あじさい Vol.10,No.6,2001 Sep.2001 Vol.10 No.6 ★シリーズ 医薬品副作用解説−6 『便の色調に影響する薬剤』 要旨:薬剤投与による便の変色は、薬剤やその代謝産物の反応により便全体が変色するもの、薬剤の混入 によりまばらに着色、変色するもの、薬剤の副作用として消化管出血や肝障害などを起こし変色するものがあり ます。便の色調に影響を与える薬剤には、薬用炭、鉄剤、タンニン酸、銅クロロフィル、リファンピシン、フェノー ルフタレイン、センノサイド、サントニン、アルミニウム塩、硫酸バリウム、制酸剤等がありました。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ い便を出し、肉類を多く食べる人は乾燥した少ない ◎はじめに 便をする傾向にあります。一日の量は平均 100g∼ 200g で、乾燥重量で 25g∼50g です。正常の便の 尿や便は服用した薬などによって色がつくことが 重さの3分の2は水分よりなり、3分の1は腸内細菌、 あり、薬剤を服用している方で、尿・便の色調が通 セルロース、未消化で吸収されない食物、そして胃 常と異なり不安を抱かれた経験をおもちの患者さん や腸の分泌物や剥離した細胞からなります。乾燥 がいらっしゃると思います。 便の重量の半分以上は腸内細菌より構成されてい 今回のあじさいでは、色調に影響を及ぼす主な ます。そのため全く食事をしない人でも少量の便は 薬剤の例を以下にあげてみます。 排泄されます。 ◎便の性質 1)3) 色:正常便は黄褐色ですが、上部消化管の出血や 鉄剤の服用で黒色便となり、大量出血ではタール 状となります。閉塞性黄疸では灰白色、溶血性黄 疸ではウロビリノーゲンの増量により濃褐色を呈しま す。摂取食物や薬剤によっては異常な色を呈する ことがあるので、問診に注意をはらうべきです。脂肪 の吸収不良をおこす疾患で1日に 5g 以上の脂肪 が便中に排出されるといわゆる脂肪便となります。 硬度:硬さは固形便、有形便、泥状便、水様便、下 痢便、硬便、偏平便、兎糞便などに分けて呼ばれ ています。便秘で水分を失うと兎糞状となり、水分 の吸収不良や腸管の運動亢進や分泌亢進があれ ば軟便、泥状便、水様便となります。 太さ:便が細いのは大腸の収縮力が強いか、直腸 近くでの器質的狭窄かで、偏平やリボン型は肛門 近くの狭窄です。逆に太い時に大腸の収縮力が低 下し便秘傾向の事が多いようです。太く大きく脂っ こい便は吸収不全症候群です。 臭気:普通の便臭はトリプトファンの分解産物であ るインドール、スカトールが主体ですが、大量の肉 食では硫化水素、メチルメルカプタンなどによる腐 敗臭が強く、大量の澱粉をとると発酵により酸臭が 量:食べるものの量や種類によってことなってきます。 強くなります。赤痢の精液臭、結腸癌の腐敗臭も一 植物性の食物を多く食べる人では量が多く柔らか 度体験すれば忘れられないほど独特だそうです。 96 あじさい Vol.10,No.6,2001 粘液:腸管に炎症があると大量に排泄されます。小 腸の粘液は細かく便中に混じりあっていますが、大 腸の粘液は粗大で、直腸の炎症では便の周囲に 膜状にはりついています。下痢便に伴った粘液は 透明な絮片として認められます。粘液の部分を採 取培養すると細菌や原虫といった病原体を検出し やすくなります。 出など消化器疾患の診断に大きく貢献します。 糞便検査には、肉眼的検査のほか潜血反応検査、 胆汁色素検査、脂肪検査、トリブレー( Triboulet) 反応検査、顕微鏡的検査(寄生虫卵および原虫の 検査)があります。 1) 糞便潜血反応 触媒法と免役学的方法があります。