KOJIMA LAW OFFICES

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KOJIMA LAW OFFICES
小島国際法律事務所
n Direct Investment
Koj
知的財産権プラクティス・グループ
知財小噺
December 2013
並行輸入品のインターネット販売 ~商標権侵害編~
コジーマ・ジャパン株式会社は、イタリアの親会社 Cojiima Ltd.が製造する「Cojiima」
ブランドの家具の輸入・販売業の日本における総代理店です。
小売店
Cojiima Ltd.
輸入
コジーマ・
ジャパン株式会社
小売店
(イタリア)
(日本)
卸売
コジーマ・ジャパン社の営業部長(山田さん)は、ある日インターネット上で、Cojiima Ltd.
の製品が、
自社の販売価格より 2 割ほど低い価格で通信販売されているのを発見しました。
「見たところ偽物ではないようだ。並行輸入品かもしれない・・・並行輸入品の販売を妨
害するようなことをすると、独占禁止法違反になることがあるから注意が必要であるとは
聞いている。けれども、このウェブサイトのサイト名は“Cojiima City”になっていて、
まるでわが社の公式通販サイトのように見える。さすがにこれは止めさせたい。
」
山田さんは、コジーマ・ジャパン社の顧問弁護士に相談することにしました。
念のためイスを一つ購入してみましたが、本物でした。並行輸入品だと
思います。このようなことを止めさせることはできませんか?せめてサ
イト名を変更させるとか…。
並行輸入された製品が真正品(本物)かどうかは、一つの大きな論点
になりますが、今回は真正品という前提でお話しいたします。
御社は、
「Cojiima」マークの商標権をお持ちでしたね。家具を指定商
品にしています。
今回のケースでは、商標法違反や、不正競争防止法違反に基づく措置
が考えられますが、不正競争防止法違反を主張するには、マークの周
知性が必要です。周知性の立証のハードルは相当高いので、まずは商
標法に基づく請求を検討しましょう。
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知的財産権プラクティス・グループ ニューズレター ©Kojima Law Offices 2013
「Cojiima City」のホームページ
Cojiima City
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運営元 Cojima City
特定商取引に基づく表示
このウェブサイトは、
「Cojiima」マークや、
「Cojiima」の名称を
使っていますね。
・サイト名が「Cojiima City」
・サイトのドメイン名が「www.cojiima-city.com」
・トップページ左下に、
「運営元:Cojiima City」
他方、トップページ右下のリンク「特定商取引法に基づく表示」を
クリックすると、運営会社が「株式会社ナリマス」であることがわ
かります。この会社に心当たりはありますか?
いえ、聞いたこともありません。
しかも、ウェブページ全体が、弊社の Cojiima ブランドのイメージカラ
ーであるグリーンでまとめられています。このページを見たお客さん
は、弊社の公式通販サイトと思って買ってしまうと思います。
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知的財産権プラクティス・グループ ニューズレター ©Kojima Law Offices 2013
早急に手を打つ必要がありますね。イメージカラーの使用を差し
止められるかどうかについては、不正競争防止法のときに改めて
お話しましょう。ナリマス社の「Cojiima City」マークの使用が御
社の商標権の侵害にあたっていれば、このマークの使用差止がで
きます。
侵害というためには、①マーク自体が同じか似ていること、②同
じか似ている商品・サービスのために使っていることが必要です。
このウェブサイトのサイト名に使われている「Cojiima City」のロ
ゴは、御社の商標である「Cojiima」マークに類似するといってよ
いでしょう。
「Cojiima」の部分は全く同じに見えますし、「City」
の部分には特段の識別力はありません。商標の類似性は称呼・外
観・観念で決定するところ、いずれも「コジーマ」の称呼を生じ、
「コジーマ由来の」
「コジーマが作成した」という観念を生じ、外
観も先ほど述べたとおり類似しています。
さらに、文房具と文房具の販売とは、類似するとされています。
ところで、このウェブサイトでは、Cojiima ブランド以外の家具や、
その他の製品は販売されていますか?販売されているのであれば、
その点をとらえて、比較的容易に商標権侵害が認められると思いま
すが…。
いえ、Cojiima ブランドの家具だけのようです。
では、イスが届いたとき、梱包の状態はどうでしたか?製品の梱包
を一度開封して取り換えられていたような場合、そもそも真正品で
はなく商標権侵害だ、という主張ができます。
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知的財産権プラクティス・グループ ニューズレター ©Kojima Law Offices 2013
残念ながら、段ボールはイタリア本社の使っているもののままで、開
封した形跡もありませんでした。
そうしますと、やはり、
「Cojiima City」のサイト名のもと、真正品の
みをウェブサイトで販売しているという前提でお話ししましょう。
裁判所は、あるブランドの製品を販売するために、当該ブランドの商
標を使用することは問題ないと考えているようです。たとえばヤマハ
のピアノをヤマハから購入して販売する業者が、広告にヤマハの商標
「YAMAHA」を記載することは、条理上正当なことで商標権侵害に
はならない、と判断しています。もっともこの件では、ヤマハのピア
ノに惹かれてきたお客さんに、自社製品を売りつけるためにやってい
たので、結局商標権侵害となってしまいましたが…*1。
*1 名古屋地裁平成 5 年 1 月 29 日判決(判時 1482 号 148 頁)
並行輸入品でも同じでしょうか?
