第 4 章 事業的側面からみた効果及びその問題点 ~問 題 の所 在 と今 後 の進 むべき方 向 について~ 1. 訪 問 理 美 容 の実 態 と課 題 (1) モデル事 業 からみた訪 問 理 美 容 の課 題 今 回 、愛 知 県 、岡 山 県 で実 施 し た訪 問 理 美 容 モ デル事 業 を参 考 に、訪 問 理 美 容 がど のよう に行 われ 、ど のよう な問 題 点 があったかを 、以 下 で は在 宅 者 への訪 問 理 美 容 を中 心 に個 々の差 をある程 度 無 視 し、平 均 的 なイメージでみていきたい。 訪 問 理 美 容 を行 うに当 たっては、主 たる施 術 者 のほかに技 術 者 1名 の補 助 が必 要 なことがわかった。また、在 宅 者 への理 美 容 サービスの場 合 には、被 施 術 者 の気 質 や好 み、症 状 等 を熟 知 し、信 頼 を得 ている家 族 ないしはヘルパーの介 護 が不 可 欠 であることもわかった。 被 施 術 者 によっては、はじめて出 会 う理 美 容 師 に対 して警 戒 感 を持 つ人 もいる。 安 心 して任 せられるまでには、それなりの心 の準 備 も必 要 なのである。 施 設 入 所 者 の場 合 には、気 心 の分 かった職 員 の介 護 の多 寡 が重 要 である。いず れ の場 合 にも、同 じ理 美 容 師 が何 度 か通 う こと によって、ある程 度 問 題 を軽 減 する ことが期 待 できる。 在 宅 者 の 場 合 で も 施 設 入 所 者 の 場 合 で も 、要 介 護 高 齢 者 は さ ま ざ ま な 疾 病 や 障 害 を抱 えている。ベッドや車 椅 子 などでの施 術 、あるいは酸 素 吸 入 中 の施 術 、背 部 が曲 がっている人 、ベッドに寝 たままの人 など、日 頃 理 美 容 所 で行 っている場 合 とは異 なり、技 術 面 でさまざまな創 意 工 夫 が求 められる。 かみそりを 使 う と きや、シャ ンプー台 に移 動 させると きには通 常 以 上 に神 経 を使 う 。 また、血 圧 が高 いとか心 臓 が弱 いといったような場 合 には、施 術 中 の体 調 の変 化 な ど に絶 え ず気 を 配 っ て い な けれ ば な ら ない し 、 理 ・美 容 師 自 身 が病 気 の感 染 源 にならないようにも努 めなければならない。 さらに、中 腰 での施 術 が必 要 など無 理 な体 勢 を強 いられるため、肉 体 的 な疲 労 が 大 きい。ほとんどの理 美 容 師 が腰 が痛 くなると訴 えている。 理 美 容 サ ービスのため の高 さが調 整 できる車 椅 子 の開 発 など 、肉 体 的 負 担 を軽 減 する工 夫 が必 要 である。 ま た、被 施 術 者 と 十 分 コ ミュ ニ ケ ーシ ョ ンがと れ ない こと か ら 、 たと え ば 、ど う い う ヘ ア スタイ ルが好 みなのかと か、あるい は身 体 のど こに無 理 がかかっ てい るかと い っ た ようなことなど、被 施 術 者 が何 を望 んでいるかが十 分 に理 解 できない。 痴 呆 が進 んで い る人 、感 情 の起 伏 が激 し い人 、視 聴 覚 障 害 のある人 など 、日 頃 接 することがない人 に対 して、専 門 家 として恥 じない仕 事 をしなければならないので あるから、その心 理 的 な負 担 は予 想 以 上 に大 きいのである。 し たがっ て、在 宅 者 の訪 問 理 美 容 におい ては、事 前 に必 要 な情 報 を 確 認 し てお 55 く必 要 があると同 時 に、施 術 中 に万 が一 容 態 が急 変 したような場 合 を考 えれば、責 任 の所 在 を 明 らかにすると いう 意 味 で も 、施 術 者 を熟 知 している家 族 あるい はホー ムヘルパー等 の付 き添 いが、不 可 欠 である。 さらに、在 宅 者 の場 合 には、部 屋 の広 さやレイアウ ト、照 明 、室 温 、整 頓 状 況 、テ ーブル等 の有 無 、洗 面 所 や風 呂 場 の場 所 や広 さなど、一 人 ひとり異 なっ た条 件 の なかで施 術 しなければならない。 必 要 な資 材 や器 具 なども一 様 ではない。この点 でも、事 前 に家 族 やホームヘルパ ーと入 念 に打 ち合 わせをして、必 要 な情 報 を交 換 しておく必 要 がある。ときには、事 前 に自 分 の目 で確 かめておくことも必 要 である。 これ らのこと も 、回 数 を 重 ね、慣 れ ること によっ てかなり軽 減 で きること で はあるが、 当 初 は被 施 術 者 や家 族 との信 頼 関 係 を築 くうえで必 要 な事 前 準 備 である。 理 美 容 サ ービス の内 容 は、基 本 的 には被 施 術 者 の要 望 による が、体 調 など によ っては必 ずしも要 望 に十 分 応 えられるとは限 らない。 通 常 、健 常 者 よりも時 間 がかかると考 えるべきであるが、時 間 がかかればそれだけ 被 施 術 者 の負 担 が大 きくなるからである。また、施 設 入 所 者 の場 合 にはある程 度 多 人 数 を こなさなければならない ため 、一 人 に多 くの時 間 を かけること はで きない と いう事 情 もある。 施 術 に必 要 な時 間 は、施 術 の内 容 や被 施 術 者 の体 調 等 によって差 があるが、大 まかには20分 から40分 程 度 である。さらに、準 備 後 始 末 のため の時 間 がそれ ぞれ 30分 程 度 必 要 である。 準 備 後 始 末 は、施 設 入 所 者 の場 合 には、何 人 施 術 し ても 1施 設 1回 で 済 むが、 在 宅 者 の場 合 にはそれ ぞれ の家 庭 で その都 度 必 要 になる。事 前 の打 ち合 わ せが 十 分 で きてい るかど う かで 、大 きく違 っ て くるが、概 し てい え ば、在 宅 者 の場 合 には 一 人 につ き最 低 1時 間 半 が必 要 で ある 。移 動 時 間 を 仮 り に 30分 と みて 、丸 1日 を 費 やして施 術 ができるのは、3名 が肉 体 的 にも精 神 的 にも限 度 である。 これ ら施 術 に直 接 関 わること以 外 にも 、都 心 部 ではと くに駐 車 場 の確 保 という こと もきわめて重 要 である。 駐 車 場 を 確 保 する ため に余 分 な時 間 がか かっ た り 、駐 車 場 が 確 保 で き ない ため に同 伴 した技 術 者 が、自 動 車 に残 っていなければならず、施 術 の助 手 を務 めること ができなかったという場 合 もある。 