前者は便中 のヘモグロビンを特異抗体試薬を染み込ませた濾 紙上に捕捉した後、ヘモグロビンのペルオキシダー ゼ様活性を検 査する方法で、後者は便中のヘモグ ロビンと特異抗体試薬とを混合し、イムノクロマト法 ラテックス凝集法、逆受身赤血球凝集反応、金コロ イド凝集など色々な免疫学的反応系により結果を 判定する方法です。(表2参照) 現在はヒトの血液だけに反応する後者の検査が 主に用いられており、食事制限の必要がなく行い やすい検査ですが、2 日または 3 日間の連続検査 が奨励されています。胃癌、大腸癌その他、潰瘍、 ポリープや炎症、痔などで陽性になります。 膿:大腸の潰瘍性病変では粘血膿便を呈すること が多いようです。肛門膿瘍では便周囲に膿が付着 しています。 血液:上部消化管出血では黒色便、タール便となり ますが、大腸の出血病変ではピンク色の下痢、直 腸肛門の出血は血液が便周囲に付着していたり、 血性下痢便となります。 結石:胆石、膵石、糞石などが混入することがありま す。検出するためには無繊維食、下剤投与の前処 置をして、便器に蓄便し、便漉しをしてみるのが効 果的です。 2) 胆汁色素検査 糞便中のビリルビン、ウロビリノイドを測定します。 黄疸の種類や経過、貧血を知ることができます。 寄生虫:条虫、回虫は肉眼でも明らかですが、鉤虫 のような小さな虫体は便漉しをして拡大鏡で注意深 く検出します。 便の性状を表1にまとめました。 3) 脂肪検査 糞便中の総脂肪を測定します。膵疾患による脂 肪消化能の低下や、腸疾患による脂肪吸収能の低 下、乳化能、内分泌疾患がわかります。 表1 便の性状2) 項目 便量/回数 正常の所見 通常は 1日1∼2回 形状/硬さ 通常は有形便 病的所見と臨床的意義 ・ 個人差が大きい ・ 菜食>肉食のときや、消化不良、 腸管の蠕動亢進時に便量が多い 病的には ・ 下痢便( 軟便∼水様便) ・ 兎糞便( 結腸内に長く停滞した時 等) ・ 鉛筆様便( 直腸に狭窄がある時 等) ・ 黒色便 ・タール便(食道∼小腸上部までの 上部消化管出血) ・ 鮮血便( 大腸∼肛門までの下部消 化管出血、便表面に付着) ・ 脂肪便( 吸収不良) 色調 通常は黄褐色 臭気 通常はそれほど ・ 腐敗臭( 肉食、膵疾患) 強くない ・ 酸臭(脂肪臭) 粘液、膿汁 ◎糞便検査 4) トリブレー反応検査 腸粘膜潰瘍面から糞便中に滲み出てきた可溶性 タンパクを検出します。腸結核で陽性率が高くなり ます。 5) 糞便寄生虫検査 寄生虫検査では、糞便虫の虫卵、虫体の体節、 幼虫、成虫、消化管のアメーバの栄養型、嚢子な どの有無が確認できます。主に消化管の寄生虫症、 アメーバ症の診断および治癒判定の検査に用いら れます。 検査は排便後がよく、保存する場合は低温にし、 乾燥に注意します。とくに便の先端や粘血部を採 取します。 蟯虫卵の検査には朝早くセロテープを肛門に貼 付し、夜間に肛門周囲に産卵された虫卵を採取し ます。回虫や条虫の虫体または体節は糞便虫に肉 眼で観察できます。 ・ 炎症性腸疾患 ・ 感染 2)10) 糞便は食物残渣、胆汁、腸液、剥離腸管上皮、 腸内細菌などからなります。糞便の外観や正常を みるだけでも消化吸収の良不良、炎症の有無、出 血の有無など診断に役立ちますが、微量の消化管 出血を検出する潜血反応、寄生虫や病原菌の検 97 あじさい Vol.10,No.6,2001 表2 現在市販されている主な便潜血試験薬 検査法 生 化 学 的 製品名 Hb検出感度 判定方法 判定 備考 5μg/ml 呈色反応 肉眼、定性 30秒 容易 食事、薬剤など の制限が必要 25μg/ml 同上 30秒 容易 イムディアーHem Sp. ( 富士レビオ) 20ng/ml 0.1μg/g便 凝集反応 肉眼、判定量 30分 やや煩雑 