DEUTSCH-JAPANISCHER WIRTSCHAFTSKREIS 2 季刊誌 10 2010 年 DJW ニュース テーマ 1 2010 年春季合同経済予測「ドイツ経済は回復傾向」 ドイツ主要 8 経済研究所は、4 月 15 日、「春季合同経済予 測」を発表し、その中で、今後ドイツ経済は、とりわけ新興国を 中心とした輸出を牽引役とし、ペースは緩慢ながら、引き続き 回復傾向にあるとの見通しを示しました。輸出の改善に加え て、内需の活性化も予測し、昨年秋季予測では 1.2%とされた 2010 年の実質 GDP 成長率を、1.5%に上方修正、更に 2011 年も引き続き 1.4%のプラス成長との見込みと発表しました。ま た、一年前には悪化すると見られていた労働市場は、危機以 降も、操業短縮制度の活用や多様な賃金契約により雇用が確 保されると同時に、ここ数年の賃金交渉における要求の抑制 が功を奏し安定しており、更に高齢化による労働人口の減少 で、今回、失業者数は減少すると予測されました。一方、財政 収支は悪化すると分析し、財政赤字の対 GDP 比は、2010 年 には 4.9%に拡大すると見られています。 (表)主要経済指標・予測 08 年 実質 GDP 成長率 個人消費 政府支出 設備投資 輸出 輸入 消費者物価上昇率 失業者数 失業率 財政収支の GDP 比 1.3 0.4 2.1 3.1 2.9 4.3 2.6 326.8 7.5 0.0 09 年 △5.0 0.2 3.0 △8.9 △14.2 △8.9 0.4 342.3 7.9 △3.3 (単位:%、万人) 10 年 11 年 (予測) (予測) 1.5 1.4 △0.4 0.8 1.6 1.1 1.4 1.7 7.1 6.3 5.5 5.7 0.9 1.0 338.2 331.3 7.8 7.6 △4.9 △4.2 出所:主要経済研究所(ifo 経済研究所(ifo)、チューリッヒ工科大経済研究所 (KOF)、キール世界経済研究所(IfW)、ハレ経済研究所(IWH)、ハンス・ボェ ックラー財団のマクロ経済・ 市況研究所(IMK)、オーストリア経済研究所 (WIFO)、ライン・ウェストファーレン経済予測研究所(RWI)、ウィーン高等研究 所(IHS)) ドイツ商工会議所(DIHK)が今年初旬に、約 25,000 のドイツ 企業を対象に行った景況アンケート調査からも、企業自身が景 気好転の感触を得ており、足元の景況感が改善していることが 分かります。調査結果によると、新興国の経済の改善と歩調を あわせて、輸出改善への期待はとりわけ高く、調査ではわずか 13%の企業が輸出の減少を予測しているのに対し、1/3 以上 の企業が輸出の増加を見込んでいます。これに伴い、2010 年 初頭現在、24%の企業が現況をよいと捉えており、今後の景 況期待に関しても、金融危機後初めて、「改善」と答えた割合 (26%)が、「悪化」(21%)を上回りました。また、雇用において も、わずかではありますが、改善が見えており、67%の企業が 少なくとも雇用保持の姿勢を示しています。 しかし、リスク要因も決して少なくなく、合同経済予測では、 不安定な世界経済と、引き続き厳しい状況下にある銀行セクタ ーを、新たな景気悪化のリスクに挙げています。また、経済危 機により、ドイツ経済の中期的展望は悪化しており、今後数年 の実質 GDP は、危機前の期待値と比較し、著しく低くなると指 摘しています。2009 年から 14 年にかけて、生産能力は 1%上 昇すると予測。ドイツ経済の回復ペースは 2011 年以降多少加 速すると予測しながらも、GDP は、2013 年にようやく危機以前 の水準に戻ると分析しています。 先ごろ発表されたドイツの 4 月の鉱工業受注指数は前月に 引き続き上昇、輸出も前年同月比 19.2%増加するなど、回復 が数字に表れる一方、近年の景気対策による多大な財政出動 に加え、ギリシャ問題に端を発し、ユーロの安定性に疑問符が つく中、この度ユーロ圏最大の 224 億ユーロにも上るギリシャ 支援金拠出が決定され、増税は避けられないとの見方も出て おり、ドイツ経済の今後の動向が注視されるでしょう。 