DNKリサーチ発 「RTRプロセスはマジックではない。」

#1521、2015年7月12日
今週の話題
RTRプロセスはマジックではない。
最近の私の仕事の関係で、フレキシブル・エレクトロニクスやプリンタブルエ
レクトロニクスに関係するセミナーや研究会などに出席することが多いのですが、
そこで必ず言及されるのがRTR(ロール・ツー・ロール)生産システムです。
そこで感じるのが、RTRシステムに対する大いなる誤解です。RTRプロセス
に対する期待値と実情の間には、あまりにも大きなギャップがあります。以前に
も何度か説明したことがありますが、ここで改めて実情をご紹介しておきたいと
思います。
多くの方々が抱いているRTRシステムのイメージは、一方からロール状の材
料が送り込まれると、ラインの反対側から製品がどんどん出てくる、というよう
なものです。しかしながら、私自身このようなRTRラインが安定して製品を製
造している例は見たことがありません。新たに自動RTRラインを構築したもの
の、トラブルだらけで、まともに稼働していない 例はたくさんあります。最初
にフレキシブル・デバイスと加工プロセスのアイデアがあれば、後は機械メーカ
ーが、しかるべきRTR製造ラインを作ってくれる、というほど安直なものでは
ないのです。
RTR生産システムは決して新しいアイデアではありません。日本のフレキシ
ブル基板メーカーの生産現場では、すでに30年以上の実績があります。ただ、
それは1日でできたものではなく、多くの試行錯誤、設備の改造の積み重ねの上
に構築されたものです。しかも、RTR設備自体の他に、これを運用するための
多くのノウハウがあって、ようやく安定した生産が得られるようなったのです。
それでも、RTRシステムが導入できたのは、工程の始めの方だけで、手がかか
る後工程は、依然として人件費の安い東南アジアや中国で、人海戦術でこなして
いるのが実情です。
誤解のひとつは、RTRラインでは、一旦プロセス条件が定まれば、後は安定
した生産性が得られる、というものです。残念ながら、フレキシブルな素材は、
硬い材料に比べて寸法安定性が悪く、幅方向、長手方向で物理物性が違っている
ということは、常識です。しかも、メーカーの品質管理が悪いと、生産ロットに
よって、物性がばらつくということもよくあることです。素材メーカーはこのよ
うな事実をあまり認めたがりませんが、厳然とした事実です。加工メーカーとし
ては、そのような事実を了解した上で、RTRシステムを設計、構築しなければ
なりません。
実際にRTRシステムを量産プロセスに導入するには、工程をユニットプロセ
スに分割しなければなりません。ユニットプロセスは、連続プロセスとステップ
プロセスに分けられますが、両者の間には、技術的な難易度に大きな差がありま
-1-
す。前者に含まれるプロセスとしては、エッチングなどの湿式プロセス、ラミネ
ーション、熱処理、無電解メッキなどが含まれます。後者には、パタン焼き付け、
印刷、穴あけ、パンチング、レーザー加工などがあります。後者は、処理するに
あたって、一時的にラインを停止しなければならないので、RTRラインの構成
はかなり複雑なものになります。よくあるRTRシステムのセミナーやテキスト
を見てみると、ほとんどが前者の工程に関するものばかりで、後者の工程につい
て触れているのは、ごくわずかです。最近のフレキシブル・デバイスを製造する
には、このステップ工程を、数回組み合わせなければなりませんが、各ユニット
工程間の整合性をえるために、技術的な難易度は格段に高くなります。このため、
多くのメーカーが工程の始めの方だけをRTR化して、後は材料をシートに裁断
して、個別に処理している、という現実があります。
一方で、何とかRTRラインが構築されても、案外製造コストの低減には寄与
してくれない、という現実があります。その要因として上げられるのが、RTR
ラインのフレキシビリティが低いことです。特に多品種少量生産への対応は大き
な障害になっています。RTRラインで小ロットの注文をこなそうとすると、生
産性を確保するために、量をまとめて処理し、仕掛かり在庫や製品在庫を持って
しまいます。私が見たあるフレキシブル基板メーカーの例では、実に売上の半年
分以上の仕掛かり在庫を工程中に抱えていました。これでは採算が合うわけがあ
りません。
RTR生産システムの問題点ばかりを挙げましたので、RTRシステムは使い
物にならないかのように理解されかねませんが、それも間違いというべきでしょ
う。RTRシステムはマジックではありません。しかるべきところに、経験に裏
付けされたエンジニアリングが付いていれば、RTRラインは絶大な能力を発揮
します。フレキシブル・デバイスをRTRラインで製造を考えているのでしたら
ば、期待値と現実のギャップをきちんと埋めてから、実際のRTRラインの設計
を進めることをお勧めします。
DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
(dnumakura@dknresearch.com) Haverhill, Massachusetts, U.S.A.