OC−ヘモディア’ 栄研’ ( 栄研化学) 40μg/g便 凝集反応 肉眼、判定量 3分 容易 すりきりストッ カー内臓 ヘモテスタ ( 第一化学薬品) 40μg/g便 同上 同上 陽性コントロー ルを使用 100ng/ml 同上 同上 イアトロヘムチェック ( ダイアヤトロン、太田) 250ng/ml 0.02mg/g便 凝集抑制反応 肉眼、定性 2∼3分 容易 プロゾーン現象 は起こらず LAヘモチェイサー ( 塩野義) 150μg/ml (60ng/ml) 凝集反応 肉眼、定性 5分 容易 トランスフェリン も測定 クイック・チェイサー (ミズホメディー) 50ng/ml 呈色反応 肉眼、定性 20分 容易 プロゾーン現象 は起こらず OC−ヘモキャッチ栄研 ( 栄研化学) 50ng/ml 呈色反応 肉眼 5分 容易 ダイナスクリーン ( ダイナボット) 50ng/ml 呈色反応 肉眼 5分 容易 10μg/g便 呈色反応 肉眼 10分 容易 ネスコクイック・ヘモ (アズフェル) 50ng/ml 呈色反応 肉眼 10分 容易 クイックゴールド ( 和光純薬) 50ng/ml 呈色反応 肉眼 3分 容易 金コロイド チェックライン・ヘモ ( 三光純薬) 25ng/ml 呈色反応 肉眼、スキャナー 10分 容易 ラテックス イムノゴールド ( 和光純薬) 100ng/ml 呈色反応 肉眼、プレートリーダー 30分 メイチェック・ヘモ (アズウェル) 200ng/ml 呈色反応 肉眼 3分 容易 0.25mg/g便 呈色反応 肉眼、定性 30分∼ やや煩雑 便潜血スライド5A テトラメチルベンチジン法 ( 塩野義) グアヤック法 逆受身血球凝集法 ( RPHA) ラテックス凝集法 便潜血スライド5B ( 塩野義) ヘモスクリーン ( 藤沢薬品) 免 疫 学 的 方 法 イムノクロマト法 ファグノスヘモセンサー ( 三和化学) 金コロイド凝集 モノクローナル法 モノヘム ( 日本化薬) 表3 潜血反応の直接妨害薬物(化学的方法の場合) 希釈倍数で出血 量を半定量 セレニュムコロ イド 免疫法と生化学 法との併用 ン*1 が還元される時間がないため黄色を呈し、 牛乳の多飲、大黄末、センナの緩下剤の服用 や脂肪便の時は黄色調となります。 鉄剤(還元鉄、有機酸鉄など) 銅剤(銅クロロフィリンナトリウム) コバルト含有薬剤(コバルトグリーンポール) ブロム剤(ブロムワレリル尿素、臭化カリウム) ヨード(ヨウ化カリウム) 臓器製剤(甲状腺末、肝臓末、バンクレアチン他消化酵素剤) クロロフィル剤 アントラセン誘導体・フェノールフタレイン誘導体(緩下剤) ビタミンC(アスコルビン酸)* *反応を偽陰性化する。他の偽陽性化。 ◎薬剤と便の色調 1)11) 排泄物の変化は、おおむね①尿・便が着色する、 ②残渣が糞便中に混ざるの2通りに分類することが できます。 薬剤投与による便の変色は、薬剤やその代謝産 物の反応により便全体が変色するもの、薬剤の混 入によりまばらに着色、変色するもの、薬剤の副作 用として消化管出血や肝障害などを起こし変色す るものがあります。 1) 黄色 正常な便の色調は黄褐色から暗褐色ですが、 植物性の食物が多ければ黄色調へ傾きます。 黄色は高度の下痢便などで見られ、ビリルビ 98 2) 黒色 止痢剤として使用されている、ビスマス製剤 (硝酸ビスマス、次没食子酸ビスマス、次炭酸 ビスマス等)は、全てビスマスが黒い硫化ビスマ スとなり便が黒色化します。 鉄剤としては貧血治療薬であるフェロ・グラデ ュメット、フェロミア等や、MRI の造影剤であるフ ェリセンツ(クエン酸鉄アンモニウム)があります が、薬剤中に含まれる鉄が腸管内で黒色の硫 化鉄を形成し便が黒色化します。 