滋賀大学 産業共同研究 センター報 Annual Report of Joint Research Center. Shiga University 滋賀大学産業共同研究センター報 Annual Report of Joint Research Center. Shiga University 滋賀大学 産業共同研究センター報 No.10 〒 522 – 8522 滋賀県彦根市馬場 1–1–1 Tel: 0749 –27–1141 Fax: 0749 –27–1431 E-mail: jrc@biwako.shiga-u.ac.jp URL: http://www.biwako.shiga-u.ac.jp/jrc/ No. 10 2011.6 Design & Photo = Yonoichi Yoshio Illustration = Yonoichi Sakura 10 No. 2011.6 – 2011-July No.10 産業共同研究センター 1. 巻頭言 1 野本 明成 〈産業共同研究センター センター長〉 2. 産業共同研究センターによせて 3 佐和 隆光 〈滋賀大学 学長〉 室井 明 〈滋賀大学 理事〉 3. センターの体制 -組織・人事- 5 4. 活動報告 7 ■ 4-1. 企業人材育成 主催事業:地場産業再生MOTフォーラム 9 9 主催事業:仏壇塾 11 事業協力:エグゼクティブ・プログラム「ドラッカー」 22 ■ エグゼクティブ・プログラム 「ドラッカー理解し、明日の経営を創る ー危機をのりきるための鳥瞰的思考ー」 ■ 4-2. 事業創出 主催事業:地域ブランドプロジェクト 28 28 ■ 地域ブランド創出プロジェクト 主催事業:地場産業再生研究会 29 ◆ 特許第一号を取得 29 共催事業:ビジネスカフェあきんどひろば in大津 30 ■ 「ビジネスカフェあきんどひろば in大津 ーネットマーケティングで勝ち残れー」の開催報告 〈公益財団法人 滋賀県産業支援プラザ 副主幹〉 山本 照美 主催事業:滋賀大学知財セミナー 34 ◆ 研究成果最適展開支援プログラム「A-STEP」応募に関する説明会 35 ■ 4-3. 事業コンサルティング ◆ 全国コーディネート活動ネットワーク ■ 4-4. 調査・研究 □ 「科学技術フェスタ in京都 ー平成22年度産学官連携推進会議ー」に出展 □ 「平成22年度 産学官連携実務者会議」に出席 □ 岐阜大学 産官学融合本部 訪問ヒアリング □ 「大津市の中小企業活性化を軸とした産学振興ビジョンに関する調査」に伴うワーキング □ 「第6回 三大学・地域共同研究センター定期情報交換会」の開催 □ 湖北地域産業振興のための「あきんどひろば」開催によせて □ 「第22回 国立大学法人 共同研究センター長等会議」に出席 □ 金沢大学 イノベーション創成センター 訪問ヒアリング □ 北陸先端科学技術大学院大学 地域イノベーション研究センター 訪問ヒアリング □ 滞在型観光プロジェクトの情報収集(七尾市・石川県庁) 36 36 39 2011-July No.10 産業共同研究センター 5. 共同研究・地域貢献活動紹介 47 ■ 5-1. 共同研究 48 ■ 近江商人の総合的研究 <特定非営利活動法人たねや近江文庫> 〈滋賀大学 経済学部 教授〉 宇佐美 英機 ■ 5-2. 地域貢献 48 50 ■ 成人期知的障がいの人への「大学講座」の取り組み 50 ー滋賀大学附属特別支援学校卒業者の生涯学習の一環としての実践ー 木村 政秀 黒田 吉孝 〈滋賀大学教育学部附属 特別支援学校 教諭〉 〈滋賀大学 教育学部 教授〉 ■ 音楽による地域貢献プロジェクト ー6年目の活動報告ー 〈滋賀大学 教育学部 准教授〉 林 睦 53 ■ パソコン簿記教育における滋賀県実体企業の経営診断の一考察 客員研究員: 木村 勝則 〈木村勝則税理士ITコーディネーター事務所〉 57 6. 論文 59 ■ 6-1. 日本版LLPの活用と展開 宇佐美 照夫 60 〈産業共同研究センター 客員教授〉 ■ 6-2. 「井伊直弼と開国150年祭」における観光消費額および経済波及効果 得田 雅章 ■ 6-3. 滞在型観光を推進するための試案 中井 光男 74 〈産業共同研究センター 特任教授〉 ■ 6-4. ベトナムの通貨ドンと円の為替相場のフラクタル解析について 水上 善博 ドー バン トイ 66 〈滋賀大学 経済学部 准教授〉 79 〈滋賀大学 教育学部 教授〉 〈滋賀大学 教育学部 4回生〉 ■ 6-5. 地域ブランド創出プロジェクト 84 ~滋賀県の綿織物技術とデザイン・伝統工芸を生かして~ その2 山本 野本 森下 高橋 卓 明成 あおい 志郎 〈産業共同研究センター 特任教授〉 〈産業共同研究センター センター長〉 〈滋賀県立大学 准教授〉 〈高橋織物株式会社 代表取締役〉 7. 平成22年度 活動リスト □ □ □ □ □ □ □ □ 主催事業 <地域ブランドプロジェクト> □ 主催事業 <フォーラム> □ 主催事業 <仏壇塾> □ 主催事業 <研究会> □ 主催事業 <知財セミナー> □ 共催事業 <ビジネスカフェあきんどひろば> □ 協力事業 <エグゼクティブ・プログラム> □ 大学間連携事業 □ 91 特許 産学官連携事業 調査・研究・研修 会議 刊行 人事 産業共同研究センター 学内行事 Annual Report of Joint Research Center, Shiga University ロゴマーク :空中を浮遊する布か紐を思わせる不思議なオブジェがJRC(Joint Reserch Center)を表しているイメージです。 柔軟なオブジェ(産業共同研究センター)が、新しい形や価値を軽やかに作りだしていく様子を表しています。 イメージカラー:JRCの軽やかな創造性を表現する明るい青をイメージカラー(JRCブルー)として設定しました。 2011-July No.10 1.巻頭言 滋賀大学 産業共同研究センター センター長 野本 明成 本年 3 月 11 日の東日本大震災にて被災され亡くなられた方々に哀悼の意を表するとともに、避難を余儀なくされて いる方々に心よりお見舞い申し上げます。 当センターの職務は産学官連携等を通じて社会貢献、地域貢献を行っていくことであり、このたびの大地震に端を 発する様々な被害を克服すべくどのような貢献ができるかについて真剣に考えていく必要があると思います。特に、 情報交換会を毎年開催している福島大学、小樽商科大学および滋賀大学は、協力しつつどのような社会貢献、地域 貢献が可能かを議論し実行していくことが可能であると思われます。 これまでに当センターは地場産業を中心とした主に中小企業・中堅企業を対象に産学官連携活動を推進してきて おり、経営相談、技術相談等の事業コンサルティングをはじめ、地域ブランドの構築等の事業創出、中小企業経営 者・経営幹部の人材育成等のプログラム開発およびセミナー開催を行ってきているところです。平成 22 年度から 23 年度にかけ 3 人の新しい特任教授を迎え、これまで推進してきた以上の活動を行い続けることが可能となったので あります。まず、山本特任教授の加入により、新しく地場産業の一つである彦根仏壇産業の活性化を目指した「仏壇 塾」を開催することが可能となり、伝統ある仏壇産業を営んできている方々の意識改革、すなわち仏壇産業を取り巻 く事業環境の変化を理解し仏壇産業の変革の必要性の認識に基づき、新製品開発・新用途開拓を進める必要があ ることをセミナーを通じて理解していただいたのであり、これからの彦根仏壇産業の活性化が推進されることを願っ ております。また、そのような活動を推進していくために、新しく「地場産業再生研究会」という仕組みを当センター内 に立ち上げ、滋賀県立大学名誉教授三好先生にも参加いただき強力なメンバーとしてご活躍いただいているところ です。次に、中井特任教授の加入により、これまで観光資源に恵まれていながらそれらを十分に活用できていなかっ た滋賀県の観光産業を活性化させるべく、当センター内に「滞在型観光プロジェクト」を立ち上げたところです。これま での観光はともすれば物見遊山的な日帰り観光が主体であり、滋賀県の様々な観光資源を活用するとともに、地場 産業、伝統工芸品の活用による「自己実現的体験型観光」を作り上げることにより、1 週間以上の且つリピート率の 高い「滞在型観光」の仕組みを構築することを目指しています。また、本年から就任の若林特任教授には、これまで 当センターが協定締結してきている各種公的機関との新しい活動を企画していただき、これまでネットワークを作りな がら活かし切れていなかった産学官連携活動を推進していくことを考えております。そのうえに、客員教授として宇佐 美先生をお招きし、様々な支援をお願いしているところです。さらに、本学には教育学部、経済学部、研究所等に多 様な知的資源を保有しており、地域とのつながりを活かし多様な交流に基づく多様な貢献が可能と思っております。 当センターは、これらの活動を通じこれまで以上の社会貢献、地域貢献を行っていく所存でありますので、皆様方 のご協力、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。 2 2011-July No.10 2.産業共同研究センターによせて 滋賀大学 学長 佐和 隆光 戦後の日本経済史を振り返ってみると、その折々の花形産業が経済成長をけん引する主役を演じていたことに気 づかされる。1945 年から 55 年にかけての戦後復興期、有澤広巳東大教授(当時)が提言した傾斜生産方式に従い、 政府の復興基金の融資先として石炭産業が最優先された。電力は「水主火従」から「火主水従」へと転じつつある状 況下、石炭火力発電所の新増設に当たり、また戦火により失われた建造物の再建のために、鉄鋼の増産が欠かせ なかった。そこで復興基金の融資先として、石炭に次いで優先されたのが鉄鋼産業だった。鉄の生産には石炭が不 可欠、石炭増産のための坑道づくりに鉄は欠かせなかった。当時の家庭に備わる電化製品と言えば、白熱灯、真空 管ラジオぐらいしかなかった。暖房は火鉢と湯たんぽ、マキをくべて湯を沸かし、ワイシャツのしわ伸ばしには焼きコ テ、雑音混じりのラジオ放送に耳を傾ける。こんな生活の中で、電力消費の主役は白熱灯だった。停電を回避するた めにと、数人の男子中学生が「一軒に一灯」と大声で叫びながら、毎夜、町内を回っていた。 1956 年度『経済白書』は、「もはや戦後ではない」という名台詞を流行らせたことで有名な白書だ。この言葉の意味 するところは次の通り。戦後 10 年を経て日本経済は戦前水準を復興したのだが、それまでは「戦後復興」というバネ 仕掛けで発展してきた。戦後復興が成就された今、次なるバネ仕掛けを備え付けなければならない。白書執筆者後 藤與之助が提案したのが、技術革新(イノベーション)と近代化(トランスフォーメーション)の二つだった。後藤の予言 どおり、1957 年 7 月、景気は下降局面を迎えた。後藤は、この不況を「なべ底不況」と名付けたのだが、幸いにも後 藤の予言は的を外れ、不況は翌年 6 月に「底入れ」し、日本経済は高度成長期を迎えることとなる。 高度成長のけん引車となったのは、「三種の神器」と呼ばれた白黒テレビ、電気冷蔵庫、電気洗濯機の普及だった。 三種の神器の世帯普及率が 90%を超えたのは、万国博覧会が開催された 1970 年のことである。さて、その 3 年後 にオイルショックに襲われ、日本の高度成長期に終止符が打たれた。石油価格が数ヵ月で 4 倍高になったのは、石 油業界のみならず、電源構成の 70%を石油火力が占める電力業界にとっても一大事だった。石油代替電源のエー スとして奉られた原子力発電所が、70 年代、相次いで新増設された。 オイルショックの衝撃には只ならぬものがあり、1974 年には、戦後初めてのマイナス成長を記録した。高度成長の 15 年間、日本の実質経済成長率は平均年率 9.4%を記録した。75 年から 90 年までの 15 年間を、私は減速経済期 と呼ぶのだが、その間の実質経済成長率は平均年率 4.2%に半減した。とはいえ、欧米先進諸国が軒並み 2%成長 に落ち込んだのと比べれば、オイルショック後も日本の経済成長は堅調に推移したというべきだろう。そのけん引車 となったのが自動車産業だ。日本の乗用車世帯普及率は、1965 年に 10%、70 年に 22%と、まだまだ低水準にあっ た。それが 80%の大台を超えたのは 1991 年、バブル崩壊不況の始まった年のことだった。その後、今日に至るまで、 80%台の前半で上下している。その理由として、わが国では自動車の保有コストが高いことが挙げられる。 自動車産業ほど経済成長のけん引力の強い産業は類例を見ない。自動車の増産は、鉄鋼をはじめとする素材産 業を潤す。のみならず、石油産業は潤い、損害保険会社をも潤い、大型小売店舗も潤う。1991 年に不況に突入して 以来、今日に至るまで実質経済成長率は 0.6%という有り様だ。その理由は、過去 20 年間に普及を遂げた耐久消費 財は、携帯電話、デジカメ、DVD プレーヤー、ノートパソコンなどのデジタル製品に限られるからだ。デジカメと自動車 を比べれば、産業連関的波及効果において雲泥の差がある。日本経済が長らく低成長に甘んじているのは、そのせ いである。紙幅の都合上、割愛せざるを得ないが、結論だけを申し上げれば、今後、日本経済が 2~3%の成長経済 に復帰するには、エコ製品の普及に頼るしかない。「温暖化対策なくして経済成長なし」が私の信念である。 3 2011-July No.10 2.産業共同研究センターによせて 滋賀大学 理事 室井 明 本学の産業共同研究センターは、平成 5 年に設置されて、今年度で実に 19 年目に入ります。その間、産学官連携 活動の推進等を通して地域や社会に貢献してきました。特に法人化以降は、中期目標・中期計画においても、産学 官連携の仕組みづくり、地域の人材育成、地域ニーズの汲み上げによる活性化支援などの本学が取り組むべき社 会貢献・地域連携活動の方針を明らかにして、地方自治体、公的機関、金融機関等との協定締結による連携基盤 の整備に始まり、技術経営(MOT)プログラムの提供や事業創出・事業コンサルティング活動あるいは伝統的地場産 業の活性化支援などの活動を展開してまいりました。 大学の使命として教育・研究に加えて、第三の柱としての地域貢献の重要性が言われています。これは、わが国の 大学だけでなく、海外の大学でも同様であり、例えば、アメリカでは、ミネソタ大学のようにメトロポリタン・デザイン・セ ンターという大学の専門家組織が、地域計画の策定、建築デザイン、フィージビリティスタディなどの多岐にわたる活 動を実施している大学や、オレゴン州のレーン・コミュニティカレッジのように、徹底した職業訓練プログラムにより地 域の担い手を育成することにより地域に貢献している大学もあります。また、イギリスのブラッドフォード大学では、ブ ラッドフォード市と一体になりエコバーシティなどの都市再生プロジェクトに取り組んでいます。日本の大学においても、 それぞれの大学が特色を活かした地域貢献活動を推進していますが、本学では、産業共同研究センターはじめとす る各センター組織が連携し、地域や社会に貢献する活動を推進しております。 現在の本学の産業共同研究センターの特色は三点あげられると思います。一点目は、彦根高商以来の本学の強 みを生かした産学官連携活動であります。本学は、理工学部のある大学のように大規模な新技術開発の共同研究 というような形での産学連携というより、県内の企業に対してのエグゼクティブプログラムや MOT プログラムの提供と いう形で、経営指導・人材教育面からの連携活動を実施しております。二点目は、伝統産業の再生への支援です。 滋賀県にはいくつかの伝統産業がありますが、例えば、高島綿織物、彦根仏壇などそれらの産業にセンター教職員 が入り込み再生支援活動を展開しています。昨年には、北陸先端科学技術大学院大学と連携して地場産業再生 MOT フォーラムを開催するなどその活動の輪が広がりつつあります。三点目は、ブランド形成など地域価値向上面 での貢献であります。今年は NHK の大河ドラマの主役がお江ということもあり、滋賀県の観光資源が再評価されて おりますが、滋賀のブランディング、観光開発面での提案・連携活動なども当センターの活動であります。 なお、昨年、行政・企業などの方々へのアンケート調査を実施し、本学の社会貢献・地域連携活動がどう評価され ているかを調査いたしましたが、これまで実施してきたプログラムは認知度、評価度とも高い値を示しており、当セン ターの活動に対し一定の評価をいただいていることがわかり手ごたえを感じている所であります。 3 月 11 日に東北・関東地域が未曾有の大地震に襲われました。被災された方々に心からお見舞い申し上げます。 大震災からのわが国の社会経済の復興は大きな国民的課題であります。復興・支援においては、滋賀県を含む西・ 中日本が、推進のエンジンとなることが期待されますが、産業共同研究センターとしてどのような役割を果たしていく かは大きな課題であります。今年度は、このような状況の中で本学の特色やポテンシャリティを生かした活動を当セ ンターとしても、皆様方と一緒に展開していく所存でありますので、よろしくお願い申し上げます。 4 Annual Report of Joint Research Center, Shiga University 2011-July No.10 3.センターの体制 -組織・人事- 野本 明成〈Akenari Nomoto〉経済学部 教授 千葉 訓司〈Kunji Chiba〉教育学部 教授 中井 光男〈Mitsuo Nakai〉 山本 卓〈Takashi Yamamoto〉 若林 忠彦〈Tadahiko Wakabayashi〉 宇佐美 照夫〈Teruo Usami〉 木村 勝則〈Katsunori Kimura〉 教育学部 税理士、IT コーディネーター 糸乗 前〈Saki Itonori〉教授 近畿大学 経営学部 簿記論 A 及ぶ簿記論 B 非常勤講師 岩井 憲一〈Kenichi Iwai〉准教授 林 廣茂〈Hiroshige Hayashi〉 久保 加織〈Kaori Kubo〉教授 同志社大学大学院 ビジネス研究科 非常勤講師 山岡 與一〈Yoichi Yamaoka〉 水上 善博〈Yoshihiro Mizukami〉教授 STEP-21(経営・技術コンサルタント組合)主席コンサルタント 吉田 慶志〈Yoshiyuki Yoshida〉 元(財)大阪産業振興機構 TLO 事業部 総括コーディネーター 與倉 弘子〈Hiroko Yokura〉教授 経済学部 出原 健一〈Kenichi Idehara〉准教授 宇佐美 英機〈Hideki Usami〉教授 野本 明成〈Akenari Nomoto〉センター長 須永 知彦〈Tomohiko Sunaga〉講師 千葉 訓司〈Kunji Chiba〉副センター長 清宮 政宏〈Masahiro Seimiya〉教授 室井 明〈Akira Muroi〉理事 得田 雅章〈Masaaki Tokuda〉准教授 糸乗 前〈Saki Itonori〉教育学部 教授 弘中 史子〈Chikako Hironaka〉教授 岩井 憲一〈Kenichi Iwai〉教育学部 准教授 道上 静香〈Shizuka Michikami〉准教授 宇佐美 英機〈Hideki Usami〉経済学部 教授 宮西 賢次〈Kenji Miyanishi〉准教授 清宮 政宏〈Masahiro Seimiya〉経済学部 准教授 村松 郁夫〈Ikuo Muramatsu〉准教授 北村 和三〈Wazo Kitamura〉学術国際課 課長 福島 鶴治〈Tsuruharu Fukushima〉学術振興室 室長 畑中 真知子〈Machiko Hatanaka〉教務員 馬渕 可奈子〈Kanako Mabuchi〉事務補佐員 6 Annual Report of Joint Research Center, Shiga University 2011-July No.10 4.活動報告 滋賀大学産業共同研究センタ-は、社会貢献・地域貢献を果たすために様々な活動を行うとともに、大学のもつ 「知の範囲」と「資源(人、物、金)」の限界を克服すべく、各大学、地域金融機関、商工会議所、自治体等とのネットワ ークを構築しつつ、新しい産学官連携のひとつの形の構築を目指しております。具体的には、地域企業の人材育成 活動として、技術経営(MOT)、エグゼクティブ・プログラム等のセミナーを開催し、経営相談・技術相談を行いつつ大 学のもつシーズを企業のニーズとマッチングし、共同研究、受託研究を推進しております。また、地域地場産業の活 性化を目指し、地域中小企業と他大学と連携し地域ブランドの構築および、地域地場産業の活性化を目指したセミ ナーの開催等、事業コンサルティング活動を行ってきております。 8 2011-July No.10 4.活動報告 9 2011-July No.10 4.活動報告 2 月 2 日(水)、『地場産業再生 MOT フォーラム』を開催しました。 今回のフォーラムは、伝統工芸を含む地場産業の活性化をねらいとした、MOT(技術経営)をベースにした最新の取 組み、ならびに支援施策を紹介することを目的としています。 室井理事のご挨拶のあと、特別講演として北陸先端科学大学院大学の緒方先生よりテーマ「伝統工芸 MOT」として ご講演いただきました。石川県には伝統工芸が 36 業種ありますが、生産基盤の脆弱化が進行しています。そこで平 成 19 年度から伝統工芸の世界に革新を巻き起こす人材(伝統工芸イノベータ)の養成が始まりました。「石川伝統工 芸イノベータ養成ユニット」です。基礎研究から市場までのいくつかの困難な障壁を乗り切るために「伝統工芸イノベ ータ」の養成が不可欠です。そこで MOT 教育『伝統工芸 MOT』(技能を効果的に活用して経営を行うこと)を構築され、 現在 3 期までの修了生は 73 名おられます。さまざまな作品は、伝統工芸の重み、美しさ、そして今という時代を忘れ ない洗練されたコンセプトが伝わり、魅力的でした。質疑応答において、今後の課題についても討論されました。 コーヒーブレイクのあと、野本センター長より「地場産業と MOT」、滋賀県立大学三好名誉教授より「コア技術の新 用途展開」、山本特任教授より「滋賀大学が取り組む地場産業 MOT」、(財)滋賀県産業支援プラザ経営支援部西岡 部長より「『しが新事業応援ファンド』による地場産業活性策」をご講演いただき、地場産業の再生を想う約 60 名の参 加者の方々とともに、充実した MOT フォーラムとなりました。 緒方先生 作品「KUTANIYAKI SKULL」を紹介 野本センター長 wo 三好先生 山本特任教授 10 西岡氏 2011-July No.10 4.活動報告 < 仏壇塾開催要項 > 仏壇業界は平成 2 年以降、すなわちバブル崩壊とともに需要は衰退の一途をたどっており、既存品は高価格のた め海外生産が尐しずつ増加し、国内生産は減尐の一途をたどっている。 彦根仏壇も、明らかに衰退の一途をたどっており、これまでに伝統産業、伝統文化の維持・活性策が検討されるほ か、仏壇関連技術の新用途開拓も模索されている。 この度、滋賀大学と彦根商工会議所共催により「仏壇塾」を開講する運びとなりました。 本事業は、仏壇産業の次代を担う者が集まり、変革、変化を作り出すことを主眼としています。すなわち伝統産業、 伝統文化の維持・活性策を検討するのではなく、新商品の開発と仏壇関連技術の新用途開拓に焦点を絞り、数件 の開発プロジェクト計画を策定することを目的と致します。 マーケティング・プログラム 第1回 10月 6日'水( 14:00~15:30 第2回 10月20日'水( 14:00~17:00 第3回 11月10日'水( 14:00~17:00 第4回 11月26日'金( 14:00~17:00 第5回 12月8日'水( 14:00~17:00 第6回 12月22日'水( 14:00~17:00 第7回 1月12日'水( 14:00~17:00 第8回 1月26日'水( 14:00~17:00 第9回 2月9日'水( 14:00~17:00 第10回 3月9日'水( 14:00~17:00 -開講式・オリエンテーション- 特別講演「葬祭形態と意識の変化」 講師:高岸義昭 氏 光淵寺住職 交流懇親会'名刺交換会( テーマ:仏壇事業環境の現状の再認識'仏壇は日本だけのものか?( 講 師:野本明成 滋賀大学 産業共同研究センター長 山本 卓 同上 特任教授 テーマ:仏壇事業環境の50年後イメージ想定'葬祭ビジネスの現状と未来( 講 師:山本 卓 滋賀大学 産業共同研究センター 特任教授 特別講演「葬祭ビジネスの現状と未来」 講 師:林 樹一 氏 (有)典礼社 代表取締役 テーマ:50年後の仏壇事業環境からのバックキャスト 講 師:野本明成 滋賀大学 産業共同研究センター長 教授 山本 卓 同上 特任教授 イノベーション・プログラム テーマ:アイデア創出Ⅰ'発想の思考と技法( 講 師:山本 卓 滋賀大学 産業共同研究センター 特任教授 テーマ:技術シーズの再認識 '現地見学会:㈱岸本仏壇、㈱大橋木工所、錺金具伝統工芸士・田中洋一氏( 講 師:三好良夫氏 滋賀県立大学 名誉教授・工学博士 山本 卓 滋賀大学 産業共同研究センター 特任教授 テーマ:アイデア創出Ⅱ'異種との組み合わせ( 技術シーズの再認識 講 師:三好良夫 氏 滋賀県立大学 名誉教授・工学博士 山本 卓 滋賀大学 産業共同研究センター 特任教授 テーマ:アイデア創出Ⅲ'束縛のない発想へ( 講 師:根岸和政氏 大阪大学 光科学センター 特任研究員 テーマ:開発プランニングⅠ'アイデア深堀( 講 師:三好良夫 氏 滋賀県立大学 名誉教授・工学博士 山本 卓 滋賀大学 産業共同研究センター 特任教授 テーマ:開発プランニングⅡ'まとめ報告( 講 師:三好良夫 氏 滋賀県立大学 名誉教授・工学博士 野本明成 滋賀大学 産業共同研究センター長 教授 山本 卓 滋賀大学 産業共同研究センター 特任教授 会場:彦根商工会議所 3 階研修室 定員:15 名 受講料:1 回 1,000 円 主催:滋賀大学産業共同研究センター、彦根商工会議所 11 後援:彦根市・彦根仏壇事業'協( 2011-July No.10 4.活動報告 ■ 「仏壇塾」 第 1 回 10 月 6 日'水(彦根商工会議所にて、受講生 13 名が出席し、「仏壇塾」開講式が行われました。 本事業は、仏壇産業の次代を担う者が集まり、変革、変化を作り出すことを主眼としています。すなわち伝統産業、 伝統文化の維持・活性策を検討するのではなく、新商品の開発と仏壇関連技術の新用途開拓に焦点を絞り、数件 の開発プロジェクト計画を策定することを目的としています。 開講式では、光淵寺住職 高岸義昭氏をお迎えし、特別講演「葬祭形態と意識の変化」を行いました。葬祭の起源、 社会構造と意識の変化、葬祭の変化、そしてこれからの宗教展望と仏壇について等、興味深い内容をご講演いただ きました。最後に「心がすさんでいる時代、仏壇、信仰をとおして心をやわらかくできたら」と結ばれました。 ご講演後、仏壇塾を開催するにあたり、室井理事よりご挨拶があり、オリエンテーションへと続きました。滋賀県立 大学名誉教授 三好良夫氏、野本センター長、山本特任教授より、仏壇塾の目的、心構え等について詳細に説明が あり、またその中で叱咤激励もあり、受講生の方はこれから半年間の仏壇塾への思いを新たにされていたことと思 います。 自己紹介の後、懇親会へとうつり、受講生、講師が交流を深めました。 特別講演 高岸義昭氏 オリエンテーション 三好先生 オリエンテーション 山本先生 自己紹介 12 2011-July No.10 4.活動報告 ■ 「仏壇塾」 第 2 回 10 月 20 日'水(彦根商工会議所にて、「仏壇塾」第 2 回が開催されました。 第 2 回のテーマは「仏壇事業環境の現状の再認識'仏壇は日本だけのものか?(」です。 最初に、野本センター長よりテーマ「仏壇事業環境の現状の再認識」で講義が行われました。様々なデータから仏 壇業界の分析をされ、仏壇業界の事業環境の変化を具体的に説明されたあと、仏壇業界の経営戦略について示唆 されました。続いて山本特任教授より「仏壇は日本だけのものか」と仏教文化という視点から、日本以外の仏壇につ いて考え、彦根仏壇の海外市場の開拓について、彦根仏壇事業協同組合として海外市場調査プロジェクトを立ち上 げることを提案されました。 後半は 2 つのグループで、1.仏壇市場の開拓、2.海外マーケティングについて話し合い、それぞれの考え、アイデ アを寄せあい、最後に発表しました。今後の塾で活かされていくことでしょう。 野本センター長 講議 山本特任教授 講義 グループ発表 グループ討議 13 2011-July No.10 4.活動報告 ■ 「仏壇塾」 第 3 回 11 月 10 日'水(彦根商工会議所にて、「仏壇塾」第 3 回が開催されました。 第 3 回のテーマは「仏壇事業環境の 50 年後イメージ想定」です。 今回は、特別講師として、(有)典礼社 代表取締役 林 樹一 氏より、「葬祭ビジネスの現状と未来」というテーマで、 第 1 の波'会館葬(、第 2 の波'家族葬(につづく第 3 の波?'直葬(についてご講演いただきました。過去 5 年間の葬 儀数にあまり変化はないが、家での葬儀は徐々に減っており、会館やホールでの葬儀が現在では 85%を占め、また 家族葬が増えつつあります。葬祭業として今後どのように展開していくかという分岐点にきている。仏壇を持たない 家が増え、子供時代に宗教に触れる機会が無くなったこともあり、「どうして葬儀をするのか?」という根本的な質問 にぶつかることがある。仏壇業界、お寺、墓石業界、葬祭業界は、それぞれの判断時期がきており、お互いの情報 の共有化を図って、今後のこれら業界の発展を追求することが必要ですと結ばれました。 次に、野本センター長、山本特任教授による仏壇海外市場関連の調査結果の一つとして、海外の主な開教寺院数 を紹介され、想像以上に多くの寺院があることが判り、前回提案された「海外市場調査」についての具体的な進め方 を説明されました。 続いて、山本特任教授よりテーマ「仏壇事業環境の 50 年後イメージ想定」として、フォアキャスティングとバックキャ スティングの説明をされ、50 年後の状況を念頭に「どこが問題、ネックと考えるか」「どうすればよいと思っているか」 について、受講生に宿題が出されました。 特別講演 林 樹一 氏 山本特任教授 講義 意見発表 14 2011-July No.10 4.活動報告 ■ 「仏壇塾」 第 4 回 11 月 26 日'金(彦根商工会議所にて、「仏壇塾」第 4 回が開催されました。 