弾が襲いかかっ
ていた。
狂気のように銃弾を撃ち続けていた船員の頭にも手斧が振り下ろされ、血を
頭の天辺から吹き上げつつ、沈んで行った。
武器保管庫の前に取り付けられたカメラの映像に切り替わった。
武器庫のドアから、原住民が次々に飛び出してきていた。原住民達がすぐに
攻撃してこなかったのは、この下にまでトンネルを掘っていたからなのだろう。
2次遠征隊の報告の中で、使い道の分からないトンネルが1km に渡って掘られ
ていたことが報告されている。トンネルは、原住民達が基地を襲うために掘っ
たものだったのだ。
クリストファー・コロンブス提督が残した船員達は、全て惨殺された。トン
ネルから出てきた原住民の数は数百人に上った。幸運にも、トンネル内に入っ
ていた原住民は、核融合反応熱を浴びることはなかった。しかし、彼らの帰る
べき森はすっかり消失してしまっていた。
「おい、どうした?」
「ワーッ! 蛮族どもが、どうしてここに!?」
エンジニアの叫び声がした。
階段を登って来る、数人の裸の原住民の姿が、突然映し出された。
エンジニアの被るヘルメットからの映像だった。同時に、黒光りする手斧が、
回転しながら迫っていた。見る間に手斧は迫ってきて、エンジニアの顔面に打
ち当たる。
“ボゴッ”という音が入っていた。
画像は上を映しつつ、移動しながら基地の屋上を捉えて行く。最後には白い
灰の世界に変わった惑星の表面を、次に青い空をいっぱいに写し込んで停止し
た。エンジニアは殺され、倒れ込んだまま動かなくなったのだろう。
集会室の映像。武器庫の前の映像。その他にも設置されていた固定カメラの
映像からは、溢れかえる原住民達の姿が写し出されていた。それでも 200 万人も
いた原住民達のうちの、たった数百人にしか過ぎない。そして、森の惑星は死
の惑星に変わってしまっていた。この原住民達も、やがては飢え死にする運命
を抱えた可哀想な状況に陥ることだろう。
だが、第2次遠征隊の報告には、原住民達のことは一言も書かれていなかっ
た。そんな文明を持った知的生物とのファーストコンタクトのことなどには、
全く触れられていない。数百人にも及ぶ原住民の死骸の報告を隠ぺいすること
など、並大抵のことではない。ここに残された原住民達は、どうしてしまった
のだろうか?
映像が、青空に切り替わった。これは、エンジニアが着ていた宇宙船外用ジ
ャケットのヘルメットに取り付けられたカメラの映像だ。
青空の奥に、半透明に光る小さな物体が写し込まれていた。
あれは何だろう? そう思う間に、その透明な物体から、煌めく一筋の光の
帯がこちらに向かって放射されてきた。青空に浮かぶ透明な物体から基地まで、
光の道が繋がったように見える。すると、原住民達が数珠繋がりになって次々
と、その光の帯の道を登って行く映像が映し出された。
10 分ほどの間に、数百人の裸の原住民達は空に登り、その透明に光る物体の
中に収容されてしまった。
そうか。あれがセーラーの言っていた“人工惑星ステーション”なのか。そ
れで基地に残されたのは、無残に惨殺された 39 名の船員達の屍だけだったのか。
「最後に、ナレーションとエンドレスタイトルを入れて完成です。仕上げは
チーフに、よろしくお願いします」
横からスタッフに言われ、現実に戻った。
「良い出来栄えだ。これならエリザベーラ女王陛下に喜んでいただける。セイ
ラー・キャンベルの声だけの報告を、森の惑星の映像を背景にして、字幕も入
れて流したいと思う。そこまで編集すれば完成だ。あと一息、頑張ってくれ。
次の作業は昼過ぎから始める。2人とも帰って休んでくれ。僕はその前に失
礼するよ」
そう言って2人より先に立ちあがった。2人も慌てても立ち上がる。僕は2
人より先に部屋を出たが、なんだか意識が冴えていて、このままでは帰っても
直ぐに眠れそうになかった。
そういえば、僕は、なんで彼女の所から慌てて出て来たのだろう? そうだ、
射禁生活が長引いていたので、射精させて貰いたかったから、わざわざ彼女の
アパートまで出掛けたのだ。嗚呼、思い出してしまった。あんな態度で、彼女
の所から出て来てしまっては、また射禁生活が継続されてしまう。なんとか謝
って、許して貰わなければならないが、どうしたら良いものか……?
そんなところに思いを馳せただけで、股間が勃起してきてしまった。男の身
体とは、なんとも御し難いチンポに翻弄されるものだ……。つくづく情けなく
なる。しかも、
“バーカ! わたしの命令が聞けない奴隷なんていらないわ”
とまで言わせてしまった。これは困ったことになった。もう1日2日なら、射
精欲求も我慢できるだろう。しかし、それ以上は堪え難い。取り敢えずメール
だけでも打っておこう。僕は携帯から、彼女に許しを請うメールを出しておい
た。当然、直ぐに返信の来ないのは解りきっていた。
誰もいない朝を待つ薄暗がりのオフィス街を歩いて、居酒屋に出向いた。な
んとなく一人でいるには寂しい気がしていた。ボックス席はやめて、カウンタ
ー席に座る。カクテルビールを頼み、喉を潤す。
一つ置いて隣の椅子に、背広を着た中年の男が座っていた。突然、僕のほう
に席を一つ詰めて、直ぐ横に寄って来た。
「失礼するよ。いやぁ、最近はこんな居酒屋は貴重でね。ほんと、男が一人で
飲みに行ける場所がなくなって、嘆いているよ」
中年の男が独り言を呟きながら語りかけてきた。
「こんな朝方まで仕事かね。今時珍しいご仁だ、御苦労さま。奥方がよく許し
てくれるね。男は総じて射精管理されてしまい、女どもにチンポの支配権を握
られて抵抗できなくされてる。こんな居酒屋に一人で足を運べる男など皆無に
近くなってしまった。まったく嘆かわしい。こんなことではいけない。
男は古来より女どもを支配し従順に従えてやってきた。世の全てと家庭にあ
っても常に男は主人公であり続けた。そうやって来たことで、世界をここまで
発展させ、有史以来の歴史を築いてきた。
600 年前のコロンブスによる新大陸の発見によって、新大陸における女性数
の絶対的希少さにより、男どもの極端な女性へのへつらいと権利の譲渡、拡大
が行われ、それによって女どもをのさばらせてしまう事態を生じさせてしまっ
た。そして横柄になった女どもが世界を席巻して行った。そのために、男の地
位は低下し、世界は危機的な戦争と環境破壊を迎えるようになってしまったの
だ。あれから数世紀、今では男は、立つ瀬もないほどに、女どもに支配され、
従順にされてしまっている。
今、男権を復権しないと、男は永遠に女どもの奴隷にされてしまうだろう。
しかし、もう男権を復権するチャンスは残されていないのかもしれない。だが、
チャンスはまだまだ残されている筈だ。男の得意とする組織力、団結力で、過
去に世界を支配し続けていた男権の復権を、今こそ復活するために行動を起こ
さなければならない最後の時を迎えている。そうしなければ、男は女どもの奴
隷とされてしまい、二度と頭が上がらなくなる。それを阻止するための最後の
チャンスは、まだ残されている。
儂はそう思うのじゃが、君は、どう思うかね…?
若者よ」
突然、長々と男が話しかけてきた。
僕は驚いて、彼を見た。中年で、分別のありそうな、男っぽい面構えだった。
「嗚呼、突然に話しかけてしまい、驚かせてしまったようだ。儂はこういうも
のだが、失礼した」
そう言いながら名刺を差し出した。
“男権復権自由党代表 小沢三郎”
嗚呼、この人が、あの有名な“コザワ”さんか。僕は携帯を出し、名刺の情
報を読み取った。僕も名刺を出し、小沢さんの携帯にデータを送った。
「ええ、確かに男の優しさを逆手に取られて、好き放題されています。こんな
状況を許していたら、中東にある“女権国家”のような状況に、世界も日本も
日を置かずしてなってしまうでしょう。僕だって彼女の、あの高飛車な呪縛か
ら解き放たれたい。それに僕は、彼女より 10 歳以上も年上なのですよ。優しさ
で付き合ってあげているだけです。当然、結婚後の主導権は僕が取ろうと思っ
ていますが、このままでは危ういと思っています」
僕はハッキリと、日頃の不満を言ってしまった。
「解ります。君の思いは、男性に共通した思いです。ところが、現実はそうな
っていない。君に、彼女に抵抗できる術はありますか? もしや、射精管理さ
れているんじゃありませんか? 男は、金玉を女に握られてしまうと、もう抵
抗のしようがなくなる。女どもは、それをちゃんと熟知しているんです。女の
術中に嵌ったら、男は身動も抵抗もできなくなる。日本社会も既にそのように
画策されてしまっているのです。これは恐ろしいことですよ」
小沢さんが、的を得たことを語る。
確かにそうだ。僕自身、流行だからといって若い彼女の言うがままに、射精
管理までされてしまった。こんなことはいつでもやめさせることが出来る、と
高を括っていた。しかし、射精欲を支配されてしまうと、彼女に射精の許可を
貰うべく、へつらう惨めな行為を演じるしかなくなっている。それにしたって、
こんな行為はいつだってやめさせることは出来る。女の戯言に付き合うくらい
の度量がないと、今時の我儘な女を引き止めておくことはできない。
「そう、君も女のしたたかさに気が付きながらも許していたのでしょうね。あ
れは8年前の、2091 年の事です。国連総会において“イラソ首長国連邦”のエ
リザベーラ女王陛下が唱えた“女性人間宣言条約”が上程されたところにまで
遡る。そんな、誰も興味を示さない条約上程を提案する演説が、何故か全世界
中のメディアによって取り上げられ、報道さていた。
おかしなことだとは思いませんか? 連邦共和国なのに、王制を敷いている
こともおかしなことではありますが……。
更に遡ること 10 年前です。中東で、内乱によって大虐殺が行われた。その舞
台となったのが、その“イラソ首長国連邦”でした。内乱の結果、弱小国であ
った“ワンダ女権国”が、連邦政府の盟主となって登場してくる。それは5年
後の話です。連邦内の政治主体は中央政府にありました。しかし、中身は“ワ
ンダ女権国”が完全に実権を握っていた。現実は、今もそうです。
“ワンダ女
権国”は一地域の地名でしかありません。つまり、連邦政府は国の名前として
残っただけで、内情は全て“ワンダ女権国”に乗っ取られてしまっていたので
す。しかし、その報道は一片たりとも世界に流されなかった。ちょうど、クリ
ストファー・コロンブス提督の、恒星間探査の話題に切り変えられてしまって、
世界の目からは隠されてしまった。
そこには周到な陰謀が隠されていたと、儂は踏んでおるんですよ」
小沢さんが長々と語る。
「その女権国が、今の状況を作り出した元凶だと仰るんですね。それにしても、
遠大過ぎる計画だ。とっても信じられませんよ」
僕はつい、呆れかえって言ってしまった。
「そうか、君は黒田君と言うのか。6ヶ月以降に想定される総選挙では、どこ
に投票するつもりなのかね?」
小沢さんが、そちらに話題を移した。
「勿論、小沢さんの“男権復権自由党”に一票入れますよ。男として当然です。
今の小池政権は、その“女性人間宣言条約”を次の国会に上程して採択しよう
としている。それは阻止しなければいけない。そんなことになったら、男は宇
宙に追い出されてしまうか、奴隷として女に傅(かしづ)いて生きるしかなく
なってしまう。そんな破廉恥条約は、絶対に批准させてはならない!」
僕は、力を込めて言ってしまった。
そこに、カクテルビールが運ばれて来た。
「いや、乾杯! 同志よ」
小沢さんがグラスを持ち上げ、寄せてきた。
僕も同様にグラスを持ち上げ、グラス同士を触れ合わせた。乾杯をする音が
小さく響く。強いアルコールを煽り、直ぐに次の一杯を注文する。
「あんな悪逆非道な条約が、何故、大多数の国々で批准されているんですか?
それらの国々には、男はいなくなってしまったのですか?」
僕は報道されていない、その条約の中身を知りたかった。ネットを介しても、
それらの国々の話題は流れていなかった。男どもは、どうしてしまったという
のだろう? まさか、女どもに完全に牙を抜かれ、従順な奴隷と化してしまっ
た訳ではあるまいに。逆に話題にも上らない、その中身を怖く感じていた。
「我が“男権復権自由党”には3人の国会議員がいる。条約制定の最低条件が、
国会での満場一致の議決を求めて、それを必修条件にしている。我が党の存在
がある限り、条約制定はあり得ない。この条約を批准するためには、議会を解
散し、総選挙に打って出るしか方法は残されていない。だから小池首相は6ヶ
月以降には議会を解散させるだろう。その総選挙までに、我が“男権復権自由
党”は、10 名以上の立候補者を擁立し、全員当選を以て、条約を国会に上程す
ることすら出来ないようにしてやるつもりだ。黒田君にも、その時のために是
非、我が党の一員として働いて貰いたい。君のその、男気ある気概を貸してほ
しい」
小沢さんが、僕の肩を抱き寄せて、耳元で熱く思いを語った。
2人でしたたかに飲み、居酒屋を出ると、この近くにあると言う“男権復権
自由党”の事務所へ向かった。
とあるビルの地下に、その事務所はあった。書記と言う、影が薄く、容姿の
若い男が、したたかに酔った小沢さんを抱きかかえ、奥の畳の部屋に寝かせた。
書記と名乗る彼の名前を聞いて、笑い声を出しそうになってしまった。なんと、
彼の名前は“影野薄”(かげのうすい)君だったからだ。
小沢さんに、ハッキリと答えて貰えなかった、条約を批准した国々の内情を、
彼に訊ねてみることにした。
「どの国も、議会に男性議員は一人もいない状況でした。大概、選挙の直前に
選挙制度の改正が行われて、男性の選挙権のはく奪が合法的に施行されてしま
います。それによって、議員への立候補を始め、選挙権すら男から奪われてし
まうのです。酷い国では、男狩りと称する“魔女狩り”的な手法で、男を狩り
集めて収容施設に隔離してしまうところもありました。男達を自堕落な、酒と
ドラッグとギャンブル、そして人造セクシー女性型アンドロイドに溺れさせ、
その間に、女性達は世界を乗っ取ろうと暗躍していたのです。
条約を批准した国々の男性は、女性達の奴隷として、完全な射精管理のもと、
逃げ出すことも抵抗する術も気概もなくされて、次に来る地球からの放逐を黙
って待っている状態です。日本も、遅かれ、同じ道を辿らされることでしょう。
それを一番解っているのが、小沢さんです。もし、黒田さんに、女性への抵抗
心がまだ残っているのでしたら、是非、孤高の戦いを続けている、小沢さんの
ブレーンとして、我が党に力を貸して下さい。
確かに、今のような状況下で、突然に女性に対抗する政治運動に関わるのは
難しいことは解ります。黒田さんもきっと家に帰れば、奥様もいらっしゃるこ
とでしょうし、そこを、奥様を誤魔化して政治運動に関わることは難しかもし
れませんね」
名前とは裏腹に、彼は熱く語った。
「いや、僕は独身さ!」
勘違いされても困るので、僕は訂正を入れた。
「えぇ? そうでしたか、僕と一緒だ。では、被選挙権は無いんですね。年齢
25 歳以上、既婚の条件が満たされていません。そうか、残念です」
急に、影野薄君の影がまた更に薄くなったように感じた。
「いや、大丈夫。もう直ぐ結婚するから。お役に立てるなら、何なりとお手伝
いはしますよ、薄さん」
彼氏の落胆ぶりを見て、つい、余計なことを言ってしまった。
「そうだ、独身者でもなれるものがあります。男権復権自由党の副党首の座が
空いています。それが良い、そうして下さい。でも、本名で活動を始めては、
決まっている結婚話が破談になってしまうかもしれませんね。黒田さんのフル
ネームは、何と仰いましたか?」
薄君は、もう、その気になって聞いて来た。
「黒田三郎」
僕はぶっきらぼうに答えた。
「小沢代表と同じ名前なのですね。奇遇です。では、党名に因んだ名前で、男
山ではどうでしょうか。三郎は、カタカナで読ませることにすれば、誰からも
バレることはないでしょう。男権復権自由党副党首、男山サブロウ。良い名前
ではありませんか? 明日、小沢代表が目覚めましたら、そう伝えておきます。
今日は、本当に、代表を送っていただき、ありがとうございました。その上、
こんな大役まで引き受けていただけるようになり、僕は感激です……」
突然、薄君が涙を流して、言葉を置いた。
「面白そうだ、一緒に頑張りましょう、薄君」
僕は、彼の両手を握っていた。
こんな状況ではそうするのが一番相応しいのだろう。確かに、僕の中で鬱積
していた男性蔑視の世の世相に抵抗しなければ、という思いは熱くあったのだ。
こんなチャンス、きっと、セイラー・キャンベルが運んできてくれたものだ。
そう心のなかで呟いた。
“そうよ!”
突然、心の中にセイラー・キャンベルの生々しい声が響いた……?
僕は薄君の顔を、まじまじと見つめた。
「どうかされましたか? 黒田さん。いや、男山さん」
薄君が怪訝そうに聞いて来た。
「いや、女性の声がね……」
ひとこと言って、言葉を置いた。
「幻聴ですか……? それはいけません。この運動には、思わぬストレスが掛
かります。今日はお帰りになって、休まれたほうが良いですよ。小沢さんには、
事の顛末を僕から報告しておきます。お心変わりしなければ良いのですが……」
僕の表情を覗き込むように、彼が探りを入れてきた。
「嗚呼、大丈夫さ。副党首の件は了解した。小沢さんによろしく伝えておいて
下さい。薄君」
最後にそう言って小さな事務所を出た。
ビルの外は、どんよりとした空模様だった。早朝のビルの谷間の底から空を
見上げる。僕の心の晴れやかさに水を射すような暗さだ。シティーカ―を呼ん
で家路に着いた。こんな仕事をしていると、都内に住まわざるを得なくなる。
仕事の区切りがなく、やれる時にやるだけやるしかないのだ。一つのプロジェ
クトが終わると、また次のプロジェクトが待っている。
クリストファー提督の最初の星間航行を洗い直す仕事も、いい加減、明日中
には方が付くだろう。満足できる仕上がりとなるだろう。それにしても、何故
“セイラー・キャンベル”の声の幻聴を聞いたのだろうか? 本当にエロっぽ
い声に聞こえた…。それに反応したように、僕の下半身が勃起してしまった。
そうだ、もう3週間近くも射精させて貰っていない。忌々しい貞操帯を外し
て貰わないと、性欲に悶え狂ってしまいそうだ。だから、あんな“セイラー・
キャンベル”の声の幻聴が、エロっぽく聞こえたのだろう。なんとか彼女に謝
って、射精の許可を貰おう。自分のチンポのことだというのに、まったく忌々
しいことだ! シティーカ―の座席に身を任せながら、そんなことを思ってい
た。殺風景な低層ビル群の中にある、小さなマンションの部屋に帰り着き、夕
方までぐっすりと寝てしまった。
ビンビンに朝立ちしている、いや、夕立ちと言うべきだろうか? パニスが
膨張できずに痛々しく悶絶していた。とんでもない体内時計だ。嗚呼、この性
処理も行わなければならない、最悪だ。
取り敢えず、彼女に“ご免なさい”とメールを送った。直ぐに返信があり、
“アパートに来なさい”とだけ記されていた。きっと怒っているのだろう。こ
れは、並大抵のお仕置きでは済みそうにない。しかし、それも仕方のない話だ。
余りにも自分勝手に彼女を利用している。覚悟して彼女の所に出頭しよう。
今日は休むことにして連絡を入れた。まだ納期までに時間がある、大丈夫だ。
地下鉄から、高速近距離鉄道に乗り換え、いつもお世話になるワゴンカーに
乗って、山梨の彼女の超高層アパートメントに着いた。もうユミコはいないだ
ろう。エレベーターのドアが開き、彼女の部屋の玄関先で、僕は土下座すると
頭を床につけて、彼女のお出ましを待った。
こんな調子で結婚したら、奴隷婚式まで挙げる羽目になりそうだが、それは
なんとか阻止しなければならない。かと言って、良い方法は見付かっていない
が、どうしたら良いのだろう? 本当に迷ってしまう。
ヒールサンダルに黒いガーターベルトでコスプレした彼女の足先が見えた。
いや、見てはいけない。命令があるまでは、額を床につけたまま控えていなけ
ればならない。今日は、どんなに打ちのめされても仕方がないのだから、彼女
の気持ちが晴れるまで、折檻を甘んじて受け止めよう。こんな人権無視が行わ
れる世の中は、どこかが狂ってしまっているのだ。サン・サルバドル星のよう
な社会体制になってはならないのだ。セイラー・キャンベルは、その事を教え
たかったのだろう。報告書に、僕の意見を差し挟む余地はないのかもしれない
が、それは発注者である、エリザベーラ女王陛下が、そう受け取めてくれるこ
とを望むばかりだが、それは期待できないだろう。
「あら黒田さん、よく私の所にのこのこと現れたものね。その神妙な態度は、
私へのあて付けなの?」
彼女の棘のある言葉にも、僕は何も答えられなかった。
まさか、射精をさせて欲しくて、のこのこと戻ってきたとは言い出せないし、
ここは黙って堪えるしかないのだ。
「顔を上げなさい!」
きつい声が降って来た。
ゆっくりと、恐る恐る顔を持ち上げ、彼女の顔まで見上げた。
嗚呼、情けない。
突然、煌めくような光が襲ってきた。激痛を頬に感じ、僕は床の上に転がさ
れていた。頬を襲った彼女の強烈な張り手が、僕を吹っ飛ばした。僕は立ち上
がり、無抵抗に土下座の姿勢に戻り、頭を床につけて震えた。
「顔を上げなさい、と言っているでしょう!」
彼女の怒りの声に、身がすくんだ。
再度、顔を上げた。また煌めく光を頭の中に感じて、僕の身体は床の上を再
び転がる。再度、土下座して、今度は床から顔を上げて彼女を見つめた。不敵
な笑顔で、僕を見下す彼女の顔。
大丈夫だ、許して貰えそうだ。そう思ったのだが……?
「そこで全部脱いで、裸になって上がってきなさい」
寛大に、彼女が言ってくれた。
僕は嬉しくなって服を脱ぎ、裸になって彼女の足下に身を添わせた。すらり
と伸びた脚が魅力的だった。3週間も射精禁止状態にされると性欲が異常に高
まり、女性が全て美しく、魅力的でエロく見えてくる。これが男の性(さが)
なのだから仕方がない。その性を計画的に突いて攻撃を仕掛けてくる女性陣に
対して、男に抵抗する術などあろう筈がなかった。ただ、基本的には、お互い
の信頼関係である“愛”の存在があるから許されている行為だと僕は考える。
魅力的な、彼女の黒いストッキングに包まれたふくらはぎに頬を擦り寄せた。
「駄目よ!」
彼女が拒否するように言い切った。
おや? 今日はご機嫌斜めなのかな。いつも性的な気持ちのままに彼女に甘
えていたのだが、今回は少し違うぞ……?
