VOL37NO.2/2014 日本心脈管作動物質学会 ISSN 0911-4637 ・ 総 編 集 長 玉 置 俊 晃(徳島大学大学院病態情報医学講座情報伝達薬理学分野) ・ ベ ー シ ッ ク 編 集 長 西 山 成(香川大学医学部薬理学) ・ オ ミ ッ ク ス 編 集 長 田 中 利 男(三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス) ・ ク リ ニ カ ル 編 集 長 伊 藤 正 明(三重大学大学院医学系研究科循環器内科学) 編集委員 (ABC順) 藤田 浩,福田 昇,古川安之,林 晃一,林登志雄,飯野正光,池田宇一,伊藤 宏, 伊藤正明,伊藤猛雄,松原達昭,三浦総一郎,宮内 卓,長田太助,中木敏夫,中村真潮, 錦見俊雄,大橋俊夫,岡村富夫,高橋和広,高橋克仁,田中利男,山崎峰夫,柳沢輝行, 吉村道博 学会案内 第44回日本心脈管作動物質学会 ∼ 基礎と臨床のコラボレーション新時代 ∼ New Era of Collaboration in Basic and Clinical Sciences 会 期:2015年2月6日㈮・7日㈯ 会 場:高松センタービル 高松市寿町2-4-20 会 長:平野 勝也 (香川大学医学部 自律機能生理学 教授) 事務局:〒761-0793 香川県木田郡三木町池戸1750-1 香川大学医学部 自律機能生理学内 第44回日本心脈管作動物質学会事務局 TEL:087-891-2100 FAX:087-891-2101 E-mail:jscr2015@molcar.med.kyushu-u.ac.jp 共催:香川県薬剤師会 後援:日本薬理学会,日本循環器学会,日本生理学会 下記の専門医及び認定薬剤師の単位取得が可能な関連学会であることをご案内申し上げます. ◎日本循環器学会循環器専門医,◎研修認定薬剤師(予定),◎香川県病院薬剤師会(予定) 大会ホームページ http://www.jscr2015.med.kyushu-u.ac.jp 会場アクセス ─1─ ◆プログラム *時間は多少変更する場合がございます. ………………………………………………………………………………………………… 2月6日(金)13:10 ∼開会挨拶 ■基調講演 「循環器病のトランスレーショナルリサーチ」 演者:下川 宏明(東北大学大学院医学系研究科 循環器内科学) 座長:平田結喜緒(先端医療振興財団 先端医療センター病院長) ■特別講演 「個体レベルのシステム生物学の実現に向けて」 演者:上田 泰己(東京大学大学院医学系研究科 システムズ薬理学) 座長:田中 利男(三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス・オミックス 創薬科学) ■イブニングセミナー 「トランスポーターの生体恒常性維持における役割と疾患治療標的としての意義」 演者:金井 好克(大阪大学大学院医学系研究科 生体システム薬理学) 座長:西山 成(香川大学医学部薬理学) ■シンポジウム1 「心脈管作動物質としての凝固因子と新規経口抗凝固薬」 オーガナイザー:小川 久雄(熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学) 佐田 政隆(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 循環器内科学) シ ン ポ ジ ス ト:浦野 哲盟(浜松医科大学 生理学第二) 相庭 武司(国立循環器病センター 心臓血管内科・不整脈科) 浅田祐士郎(宮崎大学医学部 構造機能病態学) 福田 大受(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 心臓血管病態医学) ■一般演題(ポスター発表)ほか 2月7日(土) ■シンポジウム2 「高血圧における臓器連関」 オーガナイザー:廣岡 良隆(九州大学大学院医学研究院 先端循環制御学) 下澤 達雄(東京大学大学院医学系研究科 臨床病態検査医学) シ ン ポ ジ ス ト:伊藤 浩司(九州大学大学院医学研究院 循環器内科学) 古市 賢吾(金沢大学医学部附属病院 血液浄化情報部) 山田 哲也(東北大学大学院医学系研究科 糖尿病代謝内科学) 尾野 亘(京都大学大学院医学研究科 循環器内科) ─2─ ■シンポジウム3 「心不全研究のカッティング・エッジ」 オーガナイザー:長谷部直幸(旭川医科大学 循環・呼吸・神経病態内科学) 赤澤 宏(東京大学大学院医学系研究科 先端臨床医学開発講座) シ ン ポ ジ ス ト:桑原宏一郎(京都大学大学院医学研究科 循環器内科学) 清水 逸平(新潟大学大学院医歯学総合研究科 先進老化制御学) 朝野 仁裕(大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学) 瀧本 英樹(東京大学大学院医学系研究科 肺高血圧先進医療研究学) ■シンポジウム4 「肺高血圧症 From bench to bedside」 オーガナイザー:渡邉 裕司(浜松医科大学 臨床薬理学) 福本 義弘(久留米大学医学部 心臓・血管内科) シ ン ポ ジ ス ト:中村 一文(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科) 小田切圭一(浜松医科大学 臨床薬理学講座) 阿部弘太郎(九州大学大学院医学研究院 先端循環制御学) 田原 宣広(久留米大学医学部 心臓・血管内科) ■ランチョンセミナー,口頭発表(YIA)など ◆参加登録 ………………………………………………………………………………………………… ■参 加 費 事前登録 当日登録 一 般 4,000 円 5,000 円 評 議 員 5,000 円 6,000 円 大学院生・研修生 2,000 円 3,000 円 学生(学部,大学院,研修生など)は受付にて学生証の提示が必要. ■事前参加登録 ・学会ホームページ「参加登録」ページの「事前参加申込フォーム」から,必要事 項をご入力し,登録ください. ・登録完了後,確認メールが自動配信されます. ・学会当日,確認メールを印刷し,ご持参ください. ・参加費は学会当日に,受付にてお支払いください. 事前参加登録締切:平成26年12月31日(水)17:00 ■学会ホームページ http://www.jscr2015.med.kyushu-u.ac.jp プログラムの詳細等は,大会ホームページで随時更新いたします.ぜひご覧ください. ─3─ 《日本心脈管作動物質学会の入会および各種届出について》 1.年会費:4,000円 2.期 間:加入(会費納入)した年の12月31日まで. 3.機関誌:「血管」を年4回送付します.本年度は1号が学会抄録号となります. 4.総 会:年1回開催します.学会の演題申込者はすべて本会会員に限ります. 5.入会手続き:本学会入会希望者は,学会HP内の各種届出用紙より,入会申し込み用紙をダウンロー ドし,必要事項を記入した用紙をメールまたはFax(059−232−1765)にて事務局までご送付くだ さい.また,下記郵便口座あてに年会費4,000円をお払い込みください. 6.雑誌送付先などに変更が生じた場合はすみやかに事務局までお知らせください. 《振 込 先》 【ゆうちょ銀行からの振込口座】 郵便振替口座:00900−8−49012 加入者名:日本心脈管作動物質学会 【その他の金融機関からの振込口座】 ゆうちょ銀行 店 番:099〔ゼロキュウキュウ店〕 預金種目:当座 口座番号:0049012 受取人名:ニホンシンミャクカンサドウブッシツガッカイ 《「お知らせ」の掲載について》 本誌では, 「血管」に関連した学会および学術集会(国内外,規模の大小は問いません. )の案内を, 無料掲載いたします.ご希望の方は,締切日までに原稿を事務局へお送りください.(締切日等は事 務局へご確認ください. ) 〒514-8507 三重県津市江戸橋2丁目174番地 三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス分野 日本心脈管作動物質学会事務局 TEL 059−231−5411 FAX 059−232−1765 http://jscr21.medic.mie-u.ac.jp/ jscr@doc.medic.mie-u.ac.jp ─4─ 血管 VOL.37 NO.4 2014 JAPANESE JOURNAL OF CIRCULATION RESEARCH 編集・刊行/日本心脈管作動物質学会 ■巻頭総説 脳血管攣縮における細胞膜受容体の活性制御異常:トロンビン受容体PAR1の役割 平野 勝也……………………………………………………………………………… 125 ■第43回日本心脈管作動物質学会 研究奨励賞受賞論文 アドレノメデュリン-RAMP2システムによる、白色脂肪、褐色脂肪の脂質、 エネルギー代謝制御 神吉 昭子……………………………………………………………………………… 135 ■総説 血圧調節機構の変化に関わる神経性因子と液性因子の相互関係 煙山 健仁,晝間 恵,萩沢 康介,田代 晃正,太田 宏之,西田 育弘… 141 ─5─ Japanese Journal of Circulation Research VOL.37 NO.4 2014 JAPANESE JOURNAL OF CIRCULATION RESEARCH ■ Distinguished Review Dysregulation of membrane receptor activity in cerebral vasospasm: A special pathogenic role of thrombin receptor PAR 1 Katsuya Hirano ……………………………………………………………………… 125 ■ Young Investigator Research Awards Regulation of lipid and energy metabolism in white and brown adipose tissue by adrenomedullin-RAMP2 system Akiko Kamiyoshi ……………………………………………………………………… 135 ■ Review Interaction between neural factors and humoral factors in blood pressure control Kemuriyama Takehito, Tandai-Hiruma Megumi, Hagisawa Kohsuke, Tashiro Akimasa, Ohta Hiroyuki, Nishida Yasuhiro …………………………… 141 ─6─ 血管Vol.37 No.2 2014 ベーシック───────────────────────────── 総 説 血管内皮障害に対するsigma-1 受容体作用薬の保護作用 田頭 秀章1),松本 貴之2),田口 久美子2),小林 恒雄2),福永 浩司1) (*) 1) 東北大学大学院 薬学研究科 薬理学分野,2)星薬科大学大学院 医薬品科学研究所 機能形態学 トにおいて圧負荷をかけ左心室肥大を引き起こしたラッ Ⅰ.はじめに トに生理的に補充するという方法を用いて証明されてい 閉経は,加齢とともに月経周期ごとに起こる排卵を制 る5,6). 御しているホルモンであるエストロゲンとプロゲステロ 心血管病態研究における病態モデル動物の開発はかな ンの卵巣からの分泌が減少することで起こる.エスト りの進化を遂げている.しかしながら,閉経後における ロゲンやプロゲステロンに代表される卵巣ステロイド 心血管病態モデルは,ヒト以外のモデル,例えば羊やウ は,女性において重要な心血管保護機能があり,閉経に サギ,マウス,ラットなどの閉経後の疾患モデルとして おけるホルモン欠乏により閉経後の女性は,循環器疾患 使用されてきたが,心機能,血行動態,そして神経ホル に脆弱になると言われている.厚生労働省から発表され モンの変化が臨床に近いとはいえず,また病態発症まで たデータによると,日本の平成21年度における心疾患に の期間が長いなど問題点が多い.それゆえ,心・血管病 よる死亡は死亡原因の第二位である.性別,年齢別の死 態の解析や治療法開発は進んでいるが,閉経に伴うスト 因の構成割合でみると,心疾患死亡割合は,中年期以前 レス下における心・血管病態メカニズムの解明研究は進 までは男性の方が心疾患死亡割合が高いのに対し,閉経 んでいない.従って,基礎研究と臨床研究のギャップを を迎える50歳前後から女性における心疾患死亡割合は増 埋めるようなモデルの開発が必要である. 加し,男性の死亡率を上回ってくる.フラミンガム心臓 本総説では,初めに閉経モデルラットにおける圧負 研究においても,閉経前に比較して,閉経後の女性では 荷による左心室肥大に対するエストロゲンの心血管保 1) 心血管疾患の発症率が同世代の人であっても増加する . 護作用の分子メカニズムを追究し,次に,ホルモン補 さらに,自然および手術的に早期閉経を迎えた女性にお 充療法に代わる新規治療薬としてのsigma-1受容体作 2) いて,冠動脈イベントが増加するという報告もある . 用 薬 で あ る1-(3,4-dimethoxyphenethyl) -4-(3- 高血圧などの心臓への慢性圧負荷により,左心室の肥大 phenylpropyl)piperazine dihydrochloride(SA4503)の が起こる.この肥大反応が心不全や心突然死などの主要 心血管保護作用について解説する. なリスクファクターとなる.興味深い事に,この左心室 肥大様式に性差があることが臨床・基礎研究において証 明されている3,4).例えば, 高血圧や動脈狭窄による圧負 Ⅱ.閉経後心血管疾患モデル 荷により,男性の場合,心容積・壁厚が共に増加する偏 これまでの研究においてはヒト疾患と動物の疾患モデ 心性の心肥大を示すのに対し,女性の場合心壁厚は増加 ルの病態には差が大きいことから,研究プロジェクトを するが,心房容積は通常に維持されている求心性の心肥 開始する際は特定の目的を追求するために最適なモデル 4) 大を引き起こす .性ホルモンが心肥大様式に影響する を選択する必要がある.しかしながら,心臓での繊維化 ということは,循環しているエストロゲンの主要な形状 や炎症反応,そしてアポトーシスといった長い年月をか である17β estradiol(E2)を,卵巣摘出した雌性ラッ け慢性的に進行してくる心血管疾患の特徴をすべて兼ね 備えたモデルは存在しない.従って,閉経後心血管疾患 *1)東北大学大学院 薬学研究科 薬理学分野 *2)星薬科大学大学院 医薬品科学研究所 機能形態学 (〒980−8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6−3) 研究の発展のためには有用なモデルの作成が必要不可欠 である. 卵巣を摘出し,心圧負荷をかけるというモデルを用い, ─ 53 ─ 血管内皮障害に対するsigma 1 受容体作用薬の保護作用 した. エストロゲンが心筋保護作用を示すことは証明されてい 7, 8) .しかしながら,心血管リモデリングや病的心肥 左心室に圧負荷をかけるため,卵巣摘出後2週間後に 大から血管機能不全,心不全への移行に対する閉経によ おいて,ペントバルビタール(50mg/kg)麻酔下におい るエストロゲン欠乏の影響というものは明らかとされて て,腹部大動脈を単離し シルク糸(6−0)を用い,25 いない.私達は卵巣摘出ラットに腹部大動脈狭窄を施し, ゲージニードルの太さ(直径0.5mm)まで結刹した.そ 体重増加,卵胞ホルモンの枯渇を伴う閉経後の病態を示 の後ニードルを抜きおおよそ25ゲージニードル程度まで し,かつ心血管機能障害を伴う卵巣摘出-圧負荷モデル 狭窄し心負荷をかけた.偽手術は腹部大動脈を単離する (OVX-PO モデル)を作成した9,10).このモデル動物で ところまで行い,狭窄を行わず閉じた.この動物モデル は,血管障害に伴い,Akt-eNOS シグナルが障害されて においては,狭窄後 4 週目には安定して心機能および血 いること,およびβ-アドレナリン受容体(β-AR)慢性 管機能の低下がみられる9,10). 刺激に対する代償反応が障害され,その結果生存率の著 圧負荷後4週目において心機能について測定してみる しい減少を示した9). と,卵巣摘出および圧負荷のみかけただけでは,心機能 この動物モデルの作成法を最初に説明する.まず,閉 障害が起こらないのに対し卵巣摘出後圧負荷をかけたこ 経後の病態を模倣するために雌性のラットを用い,両側 のモデルにおいては心機能障害が引き起こされる9).ま の卵巣を摘出した.摘出法としてペントバルビタール た,血管機能も低下する10).このことから,この動物モ (50mg/kg)麻酔下において,卵巣存在部位である後ろ デルは血管機能不全および心不全への移行に対する閉経 足付け根部分を0.5cm−1cm程度体毛を除去し,同程度 の影響を反映しており,閉経後心血管疾患増加のメカニ 開口し卵巣を体外に露出した.露出した卵巣をシルクの ズムおよび閉経後心血管疾患に対する治療薬開発に有用 糸で結刹し単離した後,切り離し摘出した.偽手術は卵 なモデルであると考えられる. る 巣を露出するところまで行い,単離せずに閉じた.術後 感染を予防するために50000 U/kgのペニシリンGを筋注 Plasma membrane SA4503 eNOS ER Ca2+ p Arg p IP3 receptor 1R Akt NO Ca2+ Ca2+ Antioxidant Mitochondria Vascular protection Enhancement of diastolic function 図1:Sigma-1受容体を介した血管保護作用 Sigma-1受容体(σ1R)はERとミトコンドリアの間(MAM)に豊富に存在し,IP3受容体と会合している。