第 4 回のテーマは「50 年後の仏壇事業環境からのバックキャスト」です。 前回の宿題、○仮説と解決策の提案 「どこが問題、ネックと考えるか +データ'仏壇事業に変化を及ぼす要因(、 またどうすればよいと思っているのか」について受講者から報告がありました。全ての受講生から「宗教心の喪失」に ついて発言され、どうすればよいのか、それぞれの意見を出し合いました。 ・核家族化、平均寿命が延びたことによって、身近な人の死に会うことが尐なくなっている。→宗派を越えた布教活動 で宗教のもつ本来の価値を伝えていく。 ・住環境の変化によって仏壇のサイズや雰囲気が合いにくくなっている。→昔、武具作りから仏壇作りに変わったよう に、大きな変化を見据えなければいけない、等それぞれの日頃から感じることから仮説をたて報告されました。 次に、野本センター長より、第 2 回のまとめのあと、テーマ「50 年後の仏壇事業環境からのバックキャスト」へと講義 が続きました。仏壇事業について短期的ビジョン、中期的ビジョン、長期的ビジョンの時系列分析、また 50 年後の理 想型を示され、またマトリックスやセグメンテーションを用いて市場の理解を深める演習を提案されました。 今回は前半マーケティングプログラムの最終日であり、後半イノベーションプログラムへ導くため、山本先生は各回 をふりかえりまとめられました。 最後はフリートーキングとなり、彦根仏壇業界における状況について話し合いました。 宿題報告 野本センター長講義 前半総括 山本特任教授 15 2011-July No.10 4.活動報告 ■ 「仏壇塾」 第 5 回 12 月 8 日'水(彦根商工会議所にて、「仏壇塾」第 5 回が開催されました。 第 5 回からは、前半のマーケティングプログラムからイノベーションプログラムに移り、テーマは「アイデア創出Ⅰ'発 想の思考と技法(」、山本特任教授の講義です。 「発想」とは、結果あるいは目標の解として仮説を形成し、最終的に実証できた仮説が正しい解であるとする思考法 です。今回はこの「発想'アブダクション(」の思考法を用いて演習をしました。 商品開発におけるプロセス〈テーマ・アイデア検討〉→〈商品コンセプト検討〉→〈商品開発/販売戦略策定〉 において、〈テーマ・アイデア検討〉はその後の成果につながる重要ポイントであることを説明され、「素人のように考 え、玄人として実行する」という言葉を引用され、アイデアは自由な広い心持で考えることで想像以上のアイデアが生 まれることを説かれ、「犬がほえないようにする首輪」さらに「心を癒す仏壇空間」という目標課題に対して、受講生が 自由な発想で発言しました。 そして発想の技法演習として、「仏壇の新商品と新用途」を目標として、オズボーンのチェックリスト法'転用・応用・ 変更・拡大・縮小・代用・再利用・逆転・結合(を使い、アイデア創出に励みました。頭を抱え、これ以上発想できない と思ったら、閃いたりとだんだんと面白味も感じる演習でした。100 件を超えるアイデアが出されました。演習を終えて 最後に「偶然の発見'セレンディピティ(」'運命は求める努力をしている人に偶然という橋を架けてくれる(という言葉 を紹介されました。 その後、次回は仏壇技術の職場見学の予定であり、三好先生よりその意義等を説明されました。「新商品の開発」 と「仏壇関連技術の新用途開発」を目標に、仏壇塾も中身が濃くなってきました。 山本特任教授 発想の思考方法の解釈 発想演習 三好先生 16 2011-July No.10 4.活動報告 ■ 「仏壇塾」 第 6 回 12 月 22 日'水(彦根商工会議所にて、「仏壇塾」第 6 回が開催されました。 第 6 回の講師は三好先生です。「技術シーズの再認識」のため現地見学会を取り入れました。今回は、(株)岸本商 店、(株)大橋木工所の工房見学のほか、錺金具伝統工芸士田中洋一さんを訪問見学しました。 金箔押し:㈱岸本商店 組立て:㈱岸本商店 作品 錺金具伝統工芸士:田中洋一さん/道具:タガネ 組立て:㈱岸本商店 ㈱大橋木工所 講師:三好先生 17 2011-July No.10 4.活動報告 ■ 「仏壇塾」 第 7 回 1 月 12 日'水(彦根商工会議所にて、「仏壇塾」第 7 回が開催されました。 第 7 回は、「技術シーズの再認識」というテーマで滋賀県立大学名誉教授の三好先生が講師です。 三好先生からだされていた宿題「自社の技術シーズを探るための調査」の問は、 1) あなたの趣味'手で触れるものを対象( '達観のために必要な知識・技術・技能が蓄積/新製品・商品開発に発展( 2) 今あればいいなと思うもの'世の中に存在しないもの( '実現に必要な技術・知識・技能の探査/実現のための人材調査/社会的ニーズの調査( 3) 得意分野は何ですか。 4) 得意な技術や技能はなんですか。 '個々の技術シーズから創出可能な新製品・商品/技術シーズの集積から創出可能な新製品・商品/ 可能製品・商品実現に足りない技術・人材/可能製品・商品の社会的ニーズの調査( です。それぞれが、自身や身近な人にアンケートとして答えてもらい、今回は新製品開発のためのアンケート整理シ ートにまとめていきました。まだ回答が満たないので、次回に再度行うことになりました。 そのあと、山本先生より第 5 回の「アブダクション演習の結果」についてまとめられ、今後の塾の方向を示されまし た。 講師:三好先生 アンケートに回答中 アンケートの分析中 山本先生:第 5 回のまとめ 18 2011-July No.10 4.活動報告 ■ 「仏壇塾」 第 8 回 1 月 26 日'水(彦根商工会議所にて、「仏壇塾」第 8 回が開催されました。 第 8 回は、大阪大学光科学センター 根本和政特任研究員よりテーマ「アイデア創出Ⅲ'束縛のない発想へ(」につ いてご講演いただきました。 根本先生は産業カウンセラーです。常に笑顔でセミナー室がいつも以上に明るい雰囲気です。講義は「創造性を阻 む要因は、トラウマにある」から始まりました。 過去の傷ついた経験を見直し今後の成長に活かすためにはどうしたらよいか。「イメージトレーニング」-イメージに は力がある。成功'良い(イメージを描くことができれば人間の意識はその方向に動く。という説から塾生とともに 「GOOD&NEW」ゲームを試されました。 1. この数日の間で、感動したこと新しい発見を発表しましょう。 2. 聴くときは、関心をもって聴きましょう。 3. 話し終えたら、聴いていた人は拍手して下さい。 4. 話した人は、次に話してほしい人を指名して下さい。 塾生から次々にうれしかったことばかりが発表されました。ひとりふたりと進んでいくうちに、塾生、先生ともども笑顔 になり魔法のような現象でした。ものの言い方、考え方次第で、自身もまわりも変わるのです。そして、目標が達成で きた状態を先にイメージすることで、モチベーションが上がり、何をすればよいのか見えてくることもわかります。'信 頼関係の構築(→'自己開示の促進(→'自己課題の洞察(→'トラウマの想起(→'抑圧された感情の解放(→'トラ ウマから構築された価値観の修正(→【トラウマの解消】という解消法です。 そして、今回の演習テーマ『次世代の仏壇を予測する』として、各々アイデア絞り出し、ブレーンストーミング方式で ホワイトボードに貼り共有しました。ホワイトボードに収まらないほど、200 件近いアイデアが創出されました。 最後に、良いイメージが良い現実を作る、イメージの世界は限界のない自由な世界、「知」と「知」のコラボレーション が新たな技術革新を起こすとまとめられました。 講師:根岸先生 演習:アイデアだし アイデア大創出! Good & News 19 2011-July No.10 4.活動報告 ■ 「仏壇塾」 第 9 回 2 月 9 日'水(彦根商工会議所にて、「仏壇塾」第 9 回が開催されました。 第 9 回は、「開発プランニングⅠ'アイデア深堀(」で、講師は三好先生と山本先生です。 三好先生は新技術・商品開発の発掘法の演習を行いました。前々回に行われた「新技術・商品開発のためのアン ケート」整理シートを配付され、「今あればいいなと思うもの'世の中に存在しないもの(」で回答されたモノについて、 塾生とともに「実現の可能性」を考えていきました。中には実際にあるモノがあったり、不可能と断言できるものがあ ったりもしましたが、微妙に可能性を探りながら、それぞれの可能性を数値で表し、それを踏まえて今度は「市場ニー ズ」を考えます。実現の可能性が高く、市場ニーズも高いモノは何か?「涼しくなる服」「ごみの自動分別機」「天井浮 遊型移動電気照明」が新技術・商品開発に向けて可能性の高いモノであると導き出されました。次はアンケートで回 答されたそれぞれが持つ活用可能な技術シーズと照し合せていきます。多数の人の技術や趣味に基づくシーズを収 集することにより、あればいいなと思うモノの実現を導くことができます。 続いて、山本先生より第 5 回のアブダクション演習結果から導き出される考えを紹介され、技術シーズの再認識と 新用途開拓におけるアンケート法の演習の意義を理解した上で、新商品の例をいくつか挙げられました。そして、最 終回に向けて、塾生それぞれが「新商品開発したいモノ」についてプレゼン準備することを宿題として出され、今回は 終わりました。 講師:三好先生 講師:山本先生 アイデア抽出の討議 最終回にむけて 20 2011-July No.10 4.活動報告 ■ 「仏壇塾」 第 10 回 3 月 9 日'水(彦根商工会議所にて、「仏壇塾」最終回第 10 回が開催されました。 はじめに、山本先生より「仏壇塾の活動概観」として第 9 回までの概観を説明され、第 1 回からの仏壇塾の講義を 振り返り改めて確認をしました。 次に、三好先生が第 9 回の「新技術・商品開発の発掘法」の演習で、アンケートに基づいて導き出された可能性の 高い「涼しくなる服」「ごみの自動分別機」「天井浮遊型移動電気照明」について、技術や趣味に照し合せ実現に導け るかどうかを解説し、新製品・商品開発のプロセスを学びました。 そして仏壇塾の成果発表でもある、塾生のアイデアプレゼンテーションです。5 名の塾生が「新商品開発したいモノ」 について発表しました。それぞれに個性的で魅力ある商品アイデアがプレゼンされ、質疑応答も盛んに行われまし た。 最終のまとめとして、山本先生より、塾生のアイデアを統合した「仏壇ミュージアム」のイメージ図が示され、今後の 開発実践への期待が述べられた。仏壇塾の成果として「新商品開発プロジェクトプランの創出」「新事業創出人材の 輩出」をあげられ、今後、魅力あるアイデア実現を目指す塾生はぜひ産業共同研究センターを訪ねてほしいと呼び かけられました。 最後に、野本センター長より「仏壇塾修了証書」を塾生ひとりひとりに授与され、仏壇塾は修了しました。 講師:三好先生 塾生アイデアプレゼンテーション 山本先生より仏壇塾総括 修了証書授与式: 野本センター長 21 2011-July No.10 4.活動報告 9 月 24 日(金)より、社団法人滋賀経済産業協会主催、滋賀大学産業共同研究センター事業協力で、エグゼクティ ブ・プログラム「ドラッカーを理解し、明日の経営を創る」が 4 回シリーズで始まりました。 主催:社団法人滋賀経済産業協会 事業協力:滋賀大学産業共同研究センター 開催日時 1 2 3 4 9 月 24 日(金) 内容/担当 鳥瞰的観察と洞察:トレンドを掴み、事業ネタを掘り起こす。 14:00~17:00 10 月 29 日(金) 野本 明成(産業共同研究センター長、経済学部 教授) マネジメント-(1)戦略:目標設定と業績評価 14:00~17:00 11 月 25 日(木) 竹中 厚雄(経済学部 准教授) マネジメント-(2)組織:組織構造と動機づけ 14:00~17:00 柴田 淳郎(経済学部 特任准教授) 12 月 10 日(金) マネジメント-(3)イノベーション:企業とイノベーション 14:00~17:00 弘中 史子(経済学部 教授) ■ エグゼクティブ・プログラム「ドラッカーを理解し、明日の経営を創る」 第 1 回 (社)滋賀経済産業協会 小林事務局長様よりご挨拶があり、その後 21 名の受講者の自己紹介と続きました。第 1 回のテーマは「鳥瞰的観察と洞察:トレンドを掴み、事業ネタを掘り起こす」で講師は産業共同研究センター長 野本 教授です。ドラッカーの真骨頂は、事業環境の網羅的観察によって、いち早く変化を読み取り、将来の中核的トレンド を見つけ出し、それに合致した事業を見つけ出すことです。野本教授より、ドラッカーの経歴、そしてドラッカー予測の 現代への出現としてさまざまな事例をあげて、鳥瞰的観察と洞察について講義されました。その後 4 つのグループに 分かれ「自社を取り巻く事業環境の変化は何か」「自社の強みはなにか」「今後それらが自社にどのような機会をもた らすか」等を討議し発表後、意見交換をして、ドラッカー講義の序論として第 1 回を終えました。 自己紹介 講師 野本教授 22 2011-July No.10 4.活動報告 グループ討論 グループ発表 ■ エグゼクティブ・プログラム「ドラッカーを理解し、明日の経営を創る」 第 2 回 10 月 29 日(金)、エグゼクティブ・プログラム「ドラッカーを理解し、明日の経営を創る」第 2 回が開催されました。今 回の講師は、経済学部 竹中厚雄准教授です。 前回はドラッカーの鳥瞰的観察と洞察について学び、今回からが実践編です。テーマは「マネジメント-(1)戦略: 目標設定と業績評価」です。企業の目的は顧客を創造することであり、基本機能はニーズに忚える「マーケティング」 とニーズを創り出す「イノベーション」であることを講義いただきました。その後グループに分かれ現実の企業(メンバ ー所属の企業含む)から 1 社をとりあげ、「現在の事業は何か」「本来はどのようなものでなければならないか」「この 先どのようなものになる必要があるか」「マーケティングの基本的な意思決定」「おおまかなイノベーションの目的」に ついてグループディスカッションを行いました。討論後グループごとに発表し、竹中先生よりそれぞれにコメントされま した。 【 テーマ:「マネジメント-(1)戦略:目標設定と業績評価」 講師:経済学部 准教授 竹中 厚雄 】 小説の大ヒットなどもあり,ドラッカーの再ブームといわれて久しいですが,なかなかドラッカーの経営思想について じっくりと触れる機会はないのではないでしょうか。ドラッカーは,一見当たり前のことのようで,日々忙しく仕事をする 中ではついつい忘れがちな大切な事柄を教えてくれていると思います。 昨年 10 月 29 日(金)に筆者が担当した第 2 回の講義では,企業の戦略に関わる内容について,主にドラッカーの 主著の一つである『マネジメント』を題材として議論しました。講義の前半では主に次の点について解説しました。 ・マネジメントとは何か,企業とは何か ・われわれの事業は何か ・事業の目標を考える これらの点についてドラッカーの考え方と言葉を紹介した上で,より今日的で現実的な経営の問題に落とし込んで 考えるために,他の経営戦略論の理論とも関連づけながら講義を行いました。 講義の後半では前半で紹介したドラッカーの考え方を踏まえながら,グループに分かれた上で,現実の企業を 1 社 とりあげ(グループのメンバーの所属する企業も可とする),下記の点について発表していただきました。 ・われわれの現在の事業は何か ・マーケティングの基本的な意思決定 ・本来はどのようなものでなければならないか ・イノベーションの目標 ・この先,どのようなものになる必要があるか 23 2011-July No.10 4.活動報告 発表のためのグループ・ディスカッションの時間は短いものではありましたが,どのグループも洞察に富んだ興味 深い発表内容でした。 限られた時間での講義とディスカッションでしたので,このセミナーだけでドラッカーのマネジメントの経営思想を十 分に理解することはなかなか難しいと思います。しかしながら,このようなセミナーがドラッカーの問いかける「マネジ メントとは何か?」「企業とは何か?」「われわれの事業とは何か」といった本質的な問題について思索を巡らせる一 つの契機となれば幸いです。 竹中准教授の講義 グループディスカッション グループ発表 グループ発表の講評 ■ エグゼクティブ・プログラム「ドラッカーを理解し、明日の経営を創る」 第 3 回 11 月 25 日(木)、エグゼクティブ・プログラム「ドラッカーを理解し、明日の経営を創る」第 3 回が開催されました。今 回の講師は、経済学部 柴田淳郎特任准教授です。 第 3 回のテーマは「マネジメント-(2)組織:組織構造と動機づけ」です。 ドラッカーは、仕事と労働の論理の調和がマネジャーの役割であると述べています。ある自動車販売会社の事例に 基づき、仕事の論理の側面、労働の論理の側面から具体的な状況を使い講義されました。論点は「いかに組織構造 を設計するか?」「いかに従業員をやる気にさせるか?」です。講義後「仕事の論理、労働の論理、どちらを優先すべ きだと思うか?」等グループディスカッションを行いました。経営者や幹部である受講生のみなさんからは、白熱した 議論が飛び交いました。発表後、柴田先生は、仕事と労働の論理についてはアメリカと日本では違うこと等を補われ、 それぞれのグループ発表に対して講評を述べられました。 24 2011-July No.10 4.活動報告 【 テーマ:「マネジメント-(2)組織:組織構造と動機づけ」 講師:経済学部 特任准教授 柴田 淳郎 】 第 3 回目の講演テーマは,「マネジメント-(2)組織:組織構造と動機づけ」でありました。ドラッカー氏は,組織のマ ネジメントは大きく 2 つの論理に区分されると指摘しています。①「仕事の論理」,②「労働の論理」です。前者の「仕 事の論理」とは,組織が目的を達成するために,職務を含む組織構造をいかに設計するかという問題であり,後者 の「労働の論理」とは,マネジャーが設計した仕事,すなわち職務が従業員の満足を生むかという問題,言い換えれ ば,動機づけの問題であります。ドラッカー氏は,マネジャーの職責は仕事の論理(組織の目的を効率的に達成する 職務設計)と労働の論理(従業員の達成感)をうまく調和させることにあると指摘しています。本講演では,ドラッカー 氏の組織のマネジメント論のエッセンスを具体的事例(自動車販売会社の組織変革,富士通の目標による管理の導 入事例)を利用しながら,適切に理解することが目指されると共に,講演に参加して下さった経営者,管理者,行政マ ンの方々の経験に基づき,特定のテーマで,様々な角度からディスカッションが行われました。 ディスカッションは,参加者が 3 つのグループを作り,自社の事例や他社の具体的事例に基づき以下の 3 つのテー マに沿って行われました。 ①『仕事の論理と労働の論理が相反する場合,どちらを優先すべきと考えるか?』 ②『ドラッカー氏が提唱する「目標による管理(MBO)」は有効なマネジメント手法か?』 ③『ドラッカー氏の否定する「成果主義」は有効なマネジメント手法か?』 参加者からは,ドラッカー氏の組織のマネジメント論の前提である「仕事の論理と労働の論理をそもそもなぜ分離す る必要があるのか」,「目標による管理はわが社でも導入しているが,高い目標を設定するのが困難だ」,或いは「成 果主義と言うけれども,そもそも成果とは何と考えるのか」等々,鋭い問題提起がなされると共に,私を含めた参加 者全員で,熱いディスカッションが繰り広げられました。 結論として,仕事の論理と労働の論理を区別して認識するドラッカー氏の組織のマネジメント論に対して,日本のマ ネジャーが感じる違和感は,アメリカ企業の場合,労働組合が職能別に組織され,予め労使の利害の対立が前提と されており,アメリカ企業のマネジャーは,仕事の論理と労働の論理を特に分離して理解する必要があり,結果,異 なった利害を調和させることが特に強調されるという点,逆に日本企業の場合は,労働組合が企業別に組織され, 予め労使の利害の一致が前提とされており,仕事の論理と労働の論理は相対的に一致して理解されているのでは ないかという点,また目標による管理が機能する前提として,経営者は仕事とは何か,また労働とは何か,という価 値的側面を従業員に教育する必要があり,人材育成を辛抱強く行っていく必要性がある点,成果とは必ずしも従業 員に割り当てられた職務遂行に対する経済的報酬だけでなく,組織の中で信用を得て,仕事を分配されること自体 が,成果=報酬であるという点等々,日本企業のこれからの経営,比較経営制度を考えていく上でも興味深い様々 な結論が得られ,大変意義深い講演となりました。 グループディスカッション 柴田特任准教授の講義 25 2011-July No.10 4.活動報告 グループ発表の講評 グループ発表 ■ エグゼクティブ・プログラム「ドラッカーを理解し、明日の経営を創る」 第 4 回 12 月 10 日(金)、エグゼクティブ・プログラム「ドラッカーを理解し、明日の経営を創る」第 4 回が開催されました。今 回の講師は、経済学部 弘中史子教授です。 第 4 回のテーマは「マネジメント-(3)イノベーション:企業とイノベーション」です。 ドラッカーが考えるイノベーションは、技術だけでなく、近代日本を例として社会的イノベーションを重要視していると ころから、ドラッカーがいうノベーションのための 7 つの機会を紹介され、それぞれについて例をあげられ、理解を深 めました。 このあと、3 グループに分かれ、それぞれにどの機会でイノベーションを起こした経験があるか、また今後どの機会 を使いたいかについて討論をし、それぞれの経験をもとに 7 つの機会にそって分析し、グループごとに発表されまし た。経験した機会として、3.ニーズをみつける、4.産業構造の変化を知る 6.認識の変化を知る が多く、今後使い たい機会としては、前項に加えて、5.人口構造の変化に着目する があげられました。発表後、弘中先生より講評を 述べられ、ドラッカーが述べているイノベーションの成功の条件を紹介されて、今回のプログラムは終了しました。 【 テーマ:「マネジメント-(3)イノベーション:企業とイノベーション」 講師:経済学部 教授 弘中 史子 】 最終回は,「企業とマネジメント③ 企業とイノベーション」というテーマで行いました。イノベーションは企業が存続・ 成長する上で不可欠な要素ですが,それを継続的に実現することは難しいと言われています。ドラッカーはその著書 「イノベーションと企業家製精神」(P.F.ドラッカー著, 上田淳生翻訳,ダイヤモンド社,2007 年)の中で,企業がイノベ ーションを実現するための機会として,次の7点をあげています。 前半の 3 点は企業や業界の内部におけるイノベーションです。そして後半の 4 点は企業や業界の外部に影響を与 えるイノベーションです。 講義では,この 7 つの機会をそれぞれどのように見つけ出す かを,複数の事例をあげながら解説しました。事例については 1. 予期せぬ成功と失敗を利用する ドラッカー自身がとりあげているものだけでなく,担当講師が日 2. ギャップを探す 本国内の事例・身近な事例を追加し,より理解が深まるように 3. ニーズを見つける 考慮しました。また受講者に中小企業の幹部や社員がいるこ 4. 産業構造の変化を知る とを意識し,中小企業の事例も含めるようにもしました。 5. 人口構造の変化に着目する 概要を説明した後には,グループディスカッションの機会を設 6. 認識の変化を知る けました。各受講者が業務を遂行する上で,ドラッカーのイノベ 7. 新しい知識を活用する ーションに対する考え方をどのように忚用できるか,実践的な 26 2011-July No.10 4.活動報告 知見を得るためです。具体的には,受講者をいくつかのグループに分けて,次の 3 つの課題についてディスカッショ ンを行いました。 1. みなさんの会社でこれまで起こしたイノベーションは何かを考えてみてください。 2. それが 7 つの機会のうち,どれに当てはまるかを分析してください。 3. みなさんの会社で今後イノベーションを起こす上で,7 つの機会のうちどれが有用でしょうか。 課題 1 の狙いは,自社がこれまで起こしてきたイノベーションを俯瞰することです。課題 2 の狙いは,それらをドラッ カーの定義にあてはめて分類できるようになることであり,これによって自社のイノベーションのパターンが把握でき るようになります。課題 3 は,自社がこれからどのようなイノベーションに着目すべきかを受講者自身に考えてもらう ためのものです。 課題 2 については,「3.ニーズ見つける」という回答がもっとも多く,次いで「4.産業構造の変化を知る」「6.認識の 変化を知る」でした。課題 3 については,「4.産業構造の変化を知る」「5.人口構造の変化に着目する」「6.認識の変化 を知る」という回答が目立ちました。 実は,7 つの機会は,後半になるほど難易度があがるという特徴を持っています。受講者は難易度の高いイノベー ションに取り組むべきだと考えており,意欲の高さが窺われました。 最後に総括として,7 つの機会の中で着手しやすいもの,中小企業に適しているものについて説明しました。さらに, イノベーションを成功させるための条件と,イノベーションを実現する上で避けるべき事項についてもリストアップしま した。 受講者の質問や,グループディスカッションでの発表事例から,私自身の研究活動において貴重な示唆を得ること もできました。 最後になりますが,ご多用にもかかわらず本プログラムにご参加いただいた企業と受講者のみなさま,そして主催 者である社団法人滋賀経済産業協会様に心より感謝申し上げます。 講義の様子 弘中教授の講義 グループ討論 グループ発表 27 2011-July No.10 4.活動報告 滋賀県の地場産業のひとつである高島綿織物の技術にデザイン・伝統工芸を組み合わせて、「バランスト・リラック ス ウェア」とネーミングした新コンセプト衣料の開発をすすめている。 この「バランスト・リラックス ウェア」という商品 コンセプトは、部屋から応接ロビーといったクロスオーバーするシーンに適応できる、リラックスと社会的コミュニケー ションを同時に満足させる、新しいジャンルの衣料を意味する。たとえば病院、介護施設というシーンの場合、従来の パジャマとは異なる、誇りを持って着られるお洒落なリラックス着であり、旅館というシーンでは、浴衣に替わる新しい くつろぎ衣を対象とするものである。 本プロジェクトでは、高島の綿織物技術とデザイン・伝統工芸の力を合わせることで、旅館での浴衣に替わる新しい くつろぎ衣の実現を目指した。 滋賀大学産業共同研究センターが商品コンセプト創出とマーケティングを担当、高 橋織物株式会社が繊維技術を担当、滋賀県立大学が服飾デザインを担当、伝統工芸の組紐を(有)藤三郎紐が担当 している。しが新事業応援ファンドの助成金を利用させていただき、開発目標にむけて改良試作とユーザーアンケー トを繰り返し実施する方法をとった。 今年度は旅館「びわこ花街道」で試作品のモニター調査にご協力いただき、色、着やすさ、動きやすさのデザイン検 討および、縫製方法、風合い処理の課題を解決し、事業化を展望する段階に到達した。産学連携の成果展示の場 である科学技術フェスタへの出展展示、繊維学会へのパネル展示を行うとともに、バランスト・リラックス ウェアの着 用イメージを明確化するため、ビデオ撮影(DVD 作成)を実施し、今後の事業化に向けてのプロモーション活動を始 動させた。開発プロジェクトの内容詳細は本センター報の論文に記載した。 ワーキンググループでの討議風景 試作品検討の風景 バランスト・リラックス ウェアのビデオ撮影風景 旅館内の着用イメージ撮影風景 28 2011-July No.10 4.活動報告 衰退しつつある滋賀県内地場産業の再生および活性化に向け、地域ブランドの新構築を模索することをねらいとし て、2010 年 7 月、産業共同研究センター内に「地場産業再生研究会」を発足させた。 産業共同研究センターの野本センター長、山本特任教授が実践メンバーとなるほか、滋賀県立大学名誉教授 三 好良夫氏に常任アドバイザーとして参画いただくこととした。また、特定テーマのアドバイザーとして随時、その分野 の有識者に参画いただく仕組みとした。 7 月 21 日開催の第 1 回「地場産業再生研究会」では、彦根仏壇産業について討議し、現状の分析、問題点の整理 を行った。さらに彦根仏壇産業活性化に向けての具体的アクションとして、次代を担う若手を集めた研究会「再生塾」 (仮称)の取り組みが提案された。この提案は、「仏壇塾」開講として実際の取り組みにつながった。その後の数回の 「地場産業再生研究会」において、仏壇塾のプログラム検討のほか、信楽焼や伝統工芸産業等の地場産業活性化 の方策が議論され、その一部は「地場産業再生 MOT フォーラム」の開催につながった。今後も滋賀県内地場産業の 再生および活性化に係る実践的な取り組みを生み出すエンジンとして、その活動を継続してゆく予定である。 緒方先生をお迎えして(左から緒方、野本、山本) 討議風景(左 野本、右 三好) ■ 滋賀大学の特許第 1 号は「ヒト血液型試薬」 平成 22 年 4 月、滋賀大学ではじめて登録された特許は、発明の名称「ヒト血液型試薬」です。シイタケ、マッシュル ームなどの食用茸類の未利用部を用いた機能性食品素を追求する北海道経済産業局プロジェクト開発の中で発明 されました。本大学教育学部の杉田陸海名誉教授と糸乗前教授が、ブ ナシメジから精製される糖脂質が、B 型および O 型の抗原構造をもち、 類似ヒト血液型抗原として血液型試薬に利用できることを明らかにしま した。A 型糖脂質を合成した帯広畜産大学(櫛泰典教授、現・日本大学 理工学部)と製造技術に係わる製粉会社、食品会社も加えて共同出願 されました。この発明により、ヒトの血液型を判定する純粋試薬を安価 に供給することが可能になります。 なお、滋賀大学の知財権の管理窓口は学術国際課が担当し、その活 用に関して産業共同研究センターが支援します。 29 糸乗先生の研究室 2011-July No.10 4.活動報告 公益財団法人 滋賀県産業支援プラザ 副主幹 山本 照美 物を売るのにネットを使えば簡単に売り上げが上がるという単純で簡単なものでは無くなっています。ネットを使っ てサービスを行うにはしっかりとした戦略が必要になります。今回、実際にマーケティングを融合し、売り上げを伸ば している成功事例の紹介や、マーケティングの視点から産学連携の新たな提案を行う事を目的に、滋賀大学産業共 同研究センター共催によるセミナーを 5 回開催いたしました。 < 開催内容 > ① モバイル EC 成功ポイント! スマートフォン普及でモバイル EC が本格化!1200 社の実績から「モバイル EC 成功ポイント」を公開 ・日時 平成 22 年 12 月 17 日(金) ・講師 (株)ロックウェーブ 代表取締役 岩波 裕之氏 ② 専門ポータルサイトで起業する! 小資本で始める新しいネットビジネス ・日時 平成 22 年 12 月 22 日(水) ・講師 (株)しんがり 代表取締役 清水 智氏 ③ 売上のあがる HP で起業する! WEB 売上アップのプロフェッショナル ・日時 平成 23 年 1 月 14 日(金) ・講師 (株)ヒューゴ 代表取締役兼 CEO 加藤 学氏 ④ 問い合わせが 4.7 倍になる HP! amazon ビジネス書籍 1 位著書 問い合わせが 4.7 倍になる超戦略的 HP 企画術 ・日時 平成 23 年 1 月 21 日(金) ・講師 (株)アームズエディション 代表取締役 菅谷 信一氏 ⑤ 産学官連携の新たな提案! マーケティングの視点からの産学官連携 ・日時 平成 23 年 1 月 28 日(金) ・講師 滋賀大学産業共同研究センター センター長 30 野本 明成氏 2011-July No.10 4.活動報告 < 各回レポート > ① モバイル EC 成功ポイント! スマートフォン普及でモバイル EC が本格化!1200 社の実績から「モバイル EC 成功ポイント」を公開 ・日時 平成 22 年 12 月 17 日(金) ・講師 (株)ロックウェーブ 代表取締役 岩波 裕之氏 「携帯で物が売れるのか?」「自社の商材は携帯での通販に向かないので は?」と勘違いされている方は多いのではないでしょうか?実は男女 30 代、女 性 40 代向け商材が携帯通販に有効だといわれています。 この携帯通販に目をつけてシステムを開発されたのが(株)ロックウェーブです。 代表者の岩波氏はコラボしが 21 インキュベーション卒業者で、創業されて 6 年目になります。創業当時は大変苦労 され、従業員の給料の支払いなどに、日中の本業以外に、夜には新聞配達、進学塾と働き詰めであったそうです。 ある時、その進学塾の生徒さんから「先生、パソコンでインターネットってできるの?」という意外な質問がありびっく りされました。この一言が今のモバイル EC 事業をスタートされたきっかけになったと言われました。 ネットは携帯でするという世代が多くなっているのです。モバイル EC 時代の到来に向け(株)ロックウェーブでは、 ASP サービスを中心に、導入実績 1200 社、モバイル通販をするなら NO.1 といわれるまで成長されました。岩波氏は セミナーの講演や、新聞や雑誌にも掲載されるなどご活躍中です。 ② 専門ポータルサイトで起業する! 小資本で始める新しいネットビジネス ・日時 平成 22 年 12 月 22 日(水) ・講師 (株)しんがり 代表取締役 清水 智氏 代表の清水氏は大学卒業後、京都にてベンチャー企業のコンサルティング、その後インターネット関連のベンチャ ー企業にて執行役員として大学社会人教育事業を立ち上げ、さらにポータルサイトを活用して約 200 校の大学を開 拓するなど、学生時代から起業の足固めをしながら、2008 年に(株)しんがりを設立されました。未だ若い社長さんで す。 専門ポータルサイトは「最近 HP から注文、問い合わせが減った!」などお困りの方にご提供できるサイトです。たと えば、専用ポータルサイトを持つと、その分野に関する情報がたくさん掲載されており、サイト閲覧者がその「分野の 権威」とみなすようになるということです。また、検索順位の上位になりやすい傾向にあるといわれます。 このセミナーの中で成功事例として紹介されました 1 例が、日本人が大好きなお醤油のポータルサイトで日本全国 の職人が作る「醤油.com」です。最近では店舗も出店し事業成長されているそうです。 検索上位に掲載されやすいことと、複数の情報を一気に見られる、このことがお客様の満足を得られる理由とのこと です。 また、セミナーに受講された方の多くから「ポータルサイトを検討してみたい」との声があがり、清水氏から「サイトで 上げる収益、お金の流れをしっかり考える必要がある。」などアドバイスをいただきました。 31 2011-July No.10 4.活動報告 ③ 売上のあがる HP で起業する! WEB 売上アップのプロフェッショナル 加藤学氏が語る売り上げのあがる HP のつくり方 ・日時 平成 23 年 1 月 14 日(金) ・講師 (株)ヒューゴ 代表取締役兼 CEO 加藤 学氏 今年度に 2 回目のセミナーの講師の依頼をお願いした加藤氏です。いつ もセミナー終了後アンケートで受講された方のお声を聞いているのですが、 「再度、加藤さんのセミナーをお願いしたい。」と要望が多くありました。 受講された方々には、インターネットに関わったお仕事をされている方も 多く、常にヒントを得ようとセミナーに参加していただいています。 ホームページで売り上げを上げるには検索で上位にあげることは当たり前のことですが、今まで検索の上位にあっ た企業が突然なくなったということがあり、この原因は 2009 年サイトが崩壊された事にあるといわれます。その理由 は Google の検索結果が変わったことにあるのと、このようなことからユーザーも求めるものが変わってきたのだとい われます。 では、どうすれば解決できるのか、「ホームページはラブレターを書くように」「トップページはきれいなものでなくても いいです。」などわかりやすく、惜しげもなくご説明いただけるのが加藤氏のセミナーの特徴です。会場は 30 名の定 員としていますが、50 名を超え、受講者で会場は溢れかえり、大変熱気がありました。 ④ 問い合わせが 4.7 倍になる HP! amazon ビジネス書籍 1 位著書 問い合わせが 4.7 倍になる超戦略的 HP 企画術 ・日時 平成 23 年 1 月 21 日(金) ・講師 (株)アームズエディション 代表取締役 菅谷 信一氏 今日では、ネットで書籍を買われる方も多くなりましたが、書籍ネット 販売 amazon ビジネス書籍 1 位著書にランクされた菅谷氏を滋賀県に お招きすることができました。今回、菅谷氏に講師招聘のお願いする 前に、菅谷氏のホームページを拝見し更に、信頼出来たのはセミナ ー実績の内容が書かれていたからです。お客様が信用できるホーム ページの制作を 300 件手掛けてこられ、コンサルタント活動もされて います。 ホームページの依頼があった企業先には、マインドマップを使って自社の魅力度をしっかりと認識した上で、戦略的 にホームページを作成する手法はとても興味深い物でした。何より、一番素晴らしいと思ったのは手掛けた事例によ る解説です。WEB 制作の仕事をしている人には、この事例の部分を特に聞いて欲しいと思いました。ときに WEB 制 作業者は経営コンサルタントの視点でクライアントと向き合わなければなりません。その際にどんな事に気をつける べきか。とても参考になるセミナーでした。 32 2011-July No.10 4.活動報告 ⑤ 産学官連携の新たな提案! マーケティングの視点からの産学官連携 ・日時 平成 23 年 1 月 28 日(金) ・講師 滋賀大学産業共同研究センター センター長 野本 明成氏 事業化の困難な状況と原因についてや市場の分析とマーケティングについてご講演いただきました。 また、地域資源の活用として、地域ブランドづくりでは 1 主体では限界があり、技術者の思いこみだけでは売れない モノづくりになっていませんか、人任せでは新製品開発はできないなど、色々な視点からのアドバイスをいただくこと ができました。 さらに、マーケティング・マネジメント・プロセスの事業機会の発見として SWOT 分析の説明いただきました。事業に は思いこみが強く、事業を見つめ直す機会が必要だとつくづく考えさせられました。地元の企業が大学の知を活用し 新しい商品づくりに取り込む例をご紹介いただきながら、受講者の方には何かヒントを得られたことと思います。 < ビジネスカフェあきんどひろばでの取り組み > 滋賀県産業支援プラザでは、今年度は「ビジネスカフェあきんどひろば」を各地域で行ってきました。まず、草津の 商店街にあります「カフェフィオーレ」、彦根駅前「平和堂アルプラザ」、米原文化産業交流会館、さらに大津駅前「滋 賀大学産業共同センター」と場所を変えながら計 22 回のセミナーを開催することができました。この「ビジネスカフェ あきんどひろば」は、平成 18 年をスタートに草津駅前の「エルティ 932」の地下からはじまりました。参加者はのべ 7,000 人を超えることになります。 なぜ、このように「ビジネスカフェあきんどひろば」を開催するのかといいますと、参加者には経営革新に取り組む方 などの参加が多くおられ、中小企業の方の経営課題の解決のヒントを得ようとされる方がみられます。また、創業を しようとする方の参加もあります。 セミナー終了後は、「ビジネスカフェあきんどひろば」の特徴でもあります交流会は、500 円の会費でおいしいコーヒ ーとクッキーなどを食べながら交流の場になります。この交流の場は名刺交換をされる方も多くいらっしゃいますが、 ビジネスマッチングが生まれたこともあります。こうしたなかで私たちは起業をしようとしている方に出会えるきっかけ づくりにしています。 ビジネスカフェあきんどひろばで種をまき、小さな芽を大きく育てるように、 ビジネスカフェで夢を熟成し、創業を決意した後、インキュベーションオフィス (創業オフィス)に入居していただけるように導くサポートをしております。 < さいごに > 5 回のセミナーに共通することは、「お客様第一主義」であること。お客様が求められているニーズを捉える事につき ないのではないかと思いました。昨年度から始めました、滋賀大学産業共同センター共催のもと「ビジネスカフェあき んどひろばin大津-ネットマーケティングで勝ち残れ-」に多くの参加者をいただけたこと、滋賀大学産業共同研究 センターの野本教授、職員の皆様にご協力いただき、多くの皆様に喜んでいただけるセミナーが開催出来ましたこと を御礼申し上げます。 来年度もさらに魅力ある「ビジネスカフェあきんどひろば in 大津」が開催できるように努力してまいります。 33 2011-July No.10 4.活動報告 ■ 滋賀大学第 2 回知財セミナーを開催 10 月 20 日(水)教育学部大会議室にて、第 2 回知財セミナーを開催しました。 企業の知財は技術開発部門だけの問題ではなく、経営者がかかわるべき問題となってきています。また、営業活 動ひとつをとっても知財の知識なしでは進みません。社会に人材を輩出する大学において、知財教育は自然科学系 の学生だけに必須のものでなく、人文社会学系の学生にも不可欠な知識となりつつあります。今回は教職員向けに 一層ご理解を深めていただくことを目的に知財セミナーを開催しました。 室井理事の開会の挨拶に続いて、山本特任教授よりまず知財概論を講義いただき知識を深めました。続いて、滋 賀大学が出願人となり、食用茸類の未利用部を用いた機能性食品素を追求する北海道経済産業局プロジェクト開 発の中で発明された「ヒト血液型試薬」について「滋賀大の登録特許第 1 号」と題しその経緯等を糸乗教授よりお話し いただきました。「瓢箪から駒」という研究の醍醐味を感じ得ました。また、中井特任教授より「企業における特許戦 略」とうことで、これからは大学教育の中でも「知財」は必須として認識すべきであることを説かれました 室井理事「ご挨拶」 山本先生「知財概論」 糸乗先生「滋賀大の登録特許第1号」 中井先生「企業における特許戦略」 34 2011-July No.10 4.活動報告 ■ 研究成果最適展開支援プログラム「A-STEP」応募に関する説明会の開催 3 月 10 日(木)、研究成果最適展開支援プログラム「A-STEP」応募に関する説明会を教育学部にて開催しました。 「A-STEP」は大学・公的研究機関等で生まれた研究成果を基にした実用化を目指すための幅広い研究開発フェー ズを対象とした技術移転支援制度です。 それぞれの研究開発フェーズの特性に応じた複数の支援タイプにより実施される研究助成制度で、JST イノベーシ ョンサテライト滋賀より説明会の申し入れをいただき、開催の運びとなりました。 教育学部より数名の先生に出席いただき、コーディネータの山本特任教授とともに、応募にむけての説明を伺い、 そのあと応募の状況や詳細について質疑応答が重ねられました。 35 2011-July No.10 4.活動報告 ≪ 事業コンサルティング ≫ いくつかの企業から農商工連携、仏壇産業活性化、窯業分野活性化に関する相談を受けた。現時点ではその内容 を開示することはできないが、今後共同研究等に展開したものについては、開示できる段階で概要紹介する予定で ある。 ここでは、事業コンサルティングの対応に必要なコーディネート力の強化に向け、本年度から始まった「全国コーディネ ート活動ネットワーク」事業に参画したので、その概要を報告する。これは県内等の比較的狭い範囲に限られていたコーデ ィネータの連携チャネルを、県外、全国まで拡大強化し、産学連携活動をより効果的に成果に結び付けることをねらい とした事業である。年 1 回開催される全国会議のほか、地域別に会議が開催される。全国を 6 地域(北海道・東北地 域、関東甲信越地域、中部地域、関西地域、中国・四国地域、九州・沖縄地域)に区分し、各地域においてそれぞれ 年 3 回の会議を開催する。地域会議では各大学から提起のあった課題や問題点につき意見交換を行い、各種情報 を共有することで今後のコーディネート活動に反映ゆくことをねらいとしている。 ■ 全国コーディネート活動ネットワーク 第1回 関西地域会議へ参加 日 時 : 平成 22 年 7 月 8 日(木)13:00~19:00 会 場 : 立命館大学 びわこ・くさつキャンパス エポック立命 21 K309 号室 文部科学省(財団法人日本立地センター)が主催する、全国コーディネート活動ネットワーク第 1 回関西地域会議へ参加し た。本事業趣旨説明、文部科学省施策説明、経済産業省施策説明につづき、産官学連携事例の紹介があった。さ いごに、コーディネータ間で意見交換を行った。 ◆ 前田裕子(本事業実施代表) 、飯田健夫氏(立命館大学 副学長) 開会あいさつ ◆ 文部科学省施策説明・質疑応答 柳 孝氏(文部科学省 研究振興局 研究環境・産業連携課長) ◆ 経済産業省施策説明・質疑応答 渋谷 浩氏(経済産業省 経済産業政策局 地域経済産業グループ 地域技術課長) ◆ 地域内産学官連携活動状況報告 「新たな農商工+学連携のモデルづくりへ向けて」 松田 文雄氏(立命館大学 研究部 理工リサーチオフィス 産学官連携コーディネータ) ◆ 大学シーズと成果事例:「ダチョウ黄卵を利用した抗体マスク」 阿部 敏郎氏(大阪府立大学 産学官連携機構 シーズ育成オフィス 副オフィス長) ◆ 大学シーズと成果事例:「びわこ南部エリア発「内視鏡手術具」の開発・製品化」 平野 正夫氏(滋賀医科大学 バイオメディカル・イノベーションセンター 副センター長) ◆ 他地域産学官連携成果事例報告 「技術移転活動と効率的大学連携」 平野 武嗣氏(有限会社金沢大学ティ・エル・オー 代表取締役社長) ◆ 課題抽出・意見交換会・交流会 36 2011-July No.10 4.活動報告 . ■ 全国コーディネート活動ネットワーク 第 2 回 関西地域会議へ参加 日 時 : 平成 22 年 9 月 6 日(月)~平成 22 年 9 月 7 日(火) 会 場 : 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究推進センター 文部科学省(財団法人日本立地センター)が主催する、全国コーディネート活 動ネットワーク第 2 回関西地域会議へ参加した。第 1 回関西地域会議に引き続 いて参加であるが、今回は宿泊研修のスタイルの会議であった。 仮想の産学連携組織をケーススタディの対象として、その組織・運営面の問 題点、改善策提言について、参加大学(奈良先端科学技術大学院大学、同 志社大学、京都大学、大阪市立大学、関西大学、立命館大学、神戸大学、 滋賀医科大学など)の産学連携コーディネータとの夜間までの討議ならびに、 翌朝の熱心な討議を通じて、コーディネータ間の繋がり(ネットワーク)を強化 できた。このコーディネータ間ネットワークを今後の産学連携活動で活用して ゆきたい。 プログラムの概要は以下の通り。 ◆ 本事業趣旨説明 前田 裕子(本事業実施代表)、 ◆ 幹事大学ご挨拶 磯貝 彰氏(奈良先端科学技術大学院大学 学長) ◆ 文部科学省ご挨拶 橋爪 淳氏(研究環境・産業連携課 技術移転推進室長) ◆ 経済産業省ご挨拶・施策説明 高橋 祐介氏(産業技術環境局 大学連携推進課) ◆ 「地域の特色を生かした産学官連携」 森 紅美子氏(九州バイオリサーチネット) ◆ 地域内産学官連携活動状況報告 酒木 聞多氏(奈良先端大 産官学連携本部) ◆ 「関西大学の技術シーズと技術移転事例」 柴山 耕三郎氏(関西大学 ) ◆ 大学シーズと成果事例 中島 宏氏(大阪市立大学 新産業創生研究センター) ◆ グループディスカッション①(1 日目議論課題) ◆ グループディスカッション②(2 日目議論課題) ■ 全国コーディネート活動ネットワーク 全国会議に参加 日 時 : 平成 22 年 11 月 2 日(火) 会 場 : 学術総合センター・一ツ橋記念講堂 文部科学省・財団法人日本立地センター主催による全国コーディネート 活動ネットワーク全国会議に出席した。本会議は、全国の産学官連携従 事者によるネットワーク構築と連携促進を狙いとしたもの。内容は文 科省 審議官 戸渡速志氏による主催者挨拶のあと、池田貴城氏(文 部科学省 研究振興局 研究環境・産業連携課長)による文科省施策 説明、渋谷浩氏(経済産業省 経済産業政策局 地域技術課長)によ る経産省施策説明があった。株式会社日経BPバイオセンター編集部 長 宮田満氏の基調講演のあと、海外を含めた各地域の産学官連携 37 2011-July No.10 4.活動報告 成功事例紹介や、日本の産学官連携のあるべき姿についてのパネルディスカッションが行われた。 印象に残る意見以下に箇条書きで示す。 ○ 大学の知財は、早い時期の発表などで実施例の肉付けも不足しており、権利としてはほとんど通用しない。大学 の知財は企業にとって事業機会(Opportunity)の提供と考えている。TLOはプロフィットセンターを前面に出すのは 無理で、コストセンターとの割り切りが必要。むしろプロフィットセンター、コストセンターの議論を超えたオポチュニテ ィを提供するセンターとの位置づけが適切では。 ○ ビジネスモデルの方向を変えるきっかけとなるのが大学の大きな役割。 ■ 全国コーディネート活動ネットワーク 第 3 回 関西地域会議に参加 日 時 : 平成 23 年 1 月 27 日(木) 会 場 : 京都大学 百周年時計台記念館 2 階 国際交流ホール 本事業実施代表の前田裕子氏による本事業趣旨説明の後、文科省・産業連携課長池田貴城氏による文部科学省 施策説明、経産省・大学連携推進課 産学官連携推進研究官能見利彦氏による経済産業省施策説明が行われ、は こだて未来大学田柳恵美子氏による産学官連携の実情と展望の講演ならびに京都大学 産官学連携本部長による 地域内産学官連携活動状況の報告が行われた。社会連携から産学連携が生まれてゆくとの見解が印象的であった。 牧野圭祐氏(京都大学 産官学連携本部長)による地域会議取り纏め報告は圧巻で、米国有力大学の特許ライセン ス実績(面談調査結果)の有用なデータ開示がなされた。全米 1 位は ニューヨーク大学の 280 億円で主にリウマチ薬の特許による収入との こと、2 位はコロンビア大の 134 億円でホームラン特許が 5 本あるとの こと。京大は 2010 年度一億円突破の見込みであり、今後、コーネル大 (13 位)の 5 億円を目標として取り組むことを宣言され、そのための改 革が本年 3 月に完了するとの報告があった。新規施策であるリサーチ アドミニストレータについては、永続的な取り組みではなく、3 年間の期 間限定で限定した大学で実施することが Q&A で判明した。会議後の 交流会に参加し、ネットワーク交流の強化に尽力した。 38 2011-July No.10 4.活動報告 日 時 : 平成 22 年 6 月 5 日'土( 場 所 : 国立京都国際会館 滋賀大学'産業共同研究センター(は次の 2 つのテーマで出展をしました。 1.ニーズ・シーズ・マッチング '環境負荷低減のための新素材開発:教育学部 磯西和夫教授( 「"その場"で新材料を作る」 複合材料は、母相と強化相の粉末を混合・焼結することにより作製されます。これに対して、固化成形プロセスの 間に目的とする相を作り出す方法があります。この in-situ'その場(プロセスによる素材作製について紹介します。 2.地域ブランド創出プロジェクト '文理融合型:滋賀大学、滋賀県立大学、高橋織物株式会社( 「バランスト・リラックス」という新コンセプト衣料の開発プロジェクトを 紹介します。 寝間着と館内着という、旅館や病院・介護施設におけるクロスオー バーするシーンに適応できる、リラックスと社会的コミュニケーション を同時に満足させる新コンセプトの衣服を追求しています。滋賀県 の綿織物技術とデザイン・伝統工芸を生かして地域の知のネットワ ークを形成し、楽とスタイルを兼ね備えた新衣料を実現しようとする 【 展示ブースの様子 】 ものです。 「科学・技術フェスタ in 京都」への参加者の多くの来訪により好評を博しました。この成果を元に今後もさらにプロジ ェクト等を推進します。 【 展示パネル 】 39 2011-July No.10 4.活動報告 日 時 : 平成 22 年 8 月 4 日'水( 場 所 : 龍谷大学 大阪梅田キャンパス 産学官連携推進実務者会議に出席し、学学連携を基にした産学連携の取組み、文系の産学連携の取組み等を聴 講した。 ○ 学学連携を基にした産学連携'関西大 柴山( 東大阪地域のコア企業との共同研究を目的として、関西大と大阪府大の連携による技術講座を2007年から毎月開 催。関西大で3年間で4社と研究連携。首都圏での大学プレゼンス向上と首都圏企業との共同研究を目指して、関西 大と関学との学学連携セミナーを2008年度より年2回東京で実施。 ○ 文系の産学連携の可能性'同志社大 大神( ・ 技術開発以外の分野で企業貢献:コンサルティング、技術経営セミナー ・ 連携による地域貢献:地域活性化、社会起業家育成 ・ 大学研究の社会への還元 ・ 学生への教育効果:学生時代に社会と触れ合う絶好の機会 今後の課題は、成功例の蓄積。文系産学連携事例の社会への発信はまだ不十分。サクセスモデルが必要。 日 時 : 平成 22 年 8 月 5 日'木( 場 所 : 岐阜大学 産官学融合本部 地域企業、地域金融機関と大学とのネットワーク化で顕著な実績を持つ、岐阜大学・産官学融合本部を訪問して、 森本博昭本部長、新川幸嗣准教授と面談してネットワーク化のノウハウ、現状、問題点をヒアリングした。 ○ 「地域交流協力会」は地域企業・団体の正会員178会員、で構成される連携組織で、創設10周年を迎える。年会 費3万円。産業界からの要望を受け、各部局ネットワークを統合してできた。学長、知事、企業代表の3者の合意を 契機に行政が動いて発足につながった。産官学の交流機会提供、研究・技術シーズの最新情報提供、大学との連 携・人材育成の機会提供が行われており、リクルート機能のウェイトも大きい。近年、会員数の減少が見られテコ入 れ策が今後の課題。 ○ 連携協定金融機関との連絡会は1回/2ヶ月のペースで開催。地域の信用金庫が中心で、地銀の参画はない。 ○ 行政との連携は、高山市、岐阜市、多治見市から、大学、産業界との人的交流を主なねらいとして、職員各1名 が地域イノベーターとして融合本部に派遣されている。とくに高山市は農商工連携による新産業創出をねらいとし た岐阜大ブランチ設立に向け、派遣期間は2年目となる。'通常、1年間( ○ 岐阜大産官学融合本部は連携の芽を生む場を提供するサロン行政機能を主としている。実際の学外連携による プロジェクトの企画・実践は部局レベルで対応している。 40 2011-July No.10 4.活動報告 日 時 : 平成 22 年 8 月 24 日'火( ・ 11 月 19 日'金( 、平成 23 年 2 月 16 日'水( 場 所 : 大津市役所 【要 旨】 大津市産業の将来像(長期展望)実現に向けて、中小企業に係る重点施策の方針を検討するワーキングが数回に 亘り開催された。産官学各機関から出席者が意見を交わし、本学からも、事業期間を区切らない継続的な相談窓口 の設置や、観光産業の振興は関係する分野が多く、土産・食材製造などをとおして中小製造業振興や雇用創出にも 直接貢献できる点を考慮するよう求めるなど、積極的な意見具申を行った。結果は別途大津市から報告されることと なる。内容としては、大津市の現状、大津市産業の将来像、将来像実現に向けての方向性、重点事業などである。 【内 容】 最終案では、大津市産業の振興ビジョン(案)、大津市中小製造業の振興ビジョン(案)、大津市中小製造業の振興ビ ジョンへの取り組み(案)、としてまとめられることとなる。 大津市と財団法人中小企業総合研究機構とで示された項目は以下のとおり。 1.大津市の現状について '1(ヒアリング調査・ワーキング結果を踏まえた地域産業の現状 '2(現行産業振興ビジョンの評価 2.大津市産業の将来像について '1(日本産業及び滋賀県産業の将来方向について '2(大津市産業のポテンシャル '3(大津市産業の将来像 3.将来像実現に向けての方向性 '1(将来像実現に向けての課題 '2(重点施策の方針(案) 日 程 : 平成 22 年 9 月 27 日'月( ・ 28 日'火( 場 所 : 【1 日目】大津サテライトプラザ 【2 日目】同志社大学 小樽商科大学ビジネス創造センター、福島大学地域創造支援センター、滋賀大学産業共同研究センター・地域連 携センターが、社会科学系国立大学に設置された地域共同センターとしての経緯、活動領域の類似性に鑑み、三大 学センターそれぞれの産学官連携事業に関する創意と工夫、成果等を学び合うことにより、社会貢献への一助とす るため、定期的に情報交換を行うことで合意'平成 17 年 5 月(し、この合意を受け、三大学センターによる定期情報 交換会が持ち回りにより開催されています。 今年度は、滋賀大学が会場となり、1 日目は大津サテライトプラザ、2 日目は同志社大学を訪問して行われました。 41 2011-July No.10 4.活動報告 第一日目は、佐和学長の歓迎の挨拶にはじまり、全大会において、議題 1 として、三大学における「産官学連携手 法」について、それぞれのセンター長等から発表・報告があり、意見交換が行われました。議題 2 は三大学定期情報 交換会の今後の運営について意見交換が行われ、定期情報交換会としての開催は今回をもって終了すること、今 後は三大学間の人材ネットワークを活かし連携事業の開催に向け取り組んでいくことが確認されました。 その後、地元との連携事例紹介として、彦根商工会議所 業務課長 安達昇氏より「彦根のまちづくり」と題して大 学を活かした地域づくり産学連携プロジェクトについてお話いただきました。 第二日目は、同志社大学リエゾンオフィスを訪問し、私立大学の産学官連携事例について説明いただき、意見交 換も弾み、今後の各大学の社会貢献事業への一助とする知見が得られました。 三大学定期情報交換会はこの回をもって終了しましたが、今後は連携事業に取り組むこととなり、今後一層の三 大学の発展を祈念して会を終了しました。 全体会の様子 佐和学長のご挨拶 彦根商工会議所 安達氏 ご講演 同志社大学にて意見交換 日 時 : 平成 22 年 10 月 5 日(火) 14:00~17:00 場 所 : 文化産業交流会館'米原市( 滋賀県産業支援プラザ、米原市、湖北各商工会議所共催で、滋賀県湖北地域の産業振興を目的とした開設イベン ト「ビジネスカフェあきんどひろば in 文化産業交流会館」が、中小企業の経営者を主体とした参加者を集めて開催さ れた。 42 2011-July No.10 4.活動報告 【内 容】 ①湖北の創業・第 2 創業・新規事業創出の拠点化構想について ②株式会社 京乃豆蔵 井上社長講演 ・創業経緯と苦労話、ICT 活用による成功事例 ・農業ビジネスの起業ヒント ・意見交換 ③交流会 ・参加者による事業構築に向けての意見交換 ・名刺交換 当初の構想としては、ビジネスカフェ開催に向けて 4 回/年のワーキン グを実施し、MOT の運営方法などを含む方針検討をおこない 9 月より 実行することとなった。しかし、諸般の事情により、最終的には文化振 興の拠点施設としての活用が固まり、産業振興の拠点化構想は別の 機会にゆだねられた。 日 程 : 平成 22 年 10 月 14 日'木(・15 日'金( 場 所 : 宇部全日空ホテル 山口で開催された第22回国立大学法人共同研究センター長等会議に出席し、滋賀大学の取り組みを紹介発表し た。「これからの産学連携手法」をテーマとして、講演発表校として6大学が選出され、滋賀大学が取り組む「文理融 合型産学官連携手法」の紹介発表を行った。 ○ 全体テーマ:「イノベーションの強力な推進」 ○ 分科会 A:「これからの共同研究センター等の役割と産学連携手法」 ○ 分科会 B:「法人化6年経過しての産学官連携の在り方」 で、基調講演、分科会での発表&討議が行われた。'次回当番校:静岡大学( 分科会での発表&討議内容の概要は以下の通り。 ◎ 分科会 A:「これからの共同研究センター等の役割と産学連携手法は。」 ①大学の中長期的な構想における地域性や大学の特性を考慮した産学 連携の位置づけが必要。 ②これまでのニーズ・シーズマッチングに限らず、出口を見据え、以下の 課題に対応するため、戦略的に研究開発プロジェクトを進めていく必要 がある。 43 2011-July No.10 4.活動報告 ・プロジェクトをプロデュースする人材の育成。 ・出口を見据え事業化までを明確にした研究体制の構築。 ・成果を社会に還元し、経済効果を生み出すマネージメント戦略。 ・外部資金を獲得し、大学を核とする知的創造サイクルの形成。 ・文理融合の促進、工学知見の医学分野への活用、知的財産の活用。 日 時 : 平成 22 年 10 月 26 日'火( 場 所 : 金沢大学イノベーション創成センター ○ 金沢大学イノベーション創成センターを訪問し、吉國信雄センター長からイノベーション創成センターの活動概要、 ならびに新設した将来開拓部門の活動について、ヒアリングを行った。