著者: 平田佳子 / DJW、ビジネス・アナリスト コンタクト: info@djw.de / URL: www.djw.de 出所: ifo 経済研究所、DIHK „Wirtschaftslage und Erwartungen“、ドイツ連 邦統計庁、Reuters(4 月 14 日)、TheEpochTimes(4 月 15 日) テーマ 2 在ドイツ日系・在日ドイツ系企業における人材開発 ドイツ人従業員を抱え、ドイツの企業風土の影響を受ける在 ドイツ日系現地法人企業が、そして逆に、日本人従業員を抱え る在日ドイツ系現地法人企業が、人材開発・育成(Human Resources Development / HRD)において問題に直面してい る事実は、一般従業員及び管理職に対して急速に高まってい る要求を見れば、明白です。それでは、なぜ HRD において問 題が生じているのか。その理由として、日本とドイツでの、HRD の目的と方向性の相違が挙げられるでしょう。 ドイツでは一般的に、人事部は企業全体ではなく、人事とい う行為のみに目を向ける傾向があり、そしてそれにより、HRD に意味はあるのか、更にはそれ自体の目的が問われるという 1 日独産業協力推進委員会 側面が生まれています。また、ドイツに特徴的な、企業利害関 係者としての視点が、個人の自己実現を促進する自由主義社 会と結びつき、HRD は、どのようなテーマであれ、どのような方 法であれ、従業員に提供されるものとなったのです。 それに比較し日本では、従業員は伝統的に企業知識と高い 仕事能力を見につけ、それらを自社の製品とサービスの開発 に還元しようとします。現在では、市場と環境変化によって、終 身雇用制度や年功序例制度から、能力重視志向に変わりつつ あります。 そのため、在ドイツ日系現地法人企業、もしくは在日ドイツ系 現地法人企業で働く HRD マネージャーが果たすべき役割は、 いわゆるドイツで求められる HRD の目的(魅力的な職場づく り、人材保持、知識管理、雇用者の高齢化)と、日本的な HRD の目的(コスト削減、自身の職務に関する幅広い基礎知識の習 得)、この両者のバランスを取る一点におさまりません。 今、両国それぞれの日系・ドイツ系現地法人企業には、今後 の更なる経済発展、そして持続的な競争力確保に向けて、 HRD によって取り扱うことができるテーマが、数多くあります。 例えば、マネージメント(企業経営、危機管理)、戦略(分析、ポ ジショニング)、リーダーシップ(状況対応力、人間関係におけ る危機管理、意思決定行動)、プロジェクトマネージメント(社会 的、政治的、経営者的視点に基づいた戦略的な措置)、プレゼ ンテーションといった内容が、それに該当します。そしてこれら は、ポジション並びに部署を越えたトレーニング、重要な経営戦 略プロジェクトにおけるアクションラーニング、メンタリング、そし て人事の現状を把握するための人事考課により、開発されると 考える次第です。 著者: Stefan Scheidt Kienbaum Management Consultants GmbH、Principal コンタクト: Stefan.Scheidt@kienbaum.de URL: www.kienbaum.de テーマ 3 日本ビジネスへの第一歩:企業研修の意義と利点 日本の企業でキャリアの第一歩を踏みたい、またはキャリア を積みたいと希望するドイツ人求職者のチャンスを広げるべく、 セミナー「Japan-Karrieren, Chancen und Herausforderungen einer beruflichen Laufbahn mit Japanbezug (日本キャリアフ ォーラム:日本関連キャリアにおけるチャンスと課題)」が、今年 2 月、東京のドイツ学術交流会(DAAD)にて開催されました。パ ネルディスカッションでは、日本エキスパートである講演者各々 の経験など、具体例を交えて論議され、日本での求職活動に 際しての問題点やサポートに関し、質疑応答の場が設けられ ました。問題点としては、日本企業における企業研修制度の認 知度の低さに伴う受け入れ態勢の不備が挙げられ、そのた め、ドイツ系・外資系企業などの例外を除いて、「純日本企業」 においてドイツ人求職者が研修の機会を得るには、まず人脈 作りから始めなければならないという点が指摘されました。そ の他、ドイツ人が日本で働く際に、企業、志願者共に懸念する 語学力や文化の相違についても、大いに議論されました。 ドイツでは、キャリアの第一歩として、学部生時代から企業 で研修生として経験を積む習慣が、大学の教育課程の一環と しても浸透しています。今日、日本でも注目を浴びつつある「試 用期間」とも言えるこの企業研修制度は、企業側・志願側の両 者に、多くの利点があります。