統計学の哲学 大塚 淳 (神戸大学人文学研究科 jotsuka@kobe-u.ac.jp) 2016 年夏期集中講義 於:首都大学東京 授業テーマ データから結論を導く装置としての統計学は、今日の科学において特権的な役割を担っている。本 講義では、統計学を「科学における認識論」と捉えることで、現代科学に潜む認識論的・哲学的問題 を探る。 授業のねらい 1. 科学的推論において統計学が果たす役割と、検定・因果推論・学習などといったその方法につ いての概観を得る。 2. それらの方法論のもとにある哲学的思想・概念(経験主義、実証主義、因果性、実在論、プラ グマティズムなど)を明らかにする。 3. そこから現代において哲学的認識論が持ちうる意義を逆照射する。 成績評価 • 授業への出席・発言 (25%) • 宿題 (25%) • レポート課題 (50%) 締切 9 月 16 日(金)23 時 59 分 提出 jotsuka@kobe-u.ac.jp まで PDF 形式でファイル添付して送付。1 日以内に受領確認 メールがこない場合、連絡してください。 課題 次のテーマのうち 1 つを選び、授業内容をまとめつつ 2000∼4000 字で論じよ。その際、 選択したテーマを冒頭で明示すること。 1. 帰納推論における「自然の斉一性」の役割 2. 現代統計学における基礎付け主義、信頼性主義、プラグマティズム(どれか一つに 絞ってもよい) 1 3. 因果と確率の関係性 4. 帰納推論の性質とその目的 5. 統計学の哲学的含意 授業計画 1 日目:イントロダクション 1. 哲学的認識論と統計学 認識論としての統計学(内在主義/外在主義/プラグマティズムとベイズ主義/頻度主義 /機械学習) 帰納論理としての統計学(ヒュームの問題と因果、「自然の斉一性」) 2. 現代統計学の夜明け:記述統計と実証主義 Quetelet の Social physics Galton, Pearson の記述統計と実証主義 3. 統計・確率の基礎知識 統計量、標本空間、確率変数、確率分布 2 日目:確率モデルとベイズ主義 1. 記述統計から推測統計へ 推測統計の存在論(自然の斉一性としての確率モデル、データ/母集団の二元論) 推測統計の認識論(サンプリング、統計的仮説、仮説の推論) 2. ベイズ統計 ベイズの考え方(ベイズの定理、尤度、事前確率、基準率の誤り) ベイズによる帰納推論(Induction, Abduction, 事前確率の沈静化) 3. ベイズ哲学 ベイズ的帰納法(帰納論理としてのベイズ、ヒュームへの応答) 内在主義としてのベイズ主義(信念の整合性、基礎的信念と事前確率) 3 日目:頻度主義 1. ベイズ主義への批判 統計学的批判(事前確率、catchall 仮説) 哲学的批判(内在主義批判、心理主義批判) Popper の反証主義とその問題 2. 古典的検定理論 2 検定の考え方(帰無仮説と対立仮説、第 1 種・2 種の誤り、有意水準、検出力) 検定の実際(コインのバイアスのテスト、サンプルサイズの重要性) 3. 頻度主義の哲学 検定結果の解釈(行動と判断、ヒュームと「心の癖」) 信頼性主義(信念形成プロセスの信頼性とテストの厳しさ) 4 日目:因果推論 1. 因果と恒常的連接 確率の復習(独立、相関、条件付独立) ヒュームにおける帰納と因果(恒常的連接、擬似相関と交絡) 2. 反実仮想アプローチ 反実仮想による因果分析(条件文と反事実条件文、Lewis の分析とその問題) 無作為化(潜在結果、平均処置効果、無作為化) 3. 因果モデル 因果モデル(因果グラフ、マルコフ条件、介入結果の予測) 因果と確率の哲学(因果・確率二元論、帰納をめぐる存在論と認識論) 5 日目:モデル選択から機械学習へ 1. 赤池のモデル選択理論 モデルと複雑性(モデルとカーブフィッティング、真理と単純性のトレードオフ) 赤池の理論(モデルの平均予測性能、赤池情報量基準、オッカムの剃刀) 2. 機械学習とディープラーニング 機械学習とは(学習の目的、勾配降下法、正則化) ビッグデータ時代の帰納推論(真実から有用性へ、プラグマティズムと多元主義) 3. まとめ 統計学と認識論(帰納推論の認識論と存在論、3 つの ism、統計学と哲学) 知識とは何か?(マッハ的・プラトン的・ベーコン的見方、知識と理解) 参考図書 • 歴史 – デイヴィッド・サルツブルグ『統計学を拓いた異才たち』(日経ビジネス人文庫) – シャロン・バーチュ・マグレイン『異端の統計学ベイズ』(草思社) – 芝村良『R.A. フィッシャーの統計理論』(九州大学出版会) 3 • 統計基礎知識 – デイビッド・ハンド『サイエンス・パレット 統計学』(丸善出版) – 三中信宏『みなか先生といっしょに 統計学の王国を歩いてみよう』(羊土社) • 哲学 – エリオット・ソーバー『科学と証拠:統計学の哲学入門』(名古屋大学出版会) – Howson, C., & Urbach, P. (2006). Scientific Reasoning. Open Court Publishing. – Mayo, D. G. (1996). Error and the Growth of Experimental Knowledge. University of Chicago Press. 4
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