慢性肝疾患治療薬であるプロトポルフィリンナ トリウムは慢性肝疾患治療剤で、本剤が暗赤色 から赤紫色の結晶性粉末であるため未吸収部 ないしは代謝産物が便に混入し便を黒色化す るものと考えられています。 薬用炭は吸着剤で止痢剤や中毒症における 吸着や解毒に使用される黒色の粉末薬で、糞 便へそのまま排泄され便を黒色化します。 腎不全治療薬のクレメジンは、黒色球形の吸 あじさい Vol.10,No.6,2001 着炭粒子でほぼ全量が糞便中に排泄され便は 黒色化ないし黒い粒子を含んだ状態となります。 NSAIDS(アスピリン等)、抗凝血剤、ヘパリン 等は上部消化管より出血を起こし易く、便を黒 色化(タール便)する薬剤です。タール便は石 炭様黒色の光沢をもち、悪臭を放ち、ねばねば しています。上部結腸からの出血でも一見ター ル便様にみえることがありますが、この場合は 光沢がなく、ねばねばしていません。ガーゼな どの白色背景をおけば、便の周囲部に狭い赤 色帯を認めます。 3) 緑色 国内の薬害の原点として、整腸薬であるキノ ホルムによる SMON の特徴的な副作用として、 緑舌、緑便があります。これは鉄キレートが緑 色の色素の本態であるとされています。 メサフィリンは消化潰瘍治療剤で、配合されて いる銅クロロフィルナトリウムが緑色を呈し、便に 排泄され緑色を呈します。 血液凝固阻止剤であるクエン酸ナトリウム、チ トラール輸液用は、小児に緑褐色便が副作用 として報告され、ビリベルジン*2 による便の着色 と考えられます。 抗生物質を経口的に使用している時には腸 内細菌の分布が異なり、腸内にビリベルジンが 増加し便が緑色に着色することが起こります。 合成ペニシリン系と圧倒的に多いとされていま す。合成ペニシリンの使用頻度が低下してから 疾患も減少しましたが、最近 H.pylori 除菌に合 成ペニシリンが使用されるため再び本疾患も増 加することが予測されます。症状としては、水様 下痢(トマトジュース様)となります。起因薬剤の 種類として、偽膜性大腸炎と比較しながら表6 にまとめました。 NSAIDs による大腸炎の頻度はまれですが、 中には重篤な致命的な症例もあるとされていま す。大腸炎の起因薬剤あるいは炎症性腸疾患 を増悪した薬剤として報告されているものとして、 表7に示すものがあげられています。出血性大 腸炎では、我が国ではメフェナム酸、フルフェ ナム酸アルミニウム、インドメタシンファルネシル などで報告があります。 徐放性カリウム製剤による小腸潰瘍、サリチル 酸塩、抗凝血剤の大量投与は消化管よりの出 血を容易にします。 5) 橙赤色 リファンピシン、リマクタンは抗結核剤で赤色 から赤褐色の結晶または結晶性の粉末ででき ていますが、代謝産物や消化、吸収されない本 剤が糞便中に排泄され橙赤色に便を着色しま す。 4) 赤色 テトラサイクリン、アクロマイシンは便を赤色化 します。本剤は稀にビタミンK欠乏症となり、低 トロンビン血症や出血傾向のため腸管出血も 推測されますが、原因は不明です。 セフゾンは併用した鉄添加製品と腸管内で反 応し赤色化します。 薬剤投与による大腸炎は、抗生物質によるも のが最も多く、その他は非ステロイド性消炎鎮 痛薬(NSAIDS)、メトトレキサート、5-FU 、シタラ ビン、等の抗悪性腫瘍薬、経口金製剤、シクロ スポリン等の免疫抑制剤、経口避妊薬等による ものが報告されています。抗生物質起因性大 腸炎は偽膜性大腸炎と急性出血性大腸炎に 大別され、偽膜性大腸炎はリンコマイシン系、 セフェム系で生じることが多いようです。症状と しては、下痢は水様性のことが多く、しばしば粘 膜を含んでいますが膿や血液が混入すること は少なく、ときにトマトケチャップを水で溶いたよ うな血便があります。 