日米・異文化体験シリーズ（７５）小切手の生活谷敦雄アメリカ市民の経済生活は小さなカードと小切手の紙切れで動いていると言っても過言ではない。我が家の家計を例にとると、現金は月に１０ドルも使わなかった。あとのお金の出し入れは全てカード（前述のデビット・カードとクレジット・カード）か小切手 c h e c k だった。アメリカで生活を始めるには、先ず役所で「社会保障番号」 Social Security Number をもらわなければならないが、その次にすることはその番号を持って銀行に行き、いくらか預金して自分の銀行口座 bank account を作ることである。すると銀行は小切手帳 checkbook をくれるから、その後は支払いのたびにこの小切手帳から小切手を一枚一枚ちぎり、金額や支払い先などを記入し、サインをして相手に渡すことになる。日本では小切手や手形は商取引の世界のことであって、普通の人はよほどの大金が動く時しか使わないが、米国では毎日の生活で現金の代わりに使う。先ず毎月の給料が私の場合は小切手だった。スーパーやレストラン、クリーニング屋、ガソリン・スタンド、薬局、郵便局等で支払いをしたり、果ては寄付とか献金をする時でさえ、現金や財布を持ち歩かなくても小切手をその場で切ればよいし、公共料金やカタログ販売などで遠い所に支払う時は、家で小切手を切って郵便の形で自宅のポストに入れると、配達に来た郵便局員がそれを局に持ち帰って郵送してくれる。小切手の便利さは他にもいろいろある。例えばスーパーで２０ドルの買物をした時に現金が１０ドル欲しければ、小切手で３０ドルを払うと、お釣りの形で現金を１０ドルくれる（ c a s h b a c k ）。あるいは、現金を２０ドル払わなければならない時に現金の持ち合わせがなくて誰かに立て替えてもらった時は、その人に２０ドルの小切手をその場で切ればそれで済む。また、注文した品物をある人に取って来てもらいたいのにその値段が分からない場合などには、金額の欄を未記入にした小切手 blank check を託せばよい。それを預かった人は、金額が分かった時点でそれを書き入れて支払いを済ませることができる。要するに米国では、小切手は紙切れであっても現金と同じ価値があるばかりか、現金よりも安全で、しかも現金よりもはるかに便利なものなのだ（続く）。