今 後 、全 国 的 に訪 問 理 美 容 を展 開 していく場 合 、とくに都 会 地 などでは大 きな障 害 になることが予 想 され、何 らかの対 策 が必 要 であり、公 的 支 援 が必 要 である。 (2) 訪 問 理 美 容 の効 果 と実 施 の現 状 訪 問 理 美 容 が、要 介 護 高 齢 者 に与 え る効 果 については、他 の章 で詳 し く述 べら れているので、ここでは理 美 容 師 が受 け止 めた感 触 を簡 単 にみていきたい。 理 美 容 サービスを受 けることによって、精 神 的 に若 返 るだけではなく、実 際 に身 体 的 な変 化 もみられている。 56 この点 につい て、(財 )岡 山 県 環 境 衛 生 営 業 指 導 セ ンターがまとめ た「訪 問 理 美 容 福 祉 モデル事 業 実 施 委 員 会 報 告 書 」では次 のように述 べている。 「……清 潔 の保 持 やみだしなみは、毎 日 繰 り返 される身 の回 りの世 話 のなかで行 われている。しかし、専 門 技 術 を有 した理 ・美 容 師 から利 用 者 に応 じた清 潔 保 持 や 身 だしなみに関 するアドバイ スを受 けること ができ、日 々の介 護 内 容 が充 実 してくる。 一 日 中 寝 衣 で過 ごしていた利 用 者 が、健 康 な頃 のお気 に入 りの服 装 に着 替 え、整 髪 や化 粧 をすることで 、生 活 のリズムに変 化 が出 て、失 わ れ た社 会 性 を 取 り戻 すこ と がで きる。介 護 を 受 ける高 齢 者 、介 護 者 共 に、自 分 への自 信 と存 在 価 値 を見 い だせ、生 活 にハリが出 てくる。ネイルケアや洗 髪 では介 護 者 が見 逃 しやすい爪 の性 状 や 、皮 膚 、頭 皮 、毛 髪 の観 察 か ら、異 常 の早 期 発 見 の機 会 と も なる 。高 齢 者 の 病 状 の進 展 は緩 やかで、毎 日 接 している介 護 者 も気 づかないこともあり、理 美 容 の 援 助 を通 して新 たな身 体 変 化 を見 出 すことは少 なくない。さらに、自 助 具 や介 護 用 品 の紹 介 や社 会 資 源 の提 供 、他 職 種 との連 携 をとることもでき、介 護 者 の不 安 感 ・ 負 担 感 や疲 労 を軽 減 する役 割 を担 うこともできる」。 つまり、専 門 技 術 者 による理 美 容 サ ービスを 受 けること によっ て、単 に清 潔 さ、美 し さを 取 り戻 すだ けで はな く、ほと んど 失 っ てい た社 会 と の接 点 を 取 り戻 すきっ かけ になっており、その結 果 利 用 者 が精 神 的 にも肉 体 的 にも活 性 化 している。 そのことが、ひいては、介 護 者 の負 担 を大 きくも軽 減 することにもなっているのであ る。 このような訪 問 理 美 容 は、現 在 どのように、どの程 度 行 われているのであろうか。 愛 知 県 訪 問 理 美 容 福 祉 モ デ ル 事 業 実 施 委 員 会 で は 、 平 成 1 1年 1 2 月 に 県 下 の特 別 養 護 老 人 ホーム44施 設 、および在 宅 要 介 護 高 齢 者 307名 を対 象 にアンケ ート(以 下 「愛 知 県 調 査 」という。)を行 い、30施 設 (66.7%)、156名 (50.8%)か ら回 答 を得 ている。 この調 査 によると、回 答 があった30施 設 のうち27施 設 (90%)では、従 来 から何 ら かの形 で訪 問 理 美 容 が実 施 されている(表 1 )。 表 1 訪 問 理 美 容 の内 容 理 容 のみを実 施 している施 設 数 15 美 容 のみを実 施 している施 設 数 1 理 容 ・美 容 の両 方 を実 施 している施 設 数 合 計 11 27 このうち、料 金 を全 額 利 用 者 が負 担 しているのは 12施 設 (40.0%)、一 部 利 用 者 負 担 6施 設 を含 めても 18施 設 (60 .0%) にすぎず、残 りの 12施 設 (40%) では、理 ・美 容 師 の無 料 奉 仕 、ないしは施 設 等 が負 担 している。 57 施 設 側 の意 見 をみても、「現 在 協 力 いただいている理 ・美 容 師 で充 足 している」、 「開 設 時 から毎 月 きていただいている理 容 師 がおり、入 所 者 とも顔 なじみになり、好 む髪 型 もわかっているので、他 の人 の訪 問 はいらない」などの声 も聞 かれる。 一 方 、在 宅 要 介 護 高 齢 者 についてみると、「理 美 容 所 からきてもらっている」人 は、 21名 (13.5%)にすぎない。 70名 (44.9%)の人 が「理 美 容 所 に出 かけてる」。 しかし、本 人 はもちろん家 族 の負 担 も大 変 で、アンケートにも以 下 のようにさまざま な意 見 が寄 せられており、訪 問 理 美 容 を求 める声 はきわめて強 い。 ・ 月 1回 、行 きはタクシー利 用 、帰 りは車 椅 子 で家 族 が連 れて帰 る。 ・ 手 押 し車 で行 くが、途 中 休 みながら往 復 するのが大 変 ・ 段 差 があって車 椅 子 では不 便 ・ 行 くまでに身 体 がえらくなる ・ 床 屋 さんで待 ち時 間 が長 い ・ 美 容 院 のにおいで気 持 ちが悪 くなる ・ 酸 素 を持 っていかなければならない ・ 家 でできると嬉 しい など このように、施 設 と在 宅 とでは、要 介 護 高 齢 者 が現 在 受 けている理 美 容 サービス には大 きな差 がある。その結 果 、今 後 の訪 問 理 美 容 に対 する要 望 の度 合 いは、施 設 入 所 者 に比 べて在 宅 の要 介 護 高 齢 者 では著 しく高 い。 愛 知 県 のアンケートだけで全 国 を推 し量 ることはできないにしても、今 後 高 齢 者 が 着 実 に増 加 していくなかで、在 宅 の要 介 護 高 齢 者 に対 して、どのように理 美 容 サー ビスを 提 供 してい くかとい う こと が、今 後 取 り組 むべき最 大 の課 題 で あり、高 齢 者 の 場 合 、所 得 の低 い人 が多 い現 状 を考 えれば、種 々の面 で公 的 支 援 も必 要 であろう。 2.訪 問 理 美 容 の課 題 と展 望 (1) 理 美 容 業 の営 業 の実 態 理 美 容 業 は 、わ が国 が近 代 社 会 に移 行 する以 前 か ら存 在 し 、長 い 年 月 属 人 的 に培 っ て きた専 門 知 識 ・技 術 を 活 用 し て、国 民 生 活 に欠 かせない サ ー ビ スを 提 供 している。