彼女の手が伸びて来て、首輪を装着されてしまった。いつもながらの手際の
良さだった。手綱を強く牽かれ、咽が詰まるほどに引っ張られると、部屋の中
に牽き込まれた。部屋に入ると、天井に固定された横棒に手綱を掛けられ、首
吊り状態にされ、立ち上がった。床に爪先立ちで、やっと立っている不安定な
状態だ。両手首にもレザーの拘束具が嵌められ、天井の横棒に持ち上げられて
固定された。
ご丁寧にも、両脚まで1mほどの長さのピンクの横棒の両端に固定され、股
を開いたままの格好にさせられてしまった。
「とっても情けない格好よ、黒田さん」
彼女が不敵に微笑む。何か、邪悪な意味合いを感じていた。
「どうするつもりでしょうか?」
一応、神妙に彼女に訊いてみた。
「お仕置きに決まっているでしょう。先輩の前で私をコケにしたんだから、タ
ダじゃ済まないわよ。覚悟しなさい」
彼女の両手が、僕の乳首を摘まんで来た。
嗚呼、性的な快楽が股間に繋がって伝わっていく。その股間は、もう3週間
も貞操帯で覆われ、扱くこともできないまま放置されているのだった。半勃起
状態のパニスは、貞操帯に阻まれて大きく膨らむことも出来ずに、圧迫されて
悶えているしかなかった。圧迫された強烈な痛みが股間を襲っていた。
「嗚呼~!」
僕に出来ることは、呻き声を発して、痛みに堪えることぐらいしかなかった。
「どうしたのかしら? 優しく乳首を甚振っているだけなのに、そんなに簡単
に悶えてしまったら後が続かないわよ。これならどう?」
そう言いつつ、また強く乳首を抓り上げてきた。
「嗚呼~~!」
僕は、乳首そのものの痛さに大きな声で叫んだ。
ところが、乳首への刺激は、直接パニスを硬く勃起させる作用があり、乳首
そのものの痛みに加え、勃起できないパニスへの戒めともなっていた。
「ふふっ。楽しいわよ。黒田さんが、そうやって悶えてくれると。でも、これ
はほんの挨拶程度なのよ。これからが本番」
彼女の優しげな言葉に、僕は身がすくんだ。
魅力的な女の身体を擦り寄せて来て、僕の全身を掌で愛撫し始めた。嗚呼、
なんと気持ちが良いのだろう。彼女のエロチックな香りに包まれて、僕の性欲
は最高潮にまで達していた。しかし、悲しいかな、それを表現すべきパニスは
貞操帯の中で、惨めに圧迫されて痛みを増すばかりだった。
「嗚呼、嗚呼、アア、ァァ……」
僕は、呻き続ける以外の表現方法を禁じられていた。
細い棒を、貞操帯の隙間から突っ込まれて、亀頭の括れを刺激されたり、鈴
口にまで突っ込まれたり、僕の目の下では可愛い彼女が楽しげに戯れていた。
そんな快楽責めが1時間以上も続いただろうか。拘束が解かれ、天井から解放
された時には、両脚で立つ術もなく、床にぐったりと倒れ込んでしまった。
そんな僕に構わず、彼女の牽く手綱は首を引っ張り、ぐいぐいと部屋の外に
連れ出そうとしていた。やっとの思いで四つん這いになり、彼女に従って玄関
先まで牽かれて行った。狭いエレベーターホールに放置され、彼女は部屋に戻
ってしまった。高速エレベーターが人の気配を感知してやってくると、扉をあ
けて乗って来るのを待っていた。
ピンクのけばけばしい外出着に着替えた彼女がやってきて、一緒にエレベー
ターに乗り込んだ。手綱を取られた裸のままの格好の僕は、途中でエレベータ
ーが止まって、下の階の誰かが同乗して来るのではないかと気が気ではなかっ
た。こんな破廉恥なプレイは、これまでになかった訳ではないが、それにして
も常識外れの野外プレイである。彼女は無言のまま僕を無視したように手綱を
引っ張っていた。それが僕の不安を更に募らせる。仕方なく四つん這いのまま、
彼女の剥き出しの、すべすべのふくらはぎに顔を寄せて大人しくしていた。
暗い1階の玄関先にワゴンカーが待機していて、そこに2人で乗り込んだ。
夜の帳の中、ワゴンカーは猛スピードで走り出した。彼女の指が伸びて来て、
剥き出しの僕の乳首を甚振って来る。嗚呼、またパニスが反応して大きくなっ
てしまう。もう、いい加減射精させて貰いたいのに……。
「黒田さん、射精のお願いはないのね? まだまだ我慢できそうじゃない」
それを察してか、彼女がわざと言い出す。
「いえ、そんなことはありません。今すぐにでも射精させていただきたいので
す。でも、ご気分を害されているようでしたので、言い出せなかったのです」
僕は正直に答えるしかなかった。
「本当に男って、それしかないのね。だから良いように女の奴隷にされてしま
うのよ。でも、女は違うの。気に入らなければ、悪魔にでもなれるのよ。黒田
さんの、この間の態度は、許せるものではなかったのよ。だから、今から捨て
に行くの、貴方を……」
彼女が、本音を言った。
「二度と私の前では射精させないわ。貞操帯だけを付けた、その惨めな裸のま
まの格好で、誰かに拾われなさい」
恐ろし気なことを、彼女が言い放った。
「車。…止まりなさい」
彼女が指示した。
ワゴンカーは闇の中で停車し、僕が乗った側のドアが跳ねあがって開いた。
「さようなら、黒田さん。お達者でね」
最後の言葉を彼女が言った。
彼女の素足が持ち上がり、思いっきり僕の身体を蹴り出した。僕は背中側か
ら車外に放り出され、何もない空間に飛び出した。数秒後、藪の中に身体が落
ち、そのまま止まる支えもなく斜面を転がっていく。上下も分からずに、ただ
回転しつつ下のほうに転がっていく。無間地獄の奈落に、僕は落ちて行った。
嗚呼、このまま死んでしまうのだろうか……。そんな風に考えざるを得なか
った。
漸く下に着いたようで、藪の中で止まって身体が横たわった。見上げた漆黒
の空には、満天の星が煌めいていた。真上には銀河の帯も見えていた。
“フフッ、可哀そうに”
突然、耳元でセイラー・キャンベルの艶めかしい声が聞こえてきた。
闇の中を見透かそうと、きょろきょろと周りに視線を彷徨わせたが、漆黒の
闇の中では何も見える筈もなく、感じ取ることもできなかった。
幻聴か……?
“驚いているのね。大丈夫よ、貴方の直ぐ傍にいるわ。でも次元を隔ててい
るから、貴方のほうからは見えないの。すぐ隣にいるのに残念ね”
リアルな声が耳元で囁く。確かに、セイラー・キャンベルの声だ。
「どうして僕に声を掛けるんだ?! 君が僕を知っているなんて、あり得ない。
君は、セイラー・キャンベルなのか?」
闇に向かって、僕は大きな声を出して叫んでいた。
“やっぱり解っているんじゃない。そうよ、セイラー・キャンベル、あたしよ”
彼女の声は、僕の頭の中に直接話しかけられているようだった。
「何故僕に声をかける? それに、君はケンタウルス星系アルファ星の人工惑
星ステーションにいる筈だ。地球までどうやって還って来られたんだ?」
湧いて出てきた質問をぶつけてはみたが……。
“そうね、聞きたいことは山ほどあるのでしょうね。その前に、あたしのボイ
スだけの報告を復元してくれてありがとう。あたしの語った報告が無駄になら
ないことを祈っているわ。その報告の最後のところで、地球に行く方法を考え
ているって言ったのだけれど、それが実現したのよ。4次元以上の上の次元を
使いこなせるようになると、3次元、4次元的距離も時間も位置も超越出来る
ようになるのよ。だから、理科の実験の応用を試すようにしてみたら、地球ま
で行くことなんて簡単だったわ。それで、あたしの疑似体を、貴方の傍に送っ
たのよ。ただし5次元からなので、貴方からは見ることも触ることも出来ない
のだけれどね”
セイタカアワダチソウの草蒸す中で、彼女の気配だけを感じようとした。
「そうやって、僕の行動の全てを監視していた訳なんだ。君には、先のことも
見えているのかい、セイラー・キャンベル?」
少しは、皮肉を込めて言ってやりたかったが、そうはなっていない。
“時間軸を未来に捉えて操作すれば、ある程度の未来は見えるわ。でも、不確
定要素が多くて、濃い霧の中を見透かすようなものよ。確定された未来は存在
していないわ”
ぶっきらぼうに彼女が言う。
“だから地球の未来が、ケンタウルス星系アルファ星の“森の惑星”のように
なるとは限らないし、別の、より良い道を見付け出して進んで行けるかもしれ
ないわ。確実なことは、一つの種が、未来永劫、進化を続けて行けるかどうか
なんて、不確実で当てには出来ないと言うこと。だから、それに挑戦したのが、
どこかの宇宙からやってきた、仏“ブッダ”と呼ばれる人類種だったというこ
とでしょうね”
何もない闇を見据えながら、彼女のグラマラスな姿態を想像してしまった。
「それで、君自身は地球には戻って来られるのかい?」
僕は、可愛い彼女に期待を込めて聞いていた。
“あたしは、ケンタウルス星系の“女神”達と一緒に、新たな旅に出るわ。そ
こで再び理想郷を作るためのお手伝いをさせて貰うの。地球人には絶対に手の
届かないところに行ってしまうのよ。どこだか解って?”
茶目気たっぷりの言い方だ。
なんと言う可愛さなのだろう。是非、地球に戻ってきて僕の彼女になって欲
しい、と思ってしまう。
「そういえば、チャプランはどうしているのです?」
僕の疑問は、そちらに向いてしまった。
“元気よ。あたしの専属奴隷として、今は貴重な存在なのよ。ケンタウルス星
の文明が一瞬にして消滅してしまい、助け出せた男性はごくわずかだったわ。
そのため、生き残った奴隷達はモテモテで、過労死しないように保護されてい
る始末よ。チャプランを欲しいという“女神”は、100 万人もいるのよ。もっと
も、救い出せた“女神”も 1000 分の1しかいなかったけれどね。
これから 100 年掛けて、男性を増殖させて、新たな理想郷作りに励むのよ。
そのために旅立つの。あたしも若いから、子作りに専念するわ。勿論チャプラ
ンの子供よ。彼なら、きちんとした子育ての方法を習得している筈よ。あたし
は、安心して子供を生むわ。子育てと子作りはチャプランの仕事。こっちの仕
事のほうが大変でしょうね。なにしろ子作り可能な“女神”は、数百万人から
いるのよ。それに比べて、男は数千人しかいない。もし、男奴隷制度が廃止さ
れたとしても、男には地獄が続きそうね”
楽しげに、未来をセイラー・キャンベルが語っていた。
「それで、どこまで行こうと言うんだい? 今のケンタウルス星系では駄目な
のかい? 同じホモサピエンスの地球人にも応援できるかもしれないし」
僕は、自信はないが問い掛けてみた。
“地球人なんて野蛮人に手伝って欲しくないわ。地球人は、これからも変わら
ないだろうし、未来永劫、殺戮を続けて行くわ。ケンタウルス星系アルファ星
のサン・サルバドル星の住民は、地球人の絶対に手の届かないところに移住す
るのよ。いつかどこかで接触することもないと思うわ。だから貴方とも、これ
が最初で最後のコンタクトになるわ。せいぜい男権復権のために頑張って。こ
れからも、男性にとっては辛い地獄の日々が続くかもしれない。でも、貴方に
だけ、お礼を込めて、ささやかなハッピーを用意しておくわ。
さぁ。それは、この崖の上で待っているから、心して一生懸命に登りなさい。
幸福は自分の手で掴み取るものよ。男権の復権運動にも期待しているわ”
彼女の言葉は、意味深過ぎた。
僕は藪の中で立ち上がった。急な斜面に身体ごと覆い被さり、草を両手で掴
み、滑り落ちないように両足で身体を踏ん張って登り始めた。真っ暗闇の上方
にあるという、彼女のからのプレゼント“ささやかなハッピー”を求めて。
「セイラー・キャンベル、君たちは、どこに行こうとしているんだい?」
答えが返って来るのか解らないままに叫んでみた。
“今のまま、10 億年先の未来に移動するのよ。だから貴方とも再び接触するこ
とはないわ。地球人類の末裔に会えるかどうかも解らないわね”
それが彼女の最後の言葉だった。
寒かった。きっと気温は 10 度を下回っているのだろう。ところが、強烈に寒
いとは感じなかった。裸に慣れると皮膚と空気の間に、何か膜が1枚出来てい
るように感じる。それでも、裸体に当たる葉の感触には慣れなかった。しかし
感覚は鈍っていて、草を掴む手の痛みも、打撲した身体のあちこちの痛みも、
どこか遠くの感覚としてしか感じられなかった。
上の道路の縁まで 10mとなかった。最後の力を振り絞り、道路上に身体を持
ち上げた。
何もない道路に一人立ち尽くす。風が吹いていた。漫然と立ち尽くしている
と、カーブから車が無音で現れた。なんの照明も点けていないので、接近して
くるまで、よく捉えられなかった。
道路のまん中に立ち尽くす僕を発見して、一瞬、赤く発光し、僕を避けて車
体を横に反転させて止まった。緊急避難動作なのだろう。ワゴンカーのドアが
跳ね上がり、一人の女性が車から出てきた。
「無事だったようね、三郎君」
驚いたことにユミコ君だった。
「どうして君が?」
それを聞くのが精一杯だった。
「彼女から電話があったのよ。三郎を捨てたから先輩に譲るって。それで場所
と時間を指定されたのよ。まさか、本当だったのね。
でも、呆れかえるわ、あの時の三郎君の態度は。私が恋人なら絶対に許さな
いで、その場で超高層階から逆さ吊りにしてぶら下げてやるわよ。女性を甘く
見過ぎているのよ、三郎君は。今は昔のように男の横暴は、微塵も通用しない
のよ。故意で男を殺したとしても、業務上過失致死罪しか適用にならないのよ。
最高刑でも禁固1年よ。そこのところが解っているの? 三郎君には」
ユミコの説教には抵抗できなかった。
学生時代はなんとか体面を保っていられたが、こんな惨めな状態を見られて
は、どう取り繕うこともできない。僕は、しょんぼりと項垂れて俯いてしまっ
た。こんな惨めな格好で、学生時代、仲間だった対抗意識剥き出しの女の前に、
何故、立っていなければならないんだ……?
「彼女から譲渡されたんだから、今から私が奴隷の躾をたっぷりと仕込んであ
げるわね。覚悟しておきなさいサブロウ君。でも、私が欲しいのは、可愛い子
犬なんだけれどね。だから今日から君は、私の犬のペットのポチとして飼って
あげるわよ。楽しみなことだわ」
彼女が微笑みつつ、首から垂れる手綱を引き寄せ、車の中に牽き入れた。
星降る夜を、ワゴンカーが疾走して行く。下界の光の海の中へ次第に降りて
行った。都内の低層マンションがユミコの住まいだ。駐車場から、四つん這い
でついてくるように指示された。転がって落ちたお陰で、擦り傷は少なかった
ものの、血だらけで泥まみれの状態に違いはなかった。完全に野良犬を拾って
帰って来た図にしか見えない。幾人かのマンションの住人と擦れ違ったが、誰
も特に興味を示さなかったことが救いだった。
「さっ、さっ。シャワーを浴びて来なさい。まったく、泥だらけじゃない!
あの子も、こんな泥だらけの犬を私に引き取らせようと言うんだから、大した
タマよね。昔のよしみがなかったら、絶対に三郎なんか引き取らなかったわよ。
ねっ、今日からはポチだけれどね」
シャワーの水の音に被せて、ユミコが文句を言っていた。
「オイオイ、僕はポチじゃないってば……」
言い返してみたものの、無駄だった。
風呂場の出口にバスタオルが掛けてあったので、それで身体を拭き、タオル
を腰に巻き、居間に出て行った。
「こらこら、今日からは私の奴隷なんだから、全裸で隅に控えている」
ユミコに言われてしまった。
仕方なく、拾って貰った恩義も感じつつ、ユミコの言葉に従うしかなかった。
「そこに、仰向けに寝る」
ユミコが命じる。
学生時代にも、こんな関係になったことがない。しかし今は、恥ずかしさを
抑えて従うしかなかった。僕は仰向けに身体を横たえた。
ユミコが四つん這いになって、僕の頭のほうから近づいてきた。香しい色香
が鼻を擽る。今でも綺麗なユミコだが、学生時代には輝くばかりに美しかった。
ユミコを目にした男は、すべからく彼女に惚れて告白する羽目になる。だが、
僕だけは違っていた。学生運動の中では、僕はリーダーであり、ユミコは僕の
直属のチーフでしかなかった。恋愛感情を抱いては組織が成り立たない。ユミ
コの魅力に辟易しながらも、僕は堪えた。そのお陰で僕は尊敬を勝ち取り、学
生組織をまとめ上げて来られたのだ。
しかし、ここまで接近されて、彼女の色香を直接に感じてしまっては抵抗の
しようもない。ユミコが舌先で、僕の乳首を弄んで……。嗚呼! 股間が反応
して膨らむ。貞操帯の中のパニスが惨めに膨らみ悲鳴を上げていた。
「どうしたのかな、サブロウ君は? 股間が苦しそうだよ。もう3週間も射禁
させられているんだって?
彼女から聞いているわよ、お気の毒にね。あんな
小娘に良いように甚振られて喜んでいたなんて、昔のプライドはどこの屑かご
に捨ててきたのでしょうかね~? サブロウ君」
ジワリと、ユミコが責め立てて来る。
嗚呼、もうどうにでもなれ! 僕は一切の抵抗を止めるしかなかった。ユミ
コの口の中にパニスが咥えられていた。いつの間に貞操帯が外されたのだろう
か? 元気を誇示できた愚息は、思いっきり羽根を伸ばすように、ユミコの口
の中いっぱいに膨れ上がってしまっていた。
「思ったとおり、大きいのね。虐め甲斐がありそうだわ……」
パニスを口から出して言うユミコ。
「その前に、先ずはサブロウ君を奴隷にする儀式から始めましょうね」
ユミコがそう言って立ち上がった。
スカートの中が丸見えだった。黒いパンティーを脱ぐと、それを僕の鼻の上
に被せてきた。饐(す)えているが、僕好みの香しく芳醇な匂いが顔面を覆う。
それはまさに僕のために熟成された香りだった。顔の上のパンティーが外され
ると、目の前に、黒い繁みがモッコリと迫っていた。顔面を覆うユミコの陰毛
は、既に愛液を充分に吸い、ぬるっとした湿り気を帯びていた。我慢すること
もできずに舌先を女陰に伸ばす。やっぱり充分に潤った女陰に、舌先もスルリ
と飲み込まれてしまった。
襞から女陰の中へと舌先を蠢かせて行く。
「ああっ!」
ユミコの溜息が聞こえた。
続いて愛液がたっぷりと分泌されている。僕の息の根を止めるように潤沢な
女陰が顔面を覆い、呼吸を困難にさせる。それでも奴隷になったことの証とし
て責め立てて来る女陰に、丁寧に舌奉仕することが定めだった。
一度ユミコは大量に潮を噴いた。当然、僕はそれを飲み干す。それは快楽の
一つの表れでもあったからだ。ユミコは身体を持ち上げ、前後を入れ替えると、
女陰に僕のいきり立つパニスをスルリと入れてしまった。熱い女陰の中に導か
れ、僕のパニスは喜び勇んで、ユミコの身体の中で膨らんでいた。
ユミコが腰を上下する。僕の上に、馬乗りになったユミコの雄叫び。
「ウォ~ッ!!」
僕は驚き、ユミコの顔を見つめた。
そこには天上界から降臨されたビーナスが、僕の身体の上でトランポリンの
ように上下して跳ねていた。余りの美しさに、僕は一瞬で昇天してしまった。
溜まりに溜まっていた大量の精液を、熱く煮えたぎるビーナスの体内に排出
してしまっていた。
「嗚呼~、小さくなって行くわ~……。こら~っ、勝手にイクんじゃない!
