NEWSLETTER nascent chain biology #02 2015.10 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究 新生鎖の生物学 NEWSLETTER nascent chain biology #02 2015.10 新学術領域「新生鎖の生物学」 文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究 C O N T E N T S Announcement: Back to the Future …………… 1 田口 英樹 「新生鎖の生物学」領域代表 Schedule: 関連ミーティング・シンポジウム情報 …………… 3 Information: 活動報告 …………… 3 Interview: Randy W. Schekman博士インタビュー …………… 4 Research: 内藤 哲 北海道大学・大学院農学研究院 教授 ………… 20 船津 高志 東京大学・大学院薬学系研究科 教授 ………… 21 川口 寧 東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野 教授 ………… 22 伊野部智由 富山大学・先端ライフサイエンス拠点 特命助教 ………… 23 秋山 芳展 京都大学・ウイルス研究所 教授 ………… 24 市橋 伯一 大阪大学・大学院情報科学研究科 准教授 ………… 25 中井 正人 大阪大学・蛋白質研究所 准教授 ………… 26 岡本 浩二 大阪大学・大学院生命機能研究科 准教授 ………… 27 田中 良樹 奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科 助教 ………… 28 佐藤 明子 広島大学・大学院総合科学研究科 准教授 ………… 29 西頭 英起 宮崎大学・医学部機能生化学 教授 ………… 30 阪口 雅郎 兵庫県立大学・大学院生命理学研究科 教授 ………… 31 吉久 徹 兵庫県立大学・生命理学研究科 教授 ………… 32 土居 信英 慶應義塾大学・大学院理工学研究科 准教授 ………… 33 潮田 亮 京都産業大学・総合生命科学部 助教 ………… 34 森戸 大介 京都産業大学・総合生命科学部 主任研究員 ………… 35 渡辺 洋平 甲南大学・理工学部 准教授 ………… 36 伊藤 拓宏 理化学研究所・ライフサイエンス技術基盤研究センター ユニットリーダー ………… 37 鵜澤 尊規 理化学研究所・伊藤ナノ医工学研究室 専任研究員 ………… 38 池内与志穂 東京大学・生産技術研究所 講師 ………… 39 Meeting Report: 第1回 新生鎖若手ワークショップ EMBO conference 第15回 日本蛋白質科学会年会シンポジウム ………… 40 ………… 41 ………… 44 Laboratory: “自由の風が吹く” フリードマンラボ 東京工業大学・大学院生命理工学研究科 田口研究室 ………… 46 編集後記 …… 裏表紙 ………… 48 Announcement: ら公募班員20名が加わり、いよいよ本格 的な領域活動の開始です。6月13日には さっそく第1回班会議を行い、公募班員の 方々の自己紹介を兼ねて研究計画を話し てもらいました。予想していた以上の多様 なトピックス、多彩な研究アプローチに本 領域の今後の展開が実に楽しみです。さら に今年度はこのあとも、若手ワークショッ プ(9/28-30蔵王)、海外の比較的若手を招 待して企画した国際シンポジウム(10/1 東京)、全体班会議(11/13-15天童)と盛り 沢山で、活発な交流が期待できます。ま た、日本蛋白質科学会、日本生物物理学会、 BMB2015といった関連学会で領域に関係 したワークショップ ・ シンポジウムを開 バック・トゥ・ザ・フューチャー 昨年度から始まった本領域は今年度か 国 際 線 の 機 内 で の 楽 し み(時 間 つ ぶ し?)の定番はやはり映画鑑賞であろう。 国際会議での発表前のフライトでは Mac に向かってスライドを直したり、発表原稿 を考えたりもするも、狭い座席でずっとパ ソコン作業するのも辛く、たいがいは途中 で映画を観る。特に最近では自分で観たい 番組を選んで好きな時間に観られるのが 嬉しい限りだ。つい最近乗った国際線機内 では名作としてバック・トゥ・ザ・フュー チャー3部作が選べたので、これまでに何 度も観ているのについまた観てしまった。 で、PART2(1989年)を観ていて驚いた。 マイケル・J・フォックス演ずるマーティ ・ マクフライが1985年から未来にタイム トラベルする行き先は2015年10月21日な 催しますので(終了したのも含む)、これ のだ(付ける写真は、そのシーンのスナッ を読んでいる領域外の方もお時間があれ プショット)。機内で観ていたのが2015年 ば足を運んでいただき、 「新生鎖の生物学」 9月上旬なのでもうドンピシャリだ。30年 のアクティビティーを感じていただけた 前の映画に浸っていたら、この画面を見た らと思います。 …というくらいで領域活動の宣伝は終 わりとして、誌面も余るので、あとは自身 が不定期に書いているブログ的な感じで 最近考えたことを書いてみたい。 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」での「未来」の行き 先は 2015 年 10 月 21 日。Back to the Future, Part 2 より。 1 Announcement: 瞬間にリアルな来月(2015年10月)のスケジュー DNA2重らせんの記念論文が1953年。そして、本 ルが脳裏をよぎり、文字通り「未来に戻った(back 領域に欠かせないリボソームが George Palade to the future)」感覚におそわれた。その後、日本 によって細胞内の粗面小胞体に付着する粒子と に帰ってきて知ったのは、今年2015年はバック・ して発見されたのがちょうど1955年だったよう トゥ・ザ・フューチャーでの「未来」の記念年だ だ。1955→1985→2015と30年刻みで考えると、 そうで、一部で盛り上がっているようだ1。 どうしても次の30年後、2045年に思いが至る。 映画での「2015年」は近未来ということで、足 を入れると勝手に紐を締めてくれるシューズ、 宙を浮くスケートボード(ホーバーボード) 、さ らには空飛ぶ車が街を行き来しているが、実際 はそこまで進んでいない2。翻って、生命科学に 目を転じよう。1985年頃 3 は一つの遺伝子のク ローニング、配列決定だけでもたいへんな作業 さて、30年後の新生鎖研究、いや生命科学はど ういうことになっているのだろうか。筆者はとっ くに現役引退しているころだろうが、これを読 んでいる大学院生、30台前半くらいの人たちに とっては他人事ではない。案外変わってなかっ たりするかもしれない。最後に、ドク博士が映画 の中でつぶやくセリフで締めたい。 でそれだけで大学院全てを賭けるような仕事 "Roads? Where we’re going we don’t need roads." だったが、今では全ゲノム情報が解読され、オン (道? これから行くところには道なんて必要な ラインでクローニング、DNA シーケンスに至っ いんだ) ては次世代シーケンサーまで登場している4。タ ンパク質研究にしても、誰が現在のように質量 分析で数千のタンパク質を一挙に同定できると 想像できたであろうか。 バック・トゥ・ザ・フューチャーPart1で最初 にタイムマシンのデロリアンが行ったのは1985 年から30年過去の1955年へのタイムトラベル だ。1955年の生命科学はどんな感じだったのか。 「新生鎖の生物学」領域代表 田口 英樹 東東京工業大学 大学院生命理工学研究科 教授 1. 2015 年 10 月 21 日午後 4 時に向けてカウントダウンをするウェブサイトまで存在する。 2. いずれも技術的にはほぼできるようで、映画での「2015 年」のその靴やホーバーボードは実際にネタとして作られているようだ。ただ、現実が進んでいる一面 もあろう。テレビ電話は明らかに今の方が進んでいる(が、みんな意外と使ってない ・・・)。 3. 1985 年は筆者が大学に入学した年なので、まだ研究活動には入っていなかったが。 4. だれもが自在に使っているかどうかはともかくとして。 2 Schedule/Information: S c h e d u l e : 関連ミーティング・シンポジウム情報 2015年11月13日(金)∼15日(日)正午 平成27年度 第2回班会議 開催場所:天童温泉 ほほえみの宿 滝の湯 http://www.takinoyu.com 2015年12月1日(火)∼4日(金) 第38回 日本分子生物学会年会・第88回日本生化学大会 合同大会 会場:神戸ポートアイランド http://www.aeplan.co.jp/bmb2015/ 演者: Judith Frydman (Stanford University) Roland Beckmann (University of Munich) 田口英樹(東工大) 船津 高志(東大) 森 博幸(京都大) 稲田 利文(東北大) I n f o r m a t i o n : 活動報告 2015年3月8日(日)∼10日(火) 「新生鎖の生物学」 第1回若手ワークショップを開催しました。 開催場所:八王子セミナーハウス 2015年10月1日(木) Nascent-chain Biology Meeting 2015 in Tokyo 会 場:東京大学弥生講堂 一条ホール(東京都文京区) 参 加 者:44名 (学生29名) Session I 2015年6月24日(水) Ubiquitylation of Stalled Ribosome Triggers Ribosome Quality Control シンポジウム「細胞内の蛋白質の一生:新生から死に至るまで」 Sichen Shao (MRC, UK) Molecular recognition of stalled and terminating ribosomes 第15回 日本蛋白質科学会 オーガナイザー:田口 英樹(東京工業大)、遠藤 斗志也(京都産業大) 演者: 田口 英樹 ( 東工大・生命理工 ) 新生鎖フォールディングの運命とシャペロンの分子機構 Chair: Koreaki Ito (Kyoto Sangyo Univ.) Toshifumi Inada (Tohoku Univ.) Thomas Becker (LMU, Germany) Structural and functional analysis of ribosomeSki-complexes 村田 昌之、加納 ふみ ( 東大・総合文化・生命環境 ) Session II 遠藤 斗志也 ( 京産大・総合生命 ) Rocaglamide A converts RNA helicase eIF4A into a sequence-specific translational repressor 野田 展生 ( 微化研・分子構造 ) Motomasa Tanaka (RIKEN BSI) Global analysis of translation inhibition caused by environmental stressors in yeast セミインタクト細胞リシール技術を用いた病態モデル細胞作成とその解析 ミトコンドリア生合成に関わる分子装置の構造と機能 オートファジーによる選択的蛋白質分解の構造基盤 田中 啓二 ( 東京都医学総合研究所 ) Chair: Yukio Fujiki (Kyushu Univ.) Shintaro Iwasaki (UC Berkeley, USA) タンパク質分解装置 プロテアソーム の動態と作動機構 Christian M. Kaiser (Johns Hopkins Univ.) Coupling of protein synthesis and folding: pulling on nascent chains with optical tweezers 2015年9月28日(月)∼30日(水) Kenji Inaba (Tohoku Univ.) Dynamic natures of the PDI family member proteins that act on nascent chains in the endoplasmic reticulum 「新生鎖の生物学」 第2回若手ワークショップを開催しました。 開催場所:山形蔵王 (たかみや瑠璃倶楽リゾート) 参 加 者:63名 (学生38名) Session III Chair: Kenji Kohno (NAIST) Shinobu Chiba (Kyoto Sangyo Univ.) 招待講演者: Nascent chain-mediated monitoring of the membrane protein biogenesis pathway アレストペプチドを通して見えてきた、セントラルドグマを奏でる分子 の自律性 Arrest peptides illuminate molecular autonomy in execution of the central dogma Güenter Kramer (ZMBH, Germany) Studying nascent chain interactions by selective ribosome profiling 伊藤 維昭(京産大) Thomas Becker(University of Munich) Hideki Taguchi (Tokyo Tech.) Global analysis of nascent-chain folding and chaperone effects The principle of cryo-microscope 岩崎 信太郎 (University of California Berkeley) What you can know by ribosome profiling 3 INTERVIEW with RANDY SCHEKMAN THE VESICLE CHRONICLES 何か違ったことをやりなさい。 同じ事ばかり繰り返してはだめだ! Do something different, don’t just turn the crank. [ Randy W. Schekman 博士インタビュー ] 聞き手:吉久徹(兵庫県立大)、遠藤斗志也(京都産業大) 2015 年 7月1日 タワーホール船堀 Randy W. Schekman University of California at Berkeley 1948 年アメリカ合衆国ミネソタ州生まれ。1975 年 Stanford University(A. Kornberg 研)で 学 位 取 得、1975~77 年 UC San Diego(S. J. Singer 研) で ポ ス ド ク、1977 年 に UC Berkeley で 研 究 室 を 開き、1984 年に同教授職就任後、現在に至る。 1991 年 よ り Howard Hughes Medical Institute 研 究 員。2012 年 よ りeLifeの 編 集 長。2013 年 "for their discoveries of machinery regulating vesicle traffic, a major transport system in our cells" に よ り ノ ー ベ ル 生 理 学 医 学 賞 受 賞(J. E. Rothman、T. Südhof 両博士と共同受賞)。編者 は、1990~92 年の間、ポスドクとして彼の研究 32 室で過ごした。 小胞輸送 –Vesicular Transport– は、いわゆる中央空胞系オルガネラ間の物質輸送の中核をなすシステムである。そ の分子メカニズムの研究者の名前をリストするとき、絶対に欠かすことが出来ないのが University of California at Berkeley の Randy Schekman 博士である。Schekman 博士は、分泌過程を酵母の遺伝学という、当時、誰も思いつか なかった切り口で解析し、SEC 遺伝子群を同定した。さらに、セルフリー 系を用いて小胞形成過程を再構成し、Sec タンパク質群の生化学的機 能を明らかにした。こうした細胞生物学分野への貢献により、James E. Rothman、Thomas C. Südhof 両博士と共に 2013 年のノーベル賞を受 賞したことは記憶に新しい。しかも、今なお、彼は、オートファジーや exosome 形成といった小胞の関与する新たな分野へ切り込み、最先端で の研究を続けている。その一方で、近年の科学専門誌の商業主義化を憂 い、eLife という新たなジャーナルを立ち上げて、その編集長としても多 忙な毎日を送っている。2015年細胞生物学会年会の基調講演者として招 待されたのを機会に、彼の研究人生から専門誌のあり方に至るまで、様々 な話題についてお話を伺った(編集:吉久徹)。 ̶まずは、ノーベル賞に対するお祝いを。受賞で人生、何 か変わりましたか?確か、大学が駐車場代を永年無料 にしてくれたとは聞いていますが…。 Randy Schekman 子供の頃(1956年)、ちょうどソ連でスプートニクが打ち 上げられたのを良く覚えています。テレビから流れて来 るニュースを見ながら、これが自分の人生に影響するな どとは思いもしませんでした。 けっこう変わりましたね。ずっと忙しくなったし、あち こち飛び回るようになりました。インタビューを受けた り、写真を撮られることも多くなりました。新聞やラジ オでコメントを求められることも増えましたし。 飛行機には乗りすぎかな。それと、あまり気分が良いも のではありませんが、他人の見る目が変わりましたね。 ある時はなれなれしく、別の時は慇懃に扱われます。だ から、自分が何を言っているのか、常に気をつけないと いけないと思うようになりました。自分はおしゃべりだ から(笑)。Tim Hunt *みたいにちょっと問題のある発言 をしてしまうと、ノーベル賞をもらう前なら誰も気にと ̶子どもの頃はどんな感じでした?いつごろ、サイエン スを目指そうと思ったのでしょうか。 Schekman 中学校のころ、12歳くらいだと思います。誕生日のプレ ゼントか何かで、おもちゃの顕微鏡をもらったのを覚え ています。それを使って池の水を観察しました。池の水 に浮かんでいる固まりをスライドガラスに載せて見たら …見えたものに夢中になりました。自分の部屋で、顕微 鏡を覗いて、何時間も過ごしました。 めないのでしょうが、もらった後となる致命傷になりま すから。 *細胞周期の研究で有名。2001年のノーベル生理学医学賞受賞者で、今 年の科学ジャーナリスト世界会議での「女性が研究室に居ると困る」と いう類いの発言が、職を辞す騒ぎに発展。 §1 おもちゃの顕微鏡と 高校の教師が育てた科学への興味 ̶あなたのこれまでの軌跡について、伺いたいと思いま す。もともとは中西部で育ったんですよね? Schekman はい、10歳のときまで中西部の Minneapolis にいました。 当時は、人並みに宇宙に興味があったと思います。私の 父はエンジニアで、大学では機械工学を学んだ人です。 母は、専業主婦でした。特に、家族がサイエンスに興味 があったわけではありませんが、両親の望みは私がとに かく大学に行くことでした。 ボシュロムの Student Microscope。Schekman 博士が中学高校の頃、自宅 での「研究」に用いたのと同じ型のもの。 5 ̶ それで今でも微生物を? Schekman そうです。これが微生物学への道を決めましたね。高 校 で は、Edward Adelberg、Michael Doudoroff、Roger Stanier による The Microbial World *という有名な教科書 があって、それを読みふけっていたのを思い出しますね。 University of California at Berkeley の 3 名の教授が書い (彼 た本です。当時読んだもう一冊の本は、Gunther Stent も Berkeley の教授でした)の書いた Molecular Biology of Bacterial Viruses で す。そ れ で、UC Berkeley に 進 学 することを考えたのですが、 「Berkeley は家から遠いか ら・・」と思って University of California at Los Angeles (UCLA)に行くことにしたんです。 *邦題「微生物学」。編者も日本語版第5版を大学生時分に読んだ記憶があ る。 生育に十分な栄養を含んでいるというので、私は、期限 切れの輸血用の血液を病院からもらって、家の冷蔵庫に 入れていました(笑)。母親の使っていた圧力鍋で、プレー ト用の寒天培地を滅菌しました。自分の部屋には自作の インキュベーター(と言っても、中を暖めるために加減 抵抗器につないだ電球がつり下げてあるだけですが)も ありました。 *第2次大戦後に、世界で初めて安価に大量生産された教育用顕微鏡で、 教育上もボシュロムの営業上も大成功を収めた製品。 (p. 5の写真参照) 当時、私にとって一番の目的は、実験結果をサイエンス フェアに出すことでした。サイエンスフェアは中学高校 の当時、まさしくサイエンスの世界への入り口でした。 そういう意味で最も影響力があったのは、自分が通った 高校の生物の先生だったかもしれません。高校に入る直 前の第9学年(中学3年相当)のサイエンスフェアで、彼は 私の発表ブースにやってきて、 「来年からの君の生物学を ̶誰か大きな影響を受けた人はいましたか? 担当する教師だよ」と自己紹介してくれたんです。彼は 実験科学については素人でしたが、教育面ではすばらし Schekman い教師でした。私はずっと彼と懇意にしていました。高 私の両親に地元の病院の医療技師の友人がいたんです 校を卒業した後もです。時々、Berkeley の私の研究室を が、彼女が目をかけてくれていました。彼女は病院の検 訪れてくれました。ノーベル賞受賞が決まった朝も祝福 査室にあったグラム染色法で染めた細菌を見せてくれた のメールをくれて、こんな瞬間を目にするまで生があっ のです。実験器具の入手も手伝ってくれたので、自分の たことを心から神に感謝すると言ってくれました。だか 家で実験を始めることが出来ました。自分で買える物だ ら、彼の影響は大きかったですね。 けで、実験をしたんですよ。まず、ボシュロムの生徒用 顕微鏡* を買いました。彼女が人の血液はバクテリアの §2 UCLA から Stanford・Kornberg 研へ ̶ 大学では生物学だけに関心があったのですか? Schekman 化学にも興味があったのですが、ある日、それが文字通 り吹き飛んでしまいました。バーナーで試験管を加熱す る実験だったんですが、うっかりその中に炭酸水素ナト リウムを入れて、コルクで栓をした上で火にかけてし まったんです!当然、目の前で爆発しました。幸いけが はありませんでしたが、それで終了。化学実験には悪い 思い出しかありません(笑)。 それでも、1 年生の時に取った化学が重要だったのは確 かです。化学で優等学位クラスに入ることができたんで す。このクラスは Willard Libby という教授(彼は14C を利 用した放射線年代測定の発明でノーベル賞を取っていま す)が担当した特別なクラスで、最も優秀な学生しか入 れませんでした。もっとも、私にとって重要だったのは 教授の授業ではなく、そのクラスは全ての学生が UCLA の化学科の研究室に配属されることでした*。 *米国では、限られた優秀な学生しか卒業研究のような研究室配属にあ ずかれない。ここでは、低学年で研究室配属を受けるコースが設定され ている。 そこで偶然にも、私は、先の Gunther Stent の下で学位を 取得し、バクテリアのウイルスを研究している新任教員 の研究室に配属されました。ある意味遺伝学者であった 第 9 学年の時のサイエンスフェアにて。 6 彼は、化学科では異色でした。私が彼の研究室を初めて 訪れたとき、彼は、 「まあ、君はまだ十分この分野を知ら 分離するといった実験をやっていました。私はこうした ないだろうから、これでも読んでくれたまえ。」と言って、 実験自身は好きでした。 James Watson の「遺伝子の分子生物学」の第1版を私に 渡しました。ちょうど出たばかりの新刊本で、私にとっ てはすばらしいイントロダクションになりました。私は 微生物学の本は読んだことがありましたが、この本は全 く違ったスタイルで書かれていました。すごく刺激的で、 この時、これこそ自分がやりたかったことだと判ったの です。2年生でも引き続き、研究室に出入りしようと心に 決めました。 3年の時、海外教育プログラムで University of Edinburgh に短期留学しました。そこで細菌の遺伝学を研究してい る Leonard E. Kelly という人の隣で研究をしたのですが、 彼のお兄さんの Regis Kelly が Arthur Kornberg 研のポス ドクで、Leonard に DNA polymerase が UV 照射で生じる pyrimidine dimer を切り出すという論文のプレプリント を送ってきました。私はそれを読ませてもらったんです が、それは実にエレガントな生化学の研究論文でした。 それで,自分は大学院で生化学のトレーニングを受ける ̶あなたのようなケースは、学部生としては普通です か? Schekman 当時、学部生で研究室に配属され、そこで研究する者は 希でした。今では、Berkeley ではわりといるようになり ましたが、UCLA ではほとんどの場合、医学部に進学した べきだと確信しました。具体的には、Stanford University か Harvard Medical School の大学院を受けようと考えま した。というのも、Stanford には Kornberg という天才が いましたし、Harvard の Charles Richardson もすごい仕 事をしていました。最終的には Stanford の Kornberg 研 で「炎の試練」を受けることになったわけです。 い学生が研究室配属を望みますね。推薦書を書いてもら えますから*。 ̶どんな雰囲気の所だったのですか? *アメリカでは、一般の大学を出た後に、メディカルスクール(専門職大 Schekman 学院)に進学して医師となる。 すごいところでした。核酸の生化学では、どこを見ても ベストの研究をしている感じでしたね。常に研究の最先 ̶それでは、大学院時代に移りましょう。どうして UCLA から Stanford University に移ったのですか? Schekman 私が UCLA で所属していた研究室では、ウイルス DNA の複製、小さな一本鎖 DNA ウイルスの DNA 複製を研究 していました。私は M13 phage を研究していましたが、 ϕX174を研究している Harvard の研究室でも一夏を過ご 端にいて、雰囲気だけで、力が漲る感じで、そこにいる人 間を信じられないくらい熱心に実験に打ち込ませ、深く、 かつ慎重に思索させる何かがありました。とにかく彼の スタンダードは私が考えていた以上に高く、非常に要求 が厳しく、厳格で、何事も彼の望むようにことを進めな くてはなりませんでした(苦笑)。 しました。どちらの研究室も、複製のメカニズムを調べ るのに、放射性標識した細胞から染色体の複製中間体を 7 ̶大学院生やポスドクとの関係はどうだったのですか? 例えば、東海岸の研究室ではけっこう競争が厳しく、 同じ研究室の学生やポスドク間でさえ競争があると言 いますが。 Schekman みんな、協力的でしたよ。勿論ちょっとした競争はあり ましたが、たちの悪いものではありません。私はさっき 言ったように、3 年生の夏、Harvard で過ごしましたが、 Harvard でもすばらしい研究は行われているのですが、 雰囲気はちょっと肌に合いませんでしたね。Kornberg は 本当に厳しい人でしたが、Bill Wickner や他のラボのメン バーは、とても協力的で、彼らとは親密な関係を築けま した。 ̶それは、それは!じゃあ、研究だけでなく、人生の上 でも Bill は欠くべからざる人物となったわけですね。 Schekman 最重要人物です。そして、私の最も大切な親友です。ユー モアのセンスも似てますしね(笑)。 Bill と は 私 が Berkeley で テ ニ ュ ア を 取 っ た す ぐ 後 に (1982∼83年)、一緒にサバティカルをとって、スイスの Jeff Schatz の所にも行きました。当時の Schatz 研には Howard Reitzman や、サバティカルの Nathaniel Nelson とかが来ていました。あと Peter Böhni、彼は大学院生 で、後に私の所にポスドクに来ました。Schatz の所では、 すばらしい時間を過ごすことが出来ました。サイエンス としては大したことはしませんでしたけどね(笑)。ま だ e-mail の無かった時代で、アメリカのラボのメンバー ̶盟友の Bill とは、ここで出会ったわけですね。 Schekman Bill は私が大学院2 年目の時に、ポスドクとしてやって きました。私たちはすぐに、競いながらも協力するよう になりました。彼は、私があまりのハードワーカーで、 女友達がいないのを哀れんでいたようです(笑)。彼は、 Harvard で医学生だった時に、すでに看護学校の女学生 とつきあっていました。Bill は彼女と別れて別の女性と 結婚して Stanford に来たのですが、元カノの方もこれと は無関係に San Francisco にやってきていました。彼女は Bill がいるのを知り夕食に誘ったようですが、Bill は、自 分はもう結婚しているが、ラボの同僚で気晴らしの必要 な奴がいるから、と言ったらしいんですよ。それが、今 の私の妻です。 結婚式の時の Randy Schekman と、奥さんの Nancy Schekman。 8 とコンタクトを保つのが大変な時代でした。電話はお金 がかかりすぎますし。私の研究室の連中は、実際、私の いない間、そこそこしかやっていませんでしたよ(笑)。 というのも、二人の年長のポスドク、Scott Emr と Tom Stevens、特に Emr は、自分自身の将来のラボのセット アップに忙しかったようでしたから。 §3 分泌研究事始め、そして、 ボツになった分泌変異スクリーニング ̶あなたのポスドク時代に話を戻したいと思います が、あなたはポスドクを UC San Diego の Seymour J. Singer の所でやっていますね。その時、ほ乳類の細胞 を扱っていますが。 Schekman ヒトの新生児赤血球を使ったひどいプロジェクトでし た(笑)。当時、私は細胞生物学を全く知らなかったし、 Singer はちょうど流動モザイクモデルと膜構造の概念 を確立したところで、その時は良い選択だと思ったんで すよ。しかし、彼の実験のスタイルには、ある種のカル チャーショックを受けました。Singer は、生化学によっ て分子メカニズムを理解することに、必ずしも興味を 持っていませんでした。彼は当時、細胞の切片でタンパ ク質の局在を決定するという、視覚的な実験をベースに 研究をしていました。私のプロジェクトについて議論す る中で、彼とは上手くやっていけないことがすぐ判りま した。1975年に Blobel と Dobberstein が古典となった有 名な論文を JCB 出しましたが (1, 2)、この論文について議 論しているとき、私が忘れることの出来ない一言を彼は 放ったのです。 「こうした研究はなかなかおもしろいよ。 しかし Randy、いかに膜構造ができ上がるかを調べよう というときに、まず細胞抽出液の調製から始めたのでは 何も判らないのではないか。」と。 私は、彼は宇宙人に違いない、とすら私は思いましたね (笑)。彼に反抗して、どうやったら何かのセルフリー反 応系が出来ないかばかり考えていましたよ。Singer 自身 は物理化学者ですから、ある程度生化学を理解もし、評 価もしていたとは思います。しかし、彼が提案したプロ ジェクトをやることになって、超薄切片の調製法や金コ ロイド標識などを、まだ一般的になる前に学ぶ羽目にな りました。 ̶でも、このときから分泌の研究を始めたのですね。 Schekman いえ、もっと前、私が UC San Diego に行く前からに生体 膜には興味を持っていましたよ。私はまだポスドクを始 める前に、Berkeley で助教授ポジションに応募していま した。それで、ポスドクが始まって6ヶ月もしないうちに、 1 年半後に就くポジションを射止めたんです。その時に 自分の仕事として何をやりたいのか、真剣に考えました。 もちろん、新生児の赤血球にも、ほ乳類細胞にも、顕微鏡 観察技法にも興味はありませんでした。遺伝学と生化学 が使えるバクテリアの研究にどっぷり浸かっていました から、微生物を扱いたかったんですね。他方、細胞生物学 にも影響されて、結局、酵母を扱うことを選んだのです。 大学院生の時、Hartwell の仕事を読み*、またシンポジウ ムで彼に直接会いもしました。それで、彼のアプローチ、 遺伝学的アプローチに魅入られたわけです。 * Leland (Lee) H. Hartwell。出芽酵母を使って細胞周期の突然変異を分 離し、細胞周期の分子遺伝学を拓いた研究者。ある意味、酵母の遺伝学 が細胞生物学のあらゆる分野に適応できることを示した。