抗生剤、抗菌剤による薬剤性出血性大腸炎 による出血は大腸よりの出血のため血液の色を 呈します。原因となる抗生物質としては、85%が 99 6) 灰白色 透視用バリウムの硫酸バリウムは腸管から吸 収されず糞便中にそのまま排泄され、便は白 色となります。 アルミゲルやケイ酸アルミニウムなどのアルミ ニウム塩は白色の色調により白色または白い斑 点状の便となります。 徐放性製剤の中には、体内では不溶の物質 で網目状の格子をつくり、そこに埋め込まれた 有効成分がゆっくりと放出することで効果を持 続させるものがあります。(例:デパケン R、フェ ロ・グラデュメット等)このような場合、一定の時 間がたつと、格子は不溶ですから、その形を残 したまま、糞便中に排泄されます。デパケンRは 核の周囲に徐放性被膜を形成している製剤で あり、核の部分が白色の残渣として糞便中に排 泄され白い斑点状としてみえる場合もあります。 肝臓や胆道の各種疾患で胆汁うっ滞が起こり、 黄疸を呈した状態では抱合型ビリルビンの腸 管内への排泄量が低下することになり、便の色 が淡い褐色から灰白色に近くなります。よって、 薬剤の副作用による肝機能低下の場合にも、 白色便があらわれる場合があります。 あじさい Vol.10,No.6,2001 表4 便を着色させる薬剤1)4)5) 一般名 代表的商品名 薬用炭 原体の色調 便色調 理由 黒色の粉末 黒色 吸着剤で止痢剤や中毒症における吸着や解毒に使用される 黒色の粉末で、糞便へそのまま排泄され便を黒色化 黒色球形の粒子 黒色 黒色球形の吸着炭粒子でほぼ全量が糞便中に排泄され便は 黒色化ないし黒い粒子を含んだ状態 淡褐色の粉末 黒色 腸管内で鉄と結合して黒色のタンニン酸鉄を生成する 白∼類黄白色無定型粉末 黒色 ビスマスが黒い硫化ビスマスとなるため 白色 黒色 配合剤のbismuth magnesium almino sillicatehydrateに起因 する。ビスマスが黒色の硫化ビスマスになるため 淡緑色の結晶又は 結晶性粉末 黒色 鉄が腸管内で黒色の硫化鉄を形成し便が黒色化 暗赤色∼赤紫色 結晶性粉末 黒色 代謝産物の便中排泄によると推定されている 白色∼淡黄色結晶性粉末 赤色 鉄添加製品と併用した場合、腸管内で反応し赤色化する 黄色∼暗黄色の結晶 又は結晶性粉末 赤色 稀にビタミンK欠乏症となり、低トロンビン血症や出血傾向の ため腸管出血も推測されますが、原因は明らかではない。 原因不明 薬用炭 クレメジン タンニン酸 タンニン酸アルブミン ビスマス製剤 次硝酸ビスマス 次炭酸ビスマス 次没食子酸ビスマス 黄色粉末 ヒドロタルサイ サモール 硫酸鉄 フェロ・グラデュメット クエン酸第一鉄ナトリウム フェロミア クエン酸鉄アンモニウム フェリセンツ 緑白色∼緑黄白色の 結晶性粉末 赤褐色深赤色、褐色又は帯 褐黄色結晶又は結晶性粉末 プロトポルフィリン二ナトリウ ピンプロン ム セフジニル セフゾン テトラサイクリン アクロマイシン ペンタゾシン ペンタジン、ソセゴン 白色∼微黄白色の 結晶性の粉末 赤色 リファンピシン リマクタン 橙赤色結晶性粉末 橙赤色 赤色から赤褐色の結晶または結晶性の粉末で出来ています が、代謝産物や消化、吸収されない本剤が糞便中に排泄さ れ橙赤色に便を着色する センノサイド剤 アローゼン 茶褐色、顆粒 黄赤色 センノサイドの代謝物がアルカリ性で赤色を呈する 褐色粉末 黄褐色 有効成分のセンノサイドAに関連し、アントラキノン配糖体に 起因 無色又は白色 結晶性粉末 黄色 サントニンの代謝産物は酸性で淡黄∼橙色、アルカリ性が紫 赤色を呈する 青黒色 緑色 銅クロロフィルナトリウムが緑色を呈し、便に排泄され緑色を 