イノベーション創成センターは、従来の共同 研究センター、知的財産本部、インキュベーション施設、VBLを統合したもので、学長直轄の産学官連携推進本部 の実施機関であり、とくに全学的なイノベーション創出戦略を担う部署として将来開拓部門を設けている。センター 長発案の「地域経営」という新コンセプトをベースにして、県全体をひとつの仮想企業体として、企業経営の視点を 県全体のパワーアップに持ち込んでいる。また地域活性への具体的な取り組みは、個々の事業ではなく、仕組みを 構築することに注力されている。個別事業への深入りによるダメージ回避も含むとのこと。個別の事業案件は、私 的ネットワークに近い「産学官若手連絡会」で検討され、企画運営される仕組みであり、必要に応じて民間企業から も参画。金融機関、産学官連携担当、石川県、金沢市からの若手メンバーで情報共有、意見調整できるので、スム ースな実践、運営につながる強みを持つ。いずれにしても活動はセンター長の強力な個性と私的ネットワークによ るものとの印象をもった。 日 時 : 平成 22 年 10 月 27 日'水( 場 所 : 北陸先端科学技術大学院大学 地域・イノベーション研究センター 北陸先端科学技術大学院大学 地域・イノベーション研究センターを訪問し、 緒方三郎 准教授から石川伝統工芸イノベータ養成事業の活動概要、ならびに 伝統工芸MOTについて、ヒアリングを行った。先端科学技術と伝統工芸技術を 融合し、ユーザーニーズに応じた新技術・新商品開発をリードし、業界全体を牽 引できる人材の育成を目標。最終の商品開発までに伝統工芸MOTコース、産地 MOT実践塾、商品開発実践プロジェクトの3段階の研修コースで構成。 H19-21年度の3年間で伝統工芸MOTにて計73名の修了者を出している。 石川伝統工芸イノベータ養成事業推進事務局長 緒方三郎 准教授'右( 伝統工芸MOTの内容は、滋賀大でも実施しているポジションマップ、SWOT分析のほか、職人さんに関しては、自分 が考えていることを言葉で表現する能力の強化が最重要との認識から、PC能力教育を付加している点が特徴と考 えられる。 44 2011-July No.10 4.活動報告 日 程 : 平成 23 年 3 月 23 日'水( ・ 24 日'木( 場 所 : 【23 日】七尾市産業部観光交流課、 【24 日】石川県観光交流局交流政策課 構想中の滞在型観光プロジェクトの参考とするため、滋賀県と同様に観光圏の指定を受けている能登半島観光 圏の七尾市、および観光広域連携に取り組む石川県庁を訪問しヒアリング調査をおこなった。 【要 旨】 観光圏事業は、民間のリーダーシップに行政のサポートが理想。地域を理解している複数リーダーが宿泊・移 動・体験それぞれを分担する仕組みが望ましい。リーダーは他地域で働いた経験を持つなどで地域おこし意識の 高い人を発掘する。自治体枠を超えた公共交通と観光交通の連携も必要。滞在型観光促進には、体験・学習だけ でなく夜の観光を楽しむ仕掛けも必要。 【報告内容】 1.七尾市産業部観光交流課 面談者:巻 昭裕 主幹、岡馬芳彦 課長補佐 ・「能登半島観光圏」は圏域が重なる地域観光協会'4 市 5 町(が母 体 となり事業を推進した。 ・会長は七尾市長。行政が推進役となり観光圏指定までは順調に 進捗した。 ・アピールポイントを自然、温泉、食、祭りとした。 ・和倉温泉入り客はピーク'平成 3:160 万人(の半分以下'70 万人( にまで減少。 ・能登半島地震後 80 万人に回復したがまた減少。 ・事業進捗は 20~30%と未達成。 ・理由 ① 行政主体であったためコーディネート役不足 →民間のリーダーシップに行政のサポートが理想 ② 2 次交通'圏域内移動(が不便 →自治体枠を超えた公共 交通と観光交通の連携が必要 ③ 南北問題:北'輪島・七尾(だけが熱く南は観光資源・予算ともに無い→圏域内調整困難。平成 23 年はプラッ トフォームづくりへ基本回帰 ④ 自治体は予算負担が困難 ⑤ ボランティアガイドの高齢化'平均年齢 70 歳( →若手の担い手育成 ・試み ・地域を解っているリーダー複数が分担'宿泊・移動・体験に秀でた人物×地域(するシステムの模索 ・農業体験'中学生への補助金(、塩田体験、合宿誘致、もてなし'バス・タクシー運転手のホスピタリティ向上( ・花嫁暖簾'一本杉通り(:エージェントの通年要求に対しブランド維持のため年 1 回の開催を堅守 45 2011-July No.10 4.活動報告 2.石川県観光交流局交流政策課 面談者:鈴木繁浩 観光企画グループリーダー、松田豊久 国際観光グループリーダー ①観光広域連携 ・外人観光客から見れば北陸地方は同じデスティネーション故、各県の連携した取り組みが必要 ・国内観光客も県境は意識しないのが普通。自治体の境を意識しているのは行政だけ ・海外へのアピール取組状況 ・台湾・韓国は旅行商品として実施中'2 便/週は 2 泊 3 日、3 泊 4 日となりターゲットとなりうる ・中国は日本への初旅行客が多く'80%(2~3 回段階で増加見込むが、現状修学旅行誘致で増加を狙う ・欧州メディア招聘、ロシア極東便アピール。メディア招聘に注力 ・5 県でパンフレット作成。旅行会社、メディアに配布 ・県スタッフが考案しエージェントがブラシュアップで商品化 ・海外 15 万人目標達成'平成 19 年度 19 万人(、21.7 万人'平成 21 年度( →50 万人目標'平成 27 年度( ②国内旅行誘致 ・能登博'平成 19 年:4 市 5 町(、加賀湯博'平成 20 年~毎年 27 年まで実施(、プラチナルート白山開設 ・「新ほっと石川観光プラン」の改定により関西・中京圏並み'エリア人口比 12%(を目指す →500 万人/年間 ・福井県/石川県の連携'平成 22 年協議会立上げ( →エージェントに競わす ・2 次交通手段確保:観光タクシー'加賀発粟原着(の実施'平成 23 年秋より( →バスの柔軟性に欠ける点を補完、両県のタクシー協会主体に動く'県は背中を押すだけ( ③滞在型観光 ・平成 27 年度新幹線開業に合わせた入込客増加策'日帰り客の防止も含む( ・夜の観光を楽しむ仕掛け →旅行会社のコンペ、商品化に補助金'リスクに対し 3 年間 50 万円/年(を出し自走化を図る ・コンベンション コンベンション助成'学会の誘致等( ・地域の元気リーダーの発掘 →地域おこし意識の高い人'他所での修業経験のある人材は問題意識が高い(を発掘 '例(「能登丼キャンペーン創案」の松波酒造の若女将 46 Annual Report of Joint Research Center, Shiga University 2011-July No.10 5.共同研究・地域貢献活動紹介 滋賀大学 経済学部 教授 宇佐美 英機 平成 22 年度の「たねや近江文庫」との共同研究は、「近江商人の総合的研究」というテーマで実施した。テーマそ のものは漠としたものであるが、ここで具体的に企図したことは、①史料館所蔵の伊藤長兵衛家文書の書簡等を分 析し、伊藤長兵衛商店における奉公人や経営についての実態を明らかにすること、②下日吉村文書、坪田家文書の 整理と目録作成を行うことである。①については、前年度から引き続いて実施している伊藤長兵衛商店・伊藤長兵衛 家の総合的な解明作業の一環であり、②は「たねや近江文庫」の所蔵になる文書を整理する目的であった。 このうち①については、これまで知られている伊藤長兵衛商店の出店の開設について検討を加え、博多店・京都店 の屋敷地の正確な位置と屋敷図の記された史料を見出すとともに、奉公人や経営に係る新知見を得ることができた。 同時に関連史料を新聞や他の史料所蔵機関に調査に出向くという、共同研究の拡がりを予感させた。また、大阪店 がこれまで知られている時期よりも前に開設する動きがあったことが判明した。このことは、意想外のことであり、伊 藤長兵衛商店だけでなく、初代伊藤忠兵衛との約束-長兵衛家は大阪に店を開設しないこと-を考えるうえで重要 な発見であった。これらの成果は、共同研究者である桂浩子氏によってまとめられ、附属史料館『研究紀要』第 44 号 に「伊藤長兵衛商店の出店について」として公表した。同氏による別稿「伊藤長兵衛商店の奉公人」(『同上』第 40 号、 2007 年)とともに同商店の実態が着実に解明されてきており、そのことは共同研究の成果として特筆すべきことであ ろう。 伊藤長兵衛商店の実態解明の共同研究は、次年度以降も引き続き継続することになり、次なる新しい事実の発見 と近江商人研究史に寄与することが期待されるものである。 しかし、年度計画に挙げた②については、作業の遂行は断念せざるを得なかった。これは、一つには共同研究者 の川島民親氏の多忙が影響している。対象とした文書は、同氏の計らいで近江文庫が購入したものであり、県内の 史料が他府県に流出することを防止するという点で「たねや近江文庫」の社会貢献の一環でもあった。それゆえ、史 料目録を作成し公開利用に供することは、意義あることであった。とはいえ、整理・目録作成には時間と手間が必要 であるが、社業に多忙を極めたこともあって川島氏との共同作業を遂行するこ とができなかったことは残念である。ある意味では、産学共同研究には起こりや すい問題だと思われる。 ともあれ、「たねや近江文庫」との共同研究は、夏季の一斉休業期間を除いて、 原則的に毎週水曜日の午後に実施されている。歴史史料の解読と分析を中心 に行うため、単年度ごとに論文を公表するということは時間的に困難であるが、 研究の継続は次々に新しい事実の発見をもたらしている。人文科学・社会科学 の分野における産学共同研究のあり方としては、長期にわたって持続できる研 究スタイルとして一つの事例を提供しているものと自負している。 このような、ある意味では悠長な研究遂行を諒とされていることに感謝申し上 げる次第である。 48 2011-July No.10 5.共同研究・地域貢献活動紹介 【 博多掛町 伊藤長兵衛 呉服太物洋反卸商 年未詳 個人蔵 】 【 博多行町 伊藤長兵衛 呉服太物洋反卸商 年未詳 個人蔵 】 49 2011-July No.10 5.共同研究・地域貢献活動紹介 滋賀大学教育学部 特別支援学校 教諭 木村 政秀 滋賀大学 教育学部 教授 黒田 吉孝 1. はじめに 文部科学省は「人々が,生涯のいつでも,自由に学習機会を選択して学習することができ,その成果が適切に評価 される」ような生涯学習社会の構築が必要だとしている。また,障がい者の生涯学習については,障害者基本計画 に「地域における学校卒業後の学習機会の充実のため,教育・療育機関は,関係機関と連携して生涯学習を支援す る機関としての役割を果たす。」と明記されている。これらをふまえ各機関の中で生涯学習のための取り組みがさか んに行われるようになってきたが,障がい者の生涯学習の参加,とりわけ知的障がい者の学習の機会は少ない。 近年,大学等の資源を活用して知的障がい者の学ぶ機会を提供する試みが全国各地で取り組まれるようになって きている。東京学芸大学の公開講座や大阪府立大学のオープンカレッジはそのさきがけともいえる。ともに,学校卒 業後の知的障がい者を対象とした学習の取り組みが成果をあげている。これらの先進事例を参考にしながら,成人 期の知的障がい者の生涯学習の在り方を考えたい。 2. 取り組みの実際 滋賀大学教育学部附属特別支援学校の卒業生で組織されている「青年学級ファンタジー」は,現在約 150 名の会 員数があり,年間を通じて月 1 回程度,ボーリングやバス旅行等の余暇活動を行っている。卒業生保護者の会「びわ の会」の支援で 20 年以上継続してきた。青年学級の活動を通して友だちに会えることを楽しみにしている会員が多 い。しかし,会員数が年々増え,また年齢層の幅も広くなり,会員のニーズが多様化している。本校の元学校長であ る藤本文朗滋賀大学名誉教授は青年学級の発展した形として,新たな学びの場として青年学級「大学講座」を提唱 した。藤本氏の提言に賛同した有志を中心に,通常の青年学級の活動に並行して「大学講座」を試行している。滋賀 大学教育学部附属特別支援学校内で行われる通常の青年学級の活動終了後に希望者を募って実施している。 2009 年より始め,現在まで 7 回の講座をもった。以下,概要を紹介する。 第 1 回 造形美術(現代美術) 講師:秋元 幸茂氏(滋賀大学教授) 受講生 10 名 絵の具をストローで吹き付けて模様を作り「スプレーイング」という技法を使い,楽しみながら学ぶ。「久しぶりに美術 の授業を受けたな」「楽しかった」「次はサッカーを行いたい」という受講者の声があり,第 2 回目は体育的な講座を持 つ。 (2009/07/12 実施) 第 2 回 「サッカー」 講師:片岡 儀平氏(本校元副校長) 受講生 12 名 無理のない程度にボールに慣れることから始まり,徐々に難易度をあげ,体が十分にほぐされたあと,2 グループ に分かれた好ゲームを行い,最後まで集中がとぎれずにサッカーを楽しめた。終了後の受講生の意見は「楽しかっ た」「また教えてほしいです」等の声が多くあった。また,「(講師の先生と一緒に)走ったことを覚えている」と自分が 特別支援学校で学んだことを思い出す受講生もいた。 (2010/02/12 実施) 第 3 回 「音楽」 講師:栗林 善子氏(本校元教員) 受講生 15 名 リズム運動,歌唱などの内容で約1時間の設定で行われた。40 代の受講生の中には特別支援学校時代に栗林氏 50 2011-July No.10 5.共同研究・地域貢献活動紹介 が直接指導した人も多く,久しぶりの再会を喜んでいた。楽器を会場に運んだり,受講生の招集を自らで行ったりす るなど,受講生自身で準備を進められた。打楽器を使って様々なリズムをみんなで合わせる活動,一つの曲を多様 な曲調で歌う活動を行い,最後は一人ひとりがスポットを浴びる場面もあり,盛り上がりをみせた。 (2010/07/11 実施) 第 4 回 「フットサル」「カラオケ」 講師:神戸 邦仁氏(草津市教育委員会)うたくさ(バンドグループ) 受講生 6 名 京都で活動する知的障がい者の学習グループである「われらの大学校」のメンバーと合同で実施する。受講生の希 望が多いフットサルのゲームとバンドの生演奏によるカラオケを行う。会場は滋賀大学平津キャンパスを利用した。 (2010/07/25 実施) 第 5 回 「憲法学習」 講師:橋本 佳博氏(元障がい児学校教員) 受講生 14 名 講師の橋本氏は,滋賀県湖南市の障がい者施設「もみじ寮・あざみ寮」で社会科教室をされている。憲法という抽 象的なテーマであるが,身近な例から憲法の考え方について学んだ。対話形式で受講生とやりとりをしながら,橋本 氏のユニークな語り口調で笑いが常に絶えなかった。1 時間 20 分の講義であったが,講義終了まで受講生の集中が 途切れることがなかった。 (2010/11/03 実施) 第 6 回 「音楽」 講師:栗林 善子氏(本校元教員) 受講生 14 名 受講生に人気のある音楽講座である。滋賀大学の障がい児教育を専攻している学生もピアノ伴奏等のアシスタント として参加した。具体物を使ってリズムを感じたり,ペアをつくって動きを共有したりする活動で,音楽をみんなで楽し めた。 (2011/02/20 実施) 第 7 回 「ベトちゃんドクちゃんの発達」 講師:藤本 文朗氏 受講生 8 名 戦争時に使用された枯葉剤により障がいを受けたベトさんドクさんの支援を続けている藤本氏の講話と関連する DVD を見る。ドクさんが元気にサッカーをする映像に驚嘆する声もあった。 (2011/03/13 実施) 3. 今後に向けて 2010 年度に行った第 3~7 回の大学講座では,大学講座の今後の在り方を考えるために,参加した受講者を対象 にしたアンケート調査を行っている。 表 1 <たのしかったですか?> はい ふつう いいえ 無回答 音 楽① 14 0 0 0 フットサル 4 2 0 0 憲法学習 11 3 0 0 音 楽② 11 0 2 1 ベトドク 4 2 0 1 (名) 表 2 <むずかしかったですか?> はい ふつう いいえ 無回答 音 楽① 5 4 5 0 フットサル 1 3 2 0 憲法学習 7 7 2 0 音 楽② 3 4 6 1 ベトドク 4 3 0 0 51 (名) 2011-July No.10 5.共同研究・地域貢献活動紹介 表 1 のようにほとんどの受講生が大学講座を楽しいと感じている一方で,表 2 のように難しいと感じる受講生も多く, 講座の進め方については今後の改善が必要である。しかし,「けんぽうの勉強がりかいするのにむずかしかったけ ど、私なりにわかったのでよかったです」の記述や受講生の講座を楽しみにしているとの声から難しいからやる気を 失うのではなく,歯ごたえのある学習に挑戦することに満足感を味わうことができていると推測される。なじみのある 青年学級の取り組みに加えて,高度で新鮮な内容を学ぶことは受講生の新たな力になりうるだろう。 今年度以降も青年学級「大学講座」を行う予定である。受講生及びその保護者に聞き取り調査では,加齢による健 康上の不安や地域とのつながりに不安を感じる声がある。そのような内容を今後の大学講座に盛り込み,講座内容 や学習の支援方法を充実したものにしていきたい。本学の先生方にも協力を仰ぎ、質量とも充実させていきたいと願 っている。ご協力お願いします。 2010/07/11 音楽 2010/11/03 憲法 2010/11/03 憲法 52 2011-July No.10 5.共同研究・地域貢献活動紹介 滋賀大学 教育学部 准教授 林 睦 1. はじめに 滋賀大学教育学部音楽教育講座では、平成 17 年度から音楽による地域貢献プロジェクトを 6 年間続けている。こ れらの活動は、平成 17、18、22 年度は教育学部学内プロジェクトとして、平成 19、20、21 年度は教育研究プロジェク トセンターの重点教育プロジェクトとして、講座の教員と学生が協力し合って行なっている。具体的な内容としては、 学内コンサートの地域開放、近隣の学校園への出前コンサートやワークショップ、地域へ出かけるための教員や学 生のための研修などである。 2. プロジェクト概要 平成 22 年度のプロジェクトメンバーは以下のとおりである。(平成 22 年度当時) 【「音楽による地域貢献プロジェクト」メンバー】 ・ 林 睦〈教育学部(音楽教育講座)准教授(研究代表者)〉 ・ 木川田 澄〈教育学部(音楽教育講座)教授〉 ・ 浅井 芳子〈教育学部(音楽教育講座)教授〉 ・ 犬伏 純子〈教育学部(音楽教育講座)教授〉 ・ 若林 千春〈教育学部(音楽教育講座)教授〉 ・ 辻 裕久 〈教育学部(音楽教育講座)教授〉 平成 22 年度に実施した事業は以下のとおりである。 1.ランチタイムコンサート(於:教育学部中講義室 12月3日~12月17日の毎週金曜日、計4回) 2.音づくり・音楽づくりの作品展(於:奏美ホール、若林千春教授、大学院作曲専攻学生による企画・制作) 3.保育園へのクリスマス・アウトリーチコンサート(於:保育の家しょうなん、大津市立大平保育園) 4.リコーダーのワークショップ(講師:藤田 隆(大阪音楽大学 教授)) 5.音楽づくりのワークショップ(講師:牧野 淳子(京都市立芸術大学 講師)) 3. 事業内容 それぞれの事業について概要を述べ、その成果をまとめる。 (1)ランチタイムコンサート 音楽教育講座の学生(主に院生)による学内コンサートである。昼休みに中講義室で行い、地域にも開放している。 地域の人々や教職員・学生に音楽を通して貢献することを目的に行っている。12月3日~12月16日の期間に計4回 実施した。4回のプログラムの内容は以下のとおりである。 53 2011-July No.10 5.共同研究・地域貢献活動紹介 第1回 12月3日(金) 1.J.S.バッハ《平均律クラヴィーア曲集第1巻》より第17番変イ長調 BWV.862 ピアノ 2.W.A.モーツァルト オペラ《フィガロの結婚》より「とうとう時が来た」 3.S.ドナウディ 「ああ、愛する人の」 G.ドニゼッティ オペラ《連隊の娘》より「さようなら」 4.F.P.トスティ 「最後の歌」 G.プッチーニ オペラ《ジャンニ・スキッキ》より「わたしのお父さん」 5.J.S.バッハ《フランス組曲》第6番ホ長調BWV.817より 「アルマンド」「クーラント」「サラバンド」「ジーグ」 E.H.グリーグ《ホルベアの時代から》より「プレリュード」 第2回 12月10日(金) 1.ブラームス《ピアノ小品集 Op.118》より「バラード」 2.シューマン作曲/リスト編曲 《献呈 Op.25-1》 3.シューマン《歌曲集 女の愛と生涯》より 「2.彼、すべての中で一番素晴らしい人」 「3.私にはわからない」 「4.お前、私の指の指輪よ」 4.木村 弓作曲/覚 和歌子作詞/白川雅樹編曲 「いつも何度でも」 村上 未来子(2回生) ソプラノ 上山 鈴子(4回生) ソプラノ ピアノ伴奏 井上 まどか(院1回生) 久間 あゆみ(院1回生) ソプラノ ピアノ伴奏 山本 晃代(院2回生) 田村 友理(3回生) ピアノ 綾井 さつき(院2回生) ピアノ 安田 祐希(3回生) ピアノ 高橋 典子(院2回生) メゾソプラノ 佐々木 希(院2回生) 指揮 中島 憲子(4回生) ピアノ 安田 祐希(3回生) 合唱 音楽教育講座学生 北海道民謡/清水脩作曲 「ソウラン節」 指揮 合唱 東馬場 麻衣(3回生) 音楽教育講座学生 第3回 12月16日(木) 2台ピアノによるデュオコンサート① 1.W.A.モーツァルト 《2台ピアノのためのソナタ K.448》より 第1楽章 Allegro con spirito 2.A.アレンスキー 《組曲第1番 ヘ長調 Op.15》より 第2曲 ワルツ 3.F.プーランク 《仮面舞踏会の終曲によるカプリッチョ》 ピアノⅠ 久間 あゆみ(院1回生) ピアノⅡ 百合野 温子(院1回生) 第4回 12月17日(金) 2台ピアノによるデュオコンサート② ※第3回と同じプログラムで学内向けに開催した。(第3回は主に地域の方対象) 上記4回の参加者数は、第1回58人、第2回65人、第3回24人、第4回40人 であった。今回のランチタイムコンサートでの新たな試みは、学部の「合唱」 の授業の成果発表として、プログラムに合唱を取り入れたこと、大学院生に ピアノ・デュオコンクールに出場した学生がいたことから、ピアノデュオの回 を設けたことである。合唱もピアノデュオも好評であった。地域の方々も毎回 来られ、毎年訪れる人も増えてきた。学生の日頃の勉強の成果の発表の場 として、またアンケート等を通して地域の方々から演奏等に対して感想や励 ましの言葉を頂くことによって、教員や学生にとっての励みにもなっている。 54 2011-July No.10 5.共同研究・地域貢献活動紹介 (2)音づくり・音楽づくりの作品展 昨年度に引き続き、若林千春教授と大学院作曲専攻の学生たちの企画で、「音づくり・音楽づくりの作品展 えらー ず2」が11月7日14:00から大津市の奏美ホールで催された。若林教授と作曲の学生たちの作品発表が主な内容であ る。プログラムを以下に記す。 表現集団“えらーず”第2回演奏会 音づくり・音楽づくりの作品展2 プログラム 1.山田 慎典 作曲 「wandering」~ピアノのための~【初演】 ピアノ 足立 真央 2.三木 祐子 作曲 「colors」~木管五重奏のために~【初演】 Ⅰ.Emerald Ⅱ.Topaz Ⅲ.Opal Ⅳ.Ruby 3.辻 崇宏 作曲 「位相 Ⅰ」~1台のスネアドラムのための~【初演】 打楽器 辻 崇宏 4.三木 祐子 作曲 「Aqurius」~右手のためのピアノ作品集より~【初演】 ピアノ 三木 祐子 5.山田 慎典 作曲 「ペルソナ」~フルートとチェロのための~【初演】 6.A.ウェーベルン作曲「ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 op.7」 ヴァイオリン 越後 真理 ピアノ 若林 千春 7.山田 慎典 作曲 「空想~cinemaXXX」~ピアノのために~【初演】 ピアノ 足立 真央 8.三木 祐子 作曲 「Orion』~ピアノのために~【初演】 ピアノ 三木 祐子 9.辻 崇宏 作曲 「象と鯨」~紙筒とトロンボーンのために~【初演】 紙筒 《即興演奏》 パフォーマンス 辻 崇宏 三木 祐子 辻 崇宏 山田 慎典 当日、奏美ホールは音楽教育講座の教員、学生、学生の父兄のほか、現代音楽関係の音楽家らでほぼ満席であ った。このような現代音楽を扱う催しを行うことは、学生や地域の音楽関係者にとっても刺激になると考えられる。 (3)保育園へのクリスマス・アウトリーチコンサート 学部の授業である「合奏Ⅱ」(担当:林 睦)の学生たちと保育園へのアウトリーチコンサートを実施した。クリスマス が近かったので、子どもが音楽的活動で参加できるようなクリスマスコンサートを学生たちと考えて、2つの保育園を 訪問した。このようなアウトリーチコンサートはこれまでも実施したことがあるが、それは必修の授業の中で教員主導 であった。今回はこの選択授業に参加することも、保育園にアウトリーチに行くことも、すべて学生たちの意志で決め たことが大きかった。一人の学生が自主的に台本を書いて他の学生に配り、その台本に従って大道具や小道具を作 り、音楽をつけていくところまでほとんど学生たちの手でやり遂げた。教員は出来上がったコンサートをどのようにし たら子どもに受入れられるか、また音楽的、教育的観点から方向性を示すほかは、学生たちのプログラム制作のサ ポートに徹した。 コンサートは2つの保育園で1回ずつ行なわれた。12月14日に保育の家しょうなん(4歳児21名、5歳児25名)を、12 月21日には大津市立大平保育園(4歳児28名、5歳児33名)を訪問した。公演は「サンタが待にやってきて・・・」という 音楽劇である。サンタが街にやってくるが、プレゼントをなくしてしまい、雪だるまやトナカイらにプレゼントのありかを 尋ね、最後に魔女のところにプレゼントを返してもらいに行くという話である。魔女にプレゼントを返してもらう際に、 魔女と園児らが簡単な音楽をつかったゲームで対決をし、子どもたちが上手にできたら魔女がプレゼントを返してく れるという設定であった。子どもたちは話に入り込み、2つの園の園児とも大喜びであった。音楽劇はミュージカル仕 立てで、学生が場にあった音楽を奏で、全員でクリスマスソングを合唱したり、ハンドベルで合奏したりと音楽的にも 55 2011-July No.10 5.共同研究・地域貢献活動紹介 充実した内容であったと思う。学生たちも園児の反応に合わせて対応することができ、2つの公演を終えて達成感を 得ていたようだった。これまで何回か保育園のアウトリーチに出かけたが、これまでの中で最も完成度の高いプログ ラムができたと考えている。 (4)リコーダーのワークショップ 12月21日にリコーダー奏者の藤田隆氏(大阪音楽大学 教授)を招いて、リコーダーのワークショップを行った。30名 程度の学生が参加した。ワークショップの内容は、教育学部の学生向けに、リコーダーの奏法や指導法などであった。 学生たちは各自がソプラノリコーダーを手に取りながら、具体的な指導を受けた。普段、リコーダーを何となく吹いて はいるが、専門的な知識やよりよい演奏の仕方を学んだことは、将来学生たちが教員になった際に役立つと信じて いる。 (5)音楽づくりのワークショップ 1月17日に日本における音楽づくりの先駆的指導者である牧野淳子氏(京都市立芸術大学 講師)を招いて、音楽 づくりのワークショップを行なった。20名程度の学生が参加した。新指導要領における音楽づくりの意義についての 講義や音楽づくりが身近に感じられる音楽ゲームの実践など、充実した時間であった。学生たちも楽しそうに参加し ていた。音楽づくりは新指導要領において益々重点が置かれている領域であり、専門の講師によって楽しく音楽づく りの基礎を学べたことは、学生たちにとって有意義であったと考える。 4. プロジェクトの成果と今後にむけて 音楽による地域貢献プロジェクトも6年目を終え、ランチタイムコンサートや保育園へのアウトリーチコンサートは地 域にもある程度認識されるようになり、滋賀大学の音楽による地域貢献や学生たちへの普段の勉強の成果などへ の理解が進んでいると感じる。コンサートや催し物を実施することは時間と手間のかかることであり、教員にとって決 して楽なことではないが、地域貢献の意義、学生や教員への刺激という点から考えて、今後も続けていきたいと思っ ている。今年度は現代音楽の第2回目のコンサートも開催することができ、ランチタイムコンサートにおいても合唱や ピアノデュオを取り入れて好評を得るなど、新たな試みに乗り出すことができた。また、アウトリーチコンサートも、こ れまでにないほど完成度の高いプグラムを制作することができた。これまで6年間、試行錯誤を重ねてきたが、尐し ずつ改善しながらプロジェクトを遂行することができてきている。このようなプロジェクトは続けることに意義があると 考えているので、来年度も講座全体で取り組んでいきたいと思う。今後は、これまで学生向けにだけ行なってきたワ ークショップを県内の教員にも開放していき、教育現場に必要でかつ専門家の指導が必要な分野について知識と技 術の提供をしていきたい。 56 2011-July No.10 5.共同研究・地域貢献活動紹介 滋賀大学 産業共同研究センター 客員研究員 近畿大学 経営学部 簿記論A及ぶ簿記論B 非常勤講師 木村勝則税理士ITコーディネータ事務所 木村 勝則 黒板に描かれた貸借対照表(B/S)の構造は美しい、どのように資金が集められたかという右、資金の調達源泉と、 どうような形で資産が形成され、使われているかという左、資金の運用形態について図を使い、わかりやすく学生達 に企業の経営診断について東北の震災直後、2011 年 4 月に説明をしていた。大学正規の授業(簿記論)通年週 4 時間を熱心に聴く学生諸君、簿記の目的である企業の一定時点の財政状態を示す貸借対照表の素晴らしさを熱く 語りかけている私、自身がそこにいた。 2001 年から、滋賀大学産業共同研究センターの、相談員、客員研究員として私が、今まで何をし続けてきたかと自 分自身に問いかけてみた。税理士 IT コーディネータ事務所の経営を私自身も十数年間経験をした今の私には沢山 の実務経験やノウハウがあった。滋賀県で多くの事業を起こしたい、起業をしたいという方の相談や支援を行なって きた。それを世界ではじめて滋賀大学が作ったインターネット上の専門家による掲示板で相談業務を数年間続けて きた。