HIV感染症専門薬剤師制度について(Vol.72)

HIV感染症専門薬剤師制度
について
∼広島大学病院薬剤部 木平健治先生
(薬剤部長)
、畝井浩子先生に聞く∼
日本病院薬剤師会から平成20年8月に「HIV感染症薬物療法認定薬剤師」及び「HIV感染症専門薬剤師」
の認定申請資格が発表され、平成21年4月から認定に関連する作業が始まりました。日本病院薬剤師会
専門薬剤師認定制度委員会 HIV感染症小委員会委員長として本専門薬剤師制度の発足に尽力された広
島大学病院薬剤部長の木平健治先生と、広島大学病院HIVケアチームの一員として活躍されている薬剤
部の畝井浩子先生に、本制度の背景や認定薬剤師に求められる役割などについて伺いました。
HIV感染症専門薬剤師制度
の背景
HIV感染症専門薬剤師制度が
ち早く入手して、患者さんの治療に反
で高い服薬率が継続されないと耐性
映させていくことが非常に重要な役
ウイルスが出現しやすくなります。それは、
割になってきます。
治療効果の低下だけでなく、感染拡
HIV感染症予防への関わり
誕生した背景をお教えください。
大にもつながってしまう問題です。
木平 HIV感染症という疾患がかな
服薬率低下の大きな要因としては、
り特殊性を持っていること、
日本での
抗HIV薬は剤形が大きく、
また1回の
感染者数が徐々に増加していること
服薬での錠剤数が多いことや、副作
務はありますか。
が 本 制 度 設 立 の 背 景にあります。
用や相互作用の発現率が高率であり、
木平 最近はエイズを発症してから
HIV感染症の特殊性とは、現時点で
しかも重篤になりやすいことが挙げら
受診される患者さんが増えています。
は治癒できない疾患であるため生涯
れます。患者さんが治療に向き合える
発症までの間に、他の人に感染する
にわたって継続的に抗HIV薬を服用
ような環境をつくり、服薬管理をしっか
危険性も高まるため、
この状況は極め
しなければならないこと、
しかもその薬
り行う。そして感染拡大を防ぐ。その
て危険といえます。そこで、感染予防
物療法は極めて厳密に行われなけれ
ためには薬剤師が専門性を持って関
に取り組むことも薬剤師の非常に大き
わることが不可欠なのです。
な役割だと考えています。
広島大学病院 薬剤部長
木平 健治 先生
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ばならないことです。適切な服薬方法
その他に、薬剤師が担うべき任
他の医療従事者に対する情報
畝井 このHIV感染症専門薬剤師
提供という点でも、その役割は大き
制度では、申請資格として保険薬局
いのでしょうか。
に勤務する薬剤師も対象としています。
木平 そうです。HIV感染症の治療
外来患者さんの継続治療では薬局
チームには、
ソーシャルワーカーや臨
薬 剤 師との連 携 が 不 可 欠ですが、
床心理士なども加わっています。薬物
予防においても、保険薬局と連携して
療法は日進月歩ですので、薬剤師が
地域へ知識を広げていくことが大切
学会などから得た情報は常に他のメ
です。
ンバーに提供していかなければなりま
木平 また、学校薬剤師が小中学校
せん。
などでHIV感染症についての正しい
畝井 抗HIV薬の場合、認可までの
知識を伝えるための仕組みも、専門薬
時期が短いため、発売後に見つかる
剤師が中心となって考えていかなけ
副作用もあります。そのような情報をい
ればいけないと思います。感染拡大を
防ぐために、薬剤師全体の知識レベ
の 基 本 的な知 識を
療 開 始 時 期の決 定
ルの底上げをする役割も求められると
学ぶことも大切です。
はもとより、副作用や
思います。
不幸な歴史を背景に
耐 性ウイルスによる
持った疾患であるこ
治療変更などについ
とを学ぶことは、
この
ても薬 剤 師として専
疾患を考える上でも、
門性をもってディスカ
生物学的製剤を扱う
