米国司法省、捜査における企業幹部への追求を強化 ― 日本企業への影響 1 ホーガン・ロヴェルズ ニュースレター 米国司法省、捜査における企業幹部への追求を強化 ― 日本企業への影響 執筆者: Kathryn Hellings(ワシントン D.C.事務所パートナー)/Ethan Kate(東京事務所アソシエイト) 2015 年 9 月 9 日、米国司法省(「DOJ」)は既に変化しつつ ある起訴の傾向に合わせた方針を正式に発表した。企業 の不正行為の原因をもたらした責めを負うべき者を積極的 に起訴するというものである。同省副長官のサリー・イエー ツ(Sally Yates)氏の覚書(「イエーツ・メモ」)で、DOJ は 「企業の不正行為を防ぐ最も効果的な方法の一つは、不正 行為を実行した個人の責任を問うことである。」と述べてい 1 る 。この指針に従えば、今後、捜査対象となった企業の犯 罪の責めを負うべき幹部や従業員が捜査・訴追の対象とな り、長期にわたり服役させられる可能性が予想される。また、 捜査対象となった企業は、捜査協力による減免措置を受け る資格を得るために、従業員(米国と最小限の接触しかな い従業員も含む)に関する所定の事実を全て提供すること が義務づけられる。 DOJ は、企業の犯罪行為を抑止するのに罰金や刑罰は不 十分であると判断した。そのために、DOJ は捜査対象の企 業の算段を大幅に変えている。これまで企業は、捜査にか かるコストや不利な判決を下されるリスクと捜査協力による 減免措置から得られる利益や司法取引などの解決策にか かるコストをてんびんにかけて検討してきた。イエーツ・メモ は、幹部や従業員の起訴という重要な変数を方程式に追加 することにより、それを複雑化している。企業は捜査から直 ちに受ける測定可能な影響を考慮するだけではなく、企業 と従業員の両方に及ぼす数量化できない影響を考慮しなけ ればならない。特に、犯罪の責めを負うべき個人を特定す ることが捜査協力による減免措置の前提条件として扱われ るようになったため尚更である。したがって、企業は捜査協 力による減免措置を受けるために、全キャリア人生をその 企業で過ごしてきた人であるかもしれない幹部を「差し出す」 ことにより、従業員を米国で服役する目に遭わせるかどうか を決断しなければならないのである。 さらに、企業は米国に所在または勤務する従業員のみにつ いて協力を要請されるわけではない。実際に、イエーツ・メ モに記載された指針によれば、幹部は所在地にかかわらず 起訴の対象となり、米国と最小限のつながりしかない者でも 対象となる。外国に所在する従業員や幹部の捜査には法 律上・実務上の問題はあるが、外国の従業員や幹部にも DOJ が国境を越えて積極的に手を伸ばしてくることを、企 業は想定しておくべきである。イエーツ・メモに記載された指 針によれば、捜査対象となった企業は外国に所在する従業 員や幹部に対する捜査を支援するよう要求される可能性が 高い。 新指針 イエーツ・メモは、検察官が遵守すべき 6 つの重要なステッ プがあるとしている。 1. 捜査協力による減免措置を得るためには、企業は 不正行為の原因をもたらした個人に関する所定の 情報を全て DOJ に提供しなければならない。 2. 企業に対する刑事・民事事件の捜査は、捜査開始 時から個人に焦点を合わせるべきである。 3. 企業の捜査を手掛ける刑事・民事事件の弁護士は、 日常的に連絡を取り合うべきである。 4. 特別な事情がある場合や DOJ の方針として承認 された場合を除き、DOJ は企業に関する問題の解 決にあたり、犯罪の責めを負うべき個人の民事・刑 事責任を免除しない。 5. DOJ の検察官は、関係する個人の事件を解決す る明確な計画を立てずに企業の問題を解決すべき ではなく、そのような事件において個人を不起訴処 分にする場合には記録を作成すべきである。 6. 1 司法省副長官 Sally Quillian Yates、企業の不正行為に対する 個人の責任(Individual Accountability for Corporate Wrongdoing)(2015 年 9 月 9 日)。 民事事件の弁護士は、企業と同じく個人にも一貫 して注目すべきであり、個人の支払能力を超える 事項に鑑みて、個人に対し訴訟を提起するかどう かを判断すべきである。 米国司法省、捜査における企業幹部への追求を強化 ― 日本企業への影響 最近の傾向 今回の DOJ による発表は、多くの点で何ら新しいものでは ない。DOJ の検察官の多くは、これまでも企業と犯罪の責 めを負うべき幹部個人との両方に注目して捜査を行ってい る。実のところ、イエーツ・メモの内容は、DOJ 刑事局司法 次官補 Leslie Caldwell がほぼ 1 年前に行った発言を反映 している。Caldwell 氏は 2014 年 10 月 1 日の演説で、「企 業は個人の行為がなければ、行為をすることはない。…企 業の幹部など、犯罪の責めを負うべき個人を犯罪行為で起 訴することは、今後も刑事局の優先事項である。