しかし、それと同時に多くの起業家の廃業の相談もうけてきた。何があれば、起業した多くの企業家の皆さん が、近江商人のように何百年も商売が続けられるのかを考え、問い続けてきた日々だった。私は一人、もがき苦しみ 悩みながら十数年、考えつづけてきた。尐しずつだが、気づきはじめた。 企業活動を続けていると、人、物、金のような経営資源の問題や、売る商品、製品の選択など、沢山の意思決定を 日々、経営者はしている。企業の内部環境だけでなく、滋賀県という真ん中に、大きな琵琶湖がある地域の地形も企 業の経済活動に大きな影響を与えている。私が経済活動を行なう、滋賀県高島市にとっては、ときおり、この琵琶湖 の位置が、最大の弱点のように感じるときがある。しかし、この弱点もチャンスにして、環境ビジネスや、自然活動を 利用した社会企業家にもたくさん出会った。このような外部環境も企業活動に大きな影響を与えている。とくに競合 相手、ライバルとの関係が中小零細企業には、私は特に重要であると感じている。明日のあるべき姿を探る企業戦 略も重要である。企業戦略のなかに財務戦略がある。この財務戦略、現代の中小零細の個人商店の企業であれば、 パソコンを駆使することが現代社会では大切だと考える人が多い。今はパソコン簿記をしている企業が一般化してい ると思われがちだ。しかし、私は 2001 年から、滋賀大学産業共同研究センターの、相談員、客員研究員としてきた当 時、ほとんどパソコン簿記は個人商店では皆無であった。滋賀大学産業共同研究センターの、相談員、客員研究員 の立場から大学、専門学校で授業としてコンピュータ会計を指導し、納税協会、商工会、商工会議所、地域の文化セ ンターなどで講座の講師を担当し、パソコン簿記を教え続けてきた。滋賀県でのパソコン簿記の普及に努めたこの 10 年間。パソコンで簿記をすれば、企業活動はよりよくなると私自身も信じていた。しかし、企業活動に役立つ、本当 の簿記を知っていないといくら、パソコンを駆使して便利なコンピュータ会計をしても限界があることに気づきはじめた。 パソコンを使えば人的資源や時間を節約できる。しかし、手で書いているときと比較して考えなくなり、計算もしない。 初歩的な誤りも多発するようになった。最初は、パソコンで記帳すれば、簿記の深い知識がなくとも万能のように感じ た。しかし、実際は、零細中小企業では、コンピュータ会計で記帳しても簿記を本当に知らなければ、間違いが多く、 正規の簿記の原則による企業の記帳指導を個人商店に何回しても、まともな貸借対照表はできなかった。さらに誤 った会計情報は意思決定などで勘違いをし、致命傷になる同じ失敗を繰り返していた。その結末が、簿記をしらない ことによる廃業である。どうすれば、財務戦略で失敗を尐なくし、己に勝ち続け、近江商人のように持続継続できるこ 57 2011-July No.10 5.共同研究・地域貢献活動紹介 とができるのだろうか。 私は、簿記とは「勝則」であると説明する。企業活動で勝ための法則である。当初、簿記は実際の企業活動を貨幣 量という尺度で計算、記録、整理するための技法であった。これが簿記の本来の学問の始まりであった。企業の帳 簿記入である簿記は、帳簿に記入するために借方と貸方に勘定科目と金額を振り分ける作業、仕訳をあみだした。 これが複式簿記である。このメモ書きの作業、仕訳をイタリアのベニス、ヴェネツィアの商人が、信用取引の備忘記 録のために 500 年も前に開発した規則性のある複式簿記によって、現代の簿記、会計が今なお、成り立っている。複 式簿記は帳簿組織に記入する上での検証機能も備えたイタリアのベニス、ヴェネツィアの商人の英知の結晶であっ た。複式簿記は世界一の発明である。実はわが国、日本にもルールのある複式簿記が何百年も前に存在していた。 大福帳に代表される帳簿組織が近江商人によって開発され、今なお滋賀大学産業共同研究センターの横の附属史 料館で現存し、展示されている。私は、本当の簿記が、一般化し私たちが小学校のときの算数のように常識化するこ とが、大切だと考えている。もし、実際に役立つ実務簿記教育が浸透したら、滋賀県で廃業した多くの起業家の失敗 が明日にいかせられるのではないかと考え始めた。まず、私が体験した企業の財務戦略の失敗例をわかり易く簿記 小説として書きはじめた。これをメールマガジンという手法でインターネット配信を始めた。さらに光ケーブルという情 報技術の発展とともに普及し始めた動画サイト、ユーチューブで簿記三級講座として紙芝居を使ってわかり易く簿記 講座を伝え始めた。ここで気づいたことは、紙の有用性である。アナログの紙、デジタルのコンピュータ。私が税理士 IT コーディネータ事務所を創業したときの考えに、紙というアナログの否定であり、コンピュータというデジタルがすべ てだった。そしてこれらの無料のデジタルコンテンツを、次から次へと試行錯誤でインターネットというコストがかから ない世界でデジタルコンテンツ配信を続けた。今、私はこれらの無料で使えるインターネット上のクラウド資源を大学 で教える簿記論の授業と有機的に結び始めようとしている。企業の帳簿記入は 500 年以上のもの間、中国で何千年 も前に開発された紙に借方と貸方のある複式簿記で記録、計算、整理されてきた。羅針盤、火薬の発明とならぶ活 版印刷の技術革新。これを創造したグーテンベルクによって聖書ととともにルカパチョーリの簿記書「算術・幾何・比 および比例総覧」は世界を駆け巡った。これと同じように私は紙のアナログからコンピュータを駆使したデジタルにイ ノベーションが起こると信じて 10 年間行動した。実際に役立つ木村勝則の簿記講座をインターネットという現代の活 版印刷機で世界中に配信し続ければ、きっとなにか起こると信じていた。そうすると不思議なことに私に追随し、同じ ようにインターネットで簿記の動画やコンテンツが沢山でてきた。出版業界においても中小零細企業、特に個人商店 を対象にした本当に役立つ簿記が、沢山出版されるようになってきている。私は簿記教育の普及の現状をうれしく思 い、簿記教育のイノベーションが起こったと信じている。私は、チャレンジし続ける起業家であり続けられたことに環 境を提供していただいた滋賀大学産業共同研究センターに感 謝している。私は大学の大講義室の教壇で必死になって夢を 語り、諦めないことの重要性を述べていた。もがき苦しみながら も、人生を楽しく生きることのすばらしさを起業家やこれから大 震災の復興という逆境の日本を背負う大学で経営学を学ぶ学 生達に説い続けていきたい。私の黒板に書いた美しい貸借対 照表が学生達の心に突き刺さり、簿記に真摯に向き合い、勉学 に励む学生諸君に未来の希望を感じ、日本は、わが国の資産 である若い力で明日に向かって復興できると確信し、本当に嬉 しかった。 58 Annual Report of Joint Research Center, Shiga University 6.論 2011-July No.10 文 滋賀大学 産業共同研究センター 客員教授 宇佐美 照夫 1. はじめに 外部に対しては有限責任、内部に対しては組合的規律のもとに共同事業をおこなう組織として LLP(Limited Liability Partnership)という新しい事業組合体制、すなわち日本版 LLP(有限責任事業組合)が 2005 年にスタートした。同時 に会社法に基づく LLC(Limited Liability Company)も始まった。これらが日本でどのように活用・展開されようとしてい るのかは興味深いところである。ここでは LLP に注目し LLP 先進諸国の事例を調査し、日本でのこれからの LLP 活 用の可能性について考察する。 日本は戦後の高度成長により経済発展を大企業を中心に遂げてきたが、1990 年代になってバルブが崩壊し、企業 の大型倒産、経済不況、長期のデフレ等を経験し 21 世紀に突入した。この間、ICT(Information and Communication Technology)の進展により情報社会が誕生し、私たちの生活から経済活動まで ICT は大きな影響を与え各分野でイ ノベーションを起こしつつある。ICT 企業の成功をみればビジネスモデル、経験、ノウハウ、ブランドといった無形の財 産が大きく寄与している。無形財産には特許権、商標権、意匠権、著作権などの知的財産権も含まれるがこれらを 生み出すのは「人」であり 21 世紀の情報社会では人的資産が重要な時代となっている。このような社会・経済状況 のもと物的資産が重要視されていたこれまでの時代から、21 世紀では無形資産が経済の中心となる時代となり、とく に人的資産が経済を動かす時代になっている。人的資産を活用するには組織的な規制がなく自由に組織を設計で きる事業体制が必要である。しかしながら従来は人的資源を活用するために利用できた組織は合名会社や合資会 社等であったが、これらは責任が無限であるという点もありあまり利用されていなかった。このような状況で人的資産 を活用する新しい組織として LLP はもっとも適した組織の一つであると注目され期待されている。 グローバルな視点からも 21 世紀になりイノベーションによる新事業の創出の重要性が叫ばれているが事業が順調 な企業はリスクの高い新事業には手を出せず破壊的イノベーションを自前主義では実現できないジレンマがある。ま た 20 世紀までの大量生産時代がおわろうとして顧客のニーズが多様化、複雑化して市場攻略も1社単独ではニー ズに対応が困難となり共同事業の必要性が高まっている。LLP は「人を動かす力」となりうる有限責任での組合事業 組織である。人を動かす力には金銭的なインセンティブもあるが、共同事業として世界中からの優秀な人とともに働 ける喜びや、自己実現欲求の充実感など様々な要素がある。LLP の組織運営の柔軟性を生かす共同組合事業で構 成員の欲求を実現可能とできるであろう。新しい組織日本版 LLP について検証していくことにする。 2. LLPとは LLP とは個人や企業がいままでよりも簡便に会社をおこせる「新しい会社制度」である。日本版 LLP はアメリカ合衆 国や英国などの欧米諸国でおおいに活用されている制度を日本に適合する形として 2005 年 5 月に公布、2005 年 8 月に施行された「有限責任事業組合契約に関する法律(いわゆる有限責任事業組合法)」において制定された制度 である。LLP が制度化された当時の日本の会社制度は「株式会社」「有限会社」「合名会社」「合資会社」から成り立 っており、その比率は有限会社約 60%、株式会社が約 37%、その他 3%であった。そもそも有限会社は中小企業向 け、株式会社は大企業向けに設計された制度であったが実際は日本企業のほとんどを占める中小企業においても 株式会社として会社を設立するケースが多い。これは株式会社の方が資金を調達しやすく、世間に対する信用力が 高いからであろう。ところが人的資産を十分活かしていきたいとか、複数の組織や個人が共同で物事を進捗させた いといったケースを想定すると株式会社制度にはいくつかの課題が浮かび上がってくる。 60 6.論 2011-July No.10 文 第一に、株式会社は会社法に基づき「株主」から経営についての委任を受けた「経営のプロ」である「取締役」が株 主の利益をまもるべく会社を運営している。この株主の利益を守るという観点から取締役が勝手な経営をしないよう に会社の組織つくりやその運営、業務執行、財産管理等に関して法律で多くのルールが取り決められている。その ため株式会社は運営に手間のかかる組織体となっているのが現状である。近年、活動が活発になっているベンチャ ー企業にとって株式会社の多くのルールは手間がかかり「起業の壁」になっている場合がある。第二に、株主平等の 原則に起因する一株一票の限界がある。株式会社には会社の経営に熟知し意思決定能力を持っている人が必ずし も意思決定権限のある人ではなく、資金力のある株主が経営上の重要な意思決定をにぎってしまっているケースが 起こり、役員や従業員からみれば機動的な意思決定が妨げられるケースも考えられる。第三には、多くの起業家の あいだに「会社はだれのものだろう?」と考えさせられる機会が増えてきている。物的資本のみに基づいて利益分配 がおこなわれる株式会社では、汗をかいた役員や従業員でなく、お金を出した株主にのみ利益が分配されるという 点である。「広く社会から資本を集めその資金を元手に経済活動をおこなう」という株式会社の大原則から、会社は 株主のものであって役員、従業員のものではない。オーナー会社などの例外を除けば、所有と経営の分離した株式 会社では汗をかく役員や従業員に利益の分配を受ける権利はない。すなわち株式会社においては所有と経営の分 離によって人的資本を拠出しようとする人へのインセンティブが阻害されているとも考えられる。 LLP は人的資本を拠出しようとする人が組合員となり人的資本の拠出に対してインセンティブを与えるために利益 配分や支配権に関して物的資本と人的資本の調整を可能にした組織形態である。すなわち「頑張った結果として儲 けがでれば頑張った人たちで分配する」ことを実現させる事業組合体制が LLP である。このような観点から人的資本 が勝負を決める時代である 21 世紀にマッチした「人のやる気」を引き出す新しい仕組みとして新しい会社制度が検 討され、日本版 LLP が法的に創設されることとなった。日本版 LLP は日本語名を「有限責任事業組合」と定義され 2005 年 8 月 1 日から活用が開始された。 【 図 2-1 LLP の位置づけ 】 内部自治 合名会社 合資会社 有限責任 民法組合 LLP 株式会社 有限会社 構成員課税 【 表 2-1 組織の特徴 】 法律 組織体 LLP法 LLP × ○ ○ ○ ○ × 要 2名以上 株式会社 ○ ○ × × × ○ 要 1名以上 合名会社 ○ × ○ × × ○ 要 1名以上 合資会社 ○ × ○ × × ○ 要 2名以上 民法組合 × × ○ ○ ○ × 不要 2名以上 ○ ○ × × × ○ 要 1名以上 会社法 民法 有限会社 有限会社法 (2006年5月1日 法人格 有限責任性 内部自治 構成員課税制 損失の分配 他制度への変更 設立登記 以降設立不可) 61 構成員 6.論 2011-July No.10 文 LLP の特徴としては、「有限責任」、「内部自治の柔軟性」、「構成員課税」、「共同事業性」があげられる。これらの 特徴は、株式会社の有限責任と民法組合の内部自治の柔軟性、構成員課税を取り込み、逆に株式会社の硬直的 な組織運営、法人課税と民法組合の無限責任を排除した良いとこ取りの組織体制である(図 2-1、表 2-1)。日本に はこのような LLP にあたる制度はこれまでになかった。まず LLP の第一の特徴である「有限責任性」により組合員は 出資の価額までしか組合の債務を弁済する責任を負わないので、組合員にかかる事実上のリスクが低減され共同 事業に取り組みやすくなっている。第二の特徴の「内部自治の柔軟性」に関しては総組合員の同意を経て自由に業 務分担や権限について決めることができ、株式会社のように硬直的な株主総会、取締役会、取締役、監査役などの 機関を設置する義務はない。損益配分も貢献に応じて自由に設定することが認められている。合理的な理由があれ ば、出資比率 10%しかない組合員に対して 50%の利益分配が可能である。資金力のある株主が経営上の意思決 定や配当を得る株式会社とは異なり、LLP は資金力のない知的人材に十分なインセンティブを与えることができる組 織である。第三の「構成員課税」は、LLP で生じた損益に対しては LLP 自体では課税されず、損益の分配を受けた LLP 組合員のみが課税される「パススルー課税」とよばれる課税方式が適用される。言い換えると株式会社のように 法人課税されたのち出資者の株主配当金にも課税されるという二重課税は発生しない仕組みである。また損失が発 生した場合には各組合員の出資額を上限として分配でき、各組合員がそれぞれ他の事業で挙げた利益と損益通算 することで課税対象額を圧縮でき、結果として税額を小さくすることができるので LLP の「損失の分配制度」は組合員 にはメリットとして考えられる。第四の特徴である「共同事業性」に関しては、すべての組合員が LLP の業務執行を行 う権利義務を有し、業務執行のすべてを委任することは認められず、業務執行の意思決定として総組合員の合意事 項とすることで慎重かつ健全な運営を求められている。そのため、LLP では単に投資だけを行う組合員は認められ ていない。これらのことは有限責任というメリットを与えられた LLP が外部債権者に対して責任ある経営を行うことに より安心感を与える組織運営が必要であることを考慮された結果であろう。 3. LLP先進各国の事例と日本版LLPの活用と展開 有限責任で自由度があり柔軟性の高い組織、パススルー課税での共同事業を特徴とする形態の LLP は、欧米の 先進他国で整備され活用が始まっている。 アメリカ合衆国での LLP は 1990 年代から各州で制度化されている。ただ LLP はまだ 10 万くらいである。日本と違 いアメリカ合衆国では LLC に 1997 年には法人に課税するか構成員に課税するかについて選択することができる制 度(チェック・ザ・ボックス規制)が導入され、LLC は構成員課税が認められるようになり約 22 万から約 95 万件まで急 増し発展の契機となった。日本版では LLC は法人税課税であり、構成員課税は LLP に認められているで、アメリカ 合衆国での活用事例としては、日本版 LLP と同様の課税制度を選択できる USA 版 LLC の事例を紹介する。まず、 業種別割合では金融・保険業が全体の半分以上で、次いで不動産業が全体の約 4 分の1で残りの 4 分の1がその 他の業種である。つぎに代表的な成功事例としては、「動画圧縮技術標準」のひとつである MPEG-2(Motion Picture Entertainment Group-2)の必須特許を束ねライセンスを一元的に管理する目的で 1996 年に設立された MPEG LA が ある。MPEG-2 には多くの特許がありそれらを複数の企業や大学が保有していたためライセンス交渉が困難であっ たが、特許を保有するコロンビア大学と日米欧の 9 つの民間会社が協力し MPEG LA を設立し、その結果多くの特許 をまとめて効率的な交渉ができるようになりライセンス交渉などの時間と費用が軽減し MPEG-2 普及が加速するとい うメリットが実現できた。利益の配分は、参加した大学と企業が保有している特許の数に応じてライセンス収入が分 配するとの仕組みを内部自治により構築し、多くのロイヤリティ収入が参加大学・企業に配分された。 ヨーロッパでは、英国で LLP は 2001 年に導入され、監査法人や法律事務所、経営コンサルタントなどの専門職に利 用されている。またフリーランス的な職業にも利用され始めているようである。またドイツ、フランスでも導入が始まり 62 6.論 2011-July No.10 文 つつある。アジアでは日本のほかにはシンガポールで日本とほぼ時期に英国での LLP 制度導入に影響を受け始ま っている。 次にこれらの LLP 先進国の事例を参考に日本版 LLP のこれからの展開はどのようになっていくのであろうかを考え る。まず、大学と産業界と公的機関のとのいわゆる産学官連携事業においてはどうであろうか?この分野での LLP の活用は大いに可能性のあるものと考えられている。これまでの大学と企業、行政との共同研究は、研究契約をベ ースにして権利帰属やライセンスのなどに関して関係者間で調整をおこなう必要があったり、研究費の負担金額に 応じて一定割合を大学にオーバーヘッドとして間接経費を徴収されたりで不公平感があり、また研究機関中に発明 が発案された場合のその扱いに関して実務上の問題などが発生することが多かった。これらの点は LLP の組合員と して共同研究をおこなえば、間接費は研究費の負担割合と関係なく平等に負担することも可能であり、大学教員が 個人で組合員参加すれば必要でないことになってくるであろうことが期待できる。また権利帰属やライセンスなどに 関しても LLP の柔軟な運営で対応することが可能である。企業にとっても大学の契約書の雛型に拘束されず自由な 研究体制が構築でき、大学教員にとってはより多くの研究費を企業から引き出せる可能性が大きくなるであろうとい うメリットが考えられる。 大学と企業の LLP 利用の「産学官連携共同研究 LLP」の具体的な例を考察する。第一の例として大学の A 教授の 研究成果をベースとして B ベンチャー社が新事業を創出しようと LLP を設立した場合を考える(図 3-1)。これまで大 学教員が研究成果を活用しようとした場合は、企業では顧問料を払うか、資本参加してもらうか、あるいは新株予約 権を付与するインセンティブを与えることが一般的である。ただこれらの手段では研究者は資本参加に資金力が必 要であり、研究が成功し新事業が創出され利益がでてもそれらの利益は持ち株数に比例しほとんどが研究者以外 の大株主に分配されてしまうという問題点がある。ところが、LLP の場合は、内部自治の柔軟性が認められているの で、たとえば、出資額は A 教授は 1%、B ベンチャー社が 99%としても、利益の分配は出資額とは連動せず A 教授 10%、 B ベンチャー社 90%、研究費は B ベンチャー社負担、知的財産権は共有、議決権は対等というような内規にして A 教 授の意向を反映できる体制にすれば、A 教授の知見や技術に関して十分なインセンティブが与えられることが可能 である。第二の例としては A 大学、B メーカー社、C ベンチャー社が共同研究のために各組織が LLP を立ち上げる場 合である(図 3-2)。A 大学からは研究員を派遣し、B 社 C 社は研究員を派遣するほか B 社は研究費の 40%、C 社 は 60%を負担し、大学内規に基づく間接経費を折半で負担する。知的財産権はや帰属ライセンスは LLP 内の審議機 関でそのつど協議決定する。出資比率は 1:1:1 とする。議決権は対等とする。損益分配は研究費負担額との関係で A 大学 0%、B 社 40%、C 社 60%とするようなケースも今後の展開として考えられる。 【 図 3-1 LLP を利用した新しい大学発ベンチャー 国立大学法人 】 ベンチャー 99%出資 A 教授 1%出資 10%分配 90%分配 LLP 63 6.論 2011-July No.10 文 【 図 3-2 産と学との共同研究の受け皿 】 また LLP の活用法としては、大学・企 メーカー・ベンチャーで大学の間接経費を負担 業等の既存組織にとらわれることなく 大学 ベンチャー メーカー 各個人の活動としての活用が期待で きる展開分野が考えられる。専門知識 を持った各個人が集まり「コンサルタ 研究費60% 研究費40% ント業 LLP」や、「地域活性化 LLP」や 出資 出資 「企業、住民の啓蒙活動を行う LLP」 出資 等への展開である。たとえば、地域の LLP 産学官の知識人が集まりその地域の 中小企業幹部のための「MOT 啓蒙等 の経営コンサルタント活動」をおこなう、また「地域産業の新しいブランド創出」などの地域活性化活動、さらには「地 域特有のグリーン環境活動の創出」、お祭りなどのイベントを企画して観光客を集める「お祭り LLP」などが考えられ る。また農業における地域再生を目的として、農家が使ってない農地を借りて複数の個人あるいは農家が組合員と なり設立する「集落農家 LLP」も考えられる(図 3-3)。集落農家 LLP は共同で機械を購入し利用したりする共同利用 方式、各組合員が主たる作業と従たる作業を分担して一つの作業を受託する方式、各農家がそれぞれ得意の分野 を生かして共同経営を行う方式があろう。企業を定年退職した人やスピンオフした個人が元同僚と退職後の自由に なった時間で好きな仕事を続けながら匠の技術の伝承をしながら後輩を育成するというような社会貢献をおこなって いく「匠伝承 LLP」の設立も可能性がある。これらのように多くの分野にも LLP 活用と展開の種はころがっていると期 待できる。 【 図 3-3 集落農家への LLP 適用例 加工担当 Aさん 】 主たる作業担当 Bさん 集落農家 LLP その他の作業担当 経理担当 Cさん Dさん ただ、日本版 LLP を考えるときまだ検討すべき課題はあるようである。たとえば大学教員の LLP への参加は教員の 学外活動であり、その活動に対する兼業許可などは各大学の内規での対応となろう。しかしこれからの時代では大 学が共同研究や技術移転に関しては組織として LLP の参加・活用に関し柔軟な対応が社会の流れとなることを期待 する。また LLP 先進国では認められている専門人材 LLP の活用に関して、日本版 LLP では「有限責任事業組合契 約に関する法令施行令」の第 1 条に、公認会計士法、弁護士法、司法書士法、土地家屋調査士法、行政書士法、海 事代理人法、税理士法、社会保険労務士法、弁理士法に規定する業務については、LLP 活用は認められていない ことも留意すべきところである。 64 6.論 2011-July No.10 文 4. まとめ 日本版 LLP に関してその特徴を考察し、LLP 先進国の LLP 活用動向に関して述べ、日本版 LLP のこれからの発 展について考察した。 日本版 LLP の特徴は「有限責任」、「内部自治の柔軟性」、「構成員課税」、「共同事業性」である。これらの特徴を いかして LLP 活用可能な分野としては、「産学官連携の共同研究 LLP」、地域企業活性化などのための「専門人材 の活用 LLP」、地域農業再生には「集落営農 LLP」、また企業から退職していく匠技術者後継のための「匠伝承 LLP」 等あらゆる分野での活用や展開が考えられることを考察した。しかし、大学教員の LLP への参加や、法令で規制さ れている事業分野での専門人材の活用等まだこれから解決していくべき課題が存在することも指摘した。 21 世紀の情報社会における ICT のイノベーションにより急速な社会の変革の時代での新事業創出には人的資源 の活用が重要であり、一人あるいは一社での自前主義ではなく共同事業として柔軟性のある体制で起業していかね ばならないことはいうまでもない。日本版 LLP は人的資本を拠出しようとする人が組合員となり人的資本の拠出に対 してインセンティブを与えるために利益配分や支配権に関して物的資本と人的資本の調整を可能にした組織形態で ある。また日本版 LLP は「頑張った結果として儲けがでれば頑張った人たちで分配する」ことを実現させ、21 世紀に マッチした「人のやる気」を引き出す新しい会社制度でもある。いくつかの課題を解決して日本版 LLP の今後のさらな る活用と展開を期待するものである。 ≪参考文献≫ 1. 「有限責任事業組合契約に関する法律」 2005,8 2. 「有限責任事業組合契約に関する法律施行令」 2005,8 3. 「有限責任事業組合契約に関する法律施行規則」 2005,8 4. 「有限責任事業組合モデル契約」 経済産業省 2005,8 5. 「日本版 LLP/LLC」 中央青山監査法人 中経出版 2005,9 6. 「日本版 LLP」 江戸川泰路 日本実業出版社 2005,9 7. 「LLP・LLC がつくれる本」 LLP・LLC 企業活用センター あさ出版 2005,12 ≪図表の出典≫ 1. 図 2-1、表 2-1、図 3-3 2. 図 3-1、図 3-2 文献 7 から著者作成 文献 6 から著者作成 65 6.論 2011-July No.10 文 滋賀大学 経済学部 准教授 得田 雅章 1. はじめに 本論の目的は、2008 年 6 月 4 日~2010 年 3 月 24 日に開催された「井伊直弼と開国 150 年祭」(以下、「150 年祭」 と称す)に関する観光消費額および経済波及効果を、2008 年~2010 年の各年(暦年)に実施された彦根市観光に関 する経済効果測定調査 1 (以下、その調査を「○○年観光調査」と称す)」から得られた指標をもとに、算出するもの である。 観光調査は、2007 年に実施された「彦根城築城 400 年祭 経済効果測定調査」から毎年実施されているものであり、 最新の調査結果は 2010 年のものである。すでに彦根市ホームページ上では報告書が公開されているように、暦年 の調査結果を、波及推計まで行ったうえでその翌年の 3 月に公表する調査報告書は、速報性において全国的に希 尐なものといえる。また、行政サイドにとっては交通・観光関連施設整備等の観光都市整備のための 1 次資料として、 民間事業者にとっては需要予測を行うための有益な資料となることが期待される報告書といえる。 150 年祭は彦根市主導による大型記念行事で、2007 年に開催された「国宝・彦根城築城 400 年祭」に続くものであ る2。開催期間が年をまたぐうえ、年途中の開始・終了であった。このため、本論では 2008~2010 年の各年観光調査 報告書に基づく経済効果を、開催中期間に応じて加重的に積算することで 150 年祭期間全体の経済効果とする。 分析に入る前に、各年の彦根における観光環境を概観しておこう。2008 年は 400 年祭終了直後の年にあたる。ま た、数年続いた資源インフレによる物価高がピークに達した年であり、秋以降にはリーマンショック(9 月)や米国サブ プライム問題の影響による景気後退が徐々に顕在化してきた。2009 年はリーマンショックに続く「100 年に一度の危 機(デフレ再燃)」、「新型インフルエンザ騒動(5 月~)」、「鳥人間コンテスト中止(7 月)」といった極めてネガティブな 経済環境と、それに対処するべく実施された定額給付金や高速道路料金割引(3 月~)といった経済政策の中で展 開された。2010 年は急激な景気の落ち込みから脱しつつあるものの、依然厳しい状況でデフレ傾向は続き、個人消 費動向も明白な回復基調にあるとは言い難かった。一方で高速道路料金割引は継続されていた。以上から、150 年 祭はその開催期間とマクロ経済の景気後退時期がかなりシンクロしていた時期と言える。 次節では 10 年報告書をもとに分析のフレームワークを提示する。3 節で具体的なパラメータに基づき各年の経済効 果を算出し、積算する。4 節はまとめとする。 2. 分析のフレームワーク 各年の経済効果算出には、それぞれの年に用いた乗数理論に基づく観光消費調査推計システムを利用する。各 年の経済波及効果全体像イメージおよび利用する指標の出典を図表 1 に示す。観光客が彦根市で消費した額(観 光消費額)がまず直接的な経済効果となる。ここから事業者の域内調達率を乗ずると市内に残る観光消費額が算出 される。