シンポジウム 1 S1 Hartnup 病原因遺伝子産物 B0AT1(SLC6A19)の細胞内 C 末端結合タンパク質の同定 ○安西尚彦 1)、平田 拓 1)、Sunena Kundu-Srivastava1)、三浦大作 1)、小泉昭夫 2)、金井好克 1) 1) 杏林大学医学部薬理学教室、2)京都大学大学院医学研究科健康要因学、anzai@kyorin-u.ac.jp 【目的】Hartnup 病は、腎近位尿細管及び小腸での中性アミノ酸吸収が障害される常染色体劣性の遺伝性疾患で、皮 膚症状、発育障害、精神症状等を特徴とする。我々はこれまでに Hartnup 病遺伝子座の一つである 5p15 の領域で、 Na+/Cl-依存性トランスポーターファミリー(SLC6)の exon が集積する部位を見出し、同部位に存在する機能未同定の 遺伝子産物のうちの1つ SLC6A19 にアミノ酸輸送活性を見出し、B0AT1 と命名して報告した。(Nature Genet. 36: 999, 2004)。これにより Na+-依存性中性アミノ酸輸送系 B0 の分子実体が明らかとなり、Hartnup 病が輸送系 B0 の遺伝的欠 損により生じることが示された。しかし SLC6A19 に異常のない症例も存在し、他のトランスポーターないし調節タンパク 質の存在が予想される。そこで我々は B0AT1 の C-末端の結合タンパク質の同定を試みた。 【方法】B0AT1 の C-末端をベイトとして、ヒト腎臓 cDNA library を対象とした酵母 two-hybrid 法を行った。B0AT1 の C末端とその結合タンパク質の結合の確認には、点突然変異導入法により作成された変異体を用いた酵母 two-hybrid 法と、In vitro pull-down 法を用いた。さらに GFP 融合 B0AT1 全長タンパク質を作成し、B0AT1 の C-末端の結合タンパ ク質とともに、ほ乳類培養細胞 HEK293 に遺伝子導入を行った後、免疫沈降法にて両者の in vivo での結合の確認を 行った。 【結果】3.3×107 個の酵母クローンのスクリーニングにより 91 個の陽性クローンを得、その中の 13 個がモータータンパク 質のサブユニットであった。B0AT1 C 末端の変異体のベイトと種々の長さの同結合タンパク質のプレイを用いた検討に より、両者の結合には B0AT1 C 末端の第二結合ドメインと、結合タンパク質全長が必要であることが明らかにされた。ほ 乳類培養細胞を用いて行った免疫沈降法にて、B0AT1 の C-末端とその結合タンパク質の in vivo での結合を確認し た。 【考察】Hartnup 病原因遺伝子産物 B0AT1 の細胞内 C 末端結合タンパク質の同定に成功した。同タンパク質の遺伝子 異常で Hartnup 病を発症する可能性を考慮し、現在患者家系の遺伝子解析を継続中である。 S2 アルミニウムによって活性化されるクエン酸トランスポーターの同定 ○馬 建鋒、古川純、山地直樹、王華、三谷奈見季、佐藤和広、武田和義 岡山大学資源生物科学研究所植物ストレス応答分子解析グループ maj@rib.okayama-u.ac.jp 【目的】アルミニウムイオンはごく低濃度ですばやく植物の根の伸長阻害を引き起こす。しかし、一部の耐性植物は根 からクエン酸を分泌して、根の外でアルミニウムを無毒化する戦略を持っている。本研究はアルミニウム耐性オオムギ 品種からクエン酸の分泌に関与する遺伝子の同定を目的とした。 【方法】アルミニウム耐性品種むらさきもちと感受性品種 Morex との交配で得た F4 集団を用いて、ファインマッピングを 行った。また両品種のマイクロアレイ解析も行った。さらに、単離された遺伝子の発現、コードされているタンパク質の 細胞局在性や輸送活性についても調べた。 【結果】ファインマッピングとマイクロアレイ解析を行った結果、むらさきもちにおいて構成的に高い発現を示し ている遺伝子 HvMATE が単離できた。この遺伝子は multidrug and toxin efflux (MATE)ファミリーに属し、むら さきもちの根端 10mm において Morex の約 20 倍の発現を示した。EST から BAC クローンを選抜して配列解 析し、遺伝子の全長配列を取得したところ、ORF にはむらさきもちと Morex 間で 2 つの SNP が存在しており、 そのうち 1 つではアミノ酸配列の相違を伴っていた。Al 耐性能が異なるオオムギ 10 品種においてこの候補遺 伝子の発現量と Al により誘導されるクエン酸の分泌量との間に強い正の相関が得られた。またアフリカツメ ガエルの卵母細胞に候補遺伝子の cRNA とクエン酸を注入して、アルミニウムによる電流の変化を測定したと ころ、水を注入した細胞の約 2 倍の電流が認められたが、cRNA とリンゴ酸の注入では電流の変化が見られな かった。さらにこの遺伝子をタバコで過剰発現した結果、クエン酸の分泌量とアルミニウム耐性が増加した。 抗体染色の結果、この遺伝子によってコードされているタンパク質は根の表皮細胞の細胞膜に局在していた。 【考察】これらの結果はこの輸送体はアルミニウムによって活性化され、特異的にクエン酸を輸送する efflux 型 トランスポーターであることを示している。 S3 ホモロジーモデリングによる OATP2B1 の基質結合部位の推定 内田めぐみ 1、○高野修平 1、加納和彦 2、高谷大輔 2、竹田−志鷹真由子 2、梅山秀明 2、伊藤智夫 1 1 北里大学薬学部薬剤学研究室、2 北里大学薬学部生物分子設計学研究室 itoht@pharm.kitasato-u.ac.jp 【目的】 有機アニオントランスポーターである OATP2B1 は消化管に発現しており、その広い基質認識性から経口投与 された多くの有機アニオン性化合物の吸収を左右する重要な因子と考えられている。しかしながら、X 線結晶構造解 析による OATP2B1 の立体構造は得られておらず、OATP2B1 の基質認識様式や基質結合部位についての詳細は不 明である。したがって、OATP2B1 の基質認識部位およびそれに関わるアミノ酸残基について情報を得ることが出来れ ば、OATP2B1 をターゲットとした薬物分子設計が可能になると考えられる。そこで本研究ではホモロジーモデリングに よって OATP2B1 の立体構造を構築し、得られた構造の検証を OATP2B1 発現系を用いて行った。 【方法】 ホモロジーモデリングは、自動立体構造モデリングソフト FAMS (Full Automatic Modeling System) を用いて 行った。ホモロジーモデリングにより立体構造を構築し、基質認識に関与するアミノ酸残基に関する情報を得た後、 OATP2B1 発現系を用いて推定されたアミノ酸残基を point-mutation により変異させた。正常および変異させた OATP2B1 発現系を用いて estorone-3-sulfate の基質輸送能を測定した。 【結果】 OATP family の基質は有機アニオンであるため基質認識に関与するアミノ酸は塩基性である可能性が高い。 そこでホモロジーモデリングにより構築したモデルから、膜貫通ドメインの内側にある塩基性アミノ酸をいくつか抽出し た。これら塩基性アミノ酸をアラニンに変異させたところ、いくつかの変異体において基質輸送能の減少が認められた。 現在得られたデータよりモデルの妥当性を再検討し、さらに信頼性の高い立体構造モデルを構築中である。 S4 新規薬物輸送担体 Organic Solute Carrier Protein 1 の単離と機能解析 ○小林靖奈、大林真幸、神山紀子、山元俊憲 昭和大学薬学部臨床薬学教室 yasuna@pharm.showa-u.ac.jp 【目的】これまでヒト胎盤からは hOAT4 や hOCT3 など様々な薬物トランスポーターが単離されている。本 研究は、ヒト胎盤における薬物輸送に関わる新規遺伝子を単離し、機能解析を行うことを目的とした。同時に マウス型ホモログを単離して機能の特定を行った。 【方法】cDNA library は常法に従って構築した。各 cDNA に 相補的な cRNA を合成し、実体顕微鏡下でアフリカツメガエル卵母細胞にマイクロインジェクションし、18℃ で2日間培養後、輸送実験に用いた。基質には [14C]PAH や [14C]TEA を始め、多種多様な化学構造の異なる 放射標識化合物を用いた。機能解析は濃度依存性、時間依存性、pH 依存性、Na 依存性などについて検討し た。また Northern blot 解析や RT-PCR を行って各組織における発現分布を検討した。さらに免疫組織化学染 色法により、膜局在を同定した。 【結果】単離した遺伝子は 379 個のアミノ酸をコードする全長 1137 bp の ORF を有していた。一方、マウスより単離した遺伝子は 379 個のアミノ酸をコードし、アミノ酸レベルでの 相同性は両者で 85% であった。分子系統樹解析の結果、これらの遺伝子は何れの薬物トランスポーターには 属さない新規遺伝子であった。従って、単離した遺伝子を organic solute carrier protein 1 (OSCP1) と命名した。 ヒト型 OSCP1 (hOSCP1) は PAH や TEA を濃度依存的、Na 非依存的に輸送するが L-carnitine は輸送しな かった。このような輸送特性はマウス型 (mOscp1) でも観察された。また、hOSCP1 を介した PAH の輸送は pH 依存的であったが、TEA の輸送は pH 非依存的であった。また、エストロン硫酸やプロスタグランジン なども輸送した。Northern blot 解析を行った結果、hOSCP1 および mOscp1 ともに精巣に高発現していた。 免疫組織化学染色を行ったところ、hOSCP1 はヒト胎盤のシンシチオトロホブラスト細胞に発現していた。 【考 察】本研究の結果、単離した hOSCP1 および mOscp1 はアニオン性およびカチオン性物質は輸送するが両性 イオンは輸送しないという、ユニークな特徴を有する基質多選択性新規薬物輸送担体であった。 シンポジウム2 S5 IRBIT 共発現系を用いた NBC1 ヴァリアント輸送特性の比較 ○山田 秀臣、藤本 一朗、御子柴 克彦、関 常司、藤田 敏郎 東京大学腎臓内分泌内科、東京大学医科研脳神経発生・分化分野 Corresponding Author: hyamada-tky@umin.ac.jp 要旨)Na-HCO3 共輸送体には N 末アミノ酸配列の差による膵型(pNBC1)と腎型(kNBC1)ヴァリアントが存在 し、異なる生理機能を担っている。しかし Xenopus oocyte において pNBC1 はごく弱い活性しか示さず、その 輸送特性も明らかでない。我々は最近 IP3 受容体結合蛋白 IRBIT が pNBC1 に特異的に結合しその活性を数倍以 上に増強することを見出した(PNAS 103,2006) 。本研究では oocyte における pNBC1/IRBIT 共発現系を用いて kNBC1 との輸送特性の比較を行った。まず IV curve にはヴァリアント間に大きな差を認めなかった。また PMA 添加により pNBC1、kNBC1 ともに約 50%の活性低下を認めた。一方、forskolin+IBMX 添加では pNBC1、kNBC1 ともに約 30%の活性亢進を認めた。これまでに眼症状や膵機能障害を伴う近位尿細管性アシドーシス(pRTA) 症例で同定された変異を pNBC1 に導入したところ、細胞膜に発現する変異体(A843V, R925C)は野生型の 15-50% 程度の活性を示したが、膜発現を認めない変異体(R342S, T529S, G530R, R554H, L566P)は活性を全く示さ なかった。以上より、pNBC1, kNBC1 は oocyte においては共に PKC 経路で抑制され、逆に PKA 経路により活性 化されるが、これらの調節機構には NBC1 の N 末特異的領域内のリン酸化は関与しないことが示された。また pRTA に合併する多彩な腎外症状には pNBC1 機能低下が関与することが示唆された。 S6 Regulation of amino acid transporter ATA2 by ubiquitin ligase NEDD4-2 ○Takahiro Hatanaka1, Mitsutoshi Setou1,2,3 1 Molecular Gerontology Research Group, Mitsubishi Kagaku Institute of Life Sciences, 2PRESTO, 3National Institute of Physiological Sciences, E-mail: setou@nips.ac.jp. [PURPOSE] ATA2 is the primary transporter responsible for uptake of small neutral and glucogenic amino acids represented by alanine in adipocytes. Recently, we showed the insulin-stimulated translocation of ATA2 from the trans-Golgi network storage site to the plasma membrane (JBC 281 39273-84). Here, we report the molecular events involved in the degradation of ATA2 subsequent to sequestration from the plasma membrane. [METHODS] We monitored the internalization and degradation of ATA2 using an expression system of EGFP-tagged ATA2 (EGFP-ATA2). [RESULTS] We found that a proteasome inhibitor MG132 increased the uptake of α-(Methylamino)isobutyric acid (MeAIB), a model substrate for amino acid transport system A, in 3T3-L1 adipocytes as well as the preadipocytes. Transient expression of Nedd4-2 in Xenopus oocytes and CHO cells down-regulated the ATA2 transport activity induced by injected cRNA- and transfected cDNA, respectively. Neither the ATA2 PM Nedd4-2 mutant with defective catalytic domain nor c-Cbl affected the Nedd4-2 ATA2 activity significantly. RNAi of Nedd4-2 increased the ATA2 Nedd4-2 activity in the cells, and this was associated with decreased Ubiquitin polyubiquitination of ATA2 on the cell surface membrane. Vesicles containing ATA2 Immunofluorescent analysis of Nedd4-2 in the adipocytes Insulin Endosomes stably-transfected with the EGFP-ATA2 showed the co-localization of BFA Nedd4-2 and EGFP-ATA2 in the plasma membrane, but not in the perinuclear ATA2 storage site. [DISCUSSION] These data suggest that MG132 Lysosomal TGN degradation ATA2 on the plasma membrane is subject to polyubiquitination by Proteasomal Nedd4-2 with consequent endocytotic sequestration and proteasomal degradation degradation and that this process is an important determinant of the Schematic model for the trafficking and density of ATA2 functioning on the cell surface. degradation of ATA2 in 3T3-L1 cells S7 4-phenylbutyrate(4PBA)が野生型及び、PFIC2 変異型 Bile Salt Export Pump(BSEP)を介した 胆汁酸輸送に与える影響 林 久允、 杉山 雄一 東京大学大学院・薬学系研究科・分子薬物動態学教室 e-mail: hayapi@mol.f.u-tokyo.ac.jp 【目的】 Bile salt export pump (BSEP/ABCB11)は肝細胞毛細胆管側膜上に発現し、肝細胞内から胆汁中への胆汁酸 排泄を担うトランスポーターである。我々はこれまでに、BSEP の遺伝的欠損が原因で発症する進行性家族性肝内胆 汁うっ滞症 2 型(PFIC2)の病態発症機構について解析を行い、胆管側膜上における BSEP 発現量の低下が PFIC2 を 惹起することを明らかにした。本研究では、この病態発症機構に基づき、PFIC2 の薬物治療による可能性を検討した。 【方法】野生型及び、PFIC2 変異型 BSEP 発現 MDCKII 細胞を単層培養し、BSEP の基質である放射標識タウロコー ル酸([3H]TC)の経細胞輸送により、機能評価を行った。細胞膜分画での BSEP 発現量を Western blot により評価した. 【結果】4PBA 処理により、それぞれ約 3 倍の増加が観察された。また、臨床適用量の 4PBA を SD ラットに 10 日間連 続投与後、[3H]TC の肝臓内濃度規定の胆汁排泄クリアランスの算出、胆管側膜分画を用いたウエスタンブロッティン グを行い、in vivo において 4PBA が BSEP の輸送機能及び、発現量に与える影響を検討した結果、それぞれ約 3 倍 の上昇が観察された。 【考察】4PBA は、細胞膜上の BSEP 発現量を増加させることにより、BSEP による細胞膜を介した胆汁酸の輸送を増加 させると考えられ、新規利胆薬としての可能性が期待される。 【参考文献】 Hayashi H, Takada T, Suzuki H, Akita H, Sugiyama Y. Two common PFIC2 mutations are associated with the impaired membrane trafficking of BSEP/ABCB11. Hepatology. 2005 Apr;41(4):916-24. S8 酒飲みはなぜ慢性膵炎になるのか?−膵導管細胞機能障害からみた慢性膵炎 ○洪 繁 名古屋大学大学院消化器内科膵臓研究室 sko@med.nagoya-u.ac.jp 【目的】 慢性膵炎は、膵の非可逆性の進行性炎症性疾患であり、病態が進行すると膵内外分泌不全を起こす。 日本では有病者率は 35.1 人/10 万人と言われており、男性に多く、その約 80%は長年にわたる多量の飲酒に よるものといわれている。慢性膵炎では、膵の外分泌機能(膵酵素分泌、水分泌、重炭酸塩分泌)のうち、重 炭酸塩分泌機能障害を特徴とするが、その障害の分子機構はいまだ不明である。そこで本研究では慢性膵炎の 膵外分泌機能障害の分子機構解明のため、患者の膵外分泌機能を評価することを目的とした。 【方法】 膵外分泌機能は、合成ブタセクレチン(SecreFlo, Repligen, USA)を経静脈的に投与することにより、膵外 分泌機能を刺激し、十二指腸に分泌される膵液を解析することにより膵外分泌機能を検討した。膵外分泌機能 のうち水分泌はセクレチンによる刺激後一時間に分泌される膵液量を測定した(正常値>183ml/h)。