現 在 でも、全 国 各 地 およそ人 が住 むところで、理 美 容 業 が存 在 しないとこ ろはない。 主 と し て 近 隣 の 個 人 消 費 者 の 日 常 生 活 にお い て 定 期 的 に 繰 り 返 さ れ る 小 口 の 需 要 を 対 象 と し て い るが 、 需 要 の 頻 度 は 1 カ月 に せ い ぜ い 1 , 2 回 から 、 2 カ 月 に 1 回 程 度 と限 定 的 である。 そのため 、市 場 の大 きさは基 本 的 には近 隣 の住 民 の人 口 数 に限 定 されている結 果 、総 じて企 業 の規 模 は小 さく、従 業 員 数 名 以 下 の小 さな企 業 が圧 倒 的 に多 い。 理 美 容 業 では、サービスの生 産 と消 費 が同 時 に進 行 する(生 産 と消 費 の同 時 58 性 ) と か 、 在 庫 がな い と い っ た一 般 に い わ れ る サ ー ビ ス業 の特 徴 を 、 典 型 的 に有 し ている。 サ ービスの提 供 は、基 本 的 には技 術 者 と顧 客 が1対 1で対 峙 し、サ ービスを提 供 す る 。機 械 化 など に よる合 理 化 の余 地 が ほと んど な く 、典 型 的 な中 小 企 業 分 野 で ある。 こ こで 、理 美 容 業 につい て平 均 的 な営 業 の実 態 を 統 計 で みると 、次 のと おりで あ る。 厚 生 省 大 臣 官 房 統 計 情 報 部 「衛 生 行 政 業 務 報 告 (厚 生 省 報 告 例 )」に よると 、 まず理 容 業 では、平 成 10年 度 現 在 全 国 の理 容 所 は、142,786施 設 、従 業 理 容 師 数 251,859人 、個 人 経 営 の施 設 が91.1%、単 独 店 が92.2%を占 めている。 1施 設 数 平 均 理 容 師 数 は1.76人 、つまり1人 ないしは2人 の零 細 な企 業 が圧 倒 的 に多 いことが、統 計 的 にも確 認 できる。 また、営 業 時 間 は10~11時 間 、1日 平 均 客 数 は12.7人 であるが、土 曜 日 16. 4人 、日 曜 日 18.0人 、その他 の曜 日 は10人 強 で あり、週 末 と平 日 とのばらつきが 大 きい 。 これ を 、理 容 師 1人 当 たり の 1日 平 均 客 数 で みると 、平 日 の 7 . 3人 に対 し て、土 曜 日 は9.3人 、日 曜 日 は10.2人 となる。日 曜 日 の10.2人 をフル稼 働 の能 力 とみなすと、平 日 の稼 働 率 は71.6%と著 しく低 いことを示 している。 総 合 調 髪 料 金 は平 均 で3,374円 、客 1人 当 たりの平 均 料 金 は3,509円 、平 成 5年 度 の1店 当 たりの平 均 営 業 収 入 は1,151万 4,000円 で、1,000万 円 未 満 の 施 設 が 5 7. 3 %を 占 め て い る 。平 均 営 業 費 用 は 7 4 3万 5 , 0 00円 、営 業 収 入 から 営 業 経 費 を差 し引 いた営 業 利 益 は407万 9,000円 となっている。 次 に美 容 業 につい てみると 、平 成 10年 度 現 在 全 国 の美 容 所 は201, 379施 設 、 従 業 美 容 師 数 334,932人 、個 人 経 営 の施 設 が76.8%、単 独 店 が80.6%を占 め て い る 。 1 施 設 当 た り 平 均 美 容 師 数 は 1 . 6 6 人 と 、 理 容 業 よ り も さ ら に 零 細 な企 業 が多 いことがわかる。 ま た 、 営 業 時 間 は 8~ 9 時 間 、 1 日 平 均 客 数 は 1 2 . 1 人 で あ る が、 土 曜 日 1 5 . 1 人 、日 曜 日 15.2人 、その他 の曜 日 は10人 強 と、理 容 業 同 様 週 末 に集 中 している。 これを美 容 師 1人 当 たり1日 平 均 客 数 でみると 、平 日 の7.3人 に対 し て、土 曜 日 、 日 曜 日 は9.1人 となる。日 曜 日 の9.1人 をフル稼 働 の能 力 と みなすと 、平 日 の稼 働 率 は80.2%であり、理 容 業 よりは高 いものの、やはり平 日 の稼 働 率 は低 い。 平 成 5年 度 の1店 当 たりの平 均 営 業 収 入 は1,970万 6,000円 で、1,000万 円 未 満 の施 設 が 3 9. 0%と なっ てい る。営 業 費 用 は1 , 55 0万 8, 0 00円 で 、営 業 利 益 は419万 8,000円 となっている。 ちなみに、総 務 庁 統 計 局 「家 計 調 査 年 報 」によると 、パーマネント代 は7,507円 、 セット代 は2,774円 、カット代 は3,124円 となっている。 59 (2) 高 齢 化 の進 展 と理 美 容 業 の将 来 理 美 容 業 の売 り上 げは、前 述 のとおり、基 本 的 には近 隣 住 民 の人 口 数 で限 定 さ れる。し たがって、人 口 の集 中 度 が高 い地 域 と低 い地 域 とで は、市 場 の大 きさには 著 しく差 があるし、人 口 減 少 地 域 では市 場 が縮 小 を続 けていることが推 測 される。 ち な み に、総 務 庁 「平 成 7年 産 業 連 関 表 」 によ り 、 わ が国 のG D P (国 内 総 生 産 ) に占 める業 種 別 付 加 価 値 額 の推 移 をみると、表 2 のとおり、理 容 は昭 和 55年 の 3 ,618億 円 から、平 成 7年 には 6.60 2億 円 と1 .82倍 に、美 容 は4,5 30億 円 か ら12,056億 円 と2.66倍 に増 加 している。 また、環 衛 業 全 体 では2,03倍 に増 加 している。この間 GDPは2.02倍 の増 加 で あ っ た か ら 、G D P に占 め る比 率 は環 衛 業 全 体 で は 3 . 5 5% か ら 3 .5 6 % 増 加 し て いるが、理 容 では、0.15%から0.14%に縮 小 している。 一 方 、美 容 で は3 ,55 %か ら 3. 56 %に拡 大 し てお り、理 容 と は明 暗 が分 かれ て いる。 