血管において sigma-1 受容体は血管平滑筋および内皮細胞に発現している(図2参照)。血管内皮細胞において, sigma-1受容体を活性化すると, Akt-eNOS 経路が活性化され,NO産生が亢進して,血管保護作用を示すと考えられる. ─ 54 ─ Ⅲ.Sigm-1受容体について その臓器分布は不明である.私達を含むいくつかのグ ループが,腎臓12),血管13,14),ラット培養心筋細胞15−17) に発現していることを明らかにした.培養心筋細胞で して発見されたが,ナロキソンは作用を示さず,鎮痛作 は,sigma-1受容体リガンド結合部位が存在し,sigma 用には直接作用しないことから,内因性リガンドが不 受容体のアゴニストにより筋収縮が増強され,アンタゴ 明なオーファン受容体として分類されている.一方,ア ニストにより筋収縮が抑制されることはすでに報告され ルツハイマー病やうつ病の病態では,脳内sigma-1受 ている16).培養心筋細胞では,sigma-1ゴニストであ 容体が低下すること,アゴニストにより症状が改善さ る(+)-3PPP,(+)-pentazocineが心筋細胞へのCa2+の れ る こ と な ど が 報 告 さ れ て い る. し か し,sigma-1 流入,心筋収縮,脈拍を増強し,sigma-1アンタゴニ Sigma-1受容体は,オピオイド受容体のサブタイプと ストであるharoperidolは減弱することが示されている い.Sigma受容体にはsigma-1受容体とsigma-2受容 15, 16, 18, 19) 体が存在する.Sigma-2受容体についてはクローニン るいは単離心筋細胞を用いて行った実験であり,心血管 グされておらす,局在や役割など明らかにされていな 疾患などの病態でのsigma-1受容体の役割については いのに対し,sigma-1受容体は,非心筋細胞において, 不明であった.私達は,心機能障害に伴い,心臓におけ mitochondria associated ER membrane(MAM)に多く るsigma-1受容体が減少することを報告した17).さらに, 発現し,一部はIP3受容体と結合していることが近年明 血管において,血管平滑筋だけでなく,血管内皮細胞に らかにされた11) (図1) . 発現していることを明らかにした10)(図2). 受容体の生理機能については明らかとされていな .しかしながら,これまでの研究では,培養あ Sigma-1受容体は,分子量27kDaのタンパク質であ り,細胞膜における2回膜貫通型受容体である.しかし, A B Autofluorescence N.S. 1R expression (% of sham) 150 PECAM-1 1 R Merge High magnification ## 100 ¶¶ Sham 50 20 1m 0 150 PECAM-1 expression (% of sham) 血管Vol.37 No.2 2014 OVX-PO ## 100 ¶ † 50 0 OVX-PO +SA4503 Sham OVX vehicle SA 0.3 SA SA1.0+ 1.0 NE 図2:血管におけるsigma-1受容体発現の動態と局在 Sigma-1受容体の発現量および血管内皮細胞のマーカーとして,PECAM-1の発現量について検討した.卵巣摘出・圧負荷 (OVX-PO)によりsigma-1受容体の発現量は減少し,PECAM-1の発現が著しく低下することから,血管内皮障害が確認された (A) .このsigma-1受容体の発現量の減少は血管平滑筋だけでなく血管内皮細胞においても見られる(B).一方,sigma-1受容体 選択的アゴニストであるSA4503を慢性投与すると,sigma-1受容体の発現量の減少は抑制され,血管内皮障害も改善した(A, B) . Sigma-1受容体選択的アンタゴニストであるNE-100同時投与によりSA4503 による血管内皮障害抑制作用は消失したが,sigma-1 受容体の発現の低下は消失しなかった(A,B) .このことは,sigma-1受容体アゴニストを慢性投与すると,閉経後圧負荷に伴う 血管内皮障害が改善することを示している. (文献10より改変) ─ 55 ─ 血管内皮障害に対するsigma 1 受容体作用薬の保護作用 反応はOVX-PO ラットモデルにおいて有意に減弱した. Ⅳ.卵巣摘出・圧負荷 により誘導される血管機能障害に SA4503を慢性投与すると,OVX-POによる血管内皮機 対するSA4503およびNE-100の効果 能障害が有意に改善し,NE-100同時投与すると,SA4503 我々は以前,選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI) の血管内皮機能障害改善作用は消失した(図3).クロニ であり,かつsigma-1受容体の高親和性アゴニストで ジン誘発性血管弛緩反応についても同様の結果が得られ あ るfluvoxamineが,OVX-POに よ る 血 管 内 皮 障 害 を た10).このことは,血管内皮に存在するsigma-1受容体 sigma-1受容体を介して改善することを報告した14).し を活性化すると,血管内皮保護作用を示すことを意味し かしながら,SSRIであるためセロトニンの作用など非特 ている. 異性が問題であった.そこで,よりsigma-1受容体に特 異的であり高親和性を示す,SA4503を用い,血管内皮障 Ⅴ.卵巣摘出・圧負荷により誘導される血管障害におけ 害に対する効果について検討した.SA4503は,Matsuno る sigma-1受容体の動態 ら,Tanakaらにより他のチャネルや受容体において親 和性を示さないことが証明されており,選択的sigma-1 私達は,圧負荷による心機能障害に伴い,心臓におけ 受容体アゴニストとして有用な薬物である20,21).また, るsigma-1受容体が減少することを報告した17).そこ N,N-dipropyl-2[4-methoxy-3(2-phenylethoxy) で,血管機能障害における血管sigma-1受容体の発現量 phenyl] -ethylamine monohydrochloride(NE-100) は, について検討を行った(図2A,B).Sigma-1受容体発 sigma-1受容体を選択的に阻害するアンタゴニストで 現量は,OVX群において変化は認められないのに対し, ある.SA4503は,脳虚血後の緩和治療および抗うつ薬 OVX-PO群において有意な低下が認められ,血管平滑筋 として現在臨床試験中である.OVX-POラットモデル および内皮細胞どちらにおいても減少がみられた.内皮 にSA4503を慢性投与すると,OVX-POによる血管内皮 細胞のマーカーであるCD31(PECAM-1)はOVX群にお 障害が有意に改善し,NE-100同時投与すると,SA4503 いて変化は認められないのに対し,OVX-PO群において 10) の血管内皮障害改善作用は消失することを見出した 有意な低下が認められ,内皮細胞の脱落がみられた.そ (図2A,B) .次に,NO依存性の血管内皮機能につ れに対し,SA4503慢性投与により,sigma-1受容体発現 いて検討した(図3) .アセチルコリン誘発性血管弛緩 の減少は血管平滑筋および内皮細胞どちらにおいても抑 A B ACh (Log M) -9 -8 -7 -6 -5 Sham Relaxation (% ) 20 40 OVX OVX-PO+ saline OVX-PO+ SA0.3 60 80 100 OVX-PO+ SA1.0 OVX-PO+ SA1.0+ NE Sham+ indo+ LN †† †† †† ACh (10-6M) relaxation (% ) 0 100 # ¶ 80 †† 60 40 20 0 # # Sham OVX vehicle SA 0.3 SA1.0 SA1.0+ NE # OVX-PO (4 weeks) 図3:Sigma-1受容体選択的アゴニストSA4503のNOを介した血管機能の改善作用 摘出血管を用いて,ACh 誘発NO 依存性血管弛緩反応について検討した.卵巣摘出・圧負荷(OVX-PO)によりACh誘発NO依 存性血管弛緩機能は有意に低下した(A, B) .Sigma-1受容体選択的アゴニストであるSA4503を慢性投与すると,NO依存性血管弛 緩機能は改善した(A, B).Sigma-1受容体選択的アンタゴニストであるNE-100同時投与によりSA4503によるNO依存性血管弛緩 機能改善作用は消失した(A, B).このことは,sigma-1受容体アゴニストを慢性投与すると,NO依存性の血管内皮機能が改善す ることを示している. (文献10より引用) ─ 56 ─ 血管Vol.37 No.2 2014 制され,それに伴い,CD31の減少,内皮細胞の脱落は抑 ムは明らかとされていない.私達は,心筋細胞において 制された.Sigma-1受容体選択的アンタゴニストである sigma-1受容体を活性化すると,IP3受容体を介してミ NE-100により,SA4503のCD31の減少および内皮細胞の トコンドリアへのCa2+ 流入を促進し,ATP産生を増加 欠落抑制作用は消失したのに対し,sigma-1受容体発現 させることを明らかにした28,29).エネルギー源の改善が に変化がみられなかった(図2A,B) .これらの結果は, Aktリン酸化につながっていることが考えられる.また, SA4503は血管内皮細胞に存在するsigma-1 受容体を活 私達は,心筋細胞において,ryanodine受容体を介した筋 10) 性化して,血管内皮細胞を保護することを示している . 小胞体からのCa2+漏出を抑制することを示した30).血管 内皮細胞など非興奮性細胞ではSTIM1を介したstoreoperated Ca2+ entry(SOCE)がCa2+調節に重要な役割 Ⅵ.血管におけるAkt-eNOS-cGMP経路の役割 を果たしていると考えられており,Aktの脱リン酸化酵 Akt-eNOS 経路の活性化が血管内皮保護作用に重要 素としても知られているカルシニューリン31)が不活化 であることが報告されている14,22).例えば,ストレプト に関与する可能性も考えられる.Sigma-1受容体を介し ゾトシン/ニコチンアミドによる2型糖尿病モデルマ たAkt 活性化メカニズムについて,今後のさらなる検討 ウスにおいて,AChによる血管弛緩反応の減弱が見ら が必要である. れ,これらはPI3K/Akt/eNOS 経路を介することが報告 Aktは直接eNOSのSer1177をリン酸化しeNOSを活性 22) されている .また,ob/ob マウスにおいてG protein- 化する32).興味深いことに,SA40503を4週間慢性投与 coupled receptor kinase2(GRK2)が細胞膜に移行す すると,Aktを介したeNOSのSer1177のリン酸化を上昇 るとAkt/eNOS 経路の活性を抑制し,血管機能障害を誘 し,cGMP濃度も上昇した.Sigma-1受容体のアンタゴ 発することが報告されている23).さらに,Fernandez- ニストであるNE-100の処置により,SA40503によるAkt Hernandoらは,ApoEとAkt1をノックアウトしたマウ を介したeNOSのリン酸化は消失するから,血管内皮細 スでは,ApoEノックアウトマウスに比較し,動脈硬化 胞におけるsigma-1受容体を介したeNOSの活性化が示 24) が増悪することを報告している .また,この論文の中 された.これらの結果から,SA4503による血管内皮保護 で,炎症性メディエーターの増加や,eNOSのリン酸化 効果の一部はsigma-1受容体の発現上昇によるもので 24) 反応が減少することを合わせて報告されている .こと あり,Aktを介したeNOSのSer1177のリン酸化反応を促 から,SA4503の血管保護作用はAkt の活性化作用が関 進することが明らかとなった10) (図1). 与すると予測した.Aktの活性化には,ホスファチジル エストロゲンレベルの減少は,心血管疾患のリスク イノシトール3キナーゼ(PI3K)などのキナーゼによ ファクターとなる33).従って,エストロゲン受容体刺激 る Ser473及びThr308のリン酸化が必須であるが,OVX- は,炎症性サイトカインのTNF-αにより誘導されるIκ POによる血管障害群において,Aktのリン酸化レベル Bα/NFκBシグナル活性化を抑制し,血管障害を抑制す がSer473及 びThr308の 2 カ 所 に お い て 有 意 に 低 下 し, る33).また,血管内皮細胞において核外受容体を介した経 SA4503投与群において,Ser473及びThr308のリン酸化 路でエストロゲンがNO産生を引き起こす34−36).本研究に 反応は有意に上昇した.NE100同時投与群では,SA4503 より,我々は閉経後心血管疾患モデルにおいてsigma-1 によるAktのリン酸化レベルの上昇が阻害された.これ 受容体活性化により,eNOSを活性化しNO産生を増強す らの事から,sigma-1受容体を介するSA4503の心筋保 ることを見出した.これらの結果は,閉経に伴う心血管 護効果はAktの活性上昇と密接に関係していること,及 疾患に対する創薬ターゲットとしてのsigma-1受容体 びsigma-1受容体の下流シグナルに Akt経路が存在す の重要性を証明した最初の報告である. 10) ることが示された .Sigma-1受容体アゴニストによ り,Akt活性化が引き起こされることは様々な薬物およ び細胞において報告されている25−27).例えば,PC12細胞 Ⅶ.Sigma-1受容体活性化による心血管保護作用の臨 床意義 では,fluvoxamine処置によりAktの活性化が引き起こさ れる25).また,癌化細胞において,sigma-1受容体アン うつ病患者において心血管疾患死亡率や心血管疾患発 タゴニストであるrimucazoleがPI3Kを抑制し,Aktの 症リスクが増加する37−39).うつ病患者の約20%は,近年 26) リン酸化を抑制する .さらには,水晶体細胞において に心筋梗塞にかかった人であるという報告もある38).こ siRNAによるsigma-1受容体ノックダウンすると,トロ のような背景の中,SSRIなどの抗うつ薬の適応は,心 ンビン刺激によるAkt のリン酸化が抑制される27).しか 疾 患 合 併 リ ス ク を 減 少 さ せ る40). 一 方,SSRIで あ る しながら,sigma-1受容体を介したAkt 活性化メカニズ sertraline41) やfluvoxamine42) が高親和性sigma-1受容 ─ 57 ─ 血管内皮障害に対するsigma 1 受容体作用薬の保護作用 体アゴニストであることが近年明らかになってきた.私 は,血管sigma-1受容体の生理機能を解明したのみなら 達は,SSRIの1つであるfluvoxamineは,sigma-1受容 ず,sigma-1受容体が新規心・血管治療薬のターゲット 体を介して,圧負荷に伴う病的心肥大・心機能障害を改 となることも示している.本研究が,fluvoxamineの適 17, 43) および,圧負荷に伴う血管内皮障害を改 応拡大とさらに心血管イベントを予防するsigma-1受 を明らかにした.実際に,SSRIは,様々な 容体を標的とした薬剤の開発につながれば幸いである. 善すること 善すること 14) 生理活性を持っている44−46).例えば,うつ病ではない患 者において SSRIを処置すると,ノルエピネフリン濃度 謝辞:本稿で紹介した研究の一部は,文部科学省科学研 究費(KAKENHI 24659024)の研究成果である. 低下により交感神経活性が低下する.心理的ストレスは, 心拍数や血圧,細胞内カテコラミン濃度が低下する.さ らには,うつ病患者,及び健常者が SSRIを服用すると, 参考文献 血小板機能が低下する47−50).SSRIを服用している喫煙者 の心筋梗塞発症リスクが減少する51).さらに,Sertraline 1.Kannel WB,Hjortland MC,McNamara PM,Gordon T. Antidepressant Heart Attack Rondomized Trialの疫学 Menopause and risk of cardiovascular disease:the Framingham 研究では,プラセボ投与群においては22.4%起きていた study.Ann Intern Med.1976;85(4):447−52. 重度心血管イベントが,sigma-1受容体アゴニストであ 2.Shuster LT,Gostout BS,Grossardt BR,Rocca WA. Prophylactic oophorectomy in premenopausal women and long る sertraline(Ki:57nM)投与群においては, 14.5%に まで低下することが示された52).同様に,胎児及び新生 term health.Menopause Int.2008;14(3):111−6. 3.Leinwand LA.Sex is a potent modifier of the cardiovascular system.J Clin Invest.2003;112(3):302−7. 児における心血管イベントにおいての死亡率や再発リス 40) クが,SSRIを服用している患者において低下する .し 4.Hayward CS,Kelly RP,Collins P.The roles of gender, the menopause and hormone replacement on cardiovascular かしながら,SSRIによる心疾患リスク減少のメカニズム は明らかとされていなかった.