膵酵素分 泌は一時間に分泌された全膵液中の総アミラーゼ活性を測定し検討した(正常値>99,000 U/h)。重炭酸塩分 泌機能は、10 分間ごとに膵液を採取し、合計 6 本の膵液中の最も高い重炭酸塩濃度を用いて評価した(最高 重炭酸塩濃度: MBC, 正常値>80 mEq/L)。 【結果】 慢性膵炎患者では、殆どの患者で3因子とも低下していた。特に最高重炭酸塩濃度の低下が特徴的であった。 【考察】 慢性膵炎では、膵外分泌機能とくに膵液中の最高重炭酸塩濃度の低下が特徴的であるが、いまだその障害の 分子機構は不明である。今後は、本分子機構を解明するために、膵導管細胞における重炭酸輸送に関わるトラ ンスポーターの関与について検討していく予定である。(つづく) シンポジウム3 S9 BCRP(ABCG2)による医薬品、植物性発癌性物質および植物性エストロゲンの組織移行制御 榎園淳一 1,2)、楠原洋之 1)、Alfred H Schinkel3)、杉山雄一 1) 1)東京大学大学院・薬学系研究科・分子薬物動態学教室 e-mail: kusuhara@mol.f.u-tokyo.ac.jp 2)協和発酵工業 薬物動態研究所 3) The Netherlands Cancer Institute 【目的】生体異物の中枢移行は、血液脳関門(BBB)によって制限されている。BBB には P-glycoprotein (P-gp)など の排出トランスポーターが高発現しており、BBB の関門としての機能の一端を担っている。Breast cancer resistance protein (BCRP/ABCG2)は近年 BBB における発現が認められた排出トランスポーターであり、BBB の 管腔側に局在していることから生体異物の中枢移行を制限する関門機構の1つと考えられている。これまで生 体異物の中枢移行における BCRP の関与については報告例が乏しく、imatinib の一例のみである。そこで、本 研究では、さまざまな医薬品、食品性発癌性物質および植物性エストロゲンについて脳内移行における BCRP の影響を検討した。 【方法】免疫染色により、精巣、精巣上体における局在を確認した。化合物をマウスへ定速持続注入し、定常状 態における脳と血漿中の濃度比(Kp)を野性型マウスと BCRP-/-マウスで比較した。 【結果】BCRP は精巣、精巣上体においても内皮細胞の管腔側に発現していることが明らかになった。医薬品につい ては dapsone、dantrolene、prazosin および triamterene、食品性発癌性物質については MeIQx、PhIP およびその 発癌性原因代謝物である N-hydroxyl PhIP、植物性エストロゲンについては coumestrol、daidzein および genistein の Kp 値が BCRP-/-マウスにおいて有意に上昇した。これらの化合物の中で BCRP-/-マウスにおける Kp 値の上 昇率が最も大きかったのは genistein であり、野性型マウスの約 9 倍の上昇が認められた。一方、topotecan や omeprazole のように BCRP と P-gp の両方の基質である化合物については、BCRP ノックアウトマウスにおけ る Kp 値の上昇が認められなかった。これらの化合物の精巣中濃度は、BCRP-/-マウスで高い値を示した。 【結論】BCRP は肝臓や消化管の他、医薬品、食品性発癌性物質および植物性エストロゲンの脳、精巣、精巣上 体への移行性を制限していることが明らかとなった。 S10 銅トランスポータ ATP7A は、ゴルジ輸送を介した薬剤輸送に関与し、抗癌剤耐性に関連する。 ○古川龍彦 1、小松正治 2、池田龍二 3、阿久根 哲 4、Julian F. Mercer5, 秋山伸一 1 所属:鹿児島大学大学院・医歯学総合研究科、1 分子腫瘍学、2 環境医学、3 臨床薬剤学、4 腫瘍制御学、5,Centre of Cellular and Molecular Biology, Deakin Univ. Austraira furukawa@m3.kufm.kagoshima-u.ac.jp 【目的】すでにウイルソン病の原因分子、銅トランスポータ ATP7B が抗癌剤シスプラチン(CDDP)耐性に関与しているこ とを報告した。今回、ATP7B の類縁分子で、メンケス病の原因分子である ATP7A が薬剤輸送における機能を明らかに することを目的とした。 【方法】CHO 細胞と ATP7A 高発現 CHO 細胞およびメンケス病患者由来の線維芽細胞 Me32a-T22/2L とその ATP7A 高発現細胞 Me32/pCMB117 を用いた。抗癌剤に対する耐性度は MTT アッセイを用いて調べた。抗癌剤耐性と関連し た他のトランスポータの発現はイムノブロットと RT-PCR で調べた。ドキソルビシン(DOX)の細胞内局在は、コンフォーカ ル蛍光顕微鏡を用いて観察した。SN-38 と DOX の蓄積・排出を検討した。 さらにヒト大腸癌 34 例について免疫組織 染色による ATP7A、MRP1, BCRP1 の発現と HDRA によって ex vivo の抗癌剤耐性度との関連を検討した。 【結果】ATP7A 高発現細胞は各種の抗癌剤に高い耐性を示した。親株細胞では核に局在する DOX は、ATP7A 高発 現細胞ではゴルジに局在していた。この局在の変化はモネンシンによって阻害された。ATP7A 高発現細胞の DOX と SN-38 の細胞内蓄積は有為に低下し、その排出が高まっていた。その膜ベシクルの SN-38 の取り込みの上昇が見られ た。 ATP7A はヒト正常大腸粘膜には発現していないが、大腸癌の 23%で発現が見られた。さらに ATP7A 発現大腸癌症例 では SN-38 に対する抵抗性と高い相関があったが、CDDP に対する耐性には差がなかった。 【考察】ATP7A 高発現細胞では多くの抗癌剤に耐性となっており。DOX は ATP7A の存在するゴルジ腔内に局在する こと、この局在の変化がモネンシンによって阻害されたことから、DOX はゴルジに取り込まれ、ベシクル輸送を介して排 出されていると考えられた。ATP7A の関与する薬剤輸送は重要な薬剤輸送経路である可能性があり、さらに、ATP7A の発現は SN-38 の耐性と関連しており、抗癌剤選択の有用な情報となると考えられる。 S11 ABCG1 によるコレステロール輸送におけるスフィンゴミエリンの影響 ○松尾道憲、佐野修、小林綾、長尾耕治郎、植田和光 京都大学大学院農学研究科細胞生化学研究室 matsuo@kais.kyoto-u.ac.jp 【目的】ABCG1 はマクロファージを含む末梢細胞でコレステロールとリン脂質を高密度リポタンパク質(HDL) に輸送する ABC トランスポーターであるが、ABCG1 による脂質輸送の分子機構は明らかになっていない。ABCG1 がコレステロールとスフィンゴミエリン(SM)を排出すること、SM は主に細胞膜ラフトドメインでコレステロ ールと相互作用することから、ABCG1 を介したコレステロール輸送に対する SM の効果を検討し、脂質輸送の 分子機構と膜脂質環境による機能制御を明らかにすることを目的とした。 【方法】SM 合成に必須な CERT(ceramide transfer protein)に変異をもち細胞内 SM 量が低下した CHO-K1 細胞 由来の LY-A 株とその機能回復株 LY-A/CERT 株に一過的に ABCG1 を発現させ、HDL へのコレステロール排出と SM 排出を測定した。 【結果】LY-A 細胞の SM 量は、SM 不含有培地で培養すると LY-A/CERT 細胞の約 60%に低下し、ラフトドメインの 破壊によりノンラフトドメインのコレステロールが LY-A 細胞において増加した。この条件下 ABCG1 によるコ レステロールと SM の HDL への排出は、LY-A/CERT 細胞に比べ LY-A 細胞で大幅に低下した。一方、CHO-K1 細胞 に CERT を過剰発現させると細胞 SM 量が増加し、ABCG1 による HDL へのコレステロールと SM の排出が有意に 増加した。 【考察】ABCG1 を介したコレステロール排出は SM 排出に依存し、細胞膜の SM 量やラフトドメインとノンラフト ドメインのコレステロール分布によって制御される可能性が示された。 S12 ABCB4 による胆汁酸依存的な脂質排出 ○森田真也 1、小林綾 2、松尾道憲 2、高根沢康一 3、新井洋由 3、北河修治 1、植田和光 2 1 神戸薬科大学製剤学研究室、2 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻細胞生化学分野、3 東京大学大学 院薬学系研究科衛生化学教室 smorita@kobepharma-u.ac.jp 【目的】ヒト ABCB4(MDR3)は、肝臓の毛細胆管膜に発現しており、ABCB4 の変異は深刻な肝疾患となることが 報告されている。Abcb4 ノックアウトマウスを用いた研究より、マウス Abcb4 やヒト ABCB4 は胆汁中へのホス ファチジルコリン(PC)の分泌に関わっていると考えられているが、細胞レベルでの機能はまだ詳細に調べられ ていない。そこで本研究では、ヒト ABCB4 の安定発現細胞を用いて、ABCB4 によるリン脂質およびコレステロ ールの排出について検討を行った。 【方法】ヒト ABCB4 の機能を調べるために、ABCB1(MDR1)を安定発現する HEK293(HEK/MDR1)細胞と ABCB4 を安 定発現する HEK293(HEK/ABCB4)細胞を樹立した。HEK293 細胞親株では、ABCB1 と ABCB4 の発現は認められなか った。細胞から培地中へ排出されたリン脂質およびコレステロールは、メタノール/クロロホルム(1:2)で抽出 後、酵素法により定量を行った。 【結果】0.5mM(cmc 以下)のタウロコール酸の存在により、HEK/ABCB4 細胞からのリン脂質とコレステロールの 排出が大きく増加した。しかし、HEK/ABCB1 細胞では、このようなタウロコール酸依存的なリン脂質とコレス テロールの排出は見られなかった。ABCB4 の ATP 結合ドメインの変異体を用いた実験より、ABCB4 によるリン 脂質とコレステロールの排出には、ATP 加水分解が必要であることが示された。ABCB1 の基質であるベラパミ ルは、ABCB4 によるタウロコール酸依存的なリン脂質とコレステロールの排出を完全に阻害した。質量分析に より、タウロコール酸存在下で ABCB4 は、スフィンゴミエリンよりも PC を優先的に排出していることが判明 した。 【考察】ABCB4 は、胆汁酸存在下で、肝細胞から毛細胆管中への PC とコレステロールの排出を行う。それに より、ABCB4 は、胆汁形成ならびに脂質恒常性維持において重要な役割を果たしていると考えられる。 S13 ABC タンパク質 PMP70 ならびに P70R のオルガネラ局在化機構の解析 ○柏山恭範、関みどり、安井暁奈、朝比奈幸太、守田雅志、今中常雄 富山大学大学院・医学薬学研究部・分子細胞機能学研究室 E-mail; kashiy@pha.u-toyama.ac.jp 【目的】ABCD ファミリーに属する PMP70 はペルオキシソーム膜に局在し、脂肪酸β酸化に重要な役割を果たしている。 我 々 は 、 遊 離 型 ポ リ ソ ー ム で 合 成 さ れ た PMP70 は 、 シ ャ ペ ロ ン 機 能 を 有 す る Pex19p と 複 合 体 を 形 成 し 、 posttranslational にペルオキシソーム膜に輸送されことを明らかにしてきた。一方同ファミリーに属し PMP70 と相同性の 高い P70R は、ペルオキシソームではなく小胞体に局在していることを見出した。そこで本研究では PMP70 のペルオキ シソーム局在化の分子機構の詳細と、P70R がペルオキシソーム局在化を回避する仕組みについて解析を行った。 【方法】PMP70 ならびに P70R の細胞内局在は、野生型ならびに各種欠損変異体を GFP 及び HA との融合タンパク質 として CHO 細胞に発現させ、蛍光抗体法により解析した。一方、PMP70 ならびに P70R と Pex19p との相互作用は、精 製 Pex19p 存在下、野生型及び各種変異体を小麦胚芽 in vitro translation system で合成し、免疫沈降法により解析し た。さらに PMP70-P70R キメラタンパク質を HA 融合タンパク質として CHO 細胞に発現させ、その局在を解析した。 【結果】PMP70 の最小単位として、N 末端 144 アミノ酸領域をもつ PMP70 がペルオキシソームに局在した。この領域に は二カ所の膜貫通領域に加えて二カ所の疎水性領域が存在し、この疎水性領域を変異させた PMP70(L21Q/L22Q/L23Q)-GFP 及び PMP70(I70N/L71Q)-GFP はペルオキシソームに局在しなかった。前者の変異で は Pex19p との結合が低下したが、後者では低下しなかった。一方、小胞体に局在化する P70R は Pex19p とは相互作 用しなかった。しかしながら、P70R の N 末端側に PMP70 に存在するペルオキシソーム局在化領域を融合させると、小 胞体への局在化が低下し、一部がペルオキシソームへ局在化した。 【考察】PMP70 のペルオキシソーム局在化には N 末端に存在する2カ所の疎水性領域が重要な役割をもつことが示唆 された。前者 L21L22L23 は Pex19p との複合体形成に重要であり、後者 I70L71 は形成された複合体がペルオキシソ ーム膜受容体と結合するために必要であると推定された。一方、P70R はペルオキシソームに局在する ABCD ファミリ ータンパク質 PMP70、ALDP、ALDRP において保存されている N 末端疎水性領域を欠くため、Pex19p と相互作用で きず ER に局在することが示唆された。 シンポジウム4 S14 覚醒剤および違法ドラッグのセロトニントランスポーターを介したセロトニン神経に対する作用 ○中川貴之、山内陽介、鈴木祐一、樋口 萌、金子周司 京都大学薬学研究科生体機能解析学分野 E-mail:tnakaga@pharm.kyoto-u.ac.jp 【 目 的 】 3,4-Methylenedioxymethamphetamine ( MDMA, ecstacy ) や 5-methoxy-N,N-diisopropyltryptamine ( 5-MeODiPT, Foxy)は、中枢興奮作用や幻覚作用を有しており、最近麻薬指定された「違法ドラッグ」の一つである。覚醒剤メ タンフェタミン(METH)が、ドパミン神経およびセロトニン神経共に作用するのに対し、MDMA および 5-MeO-DiPT は、 主にセロトニン神経に作用することが知られているが、その詳細は明らかでない。本研究では、Xenopus 卵母細胞発現 系および縫線核を含む中脳冠状切片培養系を用いて、覚醒剤および違法ドラッグのセロトニントランスポーター (SERT)およびセロトニン神経に対する作用を検討した。【方法】摘出単離した Xenopus 卵母細胞にラット SERT あるい はドパミントランスポーター(DAT)cRNA を注入し、3-7 日間培養後、電気生理学的測定に用いた。ラット新生児より厚 さ 350 µm の縫線核セロトニン神経含有中脳冠状切片を作製し、14-16 日間培養後、実験に用いた。【結果】SERT を発 現させた卵母細胞に、セロトニン、ドパミン、METH あるいは MDMA を処置すると、いずれも濃度依存的に内向き電流 応答を惹起し(基質輸送電流応答)、これらの応答は SSRI 処置あるいは Na+不含条件下で消失した。また、DAT に対 しても MDMA は基質輸送電流を示したが、部分的なものであった。一方、5-MeO-DiPT は、SERT 発現卵母細胞に対 して、SSRI と同様、上向きの電流応答を示したが、DAT に対しては何ら影響を及ぼさなかった。また、縫線核セロトニ ン神経含有中脳冠状切片培養系に対し、METH あるいは MDMA を 30 分間処置したところ、いずれも濃度依存的に セロトニンを遊離させたが、5-MeO-DiPT ではそのような作用は見られなかった。次に、METH あるいは MDMA を数日 間持続的に処置したところ、このセロトニン遊離作用は著明に増強された。一方、5-MeO-DiPT の長期処置は顕著なセ ロトニン神経毒性を惹起した。【考察】MDMA は主に SERT を介して、METH と同様に細胞内輸送され、セロトニン遊離 作用を示すこと、さらにその長期処置によってセロトニン遊離作用が増強される(セロトニン神経感作)ことが明らかとな った。一方、5-MeO-DiPT は、METH や MDMA とは異なり、SERT に対して取り込み阻害作用を示すが輸送されず、 セロトニン遊離作用を示さないこと、さらに、その長期処置により顕著なセロトニン神経毒性を惹起することが示された。 S15 膜発現異常を呈する SLC4A4 遺伝子変異は片頭痛を伴う酸血症を生じる Trafficking defects in SLC4A4 cause pRTA and migraine ○鈴木 正志、堀田 晶子、山田 秀臣、李 月紅、関根 孝司、五十嵐 隆、Wim Van Paesschen、関 常 司、藤田 敏郎 東京大学腎臓内分泌内科、東京大学小児科、Leuven 大学神経内科 Corresponding Author: georgeseki-tky@umin.ac.jp 要旨)眼症状を伴う近位尿細管性アシドーシス(pRTA)は NBC1 輸送体(SLC4A4)の変異によって生じる。今 回 NBC1 の C 末に 65 塩基欠損変異(65del)を有する一家系を同定した。従来の NBC1 変異症例と比べホモ変異 2 症例の酸血症の度合いは軽く、低身長も認めなかったが、共に片麻痺を伴う重度の片頭痛を呈していた。 Xenopus oocyte における機能解析では 65del 変異体は野生型と同等の活性を示したが、MDCK 細胞では、細胞 質内に留まり細胞膜発現をほとんど認めなかった。野生型および 65del 遺伝子安定発現 C6 glioma 細胞株を作 成し細胞膜電位を脱分極させると、野生型では重炭酸流入による急速な細胞内 pH 上昇を認めたが、65del で はほぼ無反応であった。以上より 65del 変異による臨床症状は細胞膜発現の欠如によることが示された。さら に既に報告されている pRTA 9 症例を検討したところ、C6 細胞での膜発現を認めない変異のみが片頭痛を合併 し、膜発現を認めるものは片頭痛を呈さないことが確認された。astrocyte 細胞における膜発現を欠如する NBC1 変異体は脳内 pH 調節の異常により神経細胞の異常興奮を誘導し片頭痛を生じることが初めて示された。 S16 痙攣誘発性物質グアニジノ化合物群の脳内除去機構としてのクレアチントランスポーター (SLC6A8)の生理的役割 ○立川正憲 1、藤縄純 1、高橋雅人 1、葛西康之 1、寺崎哲也 2、細谷健一 1 (1 富山大学大学院医学薬学研究部・薬剤学研究室、2 東北大学大学院薬学研究科・薬物送達学分野) hosoyak@pha.u-toyama.ac.jp 【目的】グアニジノ化合物群は、痙攣誘発性物質として知られており、痙攣発症時には脳内及び脳脊髄液中の 濃度が一過性に上昇し、鎮静時には正常値に戻ることが報告されている。しかし、グアニジノ化合物群の脳内 濃度を決定付ける分子機構は未だ不明であり、特に脳関門における輸送機構の解明は痙攣誘発性物質の蓄積に よる中枢障害を回避する方法を開発する上で重要である。本研究では、グアニジノ化合物群のトランスポータ ーを同定するとともに、血液脳脊髄液関門 (BCSFB) における生理的役割を解明することを目的とした。 【方法】グアニジノ化合物群の構造的特徴から、クレアチントランスポーター(CRT)に着目した。グアニジノ 化合物群の輸送特性は、アフリカツメガエル卵母細胞 (oocyte)発現系を構築し、放射性標識化合物又は膜電流 測定装置を用いて解析した。脳脊髄液中からの[14C]グアニジノ酢酸排出機構の解析には、ラット脳室内投与法 を用いた。CRT の局在性は、免疫電子顕微鏡法で解析した。 【結果・考察】CRT cRNA を注入した oocyte において、グアニジノ化合物群の中でもクレアチン、グアニジ ノ酢酸、β-グアニジノプロピオン酸及びγ-グアニジノブチル酸に対する有意な電流応答が検出された。 [14C] グアニジノ酢酸の取り込みは、CRT cRNA を注入した oocyte において濃度依存性 (Km: 269µM) を示した。