2001 年、前 述の Hunt そして Paul M. Nurse と共に、ノーベル生理学賞医学を受賞。 San Diego にいる間にかなり文献を調べ、Berkeley に行っ てから何をするかを考えました。といっても、はじめに 考えついたのは分泌に関する突然変異を取る事ではあり ません。私は酵母の分裂隔壁に興味があり、隔壁がどう 形成されるか、隔壁成分であるキチンがどうやってそこ だけで作られるか知りたいと思いました。そこには専用 の分泌小胞が関わるだろうと考えました。しかし、私が 独立して6ヶ月ほどたってから、Peter Novick が大学院生 として私の研究室にやってきてから、invertase の分泌を Randy 、Nancy の結婚の時のピクニックにて。中央でハンバーガーを焼いているのが Bill Wickner で、その右は Jeremy Thorner。 9 調べようと考えつきました。彼はとても優秀でした。酵 私たちは論文を出しましたが、クロム酸のことは書け 母の電子顕微鏡写真を見ると、芽の部分に小胞が見られ ませんでした。正直ではないかも知れません。でも、こ ますが、こうした小胞は、分泌だけでなく細胞膜の供給 れら sec 変異を詳しく観察すると、細胞が大きくならな にも関わっているだろうと予想したんです。だから、分 いのは確かでした。sec 変異は、生体高分子を作り続け 泌を止めてやれば細胞表面の成長も止まって、やがて細 るのですが細胞は大きくなりません。ならば重くなっ 胞は死ぬだろうと。このアイデアを検証するのに最初に て い る だ ろ う、と 考 え ま し た。そ こ で Novick は、acid 試したことは、ほ乳類の細胞で分泌を阻害する薬剤で、 phosphatase を発現する sec1 変異細胞 1 に対して 99 の acid phosphatase を発現しない野生型酵母を混ぜまし た。彼は混合培養液を 37 °C で培養した後、Percoll の密 度勾配に載せて遠心しました。彼がこれを10 の画分に 分け、各々をシャーレに塗り広げたところ、全ての acid phosphatase ポ ジ テ ィ ブ な 細 胞 は ボ ト ム の 画 分 か ら、 acid phosphatase を発現しない細胞はトップの画分から 酵母に効く物があるか調べてみるというものでした。で 4 4 4 4 4 4 も、幸いなことに どの薬剤も効かず(笑)、結局、突然変 異株を取るしかないと考えたのです。 ̶以前、あなたが sec 変異を「重くなった細胞」を集める ことで濃縮した方法に感心したんですが。 Schekman いやいや、それはもっと後です。もちろん密度勾配の話 は、知っていました。New York の Albert Einstein 医科大 回収されたんです。完璧な分離でした。そこで、よし、こ れなら選択に使える、というので彼はこの選択方法を繰 り返し、計220 株の独立の変異株を単離し、23 の相補群 を決定しました。これが1980年の Cell の論文です (3)。 学の Susan Henry という研究者が、イノシトール要求性 株を飢餓状態に置くと細胞は死にますが、こうした細胞 は大きくならず、どんどん密度が上がることを報告して いました。それで、これが分泌の阻害の結果だと考えま した。そこで再現実験をやってみましたが、イノシトー いませんでしたね。 Schekman ルを欠乏させると確かに細胞は死ぬのですが、分泌は止 ええ、全く。私が San Diego でポスドクを始めてから2ヶ まっていませんでした。理由はわからなかったのですが、 月目、George Palade * がノーベル賞を受賞直後に、San 何らかの理由で細胞は増殖を止め、重くなっていたんで Diego であったアメリカ細胞生物学会の年会に来たので す。 す。彼は、Stockholm から直行して特別講演をしました。 一方で、私たちが実際にやったことは、次のような実験 です。酵母を硫酸飢餓状態におくと硫酸輸送体の発現を 誘導するという論文があったのですが、その文献曰く、 硫酸輸送体は酵母にとって有害なクロム酸も誤って取り 込んでしまうというのです。そこで私たちが練り上げた 方策は、まず酵母を変異原処理し、温度感受性となる温 度で培養します。そして酵母をクロム酸に曝すと、硫酸 輸送体を輸送出来る酵母が死んで、そうでない細胞は生 き残るというものです。実際に、これで sec1 が取れまし た。ですが、これは論文になっていません。何故か、お話 しましょう。 はじめ、それは画期的だと思いましたよ。sec1 変異では、 確かに invertase や acid phosphatase が細胞内に留まっ 正直に言うと、これまでこういったスタイルのサイエン スにそれほど魅力を感じていませんでしたし、このとき の学会自身、記述的な要素が強く、当時、みんながメカ ニズムについて考えているとは感じられませんでした。 Palade の講演を、皆、スタンディングオベーションで賞 賛したのですが、言わせてもらえば、沢山の顕微鏡写真 があっただけで、1974年当時、その過程に関わる分子は 何一つ語られていませんでした。 *当時 Yale University の教授。Albert Claude、Christian de Duve 両博士 と共に、電顕観察法と細胞分画法の確立による細胞生物学に対する貢 献で、ノーベル生理学医学賞を1974年に受賞。 ̶それで、あなたは、金鉱を見つけたと確信したわけで ていましたから。しかし、我々は、今一歩戻って、本当に すね。 選択が上手くいったかを確かめようと思ったんです。そ Schekman こで、再構成実験をやったんです。Novick は、クロム酸 存在下、37°C でどれだけの時間処理すれば、野生型細胞 が死ぬかを検討したんです。そこで得られた結果は24時 間でした。24 時間ですよ。そこで、sec1 変異を同条件で クロム酸選択にかけると、当然野生型より効率良く死ん でしまったのです*。結局私たちは、アンチセレクション でこの突然変異を単離してしまったことに気づいたんで す(笑)。それなら、ランダム選択でも上手ゆくだろうと 言うことで、温度感受性株を適当に100 コロニーをとっ 10 ̶この時点では分泌関連因子については、全く知られて そ う で す。 競 争 相 手 を し い て あ げ れ ば、James E. Rothman がいました。私たちが sec1 を論文にするまで に、Rothman は Stanford で独立していましたが、彼は Berkeley にも求職の面接に来ていて、実際、私がホスト でした。それが彼に会った最初ですが、彼の優秀さに驚 きました。私が自分のやっていることを話し始めると、 私の代わりに彼がその結果を言いあててしまうといった 具合でした。結局、彼は Stanford で、私自身がやりたかっ た in vitro 系をセットアップし始めました。突然変異株の て調べたところ、sec2 を見つけることができました。 選別や遺伝学は、私にとって生化学研究へ進むための突 * sec1 変異は制限温度で数時間処理すると、それだけで死んでしまう。 破口でしかありませんでした。私は、別に遺伝学者にな りたかったわけではなかったんです。それで、私は彼が 自分の系をせっせとセットアップするのを見ながら、一 種の嫉妬を感じました。しかし、他の誰も分泌の変異株 を単離することができなかったのも事実です。 当時、本当に他の誰もがトライしなかったかはわかりま せん。しかし私が思うに、いたにしても試した人たちは 分泌の異常が致死であることを考慮しなかったのではな いでしょうか。おそらく、分泌が止っても細胞は生き続 けると、皆考えていたようです。酵母で膜のアセンブリー を研究していた Schatz と、アカパンカビで研究をしてい た Walter Neupert 以外は誰も。確かに、幾つかの微生物 を用いた研究はありましたが、ごくわずかです。私たち がはじめて突然変異を単離した当時、まだ一部の研究者 たちは、invertase が直接細胞膜を透過して細胞外に出る かどうかって議論すらしてましたね。 * Tom Silhavy、Koreaki Ito、Jon Beckwith は、Bill Wickner とともに、大 腸菌の膜透過系の解析における研究黎明期から活躍した大家。大腸菌 で secY 遺伝子を初めて必須遺伝子として同定したのが Koreaki Ito。prl 変異は、大腸菌分泌タンパク質のシグナル配列のサプレッサー変異と して取られたが、そのうち prlA が secY(Sec translocon の中心サブユ ニット)と同じ遺伝子だと判った。なお、Scott Emr は Silhavy のもとで 学位取得後、Randy のもとでポスドクを経験する。 ̶そうやって分泌の研究をスタートして、最大のハイラ イトは何だったでしょうか? Schekman 最大のハイライトは、おそらく 1978 年のはじめだった と思うのですが、Novick が sec1 変異を単離して、それ が invertase と acid phosphatase を細胞内に蓄積するこ とを発見した時ですね。ちょうどその頃、実際には1978 年の5月に Palade が Berkeley を訪れました。私自身の考 えを彼とディスカッションしたのはこの時が初めてで ̶たしか、その時すでに、Sec タンパク質が必須である ことは、バクテリアの系では知られていたと思うので すが。 Schekman 確かに、Tom Silhavy と Emr は大腸菌の分泌に関する prl 変異を分離していましたが、これは致死性変異ではあり ません。これらはシグナル配列のサプレッサー変異です。 だから温度感受性致死の分泌変異を得たのは、私たちが 初めてだったのです。Koreaki Ito(伊藤維昭)が温度感受 性の sec 変異を大腸菌で分離するのは、その後の話とな ります。Jon Beckwith による secA の発見は、さらにその 後です*。prlA は secY の変異であることが後に判るので すが、plrA はサプレッサー変異として同定されたので、 当時、必須遺伝子であることはまだ判っていませんでし た。 した。彼は、私にも丁寧に接してくれましたが、酵母が 糖タンパク質を分泌すると聞いて、驚いたようでした。 知らなかったんですね。そこで私は彼に少しばかり、酵 母が真核生物として動物細胞のような分泌を行う事を 講義しました。そしてその夜、学生たちが準備したパー ティーの際に、Novick が Palade に自分の sec1 について の実験結果を説明しました。すると、Palade は「じゃあ、 ぜひ電子顕微鏡で細胞を見てみるべきだね」と言いまし た。それで、実際に Novick は電顕で sec 変異株を見たの です。今でも覚えていますよ。私は自分のオフィスにい て、Novick は当時研究室のあった Barker Hall の地階にあ る電顕室で観察していました。彼はそこから電話をかけ てきて、すぐ見に来てほしいと言ったのです。地下室の 電顕のスクリーンに映っていたのは、はしかを患ったか のように小胞がぎっしり詰まった酵母の細胞でした。こ れこそ私の研究生活で最も劇的な瞬間でした。この時に、 それからの20年に何をやるべきか悟った気がします。 11 §4「大論争」の功罪 ̶ところで、メンブレントラフィックの分野では、一時、 Golgi 装置における輸送において、小胞輸送モデル vs 胞をほ乳類細胞で見ていますので。例えば、オランダの Judith Klumperman は、ER に結合していない独立した COP II 小胞の明らかな写真を報告しています。 層板成熟モデルの大論争がありましたが、このことに ついてはどうお考えですか。 Schekman 両方のモデルとも、まだ生きていますよ。個人的には、 私はこの論争への深入りを避けてきました。Golgi 装置 内の仕事はしていなかったし。1990 年の Chris A. Kaiser の研究に始まって、私たちは明らかに ER-Golgi 間の輸 送における輸送中間小胞を検出できていました。そし て David Baker がセルフリーの系を構築して、Michael Rexach が順行輸送の基質を含んだ小胞ができること、そ れが輸送系の一部である事を示しました。一部の研究者 は、ER と cis -Golgi の間に物理的な連結経路があると主張 しましたが、そうした事を指し示すデータはごくわずか でした。 幸いなことに、 少なくともCOP II小胞については、 大きく影響するようなことはありませんでした。ただ、 COP I についての状況は複雑です。 ̶そういえば、Jeff Schatz と Walter Neupert はミトコ ンドリアのタンパク質輸送に関する色々なトピックに ついて常に大論争をしていました。なかなか大変な論 争でしたが、一方で非常に刺激にもなりました、 Schekman 確かに、刺激的ですが、全てが建設的というわけでは ないでしょう。とりわけ、conservative sorting と stop transfer については*。詰まるところ、違うタンパク質を 見ていたことからも、二人とも正しかったし、間違って もいたわけですよ。加熱した論争で、Schatz も傷ついた と思うんです。この大論争の時まで、Schatz はよく知ら れていたし、人格の優れた研究者と見なされて、色々な 学会に招かれていた。他方 Neupert は、単にいい仕事を している研究者というだけだった。Neupert は、優れた てはいたんですが、並外れた個性を持った研究者と見な されていたわけではなかったと思います。しかし、両者 ̶COP II については、特に問題はなかったと。 Schekman なかったですね。一部の研究者、Alberto Luini と彼の同 僚 の Alexander Mironov は、小 胞 は 存 在 し な い と 言 っ ていますが、彼らの主張に耳を貸している研究者が多 いとは思いません。他の研究室では、独立した COP II 小 が論争を始めると、二人が講演をするあらゆるシンポジ ウムは満員で、私の感じでは、Neupert は以前に比べて だんだん注目を浴びるようになった気がします。ですか ら、この論争は、Schatz を心理的にも傷つけたんじゃな いかと思うんです。 *ミトコンドリアの内膜への膜タンパク質の仕分けについて、一旦、マ トリクスまで輸送された中間体が、原核生物由来の膜透過・ 組込み 装 置 に よ っ て 再 度 膜 挿 入 さ れ る と い う conservative sorting 機 構 を 2013 年 10 月 7 日、ノーベル賞受賞を祝っての研究室の記念写真。みんな口ひげを着けての乾杯。 12 Neupert が、内膜に膜貫通領域が挿入された時点でそれが stop transfer 配列として働き、内膜の膜透過装置からそのまま内膜に放出されると いう stop transfer 機構を Schatz が主張して、何報もの反証論文の応酬 となる大論争となった。現在では,当時論争の対象となった「bipartite」 な局在化シグナルをもつ基質については、stop transfer 機構が正しい ということで落ち着いているが、広い意味では conservative sorting 的 な内膜への組込み経路もあると言えるという状況である。 ̶あなたの場合はどうでしたか?そうしたストレスを感 じるような論争はなかったのですか? Schekman 確 か に、Rothman と は 競 合 関 係 に あ り ま し た ね。 coatmer(COP I コート複合体)が ER からの物質輸送に関 きたわけですが、だからといって、酵母に乗り換えてき た Neupert を責める気にはなりませんね。もともと同じ 事を、違った微生物を対象として研究していたに過ぎま せん。二人とも優秀ですからね。二人が論争をしている のを見るのはつらかったですね。 今になって思えば、私にも責任がないとは言えません。 私と Bill がサバティカルで Schatz 研に滞在していたとき、 Schatz と Neupert が情報交換しないのは非合理的だ、一 緒に研究室セミナーをしてはどうかと進言しました。事 実、かれらはその後何度かそのような機会を持ったよう です。合同セミナーを行った結果、とうとう二人は同じ ような対象を研究することになってしまったんです。そ 与するかについては、一時、意見の不一致がありました。 の意味で、状況を悪くしてしまいました。二人とも、研 Rothman は、coatmer は ER から Golgi への輸送を含むあ らゆる輸送に関わると主張しました。私たちも coatmer サブユニットの変異である sec21 が ER からの物質輸送全 ルを見るのはつらかったですよ。 般を阻害することを知っていました。しかし、これはリ サイクリングの停止による二次的な影響だったのです。 あ る 年 の Molecular Membrane Biology の ゴ ー ド ン 会 議で、私たちは小胞形成アッセイで慎重に調製した輸送 究者としては本当に優れているので、両者の過剰なバト ̶それで、もう、合同のセミナーはやめちゃったんです ね。 Schekman 小胞画分のイムノブロットのデータを紹介し、そこには やめてしまいました。おそらく、あまりにも緊張感が高 coatmer がないことを示しました。ER からの小胞形成の 必須因子に coatmer は含まれないと主張したんです。こ れが Rothman を心底、苛立たせたようです。怒った彼は、 何度かやりましたが、結局、競争関係にあるときには必 かったのでしょう。私と Rothman 研でも合同セミナーは ずしも良いものではないことが判りました。 講演の後に私をホールの隅に連れていって、 「おい、君ね。 これじゃNeupert が Schatz を討った時の論争と同じじゃ ないか!」と詰め寄ったんです。しかし勿論、こちらの 方が正しく、彼が見ていた物は coatmer ではなかったん です。詰まるところ、coatmer ではなかったけれど、別の coat(COP II coat)ではあったんです。 1990 ∼91 年の間に、私たちは小胞形成と小胞の標的化 に関わる遺伝子群を、遺伝学的相互作用解析と形態観察 で明らかにしました。この間、Rothman との不要なバト ルを避けることができたのは、私の元から独立した Emr が SEC18 のクローニングと配列決定を行い、Rothman が精製してクローンしたほ乳類の NSF(NEM-sensitive factor)と相同遺伝子であることを明らかにしたからで す。それで、自分たち二人が同じものを解析しているこ と、お互いにいがみ合っていても無益であることを悟っ たんです。実際にこの後で、Kaiser が SEC17 をクローニ ングし、これが α-SNAP と相同遺伝子だった時には、私た ちは一緒に論文を出しました (4)。そして、1993年に一緒 に賞をもらい*、これ以降、彼とのつきあいはかなり良く なりましたね。 *1993年の Lewis S. Rosenstiel Award の共同受賞。 §5 今なお新しい分野へ! ̶それでは、あなたの研究室の最近の研究について伺い たいと思います。新しい方向に研究を進めておられま すね。 Schekman お話ししましょう。十年ぐらい前、私は Howard Hughes Medical Institute(HHMI)に 招 か れ て、Alzheimer 病 の 基礎研究に関する会議に出席しました。当時私は、全 然 Alzheimer 病 を 研 究 し て い な か っ た ん で す け ど ね。 主催者は私に、基礎研究の関与についての展望を求め た の で す。お そ ら く、amyloid 前 駆 体(APP)の 輸 送 と γ-secretase への露曝に関して、小胞輸送が関わっている と考えたためでしょう。私もかなり刺激を受け、帰る道 すがら、これをネタに新しい展開が開けるのではと、結 構エキサイトしました。2つ取るべき道がありました。1 つは APP と γ-secretase を酵母で発現して in vivo で調べ ることでしたが、これはそれほどいい案だと思えません でした。酵母とヒトはかなり違うので、目論見通りの輸 送経路を採らない可能性があったからです。むしろ、も う1 つの道、セルフリー系を動物培養細胞で構築してそ ̶あなたは酵母を研究し、かれは動物細胞を研究してい たいので、どちらかと言えば、補完的とも言えますね。 Schekman そうですね。Neupert は最初はアカパンカビを研究して いて、やがて Schatz がやっていた酵母の研究に参入して れを使う方が、もっと自然だと考えたんです。ちょうど その時、韓国からポスドクが私の研究室にやってきまし た。Jinoh Kim です。彼は、果敢にこの問題に挑戦しまし た。彼は、培養細胞を扱うことからはじめ、小胞形成反 応を立ち上げることができ、APP や γ-secretase を含んだ 小胞の形成を解析しました。これは非常に上手く行き、 13 彼の努力のおかげで、研究室に加わる新メンバーはみな、 ほ乳類細胞をやりたがるようにさえなったのです。 同じようなことが過去にもありました。私が Berkeley で ラボを立ち上げた時、私は遺伝学をやっていましたし、 ̶しかし、自分の研究室で走らせられる全く新しいプ ロジェクトを、そうそう簡単に思いつけるのはなぜで しょうか?実現可能なプロジェクトを考えつくとなる と大変なものでしょう? 生化学などに一切、耳を貸さない連中と研究を進めてい Schekman ました。私はポスドクが来る度に、何らかのセルフリー 私は膜のアセンブリーや膜輸送は熟知していますが、こ 系のセットアップを考えるよう仕向けました。しかし、 の細胞活動は、色々な分野に関連していると思うのです。 Emr などは興味すら示しませんでしたね。 実際、exosome は膜輸送の一形態と言えますし、オート そして、やっと David Baker がラボにやってきて、生化学 的解析系が動き、研究室にやってくる新人が生化学をや りたいと言うようになりました。生化学的な系が実際に 動いていたからですね。同じ事が、培養細胞でも起こった のです。あの時 HHMI は、加わっている研究者に、何か新 しいことを始めさせたかったんだと思います。今や、私 の研究室には酵母をやっている人間は1人しかいません。 ファジー、隔離膜形成は、膜アセンブリーの一形態だと 言えます。それで、今までやってきた生化学的解析はこ うした分野に適用可能だと、確信できるのです。他人の やらないことをやりたいということもありますね。先に 進んでいる研究者を後から追いかけて追い越すなんて、 決してしたくない。私は、ほとんどの研究者が手を出さ なそうなセルフリーの再構成反応を取り上げてきました が、それは自分には、そのプロジェクトを推進し、それ ̶なんと1人だけですか。しかも、あなたは最近、オート ファジーにも手を出していますね。 Schekman そうです。数年前、私は、全く新しいことをスタートしよ うと思いつきました。ちょうど Liang Ge が、新しく上海 からやってきました。彼とは Skype でインタビューしま した。彼はインタビューを受けるための入国ビザを取れ なかったので。彼はすごく印象的でしたね。インタビュー の最後に、何がやりたいのか聞いたんですが、彼は、 「正 直にいうと、現在そちらの研究室で動いているプロジェ クトに面白そうなものはない。」と答えたのです(笑)。し かし、彼が非常に優秀なのでぜひ採りたかった私は、じゃ あ、オートファジーの研究はどうかって聞いたんです。 ちょうど、まだどうやって膜が供給されているかについ て議論があったところで、彼は、それは面白そうだと答 えました。それで彼は、オートファジーに関係する因子 を含んだ小胞の形成を測定する、小胞形成反応を組むこ とになりました。しかし、上手くはいきませんでした。と ころが、彼は、カップ状の phagophore(隔離膜)形成に 関わる LC3の脂質化を検出するというアイデアを思いつ きました。これが案外上手くいったのです。彼のおかげ でこのプロジェクトは花開きました。また、彼の奥さん もオートファジー関連の研究をやっていて、面白くなり そうです。 次に、今日(細胞生物学会のプレナリー講演で)話そうと 思っている話題が、これも新しい話題ですが、exosome についてです。私の研究室に、ガンを研究しているラボ にいたので exosome 研究に多少とも経験があったすば らしい大学院生がやってきました。私は、exosome、特 に exosome がどうやって作られてどうやって RNA を取 り込むかに興味を持っていたので、彼にそのことをやっ てもらうことにして、成果が出てきました。私の研究人 生は、今の時点でも、まだまだ違う展開が出来そうです。 をやってみようと学生を仕向けるだけの十分な経験と自 信があったからとも言えます。 ̶どうやって大学院生やポスドクに、自分たちがやって いることが正しいことを確信させているのですか? 例えば、再構成が非常に難しいと、なかなか結果がで ませんね。最後にそれができれば、そこで初めて確信 できるのですが、それまでポスドクが確信し続けられ るとは、なかなか思えませんよね。 Schekman 大学院生は、大抵言うことを聞きますね。でも、ポスド クは、ずっと保守的です(笑)…Liang Ge は怖いもの知 14 らずでしたが。私も、研究室をはじめて数年間はけっこ う大変でしたよ。研究室のメンバーに何らかの Sec タン パク質の機能を再構成させるのは、失敗続きでした。し かし、徐々に上手くいくようになりました。1人のポスド クは、私たちが取った一部の sec 変異は、translocation に異常があるに違いないと思っていたのですが、それら は結局糖鎖修飾に問題があったのです。sec53 と sec59 です。それでフランス人のポスドク(François Kepes) が、Sec53 は phosphomannnomutase であることを、セ ルフリー系を使って生化学的に証明したんです。そし て、私たちの Golgi への輸送の再構成系にとっての本当 のブレークスルーは、Peter Walter の post translational translocation のシステムで α-factor という分泌タンパク 質を ER に導入できると考えたことです。これは Baker の アイデアです。それでご存じのように、α-factor が Golgi へと運ばれることを in vitro で見ることができるように ̶しかし、この10年、20年で、学生の行動というか態度 は変わったと思いませんか? Schekman いいえ。よくそう言われますが、私は信じませんね。以 前だって、臆病な学生はいましたし、今でもいますよ。 逆に、今でも過去の Baker みたいに怖いもの知らずの学 生はいます。学生気質の変化ではなく、個人の問題です。 今日の午後お話しする仕事は、すばらしい学生による仕 事ですが、私は、彼にこれをやるように仕向けることが できました。君なら exosome の生合成を測定するセル フリー反応をセットアップできるってね。彼があれこれ 試みる間、私たちは上手くゆきそうな方法にいろいろ思 いつき、それを試す中で本当に上手くいく方法を突き止 めることができました。彼は、いわば「改宗者」です。自 「何でも再構成 分の in vitro 系が上手く行くことを見て、 できる」って悟りに至るんです。私には、自分のところで 何ができるかを、研究室の連中が目にするだけの十分な 実績がありました。だから皆、自分に与えられた再構成 も上手くいくだろうって信じるんです。そして、好都合 なことは、ほかの殆どの研究者はとても保守的でそんな ことは試しもしない。あとは、学生をプッシュするだけ、 単に背中を押すだけです。 ̶私(吉久)は、あなたの研究室の雰囲気は、非常にオプ ティミスティックだと感じました。あなたは、全ての 細胞内の反応は再構成可能だと仰いました。おそらく そうした信念は、あのオプティミスティックな雰囲気 の中で,若いメンバーに簡単に受入られたんだと思い ます。 Schekman しかし、ポスドクはなかなか保守的で、大概の大学院生 の方がずっとうぶで、説得されやすい(笑)。 私は、まだ若い頃から、自分は Kornberg みたいにはな れないと思っていました。自分は、相手に高いものを求 め、厳格に振る舞うことはできないと。それで、私は、目 的に対して常に情熱を持ち、何かが上手くいったならそ れ自身エキサイティングなことだと考えるようにしてき なったのです。 私の信条は、基本的には Kornberg 研で身についたもの ですが、細胞内で起こることは何でも in vitro で再構成で きるというものです。これは単に私の信条というだけで、 必ずしも皆が共感するわけではないでしょう。ふつう、 単なる細胞の抽出液を目の前にしたら、それで一体何が できるのか、って心配になりますよね。しかしもし、あ なたが別の似たような再構成系が上手く動いていること を目の当たりにしていれば、自分の系も上手くゆくだろ うと思うことができますよね。 ました。ラボの若い人たちをそうやって説得してきまし た。確かに一部の諸君は簡単に説き伏せられますが、別 の諸君はそうはいきません。そして、どんな人間もすば らしい研究者に変えられるわけじゃありません。一方、 Kornberg のスタイルは結果として成功しました。彼と 研究している人間は、皆、しゃにむに研究していました。 それで、Kornberg は自分の研究室にいる人間全てを生産 的に保つことが出来ました。しかし多くの人間は彼の研 究室を出た後、発破をかけてくれる Kornberg がいない ところではダメになってしまったんです。 私が Kornberg 研にいたとき、2年年長の大学院生がいま したが、彼は信じられないほどの腕前、まさに「黄金の 手」を持っていました。彼がやることなすことすべては 15 目を見張るもので、Stanford は彼を助手として採用しま e-mail のない時代でしたから、彼に手紙を書いて、 「幸い した。でも,彼がポスドクから帰ってきた後、彼は完全 なことに、Schatz 博士が福岡に行くので、その会議に君 に失敗しました。彼の背後には、もはや指示を出してく が出席するなら面接しようと言ってくれている。仮に同 れる Kornberg がいなかったからです。彼は、以前こんな じ会議に出なくても、福岡まで出向くことはできるだろ ことを言いました。 「私はここで教師をやっているんじゃ う。」と伝えました。ところが、私がその手紙を送った後、 あない。私は、優れた研究が確実に進むためにだけ、こ 日本人の同僚から、福岡までは新幹線で6 時間もかかる こにいるんだ」と。 実際、それで研究室の運営は上手くゆくわけですが、そ うした方針でやり抜くには、それなりの性格が必要です。 私には、無理です。だから私の研究室では、回りから励ま されたにしても、自分でのめり込める人間が成功し、そ うできない輩は失敗するという訳です。一時期、私のラ ボでも、メンバーが自分でのめり込むことができなくて、 何もかも上手く行かないと感じることがありました。私 は今、世界中を飛び回ってはいますが、非常に幸運なこ 「やっぱりかなり遠いよ と聞いたんです。すぐに Aki に、 うだから、わざわざ行かなくてもいい。」と手紙を送った のですが、後の祭りです。後で、Aki は手紙でこう書いて きました。 「いえいえ、Schatz 博士にお会いできたのは光 栄で、非常にすばらしい時間を過ごせました。良い印象 を持っていただいたと期待しています。ただ、正確に言 いますと、新幹線で6時間ではなく7時間かかるのです。」 と(笑)。これは、うちにぴったりの人間だと思いました ね。 とに、現在のこの瞬間、私のラボはとてもすばらしい状 態です。自発的にやってやろうという心持ちになってい るだけでなく、お互いに刺激しあえる連中が沢山いるか らです。私のラボはずっとそうだったのかもしれません。 思うに1985 年前後でしょうか、研究室の絶頂期は。Ray Deshaies がいて、Baker がいて、Kaiser もいて、私がすべ きことは、単に彼らを邪魔しないように、自分のオフィ スに籠もっていることでした(笑)。 §6 優れた研究の発表の場を 研究者の手に取り戻そう! ̶少し話題を変えましょう。雑誌の編集活動についてお 伺いします。いま、eLife の編集長をやっておられま すね。どうして eLife が必要だったのか。既存の雑誌、 MBoC や PNAS 、をリノベーションすることもできた と思うのですが、あなたは、新しい雑誌を作り上げた。 ̶(吉久)確か、あなたが実験室にやってくるのは、い つも冗談を言うのにやってきたような気がするのです が。いまでも、研究室にジョークを言いに? Schekman 勿論、ジョークは大好きですし、発表するときには必ず ジョークを入れます。実を言うと、長い間、セミナーな どの前には、けっこう、神経質になっていましたよ。気の 利いたジョークが言えると、自分自身も聞き手もリラッ クスできるんです。 Schekman 確かに、沢山の雑誌がありますが、現に動いている雑誌 を変えるのはとても難しい。私は PNAS の編集長を5年間 務めました。PNAS は、私の研究人生にとっても大切な 雑誌でした。私は最初の sec 変異の論文も PNAS に発表 しましたが、今でも、あれが最高の論文だったと思って います (5)。