日中の視点・知財(201507)No.15

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日中知財/ 小論説
日中の視点 / 知的財産権法
No.15
China-Japan IP Law Review
a special edition of DeBund Newsletter
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Date: 2015.07.01
大 邦 法 律 事 務 所 (DeBund)に つ い て
編集者記:
“ 日 中 の 視 点 / 知 的 財 産 権 法 ”を 上 海 大 邦 律 师 事 务 所 Newsletter の 特 别 版
と し て お 届 け 致 し ま す 。知 的 財 産 権 法 は 最 も グ ロ ー バ ル 化 が 進 ん だ 法 律 分 野 で す
が 、そ れ で も 、日 本 と 中 国 の 間 に は 、問 題 の 捉 え 方・考 え 方 に 隔 た り が あ り ま す 。
そ こ に 焦 点 を 当 て つ つ ,経 営 的 な 視 点 も 踏 ま え 、知 的 財 産 の 保 護 の 在 り 方 、関 連
す る 契 約 問 題 等 に つ い て 、原 則 毎 月 、小 論 説 を お 届 け 致 し ま す 。第 十 五 回 の 今 回
は 、「 オ ー プ ン・イ ノ ベ ー シ ョ ン と 中 国 / イ ノ ベ ー シ ョ ン 促 進 と 法 制 度・法 治 」
に つ い て の 日 中 の 考 え 方 の 違 い に つ い て で す 。日 本 と 中 国 の 相 互 理 解 の 一 助 に な
れば幸いです。
二零一五年七月一日
日中知財/ 小論説 No. 15
「オープン・イノベーションと中国 (9)/ 創新(イノベーション)の促進と法制度・法
治」
弁理士 川本敬二
上海大邦法律事务所 顧問
1.イノベーション推進と日中
我々の生活の質を更に向上させるためには、次の経済発展へと繋がる産業の芽
を育てること、それによって国際競争力を復活させることが必要であると言わ
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れています。そのテコとなるのが、イノベーションの推進です。日本に限らず、
先進国・新興国を中心にこのイノベーション推進の為に様々な提言が行われ、
各国で政策が実行に移されているところです。正に、イノベーション推進の国
際競争時代です。
これまで、日本では特に、民間企業でも活発な研究開発活動が行われてきまし
たが、一方で、国の予算配分に当たって、公的な研究機関(例えば、理化学研
究所、産総研等)、大学等への資金投入に関連して、公的な機関でのイノベー
ションを推進する為にはどのような仕組みを作ったら良いのか、その成果を実
用化・商業化に繋げる為には企業との関係をどのように形成したら良いのか、
そして、これらを実現する為には、生まれた成果・知財の処理をどのようにし
たら良いのかが検討されてきました。
中国では、日本に比べて、研究開発面でも国の関与のレベルが非常に高、それ
は投入される資金面及び規制面において強く表れています。その意味で、科学
技術イノベーションの推進において、政府等の果たす役割が日本に比べて格段
に強いと言えます。
今後、日本がイノベーションを推進するに当たって、欧米の研究機関との連携
に加えて、豊富な人材と資金の潤沢な配分を受けうる立場にある中国の企業・
研究機関との合作は避けて通れない路になってくると思われます。中国の企
業・研究機関は、公的、私的な研究機関を問わず、様々なルートを通じて、公
的な資金にアクセスし、これを用いて研究開発活動を行っているので、公的な
資金を用いた研究の成果・知財について、中国がどのような制度と取っている
のかを押さえておく必要があると思います。
2.中国のイノベーション推進の法体系
2-1)基本法としての「科学技術進歩法」について
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(1)概要
イノベーション推進に関する基本法ですが、日本では、2000 年に制定された
「産業技術力強化法」、これに相当する中国の法律が 2007 年の「科学技術進
歩法」です。「科学技術進歩法」の守備範囲は広く、科学技術部を中心に財務
部、国家発展改革委員会等の中央政府のみならず、各省の地方政府の関連各部
がその執行に関係しています。中国がイノベーション型の国家建設をすること
を目指すとして、国家資金の投入、金融機関の整備、人材育成、知的財産権制
度の整備、研究開発の実施に当たっての公的な研究機関・大学の役割、実用化・
商業化に当たっての民間企業の役割、それらの研究活動を支える研究者等の育