従 って、CRT がグアニジノ化合物群のトランスポーターとして機能していることが示唆された。さらに、[14C] グアニジノ酢酸の脳脊髄液中からの消失 (半減期 6.1 分) 及び単離脈絡叢への取り込みは、CRT の基質または 阻害剤によって有意に阻害された。免疫電子顕微鏡解析から、CRT は脈絡叢上皮細胞の刷子縁膜に局在して いることが示された。従って、グアニジノ酢酸は BCSFB における CRT を介して脳脊髄液中から排出されてい ることが示唆された。以上の結果から、BCSFB の CRT が担うグアニジノ化合物輸送系は、痙攣誘発性物質の 脳内蓄積を回避する役割を担っている可能性が高い。 S17 薬物トランスポーターの広範な基質認識性を説明する in silico 結合部位モデルの構築 ○前田和哉 1、中込泉 2、楠原洋之 1、広野修一 2、杉山雄一 1 1 東京大学・大学院薬学系研究科、2 北里大学薬学部 kmaeda@mol.f.u-tokyo.ac.jp 【目的】薬物トランスポーターの一般的な特徴として、非常に広範な化合物を基質として認識することが挙げ られる。本研究では、トランスポーターが、個々の基質の安定な立体配座の共通部分を認識していると仮定し、 ligand-based drug design の手法に基づいて in silico 結合部位モデルを構築した。さらに、Oat1, Oat3 の予 測については E. coli の Glycerol-3-Phosphate Transporter を鋳型にしたホモロジーモデリングを行い、基質 情報から予測される結合部位構造とドッキングさせることで、結合部位付近の蛋白構造予測を試みた。 【方法】個々の基質の安定な立体配座を CAMDAS により発生させ、基質の特徴的な官能基・部位を規定する 特性球を配置した後、基質間で物理化学的性質の類似した特性球が最もよく重なり合う構造を SUPERPOSE を用いて見出した。さらに Km 値の情報を元に、3D-QSAR を CoMFA により行った。ホモロジーモデリング は、FAMS により行った後、基質情報から得られた 3D 結合部位の情報と UNITY3D によりドッキングを行 い、基質結合部位を推定した。 【結果・考察】rat Mrp2 については、16 種類の基質の情報を元に in silico 結合部位モデルを構築した。その 結果、最も基質の Km を説明できるモデルとして、2 箇所の疎水性を示す部位と、2 箇所の水素結合供与性を 示す部位の立体配置が Mrp2 の基質の特徴として重要であることが明らかとなり、CoMFA における静電場・ 立体場の情報と基質の Log P の情報を用いることで、非常に良好に Mrp2 基質の Km 値を定量的に予測可能 であることが明らかとなった。Rat Oat1, Oat3 についても同様の解析を行っており、Oat1 については、2 つ の疎水性部位と 2 つの水素結合供与性の部位が、Oat3 については、3 つの疎水性部位と 1 つの水素結合供与 性の部位が基質の構造特徴として重要であることを見出した。さらにホモロジーモデリングされた蛋白構造と のドッキングの結果、基質結合部位周辺のアミノ酸が推定された。基質から予測された特性球配置とその周辺 に存在するアミノ酸の性質はある程度一致しており、さらにこれらの中には、過去 site-directed mutagenesis により実験的に基質認識に重要だとされてきたアミノ酸も含んでおり、in silico 解析の結果、薬物トランスポ ーターの基質結合部位について妥当な結果を得ることができたと推察している。これらの情報は、新規薬剤の 薬物トランスポーターの基質認識性を実験を介することなく in silico による予測を可能とするものであり、創 薬研究を加速する重要なツールの1つになりえるものと考えている。 ポスター演題 P1 アサタヌキマメ由来 Nramp 型金属トランスポーターのカドミウム輸送と浄化植物への応用 ○増野(中西)亜実 1、士反伸和 2、金子周司 3、矢崎一史 2 1 京都大学生存圏研究所学際萌芽研究センター、2 京都大学生存圏研究所森林圏遺伝子統御分野、 3 京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学分野 yazaki@rish.kyoto-u.ac.jp 【目的】金属トランスポーターを利用してカドミウムを地上部に転流・高蓄積させることにより土壌中のカド ミウムを効率よく除去できる環境浄化型植物の創出を目的としている。本研究ではカドミウム輸送の関与が示 唆されている NRAMP (Natural Resistance-Associated Macrophage Protein)を分子ツールの候補とした。 【方法】ア サタヌキマメ (Crotalaria juncea) から CjNramp1 および CjNramp2 をクローニングした。これらの遺伝子を酵 母に発現させたところ、CjNRAMP1 発現株および CjNRAMP2 発現株はどちらも Cd 感受性を示し、酵母内に 蓄積したカドミウム量は、ベクターコントロールに比べて多かった。一方、シロイヌナズナに発現させたとこ ろ、形質転換体のカドミウム耐性が向上した。 【結果・考察】CjNRAMP1 および CjNRAMP2 は、酵母におい てカドミウムを内向きに輸送していることが示唆された。現在、シロイヌナズナでのカドミウム耐性メカニズ ムの解明に向けて取り組んでいる。 P2 Methotrexate 体内動態決定因子としての Mrp3 の重要性 ○北村 嘉章 1,2、広内 幹和 1、楠原 洋之 1、杉山 雄一 1 1 東京大学大学院 薬学系研究科 分子薬物動態学教室、2 キョーリン製薬株式会社 創薬研究所 薬物動態研究室 【目的】葉酸拮抗薬である Methotrexate(MTX)は、水溶性の高い化合物であり、その体内動態には多くのトラ ンスポーターが関与していることが知られている。MRP3/Mrp3(ABCC3/Abcc3)は、種々のグルクロン酸抱合 体のほかに MTX などの医薬品を基質とする ABC トランスポーターであり、肝シヌソイド側膜、消化管上皮 細胞側底膜に局在することから、肝臓内から血液中への排出輸送および消化管吸収に働いていると考えられて きた。近年、Zelcer らは Mrp3-/-マウスを作製し、肝臓で生成したグルクロン酸抱合体(morphine glucuronide)の 血管側への排出に Mrp3 が関与していることを明らかにした。本研究は、Mrp3-/-マウスを使用し、MTX の体内 動態における Mrp3 の重要性を示すことを目的とした。 【方法】マウスに MTX を経口投与および定速静注し、バイオアベイラビリティ、血漿中濃度基準の胆汁・尿中 排泄クリアランス、肝臓中濃度基準の胆汁排泄クリアランスを算出し、野生型マウスと Mrp3-/-マウスとの比 較を行った。また、肝取り込みクリアランスを integration plot 法および LUI 法を用いて評価した。反転腸管を 作製し、反転腸管の漿膜側を灌流し、粘膜側から漿膜側への透過速度を in vitro で測定した。 【結果・考察】Mrp3-/-マウスでは、経口投与後の MTX の血漿中濃度が野生型マウスよりも低下した。速度論解析の結 果、Mrp3-/-マウスでは野生型マウスに比べて、血漿中濃度基準胆汁排泄クリアランスが増加、ならびに FaFg が低下し ていた。肝臓中濃度基準胆管側排出クリアランスおよび肝取り込みクリアンスには野生型と Mrp3-/-マウスとの間で差 がみられらなかったことから、血漿中濃度基準胆汁排泄クリアランスの増加は、シヌソイド側の排出輸送の低下によるも のと考えられる。また、反転腸管法による粘膜側から漿膜側への MTX の透過は十二指腸でのみ飽和性輸送が認めら れたが、Mrp3-/-マウスから作製した反転腸管ではこの輸送は有意に低下していた。 【結論】Mrp3 は MTX の肝シヌソイド側排出輸送、ならびに消化管側底膜における吸収方向の輸送に関与し、MTX の 全身曝露を増大させていることを明らかとした。 (参考文献)Zelcer N et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2005;102:7274-7279. 【謝辞】Mrp3-/-マウスを御供与いただきましたDr.Borst(The Netherlands Cancer Institute)に深く感謝します。 P3 緑化用ソバの鉛耐性における多剤耐性関連タンパク質 FeMRP3 の関与 ○水野隆文・中川雅博・杉浦たまき・田村英生*・小畑 仁 三重大学大学院生物資源学研究科資源循環学講座土壌圏生物機能学研究室 *中部電力(株)エネルギー応用研究所 Corresponding Author:水野隆文(tmizuno@bio.mie-u.ac.jp) 【目的】緑化用ソバは土壌中の鉛を吸収し地上部に高濃度で蓄積する能力を持つことから、植物による土壌浄化用作 物(ファイトレメディエーション植物)としての利用が期待されている。近年、植物の多剤耐性関連タンパク質(MRP)の重 金属耐性に関する報告が相次ぎ、緑化用ソバの鉛耐性についても MRP ホモログが関与することが予想された。今回、 緑化用ソバの MRP ホモログである FeMRP3 遺伝子を単離し、酵母およびシロイヌナズナを用いて本遺伝子の鉛およ びカドミウムに対する耐性と集積能力を検証した。【方法】RT-PCR 法により緑化用ソバから FeMRP3 遺伝子を単離し、 酵母用発現プラスミドを構築した。0-50µM の鉛もしくはカドミウムを添加した培地上にて生育を比較し、さらに液体培地 において生育した酵母における各重金属の集積量を測定した。シロイヌナズナについては CaMV35S プロモーターに よる発現系を構築し、1000µM までの鉛添加培地における生育と鉛集積量について検討した。【結果】FeMRP3 発現酵 母は鉛含有培地における明確な生育の向上を示したが、カドミウムに対して耐性を示さなかった。さらに、培地へのグ ルタチオン合成阻害剤 BSO 添加が酵母の鉛耐性に影響を及ぼさなかったことから、FeMRP3 による鉛耐性はグルタチ オン抱合と独立していることが示唆された。また、FeMRP3 の発現によりシロイヌナズナの鉛耐性は大きく向上し、地上 部における鉛集積量は約 6.4 倍となったが、FeMRP3 の発現は鉛の根圏伸長に対する影響を緩和せず、また酵母と同 様カドミウムに対する耐性の向上を示さなかった。【考察】FeMRP3 はシロイヌナズナ由来 AtMRP3 らとは異なり、鉛に 対して高い耐性能力を有する遺伝子であることが判明し、緑化用ソバにおける鉛耐性と集積に関与していることが示 唆された。 P4 ラット骨格筋に発現するプラバスタチン輸送担体の同定 ○坂本多穂 1、三上裕嗣 1、和栗聡 2、木村純子 1 福島県立医科大学医学部, 1 薬理学講座, 2 解剖組織学講座 kazuho@fmu.ac.jp 【目的】高脂血症治療薬スタチンの副作用に、横紋筋融解症がある。水溶性スタチンはその輸送担体の発現する肝 臓・腎臓に特異的に作用し、筋への副作用は発生しにくいとされるが、臨床的には他のスタチンと副作用発生のリスク に差は無い。我々は骨格筋においても薬物トランスポーターを介した水溶性スタチンの細胞内取り込みが起こると想定 し、その同定を試みた。 【方法】ラット後肢短指屈筋を初代培養し、スタチンの筋毒性をトリパンブルー染色法により検討した。また骨格筋モデ ル細胞である L6 筋芽細胞に対する毒性も観察した。さらに、ひらめ筋、長指伸筋、短指屈筋、L6 細胞を用いて、プラ バスタチンの細胞内への輸送を行う oatp1/SLCO1a1、oatp2/SLCO1a4、oatp4/SLCO1b2、OAT3/SLC22a8 と細胞外へ の排出を行う MRP2/ABCC2 の mRNA 発現を、RT-PCR 法により検討した。 【結果】ラット単離骨格筋線維にプラバスタチンおよび脂溶性のフルバスタチンを投与したところ、両者とも細胞毒性を 示した(フルバスタチン LD50=0.3 µM、プラバスタチン LD50=8.6 µM)。一方、L6 細胞ではフルバスタチンのみが細胞毒 性を示し(LD50=3.9 µM)、プラバスタチンは高濃度 (< 1 mM)でも有意な毒性は認められなかった。oatp および OAT の 基質であるエストロン硫酸(300 µM)、または OAT の基質であるパラアミノ馬尿酸(300 µM)存在下でプラバスタチンを作 用させたところ、エストロン硫酸存在下では筋毒性が有意に緩和された。骨格筋と L6 細胞に発現するプラバスタチン 輸送担体の mRNA 発現を RT-PCR 法により確認したところ、骨格筋ではいずれの部位においても oatp2 の mRNA 発 現が認められたが、L6 筋芽細胞においては見られなかった。oatp1、oatp4、OAT3、MRP2 はいずれの組織においても 発現は確認できなかった。 【考察】プラバスタチンはラット骨格筋線維に対し選択毒性を示すが、これは筋細胞膜上に oatp2 が発現し、細胞内輸 送を行うことが一因と考えられる。oatp2 は生理学的に胆汁酸と甲状腺ホルモンのトランスポーターとして機能するが、 骨格筋はこれらによる調節を強く受ける組織であり、その機能発現は高い合目的性を有すことが考えられる。 P5 シロイヌナズナ モリブデントランスポーターMOT2 の機能解析 ○戸松 創 東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 植物機能工学研究室 E-mail: aa57050@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp 【目的】モリブデンは生物の必須元素である。生体内においてモリブデンは酸化還元酵素の補酵素の構成成分 として利用されており、動物では含硫アミノ酸の分解やプリンの異化反応などに、植物では窒素同化や植物ホ ルモンの合成などに、微生物では大気中の窒素の固定などに関与している。真核生物のモリブデン輸送体は同 定されていなかったが、モデル植物シロイヌナズナのモリブデン含量に関する量的遺伝子形質座(QTL)解析に よりモリブデン輸送体(MOT1)を同定した。シロイヌナズナの MOT1 相同 遺伝子はモリブデン輸送体をコードしていると推測される。最も相同性が 高いタンパク質 MOT2 について、機能解析を行った。 【方法】BLAST 検索 により MOT1 のアミノ酸配列と最も相同性が高いタンパク質をコードす ると判定される遺伝子 MOT2 を研究対象とした。シロイヌナズナの MOT2 を酵母に異種発現させて、モリブデン含有量の変化を調べた。植物細胞内 での GFP-MOT2 融合タンパク質の局在を観察した。さらに、モリブデン 欠乏環境下における mot2 変異株の生育を観察した。 【結果】MOT2 を発現 した酵母は細胞内モリブデン含量が上昇した(右上図:170 nM MoO42-を含 む培地で培養した酵母の細胞内 Mo 濃度変化)。GFP-MOT2 融合タンパク 質を発現する形質転換植物では、細胞の外縁部に蛍光が観察 された。また、mot2 変異株はモリブデン欠乏環境下での生 育が抑制された(右下図:Mo 充分条件下または欠乏条件下で 栽培した野生型株 Col-0 と mot2-1 変異株および mot1-1 変異 株)。 【考察】MOT2 はモリブデン輸送体であると考えられる。 P6 シロイヌナズナホウ酸トランスポーターの細胞内極性とホウ酸過剰耐性付与 ○三輪京子、高野順平、大森弘之、藤原徹 東京大学生物生産工学研究センター植物機能工学研究室、SORST(JST) atorufu@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp 【目的】ホウ素の必須性は植物では古くから知られ、細胞壁の構造維持に働く。近年、 動物においてもその必須性が認められ、細胞増殖や分化への関与が示唆されている。同 時に、高濃度のホウ素は生物に毒性を示すため、細胞はホウ素濃度を適切に調節するこ とが必要である。本研究ではヒト Anion Exchanger(SLC4)に相同性をもつシロイヌナ ズナホウ酸トランスポーターBOR4 のホウ酸過剰耐性への関与の検討を目的とした。 【方法】BOR4 プロモーターもしくは CaMV35 RNA プロモーターで構成的に BOR4-GFP を発 現する形質転換シロイヌナズナをそれぞれ作出した。GFP 蛍光観察により細胞内局在、 ウェスタン解析によりタンパク蓄積を検出した。固形培地を用いた生育試験により形質 転換体のホウ素過剰耐性を調べた。 【結果】ProBOR4-BOR4-GFP の GFP 蛍光は根の表皮の遠心側細胞膜に極性をもって検出さ BOR4 れた(上図:Bar 100 µm(左)、10 µm(右))。BOR4 を構成的に発現させた形質転換体では、 野生型 発現株 ホウ素栄養条件によらずタンパクの蓄積が検出され、高濃度のホウ酸を含む培地におい て野生型植物に対して有意な生育改善を示した(下図:培地ホウ素濃度 8mM、12 日間、Bar 10mm)。 【考察】シロイヌナズナ BOR1 は根の中心柱側細胞膜に局在するホウ酸トランスポーターであり、低ホウ素濃 度条件での導管へのホウ酸の排出に寄与する。BOR1 はホウ素濃度に応じて転写後制御を受け、高ホウ素濃度 条件ではエンドサイトーシスによるタンパク分解を受ける。今回、その相同タンパクである BOR4 は根の遠心 側細胞膜へ局在し、高ホウ素濃度においてもタンパクが蓄積することが分かった。細胞内極性、ホウ素に依存 したタンパク蓄積に関して BOR4 の BOR1 とは対照的な性質を明らかにした。同時に、BOR4 の発現が植物にホ ウ素過剰耐性を付与することを明らかにし、ホウ酸過剰耐性植物の作出に世界で初めて成功した。 P7 ミヤコグサ モリブデントランスポーターの機能解析 ○ 三輪大樹1 戸松創1 佐藤修正2 田畑哲之2 藤原徹1 1、東京大学生物生産工学研究センター、植物機能工学研究室 2、かずさ DNA 研究所 E-mail: atorufu@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp 【目的】マメ科植物は土壌細菌・根粒菌と共生し、大気中の窒素を固定してアンモニアに変換する。このニト ロゲナーゼの活性にはモリブデンが必須であることが広く知られていたが、これまでモリブデンの輸送体に関 する知見は得られていなかった。今回、モデルマメ科植物ミヤコグサより、モリブデンの輸送体を単離・同定 し、その機能を明らかにすることを目的とした。 【方法】ミヤコグサのゲノム情報を用いて、シロイナズナ・モリブデントランスポーターの相同遺伝子の探索を行った。 またその遺伝子を酵母に異種発現し、その翻訳産物のモリブデン輸送活性を解析するとともに、GFP 融合タンパク質をミ ヤコグサで発現させて細胞内局在を観察した。 【結果】ミヤコグサ共生窒素固定に関与する遺伝子 LjSMT1(Symbiotic Molybdenum transporter 1)を同定した。SMT1 を発現させた酵母では細胞内モリブデン含量の増加が観測された。ミヤコグサを用いた局在解析の結果、SMT1 の細胞膜 への局在が観測された。 【考察】モデルマメ科植物ミヤコグサよりモリブデントランスポーターを単離・同定した。 P8 シロイヌナズナホウ酸トランスポーターの極性を持った細胞内局在とホウ素に依存したエンドサイト ーシス 高野順平○、豊田敦至、三輪京子、藤原徹 東京大学生物生産工学研究センター 植物機能工学研究室 ujtakano@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp 【目的】ホウ素は高等植物の必須元素の一つであり、細胞壁の構造維持に働く。ホウ素はまた、過剰に存在する と植物に害を及ぼす。シロイヌナズナ BOR1 はホウ素の根から地上部への輸送を担う排出型ホウ酸トランスポ ーターであり(Takano et al. 2002 Nature)、ホウ素濃度に依存したエンドサイトーシス・分解による調節を受け る (Takeno et al. 2005 PNAS)。本研究では、BOR1 の細胞内局在とそのホウ素条件による制御を記述し、それ ら細胞内輸送の分子機構を探ることを目的とした。 【方法】BOR1 プロモーター制御下で BOR1-GFP 融合タンパク質を発現させる形質転換シロイヌナズナを作成 し、confocal 顕微鏡による GFP 蛍光の観察に用いた。