表 2 業 種 別 付 加 価 値 及 び対 GDP比 の年 次 推 移 (単 位 :億 円 ) 昭和55年 昭和60年 平成 2年 平成 7年 理容 3,618(0.15%) 4,934(0.16%) 5,323(0.12%) 6,602(0.14%) 美容 4,530(0.19%) 8,447(0.27%) 9,776(0.23%) 12,056(0.25%) 興行 1,286(0.05%) 1,306(0.04%) 1,253(0.03%) 1,370(0.03%) 一般飲食店・喫茶店 35,717(1.49%) 46,755(1.48%) 53,352(1.24%) 68,456(1.41%) 遊興飲食店 17,049(0.71%) 27,626(0.87%) 33,618(0.78%) 34,264(0.71%) 旅館・その他の宿泊所 14,550(0.61%) 19,969(0.63%) 27,961(0.65%) 33,182(0.68%) 洗濯・洗張・染物業 6,853(0.29%) 10,417(0.33%) 11,976(0.28%) 14,235(0.29%) 浴場業 1,682(0.07%) 2,215(0.07%) 2,454(0.06%) 2,816(0.06%) 85,295(3.55%) 121,669(3.85%) 145,713(3.40%) 172,981(3.58%) (参考) サービス業計 411,977(17.2%) 606,056(19.2%) 945,199(22.1%) 1,138,771(23.4%) GDP 2,399,412 環衛業合計 (注) ( 3,162,755 4,286,087 4,858,266 )内は、業種別付加価値対GDP比 (注)食肉、食鳥肉、氷雪販売業を除く。 資料:総務庁「平成 7年産業連関表」 こ れ を 反 映 し て 、前 掲 の 厚 生 省 大 臣 官 房 統 計 情 報 部 「 衛 生 行 政 業 務 報 告 書 」 によると 、表 3 のとおり、理 容 施 設 数 は1980年 には144,15 7を数 え 、その後 も 増 勢 をたどってきたが、1986年 の144,994施 設 をピークに一 進 一 退 を繰 り返 しな がらも減 少 傾 向 をたどり、前 述 のとおり199年 度 には142,786施 設 となっている。 60 表 3 理 容 師 免 許 交 付 ・処 分 件 数 ・理 容 所 施 設 数 ・従 事 理 容 師 数 ・施 設 の 使 用 確 認 件 数 ・閉 鎖 命 令 件 数 (年 次 別 ) 理 容 師 ( 年 中 ) 年 次 理 処 分 件 数 容 所 施 設 数 従業理容師数 使用確認件数 閉鎖命令件数 免許件数 免許取消 業務停止 (年末現在) (年末現在) (年中) (年中) 4,429 - 21 140,541 266,531 7,744 20 51 3,747 1 9 141,082 261,890 8,232 12 52 2,930 3 9 141,841 258,242 8,408 - 53 2,760 1 3 142,888 253,029 8,985 - 54 3,310 - 3 143,413 249,757 8,536 2 55 3,554 - 1 144,157 248,256 8,442 - 56 3,753 1 - 144,407 248,906 7,511 - 57 3,880 1 - 144,364 247,987 7,388 - 58 4,092 - 2 144,413 248,166 6,907 2 59 4,424 - - 144,817 249,206 6,372 4 60 4,935 - - 144,939 249,934 6,470 - 61 4,543 - 1 144,994 250,551 6,309 1 62 5,283 - - 144,783 251,439 6,520 - 63 5,694 - - 144,606 250,993 6,181 16 5,536 - - 144,522 251,298 6,184 - 2 5,103 - 2 144,214 252,241 5,458 - 3 5,067 - - 143,524 250,892 5,135 - 4 4,727 - - 143,045 251,522 5,456 - 5 4,467 - - 142,619 250,858 5,688 4 6 4,122 - - 142,715 252,705 5,837 4 7 4,392 - - 142,544 252,187 6,152 6 8 4,456 1 - 142,718 252,330 5,595 - 9年度 5,183 - - 142,809 252,081 4,459 2 10年度 4,711 - - 142,786 251,859 4,723 - 昭和50年 平成元年 (注1) 平成8年までは各年12月末現在、平成9年度以降は翌年3月末現在の数字である。よって平 成9年度以降については「年中」は「年度中」に「年末現在」は「年度末現在」に読み替えるこ と。 (注2) 平成10年度の理容師の免許件数、処分件数については、厚生省生活衛生局指導課調べ 資 料 :厚生省大臣官房統計情報部「衛生行政業務報告(厚生省報告例)」 61 表 4 美 容 師 免 許 交 付 ・処 分 件 数 ・美 容 所 施 設 数 ・従 事 理 容 師 数 ・施 設 の使 用 確 認 件 数 ・閉 鎖 命 令 件 数 (年 次 別 ) 美 容 師 ( 年 中 ) 年 次 美 容 所 施 設 数 従業美 容師数 使用確認件数 閉鎖命令件数 業務停止 (年末現在) (年末現在) (年中) (年中) 42 131,444 243,281 11,292 4 47 136,205 246,050 13,179 16 処 分 件 数 免許件数 免許取消 昭和50年 12,947 51 13,123 52 12,068 16 141,460 252,503 14,283 2 53 15,045 4 146,746 245,297 15,100 1 54 17,267 4 151,712 251,257 14,827 55 18,541 156,635 258,124 14,308 56 18,361 160,473 267,382 13,278 57 18,712 164,123 275,020 12,936 58 18,171 167,658 281,733 12,798 1 59 17,390 171,905 288,688 12,913 1 60 17,020 175,433 296,265 12,595 61 15,588 178,632 301,175 12,246 62 17,121 181,233 307,786 11,755 63 17,030 183,785 312,708 11,572 17,077 185,452 314,175 10,537 2 15,305 186,506 316,406 9,508 6 3 14,923 187,277 314,704 8,584 1 4 13,405 188,582 317,526 8,863 5 12,737 189,975 320,996 9,341 6 12,861 192,111 324,566 9,719 7 13,026 199,918 327,596 10,179 8 13,652 196,512 329,995 10,221 9年度 17,051 198,889 333,153 9,007 10年度 16,451 201,379 334,932 10,045 平成元年 7 3 1 2 13 3 4 1 (注1) 平成8年までは各年12月末現在、平成9年度以降は翌年3月末現在の数字である。