北里大学医学部ニューズ CONTENTS 第12回医学部ニューズ写真コンテスト応募作品「雪だるま」 (華藤 誠さん) ■新春の挨拶………………………………………………………2 ■教授就任挨拶……………………………………………………3,4 ■教育委員長就任挨拶……………………………………………5 ■第40回北里医学会総会報告… …………………………………6 ■平成26年度墓前祭報告… ………………………………………7 ■平成26年度北里大学合同慰霊祭報告… ………………………8 ■第2回新世紀医療開発センターシンポジウム報告…………9, 10 ■黒川正治学術奨励賞受賞報告…………………………………11 ■炎症再生医学会優秀発表賞受賞報告…………………………12 ■平成26年度文部科学省科学研究費助成を受けて… …………13~15 ■M1・M2・M3号館耐震改修工事竣工について… ……………15 ■熊本小国町・農村体験実習について…………………………16~19 熊本小国町・農村体験実習を引率して 熊本小国町・農村体験実習報告 ■第1学年病院体験当直感想文…………………………………20 ■研究単位紹介 皮膚科学単位のご紹介………………………21 ■部活紹介…………………………………………………………22 2015.1 No.354 新春の挨拶 医学部長 東 原 正 明 (教授・血液内科学) 謹んで、新春のお慶びを申しあげます。本年の抱負を 学の施設として運営され、 「チーム医療」を推進させます。 述べる前に、まず昨年を振りかえりたいと思います。一 研修医・助教の居室、300名を収容するオーデイトリウム、 般入試の受験志願者は2,280名と過去最高の数でありまし 図書館、スキルスラボ、セミナー室、医学部5・6年生の た。入学生119名のうち、指定校推薦枠の38名、また相模 自習室、健康管理センター、そして1階には学生・教職員 原市修学資金枠の1名が含まれます。これは医師免許取得 の食堂が設置されます。学生・研修医・指導医(専門医) 後、一定期間、相模原市内の指定医療機関に勤務すること による屋根瓦方式の教育を構築し、卒前・卒後教育を通じ が返還免除の要件となります。医師国家試験の新卒合格率 て一貫した臨床教育を展開する必要があります。この全学 は97%でした。東医体では、参加36校中、総合9位という 臨床研修センターは、その具現化に非常に重要なハードを 素晴らしい成績を得ることができました。男子硬式テニス 提供することになります。 部と女子ゴルフ部が団体優勝しました。 新医学部教育研究棟は、東京オリンピック開催(平成32 3.11東日本大震災以来、老朽インフラの問題は切実であ 年)の影響で工費が上がり、工期が遅れますが、開催年に りますが、昨年8月に開始した耐震工事(M1,M2,M3棟) は着工がなされる様に努めたいと思っております。この平 が12月に終了しました。昨年1年間に16名の教授が誕生し 成32年(2020年)は「はやぶさ2号」が地球に帰還する年 ました。教育単位の主任教授としては、浅利靖教授(救命 であり、北里大学医学部にとっては創立50周年の記念すべ 救急医学)、天羽康之教授(皮膚科学)、辻尚利教授(寄生 き年、また節目の年でもあります。 虫学) 、林俊治教授(微生物学)、武田啓教授(形成外科・ 以下、教育、研究、診療における本年の抱負を簡潔にま 美容外科学) 、堀口兵剛教授(衛生学)が就任されました。 とめます。 医学部附属遺伝子高次機能解析センター長の兼務をお願い 【教育活動】 国際認証受審のために昨年立ち上げたワーキ している実験動物学単位に佐藤俊哉教授が就任されまし ンググループの報告を受け、本年は臨床実習期間を72週に た。医学教育研究開発センターは、新たに設置した2つの 近づけるために講義時間短縮(コマ数の増加)とカリキュ 部門を加え7部門よりなります。医学情報教育研究部門に ラム内容の再考を急ぎます。発足2年目を迎える「医学研 竹内昭博教授、東洋医学教育研究部門に花輪壽彦教授が就 究入門3」においては、学生の研究マインドの涵養を目指 任されました。医学部附属センターとして新しく新世紀医 します。 療開発センターが平成25年5月に開設されましたが、16~ 本年の教育重点事業項目として、5項目をあげたいと思 20の部門が設置される予定です。この一年間で、先端医療 います。1)屋根瓦方式の臨床教育スタイルの構築、2) 領域開発部門の低侵襲光学治療学に田邉聡教授(消化器内 系別総合講義に「腫瘍学」に加えて「血管学」の新設、 3) 科専門医) 、神経耳科学に長沼英明教授(耳鼻咽喉科専門 語学エリート育成のプロジェクトの立ち上げ、4)医師国 医) 、 小児外科学に田中潔教授(小児外科専門医)、臓器移植・ 家試験新卒合格率100%達成、そして5)海外選択実習へ 再生医療学に吉田一成教授(泌尿器科専門医)、横断的医 の参加の推進です。 療領域開発部門の集中治療医学に新井正康教授(麻酔科専 【研究活動】 経済的基盤確保に努めます。研究資金の管 門医)が就任されました。また、北里メディカルセンター 理・運用の適正化、治験の活性化も重要です。倫理委員会 (KMC)では耳鼻咽喉科・大木幹文教授、救命救急医学・ は、運営委員会を基軸として各委員会が機能します。新た 上條吉人教授、北里研究所病院では呼吸器外科・神谷紀輝 なHPもオープンします。北里大学医学部付属臨床研究セ 教授、泌尿器科・入江啓教授が誕生しました。 ンター(KCRC)の組織の整備と強化も含め、確固たる研 念願の新大学病院が平成26年5月7日に開院しました。 究倫理のもとに研究が遂行できる体制づくりが急務です。 12月には東病院から外科、整形外科、消化器内科の教員も 【診療】 医学部と4病院との意思疎通、情報交換に努め、 医学部・新病院に移動しました。教員の居室スペースはか 臨床研修の質を充実させます。今春、KMCでは5名の研 なりタイトであり、新医学部教育研究棟が建設されるまで 修医、研究所病院では3名の研修医が誕生し初期研修を開 はご不便をお掛けしますこと、ご容赦頂きたいと思います。 始します。KMCでは、医師は出向ではなく医学部教員の 東病院は、本年の前半期に改装工事を行い、新しい機能を 身分で、医師職を兼務する体制に変わります。女性医師の もつ東病院として生まれ変わります。 勤務環境をさらに改善させるための委員会も立ち上げたい 全学臨床研修センター(仮称)も基本設計が理事会で承 と思っております。 認され、平成29年7月竣工の予定です。このセンターは、 本年も医学部の目標達成とさらなる発展のために、医学 冒頭に「全学」の名称が付いております通り、医学部・病 部教職員、そして同窓会・けやき会・PPAの皆様方のご 院のみならず、看護学部、医療衛生学部、薬学部など全 協力、ご支援をお願い申し上げます。 − 2 − 教授就任挨拶 佐 藤 俊 哉 (教授・実験動物学) このたび、平成26年11月1日付で北里大学医学部実験動 核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)のモデルマウス 物学単位の教授を拝命いたしました。私は、神奈川県立湘 作成に挑みました。この時、勝木元也教授(当時:九州大 南高校を卒業し、大学入学前まで茅ヶ崎市に住んでおりま 学生体防御医学研究所附属発生工学実験施設)の研究室で したので、31年ぶりに神奈川県民に戻ることになりました。 訓練を受け、平成11年にDRPLAモデルマウスの開発を成 この神奈川の地で、若い頃に思い描いた理想に再び挑戦し 功させました。DRPLAマウスは、ゲノム構造を維持した ながら、北里大学の発展のために努力したいと考えており ヒト変異型DRPLA遺伝子全長を単一コピーで導入したマ ますので、何卒宜しくお願い申し上げます。 ウスで、敢えて時間がかかる方法で作成したものですが、 私は、生まれ故郷にある愛媛大学医学部に入学し、のど 良い疾患モデルを作成するためには『急がば回れ』の精神 かな瀬戸内式気候の中で、6年間バスケットボールに明け が必要であることを学びました。 暮れる日々を過ごしました。当時の愛媛大学には、神経内 このように、私は神経内科医として臨床に従事しながら、 科学を学ぶ環境が整っていなかったのですが、神経内科学 神経難病の治療法を開発するため、平成4年より一貫して の特別講義に感銘を受け、平成元年に東京医科歯科大学神 神経変性疾患モデルマウスの開発をテーマに研究を進めて 経内科学講座に入局しました。のどかな気候でのんびりと 参りました。平成14年からは、同年に新潟大学動物実験施 生活したためか、都会での生活には苦労も多かったのです 設の初代教授になられた佐藤徳光教授のもと、研究と施設 が、塚越廣教授の優れた臨床を経験したことは、今でも研 運営の両立を目指すことになりました。助手として施設教 究のモチベーションにつながっております。 員となった理由は、当時の動物実験施設に強く望まれてい 2年半の臨床研修後、新潟大学脳研究所から移られた宮 た、発生・生殖工学的支援ができるように施設を変革し、 武正教授に師事し、この出会いが、神経疾患モデル開発を 同時に施設の管理運営の次元を高める必要があると考えた 志す契機となりました。家族性アルツハイマー病の原因遺 からです。幸いにして、平成15年からは発生・生殖工学分 伝子としてアミロイド前駆体蛋白(APP)が再発見され 野の第一人者であります横山峯介教授,平成25年からは笹 たのが平成3年2月であり、遺伝性アルツハイマー病モデ 岡俊邦教授の指導を受けることができ、約12年を要しまし ルマウスの作成を目指し、当時の最先端技術であるトラン たが、動物実験施設の基礎を固めることができました。少 スジェニックマウスを学ぶため、平成4年5月に武田薬品 し遠回りになりましたが、最近のゲノム編集技術の進歩を 工業株式会社(大阪)の客員研究員となりました。この研 目の当たりにしますと、最新技術に即応できるように、施 究所で初めて動物実験の教育を受け、研究に没頭する日々 設の基礎を固めることの重要性を改めて感じております。 を送りましたが、神経疾患モデル作成の難しさを思い知る 動物実験施設を発展させることは、自らの研究のみならず、 ことになりました。 大学全体を発展させる原動力になります。私は、これまで 宮武正教授の退官後、平成7年に新潟大学脳研究所神経 の経験を生かし、研究と施設運営の両立を目指すとともに、 内科学部門に移り、辻省次教授(現:東京大学神経内科) 志を伝えるべく、次世代への教育にも努めて参りますので、 の指導のもとで、遺伝性脊髄小脳変性症の一型である歯状 ご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。 − 3 − 教授就任挨拶 形成外科に魅了されて 武 田 啓 (教授 形成外科・美容外科学) 平成26年12月1日付で主任教授に就任いたしました。ど 形成外科的分野の知識と技術を身につけ、他科の先生方か うぞよろしくお願いいたします。一人ひとりのお名前を挙 ら信頼され、患者さんの期待にこたえることのできる形成 げることのできないほど、これまで本当に多くの方々に支 外科医を育てていきたいと考えています。また、近年形成 えられての就任であり、皆様にはこの場をお借りして心よ 外科を希望する女性医師の割合は増加しています。これま り御礼申し上げます。 で以上に女性外科医師を責任もって育てられるよう努力し 初代塩谷信幸教授にはじまり、内沼栄樹教授と歴史をつ ます。診療については各診療科の協力の下、チーム医療を ないできた北里大学形成外科単位・美容外科学単位も開設 実践し高いレベルの形成再建手術を行います。そしてすぐ から40年を迎えました。私は昭和60年産業医科大学医学部 れた技術を開発し世界に向けて発信していきたいと考えま を卒業し、ただちに北里大学病院の研修医として就職しま す。形成外科には大きく分けて腫瘍、外傷、先天異常、美 した。当時は、卒業して9年間産業医として働かない場合 容医療という4つの分野があります。 腫瘍では北里大学 は修学資金を返済しなければなりませんでしたが、同級生 でのみ行うことが可能な集学的治療を実践していきます。 と2人それを覚悟でやりたい道に飛び込んだのです。外科、 救命救急医療に不可欠な外傷形成外科や周産母子成育医療 整形外科研修ののち形成外科の研修を開始しました。平成 センターの一員として口唇口蓋裂や手足の先天異常の治療 7年に形成外科学講師となったのち、平成14年に横浜市立 も行っていきたいと思います。また高度な技術を要する美 港湾病院、平成17年に横須賀共済病院で新規に形成外科を 容医療の提供や健全な美容外科の普及に努めていきたいと 開設することができました。平成21年には准教授として大 考えます。研究については「再生医療形成外科学」という 学に戻り教育・診療・研究を担当しており現在に至ります。 概念を提唱し、オリジナリティが高く実用化につながる研 さて、私に与えられた使命は当然ではありますが教室を 究を推進したいと思います。とくに毛髪再生医療と顔面の 発展させることです。教育、診療、研究を通して最高水準 骨の再生に取り組むつもりです。 の形成外科・美容外科医療を提供すると同時に、相模原地 形成外科は1ミリの傷あとにこだわり、命にかかわらな 域の医療にも貢献しなければなりません。北里大学形成外 い手術も多いですが、時として人の人生をも大きく変える 科・美容外科学という共同体では、教室を発展させるとい 創造の外科学です。私はこの分野に魅了されてきました。 う定まった目標のもと、そこにいる一人一人が自分なりの 今でもこの道をやってきて良かったと思っています。そし 方法で貢献することが必要になります。その結果として共 てこれからは初心を忘れずに教室および北里大学の発展の 同体のエネルギーやパワーが大きくなるはずです。 ため一歩一歩進んでいきたいと思っております。「慣習の 私自身は以下のことを目標に考えています。まず教育で とりこになるな」をモットーに次世代への橋渡しをしてい すが、卒前教育では自発的に問題の解決を図れ、自分ので きます。ただこれらの目標は、皆様のお力添えなくしては きることを見極める能力を育てたいと思います。これから 達成できないものばかりです。今後ともご指導、ご支援を 厳しい医療の世界で仕事をしていくときに必ず必要である 賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。 と考えるからです。卒後教育では再建外科を基本に幅広い 形成外科・美容外科外来スタッフと − 4 − 教育委員長就任挨拶 三 枝 信 (教授・病理学) 平成26年10月1日付けで、医学部教育委員長を拝命いた 部に入学してきた新入生に、医師国家試験に合格する実力 しましたので、ご挨拶申し上げます。私は、4年前に医学 を養う責務があります。この司令塔を担ってきたのが教育 部教育委員会のメンバーに加わり、今日まで医学教育に携 委員会だと考えております。今後も、堤明純副委員長や多 わってきました。この短い期間ですが、昨今の医学教育は、 くの教育エキスパートの委員の先生方、及び事務方(大野 私が受けた見学型臨床実習(ポリクリ)時代とは随分様変 貴司課長、山上恭由係長、円谷賢一主任)と協力しながら、 わりしたことを肌で感じました。例えば、CBTやOSCEに 「変えるべき点は変える」という勇気と実行力のある教育 よる臨床実習開始前の基本的医学知識確認や臨床技能を重 委員会を構築していきたいと考えています。 視した教育法の導入、アウトカム(教育成果)やコンピテ さて、最近の医学教育で触れなくてはならない重大案件 ンシー(卒業時の出来上がりぶり)を指標とした医学教育 として、国際認証問題(通称2023年問題:日本人は、○○ の推奨などです。 ○○年問題という標語を好んで使います)があります。こ ところで、皆様は教育委員会の仕事内容をご存知でしょ れは、2010年9月に米国のECFMG(外国の医学部卒業生 うか?名前からして「教育に関することを取り扱う委員会」 に科せられる試験)機構が、「2023年から米国の医師国家 ということはお分かり頂けると思いますが、具体的には 試験には世界医学教育連盟の基準で認証を受けた医学部の 「・ ・・?」ではないでしょうか。先日、ある学生さんから「教 卒業生以外の受験は認めない」と、日本の複数の認証評価 育委員会って、何をする会ですか?」とストレートな質問 機構に突然通告した事を発端とします。まるで、幕末の黒 を受け、言葉に詰まりました。そういえば、私も学生時代 船来航の如く、 全国の医学部関係者は騒然となりました (最 は、当然のように存在する教育カリキュラムを淡々とこな 近は、やや落ち着きを取り戻したようです)。医学部でも、 すだけで、その作成過程には興味がありませんでした。教 井上優介教授を中心に国際認証に係わるワーキンググルー 育委員会の存在も知りませんでした。そこで、この場をお プが結成され、受審に向けた準備が進められています。こ 借りして、教育委員会の仕事内容を簡単に紹介させて頂き れに連動して、決して避けて通ることが出来ない問題があ ます。丁度、手元に、明日予定されている教育委員会の開 ります。適切な臨床実習週数の確保のためのカリキュラム 催通知がありますので、そこに記載されている協議事項を 改正です。先人の業と伝統を重んじる日本人にとって、改 抜粋します。 正・改革は大きな響きがあります。この問題には、石井正 ①平成27年度開講科目および科目責任者について 浩医学教育研究開発センター長とともに正面から突入し、 ②遅延証明書の取扱いについて 10年先を見据えた立派なカリキュラムを作り上げたいと思 ③欠席超過学生について います。 ④平成26年度第4学年CBT実施スケジュールについて Gordon Noel教授に、「日本の卒前臨床医学教育は、ま ⑤平成27年度第5学年白衣授与式について さにガラパゴスである」と、揶揄された日本の医学教育も などなど 新時代を迎えつつあります。この時代の流れに乗り遅れる これでお分かりのように、教育委員会は医学部教育に関 ことなく、卒業生が自分の受けた医学教育を誇りに思うよ する立法・行政(①④⑤)と司法(②③)に係わる内容を うな教育体制を構築したいと考えています。今後とも、ご 担当しています。学生さんには、なんとも煙たい委員会だ 指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します。 と思います。しかし、医学部教職員は、希望に満ちて医学 − 5 − 第40回北里医学会総会報告 北里医学会事務局 平成26年度の第40回北里医学会総会は、平成26年12月6 教授の司会のもと行われた。 日(土)に北里大学病院本館3階臨床講義室No.1・2に その後、休憩を挟み公開市民講座Ⅰとして「教授就任講 て開催された。ここ数年は地元医師会を中心とした近隣地 演」を行った。教授就任講演は浅利靖教授(救命救急医 域との連携・交流をより深めようと交通アクセスのいい相 学) 、林俊治教授(微生物学) 、岩村正嗣教授(泌尿器科学) 模大野駅前を会場に選定していたが、新装なった大学病院 にお願いした。公開市民講座Ⅱ・Ⅲとしては卒業生顕彰講 のお披露目も兼ねて相模原キャンパスを会場とした。周辺 演・招待講演を企画した。聖マリアンナ医科大学横浜市西 地域では本学医学部の卒業生も数多く開業しており、相模 部病院(一般・消化器外科)でご活躍中の國場幸均教授(本 原市、町田市を筆頭に近隣の医師会宛にもプログラムを送 学11回生)を顕彰、ご講演頂いた。大腸疾患に対する腹腔 付し公開市民講座への参加を募った。開催にあたり、本会 鏡下手術について、最新の手術工夫も含めて語って頂いた。 理事でもある大内孝文医学部同窓会長を筆頭とした医学部 同窓会関係者も聴講し、旧交を温めていたようである。 同窓会の皆様に紙面を借りて厚く感謝申し上げます。 本年の招待講演は金沢大学大学院医薬保健学総合研究 本年は例年通り、冒頭に評議員会・総会を開催した。平 科・医薬保健学域医学類循環医科学専攻血管分子科学教授 成26年度評議員会では「平成25年度収支決算報告」「平成 の多久和陽先生に「血管新生と血管バリア機能を制御する 27年度予算(案)」が承認され、 「平成25年度活動状況」 「平 新しい機能分子」のタイトルで、ご講演頂いた。 成26年度収支中間報告」および「平成26年度役員」が報告 学術集会担当の宮下俊之理事による閉会の辞の後、懇親 された。なお出席者は32名、委任状提出85名で、総数132 会が行われ、学内外の関係者と交流を深めた。 名の過半数を越えた。 総会は東原正明会長の「開会の辞」に続き、総会議事に おいては、総務担当の三枝信理事より平成25年度活動報 告・収支決算報告、平成26年度活動中間報告・収支中間報 告、平成27年度予算等の報告がなされた。 平成26年度北里医学会賞は、相原智子先生(膠原病・ 感 染 内 科 学) に 会 長 よ り 授 与 さ れ た。 受 賞 論 文 はThe Kitasato Medical Journal 2013; 43(2): 126-132 に 掲 載 さ れ た「Differential in vitro effects of biological agents on cytokine production of peripheral blood mononuclear cells」である。