しかし、だんだん多くの人が、様々な理由か ら、自分たちの最も優れた仕事を Cell 、Nature 、Science といった雑誌やそのクローン誌にだけ投稿しようとする ようになりました。私もそうでした。ここ10年程の間に、 こうした傾向は一種の中毒になりましたね。こうした雑 ̶ラボではとても大切な事ですね。ジョークで、自分自 身、そして、みんなをリフレッシュさせるのは。Aki(中 野明彦)が以前、あなたは、冗談の判るポスドクしか採 らないと言っていましたが、本当に、ジョークの苦手 なポスドクは取らなかったのですか? Schekman まさか。でも、Aki について面白いお話をしましょう。彼 こそうちに相応しいと思うに至った逸話です。彼は、ちょ うど私が Schatz の所にサバティカルに行っているとき に手紙をよこして、うちの研究室に来たいと言ったので す。ただ、どうやって彼を面接するか困っていたところ、 Schatz がちょうど日本の福岡の学会に招待されて基調 講演をすることになっている、と言うんです。その時 Aki は東京にいましたが、Schatz は私の代わりに福岡で彼に 会ってみようと言ってくれたのです。そこで私は、当然 16 誌は、あまりにも上手いブランド化に成功し、インパク トファクター(IF)を高める技術を身につけ、政府の官僚 にも取り入りました。私たちはというと、IF という愚か な数字に魅入られ、結果として、自分たちの権威を職業 的編集者に譲り渡してしまいました。別に、彼らの決定 は必ずしも私たちの求めるものではないのにです。どう してこうなったのでしょう。科学をやっているのは私た ちなんですよ。 Wellcome Trust、Max Planck Institutes、HHMI といった 強力な研究支援財団の代表たちですら、こうした雑誌が あたかも神か王さまのように振る舞うために、彼らが支 援している研究者たちがこれはベストの結果だと思う研 究内容を発表するのに苦労する現実を目の当たりにし て、困惑していました。そこで、最高の研究を発表する ための支配権を、職業編集者からアクティブな科学者の 手に取り戻す必要があると考えたのです。私自身、PNAS をやっている時分に、IF の弊害にさんざん振り回されま した。おまけに、アカデミーのメンバーなら何でも掲載 できる特権があると考える連中とのやり取りにもうんざ りしました。それで、新しくやり直したいと思ったので す。 (前述の)財団の人々はけっこうな金額を喜んで投資 してくれました。研究者が、自分たちの優れた研究成果 を自分たちの手で発信するために、彼らも真 な努力を してくれました。最低でも、優秀な科学者たちが決定権 を持ち、むやみに商業的な利益に左右されることのない、 今までとは違った場所を提供しようと。 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 ̶ポイントは、編集者が科学者であることですか? Schekman まさにそうです。それは重要なポイントの1つです。そし て、IF は見るべきでも、口の端に上らせるべきものでも ありません。実際に私たちは、IF を算出する連中に、自分 たちは IF に興味がないのでそっとしておいて欲しいし、 eLife には IF なんて欲しくない、と書面で通知をしてみま した。しかし返事には、 「不可能です。IF は公の統計です から、こちらでは粛々と算出するだけです」とありまし た。 ご存じの通り、Nature や Cell は、雑誌を売るビジネスを 4 4 4 4 している んです。そして、Cell や Nature やその姉妹紙の 編集者たちは、自分の担当している雑誌の IF に応じて昇 ̶eLife は査読システムも独特ですね。 進するんです。そして IF は、その分野で大きな反響を生 Schekman む論文を載せることで決まるんです。ですから、Nature が STAP 細胞の論文を掲載して良かったと考えても当然 なんです。実際ものすごく注目を浴びましたから。つま りね、公式には「こうした論文を掲載したことを遺憾に 思う」と口にしていますが、 けてもいいですが、これ らの論文で IF は絶対に上がったはずですよ。この論文が 元で日本に起こったことをご覧なさい。どれほどのトラ ウマとなったか。 誰も、Nature について、この点を指摘しません。しかし 確かに違います。雑誌を始める前に、Janelia Farm *で大 がかりな会合を持ちました。沢山の関係者がやってきま したが、PLoS の創設者の一人である Harold Varmus も来 ていました。彼はその時こう言ったんです。 「いいですか。 もし新しい雑誌を始めるなら、何か新機軸を出すべきで す。他と同じような雑誌であってはいけません」と。そ れで、この査読方式を考え出したんです。 *2006年にオープンした、Virginia 州にある HHMI の研究施設。施設の美 しさでも有名。 私は、これらの雑誌が研究者たちの成果を誤った先入観 で伝え、誇大に宣伝し、実物より特別な物に見せかける ように仕向けている点は、強く糾弾します。Cell もです。 ̶査読者は、査読者間では匿名ではないですよね。 Science も同じく問題ですが、彼らは必ずしも IF を売り Schekman にはしていませんし、それが悪い影響を与えうることだ そうです。何人かの研究者は、査読者間で相談するのは けは認めています。 良いが、匿名ではあるべきだと反対しました。しかし、私 2014 年 7 月 31 日のノーベル賞記念シンポジウム前日の Schekman 博士自宅でのガーデンパーティーにて。編者と同期の仲間たちと。Schekman 博士の右は、 Charles Barlowe 17 はそうは思いません。わたしは、査読者がお互いに公平 は、被引用数の中央値では無くて平均値を使っているか でなければならないこのシステムは、良いものだと思っ らですよ。Nature の IF が高いのは、ごく少数の論文が非 ています。 常に何度も引用されているからで、殆どの論文の被引用 もし、面の割れている同僚に対して自身の査読評価を述 べるとしたら、それは学会でその人たちとディスカッ 数はそれほどでもありません。つまり、IF という数字は、 統計的にゆがめられた数字なのです。 ションしているようなもので、分別を持って振る舞うわ けです。このことは特に、その投稿論文についての議論 が沸騰したときに重要となります。 私は、自分の時間のかなりの部分をこの仕事に割いてい ますが、自分がやっていることは、優れた科学者の運営 している他の雑誌から論文を奪っているのではないかと 心配になることはあります。知っての通り、JBC への投 稿は減っていますし、JCB もそうです。PNAS はどうにか やっていますが、このままいけるとは思いません。 ̶で、その間、あなたの雑誌の IF は伸びてゆくと(笑)。 Schekman 気にはしてませんけどね。午後お話ししますよ。まがい物 の数字です。帽子からランダムに取り出した番号札みた いな物です。科学者が、小数点以下3桁もあるような数字 を当てにしますか?データって、それほどの精度ないで すよね。小数点以下3桁までどうして必要なんでしょう。 ̶数年前、Acta Crystallographica の IF が一度だけ急騰 したことがありますよね*。 * Acta Crystallographica Section A の IF は普通2.0 ∼2.5 だが、2009 年に 49.9を記録している。これは、2008年に掲載された G. M. Sheldrick によ るたった1報の論文のためである。結晶学で構造決定に必要な SHELEX というプログラムについて書かれたものだが、他に適当な文献が無い ため、同プログラムを使った論文では必ず引用されることとなり(一説 には2014年現在で43,000件の被引用数があるとか)、この一報で IF が跳 ね上がった。 Schekman たった1報のせいですよ。それで、昨年 Philadelphia でこ のやっかいな連中と会合を持ったんです。そして、彼ら に中央値ではなく平均値で計算するのは何故だって迫っ たんです。何らかの統計学的な正当性を主張すると思っ ていたんですがね。担当の女性は、 「これが今まで認めら れてきたやり方で、これを変えようとすると混乱を招き ます」って答えたんです。それはそうでしょう。彼らの ビジネスプランには混乱を生じるでしょうよ。彼らは、 こうしたデータを売って ̶序列づけのためですね。 Schekman: それ以外ありません。小数点以下を切り上げたら、同点 になってしまう。それがいやなんです。それで、彼らは細 かく計算しているんです。こうした序列を生み出すには 全く不適切な計算に基づいた値をね。どうして、Nature のような雑誌の IF がこんなに良いかご存じですか?それ 18 けているし、私たちはそれを 買っている、これが間違いです。 §7 若い人へ ー他人と違ったことをやりなさい。 リスクを取ってでも。ー ̶最後になりますが。日本の若い世代に一言アドバイス をいただけないでしょうか。日本の若い人たちは、だ です。何時どこで若い人に会っても、私がするアドバイ 野に進もうとしない。困ったことです。 繰り返すな。」です。 んだん、保守的になってきています。あまり、学術の分 Schekman ああ、アメリカでも同じです。人は誰も、自分が進むべ き道について決断をしなくてはなりません。うちの大 学院生やポスドクも、バイオテク企業に行く者が増え る傾向にあります。一つには、彼らがベイエリア(San Francisco 近辺)に住み続けられるからです(笑)。そうす れば、彼らは家族を持てると信じています。そうとも思 えませんがね。しかし、アカデミアに残ろうとすると選 択の余地はありません。だれもが研究者になれるわけで スは、 「何か人と違ったことをやりなさい。同じ事ばかり ̶違ったことをするとは、自らリスクを取ることでもあ りますね。 Schekman 自らリスクを取る、全くその通り!科学者を目指すこと は、リスクに挑むことです。それをしなきゃならない。 もしあなたが科学を愛していて、生命科学をやりたくて、 でも、リスクを冒したくないなら…、医者にでもなるの が良いでしょう、っていつも言ってますよ(笑)。 はありませんが、もし研究機関で研究する科学者になろ うと決心したならば、リスクを冒して進むべきですね。 これは大問題です。日本だけでなく、アメリカでも。誰 ̶本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。 かが私の研究室を離れる時、私は彼らに何か違ったこと をやりなさいと言います。同じ事を繰り返しやり続ける んじゃないと。大学院で学んだことやポスドクで身につ けたことを合わせて考えて、そこから別の方向に向かう んだと。 私は Kornberg 研ですばらしい経験をしました。でも、そ こを離れた後、Kornberg の影の元に居たいとは思いませ んでした。彼は影響力を持った人物でしたから、DNA 複 製の研究を続けることもできたんです。多くの大学院生 やポスドクはそうしましたし、けっこうな連中が関連し た研究で成功しました。でも、自分は自分自身でありた かったし、だからこそ違ったことをしたかったんです。 後悔などしていません。とても優秀な人間が、私の研究 室を離れても同じ事を続けなければならないと感じる、 というのは本当に困りますね。けれど、人柄の問題です から、ある人にはできますが、別の人間には無理なんで すね。日本だけでなくアメリカでも、普通の人は保守的 文献 (1) Transfer of proteins across membranes. I. Presence of proteolytically processed and unprocessed nascent immunoglobulin light chains on membrane-bound ribosomes of murine myeloma. Blobel G, Dobberstein B. (1975) J Cell Biol 67:835-851. (2) Transfer of proteins across membranes. II. Reconstitution of functional rough microsomes from heterologous components. Blobel G, Dobberstein B. (1975) J Cell Biol 67:852-862. (3) Identification of 23 complementation groups required for posttranslational events in the yeast secretory pathway. Novick P, Field C, Schekman R. (1980) Cell 21:205-15. (4) The yeast SEC17 gene product is functionally equivalent to mammalian α-SNAP protein. Griff IC, Schekman R, Rothman JE, Kaiser CA. (1992) J Biol Chem 267:12106-15. (5) Secretion and cell-surface growth are blocked in a temperaturesensitive mutant of Saccharomyces cerevisiae . Novick P, Schekman R. (1979) Proc Natl Acad Sci U S A 76:1858-62. , t n e r e f f i gd n i h t e nk. a m r o c s e o h t D rn u t t s u j t n’ do 19 Research: シロイヌナズナCGS1 遺伝子における 翻訳停止とmRNA 分解機構の研究 内藤 哲 北海道大学・大学院農学研究院 教授 http://www.agr.hokudai.ac.jp/arabi/(旧サーバーより移行中) シロイヌナズナ CGS1 遺伝子は高等植物におけるメチオニン生合成の ■ 代表的な論文 とな る段階を触媒するシスタチオニンγ - シンターゼ(CGS)をコードする。CGS はアロステリック酵素ではなく、CGS1 遺伝子の発現は、メチオニンの代謝産 物である S - アデノシルメチオニン(SAM)に応答した(13)翻訳伸長の一時停 止(翻訳アレスト)と(9)、これと共役した mRNA 分解(2、7、8、12)によって フィードバック制御される(15)。翻訳アレストには、MTO1領域と名付けた十 数アミノ酸残基の領域がシス配列として機能し(14)、翻訳アレストと mRNA 分解はコムギ胚芽試験管内翻訳系で再現される(13)。翻訳アレストは MTO1 領域直後の Ser-94 コドンで起こり、Ser-94 までを翻訳したペプチジル -tRNA が蓄積するが、やがて翻訳は再開される(9)。リボソームが転座前の段階にあ るときに翻訳アレストが引き起こされ、ペプチジル -tRNA は小サブユニット の A 部位を占める(9)。このとき、MTO1領域を含む新生鎖はリボソーム出口 1. Yamashita Y, Kadokura Y, Sotta N, Fujiwara T, Takigawa I, Satake A, Onouchi H, *Naito S Ribosomes in a stacked array: Elucidation of the step in translation elongation at which they are stalled during S-adenosyl-L-methionine-induced translation arrest of CGS1 mRNA. J. Biol. Chem ., 289, 12693-12704 (2014). 2. Yamashita Y, Lambein I, Kobayashi S, Onouchi H, Chiba Y, *Naito S A halt in poly(A) shortening during S-adenosyl-Lmethionine-induced translation arrest in CGS1 mRNA of Arabidopsis thaliana . Genes Genet. Syst ., 88, 241-249 (2013). 3. *Chiba Y, Mineta K, Hirai MY, Suzuki Y, Kanaya S, Takahashi H, Onouchi H, Yamaguchi J, Naito S Changes in mRNA stability associated with cold stress in Arabidopsis cells . Plant Cell Physiol ., 54, 180-194 (2013). 4. Onoue N, Yamashita Y, Nagao N, Goto DB, Onouchi H, *Naito S S-Adenosyl-L-methionine induces compaction of nascent peptide chain inside the ribosomal exit tunnel upon translation arrest in the Arabidopsis CGS1 gene. J. Biol. Chem ., 286, 14903-14912 (2011). 5. Murota K, Hagiwara-Komoda Y, Komoda K, Onouchi H, Ishikawa M, *Naito S Arabidopsis cell-free Extract, ACE, a new in vitro translation system derived from Arabidopsis callus cultures. Plant Cell Physiol ., 52, 1443-1453 (2011). 6. Tanaka M, Takano J, Chiba Y, Lombardo F, Ogasawara Y, Onouchi H, Naito S, *Fujiwara T Boron-dependent degradation of NIP5;1 mRNA for acclimation to excess boron conditions in Arabidopsis . Plant Cell , 23, 3547-3559 (2011). トンネル内で縮んだコンフォメーションをとるとともに、26S rRNA において もコンフォメーションもしくは新生鎖との相互作用が変化する(4)。また、翻 訳アレストしたリボソームに後続のリボソームが9コドン間隔で追突し、各リ ボソームの5' 端付近で mRNA 分解が引き起こされる(1) 。 本研究は、これらの知見に着目して、(i) SAM がいかにして翻訳停止を引き 起こし、(ii) 翻訳停止がいかにして mRNA 分解につながるのかを明らかにしよ うとするものである (i) SAM は翻訳アレストにおいて、どこにどのように作用しているのか? ・SAM は CGS1 mRNA を翻訳中のリボソーム・新生鎖複合体に、いつ作用す るのか。 ・ 出口トンネル狭窄部位を構成する L4と L17タンパク質に変異を導入した トランスジェニック・シロイヌナズナを用い、シロイヌナズナ試験管内翻 訳系(5、11)を用いて解析する。 ・MTO1領域のアミノ酸置換の効果に着目して MTO1領域の機能を考察する。 (ii) SAM に応答した CGS1 mRNA 分解は、no-go decay(NGD)よるものか? ・mRNA 品質管理に関与する因子の変異の効果を解析する。 ・NGD で明らかになったタンパク質の品質管理との関係を解析する。 7. Onouchi H, Haraguchi Y, Nakamoto M, Kawasaki D, Nagami-Yamashita Y, Murota K, Kezuka- Hosomi A, Chiba Y, *Naito S Nascent peptide-mediated translation elongation arrest of Arabidopsis thaliana CGS1 mRNA occurs autonomously. Plant Cell Physiol ., 49, 549-556 (2008). 8. Haraguchi Y, Kadokura Y, Nakamoto M, Onouchi H, *Naito S Ribosome stacking defines CGS1 mRNA degradation sites during nascent peptide-mediated translation arrest. Plant Cell Physiol ., 49, 314-323 (2008). 9. Onouchi H, Nagami Y, Haraguchi Y, Nakamoto M, Nishimura Y, Sakurai R, Nagao N, Kawasaki D, Kadokura Y, *Naito S Nascent peptide-mediated translation elongation arrest coupled with mRNA degradation in the CGS1 gene of Arabidopsis . Genes Dev ., 19, 1799-1810 (2005). 10. Yoshii M, Nishikiori M, Tomita K, Yoshioka N, Kozuka R, Naito S, *Ishikawa M The Arabidopsis cucumovirus multiplication 1 and 2 loci encode translation initiation factors 4E and 4G. J. Virol ., 78, 6102-6111 (2004). ■ 総説 Yamashita Y, Onoue N, Murota K, Onouchi H, *Naito S Translation elongation arrest induced by S-adenosyl-Lmethionine-sensing peptide in plants. In Regulatory Nascent Peptides , Ed. Koreaki Ito, 187-201, Springer (2014). 20 Research: 1分子計測による SecMの翻訳アレスト機構の解明 船津 高志 東京大学・大学院薬学系研究科 教授 http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~funatsu/ 翻訳の制御は、生命活動の根幹に関わる重要なプロセスである。最近、新た な遺伝子発現制御機構として、 「翻訳アレスト」と呼ばれる現象に関心が寄せ られている。 SecM は、その C 末端に翻訳アレストを誘起する配列(アレスト配列)を有し ており、これが翻訳されると、リボソームトンネル内で C 末端配列の構造変化 が誘起され、翻訳が停止する。SecM の翻訳アレストは、Sec 膜透過装置が翻訳 途上の SecM を物理的に引っ張ることで解除されると考えられている。しかし この一連の機構には、検証されるべき問題が多数残されている。本研究では、 以下の2つの問題に取り組む。 ① 翻訳アレストにおけるリボソーム外の新生 SecM 鎖の役割の解明 アレスト配列により引き起こされる翻訳アレストは一時的なものであり、 安定的な翻訳アレストはリボソーム外の新生 SecM 鎖がリボソームと相互作 用によりもたらされる結果を得ている(PLoS ONE, 2015)。アレスト配列の上 流の構造を改変したコンストラクトの翻訳アレスト能およびその安定性を評 価することにより、翻訳アレストにおけるリボソーム外の新生鎖の役割を明 らかにすることを目指す。また、翻訳アレストを安定化する領域・部位の特定 を行う。 ② 翻訳アレスト解除の1分子力学測定 先に述べたように、SecM の翻訳アレストは、Sec 膜透過装置が翻訳途上の SecM を物理的に引っ張ることで解除されると考えられている。光ピンセット を用いて、SecM による翻訳アレストの力学的な解除を1分子レベルで実証す る。また、流体力学的に力を印加するシステムを利用して、同時に多数の翻訳 アレストに負荷を印加し、翻訳アレストの力学的特性を解き明かす。 ■ 代表的な論文 1. Yang, Z., Iizuka, R., *Funatsu, T. Nascent secM chain outside the ribosome reinforces translation arrest. PLoS ONE 10(3): e0122017 (2015) 2. Uno, S., *Kamiya, M., Yoshihara, T., Sugawara, K., Okabe, K., Tarhan, M. C., Fujita, H., Funatsu, T., Okada, Y., Tobita, S., *Urano, Y. A spontaneously blinking fluorophore based on intramolecular spirocyclization for live-cell superresolution imaging. Nat. Chem . 6: 681-689 (2014) 3. *Tanii, T., Akahori, R., Higano, S., Okubo, K., Yamamoto, H., Ueno, T., Funatsu, T. Improving zero-mode waveguide structure for enhancing signal-to-noise ratio of real-time singlemolecule fluorescence imaging: a computational study. Phys. Rev. E 88: 012727 (2013). 4. Takei, Y., Iizuka, R., Ueno, T., *Funatsu, T. Single-molecule observation of protein folding in symmetric GroEL − (GroES)2 complexes. J. Biol. Chem . 287 (49): 41118-41125 (2012). 5. Masuda, T., Petrov, A. N., Iizuka, R., Funatsu, T., *Puglisi, J. D., *U. Sotaro. Initiation factor 2 and 50S cooperate to lock mRNAs on the ribosome during initiation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA , 109 (13): 4881-4885 (2012). 6. Okabe, K., Inada, N., Gota, C., Harada, Y., Funatsu, T., *Uchiyama, S. Intracellular temperature mapping with a fluorescent polymeric thermometer and fluorescence lifetime imaging microscopy. Nat. Commun . 3: 705 (2012). 7. Iizuka, R., Yamagishi-Shirasaki, M., *Funatsu, T. Kinetic study of de novo chromophore maturation of fluorescent proteins. Anal. Biochem . 414:173-178 (2011). 8. Okabe, K., Harada, Y., Zhang, J., Tadakuma, H., Tani, T., *Funatsu, T. Real time monitoring of endogenous cytoplasmic mRNA using linear antisense 2 O -methyl RNA probes in living cells. Nucleic Acids Res . 34: e20 (2011). 9. Sameshima, T., Iizuka, R., Ueno, T., Wada, J., Aoki, M., Shimamoto, N., Ohdomari, I., Tanii, T., *Funatsu, T. Single-molecule study on the decay process of the football-shaped GroEL-GroES complex using zero-mode waveguides. J. Biol. Chem . 285: 23159-23164 (2010) 10. *Kamei, Y., Suzuki, M., Watanabe, K., Fujimori, K., Kawasaki, T., Deguchi, T., Yoneda, Y., Todo, T., Takagi, S., Funatsu, T., *Yuba, S. Infrared laser-mediated gene induction in targeted single cells in vivo. Nat. Methods 6: 79-81 (2009) 21 Research: ウイルス感染における蛋白質の品質管理制御と それに基づく広域阻害剤の薬効評価 川口 寧 東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野 教授 http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/Kawaguchi-lab/KawaguchiLabTop.html 本研究は、ウイルス感染におけるタンパク質の品質管理機構に焦点を当て る。研究代表者は、長年の単純ヘルペスウイルス(HSV)の基礎研究より「HSP90 阻害剤である AAG-17が、HSV 増殖を著しく強力に抑制すること」を明らかと した(未発表)。また、HSP90は HSV だけでなく、多種多様なウイルスの増殖に も関与する。すなわち、タンパク質の品質管理機構が、多くのウイルスの増殖 にとって重要であることが明らかとなりつつある。 これらの背景を鑑み、研究代表者は分子シャペロンによる品質管理機構に 加えて、現在、急速に解明されつつある新生鎖が司る品質管理機構にも注目 し、HSV 感染におけるそれらの詳細な分子機序を解明し、広域スペクトル抗ウ イルス剤の開発基盤を構築するという着想に至った。また、HSV 感染現象にお ける翻訳プロセスを網羅的に解析することで、新たな側面からウイルス病態 発現機構を解明することも本研究の目的である。さらに、本領域の研究により 次々と解明される新生鎖に関する新しい生命現象の原理・原則を、ウイルス 疾患解析に直結させることで、新たな価値の創成も試みる。当面は以下の解析 を進める予定である。 ①リボソームプロファイリング解析と HSV ゲノム改変法 BAC システムを利用 し、ウイルスがコードする新生鎖による翻訳速度調節機構とウイルス病態 発現能の相関関係を解明する。 ②広域抗ウイルス剤のシード化合物 HSP90阻害剤 AAG-17を、マウス HSV 病態 モデルに供し、AGG-17の in vivo 薬効評価を実施する。 ■ 代表的な論文 1. Kobayashi R, Kato A, Oda S, Koyanagi N, Oyama M, Kozuka-Hata H, Arii J, *Kawaguchi, Y. The Function of the Herpes Simplex Virus 1 Small Capsid Protein VP26 is Regulated by Phosphorylation at a Specific Site. J. Virol . 89: 6141-6147. (2015) 2. Arii J, Hirohata Y, Kato A, *Kawaguchi, Y. Non-Muscle Myosin Heavy Chain IIB Mediates Herpes Simplex Virus 1 Entry. J. Virol . 89: 1879-1888. (2015) 3. Kato A, Arii J, Koyanagi Y, *Kawaguchi, Y. Phosphorylation of Herpes Simplex Virus 1 dUTPase Regulates Viral Virulence and Genome Integrity by Compensating for Low Cellular dUTPase Activity in the Central Nervous System. J. Virol . 89: 241-248. (2015) 4. Fujii H, Kato A, Mugitani M, Kashima Y, Oyama M, Kozuka-Hata H, Arii J, *Kawaguchi, Y. The UL12 Protein of Herpes Simplex Virus 1 Is Regulated by Tyrosine Phosphorylation. J. Virol . 