よって平 成9年度以降については「年中」は「年度中」に「年末現在」は「年度末現在」に読み替えるこ と。 (注2) 平成10年度の美容師の免許件数、処分件数については、厚生省生活衛生局指導課調べ 資 料 :厚生省大臣官房統計情報部「衛生行政業務報告(厚生省報告例)」 62 一 方 美 容 施 設 数 は、表 4 のとおり、一 貫 して増 勢 をたどっており、1975年 の1 31,444施 設 から、1999年 度 には前 述 のとおり201,379施 設 に達 している。 し かし 、前 掲 厚 生 省 大 臣 官 房 統 計 情 報 部 「衛 生 行 政 業 務 報 告 書 」に よると 、美 容 業 では「半 径 200m以 内 に同 業 店 舗 がある施 設 は87.2%にのぼり、そのうち10. 3 % の施 設 が近 隣 に 10店 以 上 あると し てい る」 と し 、「競 争 の激 化 がみ られ る 」と指 摘 してる。 このような状 況 を反 映 して、厚 生 省 生 活 衛 生 局 「環 境 衛 生 関 係 営 業 経 営 実 態 調 査 」によると 、表 5 のと おり、経 営 上 の問 題 点 (複 数 回 答 )として、理 容 業 で は53. 1%の理 容 所 が、美 容 業 で は60.5%の美 容 所 が「客 数 の減 少 」を あげており、他 の項 目 と比 べて際 だって多 い。 表 5 理 容 所 及 び美 容 所 の経 営 上 の問 題 点 別 施 設 数 の割 合 、従 事 者 数 階 級 別 経 施設数 理 容 所 美 容 所 客 数 の 立地条 件の悪 減少 化 営 上 の 問 人手不 人件費 足・求人 の上昇 難 題 点 施設・設 備の老 朽化 ( 重 複 回 答 ) 原 材 料 設 備 資 その他 費等諸 金調達 経 費 の の困難 上昇 特になし 総 数 2,026 53.1 19.9 26.1 24.7 27.2 30.6 5.4 5.5 12.3 1人 201 56.2 18.4 13.4 5.0 26.4 27.4 8.5 10.4 16.4 2 696 61.8 22.8 14.8 8.2 30.2 32.6 5.6 6.6 13.4 3 466 46.8 23.2 23.2 23.0 29.0 33.0 4.3 4.1 12.7 4 261 47.5 16.1 37.9 36.0 21.1 28.0 3.1 3.8 11.9 5~9 341 47.5 13.8 49.9 57.5 24.0 27.6 6.5 4.1 7.9 10~19 40 47.5 20.0 40.0 72.5 27.5 25.0 5.0 2.5 10.0 20人以上 6 50.0 - 50.0 83.3 16.7 33.3 - - - 不 詳 15 46.7 13.3 13.3 13.3 33.3 26.7 6.7 6.7 13.3 総 数 2,096 60.5 16.0 24.1 43.3 25.9 35.4 8.2 4.4 10.9 1人 322 64.0 22.4 7.1 6.5 26.4 33.5 6.8 4.7 18.6 2 231 64.9 19.0 14.7 22.5 27.3 35.9 10.8 6.1 13.4 3 379 63.1 14.0 23.7 37.7 27.7 36.9 5.8 4.2 9.8 4 340 57.9 17.4 32.1 52.9 22.6 35.9 7.1 4.1 10.3 5~9 609 57.1 13.0 32.3 62.6 25.3 36.0 10.2 4.4 6.7 10~19 140 59.3 12.1 31.4 74.3 30.7 37.1 10.0 3.6 5.7 20人以上 32 50.0 9.4 15.6 65.6 21.9 25.0 6.3 - 15.6 不 詳 43 67.4 18.6 9.3 11.6 20.9 23.3 2.3 2.3 25.6 資料:厚生省生活衛生局「平成6年度 環境衛生関係営業経営実態調査」 63 (3) 理 美 容 業 の将 来 展 望 と訪 問 理 美 容 をビジネスとする可 能 性 ア. なぜ、訪 問 理 美 容 を事 業 化 しなければならないのか 現 在 全 国 各 地 で 、ボラ ン テ ィア等 さまざ まな形 で 訪 問 理 美 容 が行 わ れ てお り、 目 的 に応 じた成 果 を上 げている。しかし、今 回 、モデル事 業 を実 施 したなかでも、 と く に在 宅 者 につい ては 、前 述 のと おり訪 問 理 美 容 がほと んど 行 わ れ てお ら ず、 理 ・美 容 所 に出 かけるのは家 族 の負 担 も大 きなことから、大 変 喜 ばれて、ほとんど 例 外 なく感 謝 の言 葉 が聞 かれている。 現 在 行 われてい る訪 問 理 美 容 は、ボランティア精 神 に富 んだ一 部 の理 美 容 師 がさまざまな負 担 を個 人 的 に請 け負 いながら行 われている。 その対 価 は 、「利 用 者 、家 族 の方 々 に大 変 喜 ばれ た 。や りがい のある仕 事 だと 思 った」「言 葉 が不 自 由 でも、笑 顔 が嬉 しかった」ことである。 ま た 、 「 こ の 仕 事 は、専 門 家 と し て公 認 さ れ て い る自 分 た ちし かで き な い 」と い う 誇 りと責 任 感 が支 えている。きわめて有 意 義 であり、感 動 的 でさえある。 し か し な が ら 、 今 後 着 実 に 高 齢 化 が 進 む なか で 、 訪 問 理 美 容 を 必 要 と す る 要 介 護 高 齢 者 は急 速 に増 加 し てい く。と りわ け、在 宅 の要 介 護 高 齢 者 は、前 述 の とおり、ほとんど訪 問 理 美 容 を受 けていない。 こ れ に対 応 する ため に は 、 一 部 の理 美 容 師 の 善 意 だ けで は到 底 対 応 する こと は で きない 。で きる限 り多 くの理 美 容 師 の参 加 を 求 め て い く ため には 、基 本 的 に はビジネスとして訪 問 理 美 容 を考 えていく必 要 がある。 