また、BOR1 のパラログの一つである BOR4、BOR1/BOR4 キメラタンパク質、BOR1 の点変異導入タンパク質についても同様の実験を行った。 【結果】BOR1-GFP は低ホウ素条件下に、根の様々な細胞において中心柱より(内側)の細胞膜に極性をもって 局在し、高濃度のホウ素供給によりエンドサイトーシス経路で分解された。一方 BOR4-GFP は根端の表皮細 胞において遠心側(外側)の細胞膜に極性をもって局在し、高濃度のホウ素に依存した分解は見られなかった。 また、極性輸送とエンドサイトーシスに BOR1 の細胞質側に存在するループ領域が必要であることが明らかに なった。 【考察】BOR1 は根の各細胞において中心柱よりの細胞膜に局在することにより、中心柱あるいは根端の成長中の細胞 へ方向性を持ってホウ酸を輸送することが示唆された。また、エンドサイトーシスによる BOR1 のすみやかな不活 性化は、ホウ素の地上部への過剰輸送を防ぐためのものと考えられる。一方 BOR4は根の外へホウ酸を排出 し、ホウ酸過剰耐性に寄与することが示唆された。BOR1 と BOR4 は植物の細胞膜タンパク質の極性輸送とエ ンドサイトーシスのメカニズムの解明において強力なモデルとなると考えている。 P9 OATP1B1 および OATP1B3 を介した肝臓毒マイクロシスチン LR の細胞内への選択的取り込みに よるアポトーシスの誘導 ○小松正治 1、古川龍彦 2、池田龍二 3、内匠正太 1、農清清 1、青山公治 1、秋山伸一 2、Dietrich Keppler4、竹内亨 1 1 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科環境医学分野、2 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科分子腫瘍学分野、3 鹿 児島大学附属病院薬剤部、4 ドイツ癌研究センター腫瘍生化学部門 Corresponding Author: haruto@m3.kufm.kagoshima-u.ac.jp 【目的】肝臓毒で環状ペプチド構造をとるマイクロシスチン LR(MCLR)は、プロテインホスファターゼ(PP)1 および PP2A を特異的に阻害し、急性の肝不全を誘発する。また慢性的な曝露により肝がんを誘発する発がん プロモーターでもある。しかし、その毒性発現機序には不明な点が多い。そこで、ヒト肝細胞特異的に発現し ている OATP1B1 および OATP1B3 が MCLR の肝臓特異的毒性発現に寄与し得るか否かを明らかにすることを 目的とした。【方法】OATP1B1 または OATP1B3 を安定に強制発現するヒト胎児腎臓由来細胞の HEK293 (HEK293-OATP1B1 または HEK293-OATP1B3)細胞を実験に供した。MCLR の細胞内取り込みおよび蓄積量 を ELISA 法で測定した。細胞内のセリン/スレオニン PP 活性は、オルトバナジン酸の存在下で pNPP を基質 に用いて測定した。細胞毒性は MTT 法、アネキシン V 染色、Sub-G1 解析を用いて評価した。各種タンパク 質 の リ ン 酸 化 は 、 イ ム ノ ブ ロ ッ ト 法 を 用 い て 解 析 し た 。【 結 果 と 考 察 】 HEK293-OATP1B1 お よ び HEK293-OATP1B3 細胞に対する MCLR の細胞毒性は同等であり、その毒性発現は BSP、リファンピシン、ま たはシクロスポリン A により抑制された。HEK293-OATP1B3 細胞を用いた解析の結果、MCLR の取り込み (Km=1.2 µM)は同様に BSP、リファンピシン、またはシクロスポリン A により抑制された。細胞内セリン/ スレオニン PP 活性は、MCLR の添加濃度に依存して低下した。また、MCLR 曝露により各種 MAPK がリン 酸化し、これらのリン酸化および MCLR の細胞毒性は、MAPK シグナリングの各種阻害剤により抑制された。 以上の結果から、MCLR の毒性発現には OATP1B1 または OATP1B3 を介した選択的細胞内取り込みが必須で あり、その結果、細胞内で各種タンパク質のリン酸化・脱リン酸化の平衡が崩れ、細胞毒性を誘発しアポトー シスに至ることが明らかになった。 P10 LC-MS/MS を用いた高感度多分子同時定量によるトランスポーターの定量的タンパク質発現プロ ファイルの構築技術 ○大槻純男 1,2、上家潤一 1,2、勝倉由樹 1,2、大峰健 1、岩瀬怜 1、矢内一成 1、関根ゆみ 1、寺崎哲也 1,2 1 東北大学大学院薬学研究科薬物送達学分野、2SORST・科学技術振興機構 sohtsuki@mail.pharm.tohoku.ac.jp トランスポーターの機能を理解するためには、トランスポーターのタンパク質発現量情報が必須である。トランスポー ターは、高分子膜タンパク質であるため可溶化が困難であり、特異的結合物による絶対定量は、現在、GLUT1 のみ可能である。我々は、高感度多成分定量が可能な HPLC 接続型質量分析装置(LC-MS/MS)を用いて、ア ミノ酸配列情報から標的トランスポータータンパク質の絶対発現量を定量する系を樹立し、高感度多分子同時 定量によってトランスポーターの定量的タンパク質発現プロファイルを構築する技術を確立した。高分子膜タ ンパク質であるトランスポーターを変性条件下でトリプシン消化し、標的トランスポーター特異的消化ペプチ ドを定量する。定量は、安定同位体標識ペプチドを用いた内部標準法によっておこなう。LC-MS/MS によって 高感度検出可能なペプチドの選択のため、複数の選択条件を設定した。設定条件によって選択したペプチドの 多くは 10 fmol の高感度検出が可能であった。以上の樹立した定量系を用いて、マウストランスポータータン パク質の 27 分子の同時定量を脳毛細血管内皮細胞、肝臓及び腎臓に対して行った。その結果、すでに機能し ていることが報告されているトランスポーターを定量することに成功し、各臓器における定量的トランスポー タータンパク質発現プロファイルを初めて構築した。また、GLUT1、MDR1, BCRP の定量値を確立した系と 特異的結合物や抗体を用いた系で比較した結果、定量値に有意な差は検出されなかった。本プロファイルとト ランスポーターの基質輸送速度を統合することによって初めて各トランスポーターの輸送への寄与を理解す ることが可能となる。また、プロファイルを比較することによってトランスポーターのタンパク質レベルの変 動を容易にとらえることが可能となり、病態におけるトランスポーターの役割やトランスポーターの新たな生 理機能の解明へ展開することが期待される。 P11 オオムギの根に特異的なファイトシデロフォアー(ムギネ酸)鉄錯体トランスポーターの解析 ○村田佳子1、馬 建鋒2、山地直樹2、上野大勢2、野本享資3、岩下 孝1 1 (財団法人)サントリー生物有機科学研究所、2 岡山大学資源生物科学研究所、植物ストレス応答分子解析グル ープ、3 奈良県地域結集型共同研究コア研究室 murata@sunbor.or.jp 【目的】鉄は植物にとって必須元素であり、土壌中に豊富に含まれる元素であるにもかかわらず、アルカリ土壌 では3価の不溶態鉄として存在しているので植物は利用できない。オオムギはイネ科植物の中でもファイトシ デロフォア(ムギネ酸)を最も多く分泌し、3価の鉄錯体を形成し、そのまま取り込む機構がある。このこと から、ムギネ酸鉄(Ⅲ)錯体トランスポーターを同定し、その局在と輸送機能を明らかにする目的で行った。 【方法】鉄欠乏オオムギの根からオオムギの EST データベースを基に、ムギネ酸鉄(Ⅲ)錯体トランスポーター である HvYS1 遺伝子を同定し、その局在を in situ hybridization と抗体染色で、輸送活性は鉄吸収欠損酵母 の相補実験とアフリカツメガエル卵母細胞の電気生理実験を行った。【結果と考察】HvYS1 の全長 cDNA 2430 bp を同定し、予想されるアミノ酸数は 678 だった。オオムギから単離した HvYS1 とすでに報告されているトウモ ロコシの ZmYS1 のアミノ酸配列を比較すると、ホモロジーが 72.7%と高かった。HvYS1 遺伝子の局在を real time RT-PCR で調べると、オオムギの根に主に発現しており、鉄欠乏状態にすると mRNA が約 50 倍増加してい た。また、オオムギの根の表皮細胞の細胞膜に強く発現していた。輸送活性測定の結果 ZmYS1 と異なりムギネ 酸鉄錯体特異的に機能していることが明らかになった。 P12 グラム陰性細菌 Serratia marcescens 由来 TypeⅠ分泌システム発現系の構築 ○中村仁美、Clement Angkawidjaja、桑原克昌、古賀雄一、高野和文、金谷茂則 阪大院工・生命先端 ktakano@mls.eng.osaka-u.ac.jp 【目的】生物には細胞外へタンパク質を分泌する機構が存在し、グラム陰性細菌においてもいくつかの分泌システムが 報告されている。TypeⅠ分泌システムは多くのグラム陰性細菌に認められているタンパク質分泌システムであり、ATP 結合モチーフを有する ABC-タンパク質(内膜タンパク質)、membrane fusion タンパク質、外膜タンパク質から成り、そ れらが細胞膜でチャネルを形成して菌体外にタンパク質を分泌するが、その機構については未解明な部分が多い。こ の分泌機構を解明するには構造を決定することが必要である。本研究では TypeⅠ分泌システムの 1 つであり Lipase を 分泌する、グラム陰性細菌 S. marcescens の Lip システムの構造を決定するために、大量発現系を構築することを目的 とした。【方法】S. marcescens においては lipB、lipC、lipD 遺伝子がそれぞれ IMP、MFP、OMP に対応し、本研究では lipB、lipC、lipD それぞれを pET-25b(+)、LipBC 共発現のために lipB、lipC を pCDFDuet-1 に挿入した。構築したプラ スミドを用いて発現の確認を行った。【結果】形質転換した E.coli BL21(DE3)Codon Plus を NZCYM 培地で培養したと ころ、LipB、LipC、LipD それぞれの発現を確認できた。また LipB、LipC は不溶性画分にあることがわかった。【考察】 LipB、LipC は膜画分にあることが明らかとなった。また LipC は脂質アンカー型のタンパク質であるため、アンカリング 部位を除去すれば可溶性として精製できると思われる。今後、アンカリング部位を除去して機能を維持しているかを確 認し、発現・精製を行う予定である。 P13 昆虫のトレハローストランスポーター遺伝子の単離と機能検定 ○金森保志、斉藤彩子、田中大介、岩田健一、黄川田隆洋、渡邊匡彦、奥田隆 農業生物資源研究所、乾燥耐性研究ユニット kikawada@affrc.go.jp, oku@affrc.go.jp 乾燥耐性昆虫のネムリユスリカから促進拡散型としては初のトレハローストランスポーター遺伝子(PvTRET1)が単離 された。PvTRET1 は乾燥時の生理状態であるクリプトビオシスという状態に移行する際に発現する遺伝子として単離さ れたが、一般的に昆虫の血糖はトレハロースであることから、他の昆虫も PvTRET1 のオーソログ遺伝子を持つと予想さ れる。そこで PvTRET1 のトレハロースの認識・透過機構を解明するために、他の昆虫における PvTRET1 オーソログ遺 伝子を単離し、共通アミノ酸配列を比較調査した。データベースサーチによりショウジョウバエ、ハマダラカ、セイヨウミツ バチ、カイコから PvTRET1 に相同性の高い配列を見つけることができた。これらの塩基配列をもとにそれぞれの昆虫 の幼虫から作製した cDNA を鋳型とした 5’、3’RACE をおこなった結果、4 種の昆虫から 6 個のオーソログ遺伝子の ORF 領域をクローニングした。単離した遺伝子が実際にトレハロースの透過機能を有しているかどうか、アフリカツメガ エルの卵母細胞による発現実験をおこなったところ、5 個のオーソログ遺伝子がトレハロースを透過させることがわかっ た。予想された膜貫通ドメインの位置を基準に、ヒトグルコーストランスポーター(hGLUT)ファミリーにおける共通のアミノ 酸配列と比較したところ、化学的性質の似ているアミノ酸への置換が見受けられるものの、クラス 1、2 の hGLUT ファミリ ーに近い構造であることがわかった。 P14 フラボノイド Chrysin のマウス Bcrp/ABCG2 に対する影響 ○川瀬篤史,松本優香子,羽田野素司,岩城正宏 近畿大学 薬学部 生物薬剤学研究室 iwaki@phar.kindai.ac.jp 【目的】近年,健康食品やサプリメントと医薬品との相互作用に対する関心が高まっている。フラボノイド類は,強力な抗 酸化作用を有しており,抗癌作用,血行促進作用,抗血栓作用および抗ウイルス作用などを持つことが知られている。 これまで,フラボノイド類のチトクロム P450 や P-糖タンパク質との相互作用については多くの検討がなされているものの, 他のトランスポーターに対する影響については不明な点が多い。そこで,P-糖タンパク質と組織分布および基質特異 性など共通する点も多い Bcrp/ABCG2 に着目し検討を行った。Bcrp/ABCG2 はラットとマウスで異なった発現分布を示 すことが明らかとなっており,マウスでは基質の体内動態に性差が見られることが報告されている。また,フラボノイドで ある chrysin がラット Bcrp/ABCG2 を阻害することが示されている。これらの知見に基づき,本研究では chrysin のマウス Bcrp/ABCG2 に対する影響について検討を行った。 【方法】Bcrp/ABCG2 の基質としては nitrofurantoin を用いた。Nitrofurantoin のマウス経口投与または静脈内投与時の 体内動態に対する chrysin の影響については,nitrofurantoin の血漿中濃度を HPLC 法により測定することにより検討し た。また,肝臓,腎臓,十二指腸,空腸および回腸の Bcrp mRNA 量をリアルタイム RT-PCR 法により評価した。 【結果】Chrysin の Bcrp/ABCG2 への阻害効果はラットにおいては報告されているが,今回のマウスでは経口投与およ び静脈内投与ともに認められなかった。これがラットとマウス Bcrp/ABCG2 の各臓器における発現の種差によるものか を明らかにする目的で,各臓器における Bcrp/ABCG2 mRNA 発現量を測定した。その結果,ラットおよびマウスともに 小腸下部で mRNA 量が多くなったが,マウスでは小腸 Bcrp mRNA 発現が低いことが明らかとなった。また,chrysin を 4 日間経口投与したときの小腸 Bcrp/ABCG2 mRNA への影響を調べたところ,大きな変化は見られなかった。 【考察】マウスでは chrysin の併用がニトロフラントインの体内動態にほとんど影響を及ぼさなかったが,これはラットに比 べ著しく低い小腸での Bcrp/ABCG2 が原因と考えられる。また,chrysin 連続投与において,小腸の Bcrp/ABCG2 mRNA 発現量が変動せず,体内動態は大きな影響を受けないことが示唆された。 P15 硫酸イオントランスポーターの硫黄栄養応答を制御するシス因子の解析 ○丸山明子、中村有美子、井上恵理、斉藤和季、高橋秀樹 理研 PSC 代謝機能研究グループ 基礎代謝研究チーム 【目的】 硫黄は植物の生存に必須な多量元素であり、その供給量・同化能は植物の生育や発達に大きく影響する。 硫黄栄養が不足すると、硫黄同化系で働く酵素遺伝子群の発現が植物内で上昇し、硫黄欠乏下(-S)での植物の生 存が可能になる。中でも硫酸イオントランスポーターの発現上昇は顕著である。硫黄栄養変化から硫酸イオントランス ポーターの発現上昇に至る分子機構を明らかにすることを目的とし、硫酸イオントランスポーターの硫黄栄養応答シス 因子を同定した。 【方法】 発現組織、輸送特性の異なる3つの硫酸イオントランスポーターSULTR1;1、SULTR1;2、SULTR2;1 について、 プロモーター制御下にルシフェラーゼ遺伝子を発現する形質転換植物を作製し、プロモーターの deletion 系列を作製 した。硫黄十分、硫黄欠乏におけるルシフェラーゼ活性を測定することにより、プロモーターの硫黄栄養応答性を解析 した。 【結果】 SULTR1;1、SULTR1;2、SULTR2;1 の硫黄栄養応答は、それぞれの位置、配列ともに全く異なるシス因子によ って制御されていることが明らかになった。 【考察】 各SULTRの硫黄栄養応答を直接的に制御するトランス因子もそれぞれ異なることが予測される。硫黄 栄養応答の情報伝達系が複雑制御されていると考えられる。現在、トランス因子の同定を進めている。 P16 高等植物における高親和型尿素トランスポーターの生理機能 ○小島創一 1, 2、Anne Bohner1、高橋秀樹 2、Nicolaus von Wiren1 Institut fuer Pflanzenernaehrung, Universitaet Hohenheim1, 理化学研究所 植物科学研究センター 代謝機能研究グ ループ 基礎代謝研究チーム 2 vonwiren@uni-hohenheim.de 【目的】植物にとって窒素は最も不足しやすい栄養素であり、農業生産を直接規定する重要因子である。尿素は世界 中でもっとも多く使用される窒素肥料の一つである。植物における尿素の輸送は Sodium Solute Symporter の一つであ る尿素トランスポーターAtDUR3 が担う。 本研究では植物における AtDUR3 の生理機能を解明することを目的とした。 【方法】植物の窒素栄養の変化による AtDUR3 転写産物の発現変動を調査した。AtDUR3 プロモーターと GFP を連結 した融合遺伝子を導入した形質転換植物で AtDUR3 を発現する根の細胞群を同定した。根の全載標本による免疫染 色および二層分配法による分画を行い、AtDUR3 タンパク質が局在する膜を同定した。AtDUR3 欠損植物変異体に 15 N 標識尿素を与え、その吸収速度を野生型植物と比較した。 【結果】AtDUR3 は植物が窒素飢餓状態のときに根毛帯の根表層細胞群の細胞膜に集積した。野生型シロイヌナズナ では根における高親和型尿素輸送速度と尿素濃度の関係は典型的なミカエリス・メンテン型であったが、AtDUR3 の 欠損により高親和型尿素輸送の約9割を消失した。 【考察】高等植物の高親和型尿素輸送を主導的に担うトランスポーターは AtDUR3 であった。微生物より分泌される尿 素分解酵素は土壌中で安定に尿素を分解するが、その尿素に対する親和性は低く、尿素は土壌中に低濃度で存在 する。AtDUR3 は尿素に対して非常に高い親和性を持ち、窒素飢餓状態のときに低濃度ではあっても重要な窒素栄 養である尿素を環境から植物体内に輸送する生理機能を有すると考察した。 P17 C6 glioma cell における尿素輸送体 UT-B の尿素および水輸送機能 ○宮崎裕明 1、大神文 1, 2、新里直美 1、丸中良典 1 京都府立医科大学大学院 1 細胞生理学、2 小児科学 hmiyazak@koto.kpu-m.ac.jp 【目的】尿素は、脳障害時に polyamine 生成の副産物として生成されるが、グリア細胞に吸収され髄液や血液中 に放出されると考えられている。グリア細胞には尿素輸送体(UT-B)が発現しており尿素排泄に関与している ことが示唆されているが、グリア細胞における尿素輸送の詳細なメカニズムは明らかになっていない。そこで、 グリア細胞由来の C6 細胞において、UT-B による尿素輸送機能について検討を行った。【方法】尿素、NaCl、グ リセロールを溶質として用いた高浸透圧溶液を作製し、C6 細胞に処理した際の細胞容積変化からそれぞれの物質の 透過性を検討した。また、UT-B の阻害剤である pCMBS を処理した際や、RNAi により UT-B の発現を抑制した際の尿 素透過性を測定し、UT-B の尿素透過性への関与を検討した。【結果】NaCl やグリセロールによる高浸透圧溶液で処 理した細胞は、細胞内外の浸透圧差による水の流出により細胞容積が減少した。しかし、尿素による高浸透圧刺激で は、逆に細胞容積の増大が認められた。この細胞容積増大は、pCMBS 処理や UT-B の RNAi により有意に抑制され た。【考察】高浸透圧刺激時に細胞容積の増大が起きたことから、C6 細胞では細胞膜の尿素透過性が非常に高く、尿 素は浸透圧物質としては作用しないことが明らかとなった。