広告に記載するだけなら、同じだと思います。並行輸入品(真正品)
販売のための広告への商標の記載について、詳しく述べた判例は見当
たりませんが、並行輸入品(真正品)販売のためのパンフレットへの
商標使用の差止請求を棄却した裁判例があるからです*2。
*2 東京地裁昭和 59 年 12 月 7 日判決(判タ 543 号 323 頁)
、名古屋地裁昭和 63 年 3 月 25
日判決(判タ 679 号 183 頁)
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しかし、本件の特徴は、貴社の商標に似た商標を、並行輸入品の販
売のためのウェブサイトにおいて、サイト名として、実店舗の看板
に当たるような場所に使用していることです。
このような事例について判断した判例は見当たりません*3。学説で
は、店舗などの入口、ショウウインドー、店舗外部の看板及び自動
車運搬車、リーフレット、定価表、便箋、名刺などの宣伝用/営業用
文書に商標を印刷して使用する行為については、真正品と不可分に
結合した商品表示ではなく、むしろ、それ自体独立した営業表示と
認められるべきであるとして、商標権侵害が成立するとの説*4 もあ
ります。
*3 2013 年 6 月、
「IKEA」の商標権者が、IKEA 製品をインターネット販売していた業者に
対し、訴訟を提起しているが、まだ判決は出ていない。
*4 桑田三郎「国際商標権の諸問題」
(中央大学出版部、1992)135 頁乃至 190 頁(なお同
論文は、実際の事例における私的鑑定として作成されたものに基づく。)
どうして広告なら侵害でなくて、サイト名や看板だと侵害になるの
ですか?
裁判所は、並行輸入品の販売のための広告に商標を付する行為
については、商標の主な機能である出所表示機能・品質保証機
能を害しないことから、商標権侵害を認めていないと考えられ
ます。これに対し、ウェブサイトのサイト名や看板に商標を使
用する場合、商標は、そこで売られている商品の出所表示機
能・品質保証機能ではなく、そのウェブサイトがその商標権者
や正規代理店の運営するものであるとの印象を与えてしまい
ます。このような行為は、新たに商標を付していると評価しえ
るので、並行輸入品の販売の広告として違法性が阻却される範
囲からは、逸脱していると考えられるのです。
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知的財産権プラクティス・グループ ニューズレター ©Kojima Law Offices 2013
侵害にあたっていれば、サイト自体を閉鎖させることもできますか?
残念ながら、サイト自体の閉鎖は難しいでしょう。バイアグラ錠
の並行輸入の事例で、これは結局真正品ではないとされた事案な
のですが、商標権者がサイトの閉鎖を求めたところ、サイト名と
して「VAIAGRA」などのマークを使うことの差止めが認められ
たのみでした*4。ですから、御社の場合も、サイト名から
「Cojiima」の名称を削除し、将来もサイト名に使わせない(商
標の使用差止)ことを目的にしましょう。まずは、株式会社ナリ
マスに対して、警告書を出し、それに応じないようなら、裁判を
提起することでいかがでしょうか。
*4 東京地裁平成 14 年 3 月 26 日判決(判時 1805 号 140 頁)
なるほど、分かりました。社内で一度検討しますが、その方向でお
願いすることになると思います。
ところで、警告書にダメ元で、並行輸入品の販売が商標権侵害だか
らやめるようにと言ってみるのはどうでしょうか?やはりああ安く
販売されると、弊社の価格設定が揺らいでしまいますし…
十分な根拠なしに並行輸入品を偽物扱いして商標権侵害だから販売す
るなということは、独占禁止法違反になってしまいます*5。今回は既に
真正品と分かっていますし、するべきではないと思いますよ。
*5 公取委ガイドライン「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」
「第三並行輸入の不
当阻害」
(並行輸入品のインターネット販売~不正競争防止法編~へつづく。
)
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知的財産権プラクティス・グループ ニューズレター ©Kojima Law Offices 2013
2013 年 12 月
小島国際法律事務所
知的財産権プラクティスグループ
菊池 毅 (パートナー)
工藤 敦子(カウンセル)
増成 由佳(アソシエイト)
寺田 達郎(アソシエイト)
〒102-0076
千代田区五番町 2-7 五番町片岡ビル 4 階
Tel: 03-3222-1401
Fax: 03-3222-1405
E-Mail: admin@kojimalaw.jp
本記事は、法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、弁護士の適切な
助言を求めていただく必要があります。
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