フリンジ・ベネフィット税(FBT) 申告を控えて

2015 年 3 月
ジャパン・ビジネス・サービス
ニュース・レター
フリンジ・ベネフィット税(FBT)
申告を控えて
FBT課税年度末が3月31日末となっていることから、1年のこの時期には多くの雇用
主がFBT申告書作成に向けて情報収集および確認作業を行います。FBTは、連邦政
府にとってさらなる税収を提供する可能性のある税制であり、豪州国税局(ATO)のコ
ンプライアンス活動の焦点の1つとなっています。そのため、各企業は雇用主として自
社のFBT納税義務を正確に理解し、コンプライアンスを立証するための必要文書の整
備を図ることが大切です。以下FBTに関して特に日系企業に影響がありそうなエリアに
焦点を当てて解説をします。
FBTとは何か?
浅井和弘
(Kazuhiro Asai)
ジャパン・ビジネス・サービス
雇用関連税務部門
NSW 州弁護士資格有。2008
年新日本税理士法人入所。10
年 EY シドニー事務所入所。法
人税務の豊富な業務経験を経
て 12 年 11 月から雇用関連税
務および個人所得税務を担当。
「フリンジ・ベネフィット」とは従業員に対しての「支給」ですが、給与や賃金の支払いと
は異なるものであり、雇用に関連して提供されるベネフィット(以下参照)です。「ベネフ
ィット」および「フリンジ・ベネフィット」という用語には、FBT法上幅広い意味が与えられ
ており、権利、特典やサービスの提供も含まれます。FBTは、従業員およびその関係
者に現金給与以外の経済的利益を提供する場合に、雇用主に対して課されます。た
だし、FBTが適用されるのはオーストラリアで課税対象となる給与・賃金を受領している
従業員に提供されたフリンジ・ベネフィットです。例えば、日本国籍保有者がオーストラ
リアで一定期間以上勤務する必要がある場合、提供されたフリンジ・ベネフィットはFBT
の対象となる可能性があります。会社が従業員に対して提供する最も一般的なフリン
ジ・ベネフィットには以下のものがあります。

社用車のプライベート使用

接待(レストランでの食事、ゴルフ・コンペ、ショーのチケットなど)