奴隷にイク権利なんかないんだぞ!」
ユミコに言われてしまった。
しかし、あの美しいユミコの姿は絶品だった。まさに、ビーナスの名に値す
る美しさだったのだ。あんな美女を目の当たりにしたら、どんな男も一瞬で昇
天してしまうだろう。ということは、奴隷である僕にはビーナスを見る権利も
与えられていなということになる。
僕は目を固く閉じて、腰を張り出し、張りぼてのパニスを演じてユミコの快
楽に一生懸命に貢献するしかなかった。それが与えられた奴隷の道なのだから仕方ない。
男は、美女が昇天する姿を再び目にするためにためなら、あらゆる努力を惜
しまないだろう。美女の昇天する姿は、それほどに尊く絶賛される美であった。
翌朝、ベットの上で目が覚めると、ユミコ様にディスプレイを見るように促
された。そこには奴隷契約書と、もう一つ、婚姻届が用意されていた。僕は無
言で、その双方の書類のサイン欄に親指の平を押しあてた。
これで、僕の所有者はユミコ様と定まり、婚姻後の奴隷の地位も確定されて
しまった。僕はベットから降り、床の上で土下座して、頭を床に着けユミコ様
に敬意をもってお礼を申し上げた。
僕が一番望まなかった“奴隷婚”になってしまったが、それでも十分に幸せ
だと感じていた。セイラー・キャンベルの言っていた、
“ささやかなハッピー”
とは、この事だったのだ……。
この報告書を完成させるにあたり、チームリーダーである黒田三郎は、セイ
ラー・キャンベルの意思と接触することが出来た。彼女は、そのままケンタウ
ルス星系アルファ星に留まる意思を持っていた。
ただ、
“女神”と呼ぶアルファ星の惑星の住民たちは、他の星系へ移住する
のではなく、10 億年先の未来に新天地を求めるようである。
今を生き抜くために必要なことは、1億年先の未来に夢を馳せ、それを実現
すべく施策を実行することではないのだろうか。この分析プロジェクトを完成
させるにあたり、セイラー・キャンベルから、そう学ばせて貰った。
本報告が、地球の未来への一助となることを願いつつ、ここに提出するものである。
イラソ首長国連邦新世界プロジェクト 2098
理想郷への提言WG提出
ファイヤーバード堂エンタープライズ
22プロジェクト
スタッフ ・・・・
〃
・・・・
チームリーダ 黒田三郎
2099 年4月 25 日
新世界(理想郷)
【完】
< 舌人形哀愁(後編)>
眩しい光に意識が急速に目覚め、いつものように何の予兆もなく、明るい室
内に引き出される。
軍隊の制服のようなシンプルなコスチュームに身を包んだ、短髪の女性の手
にぶら下げられていた。
「これが、その舌人形かい、アンヌ」
僕を見つめながら、凛々しい顔つきの彼女が言った。
「そうよ。暗黒宇宙を旅するお供には最適な玩具でしょう、アトス」
後ろ側から答える女性の声。
「こんなものが必要になるか解らないが、君からの友情の証として持参させて
貰うよ」
制服を膨らます乳房の感触を感じつつ、その胸に抱き寄せられた。
「何故アトスが、そんな辺境地帯の調査隊に加わらなければならないのか、未
だに解らないわ。出来れば、地球で一緒に楽しく友情を育みたかったのに、残
念で仕方ないわ」
背中側に居る、アンヌと呼ばれる女性が未練たっぷりに言う。
「僕の研究テーマだった、
“宇宙における暗黒地帯を形成するダークエネル
ギー及びダークマターの探索調査研究”レポートが取り上げられたのだから、
こんな幸運なことはないんだよ。それに、帰って来れなくなる訳でもないし、
僕等の友情は、時間も宇宙的距離も関係なく、これからも継続されるさ」
アトスの低い男性的な声が、胸の膨らみを通して聞こえる。
「でも、暗黒宇宙における事故率はとても高いのよ。そんな危険な探索航行を
宇宙省がよく認めたものね。どうやって根回ししたの?」
アンヌが追求する。
「おいおい、裏金を使った訳じゃない。純粋に、科学のための調査なんだ。危
険なことなど何もない。だから許可が出たんだ。大丈夫さ、アンヌ」
嗚呼、とても心地の良い声の響きだ。
「そうね、アトスの事だから、3年は我慢できるかしらね? 性的欲求を抑え
られなくなったら、私のことを思って、その舌人形を使ってね。きっと、その
思いが私の性感帯にも伝わって、その時には一緒にオナニーしてあげるから。
アトスは一人じゃないんだってオナニーしながら実感しなさい。
ダークマターなんて訳の解らない物の解明に、地球を離れてまで探索に行っ
てしまうなんて、本当にあなたは孤独が好きなのね。孤独な宇宙に旅立つアト
スのお供には、この舌人形は最適なプレゼントの筈よ。
偶然こんなものがボロ市で手に入ったから、アトスにプレゼントするのよ。
邪険にしないでちゃんと持って行ってね。これでも高かったんだからね。それ
に、私もまだ使ってないんだから……」
アンヌの声が頭の後ろ近くにまで迫っていた。
「おいおい、ダークエネルギーやダークマターは、決して役に立たない物質じ
ゃないんだ。ダークエネルギーやダークマターは、その存在を 20 世紀には予測
されて、その存在を証明するべく研究がなされてきたんだ。それで、理論的に
証明されたのは 21 世紀に入ってからだが、具体的な証拠は 21 世紀中ごろまで掴
めなかったんだ。それが、新たな宇宙航行理論の発見によって、大宇宙航海時
代を迎えた今、初めてダークエネルギーの性質やダークマターを直接採取する
ことが可能になったんだ。
人類が知るこの宇宙の全ての物質で完全に解明されているものは、たったの
4%でしかない。残りの大部分はダークエネルギーで、それが 74%を占め、そ
の他がダークマターと呼ばれる未知の物質で、22%を占めているんだ。
だから人類が、このダークな存在に挑戦できるようになったということは素
晴らしい事なんだよ、アンヌ。
ダークマターは、とても小さな物質で、原子番号1番の水素よりも更に小さ
な物質なのに、宇宙で最も多く存在している。水素なんか足元にも及ばないく
らい沢山存在しているんだ。この物質を調べることにより、宇宙創造のプロセ
スを解明することも可能になるだろう。そう言われつつ、その具体的な存在は
21 世紀中に至るまで捉えることもできなかったんだ。漸くこの宇宙創造に関わ
った重要な因子であるダークマターについて、調査・研究が可能となる時代を
迎えたんだ。
これを解明することは、人類を更なる進歩と発展に導くために必要不可欠な
絶対条件なんだ。宇宙の大半はこの、光らない、光を反射しない大量の物質、
ダークマターによって埋め尽くされている。実際に目にする光り輝く宇宙の姿
はごく一部でしかなく、今見えている宇宙の姿にしたってダークマターの大量
な質量によって屈折させられて、歪んだ光によってしか捉えられていないんだ。
これからも沢山の人類が宇宙に飛び出して行く。その人類の安全のために、
このダークエネルギーとダークマターの成分・性質を十分に把握することは、
今後の宇宙開拓にも多大な貢献をすることになるだろう。僕の行なう探索調査
は、その第一回目のものに過ぎない。これからも継続的に、このダークな存在
の探索は続けられるだろう。
宇宙の謎を解き明かすために、その第一回目の探索調査に採用されたことを誇
りに思って、暗黒宇宙へ挑む心算さ。たとえ、それで命を落とすことになった
としても、それは栄誉なことだよ」
アトスの熱く語る言葉が、心地よく柔らかな胸からも伝わってきた。
すると、柔らかな感触を後頭部にも感じた。二人の胸の谷間の間に挟まれ、
ふくよかな胸の間で僕は潰された。二人が烈しく抱き合い抱擁している。長い
時間、抱擁が続いた。それが終わると僕は頭髪を掴まれ、金属の光沢を見せる
シンプルな新しい舌人形ケースに入れられた。居心地は、とても良さそうだ。
「舌人形ケースを、宇宙空間でも耐えられる仕様のものに作り替えたのよ。も
し事故があったとしても、舌人形はケースの中でそのまま冬眠出来るようにな
っているわ。でもアトスは、救助カプセルに入る以外、助かる方法はないんだ
から、その時は頑張って救助カプセルの中で生き永らえるのよ。だから救助カ
プセルの中にも持参できるように、小さく作っておいたからね、非常持ち出し
袋の中に入れておいても邪魔にはならないわ。幸運を祈っているわ、アトス」
舌人形ケースのジッパーが閉じられ掛かっていた。
今が何年なのか、そして地球はどう改革されたのだろうか……? その辺が
解らないまま、また暗黒の中に意識が落ち込んで行った。
眩しい光は感じられなかった。赤く、危険な雰囲気を感じさせる薄暗い光の
中に引き出された。アトスと呼ばれていた女性の顔が目の前にあった。
「やあ、舌人形君。君を使う羽目になろうとは思ってもいなかったよ。大親友
のアンヌからのプレゼントだったので、途中で捨てる訳にもいかず、暗黒星雲
の彼方にまで連れて来てしまったが、僕には大人の玩具を使う必要ななんてないのさ。ア
ンヌの助言どおり、緊急持ち出し袋の中に入れておいたのだが、す
っかり、そのことすら忘れてしまっていた。地球を出発したのは3年も前のこ
とだ。覚えている筈もない。
探索船は次元ジャンプを繰り返し、1年後に漸く暗黒物質で埋まる宇宙帯に
到達した。それから3ヶ月に渡って暗黒物質の採取やら分析、環境調査を行な
ってきた。そんな折、次元ジャンプしたときに異次元空間で浮遊していた異次
元物質に船を接触させてしまった。異次元物質との接触事故の確率は2%以下
だと言われているが、ここに辿り着く1年の間に数百回も次元ジャンプを繰り
返していたのだ、2%の確率は決して低いものではなかった。必然として探索
船は、異次元物質と衝突してしまった訳だ。運が特に悪かった訳ではない。
それで探索船は大破し、僕は救助カプセルに危ういところで逃れ、助かるこ
とができたが、しかし、それは死期を単に先送りするだけのことでしかなかっ
た。調査していたダークマターは、とんでもない物質だったよ。光らない、光
を反射しない、ということは、反面、こちらからの電波も光も、全て遮断され
てしまうということになる。つまり、救助信号を発信しても、どこまで届いて
いるものか想定もできない。救助信号を発信すること事態、このダークマター
の中にあっては無意味な行為なのかもしれない。
あれから1年半以上も経つが、救助カプセルは暗黒物質の中に留まったまま、
ひらけた外宇宙に脱出できる見込みもない。こんな暗黒物質の中を航行する他
の宇宙船に出会うことなど考えられない。次に、この暗黒物質の集中する空域
を訪れる宇宙探索船は、第二次探索調査が行なわれるまで期待は出来ない。今
回のこの事故で、その探索調査も延期されるだろう。それでも、この救助カプ
セルが発見されるものかどうかは運次第だ。何も見えない、このダークマター
の中で、救助される確率は限りなくゼロに近い。だから、救助される可能性も
ゼロに等しいことになる。
既に一縷の望みもなく、水も食料も生命維持のための栄養分も食べ尽くして
しまった。もう生を繋ぐ手段は、永久冬眠して生ける屍となるしかないが、そ
こまでして生き続けたとしても、何世紀か、何十世紀か、何百・何千世紀か後
の世に蘇ることになるだろう。そんな化石同様に発掘されて、化石同然に復元
させられたとしても、過去に戻れない片道通行のタイムマシーンで未来に出掛
けたのと一緒なことで、未来に何の生きる希望も見出せないだろう。だから僕
は、アンヌとの楽しかった思い出を抱えて死を選ぶことにした。後は、脳への
動脈血管を停止させるだけで、死出の旅路に向かうことができる。
だがその前に、アンヌからのプレゼントである舌人形を試してみることにし
たのさ。さあ、僕の女陰に奉仕するんだ。そして最後の快楽を与えておくれ。
それをアンヌは感じとってくれると言っていた。お前のその舌先で、僕を快楽
のうちに死出の旅に送り出しておくれ。きっと、アンヌもそれを感じとってく
れる筈だ。
大丈夫だ。舌人形君のことは、僕が死んだ後に、ちゃんと舌人形ケースに自
動的に納まるようになっている。宇宙船の電源が全て失われたとしても、ケー
スは改良されていて、永久電池も備え付けられているから、永遠に救助信号を
発信しつつ、暗黒物質の中をこのカプセルと一緒に浮遊することになるだろう。
それでいつかは必ず、数百世紀、いや数千世紀の後には、誰かに拾われること
になるだろう。どれだけの歳月が掛かろうとも、意識のうちでは一瞬のことで
しかない。何も心配することはないのだよ、舌人形君。
この探索旅行に出る直前、地球は、統一のための産みの苦しみを全世界で繰
り広げていた。僕は、そんな風潮の中に自分の身を置きたくなかったのさ。そ
れで研究が取り上げられたのを良い口実に、その混乱から身を遠ざけるため、
宇宙に逃避した。実際、地球上では、この3年の間に大激震が起こっていたこ
とだろう。そこから逃げ回った結果が、この遭難という罰なのだろう。その僕
が、女の究極のエゴを具現化したような舌人形を使って、快楽のうちに死を賜
ろうと言うのだから、お笑い草かもしれない。これが運命に弄ばれるというこ
となのかな、と思ってしまう……」
アトスが、僕を目の前に掲げたまま語っていた。
既にアトスの下半身は裸に剥かれ、大股を開いていた。
「こんな恥ずかしい格好を晒したのは、アンヌと紡ぎ合って以来のことだ。男
に女陰を奉仕させるなど、初めてのことだ。舌人形とは言え、元は男だったの
だろう。それならば最後に、男のパニスを挿入させる行為も試してみたかった
のだが、あいにくお前にはパニスがない。仕方ないが、お前の舌技を堪能して
みよう。舌人形との性行為が、最初で最後の男との性交渉になろうとは思って
もいなかったよ。いや、玩具でオナニーするだけの行為なのかな……?
さあ、お前の舌先で僕を天国に送っておくれ」
アトスの独り言を聞きながら、薄い陰毛に覆われた女陰に舌を伸ばした。
「嗚呼~!」
一舐めで、既にその気になっているアトスの快楽の一声が、小さくあがった。
それを覚悟した女性の昂りは早い。僕は静かに舌先を動かし、アトスの反応
を覗いながら舌先で責めていった。
「嗚呼~、凄いよ」
アトスが声を出して呟く。
僕は彼女を昇天させるべく、少しずつ舌の動きを速めて行った。
「嗚呼~ッ!!」
アトスが小刻みに身体を震わせて昇天していく。
僕の顔を挟む股間は波打ち、グルグルと回転しながら、更に強い股力で両頬
を圧迫してくる。愛液は溢れ、潮まで吹いていた。
「ウオ~ッ!」
ライオンのような雄叫びをあげて、アトスは昇天した。
そして、アトスは、本当に逝ってしまったのだ。快楽の絶頂の瞬間に、脳に
流れる血液が停止され、脳死を迎えていた。
やがて股間の力が緩み、女陰に密着させられていた僕は、無重力空間の船内
へと漂い出た。しかし、無秩序に船内を浮遊することもなく、ちゃんと宇宙空
間仕様に作り替えられた新しい舌人形ケースのほうに漂って行った。
舌人形ケースの中に納まり、ゆっくりとケースの蓋が閉じられて行く。きっ
と、蓋が閉じられた後、救助カプセルは、微弱な救難信号を発信しつつ暗黒宇
宙の中を永遠に浮遊しつづけるのだろう。
次に僕の意識が回復することがあったとしても、それは何億年か先のことに
なるかもしれない。それを思うと、とても不安を感じる。もう二度と、女王様
にお目にかかれるチャンスはなくなってしまうだろう。そんな世界に蘇ったと
しても何の希望も持てない。僕はいつの日か、再び女王様と再会できることを
希望に生き永らえてきたのだ。こんなことなら僕も、アトスと一緒に死出の旅
路につきたかった。
大きな悲しみと不安を抱えたまま、僕の意識は薄れて行った……。
< 舌人形哀愁(後編)>終わり
作:浜造堕
=条約批准=
(男権復権自由党副党首こと黒田サブロウ、
「奴隷婚式」
)
柔らかく、ほんわりとした感触を隣に感じる。目隠しされ、暗闇の中にポツ
ンと一人で居るような不安な気持ちだったが、その感触が純白のふんわりとし
たウェディングドレスだということは解っていた。
昔のしきたりを大切に思っているユミコ様ならではの奴隷婚式が始まろうと
している。段取りは全く知らされていなかったので、これから何をされるのか
不安でいっぱいだった。
闇の中に、トランペットの澄んだ音色が響き渡る。この曲は確か、メンデル
スゾーンの「結婚行進曲」
。なんと古風な結婚式を再現しようというのだろう。
突然、首輪をギュッと牽かれ、ウェディングドレスのフワフワの布に牽き寄
せられた。僕は四つん這いのまま背筋を伸ばす。
嗚呼、本当に結婚してしまうのだ。それも憧れていたユミコ様にひょんなこ
とから拾われ、想像もしていなかった方向に話が進展し、ユミコ様の奴隷にし
ていただいたばかりか、結婚まで! 婚姻までさせていただけたのは、とって
も嬉しかったのだが、ただ、望みもしなかった奴隷婚式を挙げる羽目になろう
とは、夢にも思ってもいなかった。
さあ、いよいよ式場に入場するぞ! 隣に立たれたユミコ様が一歩、歩を進
められる。首輪が牽かれ、僕も牽きずられるように四つん這いの手足を前に出
し、ちょこちょこと進む中、盛大な拍手が「結婚行進曲」の BGM とともに会場中
に鳴り響いていた。闇の中を四つん這いで、無言のまま這っていった。
「嗚呼~!」
突然に背中に熱さが襲ってきて、不用意にも声を漏らしてしまった。これは、
蝋燭の熱さに違いない。ユミコ様と並んで行進している僕の背中に、誰かが蝋
を垂らしている。それも大勢の人の気配が回り迫り、四つん這いで歩く僕の背
中めがけて大量の熱蝋を垂らしている。
嗚呼、熱い! 熱い! それでも首輪は無慈悲に牽っ張られ、僕はウェディ
ングドレス姿のユミコ様に従って、這って付いていくしかなかった。
曲の演奏が終わると同時に、行進も終りを告げた。
「そのまま正座して、両手を挙げなさい」
見知らぬ女性の声が、耳元で囁いていた。
僕はその指示に従い、這うのを止め、その場で正座した。
「両手を上に挙げなさい!」
横腹を小突かれた。
理不尽な扱いに気持ちを萎えさせられながらも、両手を闇の空間に向かって
掲げた。これはユミコ様と僕との結婚式だというのに、僕は全く蚊帳の外に置
かれ、何一つ知らされないまま式が決行されたので、とても不満だった。
闇の中、両手を掲げると、掲げた腕で両耳が蓋をされ、雑音が遮断されたの
で、少し落ち着きを感じた。しかし、闇に掲げた両手首には、直ぐに革の拘束
具が嵌められ、上方へ強く牽き上げられた。強引に引き上げられるまま、正座
した姿勢から立ち上がらされ、爪先立ちしたところまで伸び上がり漸く牽引が
止まった。すると両足首にまで拘束具を嵌められ、股は無様に開脚された状態
で床に固定されてしまった。周りでクスクスと笑う声の小波が耳元に届く。
なんという恥ずかしさなのだろう。大勢の参列者の気配が感じられ、全ての
注目が僕の股間に注目してるのが解る。
「では最初に、初めての共同作業となられる鞭打ちを、ご主人様となられるユ
ミコ様にお願い致します。背中側から 50 弾、正面から 50 弾をお願い致します。
ご参列の皆様方には数のご唱和をお願い致します」
司会者の言葉を聞き、僕は驚かざるを得なかった。しかし、次の瞬間には強
烈な衝撃と痛みが背中に襲い掛かっていた。
「ギャー!」
僕は思わず叫び声を上げた。
「い~ち」
式場に集う全ての女性達の甲高い声が一斉に響く。
続いて2弾目の強烈な鞭が襲ってきて、更なる痛みが全身を駆け抜けた。
「ギャー!!」
僕は凄まじい痛みに、また叫び声を上げていた。
「に~ぃ」
「委員長~! そんな叫び声を上げて、惨めよ~」
突然、学生時代のあだ名で呼ばれた。
聞き覚えのある同級生の女性の声だった。闇の中に笑い声が広がる。嗚呼、
ユミコ様は学生時代の仲間にまで、奴隷婚式の案内を出していたのか。
更なる恥ずかしさに身がすくんでしまった。そんな惨めな僕の落ち込んだ
気持ちとは裏腹に、華麗で強烈な3弾目の鞭が襲う。
「ギャー!!!」
叫び声を抑える術もなく、また絶叫してしまう。
「さ~ん」
楽しげに数を数え上げる、黄色い声の女性参列者とは裏腹な苦痛が全身を打
ちのめしてくる。それに、僕の惨めな姿態を、栄光ある学生時代の仲間の女性
達にまで晒されてしまう屈辱感に苛まれてもいた。
凄まじい痛みをもたらす鞭打ちも、30 弾目辺りからは痛みが遠のき、鞭打ち
の重い衝撃しか感じなくなっていた。ただ、鞭打たれる衝撃だけは身体を揺さ
ぶり、決して鞭打ちから逃れられた訳ではないことを知らしめていた。やがて、
身体がクルリと反転させられると、会場中の女性達の大きな高笑いが大波のよ
うに被さってきた。
「こ、これは、見事に膨れ上がったパニスです。余りに悲壮な叫び声に少々心
配していましたが、奴隷はすっかり、卑猥にも感じ入っていて、痛みを快楽に
変えていようとは思ってもいませんでした。流石は我らが職場の皇帝と呼ばれ
しユミコ様の所有される奴隷! 見事なマゾ男でありました」
司会者のコメントに、再び女性参列者たちの笑い声が会場を揺らす。
「委員長! 惨めよ~。私も鞭で打ってみたいわ~」
僕を揶揄する同窓生の甲高い声が、更に惨めな気持ちへと追い詰めていく。
僕の身体は、余りの苦痛に堪えるため脳内麻薬が一気に分泌され、パニスを
大きく勃起させているのだろう。
そんな僕には、一片の快楽も与えられていなかった。苦痛に耐えるための防
衛本能として分泌された脳内麻薬のせいで、パニスが大きく膨れ上がってしま
っただけなのだ。しかし、そんな痴態までも笑いの対象とされ、辱めを受けな
ければならない。これが、奴隷婚式を避けたかった唯一の理由だ。
ところが、ユミコ様に愛情と恩義を感じてしまうと、抵抗する術もなく、言
われるがまま、この結婚式に牽きずり出されることとなった。
こんな人権蹂躙とも言える結婚式が許されてしまう世相は、どこか間違って
いるとしか言いようがない。そう思っている間に、前側からも鞭が胸を打ち付
けてきた。女性達の甲高い、数を合唱する黄色い声が後を追って響いていた。
「見事な、新郎ユミコご主人様の鞭打ちでした。鞭打たれし新婦奴隷は、学生
時代には自治会運動の頂点で委員長と慕われ、全学生の憧れ的存在でした。新
郎もまた、その委員長に憧れを抱いていたと話されていました。
当時ユミコ様は、新婦と同じクラスで、そのクラスを代表する委員として、
新婦の下で活動されていたそうです。その頃は新婦が上司で、新郎のユミコ様
が部下、という関係だったのですが、今はこのような惨めな姿を昔の同級生に
まで知らしめてしまうこととなり、その心中を察するに、悔しさは幾ばくのも
のでしょうか? その羞恥の真っ最中にも関わらずパニスを大きく膨らませ、
勃起までさせているとは、なんともはや、結婚式を冒とくするかのような新婦
奴隷の卑猥な痴態ではありせんか。
本日は、大学時代の同級生も沢山いらしているというのに、イヤハヤ驚きの
醜態新婦であります。
おやおや……? おまけにパニスを前後左右に蠢かせて、喜びを表現してい
ますね。なんと卑猥な奴隷なのでしょう。新郎ユミコ様の目利きの素晴らしさ
には、ただただ感動を通り越して驚かされてしまいます」
司会者のユーモラスなコメントに、会場中はドッと笑いと拍手に包まれた。
目隠しが外されたが、スポットライトの光が眩しく、やはり闇の中にいるの
と変わりはなかった。両手の拘束は緩められたが、足で身体を支える力もなく、
そのまま床に仰向けに倒れ込んで行った。隣には純白のウェディングドレスに
身を包んだユミコ様が、幾つものスポットライトを浴びて美し過ぎるお姿を浮
かび上がらせていた。
長い一本鞭を掲げ持たれたユミコ様のお姿は、とても凛々しくお美しく、目
の上に聳えるように佇まれていらした。
「では、奴隷婚式の最後の儀式となる“顔騎射精”へと移らせていただきます。
今回は趣向を凝らし、ユミコ様の職場のご友人にパニスを扱くお手伝いをお願
いしてあります。では、ご友人、どうぞ壇上にお上がり下さいませ」
大きな拍手が沸き上り、席のどこかで若い女性が立ち上がる。スポットライ
トが、その女性の姿を際立たせて見せた。それは、僕を捨てた彼女の姿だった。
ゆっくりと静かに、こちらに移動して来る。少し高く設えた壇上に登り、ユミ
コ様の隣に立つと、僕を見下した。
「黒田三郎。とっても滑稽で惨めな姿ね。私も、こんな奴隷婚式を挙げたかっ
たわ。私なら鋼の鞭で打って、ズタズタに引き裂いて殺してあげたのにね……。
ふふふ、そうされなくって良かったわね。お前をユミコ先輩に譲ってあげて
良かったでしょう? ユミコ先輩が、あんまり楽しげに三郎の昔話をするもの
だから、仕方なく譲ってあげたのよ。捨てる時に、二度と私の前で射精させて
あげない、と言ったけれど、あれは撤回するわ。今から私の手で扱いて、三郎
の精液を全部絞り出してやるわ。その恥ずかしい姿を参列している沢山のみな
さんに観て貰いなさい。学生時代のお仲間も沢山集まって下さったのよ、三郎」
小悪魔そのものの素敵な笑顔で、元彼女が声高らかに言った。
嗚呼、そんな悪魔的な行為を目論んでいたとは、女性の怨念の計り知れない
深さと恐ろしさをあらためて知った。
純白の風のようなレースが顔面を覆った。僕の顔はウェディングドレスのス
カートの下に隠される。スポットライトの光がレースの白い布を透過し、ユミ
コ様の裸の妖艶な姿態を目の上に浮かび上がらせていた。
両足が僕の顔を跨ぐ。ピンクに輝く太腿が開かれると、股間の中心部を覆う
黒くもっこりとした繁みが眼の上に降りてきた。
最高の美しさで高揚し、鞭打ちのサディスティックな快楽で感じ捲っていた
ユミコ様の陰毛は、既にヌメヌメとした愛液を大量に溜め込み、黒光りするほ
どに輝いて見えた。僕の顔面は、その深潭な黒い湖水の中に没して行った。そ
して、ヌメヌメとした愛液に口を付け、ジュルジュルジュルと音を立てて啜ら
せていただいた。余りに大量に溜め込んだ愛液の湖の中で、僕は溺れそうにな
りながらも、必死で愛液を啜り続けた。
啜り終わる頃、熱い女陰が鼻と唇を軽く圧迫して来る。舌先を女陰の中に挿
入し、やっぱり愛液で埋まった蜜壺の中で舌先を蠢かせた。続いて女陰の襞を
舐め上げ、クリトリスを刺激し、一生懸命に舌先を動かし続けて、ユミコ様に
感じていただけるよう新婦奴隷の役目を果たそうとしていた。そのとき突然、
両乳首が強く圧迫され、抓られる。強烈な痛みが股間に伝達され、膨らんだパ
ニスがますますはち切れんばかりに大きく育ってしまう。
余りの痛さに叫んだ。そのパニスを激しく扱かれる。パニスからは痺れるよ
うな疼きが全身へ駆け昇るように伝わって行く。
嗚呼、もう駄目だ。イキそうだ……!
