進化する公私協力方式の特色を生かした社会貢献への取り組み

進化する公私協力方式の特色を生かした社会貢献への取り組み
―ゼミ生で設立した模擬会社夢追プロモーションが地域密着で自立化―
中川 昌大(〇)1)・東村 篤 2)
1)学生会員 四日市大学経済学部経営学科 3 年,e-mail: ise_mie_japan@yahoo.co.jp
2)正会員
四日市大学経済学部経営学科,e-mail: higamura@yokkaichi-u.ac.jp
1.模擬会社夢追プロモーションの概要
2012 年 1 月、担当指導教員の本意を汲み、「新年
度からゼミで模擬会社を立ち上げよう!」というこ
ととなり、4 月 27 日、本学(写真)東村戦略経営ゼ
ミ授業において「模擬
会社 夢追プロモーシ
ョン設立総会&記念講
演会」が行われた。初
代社長に就任した中村
一真くん(現・4 年)
は「私が模擬会社を興
した理由として、地域
社会が疲弊しており、我々学生が率先して学内外で
雇用創出となり得る活動をし、地域を活性化したい
との思いで、大学という知の結集を最大限に活用す
ることにより、地域資源を見い出し様々な付加価値
を創り出すことが使命である」と設立に至った経緯、
抱負を語った。以来“まちを元気にする大学”を具
現化すべく地元四日市をはじめ伊勢等において積極
的な活動を展開してきている。現在、基礎演習ゼミ
の 2 年生 10 名が加わり 4 年 7 名、3 年 8 名の総勢 25
名の大所帯となっている。初年度にも関わらず活動
は順調に推移し第 1 期(平成 24 年 4 月 27 日~25 年
3 月 31 日)当期利益 2 万 3 千円と黒字を確保した。
なお、同社は、株式会社のように利益、分配を目的
とはしていない。登記はしないものの設立手続き、
取締役会など教育の一環としてビジネス実務を実践
で体得させることを目的として地域社会貢献活動を
行っている。
2.地域イノベーションを創発できる人材養成急務
大学が所在する三重県は、我が国のほぼ中間に位
置し南北に約 170 ㎞に及ぶ長い地形から自然に恵ま
れた地理的、自然的条件を背景に、古くから伊勢神
宮をはじめとする「こころのふるさと」
の地として、
産業、経済、文化など様々な分野においてその影響
を受けつつ発展を遂げてきた。しかも、我が国の三
大臨海工業地帯および三大都市圏のいずれにもから
み、地理的に中京<名古屋>都市圏 50 キロ圏内に桑
名、四日市、鈴鹿などの北勢地域、京阪神<京都・
大阪・神戸>都市圏 50 キロ圏内に伊賀、名張など伊
賀地域が属し三重県は東海、関西の双方に含まれ、
地理的にも恵まれた地域特性を有する。しかし、こ
れまで我が国のモノづくりの一大集積拠点として県
北部を中心に電機、輸送用機器産業が県経済をけん
引してきたがグローバル化の進展で成長に陰りが見
られ、既存技術を高度化、応用用途開発で成長が期
待できる宇宙航空産業、バイオ・メディカル産業の
為替変動など外部要因に左右されにくい産業の育成
を模索、県の重点施策と捉えており県南部において
は、観光が主で伊勢神宮の式年遷宮効果が期待でき
るものの第一次産業、第三次産業とも全体的に不振
であり構造的に南北問題の課題を抱え今日に至って
いる。特に、伝統的地場産業で急速に進む少子高齢
化の影響もあり事業承継が円滑に進まずまた廃業が
開業を上回り産業基盤、地域経済の基盤が大きく揺
らぐ要因となっている。地域の疲弊常態化からの脱
却なくして地域の活力、地域社会の支え合いの構図
は生まれてこない。2011 年 4 月、担当指導教員が企