今週のヘッドライン
2015年7月12日
1.IPC(米国のプリント基板業界団体)6/29
5月における北米のプリント基板出荷額は、前年同月比で4.2%の減少。
年初からの累計では1.8%の減少。B/Bレシオは1.02で変わらず。
2.Flexium(台湾のフレキシブル基板メーカー大手)7/1
2015年はアップル社の iPhone6 向けの出荷が好調で、利益は大幅増。2
016年には、生産規模を一気に300%増強する計画。
3.Bishop & Associates(米国の市場調査会社)6/30
-2-
2014年における世界のコネクタ市場は、530億ドルにまで成長。この
10年間では、2009年を除き70%/年以上の成長率。
4.DIGITIMES(台湾の業界メディア)7/2
台湾の任天堂の委託先メーカーは、最近になって部品メーカーに対して、次
世代の機種用の部材の試作品の発注を開始。
5.A*STAR(Singapore の研究開発機関)7/2
3D印刷により、抵抗、インダクタ、コンデンサの受動部品を形成。熱可塑
性の樹脂を使用。
6.Ichia(台湾のフレキシブル基板メーカー大手)7/2
今年6月の出荷額は6億49百万台湾ドル。(21百万米ドル)前月比5.
4%増。前年同月比39%の減少。
7.Digitimes Research(台湾の市場調査会社)7/1
台湾のディスプレイメーカーは、パッシブマトリックスタイプの OLED で韓
国や日本メーカーに比べて優位に。ウェアラブルデバイスに活路。
8.Litecool(米国のパッケージ材料メーカー)7/2
LEDのパッケージ用に、金属銅の3倍の熱伝導性を持つ誘電体材料を開発。
アルミナの30倍の熱伝導性。1000W/mK
9.TUOI TRE NEWS(ベトナムのメディア)7/3
ベトナムでの携帯電話生産量は順調に増えており、2015年上半期の出荷
は1億台を突破。前年同期比で70%近い増加。
10.Nottingham Trent University(英国)7/3
糸の中に、RFID 用のチップを埋め込む技術を開発。ウェアラブル・エレクト
ロニクスの実用化への有力技術。
11.DIGITIMES(台湾の業界メディア)7/3
台湾の iPhone サプライチェーンに属するメーカーは、次世代の製品向けの
部品の出荷を開始。
12.LG Display(韓国のディスプレイメーカー大手)7/5
9000億ウォン(約8億米ドル)を投資して、新しいOLEDパネルの製
造ラインを建設へ。
13.BCG(米国のコンサルティング会社)7/6
-3-
中国の人件費が上がっている一方で、米国の生産性は向上しており、201
8年頃には製造コストが逆転すると予測。
14.DisplaySearch(米国の市場調査会社)7/6
世界のOLEDテレビの市場は、2015年の40万台から、2019年に
は700万台に成長と予測。LG Electronics が90%のシェア。
15.University of Michigan(米国)7/6
1mm の立方体に入るような、世界で最も小さなコンピュータを開発。親指の
爪のうえに150個ならべることができる大きさ。
16.Atotech(ドイツのプリント基板装置メーカー)7/7
中国の Guangzhou に、次世代のプリント基板、IC サブストレート、半導体製
造装置を供給する工場をオープン。
17.Digitimes Research(台湾の市場調査会社)7/7
今年台四半期における台湾の携帯電話の出荷は2082万台。前期比では1
8.6%の増加。前年同期比では1.6%の減少。
18.Microsoft(米国のソフトメーカー最大手)7/8
昨年 Nokia 社から買収した携帯電話部門を76億ドル減価償却。7800名
を削減の計画。
19.University of Manchester(英国)7/8
シリコンに替わる未来の半導体材料として黒燐に注目。数原子層で、グラフ
ェンと同様の半導体特性。
20.Cambridge University(英国)7/8
次世代の電子材料として、6ホウ素化サマリウムに注目。導体材料と絶縁材
料の両方の性質を持つ。
21.IDC(米国の市場調査会社)7/10
第2四半期における世界のPC出荷は6610万台で、前年同期比で11.
8%の減少。世界的縮小傾向に歯止めかからず。
22.ZD Technology(台湾の基板メーカー最大手)7/10
6月の出荷額は34.8億台湾ドル。(1億1223万米ドル)前月比5%
増、前年同月比3%増。
23.Foxconn(台湾のEMSメーカー最大手)7/10
-4-
2020年までに、インドに10〜12の工場を建設する計画。百万人以上
の雇用規模。
(注)このヘッドライン・ニュース・レターは速報性を重視するために、若干の
誤訳や数字の変換に誤りがある場合もございます。ご了承下さい。
DKNリサーチ
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DKNリサーチのイベントスケジュール
* 日本英学史学会本部例会 9月5日 拓殖大学
「宮城県米川村有美堂文書に見る、江戸時代蘭方医学書の変遷」
* 日本テクノセンターセミナー 11月30日
「高機能高密度フレキシブル基板の設計と携帯用電子機器、ウエラブル機
器、医療機器への応用」
* 洋学史研究会 12月6日 青山学院大学
「仙台藩米川村有美堂文書に見る、蘭方医学と伝統医学の融合過程」
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