私達の結果は,SSRIの function.Cardiovasc Res.2000;46(1):28−49. 5.Patten RD,Pourati I,Aronovitz MJ,Alsheikh Ali A,Eder fluvoxamineはsigma-1受容体を介して心肥大に伴う心 S,Force T,Mendelsohn ME,Karas RH. 17 Beta estradiol 筋障害を減少させることを示している.現在のAmerican differentially affects left ventricular and cardiomyocyte College of Cardiology/American Heart Associationの冠 hypertrophy following myocardial infarction and pressure 動脈バイパス移植手術, 急性心筋梗塞, 慢性狭心症ガイド ラインは,うつ病の症状の評価をし,うつ病の治療も考 overload.J Card Fail.2008;14(3):245−53. 6.van Eickels M,Grohé C,Cleutjens JP,Janssen BJ,Wellens HJ, Doevendans PA.17beta estradiol attenuates the development 慮することを推奨している53).将来的にはうつ病と心疾 of pressure overload hypertrophy.Circulation.2001;104(12) : 患の関係を明らかにしていくことが必要である.SSRIは, 脳内モノアミンの濃度を増加させ,うつ病に関連した生 1419−23. 7.Fang Z,Carlson SH,Chen YF,Oparil S,Wyss JM.Estrogen 理学的乱れを改善する.それに加え, SSRI による治療は, depletion induces NaCl sensitive hypertension in female 尿中コルチゾール分泌を正常化し,心拍数変動を改善し, spontaneously hypertensive rats.Am J Physiol Regul Integr 血小板活性を低下させる52−54).さらに炎症性マーカーの 発現を抑制する55).私の研究成果は,SSRI の心筋保護作 Comp Physiol.2001;281(6):R1934−9. 8.Peng N,Clark JT,Wei CC,Wyss JM.Estrogen depletion increases blood pressure and hypothalamic norepinephrine in 用の医学的根拠とそのメカニズムを解明した最初の報告 middle aged spontaneously hypertensive rats.Hypertension. 2003;41(5):1164−7.. であり,臨床的にも,新規心肥大治療薬のターゲットと 9.Bhuiyan MS,Shioda N,Fukunaga K.Ovariectomy augments なりえる可能性を示唆する点で重要な知見である. pressure overload induced hypertrophy associated with changes in Akt and nitric oxide synthase signaling pathways in female rats.Am J Physiol Endocrinol Metab.2007;293(6) : Ⅷ.おわりに E1606−14. 本総説では,sigma-1受容体が血管内皮細胞において 10.Tagashira H,Matsumoto T,Taguchi K,Zhang C,Han F, 重要な役割を果たしていることを示し,sigma-1 受容体 Ishida K,Nemoto S,Kobayashi T,Fukunaga K.Vascular 選択的アゴニストであるSA4503を用いて,血管障害抑 endothelial σ1 receptor stimulation with SA4503 rescues aortic relaxation via Akt/eNOS signaling in ovariectomized rats 制効果が血管内皮のsigma-1受容体を介することを明 らかにした.また,sigma-1受容体アゴニストの慢性投 with aortic banding.Circ J.2013;77(11):2831−40. 11.Hayashi T,Su TP.Sigma-1 receptor chaperones at the ER 与は,Akt/eNOS経路を介したNO産生を増強し,血管 mitochondrian interface regulate Ca(2+)signaling and cell 保護作用を示すことをin vivo で証明した.本研究成果 survival.Cell.2007;131(3):596−610. ─ 58 ─ 血管Vol.37 No.2 2014 12.Bhuiyan MS,Fukunaga K.Stimulation of sigma-1 receptor WC.Loss of Akt1 leads to severe atherosclerosis and occlusive by dehydroepiandrosterone ameliorates hypertension induced kidney hypertrophy in ovariectomized rats.Exp Biol Med. coronary artery disease.Cell Metab.2007;6(6) :446−57. 25.Nakano M,Osada K,Misonoo A,Fujiwara K,Takahashi M, 2010;235:356−364. 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Ⅰ.はじめに 本稿では,細胞外Ca2+を感知するCaSRの分子構造やシ 2+ カルシウムイオン(Ca )は生体機能の維持および制御 グナル機構,作動薬と拮抗薬,血管におけるCaSRの生理 に関わる細胞内情報伝達物質として本質的な役割を担っ 機能とその発現変化によって生じる病態について概説す ている.細胞内Ca2+濃度( [Ca2+]cyt)の変動は,神経伝 る. 達,筋収縮,ホルモン分泌,免疫応答,記憶などの多彩 な生命現象をもたらす.生体内のカルシウム恒常性(ホ メオスタシス)は,①消化管によるカルシウム摂取,② Ⅱ.カルシウム感受性受容体の分子構造 骨からのカルシウム吸収,③腎臓によるカルシウム排泄 CaSRは,血清Ca2+濃度を上昇させる副甲状腺ホルモ のバランスで成立している.さらに,副甲状腺ホルモン ンの分泌機構に関与する分子として,1993年にウシ副甲 (パラトルモン)や活性型ビタミンD(1,25−ジヒドロ 状腺からクローニングされた1.1995年には,ヒト相同 キシビタミンD3,カルシトリオール)によって,血清カ 遺伝子が副甲状腺腺腫から単離された2.CaSR(遺伝子 ルシウム濃度は厳密に調節されている.それらの協調に 名:GPRC2A)は,Gタンパク質共役型受容体のクラスC より,血清カルシウム濃度は8.4∼10.0 mg/dlに保たれて ファミリーに属している3.このファミリーにはCaSRの いる.例えば,血清カルシウム濃度が低下すると,副甲 他,代謝型グルタミン酸受容体(mGluR),GABAB受容 状腺から副甲状腺ホルモンが分泌される.副甲状腺ホル 体,味覚受容体(T1R),オーファン受容体(GPRC5) モンの分泌は,腎臓での活性型ビタミンD合成を促進し が含まれている(図1) .ファミリー内でのアミノ酸相 て,消化管におけるカルシウム摂取,骨からのカルシウ ム吸収,腎臓でのカルシウム貯留を促進する.その結果, Ca2+-sensing receptor 血清カルシウム濃度は正常範囲に回復する. CaSR GPRC6A 2+ カ ル シ ウ ム 感 受 性 受 容 体(Ca -sensing receptor, mGlu8 Metabotropic mGlu7 glutamate receptors mGlu4 CaSR) は, 血 清 中 のCa2+濃 度 変 化 を 感 知 す る 7 回 膜 貫通型のGタンパク質共役型受容体として同定された 1 T1R1 mGlu6 mGlu3 .CaSRは副甲状腺に高密度存在し,副甲状腺ホルモン Taste receptors T1R2 T1R3 GABABL mGlu2 の分泌を調節する細胞外Ca2+センサーとして機能してい GABAB1 mGlu5 る.血清Ca2+濃度が上昇すると,副甲状腺に発現してい mGlu1 るCaSRが活性化する.このシグナルが副甲状腺ホルモン GPRC5C の分泌を抑制した結果,血清Ca2+濃度は正常レベルに回 GPRC5B RAIG1 復する.CaSRの発現は副甲状腺以外に,腎臓,骨,消化 Orphan receptors GABAB2 GPRC5D GABAB receptors 管,中枢神経,血管などの組織でも確認されており,そ 図1.Gタンパク共役型受容体クラスCファミリー の生理機能の解明や病態における発現機能変化の解析が カ ル シ ウ ム 感 受 性 受 容 体(Ca2+ sensing receptor,CaSR, GPRC2A)は,Gタンパク質共役型受容体ファミリーのクラスC に属している3.このファミリーには代謝型グルタミン酸受容体 (mGluR),GABAB受容体,味覚受容体(T1R),オーファン受容 体(GPRC5)も含まれる. *金城学院大学薬学部 (〒463−8521 名古屋市守山区大森2丁目1723番地) ─ 61 ─ カルシウム感受性受容体の血管生理機能と病態発現変化 同性は20%程度である.ヒトCaSR遺伝子は3番染色体上 いる.血管においても,CaSRは多くの平滑筋および内 (3q13.3-21)に位置している. 皮で発現分布していることが報告されている(表1). ヒ トCaSR(GenBank accession number, NM_000388) 例えば,ヒトの血管平滑筋では,大動脈6−10,上腹部動 .CaSRのN末 脈6,内胸動脈11,肺動脈12,13,腎動脈6,脛骨動脈11にお 端は細胞外に配し, 全長の半分以上にあたる612アミノ酸 いてCaSRの発現が確認されている.また,他の動物種に 残基からなる.細胞外N末端領域には,細胞膜発現に重 おいても,ラット大動脈14−16,ラット心筋内動脈15,ラッ 要なN型グリコシレーション部位や細胞外Ca2+濃度を感 ト肺動脈12,13,17−20,ラット皮下小動脈21,マウス大動脈7, は, 1,078個のアミノ酸から構成される 4, 5 2+ 知するCa 結合ポケットが存在する.CaSRの中心領域は, マウス肺動脈12,17,スナネズミのらせん蝸牛軸動脈22,ウ Gタンパク質共役型受容体ファミリーの特徴である7回 シ大動脈11などにCaSRは発現している.一方,内皮細胞 膜貫通型構造(TM1∼TM7)を含む250アミノ酸からな において,CaSRの発現が確認されているヒト血管組織は, る.CaSRに選択的な化合物の作用点が,この中心領域の 大動脈6,23,腎動脈6,臍帯静脈7,8である.また,ラット アミノ酸残基であると推測されている.CaSRの細胞内C 大動脈24,ラット心臓微小血管25,ラット腸間膜動脈26, 27, 末端領域は,216アミノ酸残基から構成され,プロテイン マウス大動脈7,マウス腸間膜動脈28,ブタ冠動脈27の内 キナーゼC(PKC)やプロテインキナーゼA(PKA)が 皮細胞でもCaSRの発現が報告されている. 標的とするリン酸化部位が存在する.CaSRは2分子が会 各種細胞における[Ca2+]cyt変動は,筋収縮,神経伝達, 合したホモ二量体として細胞膜表面で機能発現している. 転写調節,ホルモン分泌,高次脳機能を含めた生理機能 の発現において,極めて重要な役割を担っている.細胞 膜上に発現するCaSRは,細胞外空間におけるCa2+濃度変 Ⅲ.カルシウム感受性受容体のシグナル機構 化を感知する特性を有することから,生体内のCa2+ホメ CaSRはGqをはじめ複数のGタンパク質と共役する(図 オスタシスを維持する重要な分子であると認識されてい 2)5.Gqタンパク質は,ホスホリパーゼC(PLC)を活 る.血管平滑筋において,CaSRの活性化は[Ca2+]cytを 性化して,ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン 増加させた結果,血管収縮を引き起こす18,20,22.そのた 酸(PIP2)からイノシトール-1, 4, 5-三リン酸(IP3) Figure 2. 2+ を産生し, [Ca2+] cytの増加を導く.細胞外Ca 濃度の増 加やアゴニスト刺激によるCaSRの活性化は,主にGq- Ca2+ Calcimimetics PLC-IP3の系によって細胞内Ca2+シグナルを動員する. PIP2 PLCの活性化で産生したジアシルグリセロール(DG) Gq Calcilytics CaSR PLC は,PKCを活性化した後,そのシグナルはMAPキナーゼ EGFR Gi AC↓ cAMP↓ (mitogen activated protein kinase, MAPK)カスケー IP3 ドに伝達される.MAPKカスケードであるMAPKキナー ゼ(MAPK/ERK kinase, MEK),細胞外シグナル調節 SR JNK)を介したシグナル伝達が,細胞の分化や増殖に関 receptor, EGFR)の活性を増加させ,Ras Raf MEK経路 を介して,ERKを活性化する.CaSRの活性化は,ホスホ リパーゼA2(PLA2)やホスホリパーゼD(PLD)も刺激 する.CaSRはG i タンパク質とも共役し,アデニル酸シク ラーゼ(AC)の活性を阻害し,cAMP産生を低下させる. Ⅳ.血管におけるカルシウム感受性受容体の生理機能 CaSRは副甲状腺以外にも,腎臓,骨,消化管,皮膚, 中枢神経,免疫細胞,心臓などの広範な組織に発現して Ras Raf MEK MEK3 p38 JNKK JNK ERK1/2 MEKK4 p38,c Jun N末 端 キ ナ ー ゼ(c Jun N terminal kinase, るSrcや上皮成長因子受容体(epidermal growth factor Src PKC キナーゼ(extracellular signal-regulated kinases,ERK), 与している.また,CaSR刺激はチロシンキナーゼであ DG IP3R Ca2+ Nucleus 図2.カルシウム感受性受容体のシグナル機構 カルシウム感受性受容体(CaSR)は,細胞外Ca2+によって活性 化される.CaSRはGqタンパク質と共役し, ホスホリパーゼC (PLC) を活性化して,ホスファチジルイノシトール-4, 5-二リン酸 (PIP2)からイノシトール-1,4,5-三リン酸(IP3)を産生し,筋小胞 体(SR)上のIP3受容体(IP3R)からのCa2+遊離を惹起する.PLC の活性化で産生したジアシルグリセロール(DG)は,プロテイン キナーゼC(PKC)を活性化した後,MAPキナーゼカスケードで あるMAPKキナーゼ(MEK) , 細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK) , p38,c Jun N末端キナーゼ(JNK)にシグナルが伝達される.ま た,CaSR刺激はチロシンキナーゼであるSrcや上皮成長因子受容 体(EGFR)の活性を増加させる.CaSRはG iタンパク質とも共役 し,アデニル酸シクラーゼ(AC)の活性を阻害し,cAMP産生を 低下させる.また,CaSRの活性は,CaSR作動薬(calcimimetics) やCaSR拮抗薬(calcilytics)によっても制御される. ─ 62 ─ 血管Vol.37 No.2 2014 め,CaSRは筋原性緊張や末梢血管抵抗に関与すると考 21, 29 質に分類されるγ-グルタミルペプチド類(γ-Glu-Cys- .最近の知見では,血管平滑筋のCaSR Glyやγ-Glu-Val-Glyなど)が,CaSRを活性化すること は,MAPキナーゼ経路を介して細胞増殖やアポトー に関連して,最近,CaSRがホ乳類味覚細胞に機能発現し えられている .ま ていることが報告された35,36.アミノグリコシド系抗生剤 た,慢性腎不全やアテローム性動脈硬化で認められる もCaSRに作用する(ネオマイシン>トブラマイシン>ゲ 動脈の石灰化にもCaSRが関与していることが知られて ンタマイシン>カナマイシン) .L型アミノ酸はCaSR活 シスにも関与していることが示唆されている いる 14,19,30 6, 9, 11, 15, 16, 31 .さらに,これらの病態におけるCaSRの 性のアロステリック制御薬である(ファニルアラニン> 発現変化も報告されている6,11,16.一方,血管内皮細胞層 トリプトファン>ヒスチジン>アラニン>グルタミン酸 2+ に発現するCaSRは,中コンダクタンスCa 活性化K チャ >アルギニン>ロイシン) .さらに,CaSRのCa2+親和性 ネル(IKCa)の活性化を介して,血管平滑筋の過分極を (EC50 = 3.5mM,pH7.5)はpHに依存し,酸性pHでは低 26, 27 惹起する + .また,CaSRの活性化は,内皮におけるNO く(EC50 = 6.0mM,pH6.0) ,塩基性pHでは高い(EC50 = 産生を促進する23,28.