本 来 、ボランティアは本 業 部 分 以 外 のところで行 うものであって、本 業 部 分 につ いては、あくまで事 業 として採 算 を考 えるべきものではないだろうか。 一 方 、見 方 を変 え て企 業 の立 場 からみても、訪 問 理 美 容 は企 業 が存 続 してい くための一 つの有 効 な方 策 であるということができる。 理 美 容 業 では、顧 客 の来 店 頻 度 を高 めることも、またサービスの質 を高 めるなど によっ て価 格 を引 き上 げること にも 限 界 がある。し たがっ て、企 業 が売 り上 げを確 保 するためには、顧 客 数 を増 やすしかない。 しかし ながら、前 述 のと おり、理 美 容 業 の存 続 を支 えてい るのは、限 られ た狭 い 地 域 の住 民 で あるが、人 口 の少 子 高 齢 化 が進 むなかで 、理 美 容 業 の顧 客 数 は 着 実 に減 少 し てい く こと が予 想 され る。個 々の店 舗 から みると 、 この前 まで きてい た人 が、「最 近 見 えなくなったけれど、どうしたんだろう」という現 象 が、徐 々に増 え てくる一 方 で、若 者 の来 店 客 数 も着 実 に減 少 していくのである。 これを打 開 するための一 つの方 策 は、異 なった地 域 への多 店 舗 展 開 であるが、 需 要 の拡 大 に つな がるも ので はない か ら、一 つの店 の売 り上 げ増 加 は他 の店 の 売 り上 げ減 少 をもたらすだけで、競 争 を激 化 させるだけであり、業 界 全 体 としては 基 本 的 な解 決 にはならない。 64 一 方 、前 述 のとおり、平 日 の稼 働 率 は著 しく低 く、ロスタイムが多 い。 ロスタイムをいかに減 少 させるかということは、理 美 容 業 全 体 の共 通 の経 営 課 題 となっている。 この よう な状 況 を 打 開 するため にも 、訪 問 理 美 容 は有 効 な方 策 の一 つで あると いえる。 わ が 国 経 済 全 体 が低 迷 を 続 け る な かで 、 多 くの 業 界 が 新 し い 業 態 、新 し い 商 品 (技 術 ・サービス)の開 発 に懸 命 に取 り組 み、顧 客 確 保 に努 力 している。しかし ながら、理 美 容 業 界 の多 くの企 業 は、同 じサービスを同 じようなやり方 で提 供 して おり、革 新 というほどのものがみられない。 最 近 、介 護 保 険 制 度 の開 始 に伴 い 、さまざまな新 しい ビジネスが登 場 し 、注 目 を浴 びている。そのなかには、小 型 トラックに設 備 を積 み込 みんで施 設 を訪 問 し、 いわば「移 動 美 容 室 」を始 め順 調 に業 績 を伸 ばしている企 業 も登 場 している。 顧 客 に喜 ばれ、雑 誌 等 にも取 り上 げられ注 目 を浴 びている。1回 に25から30 人 の顧 客 に対 応 しているという。料 金 は、シャンプーとカットで2,500円 で、要 望 があれ ばパーマ や毛 染 め も 別 料 金 で で きるとい う 。さまざまな問 題 点 があると し て も、現 に顧 客 の支 持 を受 けているとすれば、これに反 対 するのではなく、むしろ既 存 の企 業 に おい て も 積 極 的 に対 応 し 、顧 客 の要 望 に応 え てい く こ と が 重 要 で あ ろう。 イ. ビジネスとして成 り立 つための訪 問 理 美 容 の料 金 設 定 訪 問 理 美 容 をビジネスとして成 り立 たせるためには、必 要 なコストに見 合 った料 金 を得 なければならない。仮 に、一 般 の健 常 者 に対 して訪 問 理 美 容 を行 うとすれ ば、通 常 の感 覚 では来 店 者 よりも割 り増 しの料 金 が必 要 なことは当 然 であろう。 と りわ け 、在 宅 の訪 問 理 美 容 で は 、い っ て みれ ば「 オ ーダ ー メイ ド 」で あ るか ら、 既 製 品 より料 金 が高 くなるのは当 然 である。しかしながら、高 齢 者 、なかでも要 介 護 高 齢 者 の場 合 には、一 般 的 には本 人 自 身 の所 得 は少 なく、支 払 い能 力 は限 られている。 需 要 と供 給 で価 格 が決 まるのが市 場 原 理 であるから、価 格 が高 くなればなるほ ど 利 用 者 が減 少 すること は避 けられ ない 。介 護 保 険 の仕 組 みのなか に、訪 問 理 美 容 を明 確 に位 置 づけるべきだという声 が多 い理 由 である。 また、肉 体 的 、精 神 的 負 担 が大 きい ことから、「割 増 料 金 をも らってもやりたくな い 」 と い う 声 が少 な く ない こ と も 無 視 す る こ と はで き ない 。要 介 護 高 齢 者 に対 する 訪 問 理 美 容 では、どうしてもボランティア精 神 が基 本 的 には必 要 であって、その 部 分 についてはコストの算 定 が非 常 に難 しい。 ここで、前 述 の理 美 容 業 の営 業 実 態 を参 考 に、一 つの試 案 を提 示 すれば次 の とおりである。 理 美 容 業 の1施 設 当 たりの平 均 理 美 容 師 数 は1~2名 で、平 均 営 業 収 入 は、 65 (1日 当 たり平 均 客 数 ) (一 人 当 たり平 均 客 単 価 ) (1日 当 たり平 均 営 業 収 入 ) 10(名 ) × 3,500(円 ) = 35,000円 となる。 在 宅 者 の訪 問 理 美 容 の場 合 、移 動 時 間 も含 めて1日 の客 数 は3人 が限 度 であ るから、1人 当 たりの料 金 は 35,000円 ÷ 3名 = 11,700円 と なる。在 宅 者 の訪 問 理 美 容 の場 合 には、11,000円 ~12,000円 が料 金 の 一 応 の目 安 といえる。 理 美 容 サービスの内 容 によって、料 金 に差 をつけるとすれば、一 つの基 準 は所 要 時 間 である。1日 の営 業 時 間 を10時 間 とみると、 35,000(円 ) ÷ 10(時 間 ) = 3,500円 つ まり 、 1時 間 3, 5 0 0円 を 目 安 に 、理 美 容 サ ー ビ ス の内 容 に応 じ て料 金 設 定 を考 えるのが、一 つの案 である。 在 宅 者 の訪 問 理 美 容 の場 合 には、顧 客 のさまざまな要 望 にきめ細 かく対 応 す ることができるし、対 応 することが望 ましい。 料 金 はそれぞれのサービスの内 容 に応 じて、原 則 自 己 負 担 として対 応 する。そ の場 合 には、あらかじめ料 金 を提 示 し、事 前 に了 解 を得 ておくことが重 要 である。 