さらにその額が事業者による原材料波及ルート、消費者による所得波及ルート、さらに原材料波及ルートか ら派生した所得波及ルートを通じて間接的な経済効果が形成される。そうした直接・間接効果の合計が経済波及総 1 最新年の詳細な調査結果については山﨑・得田(2011)を、それ以前の調査についてはそれぞれ山﨑・得田(2008)、山﨑・得田(2009)、山﨑・得 田(2010)を参照のこと。 2 直接の運営は 150 年祭が「井伊直弼と開国 150 年祭実行委員会」であり、400 年祭が「国宝・彦根城築城 400 年祭実行委員会」である。 66 6.論 2011-July No.10 文 額となる。さらに計算過程で算出される人件費総額を一人あたり年収で除することにより、経済効果により何人の雇 用が確保できるかという雇用効果も計算できる。 次節では各年毎の具体的な波及過程を算出する。4 節はそれらを合算しまとめとする。 【 図表 1 各年の経済波及効果全体像イメージ 】 指標 観光消費総額 収支構造 域内調達率 限界消費性向 市内消費率 出典、データソース等 観光客アンケートならびに彦根市観光 入込統計等による推計値 事業所アンケート、事業所・企業統計 調査(滋賀県)、彦根商工会議所なら びに彦根観光協会担当者からのヒア リングを参考として設定した。 事業所アンケート、2001年事業所・企 業統計調査(総務省統計局)、2005年 年滋賀県産業連関表からの歩留まり 率計算、2005年国勢調査、彦根商工 会議所ならびに彦根観光協会担当者 からのヒアリングを参考として設定し た。 国土交通省資料および「FirstStepマク ロ経済学(賀川昭夫等著)」の数値 (0.86)、滋賀県経済指標(県商工観光 労働部商工政策課)を参考として設定 した。 彦根市人口(11万人)に対応する三大 都市圏目安(75%)とその他地方圏目 安(100%)および、2001年TMO診断評 価調査研究事業現地実態調査「消費 者意識等調査(Ⅰ)」~彦根商工会議 所~H13中小企業総合事業団のデー タを参考として設定した。 2004年度版 個人所得指標(日本マー 給与地域補正値 ケティング教育センター)より設定し た。 彦根市内人口 広報ひこねより。 3. 各年の彦根市観光消費額および経済波及効果 ■ 2008 年 6 月~12 月の彦根市観光消費額および経済波及効果 彦根市観光関連の観光消費額は、 観光消費額 = 宿泊客観光消費額 + 日帰り客観光消費額 と定義する。ここで、 宿泊客観光消費額 = 日帰り客観光消費額 = 宿泊客一人あたり観光消費額 × 宿泊観光客数(実人数) 日帰り客一人あたり観光消費額 × 日帰り観光客数(実人数) である。 宿泊観光客数(実人数)は、2008 年報告書の結果から、ほぼ 1 泊であることがわかっているので、滋賀県観光入込 統計の宿泊客数をそのまま用いた。日帰り観光客数(実人数)については、日帰り観光客数(延べ人数)を 1 人当た り訪問地点数(2.07)で除すことで求めた。2008 年報告書掲載の観光客実人数を推計するモデルから、2008 年 6 月 ~12 月までの彦根市への観光客数(実人数)を 118 万人と推計した。宿泊比率は同年報告書に従い 11.7%とした。結 果、宿泊客の観光実人数は 14 万人でその観光消費額が 4,090 百万円、日帰り客実人数は 104 万人でその観光消 費額が 6,965 百万円と推計された。したがって観光客全体の観光消費額は 110 億円と推計される。以下では、この観 光産業にもたらされた金額が、そのように彦根市経済(全産業)に波及していったのかをみていく。 67 6.論 2011-July No.10 文 □ 観光消費がもたらす効果 【原材料等波及効果】 観光消費額(110 億円)が各企業の原材料調達に及ぼした金額を示す。観光消費額から、売上原価・営業経費(この 2 つを原材料等とする)相当分を抽出し、これに彦根市内調達率をかけたものが原材料等直接効果(第 1 次波及効 果)(2,811 百万円)となる3。更に、この 2,811 百万円分の資材を提供した事業所にも、原材料等率および彦根市内調 達率をかけた 1,164 百万円の(第 2 次)原材料調達が発生する。このように、はじめの観光消費額が連続した原材 料調達へとつながっていったものが原材料等波及効果となる。原材料等波及効果は、第 2 次、第 3 次、・・・、第 n 次 とつながり、それら全ての波及効果を総計したものが原材料等波及の全部効果であり、合計 4,799 百万円となった。 【所得波及効果】 (所得増加分から生じる所得波及効果) 観光消費額から原材料等をひいたもの(所得増加分)が、観光消費によって観光関連 5 業種において生じた付加 価値となる。これに彦根市内調達率をかけたものが彦根市の観光消費による第 1 次所得(付加価値)であり、4,923 百万円と算出された。この所得も何割かは新たな消費へと充てられていくため、第 1 次に留まるのではなく、第 2 次、 第 3 次へと波及する。消費は、新たな事業者の所得を発生させ、また新たな消費へとつながっていく。なお、新たな 消費は以下のケインズ型消費関数に基づき導出した。こうして消費→所得→所得増加による消費の増加→増加し た消費による所得増加→・・・といった連鎖を辿っていくことで、第 2 次、第 3 次といった所得・消費波及が算出できる。 観光消費額によって生じた所得の全部効果は 6,112 百万円であり、観光消費額によって生じた消費の全部効果は 4,492 百万円であった。 (原材料等波及効果から生じる所得波及効果) 所得波及は第 2 次、第 3 次といった各段階の原材料等波及効果からも発生する。というのは、原材料等波及効果 の各段階において、原材料等費と同時に、所得増加分も発生するからである。所得増加分から生じる所得波及効果 と同様、原材料等波及の各段階で生じた所得に付加価値率および彦根市内調達率をかけて所得効果を算出し、そ の所得に限界消費性向および市内消費率をかけて消費効果を算出する。これらの波及の総計が、全段階の原材料 等波及効果による所得の全部効果(1,576 百万円)であり、全段階の原材料等波及効果による消費の全部効果 (1,159 百万円)である。所得増加分から生じる波及効果(所得・消費)と原材料等波及効果から生じる波及効果(所 得・消費)を合算させた結果、所得の全部効果が 7,688 百万円、消費の全部効果が 5,651 百万円となった。 【雇用効果】 雇用の直接効果は、観光消費によって生じる人件費相当額(4,060 百万円)から、以下の式により雇用可能な人数 を算出し、雇用吸収力として示している。 雇用者数 = 人件費相当額 ÷ 平均所得 ÷ 地域補正 (1) (1)式より、雇用の直接効果を 916 人と推計できた。さらに、波及効果による雇用者数は、 人件費相当額 = 所得の全部効果 × 所得に占める人件費割合 (2) という式により人件費相当額を算出した後、前出と同様に算出した結果、354 人となった。これらの効果を総合すると、 観光客の消費総額 110 億円のうち、直接効果として彦根市内に留まる額は 6,870 百万円と推計される(原材料等直 接効果+人件費相当額)。また、観光産業における雇用者数は、916 人、生じた付加価値は 4,923 百万円と推計され る。さらに、この直接効果をもととして、彦根市内にもたらされる生産波及効果の総額は、10,449 万円と推計される (原材料等波及の全部効果+消費の全部効果)。また、これによる雇用効果は、354 人と推計される。 3 実際はこの原材料波及効果、次の所得波及効果ともに、観光 5 業種(飲食業、宿泊業、交通・運輸業・土産販売業、観光施設業)に分けて計算 している(2009 年、2010 年も同様)。 68 6.論 2011-July No.10 文 以上より、観光客の消費によって彦根市内にもたらされた経済波及効果の総額は 21,505 百万円となり、その乗数 効果は 1.945 となる。また、それによって生じた雇用者数は 1,270 人と推計される(図表 2)。 【 図表 2 2008 年 6 月~12 月 波及効果推計のための各種入力指数(左)および経済波及効果イメージ(右) 】 □観光消費総額 観光消費の総額 飲食費 宿泊費 交通費 土産品購入 現地ツアー、入場料等 総額 (千円) 2,596,444 1,669,024 2,816,591 2,748,975 1,224,403 11,055,437 □収支構造(対売上高比率) 売上原価率 営業経費率 人件費率 その他率 営業利益率 飲食業 28% 30% 35% 4% 4% 宿泊業 23% 27% 26% 12% 12% 交通・運輸業 6% 13% 70% 9% 1% 土産販売業 50% 12% 22% 6% 10% 観光施設業 29% 34% 28% 6% 3% 全産業 55% 14% 23% 4% 4% □域内調達率(支払先の域内率) 売上原価 営業経費 飲食業 60% 71% 宿泊業 60% 61% 交通・運輸業 56% 70% 土産販売業 19% 61% 観光施設業 56% 73% 全産業 57% 72% □その他 限界消費性向 市内消費率 給与地域補正値 調査対象期間 域内人口 人件費 99% 77% 99% 90% 99% 99% 本社比率 47% 65% 47% 73% 47% 47% 0.84 88% 99% 6ヶ月 111,787人 観光客実人数 1,184,160人 宿泊者実人数 138,401人 日帰り客実人数 1,045,759人 宿泊者の消費単価 29,554円 日帰り客の消費単価 6,660円 ■ 2009 年 1 月~12 月の彦根市観光消費額および経済波及効果 宿泊観光客数(実人数)は、2009 年報告書の結果より、ほぼ 1 泊であることから、滋賀県観光入込統計の宿泊客数 をそのまま用いた。日帰り観光客数(実人数)については、日帰り観光客数(延べ人数)を 1 人あたり訪問地点数 (1.55)で除すことで求めた。 結果、宿泊客の実人数が 17 万人でその観光消費額が 3,541 百万円、日帰り客の実人 数が 193 万人でその観光消費額が 7,218 百万円と推計された。したがって観光客全体の観光消費額は 108 億円と 推計される。以下では、この観光産業にもたらされた金額が、そのように彦根市経済(全産業)に波及していったの かをみていく。 □ 観光消費がもたらす効果 【原材料等波及効果】 観光消費額(108 億円)が各企業の原材料調達に及ぼした金額を示す。観光消費額から、売上原価・営業経費(この 2 つを原材料等とする)相当分を抽出し、これに彦根市内調達率をかけたものが原材料等直接効果(第 1 次波及効 果)(2,918 百万円)となる。更に、この 2,918 百万円分の資材を提供した事業所にも、原材料等率および彦根市内調 達率をかけた 1,209 百万円の(第 2 次)原材料調達が発生する。このように、はじめの観光消費額が連続した原材 料調達へとつながっていったものが原材料等波及効果となる。原材料等波及効果は、第 2 次、第 3 次、・・・、第 n 次 とつながり、それら全ての波及効果を総計したものが原材料等波及の全部効果であり、合計 4,982 百万円となった。 69 6.論 2011-July No.10 文 【所得波及効果】 (所得増加分から生じる所得波及効果) 観光消費額から原材料等をひいたもの(所得増加分)が、観光消費によって観光関連 5 業種において生じた付加 価値となる。これに彦根市内調達率をかけたものが彦根市の観光消費による第 1 次所得(付加価値)であり、4,532 百万円と算出された。この所得も何割かは新たな消費へと充てられていくため、第 1 次に留まるのではなく、第 2 次、 第 3 次へと波及する。消費は、新たな事業者の所得を発生させ、また新たな消費へとつながっていく。なお、新たな 消費は以下のケインズ型消費関数に基づき導出した。こうして消費→所得→所得増加による消費の増加→増加し た消費による所得増加→・・・といった連鎖を辿っていくことで、第 2 次、第 3 次といった所得・消費波及が算出できる。 観光消費額によって生じた所得の全部効果は 5,627 百万円であり、観光消費額によって生じた消費の全部効果は 4,136 百万円であった。 (原材料等波及効果から生じる所得波及効果) 所得波及は第 2 次、第 3 次といった各段階の原材料等波及効果からも発生する。というのは、原材料等波及効果 の各段階において、原材料等費と同時に、所得増加分も発生するからである。所得増加分から生じる所得波及効果 と同様、原材料等波及の各段階で生じた所得に付加価値率および彦根市内調達率をかけて所得効果を算出し、そ の所得に限界消費性向および市内消費率をかけて消費効果を算出する。これらの波及の総計が、全段階の原材料 等波及効果による所得の全部効果(1,637 百万円)であり、全段階の原材料等波及効果による消費の全部効果 (1,203 百万円)である。所得増加分から生じる波及効果(所得・消費)と原材料等波及効果から生じる波及効果(所 得・消費)を合算させた結果、所得の全部効果が 7,264 百万円、消費の全部効果が 5,339 百万円となった。 【雇用効果】 雇用の直接効果は、観光消費によって生じる人件費相当額(3,912 百万円)から、以下の式により雇用可能な人数 を算出し、雇用吸収力として示している。(1)式より、雇用の直接効果を 883 人と推計できた。さらに、波及効果による 雇用者数は、(2)式により人件費相当額を算出した後、前出と同様に算出した結果、317 人となった。 これらの効果を総合すると、観光客の消費総額 108 億円のうち、直接効果として彦根市内に留まる額は 6,830 百万 円と推計される(原材料等直接効果+人件費相当額)。また、観光産業における雇用者数は、883 人、生じた付加価 値は 4,532 百万円と推計される。さらに、この直接効果をもととして、彦根市内にもたらされる生産波及効果の総額は、 10,321 百万円と推計される(原材料等波及の全部効果+消費の全部効果)。また、これによる雇用効果は 317 人と 推計される。以上より、観光客の消費によって彦根市内にもたらされた経済波及効果の総額は 21,080 百万円となり、 その乗数効果は 1.959 となる。また、それによって生じた雇用者数は 1,200 人と推計される(図表 3)。 ■ 2010 年 1 月~3 月の彦根市観光消費額および経済波及効果 宿泊観光客数(実人数)は、2010 年報告書より、ほぼ 1 泊であることから、滋賀県観光入込統計の宿泊客数をその まま用いた。日帰り観光客数(実人数)については、日帰り観光客数(延べ人数)を 1 人あたり訪問地点数(1.70)で除 すことで求めた。結果、宿泊客の実人数が 4 万人でその観光消費額が 808 百万円、日帰り客の実人数が 28 万人で その観光消費額が 1,129 百万円と推計された。したがって観光消費額は 19 億円と推計される。以下では、この観光 産業にもたらされた金額が、そのように彦根市経済(全産業)に波及していったのかをみていく。 □ 観光消費がもたらす効果 【原材料等波及効果】 観光消費額(19 億円)が各企業の原材料調達に及ぼした金額を示す。観光消費額から、売上原価・営業経費(この 2 つを原材料等とする)相当分を抽出し、これに彦根市内調達率をかけたものが原材料等直接効果(第 1 次波及効 70 6.論 2011-July No.10 文 果)(534 百万円)となる。更に、この 534 百万円分の資材を提供した事業所にも、原材料等率および彦根市内調達 率をかけた 186 百万円の(第 2 次)原材料調達が発生する。このように、はじめの観光消費額が連続した原材料調達 へとつながっていったものが原材料等波及効果となる。原材料等波及効果は、第 2 次、第 3 次、・・・、第 n 次とつな がり、それら全ての波及効果を総計したものが原材料等波及の全部効果であり、合計 820 百万円となった。 【 図表 3 2009 年 1 月~12 月 波及効果推計のための各種入力指標(左)および経済波及効果イメージ(右) 】 □観光消費総額 観光消費の総額 飲食費 宿泊費 交通費 土産品購入 現地ツアー、入場料等 総額 (千円) 2,695,728 1,401,018 2,588,988 2,735,258 1,338,444 10,759,435 □収支構造(対売上高比率) 売上原価率 営業経費率 人件費率 その他率 営業利益率 飲食業 28% 30% 35% 4% 4% 宿泊業 23% 33% 26% 12% 6% 交通・運輸業 6% 13% 70% 9% 1% 土産販売業 50% 17% 22% 6% 5% 観光施設業 29% 34% 28% 6% 3% 全産業 55% 14% 23% 4% 4% □域内調達率(支払先の域内率) 売上原価 営業経費 飲食業 60% 71% 宿泊業 60% 61% 交通・運輸業 56% 70% 土産販売業 19% 61% 観光施設業 56% 73% 全産業 57% 72% □その他 限界消費性向 市内消費率 給与地域補正値 調査対象期間 域内人口 人件費 99% 77% 99% 90% 99% 99% 本社比率 47% 48% 47% 73% 47% 47% 0.84 88% 99% 12ヶ月 111,728人 観光客実人数 2,101,713人 宿泊者実人数 172,100人 日帰り客実人数 1,929,613人 宿泊者の消費単価 20,576円 日帰り客の消費単価 3,741円 【所得波及効果】 (所得増加分から生じる所得波及効果) 観光消費額から原材料等をひいたもの(所得増加分)が、観光消費によって観光関連 5 業種において生じた付加 価値となる。これに彦根市内調達率をかけたものが彦根市の観光消費による第 1 次所得(付加価値)であり、798 百 万円と算出された。この所得も何割かは新たな消費へと充てられていくため、第 1 次に留まるのではなく、第 2 次、 第 3 次へと波及する。消費は、新たな事業者の所得を発生させ、また新たな消費へとつながっていく。なお、新たな 消費は以下のケインズ型消費関数に基づき導出した。こうして消費→所得→所得増加による消費の増加→増加し た消費による所得増加→・・・といった連鎖を辿っていくことで、第 2 次、第 3 次といった所得・消費波及が算出できる。 観光消費額によって生じた所得の全部効果は 993 百万円であり、観光消費額によって生じた消費の全部効果は 730 百万円であった。 71 6.論 2011-July No.10 文 (原材料等波及効果から生じる所得波及効果) 所得波及は第 2 次、第 3 次といった各段階の原材料等波及効果からも発生する。というのは、原材料等波及効果 の各段階において、原材料等費と同時に、所得増加分も発生するからである。所得増加分から生じる所得波及効果 と同様、原材料等波及の各段階で生じた所得に付加価値率および彦根市内調達率をかけて所得効果を算出し、そ の所得に限界消費性向および市内消費率をかけて消費効果を算出する。これらの波及の総計が、全段階の原材料 等波及効果による所得の全部効果(274 百万円)であり、全段階の原材料等波及効果による消費の全部効果(201 百万円)である。所得増加分から生じる波及効果(所得・消費)と原材料等波及効果から生じる波及効果(所得・消 費)を合算させた結果、所得の全部効果が 1,267 百万円、消費の全部効果が 931 百万円となった。 【雇用効果】 雇用の直接効果は、観光消費によって生じる人件費相当額(682 百万円)から、以下の式により雇用可能な人数を 算出し、雇用吸収力として示している。(1)式より、雇用の直接効果を 154 人と推計できた。さらに、波及効果による 雇用者数は、(2)式により人件費相当額を算出した後、前出と同様に算出した結果、28 人となった。 これらの効果を総合すると、観光客の消費総額 120 億円のうち、直接効果として彦根市内に留まる額は 1,215 百万 円と推計される(原材料等直接効果+人件費相当額)。また、観光産業における雇用者数は、154 人、生じた付加価 値は 798 百万円と推計される。さらに、この直接効果をもととして、彦根市内にもたらされる生産波及効果の総額は、 1751 百万円と推計される(原材料等波及の全部効果+消費の全部効果)。また、これによる雇用効果は 28 人と推計 される。以上より、観光客の消費によって彦根市内にもたらされた経済波及効果の総額は 3,688 百万円となり、その 乗数効果は 1.90 となる。また、それによって生じた雇用者数は 182 人と推計される(図表 4)。 【 図表 4 2010 年 1 月~3 月 波及効果推計のための各種入力指標(左)および経済波及効果イメージ(右) 】 □観光消費総額 観光消費の総額 飲食費 宿泊費 交通費 土産品購入 現地ツアー、入場料等 総額 (千円) 487,740 383,654 428,407 458,642 178,848 1,937,290 □収支構造(対売上高比率) 売上原価率 営業経費率 人件費率 その他率 営業利益率 飲食業 28% 30% 35% 4% 4% 宿泊業 23% 33% 26% 12% 6% 交通・運輸業 6% 13% 70% 9% 1% 土産販売業 50% 17% 22% 6% 5% 観光施設業 29% 34% 28% 6% 3% 全産業 50% 16% 21% 5% 5% □域内調達率(支払先の域内率) 売上原価 営業経費 飲食業 60% 71% 宿泊業 60% 61% 交通・運輸業 56% 70% 土産販売業 19% 61% 観光施設業 56% 73% 全産業 48% 68% □その他 限界消費性向 市内消費率 給与地域補正値 調査対象期間 域内人口 0.84 88% 99% 3ヶ月 111,856人 観光客実人数 宿泊者実人数 日帰り客実人数 宿泊者の消費単価 日帰り客の消費単価 319,459人 41,400人 278,059人 19,517円 4,061円 人件費 99% 77% 99% 90% 99% 94% 本社比率 47% 48% 47% 73% 47% 47% 72 6.論 2011-July No.10 文 4. おわりに 前節では 150 年祭の各年の観光消費額ならびに経済波及効果を算出してきた。それらの結果をまとめたのが図表 5 である。一見すると分かるように、2008 年は半年程度しか算入していないにも関わらず、まるまる 1 年算入した 2009 年よりも大きな効果を示している。150 年祭のスタートアップが好調であった点もあろうが、やはりマクロ経済的 なインパクトが大きかったと考えられる。 次に 400 年祭との比較を行おう。各祭り全体としてみた場合、開催期間が長かった 150 年祭の効果が大きく、経済 波及総額で約 124 億円上回る。ただし、彦根市内調達率が近年低下していることから、雇用者効果では 220 人ほど 小さいものとなっている。ただし、以上の比較は各祭りの期間が大きく異なっているため、例えば 12 か月ベースで比 較した場合には、150 年祭は 400 年祭のほぼ半分程度の効果しかなかったともいえる。また、そもそも開催期間のマ クロ経済環境があまりにも異なるため、本論のような単純な比較をすることはいささか乱暴といえるかもしれない。 このような留意せねばならない点は多々あるとしても、一つの試算として祭りの経済的な成果を定量化することは なお意義があろう。なお、150 年祭に関わる税収面での効果や開催コストを含めたより総合的な経済効果分析につ いては今後の課題としたい。 【 図表 5 各年の観光消費額ならびに経済波及効果 】 観光消費額(百万円) 波及額(百万円) 経済波及総額(百万円) 雇用者効果(人) 11,055 10,759 1,937 10,450 10,321 1,751 21,505 21,080 3,688 1,270 1,200 182 150 年祭全体 23,751 22,522 46,273 2,652 (参考)400 年祭 (2007 年 3 月~11 月) 17,400 16,428 33,828 2,872 2008 年 6 月~12 月 2009 年 1 月~12 月 2010 年 1 月~3 月 ≪参考資料≫ ◆ 賀川昭夫・片岡孝夫・坪沼秀昌、『First Step マクロ経済学』、有斐閣、1994 年 ◆ 山崎一眞・得田雅章、『H22 年 彦根市観光に関する経済効果測定調査 報告書』、彦根市、2011 年 ――――・――――、『H21 年 彦根市観光に関する経済効果測定調査 報告書』、彦根市、2010 年 ――――・――――、『H20 年 彦根市観光に関する経済効果測定調査 報告書』、彦根市、2009 年 ◆ 『エコメイト年末景気セミナー配付資料』、東洋経済新報社、各年 ◆ 『経済活動別市町村内総生産』、「滋賀県市町民経済計算」、滋賀県、各年 ◆ 『事業所・企業統計調査』、総務省統計局および滋賀県、各年 ◆ 『滋賀県観光入込客統計調査書』、滋賀県、各年 ◆ 『滋賀県経済指標』、滋賀県、各号 ◆ 『滋賀県産業連関表(平成 17 年)』、滋賀県、2010 年 ◆ 『広報ひこね』、彦根市、各号 ◆ 『滋賀県観光動態調査報告書(平成 17 年)』、滋賀県、2005 年 ◆ 『国勢調査(平成 17 年)』、総務省、2006 年 73 6.論 2011-July No.10 文 滋賀大学 産業共同研究センター 特任教授 中井 光男 1. はじめに 平成 18 年に「観光立国推進基本法」が制定されて以来、観光立国の実現に向けたさまざまな諸施策が全国的に展 開され、地域の経済振興が図られてきた。滋賀県でも平成 21 年に新たに「新・滋賀県観光振興指針 近江の誇りづ くり観光ビジョン」が策定され、観光行政の方向性が示され新たな展開が図られているところである。尤も、豊富な観 光資源がありながらイベントの時期を除けば観光客がまばらな地域も散見される。そこで本稿ではこの指針を利用し ながら、国内の観光客が滋賀の地に好感を持って何度も訪れてもらえるよう、ひとつの提案を試みたい。 2. 観光の動向 近年の観光動向について、国土交通省総合政策局旅行振興課は「地域観光マーケティング」(2006 年 2 月)で提言 している。即ち、①インバウンド志向。②ターゲットとしてのアクティブ志向・女性志向:団塊の世代の退職期を迎え、 中高年の観光需要が顕著となり、特に健康で積極的な人生を楽しもうとするアクティブ・シニア(活動的な中高年)が 時間と経済的な余裕を背景に注目されていることによる。また観光需要を牽引する女性の感覚に訴えることも重要。 ③個人旅行志向:団体観光を中心とした量的な対応から個人旅行を中心としたきめ細かな対応が必要となってきて おり、個人対応のサービス、ホスピタリティなど心の感動につながる内容が求められるようになってきた。目的をもっ た旅行やテーマを掘り下げる旅行といった形で個人やグループ旅行が増えてきている。④着地型観光:行き先の拠 点を起点に周辺観光をおこなう観光が注目されてくる。 消費者の観光活動も多様化しており、①オンリーワン観光、②滞在生活観光、③体験観光、④まち歩き観光、⑤泊 食分離の地域観光などが傾向として指摘されている。 社会が成熟化し価値観が多様化した今日にあっては、従来のようなできるだけ多くの観光地を巡る団体ツアーに飽 き足らず、旅なれた旅行者はそれぞれの目的やテーマに従ってしかも小グループで自由にまたアクティブに観光す るようになってきている。 3. 滋賀県の観光動向 滋賀県の観光入込客は、『平成 21 年滋賀県観光入込客統計調査書』によると、近年景気低迷が長引く中、平成 19 年の 46,664 千人をピークに平成 21 年は 44,454 千人と減尐傾向にある。(表-1) また、日帰り観光が 93%と大半を 占めており、宿泊日数は約 1.3 日と素っ気ない。目的別では「一般行楽」が 57.7%、「寺社・文化財」が 19.9%となって いる。(表-2) また、滋賀県は、国土交通省「宿泊旅行統計調査」(平成 19 年)によると近畿地区からの延宿泊者数 が 57%程度を占め、関東 18%、中部 15%と続いている。 【 表-1 延観光客数の推移 】 平成 21 年 平成 20 年 (人) 平成 19 年 % % 平成 18 年 % % 日帰り客数 41,589,900 93.6 42,032,100 93.3 43,499,700 93.2 43,402,700 93.3 宿泊客数 2,864,500 6.4 3,039,400 6.7 3,165,100 6.8 3,099,900 6.7 延観光客数 44,454,400 100 45,071,500 100 46,664,800 100 46,502,600 100 (平成 21 年滋賀県観光入込客統計調査書より作成) 74 6.論 2011-July No.10 文 【 表-2 目的別内訳 】 (%) 平成 21 年 (%) (人) 平成 20 年 (%) 平成 19 年 一般行楽 57.7 25,668,700 57.4 25,889,965 57.8 26,951,200 寺社・文化財 19.9 8,837,100 19.3 8,709,490 19.7 9,201,400 行事・催事 10.2 4,532,400 10.8 4,871,640 10.0 4,645,500 釣り・ゴルフ・テニス 5.6 2,496,600 5.6 2,515,855 5.3 2,454,500 登山・ハイキング 1.8 821,350 2.0 895,085 2.0 954,800 遊覧船 1.6 690,400 1.4 629,560 1.6 748,700 スキー・スケート 1.2 554,550 1.4 623,735 1.0 475,700 水泳・船遊び 1.1 476,100 1.3 579,760 1.5 713,500 キャンプ 0.8 377,200 0.8 356,410 1.1 519,500 100 44,454,400 100 45,071,500 100 46,664,800 合 計 (平成 21 年滋賀県観光入込客統計調査書より作成) 4. 滋賀県の観光振興による課題 先述の観光ビジョンでは観光課題を次の 3 つにまとめ、①積極意的な「滋賀県の魅力」の発信、②魅力ある観光プ ログラムの創造と国際観光の展開、③おもてなしの心あふれる「滋賀」へ、としている。これらは、観光認知度が充分 でないこと、さまざまな観光ニーズに合わせた観光メニューが提供できていないこと、リピーター確保の為には来訪 者にとって心地よい滞在環境の向上に向けたハード・ソフト両面による県を上げた精一杯の「おもてなし」の充実が 必要との判断がある。 