以上より,血管平滑筋および内皮に 34 2.5mM,pH9.0) . 発現しているCaSRが,血管張力や血圧の調節に関与して 細胞外Ca2+に対するCaSRの感受性を増大させる薬物 いることが推察される32. 3,37 をCaSR作動薬(calcimimetics)と呼称する(図3A) . その第一世代は,フェニルアルキルアミン骨格を有する NPS R467(EC50 = 4.8μM)とテカルセト(tecalcet, NPS Ⅴ.カルシウム感受性受容体の薬理 R568;EC50 = 0.6μM)である.これらの化合物は内活性 2+ CaSRはその名の通り,Ca によって活性化する受容体 を有していないので,その活性はCa2+濃度に強く依存す である.その濃度依存的な応答範囲は0.5∼10mMであり, るポジティブなアロステリック制御薬である.副甲状腺 2+ 生体内で変動する血清Ca 濃度域に一致する.CaSRの 2+ Ca に対する感受性は,動物種や細胞種によって若干異 1, 12, 33, 34 に発現するCaSRの細胞外Ca2+に対する感受性増大は,副 甲状腺ホルモンの分泌低下を起こすので,CaSR作動薬は .内因性 副甲状腺機能亢進症(hyperparathyroidism,HPT)に適 の二価陽イオンであるMg2+やその他の多価陽イオンも 応される.テカルセトは,原発性および二次性副甲状腺 なるが,そのEC50値は1∼5mMである 3+ 3+ 2+ CaSRのアゴニストとして作用する (La > Gd > Be > 機能亢進症の治療薬や副甲状腺細胞の異常増殖に対する 5 Ca2+ = Ba2+ > Sr2+ > Mg2+) .また,内因性物質である 抑制薬として開発された.原発性副甲状腺機能亢進症は, ポリアミン類(スペルミン>スペルミジン>>プトレシ 副甲状腺の腺腫,がん,過形成によって起こり,副甲状 ン)やアルツハイマー病患者の脳内で過剰に産生される 腺ホルモンの過剰分泌を起こす.二次性副甲状腺機能亢 アミロイドβペプチドもCaSRを活性化する.味覚増強物 進症は,腎不全に伴って起こる.残念ながら,テカルセ 表1.Expression of CaSR in vascular smooth muscle and endothelium Species Smooth muscle References Species Endothelium References Human Aorta Epigastric artery Internal mammary artery Pulmonary artery Renal artery Tibial artery Aorta Intramyocardial artery Pulmonary artery Subcutaneous small artery Aorta Pulmonary artery Spiral modiolar artery Aorta 6-10 6 11 12, 13 6 11 14-16 15 12, 13, 17-20 21 7 12, 17 22 11 Human Aorta Renal artery Umbilical vein Aorta Cardiac microvessel Mesenteric artery Aorta Mesenteric artery Coronary artery 6, 23 6 7, 8 24 25 26, 27 7 28 27 Rat Mouse Gerbil Bovine ─ 63 ─ Rat Mouse Pig カルシウム感受性受容体の血管生理機能と病態発現変化 トはバイオアベイラビリティが極端に低く,遺伝子多型 御薬である.また,カリンドール(calindol;EC50 = 4.8 が多い薬物代謝酵素のCYP2D6によって代謝されるため, μM)もCaSR活性を増加させる. 臨床試験で中止になった. CaSRのネガティブなアロステリック制御薬がCaSR拮 バイオアベイラビリティや薬物動態を改善するために, 抗薬(calcilytics)と呼ばれている(図3B)3,37.NPS2143 第二世代のフェニルアルキルアミン誘導化合物である (IC50 = 43nM)が,CaSR拮抗薬として最初に同定され シナカルセト(cinacalcet, NPS1493, AMG073) (EC50 = た化合物である.続いて,NPS2143とは構造的に異なる 28nM)が開発された.シナカルセトは, 2004年に米国食 カルヘックス231(Calhex 231;IC50 = 390nM)が設計さ 品医薬品局(FDA)から初めて認可されたCaSR作動薬で れた.CaSR拮抗薬は,副甲状腺に発現するCaSRの活性 ある.その適応は,透析を受けている慢性腎不全患者の を低下させることで,間接的に副甲状腺ホルモンの分泌 二次性副甲状腺機能亢進症,および副甲状腺がんにとも を刺激する.血中における定常的な副甲状腺ホルモンの なう高カルシウム血症である.透析および腎不全患者は, 増加は,骨吸収(骨からのカルシウム遊離)を促進する. 腎臓でのカルシウム再吸収障害や活性型ビタミンD産生 一方で,副甲状腺ホルモンの一過性上昇は,骨芽細胞を の低下が起こり,体内のカルシウム量が不足する.その 活性化し,骨形成を刺激する.このため,CaSR拮抗薬は, 結果,低カルシウム血症や副甲状腺ホルモンの合成およ 骨粗しょう症や他の骨代謝疾患の治療薬として期待され び分泌の促進が起こる.シナカルセトはCaSRに選択的に ている.SB-423562(NPSP795)やその経口投与可能な 作用して,細胞外Ca2+濃度に対するCaSRの感受性を増加 前駆体であるSB-423557(NPSP790)が,骨粗しょう症 させることにより,副甲状腺ホルモンの合成および分泌 の治療薬として臨床試験中である. を抑制する薬剤である.シナカルセト(シナカルセト塩 酸塩:米国ではSensipar®,欧州ではMimpara®,日本で はRegpara®)は,現在,上市されている唯一のCaSR制 Ⅵ.カルシウム感受性受容体の遺伝子疾患 CaSRに は 疾 患 に 関 連 す る 遺 伝 子 変 異(Calcium A B H N CN Cl OH O Sensing Receptor Database, CASRdb;http://www. H N casrdb.mcgill.ca/)が数多く存在し,その構造,発現レ O NPS R467 NPS2143 ベル,活性などに影響を及ぼす4. O CaSRの不活性化型変異が2種類の高カルシウム血症 NH H N の責任遺伝子である.ヘテロ接合型のloss of function変 H N Cl O 異によって起こる家族性低カルシウム尿性高カルシウム Cl CN 発性副甲状腺機能亢進症に類似の高カルシウム血症であ H N O る.この患者で認められるCaSRの変異体の一種(R185Q) OH H N F 3C 血症(familial hypocalciuric hypercalcemia,FHH)は, 原 Calhex 231 Tecalcet は,CaSR活性の低下を起こし,生理的なCa2+濃度(1.8∼ Cinacalcet O O CN N H ルはやや高い(2.6∼2.9mM)が,無症候性である場合が H N O H N 2.2mM)では活性化されない38.この患者の血清Ca2+レベ SB-423557 多い.副甲状腺ホルモンレベルも基準範囲内である場合 OH が多い.低カルシウム尿症や高マグネシウム血症も認め Calindol COOH られるが,腎機能は正常である.一方,ホモ接合型の不 SB-423562 活性化変異によって発症する新生児重度副甲状腺機能亢 図3.カルシウム感受性受容体の作動薬と拮抗薬 カルシウム感受性受容体(CaSR)の作動薬(calcimimetics) と拮抗薬(calcilytics)の化学構造. (A)CaSR作動薬であるNPS R467,テカルセト(tecalcet,NPS R568),シナカルセト(cinacalcet, NPS1493, AMG073),カリンドール(calindol).タカルセトは, 原発性および二次性甲状腺機能亢進症の治療薬として開発された が,臨床試験で中止された.シナカルセトは,腎性甲状腺機能 亢進症の治療薬として使用されている.(B)CaSR拮抗薬である NPS2143,カルヘックス231(Calhex 231),SB 423562(NPSP795), SB 423557(NPSP790).SB 423562やSB-423557(SB 423562の 経 口投与可能な前駆体)は,骨粗しょう症治療薬として,現在臨床 試験中である. 進症(neonatal severe hyperparathyroidism,NSHPT) の患者は,血清Ca2+濃度が7.5mMにも達するため,致命 的な状況に陥る.著明な高カルシウム血症と副甲状腺ホ ルモンの異常高値が認められる.CaSRの機能不全によっ て,副甲状腺ホルモンの分泌抑制がほとんど生じないた め,重篤な副甲状腺機能亢進症を引き起こす.副甲状腺 の摘出が必要となる. 一方,CaSRの活性化型変異も数多く知られており,低 カルシウム血症や高カルシウム尿症の原因となる.CaSR ─ 64 ─ 血管Vol.37 No.2 2014 表2.Clinical classification of pulmonary hypertension (Dana point, 2008) 1. Pulmonary arterial hypertension (PAH) 1.1. Idiopathic (IPAH) 1.2. Heritable (HPAH) 1.2.1. BMPR2 1.2.2. ALK1, endoglin (with or without hereditary hemorrhagic telangiectasia) 1.2.3. Unknown 1.3. Drug- and toxin-induced 1.4. Associated with 1.4.1. Connective tissue disease 1.4.2. HIV infection 1.4.3. Portal hypertension 1.4.4. Congenital heart disease 1.4.5. Schistosomiasis 1.4.6. Chronic hemolytic anemia 1.5 Persistent pulmonary hypertension of the newborn 1’. Pulmonary veno-occlusive disease (PVOD) and/or pulmonary capillary hemangiomatosis (PCH) 2. Pulmonary hypertension owing to left heart disease 2.1. Systolic dysfunction 2.2. Diastolic dysfunction 2.3. Valvular disease 3. Pulmonary hypertension owing to lung diseases and/or hypoxia 3.1. Chronic obstructive pulmonary disease 3.2. Interstitial lung disease 3.3. Other pulmonary diseases with mixed restrictive and obstructive pattern 3.4. Sleep-disordered breathing 3.5. Alveolar hypoventilation disorders 3.6. Chronic exposure to high altitude 3.7. Developmental abnormalities 4. Chronic thromboembolic pulmonary hypertension (CTEPH) 5. Pulmonary hypertension with unclear multifactorial mechanisms 5.1. Hematologic disorders: myeloproliferative disorders, splenectomy 5.2. Systemic disorders: sarcoidosis, pulmonary Langerhans cell histiocytosis, lymphangioleiomyomatosis, neurofibromatosis, vasculitis 5.3. Metabolic disorders: glycogen storage disease, Gaucher disease, thyroid disorders 5.4. Others: tumoral obstruction, fibrosing mediastinitis, chronic renal failure on dialysis ALK1, activin receptor-like kinase type 1; BMPR2, bone morphogenetic protein receptor type 2; HIV, human immunodeficiency virus. ─ 65 ─ カルシウム感受性受容体の血管生理機能と病態発現変化 のgain of function型変異は,常染色体優性低カルシウム 血症(autosomal dominant hypocalcemia, ADH)の原因 遺伝子である.CaSR遺伝子の活性型変異ヘテロ接合体に Ⅶ.肺高血圧症 肺高血圧症(pulmonary hypertension)とは,様々な 2+ より,低値(1.25mM)のCa 濃度でCaSRが活性化され, 原因により慢性的に肺動脈圧が上昇する状態であり,平 副甲状腺ホルモンの分泌が抑制される.発作,手足痙縮, 均肺動脈圧が安静時に25mmHg以上になる状態と定義 大脳基底核石灰化症などの低カルシウム血症に特有の所 されている.肺高血圧症の発症頻度は,国内では年間100 見が認められる.副甲状腺ホルモンレベルは,正常範囲 万人に1∼2人程度(年間約100人ずつ増加)で, 2010 内である.低カルシウム血症であるが,尿中カルシウム 年度の罹患者数は1,560人(全世界では約10万人)である. 排泄は低下していない場合が多い.低マグネシウム血症 肺高血圧症の5年生存率は約50%である.治療介入を行 や高リン血症も認められる.また,CaSRの活性化型変異 わない場合,平均余命は約2.8年と推測されており,発症 (L125P, C131W, A843E)のヘテロ接合体によって5型 後の予後が極めて不良な疾患である.米国における,肺 バーター症候群(Bartter syndrome type V)が起こる. 高血圧症患者の平均年齢は,1980年代には36歳であった それらのCaSR変異体は,活性化の程度が強い.低カルシ が,診断基準の確立や新規治療薬の導入によって,現在 ウム血症,低マグネシウム血症,血清副甲状腺ホルモン では50歳となっている41,42.日本での肺高血圧症患者の平 の低値,高カルシウム尿症,高マグネシウム尿症に加え 均年齢は41.9歳である43.本邦では,肺動脈性肺高血圧症 て,体液の喪失や過剰なカリウム排泄による低カリウム (pulmonary arterial hypertension, PAH)が,平成10年 血症,高レニン血症,高アルドステロン血症も認められる. 1月より厚生労働省が定める特定疾患治療研究事業対象 CaSRの遺伝子多型が,冠動脈性心疾患,心筋梗塞,心 疾患(難病)に指定されている. 血管に起因する死亡の頻度の増加39や血圧40と相関して 肺高血圧症は,その病因により5つに分類されている いることが報告されている.さらに,CaSRは血圧の調 (表2)44.第1群は肺動脈性肺高血圧症(PAH)であ 32 節 に加えて,血管の石灰化にも関与していることがわ り,肺血管での病態形成に起因する疾患群である.特発 かってきている.動脈の石灰化は,慢性腎臓病の患者で 性肺動脈性肺高血圧症(idiopathic pulmonary arterial よく認められる所見であり,心疾患のリスクを上昇させ hypertension,IPAH)は家族歴や特定の危険因子を伴わ ることが知られている. ない疾患であり,原因は不明である.肺高血圧症患者の A B 図4.特発性肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞における細胞外Ca2+誘発性[Ca2+]cyt増加の亢進 対照群(Normal)および特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)患者由来の肺動脈平滑筋細胞(PASMCs)での細胞外Ca2+に対する細胞内 [Ca2+]cyt)応答。 (A)Normal-PASMCs(上)とIPAH PASMCs(下)において観察された0.1、0.5、1.1、2.2、10mM Ca2+の細胞 Ca2+濃度( 2+ (B)Normal PASMCsおよびIPAH PASMCsにおける細胞外Ca2+に対する応答性。IPAH PASMCsにおける細 外投与による[Ca ] cyt変化。 2+ 2+ 胞外Ca 誘発性[Ca ]cyt増加のEC50は、1.22mMだった12。 ─ 66 ─ 血管Vol.37 No.2 2014 うち約半数が,このIPAH患者である.IPAHでは,肺 の異常を報告してきた:①静止時の[Ca2+] cytが増加して 血管の攣縮や肺血管平滑筋のリモデリングの亢進による いること,②ストア作動性Ca2+流入(store operated Ca2+ 血管壁の肥厚によって,血管内腔の狭小化が認められる. entry,SOCE)が増強していること,③受容体作動性Ca2+ これにより肺血管抵抗(pulmonary vascular resistance, 流入(receptor operated Ca2+ entry,ROCE)が増強して PVR)は上昇し, 持続的に肺動脈圧(pulmonary arterial いること46−48.しかし,肺動脈平滑筋の生理機能や病態 pressure, PAP)が上昇するため,肺血管の異常な狭窄が 変化には,依然として経路不明なCa2+シグナルが関わっ 引き起こされる. 病態が進行すると, 血管壁の肥厚に伴っ ていることが推測されていた. て動脈壁全体が硬化し,肺血流量が低下する.そのため, 最近,我々は,細胞内Ca2+動態に関係する細胞膜上のイ 右心室に負荷がかかり, 右心不全に陥るため, 肺高血圧症 オンチャネルや受容体,トランスポーターなどの機能性 は難治性かつ致死性の高い血管疾患といえる.一方,遺 膜タンパク質のうち,細胞外Ca2+濃度を感知するCaSRに 伝性肺動脈性肺高血圧症(heritable pulmonary arterial 着目し,肺動脈平滑筋の生理機能への寄与と肺高血圧症 hypertension, HPAH)は,骨形成タンパク質受容体II型 などの病態における発現変化および機能変化を解析した (BMPR2)やアクチビン受容体様キナーゼ1(ALK1) 49, 50 などの遺伝子変異によるものである.膠原病,HIV感染 高血圧症以外の肺疾患患者,以下Normalと表記する)由 症,心臓シャントを伴う先天性心疾患などにも併発する 来のPASMCsを作製し,それらの細胞内Ca2+シグナルを ことがある.また,ある種の薬物や毒物によっても肺動 解析した(図4).IPAH PASMCsにおいて,細胞外液 脈性肺高血圧は誘発されることがある.第2群は左心疾 のCa2+濃度を0mMから2.2mMに置換したとき,細胞外 患による肺高血圧症で,左心室拡張末期圧や左心房圧の Ca2+誘発性の[Ca2+]cyt上昇が観察された.細胞外Ca2+誘 上昇によって起こる.第3群は肺疾患または低酸素によ 2+ 発性の[Ca2+] cyt上昇は,細胞外のCa 濃度依存的に起こ る肺高血圧症であり,第4群は慢性血栓閉塞性肺高血圧 り,そのEC50値は1.22mMだった.すなわち,生理的な 症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension, 血清Ca2+濃度の範囲において,CaSRは常に活性化しうる CTEPH) ,第5群は原因不明の複合的要因による肺高血 と考えられる.一方,Normal PASMCsおよびCTEPH 圧症である. PASMCsでは,このようなCa2+応答は観察されなかった. .我々は,IPAH患者やCTEPH患者および対象群(肺 次に,CaSRのタンパク質発現を解析したところ,IPAH PASMCsおよびIPAH患者の肺組織において,その発現 Ⅷ.肺高血圧症とカルシウム感受性受容体 が顕著に増加していた(図5).IPAH PASMCsにおいて, これまでに複数の肺高血圧の発症や病態形成に関与す CaSRの活性化薬であるスペルミンは, [Ca2+]cyt上昇を惹 る因子が同定されているが,それらが複雑に関連して 起した.また,IPAH PASMCsで観察された細胞外Ca2+ いるため,未だに正確な発症機構は解明されていない45. 誘発性[Ca2+] cyt上昇は,CaSRの作動薬であるNPS R568 我々の研究グループでは,IPAH患者から摘出した肺動 で増強され,一方,CaSR拮抗薬であるNPS2143によって 脈平滑筋細胞(pulmonary arterial smooth muscle cells, 減弱した.さらに,薬理学的手法を用いたCa2+シグナル 2+ PASMCs)において,以下のような細胞内Ca 制御機構 A 解析により,CaSRを介した[Ca2+] cyt上昇には,Gq PLC B 図5.特発性肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞と肺組織におけるカルシウム感受性受容体の発現亢進 対照群(Nor)と特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)患者由来の肺動脈平滑筋細胞(PASMC)(A)および肺組織(B)から抽出した膜 分画タンパク質におけるカルシウム感受性受容体(CaSR)のウェスタンブロット解析.βチュブリンの発現量で規格化した.IPAH患者由 来のPASMCsや肺組織において,CaSRの発現上昇が認められた12. ─ 67 ─ カルシウム感受性受容体の血管生理機能と病態発現変化 IP3の経路が関与していることが明らかになった.以上の 細胞増殖が亢進した.以上 発性[Ca2+] cyt上昇が認められ, 結果より,IPAH PASMCsではCaSRの発現および機能が の結果より,CaSRの発現増加および機能増強が,IPAH 亢進していることが示された12,13. PASMCsにおけるCa2+誘発性[Ca2+] cyt上昇と,それに伴 う細胞増殖の亢進に密接に関与していることが裏付けら れた12. Ⅸ.血管リモデリングとカルシウム感受性受容体 肺高血圧症のモデル動物として,モノクロタリン誘 肺動脈性肺高血圧症(PAH)の特徴として,肺血管 発 性 肺 高 血 圧 症(monocrotaline-induced pulmonary の異常なリモデリングが挙げられるので,PASMCsの hypertension) ラ ッ ト や 低 酸 素 誘 発 性 肺 高 血 圧 症 過剰な増殖機構にCaSRが関与するかについて検討し (hypoxia-induced pulmonary hypertension)マウスが た.Normal PASMCsおよびIPAH PASMCsの細胞増殖 汎用されている.肺高血圧症モデル動物から摘出した肺 を比較したところ,IPAH PASMCsの増殖速度が明らか 動脈平滑筋において,CaSRの発現および機能の亢進が認 に早かった.そこで,IPAH PASMCsに発現するCaSR められた.次に,in vivoにおいて,CaSRの選択的阻害薬 をsiRNA法によりノックダウンした結果,Ca2+誘発性 であるNPS2143の効果を検討した.肺高血圧症モデル動 [Ca2+]cyt上昇は減弱し,細胞増殖は抑制された.一方, 物で観察された肺高血圧症特有の右心室収縮期圧(right 2+ CaSRをNormal PASMCsに過剰発現させた場合,Ca 誘 A B Control (Vehicle) Control (Vehicle) ventricular systolic pressure,RVSP)の上昇や中膜肥厚 Control (NPS2143) Control (NPS2143) MCT (Vehicle) MCT (Vehicle) MCT (NPS2143) MCT (NPS2143) 図6.カルシウム感受性受容体拮抗薬であるNPS2143による肺高血圧の改善効果 肺高血圧症モデル動物であるモノクロタリン誘発肺高血圧モデル(MCT)ラットを用いて,カルシウム感受性受容体(CaSR)の選択的 拮抗薬であるNPS2143の肺高血圧治療薬としての薬効を評価した. (A)溶媒群(vehicle)またはNPS2143(+NPS,4.5mg/kg,1日1回) を投与した対照群(Control)およびMCTラットの右心室圧(RVP)の典型的な原図.(B)溶媒群(vehicle)またはNPS2143を投与した対 照群(Control)およびMCTラットにおける肺動脈の典型的なヘマトキシリン・エオジン染色像.CaSR拮抗薬であるNPS2143は,肺高血圧 症ラットの肺血管リモデリングの形成と肺高血圧を改善した12. ─ 68 ─ 血管Vol.37 No.2 2014 が,NPS2143投与群では改善された(図6) .以上より, 引用文献 CaSRの発現増加および機能増強が肺高血圧症の発症機 構や病態変化に関与していること,さらに,CaSR拮抗薬 であるNPS2143が肺高血圧症の新規治療薬として有望で 1.Brown EM,Gamba G,Riccardi D,Lombardi M,Butters R,Kifor O,Sun A,Hediger MA,Lytton J and Hebert SC. あることが明らかになった12,17. Cloning and characterization of an extracellular Ca2+ sensing receptor from bovine parathyroid.Nature.1993;366:575− 80. Ⅹ.おわりに 2.Garrett JE,Capuano IV,Hammerland LG,Hung BC,Brown EM,Hebert SC,Nemeth EF and Fuller F.Molecular cloning 近年,肺高血圧症に対する薬物療法は,新規治療薬の and functional expression of human parathyroid calcium 導入によりめざましく発展した.肺動脈性肺高血圧症 receptor cDNAs.J Biol Chem.1995;270:12919−25. (PAH)の薬物療法は,1980年代までは電位依存性Ca2+ 3.Bräuner Osborne H,Wellendorph P and Jensen AA. チャネル阻害薬(カルシウムブロッカー) ,利尿剤,ワ Structure, pharmacology and therapeutic prospects of family C ルファリンなどの抗凝固剤が用いられてきた.1996年に G protein coupled receptors.Curr Drug Targets.2007;8: は,プロスタサイクリン(PGI2)製剤のエポプロステノ ロールの持続静注療法が導入され,肺動脈性肺高血圧症 (PAH)の病態や予後が改善した.2001年には,エンド 169−84. 4. Brown EM. Clinical lessons from the calcium sensing receptor. Nat Clin Pract Endocrinol Metab.2007;3:122−33. 5.Magno AL,Ward BK and Ratajczak T.The calcium sensing セリン受容体拮抗薬であるボセンタンが登場し,肺動脈 receptor:a molecular perspective.Endocr Rev.2011;32:3 性肺高血圧症(PAH)の病態や予後は飛躍的に改善した. −30. 2007年,ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬であ 6.Molostvov G,James S,Fletcher S,Bennett J,Lehnert H, Bland R and Zehnder D. Extracellular calcium sensing receptor るシルデナフィルが,肺動脈性肺高血圧症(PAH)にも Am J Physiol Renal is functionally expressed in human artery. 適応可能となった.肺高血圧症に対する薬物療法は,こ Physiol.2007;293:F946−55. の10年間で飛躍的に進歩したが,根治治療には至ってい 7.Loot AE,Pierson I,Syzonenko T,Elgheznawy A, ない.我々は,CaSRがIPAH PASMCsに高発現し,その Randriamboavonjy V,Živković A,Stark H and Fleming I. 機能増強が肺高血圧症の病態に関与していることを明ら Ca2+ sensing receptor cleavage by calpain partially accounts かにした.さらに,その選択的阻害薬が,肺高血圧症モ for altered vascular reactivity in mice fed a high fat diet.J デル動物の病態を改善したことから,CaSRが肺高血圧症 治療薬の新規創薬標的になる可能性を提示した. Cardiovasc Pharmacol.2013;61:528−35. 8.Bonomini M,Giardinelli A,Morabito C,Di Silvestre S, Di Cesare M,Di Pietro N,Sirolli V,Formoso G,Amoroso CaSRの研究は, 副甲状腺(PubMed検索でCaSR研究全 L,Mariggiò MA and Pandolfi A.Calcimimetic R 568 and 体の33%) ,腎臓(22%) ,骨(17%)では活発に行われ its enantiomer S 568 increase nitric oxide release in human endothelial cells.PLoS One.2012;7:e30682. ているが, 血管における検討はそれほど多くない(5%). 我々の研究成果が,血管におけるCaSRの生理機能や病態 9.Hénaut L,Boudot C,Massy ZA,Lopez Fernandez I,Dupont S,Mary A,Drüeke TB,Kamel S,Brazier M and Mentaverri 機構への関与を明らかにする端緒になることを期待する. R.Calcimimetics increase CaSR expression and reduce mineralization in vascular smooth muscle cells:mechanisms of action.Cardiovasc Res.2014;101:256−65. 謝辞 10.Chow JY,Estrema C,Orneles T,Dong X,Barrett KE and Dong H. Calcium sensing receptor modulates extracellular Ca2+ 本研究の遂行にあたり,多大な御協力を頂きました名 entry via TRPC encoded receptor operated channels in human 古屋市立大学大学院薬学研究科 山村寿男准教授,イリ aortic smooth muscle cells.Am J Physiol Cell Physiol.2011; ノイ大学シカゴ校医学部 Jason X.J. Yuan教授,およ びYuanラボのメンバー,および共同研究者の皆様に心よ 301:C461−8. 11.Alam MU,Kirton JP,Wilkinson FL,Towers E,Sinha S,Rouhi り感謝致します. M,Vizard TN,Sage AP,Martin D,Ward DT,Alexander MY, Riccardi D and Canfield AE.Calcification is associated with loss of functional calcium sensing receptor in vascular smooth muscle cells.Cardiovasc Res.2009;81:260−8. 12.Yamamura A,Guo Q,Yamamura H,Zimnicka AM,Pohl NM,Smith KA,Fernandez RA,Zeifman A,Makino A,Dong H and Yuan JX.Enhanced Ca2+ sensing receptor function in idiopathic pulmonary arterial hypertension.Circ Res.2012; ─ 69 ─ カルシウム感受性受容体の血管生理機能と病態発現変化 111:469−81. 25.Berra Romani R,Raqeeb A,Laforenza U,Scaffino MF, 13.Yamamura A,Yamamura H,Guo Q,Zimnicka AM,Wan Moccia F,Avelino Cruz JE,Oldani A,Coltrini D,Milesi V, J,Ko EA,Smith KA,Pohl NM,Song S,Zeifman A,Makino Taglietti V and Tanzi F. Cardiac microvascular endothelial cells A and Yuan JX.Dihydropyridine Ca 2+ channel blockers express a functional Ca2+ sensing receptor.J Vasc Res.2009; 2+ increase cytosolic[Ca ]by activating Ca 2+ 46:73−82. sensing receptors in pulmonary arterial smooth muscle cells.Circ Res.2013; 26.Weston AH,Absi M,Harno E,Geraghty AR,Ward DT,Ruat M,Dodd RH,Dauban P and Edwards G.The expression and 112:640−50. 14.Smajilovic S,Hansen JL,Christoffersen TE,Lewin E,Sheikh function of Ca2+ sensing receptors in rat mesenteric artery; SP,Terwilliger EF,Brown EM,Haunso S and Tfelt Hansen comparative studies using a model of type Ⅱ diabetes.Br J Pharmacol.2008;154:652−62. 