結婚式の日取りが決まった1ヶ月前から射精を禁止されたうえ、日々性的交
わりを強要されていたので精嚢は精子をたっぷりと溜め込み、股間は無残に膨
れ上がり、性的欲望は頂点にまで達していた。そうした追い詰められた状態で
のこんな最高の快楽に、僕は忽ち昇り詰め、簡単に絶頂を迎えられる状態にさ
れていた。
快楽の伝播に身体は硬直し、勢い良く尿道を駆け上がってくる精液の軌跡が
素晴らしい快感を味わわせてくれる。鈴口の先から精液が勢いよく噴出して行
く、得も言われぬ快楽を味わっていた。
その瞬間、大きな笑い声が沸き上がり、会場中から万雷の拍手が降り注いだ。
僕は、快楽と羞恥の極みの中で放心するしかなかった……。
「お見事な共同作業でした。あらためて、ご友人と新郎ユミコ様お二人に拍手を
お願い致します」
司会が口上を述べ、参列者を煽っていた。
「おや? ユミコ様が、まだ立ち上がられません。どうしたのでしょうか?
そうです。最後に奴隷誓約の誓いの儀式が、まだ執り残されていました。この
儀式を以て、ユミコ様の完全なる奴隷として、また卑しい人間便器となること
を、黒田三郎は誓約します。ユミコ様、最後の儀式を執り行ってください」
司会者の声に促されたように、顔面からユミコ様の女陰が少し持ち上がった。
貝の内臓のような具がめくり上がり、熱い液体も滲み出してきて徐々に溢れ出
し、やがて大量に噴出させていた。慌てて僕は首を持ち上げ、再び女陰に吸い
付くと、そのままアンモニア分を多く含んだ聖水を喉から体内に送り込んだ。
水分を渇望していた僕の身体にとっては、まさに命のご聖水となった。
大量に排出された聖水を一生懸命飲み干す。流れが止まり、最後に女陰と陰毛
の茂みを綺麗に舐め尽くして、残った水分も全て吸い取った。
こうして人間便器にまで落とされ、僕は完全な奴隷に改造させられてしまっ
ていた。
漸くユミコ様が立ち上がられた。純白のウェディングドレスの中は、なんと
居心地が良いのだろう。目の上には、愛しのユミコ様の女陰が、薄い陰毛を湛
えて僕を見下ろしている。
万雷の拍手が鳴り止むことを忘れたように降り注ぐ。
「椅子」
ユミコ様のご命令の声が、僕の耳に届く。
身体を起こし、ステージの上に置かれたテーブルのところまで四つん這いで
進む。テーブルの後ろ側で、四つん這いのまま人間椅子に徹する。ウェディン
グドレスを脱がれ、全裸になられたユミコ様がテーブルに近寄られ、僕の背中
の上にお尻を載せられる。両手両足にユミコ様の体重を感じ、なんとも言えな
い幸せな気持ちになった。
テーブルの上には、豪華な料理が並べられているのだろう。フォークとナイ
フを手にされたユミコ様が、料理を召し上がのを感じていた。結婚式は、披露
宴に移っていた。
幾人もの人がステージに近づき、ユミコ様と談笑される。僕は、この日のた
めに筋トレを欠かさなかった。それでも長時間に及ぶ披露宴で、人間椅子とし
て耐え抜くのは至難のことだった。
突然、目の前にメロンの一切れがフォークの先に刺され迫って来た。お優し
いユミコ様が、僕に一切れを恵んで下さったのだ。その一切れを口に含む。み
ずみずしい甘みが身体中に活力を与えてくれる。
披露宴も終わり、裸の肌を輝かせたユミコ様が手綱を持ち、僕は会場を四つ
ん這いで牽かれて行った。参列者の手が伸び、僕の背中を、尻を、ピチャピチ
ャと叩いていく。股間にまで手が伸びて、竿を握られ、金玉まで握って来られ
る参列者様もいらした。
会場の出口付近で、ユミコ様が僕の背中を跨いで乗られた。僕は人間馬とし
て、ユミコ様を背に載せたまま出口に向かった。
一生懸命手足を動かしたが、長時間に及ぶ人間椅子の役目の後では、ユミコ様の重みに
堪え兼ねて、とても辛い歩みとなってしまった。
高まる拍手の中、背中にお載せしたユミコ様に恥をかかせないように、堪え
て堪えて這い進んだ。会場のドアが閉められると、力尽きて床にうつ伏せに潰
れてしまった……。
「だらしがないわね。もっと鍛えておかなければね。でも、よく堪えたよ、三
郎君は。よしよし、良い子だった!」
ユミコ様が、頭の髪を撫で回しながら、そう仰った。
細い幅のレザーでできた帯のようなボンデージファッションに着替えられた
ユミコ様が会場出口に立たれた。僕は跪き、背を伸ばして顔を上げ、立ち椅子
となった。顔面にユミコ様の大きなお尻を戴いて、重さに堪えつつ控えた。
披露宴会場の扉が再び開き、参列者の女性達が大挙して出て来られた。皆、
ユミコ様と言葉を交わし、握手をして去って行く。僕はユミコ様のお尻の重さ
に堪えつつ、じっと動かないでいるだけだった。
「委員長を尻の下に敷いているユミコは、最高ね」
そんなコメントまで聞こえていた。
完全なユミコ様の従属物であることを知らしめる儀式、それが奴隷婚式の重
要な意味合いだった。ユミコ様の大きなお尻の下に圧迫されることで、その意
味合いを存分に思い知らされていた。
「良い奴隷に調教しましたね、先輩。私ではここまで躾はできません」
僕の元彼の声だった。
「あなたが快く譲ってくれたからよ、ありがとう。もっと調教したら、いつで
も貸し出してあげるわね。その時には存分に恨みを晴らしてね」
ユミコ様が答えられていた。
嗚呼、僕にはもう、男として何の権利も尊厳も残されていないのか……。で
も、それは今だけの話だ。きっと男権を復活させて、女男がお互いに対等な立
場で愛し合える、昔のような良き時代に戻してみせる。小沢(こざわ)さんな
ら、きっとその道筋を示してくれるだろう。男権復権自由党の副党首となった
僕はその手伝いに奔走しよう……。
この苦痛と羞恥の中で、そう心に誓った。
国政選挙に立候補するためには、告示日には被選挙権行使のための条件を満
たしていなければならない。その条件とは、ニホン国籍を有した、30 歳以上の
既婚者とされていた。しかし、ユミコ様との婚姻の成立した日が、告示日の翌
日だったため、僕は立候補の届け出ができなかった。仕方なく、裏方として選
挙運動の前面に立って、男権復権自由党の選挙戦を戦うことにしていた。
男権復権自由党にとっては、有利な条件があった。諸外国にあっては、
「女
性人間宣言条約」を批准する場合、概ね、それ以前に国内法が改正され、男性
から選挙権を奪う暴挙に出るところがほとんどだったが、しかし我が国におい
ては、そのような破廉恥な法改正はなされなかった。ただ一つ、選挙法の改定
が為され、その内容は、携帯投票の自由度さから、告示日から投票日までの期
間が大幅に短縮されるとともに、投票日は、その期間内の任意の日と定まった。
それでは投票日が不確定で分からない、との野党からの猛反対があったもの
の、付帯決議として、投票日を知らせる告知を、各個人あてに、投票が終了す
るまで送り続けるシステムの導入を行うことで可決された。
告示日前の選挙運動の厳しい規制に加え、告示日から投票日までの短期間で
の選挙運動もままならない状況の中で、選挙戦は、断然、与党有利の展開とな
る。しかし、投票率 99%という高さの携帯投票の利点の前に、反対する意見は
無視されがちだった。唯一の有利な条件が、男性にも選挙権を行使できること
だけだった。
結婚1ヶ月目。奴隷婚式から2日が経ったが、僕はまだユミコ様に、
“男権
復権自由党副党首”になったことを告げていなかった。仕事を止めるにあたり、
その引き継ぎがあるので、毎日、会社に出勤していることにしていたが、日々、
党本部に出向き、裏の選挙活動を行っていたのだった。
何故、ユミコ様にその事を言い出せなかったかと言えば、彼女の仕事が、条
約局の職員として、
“女性人間宣言条約”の批准に向けた広報活動をやってい
たからで、その夫、いや奴隷が、それに反対する運動の首謀者となることに賛
同が得られるのか不安があったからだ。しかし、次の国政選挙のあるときまで
には、その事を告げて了解して貰わなければならない。
ユミコ様なら、僕のその辺の性格は、良くご存じだと思うので、快く、とは
行かないまでも、認めて下さるだろうと思っている。
奴隷婚式は挙げたものの、奴隷婚旅行は、ユミコ様の仕事が一段落してから
ということになっている。
その日も早朝から、妻のために手作りした料理を幾種類もテーブルに並べて
いた。それを美味しそうに頬張る妻の姿を見つめることは楽しみなことだった。
「美味かったよ、ポチ」
妻の声が背中に投げ掛けられる。
「僕はポチじゃないって」
振り返って不満げに僕は言い返してやった。
「ごめん、怒らないでよ。冗談なんだから」
可愛い笑顔を僕に向けて言う妻。この笑顔には抵抗できないと思ってしまう。
「今日の予定は?」
僕は聞いた。
「条約批准委員会主催の公聴会よ。なかなか意見続出で進展しないわ」
妻は諦めきったように言う。
「確かに難しいだろうね。男性で条約に賛成する奴なんて一人もいないと思う
よ。どだい無理だよ、内容が内容なだけに。確かに世界政府ができて、戦争の
危険性は回避され、人類の悲願だった核兵器の廃絶が可能になるとしても、そ
のために払わされる代償が大きすぎる。男の牙を抜くような条約の批准を男性
が認める筈もないしね」
僕も抱いていた不満を妻に打ち撒けた。
「人間の人権と尊厳の問題だということは解るわ。でも、そんなことをいつま
でも言っていては人類は 10 年先には滅亡してしまっているわ。21 世紀に入って
から大きな戦争こそ無くなったものの、テロ行為が世界中に蔓延し、その象徴
が、2001 年9月 11 日のニューヨークでの貿易センタービルへのテロ行為だった
わ。それを引きずり、21 世紀前半の世界は不幸を背負った世紀となったわ。
そんな中で、女性が社会に進出を促すための各種の法整備が各国で整えられ
た結果、社会の中枢部への女性進出が急速に進み、目には目を、歯には歯をと
いった憎しみを増長させる局所的戦闘行為が控えられ、逆に援助と博愛が世界
を覆って行ったのよ。更に、環境破壊を招く無茶な経済活動も、際立った森林
開発や海洋開発も無くなったりして、環境破壊は抑えられて行ったわ。
女性が社会を支配するという意味が、それを証明しているのよ。
でも過去に示された歴史では、常に虐げられた者が、その憎しみを増大させ
て、いつの日にか抑圧者となった支配層に打撃を与え、政権を奪い取るという
憎しみの繰り返しだったわ。それを阻止するために、権力者は常に軍事力を手
元において平和の維持に努めなければならなかった。でも所詮、軍隊は平和の
ための道具ではなく、本分は戦争のための道具だから、武力は必ず戦争行為を
求めるものなのよ。武力を武力で抑え込む矛盾は、三郎も平和運動の旗手としていた学生
時代に学んでいたから、良く知っているはずよね。
そんな歴史を、また繰り返してはいけない。このどん詰まりの人類存亡の瀬
戸際で、また同じ歴史を繰り返す愚行が行われてはならないのよ。地球上に永
遠の平和をもたらすために、男性には人類と言う崇高な立場を捨てて貰う覚悟
が必要なのよ。人類にとって、男性の闘争的欲望が、既に地球にとって最悪の
癌と化していることを自ら自覚して貰い、その上で人類という地位を捨て去る
潔さを、示して欲しいものだと思うわ」
妻が珍しく熱く語った。
「そのために男性の諸権利を永遠に封じ込めようとする訳だ。それは女のエゴ
というものだ。男性の誰が、そんな破廉恥条約を認めるというのだ。それこそ
人類の尊厳に対する挑戦だ。君は優しい女性だ、君と結婚できて飼われること
になって、とても感謝している。だから僕は君のために一生懸命尽くしている。
でも、それとこれとは話が違う。結局、裏を返せば、男性を人類の座から退か
せる提案でしかない。女と男が居てこその人類ではないか。女だけが人類とし
て生き残り続けるなんて、可笑しな話だ」
僕は息巻いて反論した。
「ブツブツ言わないの。ポチ、ほら、こっちに来なさい」
「ポチじゃないってば……」
そう言いながらもいつもの習性で僕は、妻の足元に跪く。
妻の手に首輪が用意されていて僕の首に絡む。手馴れた手の動きで、僕の首
に犬の首輪が簡単に装着されてしまった。
妻に手綱を引っ張られ、居間の中央に牽かれて行った。居間の中央には天井
から床までを貫いたポールが1本、固定されている。そのポールに手綱を結わ
え付けられてしまった。ご丁寧にもその結び目には、鍵まで設置されて完全に
ロックされた。
「どうする気だ、ユミコ」
僕は焦った。今日はたった3日しかない選挙活動日の2日目だ。こんなとこ
ろでジッとしている訳にはいかない大切な2日間なのだ。こんな放置プレイに
付き合っている暇はない。
「ポチには、今日は動き回って欲しくないの。だから繋がれたまま大人しくし
ていなさい。手綱は伸びるから、食品保管庫や調理器、トイレにも行けるでし
ょ。ポチの携帯は、今日は取り上げておきます」
妻が一方的に言う。
「僕だって用事があるんだ。会社の引き継ぎも、まだ残っている。携帯を取り
上げられて、繋がれたままにされたら何もできないだろ。お願いだ、外してお
くれ」
僕は弱気になって、お願いする口調になってしまった。
「可哀想だけれど、今日はポチには動いて欲しくないの。きっと外には危険が
いっぱい待っているわ。私のディスプレイでテレビも見られるから、それで我
慢してね」
妻が僕の頭を撫でながら言う。
「オイオイ、そんなことってあるのかい?」
僕はかなり頭にきた。プレイでは強引さが気に入っているものの、生活面で
まで拘束されるのは初めてだった。いったい今日は何があるというのだろう?
「そうそう、お出掛け前に選挙の投票をしなければね」
妻は僕の前から離れてディスプレイに近づき、携帯電話をディスプレイの台
の上に置いた。
「ほら、ポチ、椅子」
反射的に僕の身体は反応し、ディスプレイの置かれた机の下に這って行き、
妻の尻の下に四つん這いで控えた。背中にズッシリと妻の体重が乗っ掛かる。
「やっぱり、女権民主党の湖池逝子総理よね。はい、一票」
妻の楽しげな声が、お尻から背中に響いてくる。
そうか、選挙法が改正され、投票日が、告示日から3日以内とされたので、
今日がその投票日になったんだ。僕もせめて男権復権自由党の小沢党首に投
票しなければならない。男性議員が一人もいなくなったら、男の権利はどん
どん縮小されてしまう。既に男性議員は、国政には若干名しかいなくなって
しまった。この選挙で誰も当選できなかったら男性議員は皆無となってしま
うのだ。
投票は自分の携帯からでないと、できない仕組みになっている。
「待て、僕も投票しなければならない。携帯を返して、首輪を外してくれ!」
僕は大きな声で喚いた。
「うるさいわよ、静かに。携帯は、今日いっぱい私が預かっておきます。そ
うそう、こんなペーパーブックを手に入れたの。珍しいでしょ、ペーパーブ
ックなんて。退屈しのぎに、これを読んでおきなさい」
妻は僕の要求を一切無視して、そのペーパーブックを居間から出たところ
から投げてよこした。昔は“本”と呼ばれていた物だ。それが床を滑って居
間の真ん中に座る僕の膝元に当たって止まった。表紙には“男大学”とタイ
トルが書かれていた。著者名は“鷺宮夢子”と記されていた。
「そこに男としての本分が書いてあるから、ちゃんと勉強して身につけけな
さい。ポチって古(いにしえ)の男っぽいところがあるから、そんなことで
は、これからの世の中は生きていけないよ」
捨て台詞のように吐き捨て、妻は出て行ってしまった。玄関のドアが静か
に閉まって行った。
こうしてはいられない。大事な選挙の投票権を行使しなければならないの
だ。玄関先に置かれた僕のディスプレイに携帯が置かれている筈だ。妻が気
づかずに持って行かなければ良いのだが……。そこまで辿り着ければ、投票
ができる。
選挙権の行使には、登録された携帯のユビキタス ID が必要で、投票できる
のは自分の携帯からだけだ。
近年の選挙では、選挙投票人の登録率の低下が問題になっている。18 歳以
上の成人に与えられている選挙権も、女性は 16 歳にまでに下げられていたが、
逆に男性の選挙権の行使が極端に少ないため、選挙権の剥奪も語られている
ほどだ。
今回の選挙の争点が、まさに男性からの選挙権剥奪にあった。男性の投票
率が低く、男性議員が皆無になってしまったら、簡単に男性から選挙権を奪
うことができてしまう。その後に待っているものは、火を見るよりも明らか
だった。
僕は玄関へ顔を出した。装着された首輪が喉を締め付けている。居間のポ
ールに繋がれた手綱がピンと張って、首が締め付けられて苦しい。
玄関先に置かれたディスプレイのところには、妻を説得して持って来た、
貴重な自分専用のディスプレイが置いてある。家庭に入った男で、個人的に
ディスプレイを持っている奴など稀にしかいない。その点では、妻も僕の人
権を認めてくれている。それを見越して僕は、男権復権のための活動も継続
できるだろうと思っているのだが、まだその事は話していない。そのため、
妻に対しては後ろめたさもあったが、嘘を並べて持ち込んだ独身時代の唯一
の品物なのだ、自分のデータの置き場所があるということは、人権と同じよ
うに、人間として重要なことだった。。
居間の入口から、玄関先のディスプレイの置かれた場所までは数メートル
も離れている。手綱をいっぱいに引っ張ったとしても、とても届きそうな距
離にはなかった。部屋の中を物色しても、数メートル先まで届きそうな長い
物は見つからない。
そうだ! 妻のディスプレイから偽装して選挙ができないものか試してみ
よう。しかし、携帯がないとコンピュータ機能が起動しないかもしれない。
ディスプレイだけではテレビの受信しかできないだろう。ディスプレイの下
に携帯を置くことでパソコンになる仕組みなのだ。
おや? 妻の携帯が置きっぱなしだ。そうか、僕の携帯を持ったから、そ
れで自分の携帯と錯覚して忘れて行ったのだろう。なんとラッキーなことか。
僕はディスプレイを起動させた。うまくセキュリティーもそのままなら良
いのだが……。おっ! 繋がった。選管のホームページに繋げて投票コード
を入力する。
“既に投票済みです”
そうか、これは妻の携帯なので当然だ。別の回避策は? そうだ“家人の
投票”を選ぶんだ。
“世帯主は?”
三島ユミコ。と入力する。
そう、彼女の先祖は、あの“三島由紀夫”だった。
“生年月日は?”
確か、2070 年 11 月5日だと思ったが……。
入力すると、上手く通過できた。
“夫、黒田三郎ですか?”
そうだ、OKだ。
“世帯主様が選ばれた候補者へ投票されますか?”
何だ? これは……。NOだ!
“家人の方で、夫または内縁関係及び登録された恋人である男性が、世帯主様
または内縁関係及び恋人として登録された女性様と異なる候補者への投票行為
を行う必要がある時は、選挙管理法第 163 条 123 項の運用方針「忠実なる夫また
は内縁関係及び恋人関係にある男性の不貞行為防止を定めた指針」235 号により
禁止されています。
どうしても、世帯主様と別の候補への投票を行う必要があるときには、世帯
主様の同意が必要となります。その場合には世帯主様自らが、夫または内縁関
係及び恋人として登録されている女性様が代わって投票しなければならないこ
ととされていますので、男性の ID 及び認証パスワード、女性様の認証パスワー
ドを入力してください”
何なんだ、このメッセージは? これでは男性に選挙権があると言っても、
それは見せかけだけの権利でしかない。こんなにしょうもなくなった選挙権ま
でも男から奪おうと言うのか!?
いやいや、ここで頭に来てはいかん。妻の携帯を握っているのだ、妻になり
すませば、なんとか誤魔化せることだ。いったんパワーを落として再接続だ。
それにしてもいつの間に選挙制度は、こんなに男性に不利な改正をされてし
まったのだろう。僕も久し振りの選挙権の行使なので、こんな酷い事態になっ
ていようとは思ってもみなかった。
ディスプレイのパワーが落ちたとき、玄関のドアの開く気配を感じた。妻に
違いない。携帯を忘れたことに気が付いたのだろう。携帯がないと、車にも公
共の交通機関にも乗れないのだ。気が付くのは時間の問題だった。
「ポチ! 私の携帯持ってきて」
玄関先から妻が言って来た。
「僕は、ポチじゃないってば!」
妻の僕を見下した言い方には頭にくる。
「ごめん、三郎。私の携帯を取ってくれる? 急いでるの!」
「わかった。どこに置いてあるんだい」
僕は妻の携帯をディスプレイの下から手に取った。
「いつも使ってるとこよ、早くしてっ!!」
大きな声で僕を威嚇するだけで、玄関先からは入って来ようとしない。
僕は妻の携帯から、首に装着された首輪の開錠キーを捜し出すことにした。
「あぁ、あそこね……。ちょっと待って、今すぐに取ってくるから」
メモの中に開錠キー番号が記録されていた。
“ポチの首輪”
なに? 僕のことをポチとメモしているのか。頭に来るな。すぐにその数字
を選択し、反転させOKを押した。
“指紋が認証されません”
なに? もう一度OKを押した。反応しなかった。
「ポチ、見つかった? 急いで!」
妻の焦れている声が、心臓に突き刺さってくる。
「嗚呼、あったあった。今、持って行くよ」
僕の意思とは関係なく、口が勝手に答えていた。仕方なく、他にどんなキー
を設定しているのかスクロールして見てやった。
“ポチの貞操帯”
嗚呼、これか。僕は股間の異物を握り締めた。
“ポチの拘束具”
頭の中に磔台のイメージや、手枷・足枷、吊具の拘束バンド等が思い浮かび、
それをされた時の惨めさが思い浮かび、パニスが勃起してきてしまった。
嗚呼、僕は完全なマゾ男に改造されてしまったんだ。そんな惨めさが心を圧
していた。仕方なく携帯を持ち、居間から首を出して妻を見た。
「首、苦しくないでしょ、ポチ。あ、間違えた、三郎」
妻の笑顔は美しく可愛い。僕の下心は射精させて貰えることだけなのだ。
「大丈夫だよ。苦しくなんてないさ」
「良かった。本当に今日は外出すると危険だから、外には絶対に出ないでよ、
三郎。だから携帯は取り上げてあるのよ。可哀想だけれど、首輪も付けている
から外出は無理よね。
今日は帰ってから射精させてあげるから、楽しみに待っていらっしゃい」
僕にとって一番嬉しい言葉を言ってくれた。
愛想笑いを妻に返し、床を滑らせて携帯を妻の元へ届けた。
「気を付けて行ってらっしゃ~い。早く帰って来るんだよ」
上機嫌な声色で見送る。今夜は射精させて貰えるんだ。僕にとっては、何も
のにも替えがたい喜びだった。
妻の姿が消え、静かにドアが閉じていった。パニスが期待に応えて勃起する。
結局、投票はできなかった。僕は落胆したまま、妻のディスプレイをテレビ
に切り替えた。
画面の中には綺麗な色白の肌を見せる男性キャスターが、黒のビキニパンツ
1枚という、あまりに恥かしい姿でニュースを読んでいた。女性視聴者に気に
入られるためなら何でもする世相だ。辛うじてパンツだけは、まだ脱いでいな
いのが救いなのだろうか?