成・保護、研究開発に関する税制面での優遇措置等について、基本的な考え方
を示しています。
(2)中国版のバイドール規定
知的財産権関係では、所謂、バイドール規定、即ち、政府及び政府機関が提供
する資金(日本の科研費、競争的資金等に相当)を用いてなされた研究・開発
によって生まれた成果に関する知的財産権は、従来、国に帰属するとされてい
たのを、政府等から資金の提供を受けて研究開発を行う研究機関に帰属すると
定めています(科学技術進歩法§⒛)。この制度は、米国がその名の通り、バイ
ドール法として 1980 年に創設、また、日本では、先に挙げた「産業技術力強
化法」の前身にあたる「産業活力再生特別措置法」に同趣旨の内容が盛り込ま
れています。
先にも述べた通り、中国では、公的な研究機関・大学に留まらず、広く民間企
業の研究開発活動も政府資金によって支えられています。日本の企業等そして
大学を含む公的な研究機関(「日本の機関」)が、中国の企業・研究機関と科学
技術イノベーションに向けて共同研究開発をする場合には、中国の企業・研究
機関が政府資金を用いて研究開発を実施する場合も想定しておく必要があり
ます。その場合、法律上、中国の企業・研究機関の研究開発によって生まれた
知的財産権がどこに帰属することになるのかが重要になります。
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発明の帰属については、中国の「特許法」の定めにより、職務発明については、
当該発明者の属する企業・研究機関に帰属します。その発明が企業・研究機関
の自己資金でなされた場合である場合は勿論ですが、政府等の資金を用いてな
された場合であっても、上記のバイドール規定に従って、最終的に、当該企業・
研究機関に帰属することになります。
従って、日本側は、中国の企業・研究機関と共同研究開発を行う場合に、中国
側の行う研究開発によって新たに生まれる知的財産権は法律上、中国の企業・
研究機関に先ず帰属することを前提に、両者間の契約によって、当該知的財産
権を両者でどのように処理・配分していくのかを決めていけばよいことになり
ます。即ち、中国側で生まれた知的財産権について、日本側が実施し、製造販
売することを希望する場合には、両者間の契約により、日本側にライセンスを
許諾してもらうのか、それとも、日本側に所有権を一部譲渡してもらい両者の
共有にするのか、契約上の権利を確保しておく必要があります。
2-2)「新常態」と「科学技術の実用化・商業化促進法」(促进科技成果转
化法)
次に、イノベーションについて、研究成果の実用化・商業化に関する基本法は、
「科学技術の実用化・商業化促進法」と呼ばれています。
さて、中国は、豊富で安い労働人口のメリットにおいて圧倒的に優位な立場で
あったのが、それを相対的に失いつつあること、更には、環境への影響を無視
して工場の低コスト化を進めたことから、その悪化が許容レベルを超えつつあ
ること、更には、放漫に消費してきた諸々の生産資源に制約が掛かってきたこ
とから、社会経済体制の転換が叫ばれています。そのような背景の下、中国経
済は今、「新常態」に入って来たとされています。そして、将来を切り拓いて
行くために、科学技術イノベーションを新エンジンに見立て、これを軸に次の
経済発展に繋げていくとしています。
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「科学技術の実用化・商業化促進法」は、1996 年に制定されましたが、今、
このような「新常態」を迎え、新しい経済体制の構築に向けて積極的な役割を
果たすべく、改正作業が進んでいます。改正案は、本年 2 月の全人代常務委員
会で審議・承認され、その後、パブリックコメントが募られ(2015 年 4 月1
日)、現在、公布に向けて最終段階にあるとされています。
改正案のポイントについて説明したいと思います。
(1)知的財産の処分権と実用化・商業化
先ず、公的な資金を用いて生まれた知的財産権についての取り扱いです。当該
知的財産権の帰属は、上記「科学技術進歩法」にて、それを生み出した企業・
研究機関等にあると規定されていますが、企業・研究機関等が当該知的財産権
を処分する際には、様々な制限が課されていました。例えば、第三者に譲渡・
ライセンス許諾をする際、政府の関係部門の報告・承認が必要であり、手続き
面で、イノベーションの実用化・商業化の阻害要因になっているとされていま
した。これを撤廃し、知的財産権を所有する企業・研究機関が自己の判断の下
で決定し、処分することが出来るようにして、イノベーションの実用化・商業
化を促進するとしています。
従って、例えば、日本側が中国の企業・研究機関と研究開発契約を締結するに
当たっては、今後は、中国側は、政府の関与を最小限に抑えて自主的な判断で
知的財産権の処理が出来るようになるので、弾力的に自主的なネゴが出来る余