呈する 無色の結晶又は 白色の結晶性粉末 緑褐色 ビリベルジンよる便の着色 灰白色 腸管から吸収されず糞便中にそのまま排泄され、便は白色と なる 大黄 サントニン サントニン 臭化プロパンテリン、銅クロ ロフィリンナトリウム、ケイ酸 メサフィリン マグネシウム クエン酸ナトリウム チトラール輸血用 バリウム塩 バリトゲン 白色の粉末 バルプロ酸ナトリウム デパケンR 白色の結晶性粉末 制酸剤 アルミゲル 白色の無晶性の粉末 白色 核の周囲に徐放性被膜j を形成している製剤であり、核の部 ( 残渣) 分が白色の残渣として糞便中に排泄され白い斑点状となる 白色 白色のカルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩として 排泄される 表5 緊急な副作用により便の色調が変化する薬剤 一般名 便色調 理由 NSAIDS 黒色 上部消化管出血を起こしやすくし、便を 黒色化する。(塩酸ヘマチン) 抗生物質、抗菌剤 赤色 薬剤性出血性大腸炎による出血は大腸 よりの出血のため血液の色を呈する 徐放性カリウム製剤 赤色 サリチル酸塩 赤色 抗凝血剤 赤色 抗生物質 緑色 表6 大腸炎起因抗生物質の種類11) 抗生物質 偽膜性大腸炎 出血性大腸炎 セフェム系 16 11 ペニシリン系 3 36 その他のβラクタム系 4 1 アミノグリコシド系 1 マクロライド系 2 リンコマイシン系 10 1 テトラサイクリン系 1 合成抗菌薬 2 1 薬剤性小腸潰瘍による出血は大腸より の出血のため血液の色を呈する 大量投与により消化管よりの出血を容 易にする 大量投与により消化管よりの出血を容 易にする 合計 27 39 5 1 2 11 1 3 (多田らが経験した100例による。このうち多種類の抗生物質の投与がな された場合には因果関係があきらかでないために除外されている) 腸内細菌の分布が異なり、腸内にビリ ベルジンが増加し便が緑色に着色 100 あじさい Vol.10,No.6,2001 表7 NSAIDs による大腸炎の起因薬剤11) 大腸炎が新規に起こったもの オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、ナプロキセン、 インドメタシン、フェンブフェン、メフェナム酸、イブプロフェン アスピリン、ジクロフェナク、ピロキシカム等 炎症性腸疾患が増悪したもの イブプロフェン、インドメタシン、フルルビプロフェン、 アスピリン、ジクロフェナク、ナプロキセンフェニルブタゾン 、ピロキシカム等 ◎便に特徴のある疾患1)6 )7 )8 )9 ) 次に疾患による便性状の変化についてみてみた いと思います。便は健康のバロメーターといわれます が、便により多くの疾患の診断の手がかりとなることが あります。疾患として便の変色や性状の変化をみる場 合、多くは下痢を伴います。下痢便の性状からある程 度の疾患を推定できるので、感染性腸炎か非特異性 腸炎かの推定をしたうえで、次の鑑別のための手順 を考える必要があります。(図1) 便に特徴のある代表的な疾患としては、細菌感染 症、下血を来す消化管疾患等があります。米のとぎ 汁様水様下痢はコレラの特徴です。いちごゼリー状 の便はアメーバ赤痢に特徴的な便です。急性の粘血 便の場合には、赤痢、腸チフス、キャンピロバクター、 腸管膜血栓症が推定されます。慢性の粘血便の場 合には、潰瘍性大腸炎、クローン病、アメーバ赤痢、 腸結核、腫瘍が認められます。表7に細菌性急性下 痢についてまとめました。 