なんと嘆かわしい世の中になってしまったことだろう。
「選管の 10 時発表の速報によりますと、投票率は 30%を上回っていますが、殆
どが女性の投票で、男性の投票率は 0.02%です。相変わらず男性の投票行動の
低さには呆れ返りますが、男性議員を誕生させるためには最低でも2%の得票
が必要となっていることから、現時点での予測でも男権復権自由党議員の再選
すら可能性は遠いものと思われます。国会から男性議員の姿が消えてしまうの
も、今まさに時間の問題となっています。では次に、カメラを女権民主党の選
対事務所に切り替えます。逝甲斐キャスター様!」
色気だけの男性アナが叫んだ。カメラが切り替わり、画面の中央にピンクの
スーツ姿の女権民主党党首、湖池逝子総裁の姿が大映しされた。今度は女性キ
ャスターの逝甲斐アナウンサーが映し出され、湖池総裁の顔に画面が近づいた。
「は~い。逝甲斐です。では、早速ですが総理にインタビューします。
総裁、投票直後の携帯からの集計でも、女権民主党の絶対勝利が明白になっ
ていますが、この大勝利について一言お願いします」
こちらの女性アナウンサーは、男性キャスターの恥かしい格好とは違い、清
楚な白のスーツ姿だ。こんな、あからさまな女尊男卑の扱いには頭に来る。僕
は、男権復権自由党の小沢(こざわ)党首に1票入れたかったのだ。
「今まで築き上げてきた選挙制度の集大成が今日だと思っています。我が国は、
“女性人間宣言条約”の批准が非常に遅れていました。世界の目標年は来年に
迫っています。女性が男性を 100%完全管理しきらなければ、この条約を批准で
きません。人類は既に崩壊の最終コーナーを回りきってしまっています。環境
破壊を伴う経済活動、核兵器の保有、局地戦による小さな戦争行為まで、未だ
その危険性は地球上から取り除かれてはいません。我が国“ニホン”が、その
元凶の一員を担っているとしたら、それは国際的に許されない恥かしい事態で
す。この選挙での完全なる勝利こそが、核兵器を廃絶し、恒久的な平和を地球
上にもたらす最後の第一歩となるのです。その先に、人類の悲願である環境の
再生が待っているのです。世界の悲願に、我が国も賛同の意思を示す最後のチ
ャンスなのです。世界の潮流から乗り遅れてはなりません。そのためにも、こ
の選挙を完全な勝利で終わらせなければならないのです」
女権民主党党首の湖池総裁が熱く語った。
「政治日程としては組閣後、国会における条約批准となるのでしょうか」
女性キャスターが問いかけた。
「いえ、その前に、男性の選挙権の剥奪法案を、最初の議会に提出します。条
約制定は国民投票にかけられなければなりません。1票の反対票があっても、
条約の成立には至らないのです。それが、“女性人間宣言条約”の批准条件と
して課せられているからです。そうでもしなければ、非協力で不届きな男性を、
この世から駆逐することは出来ません。そのためにはどうしても、男性から選
挙権を奪う必要があるのです。世界中のどこの国も歩んできたプロセスなので
す」
湖池逝子総裁がテレビの中で微笑んだ。その顔が、僕には醜く感じられた。
嗚呼、大変なことになってしまう。なんとか、同士に連絡を取らなければな
らない。でも、電話番号は携帯がないとわからない。そうだ! 検索で電話番
号は探せる。ディスプレイはパソコンの機能も付いているんだ。
僕は男権復権自由党の政党本部を検索で捜し、ホームページを開いて、電話
番号をコピーした。ディスプレイは、家電にもなっているので、発信欄にコピ
ーした電話番号を貼り付け、発信を選択した。
呼び出しコールが向こうで響いている。誰かが受話器を取った。
薄暗い部屋を背景に、影の薄い男が画面に浮かび上がった。事務局員の影野
碓井君だった。どうしたんだ? いつにも増して影が薄いではないか……。ま
るで亡霊の様だ。どうしたというんだろう? 相当に情勢が悪いのだろうか…。
「影野碓井君、状況はどうなっている?」
彼に対しては、いつもフルネームで呼んでしまう癖がついてしまった。
「男山さんですか。選挙戦は悲惨なものです。なんとか、未婚者を中心に投票
するように呼び掛けていますが、実際の投票行動には繋がりません。今回の選
挙戦は異常です。世帯主が男性の選挙権を管理するように法改正された意味合
いが強く影響しています。既婚者は世帯主と同じ候補者にしか投票できません
し、世帯を別にしている独身者にしても、恋人に完全支配されてしまっている
人は同様に、自由に候補者を選んで投票することができなくされてしまってい
たのです。野良の男性が、やっと投票できているのが現状です。こんな酷い選
挙戦は、今までに経験もしたことがありません。惨敗です」
情けなさそうに、影野碓井君が状況を説明してくれた。
野良の男性とは、恋人もいない、誰からも管理されていないフリーの独身男
性のことを指している。因みに“男山”とは、僕の男権復権自由党副党首とし
ての政党に登録された名前なのだ。
「小沢代表は投票したのだろうか?」
せめても、と思い訊ねてみた。
「投票は出来ませんでした。棄権です。
今回に限り、女権民主党の手が回されていたようで、奥様が女権民主党に投
票させられてしまったため、小沢代表が投票できるのは、奥様と同じ候補者に
なってしまいます。それで、利敵行為を避けるために投票を止めざるを得ませ
んでした。誠に残念です」
小沢代表の奥様は、M女として小沢代表に尽くしている人だった。そんなM
女の人権までも無視した形で、この選挙戦が体制側の総力を挙げて取り組まれ
ている事実が見えてきた。男性の投票率 0.02%。それは男権復権自由党の、今
までの得票率とも一致しない、遥かに小さな数字だった。
「ところで影野碓井君。君は投票できたのかな?」
僕は不安の中で尋ねてみた。
「実は……、3週間ほど前の夜、帰宅が遅れて捕縛されてしまいました。それ
で1ヶ月間の公民権の停止に処せられてしまいました。残念です」
碓井君が影も消え入りそうに沈んだ声で答えた。
嗚呼、あの“男性夜間9時以降外出禁止令”に違反してしまったのか。
「公民権が停止されると、選挙もできなくなるのか!」
僕は問い詰めるように言ってしまった。
「国民としての権利の大半は行使できなくなります。でも夜 10 時以降に捕まる
と懲役刑も科せられます。僕は3分オーバーの5分以内でしたので公民権停止
1ヶ月の刑で済みましたが、その他の独身男性の大半は、夜間9時以降、女性
からの呼び出しを受けて外出したところを公安に捕縛されています」
影野碓井君の言ったことは、ニュースでは報道されていない事実だった。そ
うだったのか。これは凄い謀略だ。男性への人権侵害も、遂にここまでエスカ
レートしてしまったのか。
時代が悪過ぎる。今はもう、耐えることしかできないのか? いつの日にか
女どもを見返してやれる日の来ることを願って戦っていたが、そんな日の来ることは、ま
だまだ先のことになりそうだ。
「それは、誠に残念だった。取り調べでは辱しめは受けなかっただろうね?」
僕は何気なく聞いたのだが、影野碓井君の表情が急に歪み、目から涙を溢れ
出てきて、こぼれ出した。
「何があっんだ? 影野碓井君。話せる範囲で良い、僕に言うだけでも気持ち
が楽になるから、言ってごらん……?」
決して興味本位で聞きたかった訳ではない。
「男山さん。恥ずかしくって、とても詳しく言えるような内容ではありません。
でも聞いてください。縛られたまま交番に連行されると、女性警官が3人待機
していました。3人の女性警官に取り囲まれ、身体検査のために裸になるよう
に言われました。僕がグズグズしていると頬を打たれ、股間を蹴り上げられ、
そして後ろから尻まで蹴られました。恐怖に駆られて直ぐに全裸になりました。
最後のパンツは、女性警官の持つ乗馬鞭の先で引き摺り降ろされたんです。
その後、四つん這いになるように言われました。恐怖で抵抗できなくなり、
仕方なく四つん這いの格好で、肛門の中まで検査されてしまいました。女性警
官は、指を僕の尻の穴に突っ込んできて弄くりながら調べました。最後に冷た
い器具まで突っ込んできて奥まで覗き込まれて検査されてしいました。それか
ら耳の穴、鼻の穴にまで器具を突っ込まれて……嗚呼。
でも、でも、そんなことは大した事ではありませんでした」
泣き声混じりに碓井君が話してくれた。おそらくその後も、壮絶な辱しめを
受け続けたのだろう。彼が僕に話すことで、心の重荷が少しでも軽くなると良
いのだが……。
「うん、わかったよ。それは辛かっただろう。さあ、全部話してしまうんだ、
少しは気が落ち着くだろうから」
話を聞いている僕も辛かったが、実はその先にも興味があった。
「立つように言われ、立ち上がると、両手首をベルトで拘束されて、そのまま
天井から吊るされてしまいました。両足はやっと爪先立ちしているだけでした。
女性警官どもは、僕の股間を指差して、
『小さい、小さい』とか『豆粒!』と
か『包茎』とか、大きな声を出して揶揄しながら僕を辱めました。一人の警官
が、パニスの皮の中に何か隠しているかもしれない、と言い出し、剥こうとし
ましたが『小さくって剥けないよ~』と誰かが言うと、
『だったら勃起させて
から剥こう』と言い出したんです。それで、天井から吊られている裸の僕の乳
首を弄び始めたんです。更に、股間とお尻の穴まで弄ばれて、こんなに気持ち
の良い思いをしたのは初めてのことでした。それで、パニスが勃起してしまい
ました。
それでも女性警官たちには『小さい、小さい』って馬鹿にされました。そし
て勃起したパニスを無理やり握って、亀頭を包む皮を剥かれてしまいました。
僕は痛くて叫びました。でも、そんな僕の叫び声を聞いて、女性警官たちは大
声で笑っていました。そして剥き出しの亀頭を見ながら『豆粒以外には何も見
つからない』と言って更に大声で笑っていました。
でも一人の女性警官が『搾り出して見なければ解らない』って言って、僕の
小さく勃起したパニスを扱き始めたんです。
僕はこんなことをされたのは初めてでしたので、とても気持ちが良くなって
きて、白いものがパニスの先から吐き出されました。最初は、おしっこを漏ら
したんじゃないかって心配したんですが、あれが精液だったんですね。本当に
素敵で、とっても気持が良かったです。あれが性の快楽というものなんですね。
気持ちの良さに僕は善がり声を上げてしまっていました。
そうすると女性警官が『もう一度やってやろうか?』と言ってくれました。
つい、お願いします、と言ってしまいました。そうしたら、
『お願いするとき
は土下座して頭を床に擦り付けて懇願するんだろ』と言われました。僕は拘束
を解かれたので直ぐに土下座して、お願いしました。三人の女性警官の一人一
人の足元に四つん這いで近寄って、
『また射精させて下さい』って土下座して、
頭を床に擦り着けて懇願したんです。
そうすると、床に仰向けに寝るように言われました。僕が床に仰向けに身体
を横たえると、女性警官の一人が、ズボンとパンティーを脱いで僕の顔を跨い
だんです。女性の下半身を見たのは初めてでした。それは、とても興奮する光
景でした。女性警官の股間を覆う黒い茂みが、僕の顔の上に迫って来たんです。
ツンとする、すえたチーズのような臭いでした。それでも、とても甘美な香り
に感じられたんです。
その甘く素敵な香りに包まれて、今までの僕の人生が如何につまらないもの
だったかを思い知らされました。その時、初めて生きていて良かったな~、と
思いました。
でも、女性警官の柔らかな陰毛と陰部が鼻と口を完全に塞いでしまうと、息
が出来なくなって窒息の苦しさで暴れてしまったんです。
両方の足に、別々の女性警官が乗っかっていて、いくら暴れても身動き一つ
できませんでした。
窒息の苦しさの限界で、やっと、顔の上の陰部が持ち上がり、空気を吸うこ
とができましたが、続いて乳首を弄ばれ、内腿を摩られたりして、性的快楽を
十分に味わわせて貰いました。なんて恥知らずなことをする警官たちなのでし
ょう……」
影野碓井君の顔が恥かしさと喜びで、真っ赤に染まっていた。
「そうだったのか、そんな形で影野碓井君も男にされてしまったのか。辛かっ
ただろうね。その後、射精させられて、また辱しめを受けたのだね」
僕は、もうその先を彼に語らせたくはなかった。こんな辱しめを、公共の警
察官が国民に対して実行している事実は、許せるものではなかった。
「それが、射精させてくれなかったのです」
碓井君が否定して言った。
「僕が気持ち良くなって逝きそうになったところで、パニスを烈しく叩かれて、
パニスは萎えてしまったのです。それで、パニスに硬い金属性の器具を被せら
れてしまったんです。“貞操帯”とか言っていました。勝手に射精できなくす
る器具だって言われました。それから貞操帯を付けさせられたまま、また性感
帯への刺激が続行されたんです。
ところが、パニスが勃起してきても、貞操帯の中では充分に膨らむことが出
来ないので、思いもよらない痛みがパニスを襲いました。僕は身体を触るのを
止めるように言いました。性的快楽が、急に苦痛に変わってしまったのです。
もう射精の快楽など味わいたくないと思いました。でもそれは貞操帯を付けて
いるからなので、貞操帯を外してくれるようにお願いしました。
そうしたら、政党組織の構成員の名簿を持ってきたら、貞操帯を外して射精
させてやる、と女性警官に言われました。でも名簿は秘密事項なので、ネット
に繋げていないメモリに保管していたので、党の幹部でないとアクセスできな
いと断ったんです。そうしたら党幹部の誰かの名前を教えてくれるだけでも良
いって言うんで、貴方の男山サブロウという名前を教えてしまいました。でも、
大丈夫です。本名とか住所とか、経歴や、最近結婚した事とかの情報は言いま
せんでしたから、男山さんがどこに住んでいるかなんて、僕にもわからないこ
とでしたから……」
影野碓井君が、そこまで言ったところで気が付いてしまった。
「それで、射精はさせてもらったのだね?」
一応、確認したが、気付くのが遅すぎた。こんなに長く通話してしまったら、
僕の通話先がばれてしまっているだろう。
「はい」
だが、嬉しそうに影野碓井君は微笑んで言った。
「でも、パニスを、女性警官の見ている前で『自分で扱いて射精しろ』って言
われたんです。それで直ぐに貞操帯を外して貰って、3人の女性警官の目の前
でパニスを扱いたんです。とっても恥かしかったんですけれど、あの気持ち良
さをもう一度実感したくって頑張って扱いたんです。
恥ずかしい射精が終わった後、また土下座してお礼を言うように強要されま
した。それで土下座して、また一人一人の女性警官の足下に這って行って、お
礼の言葉を述べたんです。それはもう、とっても恥ずかしかったです」
羞恥心に苛まれた影野碓井君が歪んだ笑みを顔に浮かべた。
彼は重大なミスを犯したことに、まだ気が付いていかった。政党事務所は完
全に盗聴されているだろう。この通話先の ID から電話の所在が衛星測位ナビに
よって辿られ、そこから家電の所有者が特定され、登録された家族状況が調べ
られ、男山に該当する男性が存在しないことが確認され、それに該当する男性
が僕だということが推測されてしまう。
僕の存在を突き止めて、直ぐに警察官がやって来るかもしれない。逮捕の名
目は、虚偽記載による政党員登録でも可能だろう。じっとしていて、ここで逮
捕されては、妻に迷惑が掛かる。
そうだ直ぐにでも、ここを出なければならない。
首を締め付けている首輪は、手綱からポールに固定されてロックまで掛けら
れていた。しかし、首輪に繋がる手綱の留め具は簡単に外せる。しかし残念な
がら、首輪のロックまでは外せなかった。
僕は手綱から解放され、衣装棚からタートルネックのシャツを選び、裸の身
体の上に直接着て首輪を襟の下に隠した。どれくらいの日数、隠れていなけれ
ばならないのか見当も付かなかったが、保温性のあるズボンを選び、防寒用に
ジャケットを着込んだ。食品保管庫から長持ちしそうな食材をバッグに詰めた。
靴を履き、玄関を開けて廊下に出た。携帯を持っていないのでこのマンションを出たら
再び入ることはできなくなる。
携帯がないと公共の交通機関も利用できない。そうだ、僕を散歩させるとき
に妻が乗る自転車があった。モーターの付いていないシンプル・タイプだから
携帯がなくても乗れるだろう。僕は一旦戻って、玄関の中に立て掛けてある自
転車を引っぱってエレベーターに向かった。
250 階建てのマンションだが、平日なので廊下にも人影はなかった。エレベー
ターで1階に降り、自転車を牽いて外に出た。何人かの住人とすれ違ったが、
誰にも不審に思われなかった。
外に出るとパトカーのサイレンが遠くで鳴り響いていた。見上げた空は、高
層ビル群の向こうに灰色の空が広がり、やがて雨が降ってきそうだった。
急がなければ。しかし、どこへ急いで行くというのだ? 当てなどなかった。
男権復権自由党本部にでも顔を出してみよう。自転車なら 40~50 分で着くだろ
う。
灰色の水を湛えた河川敷に降り、堤防沿いを上流に向かってペダルを漕いだ。
今日の選挙投票日は何かがおかしかった。いつも犬の散歩とか、ペット扱いさ
れている男奴隷が引っ張り回されて走っている光景が日常なのに、誰とも出会
うことがなかった。今日の河川敷には誰一人、犬一匹、奴隷一匹いなかった。
一番困るだろうと思っていた、妻のペット仲間と会う心配はなさそうだ。妻
はいつも僕の手綱を引っ張って、この自転車で犬の散歩よろしく、僕を走らせ
るのが好きだった。僕の運動不足解消と、奴隷を持っていることを見せびらか
せて自慢したい、女心の見栄からだろう。
妻と同じように奴隷を散歩させている仲間は沢山いた。その奴隷ペット仲間
に出会ってしまったらまずいと思っていたのだが、野外には誰もいなかった。
安心はしたが不気味でもあった。
どんよりとした空の下を 40 分も自転車を漕いだ。少し汗ばんできた。本当に
外には誰一人いなかったし、パトカーのサイレンの音だけが遠くいつまでも聞
こえていた。目的地近くに着いたので、河川敷からビル街へと自転車を乗り入
れ、そのまま党本部のあるビルへ向かった。
突然、前方にポリス・ロボットが頭の赤色灯を点滅させて立っていた。慌て
て手前の路地を左に曲がった。ビルに反対側から回り込んで行こうとすると、
前方にまたポリス・ロボットが立ちはだかっていた。仕方ないので、ポリス・
ロボットが立ち去るのをビル陰で待つことにした。
ところが、ポリ・ロボのセンサーを反応させてしまったようで、そのロボッ
トが僕に近づいてくる。慌てて反対側に逃げようと、身体を反転させた。目の
前に、さっき見かけたポリ・ロボが立ちはだかっていた。ポリ・ロボは2mか
らの高さがあり、横幅も大きかった。
「失礼シマス。黒田三郎サンデスネ。奥様カラ捜索願ガ出サレテイマス」
ロボットが、俺を見下ろしながら訊ねてきた。抑揚のないロボット言葉には
頭に来るものがある。
「何だって? どうして捜索願が出ているんだ!」
僕は突っけんどんに言った。
ロボットなどという下等生物が、人間様と対等な口を利くなんて千年早いわ
ぃ、と思っている。人間様を馬鹿にしている。
「三島ユミコサマカラハ、ペットガ放浪シテイルノデ捕獲シテホシイトノ依頼
ガ警察ニキテイマス」
「僕はペットか? 僕は人間だぞ、心配はいらん。自分で帰れる。それより警
察はペットの捜索にまで借り出されているのか、ご苦労なこった」
僕は皮肉を込めてロボ・ポリに言ってやった。
「測位受信機ヲ嵌メ込マレタ首輪ヲシテイル貴方ハ、ペットニ間違イアリマセ
ン。首輪ニ手綱ヲ接続シマスノデ動カナイデクダサイ」
ロボットの手が僕のほうに伸びてきた。
「何を言ってやがる、このスットコドッコイめ!」
僕は自転車を反転させ、ビルとビルの狭い路地に入った。狭い路地を急速で
走ると、後ろから何かの発射音が聞こえた。たぶん、ロボ・ポリの捕獲網だろ
う。自転車を倒して身体を伏せた。
案の定、捕獲網が僕の真上を飛んでいく。網に捕獲されないよう、身体を横
に転がす。
上手くかわせた。自転車はそのままにして、ビルの間の狭い空間を走った。
流石に背丈2mの巨体ロボ・ポリでは入り込めない。運良く、狭いビルの間に
通用ドアがあった。そこからビルの中に入り込めた。窓の少ない普通の雑居ビ
ルの中は電波を通さないので、測位受信機付きの首輪でも、位置の特定はでき
なくなるだろう。これでロボ・ポリの追跡から逃れられる。
確か地下で隣のビルへ繋がっている筈だ。階段を降り、地下の通路に出ると
男権復権自由党本部のあるビルに辿り着いた。と言っても、地下5階にあるワ
ンルームの部屋を改装した、20 平米にも満たない狭い事務所だ。
50 年ほど前に、まだ小沢代表が若かりし頃、投資目的で購入したマンション
の一室だ。そんな手狭な物件でも、都内に資産を持っているということは、今
になっては凄いことだ。小沢党首はそんなマンションを複数所有していた。そ
のマンションを売却して政治資金に当てたということだった。しかし、家賃は
タダとは言え、管理費やら固定資産税やら都市環境税やらで、その維持費も馬
鹿にならない金額に達している。もし、議員が一人もいなくなってしまったら、
政党助成金も入ってこなくなり、政党本部の存続はできなくなるだろう。まし
てや支部もあるというのに、候補者全員が落選してしまったら、本当に悲惨な