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(Aogen)が,レニンの作用により特異的にアンジオテ 図1Bで示すようにAogenはレニンによって直接AngⅠ ンシンⅠ(Ang Ⅰ)に変換され,さらにアンジオテンシ になる事が知られているが,我々は,452アミノ酸からな ン変換酵素(ACE)によってAngⅡとなりRA系の主要 るAogenがたった10個のアミノ酸のAngⅠになる事に疑 な作用が発揮される(血中RA系)1.一方でAngⅢ,Ang 問を感じた.またこれまで,AngⅠより長いアミノ酸配 Ⅳ,Ang(1−7)等のAngⅡから生成され,AngⅡと異 列を持つアンジオテンシン関連ペプチドの存在を示した なる薬理学的性質を持つペプチドが同定されており,さ 報告はなかった.そこで,アンジオテンシン関連ペプチ らにACE2やプロレニン,Masレセプターなどの発見に ドの系統的探索を行ことにした. より, RA系の構成因子とその作用の多様な側面が明らか にされている.また近年,心臓や腎臓を含む多くの臓器 3)アンジオテンシンペプチドをすべて認識できる測定 系の確立 *1宮崎大学、医学部、内科学講座、循環体液制御学分野 (〒889−1692 宮崎県宮崎市清武町木原5200) *2ウェイクフォレスト大学,メディカルセンター,外科 (Medical Center Bivd. Winston Salem,NC 27157 USA) AngⅡの末端の抗原性を高めることでアンジオテンシ ン関連ペプチドをすべて認識できるようなAngⅡのN末 端側を認識する抗体を作製した.この抗体を用いてラジ オイムノアッセイ(RIA)を確立したところ,Aogenの ─ 73 ─ レニン・アンジオテンシン系の新展開:ヒト尿中の主要なアンジオテンシン関連ペプチド「ビッグアンジオテンシン−25」の発見 N末端を含むAngⅠ,AngⅡ,Ang(1−14)と様々な さらにレニンとproang-12の関与を調べるために両側 長さの関連ペプチドを等しく認識する事ができた.この 腎臓摘出ラット(腎臓由来レニンの消失モデル)6と低塩 RIAを確立することでAogenのN末端を含みAngⅠより 刺激ラット(血中レニン上昇モデル)7 を用いて実験を も長い配列を持つペプチドを探索する手段を得ることが 行った.その結果,表1に示すように両側腎臓摘出ラッ 5 できた . トにおいて,血中のproang-12,AngⅠ,AngⅡが減少 するにもかかわらず,左心室内のこれらのペプチド濃度 4)プロアンジオテンシン−12 が逆に上昇することが明らかとなった.低塩刺激ラット 著者らは,AngⅡのN末認識RIAを用いて2006年に新 では,血中のレニン活性が上昇し,血中と組織中のAng しいアンジオテンシンペプチドとしてラットの小腸より Ⅰ,AngⅡ濃度が上昇したにもかかわらず血中および組 AngⅠのC末端に2個のアミノ酸が付加した12アミノ酸 織中のproang-12濃度には変化が観察されなかった.ま 5 からなるペプチド(AngⅠ Leu Tyr)を発見した .この た高血圧自然発症ラット(SHR)にRA系阻害薬を経口 ペプチドはAngⅡの前駆物質である可能性が高いと考え 投与し,RA系因子の変化を評価8したところ薬剤による られたため, プロアンジオテンシン−12(proang-12)と RA系阻害に伴い,血中のレニン活性,AngⅠ,Ⅱの濃度 命名した.proang-12は, ラット組織中に広く分布してお は上昇したが,血中proang-12には変化がなかった.一方, り,特に小腸,脾臓,腎臓,肝臓,胃には,AngⅠ,Ang 組織中では,RA系阻害群でAng Iの濃度が変化しないに Ⅱよりも高濃度存在していた.しかし組織中の濃度とは もかかわらずproang-12,AngⅡ濃度が減少傾向にあっ 対照的に,血中のproang-12濃度はAngⅠまたはAngⅡ た.これらのproang-12に関する報告はproang-12を介し に比べて低かった.また合成proang-12は,血管収縮・ た組織AngⅡ産生経路が,血中RA系さらにレニンとは独 昇圧作用を有していたが,どちらの作用もACE阻害薬と 立して存在している可能性を示している. AngⅡタイプ1受容体ブロッカー(ARB)により阻害さ さらにラットに関してはproang-12からAngⅡの変 れた.これらの結果は,投与されたproang-12がおそら 換にキマーゼの関与も報告されている 9.またヒトで くAngⅠの生成を介してAngⅡとなり速やかに作用を発 proang-12の 同 定 は さ れ て い な い が ヒ ト 心 臓 組 織 抽 揮しており,その生成過程にACEが関与していることを 出 液 に ラ ジ オ ア イ ソ ト ー プ を ラ ベ ル し たproang-12 示している. (proang-12)を作用させるとACEよりもむしろキマー A B Angiotensinogen renin Angiotensin I Black Box ACE Angiotensin II AT1-R DRVYIHPFHLVIHNESTCEQLAKANAGK PKDPTFIPAPIQAKTSPVDEKALQDQLVL VAAKLDTEDKLRAAMVGMLANFLGFRIY GMHSELWGVVHGATVLSPTAVFGTLAS Angiotensin I LYLGALDHTADRLQAILGVPWKDKNCTS RLDAHKVLSALQAVQGLLVAQGRADSQ AQLLLSTVVGVFTAPGLHLKQPFVQGLA LYTPVVLPRSLDFTELDVAAEKIDRFMQ AVTGWKTGCSLMGASVDSTLAFNTYVH FQGKMKGFSLLAEPQEFWVDNSTSVS VPMLSGMGTFQHWSDIQDNFSVTEVPF TESACLLLIQPHYASDLDKVEGLTFQQN SLNWMKKLSPRTIHLTMPQLVLQGSYDL QDLLAQAELPAILHTELNLQKLSNDRIRV GEVLNSIFFELEADEREPTESTQQLNKP EVLEVTLNRPFLFAVYDQSATALHFLGR VANPLSTA AT2-R 図1.(A)古典的なレニン・アンジオテンシン系.まだ明らかとなっていないAngⅡ生成経路の存在が示唆される報告がいくつもある. (B)ヒトアンジオテンシノーゲンのアミノ酸配列(452個)とレニンの作用部位. ─ 74 ─ 血管Vol.37 No.2 2014 ゼによってAngⅡが生成されている事が明らかとなった した結果,780の6価,936の5価,1169の4価のピーク 10 がみられ,これらはこのペプチドの分子量が4675.1であ .今後,ヒト組織よりproang-12を同定し,さらなる検 る事を示していた(図2C) .さらに糖鎖の付加を示す 討が必要である. ピークも検出された.またプロテインシーケンサでは, 25個のアミノ酸配列が確認され,そのうち14番目は検出 Ⅲ.ビッグアンジオテンシン−25の発見11 されず,18番目はジシスチンである事がわかった(図2 1)Bang-25の単離・精製と分子量・アミノ酸配列の決定 D).Aogenの配列情報より14番目はアスパラギンであり, ヒトでもラットproang-12を発見した方法と同じよう N型糖鎖が結合していると推察されたため,Nグリコシ にアンジオテンシン関連ペプチドの系統的探索を行っ ダーゼ処理を行ったところ,糖鎖が外れた後の分子量は た.AngⅡのN末認識RIAを用いて,ヒトの尿をゲル濾 3053.6を示し, 25個のアミノ酸にシステインが付加して 過して得られた各分画の免疫活性を測定したところ,分 いる理論上の分子量と一致した. 子量およそ5000のところに高い活性が認められた(図2 A) .尿中にはAngⅠ,AngⅡも存在するが,この分子量 2)糖鎖の構造解析 5,000のペプチドがAngⅠ,AngⅡ,よりはるかに存在量 次にグライエンス社で新規ペプチドの糖鎖解析を行っ の多いペプチドとして存在する主要なアンジオテンシン た12.グリコアミダーゼを用いてこのペプチドから糖鎖 関連ペプチドであることがわかった.そこで高い免疫活 のみを分離・精製後,ピリジルアミノ化を行いゲル濾 性を認めた分画を精製する事にした.始めにSep-Pakに 過,ODSカラムを使ったRP-HPLC,順相アミドクロマ より脱塩・除蛋白を行い,その後,イオン交換,ゲル濾 ト分析を行った.さらにこれらから得られたデータと質 過, 逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC),そし 量分析(MALDI-TOF-MS)で得られた分子量から糖 てAngⅡのN末抗体を固相化したカラムを使ってアフィ 鎖のデータベースを使って候補糖鎖の絞り込みを行っ ニティー精製を行い,最後に質量分析による分子量の決 た.ODSの結果より図2Eで示すように糖鎖は一種類で 定とプロテインシーケンサによるアミノ酸配列の決定を ある事が確認された.またこれらの解析で得られたデー 行った.最終的に新規ペプチドは図2Bで示すように単 タ(ODS:9.8,アミド:6.9,分子量:1720Da)より糖 一のピークとして精製する事ができた.質量分析で解析 鎖のデータベースからナンバー200.4と200.17の2つの候 # PJGH@=>F $ A<< A 表1:ラットにおけるRA系阻害剤の投与,低塩刺激,両側腎摘出後のProang-12,AngⅠ,AngⅡの血中,組織中 < < A"<A 濃度の変化 1+$ N+1,%C?B%+-.$ O " &!M !' N"KILO " &!M !' " &!O 01+ 8 +43%/ 8 9 8 8 : 8 +43%// 8 : 8 8 : 8 065243()* 9 : 9 9 : 8 P"KIL 8 N"KILO 7 (.,''-*!.("(&&.# )'--.!.("(&'&# )+()*!-"(&'(#;DE ─ 75 ─ レニン・アンジオテンシン系の新展開:ヒト尿中の主要なアンジオテンシン関連ペプチド「ビッグアンジオテンシン−25」の発見 補があがった.そのうち200.4との共打ちによりシングル パクの分解抵抗性が増加する事が知られているが,それ ピークを得た(図2F) .解析の結果,図2Gで示すよう らを考慮するとこれらの結果は妥当であるといえる.し に25個のアミノ酸からなり,14番目に9個の糖が結合し かしAogenは逆に糖鎖がない場合,レニンによるAngⅠ ており,18番目のシステインにはシステインが付加した の生成が著に減少する事が知られている.またAogenの 構造であった.我々は,このペプチドをビッグアンジオ Cys-18とCys-138のジスルフィド結合もレニンの結合に テンシン−25(Big angiotensin-25,略名Bang-25)と名 重要である事も報告されている.つまりAogenにレニン 付けた. が作用するためには糖鎖と立体構造の保持が必要である と考えられる4.これらよりBang-25は何らかの条件下で 3)Bang-25の生成・変換酵素 Aogenの立体構造が保持できなくなりその後,レニンと Bang-25の生成・変換について観察するため,Bang- は異なる酵素によって生成された可能性がある. 25と糖鎖のないBang-25(NonG-Bang-25)の合成品を 一方でAogenは既報のごとくキマーゼによってAngⅡ 作り,レニンとキマーゼによる酵素反応性を明らかにし を生成しなかった(図3B)13.Bang-25に関しては,糖 た.その結果,AogenはレニンによってAngⅠを速やか 鎖の有無にかかわらず,キマーゼによって速やかにAng に生成したが,Bang-25からのAngⅠの生成量は著明に Ⅱを生成した(図3D).キマーゼは通常,不活性型とし 低値であった(図3A) .またNonG-Bang-25からのAng て分泌顆粒内に保持されており,組織の障害や炎症によ Ⅰ生成速度がBang-25よりもわずかに速い事がわかった る刺激によって組織の間質に分泌される.またキマーゼ (図3C) .一般的に糖鎖が付加することによってタン は血中ではただちに内在するセリンプロテアーゼ阻害物 A D B C E F G 2 図2.(A)ヒトの尿5.5Lのゲル濾過と各分画のAngⅡのN末抗体に対する免疫活性.●はAngⅡのN末認識RIAの活性,〇は280nm(mg/ mL)の吸収を示す. (B)未知ペプチドの最終精製. (C)質量分析装置による分子量の決定. (D)プロテインシーケンサによる アミノ酸配列の解析.25個のアミノ酸が検出され,14番目は検出されず18番目はジシスチンであった. (E)糖鎖の一次解析結果. (F) 候補糖鎖との共打ち. (G)尿から単離したBang-25の構造.25個のアミノ酸からなり14番目のアスパラギンに糖鎖, 18番目のシス テインにシステインが付加している. (GlcNAc:N-アセチルグルコサミン,Gal:ガラクトース,Man:マンノース) ─ 76 ─ 血管Vol.37 No.2 2014 質により活性を失うためACEのようにAngⅡを生成す ることはできない14.すなわちBang-25は組織AngⅡ生成 表2:Bang-25のヒト組織の免疫染色 機構の基質となるペプチドであり,臓器障害に関連する 可能性が高いと考えられた. 4)Bang-25の体内分布 次にBang-25の体内分布を観察した.まず胎盤の抽 出液をゲル濾過後にAngⅡのN末認識RIAで各フラク ションの活性を見たところ,尿中のゲル濾過で得られ たBang-25と同じ分子量のところに高い免疫活性を認め た.興味深いことに,胎盤ではAngⅡがもうひとつの主 要な活性として認められたが,AngⅠはほとんど存在し なかった(図4Ⅰ) .つまりヒト胎盤組織ではレニンを 介さないBang-25・AngⅡシステムが存在することが示 唆される.そこでBang-25のC末端を特異的に認識する 抗体を作製して,腎臓(図4G,H) ,心臓(図4C),副 腎(図4A),膵臓(図4B),胎盤(図4D−F)を含む ヒトの組織の免疫染色を行った.胎盤では,絨毛外栄養 A C B D 3 図3.(A)1μMの基質からレニンによるAngⅠの生成量.(B)1μMの基質からキマーゼによるAngⅡの生成量.(hAogen:ヒトアン ジオテンシノーゲン,Bang-25:ビッグアンジオテンシン−25,NonG-Bang-25:糖鎖のないビッグアンジオテンシン−25)(C) Bang-25とNon-G-Bang-25からレニンによるAngⅠの生成速度(Bang-25 = Km:95μmol/L,Vmax:340pmol/min/ml,NonGBang-25 = Km:24μmol/L,Vmax:307pmol/min/ml).(D)Bang-25とNon-G-Bang-25からキマーゼによるAngⅡの生成速度 (Bang-25 = Km:9.6μmol/L, Vmax:129pmol/min/ml,NonG-Bang-25 = Km:7.5μmol/L,Vmax:155pmol/min/m).(●: Bang-25,〇:NonG-Bang-25) ─ 77 ─ レニン・アンジオテンシン系の新展開:ヒト尿中の主要なアンジオテンシン関連ペプチド「ビッグアンジオテンシン−25」の発見 A B C 200 μm E D F G H 20 μm 20 μm 50 μm 20 μm 20 μm 50 μm 100 μm I 図4.(A−H)ヒト組織のBang-25免疫染色.(A)副腎(B)膵臓(C)心臓(D−F)胎盤(G−H)腎臓.(I)ヒト胎盤のゲル濾過。 ●はAngⅡのN末認識RIAの活性,〇は280nm(mg/mL)の吸収を示す。 RA RA Angiotensinogen Big angiotensin-25 renin Proangiotensin-12 Angiotensin I ACE chymase chymase ACE Angiotensin II AT1-R AT2-R 図5.Bang-25とproang-12を含めた血中RA系と組織RA系の概要. ─ 78 ─ 血管Vol.37 No.2 2014 膜に染色性が見られた.さらに興味深いことに腎臓では 6.Ferrario CM,Varagic J,Habibi J,Nagata S,Kato J,Chappell 糸球体のポドサイトでの特異的な染色が認められた.最 MC,Trask AJ,Kitamura K,Whaley Connell A,Sowers JR.Differential regulation of angiotensin(1−12)in plasma 近の研究ではポドサイト自身が生産するAngⅡがポドサ and cardiac tissue in response to bilateral nephrectomy.Am J イト障害に働いている事も報告されており,また実際に ARBがポドサイトの障害を軽減する事が知られてい Physiol Heart Circ Physiol.2009;296:H1184−1192 7.Nagata S,Kato J,Kuwasako K,Kitamura K.Plasma and る15.また,膵臓ではラ氏島のβ細胞,副腎では髄質のよ tissue levels of proangiotensin-12 and components of the renin うな特に内分泌系の細胞に強い染色が認められた.膵臓 angiotensin system following low or high salt feeding in rats. 