Middle East & Africa Focus Group Tokyo Newsletter September 2012 中東・アフリカ ニュースレター vol. 3 政府や国営企業とのビジネスにおける注意点 -裁判・調停制度の問題点とその対応 圧倒的なバーゲニングパワーの違い アフリカなどの新興国においては、政府や国営企業を取引相手とするビジネ スの機会が多い。そのような場合、相手方は交渉の場において圧倒的に有利 な立場にあり、民間企業側が希望するビジネス上または契約上の条件を受け 入れてもらうことにはしばしば困難が伴う。 また、取引がこじれ、後に法的紛争に発展してしまったケースにおいて、国 や国営企業が合理的な理由なしに、例えば事業に必要な許認可や不動産の剥 奪などといった手段を通じ、民間企業をビジネスを継続できない状況へと追 いこむ例が散見される。 このような状況下、民間企業である投資家が自らの利益を最大限守るために は、 ① 契約書の中で適切な仲裁条項を入れておくことができないか ② 投資家の国(日本)と投資相手国との間に、国家と投資家の間における 紛争解決に関する投資協定がないか ③ 上記①と②のいずれも当てはまらない場合、投資スキームを変更して予 防的な措置を講じることはできないか といった点を投資段階で十分に検討する必要がある。以下、過去に法的紛争 になった具体例を引き合いに、これらの対応策について検討する。 事例と教訓 ケース 1:Wena Hotels 事件(エジプト) 事案の概要 英国企業の Wena Hotels は、エジプトの国営企業との間で賃貸借契約を締 結し、ホテルを運営。しかし、賃料がらみで法的紛争になり、国営企業側 が合理的な理由なく、強制的にホテルの占有を奪取。 紛争の経過 エジプトにおける裁判 とエジプトにおける仲裁手続(賃貸借契約上の仲 裁条項に基づき、仲裁を申し立て) → ごくわずかの損害賠償しか認められないなど、問題解決せず。 投資紛争解決国際センター(ICSID)における仲裁 ICSID は世界銀行の一機関で、国際投資紛争の解決を行う場を提供する国 際機関。Wena Hotels は、英国とエジプトが締結している協定に基づき、 ICSID における仲裁を申し立て。 → ICSID 仲裁廷は、Wena Hotels の請求の一部を認め、利息と費用を含 め 2,060 万米ドルの支払を命じる判断を下した。 新興国において政府や国営企業が相手方となった紛争では、その国の裁判所 や仲裁機関では、外国企業にとって公平な判断が期待できない場合が多い。 Wena Hotels 事件でも、エジプト国内での裁判や仲裁では、十分な法的救済が 得られなかった。 そのような事態に備え、投資段階の契約交渉で、法的紛争の際は第三国で仲 裁を行うという仲裁条項を入れるように交渉すべきである。実務上は、紛争 の当事者となる政府や投資家の国以外の第三国かつ英語圏が選択されること が多い。 ただ、国や国営企業が相手の場合、契約交渉自体が難しく、こちらが望む仲 裁条項を契約に盛り込むことが拒否されることもある。 そのような場合を念頭に、国家と投資家の間の法的紛争を中立的に解決して くれる国際紛争解決機関が利用可能か、調べておくべきであろう。これは、 国家間で締結されている投資協定等において、紛争解決手段としてこのよう な国際仲裁機関による仲裁が可能であることが明記されているかどうか、と いうことである。上記の Wena Hotels 事件では、幸い、エジプトと英国の間 で、このような投資協定が締結されていたことから、ICSID における仲裁手 続を利用することができた。 では、投資先の国と日本との間に上記のような投資協定等がない場合、どう すればよいのであろうか。実際、本稿執筆時点において、アフリカの国々の 中で日本とかかる投資協定を締結しているのは、エジプトのみである。 ケース 2:Millicom 事件(セネガル) 事案の概要 ルクセンブルクの携帯電話サービス会社である Millicom International Cellular(Millicom)は、自社のオランダ子会社を経由して、セネガルに携 帯電話会社を設立し、同国政府の営業許可を取得した。その後、セネガル 政府は、Millicom 側に契約違反があったとして、営業許可を取り消した。 紛争の経過 投資紛争解決国際センター(ICSID)における仲裁 Millicom のセネガル子会社は、親会社である Millicom のオランダ法人とと もに、ICSID の紛争解決手続を利用して、セネガル政府に対して約 6 億米 ドルを請求。その後、本年 8 月、当事者は和解契約を締結し、同契約中で セネガル政府は営業許可の有効性を確認し、さらにそれを延長すること、 その営業範囲を拡大することができることを認め、これらの対価として Millcom 側が 1 億 300 万米ドルを支払うことを合意して、紛争は解決し た。 このケースでは、ルクセンブルクとセネガルの間に紛争解決に関する投資協 定はなかったが、セネガルへの投資がオランダ子会社を通じて行なわれてお り、オランダとセネガルとの間にはかかる投資協定が存在していたことから、 Millicom は ICSID における仲裁手続を利用することができた。 もし、投資先の国と日本との間に投資協定がなかったとしても、投資家であ る日本企業の海外子会社を通じて投資を行うことで、他の国の投資協定によ 中東・アフリカ ニュースレター vol. 3 政府や国営企業とのビジネスにおける注意点 -裁判・調停制度の問題点とその対応│September 2012 www.bakermckenzie.co.jp 本ニュースレターに関する お問い合わせは、下記まで お願いいたします。 伊藤(荒井) 三奈 外国法事務弁護士 Tel: 03 6271 9727 mina.arai-ito@bakermckenzie.com る保護を受けられるように、投資スキームを工夫することができないか、検 討しておきたい。 以上に述べたとおり、投資段階での十分な調査・検討こそが、将来起こりう る法的紛争の迅速かつ適切な解決に資することを銘記いただきたい。 ****************** 2012 年 7 月、ベーカー&マッケンジーはモロッコに新たな事務所を開設し (プレスリリース)、中東・アフリカにおける拠点は 8 箇所となりました。 ベーカー&マッケンジー 法律事務所(外国法共同事業) 〒106-0032 東京都港区六本木 1-9-10 アークヒルズ仙石山 森タワー28F Tel 03 6271 9900 Fax 03 5549 7720 www.bakermckenzie.co.jp ©2012 Baker & McKenzie. ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)は、スイス法上の組織体であるベーカー&マッケンジー インターナショナルのメンバーファームです。専門的知識に基づく サービスを提供する組織体において共通して使用されている用語例に従い、「パートナー」とは、法律事務所におけるパートナーである者またはこれと同等の者を指します。同じく、「オフィス」とは、かか るいずれかの法律事務所のオフィスを指します。 中東・アフリカ ニュースレター vol. 3 政府や国営企業とのビジネスにおける注意点 -裁判・調停制度の問題点とその対応│September 2012
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