生物学的製剤のヒト末梢血単核球のIL-17 産生におよぼす影響に関する研究が編集委員会にて高く評 価された。西山和利編集担当理事の司会により受賞講演を して頂いた。引き続き平成26年度黒川賞を受賞された大久 保博世先生(外科学)の講演が黒川賞選考委員の鎌田貢壽 「平成26年度北里医学会賞」受賞の 相原智子先生(膠原病・感染内科学) と東原会長 「卒業生顕彰」で顕彰された國場幸均先生(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病 院教授・本学11回生)と東原正明会長 「公開市民講座Ⅲ−招待講演」多久和陽先生(金沢大学大学院医薬保健学 総合研究科・医薬保健学域医学類循環医科学専攻血管分子科学教授) − 6 − 平成26年度墓前祭報告 太 田 博 樹 (准教授・解剖学) 平成26年12月11日(木)、午後1時30分より、相模原市 くことになっており、そのいくつかは『医学部ニューズ』 南区当間の当麻山無量光寺境内にある北里大学医学部納骨 で号を改めて紹介できると思います。 堂前において「平成26年度北里大学医学部墓前祭」が執り 本年度の解剖学実習は9月1日よりスタートしました。 行われました。この日は、午前中に今年度の解剖学実習を 最初の1週目は骨学実習と骨学試験。その後9月8日より 終了した2年生全員によるご遺体の納棺、午後に墓前祭と 肉眼系統解剖実習を実施いたしました。3か月に渡り毎日 いうスケジュールで、墓前祭には2年生全員に加え解剖学 (水曜を除く)実施され、さらに神経解剖実習を終え、こ 担当講座教員と教務課職員が参列し、納骨を希望された11 の納棺が行われた12月11日に全過程を終了しました。人体 柱の納骨を行い、ご献体くださった諸霊のご冥福をお祈り 解剖は最先端の研究と比較すると、地味で敬遠されがちな し、感謝を捧げました。 分野です。このため野心的な学生にとっては時に退屈に感 式では、一同納骨堂に向かって礼拝を行った後、阪上洋 じられたこともあったかも知れません。実習を開始してか 行教授から挨拶がありました。今年一年を振り返り、前期 ら数時間は、脂肪組織と硬い結合組織に隠れた神経、血管 の解剖学講義での座学そして後期の解剖学実習での経験は、 を捜し出す作業の繰り返しです。メスとピンセットを握る 医学生として初めて人体に触れるということ以上に重要な 指が、それだけで痛くなってしまうほどだったでしょう。 意味を持つこと、そしてご遺体から教えていただいたこと、 しかし、こうした地道な作業を進めることで、教科書には 学んだことを生かし、医師になる努力を今後も惜しんでは 載っていない様々なバリエーションを発見することができ ならないことについて、学生諸君へのメッセージをいただ ます。教科書に載っている図譜は、ヨーロッパ系の人をモ きました。 デルにしているものがほとんどですから、日本人特有の特 続いてご住職による読経が行われました。その読経を背 徴にも気づくことがあったでしょう。さらには、隣の班と 景に22名の学生代表と関係教員による納骨が行われました。 比較して、それぞれの多様性にも気づいた場面もたくさん 読経が続く中、次に全員が数名ずつ納骨堂の前に歩み出て、 あったことと思います。こうした体験は、将来臨床の現場 設置された祭壇で真剣な面持ちでお焼香を行いました。そ に立って多くの患者さんに接するときに大いに役立つはず して例年通りご住職からのご法話をいただきました。この です。 納骨堂が建てられた頃から今に至る歴史についてお話いた 解剖学実習は、ご献体下さった方々の “死” を、実習を だきました。現在のご住職は三代目であり、毎年、学生諸 通じて将来自分達が接する患者さんの “生” へ橋渡しする、 君にご法話をいただいております。墓前祭のもつ歴史とそ その意識を体で理解し学ぶ教科です。実習を進めて行く過 の重要さを再確認させていただきました。 程で考えさせられた「死」、そして死から生へ「自らの力 最後に学生代表として小倉颯英さんが解剖学実習の感想 でその橋渡しをしたい」という真摯な想いはかけがえのな 文を朗読し、献体してくださった方々とそのご遺族に対し いものです。解剖学実習で学んだ命の育みを担う正義感と あらためて感謝の意を表しました。今年は雨模様で例年よ 使命感を忘れずに、これからも勉学に励んでいっていただ りも気温が低く、テントが貼られた状態での納骨でしたが、 けたらと思います。繰り返しになりますが、自身を立派な 途中で雨も上がり、雲の切れ間から日差しが覗くほどに天 医師に育てるために、献体して下さった方々、社会への感 気も回復し、一同さほど雨に濡れることなく無事終えるこ 謝の念を忘れずに、歩み続けもらいたいと願っています。 とができました。2年生は全員、解剖学実習の感想文を書 − 7 − 平成26年度北里大学合同慰霊祭報告 村 雲 芳 樹 (教授・病理学) 平成26年度北里大学合同慰霊祭が、10月30日(木)に 長を始めとする大学関係者、各学部の学生代表による指名 相模原市民会館にて執り行われました。ご遺族142名、招 献花が行われました。最後に、海野信也大学病院長が参列 待者15名、教職員127名、学生(医学部、看護学部、医療 者に対する謝辞を述べられ、参列者全員による一般献花が 衛生学部、薬学部、大学院生)493名、合計777名が参列し、 行われて、本年度の合同慰霊祭は滞りなく終了しました。 諸霊のご冥福をお祈りいたしました。 昨年度は、相模原市民会館が改修工事中であったため町 本年度の合同慰霊祭では、平成26年度の医学部第2学年 田市民会館で行われ、会場の収容人数の関係から、学生の の系統解剖学実習において、医学教育のために解剖させて 参列は医学部生のみに限らせて頂き、さらに、舞台スペー 頂いた43柱、平成25年7月~平成26年6月までの間に医学 スの制限のために慰霊の歌も行われませんでした。本年度 の進歩のために病理解剖をさせて頂いた51柱と、法律に は再び相模原市民会館を使用させて頂くことができ、学生 従って死因の解明のために法医解剖をさせて頂いた171柱、 は従来通り医学部2年生、医療衛生学部2年生、看護学部 合計265柱が対象となりました。最初に、阪上洋行教授(解 3年生、薬学部5年生が参列しました。さらに看護学部か 剖学)、三枝信教授(病理学)、栗原克由教授(法医学)が ら、昨年参加できなかった現4年生の学生も授業日程を調 諸霊のご芳名を拝誦した後、参加者一同が諸霊に対し黙祷 整して参列しました。全参列者の3分の2を超える多くの を捧げました。次に、東原正明医学部長が慰霊の言葉とし 学生が、諸霊に対する感謝の気持ちとともに献花を行った て、医学教育と医学の進歩のために解剖させて頂いたこと ことは、実行委員長として大変感慨深いものがありました。 への感謝の気持ちを御霊前で述べられました。引き続いて、 来年度の合同慰霊祭は、平成27年10月29日(木)に相模 学生代表として、本年度系統解剖実習を行っている医学部 原市民会館にて実施予定となっております。本年同様、多 第2学年の川島侑希子君が、解剖学実習のために御献体し くの教職員並びに関係者の皆様にご参列頂けますようお願 て下さいました諸霊に対して深い感謝の気持ちを述べ、将 い申し上げます。 来良き医師として医療に貢献する強い決意を御霊前で誓い 最後に、慰霊祭の準備・運営にご尽力頂きました事務職 ました。その後、グラーベ女声アンサンブルによる慰霊の 員の方々をはじめ、ご協力頂きました多くの関係者に深く 歌(曲目:亡き王女のためのパヴァーヌ、愛、赤とんぼ) 感謝申し上げます。 が捧げられ、そして、ご遺族代表、理事長・学長・医学部 慰霊の言葉を述べる東原正明医学部長 会場の様子 感謝の言葉を述べる川島侑希子君 − 8 − 第2回新世紀医療開発センター シンポジウム報告 長 沼 英 明 ⎛教授・新世紀医療開発センター⎞ ⎝ 先端医療領域開発部門 ⎠ 去る平成26年10月9日にボーノ相模大野、ユニコムプラ ホームページで、同研究所で行われた最先端の研究発表・ ザさがみはらにおいて、新世紀医療開発センターシンポジ 論文を専門用語の解読を加え、わかりやすく国民に説明し ウムが開催されました。北里大学医学部は、近年の多様化 ていることを知り、今回このような講演が可能ではないか する臨床医学に対応することが求められております。新世 という結論に至りました。 紀医療開発センターは、その要求に対応するために、専門 メニエール病の症状は非常に強い回転性めまいと、難聴 を深く追求する学問体系、また異なる複数の専門領域を密 をはじめとする耳鳴、耳閉塞感などの蝸牛症状を反復する 接に連結する横型の体系をそれぞれ体現し、本医学部にお というものであり、厚労省では難治性疾患に指定されてお ける将来の診療・研究・教育をさらに向上・発展させるこ ります。メニエール病の本態は内リンパ水腫という内耳に とを目的として設置されました。新世紀医療開発センター 内リンパ液が過剰に存在する病態であると考えられていま シンポジウムの目的は、一般に広く本センターを認知して した。また、最近の研究では内リンパ水腫は抗利尿ホル 頂き、前述の要求を果たすべく、北里大学における診療の モン(Vasopressin: VP)により誘導されることが報告さ 新たな方向性を示していくことにあります。 れています。VPは精神的、肉体的ストレスにより分泌が 第1回シンポジウムは、横断的医療領域開発部門臨床腫 亢進します。またメニエール病の発症の誘因として精神的 瘍学、佐々木治一郎教授が中心になり行われました。第2 ストレスが関与していることを日々の診療で臨床家は感 回である今回は先端医療領域開発部門神経耳科学が担当さ じとっています。ここでキーワードになるのがVPであり、 せて頂くこととなり、「耳(内耳)からくる『めまい』“メ このVPの分泌を抑制することがメニエール病の発症の予 ニエール病” —北里大学ではこうして治療します—」と題 防になることが想定されます。またVPの分泌を亢進させ して講演させて頂きました。 る要因は脱水とストレスであることが知られていますので、 シンポジウムの開催にあたり、新世紀医療開発センター このVPの分泌抑制には十分な水分の摂取とストレスの軽 長・呼吸器内科学主任教授、益田典幸先生に、本シンポジ 減が考えられます。 そこで考えられる具体的な治療法が 「水 ウムの目的・内容を開会の挨拶としてご紹介頂き、また北 分摂取療法」ということになります。ただし、VPが内耳 里大学病院・北里大学東病院統括病院長、海野信也先生に、 にメニエール病の原因を本当に作るかどうかを確認する必 本センターの設置目的・名称の由来などをご説明頂きまし 要があり、平成12年から生理学の河原克雅教授の指導を受 た。座長の労を、新世紀医療開発センター・先端医療領域 け、基礎研究(動物実験)を開始いたしました。 