企業が自 己申告後に捜査協力による最大の減免措置を受けるため には、不正行為を根絶するとともに、たとえ上級幹部であっ ても、責めを負うべき個人を特定しなければならない。」と述 2 べた 。 2 5 2010~2014 年には 25 か月に延長した 。2012 年、当時 の同局司法副次官補 Hammond 氏は、「企業に対する金 銭的制裁は、罰金と民事上の損害と合わせたとしても、カ ルテルを抑止するのに十分である可能性は低い。このため、 犯罪の責めを負うべき個人に重い制裁を科す必要があり、 それは有罪判決を受けた個人を懲役に処すことによって得 6 られる。」と述べた 。ということは、反トラスト局では、イエー ツ・メモに記載された指針の下でも、することは変わらないと いうことである。 特に、反トラスト局は、反トラスト違反について企業だけでな く個人も起訴することに、これまで非常に積極的に、かつ公 然と取り組んできた。2008 年 3 月 26 日、当時の反トラスト 局司法副次官補 Scott Hammond が演説で述べたように、 「カルテル行為を抑止し処罰する最も効果的な方法は、懲 役刑を求刑することにより、犯罪の責めを負うべき個人の 責任を問うことであると、反トラスト局は長年にわたり強調し 3 てきた」 。長年、反トラスト局は企業とともに個人も起訴する ことを常としている。例えば、2014 年 1 月時点、反トラスト 局は自動車部品捜査の一環として 26 名の幹部を起訴して 4 反トラスト強制措置における幹部の平均刑期は過去 15 年で 3 倍に延長 おり、20 名が米国の刑務所での懲役刑に処せられた 。反 トラスト違反の平均刑期は、1990~1999 年の 8 か月から、 引用: 刑事執行罰と服役記録(Criminal Enforcement Fine and Jail Charts)(2014)、http://www.justice.gov/atr/criminal-enforcement-fineand-jail-charts 2 司法省刑事局司法次官補 Leslie R. Caldwell、第 22 回年次倫 理コンプライアンス会議(22nd Annual Ethics and Compliance Conference)における発言(2014 年 10 月 1 日)、http://www. justice.gov/opa/speech/remarks-assistant-attorney-generalcriminal-division-leslie-r-caldwell-22nd-annual-ethics にて閲 覧可能。 3 司法省反トラスト局司法副次官補 Scott D. Hammond、最近 20 年間の反トラスト犯罪に対する法の執行の進展(The Evolution of Criminal Antitrust Enforcement Over the Last Two Decades)(2010 年 2 月 25 日)、http://www.justice.gov/atr/ speech/evolution-criminal-antitrust-enforcement-over-lasttwo-decades にて閲覧可能。 4 司法省刑事局司法次官補 Bill Baer、オバマ政権の反トラスト執 行の考察(Reflections on Antitrust Enforcement in the Obama Administration)(2014 年 1 月 30 日)、http://www. justice.gov/atr/file/517761/download にて閲覧可能。 近年、反トラスト局による個人の訴追が日本企業に対して 特に大きな影響を及ぼしている。例えば、反トラスト局によ る自動車部品捜査だけでも、2011 年以降に約 30 名の個 人が反トラスト違反の罪を認めている。さらに少なくとも 22 名の個人が起訴されている。このような個人の大部分は日 本国民であり、その多くは米国に居住したことが全くなく、米 国の領土に足を踏み入れたことすら全くない者もいる。判決 5 刑事執行罰と服役記録(Criminal Enforcement Fine and Jail Charts)(2014 年)、http://www.justice.gov/atr/criminalenforcement-fine-and-jail-charts にて閲覧可能。 6 Gregory J. Werden、Scott D. Hammond、Belinda A. Barnett、 司法省反トラスト局、カルテルの抑止と発見:あらゆる手段と制 裁の利用(Deterrence and Detection of Cartels: Using All the Tools and Sanctions)(2012 年 3 月 1 日)、http://www. justice.gov/atr/file/518936/download にて閲覧可能。 