業人から大学人への転身を機に地域社会において経
営学の視点から科学・技術・工学・市場を戦略的に
先導できる起業型リーダーすなわち地域イノベーシ
ョンを創発できる人材が最も不足していることを痛
切に感じられ戦略経営ゼミを発足された。
ゼミでは、
2 つ の C I P O ( Chief Intellectual Property
Officer 知的財産統括責任者、Chier Initial Public
Offering 株式新規上場準備統括責任者・DiPOと
東村命名)人材の養成を教育目標とし、その手法を
模擬会社夢追プロモーションの活動を通して実践し
地域社会でのフィールドワークから経営を見る眼を
養い地域社会を主導できる起業型リーダーを目指し
ている。
3.社会貢献への主な取り組み状況(9 月末現在)
「“まち”を元気に」を具現化させるべく模擬会社
では KnowLedge Capital 事業に精力的に取り組んで
いる。これまでの企画事例の一端を紹介する。
企画事例1 映画制作支援
2011 年 10 月、菰野ムービー製作委員会が組成さ
れ劇場映画『Good Luck-
恋結びの里』
(監督・瀬木直
貴)の撮影が 11 月末まで地
元四日市市、菰野町で行わ
れロケ隊のスタッフとして
愛知淑徳大学学生とともに
制作面で後方支援活動を行
った。
企画事例 2 がんばる商店街支援
伊勢高柳商店街において 2011 年 10 月、
「B級グル
メフェスタ」ゆるきゃら着ぐるみ、12 年 6 月、「夜
店」四日市大学の日にフ
リーマーケットを出店、
13 年 6 月、「夜店」四日
市大学の日に地域連携コ
ラボ商品を企画し「はち
みつにんにくジャム」、
「玉ねぎジャム」を販売、
好評を博した。
企画事例 3 難題を分かりやすく寸劇で表現
2012 年 9 月、第 21 回「全国ボランティアフェス
ティバルみえ」
(三重県社会福祉協議会主管)が皇學
館大学(主会場津・三重県総合文化センター)にお
いて開催され分科会 9 市民後見―自分らしく生きき
るためにー財産管理、身上監護をテーマに寸劇にし
て表現、シンポジウムをより理解されやすくに努め
た。13 年 5 月、アストプラザ津ホールにおいて三重
県行政書士会を母体に設
立されている三重成年後
見サポートセンター主催
で市民公開講座が開催さ
れ担当指導教員の講演に
先立ち「若者から見た成
年後見制度」と題して寸
劇でのエピソードや財産
管理や身上監護の問題、成年後見制度の理解度など
をトーク方式で学生たちが話し称賛評価を得た。
企画事例 4 地域資源の活用
地域を元気にしたいとの思いが人一倍強い模擬会
社の学生たち、地元で頑張る人を見ると応援したく
なり 11 年 10 月、菰野町
の名産「まこも」
、13 年 6
月、四日市市大矢知地区
の名産「大矢知そうめん」
業者と大学研究会とのコ
ラボを企画、商品化に至
り 11 年 6 月、10 月地域
産品として販売した。
企画事例 5 道の文化再発見
江戸時代、東海道富田間宿(四日市市)と中山道
武佐宿(近江八幡市)を結ぶ往還道「八風街道」は
近江商人と伊勢商人が行き交うあきんど道であった。
この歴史街道は、東西交通の要衝として道の文化、
情報の発信地であったことで知的資産の宝庫である。
地域資源の見直し、再発見し沿線を「21 世紀の成長
軸」と捉え滋賀県、三重県の地域関係団体と連係し
て研究成果へと企画提案している。
企画事例 6 知の還元 情報発信
「NISA(少額投資非課税制度)ってなあに?」、
「クラウドファイナンス(Crowd Finance・ネット