88: 10624-10634. (2014) 5. Kato A, Hirohata Y, Arii Y, and *Kawaguchi, Y. Phosphorylation of Herpes Simplex Virus 1 dUTPase Upregulated Viral dUTPase Activity to Compensate for Low Cellular dUTPase Activity for Efficient Viral Replication. J. Virol . 88: 7776-7785. (2014) 6. Maruzuru Y, Shindo K, Liu Z, Oyama M, Kozuka-Hata H, Arii J, Kato A, and *Kawaguchi, Y. The Role of Herpes Simplex Virus 1 Immediate-Early Protein ICP22 in Viral Nuclear Egress. J. Virol . 88: 7445-7454. (2014) 7. Liu A, Kato A, Shindo K, Noda T, Sagara H, Kawaoka Y, Arii J, and *Kawaguchi, Y Herpes Simplex Virus 1 UL47 Interacts with Viral Nuclear Egress factors UL31, UL34 and Us3, and Regulates Viral Nuclear Egress. J. Virol . 88: 4657-4667. (2014) 8. Kato A, Shindo K, Maruzuru Y, and *Kawaguchi, Y. Phosphorylation of a herpes simplex virus 1 dUTPase by a viral protein kinase Us3 dictates viral pathogenicity in the central nervous system but not at the periphery. J. Virol . 88: 2775-2785. (2014) 9. Fujii H, Mugitani M, Koyanagi N, Liu A, Tsuda S, Arii J, Kato A, and *Kawaguchi, Y. Role of the Nuclease Activities Encoded by Herpes Simplex Virus 1 UL12 in Viral Replication and Neurovirulence. J. Virol . 88: 2359-2364. (2014) 10. Kato A, S. Tsuda, Z. Liu, H. Kozuka-Hata, M. Oyama and Y. Kawaguchi. (2014) Herpes simplex virus 1 protein kinase Us3 phosphorylates viral dUTPase and regulates its catalytic activity in infected cells. J. Virol . 88: 655-666. 22 Research: プロテアソームによる新生鎖分解の 分子シャペロンによる制御 伊野部 智由 富山大学・先端ライフサイエンス拠点 特命助教 https://inobelab.wordpress.com/ 出来たばかりの新生鎖は分解の脅威にさらされており、正しくフォールドし 成熟するか、分解されてしまうのか、どのようにその運命が決められているの か大きな である。最近リボソーム上で、翻訳と並行して、新生鎖にプロテア ソームによる分解のシグナルとなるポリユビキチン鎖が取り付けられること があると示され、生まれてすぐに死の運命を背負わされる新生鎖があること が分かった。しかしながら我々の最近の研究結果から、ポリユビキチン化され た蛋白質は必ずしもプロテアソームにより分解されるとは限らないし、また ユビキチン化されない蛋白質も分解されることもあることがわかった。そし て我々は蛋白質の運命を最終的に決めているのは、新生鎖にも多く含まれる 構造をとらない Unstructured 領域であると提唱している。この Unstructured 領域は細胞内において多くの分子シャペロンと相互作用する。そこで我々は 分子シャペロンと Unstructured 領域の相互作用が、プロテアソームによる新 生鎖の分解の選別に関わっているのでは?と考えた。本研究課題では、 ①様々な分子シャペロンが分解の第二のシグナルとなる Unstructured 領域に 結合することにより、プロテアソームによる分解を抑えている。 という仮説を証明することを第一の目標とする。この仮説の証明により、長ら く であった新生鎖の運命決定機構の解明に一歩近づく。さらにこの仮説に 基づき、 ②プロテアソームによる蛋白質分解を制御する「人工シャペロン」の開発を行う。 このような「人工シャペロン」ができれば、病気において分解が亢進する蛋白 質の安定化も可能になり、新たな病気治療法が出来るはずである。 ■ 代表的な論文 1. Fishbain, S., Inobe, T., Israeli, E., Chavali, S., Yu, H., Zokarkar, A., Babu, MM., and Matouschek, A. The sequence composition of disordered regions affects protein half-life by controlling the initiation step of proteasomal degradation. Nature Struct. Mol. Biol . 22, 214-221 (2015) 2. Kraut, DA., Israeli, E., Schrader, E., Patil, A., Nakai, K., Nanavati, D., Inobe, T. and Matouschek, A. Sequence- and Species-Dependence of Proteasomal Processivity. ACS Chem. Biol . 7, 1444-1453 (2012) 3. Chen, J., Makabe, K., Nakamura, T., Inobe, T. and Kuwajima, K. Dissecting a biomolecular process of MgATP2- binding to the chaperonin GroEL. J. Mol. Biol . 410, 343-356 (2011) 4. Inobe, T., Fishbain, S., Prakash, S. and Matouschek, A. Defining the Geometry of the Two-component Proteasome Degron. Nature Chem. Biol . 7, 161-167. (2011) 5. Prakash, S., Inobe, T., Hatch, A. J. and Matouschek, A. Substrate Selection by the Proteasome during Degradation of Protein Complexes. Nature Chem. Biol . 5, 29-36 (2009) 6. Inobe, T., Takahashi, K., Maki, K., Enoki, S., Kamagata, K., Kadooka, A., Arai, M. and Kuwajima, K. Asymmetry of the GroEL-GroES Complex under Physiological Conditions as Revealed by Small-angle X-ray Scattering. Biophys. J . 94, 1392-1402 (2008) 7. Inobe, T. and Kuwajima, K. Φ value analysis of an allosteric transition of GroEL based on a single pathway model. J. Mol. Biol . 339, 199-205 (2004) 8. Iizuka, R., So, S., Inobe, T., Yoshida, T., Zako, T., Kuwajima, K. and Yohda, M. Role of the helical protrusion in the conformational change and molecular chaperone activity of the archaeal group II chaperonin. J. Biol. Chem . 279, 18834-18839 (2004) 9. Inobe, T., Kikushima, K., Makio, T., Arai, M. and Kuwajima, K. The allosteric transition of GroEL induced by metal fluoride ADP complexes. J. Mol. Biol . 329, 121-134 (2003) 10. Arai, M., Inobe, T., Maki, K., Ikura, T., Kihara, H., Amemiya, Y. and Kuwajima, K. Denaturation and reassembly of chaperonin GroEL studied by solution X-ray scattering. Protein Science , 12, 672-680 (2003) ■ 総説 Inobe, T. and Matouschek A. Paradigms of protein degradation by the proteasome. Curr. Opin. Struct. Biol . 24, 156-164 (2014) Inobe, T. and Matouschek, A. Protein targeting to ATP-dependent proteases. Curr. Opin. Struct. Biol . 18, 43-51 (2008) 23 Research: (連携研究者) ビブリオ菌における新生鎖機能を介した タンパク質膜透過の制御 秋山 芳展 京都大学・ ウイルス研究所 教授 http://www.virus.kyoto-u.ac.jp/Lab/akiyama/ 京都大学・ ウイルス研究所 准教授 ■ 代表的な論文 細菌の効率的なタンパク質膜透過は、SecYEG トランスロコンを挟んで存在 する2 つのモーターSecA ATPase と SecDF の協調的な働きにより保持される。 大腸菌では、タンパク質膜透過能が低下すると SecA の発現量を上昇させるこ とで対抗する。 「secA の上流遺伝子によりコードされる分泌タンパク質 SecM (Secretion monitor) の翻訳伸長は、リボソームと自身の翻訳停止配列(アレス トモチーフ)との相互作用により妨げられる。膜透過正常時にはこの翻訳伸 長停止は速やかに解除されるが、膜透過不全時には、リボソームが mRNA 上 で安定に停止し、下流の mRNA の2 次構造がほどけて secA 遺伝子の発現を促 す。」と考えられている。しかしながら、ビブリオ菌を含む大多数の真性細菌 は secM 遺伝子を持っておらず、異なる膜透過能維持機構の存在が示唆される。 本研究では、ビブリオ属細菌のタンパク質膜透過能維持の分子機構の解明を 目指す。ビブリオ菌はイオン選択性の異なる2種の SecDF パラログ(V.SecDF1 と V.SecDF2)を 持 ち、環 境 変 化 に 伴 う 膜 透 過 能 の 低 下 時 に は H 駆 動 型 の + V.SecDF2 の発現が特異的に上昇することを見出している。また、secDF2 上流 の遺伝子によりコードされる分泌タンパク質 VemP (Vibrio export monitoring polypeptide) の翻訳伸長停止が、V.SecDF2 の発現上昇に必須であるとの結果 も得ており、secM-secA と類似の調節機構の存在が考えられる。一方、興味深 いことに、VemP の予想アレストモチーフは、SecM のものと全く異なっている。 本研究では、1)VemP アレストモチーフを同定し、翻訳停止/解除のメカニズ ムを明らかにすると共に、2)翻訳停止と共役した V.SecDF2の発現上昇の作用 機序の解明を目指す。本研究の進展により、翻訳アレストを利用したタンパク 質膜透過関連因子の発現制御機構の普遍性と多様性の理解につながると期待 される。 森 博幸 1. Kumazaki, K., Chiba, S., Takemoto, M., Furukawa, A., Nishiyama, K.-I., Sugano, Y., Mori, T., Dohmae, N., Hirata, K., Nakada-Nakura, Y., Maturana, A.D, Tanaka, Y., Mori, H., Sugita, Y., Arisaka, F., Ito, K., Ishitani, R., *Tsukazaki, T.,* and *Nureki, O. Structural basis of Sec-independent membrane protein insertion by YidC. Nature 509, 516-520 (2014) 2. *Mio, M., Tsukazaki, T., Mori, H., Kawata, M., Moriya, T., Sasaki, Y., Ishitani, R., Ito, K., *Nureki, O. and *Sato, C. Conformational variation of the translocon enhancing chaperone SecDF. J. Struct. Funct. Genomics 15, 107-115 (2014) 3. Kumazaki, K., Kishimoto, T., Furukawa, A., Mori, H., Tanaka, Y., Dohmae, N., Ishitani, R., *Tsukazaki, T., and *Nureki, O. Crystal structure of Escherichia coli YidC, a membrane protein chaperone and insertase. Sci. Rep . 4, 7299 (2014) 4. Hizukuri, Y., Oda, T., Tabata, S., Tamura-Kawakami, K., Oi, R., Sato, M., Takagi, J., Akiyama, Y., and *Nogi, T. A structure-based model of substrate discrimination by a non-canonical PDZ tandem in the intramembranecleaving protease RseP. Structure 22, 1326-336 (2014) 5. Lim, B., Miyazaki, R.a, Neher, S.a, Siegele, D.A., Ito, K., Walter, P., *Akiyama, Y., *Yura, Y., and *Gross, C.A. Heat shock transcription factor σ32 co-opts the signal recognition particle to regulate protein homeostasis in E. coli . PLoS Biology , 11, e1001735 (2013) a equally contributed 6. Narita, S.-i., Masui, C., Suzuki, T., Dohmae, N., and *Akiyama, Y. Protease homolog BepA (YfgC) promotes assembly and degradation of β -barrel membrane proteins in Escherichia coli. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110, E3612–E3621 (2013) 7. Hizukuri, Y., and *Akiyama, Y. PDZ domains of RseP are not essential for sequential cleavage of RseA or stress-induced σ E activation in vivo. Mol. Microbiol . 86, 1232-1245 (2012) 8. *Ito, K., Chadani, Y., Nakamori, K., Chiba, S., Akiyama, Y., and Abo, T. Nascentome analysis uncovers futile protein synthesis in Escherichia coli . PLoS ONE 6, e28413 (2011) 9. Saito, A., Hizukuri, Y., Matsuo, E.-i., Chiba, S., Mori, H., Nishimura, O., Ito, K., and *Akiyama, Y. Post liberation cleavage of signal peptides is catalyzed by the S2P protease in bacteria. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 108, 13740–13745 (2011) 10. aTsukazaki, T., aMori, H., Echizen, Y., Ishitani, R., Fukai, S., Tanaka, T, Perederina, A., Vassylyev, D. G., Kohno, T., Maturana, A. D., *Ito, K., and *Nureki, O. Structure and function of SecDF, a protein exportenhancing membrane component. Nature 474, 235–238 (2011) aThese authors contributed equally to this work. ■ 総説 森 博幸、塚崎智也 細菌のタンパク質分泌を促進する膜タンパク質 SecDF の構造 と機能 . 化学と生物 51, 28-35 (2013) Ito, K., and Mori, H. The Sec protein secretion system. pp. 3-22, in Bacterial Secreted Proteins , Ed. K. Wooldridge, Caister Academic Press, Norfolk, UK (2009) 24 Research: 新生鎖研究のための リボソームin vitro 人為選択技術の開発 市橋 伯一 大阪大学・大学院情報科学研究科 准教授 http://www-symbio.ist.osaka-u.ac.jp/ リボソームの研究を難しくしている一因は、変異体を得ることの難しさにあ る。リボソームは細胞内で極めて重要な役割を担っているために、リボソーム RNA やタンパクの変異導入は多くの場合、細胞にとって致死になってしまう。 したがって現状で研究に使える変異体は限られており、リボソームやそのサブ ユニットもつ様々な機能を区別して調べることができていない。この障害を越 える方法の1つは、in vitro でリボソームの変異体を構築することである。リボ ソームの in vitro 再構成は古くから行われており、近年 rRNA の転写と共役した 再構成が報告された(Jewett et al 2013)。昨年申請者らはこの方法を人工脂質 小胞(liposome)に封入した再構成無細胞翻訳系(PURE SYSTEM, Shimizu et al 2001)中で起こすことに成功した。これを申請者らの独自技術である「セルソー ターを使った脂質小胞の選択技術」 (Nishikawa et al 2013)と組み合わせるこ とにより、変異 rRNA を持つリボソームの人為選択が可能になる。 そこで本研究では、新生鎖研究のためにリボソームの変異体を in vitro の人 為選択により作り出す技術の開発を行う。その最初のステップとして以下の3 つの計画を行い、16S, 及び23S rRNA の人為進化より新生鎖の合成速度を上昇 させたリボソーム変異体を取得する方法を確立することを目指す。 1. rRNA の in vitro 転写と共役したリボソームの PURE SYSTEM 内再構成 2. 人工脂質小胞内で再構成したリボソームの翻訳活性を蛍光で検出 3. セルソーターを使って、新生鎖合成の速いリボソームの選択 ■ 代表的な論文 1. Sakatanim, Y., Ichihashi, N., Kazuta, Y., *Yomo, T., A transcription and translation-coupled DNA replication system using rolling-circle replication. Scientific Rep . In press (2015) 2. Nishiyama, K., Ichihashi, N., Kazuta, Y., *Yomo, T., Development of a reporter peptide that catalytically produces a fluorescent signal through α -complementation. Pro. Sci . In press (2015) 3. Mizuuchi, R., Ichihashi, N., Usui, K., Kazuta, Y., *Yomo, T., Adaptive Evolution of an Artificial RNA Genome to a Reduced Ribosome Environment. ACS Synt. Biol . 4(3), 292-8 (2014) 4. Kazuta., Y., Matsuura, T., Ichihashi, N., *Yomo, T., Synthesis of milligram quantities of proteins using a reconstituted in vitro protein synthesis system. J. Biosci. Bioeng . 118, 554-557 (2014) 5. Usui, K., Ichihashi, N., Kazuta, Y., Matsuura, T., *Yomo, T., Effects of ribosomes on the kinetics of Qb replication. FEBS Lett ., 588, 117-123 (2014) 6. Aita, T., Ichihashi, N., *Yomo, T., Probabilistic model based error correction in a set of various mutant sequences analyzed by next-generation sequencing. Comp. Biol. Chem ., 47, 221–230 (2013) 7. Ichihashi, N., Usui, K., Kazuta, Y., Sunami, T., Matuura, T., *Yomo T., Darwinian evolution in a translation-coupled RNA replication system within a cell-like compartment. Nat. Commun . 4, 1-7 (2013) 8. Usui, K., Ichihashi, N., Kazuta, Y., Matsuura, T., *Yomo T., Kinetic model of double-stranded RNA formation during long RNA replication by Qbeta replicase. FEBS Lett . 587, 2565-2571 (2013) 9. Kobori, S., Ichihashi, N., Kazuta, Y., *Yomo, T., A controllable gene expression system in liposomes that includes a positive feedback loop. Mol. Biosyst . 9, 1282-1285 (2013) 10. Kobori, S., Ichihashi, N., Kazuta, Y., Matsuura, T., *Yomo, T., Kinetic analysis of aptazyme-regulated gene expression in a cell-free translation system: modeling of liganddependent and -independent expression. RNA , 18, 1458-1465 (2012) ■ 総説 1. Ichihashi, N., *Yomo T., Positive roles of compartmentalization in internal reactions. Curr Opin Chem Biol . 22C 12-17 (2014) 2. 市橋伯一、四方哲也 人工細胞のデザインと構築 高分子 2014年6月号 63巻 376-378 3. Ichihashi, N., Matsuura, T., Kita, H., Sunami, T., Suzuki, H., *Yomo, T., Constructing partial models of cells. Cold Spring Harb Perspect Biol . 2, a004945 (2010) 4. 市橋伯一、四方哲也 人工細胞:生命を深く理解するために 科学 80, 740-742 (2010) 25 Research: 新生鎖合成と連動する葉緑体蛋白質 包膜透過の分子メカニズムの解明 中井 正人 大阪大学・蛋白質研究所 准教授 http://www.protein.osaka-u.ac.jp/enzymology/nakaiJ.html 新生鎖が細胞内で合成され、目的のオルガネラに局在する様式として、co- translational すなわち翻訳と共役して標的膜の膜透過が進行する場合と、 post-translationalすなわち翻訳が完了した後に膜透過が進行する場合がある。 藻類や植物の葉緑体への蛋白質輸送に関しては、長年、post-translational な 輸送形態であると考えられて来た。実際 in vitro では、精製した葉緑体蛋白質 前駆体と単離葉緑体を混ぜるだけで、葉緑体への蛋白質の輸送は再現される。 しかし in vivo では果たしてどうであろうか?実は、この問いに対する実験的 検証は非常に希薄である。最近、我々は葉緑体内包膜の蛋白質膜透過装置 TIC の同定に成功し、さらにそれに付随して包膜のトランスサイドで働く新奇膜 透過駆動モーター複合体の同定にも成功している。長年、葉緑体包膜には強力 な前駆体蛋白質のアンフォールディング活性があると言われてきたが、この トランスサイドの輸送モーターが、ATP を消費しながら膜のシスサイドのアン フォールディングに重要な役割を果たしていると思われる。しかし、実際の in vivo における葉緑体への蛋白質膜透過は、新生鎖合成装置(リボソーム)、外包 膜および内包膜の蛋白質膜透過装置 TOC ならびに TIC、さらにはトランスサイ ドの輸送モーター複合体、これらが互いに相互作用し連動して機能する事に より、さらに効率よく進められていると考えられる。そこで、本研究では、こ れまでほとんど見過ごされていた新生鎖合成装置まで含めた葉緑体蛋白質の 包膜透過の分子メカニズムの解明を進める。特に、①外包膜上で新生鎖合成装 置と相互作用する因子の検索や、② TOC と TIC の機能連動、および、③トラン スサイドの輸送モーター複合体が前駆体と相互作用する時期とその作用様式、 について詳細に解析する。 ■ 代表的な論文 1. Kikuchi, S., Bedard, J., Hirano, M., Hirabayashi, Y., Oishi, M., Imai, M., Takase, M., Ide, T., *Nakai, M. Uncovering the Protein Translocon at the Chloroplast Inner Envelope Membrane. Science 339, 571-574 (2013) 2. Hirabayashi, Y., Kikuchi, S., Oishi, M., *Nakai, M. In vivo studies on the roles of two closely related Arabidopsis Tic20 proteins, Tic20-I and Tic20-IV. Plant Cell Physiol ., 52, 469-478 (2011) 3. Kikuchi, S., Oishi, M., Hirabayashi, Y., Lee, D.W., Hwang, I., *Nakai, M. A 1-Megadalton Translocation Complex Containing Tic20 and Tic21 Mediates Chloroplast Protein Import at the Inner Envelope Membrane. Plant Cell . 21(6):1781-1797 (2009) 4. Asakura, Y., Kikuchi, S., *Nakai, M. Non-identical contributions of two membrane-bound cpSRP components, cpFtsY and Alb3, to thylakoid biogenesis. Plant J . 56:1007-1017 (2008) 5. Yabe, T., Yamashita, E., Kikuchi, A., Morimoto, K., Nakagawa, A., Tsukihara, T., *Nakai, M. Structural analysis of Arabidopsis CnfU protein: an ironsulfur cluster biosynthetic scaffold in chloroplasts. J. Mol. Biol . 381(1):160-73 (2008) 6. Morimoto, K., Yamashita, E., Kondou, Y., Lee, S.J., Arisaka, F., Tsukihara, T., *Nakai, M. The asymmetric IscA homodimer with an exposed [2Fe2S] cluster suggests the structural basis of the Fe-S cluster biosynthetic scaffold. J. Mol. Biol . 360(1):117-132 (2006) 7. Kikuchi, S., Hirohashi, T., *Nakai, M. Characterization of the preprotein translocon at the outer envelope membrane of chloroplasts by BlueNative PAGE. Plant Cell Physiol . 