地が広がるようになると言えます。日本側にとってもビジネス上の対応がしや
すくなるという意味です。
(2)研究者等によるイノベーション創出・商業化の強化
イノベーションを創出し、それを実用化・商業化にあたるのは、それに携わる
研究・開発者等の人員です。改正案では、有能な人材を研究開発機関に集積さ
せるとともに、それらの人員の活力を引き出して、より効率的にイノベーショ
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ンを推進する為に、これらの人員に配分する経済的なインセンティブを手厚く
することを明確化しました。
即ち、イノベーションの創出(発明者を含む)、実用化・商業化に重要な貢献
をした人員への奨励・報酬等については、社内・機関規程等を定めることを原
則としています。然しながら、そのような規程等がない場合には、当該企業・
研究機関が第三者に技術移転・ライセンス許諾により収入を上げたような場合、
当該収入の20%を人員に配分することとしています。また、当該知的財産に
基づいて、自己が製造・販売することにより収益を獲得した場合、更には、現
物出資等により設立した会社を通じて収益を得た場合等、夫々の場合について
の人員等への配分比率を定めています。尚、従来、特許の発明者に対する奨励・
報償については、特許法の定めにより、相当額が発明者に支払われることとさ
れていましたが、今回、改正法が成立した場合は、発明者に限定されず、その
支払い対象範囲が広がると理解していく必要があります。
このように、イノベーションの創出、実用化・商業化に重要な貢献をした研究
者等の人員に対して奨励・報償が支払われることが明確化されることにより、
日本側は、中国の企業・研究機関と共同研究開発契約を締結する場合、そのよ
うな支払い責任が中国側にあることを明確化する規定を契約に盛り込んでい
く必要があります。
(3)研究資金の流用防止
中国では従来、政府が提供する研究資金の使途について不透明な部分が想像を
超える範囲で広がっていると理解されていました。研究資金がイノベーション
の創出、実用化・商業化に十分に生かされず、不正に流用されて、それが見過
ごすことのできないレベルに達しているとの見方もあります。
新政権成立後、腐敗防止、公的資金の適正な使用が強く叫ばれていますが、
「科
学技術の実用化・商業化促進法」の改正案においても、それが強く反映されて
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います。実用化・商業化のプロセスの透明化、成果の政府部門へ報告、不法所
得の没収、刑事責任の追及等が規定されています(§45 以下)。
従来、日本側は、コンプライアンスの観点から、共同研究開発の相手先の中国
の企業・研究機関による研究資金の不正使用については、神経を尖らさざるを
得ないのが実態でした。今後は、中国の法治社会に向かう流れにのって、中国
側に対し、より適正な研究開発資金の運用を強く求めることができる環境が整
備されて来ていると言えます。
(4)企業の役割、インフラの整備関係
更に、改正案では、イノベーションの実用化・商業化に当たって、企業の役割
の重要性が強調されており、産学連携、人事交流等を推進するとしています。
また、ソフト・インフラ関係では、TLO、橋渡し機能の強化、ベンチャー等の
インキュベーション・センターの更なる強化に関する規定が盛り込まれていま
す。
3.終わりに
私は、イノベーション推進の為には、i) 組織及び個人の柔軟性を高め、自己決
定能力を強化すること、ii) 組織・個人のチャレンジ精神を熟成することが最
も重要であると思っています。
中国は、「新常態」の中で新たなる展開を進める為に、イノベーション推進を
エンジンに、ひた走り始めました。その為の法的整備、ハード及びソフト・イ
ンフラの構築が具体的に進んでおり、特に、上記 i)については、まだまだ、全
体の道のりは遠いのかもしれませんが、少なくとも、制度的に、日本のレベル
に近づきつつあるとの印象を持っています。上記 ii)については、中国では元々、
人材の流動性が高く、又、独立志向が強いと言われており、特に、若い層に対
して、チャレンジ精神を鼓舞する教育がなされつつあるようにも思います。こ
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のような状況下、日本の企業・研究機関は、自己のエンジンの駆動に力を入れ
ることに加えて、中国システムの下で整備されつつあるエンジンとの協同駆動
をも視野に入れて考えていくべき時期にさしかって来ているのではないだろ
うか、そのように感じます。
以上
「その他の日本語版の中国法律情報は、こちらからお入りください。」
その他の中国語版の中国法律情報:
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