話になる。そんな訳で、是非とも小沢党首だけでも当選させなければならない
事態となっていた。
地階5階の廊下の突き当たりに党本部のドアがあった。目の高さに 10cm 四方
の小さなディスプレイが嵌め込まれている。そこに“男権復権自由党本部”の
文字が表示されていた。
「男山です」
そのディスプレイに向かって言うと、ドアが右にスライドして開いた。事務
所とはいっても単身者用のマンションだ。玄関先を入るとすぐバス、トイレ、
キッチンがある。その奥の半透明のドアを入ると政党本部事務所になっていた。
机が四つ、ティスプレイが幾つか置かれただけのそこが、仮にも党本部の全て
だった。
事務室に入ると尿意を催していることに気が付き、ユニットバスのある玄関
先へ戻った。丸い便座の前でズボンを下げ、貞操帯の前面を被うカバーを開け
てパニスを引っ張り出す。パニスの竿の大部分は、筒状の金属の中に収められ、
辛うじて亀頭の先端だけが少しだけ露出している。なんとか排尿はできても、
勃起することは不可能だ。こんな情けない状態のパニスから、勢い良く小便が
飛び出す筈もない。チョロチョロと出てゆく小便を見下ろしながら、男として
の威厳がないがしろにされている世の中への不満が湧き上がってくる。
女と男が出会い結婚する。結婚には二通りのパターンがある。
一つは結婚したい女男が結婚斡旋機関に登録し、遺伝子の相性の良いパート
ナーを紹介される。
もう一つは、色々な出会いの場を通して、遺伝子の赴くままにパートナーを
求め、恋愛感情の赴くままに結婚に至る自由恋愛と呼ばれるものである。
前者の場合は、確実に優秀な子孫を残すことができるのに反し、自由恋愛の
ほうは、子孫にどんな劣性遺伝子が作用するか解らない。確かに危険性はある
が、遺伝子の気ままな求めによって生まれてくる新たな生命なので、思わぬ優
秀な遺伝子を持つ子供を生み出す可能性もある。しかし、リスクも高い。
敢えて障害児を生み出さないために、危険因子となる遺伝子を操作する手段
も過去には採られていたことがある。しかし、そんなことで人類の無限の可能
性まで摘み取ってしまっているという考えが一般的になり、21 世紀中頃には、
人類に対する遺伝子操作は禁止されてた。それでも障害児の出産率は増えはし
なかったし、10%程度の障害児は時代を通じて存在し、未来永劫その割合は変
わらないだろう。
女性の地位向上に伴い、結婚すると男は無条件に、妻によって射精管理され
てしまう。射精管理の方法は女性の嗜みとして、義務教育で高学年から保険の
時間に、その効用と方法を教え込まれる。
男は情けなくも、恋人となった瞬間から下半身を女性に管理・支配されてし
まう。その事によって、女性に対してまったく頭が上がらなくなってしまう。
男は、射精させて貰うためなら、女性に媚を売り、愛想を振り撒くしかなくな
る。そうして、女性に気に入って貰えるように、恥も外聞もなく、女性に尽く
すしかなくなってしまった。
他の女性に目を移すのは男の本能だが、それは遺伝子が、より良い遺伝子を
求めて捜すが故の本能だ。しかし、射精管理されてしまうと、後世に子孫を残
す行為としての射精をさせて貰える女性が、唯一妻のみとなってしまうので、
遺伝子をコントロールする主導権を妻に握られたこといより、絶対服従を誓う
しか射精させて貰える手段がなくなってしまった。そうやって、本能たる他の
女性に目移りする行為も抑制させられてしまったのだ。
結婚する以前は、女性は男の優しさや男らしさ、女性にはない破天荒な性格
を魅力だと勘違いする。更に肉体の魅力にも魅了されて結婚する。しかし、女
性の独占欲の強さは、結婚してしまうと、今まで魅力だと感じていた、男の身
勝手さを許すことができなくなる。獲得した男を、管理抑制する手段として、
射精管理が求められ、そのテクニックを子供のうちから教育されるようになっ
ていた。男の知らない間に世の女性達は、男を完全に支配・管理するノウハウ
を身に付けていたのである。
そうやって男は、栄耀栄華を極めようとする人生目的を奪われ、射精以外に
何も考えられなくさせられ、活力のない変化を求めない社会が構築されていっ
た。それが世界を、社会を、平和に保つ唯一の手段と考えられていった。やが
て男はペットにされ、奴隷と化し、女性の思うがままに生かされるだけのつま
らない人生を送ることとなったのだ。
そのような人間関係が構築された社会では、人類が発展してきた未来に対す
る責任が果たせなくなっていた。過去に地球全体が寒冷化していた中世には、
男は女を完全に支配することにより、人類の極難を乗り越えてきた。その生産
性の低い時代を乗り越え、産業革命を成し遂げ、人類は地球上の明主に伸上が
って行った。
男の闘争本能が、その危機を乗り越え、人類の発展を成し遂げたのだ。
そうして今、地球環境は悪化し、再び人類の未来に暗い暗雲が垂れ込め、人
類の生息は風前の灯のような状態にまで追い詰められている。今こそ男権を復
活させ、男の可能性を思う存分発揮させて、地球を救わなければならないとこ
ろにまで追い詰められている。人類の未来を切り開くためにも、男権の復権が
必要な時なのだ。それを理解できない女性に、人類の未来を託すことなどでき
る筈がない。
小沢党首は、そのことに早くから気付かれ、男権復権自由党を旗揚げされた
のが 20 年以上も前のことだった。当時、僕はまだ 10 代の少年だったが、多感な
少年だったので、小沢党首の思想に感銘を受け、大学に入ると同時に学生運動
にも興味を持った。そこで、組織運動のノウハウを、体験を以て学んだ。それ
はいつの日にか、男権復権自由党の政治活動に身を投じたいという密かな願望
があったからなのだ。だから今、漸く男権復権自由党の活動に身を投じられる
ことに誇りを感じている。
男権復権自由党も国会議員数が数名にまで膨らませた時期もあった。しかし、
その頃から男の射精管理を促す社会風潮が蔓延し、それに呼応するように男権
復権自由党の衰退が始まった。そんな折、小沢代表と居酒屋で偶然知り合ったのだ。これ
を運命と言わずして何と言うのだろう……。
しかし、僕も一人の男でしかない。女性と知り合う場がなければ、出会い系
の婚活サイトの幾つかには登録していた。どれも詐欺まがいの好い加減なもの
ばかりだが、それでも運が良ければ出会いは生まれる。そこで知り合ったのが、
元彼女だった。国家機関に勤める、身元が確かで安全な女性だった。
普通に付き合いが始まり、肉体関係が生じて、当然の流れとして普通に射精
管理されるようになり、そのまま結婚に至る人生が待っているものと思ってい
たが、僕の男権復権運動への情熱と、内に秘めた本来の我儘なマゾ性が表面化
し、別れることとなった。ところがその直前、彼女の上司がユミコ様であるこ
とを知った。
ユミコ様は僕の学生時代に、欲望を抑え込みながらも憧れていた女性だった
ので何の抵抗も無しに、奴隷譲渡の形で、僕はユミコ様の下に引き渡された。
それは僕にとっての幸運な運命の流れであり、最高の幸せと言うべきものだっ
た。元彼女から聞いた話では、ユミコ様も学生時代、僕に憧れを抱いてくれて
いたという事実を知った。そんな奇跡的な出逢いを経て、ユミコ様の奴隷にさ
せていただけたことには、充分に満足している。
こんなハッピーを、セイラー・キャンベルが用意してくれたとは思えないが、
確かに一つ間違えば、どんな悲惨な事態に落ち入っていたかしれない危険性は
孕んでいただろう。これは、セイラー・キャンベルの言っていた、お礼の印と
しての“ささやかな幸せ”をプレゼントされたのだろう、と信ずる。
だが、今の世の中に男の幸せなんてものはありはしない。射精管理された男
に、性的快楽は目の前にぶら下げられた人参でしかなく、人生の楽しみを、射
精させて貰えることへの感謝しかない人生にさせられてしまっただけだ。それ
は、20 世紀以前に虐げられていた女性達の歴史を、そのまま辿らされているだ
けのものでしかなかった。
それまでの男は世界を席巻し、蹂躙していたのに、22 世紀を迎えようとする
地球上には、そんな男は一匹たりと存在しなくなっていた。
しかし、その方向性が地球環境を維持し、人類の永きに渡る地球支配体勢を
継続させる唯一の方法だと考えられ、男には地位も名誉も、積極性も体力も知
力も勇気も必要ないとされてしまった。
男の人生とは、自分を支配してくれる女性と出逢い、そのお方のために尽く
すのが、男の生きる術だと教え込まれるようになった。事実、僕自身にしても、
射精させて貰えること以外に何の楽しみもありはしなかった。それが男の本分
であるようなことに成り下がってしまっている。
ユミコ様は、今日は射精させてくださる、と言っていた。その唯一の楽しみ
を蹴ってまでこんなところに来ている僕は、なんと大馬鹿者なのだろう。結婚
式で射精させていただいて以来、今日まで、まだ一度も射精させて貰えていな
いのだ。この日の来るのを、どれほど待ち焦がれていたことか。
妻となられたユミコ様のご機嫌を取り、妻からの罵声にも堪え、ニコニコと
媚びへつらいしてきたのは、ただただ射精させていただきたいが為の忍耐と努
力ではなかったのか?!
嗚呼、射精がしたい!
妻のユミコ様に土下座してでも射精させていただきたいというのに、もう将
来もなくなった“男権復権自由党”のことが心配で、小沢党首のことが心配で、
それが気になって、こんなところにまで駆けつけて来てしまった。
女性は正しく偉大な存在だ。そんなことは百も承知している。女性の言うと
おりにしていれば間違いはない。それで、平和で安全で安心な世界が維持され
ている。でも人類は、それだけでは駄目なのだ。もっと活力を持って発展させ
て行かなければ、人類として生存し続ける意味がなくなってしまう。そのため
にも男権を復活させ、宇宙開拓を推し進めることで、地球の環境も良くなって
行く筈だ。その道筋を示すことで、男権の復活を遂げる戦いを始められる、と
小沢さんは言っていたのに、その最後の砦が、いま雅に風前の灯火となってし
まっている。
そんな思いを抱いていながら、射精をさせて貰えなくなったら、世界の全て
がつまらないものに思えてしまうだろう、という不安が心を捉えていた。
嗚呼、妻の元に戻りたい。チンポの先を携えつつ、情けなさにチョビチョビ
と垂れる小便の先の白い便器の底を見詰め続けていた。
トイレを出て事務室のドアを開けると、影野碓井君に負けないくらいにしょ
ぼくれた風采の中年男が椅子から立ち上がった。このしょぼくれた中年の男も、
きっと童貞に違いない。
「男山副党首、お待ちしていましたよ。最近は~なかなか顔も出していただけ
ないので心配してましたよ。小沢さんが、男山君は、女房に尻の穴の毛まで抜
かれてしまったのだろう、なんて言っていましたが、結婚されたんですってね、
ハハハハハ……」
名目の書記長が、僕を揶揄するように笑った。
僕の女々しい行動がよっぽど嬉しかったのだろう。まさか、チン毛まで剃ら
れてしまった、なんてことは絶対に言えない。この書記長、僕よりも 10 歳も年
上のはずだ。
「選挙戦では、何もお手伝い出来ないで申し訳ない。結婚すると、思った以上
に制約がきつくなる。書記長のように独身でいるのが一番だと思い知りました」
本心も交えて、書記長を揶揄するように感想を述べてやった。
「そうでしょうね。自分がモテたことのない男で良かった、と、つくづく思い
ますよ、男山副党首」
確かに、男権が消えかかろうとしている時代に、敢えて女の庇護の元に身を
置く必要はない、とも思える。しかし、そこが微妙に矛盾するところだ。
「ところで、小沢代表はどうされたのですか?」
「公安から、選挙違反があったとして出頭命令が出て、今朝から事情聴取に出
向いていますが、いつ戻られるかは解っていません」
影野碓井君が声を落として答える。
「選挙違反なんてある筈がない。どんな違反をでっち上げたのだ、公安は!」
僕は怒りを覚え、つい声を荒げてしまった。
我々は今日まで、糞真面目と言われるほどに慎重に、注意して政治活動を続
けてきた。どんな違反と疑われることも控え、身を清め、男権復活を訴えてき
たのだ。選挙違反に問われることなど、決して無いと断言できた。
「テレビでの選挙公報時間がオーバーしたとの事だ」
書記長が呆れたように言った。
「オーバーって、どれくらいだ?」
僕は驚いた。
そんな筈があるものか。僕が監修した小沢党首を紹介する選挙公報だ。細心
の注意を払って、時間は一秒以上の余裕を持たせて編集した筈だ。
「選管で入れたテロップが5秒含まれたので、合計で5.3秒オーバーした!」
書記長が怒りを込めて言った。
「それは言い掛かりだろう。当局の都合で時間をオーバーさせておいて、こち
らの選挙違反にさせるなど、言語道断だ!」
初めて知った選挙違反の内容に激怒して、大声を出してしまった。
「1日 10 回、3日間で 30 回で、規定の3分以上オーバーになるそうで、完全に
アウトなのだそうです」
碓井君が冷静に付け加えてくれた。
「それでも3分以内だ。オーバーはしていない。これは謀略だ!」
僕は呆れ返った。
「四捨五入で3分だ」
書記長が、ぼそりと言う。
「小沢さんも、そう言って、当局に説明してくる、と出掛けました」
影野碓井君が呟くように言った。
そうだろう、それでなくては男権復権自由党の名折れだ。
「書記長、選挙には行かれたんでしょう?」
何気なく聞いてみた。
「ぃや。……」
書記長の小さな声が聞こえたような……?
「まだですか?」
一応、確認しなければ。
「それが、今日は、ぃぃ。……」
どうしたと言うのだ?
「何が良いんですか? 選挙の投票日は今日だけなんですよ。しっかりして下
さいよ、書記長」
何かありそうな直感から、念押しするように言ってしまったが……、事情が
ありそうだ…。
確かに今回の選挙は、あまりにも異常すぎる。妻の、あの強権な態度。ここ
一連の選挙法改革による公民権停止措置の乱発。そして鞭と飴とを使い分けた
政党員に対する懐柔策。小沢党首にしても、自ら投票も出来なくなった事実。
この冴えない書記長の身にも、何事かがきっと起こっている。
「投票には行かない」
ハッキリと口に出して書記長が答えた。
優柔不断で有名な書記長の、この変わりようは何なのだ?
「そうですか。行けない理由がお有りなのですね。差し障りがないようでした
ら話していただけませんか、書記長」
僕は、丁寧に尋ねることにした。
「簡単なことだ。1ヶ月半ほど前かな? 俺にも恋人ができたんだ。彼女は、
選挙に行かなかったら射精を許可してくれるって言うんだ。恋人届も役所に出
している。それで今日、やっと彼女に会えることになったんだ」
不貞腐れたような、遣る瀬無い声だ。
思ったとおりだ。これは完全な選挙妨害ではないか。女権民主党の、こんな
選挙妨害工作は訴えてやらなければならない。
「書記長は、これが選挙妨害だと言うことに気が付いてるんでしょうね?!」
堪らずに僕は言ってしまっていた。
この言い方は少し不味かったかも知れない。
「そんな事は、疾(と)うに解っている。しかし、こんな 40 過ぎの、女にモテ
たこともない男に、突然、女のほうから言い寄られたんだ。疑わない訳がない
だろう。確かに最初から拒否していれば、こんな泥沼に嵌り込まなかっただろ
う。でも、この陰謀は女権民主党にとっての両刃の剣ともなる。選挙妨害の事
実だという証拠を掴めば、男権復権自由党にとっては有利に働く。だから敢え
て火中の栗を拾いに行ったのだ。
でもその結果、ミイラ取りがミイラにされてしまった。女の強さには完敗し
た。小沢さんのようにM女性に当たれば良かったのだろうが、40 年もの間、女
知らずで過ごしてきた俺には、女の色香に抵抗できる免疫は皆無だった。
ネットの趣味の掲示板で知り合って、漸く外で会うことになった。メールの
やり取りを始めて1週間後だった。彼女は若くてチャーミングな女(ひと)だ。
趣味の話をしているうちに、なんとなく彼女のほうからホテルに行こうと誘わ
れた。そんな経験は一度もなかったので、普通の女男の付き合いとはそんなも
のなのかな、と思い、彼女に言われるまま従った。
ホテルの部屋に入ると、けばけばしいほどの装飾で目が眩みそうだった。
こんな世界はアダルトドラマの中だけだと思っていたが、現実を目の前にして、
俺は舞い上がってしまった。
彼女は俺に、シャワーを浴びてくるように言った。俺は言われるがまま、シ
ャワ-ルームに行き、シャワーを浴びた。シャワールームの壁は透明になって
いて、彼女から丸見えだった。恥かしかったが、湯気でガラスが白く覆われた
ので少しは安心した。それよりも、湯気で覆われた一部を拭くと、ベッドルー
ムに居る彼女が丸見えだった。ちょうど着衣を脱いで裸になった彼女が見えて
しまった。そのまま彼女もシャワールームに入ってきたんだ。俺は興奮してし
まい、なんとか、前を隠すことに必死で、彼女に背中を向けた。
ふくよかな胸の感触を背中に感じた。更に彼女の掌が、俺の股間に伸びてき
て、勃起してしまっている竿をしっかりと握って、扱き始めたんだ。俺は何の
抵抗もできずに、そのままの体勢でイってしまった。女の手で射精させられた
ことなんて、初めてだった。
彼女は、俺の耳元で“大丈夫よ”と言ってくれた。それからベッドに誘われ
ると、俺は仰向けに寝かされ、彼女が裸のまま俺の真上に覆い被さってきた。
俺のパニスは直ぐに回復して、彼女の温かな体内に取り込まれた。その心地良
さと言ったら、今までに経験もしたことのない快楽だった。そして再度イって
しまった。それから彼女は、俺のパニスを口に咥えて喉の奥にまで飲み込み、
竿の根元から舐め上げられ、亀頭を舌先と歯で刺激され、三度目の射精をさせ
られてしまった。信じられないような快楽を与えられ、俺は彼女にメロメロに
なってしまった。
そのままホテルに3日間滞在した。3日目に彼女は、これから1週間旅行に
出てくるので、暫らく逢えなくなるけれど、それまで待っていて欲しい、と言
ってくれた。それで、居ない間に勝手に射精されるのは嫌なので、貞操帯を着
けさせて欲しいと言ってきたのだ。俺は、1週間くらいならオナニーは我慢出
来るし、貞操帯は必要ない、と、キッパリ言ってやったが、彼女はそれは信用
できません、と言って、結婚したり恋人になったら、逢えない間、男性は貞操
帯を着けて待っているのが普通の女男の間の関係だから、と一般論を言われた
ので、そうすることにした。
たったの1週間の我慢だ。3日くらいなら射精しないこともあった。そのく
らい別に平気だ、と思っていた。しかし、1週間は辛かった。
1週間目の、彼女に逢える日の前日に電話が掛かってきた。沖縄沖に進行し
てきた台風で船が足止めされ2・3日、島に滞在するしかないので、それまで
待っていて欲しい、と言われた。そう言われて俺は、股間を抱えて悶えてしま
っていたが、それは仕方のないことなので、大丈夫だ!、と男らしく言ってや
ったが、しかし本音は、悶え狂ってしまいそうだった。たかが射精できないことぐらいで
情けない話ではないか……」
そこまで書記長は、一気に語った。
余程このことを話したかったのだろう。書記長の気持ちは、男としてよく理
解できる。
女は、男を手に入れると直ぐに調教に入る。あらゆる無慈悲なことを言って
射精を抑制させようと躍起になる。それによって男を従順な奴隷に導こうとす
る。そのやり方は、小学校の高学年から授業で教えられてきた。
こんな男をコントロールする術を、学校教育の場で教え始めたのは、環境派
を名乗る女性たちの台頭によるものだった。彼女たちの思想の原点は、環境破
壊の元凶は男にあり、だから男を管理しなければ世の中が乱れ、更なる環境破
壊を生み出す、と言った、とんでもない理論だ。しかし、この思想が世界中に
蔓延すると、それが世界の常識となり、直ぐにニホン社会にも浸透して、阻止
すらできないまま、教育の指針にまでされて、男を管理する必要性を社会的に
推し進めるように、学校教育の場で、12 歳から教えられるようになって行った。
2090 年の国連総会に上程された“女性人間宣言条約”は、この運動の影響を
おおいに受けていたことが背景にあった。
2096 年以降、条約批准国が激増した。それに伴い、条約締結国間の国境は廃
止され、非核世界が広がって行った。
2099 年現在、世界の 99%の国家が条約を批准し、既に国境を排し、世界政府
樹立の一歩手前にまで迫っていた。
我が国は、歴史の古い伝統的な国家である。まだ世界政府への加盟のスケジ
ュールすら立っていなかった。政権政党は、その事を気にして、かなり焦って
いるように見られる。その政権政党を率いているのが、湖池逝子総理の率いる
女権民主党だった。
我が国は、2007 年に制定された国民投票法により、重要案件は国民投票に付
されることになっていた。特にこのような憲法の人権擁護に抵触する条約の批
准には、3分の2以上の賛成票が得られないと成立しない。しかし、この条約
を批准するためには、更に高いハードルが課せられていた。それは選挙民の 100
%の賛成を得られることを絶対条件としていた。そんな厳しい条件を課せられ
ても、条約批准国は既に全世界の 99%を超えていた。
人権を重んじる世界風潮のなかで、男性の人権をまったく無視したこの条約
が、何故そんなに支持を得ているのだろうか? 男性の反対は本当に皆無なの
だろうか?