開発部門 田邉聡教授がとられました。 メニエール病の症状は回転性めまいと難聴でありますが、 講演1として、落合敦耳鼻咽喉科・頭頸部外科学診療講 動物実験でめまい感を定量的に測定することが困難なため、 師が「メニエール病の概要」と題してその歴史的背景、疫 難聴に絞って研究を進めることになりました。以下に研究 学、症状などを十分に時間をとって説明致しました。引き の概要・経過を示したいと思います。 続き小生が講演2として「メニエール病の基礎と臨床」と 1)VP投与動物モデルでメニエール病の症状である難聴 題して、当科におけるメニエール病の治療法とこの治療を が起きるか? 開発するための基礎研究について講演致しました。 実験動物はラットを用いました。ラット腹腔にVPを注 東病院神経耳科において行っていますメニエール病に対 射して聴力を測定します。聴性脳幹反応(ABR)という する治療は「水分摂取療法」という名称を付けさせて頂い 脳波を用いた聴力検査を行い、VPにより聴力が低下して ております。この名称のみを聞きますと何やら民間療法の いることを確認しました。 類いと思われがちですので、本シンポジウムで同治療法は 2)実験に用いた投与量のVPで内リンパ水腫が生じるか? 動物実験などの基礎研究の結果開発されたものであること 以前の報告で、VPを過剰に投与すると、内耳に内リン を知って頂き、また現在の当科の患者さんや将来の患者さ パ水腫が生じることが報告されていますが、その投与量は んに少しでも本治療法の意味(メカニズム)を知って頂く 非常に多量であるため、少しでも臨床に近い量を投与しま ことなどが小生の講演の主な目的でありました。本項をお した。その結果、このVPの投与量ではこれまでの報告と 借り致しまして、講演の内容の一部を述べさせて頂きます。 は異なり、内リンパ水腫は生じませんでした。それでは、 当日の講演では、非常に専門的な内容を一般の方々にお話 VPによる聴力低下のメカニズムは何かという疑問が生じ して理解して頂けるか?という懸念もありました。しかし ます。 我が国の最高レベルの研究所である理化学研究所ではその 3)VPによる聴力低下の責任病巣はどこか? − 9 − 臨床的に内耳の障害による聴力低下の原因を考える場合、 しました。このことは臨床的に考えますと水分が足りない 特に聴力低下が治療によって改善する時には、その責任病 (脱水状態)場合は、ストレスにより脳下垂体後葉からの 巣として第1に考える部位は内耳蝸牛の血管条と言われて VPの分泌が亢進すると聴力低下が起こりやすくなること います。血管条は蝸牛が音を感じるためのエネルギーを創 を意味します。 り出す発電機の役割を担っています。同量のVPをラット 以上の研究結果がベースに存在し、水分摂取療法が行わ の腹腔に投与して血管条の形態変化を調べてみました。そ れております。説明が大変長くなり申し訳ありません。現 うしますと、血管条機能を構成する主な細胞のうちの一つ 在はこの研究をもとに次の研究を開始しました。前述の理 の中間細胞に細胞内浮腫と考えられる液胞が形成され、同 化学研究所(和光)の発生神経生物研究チーム(RIKEN 細胞の機能が低下していることが推定されました。中間細 Brain Science Institute)との共同研究により精神的スト 胞は血管条構成細胞の中でも最も発電に寄与している細胞 レスによるメニエール病発生のメカニズムの解明をめざし、 と考えられています。 “小胞体ストレス” をキーワードに研究を続けております。 4)VPにより血管条機能の1つである発電能力は低下し 最後に本シンポジウムの締めくくりとして、北里大学東 ているのか? 病院病院長、菊池史郎先生が閉会の挨拶をされ、東病院神 次にVPにより血管条中間細胞に細胞内浮腫が生じてい 経耳科の活動を含め御説明・総括をして頂きました。また るとすればその部位の組織酸素分圧が低下していることが 本シンポジウムの開催を一般に広く知らせるために、各種 想定されます。そこで同量のVPを腹腔内に投与すること ホームページ、神奈川中央交通路線バス内の電光掲示板で により蝸牛外側壁(血管条を含む組織)の組織酸素分圧を の広報、小田急線町田駅・相模大野駅用、北里大学病院・ 測定しました。その結果、VPの投与で有意に同組織の酸 東病院用のポスターの作成と交渉作業等、事務の方々が、 素分圧が低下することが確認され、血管条の発電機能(中 大変ご苦労されました。その結果、本シンポジウムには総 間細胞の機能)が低下している可能性が示唆されました。 勢191名もの方々にお越し頂きました。この場をお借りし 次にこの発電機能のVPによる変化を調べました。この て、厚く御礼申し上げます。 発電機能は、蝸牛内リンパ電位(Endolymph potential : また第2回シンポジウムに対する聴衆の方々を対象とし EP)を測定することで確認できます。前述と同量のVPを たアンケート調査の結果も、専門的内容にも関わらず、概 ラットの腹腔内に投与しますと、EPはある程度低下しま ね良い?評価を頂きましたことにほっとしております。こ すが、有意な低下は認めませんでした。そこでVPの効果 の度は大変有り難うございました。 を増幅する目的でラットに脱水負荷(飲水制限)をあらか じめ加えた状態でVPを投与すると今度はEPは有意に低下 講演をする長沼英明教授 講演をする落合敦診療講師 − 10 − 黒川正治学術奨励賞受賞報告 大久保 博 世 (助教・外科学) この度は、黒川正治学術奨励賞という大変名誉ある賞に ischemia/reperfusion injury」として2014年8月PLos Oneに 選出していただきありがとうございました。4年間の大学 掲載されております。大学院の研究は、progress meeting 院の研究の総括として、本賞を受賞できたことは大変光栄 で同僚の研究の進捗状況を聞くことにより、自身を奮起さ に思っております。また、研究する機会を与えて下さいま せることができ原動力となりました。臨床に復帰してから した外科学渡邊昌彦教授、新世紀医療開発センター平田光 は、週1回の研究日と限られた時間でしたが、同グループ 博先生、研究に際して御指導を頂いております薬理学馬嶋 で研究を行う大学院生である古城先生から刺激を受けまし 正隆教授、外科学伊藤義也先生、消化器内科学南野勉先生、 た。何れにしても、一個人で成し得たものではなく多くの 実験に御協力頂いている皆様、同僚の先生方、御理解を示 方々の協力なしにはあり得ませんでした。 して頂いている外科学教室の皆様にこの場をお借りしてあ 現在、私は横浜東部地域の中核病院である済生会横浜市東 らためて謝辞を申し上げる次第です。 部病院外科(血管外科)に所属しています。血管外科は、 受賞論文は、マウスの肝臓虚血再灌流障害モデルに 腹部大動脈瘤や閉塞性動脈硬化症などの外科手術や血管内 おいて肝再生におけるマクロファージの関与を証明し、 治療、静脈瘤のレーザー治療、シャント関連の治療等を専 「Leukotriene B4 type-1 receptor signaling promotes liver 門とします。30万人以上とも言われる透析患者数の増加と repair after hepatic ischemia/reperfusion injury through ともに、患者数も増加しつつある分野です。ところで、大 the enhancement of macrophage recruitment」として2013 学病院では新病院の開院に伴い、所属していた外科学血管 年8月FASEB journalに掲載されております。同内容は、 外科部門は心臓血管外科学血管外科部門となり、大学にお 2013年の日本ショック学会においてYoung Investigator's ける血管疾患は心臓血管外科に集約されます。そのため私 Award(YIA)に選出され、2014年6月にChalotte、North 自身も所属変更となりますが、宮地鑑教授には御理解、御 Carolinaで 開 催 さ れ た37th Annual Conference on Shock 支援いただけるとのことで深く感謝しております。今後も で発表することができました。更に、VEGFR1シグナルの 研究を継続し、さらに臨床に関してもより多くの結果を残 関 与 を 証 明 し、 「VEGFR1-positive macrophages facilitate せるよう邁進していきたいと思っております。 liver repair and sinusoidal reconstruction after hepatic 2015.1 No.354 − 11 − 炎症再生医学会優秀発表賞受賞報告 博士課程 鎌 田 真理子 (腎臓内科学・医療系研究科) 私は医療系研究科の大学院生として薬理学単位にお世話 ルである一側尿管結紮(UUO)モデルを作製しました。 になっています。専門は腎臓内科学で、腎疾患患者の診療 UUO腎では、拡張した尿細管の上皮細胞がLTを産生する にも従事しています。この度、第35回日本炎症・再生医学 酵素である5 -リポキシゲナーゼ(5-LOX)の産生を増やし 会(2014年7月1日~4日、沖縄)で、演題「マウス一側 て、LT類の産生が増加することが示されました。野生型 尿管結紮(UUO)モデルにおけるLTB4-BLT1受容体シグ マウスとBLT1受容体ノックアウトマウス(BLT1-/-)の ナルの腎間質線維化増強作用」を発表し、優秀演題賞を頂 腎間質線維化を比較したところ、BLT1-/-のUUO腎では、 きましたのでご報告させて頂きます。 野生型に比べ有意に腎間質線維化が抑制され、腎線維化に 慢性腎臓病は、基礎疾患に関わらず、進展の過程で腎間 かかわるとされるマクロファージや線維芽細胞の数も減 質線維化という共通の機序により末期腎不全に至ると考え 少していました。次にその機序を明らかにするために、in られています。末期腎不全になれば透析療法、又は腎移植 vitroの実験を行い、マクロファージや線維芽細胞をLTB4 が必要となり、患者さんのQOLは著しく低下します。また、 で刺激すると、線維化促進増殖因子(TGF-β,FGF-2) 腎機能が悪くなると、心血管病のリスクが上昇します。日 やコラーゲンの遺伝子発現が増加しました。これらの結果 本では、慢性腎臓病の有病率は成人の約13%とされ、年間 は、LTB4-BLT1シグナルは、マクロファージや線維芽細 に約6,500人が新規に透析療法を開始されています。