内のAngⅡはラ氏島の血流を減少させることで間接的に インスリンの分泌を抑制させることが知られている.さ Peptides.2010;31:889−892 8.Nagata S,Kato J,Kuwasako K,Asami M,Kitamura K.Plasma and tissue concentrations of proangiotensin-12 in rats treated らに慢性的に高濃度のグルコースや脂質にさらされると with inhibitors of the renin angiotensin system.Hypertens Res. AT1レセプターの発現が上昇し,AngⅡが作用する事で β細胞の炎症やアポトーシスを増加させるという報告も 2012;35:234−238 9.Prosser HC,Forster ME,Richards AM,Pemberton ある .さらに表3で示すように多くのヒト組織に陽性 CJ.Cardiac chymase converts rat proangiotensin-12(12) 染色が認められた.以上よりBang-25は,糖尿病,肥満, to angiotensin:Effects of 12 upon cardiac haemodynamics. 16 腎障害,心臓疾患に関与している可能性があると考えら Cardiovasc Res.2009;82:40−50 10.Ahmad S,Simmons T,Varagic J,Moniwa N,Chappell MC, れた. Ferrario CM.Chymase dependent generation of angiotensin from angiotensin(1−12)in human atrial tissue.PLoS One. 2011;6:e28501 Ⅳ.おわりに 11.Nagata S,Hatakeyama K,Asami M,Tokashiki M,Hibino H,Nishiuchi Y,Kuwasako K,Kato J,Asada Y,Kitamura 本稿では,新しいアンジオテンシン関連ペプチド K.Big angiotensin-25: A novel glycosylated angiotensin Bang-25のデータを主として新しいAngⅡ生成経路が related peptide isolated from human urine.Biochem Biophys 存在する可能性について記述した.図5で示すように Res Commun.2013;441:757−762 Bang-25とproang-12の生成酵素は同定されていないが 12.Yagi H,Takahashi N,Yamaguchi Y,Kimura N,Uchimura レニンの関与は低いと考えられ,またこれらの新規ペプ K,Kannagi R,Kato K.Development of structural analysis of チドは組織AngⅡ生成経路への関与が考えられる.今後, sulfated n glycans by multidimensional high performance liquid chromatography mapping methods.Glycobiology.2005;15: これらの新しいRA系ペプチドが生成される詳細な経路 1051−1060 や病態生理学的意義を明らかにすることで心臓や腎臓な 13.Urata H,Kinoshita A,Misono KS,Bumpus FM,Husain どの臓器障害における治療薬・診断薬の開発が期待され A.Identification of a highly specific chymase as the major る. angiotensin forming enzyme in the human heart.J Biol Chem. 1990;265:22348−22357 14.Takai S,Jin D,Miyazaki M.Multiple mechanisms for the action of chymase inhibitors.J Pharmacol Sci.2012;118: 引用文献 311−316 1.Oparil S,Haber E.The renin angiotensin system(first of 15.Dai HY,Zheng M,Tang RN,Ma KL,Ni J,Liu BC.Inhibition two parts).N Engl J Med.1974;291:389−401 of integrin linked kinase by angiotensin Ⅱ receptor antagonist, irbesartan attenuates podocyte injury in diabetic rats.Chin 2.Campbell DJ.Circulating and tissue angiotensin systems.J Med J(Engl).2012;125:888−893 Clin Invest.1987;79:1−6 3.Inui Y,Orihashi T,Nakagawa T,Ebihara A,Suzuki F, 16.Luther JM,Brown NJ.The renin angiotensin aldosterone Nakamura Y.Effects of glycosylation of the residue at position system and glucose homeostasis.Trends Pharmacol Sci.2011; Biosci 14 in ovine angiotensinogen on the human renin reaction. 32:734−739 Biotechnol Biochem.1998;62:1612−1614 4.Zhou A,Carrell RW,Murphy MP,Wei Z,Yan Y,Stanley PL,Stein PE,Broughton Pipkin F,Read RJ.A redox switch in angiotensinogen modulates angiotensin release.Nature.2010; 468:108−111 5.Nagata S,Kato J,Sasaki K,Minamino N,Eto T,Kitamura K.Isolation and identification of proangiotensin-12,a possible component of the renin angiotensin system.Biochem Biophys Res Commun.2006;350:1026−1031 ─ 79 ─ レニン・アンジオテンシン系の新展開:ヒト尿中の主要なアンジオテンシン関連ペプチド「ビッグアンジオテンシン−25」の発見 ─ 80 ─ 血管Vol.37 No.2 2014 クリニカル───────────────────────────── 世界の研究室便り クリーブランド留学紀行 (ポストドクトラル・フェローとして) 五十嵐 友 紀 産業医科大学 産業生態科学研究所 職業性中毒学 2009年4月より2年間,アメリカのクリーブランドに 練っていくのか,その場では自分の考えを明らかにする ありますCase Western Reserve Universityへ留学しま ことが求められました.また関連分野のジャーナル・ク したので,その様子をお伝えしたいと思います.クリー ラブの担当では自分のデータとのすり合わせ行い,さら ブランドはオハイオ州第2の都市で5大湖の1つエリー に指導者の意見をどのように取り入れて自分のものにす 湖の湖畔に位置し,車ではシカゴやワシントンDCまで るのか,そのような力が試される場となっていました. 6時間,ニューヨークまでは8時間といった距離です. とにかく,ボス,他のPI(グループ全体で5人),フェ 世界的に有名なクリーブランド・クリニックやクリーブ ロー,テクニシャン,様々な人たちと常に話すことが要 ランド管弦楽団などがあり研究文化都市の特色がある一 求され,しかも英語nativeの人が多いために良いスピー 方,プロ・スポーツのインディアンズ(MLB) ,キャバ チ・トレーニングとなりました. リアーズ(NBA) ,ブラウンズ(NFL)の本拠地を有し, さて私の研究テーマに関してですが, スポーツも盛んな都市でもあります. ①Connexinタンパク質を用いた心房細動の遺伝子治療 留学先のMetroHealth Medical Centerは,Case Western ②Adeno associated virus(AAV)を用いた心房筋への 遺伝子導入効率の評価 Reserve Universityの付属病院でダウンタウンにありま す.主にクリーブランドの南西部を管轄しており,年間 この2つのテーマについてブタを使った大型動物実験を の外来患者数は約70万人,のべ入院患者数は2万8千人, 行いました.ブタの心臓は解剖学的にヒトとよく似てい 救急外来受診者数は9万人にも上る総合病院です.留学 るためにTranslational Researchには適していて,開胸 中に当地を滞在中であったカーター元大統領が緊急入院 中には不整脈誘発中の様子を視覚的に観察し,また摘出 し,病院全体に緊急警備体制がとられたことも経験しま 後は立体的に解析を行うことができたため非常に参考と した. なりました.①のテーマでは,心房筋のgap junctionに 私 が 在 籍 し た J. Kevin Donahueラ ボ はHeart and 発現しているConnexin40(Cx40)およびCx43を,アデ Vascular Research Center部門に属し,遺伝子治療の臨 ノウイルスベクターを用いて心外膜から導入し,同時に 床応用を目的としたいわゆるTranslational Researchを 右心房を高頻度ペーシングすることで心房細動の発生率 研究テーマとしていました.私は心房細動に対する遺伝 がどの程度抑制されるのかを研究しました.遺伝子導入 子治療を,その他のポスドク・フェローのうち,Ian D. 前後に心臓電気生理学的検査を心内外膜のあらゆる方 Greener, PhD(イギリス出身)は心室性不整脈に対す る遺伝子治療を,J. Emanuel Finet, MD(アルゼンチ ン出身)は遺伝子治療の新規ベクター構築を,それぞれ 研究テーマとしていました.ラボもそれほど大きくなく, 雰囲気も良くて活気があり,誰とでも気さくに話せチー ムワークの良さを感じ取ることができました. 全体を通してカンファレンスでのディスカッションが 多く,月曜日はDonahueラボ,水曜日は臨床電気生理グ ループ,金曜日は全体の基礎研究グループと,週単位で 実験結果および今後の予定が話し合われました.これま での実験経過や結果を踏まえ今後どの様に実験計画を *産業医科大学 産業生態科学研究所 職業性中毒学 (〒807−8555 北九州市八幡西区医生ケ丘1−1) 〈集合写真〉前列左から1番目が著者、後列中央がJ. Kevin Donahue教授 ─ 81 ─ クリーブランド留学紀行(ポストドクトラル・フェローとして) 向から行い,qPCR・ウエスタンブロット・免疫組織染 が少し落ち着いた頃に帰国しましたが,無事に帰国でき 色などの分子生物学的解析,さらにOptical mappingに た安堵感よりも震災影響に対する危機感の方が強かった よる光学的解析も行いました.その結果,コントロー です. ル群に比べCx遺伝子導入群が心房内伝達時間の回復が その後,同年5月にサンフランシスコで開催された 得られ,有意に心房細動の発生が抑制されました.心 第32回Heart Rhythm Society(HRS)学術総会に参加 房細動状態ではCx43の脱リン酸化が引き起こされてお すべく再渡米しましたが,同学会にて幸運にもYoung り,Cx43を遺伝子導入することでリン酸化されたCx43 Investigators Award第1位を受賞することができまし が補われ,心房細動の抑制効果を得ることができました. た.HRSは米国不整脈分野の中心的な学会で,①の研究 心房内伝達速度の維持にはCx43のリン酸化が重要な役 内容が評価されての受賞となりましたが,non nativeな 割を果たしていることが主要なメカニズムと考えられま 人間でもoral presentationで受賞できたということで今 した(Igarashi et al. Circulation 2012) .②の研究では, 後の研究生活の励みとなりました.前述の通り留学中は LacZレポーター遺伝子を異なる4つのserotype(1,6, 常に会話することが要求される場所であったため,受賞 8および9型)のAAVへ挿入し,心房筋に心外膜から は研究生活そのもののおかげであると実感しました. 導入することによりどのserotypeが効率良く発現するか 今回の留学は,単に研究のみならず,家族の大切さを を評価しました.こちらに関しては現在追加実験がされ 実感し,また日本を外から見てみるという意味において ており,引き続きデータ解析を行っています. も貴重な人生経験となりました.このような貴重な機会 充実した研究生活を送れたのに加え,留学は家族と一 を与えて下さいました産業医科大学第2内科学の尾辻豊 緒に過ごす時間の大切さを実感する良い機会となりまし 教授および不整脈先端治療学の安部治彦教授をはじめと た.Family firstの言葉に代表されるように,アメリカ する諸先生方にはこの場をお借りいたしまして深く感謝 では時に仕事より家庭事情が優先されることがあります. 申し上げます. 最初は「この程度で仕事を休むの?」と思ったことがあ りましたが,後にその価値観は普遍的であると実感しま した.研究室によっても異なりますが,平日の勤務後お よび週末は家族と過ごす時間と考えられていました.し かし朝の勤務開始は早く,午前6時から手術することも あり,勤務時間内はかなりの仕事量をこなさなくてはい けませんでした.テクニシャンと手術の時間調整を行う 際にも夕方遅くなる設定はせず,長時間になるときには 開始時間を早朝に設定する必要がありました. また,週末や休暇を利用してアメリカ国内やカナダに も旅行に行きましたが,同じ大陸なのかと思うほど様々 な自然景観や,一方で大都市の熱気を楽しむことができ ました.子供達の希望もあり,クリスマス休暇はフロ リダのWalt Disney Worldで過ごしました.よほど楽し かったのでしょうか,娘から「今度はいつ行くの?」と リクエストが出ています. 2年間の留学を終え帰国直前の2011年3月11日の朝, 同僚からのメールで目を覚ましました.「日本では地震 が起こっているが,家族や友人は大丈夫か?」との内容 でしたが, 「地震は良く起こるのに,何でわざわざ連絡 するのだろう?」と思いながらテレビをつけると主要メ ディアすべてがBreaking Newsで繰り返し津波の様子を 放映していました.本当にこんな惨事が今から帰ろうと している母国で起こっているのかと信じられず,すぐ実 家(山形)に連絡を取ろうしましたが不通で,日本のど こへ電話してもつながりませんでした.成田空港の混乱 ─ 82 ─ 血管Vol.37 No.2 2014 ベーシック───────────────────────────── 世界の研究室便り 母親業完全休業にてアメリカへ 石 澤 有 紀 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 神経情報医学部門病態情報医学講座 薬理学分野 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部薬理学 での緊張,孤独感などなど,頭も心も身体もぐっちゃぐ 分野の石澤有紀です. 『頭脳循環を加速する若手研究者 ちゃになっていましたが,そんな1か月を四苦八苦しな 戦略的海外派遣プログラム』の一環でニューヨーク州ロ がら乗り越え,予想だにしなかったスピードでアメリカ チェスター大学心血管研究所(CVRI)の阿部純一教授 での研究生活をスタートさせることができたのです.こ の研究室に派遣され,1年間ポスドクとして勉強して参 れはまさに阿部先生とラボメンバーたちの連携の賜物で りました.家族ラブ!子育て万歳!な私が,家族を日本 あり,このように恵まれた環境を準備していただき心よ に残し単身アメリカでどのような生活をしてきたか,阿 り感謝しております.その後の研究生活が大変充実した 部ラボでどんな経験をしてきたのか拙文ながらご紹介さ ものであったことは言うまでもありません. せていただきます. 阿部ラボでは多種の遺伝子改変動物を作製し,常に数 阿部純一先生は十数年前Bradford C. Bark教授(現・ 種類のプロジェクトが並行して進められています.さら ロチェスター大学医学部CEO)の下に留学された後, に常時新規のプロジェクトを立ち上げ,しかも常に新し そのまま独立してラボを持ち,いまやCVRIを支えるビッ い領域に取り組むという,大変アクティビティとクリエ グラボの一つとなっています.現在阿部ラボには2名の イティビティの高い研究室です.私も短い期間で動脈硬 Research Assistant Professorと3名のテクニシャンが 化を始め,血管の老化,心移植後拒絶反応,血栓形成と おり,CVRI内の各センター(病理部門や手術部門など) 内皮障害,など数多くのプロジェクトに携わることがで や他研究室との共同研究を通じて,少数精鋭ながら数多 き,実験手技や研究の進め方を学ばせていただきました. くの論文を報告してきています. 