米国司法省、捜査における企業幹部への追求を強化 ― 日本企業への影響 を受けた個人は、営業部長、部長、本部長、副社長、少なく とも 1 名の社長など、企業内で様々な地位についていた。 彼らに下された判決は、米国の刑務所での懲役 12~24 ヶ 月である。自動車部品捜査はそのような捜査の一つにすぎ ず、反トラスト局は外国人を積極的に訴追している。特に、 日本国民はこれまでに、航空、ファックス用紙、海運業業界 でも捜査対象になっている。 3 企業にとっての意義 企業が捜査を受けると大きな混乱と多額の費用が生じるが、 企業の幹部や経営陣、従業員も捜査の対象となれば、この 混乱と費用は増すばかりである。 • 企業が多額の罰金を払い、実行犯が罰を免れることができ るという点で、DOJ による訴追は実際に犯罪を実行した者 に対して甘いという批判は依然として存在するが、DOJ は 7 企業の幹部を訴追することの難しさを公然と認めている 。 イエーツ・メモは、「合理的な疑いの余地なく犯罪行為を証 明するために必要な知識と犯意を、ある者が有していたか どうかを判断することは困難な場合がある。上級幹部の有 責性を判断する場合は、特にそうであると言える」ことから、 企業の犯罪について個人を起訴することには「相当な困難」 8 があると述べている 。最近、陪審裁判で幹部が無罪判決と された事件が複数あったことは、個人の訴追において DOJ 9 が直面している困難を浮き彫りにしている 。 7 例として以下参照:Matt Apuzzo、Ben Protess、司法省、ウォー ル・ストリートの幹部に狙いを定める(Justice Department Sets Sights on Wall Street Executives)、ニューヨーク・タイムズ (2015 年 9 月 9 日)http://www.nytimes.com/2015/09/10/ us/politics/new-justice-dept-rules-aimed-at-prosecutingcorporate-executives.html?_r=0 にて閲覧可能[以下「司法省、 狙いを定める」という。]; Jed S. Rakoff、経営危機:なぜ上級幹 部は起訴されていないのか(The Financial Crisis: Why Have No High-Level Executives Been Prosecuted?)、The New York Review of Books(2014 年 1 月 9 日)http://www. nybooks.com/articles/archives/2014/jan/09/financial-crisiswhy-no-executive-prosecutions/にて閲覧可; Glenn Greenwald、ウォール・ストリートの「アンタッチャブル」な幹部が どのように訴追を回避したかの実話(The Real Story of How ‘Untouchable’ Wall Street Execs Avoided Prosecution)、 Business Insider(2013 年 1 月 23 日)http://www. businessinsider.com/why-wall-street-execs-werentprosecuted-2013-1 にて閲覧可能。 8 イエーツ・メモ、2 頁。 9 例として以下参照: United States v. Farmer、事件番号 3:13CR-162-01-DRD、文書 460(プエルトリコ地区、2015 年 5 月 8 日); United States v. Lin et al、事件番号 3:09-CR-00110-SI5、文書 1256(カリフォルニア北部地区、2013 年 10 月 10 日); United States v. O’Shea、事件番号 4:09-CR-00629、文書 179(テキサス南部地区、2012 年 1 月 1 日)。 有意義な内部調査を行う能力への影響 ― 政府の 主張に対する抗弁を用意するには、内部調査が必 須である。 o 関係従業員への聞き取り調査は、社内調査におけ る必要なステップである。捜査対象となった企業は、 捜査協力による減免措置を受けるために関係従業 員を企業が「差し出す」かもしれないという事態に 直面した従業員が、聞き取り調査になかなか同意 してくれないという経験をするかもしれない。特に、 犯罪捜査の対象、標的などとして特定された従業 員は、このような聞き取り調査に参加することをた めらうのも当然である。 o イエーツ・メモは、出訴期限を延長する合意を「ま れな例外とすべきである」と宣言した。また、「それ でも出訴期限の延期合意が不可避で必要なもの であると考えられる場合には、出訴期間の満了前 に、犯罪の責めを負うべき個人に対する問題を解 決するか、または時効期間を停止することにより個 人を起訴する能力を保全するように、あらゆる努力 を尽くすべきである。」