下血の場合、便の色調は消化管出血の速度と量、 腸内停滞時間に左右されますが、一般には出血部 図1 下痢の鑑別診断7) 発症 下痢 急性 ( ++) 血液 便の性状 血性下痢 位が上部(食道、胃、十二指腸)であれば酸化ヘモグ ロビンが胃酸、消化液、腸内細菌の作用を受け塩酸 ヘマチンまたはヘマトポルフィリンに変じ黒褐色とな ることが多く、タール便と呼ばれます。タール便を呈 するようになるには、少なくとも 60ml 以上の出血が急 速に起こることが必要であるとされています。 十二指腸や空腸からの出血では通常塩酸の作用 を受けないため、黒色便となって排出され るまでには 8 時間以上の腸管内停留があったことの証明とされま す。この場合の便の黒色の原因は Protoporphyrin と deuterporphyrin によるものと考えられています。 1回に 1,000ml 以上の出血があると、黒色便は 2∼ 3 日持続し、その後も潜血反応は 1 週間程度陽性を 示すのが普通です。回腸より肛門側の出血では暗赤 色、右側結腸より肛門側では出血の量により赤褐色 から鮮血便となり、直腸および肛門からの出血は通 常鮮紅色を呈します。しかし、上部消化管出血でも 急速な大量出血があると、出血液が消化管の蠕動を 亢進させ、腸管通過時間が短縮するため、鮮紅色に なる場合があることも留意しておく必要があります。図 1に吐血、下血を来す消化器疾患を揚げてみまし た。 また、血液、薬剤以外に、イカ墨の料理(スペイン 料理)、や長時間空気にさらされることにより便が黒色 化したり、トマト皮、すいか、砂糖大根、食紅やチェリ ーソーダ等便を赤色化することがあり、血便と誤認さ れることがありますので、摂取食物についての問診も 重要です。 排便量・ 腹痛 回数 (+) 頻回 (+ 疾患 虚血性腸炎 薬剤性腸炎 大腸憩室炎 消化性潰瘍出血 食道静脈瘤出血 (−) 粘血便 頻回 水様性下痢 大量・頻回 小量・頻回 ( +) 慢性 血液 粘血便 頻回 軟便 水様性下痢 不定 (+) ( +) ( +) (+) ( −) ( +) 大量・不定 101 赤痢、腸チフス キャンピロバクタ 腸間膜血栓症 コレラ ランブリア 細菌性大腸炎 食中毒 アレルギー性下痢 クローン病、腸結核 潰瘍性大腸炎、腫瘍、 アメーバー赤痢 過敏性腸症候群 乳糖不耐性 Z-E症候群 (+) 吸収不良症候群 あじさい Vol.10,No.6,2001 表7 細菌性急性下痢の特徴9) 病原菌 コレラ ベンガルコレラ チフス菌 赤痢菌 細菌性 アメーバー赤痢 下痢の状態 水様下痢(米のとぎ汁様) 水様下痢(米のとぎ汁様) 軟便、水様便 粘血性下痢 粘血便( イチゴゼリー状) 腹痛 − ± ± +、S字結腸部分 + ランブル鞭毛虫症 腸管出血性大腸炎 サルモネラ菌 腸炎ビブリオ菌 ウエルッシュ菌 カンピロバクター ブドウ球菌 水様下痢(非血性、ときに脂肪性下痢) 水様便から血便にかわる 粘血便( 緑色っぽいことが多い)、のりの佃煮便 水様便、粘血便 水様便 水様便、粘血便 粘血便 ++、上行結腸 ++、臍の回り +++、発症時に上腹部痛 + + ++、上腹部痛 表8 便の性状と便通異常による下部消化管出血の鑑別診断6) 便の性状 粘液混入 反復性 便通 腹痛 直腸癌 鮮血付着 便柱狭細化 ( +) 交替性便通異常 ( +) 裏急後重 排便習慣の変化 小腸腫瘍 鮮血ないしタール便 ( −) ( +) 便通の無関係 潰瘍性大腸炎 暗赤色 イチゴゼリー様 膿・ 粘液 ( +) 頻回の下痢 ( ±) アメーバ赤痢 イチゴゼリー様 悪臭 粘血便 ( −) 下痢 ( +) 急性腸炎 水様、ときに血性 ( +) ( −) 頻回の下痢 ( +) Meckel憩室・ 動静脈奇形 大腸憩室出血 鮮血ないしタール便 鮮血便 ( −) ( −) ( +) 便通に無関係 間歇性 便秘傾向 憩室炎を伴うと( +) ( ±) 痔核・ 裂肛 鮮血付着 時に( +) ( +) 便秘傾向 図2 吐血・下血を来す消化器疾患 102 時に( +) 時に( +) 排便時肛門痛 あじさい Vol.10,No.6,2001 <用語解説> *1 ビリルビン:胆汁色素の一つであるビリルビンは肝、 脾、骨髄などの細網内皮系細胞で、崩壊した赤血球 より放出されたヘム色素を素材として産生される。