とりわけ、日本ビジネスでの活躍 を望むドイツ人求職者にとって、日本での研修は日本関連のキ ャリアの第一歩として、大きな魅力を秘めています。 今回当セミナーに共催者として参加した自動車工学エンジニ アである、筆者(ドレーゼン)は、DAAD の奨学金プログラム「日 本語学習と企業内研修」を利用し、2006 年に来日、日本語コー スを受講後、同プログラムの一環として日系自動車メーカーで 研修生として経験を積み、現在は同社で正社員として勤務して います。ドイツ人が日本で求職活動を行うに際し、個人的な人 脈作りはもちろんのこと、インターンシッププラットフォームであ る KOPRA や DJW 等が提供しているオンライン求人・求職サー ビスでの情報収集は、非常に重要です。筆者の研修先(現勤務 先)では、研修生の受け入れ態勢が整っており、加えて筆者が 専門性の高いエンジニア職に就いていることから、研修期間 中、業務において特段困難な状況に直面することはありません でしたが、研修生・正社員という立場に関係なく、異文化への高 い適応力が求められると言えるでしょう。 日本企業にとっても、ドイツ人研修生の受け入れは、人件費 を抑えつつ、高い専門性を有する人材の発掘・育成につながる という利点があります。更に、国際的な発展を目指す企業にと り、ドイツ人研修生の受け入れが、企業文化の多様化を促すと 同時に、研修制度を通じた経済交流が、日独関係の更なる発 展に貢献すると考える次第です。 著者(共著): Markus Dresen、越山聡子 / DJW DJW からのお知らせ ・ 日独イベント情報 ● ブレックファストセミナー 「朝の会」 この度、DJW は独日協会(DJG)・アム・ニーダーラインと共 催で、ブレックファストセミナー「朝の会」を開催いたします。記 念すべき第 1 回目は、一橋大学大学院商学研究科教授である 谷本寛治氏をお迎えし、「Social Innovation and Entrepreneurship in Japan」をテーマに、ご講演いただきます。セミナ ーは、主に会員企業を対象に、英語で行われます。更に講演 後は、質疑応答の時間を設けております。 当セミナーは、DJG アム・ニーダーライン及び DJW 会員であ る Breidenbacher Hof、PricewaterhouseCoopers の両社より ご協賛いただいております。 日時: 7 月 8 日(木) 8:30-10:00 場所: デュッセルドルフ / 申込: www.djw.de 参加費:DJW、DJG アム・ニーダーライン会員 10 ユーロ、 非会員 25 ユーロ 発行: 日独産業協力推進委員会(DJW) 編集:平田佳子、マイト智子、越山聡子 発行責任者: DJW, Graf-Adolf-Str. 49 40210 Düsseldorf, Germany Tel./ Fax: +49(0)211-9945-9191 / -9212 ● 見学・講演イベント 「ドイツ国内の住宅省エネ化政策とプラ スエネルギーハウス」 「プラスエネルギーハウス」をご存知ですか?「プラスエネル ギーハウス」とは、優れた断熱対策やソーラーパネルによる太 陽エネルギーの有効利用、さらに熱交換、換気システムといっ た最新技術を活かすことによって、建物内で生産されるエネル ギーが消費エネルギーを上回ることを可能にした、ドイツ省エネ 住宅の最新世代です。当イベントでは、実際のプラスエネルギ ーハウスを会場に、各部の技術からドイツの住宅省エネ化に関 する背景まで、日本語で解説いたします。 日時: 7 月 14 日(水) 18:30-20:00 場所: Das Plus-Energie-Haus、デュッセルドルフ 申込: www.djw.de 主催: エコセンター・NRW、DJW 参加費:DJW 会員無料、非会員 5 ユーロ DJW ニュースはEメールで無料購読できます。 お申し込み方法:件名に“Newsletter J“とご記入の上 info@djw.de までお送り下さい。ホームページ www.djw.de から直接ダウンロードもできます。 免責事項:DJW ニュース上の情報に関しては万全を期してお りますが、その内容の正確性および安全性を保証するもので はありません。当該情報に基づいて被ったいかなる損害につ いても、DJW 及び情報提供者は一切の責任を負いかねま す。 2 日独産業協力推進委員会
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