47(3):363-71 (2006) ■ 総説 *Nakai, M. The TIC complex uncovered: The alternative view on the molecular mechanism of protein translocation across the inner envelope membrane of chloroplasts. Biochim. Biophys. Acta . doi: 10.1016/j.bbabio.2015.02.011. in press (2015) Kikuchi, S., Bedard, J., *Nakai, M. One- and Two-Dimensional Blue Native-PAGE and Immunodetection of Low-Abundance Chloroplast Membrane Protein Complexes. Chloroplast Research in Arabidopsis: Methods and Protocols Vol.II (Jarvis, T.P., ed). Methods in Molecular Biology , 775:3-17 (2011) 26 Research: 新生鎖のN 末端アセチル化を介した ミ トコンドリアの恒常性制御 岡本 浩二 大阪大学・大学院生命機能研究科 准教授 http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/okamoto/Okamoto_Lab/toppu.html タンパク質の修飾は発現・局在・相互作用・分解など様々な制御に重要で あり、多くの反応がリボソームでの合成完了後に起こる翻訳後修飾として広 く知られている。一方、N 末端アセチル化は翻訳途上の新生ポリペプチド鎖(新 生鎖)を基質としており、生物種を超えて保存された基本的な機構である。ヒ トでは全タンパク質の80% 以上が N 末端アセチル化を受けており、汎用性の 高い修飾反応であるが、その生理的意義は未だ多くの に包まれている。私た ちは最近、出芽酵母の N 末端アセチル化酵素 NatA の欠失変異体において、選 択的ミトコンドリア分解「マイトファジー」が強く抑制されていることを見出 した。本研究の目的は、NatA やその基質タンパク質がいつ・どこで・どのよ うに、ミトコンドリアの機能やマイトファジーに関与しているかを明らかに することである。 私たちの研究グループはこれまでに、酵母のマイトファジーの選択性を規 定している仕組みについて、その一端を世界に先駆けて解明することに成功 している。本研究では、これまでに培ってきた経験・知識・技術を総動員し、 新生鎖を作用点としたミトコンドリアの恒常性維持機構の解明を目指す。 ①呼吸増殖下で培養した細胞からミトコンドリアを単離し、蛍光二次元電気 泳動法により NatA 欠失変異でバンドの量や移動度が変化しているものを分 離、質量分析にて候補因子を同定する。 ②得られた候補因子の N 末端に変異を導入してアセチル化を阻害し、ミトコ ンドリアの機能やマイトファジーに影響があるかどうか調べるとともに、 発現・局在・相互作用・分解などを明らかにする。 ③呼吸増殖下における NatA 活性の変化を調べ、N 末端アセチル化がどのよう に調節されているかを理解してゆく。 ■ 代表的な論文 1. Eiyama, A., and *Okamoto, K. Protein N-terminal acetylation by NatA is critical for selective mitochondria degradation. J. Biol. Chem . in press (2015) PMID: 26296886 2. Sakakibara, K., Hashimoto, A., Sakoh-Nakatogawa, M., Okumura, N., Tani, M., Kondo-Okamoto, N., Eiyama, A., Suzuki, S.W., Kondo-Kakuta, C., Kuge, O., Takao, T., Ohsumi, Y., and *Okamoto, K. Functional link between Atg32-mediated mitophagy and phospholipid methylation. Manuscript in revision. (2015) 3. Eiyama, A., Kondo-Okamoto, N., and *Okamoto, K. Mitochondrial degradation during starvation is selective and temporally distinct from bulk autophagy in yeast. FEBS Lett ., 587, 1787-1792 (2013) 4. Kondo-Okamoto, N., Noda, N.N., Suzuki, S.W., Nakatogawa, H., Takahashi, I., Matsunami, M., Hashimoto, A., Inagaki, F., Ohsumi, Y., and *Okamoto, K. Autophagy-related protein 32 acts as autophagic degron and directly initiates mitophagy. J. Biol. Chem ., 287, 10631-10638 (2012) 5. *Okamoto, K., Kondo-Okamoto, N., *Ohsumi, Y. Mitochondria-anchored receptor Atg32 mediates degradation of mitochondria via selective autophagy. Dev. Cell , 17, 87-97 (2009). 6. Kondo-Okamoto, N., Shaw, J.M., and *Okamoto, K. Tetratricopeptide repeat proteins Tom70 and Tom71 mediate yeast mitochondrial morphogenesis. EMBO rep ., 9, 63-69 (2008) 7. Kondo-Okamoto, N., Ohkuni, K., Kitagawa, K., McCaffery, J.M., Shaw, J.M., and *Okamoto, K. The novel F-box protein Mfb1p regulates mitochondrial connectivity and exhibits asymmetric localization in yeast. Mol. Biol. Cell , 17, 3756-3767 (2006) 8. Frederick, R.L., McCaffery, J.M., Cunningham, K.W., *Okamoto, K., and *Shaw, J.M. Yeast Miro GTPase, Gem1p, regulates mitochondrial morphology via a novel pathway. J. Cell Biol ., 167, 87-98 (2004) 9. Okamoto, K., Brinker, A., Paschen, S.A., Moarefi, I., HayerHartl, M., *Neupert, W., and Brunner, M. The protein import motor of mitochondria: a targeted molecular ratchet driving unfolding and translocation. EMBO J ., 21, 3659-3671 (2002) 10. MacAlpine, D.M., Kolesar, J., Okamoto, K., *Butow, R.A., and *Perlman, P.S. Replication and preferential inheritance of hypersuppressive petite mitochondrial DNA. EMBO J ., 20, 1807-1817 (2001) ■ 総説 Eiyama, A., and *Okamoto, K. PINK1/Parkin-mediated mitophagy in mammalian cells. (review). Curr. Opin. Cell Biol ., 33, 95-101 (2015) Liu, L., Sakakibara, K., *Chen, Q., and *Okamoto, K. Receptor-mediated mitophagy in yeast and mammalian systems. (review). Cell Res ., 24, 787-795 (2014) *Okamoto, K. Organellophagy: eliminating cellular building blocks via selective autophagy. (review). J. Cell Biol ., 205, 435-445 (2014) Kondo-Okamoto, N., and *Okamoto, K. Mitochondria and autophagy: critical interplay between the two homeostats. (review). Biochim. Biophys. Acta , 1820, 595-600 (2012) *Okamoto, K., and *Shaw, J.M. Mitochondrial morphology and dynamics in yeast and multicellular eukaryotes. (review). Ann. Rev. Genet ., 39, 503-536 (2005) 27 Research: 新生膜タンパク質の 膜組込み過程の構造生物科学 田中 良樹 奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科 助教 http://bsw3.naist.jp/tsukazaki/ 本研究は、生育に必須の「新生膜タンパク質の膜組込み過程」に注目する。 タンパク質の膜組み込み過程はすべての生物に保存された基本的な細胞内機 構の一つである。バクテリアにおける膜タンパク質の組込みには、主に Sec 経 路と YidC 経路がある。Sec 経路ではすべての生物に保存されたタンパク質膜 透過チャネル SecYEG 膜タンパク質複合体(Sec トランスロコン)を経由し、 YidC 経路では保存された5回膜貫通をもつ内膜タンパク質 YidC(ミトコンド リア Oxa1・葉緑体 Alb3)を経由する。どちらの経路も生育に必須であるが、 どちらの過程においても、どのようにタンパク質が認識され、膜へと組込まれ ているのかの詳細は不明である。 申請者らは膜タンパク質複合体 SecYEG と膜タンパク質 YidC の単独の X 線 結晶構造解析を達成した。本研究では、これらの実験を発展させ、膜タンパク 質組込み過程における新生ポリペプチド鎖と SecYEG または YidC との相互作 用機序を明らかとすべく、シグナルペプチド領域との共結晶化構造解析を進 めると共に、in vítro における新しい膜組込み解析系を構築し解析を進める。 ① SecYEG の高分解能構造の報告: ② SecYEG- シグナル配列、YidC- シグナル配列の複合体構造解析: ・残基レベルでの基質認識機構を解明 ・基質との相互作用による構造変化を解明 ③ YidC 再構成系による新しい機能解析法の構築と機能解析 ④膜組み込み過程の分子動力学シミュレーション ・膜組込み過程の in silico 再現 ■ 代表的な論文 1. Kumazaki K., Kishimoto T., Furukawa A., Mori H., Tanaka Y., Dohmae N., Ishitani R., Tsukazaki T., Nureki O. Crystal structure of Escherichia coli YidC, a membrane protein chaperone and insertase. Sci Rep . Dec 3;4:7299. (2014) 2. Kumazaki K., Tsukazaki T., Nishizawa T., Tanaka Y., Kato H.E., Nakada-Nakura Y., Hirata K., Mori Y., Suga H., Dohmae N., Ishitani R., Nureki O. Crystallization and preliminary X-ray diffraction analysis of YidC, a membrane-protein chaperone and insertase from Bacillus halodurans. Acta Crystallogr F Struct Biol Commun . Aug;70(Pt 8):1056-60. (2014) 3. Kumazaki K., Chiba S., Takemoto M., Furukawa A., Nishiyama K., Sugano Y., Mori T., Dohmae N., Hirata K., Nakada-Nakura Y., Maturana A.D., Tanaka Y., Mori H., Sugita Y., Arisaka F., Ito K., Ishitani R., Tsukazaki T., Nureki O. Structural basis of Sec-independent membrane protein insertion by YidC. Nature . May 22;509(7501):516-20. (2014) 4. Sugahara M., Mizohata E., Nango E., Suzuki M., Tanaka T., Masuda T., Tanaka R., Shimamura T., Tanaka Y., Suno C., Ihara K., Pan D., Kakinouchi K., Sugiyama S., Murata M., Inoue T., Tono K., Song C., Park J., Kameshima T., Hatsui T., Joti Y., Yabashi M., Iwata S. Grease matrix as a versatile carrier of proteins for serial crystallography. Nat Methods . Jan;12(1):61-3. (2015) 5. Tanaka Y., Hipolito C.J., Maturana A.D., Ito K., Kuroda T., Higuchi T., Katoh T., Kato H.E., Hattori M., Kumazaki K., Tsukazaki T., Ishitani R., Suga H. and Nureki O., "Structural basis for the drug extrusion mechanism by a MATE multidrug transporter." Nature , 496 247–251. (2013) 6. Hipolito C.J., Tanaka Y., Katoh T., Nureki O., Suga H., "A macrocyclic peptide that serves as a cocrystallization ligand and inhibits the function of a MATE family transporter." Molecules . 18(9):10514-30 (2013) 7. Hattori M., Tanaka Y., Ishitani R. and Nureki O., "Crystallization and preliminary X-ray diffraction analysis of the cytosolic domain of a cation diffusion facilitator family protein." Acta Cryst. Sect. F Struct. Biol. Cryst. Commun ., 63(Pt 9) 771-773 (2007) 8. Hattori M., Tanaka Y., Fukai S., Ishitani R. and Nureki O., "Crystal structure of the MgtE Mg2+ transporter." Nature , 448 1072-1075 (2007) 9. Hattori M., Tanaka Y., Fukai S., Ishitani R. and Nureki O., "Crystallization and preliminary X-ray diffraction analysis of the full-length Mg2+ transporter MgtE." Acta Cryst. Sect. F Struct. Biol. Cryst. Commun ., 63(Pt 8) 682-684 (2007) 10. Tanaka Y., Hattori M., Fukai S., Ishitania R. and Nureki O., "Crystallization and preliminary X-ray diffraction analysis of the cytosolic domain of the Mg2+ transporter MgtE." Acta Cryst. Sect. F Struct. Biol. Cryst. Commun ., 63(Pt 8) 678-681 (2007) 28 Research: 新生膜貫通タンパク質のER 膜挿入・ フォールディングに関わる変異体の解析 佐藤 明子 広島大学・大学院総合科学研究科 准教授 http://home.hiroshima-u.ac.jp/aksatoh/ 真核生物のほとんどの分泌タンパク質・膜タンパク質は、ER 膜上のリボソー ムにより合成され、トランスロコンにより ER 内腔に輸送、あるいは ER 膜に組 み込まれる。ER 膜での膜貫通ヘリックスの脂質二重膜への挿入は、新生鎖の 翻訳に並行して随時行われると考えられており、この過程にはトランスロコ ■ 代表的な論文 1. Satoh, T., Ohba, A., Liu, J., Inagaki, T., and Satoh, A. K. # (#: corresponding author) dPob/EMC is essential for biosynthesis of rhodopsin and other multi-pass membrane proteins in Drosophila photoreceptors. eLife, doi : 10.7554/eLife.06306. (2015) 数回膜貫通タンパク質の組み込みのメカニズムは完全に解明されたわけでは 2. Satoh, T., Inagaki, T., Liu, J., Watanabe, R. and Satoh, A. K. # (#: corresponding author) GPI biosynthesis is essential for Rhodopsin sorting at the trans-Golgi network in Drosophila photoreceptors. Development 140, 385-94. (2013) 私達の研究グループでは、ロドプシンの光受容膜への蓄積が欠損する変異 3. Hardie, R. C., Satoh, A. K. and Liu, C-H. (2012) Regulation of arrestin translocation by Ca2+ and Myosin III in Drosophila photoreceptors. J. Neurosci ., 32, 9205-16 (2012) ンに加え TRAM や TRAP/SSR などが関与することが報告されているが、特に複 ない。 体の大規模なスクリーニングを行い、多くの輸送の変異体と共に EMC(ER membrane protein complex)の 3 つのサブユニットの変異体を単離した。 EMC は、広く真核生物に存在すること、その欠損が UPR(unfolded protein response)をひきおこすことなどから、膜タンパク質のシャペロン機能を持 つと考えられている。しかし、我々の EMC 欠損変異体の解析から、EMC はす でに合成された膜タンパク質のフォールディングに関わるのではなく、複数 回膜貫通タンパク質の ER 膜への挿入に関与している可能性が高いと考えられ た。そこで本研究では、EMC が特定のタイプのヘリックスの膜への挿入やト ランスロコンからの離脱に関与するかどうかの検討を行い、EMC による膜タ ンパク質生合成の分子機構を解明する事を目的としている。 4. Satoh, A. K.#, Xia, H.#, Yan, L., Huang J., Hardie R. C. and Ready, D. F. (#: contribute equally) Arrestin translocation is stoichiometric to rhodopsin isomerization and accelerated by phototransduction in Drosophila photoreceptors. Neuron 67, 997-1008. (2010) 5. Liu, C-H., Satoh, A. K., Postma, M., Huang J., Ready, D. F. and Hardie R. C. Ca2+ dependent Metarhodopsin inactivation mediated by calmodulin and NINAC Myosin III. Neuron . 59, 778-789. (2008) 6. Satoh, A. K., Li, B., Xia, H. and Ready D. F. Calcium-activated Myosin V closes the Drosophila pupil. Current Biology . 18, 951-955. (2008) 7. Li, B.#, Satoh, A. K.# and Ready D. F. (#: contribute equally) Myosin-V, Rab11 and dRip11 direct apical secretion and cellular morphogenesis in developing Drosophila photoreceptors J. Cell Biol . 177, 659-69. (2007) 8. Satoh, A. K. and Ready D. F. Arrestin1 mediates light-dependent endocytosis and cell survival. Current Biology . 15, 1722-33. (2005) 9. Satoh, A. K., O Tousa J. E., Ozaki, K. and Ready D. F. Rab11 mediates post-Golgi trafficking of rhodopsin to the photosensitive apical membrane of Drosophila photoreceptors. Development . 132, 1487-97. (2005) 29 Research: ストレス依存的な小胞体膜上での 新生鎖品質管理機構の解明 西頭 英起 宮崎大学・医学部機能生化学 教授 http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/2bio/ 新規合成タンパク質の多くが翻訳後、比較的早く分解されるといわれてい る。さらに、多くのポリソームが小胞体に結合していることと併せ考えると、 小胞体上での新生鎖分解システムを明らかにすることは、真核生物の新生鎖 品質管理機構の中心を明らかにすることに繋がる。細胞は、ストレス時に更な る小胞体負荷を避けるシステムとして、本来小胞体に挿入されるべきシグナ ル配列を持つタンパク質を細胞質内で翻訳し直接分解する(ER pre-emptive Quality Control)。しかし、そのメカニズムは全く不明である。本研究では、小 胞体結合リボソームでの新生鎖品質管理機構(ER pQC)の分子メカニズムなら びに生理的意義とその破綻による疾患の病態メカニズムを解明することを目 的とする。 ER pQC は、in cell 実験によりその現象が観察されているものの、はたして 「生理的に機能しているのか?」 「そこに関わる分子は?」など不明な点が多い。 我々は ALS 病態分子メカニズムに関する研究の過程で、Derlin-1の獲得性機能 障害により、シグナル配列を持つ新生ポリペプチド鎖が細胞質内に蓄積する ことを発見した。従って実際の疾患病態において、この新生鎖品質管理機構の 破綻の関与を示唆する結果を得ている。本研究では、ER pQC の in cell および in vitro 再構成実験系により、そこに関わる分子群を同定することを目指す。 また、ER pQC の生理的意義を明らかにするために、基質となる分子の同定を 行う。 ■ 代表的な論文 1. Homma, K., Fujisawa, T., Tsuburaya, N., Yamaguchi, N., Kadowaki, H., Takeda, K., Nishitoh, H., Matsuzawa, A., Naguro, I., and *Ichijo, H. SOD1 as a molecular switch for initiating the homeostatic ER stress response under zinc deficiency. Mol. Cell 52: 75-86 (2013) 2. Yamaguchi, K., Takeda, K, Kadowaki, H., Ueda, I., Namba, Y., Ouchi, Y., *Nishitoh, H., and *Ichijo, H. Involvement of ASK1-p38 pathway in the pathogenesis of diabetes triggered by pancreatic ß cell exhaustion. Biochim. Biophys. Acta . 1830: 3656-3663 (2013) 3. Fujisawa, T., Homma, K., Yamaguchi, N., Kadowaki, H., Tsuburaya, N., Naguro, I., Matsuzawa, A., Takeda, K., Takahashi, Y., Goto, J., Tsuji, S., Nishitoh, H., and *Ichijo, H. A novel monoclonal antibody reveals a conformational alteration shared by amyotrophic lateral sclerosis-linked SOD1 mutants. Ann. Neurol . 72: 739–749 (2012) 4. *Sato, T., Sako, Y., Sho, M., Momohara, M., Suico, M. A., Shuto, T., Nishitoh, H., Okiyoneda, T., Kokame, K., Kaneko, M., Taura, M., Miyata, M., Chosa, K., Koga, T., Morino-Koga, S., Wada, I., and *Kai, H. STT3B-dependent posttranslational N-glycosylation as a surveillance system for secretory protein. Mol. Cell 47: 99-110 (2012) 5. Maruyama, T., Kadowaki, H., Okamoto, N., Nagai, A., Naguro, I., Matsuzawa, A., Shibuya, H., Tanaka, K., Murata, S., Takeda, K., *Nishitoh, H., and *Ichijo, H. CHIP-dependent termination of MEKK2 regulates temporal ERK activation required for proper hyperosmotic response. EMBO J . 29: 2501-2514 (2010) 6. Nagai, A., Kadowaki, H., Maruyama, T., Takeda, K., *Nishitoh, H., and Ichijo, H. USP14 inhibits ER-associated degradation via interaction with IRE1α . Biochem. Biophys. Res. Commun . 379: 995-1000 (2009) 7. Nishitoh, H., Kadowaki, H., Nagai, A., Maruyama, T., Yokota, T., Fukutomi, H., Noguchi, T., Matsuzawa, A., Takeda, K., and *Ichijo, H. ALS-linked mutant SOD1 induces ER stress- and ASK1dependent motor neuron death by targeting Derlin-1. Genes Dev . 22: 1451-1464 (2008) 8. Nishitoh, H., Matsuzawa, A., Tobiume, K., Saegusa, K., Takeda, K., Inoue, K., Hori, S., Kakizuka, A., and *Ichijo, H. ASK1 is essential for endoplasmic reticulum stressinduced neuronal cell death triggered by expanded polyglutamine repeats. Genes Dev . 16: 1345-1355 (2002) ■ 総説 1. Kato, H., and *Nishitoh, H. Stress responses from the endoplasmic reticulum in cancer. Front. Oncol . doi: 10.3389/fonc.2015.00093 (2015) 2. Kadowaki, H., and *Nishitoh, H. Signaling pathways from the endoplasmic reticulum and their role in diseases. Genes 4: 306-333 (2013) 30 Research: リボソームとトランスロコンの協調による 新生鎖の膜組み込み機構の解明 阪口 雅郎 兵庫県立大学・大学院生命理学研究科 教授 http://www.sci.u-hyogo.ac.jp/life/biochem1/index-j.html 真核細胞の小胞体にある膜結合リボソームは、分泌タンパク質・膜タンパ ク質の大半を合成している。このリボソームから伸長してくる新生鎖は、タン パク質膜透過チャネル「トランスロコン」を介して、膜透過し、あるいは膜に 組み込まれる。トランスロコンは新生鎖を順次スキャンし、膜透過か、膜組み 込みかを選択し、マルチスパン膜タンパク質の構造形成を制御する、いわば新 生鎖のハンドリング装置である。近年、我々はトランスロコン機能が、結合し ているリボソームによって制御され(JMB, 2013)、さらにその制御様式がリボ ソームトンネル内にある新生鎖の配列によって変化することを示唆してきた。 また、新生鎖上の正電荷のトランスロコン孔での透過停止の発見(JCS, 2011; Biochemistry, 2014)や、マルチスパン膜タンパク質の組み込みにおける1型 シグナルアンカーによる低疎水性鎖の膜組み込みの実証 (MBoC, 2103)など、 トランスロコンによる新生鎖のハンドリング機構の研究で成果をあげてきた。 本研究では、トランスロコン機能の解析を進めるとともに、リボソームによる トランスロコン制御の実像を追及し、膜タンパク質の構造形成の全容解明を 目指す。具体的には下記項目に焦点をあてる。 ①細胞内での膜透過一時的停止検出系の設定 ②リボソーム・トランスロコン複合体における新生鎖のダイナミクスの解析 ③リボソームによる新生鎖の認識とそれに伴うトランスロコン機能制御の解析 ④新奇膜透過停止検出系を用いた膜組み込み関連因子の新機能の解析および 新因子の探索 ■ 代表的な論文 1. Yamagishi, M., Onishi, Y., Yoshimura, S., Fujita, H., Imai, K., Kida, Y., and *Sakaguchi, M. A few positively charged residues slow movement of a polypeptide chain across the endoplasmic reticulum membrane. Biochemistry 53, 5375-5383 (2014) 2. Onishi, Y., Yamagishi, M., Imai, K., Fujita, H., Kida, Y., and *Sakaguchi, M. Stop-and-move of a marginally hydrophobic segment translocating across the endoplasmic reticulum membrane. J. Mol. Biol . 