観光情報発信については、「知る人ぞ知る」だけではもったいないとの認識から「知らせてこなかった」魅力について、 人々に「そこに行って自分で触れてみたい」「その場で実際に経験してみたい」「できたて・とれたてを味わってみた い」など、来訪意識を掻き立てるような付加価値をまず知ってもらう活動が必要とされている。また、自らの知的好奇 心に応じてさまざまな地域に滞在・周遊する「着地型」観光が注目されており、「本物志向」「学びの旅」「自然とふれあ う旅」への対応が必要との認識から、生活文化の体験や歴史文化的魅力を巡る「まちなか観光」の推進、産業・文 化・芸術観光の推進が提唱されており、現在、湖北を中心に観光庁の「観光圏」指定を受けている。 5. 地域比較による観光推進の現状 同じような観光地であっても賑わいに差があ 【 図-1 O 温泉 S 地区と H 地区の観光客入込み客数推移 (「大津市観光動向調査(2010)」より) 】 る。OT 市 S 地区と OH 市 H 堀地区を比較して みた。両者は、改正文化財保護法(1975 年)に 4,000,000 よる国の「重要伝統的建造物群保存地区」に 3,500,000 選定されており、後背地山頂に名所史跡を抱 え、そこに至る鋼索鉄道があり、麓の寺社およ び周辺のまちなみにも史跡が点在している。 3,000,000 2,500,000 O温泉S地区 H地区 2,000,000 1,500,000 1,000,000 観光入込み客数については、S 地区は近隣 500,000 の温泉郷入込客数と合算されているが H 地区 0 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 と同じような推移である。(図-1) しかし、平 75 6.論 2011-July No.10 文 日の賑わいを目視観察してみると圧倒的に H 地区のほうに軍配が上がる。S 地区の数字には、JR の駅名変更など 街おこし真最中の O 温泉郷の宿泊客数が含まれているので、実際には S 地区の観光訪問客数はこれより小さくなる ものと思われる。 両者の平日を SWOT 分析してみると、S 地区は、H 大社を始め史跡や文化財の集積があり、伝統的な石積み景観 や閑静な里坊景観が魅力の一つとなっている。京阪神から近く交通の便も比較的良いので、歴史ブームも手伝い手 軽な観光地となっている。しかし、よく見ると案内標識(自動車や歩行者への誘導標識)が尐なく、観光客に高齢者が 多い割には癒しとなる休憩所や食事どころ、土産・売店が尐ない。ホスピタリティの点で、観光客を迎える雰囲気に 弱いところが見受けられる。これは、是非は別として、閑静な里坊の特徴かもしれない。地元でヒアリングするとよそ 者を受け付けない雰囲気を指摘する人もいる。 一方、H 地区は、H 神社をはじめ H 堀や歴史的建造物が S 地区と同様に数多く存在するところである。雑踏のよう な観光客が闊歩する街中を、ボランティアガイドが頻繁にグループ案内しており、無料駐車場、適度な休憩所やトイ レの配置、食事・みやげ物店などが集積している。市をあげた観光産業振興への取り組みと、地元住民の繋りの強 さからくる共通認識や地元発展への熱意が観光客を迎える雰囲気を醸し出していて、街全体にホスピタリティが感じ られる。O 市では 2009 年に「O 市観光交流基本計画」が策定された。時流の変化を踏まえて、観光振興から観光交 流へ地域ぐるみのお出迎えと地域への波及を提唱し、市民・事業者・団体・行政が協同して主体となる方針が打ち出 されている。O 市内の I 寺付近や O 温泉街では地域に一体感と共通の方向性が読み取れ、この地域の経済活動の 原動力となっている。 【 表-3 S 地区・H 堀地区平日観光客の年齢 (2011 年 3 月 毎 11:00~15:00) 】 S 地区 H 大社周辺 8日 50 歳以上 H 堀地区 K 地点 9日 合 計 10 日 (人) 11 日 合 計 135 50 185 14 12 26 年 20-49 68 41 109 7 18 25 齢 19 以下 4 9 13 0 0 0 207 100 307 21 30 51 合計 ※現地にて簡易調査・ヒアリングした一部より作成 観光振興には持続性が必要である。観光客がせっかく増加しても一過性に終わってしまっては、観光地の発展は 望めない。来てくれた観光客にもうこりごりだと思われたら、リピートはおろか観光振興どころではなくなってしまう。継 続的な観光客の来訪を望むのなら観光客に良い思い出を持って帰ってもらうことが重要である。良い印象はリピート につながる。地域の住民が地域の発展を望むのであれば、また観光が地域経済の活力を高める基幹産業と認識す るのであれば、観光客誘致を疎んじてはならない。閑静なまちなみはそれ自体魅力ではあるけれども、尐子高齢化 が進む現代社会にあっては、観光客が来なくなり住みたいと思う若者が訪問しなければ、その地は衰退の道を辿る 他ない。この意味からも、優れた自然遺産や文化遺産が集積する自らの地域の魅力に気付き、発展させようとする 気概ともてなしが必要となってくる。ホスピタリティは観光産業交流のひとつのポイントである。 旅なれた多くの観光客は、より深く訪問地を知りたいと思うようになってきている。本物志向は地域の人々とのふれ あいにまで及んでおり、旅行業者が仕立てた観光対象やイベントではなく、地域の人々が自分たちの地域の魅力に 気付き、自ら地域づくりに取り組む姿勢に共感して、その観光地に魅力を感じるようになってきている。 滋賀県同様「観光圏」に指定されている石川県の N 市でヒアリングをしたところ、やはり行政主導では観光産業の盛 76 6.論 文 2011-July No.10 り上がりに欠けるとの反省から、観光関連事業者はもちろん地域住民が一体となった観光振興活動に行政が後押し をする、といった点に立ち返るとのことであった。地域全体の協働意識がさらなるポイントである。 観光客の誘致、もてなし、良い印象、リピーターの増加は必要なサイクルである。さらに言えば日帰り客が 90%を超 える滋賀県の観光産業の現状にあって、尐しでも長く滞在して滋賀の魅力に触れ、場合によっては住んでみたいと 思えるような観光スキームを創出することが大切である。滋賀県では、将来の観光入込み客数の増加を図る様々な 取組みがなされているが、より長く滞在してもらえるための取組みについて、一つの思案を提示してみたい。もちろん、 観光業者・地域住民・行政の一体となった事業の推進や、熱意のあるリーダーの発掘、地域の良さを再認識したうえ での協働など、時間と根気のいる活動を前提としたうえでの提案である。 6. 滞在型観光を推進する為の一つの試み Kolb.B.M(2006)によれば、観光マーケティングの手順は、商品分析、戦略分析、潜在的旅行者のセグメンテーショ ン、ターゲティング、旅行者の購買行動分析、旅行商品のパッケージ化、ブランド構築、プロモーションとなっているが、 観光マーケティングの場合、既存の観光資源を所与のものとして売り込む必要があるため制約がある。「団体旅行 から個人旅行」「顧客ニーズの多様化」「テーマ性の高まり」といった変化(新・滋賀県観光指針「近江の誇り作り観光 ビジョン」)をふまえ、お金と時間が比較的自由に使える高齢者なかでもアクティブ・シニアの観光行動、および一般 行楽 58%に加え寺社仏閣を訪ねる層が約 20%もあることに鑑み、滞在型観光を狙って歴史文化・健康と食、体験に フォーカスしたメニューを考えてはどうか。滞在にはウィークリーマンション、アパートメントホテルといったレジデンシ ャル型施設を想定して、5 泊ほどの滞在を容易にする施設提供を行う。また、アクティブ・シニアの歴史・文化・史跡探 訪や自然観光を容易で安価にするため、たとえば企業の保養所を開放して、旅館業法や保健衛生法の条件クリアを 前提に、宿泊施設として外部提供することも考えられる。先述の国土交通省「地域観光マーケティング」でも、「泊食 分離の地域観光」が指摘されている。夕食はできるだけ地域の人々と同じ食事を希望する形態に人気があることか ら、アクティブ・シニアの小グループが湖西の史跡めぐりを 5 日間行動するケースを想定した場合、宿泊は空室提供 を受けたそれぞれの企業保養所を活用し、食事は地域の好みのものを味わう。旅の終泊は O 温泉郷のホテルや旅 館でくつろぎ、日常味わえない食事と温泉に身をゆだね旅の疲れを癒すといった具合である。企業としては社会貢献、 施設の活用、雇用の創出が図れ、地元の温泉街も宿泊により潤うことになる。もちろんキャンペーン価格も考えられ よう。旅行者は今までと違った観光手段に出会うことになる。 さて、滞在型のメニューとしては、「ワーキングホリデー」による農業体験はもちろんのこととして、信楽でのスキルア ップ陶芸、さらに誤解を恐れずに云うなら、滋賀県の歴史専門家自身を観光資源として広く全国にアピールするとい ったことが考えられる。滋賀県には 1300 を超える城跡があり専門家も多い。史跡や歴史文物については、ICT (Information and Communication Technology:情報通信技術)が普及する中、インターネット上で事前に滋賀県や近 江の歴史・文化・城郭講話に参加してもらい、ここで興味を持った人々に、さらに現地で本物に触れてもらうようにす る。事前の知識を踏まえて史跡や文物に接することは、より深く対象を理解することになり、体験を通した知識の広 がりは知的欲求を満足する点において期待できるのではないだろうか。スマートフォンの普及を意識すれば、観光資 源を傷つけない案内表示としてユーザーが自由に貼り付けることができる「エアタグ:画面上にふわふわ浮かぶ表 示」も、現地での観光客誘導に役立つであろう。 信楽での陶芸では、4 泊 5 日の教室を年 3 回程度 2 年間行い、段階的に初級から中・上級の作陶を実践する。初 年末には専門家の評価を得て合格すれば次の段階に移る。2 年目の最終評価に合格すれば、協賛した陶芸窯を有 料で使用できる権利が与えられる。スキーム実現にはさまざまな困難や調整が必要なことが予想されるところである が、滋賀県に陶芸を愛する人々が集い、趣味の枠を超えるかもしれないスキルアップを図ることは、わくわくドキドキ 77 6.論 2011-July No.10 文 とした体験となり、作陶をとおした滞在は地域交流と地域活性化への貢献に繋がる。もちろん自らの作品を一定レベ ルに高め認められることは、知的活動や向上意欲にリンクした仕掛けとなりリピートにつながる。そして滞在中に、そ の他の体験や観光(例えば茶器の利休信楽や紹鴎信楽についての講話を聴いたり、近辺の農業体験や歴史文化 資源の観光など)を織り交ぜ地域に深く親しんでもらうことも有益である。これらのイメージを図式化すると、次のよう になる。(図-2)(図-3) これらが滋賀県の観光振興の一助となれば幸いである。 【 図-2 ICTを使った発信とリピートの模式図 】 【 表-3 運営団体を中心とした滋賀県誘致一試案 】 ≪主な参考文献≫ ◆ 谷口知司 著 『観光ビジネス論』 ミネルヴァ書房(2010) ◆ 大藪多可志 編 『観光と地域再生』 海文堂出版(2010) ◆ 湯川洋・三橋勇・青木忠幸・長瀬一男 『新しい視点の観光戦略』学文社(2009) ◆ Kolb.B.M Tourism Marketing for Cities and Towns, Elsevier 『都市観光のマーケティング』近藤勝直訳・多賀出版(2006) ◆ 国土交通省 『地域観光マーケティング促進マニュアル』(2006) ◆ 滋賀県 『新・滋賀県観光振興指針 近江の誇りづくり観光ビジョン』(2009) ◆ 大津市 『びわ湖大津 結の観光』(2009)、大津市 『大津 おもてなしとびわ湖と水の物語(2010) 78 6.論 2011-July No.10 文 滋賀大学 教育学部 教授 滋賀大学 教育学部 4 回生 水上 善博 ドー バン トイ 1. はじめに 自然の造形には複雑な形をしたものが多い。複雑な形を解析する方法としてフラクタル幾何学が発展してきた(マ ンデルブロ,2011)。我々は、通常、次元として、1 次元、2 次元、3 次元(時間の次元も考えれば 4 次元)のように整数 の値を用いるが、フラクタル幾何学においては、次元の概念を、非整数にまで拡張し、複雑さをはかる尺度としてフラ クタル次元を定義する。フラクタル次元は、通常、非整数の値をもつ。 経済現象においても株価の変動や為替相場の変動は複雑な動きをするため、これらの上がり下がりを予測するこ とはきわめて難しい。しかし、相場の変動は確率に関する数学的法則によって表すことができ、その結果、リスクを計 測できるという考え方もある(マンデルブロ、ハドソン,2008)。フラクタル幾何学は複雑な変動の特徴を捉えることが できる理論の代表的なものの 1 つである。従来、金融工学では、株価の変動や為替相場の変動をブラウン運動と仮 定して、さまざまな解析が行われてきているが、ブラウン運動と仮定することの妥当性に疑問がもたれてきている(高 安秀樹,2004)。ブラウン運動をより一般化した理論として非整数ブラウン運動があり、非整数ブラウン運動において は、ハースト指数 H という指標によって、完全にランダムな動きをするブラウン運動(H = 0.5)からの逸脱の度合いを 測ることができる。ハースト指数はフラクタル次元 F と F = 2 – H という関係をもつ。 本研究では、為替レートの時系列曲線の特徴やランダムさからの逸脱についてハースト指数を用いて考察する。具 体的には、2009 年と 2010 年の 2 年間における、円とドルの為替相場の変動、および、ベトナムの通貨ドンと円の為 替相場の変動をとりあげ、これらの日毎の為替レートの時系列曲線のハースト指数(フラクタル次元)を求め、解析を 行う。 円とドルの為替レートは市場での自由な取引の結果を受けて変動するが、ベトナムの通貨ドンは、社会主義体制の もとで管理され、ドンの対ドルレートは、1 日当たりの一定の変動幅を事前に設定した上で、毎日、ベトナム国家銀行 によって公定為替レートが決定され公表されている。すなわち、ベトナムドンの為替レートは、市場の需給と国家の 規制によって形成されている(野村総合研究所,2009)。そこで、円ドルおよびドン円レートの決定過程におけるシス テムの違いが為替相場の変動にどのような影響を及ぼすのかを探ることを本研究の目的とする。 2. 方法 2009 年と 2010 年の 2 年間における、日毎の円とドルの為替レートのデータ、および、ベトナムの通貨ドンと円の為 替 レ ー ト の デ ー タ を 収 集 し た 。 円 と ド ル の 為 替 相 場 の 値 は Infoseek マ ネ ー の ホ ー ム ペ ー ジ (http://money.www.infoseek.co.jp/)で公表されている日毎の為替レートの終値を用いた。ドンと円の為替相場の値は OANDA corporation のホームページ(http://www.oanda.com/)で公表されている通貨変換システムにより日毎に計算 された売値の為替レートの 1 日の平均値を用いた。 時系列曲線のハースト指数は以下のように定義される。ある与えられた時系列曲線 x(t ) の時間間隔 T での大まか な変化の大きさ X を次の式で表す。 79 6.論 2011-July No.10 文 X 1 T xi x 2 T i 1 x 1 T xi T i 1 x i は時刻 t = i (i = 1, 2, …) での x の値であり、X と T との間には、 X aT H (0 < H < 1) の関係式が成り立つ。ここで、a は定数であり、H が時系列曲線 x(t ) のハースト指数となる(松下貢,2004)。 実際の為替レートの時系列データのハースト指数はスケール変換解析によって求めた。(詳細については参考文 献(『経済・経営時系列分析』新田功ら,2001)を参照のこと) 手順は以下のとおりである。 1. 日毎の為替レートの値 x i の対数 log 10 2. xi を計算する。 log 10 xi の差分 log 10 xi log 10 xi 1 を計算する。 3. ある時間間隔( N 日間)を決め、その中で日毎に差分 log 10 xi log 10 xi 1 の偏差(算術平均からの隔たり) X i を計算し、 X i の N 日間の標準偏差 S を求める。 4. X i の k 日目( 1 k N )までの累積偏差 k X i 1 i を計算する。 5. 累積偏差の最大値と最小値の差、すなわち、累積偏差のレンジ R を求める。 6. ハーストによって提案された式 R / S aN H の log-log プロットの傾きから、ハースト指数 H を求める。 なお、1~6 の手続きは表計算ソフトウェアを用いてパーソナルコンピュータ上で実施した。 本研究では、為替レートの時系列曲線の短期間の動向と長期間の動向を探るために、短期間の解析のための時 間間隔 N として、N = 4, 6, 8, 10, 16 日を、長期間の解析のための時間間隔 N として、N = 10, 20, 30, 40 日を用い た。 3. 結果と考察 図 1 に 2009 年と 2010 年の 2 年間における、日毎の円とドルの為替レート(単位は円/ドル)の時系列グラフを示す。 2009 年の最大値は 101.02 円/ドル (2009 年 4 月 6 日)、最小値は 86.3 円/ドル (2009 年 11 月 30 日)、2010 年の 最大値は 94.57 円/ドル (2010 年 4 月 2 日)、最小値は 80.24 円/ドル (2010 年 10 月 29 日)であった。図 2 に 2009 年と 2010 年の 2 年間における、日毎のドンと円の為替レート(単位はドン/円)の時系列グラフを示す。2009 年の最 大値は 210.856 ドン/円 (2009 年 11 月 30 日)、最小値は 170.845 ドン/円 (2009 年 4 月 6 日)、2010 年の最大値 は 241.075 ドン/円 (2010 年 10 月 30 日)、最小値は 195.515 ドン/円 (2010 年 1 月 8 日)であった。 これらの時系列データから得られた短期間の動向を示すハースト指数と長期間の動向を示すハースト指数の結果 を表 1 に示す。フラクタル次元の値もあわせて示す。短期の動向を示すハースト指数は円とドルの為替レートの場合 80 6.論 2011-July No.10 文 【 図 1 円とドルの為替レートの時系列曲線(単位は円/ドル)。 左図:2009 年 右図:2010 年 】 【 図 2 ベトナムの通貨ドンと円の為替レートの時系列曲線(単位はドン/円)。 左図:2009 年 右図:2010 年 】 表1 2009年と2010年の日毎の円とドルの為替レートおよびドンと円の為替レートのハースト指数とフラクタル次元。 短期は時系列間隔が4, 6, 8, 10, 16日で解析された結果。長期は時系列間隔が10, 20, 30, 40日で解析された結果。 ハースト指数(短期) フラクタル次元(短期) ハースト指数(長期) フラクタル次元(長期) 円ドル ドン円 円ドル ドン円 円ドル ドン円 円ドル ドン円 2009 0.662 0.561 1.34 1.44 0.610 0.471 1.39 1.53 2010 0.620 0.542 1.38 1.46 0.548 0.444 1.45 1.56 2009 年が 0.662、2010 年が 0.620 となった。また、ドンと円の為替レートの場合 2009 年が 0.561、2010 年が 0.542 と なった。一方、長期の動向を示すハースト指数は円とドルの為替レートの場合 2009 年が 0.610、2010 年が 0.548 とな った。また、ドンと円の為替レートの場合 2009 年が 0.471、2010 年が 0.444 となった。円とドルの為替レートのハース ト指数については、1973 年 1 月~1989 年 12 月までの日毎のデータをもとに解析した結果として 0.64 という値が報 告されている(ピーターズ,1994)。さらに、 1973 年 1 月~1999 年 12 月までの月次のデータをもとに解析した結果が、 0.72 と報告されている(新田功ら,2001)。我々の円とドルの為替レートのハースト指数の結果は、日毎のデータに基 づいているので、ピーターズの結果と比較すると、2010 年の長期の結果(H = 0.548)以外は、いずれも 0.61~0.66 で あり、ピーターズの結果 0.64 と比較的近い値となった。 81 6.論 2011-July No.10 文 ハースト指数の値は、完全にランダムな動きをするブラウン運動からの逸脱の度合いを示す指標となる。図 3 にい ろいろなハースト指数をもつ非整数ブラウン曲線の例を示す。H = 0.5 の曲線は完全にランダムなブラウン曲線であ る。H = 0.8 のように、ハースト指数が 0.5 より大きい曲線の場合、いったん上昇するとその傾向が続き、また、下降し 始めると、さらに下がる傾向が続くという特徴をもつ。この傾向を“持続性”と呼ぶ。持続性を持つ曲線は変動幅が大 きくなる。一方で、ハースト指数が 0.5 より小さい曲線の場合、上昇してもそれを引き戻して下降に転じる傾向が見ら れ、また逆に、下降するとそれに反して上昇する傾向がみられる。この傾向を“反持続性”と呼ぶ。反持続性を持つ曲 線の変動幅は小さくなる。我々の得た結果は、ドンと円のレートの長期の動向を示すハースト指数(2009 年は 0.471、 2010 年は 0.444)が反持続性を示した以外はすべて 0.5 よりも大きい値となり持続性を示すことがわかった。2011 年 1 月 3 日の朝日新聞において、東京工業大学の高安美佐子氏は「為替の物理学」と題した記事のなかで、為替相場 の変動における“持続性”の傾向について「値動きには加速度がある」と表現している。自由市場の為替相場におい ては、値が上がるとさらに買いが入り、値が下がるとさらに売りが入るような、トレンドを追ういわゆる「順張り」の傾向 がある。その結果、“持続性”の傾向が現れる。一方で、ベトナムのドンのように管理されている通貨は、レートを安定 させるために、管理者(ドンの場合はベトナム国家銀行)の意思が反映される。すなわち、レートが高くなる傾向を示 せば、値を下げる方向に、レートが下がる傾向があれば値を上げる方向に為替レートが修正される。これは、いわゆ る「逆張り」であり、結果として“反持続性”の傾向が現れる。これが、ドンと円のレートの長期の動向において反持続 性が見られた理由のひとつであると考えられる。さらに、円とドルの為替レートの長期の動向を示すハースト指数が 2009 年の 0.610 から 2010 年には 0.548 となり、完全にランダムな状態を示す 0.5 に近づいているが、これは円ドル 相場の市場が正常なマーケットの動きから逸脱して予測がつかない状態になりつつあることを示すとともに、急激な 円高に対処するために 2010 年に日本政府を中心に円ドル相場への介入が実施されたことによる影響を受けて、円 ドルレートに“反持続性”の傾向が表れたものと考えられる。 【 図 3 ハースト指数の異なる非整数ブラウン曲線の例 】 H=0.5 H=0.2 H=0.8 82 6.論 2011-July No.10 文 最後に、ベトナム経済の現状と今後の展望について簡潔に考察する。 ベトナムは、ドイモイ政策を実施して、社会主義路線の見直し、産業政策の見直し、市場経済の導入、国際協力への 参画を進めてきた(Nguyen Nhu Binh,2010)。 ベトナムの特徴としては、市場規模が大きいことと、所得水準の増加が著しいことがあげられる。人口は約 9000 万 人で、今後は 1 億人に到達すると見込まれている。人口構成は 30 代以下が全体の 58%を占め、若年層が多いピラ ミッド型の特徴をもった人口構成になっている。また、1 人当たりの平均所得が 2007 年には 835 ドルとなり、低所得国 から中所得国に移行する過程にある。特に、ハノイやホーチミンなどの都市部では、世帯年収が 4500 ドルを超える 世帯の比率が 1999 年の 7%から 2006 年には 21%に達し、他方、1400 ドルを下回る低所得者世帯の比率は 1999 年の 64%から 2006 年には 25%へと急激に減っている。また、ベトナムへの海外からの資金流入が大きいことも特徴 としてあげられる。インフレ率が相対的に高い中で、ベトナムドンの対ドル為替レートを一定に維持しようとする為替 政策の下では、海外の投資家からみて、ベトナム国内の資産に投資することで、為替リスクをあまり気にせずに高い リターンを得やすく見えるため、投機的な資金を誘発することにつながったとの指摘がなされている。ただし、2007 年 1 月に WTO に加盟したベトナム政府としては、経済の市場化、対外開放を急ピッチで進める必要がある。しかし、一 方で、国内の経済部門、特に、金融センターに関しては、そこまでの準備ができていないというジレンマを抱えている のが現状である(野村総合研究所,2009)。 ≪ 文 献 ≫ 1. B. マンデルブロ 著、広中平祐 監訳 『フラクタル幾何学』(上,下) ちくま学芸文庫 (2011). 2. ベノワ・マンデルブロ、リチャード・L・ハドソン 著、高安秀樹 監訳 『禁断の市場 -フラクタルでみるリスクとリターン-』 東洋経済 (2008). 3. 高安秀樹 著 『経済物理学の発見』 光文社新書 (2004). 4. 野村総合研究所 鶴谷学,荻本洋子,奥雄太郎 著 『ベトナム 金融資本市場 ハンドブック』 東洋経済新報社 (2009). 5. 松下貢 著 『フラクタルの物理(Ⅱ)応用編』 裳華房 (2004). 6. 新田功、大滝厚、森久、阪井和男 著 7. エドガー・ピーターズ 著、新田功 訳 『経済・経営時系列分析』 白桃書房 (2001). 『カオスと資本市場』 白桃書房 (1994). 8. Nguyen Nhu Binh, ” The Recent Economic Situation of Vietnam and Investment Risks”, Discussion Paper No. A-2, Center for Risk Research, Faculty of Economics, SHIGA UNIVERSITY (2010). 83 6.論 2011-July No.10 文 滋賀大学 産業共同研究センター 特任教授 滋賀大学 産業共同研究センター センター長 滋賀県立大学 准教授 高橋織物株式会社 代表取締役 山本 卓 野本 明成 森下 あおい 高橋 志郎 1. はじめに パジャマ、カジュアルウェア、ビジネスウェア、フォーマルスーツなど、各生活シーンにおける衣服は楽(リラックス 性)とスタイル(社会的コミュニケーション性)を同時に充足することはできないため、TPO (Time、Place、Occasion) という概念の下で、どちらかのファクターを犠牲にして服装の使い分けがなされてきた。 本プロジェクトでは、どちらかのファクターを犠牲にするのではなく強化することで、クロスオーバーする生活シーン に適応できるよう、楽(リラックス性)とスタイル(社会的コミュニケーション性)を兼ね備えた新衣料を実現しようとする ものである。この考え方を簡明に訴求するため、「バランスト・リラックス」というコンセプトを提唱した。 ここでの具体 的な取り組みは、旅館というシーンにおける浴衣に替わる新しいくつろぎ衣の開発を目標とした。旅館の場合には館 内においては浴衣が一般的であり、リラックス性は十分充足されているものの、コミュニケーション性は十分には満 たされていないと考えられる。部屋で浴衣を着て極端にリラックスした状態から、一歩、部屋を出て、ロビーやカフェテ ラスなどでショッピングや会話、散策を楽しもうとする時、多くの人が浴衣姿に違和感を持つものと考えられる。 本プロジェクトでは、高島の綿織物技術とデザイン・伝統工芸の力を合わせることで、旅館での浴衣に替わる新しい くつろぎ衣の開発を行った。 滋賀大学産業共同研究センターが商品コンセプト創出とマーケティングを担当、高橋 織物株式会社が繊維技術を担当、滋賀県立大学が服飾デザインを担当し、新しいくつろぎ衣用の組紐の開発を(有) 藤三郎紐が担当した。開発目標にむけて改良試作とユーザーアンケートを繰り返し実施する方法をとった。ここでは 旅館「びわこ花街道」で宿泊客による試作品のモニター調査を実施し、色、着やすさ、動きやすさのデザインを検討 するとともに、デザインを支える繊維技術として縫製方法、風合い処理の課題について検討した結果を報告する。 2. コンセプト「バランスト・リラックス」と開発のすすめ方 これまで寝室、家庭、ビジネスといった生活シーンにおける衣服は、楽(リラックス性)とスタイル(社会的コミュニケ ーション性)を同時に充足することはできないため、どちらかのファクターが犠牲にされてきた。 たとえばパジャマはリラックス性が高いが、スタイル(社会的コミュニケーション性)は低く、このまま人前に出るには 抵抗がある。家庭のくつろぎ衣や外出用のカジュアルウェアでは、素材やデザインの変更によってスタイル(社会的 コミュニケーション性)は向上されるが、そのリラックス性はパジャマほど高くできない。ビジネススーツやフォーマル ウェアではスタイル(社会的コミュニケーション性)は最高度のものとなるが、そのリラックス性は最低度のものとなら ざるを得ない。したがって生活シーンに合わせて、楽(リラックス性)とスタイル(社会的コミュニケーション性)のどちら かのファクターを犠牲して服装選びをするのが TPO の考え方であった。 図 1 に社会的コミュニケーション性とリラックス性を座標軸にして、この様子を示した。通常の TPO は図中、直線で 表示している。旅館というシーンにおける浴衣に替わる新しいくつろぎ衣「バランスト・リラックス ウェア」という開発目 標を黄色の丸印で示した。従来の TPO ライン上にある浴衣に比較して、楽(リラックス性)はそのままで、スタイル(社 会的コミュニケーション性)を高くした新しいくつろぎ衣の実現を目指すものである。 84 6.論 2011-July No.10 文 社会的コミュニケーション性 通常のTPOライン 高 バランスト・リラックス の目標範囲 ビジネス: スーツ 低 外出: カジュアル 家庭: リラックス着 開発 目標 リ ラ 高ッ ク ス 性 旅館: 寝間着、浴衣 低 病院: パジャマ 【 図 1. バランスト・リラックスの概念説明図 】 この目標を実現するには、デザイン開発と素材開発の両輪が不可欠となる。