施 設 入 所 者 への訪 問 理 美 容 の場 合 には、客 数 は増 加 する分 だけ、1人 当 たり の料 金 は低 くなる。ちなみに、客 数 を10名 とすると、3,500円 が一 つの目 安 であ る。 施 設 など 、多 人 数 に対 して対 応 する訪 問 理 美 容 の場 合 には、たとえ ばカッ トな いしはカットと髭 そりを「標 準 的 サービス」として原 則 これで対 応 し、被 施 術 者 それ ぞ れ の要 望 や体 調 など に 応 じ て 、髭 そり だ けにと ど め ると い っ た対 応 が必 要 で あ る。それ以 上 の施 術 については、在 宅 者 の訪 問 理 美 容 と同 じように考 えて、日 を 改 め個 別 に対 応 するのがよいのではないか。 あるいは髭 そりや洗 髪 さらにはネイルケアを付 け加 えるといった、いくつかの定 番 のメニューを設 定 し、そのなかから顧 客 が選 択 するというのも一 つの方 策 である。 それ ぞれ、あらかじめ料 金 を設 定 しておく。その場 合 の料 金 設 定 には、平 均 的 な 所 要 時 間 が一 つの目 安 となる。 66 〈参 考 〉 介 護 保 険 制 度 が4月 1日 から始 まった。訪 問 介 護 には3種 類 のサービス類 型 があり、 利 用 者 は要 介 護 度 に応 じた利 用 上 限 額 の範 囲 で選 択 する。サービスの単 価 は30分 以 上 1時 間 未 満 で、身 体 介 護 (排 泄 や入 浴 、食 事 の世 話 をする)が4、020円 、家 事 援 助 (身 体 介 護 以 外 の掃 除 や洗 濯 、調 理 など日 常 の生 活 を手 助 けする)が1、530円 その 中 間 の複 合 介 護 が2、780円 となっている。1カ月 の実 績 をみると、スタート前 に介 護 サ ービス全 体 の20%程 度 であった「家 事 援 助 」の比 率 が、50%程 度 に上 昇 している。ま だ、1カ月 の実 績 にすぎないが、最 も単 価 の安 い家 事 援 助 が大 幅 に伸 びていることは、 料 金 を設 定 するうえで一 つの参 考 になるだろう。 ウ. 今 後 の事 業 展 開 の可 能 性 ……若 干 の提 言 高 齢 者 が今 後 いっそう増 加 し、訪 問 理 美 容 に対 する社 会 的 必 要 性 が高 まるな かで 、ボ ラ ンテ ィア だけで は対 応 し きれ ない 。幅 広 く そし て長 期 にわ た っ て 、訪 問 理 美 容 を継 続 し てい くため には、若 い 人 も 含 め て、で きるだけ多 くの業 者 が参 加 できる仕 組 み、いいかえればビジネスとして成 り立 つ仕 組 みを創 る必 要 がある。 ま た 、少 子 高 齢 化 で 顧 客 数 が減 少 し てい くな かで 、訪 問 理 美 容 は企 業 ない し は業 界 が存 続 するために、必 要 な新 しいサービスの提 供 形 態 であることを、理 美 容 業 者 自 身 が認 識 する必 要 がある。 ビジネスと して成 り立 つ仕 組 みを検 討 するうえで 、在 宅 者 の場 合 と施 設 入 所 者 の場 合 とでは、訪 問 理 美 容 に対 する顧 客 の要 望 、サービスを提 供 する場 合 の条 件 等 が大 き く異 なっ てい る ので 、分 けて検 討 する のが現 実 的 で ある。以 下 で は、 在 宅 者 の場 合 と施 設 入 所 者 の場 合 を分 けて留 意 点 を検 討 したい。 [在 宅 の要 介 護 高 齢 者 に対 する訪 問 理 美 容 ] ① 在 宅 の要 介 護 高 齢 者 に対 する訪 問 理 美 容 は、原 則 として市 場 原 理 で対 応 する。すなわち、それぞれの理 美 容 店 が、過 去 の馴 染 み客 を主 体 に、自 己 責 任 で対 応 する。訪 問 理 美 容 を 実 施 しなけれ ば、顧 客 数 が減 少 すること になる。 し かし 、ど の店 を 選 ぶかは、サ ー ビス の内 容 、料 金 等 を 勘 案 し て、顧 客 が選 択 する。 ② 理 美 容 店 は、顧 客 一 人 ひと りの個 別 の要 望 にきめ 細 かく対 応 し 、料 金 につ いては、原 則 として、サービスの内 容 等 を勘 案 して、顧 客 との合 意 に基 づいて、 個 店 の責 任 で決 定 する。 顧 客 の 要 望 と 支 払 い 能 力 に 応 じ て 、 さ ま ざ ま な サ ー ビ ス の 提 供 、 さ まざ ま な 料 金 設 定 が行 われるであろう。 ③ 顔 なじ み の店 がない など 、個 店 と の過 去 のつき あい がな く、個 店 の対 応 から 67 はずれた要 介 護 高 齢 者 についても、長 期 的 には①と同 じであるが、ただし、訪 問 理 美 容 が社 会 的 に定 着 するまでは、理 ・美 容 業 環 境 衛 生 同 業 組 合 等 が 積 極 的 に 関 与 し 、 業 界 で 地 域 を 主 体 と し た チ ー ム を 編 成 し て輪 番 制 で 対 応 する。 顧 客 へ の周 知 は 、 原 則 と し て それ ぞ れ の チ ー ム で 行 う 。周 知 が 不 十 分 で あ れば、顧 客 を確 保 できないということである。 この場 合 でも、地 域 を越 えて、店 を選 択 することは顧 客 の自 由 であり、これを 妨 げてはならない。サービスの内 容 、料 金 等 につい ては、原 則 とし て①に同 じ である。 ④ 支 払 い能 力 が不 十 分 な顧 客 に対 しては、別 途 補 助 等 何 らかの公 的 支 援 を 要 請 し、この場 合 には理 美 容 サービスは、「標 準 サービス」にとどめ、料 金 はあ らかじめ設 定 した「標 準 価 格 」とする。 このことによって、必 要 最 低 限 度 のサービスが保 証 されることになる。 ⑤ 軽 度 の要 介 護 高 齢 者 については、デイケアサービスの施 設 や、公 民 館 等 を 利 用 し、特 定 の日 を定 めて、訪 問 理 美 容 を行 うことも検 討 すべきである。比 較 的 多 人 数 に対 応 できるので、その分 だけ割 安 になる。 多 人 数 に対 応 しなければならないので、サービスの内 容 は「標 準 的 サービ ス」を原 則 とする。それ以 上 のサービスについては、通 常 の在 宅 者 への訪 問 理 美 容 で対 応 する。 前 述 の地 域 ごとのチームが、訪 問 理 美 容 を行 う。 ⑥ 家 族 や、ホームヘルパーと の日 程 調 整 や事 前 の打 ち合 わ せについても 、原 則 それぞれの個 店 、ないしはチームの責 任 で行 うが、訪 問 理 美 容 の仕 組 みが 定 着 するまでは、個 店 の努 力 だけでは困 難 であり、理 ・美 容 業 環 境 衛 生 同 業 組 合 の積 極 的 な関 与 により協 力 体 制 を構 築 する必 要 がある。 ま た 、 関 係 団 体 等 と の 調 整 等 の 面 で 、行 政 や 公 的 機 関 の 支 援 も 必 要 で あ る。 ⑦ 駐 車 場 の確 保 、施 術 中 の事 故 、移 動 中 の車 両 事 故 などの補 償 制 度 等 に ついても、個 店 だけの対 応 で解 決 するのは不 可 能 であり、余 分 な負 担 を解 消 するためにも、理 ・美 容 業 環 境 衛 生 同 業 組 合 が主 導 し、一 日 も早 く適 切 な仕 組 みを構 築 する必 要 がある。 また、行 政 や、公 的 機 関 の支 援 も不 可 欠 である。 ⑧ 施 術 の技 術 的 な工 夫 、あるいは用 具 の改 良 ・開 発 等 について、業 界 あげて 取 り組 む べき で あ る 。それ と 同 時 に 、 さ まざ まな具 体 的 な成 果 を 素 早 く取 り上 げ、広 く情 報 を周 知 し、あるいは普 及 する体 制 を構 築 することが望 ましい。 ⑨ なお、見 ず知 らずの他 人 が、生 活 の場 奥 深 く は入 り込 むので あるから 、知 ら れたくないことも知 り、見 られたくないことも見 えてしまう。 し たがっ て、プ ライ バシー の保 持 につい て は、必 要 以 上 に配 意 するこ と が必 要 であるが、それとともに利 用 者 および家 族 との信 頼 関 係 を築 くことが何 よりも 68 重 要 である。 [施 設 入 所 の要 介 護 高 齢 者 に対 する訪 問 理 美 容 ] ① 施 設 の要 介 護 高 齢 者 に対 する訪 問 理 美 容 は、開 設 以 来 特 定 の理 美 容 業 者 が訪 問 理 美 容 を行 っている例 もあり、原 則 として従 来 の慣 行 を尊 重 する。 ② ①以 外 の施 設 については、施 設 側 の要 請 を受 けて、それぞれの理 美 容 業 者 が対 応 する。 環 境 衛 生 同 業 組 合 が 窓 口 に なる 場 合 には、 サ ー ビ ス の内 容 や料 金 に つい ては組 合 が交 渉 の窓 口 になり、希 望 する業 者 を組 織 し、輪 番 制 等 で対 応 する 体 制 を整 える。 ③ 福 祉 的 側 面 が強 い こと か ら、原 則 と し て「標 準 サ ービ ス 」 の提 供 に と ど め 、そ れ 以 上 の サ ー ビ ス につい て は 、在 宅 者 の場 合 と 同 じ 扱 い に し 、 別 の日 を 定 め て対 応 する。 エ. 環 境 衛 生 同 業 組 合 に期 待 される役 割 長 期 にわ たって、広 く、で きるだけ多 くの理 美 容 業 者 が、訪 問 理 美 容 に参 加 す ることが、前 述 のとおり業 界 の立 場 で考 えても、今 後 重 要 な課 題 となる。 訪 問 理 美 容 を定 着 させるため には、軌 道 に乗 るまでは、環 境 衛 生 同 業 組 合 が 強 力 な指 導 力 を発 揮 して、行 政 や公 的 機 関 等 の協 力 を 得 ながら、 さまざまな仕 組 みを構 築 する必 要 がある。 重 複 する点 も 多 い が、 ここで 改 め て環 境 衛 生 同 業 組 合 に期 待 され る役 割 を 整 理 すると、次 のとおりである。 ① 業 者 を啓 蒙 し、訪 問 理 美 容 に対 する積 極 的 な取 り組 み体 制 を構 築 する。と くに、地 域 ごとのチーム作 りは、一 つの重 要 なキーポイントとなる。 ② 業 者 の研 修 を 行 い 、技 術 レ ベル の向 上 、必 要 な知 識 の蓄 積 に努 め ると と も に、器 具 や資 材 類 の一 層 の改 良 ・開 発 の支 援 とその普 及 に努 める。 ③ 現 場 のさまざまな問 題 点 を素 早 く吸 い上 げその解 決 に努 める。また、現 場 の さまざまな工 夫 を広 く周 知 するように努 める。 ④ 必 要 な機 材 のリースや共 同 購 入 等 を支 援 し、経 費 軽 減 に努 める。金 融 面 で の直 接 間 接 の支 援 策 も検 討 すべきである。 ⑤ 関 係 団 体 や行 政 機 関 等 と の意 思 疎 通 を深 め 、個 々の企 業 では対 応 できな い問 題 の解 決 に当 たるなど、訪 問 理 美 容 が適 切 に遂 行 できるように努 める。 要 介 護 高 齢 者 にとってはもとより、理 美 容 業 界 にとっても、訪 問 理 美 容 を円 滑 に推 進 することは、きわめて重 要 で ある。これを広 くかつ長 期 にわたって進 め てい 69 くためには、業 界 全 体 の意 識 改 革 と協 力 体 制 が重 要 であるが、それだけではなく、 ビジネスとして成 り立 たせる仕 組 みづくりが不 可 欠 である。 そうはいっても、多 くの理 美 容 業 者 にとってはこれまで十 分 な経 験 を積 んでいな い 新 た な試 みへ の挑 戦 で あ るか ら 、訪 問 理 美 容 事 業 が進 む につれ て さ ま ざま な 問 題 が噴 出 することが予 想 される。 しかし、何 事 においても、最 初 から円 滑 に進 むことは通 常 はあり得 ない。大 切 な こと は失 敗 を おそれ ず挑 戦 すること で ある。失 敗 を 重 ねるなかで 、人 は さまざまな ことを学 ぶものである。 失 敗 しないために念 入 りに検 討 を重 ねることも重 要 ではあるが、最 初 から100 点 を 取 る ため に 時 間 を か け る よ り も 、最 初 は 60 点 、 7 0 点 で よい か ら少 し で も 早 く 着 手 す る方 が ベ タ ー で あ る 。 重 要 な こ と は 、問 題 が 生 じ た ら 直 ち に 検 討 し 、進 め 方 や仕 組 みを修 正 することである。 そのためには、個 々の現 場 の具 体 的 な生 の情 報 が速 やかに伝 播 する開 放 的 な 情 報 交 流 の仕 組 みと、それを直 ちに行 動 に移 す実 行 力 が何 よりも重 要 である。 訪 問 理 美 容 を推 進 するためには、ビジネスにすること が不 可 欠 であることは繰 り 返 し述 べてきたと ころである。しかし、どんなにビジネス化 を進 めても、基 本 的 には 福 祉 事 業 であることは忘 れてはならない。 70
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