425, 3205-3216 (2013) 3. Yabuki, T., Morimoto, F., Kida, Y., and *Sakaguchi, M. Membrane translocation of lumenal domains of membrane proteins powered by downstream transmembrane sequences. Mol. Biol. Cell 24, 3123-3132 (2013) 4. Yamamoto, H., Fujita, H., Kida, Y., and *Sakaguchi, M. Pleiotropic effects of membrane cholesterol on protein translocation across the ER membrane. Biochemistry 51, 3596-3605 (2012) 5. Yamagishi, M., Fujita, H., Morimoto, F., Kida, Y., and *Sakaguchi, M. A sugar chain at a specific position in the nascent polypeptide chain induces forward movement during translocation through the translocon. J. Biochem ., 149, 591-600 (2011) 6. Fujita, H., Yamagishi, M., Kida, Y., and *Sakaguchi, M. Positive charges on the translocating polypeptide chain arrest movement through the translocon. J. Cell Sci . 124, 4184-4193 (2011) 7. Kida, Y., Kume, C., Hirano, M., and *Sakaguchi, M. Environmental transition of signal-anchor sequences during membrane insertion via the endoplasmic reticulum translocon. Mol. Biol. Cell 21, 418-429 (2010) 8. Fujita, H., Kida, Y., Hagiwara, M., Morimoto, F., and *Sakaguchi, M. Positive charges of translocating polypeptide chain retrieve an upstream marginal hydrophobic segment from the endoplasmic reticulum lumen to the translocon. Mol. Biol. Cell 21, 2045-2056 (2010) 9. Kida, Y., Morimoto, F., and *Sakaguchi, M. Signal-anchor sequence provides motive force for polypeptide chain translocation through the endoplasmic reticulum membrane. J. Biol. Chem . 284, 2861-2866 (2009) 10. Kida, Y., Morimoto, F., and *Sakaguchi, M. Two translocating hydrophilic segments of a nascent chain span the ER membrane during multispanning protein topogenesis. J. Cell Biol . 179, 1441-1452 (2007) 31 Research: 一時停止状態にある 翻訳の再開を保証する機構の解明 吉久 徹 兵庫県立大学・生命理学研究科 教授 http://www.sci.u-hyogo.ac.jp/life/biomecha/MolBioMech_Top/Welcome.html 真核生物の tRNA は、核で転写された後、様々な修飾を受けて成熟化し、最 終的には細胞質で翻訳因子として機能する。一部の tRNA は intron を含んだ前 駆体として転写されるが、その splicing は、mRNA とは異なり、タンパク質の みから成る酵素群が司る。我々は出芽酵母の splicing 酵素群が核内ではなく、 細胞質で働くこと、さらには、tRNA が核̶細胞質間をシャトルしていること を明らかにした(Science, 2005; Genes Cells, 2007)。引き続き、我々は、tRNA の核内輸送機構や tRNA のスプライシング、tRNA のイントロンそのものの研 究を進めている(RNA, 2011; eLife, 2015)。 他方、tRNA 型の細胞質スプライシング因子は、ごく一部ながら、mRNA の 細胞質スプライシングにも関わる。出芽酵母 tRNA ligase である Rlg1/Trl1は、 小胞体ストレス応答の 反応である HAC1 mRNA のスプライシングの際、切 り出された HAC1 エキソンの結合に必要である。通常時 HAC1 mRNA 前駆体 は翻訳停止状態でポリソーム上に保持されており、小胞体ストレス時にスプ ライスされてはじめて効率の良い翻訳が再開される。このような翻訳の一時 停止と適切なキューによる翻訳再開(「機動的翻訳停止」 )は、他にも、新生鎖 のフォルディング制御に基づくマルチドメインタンパク質の高次構造形成 や、新生鎖のオルガネラへの標的化等に必要である。翻訳の一時停止には、シ グナル認識粒子(SRP)依存、mRNA の2次構造依存、rare codon 依存等と幾つ かの機構があるが、SRP 依存性翻訳停止の解除を除くと、翻訳再開のキュー とその機構が明らかになっている例は少ない。我々は、mRNA の2次構造に依 存した HAC1 mRNA の翻訳停止状態からの細胞質スプライシングに伴う翻訳 再開では、先の Rlg1/Trl1が翻訳再開因子としても働くことを明らかにしてい る(MBoC, 2011)。さらに翻訳停止 mRNA とその新生鎖は、それぞれ、No-Go Decay(NGD)というの mRNA 品質管理と Ribosome Quality Control(RQC) というタンパク質品質管理に曝されている。逆に言えば、生物は機動的翻訳停 止と NGD・RQC を巧妙に使い分けていると考えられる。我々は新生鎖の機動 的翻訳停止が意味あるものであるために、何らかの翻訳再開機構やこれと共 役した NGD・RQC の ON-OFF 機構が存在すると推測し、これに関わる因子の 同定とその分子メカニズムの解明のために、我々の得意分野である tRNA 研究 の視点を生かして解析を進めている。具体的には、 ①我々が解析を進めてきた酵母 HAC1 mRNA について、翻訳再開のキューで ある細胞質スプライシングが実際の翻訳再開に結びつくための機構は何か を明らかにする。 ② rare codon に依存した翻訳一時停止に基づく新生鎖のポリソーム上での フォルディングに着目し、機動的翻訳停止と NGD や RQC とは競合状態にあ るのか、また、rare codon 依存の翻訳一時停止からの復帰に必要な因子はあ るのかを解明する。 32 ■ 代表的な論文 1. Takano, T., Kajita, T., Mochizuki, M., Endo, T., and *Yoshihisa, T. Cytosolic Hsp70 and co-chaperones constitute a novel system for tRNA import into the nucleus. eLife , 4, e04659 (2015) 2. Nozawa, K., Ishitani, R., Yoshihisa, T., Sato, M., Arisaka, F., Kanamaru, S., Dohmae, N., Mangroo, D., Senger, B., Becker, H. D., and *Nureki, O. Crystal structure of Cex1p reveals the mechanism of tRNA trafficking between nucleus and cytoplasm. Nucleic Acids Res ., 41: 3901-3914 (2013) 3. Mori, S., Kajita, T., Endo, T., and *Yoshihisa, T. The intron of tRNA-TrpCCA is dispensable for growth and translation of Saccharomyces cerevisiae. RNA , 17: 1760-1769 (2011) 4. Mori, T., Ogasawara, C., Inada, T., Englert, M., Beier, H., and *Yoshihisa, T. Dual functions of yeast tRNA ligase in the unfolded protein response: uncon- ventional cytoplasmic splicing of HAC1 pre-mRNA is not sufficient to release translational attenuation. Mol. Biol. Cell , 21: 3722-3734 (2010) 5. *Yoshihisa, T., Ohshima, C., Yunoki-Esaki, K., and Endo, T. Cytoplasmic splicing of tRNA in Saccharomyces cerevisiae. Genes Cells , 12, 285-297 (2007) 6. Takano, A., Endo, T., and *Yoshihisa, T. tRNA actively shuttles between the nucleus and cytosol in yeast. Science , 309, 140-142 (2005) 7. *Yoshihisa, T., Yunoki-Esaki, K., Ohshima, C., Tanaka, N., and Endo, T. Possibility of cytoplasmic pre-tRNA splicing: the yeast tRNA splicing endonuclease mainly localizes on the mitochondria. Mol. Biol. Cell , 14, 3266-3279 (2003) ■ 総説 *Yoshihisa, T. tRNA Subcellular Dynamics, in "Encyclopedia of Molecular Cell Biology and Molecular Medicine ," Wiley Inc ., in press. *Yoshihisa, T. Handling tRNA introns, archaeal way and eukaryotic way. Frontiers in Genetics , 5, e00213 (2014) *Yoshihisa, T. tRNA, new aspects in intracellular dynamics. Cell. Mol. Life Sci ., 63, 1813-1818 (2006) Research: mRNAディスプレイ法による 翻訳アレスト配列探索技術の開発 土居 信英 慶應義塾大学・大学院理工学研究科 准教授 https://sites.google.com/site/biomoleng12/home 翻訳アレスト配列は、新生鎖の翻訳伸長速度を調節し、様々な生命現象に関 与することが明らかになっているが、これまでに見出された翻訳アレスト配 列のモチーフは多様であり、未だ従来法では見つかっていない多くのアレス ト配列やその制御配列が存在する可能性も指摘されている。そこで本研究で は、これまでに私たちがタンパク質の試験管内進化や相互作用解析に活用し てきた「mRNA ディスプレイ法」を応用して、試験管内の様々な条件下で翻訳 速度を調節する天然および人工の翻訳アレスト配列を大規模に探索する技術 の開発を目指す。 mRNA ディスプレイ法では、終止コドンを含まない mRNA の3' 末端にポリ エチレングリコール(PEG)スペーサーを介してピューロマイシンを付加し、 それを鋳型として無細胞翻訳を行うことで、リボソームが mRNA の末端(PEG スペーサーの直前)で停止し、新生鎖の C 末端にピューロマイシンが共有結合 し、タンパク質 -mRNA 連結分子が形成される(図 A)。このとき mRNA の3' 末 端にポリ A を付加すると連結効率が向上することが先行研究で示されており、 その原因としてポリリジンが翻訳アレスト配列として働いた可能性が考えら れたことから、未知の翻訳アレスト配列の探索に mRNA ディスプレイ法を応 用できるのではないかという着想に至った。 実際、終止コドンを含む mRNA ではタンパク質 -mRNA 連結分子は形成され ないが、終止コドンの前に既知の翻訳アレスト配列を挿入することでタンパク 質 -mRNA 連結分子が形成されるようになることを確認した。そこで、図 B に示 すように、アフィニティー精製可能なペプチドタグの下流に多様な配列を付加 した DNA ライブラリーを作製し、①転写、②ライゲーション、および、③翻訳 を行うと、ペプチドタグの下流・終止コドンの上流でリボソームが停止する配 列でのみペプチド -mRNA 連結分子が形成されるはずである。この mRNA と連 結したペプチドタグを④試験管内選択した後、得られた mRNA を⑤逆転写する という①∼⑤の工程を数ラウンド繰り返し、最終的に⑥ NGS で配列解読するこ とで、翻訳アレスト配列を大規模に同定することが期待できる。 この mRNA ディスプレイ法による試験管内選択の利点は、1兆種類以上の莫 大な配列を含むライブラリーを作製できる点と、化合物の有無などの選択条 件を自由に設定できる点にある。本研究では、まず、大腸菌由来の PURE シス テムを用いて、以下の課題に着手する。 (1) 大腸菌ゲノムライブラリーからの新規の翻訳アレスト配列の試験管内選択 ■ 代表的な論文 1. Oyobiki, R., Kato, T., Katayama, M., Sugitani, A., Watanabe, T., Einaga, Y., Matsumoto, Y., Horisawa, K., *Doi, N. Toward high-throughput screening of NAD(P)dependent oxidoreductases using boron-doped diamond microelectrodes and microfluidic devices. Anal. Chem ., 86, 9570-9575 (2014) 2. Tokunaga, M., Shiheido, H., Hayakawa, I., Utsumi, A., Takashima, H., *Doi, N., Horisawa, K., Sakuma-Yonemura, Y., Tabata, N., Yanagawa, H. Hereditary spastic paraplegia protein spartin is an FK506-binding protein identified by mRNA Display. Chem. Biol ., 20, 935-942 (2013) 3. *Doi, N., Yamakawa, N., Matsumoto, H., Yamamoto, Y., Nagano, T., Matsumura, N., Horisawa, K., Yanagawa, H. DNA display selection of peptide ligands for a fulllength human G protein-coupled receptor on CHO-K1 cells. PLoS ONE , 7, e30084 (2012) 4. Shiheido, H., Takashima, H., *Doi, N., Yanagawa, H. mRNA display selection of an optimized MDM2-binding peptide that potently inhibits MDM2-p53 interaction. PLoS ONE , 6, e17898 (2011) 5. Tanaka, J., *Doi, N., Takashima, H., *Yanagawa, H. Comparative characterization of random-sequence proteins consisting of 5, 12 and 20 kinds of amino acids. Protein Sci ., 19, 786-795 (2010) 6. Sumida, T., *Doi, N., *Yanagawa, H. Bicistronic DNA display for in vitro selection of Fab fragments. Nucleic Acids Res ., 37, e147 (2009) 7. Horisawa, K., Doi, N., *Yanagawa, H. Use of cDNA tiling arrays for identifying proteininteractions selected by in vitro display technologies. PLoS ONE , 3, e1646 (2008) 8. Kawahashi, Y., Doi, N., Oishi, Y., Tsuda, C., Takashima, H., Baba, T., Mori, H., Ito, T., *Yanagawa, H. High-throughput fluorescence labeling of full-length cDNA products based on a reconstituted translation system. J. Biochem ., 141, 19-24 (2007) 9. Fukuda, I., Kojoh, K., Tabata, N., Doi, N., Takashima, H., Miyamoto-Sato, E., *Yanagawa, H. In vitro evolution of single-chain antibodies using mRNA display. Nucleic Acids Res ., 34, e127 (2006) 10. Doi, N., Kakukawa, K., Oishi, Y., *Yanagawa, H. High solubility of random-sequence proteins consisting of five kinds of primitive amino acids. Protein Eng. Des. Sel ., 18, 279-284 (2005) (2) ランダム配列ライブラリーからの翻訳アレスト配列モチーフの大規模探 索・予測 (3) 任意の化合物の結合により翻訳アレストをオン・オフ可能な人工制御配列 の創出 33 Research: 新生鎖による小胞体レドックス制御− 新生鎖による還元力の獲得 潮田 亮 京都産業大学・総合生命科学部 助教 http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~nagata/index-j.html リボソームから合成された新生ポリペプチド鎖(新生鎖)は、システイン残 基のチオール基が開裂(還元)状態で小胞体に挿入され、立体構造形成に寄与 するジスルフィド結合の形成(酸化)はその機能発現に必須である。タンパク 質のジスルフィド結合形成の場として小胞体が優れている点は、レドックス 環境がサイトゾルと比較し、酸化的に保たれ、自発的なジスルフィド結合形成 が起こりやすいこと、また約20種類の酸化還元酵素によってこれらタンパク 質のジスルフィド結合が触媒されることにある。タンパク質のフォールディ ングに伴うジスルフィド酸化異性化酵素は、基質から電子を受け取ることで 基質のジスルフィド結合形成を触媒する。この電子の流れは小胞体でネット ワークを形成し、最終的に Ero1-PDI 複合体が電子を酸素分子に受け渡す(K. Araki et al. J. Cell Biol . 2013)。このようにタンパク質の新生から成熟の過程 でタンパク質の酸化が密接に関わる事が明らかにされる一方で、小胞体内腔 の還元酵素の存在は不明であった。 我々は、小胞体で初めて還元活性に特化したジスルフィド還元酵素 ERdj5 を同定し、分解基質のジスルフィド結合を還元し、再び一本のポリペプチド 鎖にすることによって小胞体からサイトゾルへの効率よく逆行輸送させてい ることを示した(R. Ushioda et al. Science 2008、R. Ushioda et al. Mol. Biol. Cell . 2013)。また、ERdj5全長の結晶構造を解き(M. Hagiwara et al. Mol. Cell 2011)、構造解析を基盤としたより詳細な分子メカニズムの解明に貢献してき た。 しかし、小胞体内腔のレドックス制御機構はいまだ不明な点が多く、特に、 小胞体における還元ソースとそのパスウェイは全く同定されていない。グル タチオンや NADP(H) は小胞体内腔のレドックス環境を構成しているが、その 還元力を還元酵素に提供している証拠はなく、世界的にも多くの研究者が還 元メカニズムの解明に注目している。 本研究では、未だにわかっていない ERdj5の還元メカニズムに関して、新生 鎖に着目し、小胞体に挿入された新生鎖の還元力が小胞体のレドックス環境 に与える影響、および ERdj5への還元力の供給に着目して研究を行っている。 34 ■ 代表的な論文 1. Kawasaki K, *Ushioda R, Ito S, Ikeda K, Masago Y, *Nagata K Deletion of the Collagen-specific Molecular Chaperone Hsp47 Causes Endoplasmic Reticulum Stress-mediated Apoptosis of Hepatic Stellate Cells. J Biol Chem . 290. 3639-3646 (2015) 2. Avezov E, Konno T, Zyryanova A, Chen W, Laine R, Crespillo-Casado A, Melo E, Ushioda R, Nagata K, Kaminski CF, Harding HP, *Ron D Retarded PDI diffusion and a reductive shift in poise of the calcium depleted endoplasmic reticulum BMC Biol . 10;13(1):2 (2015) 3. R. Ushioda, J. Hoseki, *K. Nagata Glycosylation-independent ERAD patway serves as a backup system under ER stress. Mol Biol Cell . 24(20):3155-63 (2013) 4. M. Hagiwara, K. Maegawa, M. Suzuki, R. Ushioda, K. Araki, Y. Matsumoto, J. Hoseki, *K. Nagata and *K. Inaba Structural basis of an ERAD pathway mediated by the ER-resident protein disulfide reductase ERdj5. Mol Cell . 41(4):432-444 (2011) 5. R. Ushioda, J.Hoseki, K.Araki, G.Jansen , D.Y.Thomas, & *K.Nagata ERdj5 is required as a disulfide reductase for degradation of misfolded proteins in the ER. Science 321 (5888):569-72 (2008) ■ 総説 R. Ushioda and *K. Nagata The endoplasmic reticulum-associated degradation and disulfide reductase ERdj5. (review) Methods Enzymol. 490:235-58 (2011) J. Hoseki, R. Ushioda and *K. Nagata Mechanism and components of endoplasmic reticulumassociated degradation. (review) Journal of Biochemistry 147(1):19-25(2010). Research: N 末アレスト配列による 巨大新生鎖の翻訳速度調節 森戸 大介 京都産業大学・総合生命科学部 主任研究員 http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~nagata/index-j.html 我々は、遺伝疫学のグループと共同で、脳血管疾患モヤモヤ病の感受性因 子として新規遺伝子ミステリンを同定・単離した(Liu, Morito (co-first) et al, PLoS ONE , 2011)。ミステリン C 末端付近のミスセンス変異により、モヤモヤ 病罹患リスクは100倍以上上昇していた。またゼブラフィッシュの血管・筋肉 形成にミステリンが必須であること、ユビキチンリガーゼ活性と AAA+ ATP アーゼ活性を持ち、3.5MDa の巨大複合体を形成することなどを明らかにして きた(Morito et al, Sci Rep , 2014)。現在、ミステリンの生理・病態機能につい てさらに解析を進めているが、最近、ミステリンの N 末端近傍に、強い翻訳ア レスト配列が含まれていることを見出した。変異の導入により翻訳アレスト を解除すると、驚いたことに全長ミステリンの合成はむしろ低下していた。こ のことから、ミステリンタンパク質の合成・フォールディングには、アレスト 配列による翻訳スピードの抑制がむしろ正にはたらいていることが示唆され ■ 代表的な論文 1. Morito D, Nishikawa K, Hoseki J, Kitamura A, Kotani Y, Kiso K, Kinjo M, Fujiyoshi Y, Nagata K. Moyamoya disease-associated protein mysterin/RNF213 is a novel AAA+ ATPase, which dynamically changes its oligomeric state. Sci Rep . 2014 Mar 24;4:4442. 2. Liu W, Morito D (co-first author), Takashima S, Mineharu Y, Kobayashi H, Hitomi T, Hashikata H, Matsuura N, Yamazaki S, Toyoda A, Kikuta K, Takagi Y, Harada KH, Fujiyama A, Herzig R, Krischek B, Zou L, Kim JE, Kitakaze M, Miyamoto S, Nagata K, Hashimoto N, Koizumi A. Identification of RNF213 as a susceptibility gene for moyamoya disease and its possible role in vascular development. PLoS One . 2011;6(7):e22542. 3. Morito D, Hirao K, Oda Y, Hosokawa N, Tokunaga F, Cyr DM, Tanaka K, Iwai K, Nagata K. Gp78 cooperates with RMA1 in endoplasmic reticulumassociated degradation of CFTRDeltaF508. Mol Biol Cell . 2008 Apr;19(4):1328-36. た。また、他の巨大タンパク質について検索を行ったところ、同様の配列が見 ■ 総説 出された。本課題では、ミステリンおよび巨大タンパク質一般における翻訳抑 1. Morito D, Nagata K. ER Stress Proteins in Autoimmune and Inflammatory Diseases. Front Immunol . 2012;3:48. 制のメカニズムと、その生理的意義の解明を目指す。 35 Research: 新生鎖の翻訳および フォールディングの実時間測定系の開発 渡辺 洋平 甲南大学・理工学部 准教授 http://www.konan-u.ac.jp/hp/bio-watanabe/ タンパク質は、あらゆる生命現象を直接的に担う分子であり、新生タンパク 質(新生鎖)の合成・成熟は、生命の根本に関わる重要な過程である。最近の 研究から、細胞は、周囲の環境に応答しながら、この過程を適正に進行させる ための様々な仕組みを持つことが分かってきた。 「合成」においては、mRNA の二次構造や異常、アミノアシル tRNA の供給、新生鎖とリボソームのトンネ ルとの相互作用などが、タンパク質の合成速度をダイナミックに変化させる。 これらの現象は、細胞が周囲の環境を感知し、どのタンパク質を、いつ、どの 程度合成するのかを、翻訳レベルで調節する仕組みとして注目されている。ま た「成熟」においては、分子シャペロンをはじめとする様々な因子が協力して、 新生鎖を正しい場所で、正しい立体構造へとフォールディングさせる。こうし た「新生鎖」に関わる現象の分子基盤を解明したり、新たな現象を見つけたり するためには、 「翻訳速度」や「フォールディング速度」を高い時間分解能で、 感度よく、簡便に測定できる技術が重要である。 私たちはこれまで、主に分子シャペロン ClpB/Hsp104 と DnaK/Hsp70 シス テムの生化学的研究を行ってきた。両システムは、ATP のエネルギーを利用し て、互いに協力し、凝集したタンパク質を解きほぐす(脱凝集)ことができる。 この研究を進める過程で、私たちは「分子シャペロンの構造変化」や「凝集タ ンパク質の局所的構造」を検出する方法を開発してきた。 本研究では、これまでの研究で得られた知見を応用し、新生鎖の「翻訳」と 「フォールディング」の実時間測定系の構築を目指す。 ■ 代表的な論文 1. Yamasaki, T., Oohata, Y., Nakamura, T., and *Watanabe, YH. Analysis of the cooperative ATPase cycle of the AAA+ chaperone ClpB from Thermus thermophilus by using ordered heterohexamers with an alternating subunit arrangement. J. Biol. Chem ., 290, 9789-9800 (2015) 2. Nakazaki, Y. and *Watanabe, YH. ClpB chaperone passively threads soluble denatured proteins through its central pore. Genes Cells , 19, 891-900 (2014) 3. Mizuno, S., Nakazaki, Y., Yoshida, M., and *Watanabe, YH. Orientation of the amino-terminal domain of ClpB affects the disaggregation of the protein. FEBS J ., 279, 1474-1484 (2012) 4. Yamasaki, T., Nakazaki, Y., Yoshida, M., and *Watanabe, YH. Roles of conserved arginines in ATP-binding domains of AAA+ chaperone ClpB from Thermus thermophilus. FEBS J ., 278, 2395-2403 (2011) 5. Mizutani, T., Nemoto, S., Yoshida, M., and *Watanabe, YH. Temperature-dependent regulation of Thermus thermophilus DnaK/DnaJ chaperones by DafA protein. Genes Cells ., 14, 1405-1413 (2009) 6. *Watanabe, YH., Nakazaki, Y., Suno, R., and Yoshida, M. Stability of the two wings of the coiled-coil domain of ClpB chaperone is critical for its disaggregation activity. Biochem. J ., 421, 71-77 (2009) 7. Watanabe, YH., Takano, M., and *Yoshida, M. ATP binding to nucleotide binding domain (NBD)1 of the ClpB chaperone induces motion of the long coiledcoil, stabilizes the hexamer, and activates NBD2. J. Biol. Chem ., 280, 24562-24567 (2005) 8. Watanabe, YH. and *Yoshida, M. Trigonal DnaK-DnaJ complex versus free DnaK and DnaJ: heat stress converts the former to the latter, and only the latter can do disaggregation in cooperation with ClpB. J. Biol. Chem ., 279, 15723-15727 (2004) 9. Lee, S., Sowa, ME., Watanabe, YH., Sigler, PB., Chiu, W., Yoshida, M., and *Tsai, FT. The structure of ClpB: a molecular chaperone that rescues proteins from an aggregated state. Cell , 115, 229-240(2003) 10. Watanabe, YH., Motohashi, K., and *Yoshida, M. Roles of the two ATP binding sites of ClpB from Thermus thermophilus. J. Biol. Chem ., 277, 5804-5809 (2002) 36 Research: ピコルナウイルスの2Aペプチドの 終止コドン非依存的翻訳終結の構造基盤 伊藤 拓宏 理化学研究所・ ライフサイエンス技術基盤研究センター ユニットリーダー http://www.riken.jp/research/labs/clst/struct_synth_biol/struct_biol/transl_fact_struct_biol/ ピコルナウイルスのコードする 2A ペプチドの C 末端領域は「8(G/H)D(V/I) ExNPGP-1」というアミノ酸配列の特徴をもち、新生鎖の働きにより C 末端の -1位のプロリンはその N 末端側の1位のグリシンには付加されず翻訳が終結す る。興味深いことにこの終結反応は翻訳終結因子 eRF を必要としない。その後 リボソームはかい離することなく、-1 位のプロリンを N 末端アミノ酸とした 新たな2B ペプチド鎖の伸長が始まる。本研究では、2A ペプチドが C 末端の1位 のグリシンまで翻訳されて停止した状態のリボソームの立体構造を X 線結晶 構造解析、あるいは低温電子顕微鏡による単粒子解析により決定し、なぜ2A ペプチジル tRNAGly はプロリル tRNAPro とペプチド転移反応を起こさないのか、 さらにはなぜ2A ペプチジル tRNAGly の切断反応が起こるのかを構造生物学的 視点から明らかにすることを最終的な目的とする。 ■ 代表的な論文 1. Ito, T., Masuda, I., Yoshida, K., Goto-Ito, S., Sekine, S., Suh, S.W., Hou, Y.-M. and Yokoyama, S. (2015) Structural Basis for methyl-donor-dependent and sequence-specific binding to tRNA substrates by knotted methyltransferase TrmD. Proc Natl Acad Sci U S A , 112, E4197-E4205. (Epub 2015 Jul 16) 2. Kuwasako, K., Takahashi, M., Unzai, S., Tsuda, K., Yoshikswa, S., He, F., Kobayashi, N., Guntert, P., Shirouzu, M., Ito, T., Tanaka, A., Yokoyama, S., Hagiwara, M., Kuroyanagi, H. and Muto, Y. (2014) RBFOX and SUP-12 sandwich a G base to cooperatively regulate tissue-specific splicing. Nat Struct Mol Biol, 21, 778-86. 3. Kashiwagi, K., Ito, T. and Yokoyama, S. (2014) Crystal structure of the eukaryotic translation initiation factor 2A from Schizosaccharomyces pombe. J Struct Funct Genomics , 15, 125-130. 4. Georges, L., Goto-Ito, S., Yoshida, K., Ito, T., Yokoyama, S. and Hou, Y.-M. (2011) Differentiating analogous tRNA methyltransferases by fragments of the methyl donor. RNA , 17, 1236-1246. 5. Ito, T. and Yokoyama, S. (2010) Two enzymes bound to one transfer RNA assume alternative conformations for consecutive reactions. Nature , 467, 612-616. 6. Ito, T., Kiyasu, N., Matsunaga, R., Takahashi, S. and Yokoyama, S. (2010) Crystal structure of nondiscriminating glutamyl-tRNA synthetase from Thermotoga maritima. Acta Crystallogr D Biol Crystallogr , 66, 813-820. 7. Goto-Ito, S., Ito, T., Kuratani, M., Bessho, Y. and Yokoyama, S. (2009) Tertiary structure checkpoint at anticodon loop modification in tRNA functional maturation. Nat Struct Mol Biol , 16, 1109-1115. 8. Hiyama, T.B., Ito, T., Imataka, H. and Yokoyama, S. (2009) Crystal Structure of the alpha subunit of human translation initiation factor 2B. J Mol Biol , 392, 937-951. 9. Ito, T., Marintchev, A. and Wagner, G. (2004) Solution structure of human initiation factor eIF2α reveals homology to the elongation factor eEF1B. Structure , 12, 1693-1704 10. Kato, M., Ito, T., Wagner, G. and Ellenberger, T. (2004) A molecular handoff between bacteriophage T7 DNA primase and T7 DNA polymerase initiates DNA synthesis. J Biol Chem , 279, 30554-62 37 Research: ポリペプチド鎖合成におけるレアコドンによる 正の折り畳み制御機構の検討 鵜澤 尊規 理化学研究所・伊藤ナノ医工学研究室 専任研究員 http://www.riken.jp/nano-med.eng.lab/ タンパク質が合成される際、折り畳みよりも翻訳が遅いため、新生タンパク 質の部分構造がリボソーム上で形成される。律速となる翻訳の速度は、翻訳系 における各コドンの使用頻度に大きく依存するといわれており、使用頻度の 低いコドンが集中する mRNA 領域では翻訳速度が低下するとされている。翻 訳速度の低下はタンパク質合成の回転率から考えると負の側面となるものの、 リボソームトンネルを抜け出た新生鎖ポリペプチドが複雑な立体構造を形成 するための時間的な猶予を与えているという正の側面が提唱されている。し かしながら、リボソーム上での新生タンパク質の構造を観測する手法は、新生 タンパク質の機能発現を調べる方法や、新生タンパク質に対する抗体を使っ た間接的な手法に限られていた。近年、蛍光を使った新生タンパク質の観測手 法が提案されており、リボソーム上での新生タンパク質の折り畳みに関する 情報が蓄積されてきているものの一般的な方法とはなっておらず、試験管内 でのタンパク質のリフォールディング実験のように様々なタンパク質で系統 だって調べられる状況にはなっていない。 そこで我々は、これまでに人工抗体アプタマーを創出するために進化分子 工学で用いていた「大腸菌の再構築型無細胞翻訳系(PURE システム)」と「蛍 光性の非天然アミノ酸をタンパク質に導入する技術」を応用することで、様々 な新生タンパク質のリボソーム上での構造形成過程を直接観察しようと考え た。このような新生タンパク質の構造形成過程の直接観察と、従来のタンパク 質の機能解析に基づいた間接的な新生タンパク質の構造解析手法を組み合わ せることで、アミノ酸レベルでの新生タンパク質の構造形成過程の解明を目 指す。 ■ 代表的な論文 1. W. Wang, T. Uzawa, N. Tochio, J. Hamatsu, Y. Hirano, S. Tada, H. Saneyoshi, T. Kigawa, N. Hayashi, Y. Ito, M. Taiji, T. Aigaki, and *Y. Ito, "A fluorogenic peptide probe developed by in vitro selection using tRNA carrying a fluorogenic amino acid", Chem Commun ., 50, 2962-2964 (2014) 2. A. Shibata, T. Uzawa, Y. Nakashima, M. Ito, Y. Nakano, S. Shuto, Y. Ito, and *H. Abe, "Very rapid DNA templated reaction for efficient signal amplification and its steady-state kinetic analysis of the turnover cycle", J. Am. Chem. Soc ., 135, 14172–14178 (2013) 3. A. Vallée-Bélisle, F. Ricci, T. Uzawa, F. Xia, and *K. W. Plaxco. "Bioelectrochemical Switches for the Quantitative Detection of Antibodies Directly in Whole Blood" J. Am. Chem. Soc ., 134, 15197–15200 (2012) 4. T. Uzawa, R. R. Cheng, R. J. White, D. E. Makarov and *K. W. Plaxco. "A Mechanistic Study of Electron Transfer from the Distal Termini of Electrode-Bound, Single-Stranded DNAs" J. Am. Chem. Soc . 132, 16120-16126 (2010) 5. Y. Xiao, K. Dane, T. Uzawa, A. Csordas, J. Qian, T. Soh, P. Daugherty,E. Lagally, A. Heeger, and *K. W. Plaxco. "Detection of Telomerase Activity in High Concentration of Cell Lysates Using Primer-Modified Gold Nanoparticles" J. Am. Chem. Soc . 132, 15299-15307 (2010) 6. Y. Xiao, X. Lou, T. Uzawa, K. Plakos, K. W. Plaxco, and *H. Soh, "An Electrochemical Sensor for Single Nucleotide Polymorphism Detection in Serum Based on a TripleStem DNA Probe" J. Am. Chem. Soc . 131, 15311-15316 (2009) 7. T. Uzawa, C. Nishimura, K. Ishimori, S. Takahashi, S. Akiyama, H. J. Dyson and *P. E. Wright. "Hierarchical folding mechanism of apomyoglobin revealed by ultra-fast H/D exchange coupled with 2D NMR" Proc. Natl. Acad. Sci. USA , 105 (37), 13859-13864 (2008) 8. T. Uzawa, T. Kimura, K. Ishimori, I. Morishima, T. Matsui, M. Ikeda-Saito, S. Takahashi, S. Akiyama and *T. Fujisawa. "Time-Resolved Small Angle X-ray Scattering Investigation on the Folding Dynamics of Heme Oxygenase: Implication of the Scaling Relationship for the Submillisecond Intermediates of Protein Folding" J. Mol. Biol ., 357 (3), 997-1008 (2006) 9. T. Kimura, T. Uzawa, K. Ishimori, I. Morishima, S. Takahashi, T. Konno, S. Akiyama and *T. Fujisawa. "Specific collapse followed by slow hydrogen-bond formation of β -sheet in the folding of single-chain monellin" Proc. Natl. Acad. Sci. USA , 102 (8), 2478-2753 (2005) 10. T. Uzawa, S. Akiyama, T. Kimura, S. Takahashi, K. Ishimori, I. Morishima and *T. Fujisawa. "Collapse and search dynamics of apomyoglobin folding revealed by submillisecond observations of α -helical content and compactness" Proc. Natl. Acad. Sci. USA , 101 (5), 1171-1176 (2004) ■ 総説 T. Uzawa, S. Tada, W. Wang, and *Y. Ito, "Expansion of Aptamer Library from "Natural soup" to "Unnatural soup"", Chem. Comm ., 49 (18), 1786 – 1795 (2013) 38 Research: 神経発生を司るmTORシグナル伝達経路 依存的新生鎖合成制御機構の解析 池内 与志穂 東京大学・生産技術研究所 講師 http://www.bmce.iis.u-tokyo.ac.jp/ mTOR シグナル伝達経路はタンパク質合成を中心とした細胞内代謝を調節 し、神経の形態形成、シナプス形成、細胞移動などの重要な発生段階を制御す る。mTOR シグナル伝達経路を負に制御する TSC1と TSC2の変異は脳の発達障 害を伴う結節性硬化症を引き起こすことからも、mTOR シグナル伝達経路が ヒトの正常な脳の発生に重要であることは明らかである。しかし、mTOR シグ ナル伝達経路がどのような新生鎖タンパク質の合成を制御することが正常な 神経発生に重要であるかは十分に理解されていない。そこで本研究では、幹細 胞から神経への分化の過程において網羅的に mTOR シグナル依存的に合成が 制御される新生鎖タンパク質を探索する。同定された全長タンパク質、あるい は合成途中の新生鎖の機能を解析し、神経発生における役割を明らかにする。 mTOR シグナル伝達経路と合成途中の新生鎖蓄積の関連を調べることにより、 神経系細胞の発生と結節性硬化症における新生鎖の合成制御機構および役割 の理解を目指す。 ■ 代表的な論文 1. Huang J, Ikeuchi Y, Malumbres M, Bonni A. A Cdh1-APC/FMRP Ubiquitin Signaling Link Drives mGluR-Dependent Synaptic Plasticity in the Mammalian Brain. Neuron . 86,726-39 (2015) 2. Ikeuchi Y, Dadakhujaev S, Chandhoke AS, Huynh MA, Oldenborg A, Ikeuchi M, Deng L, Bennett EJ, Harper JW, Bonni A, Bonni S. TIF1γ protein regulates epithelial-mesenchymal transition by operating as a small ubiquitin-like modifier (SUMO) E3 ligase for the transcriptional regulator SnoN1. J Biol Chem . 289, 25067-78. (2014) 3. Ikeuchi Y, de la Torre-Ubieta L, Matsuda T, Steen H, Okazawa H, Bonni A. The XLID Protein PQBP1 and the GTPase Dynamin 2 Define a Signaling Link that Orchestrates Ciliary Morphogenesis in Postmitotic Neurons. Cell Reports , 4, 879-89, (2013) 4. Mejia LA, Litterman N, Ikeuchi Y, de la Torre-Ubieta L, Bennett EJ, Zhang C, Harper JW, Bonni A. A Novel Hap1-Tsc1 Interaction Regulates Neuronal mTORC1 Signaling and Morphogenesis in the Brain Journal of Neuroscience , 33, 18015-21, (2013) 5. Huynh MA, Ikeuchi Y, Netherton S, de la Torre-Ubieta L, Kanadia R, Stegmüller J, Cepko C, Bonni S, Bonni A. An isoform-specific SnoN1-FOXO1 repressor complex controls neuronal morphogenesis and positioning in the mammalian brain Neuron , 69, 930-44, (2011) 6. Litterman N, Ikeuchi Y, Gallardo G, O'Connell BC, Sowa ME, Gygi SP, Harper JW, Bonni A. An OBSL1-Cul7Fbxw8 ubiquitin ligase signaling mechanism regulates Golgi morphology and dendrite patterning. PLoS Biology 9, e1001060, (2011) 7. Ikeuchi Y, Kimura S, Numata T, Nakamura D, Yokogawa T, Ogata T, Wada T, Suzuki T, Suzuki T. Agmatine-conjugated cytidine in a tRNA anticodon is essential for AUA decoding in archaea. Nature Chemical Biology , 6, 277-82, (2010) 8. Ikeuchi Y, Stegmüller J, Netherton S, Huynh MA, Masu M, Frank D, Bonni S, Bonni A. A SnoN-Ccd1 Pathway Promotes Axonal Morphogenesis in the Mammalian Brain. Journal of Neuroscience , 29, 4312-21, (2009) 9. Ikeuchi Y, Kitahara K, Suzuki T. The RNA acetyltransferase driven by ATP hydrolysis synthesizes N4-acetylcytidine of tRNA anticodon. EMBO Journal , 27, 2194-203, (2008) 10. Ikeuchi Y, Shigi N, Kato J, Nishimura A, Suzuki T. Mechanistic insights into sulfur-relay by multiple sulfur mediators inved in thiouridine biosynthesis at tRNA wobble positions. Molecular Cell , 21, 97-108, (2006) 39 Meeting Report:01 新学術領域「新生鎖の生物学」 第1回 若手ワークショップ 2015年3月8日∼10日の3日間、八王子セミナーハウスにお ディスカッションが何よりも大事だろう、ということで、私 いて第一回若手ワークショップが開催されました。このワー の方から冒頭の挨拶で「参加者全員、1 人 1 回は質問をしま クショップは研究の「現場」に直接携わっている助教・ポス しょう」とお願いをしました。実際に全員が質問できたかど ドクらが一同に集まり、お互いの研究内容について議論を交 うかはわかりませんが、そのおかげか発表後の質問が止まる わしさらなる発展を目指すとともに、実際に「現場」で手を 事もなく、むしろどんどん押していく時間をどうやりくりし 動かしている学生が自らの研究内容について発表をする場 ようかを常に悩むほどでした。学生にもっともっと質問し を作ることを目的として行われました。参加者総勢44名、う てもらおうと、敢えて?主催者自ら(つまり私)が率先して ち学生が29 名(大学院生20 名+学部生9 名)という非常に若 馬鹿な質問をして自分の無知をさらけ出していたとかいな いメンバーで熱い3日間を過ごしました。 かったとか…。これは私の個人的な意見ですが、多少「これ 主な発表者が各研究室の学生ということで発表内容に未 発表のデータが含まれることが予想されたので、発表内容は 非公開で行わせて頂きました。そのため研究内容についてこ こで詳しく書く事はできないのですが、 「新生鎖」というキー ワードの下、各研究室が得意とする実験手法を最大限に活用 して様々な対象に切り込んでいく研究発表が盛りだくさん で、とてもエキサイティングな会となりました。また通常の 研究発表に加え、実験の「手法」に特化した技術講習会も試 験的に行われ、3人の発表者にそれぞれ「ショ糖密度勾配遠 に若いうちは、って私もまだまだ若輩者ですが…)どんどん 質問をしていったほうがよいと思っています。はじめは下手 な質問をしてしまうことも多いかも知れませんが、やってい くうちにだんだんとうまくなっていくものです。もっともっ と質問をぶつけてたくさんディスカッションをする、これこ そが若手中心の会の醍醐味だと私は思っています。そういう 意味では質疑応答の時間はまだまだ足りていなかったよう な…これは次回以降への反省点にして頂ければ幸いです。 心」、 「無細胞タンパク質合成系」、 「蛍光相関分光法」という とはいえやっぱりみんなの前で質問をするのはちょっと テーマの下で、手法の原理や実際の測定方法などについてご 恥ずかしい…という人のために(?)、夜のセッションの後 講演をして頂きました。このような講習会が新たな共同研究 には自由討論の時間が設けられました。もちろんここでも の萌芽のきっかけになれば、と考えています。 若い力が爆発し、夜遅くまで、文字通り何時間もディスカッ せっかく若手だけで集まったのだから、身分も学年も関係 なくみんなで一緒にサイエンスに没頭したい、そのためには 会場写真 40 聞いちゃっても大丈夫かな?」って思うような質問でも(特 ションを重ねていた方もたくさんいたようです。本当に新し いことを見いだすためには、こういった自由な議論というの 懇親会のようす も大事だ(むしろそういう時にこそ思わぬひらめきが出るか があるのならみんなでどんどん参加していったほうがきっ も?)と、私個人としては思っています。 と楽しいし、後々の大きな実りにも繋がっていくのだと思い 睡眠時間を削り、ひたすら頭を回転させ、ひたすらみんな と話をする。なかなかにハードな3日間でしたが、きっと多 くの参加者の方に満足して頂けたのではないかと、主催者と ます。若手ワークショップは第二回以降も開催される予定で すので、是非とも皆様の積極的なご参加をよろしくお願いし ます。 して勝手に思っています。 「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆 丹羽 達也 (東京工業大学・大学院生命理工学研究科 田口研究室) なら踊らにゃ損々」ではありませんが、せっかく踊れる舞台 不勉強でして , 今まで新生鎖がどのような生命現象に関わ 領域が始動して間もないために , 歩み出したばかりという るのか全体像が掴めておらず , 新生鎖研究を上手く流れとし 研究も多くありました . そのような研究の発表ではどのよう て捉えられていませんでした . しかし , 今回のワークショッ な進め方をしていくのか , どう詰めていくのかといった着 プでの話を聞いていますと , 個々の発表が新生鎖の合成機構 , 想の流れが詳らかに見え , そうしたことは自分の研究室以外 品質管理 , 新生鎖が持つ機能 , 疾患との関わりなどと , 内容が では見る機会がほとんど有りませんので , 非公開のワーク 多岐に渡りながらも互いに関連しあい , 上質な研究ばかりで ショップならではの事かと思いますが , このような考え方も したので , 様々な流れが新生鎖という点に交わっては再び幾 あるのかと , 大いに勉強させて頂きました . 股にも別れていく全体としての流れがおぼろげながらも見 えはじめ , またひとつひ とつの傍流の向かおう としている先というの も知ることができ , 参加 前より格段に新生鎖へ の理解を深めることが できたと感じています . 他にも自由討論ではより詳細な議論が行われると同時に 参加者同士の交流も深められ , 技術講習では新生鎖研究に存 分に役立ちそうな三点の技術の概要と応用例の簡単な紹介 がありと , 内容が充実していました . 宿の枕が高く中々寝付 けずに疲労もありましたが , 眠気も散るほどに興味深い話を たくさん伺うことができ , 今後の糧となるに違いない密な三 日間となりました . 杉山 伸樹 M1 (東京工業大学・生命理工学研究科 理化学研究所・脳科学総合研究センター (田中元雅ラボ)) Meeting Report:02 EMBO conference The Biology of Molecular Chaperones: from molecules, organelles and cells to misfolding diseases 2015年5月8日∼13日 イラクリオン(クレタ島)、ギリシャ 田口 英樹 (東京工業大学・大学院生命理工学研究科) 連休明けの5月にギリシャのクレタ島で開かれた EMBO まず会場を紹介しよう。ギリシャで「島」と聞くとパッと カンファレンスに招待されて参加してきた。ギリシャと聞く 思い浮かぶのはエーゲ海に浮かぶ小さな島であろうか。その と財政破綻に伴う銀行閉鎖や国民投票など今年はずいぶん ときのイメージは澄み渡る青空と真っ青なエーゲ海に映え と世界を揺さぶっているのが思い起こされるだろう(これを る白い街並みだ。サントリーニ島やミコノス島のような小さ 書いているのは2015年8月)。5月の段階でも財政破綻の状態 な島がそのイメージの代表かもしれない。当初クレタ島と聞 は変わらなかったのだろうが、外から見て特別なことはな いたときのイメージはまさにそれだったが、実際にはクレタ かった。 島は相当に大きな島だ。東西260km、南北50 キロもある細 41 はせず、気になった発表だけ取り上げてみる。 「新生鎖の生物学」関連 会期中に気になるのは、やはり「新生鎖」関連の発表であ る。本新学術領域の趣旨に直接合致するようなトークは10 演題程度だっただろうか。ポスターの相当数も新生鎖に関わ る内容であり、もはやこの領域に欠かせない分野になって いるのは間違いないどころか、ますます拡がりを実感する ミーティングだった。ホットなトピックスの一つは、新生鎖 と SRP 周辺の問題である。Elke Deuerling は線虫を使って ポスター賞授賞式の風景 析を行った。NAC が減るとリボソームが膜画分へ行きやす 長く大きな島である(面積で比較すると四国の半分くらいら くなり、本来細胞質やミトコンドリアに局在するはずの新生 しい)。ただ、海辺には素敵なリゾートがたくさんあり、今回 鎖が小胞体にミスターゲティングすることを見つけた。結 の会場もその一つで参加者は点在するコテージに宿泊する。 果として、細胞内プロテオスタシスが撹乱され、線虫の寿命 日本からもう一人の招待演者である永田和宏さんと同じコ が短くなるらしい(Gamerdinger ら Science 2015)。Judith テージに泊まったが、窓からはエーゲ海とプライベートプー Frydman(本領域海外アドバイザー)も新生鎖と SRP 周辺 ルが見える。永田さん曰く「こんないいところは始めてだよ。 を話した。小胞体行きシグナル配列がリボソームから出現 次は必ず家族連れて来なくては」と言っていたが、全くの同 する前、すなわちシグナル配列に依存せず、SRP がリクルー 感だ。 トされることを見つけ、そのメカニズムを説明するために EMBO のシャペロンカンファレンスには縁があり、2013 年以外は続けて出席している。2009 と 2011 の要旨集を取 り出して一つ気付いたのは、これまではタイトルに・・・ Diseases and Aging と「老化」が入っていたが、今回は抜け ている。代わりに「Molecules」が入っているのは、オーガナ イザーの Johannes Buchner の趣味であろうか。 初日は Rick Morimoto によるプロテオスタシスに関する キーノートレクチャーから始まった。