また容積増大は、尿素の流入と共に細胞内に水の流入が 起きたことによると示唆された。pCMBS 処理や UT-B の RNAi により、これらは阻害を受けたことから、UT-B が尿素と 水の共輸送ルートとして機能していることが示唆された。 P18 神経突起伸長に対する Na+/K+/2Cl-共輸送体(NKCC1)の役割 ○中島謙一、宮崎裕明、新里直美、丸中良典 京都府立医科大学・大学院医学研究科・細胞生理学 Corresponding author: k-nakaji@koto.kpu-m.ac.jp 【目的】神経細胞における神経突起伸長には、微小管をはじめとする細胞骨格系の再構築が深く関わっている ことが知られている。一方、細胞内 Cl-濃度変化は、細胞増殖や細胞骨格系再構築を含む様々な細胞機能制御 に関与していることが、近年の研究より明らかになってきた。本研究では、Cl-輸送体として Na+/K+/2Cl-共輸 送体(NKCC1)に着目し、神経突起伸長に対する NKCC1 の役割を調べた。 【方法】ラット副腎由来 PC12 細胞および PC12D 細胞を用いた。両細胞ともに NGF に反応して神経突起を伸長 するが、PC12D 細胞の方がより敏速に突起を伸長する。これらの細胞を NGF 処理する際に、同時に NKCC1 阻害 剤 bumetanide を作用させ、伸長した突起の長さを計測した。また、RNAi 法によって NKCC1 をノックダウンし た際の突起の伸長についても調べた。 【結果】Bumetanide 処理、および RNAi 法によるノックダウンにより神経突起の伸長は有意に抑制された。ま た、低 Cl-濃度の培地中で NGF 処理を行った際にも同様の効果が観察された。NKCC1 の発現量は NGF 処理によ り増加した。また、より敏速に突起を伸長する PC12D 細胞の方が、NKCC1 の発現量が高いことが明らかになっ た。 【考察】PC12 細胞および PC12D 細胞における神経突起伸長には、NKCC1 が必須である事が強く示唆された。 P19 Tight junction の Sensor 機能 : 浸透圧・水圧認識によるイオン輸送の調節 ○徳田 深作、 宮崎 裕明、 中島 謙一、 新里 直美、 丸中 良典 京都府立医科大学大学院 細胞生理学 tokku@koto.kpu-m.ac.jp 【目的】我々は以前、管腔側と血管側の浸透圧・静水圧差によって Tight junction の barrier function が制御されることを 報告した。今回の研究では、これらの外界環境の細胞経由イオン輸送 transcellular ion transport に対する影響につい ての検討を行った。 【方法】short-circuit current 法により transcellular ion transport の評価を行った。 【結果】管腔側の浸透圧を sucrose により高くしたとき、あるいは血管側の静水圧を高くしたとき、1∼2 時間以内に細胞 経由の Cl−分泌促進が引き起こされた。 【考察】Tight junction をはさんだ浸透圧・静水圧差によって transcellular ion transport の調節も行われることが明らかと なった。このことより、tight junction が外界環境を認識するための sensor として働いており、これによって様々な細胞機 能の調節が行われる可能性が示唆された。 P20 Nrf2/Keap1 系によって発現制御を受ける ABC トランスポーターの探索 ○萩谷 祐一郎、足立 達彦、中川 大、星島 一幸、石川 智久 東京工業大学大学院 生命理工学研究科 生体分子機能工学専攻 生体機能制御工学講座 生体機能制御工学分野 石川智久研究室 yhagiya@abc.bio.titech.ac.jp 【目的】Nrf2/Keap1 系によって発現制御を受ける ABC トランスポーターを探索することを目的とした。 【方法】Nrf2/Keap1 系の活性化剤として tert-butylhydroquinone (tBHQ)を使用した。 ヒト肝臓癌由来 HepG2 細胞を 200 µM tBHQ 存在下で 48 時間培養し、ABC トランスポーターの発現量変化を定量的リアル タイム PCR で評価した。また、Nrf2, Keap1 を標的とした siRNA を用いて、Nrf2/Keap1 系の関与 を検証した。 【結果】ABC トランスポーターABCC1, C2, G2 の発現量が tBHQ によって Nrf2/Keap1 系依存的に増加した。 【考察】Nrf2/Keap1 系は酸化的ストレスや親電子性物質に応答して活性化される。したがって、親電子性薬 剤が同様の変化をもたらし、薬物の体内動態に影響を及ぼす可能性が考えられる。 P21 枯草菌由来 Sha アンチポーターの複合体形成とイオン輸送に必須な酸性アミノ酸残基の同定 ○古園さおり 1、梶山裕介 1,2、小田切正人 1、関口順一 2、工藤俊章 1 1 独立行政法人理化学研究所・工藤環境分子生物学研究室、2 信州大院・工 kosono@riken.jp 【目的】枯草菌 Sha 輸送体は、shaABCDEFG 遺伝子にコードされるマルチ遺伝子型 Na+/H+アンチポーターである。Sha 輸送体はマルチコンポーネントのイオン輸送複合体と予想されているが、その直接的な証明はまだであり、またイオン 輸送における各 sha 遺伝子産物の役割も明らかではない。本研究では、sha 遺伝子産物による複合体形成の検討とイ オン輸送に必須な酸性アミノ酸残基の同定を行った。 【方法】枯草菌 sha 欠損株に対し、His タグを付加した各 sha 遺伝子産物を相補させた株を作成した。各 sha 遺伝子産 物への His タグ付加は機能に影響しないことを、欠損株の NaCl 感受性相補により確認した。複合体形成の検討は、 His タグを利用した Pull-down assay 及び BN-PAGE により行った。酸性アミノ酸残基に対する部位特異的変異解析は、 枯草菌 sha 欠損株を宿主として行った。 【結果及び考察】Pull-down assay の結果、His タグで標識された各 sha 遺伝子産物はいずれも ShaE と共沈することを 確認した。BN-PAGE では約 400kDa の複合体の位置に各 sha 遺伝子産物が全て含まれており、shaABCDEFG 遺伝 子産物による複合体形成を明らかにした。次に、イオン結合に関与しうる残基として膜貫通領域に位置する酸性アミノ 酸残基に注目し、部位特異的変異解析による機能への関与を検討した。12 の候補残基のうち、機能に必須な酸性ア ミノ酸残基は ShaA, B, D サブユニットに存在した。ShaA/D は互いに相同であり、また Nuo などの H+輸送性トランスポ ーターの疎水性サブユニットと相同性を持つ。ShaA-E113 と ShaD-E137 は相同な領域内で互いに対応する位置にあり、 NuoL/M でも保存されていたことから、Na+ないしは H+結合に関与する可能性が強く示唆された。ShaA の C 末側領域 (E657, D743, E747)と ShaB (D121)にも必須酸性アミノ酸残基が存在した。ある種のグラム陰性細菌では ShaA/B サブ ユニットの融合が見られることから、上記 4 つの残基は複合体内で 1 つのドメインを形成している可能性が考えられる。 以上より、必須な酸性アミノ酸残基を含む ShaA, B, D サブユニットがイオン輸送通路を形成している可能性が考えられ た。 P22 光駆動型 Cl-ポンプ ハロロドプシンの分子機構:過渡吸収分光法による解析 ○菊川 峰志 1,*,宮内 正二 2,荒磯 恒久 1,久保 恵美 3,出村 誠 3,加茂 直樹 3 1 北大・創成研,2 北大院・薬,3 北大院・先端生命 * E-mail: kikukawa@cast.hokudai.ac.jp ハロロドプシン(hR)は,高度好塩菌の細胞膜に存在する光駆動型 Cl-ポンプであり,光駆動型 H+ポンプで あるバクテリオロドプシン(bR)と同じく,レチナールを発色団とする膜蛋白質である.光を吸収すると, 吸収波長の異なる種々の光反応中間体を経由して元に戻る "フォトサイクル" をまわり,その間に1個の Clを細胞外から細胞内へ輸送する. この蛋白質は,大腸菌における大量発現・精製系が確立されていること,X 線構造解析が成されていること, また,近年,Xenopus oocyte を用いた活性測定系が確立されたことから,膜輸送機構の研究にとって非常に有 利な材料となって来ている.さらに,この蛋白質は,反応の開始と輸送中間体の時間分解検出が,光によって 可能であるという輸送担体としては特異な性質を有している.今回は,この性質を利用した過渡吸収分光法に よるフォトサイクルの解析結果を報告する. bR の場合は,蛋白質内へのプロトンの取込み過程において,外部から流入する水分子が重要な役割を担って いることが示されている.hR の場合にも,水分子は重要なのだろうか?この点を明らかにするため,水溶液 の浸透圧上昇によって現れるフォトサイクルの変化を測定した.その解析結果から,Cl-輸送過程における水 分子の関与について議論する. P23 Nrf2 活性化物質による肝 mrp2 および mrp3 の発現変動 ○芦野隆 1、山本雅之 2、沼澤聡 1、吉田武美 1 1 昭和大学薬学部毒物学教室、2 東北大学医学系研究科生体機能学講座医科学分野 Corresponding Author:芦野隆 E-mail アドレス:ashino@pharm.showa-u.ac.jp 【目的】Heme oxygenase-1 (HO-1)は、酸化ストレスに対し鋭敏に応答し発現誘導されるヘム分解の律速酵素である。 ヘムは HO-1 によって鉄、一酸化炭素、ビリベルジンに分解され、ビリルビンはさらにビリルビンに還元される。このビリ ルビンのグルクロン酸抱合体は multidrug resistance-associated protein (mrp)ファミリーの代表的な基質として知られて おり、胆管膜側に発現する mrp2 や肝血管膜側に発現する mrp3 により細胞外に排出される。HO-1 の誘導には転写因 子 Nrf2 が重要な役割を担っているが、ヘムの代謝産物を基質とする mrp2 および mrp3 の発現誘導における Nrf2 の 関与は明らかとなっていない。本研究では、Nrf2 活性化物質による mrp2 および mrp3 の発現変動を検討した。 【方法】BALB/c 系雄性マウス、8 週齢を用いた。In vitro 実験は、マウス初代培養肝細胞に HO-1 誘導作用が明らかと なっている auranofin、CdCl2、As2O3、phorone、hemin を処置した。In vivo 実験は、マウスに phorone または CdCl2 を投 与した。薬物処置一定時間後に全 RNA 抽出し、リアルタイム PCR により、HO-1、mrp2、mrp3 の各 mRNA 発現を検討 した。 【結果】マウス初代培養肝細胞へ各薬物を HO-1 誘導条件濃度で処置したところ、mrp2 mRNA は HO-1 mRNA と同様 に発現が 2-3 倍に対照群と比較し増加した。しかしながら、mrp3 mRNA の発現変動は認められなかった。また、マウス へ phorone を投与したところ HO-1 mRNA と同様に mrp2 mRNA 発現は、投与 4 時間後まで時間依存的に増加し、そ の後恒常レベルまで回復した。また、mrp3 は phorone 投与 8 時間後まで約 2 倍の持続した発現増加が認められた。 一方、CdCl2 の投与では、HO-1 の強い発現上昇が認められたが、mrp2、mrp3 とも発現上昇は見られず、投与 16 時間 後には mrp2、mrp3 共にその発現は対照群の約 70%に減少した。 【考察】本研究により、in vitro および in vivo の双方でグルタチオン低下剤である phorone の処置により、HO-1 同様肝 mrp2、mrp3 の発現増加が明らかとなったことから Nrf2 による発現制御の可能性が示唆された。しかし、in vitro と in vivo での反応性の違いや、CdCl2 により肝 mrp2、mrp3 の誘導が認められなかったことから更なる検討が必要と考える。 P24 光駆動性クロライドポンプの基質 translocation に重要なアミノ酸残基の同定 関顕照1,○宮内正二1,青山健太郎1,菊川峰志2、出村誠3,Vadivel Ganapathy4,加茂直樹3 1 北海道大学大学院薬学研究院・生物物理化学研究室、2 北海道大学創成科学共同機構、3 北海道大学大学院先端 生命科学院、4 ジョージア州立医科大学 e-mail: miya@pharm.hokudai.ac.jp ハロロドプシンは,高度好塩菌に存在するレチナールを発色団とするロドプシン様膜タンパクであり,光で Cl-を細胞の外から内へ輸送するクロライドポンプである.ハロロドプシンは他の輸送タンパクにはない研究 上の様々な利点を有した輸送担体の一つである.これまで,我々は可視吸収の光化学分解法によりハロロドプ シンの輸送中間体を解明してきた.更に,アフリカツメガエル発現系を用いた電気生理学的手法による高感度, 高時間分解のイオン輸送能を測定し,光駆動性クロライドポンプのイオン輸送の基本的スキームの分子機構を 明らかにしてきた.そこで,今回は,より詳細イオン輸送の分子的スキームを明らかにすべく,輸送に必須で あろうと思われる残基の部位特異的変異体を作成し,輸送活性及び輸送中間体の変化を検討した.その結果, このポンプの分子輸送機構の本質,即ち,基質(イオン)の取り込み側チャネルから放出チャネルへのトラン スローケーション機構に重要なアミノ酸残基 Ser130 を同定した.このアミノ酸残基を Thr に置換すると,輸 送の方向性が一方向の輸送(ポンプ輸送)から両方向輸送(チャネルタイプ輸送)へと変換することを突き止 めた.更に,基質がトランスロケーションされる際に,必要とされる駆動力を担うものは何であるかを突き止 めた.これらの知見をふまえて,このトランスポーターの分子輸送機構の本質を議論したい. P25 テトラヒドロビオプテリン酸化還元バランスの維持における赤血球の役割 ○沢辺恵子 1、末武康子 2、藤井麗 2、佐伯雄輔 2、松岡浩 1,2、若杉和倫 3、長谷川宏幸 1,2 1 帝京科学大・院・ハイテクリサーチセンター、2 同・院・バイオ、3 東葛クリニック病院 k-sawabe@st.ntu.ac.jp 【目的】 テトラヒドロビオプテリン(BH4)は芳香族アミノ酸水酸化酵素および一酸化窒素合成酵素に必須の補 酵素である。BH4 は電子供与体として働き,NADPH2(NADH2)によって再還元される。細胞内の正常な NADPH2/NADP 環境によって,機能的な BH4/BH2 比が維持される。BH4/BH2 バランス維持の破綻は NOS による O2-の発生を引き おこし血管の過酸化障害を増悪する。本研究では赤血球が BH2 を選択的に取り込み,赤血球内の高い NADPH2/NADP によって,BH4 を再生する事実に着目し,これが生体内 BH4 ホメオスタシスの正常化(BH2 除去)に 果たす役割について検討する。 【結果と考察】 組織中の酸化的圧力はまず血漿中 BH2 の増大を引きおこすと考えられる。血液中のビオプテ リンの 80%以上は赤血球中に局在し,主に BH4(還元型)である。ラット個体に BH4 を投与し,血流中のビオプ テリンを観察した。投与後,直ちに大量の BH2 が血漿中に出現し,遅れて赤血球中に移行した。この BH2 の減 少と同時に BH4 の増加が観察された。他方,単離された赤血球を用いた in vitro 実験において,1)赤血球は BH4,BH2 いずれも濃度依存的に取り込むが,BH2 に高い選択性を示した。また,2)取り込まれた BH2 は速やかに BH4 へと還元された。3)BH4,BH2 輸送に対するベンズブロマロンの阻害効果の相同性から,この輸送体は同一 の分子実体であると考えられる。本研究から,特定の(未同定)輸送体による BH2 の効率的な取り込みによって, 赤血球は,血漿中の BH2 を選択的に捕捉し,再還元して全身に分配する役割を担うことが強く示唆された。 P26 ビオプテリン関連化合物の細胞膜輸送への核酸トランスポーターhENT1 の寄与 ○菅原ゆうこ 1, 原田祉典 1, 丸山怜 1, 沢辺恵子 2, 長谷川宏幸 1, 2 1 帝京科学大・院・バイオ, 2 同院・ハイテクリサーチセンター E-mail address: g561001@st.ntu.ac.jp 【目的】テトラヒドロビオプテリン(BH4)はモノアミン神経伝達物質であるセロトニンやドーパミン、また血管弛緩など、 様々な作用をもつ一酸化窒素 NO の生合成に必須の補酵素である。哺乳動物は BH4 生合成能を持つが、局所、ある いは全身的な不足状態がいくつかの疾患と関連づけられ、それに対する BH4 の外部補充の効果も認められる。しかし、 BH4 分子の細胞膜輸送の機構は未だ明らかでない。我々のこれまでの研究において、BH4 をはじめとするビオプテリ ン関連化合物(ジヒドロビオプテリン BH2 やセピアプテリン SP)の細胞膜輸送のいくつかの局面における、核酸トランス ポーターENT の阻害剤ニトロベンジルチオイノシン( NBMPR )による阻害を確認している。本研究では細胞内外の BP 化合物の輸送に対する hENT1 の関与について検討した。 【方法】HeLa 細胞は BH4 の新生経路をもたないが、サ ルベージ経路の前駆体(BH2, SP)を酵素的に BH4に変換できる。この HeLa 細胞に hENT1 遺伝子を導入し、BP 化 合物の輸送量の変化、および阻害剤の効果を評価した。 【結果】hENT1 を強制発現させた HeLa 細胞において BH2, SP 輸送量の有意な増加を観察した。更に、hENT1 の阻害剤である NBMPR(0.1μM)によって、これらの増加が 完全に抑制された。 【考察】核酸トランスポーターhENT1 がビオプテリン化合物である BH2, SP の輸送も行うことが 示された。この結果は哺乳類におけるビオプテリン化合物の輸送実体がトランスポーターであること示す初めての知見 である。 P27 マウス小腸管腔に存在するテトラヒドロビオプテリンについて ○丸山怜 1、沢辺恵子 2、藤井 麗 1、若杉和倫 3、長谷川宏幸 1,2 1 帝京科学大・院・バイオ、2 同・院・ハイテクリサーチセンター、3 東葛クリニック病院 g651004@st.ntu.ac.jp 【目的】テトラヒドロビオプテリン(BH4)はカテコールアミン,セロトニン,一酸化窒素などの生合成におけ る一原子酸素添加酵素に必須の補酵素である。本補酵素はビタミンを起源とせず,それを必要とする細胞内で de novo 生合成される。活性な補酵素 BH4 は電子供与体として働き、自らは酸化されるが,その大部分は再還元さ 。生体内のほとんどの細胞は酸化体(BH2)のサルベージ活性を有する。この れ,一部は細胞外へ排出される(BH2) ことから,BH4, および BH2 の細胞間での循環と相互補充がおこなわれていると考えられる。しかし,個体生体内で の組織(細胞)間の輸送動態に関する知見は乏しい。経口投与された BH4 は小腸粘膜から吸収されるが,2時 間保持量は5%以下と言われる。我々は,消化管吸収,血流による循環,尿への排出について研究を開始した が,最近,糞便への排出をも考慮することとした。 【結果】マウスにおける小腸粘膜と内腔内容物の BH4 含量を検討した。経口的な BH4 投与を伴わない,定常生 理状態の小腸内腔内容物が大量の BH4 を含む事を発見した。通常の食餌,および糞便に残存する BH4 量は僅少 である。これらの結果から,1)消化管は BH4 を内腔に分泌する,2)その分泌量は消化管粘膜に存在する BH4 と比較できるほど多量であり,3)この小腸内腔の BH4 は糞便には排出されず,再吸収される可能性が高い(腸 内細菌の寄与は今後の課題である) 。腸管内腔における BH4 の役割は不明である。また,この BH4 がどこで合成 され,あるいはいかなる経路で,いかなる契機で分泌されるかは今後の課題である。 P28 褐色腐朽担子菌オオウズラタケにおけるシュウ酸排出機構 ○渡邉知樹 1)、士反伸和 2)、梅澤俊明 1)、矢崎一史 2)、島田幹夫 3)、服部武文 1) 1) 京都大学生存圏研究所森林代謝機能化学、2)同研究所森林圏遺伝子統御、3)福井工大工環境・生命未来工学科 thattori@rish.kyoto-u.ac.jp (服部武文) 【目的】褐色腐朽担子菌オオウズラタケは、生育に伴い多量のシュウ酸を培地に蓄積する。