月に1度担当が回ってくるデータ発表の際には「一人ブ 当時まだ0歳9ヶ月だった息子と4歳の娘を夫に託し, レインストーミング」とでも言いましょうか,次々と質 1人涙ながらに日本を発った2013年4月.当初より滞在 問が飛んできては,実験の問題点や結果の考察,今後の 期間が1年と決まっていたため「慣れた頃に終わっちゃ 方針について議論がなされます. うのかしら…」と少し不安を感じていました.しかしロ チェスター空港到着後たった数時間で,まったくの杞憂 であったことに気付かされるのです.まずその日阿部先 生から出された宿題は, 「翌日までにどの車を購入する かネットで検索して決めておくこと」でした.翌日には ディーラーに連れて行っていただき購入予約が完了.そ して米国到着後3日目に初出勤.初日から早速大量の細 胞を手に通常モードの実験が開始されました.最初の1 か月はまさに怒涛の日々.私と歳が変わらないスタッフ に時折…いや,度々怒られながら(汗)毎日朝7時から 夜10時まで,みっちり阿部ラボの「いろは」を教えてい ただきました.さらに彼女は仕事後毎晩私を買い物に連 れて行ってくれ,生活のセットアップもしっかりフォ ローしてくれました.時差ボケと拙い英語,新しい環境 *徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 神経情報医学部門病態情報医学講座 薬理学分野 (〒770−8503 徳島県徳島市蔵本町3−18−15) 写真:ラボメンバーとCVRI前にて(本人右端.左から 2番目が阿部純一先生.) ─ 83 ─ 母親業完全休業にてアメリカへ この1年,赤子がものを覚えるときのように次から次 へと新しい刺激に晒され,私にとっては数年の年月が 経ったかのようにも感じられます.途中あまりの寂しさ にアメリカに来てしまったことを後悔した瞬間もありま したが,誰に甘えることもできず1人で生きていくこと を経験し多種多様な背景の人々と関わる中で,留学も終 わりに近づいた今,人として幾分か成長できたのではな いかと思っています(それでも,残念ながら子どもたち の1年分の成長にはまったく及びませんが…) . 最後に今回このような貴重な機会を与えて下さり,日 本から常に応援,心配してくださった徳島大学薬理学・ 玉置俊晃教授,徳島大学医療教育開発センター・赤池雅 史教授にこの場を借りて深く感謝申し上げます.また, 何より留学の話が持ち上がって以降一瞬たりとも反対す ることなく快く送り出してくれ,折れそうな心を幾度と なく支えてくれた夫,離れてもなお私の原動力となり続 けてくれた子どもたち,そして子どもたちの面倒をみて くれた義理の両親には,しばらく頭が上がりません.本 当にありがとうございました. ─ 84 ─ 編 集 後 記 2014年も残り少なくなった.今年は,日本の若者が世界で活躍している姿が目立った1年で あった様に思う.プロ野球の世界では,田中将大投手が,想像を遙かに超える金額でニューヨー クヤンキースと契約して,メジャーリーグに活躍の場所を求めた.途中で怪我をしたが,前半戦 の活躍は素晴らしかった.プロテニス界では,錦織圭選手が今年は大活躍した.多くの人が,日 本人テニスプレーヤーが世界ランキングのベスト10に入ることは,夢のように考えていた.全米 オープンで準優勝し前年の男子プロテニス協会の世界ランキング17位から一気に5位までランク を上げた.プロゴルフの世界でも,同じ年の松山秀樹選手と石川遼選手がアメリカのPGAツアー で頑張っている.Jリーグでも20歳代前半の若者達が次々と海外のサッカーチームに活躍の場を 求めている.一方,日本の生命科学研究分野では,海外に留学する若手研究者が減っていること が心配されている.韓国や中国からの米国への留学者が急速に増えているのとは,対照的である. 日本のサイエンスを志す若者達にも世界を相手に武者修行に出かけて欲しい.若い時に夢を持ち 世界のサイエンティストと大いに議論して,自分が感じた疑問に果敢に挑戦していただきたい. 少し「やんちゃ」でもよい.前向きの若者のエネルギーが,新規性や独創性の高い研究成果を生 み出すのであろう. (T. T.) ─ 149 ─ お知らせ 本学会は、一般社団法人 日本循環器学会 関連学会として 認定されましたのでお知らせいたします。 認定日 2014年10月24日 ─ 150 ─ 日本心脈管作動物質学会 学会誌「血管」投稿規定 投稿論文は,その内容が未投稿及び未掲載であって,独創的な知見を含むものに限ります. すべての著者は原稿の内容を理解していること,投稿について同意していることが必要です.なお,日本心脈管作動 物質学会の会員以外からの投稿も随時受け付けます. Ⅰ.論文種別 論文は投稿による総説,ポストシークエンス時代の心脈管ゲノミクス,若手研究者による最新海外情報,世界の研 究室便りがあります. 用語は日本語とします. 1.総説 ⑴ 投稿による総説:著者の関与する研究についての最近の成果をまとめたもので,主題が明確な論文. ⑵ 招待による総説:理事,評議員,編集委員が執筆推薦,依頼する論文. 2. 一般論文:著者の原著であり,独創的研究で得られた有意義な新知見を含む論文. 3.ノート:断片的な研究であっても,新しい事実や価値あるデータを含む論文. Ⅱ.原稿様式・記載方法 1.カバーレター 和文の連絡著者情報(連絡著者名,所属機関及び住所,電話番号,Fax番号,E-mailアドレス)を記載して下さい. 2.タイトル 「総説」心脈管に関連した内容でお書き下さい. 「ポストシークエンス時代の心脈管ゲノミクス」心脈管ゲノミクスに関連した内容でお書きください. 「若手研究者による最新海外情報」心脈管に関連した内容でお書きください. 「世界の研究室便り」があります. 3.原稿 原稿枚数は,(400字詰) 「総説」40枚程度, 「ポストシークエンス時代のゲノミクス」40枚程度,「若手研究者によ る最新海外情報」20枚程度, 「世界の研究室便り」2 ∼ 5枚程度を目安に執筆して下さい. 原稿は本文,図,表をそれぞれ別のファイルで作成して下さい. 本文中の項目は次のランクづけでお願いします. Ⅰ.…………太字,左右中央(2行ドリ) 1)……….明朝,左寄せ(1行ドリ) a)…….明朝,左寄せ(1行ドリ) 原稿は,楷書,横書き,ひらがな,新かなづかい,口語体,当用漢字を用い,正確に句読点をつけ,句読点,かっ こは1字を要し,改行の際は冒頭1字分をあける. 外国語で一般に日本語化しているものは,かたかなを用いてもよい. 数字はアラビア数字を用い,度量衡の単位は,mm, cm, ml, dl, μg, g, kg, N/10などと記す. ─ 151 ─ 次の字はかな表示にする. 勿論,唯,夫々,及び,各々,並び,殆ど,但し,併せる,全て,更に,為,何故,於いて,就く,我々,若,其, 出来,共,所,事,訳,即ち,様……….. 引用文献は主なものに限る.本文中の引用箇所の右肩に番号を付す. 例 「○○○1∼2) ,○○○1∼5) 」 3.引用文献及び注記 引用文献は雑誌掲載論文,書籍,単行本,インターネット,技術報告,特許,講演等とします.これ以外は文章 的な記述として下さい.出現順に通し番号(引用文献1件ごとに1つの番号とします)を付け,文中右肩に右片カッ コ付きのアラビア数字で示し,番号順位並べてREFERENCESとして論文末尾に一覧表示して下さい. 和名のみの場合は,ローマ字表記にして下さい. 引用文献の記載には,著者名は全員を記し,first 及びmiddle nameのイニシャルを記載して下さい. Ⅲ.費用 1.投稿手数料 無料 2.掲載料 無料 3.原稿料 なし 4.別刷料 無料 (50部を贈呈)※追加増刷の場合は,別途費用がかかります. Ⅳ.その他 1.著作権 本誌に掲載された論文,抄録,記事等の著作権は日本心脈管作動物質学会に帰属する. 本会は,これら著作権の全部または一部を,本会のホームページ,本会が認めたネットワーク媒体,その他の媒 体において掲載し,出版(電子出版を含む)することができる. 2.本学会の学会誌「血管」は,査読システムにより,論文の改訂をお願いすることがございますのでご了承下さい. (施行 平成26年6月2日) ─ 152 ─ 日本心脈管作動物質学会会則 第1章 総 則 第 1 条 本 会 は 日 本 心 脈 管 作 動 物 質 学 会(Japanese Society for Circulation Research)と称する. 第2条 本会の事務局は,三重県津市江戸橋2−174, 三重大学医学部薬理学教室内に置く. 第2章 目的および事業 第3条 本会は心脈管作動物質に関する研究の発展を図 り,会員相互の連絡および関連機関との連絡を 保ち,広く知識の交流を求めることを持って目 的とする. 第4条 本会は前条の目的を達成するために次の事業を 行う. 1.学術講演会,学会等の開催 2.会誌および図書の発行 3.研究,調査および教育 4.関係学術団体との連絡および調整 5.心脈管作動物質に関する国際交流 6.その他本会の目的達成に必要な事業 第3章 会 員 第5条 本会会員は本会目的達成に協力するもので次の 通りとする. 1.正会員 2.賛助会員 3.名誉会員 第6条 正会員の会費は年額4,000円とする. 第7条 賛助会員は本会の目的に賛同し,かつ事業を維 持するための会費年額100,000円(一口)以上 を納める団体または個人とする. 賛助会員には次の権利がある. (賛助会員の権利) 1.総会での傍聴を認めること. 2. 本会の発行する学会誌の配布をうけること. 3. 年1回の学会年会に無料で参加できること. (年会前に招待状送付) 第8条 名誉会員は理事会で推薦し,評議員会の議決を 経て総会で承認する.名誉会員は会費免除とす る. 第9条 本会に入会を希望するものは,所定の手続きを 経て,会費を添えて本会事務局に申し込むもの とする.原則として2年間会費を滞納したもの は退会とみなす. 第4章 役員および評議員 第10条 本会は次の役員を置く. 1.会長 1名 2.理事 若干名(うち理事長1名) 3.会計監事 若干名 第11条 会長は理事会の推薦により,評議員会の議決 を経て選ばれ,総会の承認を得るものとする. 会長は総会を主宰する. 第12条 理事会は会長を補佐して会務を執行し,庶務, 会計その他の業務を分担する.理事長は理事会 の互選により選出され,本会の運営を統括する. 第13条 会計監事は理事より互選により選出し,会計 監査を行う. 第14条 本会には,評議員をおく.評議員は正会員中 より選出し,理事会の推薦を経て評議員会で議 決し,総会の承認を得るものとする.理事長が これを委嘱する.評議員は評議員会を組織し, 本会に関する重要事項を審議する. 第15条 編集委員は機関誌“血管”(Japanese Journal of Circulation Research)を編集し,本会の学 術活動に関する連絡を行う.なお,編集に関す る事項は,事務局にて決定する. 第16条 役員の任期は会長は1年,理事長,理事,会 計監事および編集委員は2年とする.ただし再 任は妨げない. 第17条 役員は次の事項に該当するときはその資格を 失う. 1.定期評議員会時に満65歳を過ぎていた場合 2. 3年間連続で,役員会等を正当な理由なく して欠席した場合 第5章 会 議 第18条 理事会は少なくとも年1回理事長が招集し, 議長は理事長がこれに当たる. 第19条 総会および評議員会は毎年1回これを開き, 次の議事を行う. 1.会務の報告 2.会則の変更 3.その他必要と認める事項 第20条 臨時の総会,評議員会は理事会の議決があっ た時これを開く. 第6章 会 計 第21条 本会の事業年度は毎年1月1日より始まり, 12月31日に終わる. 第22条 本会の会計は会費,各種補助金及び寄付金を もって充てる. ─ 153 ─ 日本心脈管作動物質学会賛助会員 旭化成ファーマ株式会社 武田薬品工業株式会社 味の素製薬株式会社 田辺三菱製薬株式会社 アステラス製薬株式会社 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 協和発酵キリン株式会社 バイエル薬品株式会社 第一三共株式会社 ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社 《五十音順》 ─ 154 ─ 日本心脈管作動物質学会役員 名誉会員 平田恭信 中川雅夫 岩尾 洋 山田和生 寒川賢治 平田結喜緒 毛利喜久男 田 中 利 男(理事長) 平田健一 伊藤 宏 西山 成 佐田政隆 伊藤正明 下川宏明 筒井正人 玉置俊晃 萩原正敏 飯野正光 岩本隆宏 南野直人 望月直樹 西田育弘 野間玄督 島田康人 高倉伸幸 徳留 健 上田陽一 吉栖正典 服部良之 福本義弘 廣岡良隆 石橋敏幸 伊藤貞嘉 小林直彦 前村浩二 宮内 卓 野出孝一 大柳光正 佐藤公雄 下門顕太郎 高橋克仁 吉栖正生 服 今 泉 光 中 西 岡 末 多 冨 牛 部 泉 山 木 村 村 松 久 田 首 裕 祐 康 勝 敏 有 富 和 修 文 一 治 雄 慶 夫 平 夫 誠 陽 平 隆 藤 檜 市 石 岸 河 丸 室 錦 楽 斎 下 上 田 垣 来 光 野 山 原 見 木 藤 川 田 實 俊 俊 拓 雅 一 豊 俊 宏 能 宏 誠 浩 男 弘 彦 弥 和 男 明 雄 実 彦 明 二 第44回会長 平野勝也 理 事 監 事 評 議 員 〈基礎〉 〈臨床〉 前村浩二 吉栖正典 福永浩司 平野勝也 石井邦明 蒔田直昌 三輪聡一 中田徹男 西尾眞友 新藤隆行 菅原 明 玉置俊晃 土屋浩一郎 山本隆一 赤澤 宏 深水 圭 東 幸仁 池田宇一 伊藤 宏 北村和雄 川辺淳一 湊口信也 森本 聡 小川久雄 佐田政隆 渋谷正人 下澤達雄 矢田豊隆 古川安之 五十嵐淳介 伊藤猛雄 松村靖夫 宮田篤郎 中山貢一 西山 成 佐藤靖史 高井真司 田中利男 筒井正人 柳澤輝行 長谷部直幸 福田 昇 平田健一 今西政仁 伊藤正明 倉林正彦 上月正博 三浦総一郎 長田太助 大蔵隆文 佐々木 享 七里眞義 添木 武 吉村道博 (ABC順) 事 務 局 〒514-8507 三重県津市江戸橋2−174 三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス分野内 TEL 059−231−5411, FAX 059−232−1765 ─ 155 ─ 会長 第1回研究会 横山 育三 第2回研究会 藤原 元始 第3回研究会 岳中 典男 第4回研究会 毛利喜久男 第5回研究会 藤原 元始 第6回研究会 岳中 典男 第7回研究会 山本国太郎 第8回研究会 毛利喜久男 第9回研究会 土屋 雅晴 第10回研究会 横山 育三 第11回研究会 日高 弘義 第12回研究会 三島 好雄 第13回研究会 東 健彦 第14回研究会 恒川 謙吾 第15回研究会 戸田 昇 第16回学会 塩野谷恵彦 第17回学会 野々村禎昭 第18回学会 河合 忠一 第19回学会 平 則夫 第20回学会 杉本 恒明 第21回学会 安孫子 保 第22回学会 外山 淳治 第23回学会 千葉 茂俊 第24回学会 中川 雅夫 第25回学会 室田 誠逸 第26回学会 猿田 享男 第27回学会 矢崎 義雄 第28回学会 田中 利男 第29回学会 竹下 彰 第30回学会 岩尾 洋 第31回学会 平田結喜緒 第32回学会 荻原 俊男 第33回学会 藤田 敏郎 第34回学会 辻本 豪三 第35回学会 松岡 博昭 第36回学会 玉置 俊晃 第37回学会 下川 宏明 第38回学会 川 博己 第39回学会 伊藤 正明 第40回学会 西山 成 第41回学会 伊藤 宏 第42回学会 吉栖 正典 第43回学会 平田 健一 第44回学会 平野 勝也 日本心脈管作動物質学会誌 血管 第37巻4号 2014年12月22日発行 発行人 田中利男 三重大学大学院医学系研究科 発行所 日本心脈管作動物質学会事務局 〒514-8507 三重県津市江戸橋2−174 三重大学大学院医学系研究科 薬理ゲノミクス分野内 TEL 059−231−5411 FAX 059−232−1765 http://jscr21.medic.mie-u.ac.jp/ 薬理ゲノミクス分野 印刷所 合資会社 黒川印刷 〒514-0008 三重県津市上浜町2−11 ─ 156 ─ 株式会社ペプチド研究所 http://www.peptide.co.jp/ 検索 HOME オンラインカタログ 当社の技術 Japanese / English ようこそゲストさん 新規登録 ログイン 受託サービス 企業情報 サポート・ダウンロード ペプチド研究所は ペプチド・糖・アミノ酸の科学に貢献するために 世界最高品質の研究用試薬・医薬品を提供することを目指します お客様のニーズに合わせて、基礎 カタログ商品を検索 研究から商業生産までトータルで Enter Product Name, Code No., CAS No. 研究・製造支援サービスを行って います。 分析表ダウンロード Enter Code No. 詳細検索 and Lot No. カタログダウンロード (M)SDSがダウンロード可能になりました 2013/10 ペプチド研究所ウェブサイトリニューアルの ご案内 2013/10 第50回ペプチド討論会開催のお知らせ 2013/07 受託サービスについて ペプチド 糖鎖関連化合物 抗体 医薬品製造 新製品のご案内 2013/05 新製品のご案内 2012/12 rss more・・・ ・ 総 編 集 長 玉 置 俊 晃(徳島大学大学院病態情報医学講座情報伝達薬理学分野) ・ ベ ー シ ッ ク 編 集 長 西 山 成(香川大学医学部薬理学) ・ オ ミ ッ ク ス 編 集 長 田 中 利 男(三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス) ・ ク リ ニ カ ル 編 集 長 伊 藤 正 明(三重大学大学院医学系研究科循環器内科学)
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