とも付け加えている。出訴期 限の延期に対するこの方針は、企業が自らの調査 を迅速に行い、終結させることが期待されることを 示している。政府と企業が出訴期限の延期に同意 しても、捜査対象の個人が合意書に署名すること を拒絶した場合には、企業は最大の減免措置を受 けるために迅速な調査を行わなければならないか もしれない事態となる。 • 日常業務の混乱 o 当然のことながら、捜査対象となった従業員は日 常の責務を数量化不能なレベルで大幅に阻害され る。そして、(1)個人用に別の弁護士を雇うべきか どうか、(2)上司や部下、同僚に関して否定的なこ とを話すことを含め、企業の内部調査に参加すべ きかどうか、また、どの程度参加すべきか、(3)政 府に協力すべきかどうか、また、どの程度協力す べきか、(4)出訴期限の延期に関する合意書に署 名すべきかどうか、(5)外国人の場合、法域の問 題を放棄するかどうか、あるいは犯罪容疑者の引 渡しに異議を申し立てるかどうかなど、多数の問題 米国司法省、捜査における企業幹部への追求を強化 ― 日本企業への影響 4 に直面する可能性がある。捜査対象となった個人 は、個人で雇った弁護士や企業の弁護士、政府の 調査官と長時間を過ごす場合があるが、それは職 務遂行に費やすはずであった時間である。 o 企業としても、調査(特に内部調査)により従業員 が企業と同僚に対して不信感を抱くようになるとい うリスクに直面する。従業員は、「互いを密告」しな ければならない、すなわち不正行為の責任を相互 に負わせなければならないというプレッシャーを感 じるかもしれず、また、調査に関する否定的な情報 が政府に報告される可能性があると認識する可能 性が高い。捜査対象となった企業は、利益相反 ― 存在するものか認識されているだけなのかは問わ ず ― 潜在的利益相反を特に認識すべきであり、こ のような相反を最小限に抑えるように取締役会に 調査を指揮させることを検討すべきかもしれない。 o もちろん、イエーツ・メモは、個人が最終的には有 罪判決を受け、または罪を認める可能性を高める ものである。つまり、企業は従業員や幹部が長期 的あるいは永続的に不在となる可能性に直面しな ければならない。このことは、そのような幹部が資 格停止処分を受ける可能性がある規制対象業界 においては特に問題となる。 • o 企業にかかるその他のコスト o 10 合もあり、その場合には従業員が将来起訴される 恐れを引き続き抱くことになる。 イエーツ・メモに記載された DOJ の指針は、捜査 協力による減免措置を受けるために従業員を差し 出すことを企業に要求している。イエーツ・メモは、 犯罪の責めを負うべき上級幹部を特定するのが難 しいことを認めているが、このことは、DOJ が犯罪 行為を実行した幹部ではない従業員を特定するだ けでは満足せず、幹部や犯罪の責めを負うべき意 思決定者をターゲットにしたいと考えていることを 示唆している。実際にイエーツ氏は、イエーツ・メモ の発表にあたり、「我々は企業が刑務所行き担当 副社長を差し出すだけでは、企業の協力を受け入 10 れない」と宣言した 。しかし、企業が誠実に調査を 行っても、犯罪の責めを負うべき幹部を特定できる という保証はない。そのような状況では、企業は司 法取引に至ることが難しいと感じる場合があり、ま た、従業員の不起訴処分を得ることができない場 Justice Department Sets Sights • 実務上、DOJ は認識される利益相反のため企業と は別の弁護士を必要とする可能性のある個人の 氏名を企業に示すことが少なくない。また、企業も 数多くの理由から、個人用の弁護士を雇う必要の ある個人を自ら特定することがある。これは、その 個人が当該行為に関与したという実際の証拠を企 業が握っているからである場合もあれば、その従 業員の社内における年功でそう考える場合もある。 また、政府も特定の個人から記録や証言を求める 召喚状を発する場合があり、これにより、企業とは 別の弁護士が必要となるケースがある。場合によ っては、従業員が個人用の弁護士を雇うことを企 業が支援することもあり、特定の状況下では、企業 が様々な条件を前提として、その個人の弁護士費 用を負担する。多くの企業の付属定款には、企業 が従業員の弁護士費用を負担する場合と条件が 定められている。捜査対象の個人が増加するにつ れ、企業が負担する関連費用も急増することがあ り、特に、利益相反のため同じ弁護士が何人もの 個人の代理人を務めることができない場合にそう なる。外国企業の場合は、範囲、時間、金銭の点 で、このような費用が増加するばかりである。という のは、世界中でいくつもの事務所に嫌疑がかかる かもしれず、従業員や弁護士が国際線の航空機を 利用したり、時差を超えて勤務したりしなければな らず、また、翻訳者を雇ったりしなければならない からである。 非米国企業が直面する固有の問題 ― 米国外に本 社を置く企業は、イエーツ・メモに定める DOJ に全 面協力する体制が整わない恐れのある数多くの外 部要因や外圧を考慮しなければならない。 