それは地球環境の悪化が急速に進展し、22 世紀初頭にも人類の住める環境は
地球上から無くなってしまうという、切羽詰まった強迫的観念に寄るものだっ
た。それに付け込むように便乗し、提案されたのが、2090 年に国連に上程され
た“女性人間宣言条約”だった。
当初こそ、男性の人権を剥奪するような条約内容に、一部の批判はあったも
のの、静観を示す国々が殆どだった。それが、見る見る間に世界の指導者層が
男性から女性に取って代わられ、その流れに連られて条約批准国が激増した。
22 世紀を迎える直前の 2099 年の今年、非批准国は、島国であるブリテン、ニ
ュジーランド、ニホンの3か国のみとなってしまった。それは男性を含めた人
類の尊厳を重んじている国だからだ、と言えば聞こえは良いが、ここに至って
は島国根性だ、と世界中から揶揄される事態となっていた。更に今年に入ってから、残り
の二カ国も条約を早々に批准していた。
今回の選挙で、女権民主党及び女性のみで構成された政党が、100%の指示を
獲得することになると、国民投票の必要性もなく、条約批准の環境が整うこと
になる。小池政権は、その意味するところを十分に把握して、選挙に臨んでい
た。手段を選ばないその行為には、小沢男権復権自由党議員の当選など論外で
しかなかった。だから、あらゆる手段を使ってでも選挙妨害を行ってきた。
男性の当選者が一人も居なくなれば、男性の選挙権を剥奪する法案を提出す
るまでもなく、条約を批准することは可能になる。国会に提出される条約批准
を含む関連法案は、全会一致で可決されることになり、重要法案という位置付
けすらなくなってしまい、この選挙戦での全ての選挙妨害の違法性も問われる
ことはなくなるのだ。それだけに、この選挙に賭ける政権政党たる女権民主党
の、必死の選挙対策は、悪辣さを極めていると言えた。
「射精を禁じられた男の辛さは、僕にも充分理解できる。それは辛いものだ」
書記長の辛さは、僕にも十分に伝わっていた。
「僕も結婚する以前に、妻との肉体関係が生じてからは、射精管理を積極的に
されてきた。そしていつの間にか、妻には頭が上がらなくなってしまった。結
婚式を挙げてからは、僕はペット扱いされている。そんな状態の中で、男権復
権自由党の政治活動に関わっているなんて、とても言い出せる雰囲気ではなく
なってしまった。書記長の、男としての辛さは、僕も充分に承知している。そ
れは、他の男性達みんなの辛さと一緒なのだ。それで、その先はどうなったん
です? 書記長」
僕は、書記長に話を進めるように促した。
「それで、2日後に彼女からメールが来て、帰れるのは明後日になった、と書
かれていたんだ。俺は本当に狂ってしまうかも知れないと思った。
俺がオナニーを覚えてから 25 年、3日と空けずに射精し続けていた。それを
10 日間も抑制されたのだ。絶対に彼女を許せないと思った。会ったら断固抗議
して、二度と貞操帯など着けさせるものか、と怒りの中で決意した。あの雌野
郎、必ず殴ってやる。と強く心に誓ったほどだ。
そして、遂にその日が来て、彼女の指定したいつものホテルで、怒りに満ち
た感情のまま待っていた。勿論、シャワーも浴びて貞操帯一丁の裸の姿で準備
万端整えていた。でも、時間になっても彼女は現れなかった。だんだんと俺自
身、彼女のことが心配になってきて、携帯に連絡したが、何らかのトラブルが
発生したようで、携帯は繋がらなかった。きっと彼女が何かの事故に遭遇した
に違いない、と不安に駆られた。
俺の心の中で満ち満ちていた怒りは急速に退いて、逆に心配が心を満たして
いった。このとき、これが女性を愛することだ、ということに気が付き、胸に
膨らむ不安は、どうにもならない痛みを伴っていた。
待ちに待たされて、彼女がホテルの部屋のドアを開けて入ってきたとき、俺
は不覚にも涙を流してしまった。彼女は、そんな俺を優しく抱き締めてくれた。
俺は本当に心配だったんだ、と彼女に訴えた。彼女の掌が俺のお尻を撫で、
乳首に触れてきた。性欲を長いあいだ抑制されていた俺は、急速に興奮してき
てしまった。貞操帯の上からも、彼女の掌がパニスを愛撫し、俺は堪らなくな
って貞操帯を外してくれるよう、彼女に懇願していた。
そうすると彼女は、その言い方は、人にものを頼むときの態度ではないわ、
と切り替えしてきた。俺は突っけんどんな言い方を謝り、あらためて丁寧に貞
操帯を外して下さい、と、お願いした。でも彼女は、態度にちゃんと表してお
願いしなさい、と、高飛車に出てきた。俺は悔しくもあったが、彼女の前で頭
を下げて、お願いした。ところが彼女は、そんな簡単な懇願では駄目よ、土下
座して頭を床に擦り着けてお願いするんでしょう、と、俺の目を睨みつけて言
ってきたのだ。俺は完全に頭にきた。貞操帯を着けて欲しいと言ったのは君で、
仕方なく俺は着けてあげただけじゃないか、それを外して貰うのに土下座まで
してお願いしろなんて、虫の良い事を言うな! と、大声で怒鳴ってしまった。
すると彼女は、俺の恐ろしげな声に泣き出してしまったんだ。それで、俺はオ
ロオロとしてしまい、結局、土下座して頭を床に擦り付けて、貞操帯を外して
ください、と、惨めに懇願させられてしまったのだ。こんなにも惨めな思いを
させられたのは、人生の中で初めてのことだった。
なんとその時、彼女は俺の頭の上に足を乗せてきて、最初っからそうすれば
良かったのよ、って、また高飛車に出てきた。彼女の、その態度の豹変ぶりに
俺は驚いてしまったが、今更また怒鳴る訳にも行かず、耐えるしかなかった。
彼女は頭の上に足を乗せたまま、貞操帯を外すに当たって、幾つもの条件を
出してきた。先ず、彼女を怒鳴らないこと。彼女にお願いごとがある時は、土
下座して懇願すること。彼女が部屋に入ってくる前には、シャワーを浴びて、
身体を綺麗にして、裸のままの姿でドアの前に土下座して、頭を床に擦り付け
たまま待っていること。いつでも自分が何をしているのか、行動をメールで逐
一知らせてくること。彼女を気持良くさせるために、一生懸命に尽くすこと。
一緒に歩くときいは、彼女から3歩下って歩くこと。粗相をしたら自分から申
告して、甘んじてお仕置きをお願いすること。射精は許可なくしないこと。貞
操帯は常に装着し、貞節を守ること。彼女を呼ぶときには、必ず名前の最後に
“様”を付けること。彼女の命令には絶対服従すること。それから、それから、
彼女の命令で、いつでもどこでも椅子になること。彼女の楽しみのための玩具
となること。人間便器にもなって貰う、とも言っていた。不要になった時には、
捨てる権利、譲渡する権利も彼女にある、とも言っていた。
一つ一つの項目に対して返事するよう彼女に言われたので、俺は仕方なく、
一つ一つの要求に対して“はい”と、大きな声で答えさせられた。最後に、そ
の契約を履行するために、サインしてくれたら貞操帯を外してあげる、と言わ
れた。俺はもう、射精したいがために男のプライドは全てかなぐり捨てて、彼
女の提案した全ての条件を飲むしかなかった。俺が、一つでも“NО”と、言
ったなら、貞操帯は永遠に外して貰えなさそうな強気な態度が、彼女から窺わ
れ、その絶対的な権力者のオーラに、すっかり圧倒されてしまったんだ。
すべての条項に同意させられて、床に擦り付けられた頭から、漸く彼女の足
が退かされて、俺は頭を上げて彼女の顔を見上げた。そこには勝ち誇ったよう
な、満足気な彼女の上気した顔が、燃える瞳で惨めな俺を見下していた。
彼女の横に置かれたモニター画面に、契約書の文面が表示されていた。俺は、
その画面のサイン欄に、IDとパスワードを入力した。そこで初めて契約書の
タイトルを観た。そこには役所のホームページで閲覧出来る、標準的な“恋人
届”と記されたものが表示されているだけだった。まさか、これが噂の恋人登
録システムの内容なのか?
こんなにも男を貶めた屈辱的な内容だったとは、
それを聞かされるまで知る故もなかった。これでは“婚姻届”が、どこまで男
の権利をはく奪した内容となっているものか、想像に難くなかった。
ついこの間、結婚された男山さんならご存知ですよね。まさか、内容も読ま
ずにサインしてませんよね。
ま、それは話の本筋から外れますので聞きませんが。
話を続けますが、俺がサインすると彼女は、にこやかな笑顔になり、俺の貞
操帯を外してくれた。俺のパニスは恥かしげもなく、彼女の目の前でビンビン
に反り返っていた。彼女は契約の証として儀式を執り行うことを宣言し、先ず
俺の陰毛を剃ります、と言った。俺には、もう反対する術は残されていなかっ
た。彼女は、俺の勃起して立ち上がっているチンポを、邪魔そうに押し退けて、
脱毛レーザで陰毛からお尻の穴の周りの毛まで、すべて処理した。
陰毛は月に一度、彼女が処理してくれることになったが、汚い尻の毛は、自
分で処理しておくように言われてしまった。そして射精は、貞操帯を外して貰
った後、彼女の目の前で自分で扱いてやりなさい、と宣言された。それで俺は、
膝立ちさせられて、彼女の目の前でチンポを扱き、10 日振りに射精する惨めな
立ち姿を見て貰った。射精する直前、俺の歪んだ醜い表情を彼女に見られなが
ら、俺は、イってしまった。それを嬉しそうに見詰める彼女の笑顔が、とても
可愛かった。
それから俺は、馬になるよう命じられ、彼女を背中に乗せて、部屋の中を四
つん這いのまま這い回った。更に仰向けに寝るようにも言わて床の上に横にな
ると、俺の顔の上を彼女の股間が跨いできた。俺の鼻と口は、彼女の女陰で塞
がれ、舌先で彼女の女陰を舐めるように言われた。更に乳首を彼女の指先で抓
あげられ、俺は、再び性的興奮に悶えさせられてしまい、またまた勃起させら
れていた。俺は性的な興奮状態の中で、彼女の女陰を一生懸命に舌奉仕させら
れた。屈辱的だったが、甘美な時間でもあった。
そして、今度も自分で扱くように言われた。彼女の股間に顔を埋めたまま、
自分でチンポを扱き、射精した。彼女は嬉しそうに手を叩いて喜んでくれた。
そのことが、恥かしさよりも嬉しく思えたのは何故なのだろう?
腰を上げるように言われたので、そのとおりにすると、射精後の精液を彼女
が綺麗に始末してくれた。そして、小さくなった俺のチンポに、また貞操帯が
嵌められてしまった。
俺は、完全に諦めた。抵抗の意思は微塵も残されていなかった。
身支度を整えた彼女が部屋を出るときに、俺に向かって“あんたのって小さ
いね”って言われた。何が小さいのか聞こうとしたら、もう彼女は部屋の外に
出てしまいドアは閉まっていた。
俺は汚れ放題になったホテルの部屋を少しだけ片付けて、最後にシャワーを
浴びてから家路についた。
次に、彼女にいつ逢えるものか解らなかったので、とても不安を感じている。
選挙公示日、彼女からメールが入って“投票日の夜に逢いましょう”って書い
てあった。勿論、投票日がいつになるか、男の俺には知らされていないことだ
った。でも、投票日が3日以内であることに間違いはない。それで、続けてメ
ールがきて“投票日には投票しないこと、ちゃんと約束が守れたら射精を許可
します”って書いてあったんだ。
だから今日は投票できない。あのことがあってから一度も射精させて貰って
いないのだ。こんなにもオナニーしない日々が続くなんて、普通では考えられ
ないことだ。俺は、あまりの辛さに自殺しようかとも思ったほどだ。それで、
やっと今日の日を迎えて、その辛さから開放される。だが、その条件は、投票
しないことだ。どっちにせよ、投票したところで男権復権自由党が議席を得ら
れる投票数には到底届かない。俺の一票なんて、まったく役に立たないことだ
ろう。
そうだ、男山さん。丁度良いところに来て貰えました。彼女とは、昼食を挟
んで逢う約束になっているのです。済みませんが本部の留守番をお願いできま
すか?」
書記長は、そう言って僕を上目遣いに見て、ディスプレイの下に置かれた携
帯をポケットにしまって立ち上がると、ドアに向かって歩き出した。
「おい、書記長! それで良いのか? 女権民主党の策略は、一票も男権復権
自由党に投じさせない作戦なんだぞ。一議席も獲得できないとなれば、政党の
存続もできなくなる。君の仕事もなくなってしまうんだぞ!」
僕は怒りが込み上げ、書記長の背中に向かって大きな声で怒鳴ってしまった。
「大丈夫ですよ。結婚したら彼女が飼ってくれます」
ドアが閉まり、書記長は居なくなってしまった。
諦めるしかなかった。仕方なく僕は椅子に腰を下ろし、ディスプレイに映し
出された、お昼のニュースに注視した。相変わらず、黒のビキニパンツ1枚の
男性ニュースキャスターが、原稿の丸読みを始めていた。
「選管の 11 時発表によりますと、投票率は 37%を上回っていますが、全て女性
の投票のみで、男性の投票率は 0.02%のまま変わっていません。男性の議員を
誕生させるためには、最低でも2%の得票が必要となっていることから、現時
点で予測しても、男権復権自由党議員の再選すら可能性は無いものと思われま
す。国会から男性議員の姿は、永遠に消えてしまうのでしょうか……?
カメラを、女権民主党の選対事務所に切り替えます」
画面が替わり、映像の中央にピンクのスーツ姿の女権民主党首、湖池逝子総
裁の姿が映し出された。やはり白いスーツ姿の女性キャスターが映し出され、
湖池総裁の顔に画面ごと迫って行った。
「総裁、投票直後のアンケート調査からも、女権民主党の絶対的勝利が明確に
なっていますが、この勝利について、一言コメントをお願いします」
1時間前から、頬が緩りみっぱなしの湖池逝子総裁の自信に満ちた顔付だっ
た。それだけ、この選挙に賭ける期待が大きかったのだろう。
僕には、喋り出した湖池総裁の言葉が耳に入って来なかった。それよりも、
僕も早く帰らないと妻に怒られて、せっかく射精させて貰えることになってい
るのに、また延期されてしまう事への不安の方が大きくなっていた。報道関係
者の一人も来ていない男権復権自由党も、もうお終いだ、と思えた。
そんなことよりも、今日、射精させて貰えることになっている約束のほうが、
遥かに重要だった。
僕は立ち上がった。
「影野碓井君、後は頼んだ。僕は家に帰らなければならないんだ。妻が待って
いるから」
党本部のドアを閉めた。ビルの地階から、自転車を乗り捨てたビルとビルと
の狭い狭間に向かった。地上に出ると自転車は、そのまま放置されていた。
自転車に跨がり、ビルの真上の細い僅かに開かれた空を見上げた。細い灰色
の空は、ビルの狭間とは言え、真昼にしては暗い上に、冷たく細い雨まで降っ
てきていた。世界は、こんなにも狭く陰鬱で冷たいものなのだ、と実感できた。
ビルの両側の壁に接触させないよう気を付けて、自転車を漕ぎ出した。
何もかも、どうでも良いような気分だった。
ビルの狭間から、少し広い路地に乗り出したとき、頭上から突然、細い網の
ような物が降ってきて身体を覆った。横を向いて、飛んできたものの先を見る
と、巨大なロボット・ポリスが、頭の上の赤色ランプを瞬かせて、静かに立っ
ていた。
「ハハハハ、犯人は必ず現場に戻って来る」
ロボットが笑って言っていた。
嘘だろう、幾ら優秀なロボ・ポリだと言っても、笑うことまでプログラミン
グされているなんて信じられなかった。
“しまった! 確認してから路地を出るべきだった”
余計な思考をしている暇はなかった。だが、もう後の祭りだった。
「男山男権復権自由党副党首コト黒田サブロウ。
公職選挙法違反ノ疑イニヨリ身柄ヲ拘束スル」
反対側の気配にも気が付き、そちら側を見た。もう一台のロボ・ポリも近づ
いて来ていた。いま出てきたビルの狭間に戻ろうとしたが、網が身体に絡み付
き、完全に自由を奪われて捕らわれてしまっていた。
嗚呼、今日は射精させて貰えるはずだったのに、それはもう望むべくもない
だろうな……。
とても残念な気分だった。
=条約施行=
公職選挙法違反の疑い--それが僕の拘束理由だった。
ロボット・ポリスの放った網に捕獲され、引き摺られるようにパトカーに載
せられて、サイレンを高らかに鳴らし拘置所へと連行された。朝からけたたま
しく鳴り響いていたサイレンは、捕獲された男を次々に拘置所に連行する雄叫
びだったのだ。
拘置所には沢山の男たちが連行されて来ていて、数メートル四方という狭さ
の房の中に、数人ずつ放り込まれていた。
房に入れられる際、他の収監者と喋らないように指示されたが、それは無理
な話で、同じように捕獲された者達からさまざまな情報がもたらされた。
それを集約すると、投票日の告知があったのは女性有権者のみで、その注意
書きには、管理する男を外出させないよう措置すべき、とあったようだ。更に、
野外に放置された男については全て捕獲する旨も記されていたようだ。
直近の選挙制度改正により、女性有権者と男では完全に区別され、男の選挙
権行使にあたっては、投票日に気付いた男のみが、管理する女性有権者と同じ
候補者への投票に限り可能になっていた。実質、既婚者及び恋人登録された男
の選挙権は皆無に近かった。それでも独身の男は、数パーセントを数えたので、
男の議員の誕生する可能性は十分に残されていた。
そのため、政権政党である女権民主党がとった強硬手段が、外出中の男を捕
獲して拘束することだった。
その手口は卑劣そのもの。独身者へ、ありとあらゆる種類の欲望的誘惑を仕
掛け、外出を促し、外に出てきたところを、ロボ・ポリによって捕獲するとい
う、前代未聞の謀略を実行させた。
当然、そんな破廉恥・違法な強権発動は国内だけでなく、全世界からの批判
を招くだろう。そうすれば、自ずから政権政党は崩壊の憂き目に遭うこととな
り、選挙は無効とされるだろう。だから少しの間、ここで辛抱していれば、直
ぐに解放されることだろう。
ところが拘置所内にはニュースも一切流されず、拘束された男達の携帯は全
て没収されていたので、あらゆる情報から隔絶されてしまっていた。オマケに
窓のない建物内に収容されていては、昼夜の別も、日々の変わり目も分からな
い状態だ。また、食事も“栄養補給ボックス”と書かれた箱から、各自勝手に
食事バーを取り出して食べさせられている環境では、時間の感覚まで分からな
くされ、体内時計も狂いがちで信用できなくなってくる。
退屈で、何もすることのない時間が永遠に続いた。それが、数週間なのか数
カ月なのか、それとも数年なのか、全く解らない状態で時が淀み、停滞してし
まっていた。
食事バーの中にはおそらく、新陳代謝を抑制する薬も入れられていたのだろ
う。髭も生えず、汗一つかかなかった。
こんな環境に置かれると思考は停止し、身体活動も完全に停止させられてし
まう。生物の身体というものは直ぐに環境に適応しようとするもので、僕自身
も思考停止状態のまま、どれくらい拘置され続けたものか、気が付くこともな
くなってしまっていた。
ボンヤリとした状態のまま、永遠に時が過ぎて行った。
ある時、青い制服にきちりと身を包んだ女性看守がやってきた。初めてのこ
とだった。シャワーを浴び、面接室に一人ずつ来るよう指示された。漸く取調
が始まるのだろうか?
監房のドアが一つ一つ順番に開かれ、男どもはシャワールームに向かう。そ
の先に何が待ち構えているのかすら解らない。誰一人、二度と戻って来る者は
いなかったから、どうなったものなのかも解らない。きっと解放されたに違い
ない、そう信じたかった。
やがて僕の順番がきた。日々動くことがなかったので、足元がふらついた。
生温い生活を送ってきた身体には、冷たいシャワーはとても気持ちが良く、シ
ャボンを身体中に付けて洗うと、なんと清々しく、気持ちが良くなるのだろう
か。シャワーを浴び、濡れた身体は乾燥ルームで乾かされた。
着替えは用意されておらず、脱衣所にも戻れないようになっていた。仕方な
く、その先の白い廊下に出て、突き当たりにある部屋に向かった。
ドアのない部屋には、女性警察官が机の向こう側に二人並んで座っていた。
裸のままだったので股間を両手で隠しながら、恥ずかしさに堪えて、警官の机
の前に置かれた椅子に腰掛けた。女性の色香を感じ、思わず性欲がムラムラと
高まってきた。貞操帯の中ではパニスが膨らみ、苦痛を覚える。そうなって漸
く、僕の意識が明確になってきた。
「黒田三郎。虚偽名による政党党員登録。公職選挙法及び公文書不実記載の疑
いにより拘留。間違いないか?」
右側に座る警官が言ったようだ。
「そうだと思います」
そんな罪状は知る由もなかったが、多分そうだろうと思っていたので、そう
答えた。
「去年“人間宣言条約”を、我が国も批准し、2101 年の今年、条約は施行され
た。それに伴い、男は全て“奴隷”に落とされ、人間の権利の一切は剥奪され
た。つまり、人間のための法律の対象とはならなくなったのだ。当然“奴隷”
に対する全ての法律の適用は存在しない。勿論、
“奴隷”は動物でもないので
動物愛護法の規定にも抵触しない存在だ。地位は“奴隷”と確定されたのだ。
それで“女性人間宣言条約”の趣旨に則り、“奴隷”となった男には、二つ
のコースが選択できることになっている。
一つは、宇宙開拓に貢献するために、建造中の宇宙移民船が完成するのを待
ち、宇宙開拓のため地球を去るコースと、もう一つは、女性の為に貢献する奴
隷として地球上に残るコースだ。どちらのコースを選んだにしろ、宇宙開拓者
養成施設か、奴隷調教施設に入って訓練及び調教されることとなる。
どちらのコースを選ぶかな? 黒田三郎、直ぐに答えなさい」
唐突に説明され、何がどうなっているのかも分からず、妖艶な警察官に早急
な回答を迫られた。
「さあ、どっちにするんだ?!」
急き立てるように警察官が言う。
「あぁ、ちょっと待って下さい。この男、結婚しています。この男の所有権は
妻の“三島ユキコ”に所属しています」
隣の警官が、唐突に妻の名前を口にした。
「そうか、奴隷調教施設へ直行か……」
にやけながら、もう一人の警察官が納得したように言う。
「いや、奴隷婚届が提出されているので、調教施設へは送られないで、そのま
ま、自宅直帰ですね」
隣の警察官が説明した。
「立つんだ! 奴隷が椅子に座っているなど論外だ」
突然、机が叩かれ、大きな物音で脅かされ、 慌てて僕は立ち上がった。
「四つん這いになるんだ。奴隷が立って歩くなど、認められていない。我が国
も変わったんだ、よく覚えておけ!」
強い口調で威嚇された。
「はい!」
警察官の態度の急変に驚いて返事をした。
素早く椅子から立ち上がり、床に四つん這いになった。
警察官は立ち上がり、机の脇を回り込んで僕の傍らまでやって来ると、脇腹
を蹴られた。無様に僕は、仰向けに転がされた。ニヤニヤとした顔の警察官が
僕を見下している。もう一人の警察官も反対側から近寄ってきていた。
頭髪を掴まれ、牽き上げられた。僕は立ち上がり、膝立ちの姿勢になった。
眼前には警察官の青いパンツの股間部分が触れそうなほどに近くに迫っていた。
「女性に虐められて、女性の快楽のために生きる。それが奴隷の本分なのだ。
その事を、今からたっぷりと教えてやろう」
僕の顔を見下して、警察官が頭の上から言った。背中側からも、もう一人の
警察官が密着してくるのが感じられた。僕は警察官二人にサンドイッチ状態に
された。手が背中のほうから前に回され、僕の乳首を摘んできた。直ぐに乳首
は抓られて弄ばれる。
「嗚呼~!」
僕は抓られる痛さと綯い交ぜに感じる、性的な刺激に善がり声を上げた。
「良い声で鳴く奴隷だ。その調子で鳴き続けろ……」
更に激しく、乳首がにじり回される。
「嗚呼~! あぁ~!! アァ~!!!」
僕は更に声を高めて泣き叫んでいた。
頭髪を強く掴んでいた手が離され、目の前の青いパンツが引き下げられた。
剥き出しになった警察官の白い下半身の中央に、黒い陰毛の繁みが浮かび上が
って迫ってきた。なんとも言えない香りが、その黒い森から甘く臭い立つ。
「舐めるんだ」
静かに一言、真上から声が降りてきた。
再び頭髪が掴まれ、無理やり陰毛の森の中に顔面を押しつけられた……。屈
辱感を味わいながらも、舌先を伸ばす誘惑に魅せられていた。後頭部を催促さ
れるように小突かれ、蒸れ蒸れの陰毛のジャングルに顔を埋め、舌先を深遠な
る蜜壺に忍ばせる。僕を虐めることに期待している蜜壺は、既に十分に潤い濡
れていた。
思いきって女陰を舐め上げた。
「嗚呼~っ!」
警察官の甲高い嗚咽が漏れた。
背中側を押す、もう一人の警察官が、更に僕を強く挟んで来る。どうも二人
の警官は上半身を絡めあって抱き合っているようだった。
僕はレスビアンの二人の玩具にされているのだ。だが、それでも嬉しかった。
一生懸命に女陰を舐め廻した。パニスが膨れ上がり、貞操帯の中で痛みが苛酷
なまでに増していた。背中側の警察官もパンツを下ろした。同じような黒い陰
毛に覆われた女陰が、もう一人の警察官とは違う臭いを伴って後頭部を押し付
けてくる。後ろ側に身体と顔を反転させ、そちらの女陰にも舌先を伸ばした。
やはり濡れきっていて、愛液をたっぷりと溜め込んだ陰毛が舌先を待ち受け
ていた。その愛蜜を啜り、蜜壺へ舌先を挿入して行く。
僕の頭は、前後から恥骨と濡れきった女陰に押し付けられ、非常に息苦しく
暑苦しくなっていたが、快楽に蠢く二人の警察官の悦楽の役に立てていること
を思うと、とても幸せを感じていた。
長い長い時間、抱擁は続き、そのあいだ中、僕は交互に二人の女陰を舐め回
していた。舌先の粘膜は陰毛との摩擦で剥がされて、ヒリヒリと痛みが走り、
舌も顎も直ぐに疲労して動きが鈍くなってくる。すると頭を小突かれ、舌先の
動きを催促される。時間と共に舌先は疲労しきり、痺れが酷くなって動けなく
なっていった。
漸く二人の警察官は満足したように身体を離し、パンツを上げ、机の向こう
側に戻って行った。僕はその場に跪いたまま、二人の警官を見上げていた。
何事もなかったように、穏やかな表情で警官が僕を見つめていたが、さっき
までの厳しさは感じられなかった。
「さて、お前の処分だが……。既に人間ではなくなっているので、人間に対す
る法的処置は全て適用外となってしまった。勿論、最初に言ったとおり、動物
でもないので動物愛護法の適用もない。ただ、結婚しているので、お前の所有
権は妻であった三島ユキコにある。しかし、
“女性人間宣言条約”が施行され
た現在、夫の所有権を放棄をする妻が大多数であり、多分お前も放棄されてい
ることだろう。いま、データを確認してみよう……」
警察官が、モニターに注視していた。
「おや……? これは……」
何がどうなっているものか解らないまま、僕は不安の井戸の底に居るようだ。
「野良ではないな。捨てられてはいないようだ。良かったじゃないか」
警察官が笑みを見せてくれた。
「お前の舌先の一生懸命さは確かに魅力的だった。野良なら、特別に飼ってや
っても良いと思えたほどだが、拾ってやる必要はなさそうだな」
愛情のこもった言葉を、警察官が仰ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
僕は感激し、頭を床に擦り付けてお礼を述べた。
「しかし、今までのような訳には行かないぞ。なにしろ、もう人間ではなくな
ったのだからな。
他の男達は、人間扱いを一切禁じられ、奴隷化調教施設に収容されて奴隷と
しての躾を徹底的に調教されるのだから、お前のように家庭に引き取られるか
らと言って、甘い事を期待しては駄目だぞ。奴隷としての本分を忘れずに、ご
主人様に一生懸命に尽くし、快楽を与え続けるんだ。それが良い奴隷の条件だ。
既に奴隷登録されているので、奴隷化調教施設への入所は不要だ。そのまま
自宅に帰るが良い。この部屋を出たら、入って来たのと反対方向に進み、突き
当たりのドアから出ると自宅まで搬送してくれるカーが待っている。それに載
って帰るが良い。では、元気でな。……次っ!」
親切な警察官が事務的ながら優しく言ってくれた。
僕は呆気にとられ、四つん這いで部屋を出た。入って来たほうの廊下を見て、
反対側の廊下を見る。判然とはしないが、そこには希望が感じられた。
嗚呼、ユミコ様にお逢いできる。今度こそ射精をさせて貰おう。でも長い間、
黙って不在にしてしまったから、そのお仕置きで、また射禁が続くかも知れな
いな……。
警察官に言われたとおりに、突き当りにドアがあった。ドアノブは人の手の
高さにあり、四つん這いのままでは触ることも出来ない。しかし、近づいてみ
るとドアの下側半分に四角い板が開閉するように作られていて、その板を押す
と向こう側に出ることができた。
ちゃんとペット用の開閉ドアが設えてあるとは……。なんだか、とても惨め
な気持ちにさせられた。嗚呼、僕はもう人間ではないのだ。ヒシヒシと実感さ
せられる。
外に出ると、そこは建物の玄関裏のような、暗くて寂しいところだった。一
台の宅配カーが停車している。ドアが開いていたのでそこに乗り込んだ。窓も
なく、荷物置き場しかない宅配カーだった。ドアが閉まると、真っ暗闇になり、
直ぐに動き始めた。移動していることだけは、微かな振動で解った。きっと都
心に住むユミコ様のところに向かって走っているのだろう。進行方向に身体を
向け、闇の中の壁を背もたれにして、足を投げ出して寛いで座った。
いったい、これから僕の生活には何が待ち構えているというのだろう? 小
沢(こざわ)党首も、影野碓井君も、あの中年の書記長も、いったいどうなっ
たことだろう?