アン 胞に線維化促進増殖因子(TGF-β,FGF-2)やコラーゲ ジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシ ンの産生を亢進させて、腎線維化を進展させることを示唆 ンⅡ受容体拮抗薬(ARB)といったRAS阻害薬は、腎線 しています。 維化抑制作用がありますが、中等度まで進行した腎不全は、 マクロファージや線維芽細胞が集積することにBLT1シ しだいに末期腎不全へと進行するのが現状です。 グナルが直接的に関わっているのか、異なる腎疾患モデル 臓器・組織の線維化は、臓器固有細胞や骨髄由来細胞と では、LTB4-BLT1シグナルがどの程度の割合で腎線維化 ケモカイン/サイトカンなどの生理活性物質が関与しなが に関与するのか、BLT1阻害薬や5-LOX阻害薬の投与で腎 ら進展します。生理活性物質であるロイコトリエン(LT) 線維化は抑制されるのかなど、興味は尽きません。臨床に は、好中球やマクロファージなど骨髄由来細胞の遊走を誘 役立てるためには何が必要か、よく考えて今後の実験を 導し、ケモカインやサイトカンの産生を亢進させます。肺 行っていきたいと思います。BLT1受容体拮抗薬は、関節 線維症では、肺内のLT産生が亢進しており、線維化の進 リウマチ、骨粗鬆症の予防や治療を目的に開発が進められ 展に関与していると考えられていますが、その機序はよ ています。BLT1受容体拮抗薬が腎線維化抑制薬としても く分かっていません。本研究は、腎線維化モデルを用い 働くことを期待して、今後の研究を進めたいと思います。 て、 ロイコトリエン B4(LTB4)-LTB4受容体type1(BLT1) 最後になりましたが、薬理学馬嶋正隆教授をはじめご指 受容体シグナルの腎線維化における役割を調べました。 導・ご支援いただきました諸先生方、研究室の皆様に、こ まず、マウスの一側尿管を結紮し、腎間質線維化モデ の場を借りて厚く御礼を申し上げます。 前列左から、東京都医学総合研究所 武富芳隆先生、筆者、順天堂 大学医学部生化学第一講座 横溝岳彦教授、薬理学 馬嶋正隆教授、 薬理学 天野英樹講師 後列左から、麻酔科学大学院生 松田弘美先生、消化器内科学 南野 勉先生、産婦人科学大学院生 関口和企先生 − 12 − 平成26年度 文部科学省科学研究費助成を受けて ~自己免疫疾患の本態に少しでも迫る~ 竹 内 康 雄 (准教授・腎臓内科学) この度、「p40phox siRNAによる好中球NET放出抑制が 獲得免疫に大別できます。SLEの発症、進展機序について 全身性エリテマトーデス(SLE)の進展に与える治療効果」 の研究は自己抗原提示 T, B リンパ球の過剰反応など獲得 のテーマにて科学研究費補助金をいただきました(平成26 免疫系の異常についての成果が中心です。最近、血管炎や 年4月採択) 。ここにご報告し、関係各位の皆様に感謝申 自己免疫疾患の発症に自然免疫の中心を担う好中球の関与 し上げます。 が大きいことがわかってきました。何かの刺激が好中球 私が腎臓内科、腎移植診療に携わって20年が経ちます。 に入ると自分自身のDNAを網の様に放出し(Neutrophil 当時は免疫抑制薬の種類が少なく、各薬物の投与量が多 Extracellular Traps: NETs) 、病原体を絡めて感染の拡散 かったため、腎炎、膠原病、腎移植後の患者さんにはステ を防ぐNETosisと呼ばれる現象が知られています。この ロイド薬や免疫抑制薬の副作用が多く見られていました。 際、自己核抗原やペプチド露出をきたすことより自己免 現在、新規開発された効果的な免疫抑制薬の多剤併用が行 疫の発症、増悪との関連が示唆されています。SLEでは われており副作用は改善されて参りました。しかし、免疫 このNETosisの異常が見つかっています。一方、好中球は 抑制薬の半永久的投与の必要性は変わりません。私の研究 細菌貪食後に食胞内でNADPH 酸化酵素複合体(NADPH テーマの根幹は、免疫抑制薬の投与なしに、免疫異常に起 complex)を活性化して活性酸素を産生し殺菌を行いま 因する疾患を治癒に導き、また移植臓器の免疫寛容を成立 す。NADPH complexは複数のsubunitの複合体で、この させることです。これまで動物実験を主体に、根治療法と NADPH complex活性化と活性酸素産生が、NETosis開始、 しての幹細胞移植療法の研究を行うことで、免疫異常の発 継続の重要な因子と考えられています。我々はNADPH 症機序についても合わせて検討して参りました。この流れ complex形成や活性化の調節因子と考えられている細胞内 の中で、同種骨髄移植において、効率よくドナー造血幹細 subunitであるp40phoxの発現制御にて好中球の貪食殺菌 胞を増殖させる工夫を行った実験モデルの研究にて平成22 作用を維持しながら、SLEに見られるNETosis異常を是正 年4月に科学研究費補助金をいただきました。 することを試みます。更にこの制御システムをヒトSLEモ 今回は、自己免疫疾患の代表であるSLEの発症機序に少 デルマウスに導入し治療モデルを作成する予定です。 しでも迫り、その結果を治療に結びつけることが目標で 本研究により自己免疫疾患の本態に少しでも迫り、有効 す。免疫反応は侵入抗原に対して迅速に、非特異的ではあ な治療手段の確立に少しでも寄与できればと思っておりま るが、初期消火に寄与する自然免疫と、反応まで時間はか す。困難なテーマではございますが、今後の研究に際し、 かるが抗原特異性を獲得し、ある特定の抗原のみを確実に 皆様からのご意見、ご協力を賜りたく、紙面をお借りして 狙い撃ちし、終わったあとは抗原情報を記憶しておける ご挨拶申し上げます。 − 13 − 平成26年度 文部科学省科学研究費助成を受けて 天 野 英 樹 (講師・薬理学) この度「縦隔リンパ節転移巣を制御するプロスタグラン び腫瘍リンパ管新生の増強(Biomed Pharmacol 2010)に ジンE2-EP3シグナリングの解析」が、科学研究費補助金 関与することを報告しました。 助成(基盤C)に採択されました。関係者各位に感謝をお まず我々は、予備実験で縦隔リンパ節転移モデルを用い 伝えしますとともに、ここに皆様にご報告いたします。 て、選択的COX-2阻害薬投与群で対照群と比較し、有意に 肺癌は肺に発生する肺上皮細胞由来の悪性腫瘍で、臓器 縦隔リンパ節転移の割合の減少及び縦隔リンパ節でのEP3 別で最も多い癌です。肺癌の治療方法には①外科的手術② 受容体の発現の低下を確認しました。これによりCOX-2ま 化学療法③放射線療法があり、5年生存率も改善傾向にあ たCOX-2由来のPGE2-EP3シグナリングがリンパ節転移に りますが、満足できる状況ではありません。肺癌患者の約 重要な役割を担っている可能性が高まり、これを仮説とし 40%が手術的適応で、残りの約半数以上の患者は既に縦隔 研究を始め、今回の研究課題を申請致しました。 リンパ節の転移を認め手術適応外であります。近年分子標 癌細胞は浸潤・転移する際、様々な免疫抑制分子を産生 的治療薬をはじめ、様々な治療薬が開発され臨床に使用さ して、癌に対する免疫応答に重要な樹状細胞の機能を阻害 れていますが、より有効な治療薬の出現に期待がかけられ し、免疫抑制の樹状細胞、免疫抑制性の制御性T細胞を誘 ています。 導し、転移に有利な免疫抑制環境いわゆるpre-metastatic 肺は血流、リンパが豊富な臓器で一旦肺癌が発生すると nicheを構築します(Kawakami et al.Cancer Cell 2009) 。 他の癌と比較し転移を来しやすく、特にリンパ節転移は肺 京都大学の成宮周教授からEP3受容体欠損マウスの提供を 癌の病期分類(TNM分類 T:原発巣,N:リンパ節転移, M: 受け、4年前から当時大学院生であった小川史洋助教(現 他臓器転移)にも含まれており、予後と密接な関係を持っ 在コーネル大学に留学)と江島耕二准教授(免疫学)と ています。リンパ節転移は癌細胞がリンパ管に侵入し、リ 共に縦隔リンパ節転移する際の免疫抑制性樹状細胞の役 ンパ節内で増殖した状態で、その際、血管内皮増殖因子 割に焦点を絞り研究を始めました。そこで我々は癌細胞 (Vascular Endothelial Growth Factor A=VEGF-A) の がリンパ節に到達する前にリンパ濾胞で産生されたCOX-2 ファミリーであるVEGF-C, VEGF-Dを産生し、リンパ管 由来のPGE2が免疫抑制性樹状細胞のEP3受容体を介し 新生を誘導しています。また近年、腫瘍組織中のVEGF-A, stromal cell derived factor-1(SDF-1) を 産 生 す る こ と VEGF-C及びVEGF-Dの発現の程度は予後と相関関係が認 でpre-metastatic nicheを形成し、その後にSDF-1のリガ められると報告されています。解熱鎮痛薬で知られている ンドであるCXCR4陽性癌細胞がリンパ節内に集積した後 アスピリンを長期間服用することで、肺癌や結腸癌の発症 VEGF-CとVEGF-Dを産生し、リンパ管新生を促進するこ 及び死亡リスクの減少を促進することが報告されました とを突き止め、先日Journal of Clinical Investigationに受 (Rothwell et al.Lancet 2011)。このことから、シクロオ 理されました。この研究より選択的EP3拮抗薬が縦隔リン キシゲナーゼ-2(COX-2)またはプロスタグランジンE2 (PGE2)が癌の浸潤、発育、再発に関与していることが示 パ節転移を抑制する可能性が考えられました。 今後、今回採択された研究費を用い更に詳細なメカニズ 唆されました。PGE2にはEP1-4の受容体があり、我々は ムを追求していきたいと考えております。今後とも御指導、 PGE2の受容体であるEP3受容体がVEGF-Aや VEGF-Cを 御鞭撻の程よろしくお願い致します。 誘導し、腫瘍血管新生(JEM 2003,Cancer Sci 2009)及 − 14 − 平成26年度 文部科学省科学研究費助成を受けて 齋 藤 亘 (助教・整形外科学) 今回は「経皮的脊椎圧迫骨折治癒促進シーズの探索」で が知られており、骨折部の偽関節化は患者のADLおよび 平成26年度文部科学省科学研究助成を頂き誠に大変うれし QOLが著しく障害されることに加え、介護にあたる家族 く思っております。今回助成を受けることが出来たのは私 の負担も増大させます。さらに、偽関節部の疼痛の悪化か の力ではなく、素晴らしい指導してくださった先生方と普 ら、医療機関への受診、入院後の手術療法を余儀なくされ 段から協力してくださっている教室の皆様のおかげであり る例も少なくありません。しかし、高齢者の手術症例では、 ます。本当にありがとうございます。 