その後みっちり5日間 にわたる密度の濃い充実したミーティングだったのはいつ も通りだ。数えてみると、口頭発表はトータル51名、ポスター は130題弱。日本からは、筆者と永田さんの他に、吉田賢右さ ん、養王田正文さん、吉田秀郎さん、仲本準さん、それらの ラボの学生数名が参加していた。以下、全体を網羅すること 集合写真 42 nascent-polypeptide associated complex (NAC) の RNAi 解 は従来の SRP の役割を再考する必要があると主張していた。 Onn Brandman はリボソーム品質管理複合体(RQC)につい て話していた(Shen ら Science 2015)。Zoya Ignatova は、 サイレント変異によって引き起こされるタンパク質のミス フォールディングを、CFTR のサイレント SNP をモデルに調 べていた。Günter Kramer(Bukau ラボ)はヘテロオリゴマー の co-translational な集合の可能性について選択的リボソー ムプロファイリングなどを用いて解析していた。 細胞内タンパク質動態 ユニークなアイディアで細胞内でのタンパク質動態に迫 る発表が印象に残った。Simon Alberti は細胞内タンパク質 全体を物理的な相転移、つまりゾル - ゲル転移で捉える見方 を紹介した。1 分子タンパク質追跡法なども使うことで、出 芽酵母内のタンパク質の動きはエネルギー枯渇によってほ に 解 析 し て い た(Walther ら Cell 2015)。Pierre Genevaux ぼ止まる(フリージング)ことを見つけていた。このフリー はバクテリアに存在するストレス防御機構の一つであるト ジングは細胞内 pH 変化によって起こるということだ。Allan キシン - アンチトキシン系(TA 系)の中にタンパク質の凝集 Drummond(ポスター)は出芽酵母への熱ショックで起こ 性を利用している場合があることを見つけた。マイコバクテ るタンパク質凝集体を質量分析(MS)で同定するとともに、 リアには80 弱もの TA 系があるが、その中にはトキシン - ア その動態を調べた。その結果、機能を保持したまま可逆的に ンチトキシンに加えてシャペロン(SecB ホモログ)が連結し 脱凝集して元に戻る集団があることなどを示した(ポスター ているものがある。このシャペロンは TA 内に余分にくっつ 賞 を 受 賞)。天 然 変 性 タ ン パ ク 質(Intrinsically disordered いている凝集性の高いドメインの可溶化のためにだけ必要 protein: IDP)の概念登場初期より活躍する Peter Tompa は、 であり、凝集ドメインを除くと通常の TA 系だけで機能する。 IDP のモデルである LEA タンパク質が in vitro で強いシャペ すなわち、この凝集ドメイン付き TA 系は機能をシャペロン ロン効果(凝集抑制能)を持つことから、大腸菌で LEA を発 に依存するということで、Genevaux はこの凝集ドメインを 現させ、LEA を発現している大腸菌はストレス耐性になって シャペロン中毒ドメイン(Chaperone-addicted domain)と いることを示した。 呼んでいた。自分たちが今進めているプロテオームレベルで のシャペロン研究でも似たような考え方があることから思 いを巡らすと、この TA- シャペロン系は実に興味深い現象だ と思う。 エクスカーション、その他 初日は夕刻からの集まりだったため、永田さん、吉田さん と一緒にクノッソス宮殿遺跡と考古学博物館を訪ねた。クレ タと言えば世界史でもおなじみのクレタ(ミノア)文明であ る。青銅器文明であるミノア文明の詳細は今でも に包まれ ているが、紀元前3000 ∼紀元前1400 年頃に栄えたというこ とで古代ギリシャよりずっと古く、ヨーロッパ文明の母と言 われているらしい。クノッソス宮殿は迷宮で知られている が、紀元前1000 年以上ということでどのくらい遺跡が残っ ているのか興味深かった。訪ねてわかったのは宮殿、博物館 ともに復元されたモノの陳列が基本で、ぼんやり歩いている だけではどこが本当に古いのかよくわからない。復元の度合 エクスカーションで訪れたスピナロンガ島の景色 いも相当で、壁画の人物画などは完全に想像であることが途 中でわかり、若干がっかりした。ついでに、クレタと言えば、 他で特に印象に残った発表 Ursula Jakob の仕事はいつも展開が読めないオリジナル 日本では「クレタ人は嘘をつかない」というパラドックスが な発想で驚かされるが、今回もユニークだった。次亜塩素酸 転手(生粋のクレタ人)にそのパラドックスについて聞いて (HOCl)などによる酸化ストレスに対処する細胞のストラ テジーには彼女ら自身が発見した Hsp33 系がある。今回は Hsp33とは別のストラテジーとして、ポリリン酸があり、ポ リリン酸は原始的なシャペロンであるということを示して いた(Gray ら Mol. Cell 2014)。なお、ポリリン酸はβシート を安定化する活性があるらしく、アミロイド線維形成を加速 するということだ。Bernd Bukau(本領域海外アドバイザー) よく知られている。遺跡と会場の往復に使ったタクシーの運 みたがピンと来ていなかった ・・・。 会期真ん中の一日は午後がエクスカーションで参加者全 員がバスに分乗し近郊の無人島にバスで向かった。無人島と 言っても、古くは要塞だったということでツアーガイド付 きで回る。要塞の遺跡より島を取り囲む海が本当に美しい。 エーゲ海が世界的に有名なのは、海の青さに由来することが は、脱凝集シャペロンについてのオープンクエスチョンに 挑んでいた。バクテリアや出芽酵母には Hsp70・Hsp40 と共 同して脱凝集を司る ClpB/Hsp104ファミリーが存在するが、 後生動物では Hsp104ホモログが見つかっていない。機能ホ モログの存在が示唆されていたものの説得力のある結果は 得られていなかった。Bukau らは後生動物で多数存在する Hsp40(J タンパク質)同士がヘテロ複合体を形成して連携 することで Hsp104ホモログなしで脱凝集が効率的に進むこ とを見出した(Nillegoda ら Nature 2015)。Ulrich Hartl は寿 命の違う種々の線虫を使い、老化に伴って細胞内プロテオム がどのようにリモデリングされるのか MS などを使って詳細 クノッソス宮殿にて。左より筆者、吉田賢右さん、永田和宏さん。 43 実感できた。ガイドさん曰く、この海にはプランクトンなど ファミリー層は冷たい水もおかまいなくプールで遊んでい 含めて魚が少なく、だからきれいなのだ、ということだ。 たが)。食事もギリシャらしく、フェタチーズとクレタ島名 今回の会場はエーゲ海を眼前にしたリゾートホテルだっ たが、時期が5月半ばということで海やプールに入るにはか なり早いかな、という印象だ(と言っても、観光で来ていた 産のオリーブオイルでのギリシャ風サラダはもとより、タコ や小魚のフリットなどシーフード満載で満足だった。いわゆ るオールインクルーシブスタイルであり、アルコール類も含 めて全てビュッフェ。朝食からスパークリングワインとイチ ゴが置いてあるというすばらしさ。 最後のエピソードを一つ。会期中に永田さんは気のいい チーフシェフといつの間にか仲良くなっていた。最後の朝食 時に我々二人のところにそのシェフが現れた。生粋のクレタ 人だというそのシェフの夢は、日本に来て和食をたらふく食 べることだ、などと雑談していたら、最後にシェフが「お前 たちにプレゼントがあるからチェックアウト時に俺を呼べ」 と言う。本当かなぁと りつつ、帰り際にそのシェフを呼ん だところ、500ml はあろうかというクレタ産のオリーブオイ ルをくれたのだ。 「クレタ人は嘘をつかなかった」というこ とでレポートを締めくくることにしたい。 イラクリオンの考古学博物館 Meeting Report:03 第15回日本蛋白質科学会年会シンポジウム 「細胞内の蛋白質の一生:新生から死に至るまで」 阪口 雅郎 (兵庫県立大学・大学院生命理学研究科) 蛋白質科学会年会が6 月24 日から3 日間徳島で開かれ、本領 かなり強く GroEL に依存するタンパク質(細胞内 GroEL 基質) 域との共催で表記シンポジウムが開催された。出来上がった が存在し、それらは見かけ上このシャペロンの存在を前提に タンパク質分子についての、物理的・化学的側面、工学応用 して進化してきたようにも思われた。筆者は、膜タンパク質 の発表が多いなかで、タンパク質分子を生物的な観点、すな のフォールディングには、かなりなケースでトランスロコン わち生合成過程、N- 末端からという合成・フォールディング が必須であり、それらはトランスロコンの存在を前提として の順序、フォールディング因子の存在、機能の場が細胞の中 進化してきたと考えているが、それに近いことが可溶性タン という混雑複雑系、選択的な分解除去、分解断片の積極的意 パク質に対するシャペロン依存性でも言えるのではないか 義などが強調された。 田口英樹(東工大・生命理工)さんは、 「新生鎖フォールディ ングの運命とシャペロンの分子機構」と題して、ゲノムに コードされる全タンパク質の可溶・凝集特性解析、それに対 する代表的なシャペロン因子の効果についての網羅的解析 を紹介した。大腸菌での解析に続いて、真核細胞の出芽酵母 ゲノムにおいて展開され、いずれにも、シャペロンなしでも 可溶性状態にフォールドできる一群に対し、シャペロンなし では凝集してしまう明らかな一軍が認められた。3つの代表 的シャペロン系の有効性は明らかに認められ、相加的効果も 認められた、特に DnaK 系と、GroEL 系の効果が顕著であった。 演者は田口領域代表 44 と思われた。多数の生物種の全ゲノムから、タンパク質の「全 野田展生(微化研・分子構造)さんは、 「オートファジーに 種類」が見えてきた今日、タンパク質フォールディング研究 よる選択的蛋白質分解の構造基盤」と題し、出芽酵母でみら も全体像を対象とすべき時が来ている。 れる基質特異的オートファジーの二つの例について、関連因 村田昌之(東大・総合文化・生命環境)さんは、 「セミイン タクト細胞リシール技術を用いた病態モデル細胞作成とその 解析」と題して、細胞活動やタンパク質機能の新しい解析手 法を紹介した。ストレプトリシン O で細胞膜に穴を開けて細 胞質の可溶性成分を排出させた「セミインタクト細胞」実験 系を発展させ、その穴を再封(リシール)する技術を開発し、 その再封時に病態動物やヒト病態患部組織の細胞質を封入す ることによって、病態モデル細胞を構築することに成功した。 リシール後は、細胞質・核間の情報伝達や細胞分裂すら可能 である。マイクロアレ イ解析やプロテオミク ス解析によって、膨大 な数の病態関連遺伝子 やタンパク質候補が提 子・基質タンパク質複合体の構造解明、生化学による検証で 明らかになった分子機構を紹介した。出芽酵母では、アミノ ペプチダーゼ I とαマンノシダーゼが、オートファジー経路 を介して液胞に輸送される。ペプチダーゼの場合、それ自体 が隔離膜形成の足場となって、それに沿って隔離膜が成長 し、他のカーゴを排除しながら隔離膜小胞ができる。ペプチ ダーゼのプロ部分に Atg19が結合しプロ体の凝集傾向と合い まって、それを足場に隔離膜が成長する。一方、マンノシダー ゼでは、足場作用を持たず、他のカーゴを排除しないで、形 成されつつある隔離膜の内側に集積される。この際、マンノ シダーゼを Atg19 の C- 末端部に存在するαマンノシダーゼ 結合ドメイン(ABD)が認識し、Atg8と Atg11に接合させる。 オートファジー系での膜動態につながる蛋白質科学が進ん でいる。 案される中で、遺伝子 田中啓二(東京都医学総合研究所)さんは、 「タンパク質分 改 変 動 物 に 代 わ る「細 解装置 プロテアソーム の動態と作用機構」と題し、細胞 胞アッセイ系」が望ま 内でのタンパク質の終末期をになうプロテアソームに関す れており、この技術は る研究展開が紹介した。プロテアソームのアセンブリにかか その要請に答えうるも わる専用のシャペロン群の研究を概観し、次いで、プロテア のである。網羅的な因 ソームが見せる、細胞内でのダイナミックな局在変動につい 子機能解析を細胞系で て紹介した。さらに、講演の後半では、プロテアソームが単 実現できる展開と思わ なる分解処理機能を超えて、個体の高次生命機能に不可欠な れた。 役割を果たす一例が紹介された。プロテアソームには標準型 遠藤斗志也(京産大・総合生命)さんは、 「ミトコンドリア 生合成に関わる分子装置の構造と機能」と題して、ミトコン ドリアタンパク質輸入系の新規知見を紹介した。まず新生鎖 品質管理とタンパク質膜透過とのかかわりで、合成途上リボ ソームにある新生鎖・RNA の分解除去系が、オルガネラトラ ンスロケータの正常な機能維持に重要なことを紹介した。ミ トコンドリアでも新生鎖・リボソーム複合体がトランスロ ケータを占有するのである。ミトコンドリアでどのようにリ ボソームとトランスロケータとの共役が実現しているのか 興味深い。また、ミトコンドリア外膜で膜間腔側に主要ドメ インを露出する膜タンパク質の輸入膜組み込みを紹介した。 に加えて、胸腺に特異的な「胸腺プロテアソーム」が存在す る。β5 サブユニットがβ5t に置き換わることで、独特のペ プチド断片を産生できること、それが MHC によって細胞表 面に提示され、 (適度な)弱い相互作用を示す TCR を持つ未 成熟細胞を刺激し、有用 T 細胞の正の選択につながっている ことが証明された。β5t 特異的なペプチド断片の産生が実態 として確認され、胸腺で起きている適度な細胞の選択とその 教育の分子基盤が、胸腺プロテアソームによって実現してい ることが証明された。プロテアソームは単にタンパク質の分 解除去のための破壊装置ではなく、意味のある破片の産生装 置であることを認識した。 さらに、構造解析が困難を極めるミトコンドリアトランスロ この学会は、生物寄りの私にとって物理・化学の視点が勉 ケータ複合体の構造情報について紹介した。部位特異的光架 強できる良い機会である。いろんな意味で、インスパイアさ 橋を網羅的に実行し、TOM40 のβストランドのアミノ酸基 れ る こ と が 多 々 あ る。 が「ひとつおき」に透過途上新生鎖と架橋すること、それら また、今後各セッショ とは逆のβシートの面に配置される残基が TOM22と架橋す ンでは専門外の聴衆の ることを示し、TOM40のβバレルの中を新生鎖が通ること、 ためにイントロダク 反対の面が複合体形成面であることを明らかにした、さら ションを充実させよう に、膜タンパク質新生鎖が可溶性新生鎖とは異なる TOM40 という動きがあると聞 内の筋道を通過することや、トランスロケータのダイナミッ いている。 クな離合集散の実態が明らかにされた。 懇親会での阿波踊り 45 Laboratory:01 自由の風が吹く フリードマンラボ 田鍬 修平 (Judith Frydman Lab, Department of Biology, Stanford University, CA) 『はじめに』 学部時代から3つのウイルス学教室を渡り歩いて、様々な ではアイデア一つで起業し育てた芽を上位企業に売却する ウイルス (DNA, RNA, レトロウイルス ) に学び、2010年にシャ 事でミリオネアとなり経済的なフリーダムを得るとのこと ペロン研究の最前線、Stanford 大学 Judith Frydman(以下フ で、この界隈では卒業/ポスドク後の進路選択としてインダ リードマン先生)ラボへやってきました。当初は、 西ナイル ストリーは非常に人気があります。特に昨今、IT バブルで集 ウイルスとシャペロン に関する研究でアプライしたはずが、 まった資金がバイオ関連に流れ、Calico や23andme などに 研究施設の BSL(bio-safety level) が低く使えず、やむなく施 代表されるようにデータマイニングを用いて、直接的な病気 設で使える黄熱ウイルスを用いて研究を始め、データが出始 に対する創薬に加え老化や肥満などの健康に関連する研究 めた2年目に欲しかったグラントの関係でデングウイルスへ も隆盛しています。優秀な研究者の確保に各社躍起となって の鞍替えを経て今に至っております。ラボ内外で様々な機会 いる様で、かの国で 足の裏の米粒 と評される Ph.D. はベイ と幅広い人脈に触れ、支えられ、なんとか生き延びて6年目、 エリアにおいては年収10万ドル越えを確約する 水戸黄門の 今やラボの最長老となってしまいました。そんな小生から見 御印籠 のような存在のようです。 たスタンフォード大学、ベイエリアをご紹介したいと思いま す。 『ベイエリアのバイオ研究事情』 『ジュディスの部屋』 フリードマン研は常時学生4 ∼5 人、ポスドク10 人程度の 中規模ラボで、メンバーの国籍もヨーロッパから南米、アジ スタンフォード大学は全米屈指の名門私立大学で、理系、 アと幅広く分布しています。現在の研究テーマは1) 新生タン 文系の学術分野はもとより大学スポーツの分野でもその名 パク質の折りたたみに関与する分子群と、2) 病原因タンパク を轟かせています。広大な敷地には王宮を思わせる統一感の 質の凝集に関与するシャペロン群の同定/解析、3) ヘテロ複 ある校舎を中心に、個性的な研究施設(例えばフリードマン 合体 TRiC/CCT 構築メカニズムの解明を大きな柱としており 研の所属する James H Clark center は全面ガラス張りという ますが、それ以外にも実験者の興味とスキルに依存した多種 モダンで開放的な外観)や図書館、美術館などが建ち並び、 多様な研究が進められています。自分でやりたいテーマを提 大学の象徴とも呼べる教会やフーバータワーは観光名所と 案すればラボのメインストリームから外れてもある程度(グ しても人気を誇っています。 ラント残高に依る)までは許容してもらえます。 スタンフォード大学以外にもベイエリアには UC サンフラ 研究アプローチの手法は、出芽酵母の遺伝子破壊株を掛け ンシスコ校や UC バークレー校といった著名な大学が集結し 合わせる古典的な遺伝学的実験法から SILAC/マス解析や次 ており、ベイエリア限定の比較的小さなミーティングが頻繁 世代シーケンサーを用いた網羅的解析方法までと幅広く、こ に見受けられるなど交流も盛んで、共同研究は学内 / 外問わ れらの選択はもっぱら実験者のスキルに依存しています。特 ず比較的低い敷居で活発に行われています。大学内での講義 に純血ウェットな実験部隊がビッグデータを扱いたい場合 はもちろんのこと、世界中から訪れる各分野の大御所トー はドライなデータ解析班とラボ内コラボという形で研究を クやジョブハンティングの為に訪れる新進気鋭の有望株の 進めることになります。それ以外にも、特に 革新的技術 と ジョブトークを月に2 ∼3 個のペースで拝聴できるのは業界 共同研究 が好物のフリードマン先生の学会土産は この前 屈指の人気校が成せる役得で、所属する研究者には最新ト の学会では素敵な議論をありがとう、うちの学生 or ポスドク ピックスの動向を気軽に知る絶好の機会になっています。 があなたのラボの技術に興味があるそうです 的な共同研究 アカデミアのみならず名の知れたバイオテック企業の本 社(Genentech、Gilead や Affimetrix など)や研究所(AMGEN や illumina など)から小さなバイオスタートアップ(ベン 46 究推進力は大学のそれを遥かに凌駕し、またスタートアップ 打診の cc メールがデフォルトになっていて、ラボ員のほと んどが世界のどこかの大学と何かしらの共同研究を行って います。 チャー企業)までと種々のバイオインダストリも多く存在し 実験環境は一般的な米国ラボ同様、スタンフォード大学で ます。その中には大学研究で発見した知見を元にしたラボ発 も自前で実験機器を完備するラボは少なく、複数ラボで共同 スピンオフスタートアップも散見します。学部生・大学院生 所有するか、もしくは大学所有の機器を時間貸しという形で には夏休み期間(院生でも2∼3週間程度の夏休みあり !)のイ 使用しています。細胞生物学研究に必要な機器のほとんどが ンターンシップ制度を利用してバイオテックの現場を学ぶ 大学のどこかにあるため、概ねストレスなく予約でき容易 機会もあり、聞けば、大企業の圧倒的資金による充実した最 に使用できる環境にあると思います。幸運にもフリードマ 新鋭研究機器、巨大スクリーニング系を用いた全自動的な研 ンラボは昨年あたりからバブル期に突入した様で、共焦点 顕 微 鏡 に 加 え て、TIRF や Super-resolution microscopy を 兼 ね た Spinning disc 型 共 焦 点顕微鏡を導入し、細胞イメージングに関 しては随分と恵まれた状況になっておりま す。 消耗品、試薬(化学薬品、酵素や抗体)な どはラボで共有していますが、それらの在 庫管理に関しては 品質管理機構に興味を 持っているラボ とは思えない程杜 で、日 本のラボではおなじみの『十分量残してア ルファベット順に鎮座する制限酵素棚』が 偲ばれます。ただ普遍的な消耗品、試薬の場 合は運が良ければ全学ポスドクのメーリン グリストを通じて広く大学内ラボから借り 我らがフリードマン先生(左)と筆者(右)(撮影:藤木幸夫先生 ) る事も可能で、試してみたい試薬や抗体、細 胞株等が気軽に手に入るネットワークは日 本ではあまり見られない強みかと思います。 『ご冗談でしょう、フリードマンさん』 フリードマン先生はスタンフォード大学の校訓 自由の風 が吹く を地でいく、まさに自由の風のような研究者です。 母国アルゼンチンのブエノスアイレス大学で学位取得後、渡 て欲しい』という、時間の概念を超越した難題(注釈:デング ウイルスの感染力価測定だけで3日かかるという意味で、米 国で週末実験を余儀なくされている事は問題ではない。)を 課される事も少なくありません。数少ない個別ミーティング を急遽キャンセルされたと思ったら『週末にデータもって、 家に遊びにきてよ』というメールをもらう事も何度かありま 米して Sloan kettering Institute の Ulrich Hartl 教授の元で した。 シャペロニン(TRiC/CCT)を含む蛋白質品質管理機構の研究 このように何事にも自由奔放で、実験手法に関するアイデ において輝かしい業績を残し、その後スタンフォード大学で 独立してラボを主宰されています。常時世界中からくる学会 の講演依頼に南船北馬しては最新/最先端のトピックスに 触れて常に新しいアイデアを生み続け、休む時は年2回1ヶ月 程世界のどこかで軽く音信不通になって英気を養うのが彼 女の基本スタイルです。その神出鬼没さ故に、年30回程のラ ボミーティングと年6回程の個別ミーティング以外に彼女と ラボで遭遇するのは稀で、火急の議論/相談が必要な場合は スカイプミーティングで対応する事になります。 そんなフリードマン先生はラボのメンタリングにおいて も当然自由です。研究の方向性について、毎度学会帰りの 活 性化 した先生から気宇壮大なアイデアを提示される事はあ れこそすれ、実際は実験者各位の感興の赴くままにというの がベースとなっています。進 ペースに関しても、大型グラ ントの申請/更新に関与しない限りにおいて、完全に各実 験者の裁量に一任され、ある程度の進 さえあれば(なくて も?)、平日ラボに居なくても休暇を1ヶ月取っても叱責さ れた人を見た事はありません。幸か不幸か、私の研究テーマ は自身の給料も捻出している大型グラントに関与しており、 不思議の国のアリスに出てくる赤の女王の名言『It takes all the running you can do, to keep in the same place.』の如く、 毎月目に見えるポジティブプログレスを求められて、非常に 充実した実験生活を送っております。また酵母を使った実験 が主戦場だったフリードマン先生はウイルス実験も同じス ピードでできるという感覚をお持ちで、例えば金曜日に議論 して提案した 一週間はかかるであろう新規実験 の結果を 『グラント中間報告の締め切りも近いし、月曜日の朝に教え アはいつも破天荒なフリードマン先生ですが、そのサイエン ス観は確実に研究の本質を見抜き、浅学の自分にも Mission: impossible へ立ち向かう知恵とモチベーションを与えてく れます。そういう意味では学生やポスドクには最高のメン ターかもしれません。 『シャペロンラボでデングウイルス研究』 私の研究テーマの一つは『デングウイルスが如何に宿主 シャペロンを使い分けするか』についてです。デングウイル スは11kb 程の一本鎖(+)RNA をゲノムに持ち、コードする 約三千アミノ酸からなるポリプロテインは宿主および自身 のプロテアーゼにより切断を受け10 個の個別タンパク質と して様々な機能を発揮します。これらウイルスタンパク質は 感染に伴い宿主の膜構造を変形させ、ゲノム複製や粒子形 成に各々適した 工場 を構築し、そこに様々な宿主因子を リクルートすることが知られています。これまでにデングウ イルス複製におけるタンパク質品質管理機構の意義、とく に Heat shock protein 70 (Hsp70) シャペロンネットワーク の意義についてはよく解っていませんでした。我々の最近の 研究では、1)Hsp70は、ウイルス侵入、ゲノム複製、粒子形 成の3段階で必須であること。2)ウイルス粒子を構成する Capsid とゲノム複製酵素の NS5が Hsp70の基質であること。 3)複数のコシャペロン(Hsp40)が Hsp70 の基質特異性を 規定し、それぞれ異なる複製段階 / 部位で機能すること等を 明らかにしました(論文査読中)。現在は人と蚊で増えるデ ングウイルスの特性に着目し、両宿主間での Hsp70依存性の 違いとウイルス変異に与える影響について解析を行ってい ます。 47 『おわりに』 海外の生活は金銭面、健康面、進路など色々不安な事も多 いですが、それも含めて刺激的な毎日を送っています。カリ フォルニア、特にスタンフォード界隈は年中穏やかな天候で 過ごしやすく日本の様な四季折々の季節感も乏しいため、ま さに光陰矢の如しで、気がついたら在米6年目になっていま した。現在は蒔いた研究の種々が収穫期を迎えており、この 2∼3年は論文執筆に忙しくなりそうな予感です。サンフラ ンシスコにお立ち寄りの際は気軽にメールして頂ければ大 学のご案内をさせて頂きたいと思います。 田鍬 修平(たぐわ しゅうへい) E mail:staguwa(a)stanford.edu 略歴: 2008年 大阪大学医学系研究科分子ウイルス学分野(松 浦善治教授)博士課程(医学)を修了 2010年より 現所属(博士研究員)として参加 マック OS でおなじみヨセミテ国立公園の象徴、ハーフドーム 2014年より 現所属(Research Associate) 研究テーマ:デングウイルス複製における Hsp70の意義を 問う Laboratory:02 田口研究室 二宮 真人 (東京工業大学・大学院生命理工学研究科 生体分子機能工学専攻 修士1年) およそ2400 年前、哲学者プラトンはアテネの近郊にアカ ずといっていいほど、そんな横浜のイメージがないことに落 デミアを創設し、諸学の研究と教育の場とした。このアカデ 胆する。―高層研究棟が並ぶ中、都会の喧騒を一切感じさせ ミアにはスズカケノキがたくさん植えられ、その木陰でプラ ないキャンパス内の道を歩けばタヌキやヘビ、カエルをはじ トンは弟子たちと思索にふけたとされている。横浜にある東 めとした生態系や、手付かずの自然が残る加藤山などが、古 京工業大学すずかけ台キャンパスの語源はそこから来てい きよき日本の里山を感じさせる。駅前には飲食店はほとんど る。私たち田口研究室がラボを構えているキャンパスだ。 なく、昼は大学内の食堂で腹を満たし、夜になれば研究棟の 横浜と聞けば何をイメージするのか。―高層ビルが並ぶ 蛍光灯は煌きを増す―そんな場所だ。 中、海鳥のさえずりが聞こえる海沿いの道を歩けば、赤レン 田口研究室は発足から6年目を迎え、現在総勢16人からな ガや山下公園などの名所が明治の文明開化を感じさせる。 る研究室である。学生は11人所属しており、学部生からは比 シュウマイや中華街をはじめとしたグルメに舌鼓を打ち、夜 較的人気で、毎年定員である4 人が配属されているが、昨年 になれば美しい夜景が辺り一面に広がる― おそらくこのよ は3人しか配属されなかった。そのことを知ったときに少し うなイメージではないか。すずかけ台キャンパスはそんな横 寂しげな田口さんの姿を私は忘れない。田口さんの笑顔を取 浜市に位置している一方で、キャンパスを訪れる人たちは必 り戻せるように、来年はなんとしても学生4人の獲得を目指 したい。 田口研究室のメンバーは、イベント事が好きな傾向があ る。新入生の歓迎会や、バーベキュー、田口家パーティー、 バレーボール大会、ラボ旅行、追いコンなどの大きなイベン トから、たこ焼きパーティーやフードファイト、そうめん会、 すずかけ台キャンパス 48 キャンパス内の食堂 虫取り、オクトーバーフェストなど、息抜きもかねて様々な イベントおよび飲み会が企画、実行されてきた。 集合写真 次に、田口研での研究活動について次に少し触れる。田口 子の拡散速度からその分子の大きさを見積もるユニークな 研での研究の大きな特徴として、個人の自由な研究活動であ 手法であり、この手法は生細胞内における分子の会合状態な ることがあると思う。学生は1つのテーマを1人が担当し、実 どの分子量の変化が検出できるという強みがある。 験手法や実験操作、結果の考察、今後の展望にいたるすべて を、個人で考えながら研究していく方針をとっている。もち ろん、教授や助教、博士研究員や学生同士でディスカッショ ンをしながらお互いの研究テーマのサポートも欠かさない。 また、実験だけではなく、発表の際も学生同士で表現やイラ ストの工夫など伝わりやすさを意識したパワーポイントの 作成も心がけている。 スペースが余ったので、去年のラボ旅行の話をしたいと思 う。ラボ旅行は毎年 M1 が企画をすることになっている。そ して、去年の M1には1人、宇宙を夢見る青年がいた。名前は 星さん。 「My name is Hoshi. Hoshi means star.」彼の十八番 である、外国の方への自己紹介である。そんな彼の熱い熱意 に負け、JAXA があるつくばに行くことになった。JAXA のほ かにも筑波山や酒造、バーベキュー、流しそうめんと、思い 研究テーマとしては、シャペロンやプロテアーゼの動態解 返せばもりもりなラボ旅行であった。今年のラボ旅行は私た 析や、翻訳速度がフォールディングに与える影響、翻訳時の ち M1が企画担当なので、ラボメンバーみんなのはじける笑 アレストの生理学的意義の解明、プリオンタンパク質の機能 顔が見ることができるように努力したい。 解明、脱凝集シャペロンの作用機構など、並べてみると非常 に多岐にわたった研究テーマを持っているといえる。これら のテーマに対して、一般的な生化学に基づいた手法から、全 反射顕微鏡や蛍光相関分光法 (FCS) といった応用的な手法な ど、様々なアプローチで検証を行っている。FCS は、蛍光分 あまり長く書いても読んでいただけない気がするので、今回 の田口研究室の紹介はこのくらいにしたいと思う。 つたない文章でしたが、ここまで読んでいただきありがとう ございました。 バレーボール大会 留学生との鎌倉散策 実験室の風景 49 NEWSLETTER #02 nascent chain biology 平成27年度 第2回班会議 2015 年 11月13日(金)~15(日)正午 会 場:天童温泉 ほほえみの宿 滝の湯 平成 27 年度第2回班会議を11月13日(金)から2 泊 3日で開催いたします。計画班と公募班が一同に会する最初の班会 議であり、研究の進捗状況を報告する場となります。新生鎖の新規活性とリボソームの新規制御機構は国際的にも拡大 している分野です。遺伝子発現の実像に迫る日本発の優れた研究が数多く発表されるためには、班会議での活発討論が 必須です。特に若手研究者の熱い発表を待っています。 今回から新たな企画が開始されました。遠藤先生と吉久 編集後記 先生に、2013 年ノーベル賞受賞のSchekman 博士にイン タビューをしていただきました。偉大な先人の独創的な研 究の過程歴史を知る事は、研究の本質を理解する最良の 方 法 の1つだと思います。この 企 画 は 永 田 特 定での Morimoto へのインタビューから吉田特定、遠藤特定へ と連綿と受け継がれてきているものです。また、海外ラボ 紹介の初回として、田鋤さんにJudith Frydman 研の紹介 をしていただきました。海外の優れたラボで自由闊達に研 究を満喫している様子が伝わってきました。これらの企画 が、若手の背中を押す一助になることを切に願います。 ( 事務局 稲田利文) 文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究 新学術領域研究「新生鎖の生物学」 2015年10月 発行 編集人 稲田 利文 発行人 田口 英樹 新学術領域「新生鎖の生物学」領域事務局 〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6番3号 Tel. 022-795-6874 E-mail:tinada@m.tohoku.ac.jp http://www.pharm.tohoku.ac.jp/nascentbiology/
© Copyright 2024 Paperzz