による小口資金調達)ってなあに?」など話題を分
かりやすく出前講座を企画、あるいは大学一般公開
講座開講日に合わせて 13年5月から昼のプレゼント
地元落語家による「かよう寄席」高座を行っている。
また、13 年 7 月、夕涼み
セミナー「シンポジウム
四日市地域の観光を考え
る」を地域関係団体と企
画、示唆に富んだ議論内
容で話題を集めた。
4.本学研究機構Aプロジェクトと地域連携を強化
本学では社会連携、社会貢献活動として四日市大
学の設立の経緯、三重県、四日市市、学校法人暁学
園の公私協力方式での特色を生かし開学以来四半世
紀独自な展開を行ってきている。特に、2013 年 4 月、
大学改革の一環として社会連携センターが設立され
個々の教員の研究と地域ニーズのマッチング、ボラ
ンティア活動等のプラットフォームの機能を担って
いる。①談話会型(一般社団法人四日市大学エネル
ギー環境教育研究会
の3R<Reduce、
Reuse、Recycle>『伊
勢竹鶏物語』事業な
ど)、②法人組織型
(四日市大学市民社
会研究所など)、
③学
生活躍型(学生によ
る地域映像取材の「Movie Zoo」など)
、④オープン
部活動型(学生クラブと社会人クラブとのコラボ)
、
⑤災害貢献型(被災、減災、災害への対応)、⑥イベ
ント参加型(伊勢「高柳の夜店」四日市大学の日な
ど)、⑦出前講座型(三重県内高校等への出張授業、
セミナーなど)、⑧啓蒙活動型(四日市大学研究機構
関孝和数学研究所など)、⑨生涯学習型(四日市大学
コミュニティカレッジなど)の9つの類型(カッコ
内は例示)で展開している。特に、本学が位置する
三重県北勢地域は、国土軸が通過していることもあ
って、道路網が比較的整備されてきており、しかも
高速道路 IC に近いことで自家用自動車の利便性は
圧倒的に高い地域として知られている。しかし、近
い将来を鑑みたとき高齢者は移動困難者等の生活弱
者になりかねない。公共交通機関が果たす役割は大
きいが地方鉄道、地方バス路線は採算面で代替は難
しいのが実情である。
当地においても全国で 3 か所に過ぎない営業路線
で軽便鉄道をルーツ(1910 年北勢軽便鉄道設立、14
年開業)に持つ三岐鉄道北勢線はナローゲージ(レ
ール幅 762mm)で本線は石灰山採掘・セメント製品
等輸送並行の特色のある路線であるが全社的には企
業努力もあり黒字経営を続けているものの特に北勢
線においては存続か廃線かの危機が続いている。本
学では、地方鉄道を存続させる意義について考え、
地域住民とともに歩む形で活用方策をイベントを通
じて実施してきている。2010 年 12 月、本学経済学
部教員(主査・富田経済学部長、副査・小職)と経
済学部学生(現代表・森 亮太 4 年)により北勢線
沿線の魅力発見とそれを発信することを目的に本学
研究機構四日市流域ルネッサンスサスティナビリテ
ィ研究所にAプロジェクト・北勢線あるけオロジー)
が発足した。11 年 1 月、最初の調査として北勢線終
点の阿下喜駅周辺を巡検し、絵地図づくりを最初の
目標とした。3 月には、本学で、5 月にはいなべ市市
民会館で予備調査の成果を発表し、その後、夏休み
を挟んで商店街を中心に聞き取り調査、周辺地域を
含めた踏査、八幡祭りの調査等を重ねてきた。10 月
のよんよん祭(四日市大学&四日市看護医療大学合
同祭)で成果をまとめ展示、展示物の一部は 12 年 3
月の「阿下喜のおひなさま」の際に貸出し、ウッド・
ヘッド(いなべ商工会館)で展示された。12 年度は、