ヘ ム色素はポルフィリン環に鉄イオンが結合したもので あるが、網内系のマイクロゾームにおいて酸素添加 酵素などにより酸化されて開環し、緑色のビリベルジ ンとなるが、さらに酵素的に還元されて黄色のビリル ビンに変化する。 *2 ビリベルジン:ヘムの分解により生ずる胆汁色素の 第一代謝物の緑色を呈する。正常ヒト血清中には検 出されないが、肝細胞性黄疸、胆道癌等で検出され る。 *3 ヘマチン:ヘムの一種。ヘムはポルフィリン環と鉄 原子との錯化合物である。鉄錯塩を形成するポルフ ィリンの種類により種々のヘムが存在する。ヘムはヘ ムタンパクの機能的中心として働き、ヘムタンパクの 代表はヘモグロビンで、酸素運搬機能を司る。ヘモ グロビンのヘムは、プロトポルフィリンⅨである。鉄が3 価の場合はフェリプロトポルフィンⅨまたはヘマチンと いう。 ♪♪♪♪♪まとめ♪♪♪♪♪ 便は健康のバロメータといわれますが、便の観察は 簡単な方法で診断に重要な多くの情報、手がかりを 与えてくれます。 今日の医療において、病気の診断や経過のチェッ クには臨床検査は必要不可欠です。検査の場合、薬 物や食物によって糞便が着色されていると診断を誤 るケースもあり得ますので、着色の原因となる可能性 のある薬物や食物についての情報を持っておくこと は非常に重要です。 また、糞便の着色の可能性のある薬剤については、 患者に不安を抱かせぬよう服薬指導する必要があり ます。 <参考文献> 1)黒田ら.Ⅱ「色」の変化と疑われる病気 ③「便」野 色の変化;日本薬剤師会雑誌 51:5.103,1999 2)三木編集.消化管疾患の治療と看護 p51 2000 年 3)佐々.消化器疾患と看護・内科 p80 1996 年 4)便色調に影響する薬剤;都薬雑誌 20:4.47,1998 5)国立病院医療センター編.便色調に影響を与える 薬剤:医薬品情報Q&A p563 6)横山ら.下血を来す疾患と緊急内視鏡の適否;治 療 82:9.73,2000 7) 多 田 .小 腸 病 変 を 疑 うときはいつか;治 療 82:9.105,2000 8) 川嶋ら.特徴的な初発症状;臨床と薬物治療 18:1.16,1999 9)中浜.輸入感染症を念頭におく診療;臨床と薬物 治療 18:1.11,1999 10)大久保ら.臨床検査―検査の進め方とデータの よみ方 p286 1994 年 11)高柳ら.出血性大腸炎を起こす薬剤(抗生物質、 非 ス テ ロ イ ド 性 消 炎 鎮 痛 剤 (NSAIDs ) 40:4.457,1998 <編集後記> 排泄物を観察することは、自分の体調を知る 上で非常に良い指標になります。薬剤による便 の色調変化の原因は、服用した薬剤そのものの 色であったり、薬剤が体内で代謝され変化する ために起こることが殆どです。薬剤師も、薬剤に よる糞便の着色については把握し、患者に不安 を抱かせないよう服薬指導していきたいもので す。先生方の参考資料として使用して頂ければ 幸いです。 発行者:富田薬品(株) CS課 池川登紀子 お問い合わせに関しては当社の社員又は、下記ま でご連絡下さい。 TEL (096)373-1141 FAX (096)373-1132 E-mail KYR06545@nifty.ne.jp 103
© Copyright 2024 Paperzz