ディンプルの数および寸法に関する空気力学的効果 2班 小野寺信吾 1.序論 昔のゴルフボールは牛革で作られていた.このボ 気体の流れを観察する. 第2に,ワークステーションで数値解析を行う. ールは,使用しているうちに,表面に傷がついてし CAD ソフトウェア:SolidWorks で,表面の滑らかな まった.しかし,傷がつくほどよく飛ぶようになる 球,ディンプルの数,半径,深さをそれぞれ変えた ことに当時のゴルファが経験的に勘付いた.これが 4種類のゴルフボールを作成する.当初は FLUENT ゴルフボールのディンプルが生まれた理由である を用いて数値解析を行う予定であったが,解析の途 1) . 中でエラーが発生したり,対象の物体形状を正確に 現在,より遠くにゴルフボールを飛ばすために各 設定できなかったりしたため,SolidWorks 内の簡 メーカがゴルフボールの研究を行っている.そして 易的な流体解析ソフト:FloXpress を用いて,ボ ディンプルの形や数や大きさ,深さなどが異なる非 ール周りの気体の流れを解析する. 常に多くのゴルフボールが存在している. そこで,ここではゴルフボールにはなぜディンプ ルがついているのか,またディンプルの数や大きさ, 深さによって空気力学的にどのような変化がある のか,そして理想のゴルフボールはどのようなもの なのかについて調べる. 3.ゴルフボールの諸設定 流体数値解析をするために設定したゴルフボー ルの大きさや速度を以下に示す. ゴルフの規則では,ゴルフボールの直径が 42.67mm 以上でなければならない2)と決められてい るが,解析を単純化するため,ここでは直径を 40mm 2.理論 空気抵抗は粘性抵抗と圧力抵抗に分けることが に設定した.また,ゴルフボールの速度を一般のゴ ルファと同じ程度の 40m/s に設定した. できる.すなわち, 空気抵抗=粘性抵抗+圧力抵抗 である.また,ある程度レイノルズ数が高ければ、 粘性抵抗は無視できる. 表面が滑らかな球の速度を徐々に高めていくと, 層流から乱流に遷移するときのレイノルズ数であ 4. 実験結果と考察 風洞実験の結果を図 1 に示した.また,図 1 の矢 印は,はく離点を示している.滑らかな球よりゴル フボールの方がはく離点の位置が少し後方にずれ ていることがわかる. る臨界レイノルズ数で,急に抵抗が下がる.これは 球の表面の気体が層流から乱流に変化し,はく離点 が後方にずれ,球の前方の圧力と後方の圧力の差が 減少し,圧力抵抗が下がる. ゴルフボールはディンプルが存在することによ って,臨界レイノルズ数が小さくなり,低い速度で (a) 滑らかな球 乱流を発生させるため,ゴルフボールの速度程度で は,滑らかな球より空気抵抗は低減する. 3.実験方法 本実験では,2種類の実験を行った. 第1に,以下のような風洞実験によって,表面が 滑らかであるピンポン球とゴルフボールの周りの (b) ディンプル付きの球 図1 滑らかな球とゴルフボールの周りの流れ る. まず,図 2 および図 3 を比較すると,風洞実験で 確認したようにはく離点がわずかではあるが後方 にずれていることがわかる.また,ディンプル径を 変えた図 3 および図 4 を比較すると,ディンプル径 が大きい図 4 の方が,はく離点が後方にずれている 図 2 球周りの空気の流れ ことがわかる.次に,ディンプル数を変えた図 3 お (ディンプルなし) よび図 5 を比較すると,大きな変化は見られなかっ た.最後にディンプル深さを変えた図 3 および図 6 を比較すると,ディンプル深さを深くした図 6 の方 が,はく離点が後方にずれていることがわかる. 以上の結果から,ディンプルの数を変化させた場 合は流れに大きな変化はないが,ディンプル径を大 図 3 球周りの空気の流れ (ディンプルあり:ディンプル数 174 個, 径 2mm,深さ1mm) きく,ディンプル深さを深くした方がはく離点のず れが後方にずれる. 本実験では,ゴルフボールを回転させてないが, 回転させたときには異なる要因で結果も変化する 可能性があるので,どのようなディンプルが適して いるのか決めることは難しい. ゴルフボールの性能を考える上で重要なことは, ボールの回転によるマグヌス効果である.物体が回 図 4 球周りの空気の流れ (ディンプルあり:ディンプル数 174 個, 径 2.5mm,深さ1mm) 転しながら飛翔すると,その飛翔方向に対し垂直方 向に揚力が生じる.これをマグヌス効果と呼ぶ 3) . ゴルフボールは,滑らかな球より低い速度で乱流が が発生し,表面からの剥離を防ぎ,マグヌス効果を 増幅させる.これによってゴルフボールにより大き な揚力が発生する. 5. 結論 図 5 球周りの空気 (ディンプルあり;ディンプル数 260 個, 径 2mm,深さ 1mm) (1)ディンプルを有するゴルフボールは,その表 面に乱流が発生することで,渦のはく離点が後方 に移動し,空気抵抗が低減する. (2)ディンプルの数よりも径の大きさや深さの方 が空気抵抗に影響を大きく及ぼす. (3)ゴルファごとに理想的なゴルフボールは異な る. 図6 球周りの空気の流れ (ディンプルあり:ディンプル数 174 個, 径 2mm,深さ 2mm) 参考文献 1) 伊藤慎一郎,「流れの法則」を科学する,技術 評論社(2009). 2) 公益財団法人 次に FloXpress による解析結果を図 2~6 に示し た.また,図 2~6 の矢印は,はく離点を示してい 日本ゴルフ協会,2014 版 ゴ ルフ規則,日本ゴルフ協会(2014). 3) (社)日本機械学会,流れの科学,技報堂(1997).
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