調査地を北勢線の始発駅西桑名駅周辺に移し、巡検
を開始して地域の魅力を伝える「歌留多」にまとめ
ることとし、調査活動を展開、10 月の「よんよん祭」
で試作を重ね完成、展示をした。2013 年度からは、
Aプロを三岐鉄道本線(近鉄富田―西藤原)、近江鉄
道線(滋賀県)沿線に焦点を当てた八風街道の地域
資源ものがたり制作事業を始動した。八風街道にま
つわる歴史・文化・産業・伝承を縦糸に、沿線住民
の皆さんの思い出や想いを横糸にアーカイブ(A
rchive)でストーリー化し、近江商人、伊勢商人が
行き交った歴史街道の伝承と今日に残る遺構から
21 世紀の成長軸を探る。11 年 11 月から 12 年 3 月
まで 11 回に亘りテーマプロジェクトミーティング
が本学学生と北勢地域インタープリター協会(代
表・川合延雄)で物語おこしプロジェクトが発足、
13 年 4 月からはAプロジェクト 2 期が事業を継承す
る形で研究活動が進行している。
(テーマプロジェク
トミーティング 11 年 11 月 27 日四日市市なやプラ
ザ「この地域の古社とご利益」川合代表、②11 年
12 月 11 日なやプラザ「八風街道沿いにある和菓子
屋さん」本学学生の取材調査食べ比べ発表、③11 年
12 月 23 日なやプラザ「美里けんじさんの物語づく
り講座」、
④12 年 1 月 9 日富田地区市民センター「地
域の発展・昭和の富田」富田地区商店街平岡会長、
⑤12 年 1 月 22 日富田地区市民センター「大矢知素
麺の秘密と魅力」大矢知手延素麺業組合渡邊代表幹
事、⑥12 年 1 月 29 日なやプラザ「郷土の遺跡・マ
ップを作ろう」四日市市教育委員会社会教育課 葛
山学芸員、⑦12 年 2 月 5 日なやプラザ「北勢地域の
戦国時代~八風街道によせて」本学環境情報学部播
磨学部長、⑧12 年 2 月 19 日なやプラザ「八風歳時
季」俳句、川柳募集発表、⑨12 年 2 月 26 日富田地
区市民センター「悠久の歴史ロマン」富田地区文化
財保存会 荒木会長、⑩12 年 3 月 4 日大矢知地区市
民センター
「羽津用水」大矢知歴史研究会古市代表、
⑪12 年 3 月 11 日菰野町田光公会堂「田光の切畑の
歴史~八風街道によせて」大橋徳紀さん、諸岡稲造
さん)
5. 模擬会社の経営自立化
地域コミュニティの中核的存在として本学の機能
強化を図ることを目的にゼミ学生が起業した模擬会
社の果たす役割は極めて大きい。今後、大学改革の一
環として地(知)の拠点整備事業が図られることから
も地域に根差した形での経営の自立化が要請される。
その経営の自立化への格好の材料が地域研究「八風
街道」にある。仮説「21 世紀の成長軸は八風街道」
と位置付け、大和朝廷、天皇、神宮、交通の要衝、
文化などの歴史的視点から考察、
検証していきたい。
背景 日本を取り巻く環境の変化 5つの構造変化
1、人口構造の変化、2、社会構造の変化、3、経済構造
の変化、4、生活構造の変化、5、情報構造の変化 日
本社会、国民行動の4つの方向性として 1、縁、2、座、
3、連、4、結 時代認識 モノが沈み、カネが浮いた
1980 年代以降 20 世紀型の残像 金融の肥大化は
危機 カネが沈み、人が浮く 21 世紀 循環型シス
テム社会 成長の源泉は人にあり
(人財・人本主義)
なぜ、八風街道なのか?、八風街道の歴史
潮流の変化「Age」でなく「Era」生活、事業サポー
トサービスビジネスが開花期、グローバル化はロー
カル化へ 文化 地域資源 知識階級層 団塊世代
のリタイヤ 地域特性 住宅地、近郊農業 6 次化