この現象に対し、演者らは、 本菌がシュウ酸発酵を行い、生育に必要なエネルギーを獲得することを提案した 1)。しかし、in vitro でシュウ酸は本菌 の生育にとって必要な酵素の活性を阻害する 2)。さらに、シュウ酸はいくつかの微生物に対して、生育阻害効果を示す。 従って、本菌はシュウ酸のこのような毒性に対する回避機構、さらに、優れた排出機構を有していると考えられる。演者 らは既に、本菌よりシュウ酸耐性を付与するタンパク質を同定した 3)。この度は、本菌のシュウ酸排出機構に関し、阻害 剤を用いて生化学的に解析した結果を報告する。 【方法】オオウズラタケ菌糸体ミクロソーム画分より膜ベシクルを調製し、膜ベシクルへの [14C] シュウ酸の取り込みに 対する各種阻害剤の影響を検討した。 【結果】ATP を反応系に添加することにより、シュウ酸の取り込み量が増大した。また ABC トランスポーター阻害剤を添 加しても、シュウ酸の取り込み量は変化しなかった。しかし、∆pH 消去剤である NH4Cl や、P-type ATPase 阻害剤である Vanadate を添加することで、シュウ酸取り込み量の著しい減少が確認された。 【考察】本菌におけるシュウ酸の細胞外への排出は二次輸送体の働きによって行われる可能性が示唆された。 【参考文献】 1) Munir, E., et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (2001). 98, 11126-11130. 2) Munir, E., et al. Arch. Biochem. Biophys. (2002). 399, 225-231. 3) Watanabe, T., et al. FEBS Lett. (2007). 581(9), 1788-1792. P29 ビフィズス菌のオリゴ糖トランスポーター可溶性ドメインの結晶構造 鈴木龍一郎 1、和田潤 2、○伏信進矢 1、片山高嶺 3、北岡本光 4、若木高善 1、祥雲弘文 1、杉本華幸 5、田中晶善 5、 1 熊谷英彦 3、芦田久 2、山本憲二 2 東大院・農生科・応生工、2 京大院生命・統合生命、3 石川県大・生資工 研、4 食総研、5 三重大院・生物資源 E-mail: asfushi@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp 【目的】近年、ビフィズス菌の菌体内に、ミルクオリゴ糖の構成二糖ラクト N ビオース(LNB)およびムチン core1 糖鎖ガラ クト N ビオース(GNB)を加リン酸分解する酵素が発見され、これをコードする遺伝子の周辺に LNB および GNB を代謝 する新規なガラクトース代謝オペロンが見出された。このオペロン中には ABC トランスポーターを構成する遺伝子群が 存在し、これら二糖の細胞内への取り込みに関与していると予想された。そのうち、オリゴ糖に結合すると予想される可 溶性ドメイン(GNB/LNB-binding protein, GL-BP)の構造と機能を明らかにすることを目的とした。【方法】大腸菌で組み 換え蛋白質を発現し、X 線結晶構造解析を行った。さらに、等温滴定型熱量計(ITC)を用いてオリゴ糖結合における熱 力学的な解析を行った。【結果】GL-BP に LNB、GNB およびミルクオリゴ糖構成四糖である LNT が結合した複合体の 結晶構造を決定した。ITC からは、GNB および LNB は数十 nM のオーダーの Kd で結合し前者の結合が若干強いこ と、LNT の結合は弱いことなどが明らかになった。【考察】GL-BP の全体構造はマルトース結合蛋白質(MBP)の closed-form とよく似ていたが、オリゴ糖の結合様式および熱力学的な挙動は全く異なっていた。ビフィズス菌は、 GL-BP の特異的な結合を介して、人乳中に含まれるミルクオリゴ糖および腸管内のムチン糖鎖の分解産物の一部を認 識して取り込み代謝すると考えられる。 P30 破骨細胞に発現する K+/Cl- co-transporter(KCC)-1 の酸分泌輸送体との共役 ○ 鍛治屋 浩、岡本 富士雄、李 京平、中尾 彰宏、岡部 幸司 所属:福岡歯科大学・細胞分子生物学講座・細胞生理学・ Corresponding Author :kajiya@college.fdcnet.ac.jp 【目的】最近、ClC7 型 Cl- channel(CLCN 7)が破骨細胞の骨接触面の波状縁に局在し、この KO マウスは酸分 泌能の抑制により骨大理石病様症状を呈することが報告され、破骨細胞の骨ミネラル溶解のための Clchannel の重要性が明らかになった。多くの分泌細胞における Cl-分泌やそれに伴う細胞内外 Cl-濃度の恒常性 は Cl- channel ばかりでなくいくつかの Cl-輸送体によって調節されることが知られている。しかしながら、 破骨細胞において CLCN 7 以外の Cl-輸送体の発現とその酸分泌への関与については明らかでない。そこで、破 骨細胞における Cl-輸送体の発現を検索し、これら輸送体が液胞性の H+ポンプ(V-ATPase)と共役して酸分泌に 関与しているか調べた。 【方法】①マウス破骨細胞における Cl-輸送体の発現を RT-PCR、Western blot 及び immunohistochemistry 法 により検討した。②吸収時の破骨細胞の H+ と Cl-分泌能を pH や Cl 蛍光指示薬及び Cl-電流で評価した。③こ れらの Cl-輸送体阻害剤や siRNA による骨吸収活性への効果を検討した。 【結果】①破骨細胞には Cl- channel(CLCN 3,4,5,6,7)ばかりでなく、K+/Cl-共輸送体(KCC)-1 が発現していた。 ②KCC 阻害剤は細胞内 Cl-濃度の増加と共に V-ATPase による H+分泌を抑制した。同様に、Cl- channel 阻害剤 も細胞内 Cl-濃度の増加と H+分泌の抑制が認められた。③KCC 阻害剤や Cl- channel 阻害剤及びこれらの siRNA は骨吸収活性を減少させた。 【考察】以上より、破骨細胞に発現する K+/Cl-共輸送体-1 は CLCN7 と共に破骨細胞の波状縁に局在し、液 胞性プロトンポンプ(V-ATPase)と連動して酸分泌を行い、骨吸収における酸分泌 V-ATPase と共役的、補助的 な輸送体として機能することが示唆された。 P31 発作性不随意運動を呈する膜輸送体病の臨床遺伝学的解析 防衛医大 分子生体制御学 1)、解剖学 2)、内科学講座 3) 千葉俊周 1)、松尾洋孝 1)、天方幸代 1)、草薙恭圭 1)、守本祐司 1)、小林靖 2)、鎌倉恵子 3) 、四ノ宮成祥 1) hmatsuo@ndmc.ac.jp 【目的】家族性発作性ジストニー性舞踏アテトーゼ(paroxysmal dystonic choreoathetosis: PDC)は遺伝性 のチャネル・トランスポーター病(膜輸送体病)の1種と考えられており、カフェインやアルコール、精神的 ストレス等で誘発される不随意運動発作を特徴とする。本研究は、この膜輸送体病の病因遺伝子の同定と、そ の分子機能の解析による PDC の病態解明を目的とする。 【方法】PDC の日本人大家系において、神経内科学的評価と連鎖解析を実施した。また、Assembled EST Database(AssEST)及びゲノムデータベースを用いて、候補領域中の遺伝子をリスト化して変異解析を行った。 そこで得られた病因遺伝子について、特異的抗体を作成し脳の免疫組織化学的解析を実施した。また、病因遺 伝子のアイソフォームをクローニングし、病因となる遺伝子変異を導入して、その分子機能の解析に備えた。 【結果】 PDC の日本人大家系において、6 世代 91 名中に 17 名の発症者を常染色体優性遺伝形式で認めた。 本家系の病因遺伝子は、これまでの欧米の家系と同様に、第 2 染色体長腕 2q32-35 に連鎖することが示され た。また、連鎖解析により候補領域を狭めることに成功し、データベースを用いて同領域に 32 個の脳に発現 する遺伝子様配列が存在することを確認した。 候補遺伝子の 1 つである myofibrillogenesis regulator-1(MR-1) の変異が、最近米国の PDC 家系で同定され、本家系における MR-1 の変異解析でも発症者に一致してヘテロ 変異(A7V)が認められた。また、MR-1 の分子クローニングにより、3 つ以上のアイソフォームが存在するこ とが分かった。MR-1 の N 末抗体を用いた脳の免疫組織化学的解析では、髄鞘における局在が確認された。 【考察】MR-1 には酵素様配列を持つアイソフォームがあるが、それらの機能は殆ど分かっていない。てんか ん等の発作性神経疾患と同様に、PDC も膜輸送体病であると考えられており、MR-1 は何らかの膜輸送体分 子の機能に影響している可能性がある。MR-1 分子の機能解明のために、変異導入による各アイソフォームの 解析と結合タンパク質の同定を現在実施中である。PDC 病因遺伝子の発見とその分子機能の解析は、PDC の 病態解明のみならず、他の発作性神経疾患のより効果的な治療法開発に寄与することが期待される。 P32 Blue-Native PAGE を用いたリン酸トランスポートソームの解析 ○谷村 綾子、中村 麻子、鎌田 歩規代、山本 浩範、竹谷 豊、武田 英二 徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 臨床栄養学分野 taketani@nutr.med.tokushima-u.ac.jp 【目的】生体内でのリン恒常性は腎臓での再吸収により調節されており、その調節は主にナトリウム依存性リ ン酸トランスポーター(NaPi-IIa)が担っている。近年、NaPi-IIa は細胞膜上で様々なアダプタータンパク質や シグナル分子とともに複合体を形成していることが明らかとなっている。しかしながら、複合体の全貌は明ら かになっておらず、複合体が細胞内局在化や活性調節に重要であることを考えると、これらの構成成分の解明 が重要である。今回、複合体に含まれる分子の同定を試みるために、できるだけ native な状態で複合体を分 離できる Blue-Native PAGE を用いて解析を行った。 【方法】コントロール食(cont)、低リン食(LP)で飼育、または低リン食で飼育し解剖前に PTH 投与(LP+PTH) したラットの腎臓から細胞膜マイクロドメインを抽出しサンプルとした。サンプルは DDM(n-Dodecyl-beta-D-maltoside)で可溶化し、Invitrogen 社の Blue-Native PAGE を用いて解析した。ま た、1次元に Blue-Native PAGE、2次元に SDS-PAGE を用いた2次元電気泳動を行い分離したのち、ウエ スタンブロット法により NaPi-IIa に含まれる分子の検索を試みた。 【結果・考察】Blue-Native PAGE で NaPi-IIa を含む複合体は、約 1100KDa、900KDa、440KDa、275KDa の4つに分離された。cont、LP、LP+PTH で比較すると NaPi-IIa の発現が低リン食で増加し、PTH 投与で 減少するということが確認できたが、4つの複合体ともに同様に NaPi-IIa の発現量が変化しており、それぞ れの調節には差が見られなかった。 2次元電気泳動では NaPi-IIa が4つの複合体のうち、特に分子量が大きい 1100KDa、900KDa の複合体 に多く含まれていることがわかった。それに対し Ezrin、NHERF-1 といった NaPi-IIa との相互作用やエン ドサイトーシスへの関与が報告されているタンパク質は分子量が小さい 440KDa、275KDa 複合体にのみ存在 していた。従って、NHERF-1、Ezrin とは別のアダプタータンパク質による複合体が存在すると考えられた。 P33 甲状腺ホルモンによる IIa 型ナトリウム依存性リン輸送担体の発現調節機構 ○山本浩範 1)、増田真志 1)、瀬川博子 2)、竹谷豊 1)、宮本賢一 2)、武田英二 1) 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 臨床栄養学分野 1)、分子栄養学分野 2) E-mail address ; yamamoto@nutr.med.tokushima-u.ac.jp [背景、目的]II 型ナトリウム依存性リン酸輸送担体 NaPi-IIa は腎近位尿細管に発現し、その発現はリン酸 代謝異常を示す遺伝性ビタミン D 抵抗性くる病(XLH, ADHR)、腫瘍性骨軟化症(TIO)および甲状腺機能異常症と 密接な関係がある。NaPi-IIa 発現は転写および転写後レベルにより食餌性リン、PTH, FGF-23、活性型ビタミ ン D および甲状腺ホルモンなどにより制御されることが知られているが、その発現制御機構は未だ明らかでは ない。本研究では、甲状腺ホルモン(T3)による NaPi-IIa 発現調節機構およびその意義について検討した。 [方法]WT および NaPi-IIa-KO マウスに、T3 を投与し、24 時間後解剖した。発現解析には、ウエスタンブロ ットおよび Real time-PCR 法、転写解析にはルシフェラーゼ法を用いた。 [結果]WT マウスでは T3 投与は尿中リン排泄の低下および血中リン濃度を著しく上昇させたが、Npt2a-KO マウスではその応答は減少した。実際、WT マウスでは T3 投与により腎刷子縁膜 NaPi-IIa 蛋白発現は著しく 上昇したが、mRNA 量は変化しなかった。しかしながら、腎近尿細管細胞 OK 細胞においては T3 は核内受容体 依存的に NaPi-IIa プロモーター活性を促進した。興味深いことに、T3 による本遺伝子プロモーター活性の誘 導は NaPi-IIa 蛋白強発現下で著しく抑制された。 [考察]生体において NaPi-IIa は T3 による血中リン濃度調節に重要な役割を果たしており、さらにその調 節には、自身による Transcriptional auto repression 機構の関与が示唆された。 P34 腎ナトリウム依存性リン酸輸送担体遺伝子発現に及ぼすレチノイン酸の影響 ○増田真志 1)、山本浩範 1)、瀬川博子 2)、竹谷豊 1)、宮本賢一 2)、武田英二 1) 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 臨床栄養学分野 1)、分子栄養学分野 2) E-mail address ; yamamoto@nutr.med.tokushima-u.ac.jp [背景、目的]生体リン恒常性維持には腎におけるリン再吸収調節が重要であり、主に腎近位尿細管に発現す るナトリウム依存性リン輸送担体(NaPi-IIa および NaPi-IIc)がその役割を担っている。レチノイン酸(RA)は 成長促進作用、細胞分化・発生能など多彩な生理作用を有しており、その作用機構として RA 受容体(RAR, RXR) を介した転写調節作用が知られている。これまでに、in vitro 研究において RA はリン再吸収促進因子とされ ているが、in vivo における報告はない。そこで、本研究では生体リン代謝に及ぼすビタミン A(VA)欠乏およ び RA 投与の影響について検討 [方法]C57BL マウスに VA 欠乏食を 3 週間投与し、all-trans RA 投与 16 時間後に解剖した。発現解析には腎 からの刷子縁膜および全 RNA を用いた。転写解析にはルシフェラーゼ法を用いた。 [結果]血中リン濃度は VA 欠乏で有意に上昇し、RA 投与で低下した。また、尿中リン排泄量は VA 欠乏で有 意に低下した。次に、腎刷子縁膜での NaPi 発現解析の結果、NaPi-IIa 発現は VA 欠乏で低下し、RA 投与で上 昇したが、NaPi-IIc および NaPi-I 発現は VA 欠乏で上昇し、RA 投与で低下した。また、各 mRNA 発現量も、同 様な変動を示した。さらに、腎近位尿細管細胞(OK-P)による転写解析の結果、all-trans RA および RAR 特異 的アナログは RAR 依存的、濃度依存的に NaPi-IIa プロモーター活性を上昇させ、NaPi-IIc および NaPi-I プ ロモーター活性を低下させた。 [考察]生体において RA は腎における NaPi(I, IIa, IIc) の発現制御を介し、リン排泄および血清リン濃度 を調節するリン利尿因子であることが示唆された。 P35 NIP5;1 の発現調節を通じたシロイヌナズナのホウ素欠乏条件での生育改善 ○加藤諭一、高野順平、藤原徹 東京大学 生物生産工学研究センター atorufu@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp 植物機能工学研究室 【目的】ホウ酸チャネル NIP5;1 とホウ素トランスポーターBOR1 の発現調節を通じて、ホウ素欠乏条件での シロイヌナズナの生育を改善することを目的とした。 【方法】BOR1 過剰発現株はホウ素欠乏条件で地上部の生育が野生型と比べて改善されることが報告されてい る。本研究では NIP5;1 のアクチベーションタグラインを取得した。またこれと BOR1 過剰発現形質転換株を 掛け合わせた。これらの植物を様々なホウ素濃度の固形培地で栽培し、野生型との生育を比較した。 【結果】ホウ素欠乏条件で NIP5;1 アクチベーションタグラインは根の生育が野生型と比べて改善されていた。 また、掛け合わせた株は地上部、根ともに野生型よりも良い生育を見せた。ホウ素が十分にある条件では、両 者ともに野生型との間に生育の差は見られなかった。 【考察】ホウ素欠乏条件において、BOR1 過剰発現株と比べて、更なる生育改善を見せる植物を作製した。こ の植物ではホウ素の吸収と植物体内での移行の両方が上昇したものと考えられる。本技術を応用することで、 食糧増産に貢献できるかもしれない。 P36 アストロサイトにおけるグルタミン酸の取込みに対する緑茶成分テアニンの作用 ○小林 葉子、 古野 龍介、加古 大也、横越 英彦 静岡県立大学大学院生活健康科学研究科 栄養化学研究室 ykoba@mail.f.u-shizuoka-ken.ac.jp 【目的】テアニンは緑茶に含まれるアミノ酸であり、グルタミン酸やγアミノ酪酸に類似した構造を持つ。経口から摂取し たテアニンは脳に移行し、リラックス効果、記憶学習増強作用などの脳の機能調節に関与する。脳内でのグルタミン酸 濃度上昇は脳虚血、神経細胞死の原因となり、好ましい状態ではない。神経伝達物質として放出されたグルタミン酸は、 神経細胞あるいは神経細胞を取り巻くグリア細胞に取り込まれ、神経細胞に損傷を与えないよう調節されている。グリア 細胞であるアストロサイトにおけるグルタミン酸の取込みに対するテアニンの効果を検討した。 【方法】ラット胎児脳より、アストロサイトを得た。アストロサイトをグルタミン酸あるいはテアニン存在下に一定時間置き、 細胞内外のテアニン、グルタミン酸、グルタミン濃度を測定した。また、マイクロダイアリシス法を用い、生きたラットの脳 内に直接テアニンを注入し、アミノ酸濃度変化を測定した。 【結果】グルタミン酸存在下においたアストロサイトでは、細胞内グルタミン酸、グルタミン濃度が上昇する。また、細胞 外液のグルタミン濃度も上昇する。テアニンとグルタミン酸存在下においたアストロサイトでも、同様に細胞内グルタミン 酸、グルタミン濃度が上昇した。しかし、細胞外のグルタミン濃度の上昇は抑制された。グルタミン酸トランスポーター阻 害剤ジヒドロキシカイニン酸では、細胞内グルタミン酸濃度上昇は抑制された。 【考察】テアニンは、アストロサイトへのグルタミン酸の取込みには作用せず、細胞外へのグルタミンの輸送 を阻害すると考えられる。高濃度のグルタミン酸は神経細胞に損傷を与える。テアニンの作用は、グルタミン 酸トランスポーター阻害剤とは異なっていた。テアニンはグルタミン酸トランスポーターの活性調節には関与 せず、グルタミン濃度を調節することにより神経・脳の機能調節にかかわると考えられる。 P37 ラット型 Organic Solute Carrier Protein 1 (rOscp1) の単離・機能解析と精巣毒性 ○伊津野久紀 2、小林靖奈 1、真田裕 2、二瓶大輔 1、鈴木雅子 1,2、神山紀子 1、大林真幸 1、 山元俊憲 1 2 昭和大学藤が丘病院外科、1 昭和大学薬学部臨床薬学教室 E-mail: izu041031@yahoo.co.jp 【目的】 我々はこれまでにヒト型 organic solute carrier protein 1 (hOSCP1) およびマウス型ホモログ (mOscp1) を単離し、報告した。