o 現地法令は、DOJ に協力する企業にさらなるリス クやコストをもたらす可能性がある。例えば、多くの 国には、様々な記録や通信を海外へ配信すること を制限する厳格なデータ保護法がある。しかし、 DOJ は通常、企業による情報提供をデータ機密性 の問題に基づき免除することはない。そして、イエ ーツ・メモにおいては、検察官がデータ機密性に関 する議論に応じる意思はさらに弱いものとなる可能 性が高い。検察官は訴追が必要となった個人の事 件を立件するためには、記録や通信に関する文書 が必要となるのである。外国企業は、そのような文 米国司法省、捜査における企業幹部への追求を強化 ― 日本企業への影響 5 書を開示するリスクを、捜査協力による利益とてん 日本など一部の国々では、犯罪容疑者の引渡し びんにかけて検討しなければならないのに対し、 の対象となる恐れもある。 検察官は企業からの捜査協力の一環として、その 捜査のどこかの段階で、企業の従業員が DOJ に協力する ような文書の提出を受けることを期待するであろう。 ことを拒絶した場合、企業のコスト増加は現実的になる。現 o 企業が DOJ に協力しているとみなされるかどうか 実問題として、捜査対象の個人は米国に行くことができず、 は、従業員が調査官に協力することを選択するか 日本国外に出れば身柄を拘束されるリスクに直面する。し どうかにより影響を受けることがある。時には、忠 たがって、このような個人が進行中の就業義務を果たす能 誠心から、または利害が一致するということで、捜 力が直接制限される場合がある。さらに、特にイエーツ・メ 査対象の従業員が DOJ に全面協力することがあ モの発表後は、企業が DOJ に引き続き協力する約束の一 り、それは企業が捜査協力による最大の減免措置 環として、犯罪の責めを負うべき従業員がそのような異議を を受けるのに役立つ。しかし、個人は独立の行為 申し立てることを放棄するように企業が働き掛けることが期 者であるため、必ず協力するとは限らない。DOJ 待される場合がある。企業は協力を約束した検察官から、 が企業の外国に所在する従業員を起訴することは、 起訴に対して同時に異議を申し立てている個人の雇用を継 イエーツ・メモに記載された指針の下で捜査対象の 続すべきでないという(現実の、または認識された)プレッシ 企業が予想すべきことであるが、そのような事件は ャーを感じる可能性がある。 企業に多大な混乱とコストをもたらすことがある。こ 結論 のことは、下記を含む捜査の様々な段階で現れる 今回、方針に形を与えられたことが、重要なパラダイム・シ 可能性がある。 フトを示すのか、DOJ にとっては平常業務が続くことを示す 捜査段階: 従業員は DOJ による聞き取り調査を だけなのかは、現時点では不明である。最近の捜査は個人 受けるために訪米を要請されることが少なくない。 に注目しているが、上級幹部の訴追に力を入れることは、 その要請は拒否することができる。これにより、 捜査が企業に及ぼす影響、ひいては政府による捜査に対 DOJ が企業と個人の両方を捜査する能力が制 する企業の対応に著しい変化をもたらすであろう。 限され、企業の捜査協力による減免措置に影響 を及ぼす可能性がある。 管轄権に対する異議申立て: 従業員(特に、米 国との接触が乏しい者)は、DOJ から個人的に 起訴された場合、管轄権に対する異議申立てを 行うことができる。このような異議申立ては訴訟 の長期化と訴訟費用の増加をもたらすことがあり、 企業のコストを増加させるとともに、DOJ を苛立 たせる可能性がある。 コンタクト Kathryn Hellings ワシントン D.C.事務所パートナー) kathryn.hellings@hoganlovells.com Ethan Kate ワシントン D.C.事務所アソシエイト) ethan.kate@hoganlovells.com 裁判への影響: 従業員は、米国の管轄権に服し て裁判を受けることに決めることもできる。公開 裁判で恥をかく可能性があることは言うまでもなく、 裁判は終結までに何年もかかる可能性があり、 企業に多額の費用がかかる可能性もある。また、 本ニュースレターは情報の提供のみを目的としており、弁護士と依頼人の 関係を生み出すことを意図しているものでなく、また、本ニュースレターの 従業員は裁判手続の間、就業することができず、 受領によりそのような関係が形成されることもありません。 少なくとも就業能力が大幅に制限される可能性 がある。 犯罪容疑者の引渡し: 最後に、従業員は単に米 国の管轄権を回避することに決めることもできる。 そうすると、従業員はレッドノーティスにより逮捕 される恐れがあるため旅行できなくなるという、大 きな犠牲を払わなければならない可能性がある。
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