私的費用の払い戻し(交通費、子女の授業料、個人所得税の負担など)
関連会社(日本の親会社など)からオーストラリア勤務の従業員に提供されるベネフ
ィットもFBTの適用対象となります。これは従業員への支払いが現地であろうと海外で
あろうと発生します。
FBT課税年度は4月1日~3月31日の12カ月であ
り、申告書の申告期限は、通常5月21日ですが、タ
ックス・エージェントを通した場合6月25日に期限を
延長することも可能です。
税率の変更
FBTの税額はFBT税率に課税対象となるフリン
ジ・ベネフィット額をグロス・アップした額に適用して
計算されます。FBT税率は個人所得税最高税率に
メディケア税率を加算したものですが、メディケア税
の 税 率 が2014年7月1日 付 で1.5%か ら2%に 引 き
上げられたため、それに対応して14年4月1日付か
ら前倒しで14/15FBT課税年度のFBT税率とグロス
アップ率が変更されました。
 FBT税率が46.5%から47%に引き上げ
 タ イ プ 1 グ ロ ス ・ ア ッ プ 率 は2.0647か ら
2.0802に引き上げ
 タ イ プ 2 グ ロ ス ・ ア ッ プ 率 は1.8692か ら
1.8868に引き上げ
15/16課税年度(15年4月1日開始)については、
2%のオーストラリア予算均衡化税(時限立法)の導
入に伴い、FBT税率が再び変更になります。このた
め、15年4月1日~17年3月31日までの2年間は、
FBT税率が47%から49%に引き上げられることに
よってグロス・アップ率も上がります。
遠隔地勤務手当
12年10月1日付で、国外からの駐在員および国
内の転勤者に適用されるFBT免除規定および優遇
措置に大幅な変更がありました。この結果、多数の
雇用主が駐在員に対する遠隔地勤務(L A F H)手
当の支給を全額または一部を取りやめました。
概して、国外からの駐在員に与えられるLAFH手
当(住居費、食費)は全額がFBTの適用対象となり、
免除が適用されるケースは限られています。ただし、
一時帰国休暇や子女の学費などを含むその他の
FBT免除規定および優遇措置は引き続き適用され
ます。
L A F H 手当てのF B T 免除規定または優遇措
置が適用される可能性は国内の転勤者のほうが高
いと言えます。ただし、従業員は以下の要件を満た
す必要があります。
 業務上の目的でオーストラリア国内の通常の
住居から離れた遠隔地勤務が必要
 従業員または配偶者がオーストラリアに住居
を所有または賃貸・ オーストラリアの住居が常
時利用可能な状態であること(住居間貸し不
可)
 12カ月を超えて1つの場所(またはその付近)
に遠隔地勤務をしない、および
 LA FH期間中の住居費に関する証明の提出
フリンジ・ベネフィット税(FBT)申告を控えて
自動車フリンジ・ベネフィット
この数年間に自動車フリンジ・ベネフィットのFBT
の計算方法に関して多くの変更がありました。 経過
措置として原則的に11年5月10日以前に購入また
はリースした自動車には走行距離ベースの旧法定
計算率が適用されます。ただし、自動車のリース契
約が3年または4年を超えることは稀であることから、
現在この経過措置が適用される契約はほとんどあ
りません。このため法定計算率方式では、自動車フ
リンジ・ベネフィットの課税額を計算するために一律
20%が適用されます。
FBTコストの削減
従業員にフリンジ・ベネフィットを供与した場合、会
社にそれに関連するFBTコストが発生します。また
フリンジ・ベネフィットには会社の給与税および労働
災害補償義務への影響があるため、その点を社内
で検討する必要があります。そのため、雇用主はフ
リンジ・ベネフィットを提供した場合のコストと従業員
が感じるベネフィットの価値とのバランスを考える必
要があります。
FBTコストの削減方法には、以下のようなものが含
まれます。
 従業員拠出金:従業員拠出金(税引き後)によ
って、フリンジ
 ベネフィット課税価格を減額する。
 F B Tの対象となる特定のフリンジ・ベネフィット
を全額現金化:これはベネフィットを従業員に
直接支払う現金手当てに交換するのと同じ。こ
れは過年度に民間健康保険を従業員に提供
してきた雇用主の間で最も一般的。ただし、こ
れがPAYG源泉徴収、スーパーアニュエーショ
ン制度や給与税に与える影響には注意する必
要あり。
 駐車費用の払い戻し:技術の進歩に伴い、過
去の多数の駐車料金の履歴が入手可。雇用
主が従業員に数年にわ たり自動車の駐車ス
ペースを提供している場合、過年度の割安な
駐車場料金情報を入手し、税務長官にFBTの
払 い戻しを修正申告によって請求できる。
 会食交際費:会食交際費の課税額を計算する
最も一般的な方法は50/50分割法。ただし、
多くの場合、実額法(1人当たり)に基づく方法
を利用することで雇用主の大幅な節約につな
がる可能性がある。
 少額ベネフィット:300ドル(GST込)未満の不
定期に従業員または社員に提供される特定の
ベネフィットは免除される。雇用主はこの免除
枠を利用して、FBTコストをかけずに従業員に
各種ベネフィットを提供できる。
終わりに
ATOは、コン プライアン ス強化の一環として、
FBTの納税義務を遵守していない雇用主、特にFBT
の申告を行っていない雇用主に対する取り締まりを
強化しています。FBT申告書上で開示した数字が正
しいか、FBT申告において行うすべての選択、優遇
措置、免税、算出方法を裏付ける基本的な記録が
保持されているかどうかなどを十分確認し、万一の
ATOの調査活動に備えることが重要です。
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