水収支法と渦相関熱収支法による水田蒸発散量の比較 Comparison of Evapotranspi r ation from Paddies by Water Balance and Eddy Correlation Heat Balance Methods ○松田 周・増本隆夫・久保田富次郎 MATSUDA Shuh , MASUMOTO Takao , KUBOTA Tomijiro 1.はじめに 北浦と鹿島灘に挟まれた鹿島台地では 、従来から用水の安定的確保が課題となっている 。 当台地における水資源の安定的確保を図るには、まず台地の水文現象を的確に把握するこ とが必要となるが、これまでの検討から台地畑や水田からの蒸発散量の正確な推定が難し いことが分かっている。そこで、渦相関法による現地での直接的な蒸発散量測定と地目別 の推定を検討している。ここでは、その前段階として、水田ライシメータにおいて渦相関 熱収支法と水収支法による蒸発散量の比較結果を報告する。 2.水田ライシメータの概況および観測・営農方法 ( 1 )水 田 ラ イ シ メ ー タ の 概 況 所 内 に あ る コ ン ク リ ー ト 製 畦 畔 と 土 壌 深 60cm の ゴ ム シ ート底を持つ 30 × 70m 水 田を水田ライシメータに設定した。そこでは、灌漑用水を流入 管のバルブ操作、排水を地表部では角落し、地下部ではバルブ操作で管理している。 ( 2 )観 測 方 法 ①水収支法:同水田への流入成分である雨量、流入量を雨量計、電磁流 量計、流出成分である地表排水、暗渠排水を三角堰、電磁流量計、水田内貯留水深である 表 面 水 位 、 地 下 水 位 を フ ロ ー ト 式 水 位 計 、 水 圧 式 水 位 計 に よ り 、 30 分 間 隔 で 測 定 し た 。 ②渦相関熱収支法:鉛直風速、水蒸気変動量および気温をそれぞれ 3 次元超音波風速温度 計 、 湿 度 変 動 計 お よ び 温 湿 度 計 で 1/10 秒 間 隔 で 測 定 し た 。 ま た 、 所 内 露 場 の 日 射 量 、 放 射収支量、地温および水田ライシメータ内の水温を 30 分間隔で計測した。 ( 3 )営農方法 コシヒカリを 5 月 18 日に 移植 した。 中干しは 行わず 、水位 が 5 〜 15cm で 推移するように調節し た。また、落水は 9 月 10 日、稲刈り は 9 月 20 日 に行った。 3.結果と考察 ① 水田 ライシ メータに おける 水収支 要 素 の 一 部 お よ び 草 丈 の 変 化 を Fig.1 に示 す。 地表水 位と地下 水位は 落水ま でほ ぼ一 致して いるため 、湛水 期間中 は表 面水 位変化 を水田内 貯水量 の変化 とし て扱 えるこ とが分か った。 日別漏 水量は所内露場の蒸発計蒸発量が 0 で あ る 時 間 帯 (0 時 〜 4 時 ) の 水 収 支 か Fig.1 水田ライシメータの雨量 + 流入量、 水位、草丈の変化 Change of precipitation and irrigation water, water level, grass length in the paddy lysimeter (独)農業工学研究所 National Institute for Rural Engineering 水田ライシメータ , 水収支法 , 渦相関熱収支法 ら推 定し た。そ の結果よ り得ら れた日 蒸 発 散 量 を Fig.2 に 示 す 。 7 月 は 蒸 発 散 量 が 小 さ く 、 6、 8 月 が 大 き い こ と が分かった。 ② 渦相 関法に よる蒸発 散量の 測定を行 った が、 湿度変 動を正確 に計測 できなか った こと により 、蒸発散 量を過 小評価し た。 そこ で、渦 相関法か ら顕熱 フラック スを求め 、純放射量 、水体の貯熱変化量 、 水の 流出 入に伴 う移動熱 量、地 中熱伝導 量を推定することで、残差である蒸発 Fig.2 散 量 を 算 定 し た ( 渦 相 関 熱 収 支 法 )。 計算間隔を 1 時間とし、その結果から 求めた日蒸発散量を Fig.2 に 示す。蒸発 散量は 6 月に大きく、水収支法との波 Fig.3 旬別平均日蒸発散量の変化 Change of daily evapotranspiration of 10-day average by eddy correlation heat balance and water balance methods 水収支法と渦相関熱収支法による 日蒸発散量の変化 Change of daily evapotranspiration by eddy correlation heat balance and water balance methods Fig.4 水 収 支 法 と 渦 相 関 熱 収支 法 に よる 日蒸発散量の比較 Comparison of daily evapotranspiration by eddy correlation heat balance and water balance methods 形は一致しているとは言えなかった。旬別平均日蒸発散量の変化を Fig.3 に示す。水収支 法による蒸発散量のピークは 6 月上旬と 8 月下旬にあるのに対し、渦相関熱収支法では 6 月 下 旬 と 8 月 上 旬 に あ る 結 果 に な っ た 。 一 方 、 2003 年 は 冷 夏 に よ り 蒸 発 散 量 が 小 さ く 、 水収支法による比較では 2002 年の約 6 割であることが明らかになった。水収支法と渦相 関熱収支法による日蒸発散量の比較を Fig.4 に 示す。この結果から両者が一致していると は言えず、熱収支観測における各要素の正確な測定が重要であることが分かった。 4.おわりに 本研究では、渦相関熱収支法と水収支法による水田蒸発散量の比較を行った。今後は観 測の精度を上げて、両法による蒸発散量の比較検討を行う。
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