hOSCP1 を probe として Northern blot 解析を行ったところ、ラット精巣に強い陽性シ グナルが認められたことから、ホモログが存在することが示唆された。そこで本研究は、ラット型 Oscp1 (rOscp1) を単離し、機能解析を行うことを目的とした。【方法】ラット精巣 cDNA library より homology screening にて単離した。機能解析は放射標識化合物を用い、X. oocyte 発現系を用いて行った。塩基配列は相 補的なプライマーを順次合成し、決定した。【結果・考察】単離した遺伝子は 363 個のアミノ酸をコードし、 アミノ酸レベルでの mOscp1 および hOSCP1 との相同性はそれぞれ 93%、88% であった。従って、単離し た遺伝子を rOscp1 と命名した。hOSCP1 や mOscp1 と同様に rOscp1 は PAH や TEA を濃度依存的、Na 非 依存的に輸送し、L-carnitine は輸送しなかった。従って、このような性質は OSCP1/Oscp1 に特徴的なもので あることが明らかになった。免疫抑制剤の cyclosporin A (CyA) は精巣毒性を示す医薬品である。そこで X. oocyte 発現系を用いて rOscp1 を介した [3H]CyA の輸送実験を行ったところ、有意に取り込まれた。しかし、 この輸送は SASP では阻害されなかった。以上の結果から、CyA の精巣毒性には rOscp1 が関与するが、SASP の精巣毒性には rOscp1 は関与しないことが考えられた。 P38 NPC1L1 発現細胞を用いた消化管ステロール取り込みの解析 ○山梨義英・高田龍平・鈴木洋史 東京大学医学部附属病院薬剤部 tappei-tky@umin.ac.jp 【目的】Niemann-Pick C1-Like 1 (NPC1L1) は消化管において食餌中ステロールの管腔からの取り込みに関与 し、新規高脂血症治療薬エゼチミブ(ゼチーア:日本では 2007 年 4 月 18 日に製造承認され、近く発売予定) の薬理標的蛋白質であると考えられている。しかしながら、生理的状況を反映し、かつ簡便に消化管ステロー ル吸収を評価する実験系がなかったため、NPC1L1 の詳細な機能解析は進んでいなかった。そこで本研究では、 哺乳類由来細胞への NPC1L1 遺伝子導入により消化管ステロール吸収評価系を構築し、NPC1L1 を介したステロ ール取り込みの解析を行うことを目的とした。 【方法】ヒト消化管由来の CaCo-2 細胞に rat NPC1L1 発現ベ クターを導入した安定発現株を構築し、胆汁酸・リン脂質を含むミセルで可溶化したコレステロールおよびβ -シトステロールの取り込み実験により、NPC1L1 を介した各ステロールの取り込み活性・エゼチミブの効果を 検討した。 【結果・考察】NPC1L1 の高発現により両ステロールの細胞内取り込み活性は上昇したが、β-シ トステロールはコレステロールに比べ取り込み活性が低く、in vivo における植物性ステロールの低吸収性を 反映したものであった。さらに、両ステロールの取り込みはエゼチミブにより濃度依存的に阻害を受けること が明らかとなった。構築された評価系は、既存の薬剤・天然物・新規高脂血症治療薬の消化管ステロール吸収 に及ぼす影響を評価するうえで有用な系になるものと期待される。 P39 PDZK1 のトランスポーター機能調節による薬物動態への影響 ○杉浦智子、加藤将夫、久保義行、辻 彰 金沢大学大学院自然科学研究科薬学系 創剤科学研究室 tsuji@kenroku.kanazawa-u.ac.jp 【目的】薬物の消化管吸収には、様々なトランスポーターが関与すると考えられている。近年、細胞膜直 下に存在するPDZ アダプタータンパク質が、種々のトランスポーターと相互作用し、トランスポーター の機能調節因子として働くことが示唆されつつある。そこで、PDZ タンパク質PDZK1 とβラクタム抗 生物質などの消化管吸収に関与すると考えられるオリゴペプチドトランスポーターPEPT1 との相互作用 および基質輸送能への影響、さらにin vivoにおける薬物動態への影響を明らかとすることを目的とした。 【方法】免疫沈降法によりPDZK1 とPEPT1 の相互作用解析を行った。また、両遺伝子を導入した HEK293 細胞を用い、PDZK1 によるPEPT1 の基質輸送能への影響を検討した。pdzk1-/-マウスを用い βラクタム抗生物質の体内動態をLC-MS/MS で解析した。トランスポーターの局在を免疫組織染色で検 討した。【結果・考察】免疫沈降法による解析において、PDZK1 とPEPT1 の小腸組織での相互作用が示 された。また、HEK293 細胞共発現系において、PEPT1 を介した[3H]GlySar およびcephalexin の取り 込み量がPDZK1 存在下で増加した。さらに、pdzk1-/-マウスでは小腸刷子縁膜におけるPept1 の発現が 減少しており、Pept1 の基質であるcephalexin の消化管吸収速度の低下が見られた。以上の結果より、 PDZK1 がPEPT1 の機能調節因子として働くことが示唆され、in vivoにおいて相互作用する様々なトラ ンスポーターの基質薬物の体内動態に対してPDZK1 が重要な役割を担っている可能性が考えられる。 P40 新規プロスタグランジン特異的トランスポーターOAT-PG の生理機能の解析 ○波多野 亮 1、平田 拓 2、真田 覚 1、安西 尚彦 2、金井 好克 2、松原 光伸 1 1 東北大学大学院医学系研究科 遺伝子医療開発分野、2 杏林大学医学部 薬理学教室 mmitsu2i@mail.tains.tohoku.ac.jp 【目的】本研究はマウスにおいて同定された腎特異的に発現するプロスタグランジン特異的トランスポーターOAT-PG (Prostaglandin specific organic anion transporter)の in vivo における生理的な役割を明らかにする目的で実施した。 【方法】OAT-PG 相同体の存在が確認されているラットを用いて、以下の解析を実施した。 ①OAT-PG のラット腎臓内における局在を明らかにするために、単離尿細管の RT-PCR 及び免疫染色を行った。 ②同時に、主要なプロスタグランジン合成酵素である COX-2 及び、代謝酵素 15-PGDH に関して、連続組織切片を用 いて免疫染色を行うことでその共在から OAT-PG の生理的な機能を予測した。 ③副腎皮質鉱質コルチコイド Aldosterone が腎皮質 COX-2 の発現調節に大きく寄与することから、副腎摘出(以下、 ADX)ラットを作成し、OAT-PG、COX-2、15-PGDH の蛋白質・RNA の発現変化を Western blot 及び RT-PCR により解 析した。 ④更に、ADX ラットの腎組織中の PGE2 濃度を Enzyme Immunoassay により測定した。 【結果】OAT-PG はラット腎皮質の近位尿細管 basolateral 側に位置し、代謝酵素である 15-PGDH と発現部位の一致が 見られた。更に、ADX ラットにおいて OAT-PG の発現低下が見られ、COX-2 の発現増加と共に有意な組織中 PGE2 濃度の増加を示した。これらのラットに Aldosterone を補充することで、OAT-PG の発現増加と COX-2 の発現低下が生 じ対照的に組織中 PGE2 濃度の低下が見られた。 【考察】以上の結果より、OAT-PG は腎皮質遠位尿細管において合成されたプロスタグランジンを近位尿細管において 取り込み代謝調節している可能性が示唆された。更に、OAT-PG は副腎皮質ホルモンによる調節を受けている可能性 があり、腎血流、糸球体濾過量、レニン分泌など様々な腎機能の調節に関わっている可能性が示唆された。 P41 歯牙硬組織(エナメル質・象牙質)形成にかかわる方向性 Ca2+輸送と Na+ / Ca2+交換の連 関 ○ 澁川義幸 1),奥村礼二郎 1,2,3),村松敬 3),松田敏夫 4),馬場明道 5),田崎雅和 1),中川寛一 2),下野正基 3), 鈴木恵子 6),Paul PM Schnetkamp7):1)東歯大・生理学,2)歯内療法学,3)病理学,4)大阪大院・薬・複合薬物 動態,5)神経薬理,6)Dept. Biochem & Molecular Biol, 7)Dept. Phys & Biophys, Faculty of Medicine, University of Calgary. E-mail:yshibu@cc.rim.or.jp 【目的】 エナメル質・象牙質はそれぞれエナメル芽細胞・象牙芽細胞による Ca2+の方向性の輸送によって駆 動されると考えられている。エナメル質・象牙質の石灰化前線における細胞外液(エナメル液・象牙細管溶液) は、それぞれの細胞の細胞間結合によって循環側から仕切られ(図)特殊なイオン環境にあることが報告され ている。特に、エナメル液・象牙細管溶液 Na2+濃度は血清濃度と比較して低く、また Ca2+濃度は細胞内液組 成と比較して高い(図)。このことは、両細胞による硬組織形成過程において石灰化前線での Na2+の細胞内へ の輸送と、Ca2+の硬組織方向への輸送が同時に行われる Na+/Ca2+交換(NCX)の存在を示唆している。そこで、 両者に発現する NCX subtype および特性を比較した。 【方法】[Ca2+]i 測定、パッチクランプ法、RT-PCR 法、免 疫組織化学的染色を行った。 【結果および考察】両細胞において、リバース交換による Ca2+流入は細胞外 Ca2+ 濃度に依存し(Kd = 0.2 mM)、KB-R7943 により抑制された(IC50 = 2 - 4 µM)。フォワード交換電流は、細胞外 Na+濃度に依存した(Kd = 40 mM)。免疫組織化学染色において、NCX の免疫反応は両細胞とも硬組織形成側 の細胞膜上に確認された。エナメル芽細胞には、NCX1 および 3 の mRNA が発現していた。一方、象牙芽細胞におけるリバース交換 Ca2+流入は、SEA0400 によって抑制されないことから、象牙芽細胞 では NCX3 のみが発現していると示唆された。従って NCX が硬組 織形成細胞に発現し、循環系からの Ca2+流入経路および細胞内カル シウム機構を介し、石灰化前線への直接的な Ca2+輸送を行っている ことが示された。また硬組織形性機構を担う NCX の新たな機能が 示唆された。 P42 ラット胎盤における ezrin の発現変動と P-glycoprotein および GLUT1 細胞内局在への影響 ○崔 吉道 1、樋口慧 1、和田真実 1、巨勢典子 1、西村友宏 1、田村淳 2、月田早智子 2、若山友彦 3、中島恵美 1 1 共立薬科大学薬剤学講座、2 大阪大学大学院個体機能学講座、3 金沢大学大学院医学系研究科組織発達構築学 講座(Corresponding Author の E-mail:sai-ys@kyoritsu-ph.ac.jp) 【目的】ラット胎盤の syncytiotrophoblast は、種々トランスポーターを分極して発現し、妊娠経過に応じた 胎盤関門機能を担う。我々が樹立したラット胎盤由来細胞株 TR-TBT 18d-1 および 18d-2 は、種々トランスポ ーターの発現や GLUT1 と GLUT3 の細胞内局在等がそれぞれ母体側および胎児側 2 層の syncytiotrophoblast の 性 質 を 保 持 し た 細 胞 株 で 、 DNA マ イ ク ロ ア レ イ を 用 い た 解 析 結 果 か ら 、 TR-TBT 18d-1 は ezrin/radixin/moesin (ERM) family の ezrin の発現レベルが高いことが示された。これまでの報告で、ezrin knockout(Vil2-/-)マウスでは一部が胎生致死と思われ、出生後も早期に死亡すること、網膜色素上皮細胞の GLUT1 発現がわずかに減少すること、ヒトリンパ球細胞株では ERM のアンチセンスオリゴにより P-gp 局在の 変化とその基質である抗がん薬に対する感受性が上昇することなどが明らかにされている。そこで本研究では、 妊娠経過の伴う ezrin の発現と組織局在性、GLUT1 や P-gp の局在性、胎児に対する影響について検討した。 【方法】妊娠各時期のラット胎盤における ERM の発現量を定量的 PCR により解析した。トランスポーターの組 織細胞内局在性を免疫組織染色により解析した。Ezrin を欠損したマウス胎児の組織重量を測定した。 【結果及び考察】ラット胎盤の ezrin の発現レベルは、妊娠 14 日目にピークを示しその後、徐々に低下した。 一方、radixin および moesin はそれぞれ妊娠 18 日および 14 日目にピークとなった。ERM 間の比較では、ezrin >radixin>>moesin となった。Ezrin と GLUT1、あるいは P-gp との免疫二重染色を行ったが、今回の光学顕 微鏡による観察では顕著な変化は認められなかった。しかし ezrin knockdown マウスの電子顕微鏡レベルでの 解析により胃壁細胞の構造変化や H+/K+-ATPase の酸分泌能の低下を示唆する報告があることから、今後電子 顕微鏡レベルでの観察が必要と考えられた。さらに ezrin knockout による NHERF-1 へ影響、radixin 等によ る相補などを検討する必要があると考えられた。 P43 Na+/H+交換輸送体 NHE1 のアミノ末端切断部位とサブユニットストイキオメトリーの決定 ○久光 隆、ベンアマール・ユセフ、若林 繁夫 国立循環器病センター研究所 循環分子生理部 hisamits@ri.ncvc.go.jp 【目的】Na+/H+交換輸送体 NHE1 はイオン代謝の恒常性維持に関わるトランスポータであり、形質膜ではダイ マーを形成する。その C 末端側の細胞質領域には複数個の蛋白質が結合し、交換輸送活性の制御に関わること が知られている。しかし、1)実際にどのような蛋白質がサブユニットとして強固に結合するのか、2)N 末端の シグナル切断部位はどこか、といった基本的な分子構築に関する疑問にはまだ答えられていない。そこで今回、 発現細胞から NHE1 を精製し、これらの疑問に答える実験を行った。 【方法】HA タグ標識した NHE1 分子を発現 する培養細胞から抗 HA 抗体を用いてアフィニティ精製し、電気泳動上のバンドを N 末端アミノ酸配列解析、 LC-MS/MS による質量分析に供した。 【結果と考察】1)この方法で、NHE1 は CBB あるいは銀染色によって確認 できるレベルまで精製でき、それとともに 5 種類以上の蛋白質が精製されてくること、2)その一つは 14-3-3 であることが判明したが、最も大量に共精製される蛋白質は CHP1 であった。3)SYPRO Ruby による定量的染色 によって、NHE1 一分子当たり、CHP1 は 1.03±0.19 分子共精製されること、これに対し 14-3-3 はわずか 0.063 ±0.014 分子精製されるに過ぎず、少なくとも本実験条件下では CHP1 以外に 1:1 以上のモル比で共沈する蛋 白質はなかった。また、4) NHE1 の N 末端は Leu37 であることが判明した。以上より、形質膜に存在する NHE1 は、N 末端(Leu37)を細胞外に露出し、11 回膜貫通ドメインを含み、常時 2 分子の CHP1 サブユニットを結合 したダイマーである、と結論できる。 P44 分裂酵母におけるアンモニウムトランスポーターの同定と生理機能の解析 ○光澤 浩 日本大学短期大学部生物資源学科生物学研究室 E-mail: hmitsuza@brs.nihon-u.ac.jp 【目的】環境中のアンモニウムは微生物の窒素代謝や生活環を大きく左右 においては、低アンモニウム条件が、G0 期移行・有性生殖・形態分化な る。これらの過程におけるアンモニウムトランスポーター(チャネルであ れている)の役割を明らかにするために、その機能的な同定を試みた。 【方 索により見出した分裂酵母の 3 つのアンモニウムトランスポーター(Amt1, と命名)について、遺伝子破壊株を作成し表現型を調べた。【結果】Amt ンモニウム培地での生育・毒性アナログに対する感受性・アンモニウム取 して、異なる表現型を示した。また、野生型株が低アンモニウム条件下で な繊維状の成長(右上図)が、Amt1 の欠失株においては全く見られなか 察】Amt1, Amt2, Amt3 は異なる輸送特性と生理機能を持つことが示唆され 低アンモニウムによる形態分化誘導において、Amt1 がアンモニウム濃度 として機能している可能性(右下図)が明らかになった。したがって、こ ランスポーターが関与するシグナル伝達・代謝制御のモデルになるかもし し、分裂酵母 どを誘導す るともいわ 法】相同性検 Amt2, Amt3 欠失株は、ア り込みに関 示す特異 った。【考 た。さらに、 センサー の系は、ト れない。 P45 海水魚の腎臓におけるホウ酸排出メカニズム ○栗田志広,加藤明,広瀬茂久 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 広瀬研究室 E-mail: ykurita@bio.titech.ac.jp 【目的】 海水魚は高塩濃度の環境に棲息しているため,常に体内との浸透圧差に従って水分が失われていく。この流 出する水分を補うため,海水を飲んでいるが,水分と共に過剰なイオンを体内に取り込んでしまう。この問題 を解決するため,海水魚は腎臓において過剰なイオンを排出する機構を発達させてきた。ホウ酸は海水中に豊 富に含まれているイオンの一つであり,過剰なホウ酸は毒性を示す事が知られている。ホウ酸による害虫駆除,抗 菌作用などはホウ酸の毒性を示す例である。毒性を持つホウ酸に晒されて生きている海水魚はホウ酸イオンを能動的 に排出する機構を持っていると考えられる。そこで,私達は海水魚が腎臓においてホウ酸を排出しているかを検討した。 また,ホウ酸トランスポーターとして知られる NaBC1(Na+/borate cotransporter, Slc4a11)分子に注目し,ホウ酸排泄 との関連性を検討した。 【方法・結果・考察】 実験動物にフグを用いた。フグはゲノム解析が成されており,迅速に目的遺伝子をクローニングする事ができる。また, フグは海水と淡水の両方の環境に適応できる能力も持っている。そのため,異なるホウ素濃度環境(海水:4.5 mg/L,淡 水:0 mg/L)で飼育可能となる。 フグの尿中に含まれるホウ酸濃度を調べたところ,フグは尿中に環境水の 6 倍程度にホウ酸を濃縮していることが分 かった。次にフグのホウ酸トランスポーター(fNaBC1)をクローニングし,ノーザン解析によって淡水・海水環境における 各組織の fNaBC1発現量を検討した。その結果,海水適応時の腎臓において強い発現を確認した。また,様々なホウ 酸濃度環境下の腎臓における fNaBC 発現量を検討したところ,ホウ酸濃度依存的に発現量を増加させている事が分 かった。これらの結果は,海水魚の腎臓で発現する fNaBC1 がホウ酸を能動的に排出し,尿中に濃縮している事を示 唆している。 P46 CFTR 変異上皮細胞における DNA 脱メチル化依存性 TLR2 遺伝子発現制御における転写因 子 SP1 の重要性 島崎 省吾 1,○首藤 剛 1,古田 貴志 1,大平 裕子 1,Mary Ann Suico1,Dieter C. Gruenert2,甲斐 広文 1 1 熊本大学大学院・薬学教育部・遺伝子機能応用学分野,2California Pacific Medical Center Research Institute, Corresponding Author: Hirofumi Kai (hirokai@gpo.kumamoto-u.ac.jp) 【目的】嚢胞性線維症 (CF) は,ABC トランスポーターファミリーに属する CFTR 遺伝子の変異によって引 き起こされる慢性気道炎症性疾患である. 我々は,CF 上皮細胞 (CFTR 変異上皮細胞) において, TLR2 プロ モーター上の DNA 脱メチル化が亢進し,その結果,TLR2 mRNA 発現の増加と炎症応答の増強を引き起こ すことを示した (Shuto T. et al. FASEB J. 2006).