心不全、術後感染などの合併症の発生のリスクが高く、リ 私は、医師として10年間、主に大学病院と東病院で臨床 ハビリや入院の長期化など、患者の身体的苦痛に加え、患 を中心に勉強させてもらってきました。現在は脊椎外科医 者、家族の精神的苦痛、経済的負担につながります。そこ として診療にあたっています。日本では超高齢化に伴い、 で、脊椎圧迫骨折、偽関節治療を可能とする低侵襲椎体骨 骨粗鬆症に伴う脊椎圧迫骨折患者数は年々増加しています。 折治療法を開発すべく基礎研究に取り組むことにしました。 日々の診療においても対象となる患者さんが高齢化してき 私は2年前から臨床の合間を利用して基礎実験もさせて ていることを実感しています。80歳台の方に手術させてい 頂いており(主にマウスの骨折モデルを用いた研究です) 、 ただくことも少なくありません。高齢者における骨折は脳 基礎実験の重要さとその奥深さを改めて痛感している時期 血管疾患、高齢による衰弱に次ぐ寝たきり原因の3位であ でありました。その様な中、高齢者脊椎圧迫骨折後の骨癒 り、骨折後の死亡率は同年代の平均死亡率の約2倍になる 合率を高め、安静期間を短くするためにはどうしたらいい との報告もあります。高齢化の進むわが国の65歳以上にお か?というclinical questionの答えを探る実験を組めないか、 ける骨折治療に要する年間医療費の総額は約6,000億円と と考えたのが今回の研究に取り組もうと考えたきっかけで 推測されており、この額は65歳以上の年間医療費の約4% あります。冒頭にも書かせていただきましたが、私が臨床 を占めていると報告されています。従って高齢者の骨折治 の仕事を行いながらこのような基礎研究が可能なのは、研 癒法の確立は医学的、医療経済的、社会的に重要な意味を 究のサポートをしてくれている整形外科研究室の先生方と 持つと考えられます。 技術員の方のおかげです。また、基礎実験をしているとき 現在の骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折の治療のゴールドスタン に臨床をカバーしてくれている先生方のおかげでもありま ダードは保存療法であり、コルセットや骨粗鬆症薬を用い す。今回は科学研究助成を頂くことになり、改めてたくさん て一定期間の安静加療を行います。しかし、高齢者の安静 の方々に支えられて研究ができていることを再認識し、感 は、褥瘡の発生、痴呆の進行、廃用性の運動機能低下、誤 謝すると同時に、成果を出せるように努力していこうと決意 嚥性肺炎などを引き起こすリスクを上昇させる可能性があ を新たに致しました。今後ともよろしくお願いいたします。 ります。保存療法を行っても約15%は偽関節化すること M1・M2・M3号館耐震改修工事竣工について 平成26年7月6日より始りましたM1・M2・M3号館耐 震改修工事におきましては、目荒らし・アンカー打設・ スリット切断等の工事騒音で、学生並びに教職員の皆様 に多大なるご迷惑をお掛けいたしましたが、皆様のご理 解・ご協力のもと11月末に無事竣工することができました。 これで新医学部校舎完成までの間、万が一、東海地震 が発生したとしても、医学部校舎に倒壊の危険性は極め て少なくなりました。災害が起こった場合の大型什器や 機器からの身の安全の確保、避難路の確保、第1避難場 所(M5号館前広場)等はこれまでと変更ございません ので、あらためてご案内いたします。 ご協力ありがとうございました。 医学部M2号館耐震改修工事後 − 15 − 熊本小国町・農村体験実習について 齋 藤 有紀子 (准教授・医学原論研究部門) 2014年9月、北里柴三郎先生の故郷、熊本県阿蘇郡小国 ン草を束ねたり、栗の皮剥、木工、地元食材を使っての料 町(おぐにまち)に1年生30人が赴き、3泊4日の農村体 理を教えていただくなど、日頃できない作業をしながら沢 験学習を行った。学生たちは初日と二日目の午前中、木魂 山の会話を重ねていた。また、行き交う人が誰でも挨拶し 館(昭和63年、柴三郎博士の理念を次代につなぐ目的でつ あう土地柄や、近所の人と一緒に夕食をとる姿に、つなが くられた研修施設)で交流を深め、北里柴三郎記念館を見 り合う暮らしの大切さや、あたたかさを感じた学生も多 学し、阿蘇地域に最先端システムを導入することに尽力す かった。 る甲斐豊先生(阿蘇医療センター院長)のご講演を拝聴し 緊張していた学生を瞬く間に打ち解けさせてくださった た。地域住民の命を守る医療人の熱意を肌で感じたことと 受け入れ家庭のみなさま、正しい脈のとり方など初学者に 思う。 分かりやすい講演をしてくださった甲斐先生、日常業務を 二日目午後から2人ずつ15班に分かれ15軒の農家に滞在 割いて引率してくださった先生方はじめ、本実習に尽力く した。雨で屋外の作業をできない班が多かったが、ホウレ ださった方々に心からお礼申し上げます。 熊本小国町・農村実習を引率して 落 合 敦 (診療講師 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学) 大学院生の頃、毎年5月下旬に伊豆七島の小学校、中学 療されていました。地元の方々に耳鼻科の常勤が必要にな 校、高校の学校検診に行っていました。内科学的な検診は りましたら行きますので直ぐに連絡してくださいとお願い 新学期早々に行われ、体育の授業でプールが始まるのでこ しておきましたが、未だに連絡はありません。ある国際学 の時期に眼科と耳鼻科の検診が行われていました。当時在 会の帰りの飛行機で隣り合わせた東京医科歯科大学耳鼻咽 籍していた大学の耳鼻科医局の関連病院の1つに三楽病院 喉科・頭頸部外科学の角田篤信准教授のお話では常勤を置 があり、この三楽病院は東京都教職員互助会の病院である く程の需要はないとのことでした。そうこうしているうち ため、そこを経由しての派遣依頼だったようです(眼科は に平成25年10月の台風により甚大な被害を被り、胸を痛め 東京女子医大の先生方が派遣されていました)。遠方のた るとともに小心者の私はすっかりたじろいでしまい、伊豆 め泊りがけになるため、大学病院での勤務の束縛のない大 大島永住の夢は儚くも消え去ってしまいました。 学院生が派遣される訳ですが、進学して間もない頃のため 次はどこに永住の地を探すかといろいろ考えていた頃、 研究に燃えており、正直行きたくはなかったのですが、良 今回の小国町の引率のお話があり、このような機会がない い気分転換になるからと宥められ、また、公私にわたりお と学祖北里柴三郎先生の生誕地を訪れることはないだろう 世話になっていた医局長の頼みとあっては断れず行くこと と思い、また、地産地消の美味しい食べ物、温泉等の魅力 になりました。 的な情報もあり、まんまと釣られ行くことに決めました。 上級生の先輩方は学位論文の作成にお忙しいため派遣期 行ってみると伊豆大島同様、毎年行きたくなるような素敵 間の短い小さな島を優先的に選ばれ、私は残った伊豆七島 な時間を過ごすことができました。実習の内容は主役であ 最大の伊豆大島へ行くことになりました。派遣期間は4泊 る学生達に譲るとして、徒然草ではありませんが心に浮か 5日でした。しかし、行ってみると美味しい魚介類、温泉、 んでくることを特に定まったこともなく書いてみたいと思 島焼酎、そして交通渋滞のない穏やかな生活等に魅かれ、 います。 結局、その後3年間希望して伊豆大島へ検診へ行ってしま ○宿舎の裏の階段を降りると北里柴三郎記念館があり、2 いました。毎年行くため地元の方々とも知り合いになり、 日目の午前に見学に行きました。見学を終え、宿舎に戻 夜は浜辺で連日大宴会となり、それはそれは楽しい想い出 る際にメタボな私はその階段を昇るのはきついなと思い、 となりました。島には医療センターがあり、耳鼻科の診療 坂道の道路を歩いて行こうと歩き始めたら、その坂道は は週に2日、東京医科歯科大学の先生方がおみえになり診 意外と曲がりくねっていて想像したよりもかなり距離が − 16 − あることに気付き、やはり階段を昇ろうかと考えあぐね 方々が配膳してくださいましたが、ご飯とお味噌汁はセ ていたところ、見かけぬ人間がおろおろして道に迷いで ルフサービスでした。普段全くしないのに教職員の方々 もしたかと地元の軽トラのおじさんが声を掛けてくださ にお味噌汁をよそっていたら、誤って自分の手にかけて り、坂の上の宿舎の近くまで乗せてくださいました。こ しまい熱傷をしてしまいました。やり慣れないことはし のおじさんに限らず小国町の方々はとても親切な方ばか ないことだと思いました。それ以降は安全なご飯の盛り りでした。 付けに徹しました。 ○記念館見学の後、阿蘇医療センター甲斐豊院長より講話 ○小国町は小国杉で有名であり、杉の木が沢山立っていま を賜りました。甲斐院長は新世紀医療開発センター佐々 した。訪れたのは9月でしたので杉花粉のシーズンでは 木治一郎教授の熊本大学剣道部時代の先輩でいらっしゃ ありませんでしたが、あれだけ沢山杉の木が立っていれ り、佐々木教授のことを「あいつはいい奴なんだ。よろ ば花粉症でお困りの方々は多いのではと思いますので しく頼むよ」と仰っておられました。先日ある会で佐々 小国町で耳鼻科を開業し永住するのも良いかなと思い 木教授にお逢いした際にそのことをお話したところ「甲 ました。 斐先輩はいい人なんだよ」と仰っておられ羨ましい先輩 長々と取り留めもない話を書き連ねてしまいましたが、 後輩関係だなと思いました。 退村式にて教職員を代表して御礼の言葉を述べました。新 ○2日目の午後の受入式を終えると学生達は各ご家庭へ赴 北里大学病院が開院して間もないこともあり、新病院を紹 きいよいよ農村実習が始まりました。各ご家庭を訪問す 介する新聞の見出しに50年先を見据えて成長する病院と ると、猪に農作物を食べられてしまったという被害をよ あったことを述べました。その50年先の北里大学病院を担 く耳にしました。訪問するとお饅頭、とうもろこし、プ うのは小国町の方々にお世話になった学生達であり、また、 チトマト、お饂飩、飲み物等を頂いたりしましたが、頂 来年以降もお世話になる学生達であります。この度の貴重 くと後片付けもせず、さっさと次のご家庭に移動してし な経験を生かすも殺すも学生達次第でありますが、きっと まいましたので私達教職員も猪と変わらないのではと反 賢明な学生達のことですから生かして小国町の方々が期待 省しています。 してくださる良医となり、北里柴三郎先生の意思を継ぎ報 ○最終日の退村式に小国町の北里耕亮町長がご挨拶にい 恩してくれることを期待しています。 らっしゃいました。黒塗りの公用車ではなく、コンパク トながらも格好良い車をご自身で運転しておみえになり ました。とても親近感を覚えたのは私だけでしょうか。 ○滞在中はあまり天気に恵まれませんでした。急に降り始 めたかと思えば直ぐに止んだり、そして強く降り始める と雷が鳴ったりと傘が手放せない時間が多くありました。 北里柴三郎先生のあだ名は雷親父からドイツ語で雷を意 味するドンネルであったそうですので、私達教職員が引 率の仕事を怠けて食っちゃ寝ばかりしていることにお怒 りだったのかもしれません。 ○宿舎での地産地消のお食事はどれもとても美味しかった です。ご飯はある学生達がお世話になったご家庭で生産 されたものと伺いました。お料理は宿舎のお食事処の 北里柴三郎記念館見学の様子 熊本小国町・農村実習を引率して 宮 澤 理恵子 (病棟医・皮膚科学) 医学部1年生の医学原論演習において、今年で2回目と 9月上旬でしたが、小国町は標高300~800mの山地にあ なる熊本県阿蘇郡小国町農村実習が行われました。小国町 るため、少し肌寒い気温でした。町の面積の7割を山林が は本学の学祖である北里柴三郎先生生誕の地であり、豊か 占め、合間を流れる川沿いに田畑や集落が広がっており、 な自然・生命にふれ、共同生活を行うことを通して、「人 空気がおいしいというのが第一印象でした。 間性豊かな医師」の礎を築き、「農医連携」について学ぶ 木魂館という宿泊施設に到着後、学生たちは翌日から受 ことが目標です。 け入れ家庭に配属されるペア同士で他己紹介を行いました。 − 17 − 入学してまだ半年であったため、お互いをよく知らない学 しました。自宅の一部がスナック兼カラオケボックスなど、 生もいましたが、その後の夕食でバーベキューを行い少し ユニークな家庭もありました。初めての経験ばかりでとま ずつ交流を深めていきました。何種類もの肉が用意され、 どいながらも、学生たちは一生懸命参加していました。 とてもおいしくいただきました。 3日目は残念なことに雨が降り、作業ができない家庭も 2日目は北里柴三郎記念館にて北里先生の業績を改めて 多くありました。予定を変更して温泉や滝を見に行ったり 拝見し、身が引き締まる思いでした。その後阿蘇医療セン する家庭もありました。2日目に比べて皆互いに打ち解け ター病院長の甲斐豊先生に講演していただきました。甲斐 ており、学生たちからは親戚の家に遊びにきているような 先生は脳神経外科がご専門で、脳梗塞に対するt-PA治療 雰囲気を感じました。 に関し、わかりやすくお話ししてくださいました。阿蘇地 最終日、受け入れ家庭のご家族とともに集合した学生は、 域は脳卒中専門医が不在であり、t-PA治療が行われてお なんだかひとまわり大きくなったような気がしました。自 りませんでした。熊本大学へ搬送するにも平均47分かかる 然の豊かさ、人とのふれあい、地域医療の深刻さなど、本 ため、阿蘇医療センターでは熊本大学とともに遠隔診断を 実習で学んだことは多大なものであったことでしょう。学 行い、t-PA治療を開始し搬送するという連携を行ってい 力だけでなく、人間性も問われる医師という職業を目指す ます。地方出身の学生を中心に、地域医療に興味を持った 学生にとっては、非常に有意義な経験になったと思います。 学生も多かったようです。昼食後それぞれの受け入れ家庭 今後も本実習が受け継がれていくことを願ってやみません。 に配属され、農業、酪農、林業など、各家庭のお手伝いを 熊本小国町・農村体験実習報告 小国で学んだ大切なこと 第1学年 加 藤 莉 帆 今回の小国実習はとても充実した時間であったため、 の方々の日々の努力があってこそ食べることができるのだ あっという間の4日間に感じました。小国町に来て2日目、 ということを改めて感じました。 阿蘇医療センターの甲斐先生のお話を拝聴しました。非常 2日目はあいにくの雨のため、外での農作業ができず、 勤のお医者さんは40人ほど、常勤のお医者さんが4人しか ビニールハウスでの作業をお手伝いし、その後は小国町の いないという状況にあるというお話はとても印象的でした。 観光に連れて行っていただきました。農作業ができないの また、iPadなどで患者さんの状態を映しながら病院間で連 は残念でしたが、様々な場所で小国町の魅力を感じること 絡を取り合い、受け入れ準備を整えるという制度を導入し ができました。夜には、小林さんのお宅のお庭でバーベ ていることや、CTの画像等をiPhoneに送れるアプリなど キューをしました。食事の時間は会話が盛り上がり、昔お を利用していつでも患者さんのCTが見られるような体制 世話になられたお医者様の話や、延命治療に対する思いな をとっていることなど、最新の機器を有効活用し、医療に ど、経験談に基づく様々なお話をして下さいました。また、 活かしている様々なお話を聞くことができ、大変勉強にな 自分のために学費を払い、面倒を見てくれる両親への感謝 りました。 の気持ちを忘れず、お医者さんになったら親孝行をするこ 午後、小林さんご夫婦と対面しました。優しい笑顔の素 と、そして患者さんの気持ちを思いやって行動してくれる 敵なご夫婦で、私たちを暖かく迎え入れて下さいました。 優しいお医者さんになって欲しい、とのお言葉も頂きまし 小林さんのお宅はお米農家で、家の目の前に広い棚田が広 た。将来、患者さんと向き合う医師として働く立場として がっていました。また、自給自足のためにいくつか畑をお 心に留めておかねばならないお言葉だと思いました。 持ちで、無農薬の野菜などを作っていらっしゃいました。 短い間ではありましたが、この実習で得られたものはと 受け入れ1日目、私たちは畑の農作業を手伝わせていただ ても大きなものです。実際に小国町にいかなければ、食べ きました。長い時間作業をしていた訳ではないのに、すぐ 物の大切さや農家の方々の努力と知恵、地元の方々の優し に汗が出てきて、農作業の大変さを実感しました。私たち さなどは分からなかったと思います。大変有意義で実り多 がいつも当然のように食べている野菜は、このような農家 い実習となりました。 − 18 − 小国町実習を振り返って ~医師として求められるもの~ 第1学年 藤 原 夏 樹 今回私は、北里柴三郎先生誕生の地である熊本県阿蘇郡 ことを調べてみたりしようと思った。 小国町に赴き、その地元の方と共同生活を行うという実習 昼食後、いよいよ受け入れ農家の方と対面した。私を受 を行った。 け入れてくれた方は北里さんといい、林業を主として働い 小国町についた初日、私はスケジュールを確認したとき ている方だった。主に七段階の仕事のうち今回は「枝打 今日は特に何もすることなく終わってしまうのかと思って ち」という枝を人工的に切断するという作業を経験した。 いたが、実際に振り返ってみると意味があった日だという この作業をする理由は、節のない木材を作ること、地表に ことに気付いた。それは、皆の前で自分の今回の実習ペ 適当な光を当てることで下草を茂らせ土砂の流失を防ぐこ アだった人とお互いを紹介しあったこと、夕食のバーベ と、そして勿論一番大きな理由、目的としては良い木材を キュー、また大人数の部屋を共有することなどにより、ま つくることだ。私がこの作業の体験をした時間は短かった だ会話をしたことがなかった他のクラスの学生と交流をと が、斜面で転ばないよう踏ん張っているなどして結構な体 れたことだ。こうして人と関わり、他の人の価値観やもの 力を奪われ、大変な作業ということに気づき、普段私たち の考え方を知ることは、私が医師になった際患者とのコ が何気なく使用している木材で作られたものを丁寧に使お ミュニケーションをとるときに生きてくることだと考える。 うという気持ちが芽生えた。 2日目の午前中は北里柴三郎記念館の見学をした。この 夕食の時間になると私がお世話になったご夫婦のお隣に 記念館では、福沢諭吉やローベルト・コッホといった北里 住んでいる方々や、お裾分けに大根や栗を持って来てくれ 柴三郎先生の恩師にあたる方の説明や誕生から死去するま たご近所さんと共に食卓を囲んだ。小国町に住む方々は近 での一生を記載し展示していた。それらをみて、改めて北 所同士非常に仲が良く、よくある光景とのことだった。私 里柴三郎先生のすごさや学ぶことへの貪欲さなどを理解 はどちらかというと人見知りであり、知らない人がいる空 し、私も北里大学の医学生として見習い、一人でも多くの 間には積極的には入っていかない性格なので、今後知り合 人を救えるよう努力をしていこうと思いを新たにした。ま いを増やし、人付き合いについて学んでいくためにこの積 た、生家の一部を見学することにより、自分がどんなに恵 極的に人に関わっていく姿勢を見習おうと思った。 まれた環境で勉強に励むことができているのかを知り、そ さて、今回の実習を通し私に足りないと思ったことは、 のことに対し感謝の気持ちを持とうと思った。また見学後、 知識に対する貪欲さ、そして人と関わろうという心である。 阿蘇医療センターで働いている甲斐豊先生から脳卒中など 将来様々な価値観をもった患者の気持ちや考え方を知るた の医療の話や阿蘇医療センターの今の実態についての話を めには、第一に積極的に人と関わろうとし、今のうちから お聞きした。まだ医学の勉強に励んでいない1年生であっ 相手の気持ちになってものを考えてみること、そして色々 てもわかるように説明してくださり、非常に興味を引いた。 な発想をするためには様々な知識を取り入れることが大切 お話を全部聞いた後、私の地元の地域医療はどうなってい になってくるのではと考える。 るのかを調べてみたり、また脳卒中についてもっと詳しい − 19 − 第1学年 病院体験当直感想文 内 科 石 山 花 内 科 亀 山 雄 平 今回、最も心に残っているのは、救急外来の診察だ。そ 私は今回、神経内科で体験当直を行った。今までは患者 こで問診の大切さを実感した。担当だった龍華慎一郎先生 としてお世話になってきた病院であるが、体験当直では医 は、患者さんの細かい情報、例えば症状の出始めた時間や 師をはじめとする医療関係者の視点から患者さんに接した 食べた物など一つも聞き漏らさない。自分が診察を受ける り大学病院の雰囲気を体験したりすることができた。今回 時は何も考えていなかったが、先生の診察に注目している の当直では内科の診察、救急外来の診察、特別病棟の回診、 とこれが重要であることが分かった。こうして必要な情報 脳神経外科との合同カンファレンスに参加させていただい をパズルのように組み合わせていき処置を考える。知識に た。診察の前に担当医である北村英二先生が「医者と患者 加え、情報処理能力が求められると感じた。この日の診察 さんは対等な関係であることを決して忘れてはいけない。 」 では最終的に皮膚科の先生を呼んだ。このようなチームプ とおっしゃっていたのが印象的であった。今回の実習では レーも拝見できた。 