四日市は、石油化学、電機・輸送用機器産業を中心
に産業集積 地域の特性キーワード「士」族、職人
情報弱者・交通弱者、新興成金、高感度地区、
賢い生活者、行動力、出る杭は打たれるが若葉の芽
(若者・変わり者・馬鹿者・女性)は摘まない。京
都・大阪・神戸の関西圏と名古屋圏に重複し「とい
なか」
、日本の成長は生活スタイル、日本社会の縮図
八風街道は近江商人、伊勢商人が行き交った歴史の
道で文化人、木地師が育った。両商人とも経営理念・
哲学を有し非財務情報を尊重、競争優位は「質」品
位にあり。仮説の検証として「八風街道」から地域
イノベーションを創発へ世界を見つめ地域を考える
本学は、21 世紀の成長軸「八風街道」の要、世界に
発信していく。
6.地(知)の拠点社会貢献として伊勢商人に学ぶ
地域の課題を解決する方策のヒントが、伊勢商人
の「商人道」にある。その歴史を紐解くと「火事、
喧嘩、伊勢屋、稲荷に犬の糞」が江戸名物といわれ
たほど「伊勢屋」の屋号を有した伊勢商人の進出が
盛んだった。伊勢海老、木綿に代表されるように地
元で水揚げ、生産された商品を伊勢商人が買い取っ
て京や大坂(本稿、大坂)へ出し、その下りものを
江戸で販売したことから江戸での成功の代名詞とな
った。当時の木綿は高額品であり事業から得た利益
が膨大であったため豪商と呼ばれる存在と発展して
いった。戦国の武将で近江の日野城主となった蒲生
氏郷がその後、松ヶ島に松坂城(本稿、松坂)を築
城、職人、商人を日野から引き連れたことに由来す
る。呉服商三井越後屋を興した三井高利、紙商の小
津清左衛門長広、食品問屋の国分勘兵衛、木綿問屋
の長谷川次郎兵衛、海外貿易で知られた伊勢出身松
坂の角屋七郎兵衛、四日市出身で鰹等海産調味料で
名高いにんべんの高津伊兵衛、航路開設や灯台建設
の南伊勢町東宮出身の河村瑞賢、ロシアに漂着しシ
ベリアを横断して帰国した大黒屋光太夫、喜劇の創
始者曾我廼家十郎、真珠商の御木本幸吉、オブラー
トを開発した玉城町の小林政太郎をはじめ渡辺六兵
衛、川喜田久太夫、大谷嘉兵衛、中条瀬兵衛など木
綿、呉服商、茶、材木、紙、酒、両替、金融の分野
で発展、積極性に欠けるとは言われながら日本人の
範、時代のパイオニアとして活躍した先人たちは、
いずれもお伊勢参りの交通の要衝、街道筋で行き交
う旅人とのコミュニケーションを通じて情報を交換、
本居宣長の国学精神から育まれ商人道に繋がった。
特に、特産の伊勢木綿を目玉商品として江戸店を持
ち「ゆとり」と「遊び」の心を持ち続けた三井、長
谷川、小津などの伊勢松坂の商家は、お伊勢参りと
いう人々の交流を江戸時代屈指の情報都市伊勢、松
坂において異質の人間の感性に立脚した国学が本居
宣長の賀茂真淵との「一夜の出会い」によって文明
開花に繋がったことは
「感性豊かに生きた伊勢商人」
の精神構造に植え付けられたのである。それは、14
世紀から 16 世紀にイタリアを中心に興った文化運
動、ルネサンスは経済発展を背景に商工業都市の富
裕層がリーダーとなり古典文化の再発見と人間性の
回復を元に伝播していったのと同様に、江戸時代に
おいて伊勢松坂を中心とした伊勢商人の活躍で日本
のルネサンスを興したのである。現在、東京・日本
橋に旦那衆が多く地域再興に積極的なのも相通ずる
ものがある。それは、本居宣長の存在、漢学と言わ
れる朱子学で藩体制側に管理されていた中で富を手
にした伊勢商人たちが本居宣長から古事記・日本書
紀・万葉集・源氏物語・古今和歌集など日本古来の
古典の中に「やまと心」があると国学を学んだこと
にある。歴史的には伊勢商人は、近江商人から分か