ッションできることが
概要をお教えください。
上でも不 可 欠です。
求められます。それ
木平 「HIV感染症薬物療法認定
治 療 薬にしても、今
がひいては 感 染 拡
薬剤師」を取得後に「HIV感染症専
使われているものだ
広島大学病院 薬剤部
大の防止につながる
門薬剤師」へとステップアップする流
けでなく、
その変遷を
畝井 浩子 先生
のだと思います。
れです。
「過渡的措置によるHIV感染
知っておくことも薬剤師として大事なこ
木平 HIV感染症は、正しい知識を
症専門薬剤師」が中心になって制度
とですから、総合的に勉強していただ
多くの人が身につけていれば予防で
を運営し、
平成21年中に認定薬剤師、
きたいと思います。
きる疾患です。そのためにも、認定を
HIV感染症専門薬剤師制度の
概要と今後の展望
HIV感染症専門薬剤師制度の
本制度の今後の展望や、専門
受けた薬剤師が地域における指導
薬剤師、認定薬剤師に対する期待を
的役割を担っていただきたいと思いま
お聞かせください。
す。特に青少年に対しては、STD(性
主にどのようなことを学ぶことになる
畝井 患者さんの服薬援助を適切に
感染症)の一つとしてHIV感染症を
のでしょうか。
行うためには、
チーム内での情報提供
位置づけ、
その予防の重要性を訴え
木平 HIV感染症に対する理解を深
だけでなく、
カンファレンスにおいて、治
てもらいたいですね。
専門薬剤師の認定試験を行う予定
です。
研修施設での実技研修では、
め、単なる座学では得られないものを
学ぶために、入院中のHIV感染症の
患者さんに接していただきたいと思い
ます。また、研修施設となる拠点病院
表1:HIV感染症薬物療法認定薬剤師申請資格の要約
詳細は、
日本病院薬剤師会のホームページ(http://www.jshp.or.jp)
をご参照ください
日本国の薬剤師免許を有すること。
薬剤師としての実務経験が5年以上であり、関連学会員であること。
では、多職種によるチームが組織され
日本病院薬剤師会生涯研修履修認定薬剤師、日本医療薬学会認定薬剤師、薬剤師
ています。それぞれの職種の考え方
認定制度認証機構により認証された生涯研修認定制度による認定薬剤師、あるい
や患者さんへの関わり方を見ることも
は日本臨床薬理学会認定薬剤師であること。
大きな経験になります。
畝井 例えば抗HIV薬の副作用の
病院または診療所もしくは保険薬局に勤務し、HIV感染症患者に対する指導に引
き続いて3年以上従事していること。
日本病院薬剤師会が認定する施設研修においてHIV感染症関連の実技研修を16
一つであるリポジストロフィーは、脂肪
時間以上履修していること、または研修施設において引き続き3年以上、HIV感染
分布異常によって容貌が変わってしま
症患者に対する指導に従事していること。
う副作用であるため、個人の価値観
にも関わってきます。それによって服薬
を嫌がる患者さんもいらっしゃいます。
服薬援助では、
そのような精神的なケ
日本病院薬剤師会が認定するHIV感染症領域の講習会、及び「別に定める学会」
(表2参照)が主催するHIV感染症領域の講習会などを所定の単位(10時間、5単
位)以上履修していること。
HIV感染症患者に対する指導実績が30症例以上を満たしていること。
病院長あるいは施設長等の推薦があること。
アも考慮しなければなりません。診療
日本病院薬剤師会が行うHIV感染症薬物療法認定薬剤師認定試験に合格してい
で実際に直面する様々な問題を、研
ること。
修を通して学んでいただきたいと思い
ます。
木平 また、医療人としては“薬害エ
表2:日本病院薬剤師会が「別に定める学会」
●
日本医療薬学会 ● 日本薬学会 ● 日本臨床薬理学会 ● 日本エイズ学会
イズ”という問題を風化させないため
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