先生の言葉に反応できなかったり、動くことがままならな 私は以前、病院ボランティアをしていたが、夜の病院の い患者さんもいらした。正直、見ていることも非常につら 様子を体験したのは初めてだった。しかし、夜も昼も変わ く、胸が痛くなった。 らず医師達は患者さんに最善の医療を提供していた。当直 医学部1年生は専門科目も少なく実際に医師や患者さん 体験を通して、多くのことを見て聞いて感じ、医師になる と関わる機会は少ない。しかし今回の体験当直で実際に医 ことの難しさを実感したと同時に、立派な医師になりたい 師や患者さんと接する機会をもてたことは非常に有意義で と強く思った。この初心を忘れず、これからも勉学に励ん あり、今後の生活に活かしていきたいと感じた。 でいきたい。 小児科 勝 海 愛 外 科 清 河 恒 葵 今回、NICUで保育器に入った700g程度の未熟児を見て 今回、病院体験当直を行ってみて、改めて私が進もうと その小ささに驚きを隠せませんでした。白井宏幸先生に、 している世界はとても厳しく、やりがいのあるものだと もし母親だったら何が心配かを聞かれ、将来自分の子が普 思った。私は外科であったのだが、まず最初に担当の先生 通の生活を送れるのかを真っ先に考えました。心臓病のた にPHSで呼ばれ、救急外来で2歳9か月の男の子の診療に めの手術を受け、小さな呼吸器を着けている新生児の姿は 立ち会った。先生の迅速な対応に私は驚きが隠せなかった。 痛々しく、我が子を抱くこともできず、見守ることしかで 私が将来このような対応ができるのか不安になったが、6 きない母親であればどのような思いでいるのかを考えさせ 年間必死に勉学に励み立派な医師になりたいと思った。何 られました。その後、カンファレンスルームで入院患者の よりも今回印象深かったのは緊急オペに立ち会ったことで 症状を話し合う場に参加させていただきました。小児科に ある。実際この目で医師が患者さんを治していくのを見て、 は様々な症例があり、黄疸、ALTE、アナフィラクトイド とても感動したと共に、生半可な気持ちでこの世界を目指 紫斑病など初めて耳にする病気もあり、大変勉強になりま してはいけないなと思った。まだ私は医学の厳しさの少し した。病名を1つと決めつけずに多角的に考えるために皆 しか分かっていないと思うが、これから色々学んでいく中 で意見交換をする協力的な医療体制に刺激を受けました。 で様々なことを身につけ、将来立派な医師になれることを 医療現場を目にして医師になる決意を再確認し、良医とな 強く望む。 るべく日々精進したいと覚悟を決めた良い機会となりまし た。 − 20 − 研究単位紹介 皮膚科学単位のご紹介 天 羽 康 之 (教授・皮膚科学) この度は皮膚科学単位の紹介の機会を頂き、大変ありが る水疱症外来、悪性黒色腫や扁平上皮癌などの皮膚原発腫 とうございます。北里大学医学部皮膚科学単位の構成、さ 瘍の治療を行っている腫瘍外来、脈管肉腫や難治性血管炎 らに臨床、研究、教育への取り組みについてお話しさせて の先端治療を行っている脈管外来、豊富な手術経験数を有 頂きます。現在、当皮膚科学単位は約30人のスタッフで構 する手術外来等の専門外来を設置し、それぞれの疾患の病 成されています。診療、教育、研究のバランスを取りなが 態に基づいた診療を常に心がけています。紹介頂いた患者 ら北里大学病院、北里大学メディカルセンターを中心に、 の皆様については十分に検討を重ね、毎年、北里臨床皮膚 聖路加国際病院、独立行政法人 労働者健康福祉機構 横浜 フォーラムを開催し、診断に至った過程と治療経過を紹介 労災病院、独立行政法人 国立病院機構 横浜医療センター、 医と近隣の医師に詳細に報告しています。入院加療が必要 大和市立病院、地方独立行政法人 東京都健康長寿医療セ な患者の皆様は、皮膚科の9E病棟を中心として小児病棟 ンター、東芝林間病院、綾瀬厚生病院等に常勤医師を派遣 や他病棟にも入院して頂いております。皮膚科の定床は28 しています。 床と国内有数の規模であり、多彩な皮膚疾患を有する患者 北里大学病院は、特定機能病院として高度先端医療の一 の皆様が入院しています。 角を担うと同時に、学生・研修医の教育病院でもあり、ま さらに当単位では、豊富な症例からそれぞれの疾患の病 た、市民病院を有しない相模原市にあって、地域中核病院 態を明らかにするための臨床研究と、基礎研究を国内外の として医療を提供する責務も持ちます。皮膚科学単位も北 研究機関との積極的な交流のもとで行い、多くの成果を発 里大学病院の一員として、患者の皆様によりよい医療を提 信しています。現在、毛包幹細胞の分化と機能の解明およ 供するため、病気の予防と最善の治療によって社会に還元 び幹細胞を用いた損傷神経や皮膚の再生医療に関する研究、 できる成果をあげることを基本方針としています。近隣の 悪性脈管肉腫に対する免疫療法の確立、皮膚腫瘍における 医療組織と密に連携し、医療者間のコミュニケーションを 幹細胞からの発症機序の解明、Mycobacterium leprae感 しっかりとり、医療安全を徹底し、常に患者の皆様の立場 染症の発症機序に関する研究、接触皮膚炎や金属アレル に立った高度医療の提供を行う努力を続けています。 ギーの病態の解明等の様々な研究を行っています。海外留 平成25年度の例をあげますと、年間の外来患者数が 学も盛んで、アメリカやドイツへ多くのスタッフが留学し 51,472人(1日平均191人)、初診患者数は6,131人でした。 ています。北里大学の臨床の先生方には、皮膚科の専門性 外来は初診医と再診医がそれぞれ3から4人で診療にあ をご理解して頂き、我々の力の及ばない部分をサポートし たっています。皮膚疾患を広く網羅する一般外来に加えて、 て頂き、さらに、基礎の先生方には基礎研究を支えて頂い 午後は各種専門外来を行っており、円形脱毛症をはじめと ております。北里大学の諸先生方には今後も引き続いての する脱毛疾患の病態解明を目指す脱毛外来、特徴的な皮膚 ご指導を頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。最 病変からの診断と全身的治療を行っている膠原病外来、関 後になりますが、私たちの医局内のスタッフのまとまりと 節症性乾癬等の難治性の乾癬患者の病態の把握や治療法の 雰囲気は全国一と自負しています。やる気と興味のある方 確立を行っている乾癬外来、分子生物学的に病態を把握す はいつでも歓迎しますのでぜひ見学に来てください。 集合写真 − 21 − カピパラ 寒いこの時期、温かい温泉が恋しくなる方も多いのではないでしょうか。インターネッ トを見ていたら、とても気持ちよさそうに温泉に入っているカピパラの画像を見つけま した。カピパラは南米に生息する草食動物で、体長は100cmを越え体重は約50kgと大き いですが、姿はモルモットに似ており性格は穏やかで人にも懐くそうです。泳ぎが得意 で水中の草などを食べたりするそうですが、温暖な気候に生息し暖かい場所を好むため、 日本の動物園では冬にカピパラを温泉に入浴させるところもあるそうです。カピパラが目 を細めて温泉につかったり、打たせ湯を浴びたりする姿に、心が癒されました。一度、ご 覧ください。 (H・T) 部活紹介 医学展示研究会 亀 山 諒 一 第4学年 医学展示研究会の活動内容は毎年11月に行 イズを織り交ぜることであらゆる世代の方た われる北里祭で普段学習している医学知識を ちに、楽しみながら医学知識を知っていただけ 一般の人たちに対して楽しく伝えられるよう たと思います。 に、ポスターを作製、二次救命処置(ACLS) 今年は同窓会の方々に奨励金をいただき、ま のデモンストレーション、医学クイズ大会など たクイズ作成にあたり多くの先生に添削など といった企画を行うことです。今年は「医カ のご協力をしていただくなど周りの方々に支 フェ」というカフェ形式を主体として行い、そ えられ、助けていただきました。毎年形式こそ の中で「医カフェカード」といった医学知識に 変わってはいますが、どのようにすれば医学知 関するクイズカードを作成し、お客さんに医学 識を楽しんでいただけるか奮闘しております。 知識を気軽に楽しんでもらえるように致しま これからも医学展示研究会をよろしくお願い した。またBINGO大会を企画し、その中でク いたします。 編 集 後 記 私が北里大学に赴任したのは彼此4年前になります。その1 年後、ちょっとした巡り合わせで医学部ニューズの編集委員を担 当することになりました。編集委員になった当初は、まだ医学部 のシラバスも十分把握できていないほどでしたが、編集委員とし て多くの原稿を読み校正作業に関わることで、様々な年間行事 を直接的、あるいは間接的に知ることができました。そういう意 味でも編集委員を引き受けた甲斐があったと思います。編集委 員の仕事は、教員や研修医、そして学生さん達のひたむきな思 いや意気込みが綴られた原稿、ときには荒削りな原文をまずきめ 細かく読むことから始まります。そのニュアンスを残しつつ、少 しだけ「よそ行き」に手直しするのが編集委員の腕の見せ所な のかもしれません。この2年で新企画も次々と始まり、その分編 集作業も時間を要するようになりましたが、以前よりも読み応え が増した紙面の校正作業は、広報の一翼を担う重要な仕事だと 感じています。 さて、 前回の編集委員会の席で、 昭和48年に発行されていた「北 里大学医学部研究ニュース」の複写を拝見する機会がありまし た。これは、現在の「北里大学医学部ニューズ」の前身の広報 誌だそうです。創刊1号と4号を読ませて頂きますと、執筆した 先生達の熱意がひしひしと伝わってきます。特に4号は、医学部 校舎の完成の喜びに加え、動物飼育棟の当時としては最新式の 設備とクリーンな環境が自慢げに綴られていました。ウェブ上で は平成18年頃からPDFで閲覧できますが、このような昭和時代 の医学部ニューズも、徐々にアーカイブ化され、先人達の思いや 歴史を紐解いていけるようになるとよいと思いました。 (T・O) 医学部ニューズ〔第354号〕 http://www.med.kitasato-u.ac.jp/ - 未 来 科 学 の 創 造- 2012年北里大学創立50周年 ●発行責任者 東 原 正 明 2014年北里研究所創立100周年 ●編集責任者 井 上 優 介 〒252-0374 相模原市南区北里1-15-1 北里大学医学部内 医学部ニューズ編集委員会 TEL.042-778-8704 (直通) FAX.042-778-9262 E-mail m-news@kitasato-u.ac.jp ●発 行 日 平成27年 1 月31日発行
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