れた訳だが経営理念とその実践は大きく異なる。伊
勢商人は、資本蓄積が進み豪商となっても政商とは
ならず、伊勢松坂の地に居を構え、江戸に店を持ち
反骨者精神で商売を行う反面、地方と言う大らかで
人間性溢れる心の環境の中でハンドルのような遊び
心を持っていた。徹底した経済合理性の追求で利潤
追求と資本蓄積に走るのではなく人間性豊かな「遊
び心」が経営に培われ地域に新しい文化の創造をし
ていくのである。伊勢という地方から森を見、江戸
という現場から木を見ていたのである。商家出身の
本居宣長は、生活の糧として医者として診察を行う
傍ら住まいを寺子屋として弟子や町人、商人たちに
国学の教えを説き授業収入を得ていた。言うならば
「元祖MOT(Management of Technology・技術
経営)」の範である。後の産業革命、明治維新後の殖
産興業による近代産業へ良き企業家、リーダーを輩
出したのである。現在では、蓮沼門三(1882~1980)
ら学生たちによって創立された修養団伊勢道場が
2000 有余年に遡る日本人の精神が宿る伊勢神宮の
ほとりに人生の充実を願い、心を磨き、潤いのある
家庭や地域社会、職場を作ろうとする人たちの集ま
りで特定の宗教や政党に属することなく青少年の健
全なる育成をはかるための教育を行うとともに、
“愛
と汗”の精神を実践して世界の福祉と平和に寄与す
ることを目的として研修を行っており 100 年の伝統
と実績で本居宣長役を果たしているのである。
激動、
激変の時代だからこそ普遍的な健全な心が求められ
ており表面的に仕事ができても健全な価値観を形成
しないかぎり将来的に有能な人材にはなりえない。
多くの企業が求める人材育成のポイントは、まさに
ここにある。かくして完成された伊勢商人の経営哲
学は、「店定法(社則)」の中で今日概ね次のように
解釈されている。1.律儀さ、2.丁寧さ、3.親
切心、4.先見性、5.合理性、6.革新性で「大
名貸しはするな」
(人手が要らず寝ていて金を儲ける
ことになるので本業が疎かになる)、
「奢るな」
(身の
奢りは滅ぼす、心の奢りが大切)、
「信仰」
(深入りは
するな、視野が狭く先を見えなくする)
、「才覚を磨
け」(才覚は始末<倹約>と両輪)これらを実践する
ことによって後の三越に代表される
「現金掛値なし」
の商法が体系化された。企業組織の社会的責任や倫
理が問われている。これらの欠如が齎した企業事件
は枚挙に暇ない。鎖国、藩社会のもとで資本の論理
と利潤追求に才覚を発揮できた伊勢松坂商人の精神
的構造背景は、本居宣長の個性とそれを敬愛し、そ
れを学ぶという鏡として文化を愛し、育て、感性豊
かに生き大都市江戸の流通経済を掌握できたのでは
ないかと思う。この伊勢商人の「商人道」の再認識
と陽明学の中心的な考え方である「知行合一」の実
行こそ普遍的な「経営の品格」としてあるべきだと
考える。
7.進化する公私協力方式の特色を生かした社会貢献
学園綱領「人間たれ」を建学の精神とし、「世界を
見つめ地域を考える」を公私協力方式での開学経緯を
尊重しつつ経済学部「地域を知る」、環境情報学部
「地域を護る」、総合政策学部「地域で行動する」を
目標に全学的に「地域を創る人材」を目指してきた。
13年度から全学的なカリキュラム改革を断行し地
域連携の視点で「地域産業の活性化」、「地域課題の
解決」、地域で支え合う「新しい公共」の担い手、
安全で安心な暮らしやすい先進地実現に向け「地域で
生きる力」醸成へ先導していく、環境、防災等社会貢
献に取り組む四日市大学の展開にご注目ください。