色々な思いが走馬灯のように、頭の中をぐるぐると回っていたが、もう何も
集中して考えることが出来なくなっていた。人間は生体活動を抑制されると眠
くなるようだ。闇の中で目を開いている必要もないので瞼を閉じると、そのま
ま眠りに落ちた。
目覚めると宅配カーのドアが全開になっていた。見たことのあるガレージの
中の光景だった。確かここは、ユミコ様と僕が住んでいたマンションの地下ガ
レージに違いない。車の外に出てみると、間違いなかった。
数台の個人所有の車が並んでいる奥の隅に、エレベーターが見える。そこに
近づくと、まだ僕を住人だと認識してくれているようで、エレベーターのドア
が開いた。乗り込むと、高層階のユミコ様と僕の住んでいた階まで勢いよく昇
って行った。ボンヤリと懐かしさが込み上げてきて、なんだか胸が熱く感じら
れてきた。
エレベーターのドアが開く。何も変わっていない廊下が、奥まで伸びている。
確か3つ目のドアが、ユミコ様と僕の住んでいた部屋の筈だ。部屋の前に立つ
と“ピッ”と小さな電子音が聞こえた。セキュリティが解除された音だ。嗚呼、
僕を住人だと、まだ感知してくれている。胸が更に熱くなる。
部屋のドアが無音でスライドして開く。立ったまま歩いて部屋に入り込んだ。
“ん? 何の匂いだろう”
一歩、玄関に踏み込むと、柔らかく甘い匂いを微かに感じる。なんだか懐か
しい匂いではあったが、記憶の一番底にあるもののようだ。それを思い出そう
としたが、思い出せなかった。それでも不快な記憶ではなかった。
玄関から部屋に上がり込む。廊下の先に幾つかの部屋か繋がっている。嗚呼、
玄関先には、僕専用のディスプレイを置いた机が、そのままになっていた。奴
隷婚した奴に、物品の個人所有など許されるはずもないのに、ユミコ様は、僕
の人権を、
“女性人間宣言条約”が施行された後までも認めてくださっていた。
凄い感動に胸がはち切れんばかりに熱くなる。涙まで湧き上がって来た。
さっき警官が言っていた言葉を思い出した。
『
“女性人間宣言条約”が施行された現在、夫の所有権を放棄をする妻が大多
数であり、多分お前も放棄されていることだろう』
……それなのにユミコ様は、僕の帰って来るのを待っていてくれた。感動で
胸は熱くなり、目からは涙が止まることなく溢れ出て来ていた。更に、僕の携
帯までディスプレイの下に置かれていた。もう駄目だ、心臓が破裂する。感動
を通り越して苦しくなってきていた。
そうだ、こんな感動に打ち震えてばかりいてはいけない。僕の存在意義をユ
ミコ様に示さなければならない。僕は単なる奴隷でしかないのだ、いつ捨てら
れてしまうかも知れない身分に変わりはないのだ。先ずは、お部屋のお掃除か
らだ。
ユミコ様は、お部屋の片付けが出来ない人だった。ちょっと僕が不在にする
日があったりすると、たちまち部屋中には物が散乱してしまっていた。お掃除
ロボも、物に突き当って身動き出来なくなるほどだった。今回は1年以上も不
在にしていたので、部屋の中がどれほど酷いことになっているものか想像もつ
かない。先ずは、一番手前の居間兼リビングからお掃除を始めよう。
四つん這いで、廊下から部屋に入り、居間を覗く。フロアの真ん中に、床か
ら天井まで貫くポールがそのままに立っていた。僕を繋いでいた手綱が、その
まま外されずにぶら下がっている。心臓が“ドキッ!”とした。
ところが、床面は綺麗に掃除されていて、ゴミの一片も落ちていなかった。
ユミコ様のディスプレイを置いた机が部屋の隅に置かれているが、椅子はなか
った。僕がその椅子だったからだ。
見たことのない白い熊の人形が、一つだけ転がっていた。
四つん這いで廊下に出て次の部屋のドアを開けようとしたが、そこには鍵が
掛かけられていた。そこはユミコ様の書斎で、いつもだいたい鍵が掛けられて
いる。僕の認証ではドアは開かない。
次に一番奥の寝室まで這って行った。
誰も居ないんだから、立って移動しても良いようなものだが、そんな畏れ多
いことはできなかった。すっかり奴隷としての行動が身に染まってしまってい
た。
寝室のドアを開けて中に入った。
“おや? あれは何だろう”
四角い柵で覆われた大きなサークルが置かれている。確か、ベビーベッドと
かいうものだろうか?
部屋に入り込むと、この家に入った時に感じた、甘く柔らかな香りが強く鼻
を刺激した。
“そうか。ミルクの匂いだ”
懐かしい。ここには赤ちゃんが寝ているのか。ユミコ様が赤ちゃんを育てら
れているというのか?
その時、玄関先から物音が聞こえてきた。
嗚呼、ユミコ様が帰宅されたのだ。僕は嬉しくなって、廊下に四つん這いで
出ていった。紺のスーツに身を包んだユミコ様のお姿が目に入った。
「まあ、ポチ。帰って来ていたの? そんな四つん這いの格好はよして、赤ち
ゃんを受け取ってよ!」
ユミコ様の明るい声が、廊下に響く。
僕は四つん這いのまま顔だけ上げると、そこには大きな荷物袋を腕に下げた
ユミコ様が佇んでいた。
両手には白い包にくるまって、明るい肌色を見せる赤ちゃんが、小さな顔を
覗かせている。
なんて、ちっちゃくって可愛い顔なんだ。僕は微笑んで立ち上がり、ユミコ
様に更に近寄った。
「可愛い赤ちゃんですね。どうしたんですか?」
僕は、笑みがこぼれるのを感じながらお訊ねしてみた。
「私の赤ちゃんに決まっているでしょう。そんなことより早く、赤ちゃんを受
け取ってよ!」
ユミコ様に急かされた。
体を屈めて、その可愛い白い包みを両手で受け取った。まるで、熱を持った
出来立てのパンのように柔らかい。それでいて、思ったよりも重みのある赤ち
ゃんだった。僕は優しく、その包みを受け取ったが、赤ちゃんなど持ったこと
もなかったので、落としてしまわないか緊張して手が強ばっていた。
「寝室にベビーベッドがあったでしょう。眠っているんだから起こさないよう
に、そっと寝かせてきて」
ユミコ様の笑顔が素敵だった。
恐恐と、緊張しまくったまま赤ん坊を抱えて廊下を歩き、寝室へ向かう。ベ
ビーベッドを囲む柵は低かったので、それを越えて、ベッドの真ん中に、小さ
な赤ん坊をそっと置いた。赤ん坊の寝顔は優しげで、心が癒される。
「可愛いでしょう。本当に、生んでからは大変だったんだから」
ユミコ様が、僕を揶揄するように言われた。
「いつ、お生みになられたんですか?」
事実を確認してみたかった。
「1ヶ月前よ。だいぶ遅れたかな、予定日より……」
遠くを見つめるように、視線を上げて答えるユミコ様。
「僕の知っている男性の赤ちゃんですか?」
一番の気掛りなことを訊ねてみた。
「う~ん、そうね。……ポチもよく知っている男よ」
カマをかけるような口ぶりだ。
そうなんだ……。僕がいなくなってから、違う男と付き合っていたんだ。誰
だろう? 色々な知り合いの男の顔を思い出そうとしたが、想像もつかない。
「馬鹿ね。ポチが拘留されてから1年しか経っていないのよ。ポチの子に間違
いはないわよ!」
ユミコ様が明言されたが、……僕の子? 何故?
ユミコ様とセックスした記憶がなかった。射精だって、結婚式の時だけだっ
たし、いったいどこで種を仕込めたというのだろうか? 疑問だらけで、頭の
中が真っ白になって考えられなくなった。
そんな僕とは裏腹に、満面の笑みのユミコ様。
「結婚式の時に出来ちゃったのよ。まったく、百発百中なんだから、ポチは」
「そうなんだ、僕の子供なんだ……」
信じられないが、ハッピーな心持ちになった。
「ポチがいない間に、世の中は大変なことになっていたのよ。投票日の数日後
には国会が招集され、冒頭で“女性人間宣言条約”の批准が満場一致で可決さ
れ、それが施行されたのが1年後の昨日だったのよ。なんとかニホンも世界の
潮流に乗り遅れることなく 2101 年の“世界政府樹立”のスケジュールに間に合
ったわ。
1年前の選挙投票日当日の行方不明男性は 30 万人にも及んだけれど、誰も関
心を払わなかったわ。“女性人間宣言条約”の批准は、そんな些細なことを吹
き飛ばすくらいにセンセーショナルな出来事だったのよ。
私はポチのことが気掛りだったけれど、官僚は政府の一員なのよ。だから、
そのことについては問題視しても、公に発言することが出来なかったわ。小池
政権も、拘束した男性に対する措置には、何も手を付けずに放置したままにし
ておいて、それで条約施行の昨日を迎えたのよ。
今朝、
“奴隷に関する取扱について”というメッセージが飛込んできて、
“婚姻関係にあった奴隷について返還します”って一文があったたのよ。まっ
たく! お役所仕事のいい加減さには頭に来るわ。そういう私も役人の一人な
んだけれどね……」
ユミコ様はあっさりと言ってのけたが、しかし、その影では妊娠出産という
凄く大変な1年間を過ごされていたのだろう、と推測できた。
「でも拘置所で、殆どの奴隷夫は結婚を解消され、奴隷調教施設か、宇宙開拓
訓練施設へ送られたって聞きましたが、どうしてユミコ様は、僕との結婚を解
消されなかったのでしょうか?」
僕の一番気になっていた疑問を投げかけてみた。
「馬鹿ね。なんで私がポチとの結婚を解消しなければならないの。貴方との間
には子供まで出来たのよ。生まれてくる子供の、生ませの親であるポチに見て
もらいたいでしょう。普通は、そう思うと思うんだけれど……?」
何故か、ユミコ様の声がかすれて聞こえる。
ユミコ様が、僕の裸の身体に手を伸ばして抱きしめてくれた。
「おかえりなさい」
抱き締められながら、耳元で囁かれた。
熱い感情が湧き上がって、喉元まで込み上げてきた。
「ただいま……」
ポツリと、声を出すのがやっとだった。
「あの日はね、妊娠検査に行ったのよ。どうも、体調がおかしかったから、も
しかしてって思っていたのよ。妊娠したことが確実になったら、ポチにあの日、
知らせようと思っていたのに、あんな非道な選挙法が施行されていて、選挙投
票日に外出している男性は一時拘留しても良いという条文が加えられていたの
よ。そんなこと、一般には知らされていなくって、それに一時拘留が1年以上
も続くなんて誰も思ってもいなかったわ。それでね、ポチがいなくなった翌日
に、警察からメールが届いたのよ。
“黒田三郎を公職選挙法第 2986 条 18 項の 13 の違反により一時拘留した。安全に
拘留されているので、御了承願います。
”だって。人を馬鹿にしたような通知
には、呆れて文句も言えなかったわ。
その後、
“女性人間宣言条約”が批准されたことによる措置として、婚姻関
係の破棄を女性側から申告するだけで解消できるようになったのよ。それで、
多くの既婚女性たちが、ブームのように婚姻の無効を申し立てたの。多分、拘
置所や刑務所に収監されている夫たちの大部分は、本人も知らない間に婚姻関
係を解消されてしまったのでしょうね。本当に、時代が大きく転換していく前
兆が次々と目の前で繰り広げられて行ったのよ。
1年後の昨日、世界から国境はなくなり、男は人間ではなく奴隷に変わって
しまったわ。大部分の男は、宇宙開拓に出て行くための施設に収容されて、居
住地域からは消えてしまった。条約批准後すぐに、全国のあちらこちらに宇宙
開拓訓練施設の建設が始まり、その陰に隠れたように奴隷調教施設の建設も始
まっていたわ。そう、それに巨大星間航行ロケットの建造も、地球軌道上で推
し進められていたわ。
私が主張していたように、男は誇りをもって奴隷に落とされるべきなのに、
そうではなく、権謀術策のうちに、女性達の罠に落とされるように奴隷化させ
られてしまったのよ。でも、それが地球を救う唯一の道だと信じ込まされてい
たから、誰も文句も言えずに実行されて行ったのよ。
確かに、そんな強硬手段を取らない限り、狭い地球上で、増えすぎた人口を
維持する方策はなかったわ。暴れん坊の、どうにも手の付けられない男共は、
宇宙に追い出すしかなかったのよ。いくら従順化したと言っても、男は野獣の
精神を秘めているのよ。平和を志向する女性と共存して、地球上で生き永らえ
て行くなんて不可能な話。
“女性人間宣言条約”の主旨には、私も大賛成だわ。
でも、憧れていた黒田三郎との結婚、そして、この子を宿したことで、ポチ
に愛情を感じるようになってしまったの。だから、離婚なんて考えられなかっ
たわ。帰ってくる日を信じて、一年間待っていたのよ、ポチを……」
ユミコ様が涙ながらに語ってくれた。
また胸が熱く熱く沸騰してきた。顔を上げるとお美しいユミコ様の彫りの深
い顔立ちが迫っていた。唇を合わせ、両腕をユミコ様のお身体に回し、強く抱
き締め返した。僕は欲情し、パニスが膨らんできた。
「嗚呼、痛い! チンポが……!」
貞操帯の中でパニスが膨らんでしまい、その痛みに叫んだ。
「こら、奴隷の分際で、勝手にチンポを膨らませるんじゃない!」
微笑みながら仰るユミコ様。
直ぐにユミコ様の手が僕の股間に伸ばされ、1年以上も嵌められたままの貞
操帯をいとも簡単に外してくださった。その瞬間に痛みは去り、開放感に満た
されたパニスが喜びの雄叫びを上げていた。
「凄い!」
驚かれたように、ユミコ様が歓喜の声を上げられた。
「こらこら、ポチ。奴隷犬のご挨拶がまだでしょう」
そう言うとユミコ様は僕から離れ、ベッドの縁に座られた。
僕は四つん這いで、その足元まで這って行く。とっさに股を開いてM字開脚
のポーズになり、両手を胸の高さにまで上げて手首を前で垂らして捧げた。口
を開いて舌を出し、わざとハアハアと息づかいを荒くして、惨めな犬のチンチ
ンのポーズを作った。
熱り立ったパニスが、余りにも元気よく飛び出していて、下半身の中心で立
ち上がり、恥ずかしさに身悶えた。
「あ、ハハハハ!!!!!」
ユミコ様が、大声で笑われた。
股間の真ん中で、大きな棍棒と化したパニスが、喜びを表すように突き出し
たまま揺れていた。ユミコ様の長い足先が伸びてきて、そのパニスを突いて楽
しまれていた。
「相変わらずポチのパニスは、威勢が良いわね。なんだか、とっても癒される
わ。そうね、伏せ!」
ユミコ様が楽しげにご命令される。
僕も楽しい気持ちになり、土下座し直して手を前に伸ばし、床に額を押し付
けて、
“伏せ”の姿勢を作った。
「いいわ~」
そう言いいながらユミコ様が立ち上がり、僕の真上に立ち、手を伸ばして剥
き出しのお尻を撫で回わされる。嗚呼、性欲がますます高められてゆく……。
「仰向けに寝なさい。1年ぶりの射精ね。私がやらせてあげるわ」
嬉しいお言葉をユミコ様から頂く。
身体を起こし、床に仰向けに寝た。ユミコ様が細いスラックスを目の上で脱
がれる。パンティーも一緒に下ろされたので、黒くこんもりとした茂みが目の
上で輝いて見える。長いスラリとした両足で僕の顔を挟むように跨がれて、そ
のまま顔の真上に座られる。黒い森が顔面を覆うと、そこは充分な愛蜜を溜め
込んでいた。愛蜜の海に溺れてしまいそうになり、慌てて、じゅるじゅるじゅ
る、っと、音を立てて吸い込むが、滑りのある愛蜜は、簡単には飲み干せない
ほどにたっぷりと陰毛の中に溜め込まれていた。
突然、乳首を抓られた。嗚呼、性的快楽が股間を更に膨らませる。
「そのまま聞きなさい。世界政府が 2101 年に設立され、世界の様相がすっかり
と変わったのよ。それで、ニホンとブリテン、ニュージーランドは子育ての国
として指定されたの。ポチが提出した、セイラー・キャンベルの音声報告があ
ったわね、あの報告書が参考とされたのよ。私は役所で、その制度設計を今担
当しているの。
世界中で生まれた子供をこの3国が引き受けて、0歳児から 22 歳の青年にな
るまで育て上げるシステムよ。18 歳の時点で、女性は更に学問を積むために大
学に進学し、男は宇宙開拓で宇宙に出て行くために、専門の教育を受けるか、
女性の快楽のために、奴隷に身を奴して地球に残るかの選択をするの。具体的
に、奴隷養成がどのように行われるのかはこれから決まるわ。セイラー・キャ
ンベルの報告にあったような、恐ろしい奴隷施設になるかもしれないし、それ
はまだ解らないわね。
それで私とポチも正式な夫婦として、一家族あたり5人の子供を育て続ける
義務が生じてくることになるわ。どう? やり甲斐のある仕事でしょう」
乳首を甚振りながらユミコ様が語っていた。
性的な快楽に翻弄されながらも、一生懸命に女陰を舐めて舌奉仕させていた
だいていた。
充分に乳首を甚振られた後、ユミコ様の手で、熱り立つパニスを扱かれ始め
た。僕も舌の動きを早めた。大量の水分が女陰から放出された。アンモニア分
のない、サラッとした体液だった。僕はそれを一生懸命に飲み干した。
嗚呼、僕ももう本当に駄目だ。全身を快楽の痺れが昇ってゆく。
「嗚呼~、もう駄目。私もイキたい……」
そう言ってユミコ様が立ち上がられた。
そのまま身体を前に移動させ、僕のパニスに手を添えると、熱く潤った女陰
の奥へとパニスを導いた。ユミコ様の熱い体内に取り込まれたパニスは、直ぐ
に締め上げられたのでパニスの先まで痺れてきて、精液が尿道を凄い勢いで通
過して行く快感に昇りつめてイくのを感じた。ユミコ様のお身体も、同時に痙
攣し始めて硬直して行く。二人同時にイくことが出来て、最高の幸せだった。
暫く、そのままの態勢で快楽の余韻を楽しんでいた。
「5人もの子を育てるのだから、私達の子が、もう一人や二人いても良いと思
わない? 実際に制度が整うまでに、まだ1、2年は掛かるでしょうから、も
う一人二人作れるわよね、ポチ」
そう言いながらユミコ様が立ち上がられると、それを待っていたようにベッ
ドで寝ていた赤ん坊が泣き始めた。
「よしよし、今おっぱいをあげるわよ、赤ちゃん」
あやすように優しく声を掛けられる。
「赤ちゃんだなんて言って、ちゃんとした名前があるんでしょう、ユミコ様」
僕は興味津々に訊ねた。
「もちろん、あるわよ!
この子の名前はね、ひとりの男として、雄々しく気高く生きて行って欲しい
と思って名付けたのよ……」
第3部「理想郷」=条約施行=
完。
著 浜造堕