直感的に理解できるように、スタイル (社会的コミュニケーション性)の強化は为にデザインが担い、楽(リラックス性)の強化は为に素材開発が担う。通常 のデザインの適用だけでは、社会コミュニケーション性は向上させると同時にリラックス性が減尐し、通常の TPO ライ ンに沿ってその特性が変化するだけである。したがってリラックス性を低下させないでスタイル(社会的コミュニケー ション性)を強化するデザインの工夫が必須となる。さらにデザイン開発にも限界があるため、低下したリラックス性 を素材開発で補う必要がある。(図 2) 素材開発によるリラックス性の向上のため、ここでは高島ちぢみの伸び特性を利用した。ちぢみ特有のシボは一方 向へのおおきな伸び特性を保持しており、デザインと組み合わせることで大幅なリラックス性の向上を実現できる。 (図 3) 次章以降でデザイン開発と素材開発の詳細を述べる。 【 図 3. 高島ちぢみの伸び特性の活用 】 【 図 2. デザイン開発と素材開発の方向性 】 85 6.論 2011-July No.10 文 3. 服飾デザインにおけるプロジェクト課題の解決 □ 3-1 外観についての提案とそのねらい 外観は新衣料の特徴を最も顕著に表すものである。そこで外観のデザイン方針を明らかにするため、新衣料の用 途に近く位置づけられる家庭用のルームウェアを調査した。現在、販売されている女性用ルームウェアの外観特徴 は、ニット素材による柔らかいシルエットが多く、若年層に向けた製品提案が目立つ。色柄も花柄や縞柄が多く、カジ ュアルとロマンチックなイメージが重んじられている。一方、旅館での着用を想定する新衣料は、人と接する場面を前 提とした社会性あるデザイン要素が必要である。一般的に、 社会的な衣服には品格が重視され、体形を表しすぎないシ ルエットが望ましい。また新衣料の素材である高島の綿織物 は、立体的なしぼが特徴であるため、その風合いの個性を 生かすには装飾的なデザインは控えめであることが良いと 考えた。 これらの点から、新衣料は装飾性が尐なくやや固さのある シルエットをデザインの外観特徴として取り入れ、さらに着用 者に幅広い年代を想定して、流行に左右されない本物志向 家庭でのルームウェア のデザインを目指すことが有用と考えた。これらの点を検討 し決定した新衣料の外観についてのデザイン方針を図 4 に 【 図 4.新衣料の外観についてのデザイン方針】 示す。 □ 3-2 機能性についての提案とそのねらい 新衣料が対象とする幅広い年代の着用者の中でも、特に中高年層の着用者は、標準体型とは異なる個人差や身 体機能の低下から生じる課題が多い。そこで中高年層に配慮した着用場面を想定し、着脱のし易さと、運動性、座 位姿勢での着心地の良さを高めるための機能性を上衣、下衣に対して検討した。 (1)着脱のし易さと衿くりのデザイン 上衣の着脱のし易さに関係するのは、首まわり(襟くりの大きさ)と、腕付け根(袖くりの大きさ)の 2 点である。そこで、 着脱する際にどのような動作が関係するかについて、上挙動作と回旋動作など、その部位での変化量が多いかを 測定し、必要な衿開き寸法と位置と袖くりのゆるみ量を決定した。また衿くりは顔に近い箇所であるため全体の印象 を左右する。そこで、比較、観察から試作での修正を繰り返し、体幹部の下方向よりも体形や年齢的な個人差が影 響されにくい肩方向へ広げる形状に決定した。その例を図 5(a)に示す。 (2)腕の挙げ易さと身体側面のデザイン 中高年層の女性では肉付きが上半身優位になるため、身体側面の運動性を高めて腕の上げやすさを向上させる ことが有用である。そこで斜め方向へ伸びる素材物性を活かして、身体側面にバイアス方向に布を扱うデザインを行 った。素材全体に伸縮性があるニットとは異なる布帛における素材と型紙との関係を最大限に活かした設計である。 その結果、脇線、袖付け線のない無駄のないパターンによって、上半身全体の運動性を高めるとともに、たて、よこ、 斜めの各方向に対する布目の特徴をデザインとして表現することができた。その例を図 5(b)に示す。 (3)座位の着心地と腰部のデザイン 下腹部の大きくくびれの尐ない中高年層の体形の特徴に考慮して、パンツのウエスト部には着用者自身が調節可 能な紐とゴムを併用し、後ろ腰部のゆとりを多く股上は標準よりも深く設定した。座位姿勢でいる時間が長い旅館で の下衣の着心地の向上がねらいである。その例を図 5(c)に示す。 86 6.論 2011-July No.10 文 (a) (c) (b) 【 図 5.機能性の提案 ≪衿くりのデザイン例(a) 側面のデザイン例(b) パンツデザイン例(c)≫ 】 □ 3-3 モニターによる試着とその評価 3-1、3-2 の結果をもとに制作した新衣料の上衣と下衣を組み合わせ、5 種類のコーディネートを提案した。そして デザインの方向性を検討するためモニター調査を行った。協力いただいたのは 20 代~50 代の女性 12 名で、旅館で の浴衣替わりに着用するための衣服として新衣料を提示した。実際に試作品を着用した状態で、外観、着用感、素 材感など計 7 項目と総合評価を、非常に良い、良い、どちらでもない、悪い、非常に悪い、の 5 段階で回答を求めた。 図 6 に示すモニター調査の結果から、動作性、肌触りは評価が高く、透け感と着脱性、サイズはやや評価が分かれ たが、総合評価ではいずれも試作品の着用感は良好であった。 また同時に行った聞き取り調査から、ゆとり量やシルエットについては概ね適切であるとの意見が多い一方で、非常 に良い、の評価が尐なかった着丈については、個人の体形とともに個人の好みが大きく影響していた。このことから 着丈に関しては、サイズ設定と各サイズの範囲の検討と、ひとつのサイズで調整可能なデザインを考案する必要性 を新たに課題として得た。 これらの結果に基づいて、最も評価の高かった E の素材の透け感、サイズ設定、着丈の項目のデザインを再度改 善し、新衣料の代表的な開発品として決定した。 【 図 6. モニター調査による試作品の評価結果 (2010 年 2 月調査 於:草津市) 】 87 6.論 2011-July No.10 文 □ 3-4 ファッション性についての提案とねらい 3-1 の外観の方針のとおり、流行に左右されない本物志向のデザインを実現する最終的な仕上げとして、組紐を 新衣料に組合せる提案を行った。元来、組紐は着物の装いに格調を加える伝統的な和装小物の装飾品である。組 紐の格調高い美しさを洋服の上でも活かすことができれば、旅館で着用される 新衣料に特別な贅沢さを添えることができると考えた。滋賀県の伝統工芸品で ある組紐をデザインとして取り入れることで、社会性を持つ新衣料の装いにフ ァッションとしての新しさを加えるとともに、滋賀県の地域ブランドとしての独自 性を打ちだすねらいがある。新衣料に組紐を組み合わせるのに特に検討した のは結び方である。洋服の胴まわりは帯の上とは異なり強く結ぶことはできな い。複数の形状で試着したところ、丸い形状の組紐を用いることで洋服の上で の結びやすさが向上した。また組紐と新衣料との着こなしを複数のデザインで 試着と観察を繰り返した結果、高島のクレープや楊柳などの軽やかな綿織物 の中で、組紐は美しいアクセントとなって全体の装いを引き締める効果があっ た。今後はデザインに合う組紐の形状やデザインをさらに検討し、組紐を 【 図 7.組紐を組み合わせた新衣料例 】 部分的に取り入れるなどデザインの展開を行う。 4. 繊維技術によるプロジェクト課題の解決 プロジェクトを進める中で、予備的なモニター試験で人気が高かった素材とデザインに絞り込み、おごと温泉花街道 でモニター着用試験を実施した。着用試験を通じて顕在化した为な課題は、1)肌に直接着用する際に生地がゴワゴ ワする(堅い)、2)洗濯したあと、元のサイズより小さくなる、の 2 つであった。 □ 4-1 生地がゴワゴワする(堅い)という課題について 高島ちぢみ織物は、たて方向に凹凸のシボが入っており、上下方向には曲げにくく、左右方向には曲げやすいとい う特徴がある。また、肌に接触する部分が布の面全体ではなく、図 3 のシボの簡易図解に示すように、シボの谷の部 分が線状に肌に接触して着用時にさらっとした 感覚を与えるが、この種の素材で作られた衣料 を着用した経験のない人にとってはゴワゴワす るという感覚を与えることになる。 この課題を解決するために、晒・染色の最終 工程で「シルクプロテイン加工」という仕上げ加 工を付加した。その結果、生地の表面柔らかさ を調整することが可能となり、再度のモニター試 験において良好な結果が得られた。この生地の 表面柔らかさの調整効果を、定量的に評価する ため、滋賀大学輿倉弘子教授に協力いただき、 婦人服用薄手布としての力学的評価を行った。 結果を下記の図 8 にまとめた。図の縦軸、横 【 図 8. 高島ちぢみのシルエット分類 ●風合改善前 ●風合い改善後 (日本繊維機械学会第 64 回年次大会発表資料より) 】 軸は、婦人服のシルエット判別式を適用して、 88 6.論 2011-July No.10 文 布の力学特性から算出した変数であり、婦人服用薄手布はシルエット分類によりテーラードタイプ、ドレープタイプ、 ハリタイプの 3 つに分類されている。高島ちぢみ織物は为としてハリタイプの婦人服用の布地として分類されるが、本 加工処理することにより、ドレープタイプの布地に変えられることが明らかになった。 □ 4-2 洗濯したあと、元のサイズより小さくなるという課題について 高島ちぢみ織物は、名前の通り、平織組織の綿織物の緯糸(よこいと)に強撚糸を使って、布加工段階でちぢみ加 工をするもので、本来サイズが小さくなるものである。この洗濯後のちぢみは復元収縮又は緩和収縮と言われるもの で、乾かしたあと、整えて拡げればもとのサイズに戻り、着用に問題はないが、このような生地の衣服を着用する習 慣のない消費者にとっては、「着られない」と判断されることになる。そこで、今回のプロジェクトでは、「洗濯後のちぢ み量を補正する方法」と「洗濯後のちぢみ量を小さくする方法」の 2 つの課題解決方法を検討した。 ・ 4-2-1 「洗濯後のちぢみ量を補正する方法」の検討 生地は一般的な「高島ちぢみ 薄手タイプ」を用い、洗濯によるちぢみ量を測定した。織上がり幅は 165cmで染色加 工後の幅は 112cmの生地を、縫製工場でたて 50cmよこ幅 112cmに切り取り、垂直方向に両端を縫い合わせ、筒 状 (腹巻き状)にしたものを洗濯試験サンプルとした。洗濯機で洗濯し、吊り干し状態で自然に乾燥させ、サイズの変 化を計測した。実験の結果、たて方向-3%の寸法変化、よこ方向-15%の寸法変化が生じた。 この横方向の大きなちぢみ量を補正するため、1)染色加工後の生地幅を、縫製加工に差し支えない程度に狭く整 えることにより、ちぢみ量をある程度減尐させるとともに、2)縫製パターン(型紙)を残りのちぢみ予測量だけ横方向へ 拡げておき、縫製上がりの製品を一回だけ洗濯して整えるという手法で解決を図った。具体的に 1)については、当 初の染色仕上幅 112cmを改善して 100cmにした。112cmの生地が 15%縮んだということは計算上 95cmになったと 推測されるが、95cmでは縫製工程で型紙から部品をカットする際及び縫い合わせる際に、生地が安定しないので、 縫製に差し支えない程度の 100cmで幅セットすることにした。2)については 100cmから 95cm への寸法変化を補正 するため、縫製パターンをよこ方向に+5%程度拡げることで、試作を行った。 試作の結果、たて・よことも洗濯後の収縮率は 3%以内に収まり、洗濯したあと、元のサイズより小さくなるという課題 を解決することができた。 ・ 4-2-2 「洗濯後のちぢみ量を小さくする方法」の検討 上記の解決策と並行して、生地そのものが縮みにくい素材開発(高島ちぢみ厚手クレープタイプ)にも取り組んだ。こ れは、糸を太くすることで糸と糸の隙間を尐なくし、ちぢむ余地を尐なくしたものである。ちぢみ量は問題のない程度 まで改善できたが、生地の重さは高島ちぢみ薄手タイプが 102g/㎡に対して、高島ちぢみ厚手クレープタイプが 131g/㎡であった。この素材で同じデザインの試作をしたところ、厚手クレープタイプは薄手タイプに比べてユーザー 評価は低く、特に上着が重いとの評価であった。 ユーザー評価を考慮し、「洗濯後のちぢみ量を補正する方法」を課題解決策と決定した。 このプロジェクトの課題は、当社のような織物業だけでは解決できず、織物業と縫製業との企画段階からの緊密な 連携、正確な情報のやり取りによって、はじめて解決の方策を導き出すことができた。繊維業界は旧来から、製造・ 流通工程が分断化・細分化されており、大量生産・大量消費の時代は各工程がスケールメリットを極大化してコスト ダウンすることが至上命題であったが、近年のように、個の需要に対応してゆくには、織物業と縫製業との情報伝達 が品質面で極めて重要であることをあらためて認識した。 89 6.論 2011-July No.10 文 5. おわりに 各生活シーンにおける衣服は楽(リラックス性)とスタイル(社会的コミュニケーション性)を同時に充足することはで きないため、どちらかのファクターを犠牲にして服装の使い分けがなされてきた。本プロジェクトでは、どちらかのファ クターを犠牲にするのではなく強化することで、クロスオーバーする生活シーンに適応できる「バランスト・リラックス」 というコンセプトを提唱し、高島の綿織物技術とデザイン・伝統工芸の力を合わせることで、旅館での浴衣に替わる 新しいくつろぎ衣の開発を行った。旅館「びわこ花街道」で試作品のモニター調査し、そのユーザーニーズを改良試 作に展開した。改良試作とユーザーアンケートを繰り返し実施する方法を実施した結果、色、着やすさ、動きやすさ のデザイン検討および、縫製方法、風合い処理の課題を解決し、事業化を展望する段階に到達した。 ≪謝 辞≫ 新ジャンル衣料にふさわしい組紐の開発を担当いただいた、(有)藤三郎紐 四代目藤三郎 太田耕吉氏に感謝し ます。また、着ごこち等について旅館における宿泊客のモニター調査にご協力いただくとともに、製品化への課題と その解決方針について、数多くのご助言をいただきました旅館「びわこ花街道」社長 佐藤裕子氏に感謝します。 本 プロジェクトの立ち上げ時に当センターコーディネーターとしてご尽力いただき、現在のワーキンググループでの討議 に参加いただきました京都学園大学 教授 宇佐美照夫氏に感謝します。本プロジェクトの開発目標について、繊維 技術の視点からご助言いただきました、滋賀県東北部工業技術センターの関係諸氏に感謝します。新衣料の試作、 モニター調査に協力いただきましたファッションデザイナー中川涼子氏、株式会社「宙」代表取締役 栗栖佳子氏に 感謝します。繊維特性の測定評価にご協力いただきました滋賀大学 教授 與倉弘子氏に感謝します。さいごに、 「しが新事業応援ファンド助成金」を利用させていただき、ユーザー調査に基づく改良試作を繰り返し実施するアプロ ーチ方法をとることが可能になり、製品化を展望する段階に到達できました。ここに、滋賀県産業支援プラザにあら ためて感謝致します。 ≪参考文献≫ ◆ 與倉弘子、石倉弘樹、髙橋志郎:「高島ちぢみの婦人用薄手布としての力学特性の評価」 日本繊維機械学会第 64 回年次大会発表資料(2011) ◆ 丹羽雅子 編:「アパレル科学」 朝倉書店(1997) p.89 ◆ 社団法人生活工学センター 編:「人間生活工学第 2 巻」 丸善株式会社(2005) ◆ 原田隆司 著:「着ごこちと科学」 ポピュラー・サイエンス社 ◆ 米盛裕二 著:「アブダクション」 勁草書房 ◆ 山本 卓:「アブダクション -発想の思考法-」 滋賀大学産業共同研究センター報 No.5 ◆ 山本 卓:「発想の思考法と技法」 滋賀大学産業共同研究センター報 No.8 ◆ 財団法人中部産業活性化センター: 「繊維産業の地域ブランド化促進のための調査研究事業」報告書 (平成 18 年) ◆ 山本 卓、森下あおい、高橋志郎、野本明成:「地域ブランド創出プロジェクト ―滋賀県の綿織物技術とデザイン・伝統工芸を生かして―そのⅠ 滋賀大学産業共同研究センター報 No.9 90 Annual Report of Joint Research Center, Shiga University 2011-July No.10 7.平成 22 年度 活動リスト '10(H22) 4. 28 ● 地域ブランド創出プロジェクトWG [野本 明成/山本 卓] 5. 21 ● 地域ブランド創出プロジェクトWG [野本 明成/山本 卓] 6. 16 ● 地域ブランド創出プロジェクトWG :雄琴 [野本 明成/山本 卓] 30 ● 地域ブランド創出プロジェクトWG [野本 明成/山本 卓] 8. 31 ● 地域ブランド創出プロジェクトWG [野本 明成/山本 卓] 9. 24 ● 地域ブランド創出プロジェクトWG [野本 明成/山本 卓] 12. '11(H23) 27 ● 地域ブランド創出プロジェクトWG [野本 明成/山本 卓/宇佐美 照夫] 2. 24 ● 地域ブランド創出プロジェクト:プロモーションビデオ撮影:花街道 [野本 明成/山本 卓] 3. 10 ● 地域ブランド創出プロジェクト:プロモーションビデオ編集会議 [野本 明成/山本 卓] 29 ● 地域ブランド創出プロジェクトWG [野本 明成/山本 卓] '11(H23) 2. 2 ● 地場産業再生MOTフォーラム [野本 明成/山本 卓] '10(H22) 9. 1 ● 彦根仏壇協同組合訪問 [山本 卓] 10. 6 ● 仏壇塾第1回 [野本 明成/山本 卓] 20 ● 仏壇塾第2回 [野本 明成/山本 卓] 11. 1 ● 国立国会図書館仏壇塾資料収集 [野本 明成/山本 卓] 8 ● 典礼社訪問 [山本 卓] 10 ● 仏壇塾第3回 [野本 明成/山本 卓] 26 ● 仏壇塾第4回 [野本 明成/山本 卓] 12. 8 ● 仏壇塾第5回 [野本 明成/山本 卓] 22 ● 仏壇塾第6回 [山本 卓] '11(H23) 1. 12 ● 仏壇塾第7回 [野本 明成/山本 卓] 26 ● 仏壇塾第8回 [野本 明成/山本 卓] '10(H22) '11(H23) 2. 9 ● 仏壇塾第9回 [野本 明成/山本 卓] 3. 9 ● 仏壇塾第10回 [野本 明成/山本 卓] 7. 21 ● 地場産業再生研究会 アドバイザ:三好 良夫氏 [野本 明成/山本 卓] 9. 15 ● 地場産業再生研究会 アドバイザ:三好 良夫氏 [野本 明成/山本 卓] 2. 3 ● 地場産業再生研究会 アドバイザ:緒方 三郎氏 [野本 明成/山本 卓] 3. 3 ● 地場産業再生研究会 アドバイザ:三好 良夫氏 [野本 明成/山本 卓] '10(H22) 10. 20 ● 滋賀大学第2回知財セミナー [室井理事/磯西 和夫/中井 光男/山本 卓/福島室長/畑中 真知子] '10(H22) 12. 17 ● ビジネスカフェあきんどひろば① [野本 明成/畑中 真知子] 22 ● ビジネスカフェあきんどひろば② [畑中 真知子] '11(H23) 1. 14 ● ビジネスカフェあきんどひろば③ [畑中 真知子] 21 ● ビジネスカフェあきんどひろば④ [畑中 真知子] 28 ● ビジネスカフェあきんどひろば⑤ [野本 明成/畑中 真知子] 92 2011-July No.10 7.平成 22 年度 活動リスト '10(H22) 7. 27 ● エグゼクティブ・プログラム「ドラッカー」講座打ち合わせ [野本 明成] 9. 24 ● エグゼクティブ・プログラム「ドラッカー」講座第1回 [野本 明成] 10. 29 ● エグゼクティブ・プログラム「ドラッカー」講座第2回 [竹中 厚雄] 11. 25 ● エグゼクティブ・プログラム「ドラッカー」講座第3回 [柴田 淳郎] 12. 10 ● エグゼクティブ・プログラム「ドラッカー」講座第4回 [弘中 史子] '11(H23) 2. 21 ● エグゼクティブ・プログラム来年度打ち合わせ [野本 明成] '10(H22) 9. 27 ● 三大学・地域共同研究センター定期情報交換会:大津サテライト [室井理事/野本 明成/小栗 誠二/磯西 和夫/中井 光男/山本 卓/北村課長/福島室長/諸角係長/畑中 真知子] 28 ● 三大学・地域共同研究センター定期情報交換会:同志社大学 '10(H22) 4. '10(H22) 4. 20 ● GAT(彦根異業種交流研究会)平成22年度通常総会 [野本 明成] 30 ● 大津・草津地域活性化協議会定期総会 [野本 明成] 5. 29 ● しがぎんエコビジネスフォーラム2010 第1回サタデー起業塾 [室井理事] 31 ● ㈶滋賀県産業支援プラザ理事会 [野本 明成] 6. 2 5 23 24 28 ● ● ● ● ● 「A-STEP(FS)」募集説明会《龍谷大学》 [山本 卓] 科学・技術フェスタin京都:出展 [室井理事/野本 明成/中井 光男/山本 卓/福島室長/畑中 真知子] GAT6月度例会及び役員会 [野本 明成] 京銀活き活きベンチャー支援ネットワークに参加[野本 明成] 滋賀バイオ産業推進機構 平成22年度総会 [山本 卓] 7. 8 21 24 28 30 ● ● ● ● ● 全国CD活動ネットワーク 第1回関西地域会議 [野本 明成/山本 卓] GAT7月度例会及び役員会 [野本 明成] しがぎんエコビジネスフォーラム2010 第2回サタデー起業塾 [野本 明成/中井 光男/山本 卓] 滋賀県中小企業家同好会青年部研修会講演 [野本 明成] 長浜みらい産業プラザ例会 [野本 明成/山本 卓] 8. 4 24 26 30 31 ● ● ● ● ● 第1回産学官連携実務者会議 [中井 光男/山本 卓] 「大津市の中小企業活性化を軸とした産学振興ビジョンに関する調査」に伴うワーキング [中井 光男] GAT 町屋活用委員会 [野本 明成] 第5回びわ湖・近江路観光圏協議会総会 [野本 明成] ㈶滋賀県産業支援プラザ理事会 [野本 明成] 9. 10. '11(H23) ● 特許第一号「ヒト血液型試薬」 [糸乗 前] 4 ● しがぎんエコビジネスフォーラム2010 第3回サタデー起業塾 [野本 明成/中井 光男/山本 卓] 6-7 ● 全国CD活動ネットワーク 第2回関西地域会議 [野本 明成/山本 卓] 20-22 ● びわ湖環境ビジネスメッセ2010 11. 2 19 20 25 12. 14 ● 長浜みらい産業プラザ例会 年末研修会 [野本 明成] 24 ● 大津・草津地域活性化協議会 幹事会 [福島室長] 1. ● ● ● ● 全国CD活動ネットワーク会議 全国会議 [野本 明成/山本 卓] 「大津市の中小企業活性化を軸とした産学振興ビジョンに関する調査」に伴う中間報告及び意見交換会 [中井 光男] しがぎんエコビジネスフォーラム2010 第4回サタデー起業塾 [野本 明成/中井 光男] 京銀活き活きベンチャー支援ネットワークに参加[野本 明成] 4 ● 滋賀経済団体連合会平成23年・年賀会 [室生理事] 25 ● 近畿経済産業局シーズ集掲載 27 ● 全国CD活動ネットワーク 第3回関西地域会議 [野本 明成/山本 卓] 31 ● 平成22年度 第2回滋賀県コーディネータ交流会 [山本 卓] 2. 1 ● 滋賀県コンベンション誘致セミナー [野本 明成/中井 光男/山本 卓] 4 ● 彦根市長会見 [室井理事/野本 明成] 5 ● しがぎんエコビジネスフォーラム2010 第5回サタデー起業塾 [野本 明成/中井 光男/山本 卓] 16 ● 「大津市の中小企業活性化を軸とした産学振興ビジョンに関する調査」に伴うワーキング [中井 光男] 22 ● 県庁商工政策課人材プログラム打ち合わせ [野本 明成] 25 ● GAT2月度例会及び役員会 [野本 明成] 93 2011-July No.10 7.平成 22 年度 活動リスト '11(H23) 3. 2 ● 東北部工業技術センター運営評議委員会 [野本 明成] 10 ● 事業可能性評価事業「めきき・しが」 [野本 明成] 10 ● 学内A-STEP説明会:教育学部 [磯西 和夫/山本 卓] 11 ● 滋賀銀行次年度サタデー起業塾打ち合わせ [野本 明成] 17 ● 京銀活き活きベンチャー支援ネットワーク【展示】[野本 明成/山本 卓] 28 ● ㈶滋賀県産業支援プラザ理事会 [野本 明成] '10(H22) 5. 6. 7. 1 ● 第19回大阪大学基礎工学研究科産学交流会 [野本 明成] 22 ● 滋賀県立農業大学校訪問 [中井 光男] 9 ● 守山市政策統制部訪問 [中井 光男] 23 ● buy-shiga 2010 [室井理事/野本 明成/山本 卓] 8. 5 ● 岐阜大学産学官融合本部訪問 [野本 明成/山本 卓] 6 ● 著作権セミナー [山本 卓] 30 ● 阪大産研フォーラム「新産業を育む」 [山本 卓] 9. 1 ● 大塚産業マテリアル㈱訪問 [山本 卓] 22 ● ㈲うすなが 訪問 [中井 光男] 29 ● 「デザインと知的戦略シンポジウム」に参加 [山本 卓] 10. 5 ● ビジネスカフェあきんどひろば in文化産業交流会館「農業ビジネスで起業する!」 [中井 光男] 12-13 ● オープンイノベーションICTシンポジウム [野本 明成/山本 卓] 14-15 ● 農林水産・食品産業分野コーディネータ人材育成研究プログラム [中井 光男] 26 ● 金沢大学イノベーション創成センター訪問 [野本 明成/山本 卓] 27 ● 北陸先端科学技術大学院大学 地域・イノベーション研究センター訪問 [野本 明成/山本 卓] 11. 2 ● ㈲播磨海洋牧場「魚介類の鮮度」ヒアリング [中井 光男] 24-25 ● 地域を活かす科学技術政策研究会 [中井 光男] 26 ● JBLAシンポジウム2010「地域産業創造の牽引車としてのBI」 [野本 明成/中井 光男] 28 ● グリーンビジネスフォーラムin京都 [野本 明成] 12. 3 ● 食料研究拠点シンポジウム [中井 光男] 8 ● 農商工連携交流セミナー「新しい農業への挑戦」 [中井 光男] 11 ● 環境経営学会・滋賀銀行共同開催シンポジウム「環境と金融」 [野本 明成] '11(H23) 1. 19 ● 同志社大学リエゾンフェア「米国・中国の企業や大学と産学連携を上手く進めるために!」 [野本 明成/山本 卓] 2. 18 ● 近畿経済産業局研究開発支援制度合同説明会 [野本 明成/中井 光男/山本 卓] 28 ● 第3回イノベーションフォーラム in滋賀 [野本 明成/中井 光男] 28 ● デザインと意匠権戦略的活用セミナー [山本 卓] 3. 14 ● 同志社大学主催「鼎談、今日の韓国を語る」 [野本 明成] 23-24 ● 七尾市観光交流課、石川県観光交流局情報収集 [野本 明成/中井 光男/山本 卓] 25 ● 大津市企業局・大津市観光振興課 ヒアリング [中井 光男] '10(H22) 10. '10(H22) 8. 14-15 ● 国立大学法人共同研究センター長等会議(山口大学)[室井理事/野本 明成/山本 卓] 4 ● 滋賀大学産業共同研究センター報No.9刊行 27 ● シーズ集刊行にむけての原稿依頼 9. 11. '10(H22) 6. 10. 17 ● 滋賀大学産業共同研究センター パンフレット刊行 30 ● 滋賀大学シーズ集2010 No.7刊行 1 ● 中井光男特任教授、山本卓特任教授 着任 19 ● 宇佐美照夫客員教授 着任 94 2011-July No.10 7.平成 22 年度 活動リスト '10(H22) 6. 22 ● 運営会議第1回 [野本 明成/中井 光男/山本 卓] 28 ● 運営委員会 [室井理事/野本 明成/糸乗 前/岩井 憲一/清宮 政宏/中井 光男] '11(H23) '10(H22) 7. 14 ● 運営会議第2回 [室井理事/野本 明成/中井 光男/山本 卓/畑中 真知子] 8. 18 ● 運営会議第3回 [野本 明成/磯西 和夫/中井 光男/山本 卓/畑中 真知子] 9. 21 ● 運営会議第4回 [室井理事/野本 明成/中井 光男/山本 卓/福島室長/畑中 真知子] 10. 19 ● 運営会議第5回 [野本 明成/中井 光男/山本 卓/福島室長/畑中 真知子] 11. 16 ● 運営会議第6回 [室井理事/野本 明成/中井 光男/山本 卓/宇佐美 照夫/福島室長/畑中 真知子] 12. 15 ● 運営会議第7回 [室井理事/野本 明成/中井 光男/山本 卓/畑中 真知子] 1. 18 ● 運営会議第8回 [野本 明成/中井 光男/山本 卓/宇佐美 照夫/畑中 真知子] 2. 15 ● 戦略会議第9回 [野本 明成/磯西 和夫/中井 光男/山本 卓/福島室長/畑中 真知子] 3. 15 ● 戦略会議第10回 [室井理事/野本 明成/磯西 和夫/中井 光男/山本 卓/福島室長/畑中 真知子] 4. 22 ● 山岡塾 [山岡 與一] 29 ● 山岡塾 [山岡 與一] '11(H23) 5. 20 ● 山岡塾 [山岡 與一] 6. 17 ● 山岡塾 [山岡 與一] 7. 15 ● 山岡塾 [山岡 與一] 10. 21 ● 山岡塾 [山岡 與一] 11. 18 ● 山岡塾 [山岡 與一] 12. 16 ● 山岡塾 [山岡 與一] 1. 27 ● 山岡塾 [山岡 與一] 2. 17 ● 山岡塾 [山岡 與一] 【編集後記】 この度の東日本大震災により被災された皆様には心よりお見舞いを申し上げます。皆様の安全と一日も早 い復興を心よりお祈り申し上げます。 年 1 回発行する産業共同研究センター報も今回で第 10 号の発行を迎えました。今回の発行では、より一層 多くの皆様に親しんでもらえる冊子にするため、画像を多くしたほか、本冊子の軽量化、薄型化にも取り組み ました。今号から表紙デザインも断片的なグラフィックを素材としたイメージで新たなシリーズとなっています。 なんとなく読みやすくなったと感じてもらえれば幸いです。 執筆いただいた方々、原稿の電子ファイル編集に熱心に取り組んでいただいた馬渕可奈子さんに感謝しま す。また表紙デザインをご担当いただいた教育学部世ノ一善生先生、素敵な表紙をありがとうございました。 産業共同研究センターは、滋賀大学の社会貢献、地域貢献の窓口です。 このセンター報をご一読いただくことで、産業共同研究センターについてご理解いただき、今後もご協力ご 支援賜りますようお願い申し上げます。 記 畑中真知子 95
© Copyright 2024 Paperzz