本研究では, DNA 脱メチル化を介した CF 細胞特異的な TLR2 mRNA 発現上昇に重要な転写因子およびプロモーター領域の同定を目的とし, 種々の検討を行った. 【方法】TLR2 の転写活性化に重要な領域の同定は,TLR2 promoter 欠失変異体・点変異体を用いたプロモー ター解析および DNA メチル化解析 (bisulfite 法) により行った.転写因子 SP1 の重要性の検討は,SP1 特異 的阻害剤 mithramycinA (mitA) の処理および SP1 遺伝子導入により行った.DNA 脱メチル化と SP1 の関係は, メチル化プロモーターアッセイ法およびメチル化プローブを用いた EMSA 法により実施した. 【結果・考察】TLR2 遺伝子転写開始部位近傍の SP1 結合領域が,non-CF および CF 上皮細胞における TLR2 遺伝子発現制御に重要であり,実際,本領域に転写因子 SP1 が結合し,TLR2 遺伝子発現が上昇することが示 された.また,この SP1 結合領域は,CF 細胞において顕著に脱メチル化されている領域であり,本領域の DNA 脱メチル化は,TLR2 プロモーター活性を大きく上昇させた.一方,non-CF および CF 両細胞間で SP1 の発現 量は変化なかったことから,DNA 脱メチル化が SP1 結合性を上昇させ,TLR2 mRNA の発現を上昇させるこ とが予想された.しかしながら,この領域の DNA メチル化の有無は SP1 結合性には影響を与えなかった.以 上,本研究は,CF 細胞特異的な TLR2 遺伝子発現上昇における転写因子 SP1 の重要性を示したが,DNA メチ ル化が,どのように SP1 依存的な TLR2 遺伝子発現上昇機構を阻害するかについては今後の検討課題である. P47 小胞体分子シャペロン calreticulin による ENaC 発現および活性制御 菅原 卓哉 1,○首藤 剛 1,上野 恵子 1,水之江 翔太 1,北村 健一郎 2,前川 愛 2,冨田 公夫 2,Mary Ann Suico1, 甲斐 広文 1 熊本大学大学院 1 薬学教育部・遺伝子機能応用学分野,2 医学教育部・腎臓内科学分野 Corresponding Author: Hirofumi Kai (hirokai@gpo.kumamoto-u.ac.jp) 【目的】上皮型 Na+チャネル (ENaC) は,腎臓皮質集合尿細管,下行結腸,外分泌腺,気道での Na+再吸収を 制御するアミロライド感受性の Na+イオンチャネルである.ENaC は,α,β,γの 3 つのサブユニットから構 成され,その活性化には,小胞体におけるへテロ 4 量体形成とそれに伴う形質膜上での発現量の増加が必須 である.常染色体劣性遺伝性疾患である嚢胞性線維症 (CF) 病態においては,ENaC が過剰に発現・活性化し ていることが報告されており,ENaC の post-translational な発現制御機構の理解は,CF 治療薬開発の観点か らも重要である.本研究では,ENaC の 4 量体形成の場となる小胞体内腔の分子シャペロンである calrticulin (CRT) に着目し,CRT による ENaC 発現および活性の制御に関する検討を行った. 【方法】myc 等の tag 融合 human ENaC サブユニット発現ベクターを CHO-K1 または HEK293 細胞に遺伝子導 入し,ENaC 一過性過剰発現細胞を得た.これらの細胞における内因性 CRT のノックダウンを実施し,ENaC の発現量を検討した.また,アデノウイルスを用いて CRT を過剰発現させ,その発現量 (総量,形質膜上に おける発現量) の検討を行った.最後に,マウス集合管由来細胞である M1 細胞を用いて,CRT 過剰発現後 の ENaC チャネル活性測定を行った (Epithelial Voltohmmeter 法,short circuit current 法). 【結果・考察】CRT ノックダウンは,α,β,γ 全ての ENaC サブユニットの発現量 (総量) を減少させた.一 方,CRT 過剰発現は,α,β,γ 全ての ENaC サブユニットの発現量 (総量) を増加させ,形質膜上における αENaC の発現量を増加させた.また,CRT 過剰発現は,M1 細胞における内因性 ENaC チャネル活性も増加 させた.以上,CRT は,ENaC の発現および活性を正に制御することが示唆された.ENaC の過剰な発現・活 性化は,CF 病態を増悪化することから,本知見は,CF 細胞において CRT を抑制することが,CF の病態改 善に寄与する可能性があることを提唱するものである. P48 CFTR の成熟化における bafilomycin A1 感受性経路の重要性 ○新堀 晶子,沖米田 司,橋本 泰明,首藤 剛,Mary Ann Suico,甲斐 1 熊本大学大学院薬学教育部遺伝子機能応用学分野 Corresponding Author: Hirofumi Kai (hirokai@gpo.kumamoto-u.ac.jp) 広文 【目的】嚢胞性線維症 (cystic fibrosis, CF) は,白色人種間で最も多い難治性遺伝性疾患である.本疾患の発症 は,主として,ABC トランスポーターファミリーに属する cAMP 依存性 Cl-イオンチャネル cystic fibrosis transmembrane conductance regulator (CFTR) の細胞内輸送障害に起因する.従って,CFTR の輸送障害を改善 し成熟化を促進することが,CF の治療戦略において重要である.本研究では,CFTR の細胞内輸送経路の詳 細を検討することを究極の目的とし,CFTR の成熟化におけるエンドソーム経路 (bafilomysin A1 感受性経路) の役割について調べた. 【方法】CFTR 過剰発現 CHO 細胞 (CFTR-CHO) および GFP-CFTR 過剰発現 BHK 細胞 (CFTR-BHK) に,初 期エンドソームからの輸送を阻害する H+-ATPase (V-ATPase) 阻害剤 bafilomycin A1 (BafA1) を処理 (50 nM, 24 h) し,CFTR の成熟化への影響について種々の方法にて検討した.また,CFTR の成熟化が小胞体-ゴルジ 体を介して形質膜上へ輸送される通常分泌経路 (conventional pathway) であるか否かを検討するため,本経路 を介して成熟化されることで知られる水疱性口内炎ウイルス G 蛋白質 (VSV-G) の成熟化との比較を行った. 【結果】 BafA1 処理により,CFTR-CHO 細胞における未成熟型 CFTR の発現が増加し,成熟型 CFTR が減少 した.また,CFTR-BHK 細胞に BafA1 を処理すると,CFTR は cis-,trans-ゴルジ体および初期エンドソーム に蓄積した.さらに,CFTR の小胞体からの輸送経路は,VSV-G のそれとは異なることが示された. 【考察】CFTR の成熟化には,エンドソームを介した経路 (bafilomysin A1 感受性経路) が重要であることが 示された.一般に分泌系膜タンパク質の成熟化には,conventional pathway が重要であることが多いことから, 本知見は CFTR 成熟化経路のユニークさを提唱するものである.また,本知見は,CFTR 輸送障害改善促進 を目標とする CF 治療戦略の開発のための有用な基礎情報を提供するものである. P49 細胞内 pH による SLC26A3 の活性調節 林 久由○、鈴木 裕一 所属 静岡県立大学 食品栄養科学部 生理学 hayashih@smail.u-shizuoka-ken.ac.jp 【目的】体液の主要なイオンは Na+と Cl-であり、消化管から一日あたり9L の NaCl 溶液として吸収されてい る。この NaCl 溶液の吸収機序としては吸収上皮細胞では Na+/H+交換輸送体と Cl-/HCO3-交換輸送体が機能 的に協同して NaCl 吸収を担っていることは古くから知られている。相互作用の一つの機構は局所の細胞内 pH を介して相互の輸送活性が調節されていることが想定されている。しかし、重炭酸緩衝系では細胞内 pH を任意に値に変えることは困難であり、本来の基質である Cl-/HCO3-交換輸送活性の細胞 pH 依存性は報告さ れていない。このため我々は重炭酸緩衝系で細胞内 pH を任意に変える方法の確立を試み、またその方法を用 い Cl-/HCO3-交換輸送体の細胞内 pH 依存性を調べた。 【方法】 細胞は Cl-吸収担体である SLC26A3 のテトラサイクリン誘導発現系を CHO 細胞で構築した。Cl-/HCO3-交換 輸送活性は Cl-感受性蛍光色素である MEQ を、用いて測定した。細胞内 pH 依存性は HEPES 緩衝系での Cl-/NO3-交換活性並びに重炭酸緩衝系での Cl-/HCO3-交換輸送活性で行った。細胞内 pH は Nigericin と溶液 中の K 濃度を変化させることで任意の値にクランプした。 【結果】SLC26A3 は NO3-を基質として輸送するため、このことを利用し HEPES 緩衝系で任意の細胞内 pH で Cl-/NO3交換活性を測定したが、pH 感受性は観察されなかった。次に重炭酸緩衝系で Cl-/HCO3-交換輸送活性の細胞内 pH 依存性を測定すると、細胞内酸性化で Cl-/HCO3-交換輸送活性の抑制が観察された。 P50 ヒト非胃型 H+,K+-ATPase 細胞外ループ(M3-M4)の機能 ○高橋佑司 1, 大平裕太 1, 田渕圭章 2, 浅野真司 3, 森井孫俊 1, 竹口紀晃 1, 酒井秀紀 1 1 富山大学大学院 医学薬学研究部 薬物生理学, 2 富山大学 生命先端研究セ, 3 立命館大学 情報理工 E-mail: yujit@pha.u-toyama.ac.jp 【目的】非胃型 H+,K+-ATPase (ATP1AL1)は、胃型 H+,K+-ATPase、Na+,K+-ATPase と同じ P 型 ATPase に属する。本 研究では、ATP1AL1 の細胞外ドメイン(M3-M4 ループ)について、対応するアミノ酸を Na+,K+-ATPase のアミノ酸に変 換し、このループの機能的な役割を明らかとすることを目的とした。 【方法】ATP1AL1 の M3-M4 ループのアミノ酸 Gln331、Asp334、Ser335、Ile336 を Na+,K+-ATPase の対応するアミノ酸 に部位特異的変異導入により変換した(Q331T、D334E、S335A、I336V)。多重変異 ATP1AL1(EAV、TEA、TEV、 TAV、TEAV)を HEKβ細胞(H+,K+-ATPase β鎖安定発現細胞)に一過性に発現させ、細胞膜画分を調製した。 ATP1AL1 活性はウアバイン阻害成分の差(1 mM-5 µM)から算出した。ATP1AL1(E1 コンフォメーション)の三次元構 造モデルは SERCA を基にしてホモロジーモデリングにより構築し、細胞外ループのアミノ酸間の水素結合形成につい て分子動力学計算でシミュレートした。 【結果および考察】TEV、TEA 変異体の ATP 加水分解活性はそれぞれ WT の 51%、58%に低下していた。さらに、 TEAV 変異体は活性がほぼ完全に消失した。モデリングおよび分子動力学計算により、ATP1AL1 WT では M1-M2 ル ープと M6、および M7-M8 ループで水素結合を形成することで閉じたイオンゲート構造を形成していることがわかった。 活性が低下した変異体(TEV、TEA)では水素結合形成確率が WT に比べて減少し、水素結合が不安定になっていた。 活性が消失した TEAV では水素結合箇所の減少とゲート構造の破壊が見られた。M3-M4 ループは Na+,K+-ATPase ではカチオン選択性、胃型 H+,K+-ATPase では E2 コンフォメーションの安定化に関与していると考えられているが、 ATP1AL1 においては E1 コンフォメーション時の閉じたイオンゲート構造の形成に関与しているものと考えられた。 P51 Hepatocyte Nuclear Factor 1α/βと DNA メチル化によるヒト及びマウス Urate Transporter 1 の組織特異的発現制御 菊地 良太 1, 楠原 洋之 1, 服部 中 2, Insook Kim3, 塩田 邦郎 2, Frank J. Gonzalez3, 杉山 雄一 1 (1 東大院薬, 2 東大院農, 3NIH) rkikuchi@mol.f.u-tokyo.ac.jp 【目的】Urate Transporter 1 (URAT1)は腎臓皮質内の近位尿細管に特異的に発現し、尿細管における尿酸の再吸 収に重要な役割を果たしている。本研究では URAT1 遺伝子の組織特異的発現制御メカニズムを明らかとする ため、hURAT1 及び mUrat1 遺伝子の転写調節機構を解析した。 【方法】ルシフェラーゼアッセイ・ゲルシフトアッセイにより、URAT1 プロモーター活性における Hepatocyte Nuclear Factor 1 α/β (HNF1α/β)の重要性を検討した。Real-time PCR 法を用い、wild type 及び HNF1α-null マウ スにおける mUrat1 の発現量を測定した。またマウス肝臓・腎臓皮質・腎臓髄質より genome DNA を抽出し、 bisulfite sequencing 法により mUrat1 プロモーター領域の DNA メチル化プロファイルを決定した。 【結果・考察】ルシフェラーゼアッセイの結果、HNF1α/βは URAT1 プロモーターを正に制御することが明ら かとなった。またゲルシフトアッセイにより、HNF1α/βは hURAT1 プロモーター領域と相互作用することが示 された。さらに HNF1α-null マウス腎臓において、mUrat1 の発現が減少していることが明らかとなった。mUrat1 のプロモーター領域は mUrat1 を発現しない肝臓・腎臓髄質では高メチル化状態であったのに対し、mUrat1 を 発現する腎臓皮質では低メチル化状態であった。以上の結果より、URAT1 遺伝子の腎臓皮質特異的発現は HNF1α/βによる転写活性化と DNA メチル化による転写抑制の協奏作用により確立していることが示唆された。 P52 乳がんに発現する新規トランスポート蛋白 (BCTP1) の単離と機能解析 ○梅本岳宏2、小林靖奈1、鈴木雅子1,2、山元俊憲1、真田 裕2 昭和大学藤が丘病院外科2、昭和大学薬学部臨床薬学教室1 ume-f77@wd6.so-net.ne.jp 【目的】乳房温存療法の適応を決定する上で、乳癌の正確な広がり診断が重要視されているが、評価方法には MRI や MDCT が普及している。抗癌剤による治療効果を予測することは乳癌治療において重要な課題であるが、現在感 受性予測因子として確立したものは存在しない。今回我々は 5-FU の取り込みに関与する新規トランスポート蛋白 (Breast Cancer Transport Protein 1、BCTP1)をヒト乳がん cDNA ライブラリーから単離した。【方法】機能解析はアフ リカツメガエル卵母細胞発現系を用い、 [3H]5-FU を輸送基質とし、Na+ 依存性、pH 依存性、Efflux 試験、濃度依 存性、時間依存性について検討した。さらに RT-PCR により、BCTP1 のヒト組織分布について検討した。【結果】単 離した遺伝子は、82 個のアミノ酸をコードする全長 246 bp の ORF を有し、Kyte & Doolittle 解析の結果、3回膜貫 通領域を有していた。アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いた機能解析実験から、BCTP1 を介した [3H]5-FU の取り込みは時間依存的、濃度依存的 (Km= 69.2± 24.5 nM)、pH 依存的、Na 非依存的を示した。また、ジカルボン 酸やグルタチオンとの交換輸送は認められなかった。さらに、シスプラチンやエトポシドにより、BCTP1 を介した [3H]5-FU の取り込みは阻害された。【考察】本研究の結果から、単離した BCTP1 はフッ化ピリミジン系の 5-FU の 輸送を担う新規輸送蛋白であることが明らかになった。 P53 薬用植物アキカラマツにおける ABC タンパク質 TmMDR1 及び TmMDR2 遺伝子のクローニング及び構造解析 ○士反 1 伸和 1、寺坂 和祥 2、佐藤 文彦 3、矢崎 一史 1 京大生存研森林圏遺伝子統御分野、2 名市大院・薬学生薬学分野、3 京大生命・統合生命全能性統御機構学 shitan@rish.kyoto-u.ac.jp 【目的】高等植物が生産する二次代謝産物は、多彩な生理活性をもつものが多く、医薬品や機能性食品などに もしばしば利用される。しかし、これら低分子有機化合物の輸送や蓄積の分子機構に関する研究は極めて少な い。本研究では、植物細胞におけるアルカロイドの輸送機構を解明することを目的として、イソキノリン型ア ルカロイド・ベルベリンを生産し、かつ細胞外に分泌するアキカラマツ培養細胞を用いて解析を行った。 【方法及び結果】阻害剤を用いた実験から、アキカラ マツ培養細胞の細胞膜におけるベルベリン輸送には、 MDR 型 ABC タンパク質が関与することが示唆された。 そこで既知の保存領域を元にプライマーを作成し、MDR 型 ABC タンパク質の cDNA クローニングを試みた。得ら れた cDNA2 種(TmMDR1 及び-2)の cDNA はそれぞれ 1285、 1286 アミノ酸をコードし、互いに 77%のアミノ酸相同 性を示した。両タンパク質は MDR サブファミリーの中 で、薬用植物オウレンから単離されたベルベリンの内 向き輸送体 CjMDR1 と高い相同性 (80%) を示した。現 在、酵母、昆虫細胞を用いたヘテロな発現系により機 能解析を試みている。 P54 FGF23 によるナトリウム依存性リン酸トランスポーター(SLC34A)発現調節機構の解明 ○金子一郎、瀬川博子、鬼塚朱美、桑原頌治、伊藤美紀子、桑波田雅士、宮本賢一 徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 分子栄養学分野 segawa@nutr.med.tokushima-u.ac.jp 【目的】生体内リン代謝機構の異常は、くる病や異所性石灰化など重篤な疾患を引き起こす。近年、新規リン代謝 調節因子として FGF23(fibroblast growth factor 23)が同定された。先天的な血中 FGF23 濃度の上昇は、低リン 血症及び血清 1,25(OH)2D3 濃度の低下を示し、くる病を生じるが、その詳細な機構は明らかではない。本研究では、 FGF23 によるリン代謝機構を明らかにすることを目的として VDR KO(ビタミン D 受容体欠損)マウスを用 い、腸管及び腎臓における SLC34A(1∼3)の発現を検討した。 【方法】野生型及び VDR KO マウスに FGF23 を過剰発現させ、腸管及び腎 SLC34A(1∼3)の発現をノザンブロット解析、ウエスタンブロット解析及び免 疫組織化学染色を用いて検討した。 【結果】野生型マウスにおいて、FGF23 の過剰発現により、腸管 SLC34A2 (type IIb Na/Pi cotransporter)、腎 SLC34A1(type IIa Na/Pi cotransporter)及び SLC34A3(type IIc Na/Pi cotransporter)蛋白量の減少がみられた。VDR KO マウスにおいて、FGF23 の過剰発現により、腸管 SLC34A2 蛋白量に変化はなかったが、腎 SLC34A1 及び SLC34A3 蛋白量は減少した。 【考察】本研究により、野生型マ ウスにおける FGF23 の過剰発現は、腸管及び腎 SLC34A(1∼3)発現を抑制するため、低リン血症を引き起こしてい ることが明らかになった。また、FGF23 による腸管 SLC34A2 発現抑制は、VDR 依存的な作用であり、FGF23 によ る腎 SLC34A1 及び SLC34A3 発現抑制は、VDR 非依存的な機構により調節されることが示唆された。尚、FGF23 の作用は、寿命関連因子 klotho を必要とすることが報告されており、SLC34A の発現制御は、Aging にも重要 な役割を担っていることが考えられる。
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